(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】電極シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20220726BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220726BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20220726BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20220726BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220726BHJP
B05C 1/08 20060101ALN20220726BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
B05D7/14 G
B05D3/00 D
B05D7/24 301E
B05C1/08
(21)【出願番号】P 2018194372
(22)【出願日】2018-10-15
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000179328
【氏名又は名称】リックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 雅夫
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-091646(JP,A)
【文献】特開2018-081822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
B05D 7/14
B05D 3/00
B05D 7/24
B05C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電箔の表面上に活物質層が形成されている構造の電極シートを製造する方法であって,
第1ロールと,前記第1ロールと対向する第2ロールと,前記第1ロールと対向せず前記第2ロールと対向する第3ロールとを有し,前記第1ロールと前記第2ロールと前記第3ロールとのうちいずれか1つ以上が前記着磁ロールである成膜装置を用い,
集電箔の表面上に活物質層を成膜する成膜工程と,
着磁している着磁ロールを前記活物質層に対面させて,前記活物質層に混入していることがある硬磁性異物を着磁させる着磁工程と,
前記着磁工程で搬送された電極シートにおける前記活物質層側の表面を磁気センサに対面させることで,前記活物質層における着磁された硬磁性異物の存在を検出する検出工程とを行うとともに,
前記成膜工程を,
前記第1ロールと前記第2ロールとの間の隙間に前記
活物質層の原料を通すことで前記第2ロールの表面上に前記活物質層を形成する膜形成工程と,
前記集電箔を,前記第1ロールに接触させず,かつ前記第2ロールと前記第3ロールとの間を通させることで,前記集電箔の表面上に前記活物質層を転写する転写工程とにより行い,
前記成膜工程もしくは前記転写工程の際に前記着磁工程を併せて行い,
前記成膜工程での前記活物質層の原料として,固形成分と液体成分とを含みつつ,前記固形成分が占める重量比率が70%以上90%以下である湿潤合材を用いることを特徴とする電極シートの製造方法。
【請求項2】
集電箔の表面上に活物質層が形成されている構造の電極シートを製造する方法であって, 集電箔の表面上に活物質層を成膜する成膜工程と,
着磁している着磁ロールを前記活物質層に対面させて,前記活物質層に混入していることがある硬磁性異物を着磁させる着磁工程と,
前記着磁工程で搬送された電極シートにおける前記活物質層側の表面を磁気センサに対面させることで,前記活物質層における着磁された硬磁性異物の存在を検出する検出工程とを行い,
前記成膜工程での前記活物質層の原料として,固形成分と液体成分とを含みつつ,前記固形成分が占める重量比率が70%以上90%以下である湿潤合材を用い,
前記着磁工程を,前記集電箔を挟んで前記着磁ロールと対向する位置に,軟磁性材で形成された軟磁性ロールを配置して行うことを特徴とする電極シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電極シートの製造方法であって,
前記着磁工程を,前記集電箔を挟んで前記着磁ロールと対向する位置に,軟磁性材で形成された軟磁性ロールを配置して行うことを特徴とする電極シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項3に記載の電極シートの製造方法であって,
前記第3ロールが前記着磁ロールであり,
前記転写工程の際に前記着磁工程を併せて行うことを特徴とする電極シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,集電箔の表面上に活物質層が形成されている構造の電極シートを製造する方法に関する。さらに詳細には,形成された活物質層における硬磁性異物の存在の検査を合わせて行うようにした,電極シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,電池用の電極シートとして,導電性の集電箔の表面上に活物質層を有する構造のものが用いられている。このような構造の電極シートは,集電箔の表面上に活物質層を形成することで製造される。ここで,形成される活物質層に,異物,特に金属性等の硬磁性素材の異物が混入する場合がある。このような硬磁性異物の混入は当然,電極シートの品質を低下させる要因である。このため,そのような硬磁性異物の混入が発生しているか否かを検査で把握する必要がある。
【0003】
そのための検査を行う技術として,特許文献1に記載されているものを挙げることができる。同文献の技術では,集電箔と活物質層とからなる電極シート(12)を,帯磁している第1支持ローラ(100)で搬送することとしている。これにより,活物質層に硬磁性の異物(P)が混入していればその異物が磁化されることとなる。そして,第1支持ローラより下流の位置に磁力検知センサ(400)を配置しておくこととしている。これにより,磁化された硬磁性異物の存在を検知することができる。以上は特許文献1の[0030]~[0033],
図4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら前記した従来の技術には,次のような問題点があった。硬磁性異物の検知精度が必ずしも高くないのである。その理由は,活物質層内で硬磁性異物が移動することにある。硬磁性異物が移動しうる理由は,形成された直後の活物質層が,粉末状の固形成分と液体成分とを混練してなる流動物であるためである。このため,特に第1支持ローラの磁界を硬磁性異物が通過するときに,磁力に引かれて第1支持ローラに接近する向きに移動してしまうのである。このことは,硬磁性異物が集電箔寄りの位置に集中しやすいことを意味している。
【0006】
一方,磁力検知センサは電極シートに対して,集電箔側でなく活物質層側に配置される。検知対象である活物質層中の硬磁性異物を,集電箔越しにではなく直接に検知するためである。このため,活物質層内でも集電箔寄りに位置している硬磁性異物は,磁力検知センサからあまり近くない場所に位置しているのである。このため検知精度もあまり上がらないのである。
【0007】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,硬磁性異物の存在を高い精度で検出しつつ電極シートを製造することができる,電極シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一態様または第二態様における電極シートの製造方法では,集電箔の表面上に活物質層が形成されている構造の電極シートを製造するにあたり,集電箔の表面上に活物質層を成膜する成膜工程と,着磁している着磁ロールを活物質層に対面させて,活物質層に混入していることがある硬磁性異物を着磁させる着磁工程と,着磁工程で搬送された電極シートにおける活物質層側の表面を磁気センサに対面させることで,活物質層における着磁された硬磁性異物の存在を検出する検出工程とを行い,成膜工程での活物質層の原料として,固形成分と液体成分とを含みつつ,固形成分が占める重量比率が70%以上90%以下である湿潤合材を用いる。
【0009】
上記態様における電極シートの製造方法では,固形成分と液体成分とを含む湿潤合材が,活物質層の原料として使用される。すなわちこの原料により成膜工程で,集電箔の表面上に活物質層が成膜される。また,着磁工程により,活物質層に混入していることがある硬磁性異物の着磁が行われる。電極シートはその後,活物質層側の表面を磁気センサに対面させる検出工程に供される。これにより,硬磁性異物の検出が行われる。ここで成膜工程では,湿潤合材として,固形成分が占める重量比率が70%以上であるものを用いる。このため,着磁工程の際に硬磁性異物が磁気センサから逃げる向きに移動してしまうことがない。したがって,高い検出精度で硬磁性異物を検出しつつ,電極シートの製造を行うことができる。なお,着磁工程は成膜工程とともに行われてもよいし,それより後で行われてもよい。また,着磁工程にて着磁ロールは,活物質層に対して,集電箔を介さず対面する配置でもよいし,集電箔を介して対面する配置でもよい。
【0010】
第一態様の電極シートの製造方法ではさらに,第1ロールと,第1ロールと対向する第2ロールと,第1ロールと対向せず第2ロールと対向する第3ロールとを有し,第1ロールと第2ロールと第3ロールとのうちいずれか1つ以上が着磁ロールである成膜装置を用い,成膜工程を,第1ロールと第2ロールとの間の隙間に湿潤合材を通すことで第2ロールの表面上に活物質層を形成する膜形成工程と,集電箔を,第1ロールに接触させず,かつ第2ロールと第3ロールとの間を通させることで,集電箔の表面上に活物質層を転写する転写工程とにより行い,成膜工程もしくは転写工程の際に着磁工程を併せて行う。
【0011】
このようになっていれば,湿潤合材は,第1ロールと第2ロールとの間の隙間を通るときに第2ロールの表面上の膜状の活物質層となる(膜形成工程)。そして活物質層は,第2ロールと第3ロールとの間を通るときに集電箔上に転写される(転写工程)。このようにして3本ロール構成の成膜装置による成膜工程が行われる。成膜工程もしくは転写工程の際に着磁工程も併せて行われる。3本ロール構成の成膜装置では,固形分率が高い湿潤合材でも支障なく成膜できる。
【0012】
3本ロール構成の成膜装置を用いる態様の電極シートの製造方法ではさらに,第3ロールが着磁ロールであり,転写工程の際に着磁工程を併せて行うことが望ましい。この場合には,湿潤合材の固形分率が低いと,着磁工程で硬磁性異物が磁気センサから逃げる向きに移動してしまうことになる。しかし本態様では固形分率の高い湿潤合材を用いるので,そのような弊害がない。
【0013】
第二態様の電極シートの製造方法ではさらに,着磁工程を,集電箔を挟んで着磁ロールと対向する位置に,軟磁性材で形成された軟磁性ロールを配置して行う。このようにすれば,軟磁性ロールが,着磁ロールの磁界に対するヨークとして作用する。このため,活物質層中の硬磁性異物の着磁が行われる箇所における磁束密度が高く,その分検出精度が高い。成膜装置が前述の3本ロール構成で第3ロールが着磁ロールである場合には,第2ロールが軟磁性ロールとなる。
【0014】
上記のいずれかの態様の電極シートの製造方法ではまた,着磁ロールとして,表面の磁束密度が0.5T以上であるものを用いることが望ましい。着磁ロールの磁力が弱すぎると硬磁性異物の着磁も弱くて検出精度があまり上がらないことがあるが,表面の磁束密度が0.5T以上あれば十分である。
【0015】
着磁工程にて着磁ロールが活物質層に対して集電箔を介して対面する配置の態様の電極シートの製造方法ではまた,着磁工程を,着磁ロールに支持されつつ搬送される集電箔にテンション部材でテンションを掛けつつ行うことが望ましい。集電箔にテンションが掛かっていると,着磁工程の際に,着磁ロールと活物質層との距離が近い。このため,硬磁性異物の着磁がより確実に行われる。
【0016】
上記のいずれかの態様の電極シートの製造方法ではさらに,検出工程で硬磁性異物の存在が検出された箇所を示すマーキングを電極シートに施すマーキング工程を行うことが望ましい。これにより,硬磁性異物が存在する箇所を後工程にて容易に認識し,排除することができる。
【0017】
マーキング工程を行う態様の場合,当該マーキング工程では,電極シートにおける,活物質層が形成されている幅方向範囲の外の集電箔が露出している非塗工領域にマーキングを施すことが望ましい。非塗工領域の方が活物質層の領域よりもマーキング自体が容易であり,また,後工程でもマーキングを認識しやすいからである。
【発明の効果】
【0018】
本構成によれば,硬磁性異物の存在を高い精度で検出しつつ電極シートを製造することができる,電極シートの製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態で使用する電極シートの製造装置の構成を示す断面図である。
【
図2】着磁工程の後でも硬磁性異物の位置がランダムであることを模式的に示す断面図である。
【
図3】(比較例)着磁工程の後で硬磁性異物が集電箔側に寄ってしまっている状況を模式的に示す断面図である。
【
図4】電極シートと磁気センサとの配置関係を示す斜視図である。
【
図5】磁気センサによる硬磁性異物の検出例を示すグラフ(その1)である。
【
図6】硬磁性異物が検出された位置にマーキングを施した状況を示す斜視図である。
【
図7】着磁ロールの表面の磁束密度と磁気センサでの検知シグナルとの関係を試験した結果を示すグラフである。
【
図8】磁気センサによる硬磁性異物の検出例を示すグラフ(その2)である。
【
図9】磁石の表面からの距離と磁束密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,
図1のように構成された製造装置20を用いて電極シート11を製造する方法として,本発明を具体化したものである。
図1の製造装置20は,成膜装置1と,磁気センサ2と,レーザ照射器3とを有している。成膜装置1で形成した電極シート11に対して,磁気センサ2による異物の検知と,検知された異物の場所へのレーザ照射器3によるマーキングとを行うようになっている。
【0021】
まず成膜装置1について説明する。
図1中の成膜装置1は,成膜ロール4と,ヨークロール5と,着磁ロール6とを有する3本ロール構成のものである。これらのロールはいずれも,それぞれの軸回りに回転するものであり,互いに平行に設けられている。ヨークロール5は,成膜ロール4および着磁ロール6のいずれに対しても隙間を置きつつ近接して配置されている。ただし成膜ロール4と着磁ロール6とは近接していない。成膜ロール4の回転とヨークロール5の回転とは互いに順方向であり,ヨークロール5の回転と着磁ロール6の回転とも互いに順方向である。
【0022】
上記のように構成されている
図1の成膜装置1では,金属箔10が,着磁ロール6に掛けられている。金属箔10は,成膜ロール4とヨークロール5との間の隙間を通らず,ヨークロール5と着磁ロール6との間の隙間を通るようにされている。つまり金属箔10は,成膜ロール4には接触しない。これにより金属箔10が,着磁ロール6の回転とともに搬送されるようになっている。また,着磁ロール6の上流側にテンションロール7が設けられている。テンションロール7により,金属箔10に一定のテンションが掛かるようになっている。また,着磁ロール6上の金属箔10が着磁ロール6に確実に接触するようになっている。
【0023】
そして,成膜材料13を,成膜ロール4とヨークロール5との間の隙間に対して,成膜ロール4およびヨークロール5の回転の上流側から供給する(矢印A)。これにより電極シート11が得られるようになっている。電極シート11は,金属箔10の表面上に活物質層14が形成されたものである。かかる電極シート11は,ヨークロール5と着磁ロール6との間の隙間から,ヨークロール5および着磁ロール6の回転の下流側に向かって送出されてくる。
【0024】
ここで,矢印Aのように供給された成膜材料13が金属箔10の表面上の活物質層14となるまでの間に,膜形成工程と転写工程との2つの過程が行われる。膜形成工程は,成膜材料13が成膜ロール4とヨークロール5との間の隙間を通ることにより,薄い層状に成形される過程である。この薄い層状となった成膜材料13が活物質層14である。転写工程は,活物質層14が,ヨークロール5の表面上から金属箔10の表面上に転写される過程である。転写工程は,活物質層14が,ヨークロール5と着磁ロール6との間の隙間を通る時に行われる。この膜形成工程と転写工程とにより,金属箔10の表面上に活物質層14を成膜する成膜工程が構成される。かくして電極シート11が製造される。製造された電極シート11における金属箔10は,電池において集電箔として機能する。
【0025】
なお
図1の成膜装置1では,成膜ロール4,ヨークロール5,および着磁ロール6の回転による表面速度に関して,成膜ロール4よりもヨークロール5の方が速く,ヨークロール5よりも着磁ロール6の方が速い,という設定になっている。これにより,成膜工程後における活物質層14が,成膜ロール4でなくより速いヨークロール5の表面上に乗っていくようになっている。また,ヨークロール5と着磁ロール6との間の隙間(転写工程)よりも下流側での活物質層14がヨークロール5でなくより速い金属箔10の表面上に乗っていくようになっている。
【0026】
上記における成膜材料13は,電極活物質の粉末と揮発性液体とを含む湿潤合材である。揮発性液体とは,例えば水やアルコールのような,後の乾燥過程で除去されてしまい最終的には活物質層14にほとんど残らない液体である。成膜材料13における固形成分としては,上記の電極活物質の粉末の他に適宜の添加剤が含まれてもよい。添加剤としては例えば,結着剤や増粘剤,導電補助剤等が挙げられる。
【0027】
なお,成膜材料13において固形成分が占める配合比率すなわち固形分率は,ペーストとかスラリー等と称されるものよりかなり高くされている。つまり成膜材料13に占める揮発性液体の含有量はどちらかというと少なめである。本形態では成膜材料13の固形分率を,70~90重量%の範囲内としている。これにより,後の乾燥過程が容易になっている。湿潤合材である成膜材料13は,造粒機でよく混合された造粒体の状態で成膜装置1に投入される。
図1のような3本ロール構成の成膜装置1では,このように固形分率の高い湿潤合材であっても,問題なく成膜を行うことができる。
【0028】
本形態の成膜装置1では,3本ロール構成のうちの3番目のロールとして前述のように着磁ロール6を使用している。着磁ロール6は,永久磁石もしくは電磁コイルを内蔵している。このため着磁ロール6の表面には,磁界が形成される。着磁ロール6を使用する目的は,活物質層14中に混入していることがある鉄粉等の硬磁性異物を着磁することである。すなわち硬磁性異物が存在していれば,活物質層14がヨークロール5と着磁ロール6との間の隙間を通る時に,着磁ロール6の磁界により硬磁性異物が着磁されるのである。以後,その硬磁性異物は,着磁された状態のまま下流側へ搬送されていく。このように本形態では,電極シート11を搬送しつつ硬磁性異物を着磁する着磁工程が,転写工程の際に併せて実施されるのである。着磁ロール6の表面における磁束密度は,後述するように0.5T以上であることが望ましい。
【0029】
本形態の成膜装置1における3本ロール構成のうちの2番目のロールであるヨークロール5は,軟磁性材で形成されている軟磁性ロールであることが望ましい。すなわちヨークロール5は,低炭素鋼,珪素鋼,パーマロイなどのような,透磁率が高いとされる素材で形成されているものであることが望ましい。ヨークロール5の材質がこのようなものであると,着磁ロール6の磁束の大部分が,ヨークロール5を集中的に通過することとなる。このため,ヨークロール5と着磁ロール6との間の隙間,すなわち転写工程が行われる箇所の磁束密度がその分高い。したがって,この箇所を通過する硬磁性異物をより確実に着磁することができる。
【0030】
ここで本形態では前述のように,成膜材料13として固形分率の高い湿潤合材を用いている。ということは,着磁工程に供される活物質層14の固形分率も高いということである。このため活物質層14の流動性が低い。ということは,着磁工程の際に,硬磁性異物が活物質層14内で移動してしまう,ということがないのである。したがって着磁工程の後でも
図2に示すように,活物質層14内での硬磁性異物Pの深さ方向位置はランダムである。
【0031】
もし,成膜材料13として固形分率が低く流動性の高いものを使用していると,着磁工程の際に硬磁性異物が活物質層14内で移動してしまうことがある。移動の向きは,硬磁性異物が着磁ロール6に引き寄せられる向きである。このためこの場合には,着磁工程を経ることにより
図3に示すように,硬磁性異物Pが金属箔10寄りの位置に集中してしまっている。これでは,後述する検出の際に支障がある。これに対し本形態では,固形分率の高い成膜材料13を用いることで,硬磁性異物Pの移動を防止している。なお
図2,
図3は,硬磁性異物Pの位置の分布状況を模式的に示すことのみを目的とするものであり,実際の電極シート11にこのように多数の硬磁性異物Pが集中的に混入していることを示すものではない。
【0032】
図1に戻って,上記のようにして成膜装置1で成膜された電極シート11は,フリーロール8,9により支持されつつ搬送され,磁気センサ2と対面し,次いでレーザ照射器3と対面する。
【0033】
磁気センサ2は,電極シート11の活物質層14に混入していることがある硬磁性異物Pの存在を検出するためのものである。磁気センサ2と対面する位置に至った電極シート11では,硬磁性異物Pが混入していればそれは,着磁ロール6による着磁を受けている。このため,磁気センサ2で硬磁性異物Pの存在を検出することができる。磁気センサ2としては例えば,フラックス・ゲート(FG)センサを用いることができる。あるいは,超伝導量子干渉素子(SQUID)センサや,磁気インピーダンス(MI)センサを用いることもできる。磁気センサ2は電極シート11に対して,金属箔10側でなく活物質層14側に設けられている。活物質層14中の硬磁性異物Pを,金属箔10越しにではなく,直接に検出するためである。
【0034】
ここで本形態では前述の
図2のように,活物質層14内での硬磁性異物Pは,金属箔10寄りの位置に集中することなくランダムに分布している。このため,磁気センサ2と硬磁性異物Pとの間隔が比較的小さいため,検出精度が高い。もし,成膜材料13として固形分率が低く流動性の高いものが使用されていると,
図3に示したような状態となっているため,磁気センサ2と硬磁性異物Pとの間隔が遠めである。このため検出精度が低い。本形態では固形分率の高い成膜材料13を用いることで,高い検出精度が得られるようにしている。
【0035】
磁気センサ2は
図4に示すように,電極シート11における少なくとも活物質層14の形成幅全体をカバーするように設けられている。このため,着磁されている硬磁性異物Pが,活物質層14の幅方向Wに対する範囲内のどの位置に存在したとしても,磁気センサ2でその存在を検出することができる。ここで,活物質層14中に硬磁性異物Pが混入していたとする。このとき磁気センサ2の出力値は,
図5のような経緯を辿る。すなわち,通常時はほぼ一定のノイズレベルで推移しているが,一瞬大きく振れる(
図5中のK)のである。むろんこれは,硬磁性異物Pが磁気センサ2の直下を通過する時に起こる。これにより,硬磁性異物Pの存在が検出される。
【0036】
磁気センサ2での検出を受けた電極シート11はさらに,
図1中のレーザ照射器3の位置へ向かう。レーザ照射器3は,硬磁性異物Pが検出されたことを示すマーキングを電極シート11に付与するためのものである。このためレーザ照射器3では,電極シート11における,幅方向Wの端部の非塗工部,すなわち活物質層14が形成されておらず金属箔10が露出している部分にレーザ光を照射し,照射痕を形成する。照射痕は,変色に留まる程度のものであっても明瞭であれば差し支えないが,貫通孔であってもよい。ただし貫通孔の方が,裏面側からでも認識できる点で有利である。形成する貫通孔の直径は,20μm程度もあれば,後工程で適当な光学的手段により検知可能である。
【0037】
レーザ照射器3がレーザ光を照射するタイミングは,電極シート11の搬送方向に対してレーザ照射器3が設けられている位置を,活物質層14中の硬磁性異物Pが通過するタイミングである。このタイミングは,
図5中のKが検知されたタイミングと,電極シート11の搬送速度と,磁気センサ2の検出位置からレーザ照射器3の照射位置までの搬送距離とから算出される。これにより
図6に示すように,検出された硬磁性異物Pの存在を示すマーキングMが形成される。このため後工程では,マーキングMにより硬磁性異物Pの存在を認識し,その箇所を使用対象から外すことができる。
【0038】
なお上記より本形態では,硬磁性異物Pの幅方向Wに対する位置は,磁気センサ2で検知されないし,マーキングMの形成位置にも反映されない。しかしながら,電極シート11をその後カード状に切断して他の電極やセパレータとともに積層する用途であればこれで十分である。また,磁気センサ2として幅方向Wの位置分解能を持つものを使用すれば,硬磁性異物Pの幅方向位置の情報が得られる。その情報を利用して,レーザ照射器3で硬磁性異物Pの存在位置そのものにマーキングMを形成するように構成してもよい。
【0039】
続いて,本形態の有用性について本発明者らが確認試験を行った結果を説明する。この確認試験は,次の各条件で行った。
電極活物質の種類:金属酸化物系リチウム塩
添加剤の種類:結着剤(PVdF)
液体成分:水
固形分率:80重量%(乾燥前後での精密電子天秤による重量値から)
集電箔の種類:アルミ箔(厚さ100μm)
成膜装置および造粒機:リックス社製
磁気センサ:FGセンサ
【0040】
また,本試験では,成膜材料13中に公称平均粒径200μmのSUS304ステンレス鋼の粉末を,硬磁性異物として意図的に添加した。この鋼種自体はオーステナイト系のものであるが,本試験で添加したような粉末状のものは,粉末化時に受けた摩耗やピッチングのストレスにより一部マルテンサイト化している。このため,着磁ロール6の磁界により着磁することができる。
【0041】
図7に示すのは,着磁ロール6の表面の磁束密度と,磁気センサ2での検知シグナルとの関係である。ここでいう検知シグナルとは,
図5のグラフ中にKで示したような,硬磁性異物の存在に起因する出力値の振れ幅のことである。
図7に示されるように,着磁ロール6の表面の磁束密度が0.5T未満(平均)であると,検知シグナルが40mV程度しかない。これではノイズレベルに対してそれほど目立つ振れとならない(
図8中のKを参照)ので,検出精度の向上幅はそれほど大きくない。
【0042】
これに対し磁束密度が平均で0.5T以上あれば,
図7に示されるように60mV以上の検知シグナルが得られる。これにより,
図5にKで示したように目立つ振れが得られる。このため,着磁ロール6の表面の磁束密度は0.5T以上であることが望ましい。なお
図7からは,着磁ロール6の表面の磁束密度を,0.5Tを超えてどんどん上げていっても,それに伴って検知シグナルが大きくなっていく訳でもないことも分かる。これは,硬磁性異物の磁化率に限界があるためと考えられる。ただし,着磁ロール6の磁束密度が高すぎることにより検出に支障が出る,という訳でもない。
【0043】
図9に示すのは,磁石の磁極の表面からの距離ごとに測定した磁束密度を示すグラフである。
図9の測定では,表面の磁束密度が0.9Tである永久磁石を対象とした。
図9から,磁極の表面から離れるほど指数関数的に磁束密度が小さくなることが分かる。これより,
図1の成膜装置1での着磁工程(転写工程)において,着磁ロール6の表面からの活物質層14の距離は小さければ小さいほどよいことが分かる。このため
図1の成膜装置1では,テンションロール7を設けること等により,金属箔10(電極シート11)に張力を掛けることで,金属箔10を着磁ロール6に確実に接触させた方がよい。以上が確認試験の説明である。
【0044】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,金属箔10の表面上に活物質層14を成膜して電極シート11を得るに際して,成膜材料13として,固形分率の高い湿潤合材を使用することとしている。これにより,転写工程で着磁ロール6による硬磁性異物の着磁を併せて行うときに,硬磁性異物が金属箔10寄りに移動しないようにしている。こうして,磁気センサ2で高精度に硬磁性異物を検出しつつ電極シート11を製造できる製造方法が実現されている。
【0045】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,対象とする電極シート11は,いかなる種類のものでもよい。前述の確認試験として示したものはリチウムイオン二次電池の正極用の例であるが,これに限らず,いかなる電池種のものでもよいし,また正極用,負極用,いずれでもよい。また,電極シート11の裏面上にさらに活物質層14を形成する際にも本形態の手法を適用することができる。
【0046】
また,成膜装置1の構成にも変形が考えられる。上記実施形態における成膜装置1では,着磁ロール6を,成膜のための3本ロール構成における第3ロールとして用いている。しかしこのような構成に限らず,3本ロール構成における第1ロールもしくは第2ロールとして着磁ロールを用いる構成であってもよい。また,3本ロール構成の成膜装置より下流に別途着磁ロール6を配置する構成も可能である。その場合,ヨークロール5も,3本ロール構成の成膜装置より下流に別途,着磁ロール6と対向して配置されることとなる。その場合にさらに,ヨークロール5と着磁ロール6とのいずれが活物質層14側であってもよい。さらには,3本ロール構成自体も必須な訳ではない。
【0047】
また,実施形態中の,テンションロール7が設けられていることや,ヨークロール5が軟磁性ロールであることは,その方がより有利ではあるものの,必須事項ではない。着磁ロール6の表面の磁束密度についても,0.5T以上であることは必須事項という訳ではなく,それ以下でも硬磁性異物は一応検出可能である。また,磁気センサ2より下流のレーザ照射器3も,必須という訳ではない。例えば,レーザ照射器3の代わりに小形のプレス機を設けて電極シート11を局所的に塑性変形させることあるいは機械的に穴あけすることでマーキングすることもできるし,電極シート11に何らかの発色剤を付着させてマーキングする構成も可能である。あるいは,マーキング自体を行わず,硬磁性異物の検出位置の情報のみを後工程に提供する,という手法も可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 成膜装置
2 磁気センサ
4 成膜ロール(第1ロール)
5 ヨークロール(第2ロール)
6 着磁ロール(第3ロール)
10 金属箔(集電箔)
11 電極シート
13 成膜材料(湿潤合材)
14 活物質層