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  • 特許-加熱装置及び加熱方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】加熱装置及び加熱方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/00 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
H05B3/00 310D
H05B3/00 340
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018137780
(22)【出願日】2018-07-23
(65)【公開番号】P2020017354
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000210986
【氏名又は名称】中央発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 徹
【審査官】太田 良隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-025362(JP,A)
【文献】特開2011-082006(JP,A)
【文献】特開2004-055254(JP,A)
【文献】国際公開第2011/115110(WO,A1)
【文献】特開2004-055264(JP,A)
【文献】特開2004-055265(JP,A)
【文献】特開2013-115011(JP,A)
【文献】特許第2592553(JP,B2)
【文献】特開平06-079389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のワークの加熱装置であって、
前記ワークを加熱する加熱器と、
前記加熱器により加熱される前の前記ワークの温度を検出する温度検出器と、
前記温度検出器により検出された検出温度と目標とする加熱温度との温度差に基づいて、前記加熱器にて前記ワークを前記加熱温度まで昇温させるために必要なエネルギー量を演算する加熱エネルギー演算部と、
前記加熱エネルギー演算部にて演算された加熱エネルギー量が前記ワークに付与されるように前記加熱器を制御する制御部とを備え
前記加熱器は、前記ワークに電流を通電することにより前記ワークを昇温させる通電加熱器であり、
前記制御部は、通電開始時からの経過時間と電流値との関係を示す通電パターンを記憶する記憶部を有しており、
さらに、前記制御部は、予め前記記憶部に記憶された通電パターンとなるように、通電開始時からの経過時間に応じて電流値を変化させる加熱装置。
【請求項2】
前記記憶部は、複数の前記通電パターンを記憶可能であり、
作業者により操作され、複数の前記通電パターンのうち加熱に用いる通電パターンを選択する選択部を備え、
さらに、前記制御部は、前記選択部を介して選択された通電パターンにて前記ワークを加熱する請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
金属製のワークの加熱装置であって、
前記ワークを加熱する加熱器と、
前記加熱器により加熱される前の前記ワークの温度を検出する温度検出器と、
前記温度検出器により検出された検出温度と目標とする加熱温度との温度差に基づいて、前記加熱器にて前記ワークを前記加熱温度まで昇温させるために必要なエネルギー量を演算する加熱エネルギー演算部と、
前記加熱エネルギー演算部にて演算された加熱エネルギー量が前記ワークに付与されるように前記加熱器を制御する制御部と
加熱開始時から前記加熱エネルギー量の付与が完了した時までの経過時間と予め記憶されている経過時間との時間差が、予め記憶されている時間より大きいときに、警告を発する警告部と
を備える加熱装置。
【請求項4】
前記温度検出器は、前記ワークから熱放射される温度エネルギーに基づいて温度を検出する非接触式の温度計であ請求項1ないし3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
金属製のワークの加熱方法であって、
加熱器にて前記ワークを加熱する加熱ステップと、
前記加熱ステップにて加熱される前の前記ワークの温度を検出する温度検出ステップと、
前記温度検出ステップにより検出された検出温度と目標とする加熱温度との温度差に基づいて、前記ワークを前記加熱温度まで昇温させるために必要なエネルギー量を演算する加熱エネルギー量演算ステップとを備え、
前記加熱エネルギー量演算ステップにて演算された加熱エネルギー量が前記ワークに付与されるように前記加熱器を制御し、
前記加熱器は、前記ワークに電流を通電することにより前記ワークを昇温させる通電加熱器であり、
通電開始時からの経過時間と電流値との関係を通電パターンと呼ぶとき、
前記ワークの形状に応じて予め決められた通電パターンとなるように電流値を変化させることを加熱方法。
【請求項6】
前記ワークに通電される電流の通電経路のうち最大経路断面積と最小経路断面積との差が予め決められた所定値未満の場合には、最大通電状態から徐々に電流値を低下させるこなく、通電を遮断する請求項5に記載の加熱方法。
【請求項7】
前記ワークに通電される電流の通電経路のうち最大経路断面積と最小経路断面積との差が予め決められた所定値以上の場合には、最大通電状態から徐々に電流値を低下させた後、通電を遮断する請求項5又は6に記載の加熱方法。
【請求項8】
前記温度検出ステップにおいては、前記ワークから熱放射される温度エネルギーに基づいて温度を検出する非接触式の温度計を用いて温度を検出する請求項5ないし7のいずれか1項に記載の加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属製のワークを加熱するための加熱装置及び加熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の発明では、(1)現実の加熱を行う前に、接触式の温度計により鋼板等のワークの温度を測定しながら通電加熱を行って所望の昇温パターンを得るのに必要な電気エネルギーの出力パターンを決定し、この出力パターンとこの時の実績電圧、実績電流とを記憶装置に保存した後、(2)保存した出力パターンとなるように電気エネルギーの出力を制御してワークを通電加熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-82006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発明では、事前に決定した実績電圧及び実績電流の出力パターンのみに基づいてワークを加熱・昇温させているので、通電終了時に、ワークの温度が目標とする加熱温度(以下、目標温度ともいう。)まで上昇していない、又はワークの温度が目標温度を超えてしまう等の問題が発生する可能性が高い。
【0005】
本開示は、上記点に鑑み、ワークの温度を高い精度で目標温度まで昇温させる加熱装置又は加熱方法の一例を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
金属製のワークの加熱装置は、例えば、以下の構成要件のうち少なくとも1つを備えることが望ましい。
すなわち、当該構成要件は、ワークを加熱する加熱器(10)と、加熱器(10)により加熱される前のワークの温度を検出する温度検出器(21)と、温度検出器(21)により検出された検出温度(To)と目標とする加熱温度(Tt)との温度差に基づいて、加熱器(10)にてワークを加熱温度まで昇温させるために必要なエネルギー量を演算する加熱エネルギー演算部(34)と、加熱エネルギー演算部(34)にて演算された加熱エネルギー量がワークに付与されるように加熱器(10)を制御する制御部(31)とである。
【0007】
ところで、特許文献1に記載の発明では、加熱される前のワークの温度(以下、初期温度という。)が全く考慮されていないので、事前に決定した出力パターンにて電気エネルギーをワークに付与しても、ワークの温度を高い精度で目標温度まで昇温させることできない。
【0008】
つまり、出力パターンを決定する際の初期温度が現実の初期温度より高い場合には、ワークは目標温度を超えるまで昇温・加熱される。一方、出力パターンを決定する際の初期温度が現実の初期温度より低い場合には、ワークは目標温度まで昇温・加熱されない。
【0009】
これに対して、本開示では、温度検出器(21)により検出された検出温度(To)と目標とする加熱温度(Tt)との温度差に基づいて加熱エネルギーを演算するので、検出温度(To)、つまり初期温度の影響を小さくすることができる。したがって、ワークの温度を高い精度で目標温度まで昇温させることが可能となる。
【0010】
因みに、上記各手段等の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本開示は上記各構成段等の括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の実施形態に係る加熱装置の模式図である。
図2】(a)及び(b)は、通電パターン及び通電開始時からの経過時間と温度変化を示すグラフである。
図3図2における温度測定部位を示す図である。
図4】本開示の実施形態に係る加熱方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の「発明の実施形態」は、本開示の技術的範囲に属する実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的構成や構造等に限定されるものではない。
【0013】
なお、各図に付された方向を示す矢印等は、各図相互の関係を理解し易くするために記載されたものである。本開示に示された発明は、各図に付された方向に限定されるものではない。
【0014】
少なくとも符号が付されて説明された部材又は部位は、「1つの」等の断りがされた場合を除き、少なくとも1つ設けられている。つまり、「1つの」等の断りがない場合には、当該部材は2以上設けられていてもよい。本開示に示された発明は、少なくとも符号が付されて説明された部材又は部位等の構成要素を備える。
【0015】
本実施形態は、車両用のスタビライザ(以下、ワークと呼ぶ。)を加熱する加熱装置に本開示に係る加熱装置及び加熱方法を適用したものである。因みに、車両用のスタビライザとは、左右の懸架装置を連結する金属製のトーションバーである。
【0016】
(第1実施形態)
1.加熱装置の構成
加熱装置は、加熱対象であるワークWを加熱・昇温させる。
【0017】
加熱装置1は、図1に示されるように、加熱器10及び加熱制御装置30等を有して構成されている。加熱器10はワークWを加熱する。加熱制御装置30は、加熱器10の出力を制御する。
【0018】
加熱器10は、ワークWに電流を通電することによりワークWを昇温させる通電加熱器である。すなわち、加熱器10は、ワークWの長手方向両端側それぞれに接続された通電電極11を介してワークWに通電し、2つの通電電極11間で発生するジュール損に伴って発生する熱によりワークWを昇温させる。
【0019】
加熱制御装置30は、温度検出装置20、制御部31、選択部32及び警告部33等を有している。温度検出装置20は、ワークWの温度を検出する。制御部31は、ワークWへの通電量を制御する。選択部32は、作業員により操作される操作部である。警告部33は、音声や警告ランプ等の作業者の五感に訴える手段により警告を発する。
【0020】
温度検出装置20は、温度検出器21及び温度演算部22等を有して構成されている。温度検出器21は、赤外線サーモグラフィ装置等の非接触式温度計にて構成されている。温度演算部22は、温度検出器21からの出力信号を温度に換算する。
【0021】
つまり、非接触式温度計、つまり温度検出器21は、ワークから熱放射される温度エネルギーを電気信号として出力する。温度演算部22は、予め記憶されている当該ワークWについての放射率に基づいて、温度検出器21からの出力信号を温度に換算する。
【0022】
そして、温度演算部22は、加熱器10による加熱対象となっているワークWであって、加熱器10にて加熱される前のワークWの検出温度(以下、加熱前温度Toという。)を加熱エネルギー演算部34に出力する。
【0023】
加熱エネルギー演算部34は、当該ワークWについての目標とする加熱温度(以下、目標温度Ttという。)と加熱前温度Toとの温度差に基づいて、加熱器10にて加熱前温度Toから目標温度TtまでワークWを昇温させるために必要なエネルギー量(以下、加熱エネルギー量Eという。)を演算する。
【0024】
なお、目標温度Ttは、通常、加熱前温度Toより高い温度であるので、加熱エネルギー量Eは、目標温度Ttから加熱前温度Toを減じた値(=Tt-To)の関数、つまり、E=f(Tt-To)となる。
【0025】
因みに、加熱装置1の雰囲気温度が、常温(例えば、25℃程度)でほぼ一定の場合には、同一のワークWであれば、上記関数は線形関数とみなしてよい。しかし、雰囲気温度が、常温より低い場合や変化が大きい場合には、ワークWからの放熱量が、ワークWと雰囲気温度との温度差によって大きく変化する。したがって、当該場合には、上記関数をワークWと雰囲気温度との温度差を考慮した関数とする必要がある。
【0026】
制御部31は、加熱エネルギー量Eがワークに付与されるように加熱器10へ出力、つまり通電総通電電力を制御する。具体的には、制御部31は、例えば、図2(a)又は図2(b)の太い実線で示されるようにワークWへの印加電圧を制御し、当該太い実線で囲まれる面積、つまり電力が加熱エネルギー量Eとなるように加熱器10を制御する。
【0027】
なお、以下、通電開始時からの経過時間と電流値との関係を「通電パターン」という。そして、図2(a)又は図2(b)では、通電開始時からの経過時間と印加電圧と関係を示す。電流値は電気抵抗値を介して印加電圧から一義的に決定されるので、図2(a)又は図2(b)の太い実線は「通電パターン」を示す。
【0028】
また、制御部31は、図1に示されるように、通電パターンを記憶する記憶部31Aが設けられている。そして、制御部31は、予め記憶部31Aに記憶された通電パターンとなるように、通電開始時からの経過時間に応じて印加電圧、つまり通電電流値を制御する。
【0029】
警告部33は、通電を開始した加熱開始時から加熱エネルギー量Eの付与が完了した時までの経過時間と予め記憶されている経過時間との時間差が、予め記憶されている時間以上であるときに、警告を発する。
【0030】
なお、上記「予め記憶されている経過時間」は、ワークWの材質、形状、大きさ等により異なる時間であって、予め行われた試作通電試験等に基づいて決定される。そして、決定された当該時間は、通電パターンと対応付けされて記憶部31Aに予め記憶される。
【0031】
2.通電パターンについて
例えば、図2(a)に示されるように、印加電圧が最大となる最大通電状態から印加電圧を徐々に低下させて電流値を低下させた後、通電を遮断する通電パターンを通電パターンA呼ぶ。また、図2(b)に示されるように、最大通電状態から徐々に電流値を低下させることなく、通電遮断する通電パターンを通電パターンBと呼ぶ。
【0032】
なお、「最大通電状態」とは、「通電時の通電パターンにおける最大電流値が通電されている状態」をいう。したがって、通電パターンが異なる場合には、最大電流値も異なる場合がある。
【0033】
そして、図2から明らかように、通電パターンAと通電パターンBとを比較すると、加熱エネルギー量Eが同一の場合には、通電パターンBの通電時間は通電パターンAの通電時間より短くなる。したがって、短時間にてワークWに加熱エネルギー量Eを付与するには、通電パターンBとすることが望ましい。
【0034】
しかし、発明者の試験検討により、ワークWに通電される電流の通電経路のうち最大経路断面積と最小経路断面積との差が大きくなると、ワークW全体を均一に昇温させることが難しくなることが判明した。以下、最大経路断面積と最小経路断面積との差を面積差という。
【0035】
すなわち、図2(a)及び図2(b)に示されるグラフのうち太い実線以外の複数本のグラフは、同一の材質にて構成された同一形状のワークWに通電した場合における、通電開始時からの経過時間と温度変化を示すグラフである。そして、温度変化を示す各グラフは、図3に示されるワークWの各部位に対応する。
【0036】
そして、図2(b)に示されるように、面積差が大きい場合に、通電パターンBにて通電すると、1つのワークWにおける温度バラツキが大きくなる。しかし、面積差が大きい場合であっても、通電パターンAにて通電すると、通電パターンBにて通電したときに比べて、1つのワークWにおける温度バラツキを小さくすることができる。
【0037】
なお、発明者による試験検討によれば、面積差が1%以上となると、ワークW全体を均一に昇温させることが難しくなることが判明している。そして、面積差が大きい場合に通電パターンAにて通電すると、通電パターンBにて通電する場合に比べて、5℃~10℃程度、温度バラツキを小さくすることができることを試験にて確認している。
【0038】
そこで、本実施形態では、複数の通電パターンが記憶可能な記憶部31Aを用いるとともに、記憶部31Aに予め記憶された通電パターンのうち、いずれの通電パターンを用いるかを選択するための選択部32を設けている。そして、制御部31は、選択部32を介して作業者により選択された通電パターンにてワークWを加熱する。
【0039】
3.加熱方法
図4は、加熱装置1で実行される加熱方法の概略を示す作動図である。なお、括弧内の符号は、図4に示される各ステップ(工程)を示す。
【0040】
ワークWが加熱装置1に搬入されると、先ず、温度検出器21の出力信号に基づいてワークWの温度を検出する温度検出工程が実行される(S1)。次に、温度検出工程(S1)により検出された加熱前温度Toと目標温度Ttとの温度差に基づいて、加熱エネルギー量Eを演算する加熱エネルギー量演算工程が実行される(S5)。
【0041】
そして、温度検出工程(S1)にて加熱前温度Toが検出されたワークWに対して、作業者により予め選択されている通電パターンにて通電加熱が開始されて加熱工程が実行される(S10)。加熱工程(S10)が開始されると、加熱エネルギー量演算工程(S5)にて演算された加熱エネルギー量EがワークWに投入されたか否か、つまり、選択された通電パターンによる通電が完了したか否かが判定される(S15)。
【0042】
ワークWへの加熱エネルギー量Eの投入が完了すると(S15:YES)、加熱開始時から加熱エネルギー量Eの付与が完了した時までの経過時間と予め記憶されている経過時間との時間差が、予め記憶されている時間より大きいか否かが判定される(S20)。
【0043】
このとき、加熱開始時から加熱エネルギー量Eの付与が完了した時までの経過時間と予め記憶されている経過時間との時間差が、予め記憶されている時間より大きいと判定されたときには(S20:YES)、警告部33にて警告が発せられる(S25)。
【0044】
そして、警告後(S25)、又は警告が実行されることなく(S20:NO)、通電加熱が完了すると、当該ワークWについての加熱が終了し、次のワークWについて、S1が実行される。
【0045】
4.本実施形態に係る加熱装置及び加熱方法の特徴
本実施形態では、温度検出器21により検出された加熱前温度Toと目標温度Ttとの温度差に基づいて加熱エネルギー量Eを演算するので、ワークWの温度を高い精度で目標温度まで昇温させることが可能となる。
【0046】
本実施形態に係る制御部31は、予め記憶部31Aに記憶された通電パターンとなるように、通電開始時からの経過時間に応じて電流値を変化させることを特徴としている。
これにより、ワークWの形状等に応じた通電パターンを予め記憶部31Aに記憶させることができるので、ワークWの形状等に応じた通電パターンにて通電加熱をすることができる。延いては、ワークW全体を略均一に目標温度まで昇温させることが可能となる。
【0047】
本実施形態に係る制御部31は、選択部32を介して選択された通電パターンにてワークを加熱することを特徴としている。これにより、個々のワークWに適した通電パターンにてワークを加熱することができるので、様々な形状のワークWに対しても高い精度で目標温度までワークを昇温させることできる。
【0048】
ところで、非接触式の温度計は、ワークWから熱放射される温度エネルギーに基づいて温度を検出するので、ワーク表面の性質及び状態(以下、表面性状という。)や熱放射率が変化すると、検出温度と真の温度との差(以下、検出誤差という。)も変化する。つまり、ワークWの表面性状や熱放射率が大きく変化すると、検出誤差も大きくなる。
【0049】
しかし、ワークWの温度が低い場合には、ワークの表面性状や熱放射率の変化に対する検出誤差が、実用上、問題とならない程度まで小さくなる場合もあり得る。
つまり、ワークWの温度が低い場合には、非接触式の温度計であっても、表面性状等の影響を大きく受けることなく、実用上、問題とならない程度の精度でワークの温度を検出することができる。なお、ワークの温度が低い場合とは、例えば0℃~30℃程度の温度範囲をいう。
【0050】
すなわち、仮に、検出誤差が10%であるとき、ワークWの温度が低い場合に発生する検出誤差は最大でも約3℃である。目標温度Ttが、例えば200℃である場合においては、加熱後の温度は、当該目標温度Ttに対して最大3℃の温度差が発生し得る。
【0051】
200℃に対する3℃の温度差は、10%に満たない小さい温度差である。したがって、実用上、殆ど問題とならない。因みに、ワークWの温度を検出しながら当該ワークWを加熱する装置では、200℃の目標温度Ttに対して最大20℃の温度差が発生し得る。
【0052】
ところで、熱電対等の接触式の温度計は、非接触式の温度計に比べて、表面性状等の影響を大きく受けず、検出誤差が小さいものの、温度検出に要する時間が非接触式の温度計に比べて長いという問題がある。
【0053】
これに対して、本実施形態では、加熱前のワークW、つまりワークWの温度が低いときに、非接触式の温度計にてワークの温度を検出するので、短時間にて実用上、問題とならない程度の精度でワークの温度を検出することができる。したがって、速やかにワークWを目標温度まで精度よく昇温させることできる。
【0054】
本実施形態では、加熱開始時から加熱エネルギー量の付与が完了した時までの経過時間と予め記憶されている経過時間との時間差が、予め記憶されている時間以上であるときに、警告を発する警告部33を備えることを特徴としている。
【0055】
すなわち、形状や材質が同一である同種のワークにおいては、理論上、加熱エネルギー量Eは同一である。したがって、加熱開始時から加熱エネルギー量Eの付与が完了した時までの経過時間と予め記憶されている経過時間との時間差が、予め記憶されている時間より大きいときには、加熱装置に異常が発生している可能性が高い。そこで、本実施形態では、上記のときには、警告を発する構成としている。
【0056】
また、本実施形態では、ワークWに通電される電流の通電経路のうち最大経路断面積と最小経路断面積との差が予め決められた所定値未満の場合には、最大通電状態から徐々に電流値を低下させることなく、通電を遮断することを特徴としている。
【0057】
一方、ワークWに通電される電流の通電経路のうち最大経路断面積と最小経路断面積との差が予め決められた所定値以上の場合には、最大通電状態から徐々に電流値を低下させた後、通電を遮断することを特徴としている。
【0058】
これにより、ワークWに適した通電パターンにてワークを加熱することができるので、様々な形状のワークに対しても高い精度で目標温度までワークを昇温させることできる。
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、スタビライザをワークWとして本開示を説明した。しかし、本開示の適用対象は、スタビライザに限定されるものではない。本開示に係る発明は、例えば、コイルばね、トーションバー、リーフスプリング等のその他の金属製品に対しても適用することができる。
【0059】
上述の実施形態では、塗装前に行われる加熱に本開示に係る加熱装置及び加熱方法を適用したが、本開示はこれに限定されるものではなく、例えば焼き入れ、焼き戻し又は歪取焼鈍等の熱処理等にも適用することができる。
【0060】
上述の実施形態では、2種類の通電パターンを例に本開示を説明した。しかし、本開示は、これに限定されるものではない。本開示に係る発明は、1種類の通電パターンのみで通電加熱する、又は3種類以上の通電パターンの中から選択された通電パターンにて通電加熱をするものであってもよい。
【0061】
上述の実施形態では、作業者が通電パターンを選択する構成であった。しかし、本開示に係る発明は、これに限定されない。本開示に係る発明は、ワークWの形状や大きさ等を加熱装置1が自動判別し、加熱装置1が通電パターンを自動的に選択して通電加熱する構成としてもよい。
【0062】
上述の実施形態では、通電加熱にてワークWを加熱した。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。本開示に係る発明は、例えば、誘導加熱、火炎加熱、反射鏡により光を集光してワークWを加熱するイメージ炉、加熱した固体粒子を流動化させて固体粒子とワークWとの接触によりワークWを加熱する流動層炉、加熱された気体をワークWに吹き付ける加熱器、及び赤外線、プラズマ、硝石や過熱蒸気を用いた加熱器であってもよい。
【0063】
上述の実施形態では、加熱開始時から加熱エネルギー量Eの付与が完了した時までの経過時間と予め記憶されている経過時間との時間差が、予め記憶されている時間以上であるときに、警告を発する警告部33を設けた。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。本開示に係る発明は、例えば、警告部33が廃止された構成、又は加熱開始時からの経過時間が予め記憶されている経過時間を超えたときに警告を発する構成であってもよい。
【0064】
さらに、本開示は、上述の実施形態に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。したがって、上述した複数の実施形態のうち少なくとも2つの実施形態が組み合わせられた構成、又は上述の実施形態において、図示された構成要件もしくは符号を付して説明された構成要件のうちいずれかが廃止された構成でもよい。
【符号の説明】
【0065】
1… 加熱装置
10… 加熱器
11… 通電電極
20… 温度検出装置
21… 温度検出器
22… 温度演算部
30… 加熱制御装置
31… 制御部
31A… 記憶部
32… 選択部
33… 警告部
34… 加熱エネルギー演算部
図1
図2
図3
図4