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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】メタン発酵装置及びメタン発酵方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/65 20220101AFI20220726BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20220726BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20220726BHJP
   C02F 11/14 20190101ALI20220726BHJP
【FI】
B09B3/65
C02F11/04
C02F11/00 Z
C02F11/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018133947
(22)【出願日】2018-07-17
(65)【公開番号】P2020011185
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】510285230
【氏名又は名称】亀岡 俊則
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 俊則
(72)【発明者】
【氏名】譜久山 剛
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-136375(JP,A)
【文献】特開2008-200666(JP,A)
【文献】特開2016-055216(JP,A)
【文献】特開2017-060908(JP,A)
【文献】特開2002-273397(JP,A)
【文献】特開平11-028445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
C02F 11/04
C10L 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー作物をメタン発酵させてメタンガスを発生させるメタン発酵装置であって、
破砕機によって破砕された前記エネルギー作物に対し、複数の化成肥料成分を混合する混合槽と、
前記エネルギー作物をメタン発酵することによってメタンガス及び消化液が生成されるメタン発酵槽とを備え、
前記混合槽では、前記エネルギー作物をNaOH溶液に漬け込むアルカリ処理が行われ、このアルカリ処理後の前記エネルギー作物が前記メタン発酵槽に供給され
前記エネルギー作物が、ソルガムであり、
前記NaOH溶液が、前記ソルガム現物重量の0.6%~1.0%のNaOHを、前記ソルガム現物重量の1.5倍量~3倍量の水に溶解したものであり、
前記複数の化成肥料成分が、前記ソルガム現物重量の0.2%~0.4%の尿素、0.1%~0.2%のリン酸カリ、及び0.03%~0.05%の硫安に含まれる量の、N成分、P成分、K成分、及びS成分であることを特徴とするメタン発酵装置。
【請求項2】
エネルギー作物をメタン発酵させてメタンガスを発生させるメタン発酵装置であって、
破砕機によって破砕された前記エネルギー作物に対し、複数の化成肥料成分を混合する混合槽と、
前記エネルギー作物をメタン発酵することによってメタンガス及び消化液が生成されるメタン発酵槽とを備え、
前記混合槽では、前記エネルギー作物をNaOH溶液に漬け込むアルカリ処理が行われ、このアルカリ処理後の前記エネルギー作物が前記メタン発酵槽に供給され、
前記破砕機によって破砕する前記エネルギー作物を貯蔵する貯蔵装置を備え、
前記貯蔵装置では、前記エネルギー作物に乳酸菌が添加されることを特徴とするメタン発酵装置。
【請求項3】
請求項1に記載のメタン発酵装置において、
前記破砕機によって破砕する前記エネルギー作物を貯蔵する貯蔵装置を備え、
前記貯蔵装置では、前記エネルギー作物に乳酸菌が添加されることを特徴とするメタン発酵装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載のメタン発酵装置において、
前記混合槽にて、前記複数の化成肥料成分に代えて鶏糞を混合することを特徴とするメタン発酵装置。
【請求項5】
エネルギー作物をメタン発酵させてメタンガスを発生させるメタン発酵方法であって、
破砕機によって破砕された前記エネルギー作物に対し、複数の化成肥料成分を混合する混合槽と、
前記エネルギー作物をメタン発酵することによってメタンガス及び消化液を生成するメタン発酵槽とを備え、
前記混合槽では、前記エネルギー作物をNaOH溶液に漬け込むアルカリ処理を行って、このアルカリ処理後の前記エネルギー作物を前記メタン発酵槽に供給し、
前記エネルギー作物が、ソルガムであり、
前記NaOH溶液が、前記ソルガム現物重量の0.6%~1.0%のNaOHを、前記ソルガム現物重量の1.5倍量~3倍量の水に溶解したものであり、
前記複数の化成肥料成分が、前記ソルガム現物重量の0.2%~0.4%の尿素、0.1%~0.2%のリン酸カリ、及び0.03%~0.05%の硫安に含まれる量の、N成分、P成分、K成分、及びS成分であることを特徴とするメタン発酵方法。
【請求項6】
請求項5に記載のメタン発酵方法において、
前記混合槽で混合する化成肥料成分として、家畜糞尿、下水汚泥、又は生ごみに由来する成分を用いることを特徴とするメタン発酵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー作物をメタン発酵させてメタンガスを発生させるメタン発酵装置、及びメタン発酵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばソルガム等のエネルギー作物をメタン発酵させてメタンガスを発生させるメタン発酵装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、湿式ビーズミルにて微粉砕された有機物をメタン発酵させてメタンガスを発生させるメタン発酵装置が開示されている。
【0003】
ところで、メタン発酵を行うメタン発酵槽の発酵液のpHは、時間の経過とともに次第に低下する可能性があり、発酵液のpHが7以下になるとメタン発酵機能が低下する可能性がある。このため、長期間にわたってメタン発酵の安定化を図るには、メタン発酵槽にアルカリ溶液を投入して、発酵液のpHを7以上に戻すpH調整を行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-34631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述したような実情を考慮してなされたものであって、発酵液のpH調整を行わなくても長期間にわたってメタン発酵の安定化及び高効率化を図ることが可能なメタン発酵装置及びメタン発酵方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、エネルギー作物をメタン発酵させてメタンガスを発生させるメタン発酵装置であって、破砕機によって破砕された前記エネルギー作物に対し、複数の化成肥料成分を混合する混合槽と、前記エネルギー作物をメタン発酵することによってメタンガス及び消化液が生成されるメタン発酵槽とを備え、前記混合槽では、前記エネルギー作物をNaOH溶液に漬け込むアルカリ処理が行われ、このアルカリ処理後の前記エネルギー作物が前記メタン発酵槽に供給されることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、エネルギー作物をメタン発酵槽に投入する前に、複数の化成肥料成分をエネルギー作物に混合する成分調整を行っているので、この成分調整によってメタン発酵槽の発酵液のpHが低下することが抑制され、発酵液のpH調整を行わなくても長期間にわたってメタン発酵の安定化を図ることができる。また、エネルギー作物に対する破砕処理及びアルカリ処理によって、メタン発酵槽に投入されるエネルギー作物が細かく破砕及び可溶化されて、メタン発酵に適した状態になるため、メタン発酵槽のメタンガスの発生量を高めることができる。
【0008】
本発明において、前記エネルギー作物が、ソルガムであり、前記複数の化成肥料成分が、N成分、P成分、K成分、及びS成分であることが好ましい。ソルガムを発酵原料として安定したメタン発酵を行うには、N成分、P成分、及びS成分が不足するが、この構成によれば、複数の化成肥料成分をソルガムに混合する成分調整を行って、不足栄養分を補うことによって、ソルガムのメタン発酵の安定性を高めることができる。
【0009】
本発明において、前記破砕機によって破砕する前記エネルギー作物を貯蔵する貯蔵装置を備え、前記貯蔵装置では、前記エネルギー作物に乳酸菌が添加されることが好ましい。この構成によれば、乳酸菌の添加により良質なサイレージ処理を行うことで、メタン発酵槽でのメタン発酵を効率よく行うことができる。
【0010】
本発明において、前記混合槽では、前記化成肥料成分に加えて、Ni成分及びCo成分が添加されることが好ましい。この構成によれば、Ni成分及びCo成分の添加により、メタン発酵槽でのメタン発酵を促進することができる。
【0011】
本発明において、前記メタン発酵槽で生成された消化液を凝集剤により汚泥濃縮分離し、前記エネルギー作物に含まれる重金属類を取り除く濃縮装置を備えることが好ましい。この構成によれば、土壌に含まれる重金属類をエネルギー作物に吸収させ、このエネルギー作物を収穫してメタン発酵を行うことによって重金属類を抽出することで、土壌に含まれる重金属類を除去することができる。
【0012】
また、本発明は、エネルギー作物をメタン発酵させてメタンガスを発生させるメタン発酵方法であって、破砕機によって破砕された前記エネルギー作物に対し、複数の化成肥料成分を混合する混合槽と、前記エネルギー作物をメタン発酵することによってメタンガス及び消化液を生成するメタン発酵槽とを備え、前記混合槽では、前記エネルギー作物をNaOH溶液に漬け込むアルカリ処理を行って、このアルカリ処理後の前記エネルギー作物を前記メタン発酵槽に供給することを特徴とする。また、前記メタン発酵槽で生成された消化液を凝集剤により汚泥濃縮分離し、前記エネルギー作物に含まれる重金属類を取り除くことを特徴とする。このようなメタン発酵方法によれば、上述した本発明のメタン発酵装置と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るメタン発酵装置、及びメタン発酵方法によれば、エネルギー作物をメタン発酵槽に投入する前に、複数の化成肥料成分をエネルギー作物に混合する成分調整を行っているので、この成分調整によってメタン発酵槽の発酵液のpHが低下することが抑制され、発酵液のpH調整を行わなくても長期間にわたってメタン発酵の安定化を図ることができる。また、エネルギー作物に対する破砕処理及びアルカリ処理によって、メタン発酵槽に投入されるエネルギー作物が細かく破砕及び可溶化されて、メタン発酵に適した状態になるため、メタン発酵槽のメタンガスの発生量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るメタン発酵装置の概略を模式的に示す図である。
図2】ソルガムに対し成分調整を行った場合のメタン発酵槽の発酵液のpHの時間変化を示す図である。
図3】ソルガムに対し成分調整を行わなかった場合のメタン発酵槽の発酵液のpHの時間変化を示す図である。
図4】ソルガムに対し破砕処理及びアルカリ処理を行った場合のメタン発酵槽のメタンガスの発生量の時間変化を示す図である。
図5】ソルガムに対し破砕処理を行ってアルカリ処理を行わなかった場合のメタン発酵槽のメタンガスの発生量の時間変化を示す図である。
図6】ソルガムの品種ごとのリグニンの含有量を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態に係るメタン発酵装置、及びメタン発酵方法について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るメタン発酵装置(メタン発酵方法)の概略を模式的に示す図である。
【0016】
本実施形態に係るメタン発酵装置10は、例えば図1に示すように、エネルギー作物をメタン発酵させてメタンガスを発生させるものであって、混合槽13と、メタン発酵槽14を備えている。メタン発酵の発酵原料としてエネルギー作物が用いられており、本実施形態では、ソルガムが用いられている。なお、エネルギー作物として、ソルガムのみを単独で用いてもよいし、ソルガムと他のエネルギー作物とを組み合わせて用いてもよい。以下では、エネルギー作物として、ソルガムのみを単独で用いた場合について説明する。
【0017】
ソルガムは、例えばハーベスタによって裁断して収穫され、所定期間の間、貯蔵装置(サイレージ装置)11に保存される。収穫したソルガムを常温下で密封できるラップサイレージなどによりサイレージ処理する際、適量の乳酸菌を添加することにより、より品質の高いサイレージが出来上がる。このようにサイレージ処理されたソルガムは、家畜飼料として良品質であるたけでなく、メタン発酵原料としてプロピオン酸を生成しない品質に仕上げられる。ソルガムのサイレージ処理期間は、最短では2週間であり、長期では1年間の保存が可能である。なお、乳酸菌は、良好なサイレージ処理を行うためにソルガムに添加され、その濃度は、例えば0.2%~0.5%であることが好ましい。
【0018】
メタン発酵原料としてのソルガムの調整には、さらに破砕機12によって破砕処理が行われ、破砕機12によってソルガムが綿状までに破砕される。このとき、破砕されたソルガムは、その一部(例えば20%程度)が、1mm×10mm程度の比較的大きな繊維状のものになっており、その残り(例えば80%程度)が、繊維状よりも細かく破砕された綿状のものになっている。つまり、破砕機12による破砕処理によって、ほとんどのソルガムが綿状に破砕されるようになっている。なお、エキストルーダを用いてソルガムを微粉砕することも可能であるが、エキストルーダの消費電力は非常に大きいため、エキストルーダよりも消費電力の小さい破砕機12を用いてソルガムの破砕処理を行うことが好ましい。
【0019】
破砕処理されたソルガムを発酵原料としてメタン発酵槽14に投入する前に、複数の化成肥料成分をソルガムに混合する成分調整が行われる。この混合処理(成分調整処理)の際、ソルガムをアルカリ溶液に漬け込むアルカリ処理も行われる。混合処理及びアルカリ処理は、混合槽(調整槽)13にて行われる。例えば混合槽13に、ソルガム、化成肥料成分、NaOH、及び水を投入し、これらを混合した混合液を作製する。混合槽13では、ソルガムの1.5倍量~3倍量程度の水によって、約0.6%のNaOH溶液が調製され、このNaOH溶液にソルガムが漬け込まれる。また、ソルガムに対し、0.4%の尿素、0.2%のリン酸カリウム、及び0.04%の硫安が混合槽13に投入される。これらの化成肥料成分は、ソルガムのメタン発酵時の成分調整剤として供給される。なお、混合処理の際、重金属成分であるNi成分及びCo成分を添加することが好ましい。例えばソルガムに対し、それぞれ0.2ppmのNi成分及びCo成分が添加される。これらの重金属成分は、ソルガムのメタン発酵を促進するために添加される。
【0020】
混合槽13での混合処理の後、ソルガムがメタン発酵槽14に投入される。メタン発酵槽14へのソルガムの投入は、例えば24時間ごとに所定量ずつ行われる。メタン発酵実験では、例えば混合槽13で作製された混合原料を、1週間分を計量して小分けし、メタン発酵槽14に投入する1週間分の混合原料を冷蔵庫に保存し、小分けされた残りの混合原料を冷凍庫に保存しておく。そして、冷蔵保存した混合原料は、24時間ごとに所定量ずつ冷蔵庫から取り出して使用すればよい。
【0021】
本実施形態では、メタン発酵槽14でのソルガムのメタン発酵は、発酵温度が約37℃の中温発酵法で行われる。メタン発酵の際、1回あたり数分(例えば2分)程度のメタン発酵槽14の撹拌が、1日に複数回(例えば8回)行われる。メタン発酵槽14には、嫌気性のメタン菌及び通性嫌気性菌である可溶化菌を含む発酵液が予め注入されている。メタン発酵槽14は、回転式の撹拌機を有しており、その内部で嫌気性のメタン発酵を行うために密閉構造となっている。メタン発酵槽14では、メタン菌によって発酵原料であるソルガムのメタン発酵(嫌気性発酵)が行われることで、メタンガス及び消化液が生成される。また、メタン発酵槽14内では、酸発酵の可溶化菌によってソルガムの固形物が分解され低分子化になることで、アルカリ発酵のメタン菌によるソルガムのメタン発酵が効率よく行われるようになっている。
【0022】
メタン発酵槽14でのソルガムのメタン発酵によって生成されたメタンガス(バイオガス)は、メタン発酵槽14から取り出され、除湿及び脱硫が行われた後、ガスタンク15に貯蔵される。メタン発酵槽14から取り出されたメタンガスは、発電等に利用することが可能である。一方、メタン発酵によって生成された消化液は、メタン発酵槽14から取り出され、消化液タンク16に貯蔵される。メタン発酵槽14から取り出された消化液は、液肥等として利用することが可能である。
【0023】
本実施形態では、上述したように、ソルガムをメタン発酵槽14に投入する前に、複数の化成肥料成分をソルガムに混合する成分調整を行っている。この成分調整によって、メタン発酵槽14の発酵液のpHが低下することが抑制され、発酵液のpH調整を行わなくても長期間にわたってメタン発酵の安定化を図ることができる。この点について、図2図3を用いて説明する。
【0024】
図2図3は、メタン発酵槽14のpHの時間変化を示しており、図2は、ソルガムの成分調整を行った場合を示し、図3は、ソルガムの成分調整を行わなかった場合を示している。ここで、メタン発酵槽14の発酵液のpHは、上述した可溶化菌による酸発酵の影響によって次第に低下する傾向にあり、発酵液のpHが7以下になるとメタン菌によるメタン発酵機能が低下する傾向にある。このため、メタン発酵の安定化を図るには、発酵液のpHを7以上に維持する必要がある。図3の例では、メタン発酵槽14の発酵液のpHが7よりも低下した場合には、メタン発酵槽14にアルカリ溶液(例えばNaOH溶液)を投入して、発酵液のpHを7以上に戻すpH調整を行っている。つまり、pH調整を行わなければ、メタン発酵槽14の発酵液のpHが7よりも低い状態が継続され、メタン発酵の安定化を図れなくなってしまう。
【0025】
これに対し、図2の例では、そのようなpH調整を行っていないにもかかわらず、発酵液のpHが7以上に維持されている。つまり、メタン発酵槽14に投入する前に、ソルガムの成分調整を予め行うことによって、発酵液のpHを7以上に維持することが可能になっている。ここで、安定したメタン発酵に必要な栄養分のバランスは、[C:N:P:S=600:15:5:1]であると考えられている。しかし、ソルガムの成分バランスは、略[C:N:P:S=600:9.3:2.8:0]であり、ソルガムを発酵原料として安定したメタン発酵を行うには、N成分、P成分、及びS成分が不足している。このようなソルガムの栄養分のアンバランスも、メタン発酵槽14の発酵液のpH低下の要因と考えられる。
【0026】
本実施形態では、ソルガムをメタン発酵槽14に投入する前に、複数の化成肥料成分をソルガムに混合する成分調整を行って、不足している栄養分を補うようにしている。上述したように、ソルガムに対し、例えば、0.4%の尿素、0.2%のリン酸カリウム、及び0.04%の硫安を混合することによって、不足栄養分の補充を行っている。このような成分調整によって、図2に示すように、メタン発酵槽14の発酵液のpH調整を行わなくても発酵液のpHを7以上に維持することができ、長期間にわたってメタン発酵の安定化を図ることができる。ソルガムに対する尿素、リン酸カリ、及び硫安の比率は一例であって、適宜変更することが可能である。尿素の好ましい比率は、0.2%~0.4%であり、リン酸カリの好ましい比率は、0.1%~0.2%であり、硫安の好ましい比率は、0.03%~0.05%である。なお、尿素、リン酸カリ、及び硫安以外の化成肥料成分を用いて、ソルガムの成分調整を行ってもよい。例えば、鶏糞等の家畜糞尿、下水汚泥、生ごみ等に由来する成分を、化成肥料成分として用いて、ソルガムの成分調整を行ってもよい。例えば、上述した尿素、リン酸カリ、及び硫安の代わりに、鶏糞を10%~30%程度、ソルガムに対して混合することによって成分調整を行ってもよい。
【0027】
また、本実施形態では、上述したように、発酵原料となるソルガムに対し、破砕処理及びアルカリ処理を行っている。ソルガムに対するこれらの前処理によって、メタン発酵槽14に投入されるソルガムが細かく破砕及び可溶化されて、メタン発酵に適した状態になるため、メタン発酵槽14のメタンガスの発生量を高めることができる。この点について、図4図5を用いて説明する。
【0028】
図4図5は、メタン発酵槽14のメタンガスの発生量の時間変化を示しており、図4は、ソルガムに対し破砕処理及びアルカリ処理を行った場合を示し、図5は、ソルガムに対し破砕処理のみを行ってアルカリ処理を行わなかった場合を示している。図5の例では、メタン発酵槽14のメタンガスの発生量が、1日当たり約2L/d~約4L/dであるのに対し、図4の例では、メタン発酵槽14のメタンガスの発生量が、1日当たり約6L/d~9L/dに増加している。図4図5から、ソルガムに対し破砕処理及びアルカリ処理の両方を行った場合には、破砕処理のみを行った場合に比べて、メタン発酵槽14のメタンガスの発生量が約1.5倍以上に増加していることが分かる。
【0029】
ここで、ソルガムは、乾物当りの繊維類の総量が約80%であり、有機物のほとんどを繊維類が占めている。ソルガムを構成する繊維類は、セルロース、ヘミセルロース、リグニン等の物質であり、これらの物質が繊維状に強く絡み合って木質状に形成されていることから、ソルガムは微生物分解では難分解性物質とされている。このため、ソルガムのメタン発酵を効率よく行うためには、その繊維類を細かく破砕する必要がある。
【0030】
本実施形態では、上述したように、破砕機12を用いてソルガムを綿状になるまで破砕し、さらに、混合槽13でNaOH溶液にソルガムを漬け込んで可溶化しやすい状態にしている。これにより、メタン発酵槽14でのソルガムの可溶化が促進され、メタン発酵に適した状態になり、メタン発酵槽14のメタンガスの発生量を高めることができる。上述したアルカリ処理を行うためのNaOH溶液の濃度(0.6%)は一例であって、適宜変更することが可能である。NaOH溶液の好ましい濃度は、0.6%~1.0%である。なお、NaOH以外のアルカリ剤を用いて、ソルガムのアルカリ処理を行ってもよい。
【0031】
また、本実施形態では、上述したように、混合槽13で、上述した化成肥料成分に加えて、Ni成分及びCo成分をソルガムに添加しており、このようなNi成分及びCo成分の添加により、メタン発酵槽14でのソルガムのメタン発酵を促進することができる。上述したソルガムのメタン発酵を促進するためのNi成分及びCo成分の比率(それぞれ0.2ppm)は一例であって、適宜変更することが可能である。Ni成分の好ましい比率は、0.2ppm~0.4ppmであり、Co成分の好ましい比率は、0.2ppm~0.4ppmである。なお、Ni成分及びCo成分以外の重金属成分をソルガムに添加してもよく、このような重金属成分としては、例えばFe成分や、Zn成分等のミネラル成分がある。
【0032】
また、本実施形態では、上述したように、収穫されたソルガムを貯蔵装置11に貯蔵する際、ソルガムに乳酸菌を添加しており、このような乳酸菌の添加により良質なサイレージ処理を行うことで、メタン発酵槽14でのソルガムのメタン発酵を効率よく行うことができる。ここで、ソルガムに乳酸菌を添加しないで、且つ嫌気状態が維持されない場合、サイレージ貯蔵中にプロピオン酸が生成される可能性がある。プロピオン酸はメタン菌の阻害物質であるため、メタン発酵槽14に投入されるソルガムにプロピオン酸が多く含まれていると、メタン発酵槽14で生成されるバイオガス中の二酸化炭素の比率が多くなり、メタンガスの比率が少なくなることが懸念される。このため、ソルガムのサイレージ処理を厳密な嫌気性環境の下で行うことが好ましい。したがって、ソルガムの嫌気状態を維持しながらサイレージ処理を行うことによって、プロピオン酸の生成及び増殖を抑制することができ、メタン発酵槽14で生成されるバイオガス中の二酸化炭素の比率を低減し、メタンガスの比率を増加することができる。
【0033】
本実施形態では、メタン発酵の発酵原料としてソルガムを用いている。上述したように、ソルガムを発酵原料として安定したメタン発酵を行うには、N成分、P成分、及びS成分が不足するが、複数の化成肥料成分をソルガムに混合する成分調整を行って、不足栄養分を補うことによって、ソルガムのメタン発酵の安定性を高めることができる。
【0034】
ソルガムの品種としては、例えば図6に示すように、GB31種、GB32種、B1種、B3種、EN12・11種、B105種等がある。ここで、ソルガムを構成する繊維類のうち、リグニンの分解は困難であると考えられることから、リグニンの含有量(%CWR)の小さい品種を用いることが好ましい。図6に示すように、リグニンの含有量は、GB31種、B1種、及びB3種の3つの品種が比較的小さく、ソルガムのメタン発酵に好適であることが分かる。
【0035】
上述のGB31種、GB32種、B1種、及びB3種を用いて、メタン発酵槽14でのメタンガスの発生量を計測し、メタンガスのガス化率を算出した。この際、メタン発酵槽14でのメタンガスの発生量を、破砕処理及びアルカリ処理の両方を行った場合と、破砕処理のみを行った場合とについてそれぞれ計測した。また、メタン発酵槽14に投入されるソルガムのプロピオン酸の含有量や、メタン発酵槽14で生成されるバイオガス中の二酸化炭素の比率についても計測した。
【0036】
B1種では、破砕処理及びアルカリ処理の両方を行った場合、ガス発生量が1日当たり6.88L/dであり、そのガス化率が有機物(VS)当たり0.70L/gVSであった。ソルガムの理論ガス発生量は0.81L/gVSであるため、B1種では、理論ガス発生量に対し、86%のガス化率が得られた。この場合、リグニン質を除いた有機物ありのガス化率は約95%であり、極めて高効率のガス化率が達成された。なお、B1種では、メタン発酵槽14に投入されるソルガムのプロピオン酸の含有量が0.04DM%であり、メタン発酵槽14で生成されるバイオガス中の二酸化炭素の比率が33%であった。
【0037】
一方、B1種では、破砕処理のみを行った場合、ガス発生量が1日当たり3.3L/dであり、そのガス化率が有機物(VS)当たり0.56L/gVSであった。理論ガス発生量に対するガス化率は69%であった。このように、B1種では、破砕処理及びアルカリ処理の両方を行った場合には、破砕処理のみを行った場合に比べて、理論ガス発生量に対するガス化率が17%も高められた。
【0038】
また、B3種では、破砕処理及びアルカリ処理の両方を行った場合、ガス発生量が1日当たり7.45L/dであり、そのガス化率が有機物(VS)当たり0.68L/gVSであった。理論ガス発生量に対するガス化率は84%であった。なお、B3種では、メタン発酵槽14に投入されるソルガムのプロピオン酸の含有量が0であり、メタン発酵槽14で生成されるバイオガス中の二酸化炭素の比率が24%であった。
【0039】
一方、B3種では、破砕処理のみを行った場合、ガス発生量が1日当たり3.5L/dであり、そのガス化率が有機物(VS)当たり0.53L/gVSであった。理論ガス発生量に対するガス化率は65%であった。このように、B3種では、破砕処理及びアルカリ処理の両方を行った場合には、破砕処理のみを行った場合に比べて、理論ガス発生量に対するガス化率が19%も高められた。
【0040】
また、GB31種では、破砕処理及びアルカリ処理の両方を行った場合、ガス発生量が1日当たり7.25L/dであり、そのガス化率が有機物(VS)当たり0.67L/gVSであった。理論ガス発生量に対するガス化率は83%であった。なお、GB31種では、メタン発酵槽14に投入されるソルガムのプロピオン酸の含有量が0.13DM%であり、メタン発酵槽14で生成されるバイオガス中の二酸化炭素の比率が35%であった。
【0041】
一方、GB31種では、破砕処理のみを行った場合、ガス発生量が1日当たり3.2L/dであり、そのガス化率が有機物(VS)当たり0.49L/gVSであった。理論ガス発生量に対するガス化率は60%であった。このように、GB31種では、破砕処理及びアルカリ処理の両方を行った場合には、破砕処理のみを行った場合に比べて、理論ガス発生量に対するガス化率が23%も高められた。
【0042】
また、GB32種では、破砕処理及びアルカリ処理の両方を行った場合、ガス発生量が1日当たり6.0L/dであり、そのガス化率が有機物(VS)当たり0.52L/gVSであった。理論ガス発生量に対するガス化率は64%であった。なお、GB32種では、メタン発酵槽14に投入されるソルガムのプロピオン酸の含有量が0.34DM%であり、メタン発酵槽14で生成されるバイオガス中の二酸化炭素の比率が38%であった。
【0043】
一方、GB32種では、破砕処理のみを行った場合、ガス発生量が1日当たり2.4L/dであり、そのガス化率が有機物(VS)当たり0.35L/gVSであった。理論ガス発生量に対するガス化率は43%であった。このように、GB32種では、破砕処理及びアルカリ処理の両方を行った場合には、破砕処理のみを行った場合に比べて、理論ガス発生量に対するガス化率が21%も高められた。
【0044】
上述したメタン発酵方法を土壌の浄化方法に適用することが可能である。この土壌の浄化方法は、上述したメタン発酵装置(メタン発酵方法)を用いた土壌の浄化方法であって、土壌で栽培され収穫されたソルガムを用いて、メタン発酵槽14でメタン発酵を行い、メタン発酵槽14で生成された消化液を凝集剤により汚泥濃縮することによって、消化液に含まれる重金属を消化液から分離することを特徴としている。
【0045】
詳細には、重金属類(例えばカドミウム等)によって汚染された土壌でソルガムを栽培し、土壌に含まれる重金属類をソルガムに吸収させる。そして、重金属類を吸収したソルガムを収穫し、このソルガムを発酵原料として、上述したような手順でメタン発酵を行う。ソルガムに吸収された重金属類は、メタン発酵槽14で発生する消化液に混入し、メタンガスとは分離される。メタン発酵槽14から消化液タンク16に取り出された消化液の汚泥濃縮処理を濃縮装置によって行うことによって、消化液から重金属類が分離される。消化液の汚泥濃縮処理は、例えば高分子凝集剤を用いることによって行うことが可能である。
【0046】
このように、土壌に含まれる重金属類をソルガムに吸収させ、このソルガムを収穫してメタン発酵を行うことによって重金属類を抽出することで、土壌に含まれる重金属類を除去することができる。そして、同じ土壌に対してソルガムの栽培を数年~十数年にわたり繰り返し行うことによって、土壌に含まれる重金属類を徐々に取り除くことができる。したがって、上述したメタン発酵方法を用いた土壌の浄化方法によれば、ソルガムの栽培を繰り返した回数に応じて、重金属類によって汚染された土壌を浄化することができる。
【0047】
今回、開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。本発明の技術的範囲は、前記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0048】
上記実施形態では、メタン発酵槽14でのソルガムのメタン発酵を発酵温度が約37℃の中温発酵法で行った例を挙げたが、これに限らず、例えば発酵温度が約55℃の高温発酵法で行ってもよいし、あるいは、乾式メタン発酵法で行ってもよい。
【0049】
上記実施形態では、メタン発酵の発酵原料としてソルガムを用いたが、ソルガム以外のエネルギー作物を発酵原料として用いてもよい。このようなエネルギー作物としては、例えばトウモロコシ、パームヤシ、サトウキビ、モラセス、小麦、タピオカ、ビート、芋、米、麦、水草等がある。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、エネルギー作物をメタン発酵させてメタンガスを発生させるメタン発酵装置、及びメタン発酵方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 メタン発酵装置
11 貯蔵装置
12 破砕機
13 混合槽
14 メタン発酵槽
15 ガスタンク
16 消化液タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6