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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】冷却液組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/10 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
C09K5/10 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018213577
(22)【出願日】2018-11-14
(65)【公開番号】P2020079367
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-02-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591125289
【氏名又は名称】日本ケミカル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 博之
(72)【発明者】
【氏名】児玉 康朗
(72)【発明者】
【氏名】長澤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】梅原 吉倫
(72)【発明者】
【氏名】吉井 揚一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悠
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/009652(WO,A1)
【文献】特表2006-510168(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03184599(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第109294529(CN,A)
【文献】特表2009-525760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分
A:1,3-プロパンジオール
B:少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール
C:式(I)
【化1】

(式中、Rは、水素又はC~C10アルキル基であり、XはN又はCHである)
で表される少なくとも1種の化合物、及び
D:水
を含み、前記1,3-プロパンジオール(A)と前記少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)との質量比(A/B)が0.10以上1.10以下であり、
前記1,3-プロパンジオール以外の直鎖アルキレングリコール(E)を含む場合、前記1,3-プロパンジオール以外の直鎖アルキレングリコール(E)と少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)との質量比(E/B)が0.25以下である、冷却液組成物(但し、ギ酸カリウムを含む組成物を除く。)
【請求項2】
前記炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコールが、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール及びヘキシレングリコールから選択される、請求項1に記載の冷却液組成物。
【請求項3】
前記式(I)で表される化合物が、ベンゾトリアゾール及び/又はトリルトリアゾールである、請求項1又は2に記載の冷却液組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の冷却液組成物を得るための濃縮冷却液組成物であって、水を用いて1.1質量倍以上5質量倍以下に希釈されて用いられる、濃縮冷却液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液組成物に関し、特に、電気自動車用冷却液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、エンジン等を冷却するために冷却液が用いられているが、電気自動車においてもバッテリー等を冷却するために冷却液が用いられている。電気自動車のバッテリーに用いられる冷却液には、種々の特性が求められ、例えば、熱劣化後の導電性、極低温粘度及び防食性に優れることが求められる。導電性は、例えば事故により冷却液が漏洩した際に、冷却液がバッテリー端子に接触し、ショート及び発火を生じる恐れがあるため低い方が好ましい。また、極低温粘度が高いとウォータポンプヘの負担が大きくなり、電気のロスが大きくなるため、極低温粘度は低い方が好ましい。また、アルミニウム等の冷却系部品の保護のために防食性は低い方が好ましく、冷却液漏洩時においても、アルミニウムや鉄系の部品の防食性が低いと腐食イオンにより導電性が上昇してしまうため、防食性は低い方が好ましい。
【0003】
このような冷却液としては様々なものが知られているが、その中でも水は冷却性能が最も高いために好ましい。しかし、真水は摂氏0℃以下になると凍結してしまう。このような事情から、不凍性を目的としてエチレングリコール等のグリコール類を基剤として用いた冷却液組成物も知られている。
【0004】
しかし、冷却液組成物の基剤としてグリコール類の中で最も一般的に使用されるエチレングリコールは、エチレングリコール水溶液の粘度が低いため、熱により酸化劣化し易く、熱劣化後の導電性が高いという問題があった。一方、1,3-プロパンジオールを基剤として用いた冷却液組成物は、エチレングリコールを基剤として用いた冷却液に対し、極低温粘度の上昇が小さく、また、熱により酸化劣化し難いため、熱劣化後の導電性も低いが、防食性が低いという問題があった。さらに、1,3-プロパンジオールを基剤として用いた冷却液組成物に防錆剤として一般的に知られているベンゾトリアゾールやトリルトリアゾールを配合すると、防食性は高くなるものの、熱劣化後の導電性が高くなってしまう。例えば、特許文献1には、1,3-プロパンジオールとアゾール類を配合した冷却液組成物が記載されているが、前記の通り、この冷却液組成物には、熱劣化後の導電性が高いという問題があるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4944381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、従来の冷却液組成物では、熱劣化後の導電性、極低温粘度及び防食性の少なくとも1つが不十分な場合があった。それ故、本発明は、熱劣化後の導電性、極低温粘度及び防食性に優れる冷却液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、1,3-プロパンジオール及びアゾール類の防錆剤を含む冷却液組成物において、特定の非直鎖アルキレングリコールを、1,3-プロパンジオールと非直鎖アルキレングリコールとの質量比を特定の範囲に制御して用いることにより、熱劣化後の導電性、極低温粘度及び防食性に優れる冷却液組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)下記成分
A:1,3-プロパンジオール
B:少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール
C:式(I)
【化1】
(式中、Rは、水素又はC~C10アルキル基であり、XはN又はCHである)
で表される少なくとも1種の化合物、及び
D:水
を含み、前記1,3-プロパンジオール(A)と前記少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)との質量比(A/B)が0.10以上1.10以下であり、
前記1,3-プロパンジオール以外の直鎖アルキレングリコール(E)を含む場合、前記1,3-プロパンジオール以外の直鎖アルキレングリコール(E)と少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)との質量比(E/B)が0.25以下である、冷却液組成物。
(2)前記炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコールが、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール及びヘキシレングリコールから選択される、前記(1)に記載の冷却液組成物。
(3)前記式(I)で表される化合物が、ベンゾトリアゾール及び/又はトリルトリアゾールである、前記(1)又は(2)に記載の冷却液組成物。
(4)前記(1)~(3)のいずれかに記載の冷却液組成物を得るための濃縮冷却液組成物であって、水を用いて1.1質量倍以上5質量倍以下に希釈されて用いられる、濃縮冷却液組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、熱劣化後の導電性、極低温粘度及び防食性に優れる冷却液組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本発明の冷却液組成物は、1,3-プロパンジオール(A)、少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)、式(I)で表される少なくとも1種の化合物(C)及び水(D)を含む。
【0012】
本発明の冷却液組成物において、基剤として1,3-プロパンジオール(A)が用いられる。1,3-プロパンジオールを基剤として用いると、基剤が水である場合のように摂氏0℃以下で凍結することがなく、極低温粘度の上昇が小さく、また、基剤がエチレングリコールである場合と比較して熱により酸化劣化し難いため、冷却液組成物の熱劣化後の導電性を抑制することができる。
【0013】
冷却液組成物中の1,3-プロパンジオール(A)の含有量は、冷却液組成物に対して通常0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、また、含有量の上限は、通常50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。冷却液組成物中の1,3-プロパンジオール(A)の含有量は、冷却液組成物に対して通常0.1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは1質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上30質量%以下である。1,3-プロパンジオール(A)の含有量が前記範囲内であると、冷却液組成物の熱劣化後の導電性を抑制することができ、また、極低温粘度が低くなる。
【0014】
本発明の冷却液組成物において、防錆剤として式(I)
【化2】
(式中、Rは、水素又はC~C10アルキル基であり、XはN又はCHである)
で表される少なくとも1種の化合物(C)が用いられる。本発明において、1,3-プロパンジオール(A)と式(I)で表される化合物(C)を組み合わせることにより、冷却液組成物の防食性を十分に低くすることができる。ただし、冷却液組成物が、1,3-プロパンジオール(A)及び式(I)で表される化合物(C)を含むが、炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)を含まない場合、極低温粘度及び防食性は良好であるが、熱劣化後の導電性は高くなってしまう。
【0015】
式(I)において、好ましくは、Rは水素又はメチル基である。また、式(I)において、好ましくは、XはNである。より好ましくは、式(I)において、Rは水素又はメチル基であり、且つXはNである。したがって、式(I)で表される化合物は、好ましくはベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールである。
【0016】
式(I)で表される化合物は、単独で又は2種以上の混合物を使用できる。本発明の冷却液組成物において、式(I)で表される化合物の混合物を用いる場合、ベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールの混合物が好ましい。
【0017】
冷却液組成物中の式(I)で表される化合物(C)の含有量は、冷却液組成物に対して通常0.001質量%以上であり、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、含有量の上限は、通常10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下であり、最も好ましくは0.3質量%以下である。冷却液組成物中の式(I)で表される化合物(C)の含有量は、冷却液組成物に対して通常0.001質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上1質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下であり、最も好ましくは0.1質量%以上0.3質量%以下である。式(I)で表される化合物(C)の含有量が前記範囲内であると、冷却液組成物の熱劣化後の導電性が低く、また、十分な防食性を有する。
【0018】
本発明の冷却液組成物は、少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)を含む。本発明において、非直鎖アルキレングリコールとは、分岐アルキレングリコールと同義である。本発明の冷却液組成物では、炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)を、1,3-プロパンジオール(A)及び式(I)で表される化合物(C)と組み合わせて用いることにより、1,3-プロパンジオール(A)及び式(I)で表される化合物(C)を含む冷却液組成物の熱劣化後の導電性を抑制することができる。これは、冷却液組成物において、非直鎖アルキレングリコール(B)を特定の比率で用いることにより、式(I)で表される化合物(C)により促進されてしまう1,3-プロパンジオール(A)の熱による酸化劣化が抑制されて、この酸化劣化による導電性の上昇が抑制されたためであると推測される。
【0019】
炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)は、好ましくは1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール及びヘキシレングリコールであり、より好ましくは1,2-プロパンジオール及び1,3-ブタンジオールである。
【0020】
炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
冷却液組成物中の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)の含有量は、冷却液組成物に対して通常0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上であり、また、含有量の上限は、通常80質量%以下であり、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。冷却液組成物中の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)の含有量は、冷却液組成物に対して通常0.1質量%以上80質量%以下であり、好ましくは1質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上50質量%以下である。炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)の含有量がこの範囲内であると、冷却液組成物の熱劣化後の導電性を抑制することができる。なお、冷却液組成物が2種以上の非直鎖アルキレングリコール(B)を含む場合、非直鎖アルキレングリコール(B)の含有量は、2種以上の非直鎖アルキレングリコール(B)の合計含有量である。
【0022】
本発明の冷却液組成物において、1,3-プロパンジオール(A)と少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)との質量比(含有量の比:A/B)は、0.10以上1.10以下であり、好ましくは0.50以上0.90以下である。本発明の冷却液組成物において、A/Bをこの範囲内に制御することにより、冷却液組成物の熱劣化後の導電性、極低温粘度及び防食性を良好な範囲にすることができる。具体的には、A/Bが0.10未満であると冷却液組成物の極低温粘度が高くなってしまい、A/Bが1.10超であると冷却液組成物の熱劣化後の導電性が高くなってしまう。
【0023】
本発明の冷却液組成物は、水(D)を含む。冷却液組成物中の水(D)の含有量は、冷却液組成物の他の成分(A)~(C)の残部とすることができる。冷却液組成物中の水(D)の含有量は、冷却液組成物に対して通常1質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、また、含有量の上限は、通常90質量%未満であり、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下である。冷却液組成物中の水(D)の含有量は、冷却液組成物に対して通常1質量%以上90質量%以下であり、好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、特に好ましくは20質量%以上70質量%以下である。
【0024】
本発明の冷却液組成物は、1,3-プロパンジオール(A)以外の直鎖アルキレングリコール(E)を含むことができる。このような直鎖アルキレングリコールとしては、特に限定されずに例えば炭素数2~6の直鎖アルキレングリコールが挙げられる。しかし、本発明の冷却液組成物は、好ましくは1,3-プロパンジオール(A)以外の直鎖アルキレングリコールを含まず、すなわち、1,3-プロパンジオール(A)を唯一の直鎖アルキレングリコールとして含む。
【0025】
本発明の冷却液組成物が、1,3-プロパンジオール(A)以外の直鎖アルキレングリコール(E)を含む場合、1,3-プロパンジオール以外の直鎖アルキレングリコール(E)と少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)との質量比(含有量の比:E/B)は0.25以下であり、好ましくは0.10以下である。E/Bが0.25超であると、冷却液組成物の熱劣化後の導電性が高くなってしまう。
【0026】
本発明の冷却液組成物には、必要に応じて、前記の成分(A)~(D)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を配合することができる。
【0027】
例えば、本発明の冷却液組成物には、腐食防止のため、少なくとも1種のpH調整剤を本発明の効果を損なわない範囲で含ませることができる。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムのいずれか1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。本発明の冷却液組成物の25℃におけるpHは、好ましくは6以上、より好ましくは7以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは9以下である。
【0028】
また、本発明の冷却液組成物には、少なくとも1種の酸化防止剤を本発明の効果を損なわない範囲で含ませることができる。酸化防止剤としては、特に限定されずに例えば、シクロアルキルアミン又はその誘導体、二酸化チオ尿素等のチオ尿素又はその誘導体、サリシン等の芳香族基含有グリコシド化合物、α-メチル-D-グルコシド等のアルキルグリコシド化合物、ヒドラジン等のポリアミン、3,6-ジアゾ-1,8-オクタンジオール等のアルカノールアミンを挙げることができ、サリシン、α-メチル-D-グルコシド及び3,6-ジアゾ-1,8-オクタンジオールが好ましい。冷却液組成物が酸化防止剤を含む場合、その含有量は、冷却液組成物に対して通常0.0001質量%以上1質量%以下であり、好ましくは0.001質量%以上0.1質量%以下である。
【0029】
また、本発明の冷却液組成物には、例えば、着色剤、染料、分散剤又は苦味剤等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜添加することができる。
【0030】
上記その他の添加剤の合計含有量は、冷却液組成物に対して、通常10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下である。
【0031】
本発明の冷却液組成物は、熱劣化後の導電性が十分に低く、例えば120℃で84時間静置した後の導電率が、好ましくは1.6μS/cm以下である。
【0032】
本発明の冷却液組成物は、極低温粘度が十分に低く、例えば-30℃における粘度が、好ましくは250mPa・s以下である。
【0033】
本発明において、冷却液組成物の製造方法は、本発明の効果が得られれば、特に限定されず、通常の冷却液組成物の製造方法を用いることができる。例えば、前記の成分(A)~(D)、必要により酸化防止剤等のその他の添加剤を低温で均一に撹拌することで製造できる。
【0034】
本発明は、前記の冷却液組成物を得るための濃縮冷却液組成物にも関し、特に電気自動車用濃縮冷却液組成物に関する。本発明の濃縮冷却液組成物は、前記の冷却液組成物の成分(A)~(C)を含み、必要により水(成分(D))及び酸化防止剤等のその他の添加剤を含有する。本発明の濃縮冷却液組成物は、水を用いて、例えば1.1質量倍以上5質量倍以下に希釈して、成分(A)~(D)を含む本発明の冷却液組成物を得るために用いることができる。よって、本発明の濃縮冷却液組成物は、成分(A)~(C)を含み、水(成分(D))を含まないものであってもよく、また、成分(A)~(C)及び水(成分(D))を含むものであってもよい。なお、本発明の濃縮冷却液組成物を水で希釈して前記の冷却液組成物が得られるため、濃縮冷却液組成物が水を含む場合、その含有量は、冷却液組成物中の水の含有量より少ない。また、本発明の濃縮冷却液組成物には、得られる冷却液組成物について本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を配合することができる。当該その他の添加剤としては、本発明の冷却液組成物について説明した前記の記載を引用するものとする。
【0035】
本発明の冷却液組成物は、一般に冷却液として用いることができ、好ましくは電気自動車用の冷却液として、より好ましくは電気自動車のバッテリーの冷却液として用いられる。なお、本発明の冷却液組成物は、自動車の内燃機関等の冷却液にも用いることができる。
【0036】
本発明の冷却液組成物においては、少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)を、1,3-プロパンジオール(A)及び式(I)で表される少なくとも1種の化合物(C)を含む冷却液組成物に添加することにより、該冷却液組成物の熱劣化後の導電性を低下させることができる。したがって、本発明は、1,3-プロパンジオール(A)及び式(I)で表される少なくとも1種の化合物(C)を含む冷却液組成物の熱劣化後の導電性を低下させるための、少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)の使用にも関する。また、同様に、本発明は、1,3-プロパンジオール(A)、式(I)で表される少なくとも1種の化合物(C)及び水(D)を含む冷却液組成物の熱劣化後の導電性を低下させるための、少なくとも1種の炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)の使用にも関する。成分(A)~(D)については冷却液組成物について前記の通りである。
【実施例
【0037】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1
1,3-プロパンジオール(PDO)18.9質量%、1,2-プロパンジオール35質量%、防錆剤としてのトリルトリアゾール(TTA)0.1質量%、並びに水(純水)46質量%を混合して冷却液組成物を得た。
【0039】
実施例2~5
1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール及び防錆剤の量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして冷却液組成物を得た。
【0040】
実施例6
1,3-プロパンジオール21.6質量%、1,2-プロパンジオール21.6質量%、1,3-ブタンジオール10.5質量%、防錆剤としてのトリルトリアゾール0.3質量%、並びに水46質量%を混合して冷却液組成物を得た。
【0041】
実施例7
1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール及び1,3-ブタンジオールの量を表1に示すように変更した以外は、実施例6と同様にして冷却液組成物を得た。
【0042】
実施例8~10
1,2-プロパンジオールの一部を酸化防止剤としてのサリシン、α-メチル-D-グルコシド及び3,6-ジアゾ-1,8-オクタンジオールに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例8、9及び10の冷却液組成物を得た。
【0043】
比較例1
1,3-プロパンジオール54質量%及び水46質量%を混合して冷却液組成物を得た。
【0044】
比較例2~3
水の一部を防錆剤としてのトリルトリアゾールに変更した以外は、比較例1と同様にして冷却液組成物を得た。
【0045】
比較例4
1,3-プロパンジオール32.4質量%、1,2-プロパンジオール21.6質量%、及び水46質量%を混合して冷却液組成物を得た。
【0046】
比較例5~6
1,2-プロパンジオールの一部を防錆剤としてのトリルトリアゾールに変更した以外は、比較例4と同様にして冷却液組成物を得た。
【0047】
比較例7~8
1,3-プロパンジオール及び1,2-プロパンジオールの量を表1に示すように変更した以外は、比較例4と同様にして冷却液組成物を得た。
【0048】
比較例9
1,2-プロパンジオール53.7質量%、防錆剤としてのトリルトリアゾール0.3質量%、及び水46質量%を混合して冷却液組成物を得た。
【0049】
比較例10~11
1,2-プロパンジオールの一部を、1,3-プロパンジオールとエチレングリコール又は1,4-ブタンジオールとの組み合わせにそれぞれ変更した以外は、比較例9と同様にして比較例10及び11の冷却液組成物を得た。
【0050】
比較例12
防錆剤をベンゾチアゾールに変更した以外は、実施例3と同様にして冷却液組成物を得た。
【0051】
実施例1~10及び比較例1~12の冷却液組成物について、熱劣化後の導電率(劣化後導電率)、極低温粘度及び防食性を評価した。結果を表1に示す。
【0052】
<熱劣化後の導電率>
250mlネジ口瓶に冷却液組成物100mlを入れ、120℃環境下に84時間静置した。その後、冷却液組成物を取出した後、25℃に調温し、冷却液組成物の導電率を測定した。導電率の測定は、横河電機(株)製のパーソナルSCメータSC72、検出器SC72SN-ll(純水用)を用いて測定した。熱劣化後の導電率は、1.6μS/cm以下を良好と判断した。
【0053】
<極低温粘度>
アントンパール社製のレオメータを用いて、-30℃における粘度を測定した。-30℃における極低温粘度は、250mPa・s以下を良好と判断した。
【0054】
<防食性>
250mlネジ口瓶に冷却液組成物200mlと、JIS K 2234 8.6 金属腐食性に規定する研磨を行い、質量を測定した鋳鉄(FC200)を入れ、120℃環境下に84時間静置した。鋳鉄を取出した後、JIS K 2234 8.6 金属腐食性に規定する処理を行い、質量を測定し、質量変化を表面積で割った数値を算出した。防食性は、-0.1g/cm以上を良好と判断した。
【0055】
【表1】
【0056】
表1より、実施例1~10の冷却液組成物は、全て、熱劣化後の導電率が1.6μS/cm以下であり、極低温粘度が250mPa・s以下であり、防食性が-0.1g/cm以上であり、熱劣化後の導電性、極低温粘度及び防食性が全て良好であった。すなわち、冷却液組成物において、炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)を、1,3-プロパンジオール(A)と炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)との質量比(A/B)を0.10以上1.10以下の範囲内に制御して用いることにより、冷却液組成物の熱劣化後の導電性、極低温粘度及び防食性が良好となった。
【0057】
一方、比較例1、4、7及び8では、防錆剤が無配合のため、熱劣化後の導電性は良好であったが、防食性が低かった。また、比較例2、3の冷却液組成物は、比較例1の冷却液組成物に防錆剤としてトリルトリアゾールが配合されたものであり、また、比較例5、6の冷却液組成物は、比較例4の冷却液組成物に防錆剤としてトリルトリアゾールが配合されたものであるが、これらは、防錆剤を配合したことにより防食性は高くなるが、1,3-プロパンジオール(A)と炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)との質量比が本発明の範囲外であり、熱劣化後の導電率が高かった。また、比較例9では、1,3-プロパンジオールが無配合のため、極低温粘度が高かった。比較例10、11では、1,3-プロパンジオール以外の直鎖アルキレングリコール(E)が配合されているが、1,3-プロパンジオール以外の直鎖アルキレングリコール(E)と炭素数3~6の非直鎖アルキレングリコール(B)との質量比(E/B)が本発明の範囲外であるため、熱劣化後の導電率が高かった。比較例12では、防錆剤としてトリルトリアゾールをベンゾチアゾールに変更しているが、熱劣化後の導電率が高かった。
【0058】
以上より、1,3-プロパンジオールと、特定の非直鎖アルキレングリコールと、防錆剤としてトリルトリアゾール等のアゾール類を配合し、1,3-プロパンジオールと、特定の非直鎖アルキレングリコールとの質量比を所定の範囲内に制御し、また、1,3-プロパンジオール以外の直鎖アルキレングリコールを含む場合、1,3-プロパンジオール以外の直鎖アルキレングリコールと、特定の非直鎖アルキレングリコールとの質量比を所定の範囲内に制御することにより、冷却液組成物の熱劣化後の導電性、極低温粘度及び防食性の全てを良好にすることが可能となることが示された。