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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】シート状物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20220726BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20220726BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20220726BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20220726BHJP
   B32B 38/00 20060101ALI20220726BHJP
   A43B 23/02 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
D06N3/14 101
B32B27/40
B32B27/12
B32B5/24 101
B32B38/00
A43B23/02 101A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018119646
(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公開番号】P2020002474
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】303000545
【氏名又は名称】帝人コードレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 邦彦
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-061224(JP,A)
【文献】特開平06-264369(JP,A)
【文献】特開昭63-249787(JP,A)
【文献】特開昭58-065074(JP,A)
【文献】特開平01-111077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
B32B 1/00-43/00
A43B 1/00-23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テキスタイル上にポリウレタン層が積層されたシート状物であり、当該ポリウレタン層において中間層ポリウレタン層として、密度0.8g/cm以下の低密度ポリウレタン部分と、密度が0.8g/cmより大きい高密度ポリウレタン部分が存在し、全面積に占める高密度ポリウレタン部分の投影面積比率が20~80%であり、低密度ウレタン部分を主とする凸部と高密度ポリウレタン部分を主とする凹部が偏在し、当該中間層ポリウレタン層とテキスタイルの間には、さらにホットメルト性のポリウレタン層が存在し、ホットメルト性のポリウレタン層がTPU(熱可塑性ポリウレタン)であることを特徴とするシート状物。
【請求項2】
低密度ポリウレタン部分が、直径50~300μmの球状の多孔空間から構成されたものである請求項1記載のシート状物。
【請求項3】
低密度ポリウレタン部分を主とする凸部が、独立しており、その凸部の独立した一つの面積が20mm以下である請求項1または2記載のシート状物。
【請求項4】
中間層ポリウレタンの表面に表皮層が形成されている請求項1~3のいずれか1項記載のシート状物。
【請求項5】
中間層ポリウレタン層が水系ポリウレタン層である請求項1~4のいずれか1項記載のシート状物。
【請求項6】
表皮層が溶剤系ポリウレタン層である請求項1~5のいずれか1項記載のシート状物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載のシート状物をアッパーに用いることを特徴とする靴。
【請求項8】
テキスタイル上に発泡ポリウレタン層(中間層)を積層し、発泡ポリウレタン層(中間層)とテキスタイルとの間にTPU(熱可塑性ポリウレタン)からなるポリウレタン単体のシート貼り合わせて積層し、その後部分的プレス加工を行うことにより、発泡ポリウレタン層(中間層)に低密度ポリウレタン部分と高密度ポリウレタン部分とが存在し、全面積に占める高密度ポリウレタン部分の投影面積比率が20~80%となるように部分的にプレスされていることを特徴とするシート状物の製造方法。
【請求項9】
高密度ポリウレタン部分が連続している請求項8記載のシート状物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維と樹脂から構成されるシート状物に関し、さらには靴のアッパー材等に適したシート状物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維と各種樹脂からなるシート状物は、様々な用途に使用されてきた。特に樹脂としてポリウレタンを用いるシートは人工皮革や合成皮革として鞄や靴等、広い分野に展開されている。
【0003】
そしてこのようなシート状物をより柔軟なものにする方法としては、ソフトなポリウレタンを用いたり、多孔化したポリウレタンを用いる手法が一般的である。しかしこのようなソフトであったり、多孔化したポリウレタンは強度等の物性に劣るという問題があった。
【0004】
多孔化する方法としては、溶剤系ウレタンを用い水と溶剤の置換により多孔を作る湿式凝固法や、発泡剤を使った乾式発泡法、さらには機械攪拌による発泡などの各種の発泡法が知られている。しかしいずれも多孔構造とすることにより密度が下がり、ポリウレタン層の強度が低下し、高い強度が得られないという問題があったのである。
【0005】
中でも靴分野、特には強度が求められるスポーツ用靴などでは、強度とともに柔らかい風合いを得ることが特に困難であった。例えば特許文献1では、低密度発泡層と高密度発泡層を積層した靴甲皮材が提案されているが、低密度発泡層による強度低下と、高密度発泡層による風合いのハード化という弱点が顕在化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-71004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ソフトな風合いとともに、高い剥離強度を有するシート状物をえることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシート状物は、テキスタイル上にポリウレタン層が積層されたシート状物であり、当該ポリウレタン層において中間層ポリウレタン層として、密度0.8g/cm以下の低密度ポリウレタン部分と、密度が0.8g/cmより大きい高密度ポリウレタン部分が存在し、全面積に占める高密度ポリウレタン部分の投影面積比率が20~80%であり、低密度ウレタン部分を主とする凸部と高密度ポリウレタン部分を主とする凹部が偏在し、当該中間層ポリウレタン層とテキスタイルの間には、さらにホットメルト性のポリウレタン層が存在し、ホットメルト性のポリウレタン層がTPUであることを特徴とする。
【0009】
そして、低密度ポリウレタン部分が、直径50~300μmの球状の多孔空間から構成されたものであることや、低密度ポリウレタン部分を主とする凸部が、独立しており、その凸部の独立した一つの面積が20mm以下であることが好ましい。中間層ポリウレタンの表面に表皮層が形成されていることや、中間層ポリウレタン層が水系ポリウレタン層であること、表皮層が溶剤系ポリウレタン層であることが好ましい。
または、上記の本発明のシート状物をアッパーに用いることを特徴とする靴を包含する。
そしてもう一つの本発明のシート状物の製造方法は、テキスタイル上に発泡ポリウレタン層(中間層)を積層し、発泡ポリウレタン層(中間層)とテキスタイルとの間にTPUからなるポリウレタン単体のシート貼り合わせて積層し、その後部分的プレス加工を行うことにより、発泡ポリウレタン層(中間層)に低密度ポリウレタン部分と高密度ポリウレタン部分とが存在し、全面積に占める高密度ポリウレタン部分の投影面積比率が20~80%となるように部分的にプレスされていることを特徴とする。
さらには、高密度ポリウレタン部分が連続しているシート状物の製造方法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ソフトな風合いとともに、高い剥離強度を有するシート状物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のシート状物は、テキスタイル上にポリウレタン層が積層されたシート状物であり、当該ポリウレタン層において密度0.8g/cm未満の低密度ポリウレタン部分と、密度0.8g/cm以上の高密度ポリウレタン部分が存在する。そしてシート状物の全面積に占める高密度ポリウレタン部分の投影面積比率が20~80%であり、低密度ウレタン部分を主とする凸部と高密度ポリウレタン部分を主とする凹部が偏在することを特徴とする。
【0012】
本発明のポリウレタン層に用いられるポリウレタンとしては、有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる従来公知の熱可塑性ポリウレタンを用いることができる。
【0013】
また本発明のポリウレタン層としては、低密度ポリウレタン部分と高密度ポリウレタン部分以外にさらにその上下に他のポリウレタン層を有することが好ましい。
【0014】
例えば最表層に表皮層が形成されていることが好ましい。この最表面側の第1のポリウレタン層の厚さとしては、5~100μmの充実層であることが好ましい。この表面側のポリウレタン層は表面保護層の役割も果たし、特に靴や鞄などの皮革代替用途に使用される場合、摩耗によって外観を損ねない役割を果たす。
【0015】
表面側の第1のポリウレタンとしては、先に述べた有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる従来公知の熱可塑性ポリウレタンを用いることができる。また強度や平滑性に優れた溶剤系のポリウレタンであることが好ましい。さらにそのポリウレタンとしては、その100%モジュラスが2~20MPaであることが好ましい。モジュラスが低すぎると強度が不足する傾向にある。逆にモジュラスが高すぎると、硬く柔軟性の無いシート状物となる傾向にあり、特に皮革代替用途とするのに適さない物となる。またこの第1のポリウレタンの軟化点としては150℃以上であることが好ましい。特には170~190℃の範囲であることが好ましい。本発明では、熱プレスでテキスタイルと貼り合わせる製造方法を採用することが好ましいが、その時にも、最表皮が熱溶融せずに保護層を維持することが可能となる。
【0016】
本発明にて必須とされる低密度ポリウレタン部分と高密度ポリウレタン部分は、このような最表皮層の内側に存在することが好ましい。
【0017】
そのような好ましくは第2の中間層となるポリウレタンの層としては、当該ポリウレタン層において密度0.8g/cm以下の低密度ポリウレタン部分と、密度が0.8g/cmより大きい高密度ポリウレタン部分が存在し、全面積に占める高密度ポリウレタン部分の投影面積比率が20~80%であることが必要である。
【0018】
さらには、低密度ポリウレタン部分が、発泡ポリウレタンから構成され、密度が0.1~0.8g/cmの範囲であることが、特には0.2~0.6g/cmの範囲であることが好ましい。また、高密度ポリウレタン部分の密度はさらには1.0~1.2g/cmの範囲にあることが好ましい。またこの高密度ポリウレタン部分は、若干であれば多孔を有していても良いが、特には充実フィルム層であることが好ましい。
【0019】
また全面積に占める高密度ポリウレタン部分の投影面積比率としては、30%以上であることがより好ましい。高密度ポリウレタン部分の占める比率が少なくなると、低密度ポリウレタン部分が増え、十分に剥離強度を取ることができずに、耐久性が低下する傾向にある。逆に高密度ポリウレタン部分の面積が大きくなりすぎた場合は、十分に強度を取ることはできるものの、低密度ポリウレタンの部分の面積が少なくなり、風合い的には硬いものとなる傾向にある。なお、ここで全面積に占める各部分の投影面積比率とは、シート状物を平面に置いた時にその上部から観察される面積比率である。
【0020】
なお、低密度ポリウレタン部分と高密度ポリウレタン部分は若干であれば上下に積層しても良いが、基本的には平面上では分離していることが好ましい。積層した際には、剥離強度が弱くなる低密度ポリウレタン部分の欠点や、風合いが硬くなる高密度ポリウレタン部分の欠点がより現れやすくなるからである。
【0021】
さらに本発明のシート状物では、この低密度ポリウレタン部分が、直径50~300μmの球状の多孔空間から構成されたポリウレタン、いわゆる発泡ポリウレタン、からなるものであることが好ましい。
【0022】
また、本発明のシート状物では、低密度ウレタン部分を主とする凸部と高密度ポリウレタン部分を主とする凹部が偏在することが必要である。そして、低密度ウレタン部分と高密度ポリウレタン部分とで目付が変化するのでは無く、厚さ変動によってそのポリウレタン層の密度が変化することが好ましい。このような構成とすることによって本発明では、風合いと強度等の物性の双方に、特に優れたシート状物となった。
【0023】
さらに低密度ポリウレタン部分を主とする凸部が独立しており、その凸部の独立した一つの面積が20mm以下であることが好ましい。このように低密度ポリウレタン部分が小面積の単位で形成されることにより、シート状物の物性の弱い箇所が分散され、より強い剥離強力などを確保することが可能となった。また高密度ポリウレタン部分は逆に連続していることが好ましく、強力と風合いのバランスに優れたシート状物となる。
【0024】
また低密度ポリウレタン部分の厚さとしては8mm以下であることが好ましく、特には0.1~1mmの範囲であることが好ましい。高密度ポリウレタン部分の厚さとしては1mm以下であることが好ましく、特には10~500μmの範囲にあることが好ましい。
【0025】
そしてこの本発明のシート状物において必須のポリウレタン層である第2の中間層ポリウレタンも、前述の第1のポリウレタン層と同様に有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる従来公知の熱可塑性ポリウレタンを用いることができる。その種類としてはポリエーテル系またはポリカーボネート系のジオールからなるポリウレタンであることが好ましい。特にはこの低密度部分と高密度部分を有するポリウレタン層は、水系のポリウレタンからなるものであることが好ましい。さらには機械発泡したポリウレタンであることが好ましい。
【0026】
またこの必須のポリウレタン層である第2の中間層ポリウレタンとテキスタイルの間には、さらにホットメルト性のポリウレタン層が第3のポリウレタン層として存在することが好ましい。このようなホットメルト性のポリウレタンは、軟化点が低く、ポリウレタン層とテキスタイルとを容易に張り合わせることが可能となる。
【0027】
このような第3のポリウレタン層が存在した場合には、貼り合わせ時の熱プレス等の熱と圧力によって、テキスタイル内にポリウレタンが染み込み、ウレタン層とテキスタイル間のより高い剥離強度を実現することが可能となる。
【0028】
このような目的で用いるホットメルト性のポリウレタンとしては、テキスタイルとの接着強度を確保するために、より多くの目付を利用するためにも、TPUなどのポリウレタン単体のシートを貼り合わせることによって作成することも好ましい。
【0029】
このようにして用いる単体シートを得る方法としては、例えば、ポリウレタンペレットを熱によって溶融させシートフィルム化することや、Tダイ法やインフレーション法、カレンダー法などのシートの製造方法を、好ましい例として挙げることができる。
【0030】
より詳細に述べると、Tダイ法とは、先端にTダイと呼ばれるスリット状の金型を装着した押し出し機を使用し平板状に材料を押し出して連続的に成型する方法である。溶融したポリウレタンはこのスリットの隙間からフィルム状に吐出され、鏡面処理された冷却ローラーを通して冷却し、最終的にフィルムの幅を調整して巻き取られる。インフレーション法とは、環状の金型を装着した押出機から熱溶融したポリウレタンをチューブ状に押し出して連続的に成型し、中央に設置された空気孔から空気を吹き込んでチューブを風船状に膨張させ、ローラーで引っ張りながら冷却してフィルム化し、巻き取る前に一端を切り開いて平らなフィルムとする方法である。カレンダー法とは、あらかじめ溶融状態に加熱したポリウレタンを複数のカレンダーロールを使って挟んでフィルム状に圧延し成型し、最後に冷却されたローラーの表面を沿わせて成型を終え巻き取られる方法である。各カレンダーロールの径や温度、回転数などを調整することによって、シートとして作成される。さらにカレンダー法を、上記のTダイ法やインフレーション法と組み合わせて使用することも好ましい。
【0031】
この好ましくは本発明にて使用される第3のポリウレタン層を構成するポリウレタンの軟化点としては、100℃~130℃の範囲であることが好ましい。低すぎると製品が自動車のトランクなど高温下で品質劣化を起こす傾向にあり、高すぎると熱プレスによる加工性が劣る傾向にある。
【0032】
本発明のシート状物は上記のような低密度ポリウレタン部分と高密度ポリウレタン部分とを有するポリウレタン層が、テキスタイル上に積層されたものである。テキスタイルとしてはポリウレタン層を補強するために繊維で構成されたシートであれば特に制限は無いが、織物または編物タイプのテキスタイルであることが好ましい。このような織編物の中でも、特には柔軟でありながら強度に優れる編物であることが好ましい。繊維としては合成繊維であることが好ましく、具体的にはポリエステル、ナイロン、ポリウレタンなどの合成繊維であることが好ましい。特に靴用、シューズ用途としては、適度の伸度があるポリエステル、ナイロン、ポリウレタンなどの合成繊維、特にはポリエステル製の編物であることが好ましい。
【0033】
このような本発明のシート状物は、剥離強度などの物性と柔軟性などの風合いに優れ、特に靴用などのシート状物として最適に用いられる。
【0034】
さてこのような本発明のシート状物は、もう一つの本発明であるシート状物の製造方法によって得ることが可能である。すなわち、テキスタイル上に発泡ポリウレタン層を積層し、その後部分的プレス加工を行うことにより、低密度ポリウレタン部分と高密度ポリウレタン部分とが存在し、全面積に占める高密度ポリウレタン部分の投影面積比率が20~80%となるように部分的にプレスする製造方法である。さらには、本発明の製造方法では、高密度ポリウレタン部分が連続していることが好ましい。
【0035】
ここで本発明の製造方法にて用いるテキスタイルやポリウレタンとしては、先に述べたものを用いることができる。
【0036】
また発泡ウレタン層としては、先に述べた本願シート状物の発明において必須のポリウレタン層である第2の中間層に相当するが、部分的プレス加工の前に発泡していることが重要である。ポリウレタンとしては水系であることが、発泡方法としては機械的発泡法であることが好ましい。
【0037】
またその表面に第1のポリウレタン層や、さらにテキスタイルとの間に第3のポリウレタン層を有することが好ましい。さらには第1のポリウレタン層が、充実層であることや、溶剤系のポリウレタンからなるものであることが好ましい。また第3のポリウレタン層が、ホットメルト型のポリウレタンであることが好ましい。
【0038】
テキスタイル上に積層する発泡ポリウレタン層を得る方法としては、連続生産可能な長尺シートの製造方法であることが好ましく、例えば転写ラミネートの方法を採用することが特に好ましい。
【0039】
転写ラミネートを用いる方法とは長尺シート状物を製造する方法であって、生産ライン上を流れる離型紙の上に、発泡ポリウレタン層となるポリウレタンの溶液を塗布し、乾燥チャンバーに入れて乾燥させ、そのポリウレタン層をテキスタイルと積層する方法である。
【0040】
特に3層構造のポリウレタン層をテキスタイル上に積層する場合は転写ラミネート法を用いることが好ましい。すなわち、まず最表皮層となる第1のポリウレタン層となる溶液を塗布し、乾燥チャンバーに入れて乾燥させる。そしてその第1のポリウレタン層の上に第2の発泡ポリウレタン層となるポリウレタン溶液を塗布し乾燥する。第2の発泡ウレタン層は、水系ポリウレタンを機械発泡させたポリマー溶液であることが好ましい。さらにその第1のポリウレタン層、第2の発泡ポリウレタン層の上に、第3のポリウレタン層となるホットメルト性のポリウレタンシートを積層して3層のポリウレタンシートとする。また、この第3層のポリウレタンシートを積層する際には、水系のポリウレタン系の接着剤を用いて貼り合せることが好ましい。水系のポリウレタン接着剤を使用することによって、発泡ポリウレタン層の多孔を潰さずに積層することが容易となる。例えば溶剤系の接着剤を用いた場合は、低密度の発泡ポリウレタン層は再溶解しやすい傾向にある。
【0041】
最後に得られたウレタン層をテキスタイルに重ねあわせ、部分的プレス加工を行って接着する製造方法である。
【0042】
部分的プレス加工の方法としては、まずテキスタイル、ポリウレタンシートの順に重ね、穴の開いたパンチングメタルを追加して熱プレスする方法である。パンチングメタルの穴部分はプレスされずに低密度のまま残り、パンチングメタルの穴の空いてない部分はポリウレタンシートがプレスされ、発泡部分がつぶれ、高密度のポリウレタン層となる。
【0043】
通常の熱プレス、例えば製靴時の熱プレスによる熱貼り合わせでは、全面的に圧縮され発泡部分がつぶれるが、本発明では部分プレスを行うことによって、部分的に低密度のポリウレタン部分と高密度のポリウレタン部分が存在するシート状物を得ることが可能となった。
【0044】
このような方法により得られた、本発明の低密度ポリウレタン部分と、高密度ポリウレタン部分が存在し、全面積に占める高密度ポリウレタン部分の投影面積比率が20~80%であり、低密度ウレタン部分を主とする凸部と高密度ポリウレタン部分を主とする凹部が偏在するシート状物は、柔らかい風合いでありながら剥離強度等の物性に優れ、鞄、靴等に広く用いることができ、特にはスポーツシューズのアッパー材等に最適に用いられるシート状物となった。
【実施例
【0045】
以下に本発明を詳細に説明する。実施例においては剥離強力は次の方法で測定した。
【0046】
(剥離強力)
JIS K6301法に準じ、引張り速度50mm/分で100mm剥離させ、20mm毎のミニマム値5点の平均値をN/cmで表し剥離強力とした。
【0047】
[実施例1]
転写貼り合わせラインにて、ラインスピード3m/minで152cm幅の離型紙(大日本印刷社製「UM13」)を流し、離型紙上に、溶剤系のポリウレタン(大日精化社製、「レザミンLU-2109NTT」、ポリウレタン濃度25%、融点150℃、100%モジュラス10MPa)100部、ジメチルホルムアミド(DMF)15部、イソプロピルアルコール15部、を混合した溶液を、目付け120g/mで塗布した。その後、乾燥チャンバーにて、110℃で2分間乾燥して厚さ0.01mmの高分子弾性体からなる最表皮膜(ポリウレタン層)を形成した。
【0048】
その表面に水系ポリウレタン(OCEAN PLASTICS社製「DPU7420」、ポリウレタン濃度60%、100%モジュラス3.5MPa)100部、発泡剤(スルホコハク酸ラウリル2Na)4部を混合し、これを高速機械攪拌で発泡させて密度を500g/リットルに合わせた溶液を、目付け250g/mで塗布し、70℃で10分乾燥した。
【0049】
さらにその上に水系ポリウレタン系接着剤(DIC社製「ハイドランHW333」ポリウレタン濃度40%、100%モジュラス9.0MPa)100部に増粘剤、消泡剤、レベリング剤を添加、混合調整した溶液を目付100g/mで塗布し、その上に100℃で10分乾燥後、Tダイ法により作成された、軟化点118℃、厚さ150μmのホットメルト性ポリウレタンシートと重ね合わせ、0.1mmの間隙のロールに通過させ圧着した。
【0050】
その後、温度70℃の雰囲気下で2日間放置した後、離型紙を剥ぎ取りポリウレタンシート-1を得た。全体の厚さは約700μmで中間に平均直径約100μmの球状の低密度発泡ポリウレタンの層を有する多層のポリウレタンシートであった。
【0051】
この多層で構成されたポリウレタンシートをシューズパーツの型に裁断し、ホットメルト性ポリウレタンシート側を厚さ1.5mmの編物タイプのポリエステル製テキスタイルの上に重ね合わせた後、厚さ1mm、開口面積50%で直径10mmの円形の穴の開いたアルミ製パンチングメタルをさらに上に重ねた後、上下からの熱プレス機にて120℃で30秒間プレスし、テキスタイルと貼り合わせた。
【0052】
プレス機から取り出し、冷却後にシート断面を観察したところ、パンチングメタルでプレスされた面積50%の部分は圧縮されて凹状になり、テキスタイル上のポリウレタン層の厚さは約100μmで平らであり、密度は約1.0g/cmであった。この高密度ポリウレタン部分は連続していた。一方、パンチングメタルの開口部分の面積50%の部分は直接プレスされること無くテキスタイル上に凸部の頂点が500μmのポリウレタン層の厚さで、平均密度は約0.3g/cmの低密度部が形成されていた。この凸部分は独立しており、低密度ポリウレタンの弾性があり、シート状物全体としてもソフトな風合いであった。
【0053】
このできあがったシート状物に、剥離測定用のラバーを貼り合わせて表面剥離強度を測定したところ、43.3N/cmであり、スポーツシューズ用シート状物としても十分に高い物性であった。得られた物性を表1に示す。
【0054】
[比較例1]
実施例1と同様に作成したシート-1をシューズパーツに裁断し、同様に厚さ1.5mmの編物タイプのポリエステル製テキスタイル上に重ね合わせた後、パンチングメタルは使用せず直接上下からの熱プレス機にて120℃で30秒プレスし、テキスタイルと貼り合わせた。
【0055】
プレス機から取り出し、冷却後にシートを観察したところ、平面状で表面凹凸は無く、ポリウレタン層の厚さは全体に400μm程度まで圧縮されて形成されており、ややソフトな風合いであった。
【0056】
このできあがったシートに剥離測定用のラバーを貼り合わせて表面剥離強度を測定したところ、16.8N/cmであり、スポーツシューズ用シート状物としては不満足な低物性であった。なお剥離のポイント(起点)は発泡ポリウレタンの層内に存在した。
表1に物性を合わせて示す。
【0057】
[比較例2]
実施例1と同様に、ただしポリウレタンを発泡させることなく積層したポリウレタンシートを作成した。
すなわち、転写貼り合わせラインにて、ラインスピード3m/minで152cm幅の離型紙(大日本印刷社製「UM13」)を流し、離型紙上に、ポリウレタン(大日精化社製、「レザミンLU-2109NTT」、ポリウレタン濃度25%、融点150℃、100%モジュラス10MPa)100部、ジメチルホルムアミド(DMF)15部、イソプロピルアルコール15部、を混合した溶液を、目付け120g/mで塗布した。その後、乾燥チャンバーにて、110℃で2分間乾燥して厚さ0.01mmの高分子弾性体からなる最表皮膜(ポリウレタン層)を形成した。
【0058】
その表面に水系ポリウレタン(OCEAN PLASTICS社製「DPU7420」、ポリウレタン濃度60%、100%モジュラス3.5MPa)100部、少量の増粘剤、レベリング剤、消泡剤で調整し、発泡させることなく攪拌した溶液を150g/mで塗布した。その後、乾燥チャンバーにて、110℃で3分間乾燥して厚さ0.03mmの高分子弾性体からなる中間層(ポリウレタン層)を形成した。
【0059】
さらにその上にポリウレタン系接着剤(DIC社製「ハイドランHW333」ポリウレタン濃度40%、100%モジュラス9.0MPa)100部に増粘剤、消泡剤、レベリング剤を添加、混合調整した溶液を目付100g/mで塗布し、100℃で10分乾燥後、Tダイ法により作成された厚さ150μmのホットメルト性ポリウレタンシートと重ね合わせ、0.1mmの間隙のロールに通過させ圧着した。
【0060】
その後、温度70℃の雰囲気下で2日間放置した後、離型紙を剥ぎ取りシート-1を得た。全体の厚さは約250μmであって、発泡ポリウレタンの層は存在しないものの、多層のポリウレタンシートであった。
【0061】
この無孔の多層ポリウレタンシートをシューズパーツの型に裁断し、ホットメルト性ポリウレタンシート側を実施例1と同じ、厚さ1.5mmの編物タイプのポリエステル製テキスタイルの上に重ね合わせた後、厚さ1mm、開口面積50%で直径10mmの円形の穴の開いたアルミ製パンチングメタルをさらに上に重ねた後、上下からの熱プレス機にて120℃で30秒プレスし、テキスタイルと貼り合わせた。
【0062】
プレス機から取り出し、冷却後にシート面を観察したところ、パンチングメタルでプレスされた面積50%の部分は厚さ80μmであり、一方パンチングメタルの開口部分はプレスされない面積50%の部分で厚さ120μmであった。若干の凸凹はできているものの実施例1と比較すると高低差が浅く、また風合いも硬めであった。
【0063】
なお、できあがったシートに剥離測定用のラバーを貼り合わせて表面剥離強度を測定したところ、56.5N/cmとの高い物性であった。
表1に物性を合わせて示す。
【0064】
【表1】