(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】かき玉様凝固物を含む食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20220726BHJP
A23L 29/20 20160101ALI20220726BHJP
【FI】
A23L15/00 B
A23L15/00 D
A23L29/20
(21)【出願番号】P 2018117632
(22)【出願日】2018-06-21
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 耕司
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-113534(JP,A)
【文献】特開平11-075778(JP,A)
【文献】特開昭53-032161(JP,A)
【文献】特開昭49-066856(JP,A)
【文献】特開平02-238868(JP,A)
【文献】特開2013-118863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かき玉様凝固物を含む食品であって、前記かき玉様凝固物が液状又はペースト状素材、キサンタンガム、卵白材料
及び水溶性食物繊維を含
み、液状又はペースト状素材が、豆乳、牛乳、果汁、果実ピューレ、野菜汁、野菜ピューレ及び野菜ペーストからなる群から選ばれる、食品。
【請求項2】
卵白材料が粉末卵白である、請求項
1に記載の食品。
【請求項3】
水溶性食物繊維がイヌリン、難消化性デキストリン、水溶性大豆多糖類、ポリデキストロース、アルギン酸ナトリウム、サイリウム、フコイダン、ラミナラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、プルラン、カードラン及び低分子化ヘミセルロースからなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載の食品。
【請求項4】
水溶性食物繊維がイヌリン、難消化性デキストリン及び水溶性大豆多糖類からなる群から選ばれる、請求
項3に記載の食品。
【請求項5】
液状又はペースト状素材、キサンタンガム、卵白材料
及び水溶性食物繊維の混合物の加熱工程を含み、
液状又はペースト状素材が、豆乳、牛乳、果汁、果実ピューレ、野菜汁、野菜ピューレ及び野菜ペーストからなる群から選ばれる、かき玉様凝固物を含む食品の製造方法。
【請求項6】
さらに水を添加する工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
卵白材料が粉末卵白である、請求項5又は6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かき玉様凝固物を含む食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かき玉様の凝固物を作る方法として特許文献1が知られている。しかし、豆乳や牛乳などの液状又はペースト状素材をかき玉子状に固める技術は知られていない。また、特許文献1は加工液卵を用いる技術であり、当該技術を用いて豆乳や牛乳などを固めようとした場合には、固化する量まで加工液卵を用いると、豆乳や牛乳の配合量を増やすことが出来ない。さらに、卵の風味が強く素材の風味が得られない。
【0003】
卵タンパク質などのタンパク質に難消化性デキストリンなどの水溶性食物繊維を添加することでタンパク質の凝固を抑制し、タンパク質食品の柔らかさや滑らかさを向上させることも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-9925号公報
【文献】特開2016-77228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の全卵を使用したかき卵と同等の食感と外観の新規な食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の食品及びその製造方法を提供するものである。
項1. かき玉様凝固物を含む食品であって、前記かき玉様凝固物が液状又はペースト状素材、キサンタンガム及び卵白材料を含む、食品。
項2. 液状又はペースト状素材が、豆乳、牛乳、果汁、果実ピューレ、野菜汁、野菜ピューレ及び野菜ペーストからなる群から選ばれる、項1に記載の食品。
項3. 卵白材料が粉末卵白である、項1又は2に記載の食品。
項4. さらに水溶性食物繊維を含む、項1~3のいずれか1項に記載の食品。
項5. 液状又はペースト状素材、キサンタンガム及び卵白材料の混合物の加熱工程を含む、かき玉様凝固物を含む食品の製造方法。
項6. さらに水を添加する工程を含む、項5に記載の方法。
項7. 卵白材料が粉末卵白である、項5又は6に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、卵とは異なる素材を使用しながらも従来の全卵を使用したかき玉と同等のふっくらとしてボリューム感のある外観と、適度に柔らかく弾力のある食感を有する新規な食品が得られる。本発明の食品(凝固物)は、従来の全卵をかき玉子と同様な外観や食感を有しながらも、使用する素材の風味が十分に感じられる点で優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明においてかき玉様凝固物とは、全卵を用いて製造するかき玉子の外観形状を全卵を用いずに同様な外観形状にしたものをいう。
【0009】
キサンタンガムは、キサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)が菌体外に生産する多糖類であり、D-マンノース、D-グルコース、D-グルクロン酸で構成されている。
【0010】
卵白材料としては、乾燥卵白(粉末卵白、メレンゲパウダーなどを含む)、液状卵白(チルド品、凍結品を含む)が挙げられ、乾燥卵白が好ましく、粉末卵白がより好ましい。卵白材料には、全卵(ホール液卵、全液卵、液状全卵などを含む)は含まれない。これは、全卵は卵白とともに卵黄を含み、この卵黄により素材の風味が弱くなるためである。
【0011】
液状又はペースト状素材としては、豆乳、牛乳、果汁、果実ピューレ、野菜ジュース、野菜ピューレ、野菜ペースト、嗜好飲料、だし、ハチミツ含有シロップ、乳酸菌飲料、ホワイトソース、ドリンクヨーグルトなどが挙げられる。
【0012】
果汁、果実ピューレの原料となる果物としては、オレンジ、リンゴ、グレープフルーツ、ミカン、夏みかん、はっさく、いよかん、デコポン、ポンカン、スウィーティー、文旦、ライム、レモン、キウイフルーツ、イチゴ、メロン、パイナップル、バナナ、ブドウ、巨峰、マスカット、イチジク、アセロラ、スイカ、アンズ、アボカド、かぼす、ゆず、桃、梅、梨、きんかん、びわ、ブルーベリー、ラズベリーなどが挙げられる。
【0013】
野菜ジュース、野菜ピューレ、野菜ペーストの原料となる野菜としては、トマト、ニンジン、セロリ、キャベツ、ケール、レタス、ブロッコリー、カリフラワー、コマツナ、ホウレンソウ、パセリ、大根葉、キュウリ、明日葉、シソ、ゴーヤ、アスパラガス、カボチャ、生姜、タマネギ、トウモロコシ、なす、ピーマン、ミョウガ、モロヘイヤ、ねぎ、ニンニク、ごま、ニラなどが挙げられる。
【0014】
嗜好飲料としては、コーヒー、ココア、紅茶、ウーロン茶、茶(緑茶、抹茶、玉露、番茶、ほうじ茶、煎茶、玄米茶)、麦茶、はぶ茶、昆布茶、どくだみ茶、はと麦茶、ギムネマ茶、杜仲茶、コーヒー牛乳、ビール、日本酒、果実酒、発泡酒、第三のビール、梅酒、ワイン、リンゴ酒、ウイスキー、焼酎、ナシ酒、イチゴ酒、レモン酒、みかん酒などのリキュール酒などが挙げられる。
【0015】
だしとしては、昆布だし、かつおだし、いりこだしなどが挙げられる。
【0016】
キサンタンガムの使用量は、かき玉様凝固物を含む食品を製造する場合、配合される全体に対し0.3~3質量%、好ましくは0.6~2質量%である。キサンタンガムは、製造時に配合されたほぼ全量が食品に含まれることになる。
【0017】
卵白材料の使用量は、乾燥卵白(特に粉末卵白)の場合、食品の製造時に配合される全体(水を含む)に対し2~10質量%、好ましくは4~8質量%であり、液状卵白の場合、本発明の食品の製造時に配合される全体に対し16~80質量%、好ましくは32~64質量%である。卵白材料が液状卵白の場合には、そのまま混合すればよいが、粉末卵白の場合には、本発明の食品製造時に必要に応じて添加される水及び/又は液状又はペースト状素材になじませて膨潤させて加熱し、かき玉様凝固物を含む食品を製造する。
【0018】
液状又はペースト状素材は、卵白材料として乾燥卵白(特に粉末卵白)を使用する場合、食品の製造時に配合される全体に対し30~93質量%、好ましくは50~90質量%使用される。卵白材料として液状卵白を使用する場合、食品の製造時に配合される全体に対し10~75質量%、好ましくは30~60質量%使用される。
【0019】
上記の各成分の配合量は、製造時に使用される量である。得られるかき玉様凝固物は、キサンタンガム、卵白材料、液状又はペースト状素材をほぼ全て含む。液状卵白又は液状素材に由来する水、水溶性成分の一部は凝固しない液体として存在し得るが、そのような凝固しない液体は少量あるいは僅かである。液状又はペースト状素材全体がかき玉様凝固物に含まれることで、液状又はペースト状素材の風味がかき玉様凝固物に活かされることになる。
【0020】
水溶性食物繊維としては、イヌリン、難消化性デキストリン、水溶性大豆多糖類、ポリデキストロース、アルギン酸ナトリウム、サイリウム、フコイダン、ラミナラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、プルラン、カードラン、低分子化ヘミセルロースなどが挙げられ、好ましくはイヌリン、難消化性デキストリン、水溶性大豆多糖類が挙げられる。水溶性食物繊維は任意成分であるが、本発明の食品に使用する場合、製造時に配合される全体に対し1~20質量%、好ましくは5~10質量%使用される。
【0021】
水は任意成分であるが、水を本発明の食品の製造に使用する場合、製造時に配合される全体に対し5~30質量%、好ましくは10~25質量%使用される。
【0022】
本発明の食品は、液状又はペースト状素材、キサンタンガム、卵白材料、必要に応じて水又は他の添加剤を混合し、加熱することにより製造できる。例えば、液状又はペースト状素材、キサンタンガム、卵白材料、必要に応じて水又は他の添加剤を混合した混合液を熱水中に加えることにより、本発明の食品を得ることができる。加熱温度(例えば熱水の温度)は90~100℃であり、加熱時間は1~60分間である。本発明の食品は、全ての成分を含む混合液を熱水中に注ぎ入れることにより速やかに形成される。
【0023】
他の添加剤としては、ビタミン類(A、B1、B2、B6、B12、C、D、Eなど)、コラーゲン、糖類(砂糖、糖アルコール、オリゴ糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、高甘味度甘味料など)、食塩、しょうゆ、ソース、みそ、こしょう、みりん、ケチャップ、カレー粉、乳化剤、アミノ酸、酸味料(アスコルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸など)などが挙げられる。
【0024】
本発明の食品は、かき玉様凝固物以外に肉類(牛肉、豚肉、鶏肉)、野菜類(にんじん、玉ねぎ、ジャガイモ、里芋、ごぼう、大根、タケノコ、白菜、キャベツなど)、茸類(しいたけ、シメジ、マイタケ、えのきたけ)などを含んでいてもよい。また、栄養価が高く、嚥下が容易であるので、高齢者(嚥下困難者を含む)用食品、或いは離乳食などに適用してもよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1~11及び比較例1~4
表1~表2の粉体原料(粉末卵白、キサンタンガム、イヌリン、難消化デキストリン)、液状卵白(実施例6)を計り取り、均質に混合した。得られた粉体混合原料に水を入れて5分間放置した。ただし、実施例4では、水を入れる工程は行わなかった。得られた混合原料に液状又はペースト状素材(豆乳、牛乳、トマトジュース、メロンピューレ、ホウレンソウペースト、かつおだし)を入れて均質に混合し、液状又はペースト状素材を含む混合液を調製した。880gの水を加熱して沸騰させ、これに上記豆乳混合液を緩く攪拌しながら流し込んだ後、緩く攪拌し、本発明の食品としての豆乳凝固物(実施例1~6、比較例1~4)、牛乳凝固物(実施例7)、トマトジュース凝固物(実施例8)、メロンピューレ凝固物(実施例9)、ホウレンソウペースト凝固物(実施例10)、かつおだし凝固物(実施例11)を製造した。これを室温まで冷却した後、レトルトパウチに水と凝固物の混合物を180gずつ充填して密封し、121℃で30分間レトルト殺菌処理を行い、常温保管可能な食品を製造した。
【0026】
得られたかき玉様凝固物を含む食品について、外観、風味、食感を、下記に記載した評価基準に従って3名のパネラーによって評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
◆外観
◎:凝固物が適度な柔らかさと弾力を有していて、全卵を使用したかき玉子同様の極めて良好な外観
○:凝固物につながりがあり、ほぼふっくらとしていてボリューム感があり、全卵を使用したかき玉子同様の良好な外観
△: 凝固物のつながりがやや弱く、全卵を使用したかき玉子に比較してボリューム感に少し欠けるやや不良な外観
×:凝固物が細かく分散しており、全卵を使用したかき玉子同様のふっくらとしたボリューム感が全くなく、極めて不良な外観
◆風味
◎:素材の風味が十分に感じられ、極めて良好な風味
○:素材の風味が適度に感じられ、良好な風味
△:素材の風味があまり感じられず、不良な風味
×:素材の風味がほとんど感じられず、極めて不良な風味
◆食感
◎:凝固物が全卵を使用したかき玉子同様の適度な柔らかさと弾力を有していて、極めて良好な食感
○:凝固物がほぼ柔らかく、ほぼ弾力があり、全卵を使用したかき玉子同様の良好な食感
△:凝固物が全卵を使用したかき玉子に比較して柔らかすぎて弾力が弱い、またはかなり硬くて弾力がなく不良な食感
×:凝固物が極めて柔らかすぎるか、または非常に硬くて、全卵を使用したかき玉子とは異なる極めて不良な食感
【0027】
【0028】