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特許7111567硫化物、熱電変換材料、熱電変換素子、及び硫化物を製造する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】硫化物、熱電変換材料、熱電変換素子、及び硫化物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 30/00 20060101AFI20220726BHJP
   H01L 35/16 20060101ALI20220726BHJP
   H01L 35/34 20060101ALN20220726BHJP
   H01L 35/32 20060101ALN20220726BHJP
【FI】
C01G30/00
H01L35/16
H01L35/34
H01L35/32 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018168263
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2020026383
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017209988
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018048791
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018151987
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発/熱電変換材料の技術シーズ発掘小規模研究開発/金属硫化物ナノ粒子熱電変換材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 威夫
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
(72)【発明者】
【氏名】久保田 是史
(72)【発明者】
【氏名】三輪 大
(72)【発明者】
【氏名】前之園 信也
(72)【発明者】
【氏名】中田 豪
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-239363(JP,A)
【文献】特開2015-170766(JP,A)
【文献】Colloidal synthesis of chalcostibite copper antimony sulfide nanocrystals,Materials Letters,2014年02月28日,Vol.123,p.66-69
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 30/00
H01L 35/16
H01L 35/34
H01L 35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超微粒子からなる硫化物であって、
銅、第15族元素、及び硫黄を含むテトラヘドライト構造の結晶を有し、
個数基準で70%以上の前記超微粒子が10~80nmの粒子径を有する、
硫化物。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化物を含有する、熱電変換材料。
【請求項3】
請求項1に記載の硫化物に由来する生成物を含有する、熱電変換材料。
【請求項4】
請求項又はに記載の熱電変換材料を備えた、熱電変換素子。
【請求項5】
超微粒子からなる硫化物を製造する方法であって、
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の単体、イオン、及び化合物並びにアミン化合物の非存在下で、銅のカルボン酸塩と、第15族元素のカルボン酸塩と、硫黄又は硫黄化合物とを撹拌しつつ加熱して、個数基準で70%以上の前記超微粒子が10~80nmの粒子径を有するように前記硫化物を製造する方法。
【請求項6】
前記銅のカルボン酸、前記第15族元素のカルボン酸塩、及び前記硫黄又は前記硫黄化合物とともにヒドロキシ化合物を撹拌しつつ加熱する、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒドロキシ化合物は、多価アルコールである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物、熱電変換材料、熱電変換素子、及び硫化物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼーベック効果により材料両端の温度差によって電圧を生じさせ熱エネルギーを電気エネルギーに変換する、又は、ペルチェ効果により電気エネルギーによって温度差を生じさせる熱電変換材料が知られている。熱電変換材料としては、熱エネルギーの高い方から低い方へ電子の移動により電流が生じるn型熱電変換材料と、正孔の移動により電流が生じるp型熱電変換材料とが存在する。
【0003】
近年、熱電変換材料として硫化物が注目されてきている。特に、銅とその他の金属を含む硫化物が熱電変換材料として注目されてきている。例えば、非特許文献1には、コルーサイト構造のCu262632(M=Ge,Sn)の熱電特性が記載されている。非特許文献2には、p型Cu2SnS3の熱電特性が記載されている。
【0004】
非特許文献3~6及び特許文献1には、テトラヘドライト構造の銅含有硫化物の熱電特性が記載されている。非特許文献3~5及び特許文献1では、原料の混合物を750K以上の高温で加熱してサンプルが調製されている。一方、非特許文献6では、酢酸銅(II)一水和物、酢酸アンチモン(III)、及び硫黄粉末がテトラエチレングリコールとともにフラスコの中で撹拌されている。過剰量の還元剤である水素化ホウ素ナトリウムのテトラエチレングリコール溶液がそのフラスコの中に加えられ、黒色の反応混合物が得られている。この反応物は220℃に加熱された後に室温に戻され、遠心分離にかけられて粉末が得られている。この粉末に所定の洗浄処理がなされ黒色のサンプルが得られている。このサンプルは、約50~200nmの範囲の粒子サイズ分布を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-11179号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Applied Physics Letters,(米), 2014, Vol. 105, 132107
【文献】Scientific Reports,(英), 2016, Vol. 6, 32501
【文献】Journal of Applied Physics,(米), 2013, Vol. 113, 043712
【文献】Journal of the American Ceramic Society,(米), 2016, Vol. 99,p. 51-56
【文献】Chemistry of Materials,(米), 2017, Vol. 29, p. 4080-4090
【文献】Chemistry of Materials,(米), 2017, Vol. 29, p. 1656-1664
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1及び非特許文献2には、第15族元素を硫化物の結晶中に含むサンプルは記載されていない。また、非特許文献3~5及び特許文献1に記載の技術において、サンプルの作製に高温での加熱が必要であるし、超微粒子からなる硫化物を作製することも容易ではない。また、非特許文献6に記載の技術では、サンプルの粒子形状が一様ではなく、粒子サイズのばらつきも大きい。
【0008】
このような事情に鑑み、本発明は、銅及び第15族元素を含む結晶を有し、かつ、特定の形状を有する、超微粒子からなる硫化物を提供する。また、本発明は、別の観点から、銅及び第15族元素を含むテトラヘドライト構造の結晶を有し、かつ、粒子径のばらつきが小さい、超微粒子からなる硫化物を提供する。加えて、本発明は、上記の硫化物を含有する熱電変換材料及びこの熱電変換材料を備えた熱電変換素子を提供する。さらに、本発明は、上記の硫化物を製造するのに適した製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
超微粒子からなる硫化物であって、
銅、第15族元素、及び硫黄を含む結晶を有し、
前記超微粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したときに三角形状の像を示す、
硫化物を提供する。
【0010】
本発明は、
超微粒子からなる硫化物であって、
銅、第15族元素、及び硫黄を含むテトラヘドライト構造の結晶を有し、
個数基準で70%以上の前記超微粒子が5~80nmの粒子径を有する、
硫化物を提供する。
【0011】
本発明は、上記のいずれかの硫化物を含有する、熱電変換材料を提供する。
【0012】
本発明は、上記のいずれかの硫化物に由来する生成物を含有する、熱電変換材料を提供する。
【0013】
本発明は、上記のいずれかの熱電変換材料を備えた、熱電変換素子を提供する。
【0014】
また、本発明は、
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の単体、イオン、及び化合物並びにアミン化合物の非存在下で、銅のカルボン酸塩と、第15族元素のカルボン酸塩と、硫黄又は硫黄化合物とを撹拌しつつ加熱して、超微粒子からなる硫化物を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、銅及び第15族元素を含む結晶を有し、かつ、三角形状のTEM像を示す形状を有する超微粒子からなる硫化物を提供できる。別の観点から、本発明によれば、銅及び第15族元素を含むテトラヘドライト構造の結晶を有し、かつ、粒子径のばらつきが小さい、超微粒子からなる硫化物を提供できる。加えて、本発明によれば、これらのいずれかの硫化物を含有する熱電変換材料を提供でき、この熱電変換材料を備えた熱電変換素子を提供できる。さらに、上記の方法は、上記の硫化物を純度良く製造するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、本発明に係る熱電変換素子の一例を示す断面図である。
図1B図1Bは、本発明に係る熱電変換素子の別の一例を示す断面図である。
図2図2は、実施例1に係るサンプルのTEM写真である。
図3図3は、実施例2に係るサンプルのTEM写真である。
図4図4は、実施例3に係るサンプルのTEM写真である。
図5図5は、実施例4に係るサンプルのTEM写真である。
図6図6は、実施例5に係るサンプルのTEM写真である。
図7図7は、実施例6に係るサンプルのTEM写真である。
図8図8は、実施例1に係るサンプルの個数基準の粒子径分布を示すグラフである。
図9図9は、実施例5に係るサンプルの個数基準の粒子径分布を示すグラフである。
図10図10は、実施例6に係るサンプルの個数基準の粒子径分布を示すグラフである。
図11A図11Aは、実施例1に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図11B図11Bは、実施例2に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図11C図11Cは、実施例3に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図11D図11Dは、実施例4に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図11E図11Eは、実施例5に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図11F図11Fは、実施例6に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図11G図11Gは、文献に記載されたテトラヘドライトのX線回折パターンを示すグラフである。
図12図12は、実施例2に係るサンプルのゼーベック係数の測定結果を示すグラフである。
図13図13は、実施例2に係るサンプルの電気伝導率の測定結果を示すグラフである。
図14図14は、実施例2に係るサンプルの熱伝導率の測定結果を示すグラフである。
図15図15は、実施例2に係るサンプルの熱電性能指数を示すグラフである。
図16図16は、実施例5に係るサンプルのゼーベック係数の測定結果を示すグラフである。
図17図17は、実施例5に係るサンプルの電気伝導率の測定結果を示すグラフである。
図18図18は、実施例5に係るサンプルの熱伝導率の測定結果を示すグラフである。
図19図19は、実施例5に係るサンプルの熱電性能指数を示すグラフである。
図20図20は、TEMで観察した粒子の投影像を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、銅含有硫化物の熱電特性を検討する過程において、下記の新たな知見に基づいて本発明に係る硫化物及び硫化物を製造する方法を案出した。
【0018】
本発明者らは、テトラヘドライト等の銅及び第15族元素を含む結晶を有する硫化物が良好な熱電特性を示すことに着目した。加えて、本発明者らは、このような硫化物が超微粒子からなっていれば、超微粒子からなる硫化物を用いて作製された熱電変換材料がより望ましい熱電特性を有する可能性があると考えた。非特許文献6に記載の技術では、約50~200nmの範囲の粒子サイズ分布を示すテトラヘドライトのサンプルが得られている。しかし、この粒子サイズ分布の範囲は狭いとは言い難く、テトラヘドライトのサンプルの粒子形状も一様であるとは言い難い。そこで、本発明者らは、材料の熱電特性を向上させるために、銅及び第15族元素を含む結晶を有し粒子形状が特定の形状を示す超微粒子からなる硫化物を作製することが望ましいと考えた。また、本発明者らは、材料の熱電特性を向上させるために、銅及び第15族元素を含むテトラヘドライト構造の結晶を有し、粒子径のばらつきが小さい超微粒子からなる硫化物を作製することも望ましいと考えた。本発明者らは、非特許文献6に記載の技術において、還元剤である水素化ホウ素ナトリウムのテトラエチレングリコール溶液が加えられていることが粒子サイズ分布に影響を及ぼしているのではないかと考えた。そこで、本発明者らは、超微粒子からなる硫化物の作製条件について試行錯誤を重ねた。その結果、本発明者らは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の単体、イオン、及び化合物並びにアミン化合物の非存在下で所定の原料を加熱して反応させると所望の超微粒子からなる硫化物を高純度で作製できることを遂に見出した。
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0020】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る硫化物は、超微粒子からなっており、銅、第15族元素、及び硫黄を含む結晶を有する。加えて、この硫化物において、超微粒子を透過型電子顕微鏡で観察したときに三角形状の像を示す。このように、超微粒子が特定の一様な形状をしていることは、硫化物を用いて作製された熱電変換材料の熱電特性を高めるうえで有利であると考えられる。なお、本明細書において「超微粒子」は、100nm以下の粒子径を有する粒子である。また、本明細書において、「粒子径」は、TEMで観察した粒子の投影面積に等しい面積を有する真円の直径である。
【0021】
典型的には、硫化物に含まれる超微粒子のうち、個数基準で30%以上の超微粒子が三角形状の像を示す。より望ましくは個数基準で50%以上の超微粒子のTEM像が三角形状であり、さらに望ましくは個数基準で80%以上の超微粒子のTEM像が三角形状である。図20に示す通り、TEMで観察した粒子の投影像Gの周上において直線距離で最も離れた2点をA点及びB点と定め、A点とB点との直線距離を最大寸法Dと定める。さらに、TEMで観察した粒子の投影像のA点からB点に至る2つの周長のうちより短い周長及びより長い周長をそれぞれ第一周長P1及び第二周長P2と定める。「三角形状」とは、第一周長P1が最大寸法Dの1~1.2倍であり、かつ、第二周長P2が最大寸法Dの1.5~2.5倍であることを意味する。また、「正三角形状」とは、第二周長P2が第一周長P1の1.8~2.2倍であることを意味する。
【0022】
硫化物の結晶に含まれる第15族元素は、典型的には、アンチモン(Sb)、ヒ素(As)、及びビスマス(Bi)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。
【0023】
第1実施形態に係る硫化物の結晶は、例えば、テトラヘドライト構造を有し、Cu12-xx413と表すことができる。ここで、Aは、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、又は亜鉛(Zn)であり、Bは、アンチモン(Sb)、ヒ素(As)、又はビスマス(Bi)である。すなわち、第1実施形態に係る硫化物の結晶には、銅、第15族元素、及び硫黄以外に、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び亜鉛(Zn)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素が含まれていてもよい。また、xは、例えば0以上2以下の数である。
【0024】
超微粒子は、例えば、四面体状に形成されている。超微粒子の立体的形状は、例えば、超微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することによって決定できる。
【0025】
第1実施形態に係る硫化物は、例えば、個数基準で70%以上の超微粒子が5~80nmの粒子径を有している。このように硫化物の粒子径のばらつきが小さいと、硫化物を用いて作製された熱電変換材料の熱電特性を高めるうえで有利であると考えられる。
【0026】
第1実施形態に係る硫化物において、硫化物の粒子径の変動係数(相対標準偏差)は、例えば40%以下であり、望ましくは35%以下であり、より望ましくは30%以下であり、さらに望ましくは25%以下であり、特に望ましくは20%以下である。このように、硫化物の粒子径のばらつきが小さいと、本超微粒子を用いて焼結した際の焼結温度が一定となり、焼結が均一に進むと考えられる。
【0027】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る硫化物は、超微粒子からなっており、銅、第15族元素、及び硫黄を含むテトラヘドライト構造の結晶を有する。加えて、この硫化物において、個数基準で70%以上の超微粒子が5~80nmの粒子径を有する。このように硫化物の粒子径のばらつきが小さいと、本超微粒子を用いて焼結した際の焼結温度が一定となり、焼結が均一に進むと考えられる。より望ましくは80%以上の超微粒子が5~80nmの粒子径を有し、さらに望ましくは90%以上の超微粒子が5~80nmの粒子径を有する。個数基準で70%以上の超微粒子が10~80nmの粒子径を有していてもよく、個数基準で80%以上の超微粒子が10~80nmの粒子径を有していてもよく、個数基準で90%以上の超微粒子が10~80nmの粒子径を有していてもよい。
【0028】
硫化物の粒子径の変動係数は、例えば40%以下であり、望ましくは35%以下であり、より望ましくは30%以下であり、さらに望ましくは25%以下であり、特に望ましくは20%以下である。このように、硫化物の粒子径のばらつきが小さいと、本超微粒子を用いて焼結した際の焼結温度が一定となり、焼結が均一に進むと考えられる。
【0029】
硫化物の結晶に含まれる第15族元素は、典型的には、アンチモン(Sb)、ヒ素(As)、及びビスマス(Bi)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。
【0030】
テトラヘドライト構造の結晶は、Cu12-xx413と表すことができる。ここで、Aは、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、又は亜鉛(Zn)であり、Bは、アンチモン(Sb)、ヒ素(As)、又はビスマス(Bi)である。すなわち、第2実施形態に係る硫化物の結晶には、銅、第15族元素、及び硫黄以外に、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び亜鉛(Zn)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素が含まれていてもよい。特に、熱電変換材料など半導体として本超微粒子を用いる場合には、構造内に電子又はホールをドープして適切な物性にチューニングする目的で、銅、第15族元素、及び硫黄以外の元素が第2実施形態に係る硫化物の結晶に含まれていることが好ましい。また、xは、例えば0以上2以下の数である。
【0031】
第2実施形態に係る硫化物において、超微粒子を透過型電子顕微鏡で観察したときに、第1実施形態に係る硫化物のように三角形状の像を示す必要はないが、三角形状の像を示してもよい。例えば、超微粒子を透過型電子顕微鏡で観察したときに、個数基準で30%以上の超微粒子が三角形状の像を示す。また、超微粒子は、例えば、四面体状に形成されている。
【0032】
<硫化物の製造方法>
第1実施形態に係る硫化物及び第2実施形態に係る硫化物は、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の単体、イオン、及び化合物並びにアミン化合物の非存在下で、銅のカルボン酸塩と、第15族元素のカルボン酸塩と、硫黄又は硫黄化合物とを撹拌しつつ加熱することによって製造される。なお、硫黄化合物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びアミンを含まない。
【0033】
非特許文献6に記載の技術によれば、還元剤である水素化ホウ素ナトリウムの存在下で、酢酸銅(II)一水和物、酢酸アンチモン(III)、及び硫黄粉末を原料として、テトラヘドライトのサンプルが作製されている。このように、銅のカルボン酸塩等を原料に銅含有硫化物を生成する場合、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を使用することが通常考えられる。本発明者らは、非特許文献6に記載の技術において、水素化ホウ素ナトリウムの還元力が強すぎることにより、サンプルの粒子形状が一様でなく、粒子サイズのばらつきが大きいのではないかと考えた。そこで、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の単体、イオン、及び化合物並びにアミン化合物の非存在下で、所定の原料を撹拌しつつ加熱して反応させたところ、所望の硫化物を生成することができた。本発明者らは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の単体、イオン、及び化合物並びにアミン化合物の非存在下で、所定の原料を撹拌しつつ加熱して反応させたことにより、穏やかに還元反応が進み、所望の硫化物を生成できたと考えている。この硫化物の製造方法によれば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の単体、イオン、及び化合物並びにアミン化合物の非存在下で、硫化物が製造される場合には、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の単体、イオン、及び化合物並びにアミン化合物に由来する不純物が硫化物に含まれることを防止でき、高純度の硫化物を生成できる。
【0034】
銅のカルボン酸塩は、カルボン酸のカルボキシル基における水素原子が銅原子に置換された構造を有する限り特に制限されないが、例えば、酢酸銅(II)、酢酸銅(I)、オクチル酸銅、ネオデカン酸銅、又はオレイン酸銅である。第15族元素のカルボン酸塩は、カルボン酸のカルボキシル基における水素原子が第15族元素に置換された構造を有する限り特に制限されないが、例えば、酢酸アンチモン等の第15族元素の酢酸塩である。
【0035】
硫黄化合物は、例えば、(i)オクタンチオール、デカンチオール、及びドデカンチオール等のチオール、(ii)オクタンジチオール、デカンジチオール、及びドデカンジチオール等のジチオール、(iii)チオ尿素、又は(iv)チオアセトアミド等の有機硫黄化合物である。有機硫黄化合物は、望ましくは、チオール等の液体有機硫黄化合物である。また、硫黄粉末を用いることもできる。硫黄粉末を使うと、金属化合物と硫黄の反応が促進されるため、特に小さな粒径の微粒子を作製する際に好ましい。
【0036】
この製造方法において、銅のカルボン酸塩と、第15族元素のカルボン酸塩と、硫黄又は硫黄化合物とともにヒドロキシ化合物を撹拌しつつ加熱してもよい。この場合、ヒドロキシ化合物による穏やかな還元作用によって所望の硫化物を生成できると考えられる。なお、ヒドロキシ化合物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びアミンを含まない。
【0037】
ヒドロキシ化合物は、炭素原子に結合したヒドロキシ基を含む有機化合物である限り特に制限されないが、望ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、t-ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、オレイルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の脂肪族アルコールである。脂肪族アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の多価アルコールを望ましく使用できる。これにより、より確実に所望の硫化物を製造できる。
【0038】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の単体、イオン、及び化合物並びにアミン化合物の非存在下で、銅のカルボン酸塩と、第15族元素のカルボン酸塩と、硫黄又は硫黄化合物と、ヒドロキシ化合物とを撹拌しつつ加熱することにより、超微粒子の硫化物を含む黒色の沈殿物が得られる。このプロセスにおける加熱温度は、例えば、このプロセスを大気圧下で行う場合、ヒドロキシ化合物の沸点よりも低い。例えば、ヒドロキシ化合物がテトラエチレングリコールであり、このプロセスが大気圧下で行われる場合、加熱温度は、230℃より高く、かつ、テトラエチレングリコールの沸点(約329℃)より低い。また、例えば、有機硫黄化合物がドデカンチオールであり、このプロセスが大気圧下で行われる場合、加熱温度は、230℃より高く、かつ、ドデカンチオールの沸点(約277℃)より低い。なお、このプロセスは、大気圧よりも高い圧力で行われてもよい。この場合、このプロセスを大気圧下で行う場合に比べて、加熱温度を低くしてもよい。なお、反応容器を簡素にするために、この反応は望ましくは大気圧下で行われる。
【0039】
黒色の沈殿物から超微粒子からなる硫化物を分離するために、所定の分離操作及び所定の洗浄処理がさらに行われてもよい。例えば、遠心分離、ろ過、又はデカンテーション等の公知の固液分離法によって沈殿物が分離される。その後、例えば、沈殿物が所定の溶媒に分散された後、超音波処理を用いて、粒子に付着している不純物の洗浄がなされる。必要に応じて、洗浄後に得られた硫化物に対して、真空乾燥、加熱乾燥、及び自然乾燥等の公知の乾燥処理がなされてもよい。
【0040】
<熱電変換材料>
本発明に係る熱電変換材料は、第1実施形態に係る硫化物又は第2実施形態に係る硫化物を含有している。あるいは、本発明に係る熱電変換材料は、第1実施形態に係る硫化物又は第2実施形態に係る硫化物に由来する生成物を含有する。熱電変換材料は、例えば、超微粒子からなる硫化物を所定の形状に成形することによって得られる。例えば、超微粒子からなる硫化物は、所定の形状の型に充填され、加圧されながら焼結される。このように、硫化物の粒子を加圧しながら焼結する方法としては、例えば、放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)を用いることができる。硫化物の粒子の焼結温度は、例えば、150℃~1500℃であり、望ましくは、200℃~1000℃である。焼結時間は、直径が10mm程度の小さなペレットを合成する場合には、例えば、0分~10分である。また、焼結工程の開始から焼結工程中の最高温度に到達するまでに必要な昇温時間は、例えば、2分~10分である。ペレットのサイズが大きい場合やペレットの機械的強度を高くする必要がある場合には、均一な焼結体を得るために焼結時間や昇温時間をさらに長くした方が好ましい。例えば、硫化物の粒子が充填された型の内部の温度を上記の昇温速度で最高温度まで昇温させ、型の内部の温度を最高温度で所定の時間(焼結時間)だけ維持し、その後加熱を停止して焼結体を自然冷却させる。焼結工程中に合成された熱電変換材料を加圧する圧力は、例えば、0.5MPa~100MPaであり、望ましくは、5MPa~50MPaである。この焼結工程は、不活性ガス雰囲気又は真空雰囲気において行うことができる。この焼結工程は、望ましくは真空雰囲気で行われる。このようにして、超微粒子からなる硫化物の焼結体を所望の形状に成形して、高い機械的強度を有する熱電変換材料を作製できる。
【0041】
放電プラズマ焼結の代わりにホットプレスによって超微粒子からなる硫化物を焼結してもよい。この場合、硫化物の粒子の焼結温度は、例えば、150℃~1500℃であり、望ましくは、200℃~1000℃である。焼結時間は、直径が10mm程度の小さなペレットを合成する場合には、例えば0分~120分であり、望ましくは1分~120分である。また、焼結工程の開始から焼結工程中の最高温度に到達するまでに必要な昇温時間は、例えば、30分~300分である。ペレットのサイズが大きい場合やペレットの機械的強度を高くする必要がある場合には、均一な焼結体を得るために焼結時間や昇温時間をさらに長くした方が好ましい。例えば、硫化物の粒子が充填された型の内部の温度を上記の昇温速度で最高温度まで昇温させ、型の内部の温度を最高温度で所定の時間(焼結時間)だけ維持し、その後加熱を停止して焼結体を自然冷却させる。焼結工程中に合成された熱電変換材料を加圧する圧力は、例えば、0.5MPa~500MPaであり、望ましくは、5MPa~400MPaである。この焼結工程は、不活性ガス雰囲気又は真空雰囲気において行うことができる。この焼結工程は、望ましくは真空雰囲気で行われる。このようにして、超微粒子からなる硫化物の焼結体を所望の形状に成形して、高い機械的強度を有する熱電変換材料を作製できる。
【0042】
熱電変換材料の形状は、特に制限されず、例えば、直方体状、平板及び円板等の板状、円柱及び角柱等の柱状、又は円筒及び角筒等の筒状でありうる。
【0043】
<熱電変換素子>
図1Aに示す通り、熱電変換素子1は、上記の熱電変換材料(第一熱電変換材料10)を備えている。熱電変換素子1は、例えば、複数の第一熱電変換材料10と、第一熱電変換材料10と交互に配置された複数の第二熱電変換材料20と、隣り合う第一熱電変換材料10と第二熱電変換材料20とを接続する導体30とを備えている。例えば、複数の第一熱電変換材料10及び複数の第二熱電変換材料20は、導体30によって直列に接続されている。第二熱電変換材料20は、熱電変換素子に使用可能な公知のn型半導体である。図1Aに示す通り、導体30は、例えば所定の基板40a又は基板40b上に配置されている。基板40a及び基板40bのそれぞれは、例えば高い熱伝導率を有するセラミック製の基板である。
【0044】
図1Bに示す通り、熱電変換素子2は、上記の熱電変換材料(熱電変換材料50)を備えている。熱電変換素子2は、例えば、複数の熱電変換材料50と、隣り合う熱電変換材料50同士を接続する導体60とを備えている。例えば、複数の熱電変換材料50は、導体60によって直列に接続されている。図1Bに示す通り、導体60は、例えば所定の基板70a又は基板70b上に配置されている。基板70a及び基板70bのそれぞれは、例えば高い熱伝導率を有するセラミック製の基板である。
【実施例
【0045】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0046】
<実施例1>
酢酸銅(II)一水和物0.12g(0.6mmol(ミリモル))、酢酸アンチモン(III)1.2g(4.0mmol)、ドデカンチオール10ml、及びテトラエチレングリコール10mlを三つ口フラスコに入れ、三つ口フラスコの内部をアルゴンガスで充填し、100℃で10分間三つ口フラスコの内部の原料を撹拌した。その後、大気圧下において三つ口フラスコの内部を260℃に加熱しながらフラスコ内部の液体を60分間撹拌して、原料を反応させた。その結果、三つ口フラスコの内部に黒色の沈殿物が得られた。この沈殿物を含む液体を遠沈管に入れた。遠沈管の液体の量が45mlになるように遠沈管にメタノールを加えた。次に、遠沈管を5000rpm(rotations per minute)で5分間遠心分離にかけた。次に、遠沈管に入っている液体の上澄みを遠沈管から除去し、遠沈管に1mlのヘキサンを加え超音波処理にかけた。これにより、遠沈管において沈殿していた、固形物が液体中に分散した。次に、遠沈管に40mlのメタノールを加えて、5000rpmで5分間遠心分離を行った。次に、遠沈管に入っている液体の上澄みを遠沈管から除去し、遠沈管にヘキサン45mlを加え超音波処理にかけた。次に、遠沈管に8mlのエタノールを加えて、1000rpmで2分間遠心分離を行った。さらに遠沈管に1mlのヘキサンを加えて超音波処理にかけて固形物を分散させ、遠沈管に40mlのメタノールを加え、超音波処理にかけて固形物を分散させた。遠沈管に対し、5000rpmで5分間遠心分離を行った。その後、遠沈管から上澄みを除去した。
【0047】
次に、トルエン5mlを加えて超音波処理を行い、固形物を分散させた。次に、0.5gのチオ尿素をメタノール20mlに溶かした溶液と遠沈管の中の分散液とをフラスコに入れ、パラフィルム(登録商標)でフラスコに封をして超音波処理にかけた。超音波処理の期間中にフラスコを時々振ってフラスコの中の内容物を混ぜた。
【0048】
次に、フラスコの中の反応液を遠沈管に取り分けた。遠沈管に対し、5000rpmで3分間遠心分離を行った。次に、遠沈管から上澄みを除去した。次に、遠沈管に10mlのヘキサンを加え、超音波処理にかけて固形物を分散させた。次に、遠沈管に対し、5000rpmで3分間遠心分離を行った。次に、遠沈管から上澄みを除去し、遠沈管に10mlのメタノールを加え、遠沈管を超音波処理にかけて固形物を分散させた。次に、遠沈管に10mlのトルエンを加え、遠沈管を超音波処理にかけて固形物を分散させた。次に、遠沈管に対し、5000rpmで3分間遠心分離を行った。遠沈管から上澄みを除去して、固形物を得た。次に、遠沈管に10mlのヘキサンを加え、遠沈管に10mlのメタノールを加えて、各遠沈管を超音波処理にかけて固形物を分散させた。次に、遠沈管に10mlのトルエンを加えて、遠沈管を超音波処理にかけて固形物を分散させた。次に、遠沈管に対し、5000rpmで3分間遠心分離を行った。遠沈管から上澄みを除去した。次に、真空乾燥機で各遠沈管の内容物を乾燥させた。このようにして、実施例1に係るサンプル(硫化物)が得られた。その結果、銅基準の収率95%で実施例に係るサンプルを得た。
【0049】
<実施例2>
酢酸銅(II)一水和物1.2g(6mmol)、酢酸アンチモン(III)12g(40mmol)、ドデカンチオール100ml、及びテトラエチレングリコール100mlを三つ口フラスコに入れ、三つ口フラスコの内部をアルゴンガスで充填し、100℃で10分間三つ口フラスコの内部の原料を撹拌した。その後、大気圧下において三つ口フラスコの内部を260℃に加熱しながらフラスコ内部の液体を60分間撹拌して、原料を反応させた。その結果、三つ口フラスコの内部に黒色の沈殿物が得られた。この一連の処理を3回繰り返して、サンプル2A、サンプル2B、及びサンプル2Cを得た。サンプル2A、サンプル2B、及びサンプル2Cにおける銅基準の収率はそれぞれ96%、97%、及び99%であった。
【0050】
3回の合成で得られたサンプル2A、サンプル2B、及びサンプル2Cを混ぜ合わせて得られた混合物(約2.4g)を2等分し、三角フラスコに入れた。それぞれの三角フラスコにトルエンを88.2ml加えて、超音波処理にて粒子を分散させた。次に、7.06gのチオ尿素をメタノール282mlに溶かした溶液を2等分して、各三角フラスコの中の分散液と混合し、各三角フラスコをパラフィルム(登録商標)で封をして超音波処理にかけた。2つのフラスコの中の分散液の合計量は約459mlであった。超音波処理の期間中にフラスコを10分に1回ほど振ってフラスコの内容物を混ぜた。
【0051】
次に、三角フラスコの中の液を12本の遠沈管に取り分けた。各遠沈管に対し、5000rpmで3分間遠心分離を行った。次に、各遠沈管から上澄みを除去し、各遠沈管に12mlのエタノールを加え、その遠沈管を超音波処理にかけて粒子を分散させ、5000rpmで3分間遠心分離を行った。次に、各遠沈管から上澄みを除去し、各遠沈管に12mlのメタノールを加え、超音波処理にて粒子を分散させた後、各遠沈管に12mlのトルエンを加え振って混ぜた。それらを5000rpmで5分間遠心分離を行った。
【0052】
各遠沈管の上澄みを除去し、12本の遠沈管を4本の遠沈管にまとめた。まとめ方は以下の手順に従った。上澄みを除去した1本の遠沈管にメタノールを30ml加えて超音波処理にて粒子を分散させた。この遠沈管の内容物を別の遠沈管に移し、再び超音波処理にて粒子を分散させた。この作業を繰り返し行い、4本の遠沈管にまとめた。次に、各遠沈管にトルエンを遠沈管に印された50mlの線まで加えて超音波処理にて粒子を分散させた。これら4本の遠沈管を5000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを除去して、真空乾燥機で各遠沈管の内容物を乾燥させた。このようにして、実施例2に係るサンプルを得た。
【0053】
0.75gの実施例2に係るサンプル(粉体)を直径10mmのダイに充填した状態で、放電プラズマ焼結装置(シンターランド社製、型番:LABOX-125)用いて焼結した。焼結は、30MPaの圧力をかけた状態でダイの内部の温度を450℃まで100℃/分の速度で上昇させ、その後ダイの内部の温度を5分間保つことによって行われた。その後、ダイの内部から取り出した焼結品であるペレットの両面をJIS R 6001:1998に基づく粒度が#2000である研磨紙を用いて研磨し、実施例2に係る試料を得た。この試料のサイズは、熱電特性測定のための装置に合うように切断などによって調整された。
【0054】
<実施例3>
原料として、酢酸銅(II)一水和物1.1g(5.5mmol)、酢酸アンチモン(III)12g(40mmol)、及び酢酸亜鉛0.09g(0.5mmol)を用い、かつ、260℃での加熱時間を30分に変更した以外は、実施例2と同様にして実施例3に係るサンプル(硫化物)を得た。銅基準の収率93%で実施例3に係るサンプルを得た。
【0055】
<実施例4>
原料として、酢酸銅(II)一水和物1.05g(5.25mmol)、酢酸アンチモン(III)12g(40mmol)、及び酢酸亜鉛0.14g(0.75mmol)を用い、かつ、260℃での加熱時間を30分に変更した以外は、実施例2と同様にして実施例4に係るサンプル(硫化物)を得た。銅基準の収率92%で実施例4に係るサンプルを得た。
【0056】
<実施例5>
原料として、酢酸銅(II)一水和物2.4g(12mmol)、酢酸アンチモン(III)12g(40mmol)、及びドデカンチオール200mlを用いた以外は、実施例2と同様にして実施例5に係るサンプル(硫化物)を得た。銅基準の収率78%で実施例5に係るサンプルを得た。なお、実施例5に係るサンプルの金属元素組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)装置(島津製作所社製、製品名:ICPS-7000)を用いて分析した。その結果、実施例5に係るサンプルの全金属成分におけるCuの含有率及びSbの含有率は、それぞれ、物質量基準で75%及び25%であった。
【0057】
0.75gの実施例5に係るサンプル(粉体)を直径10mmのダイに充填した状態で、ホットプレス用いて焼結した。焼結は、ダイ全体を真空にし、300MPaの圧力をかけた状態で内部の温度を450℃で5分間保つことによって行われた。その後、ダイの内部から取り出した焼結品であるペレットの両面をJIS R 6001:1998に基づく粒度が#2000である研磨紙を用いて研磨し、実施例5に係る試料を得た。この試料のサイズは、熱電特性測定のための装置に合うように切断などによって調整された。
【0058】
<実施例6>
原料として、酢酸銅(II)一水和物2.4g(12mmol)、酢酸アンチモン(III)12g(40mmol)、硫黄粉末0.42g(13mmol)、及びドデカンチオール200mlを用いた以外は、実施例2と同様にして実施例6に係るサンプル(硫化物)を得た。銅基準の収率85%で実施例6に係るサンプルを得た。
【0059】
<比較例>
テトラエチレングリコール10mlの代わりにオレイルアミン10mlを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例に係るサンプルを得た。
【0060】
<TEM観察>
透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、製品名:H-7100又はH-7650))を用いて実施例1~6に係るサンプル(ただし、実施例2についてはサンプル2A、サンプル2B、及びサンプル2C)を観察した。実施例1~6に係るサンプルのTEM写真を図2~7に示す。実施例1、3、4、5、及び6に係るサンプルのTEM写真において、任意に選択した20個以上の粒子の像のそれぞれが上記の「三角形状」の定義に該当するか否か検討し、検討した粒子の総数に対する「三角形状」の定義に該当する粒子の数の割合を求めた。その結果、実施例1、3、4、5、及び6に係るサンプルのTEM写真において「三角形状」の定義に該当する粒子の数の割合は、それぞれ、95%、35%、70%、75%、及び15%であった。また、各実施例に係るサンプルのTEM写真から画像処理ソフトを用いて各粒子の粒子径を決定した。粒子径の決定はTEM写真において粒子の全体が観察可能な329個以上の粒子に対して行った。各粒子の粒子径から、各実施例に係るサンプルにおける個数基準の粒子径の分布を求めた。この粒子径の分布から、各実施例に係るサンプルについて、「平均粒子径」、「粒子径の標準偏差」、及び「粒子径の変動係数」を算出した。結果を表1に示す。なお、実施例1、5、及び6に係るサンプルに関する個数基準の粒子径の分布の結果をそれぞれ図8、9、及び10に示す。実施例1~6に係るサンプルに関する個数基準の粒子径の分布の結果から、表1に示す通り、実施例1~6に係るサンプルにおいて、個数基準で70%以上の粒子が5~80nmの粒子径を有することが分かった。
【0061】
<X線回折>
X線回折装置(リガク社製、製品名:MiniFlex600)を用いて、実施例1~6に係るサンプル及び比較例に係るサンプルのX線回折パターンを得た。X線としてCuKα線を用いた。実施例1~6に係るサンプルのX線回折パターンを、それぞれ、図11A図11Fに示す。また、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards) PDF(Powder Diffraction File) No. 00-024-1318に記載されたテトラヘドライトのX線回折パターンを図11Gに参考に示す。図11A図11Fによれば、実施例1~6に係るサンプルはテトラヘドライト構造の結晶を有することが確認された。一方、比較例に係るサンプルのX線回折パターンによれば、比較例に係るサンプルは、テトラヘドライト構造の結晶を有しておらず、Cu2Sであることが確認された。
【0062】
実施例1に係るサンプルのX線回折パターンの最強線における半値幅から、Scherrerの式に基づき、結晶子径を決定した。最強線とは、X線回折パターンにおいて最大の高さを有する回折線である。このようにして決定された、実施例1に係るサンプルの結晶子径は34.2nmであった。
【0063】
<熱電特性測定>
熱電特性評価装置(アドバンス理工社製、製品名:ZEM-3)を用いて、実施例2に係る試料のゼーベック係数S及び電気伝導率σを室温から673Kの範囲において測定した。ゼーベック係数S及び電気伝導率σの測定結果をそれぞれ図12及び図13に示す。レーザーフラッシュシステム(NETZSCH社製、製品名:LFA457)を用いて、実施例2に係る試料の熱伝導率κを室温から673Kの範囲において測定した。この測定結果を図14に示す。図12図14に示す測定結果を用いて実施例2に係る試料の熱電性能指数ZTを求めた。この結果を図15に示す。
【0064】
実施例2に係る試料と同様にして、実施例5に係る試料のゼーベック係数S及び電気伝導率σを測定した。ゼーベック係数S及び電気伝導率σの測定結果をそれぞれ図16及び図17に示す。実施例2に係る試料と同様にして、実施例5に係る試料の熱伝導率κを測定した。この測定結果を図18に示す。図16図18に示す測定結果を用いて実施例5に係る試料の熱電性能指数ZTを求めた。この結果を図19に示す。
【0065】
【表1】
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20