(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】図面認識装置、図面認識方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/60 20170101AFI20220726BHJP
G06T 7/90 20170101ALI20220726BHJP
G06F 30/12 20200101ALI20220726BHJP
【FI】
G06T7/60 200Z
G06T7/90 C
G06F30/12
(21)【出願番号】P 2018230463
(22)【出願日】2018-12-08
【審査請求日】2019-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】591280197
【氏名又は名称】株式会社構造計画研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100175064
【氏名又は名称】相澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】福本 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】福留 徹也
(72)【発明者】
【氏名】坂元 一雄
【審査官】▲広▼島 明芳
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-250114(JP,A)
【文献】特開昭61-221978(JP,A)
【文献】特表2018-503174(JP,A)
【文献】特開平06-052243(JP,A)
【文献】特開2010-219720(JP,A)
【文献】特開平11-224258(JP,A)
【文献】青木 康浩,外1名,手書き間取り図面認識のための仮想グリッド抽出方法,1998年電子情報通信学会総合大会,1998年,D-12-17,pp.216
【文献】塩 昭夫,外1名,手書き建築間取り図面理解システム: Sketch Plan,電子情報通信学会論文誌 ,1999年,Vol.J82-D-II No.3,pp.431-439
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00 - 7/90
G06F 30/10 - 30/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線分を覆う又は囲むように、前記線分とは異なる特定色で着色された領域を有する図面画像を入力する図面画像入力手段と、
前記特定色で着色された領域を認識し、前記特定色で着色された領域又は前記特定色で着色された領域の内部にある閉領域に含まれている前記線分を認識して線分オブジェクトを生成する認識手段と、を有し、
前記特定色は、前記線分の種類ごとに異なり、
前記認識手段は、
第1の色で着色された領域又は前記第1の色で着色された領域の内部にある閉領域を抽出し、
前記抽出された領域内にある線分を認識して寸法線オブジェクトを生成し、
あらかじめ定められた建物サイズデータ及びモジュール長とに基づいてピッチを算出し、
前記寸法線オブジェクトと、前記ピッチとに基づいてグリッド線を生成する
図面認識装置。
【請求項2】
前記認識手段は、
第2の色で着色された領域の内部にある閉領域を抽出し、
前記閉領域の外縁をなす点を前記グリッド線上に移動することにより外周線オブジェクトを生成する
請求項1記載の図面認識装置。
【請求項3】
前記認識手段は、
第3の色で着色された領域を抽出し、
前記着色された領域内にある線分を認識して描画線オブジェクトを生成する
請求項1記載の図面認識装置。
【請求項4】
前記認識手段は、
前記描画線オブジェクトを前記グリッド線上に移動する
請求項3記載の図面認識装置。
【請求項5】
前記認識手段は、
前記外周線オブジェクトにより囲まれた閉領域を抽出し、部屋として認識する
請求項
2記載の図面認識装置。
【請求項6】
前記認識手段は、
前記描画線オブジェクトにより囲まれた閉領域を抽出し、部屋として認識する
請求項3記載の図面認識装置。
【請求項7】
前記認識手段は、
前記外周線オブジェクト及び前記描画線オブジェクトにより囲まれた閉領域を抽出し、部屋として認識する
請求項2及び3記載の図面認識装置。
【請求項8】
前記認識手段は、
前記外周線
オブジェクトの内側であって、かつ第4の色で着色された領域の内部にある閉領域を抽出し、中庭として認識する
請求項
2記載の図面認識装置。
【請求項9】
コンピュータが、
線分を覆う又は囲むように、前記線分とは異なる特定色で着色された領域を有する図面画像を入力する図面画像入力ステップと、
前記特定色で着色された領域を認識し、前記特定色で着色された領域又は前記特定色で着色された領域の内部にある閉領域に含まれている前記線分を認識して線分オブジェクトを生成する認識ステップと、を有し、
前記特定色は、前記線分の種類ごとに異なり、
前記認識ステップは、
第1の色で着色された領域又は前記第1の色で着色された領域の内部にある閉領域を抽出する領域抽出ステップと、
前記抽出された領域内にある線分を認識して寸法線オブジェクトを生成する寸法線生成ステップと、
あらかじめ定められた建物サイズデータ及びモジュール長とに基づいてピッチを算出するピッチ算出ステップと、
前記寸法線オブジェクトと、前記ピッチとに基づいてグリッド線を生成するグリッド線生成ステップとを含む
図面認識方法。
【請求項10】
請求項
9記載の図面認識方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は図面認識装置、図面認識方法及びプログラムに関し、特に図面の画像から線分や閉領域等の図形オブジェクトを容易かつ的確に抽出できる図面認識装置、図面認識方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
手書き、印刷、画面表示又は投影などにより提供される図面(以下、単に図面という)を画像(以下、画像、画像データ、図面画像又は図面画像データという)として読み込み、図面画像データから寸法線、外周線及び描画線等の線分、並びに閉領域等の図形オブジェクトを抽出し、図形オブジェクトに対して建具、壁や柱、部屋等の意味づけを行う技術が種々提案されている。図形オブジェクトはCADアプリケーショ等で扱うことが可能であるから、これらの技術により設計、施工、検査及びメンテナンス業務等の生産性が格段に向上する。
【0003】
例えば特許文献1には、図面画像から水平および垂直線分を抽出し、当該線分に囲まれた閉領域を抽出するとともに、当該図面画像から間取り記号や図面記号を認識し、当該閉領域の部屋機能を識別する建築図面認識装置が記載されている。
【0004】
関連技術として、特許文献2には、建設図面の画像に含まれる輪郭線をスムージングすることにより、直線や円弧等の基本線図の認識精度を向上させる画像処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-124547号公報
【文献】特開2000-187730号公報
【文献】特開2006-195622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図面の仕様は業種や作成者によって様々であり、図面画像から線分や閉領域等を抽出する際のルールを一律に規定することが困難である。また、図面が込み入っている場合には、画像から抽出すべき線分や閉領域等を識別すること自体が困難であることが少なくない。よって、図面の画像データから抽出すべき線分や閉領域等を容易かつ的確に特定し、図形オブジェクトとして抽出する技術の確立が望まれている。
【0007】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、図面の画像から線分や閉領域等の図形オブジェクトを容易かつ的確に抽出できる図面認識装置、図面認識方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る図面認識装置は、線分を覆う又は囲むように、前記線分とは異なる特定色で着色された領域を有する図面画像を入力する図面画像入力手段と、前記特定色で着色された領域を認識し、前記特定色で着色された領域又は前記特定色で着色された領域の内部にある閉領域に含まれている前記線分を認識して線分オブジェクトを生成する認識手段と、を有し、前記特定色は、前記線分の種類ごとに異なり、前記認識手段は、第1の色で着色された領域又は前記第1の色で着色された領域の内部にある閉領域を抽出し、前記抽出された領域内にある線分を認識して寸法線オブジェクトを生成し、あらかじめ定められた建物サイズデータ及びモジュール長とに基づいてピッチを算出し、前記寸法線オブジェクトと、前記ピッチとに基づいてグリッド線を生成する。
本発明の一実施形態に係る図面認識装置において、前記認識手段は、第2の色で着色された領域の内部にある閉領域を抽出し、前記閉領域の外縁をなす点を前記グリッド線上に移動することにより外周線オブジェクトを生成する。
本発明の一実施形態に係る図面認識装置において、前記認識手段は、第3の色で着色された領域を抽出し、前記着色された領域内にある線分を認識して描画線オブジェクトを生成する。
本発明の一実施形態に係る図面認識装置において、前記認識手段は、前記描画線オブジェクトを前記グリッド線上に移動する。
本発明の一実施形態に係る図面認識装置において、前記認識手段は、前記外周線オブジェクト及び/又は前記描画線オブジェクトにより囲まれた閉領域を抽出し、部屋として認識する。
本発明の一実施形態に係る図面認識装置において、前記認識手段は、前記外周線の内側であって、かつ第4の色で着色された領域の内部にある閉領域を抽出し、中庭として認識する。
本発明の一実施形態に係る図面認識方法は、コンピュータが、線分を覆う又は囲むように、前記線分とは異なる特定色で着色された領域を有する図面画像を入力する図面画像入力ステップと、前記特定色で着色された領域を認識し、前記特定色で着色された領域又は前記特定色で着色された領域の内部にある閉領域に含まれている前記線分を認識して線分オブジェクトを生成する認識ステップと、を有し、前記特定色は、前記線分の種類ごとに異なり、前記認識ステップは、第1の色で着色された領域又は前記第1の色で着色された領域の内部にある閉領域を抽出する領域抽出ステップと、前記抽出された領域内にある線分を認識して寸法線オブジェクトを生成する寸法線生成ステップと、あらかじめ定められた建物サイズデータ及びモジュール長とに基づいてピッチを算出するピッチ算出ステップと、前記寸法線オブジェクトと、前記ピッチとに基づいてグリッド線を生成するグリッド線生成ステップとを含む。
本発明の一実施形態に係るプログラムは、上記図面認識方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、図面の画像から線分や閉領域等の図形オブジェクトを容易かつ的確に抽出できる図面認識装置、図面認識方法及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】着色された図面の画像データの一例である。
【
図1B】前処理が施された図面の画像データの一例である。
【
図2】図面認識装置100の概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3A】実施の形態1にかかる図面認識装置100の概略的な機能構成を示すブロック図である。
【
図3B】実施の形態2にかかる図面認識装置100の概略的な機能構成を示すブロック図である。
【
図5A】寸法線認識手段105による処理過程を示す図である。
【
図5B】寸法線認識手段105による処理過程を示す図である。
【
図5C】寸法線認識手段105による処理過程を示す図である。
【
図6】外周線認識手段107による処理過程を示す図である。
【
図7】描画線(開口部)認識手段109による処理過程を示す図である。
【
図8】描画線(間仕切)認識手段111による処理過程を示す図である。
【
図9】閉領域認識手段119による処理過程を示す図である。
【
図13】着色された図面の画像データの一例である。
【
図14】着色された図面の画像データの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の実施の形態1にかかる図面認識装置100は、
図1Aに示すような、予め着色された図面の画像データを取得し、その着色に基づいて、抽出すべき図形オブジェクト(例えば外周線、窓等の開口部、壁等の間仕切、扉等の建具などに分類されるオブジェクト)やその種類を特定するものである。すなわち、図面に含まれる所定の要素は、予め、その種類に応じた所定の色で着色されている必要がある。
【0012】
例えば、外周線は赤及び黄、外周線のうち開口部に当たる部分の描画線は黄、間仕切を示す描画線は青、建具を示す描画線は緑で着色する。この際の着色は、外周線及び描画線等を覆い、かつ外周線及び描画線等が透過するように行われることが好ましい。例えば、外周線及び描画線等が黒色で印刷された紙の図面において、黄、青、緑のラインマーカ等で外周線及び描画線等をなぞるように着色する。また、寸法線はその周囲を囲むように緑で着色する。外周線、描画線及び寸法線等は、着色と明確に区別できるよう、典型的には黒色で描くことが好ましい。
【0013】
図2は、図面認識装置100の概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。図面認識装置100は、CPU11、揮発性メモリ13、不揮発性メモリ14、インタフェース15、インタフェース16、バス20、入出力装置70、撮影装置80を有する情報処理装置である。
【0014】
図面認識装置100は、単体の情報処理装置であっても良く、複数の情報処理装置により構成されていても良い。例えば、図面認識装置100の全ての機能が1つの携帯端末装置等に実装されても良い。または、1部の機能は携帯端末装置等に、他の機能はサーバコンピュータ等に実装されても良い。この場合、サーバコンピュータはクラウドコンピューティング、エッジコンピューティング及びフォグコンピューティング等の技術を利用して提供されるものであっても良い。
【0015】
CPU11(中央処理装置)は、不揮発性メモリ14に格納されたプログラムを、バス20を介して読み出し、プログラムに従った情報処理を実行することにより特有の機能を実現する。
【0016】
不揮発性メモリ14は、図面認識装置100の電源の状態にかかわらず記憶状態が保持される記憶装置であり、例えばハードディスクやSSD等である。一般に、不揮発性メモリ14に記憶されているプログラムやデータは、プログラム実行時に揮発性メモリ13に展開される。
【0017】
揮発性メモリ13には、不揮発性メモリ14から展開されたプログラムやデータをはじめ、一時的な計算データや入出力装置70を介して入力又は出力されるデータ等が格納される記憶装置である。
【0018】
入出力装置70はディスプレイ等のデータ出力装置、キーボード等のデータ入力装置、外部装置(例えばネットワークを介して接続された他の情報処理装置など)との通信を制御する通信インタフェース等を含む。CPU11から出力された表示データは、インタフェース15を介してディスプレイに表示される。キーボードから入力された指令やデータは、インタフェース15を介してCPU11に渡される。通信インタフェースはCPU11が出力する送信データをインタフェース15により取得し、外部装置に対して出力する。また通信インタフェースは外部装置より受信データを取得し、インタフェース15を介してCPU11に引き渡す。
【0019】
撮影装置80は、カメラ等により図面を撮影し、画像データを出力する装置である。画像データは、インタフェース16を介してCPU11に渡される。
【0020】
図3Aは、本発明の実施の形態1にかかる図面認識装置100の概略的な機能構成を示すブロック図である。図面認識装置100は、図面画像入力手段101、前処理手段103、寸法線認識手段105、外周線認識手段107、描画線(開口部)認識手段109、描画線(間仕切)認識手段111、描画線(建具)認識手段117、閉領域認識手段119、出力手段121を有する。
【0021】
(図面画像の入力)
図面画像入力手段101は、手書き、印刷、画面表示又は投影などにより提供される図面の画像データを取得する。図面画像入力手段101は、典型的には撮影装置80により図面を撮影して画像データを得る。または、作成済みの画像データを、揮発性メモリ13、不揮発性メモリ14又は入出力装置70から読み込んでも良い。
【0022】
ここで、画像データは、上述のように予め着色されている必要がある。また、図面中に図面枠が描かれている場合は、図面枠を画像内に収めることが好ましい。
図1Aは、図面画像入力手段101が読み込んだ図面画像データの例を示している。この例では、図面が色1乃至色4の4色を用いて着色されており、寸法線及び建具は色1、外周線(開口部を除く)は色2、開口部は色3、間仕切は色4で着色されているものとする。
【0023】
(建物サイズデータの入力)
前処理手段103は、図面画像入力手段101から図面の画像データを取得する。また、
図4に示すような、建物サイズデータを併せて取得することができる。建物サイズデータは、図面に描かれている建物の最大外形寸法を示す情報である。
図4の例では、図面ファイル名と、当該図面に描かれた建物のX方向の最大外形寸法とY方向の最大外形寸法がテキスト形式で記載されたcsvファイルとして、建物サイズデータが与えられている。例えば、
図4の1レコード目は、図面ファイル「IMG_0000」においては、建物の最大外形寸法がwidth(X方向の幅)=「10060」,height(Y方向の奥行)=「6560」であることが示されている。なお、ファイルのフォーマットや形式等はこの例に限定されず任意に決定しうる。また、建物サイズデータは、例えばキーボードからの直接入力など他の手法で与えられても良い。
【0024】
(影やノイズの除去)
前処理手段103は、図面の画像データに含まれる影やノイズ等を除去するための画像処理を行うことができる。これにより、後述の線分取得処理等におけるエラー発生を抑制できる。
【0025】
・影の除去
前処理手段103は、例えば図面をカメラで撮影する際に照明むら等に起因して発生した影を、画像処理により除去することができる。影の除去技術のひとつに凹凸係数を用いるものがある。特許文献3によれば、凹凸係数とは、数画素平方単位に分割した画素ブロック単位で計算される、各画素値をブロック内の全画素の平均輝度値で除算した値である。凹凸係数を用いて閾値を自動的に変動させつつ2値化処理を行うことにより、照明むらに起因する低周波数成分の影響を受けることなく、影が除去された明瞭な図面画像データを得ることができる。
【0026】
・ノイズの除去
前処理手段103は、図面データに含まれるノイズを除去することができる。ノイズの除去技術のひとつにモルフォロジー変換がある。例えば影の除去処理を行った後の2値画像を対象として、収縮(Erosion)及び膨張(Dilation)と呼ばれる処理を繰り返すことにより、ノイズが除去された明瞭な図面画像データを得ることができる。
【0027】
(図枠によるトリミング)
前処理手段103は、図面内に描かれた図枠で画像データをトリミングし、形状を整える補正を行うことができる。これにより、後述の線分取得処理等を効率的に進めることが可能となる。図枠は図面の最も外側に描かれた矩形であるから、前処理手段103は、画像データに含まれる最も大きな閉領域を抽出することで図枠を認識する。次に、認識した図枠を境界とするトリミングを行い、トリミング後の領域を透視変換などの公知の手法により矩形に補正する。
【0028】
(色の変換)
前処理手段103は、着色部分の色を、色マスクを用いた処理において扱いやすい色へと変換する処理を行う。これにより、後述の線分取得処理等におけるエラー発生を抑制できる。色の変換処理には、例えば色の強調及び色クラスタリングが含まれる。
【0029】
・色の強調
前処理手段103は、例えば明度及び彩度による2値化により、着色部分の色を強調することができる。前処理手段103は、画像の色空間を、彩度及び色差信号をパラメータに持つ色空間(YCbCrやHSV等)に変換した後、色差信号及び彩度チャネルにおいて2値化処理を行う。これにより、図面画像内で着色されている部分と、その他の部分との相違を明確化する。
【0030】
・色クラスタリング
また、前処理手段103は、画像内で使用されている色のばらつきを吸収し、色数を抑制する処理を行うことができる。この処理を色クラスタリング、減色又は単純化という。着色した図面の画像や、その画像に色の2値化(強調)処理を施した画像から、特定の色で着色された領域のみを抽出しようとすると、所望の領域を正しく抽出できない場合がある。これは、着色部分の色合いの変化や色ムラなどにより、同じ色で着色した部分であってもRGBの各値が微妙に異なっていることがあるためである。色クラスタリングは、例えばK-means法などの公知技術により実現できる。例えば色数K=6で色クラスタリングをおこなうことにより、着色部分を6色(白、黒、緑に近い色、ピンクに近い色、オレンジに近い色、青に近い色)に分類することができる。前処理手段103は、各クラスタに分類された画素に対し、クラスタを示すマーキングを行う、画素の色をクラスタの代表値(平均値等)で置き換えるなどの処理を行う。
【0031】
図1Bは、前処理手段103が上述の影やノイズの除去、図枠でのトリミング、色の変換の各処理を行った後の図面画像データの例を示している。
【0032】
(寸法線の取得)
寸法線認識手段105は、図面画像中の寸法線を認識する。本実施の形態では、
図1Bに示すように、寸法線の周囲を色1により着色されているものとする。
【0033】
図5Aに示すように、寸法線認識手段105は、画像中の色1の着色領域(
図5Aでは白抜きで示されている領域)を抽出する。また、抽出した領域の内部にある閉領域を抽出する。さらに、
図5Bに示すように、閉領域の内部にある描画線から直線成分を抽出する。着色領域の抽出、閉領域の抽出は種々の公知技術により実現可能であるため詳細な説明を省略する。直線成分の抽出は、閉領域に含まれる描画線を抽出し、描画線の近似線分を計算して、線分オブジェクトを生成することにより行う。画像内からの線分要素の抽出に用いられる公知の手法として代表的なものにLSD(Line Segment Detector)がある。
【0034】
図5Aに示すように、X方向又はY方向に対向する1対の着色領域がある場合、双方の着色領域内に存在する寸法線の全長(端点から端点までの長さ)は同一である場合が多い。しかしながら、ノイズの影響で描画線が実際よりも長く認識されるなどの要因により、対向する寸法線の全長が相違することがある。そこで寸法線認識手段105は、双方の寸法線の全長を比較し、相違する場合は全長を一致させる補正を行うことができる。
【0035】
例えば、寸法線認識手段105は、双方の寸法線の端点を比較し、いずれか内側にある方(寸法線の全長が短くなる方)に双方の端点を一致させることができる。
図5Cは、X方向に伸長する寸法線1と、これに対向する寸法線2との全長が異なっている場合の一例を示している。まず、寸法線1の端点Aと寸法線2の端点Bとにずれがある。この場合は、端点A及びBのX座標を端点Bのものに統一する。また、寸法線1の端点Cと寸法線2の端点Dとにずれがある。この場合は、端点C及びDのX座標を端点Cのものに統一する。すなわち、寸法線の伸長方向における座標が小さい端点のグループ(A,B)では座標が大きい方(B)、座標が大きいグループ(C,D)では座標が小さい方(C)に座標値を揃える。
【0036】
(グリッド線の作成)
寸法線認識手段105は、認識した寸法線に基づいてグリッド線を作成する。グリッド線とは、予め定められたピッチで描かれた複数の平行線である。グリッド線は、X軸に平行なグリッド線と、Y軸な平行なグリッド線とを含む。基本的に、図面においては、建物の外周線、開口部、間仕切等はこのグリッド線に沿って配置される。
【0037】
寸法線認識手段105は、まず寸法補助線(
図12A参照)上を通るグリッド線を生成する(
図12B参照)。次に、その上下又は左右方向に、所定のピッチで平行なグリッド線を追加していく。すなわち、X方向に伸長するグリッド線はY座標を、Y方向に伸長するグリッド線はX座標をそれぞれ所定のピッチで変化させつつ、グリッド線(
図12Cに破線で示す)を追加していく。
【0038】
なお、グリッド線のピッチは、前処理手段103が取得する建物サイズデータと、予め定められたモジュール長とから算出できる。モジュール長は、図示しない記憶領域やファイル等に予め記録されたものを取得してもよく、又はユーザがキーボード等を介して入力するものを取得してもよい。例えば、建物のX方向の最大外形寸法がx1(mm)、モジュール長がx2(mm)、X軸に平行な寸法線の長さがx3(ピクセル)である場合、グリッド線のピッチはx2*(x3/x1)(ピクセル)である。
【0039】
(外周線の取得)
外周線認識手段107は、図面画像中の外周線を認識する。本実施の形態では、図面に描かれている外周線上を、ユーザが予め色2又は色3で着色しているものとする。より具体的には、外周線上の開口部を色3、その他の外周線を色2で着色する。
【0040】
図6に示すように、外周線認識手段107は、画像中の色2及び色3の着色領域を抽出し、抽出した領域の内部にある閉領域を抽出する。さらに、閉領域の頂点(外縁を構成する点群)を抽出し、着色領域内で当該頂点に最も近いグリッド線上に各点を移動する。グリッド線上に移動された点群の近似線分を計算し、外周線を示す線分オブジェクトを生成する。
【0041】
(描画線(開口部)の取得)
描画線(開口部)認識手段109は、図面画像中の開口部の描画線を認識する。本実施の形態では、図面に描かれている開口部の描画線を、ユーザが予め色3で着色しているものとする。
【0042】
図7に示すように、描画線(開口部)認識手段109は、画像中の色3の着色領域を抽出し、抽出した領域に含まれる描画線に対応する線分オブジェクトを、寸法線認識手段105と同様の手法により生成する。さらに、描画線(開口部)認識手段109は、線分オブジェクトの位置を、着色領域内で当該線分に最も近いグリッド線上に移動させる補正を行う。この補正により外周線に一致した部分のみを、描画線(開口部)として抽出する。
【0043】
(描画線(間仕切)の取得)
描画線(間仕切)認識手段111は、図面画像中の間仕切の描画線を認識する。本実施の形態では、図面に描かれている間仕切の描画線を、ユーザが予め色4で着色しているものとする。
【0044】
描画線(間仕切)認識手段111は、画像中の色4の着色領域を抽出し、抽出した領域に含まれる描画線に対応する線分オブジェクトを、寸法線認識手段105と同様の手法により生成する。
図8に、抽出された線分オブジェクトの例を示す。さらに、描画線(間仕切)認識手段111は、線分オブジェクトの位置を、着色領域内で当該線分に最も近いグリッド線上に移動させる補正を行う。着色領域内に複数のグリッド線が含まれる場合、この補正により二重線などの不要線が発生する場合がある。この場合、いずれか1つのグリッド線上にある線分のみを描画線(間仕切)として抽出する。例えば寸法補助線上にあるグリッド線などの優先度を高く設定し、優先度の高いグリッド線上にある線分のみを描画線(間仕切)として抽出することとしても良い。
【0045】
(描画線(建具)の取得)
描画線(建具)認識手段117は、図面画像中の建具の描画線を生成及び認識する。本実施の形態では、図面に描かれている建具の描画線のあるべき位置を、ユーザが予め色1で着色しているものとする。なお、建具は、そのあるべき位置は決まっているものの、それが描画線として図面中に描かれていない場合が多い(
図1A又は
図1B参照)。そのため、本実施の形態では、グリッド線を基に建具の描画線を生成する処理を行う。
【0046】
描画線(建具)認識手段117はまず、グリッド線に重畳する、所定の幅を持つ直線の画像(仮描画線)を生成する。さらに、図面画像中の色1の着色領域を抽出し、抽出した領域の内部に含まれる仮描画線に対応する線分オブジェクトを、寸法線認識手段105と同様の手法により生成し、描画線(建具)とする。描画線(建具)認識手段117は、描画線(間仕切)認識手段111と同様に、線分オブジェクトの位置を、最も近い着色領域内のグリッド線上に移動させる補正を行ってもよい。これらの処理の後、仮描画線は破棄して構わない。
【0047】
(閉領域(部屋)の取得)
閉領域認識手段119は、図面画像中の部屋を認識する。
図9に示すように、上述の処理により作成された外周線、ならびに描画線(開口部)、描画線(間仕切部)及び描画線(建具)の線分オブジェクトを重畳し、形成される閉領域を抽出する。また、閉領域の頂点(外縁を構成する点群)を抽出し、最も近いグリッド線上に各点を移動する補正を行う。こうして生成される領域を閉領域(部屋)とする。
【0048】
出力手段121は、上述の一連の図面認識処理の結果を出力する。例えば出力手段121は、閉領域認識手段119が認識した各閉領域(部屋)に一意の識別子を付与し、当該識別子と、各閉領域(部屋)を表現する座標値のセット(典型的には閉領域の多角形の頂点のXY座標のセット)とを組にして出力する。
図10は、これをテキストファイル形式で出力した場合の例を示している。例えば、
図10の1行目のレコードは、識別子「1.0」の閉領域(部屋)の頂点の座標が(6000.0,3000.0),(6000.0,0.0),(10000.0,0.0),(10000.0,3000.0)であることを示している。なお、ファイルのフォーマットや形式等はこの例に限定されず任意に決定しうる。
【0049】
同様に、出力手段121は、外周線、ならびに描画線(開口部)、描画線(間仕切部)及び描画線(建具)の線分オブジェクトを示す座標値(典型的には線分の始点及び終点のXY座標)を出力することもできる。
図11に示すように、線分オブジェクトの種類ごとにテキストファイルを出力することもできる。
【0050】
<実施の形態2>
図3Bは、本発明の実施の形態2にかかる図面認識装置100の概略的な機能構成を示すブロック図である。実施の形態1と比較して、実施の形態2の図面認識装置100は、中庭認識手段113、描画線(袖壁)認識手段115をさらに有する点に特徴がある。その他の処理手段やハードウェア構成については、実施の形態1と同様である。
【0051】
図13及び
図14は、実施の形態2において図面画像入力手段101が入力する図面画像データの例を示している。実施の形態1と同様に、寸法線及び建具は色1、外周線(開口部を除く)は色2、開口部は色3、間仕切は色4で着色されている。加えて、本実施の形態では、袖壁が色5(
図13参照)、中庭が色6(
図14参照)で着色されている。
【0052】
(中庭の取得)
中庭認識手段113は、図面画像中の中庭を認識する。本実施の形態では、図面に描かれている中庭の外周を、ユーザが予め色6で着色しているものとする。
【0053】
中庭認識手段113は、画像中の色6の着色領域(
図14参照)を抽出し、抽出した領域の内部にある閉領域を抽出する。ここで抽出される閉領域は、外周線認識手段107が抽出する外周線よりも内側にあるものとする。中庭認識手段113はさらに、閉領域の頂点(外縁を構成する点群)を抽出し、着色領域内で当該頂点に最も近いグリッド線上に各点を移動する。グリッド線上に移動された点群の近似線分を計算し、中庭を示す多角形領域のオブジェクトを生成する。
【0054】
(描画線(袖壁)の取得)
描画線(袖壁)認識手段115は、図面画像中の袖壁の描画線を認識する。本実施の形態では、図面に描かれている袖壁の描画線を、ユーザが予め色5で着色しているものとする。
【0055】
描画線(袖壁)認識手段115は、画像中の色5の着色領域(
図13参照)を抽出し、抽出した領域に含まれる描画線に対応する線分オブジェクトを、寸法線認識手段105と同様の手法により生成する。さらに、描画線(袖壁)認識手段115は、線分オブジェクトの位置を、着色領域内で当該線分に最も近いグリッド線上に移動させる補正を行う。こうして生成される描画線(袖壁)は、外周線の外側にある点で他の描画線と区別される。
【0056】
出力手段121は、中庭の閉領域及び描画線(袖壁)の線分を示す座標値を出力することができる。例えば、中庭は実施の形態1の部屋と同様の形式で出力することが可能である。この際、部屋とは別ファイルとして中庭のデータを出力できる。また、描画線(袖壁)も、他の描画線と同様の形式で出力可能である。
【0057】
上述の実施の形態によれば、図面認識装置は、寸法線、描画線など抽出すべき要素に予め着色が施された図面を画像として読み込み、着色を手がかりとして図面オブジェクトを抽出する。これにより、画像から抽出すべき線分や閉領域等を的確に識別することができ、高精度かつ容易に図面オブジェクトを取得することができる。
【0058】
また、上述の実施の形態によれば、図面認識装置は、抽出すべき図面オブジェクトの種類ごとに最適化された抽出方法を採用する。これを上記着色に基づき識別手法と併用することにより、線分や閉領域等より的確に識別することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。本発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0060】
例えば、上述の実施の形態では、図面に含まれる外周線が1つである場合を主に想定した。しかしながら、本発明はこれに限定されず、1つの図面に外周線が2つ以上含まれていてもよい。例えば、ツインタワー、廊下で分断された建物、離れを有する建物などでは外周線が2以上となる場合がある。この場合、外周線認識手段107が複数の閉領域を認識したならば、各閉領域(外周線)に一意の識別子を付与することができる。そして出力手段121は、外周線を示す識別子と、各外周線の領域を示す座標値のセットと、各外周線内にある部屋の識別子と、各部屋の領域を示す座標値のセットと、を組にして出力することができる。
【0061】
また、上述の実施の形態では、外周線、開口部及び間仕切等の描画線については、予め外周線又は描画線が視認可能な線として描かれていることを前提とした処理を行った。しかしながら、本発明はこれに限定されず、外周線、開口部及び間仕切が描画線として描かれていない場合にも適用可能である。すなわち、着色部分が存在すれば、描画線(建具)認識手段117と同じように、グリッド線上に仮描画線を形成し、着色領域内の仮描画線に相当する線分オブジェクトを生成することができる。
【0062】
また、上述の実施の形態では、寸法線取得処理及びグリッド線作成処理について、X方向又はY方向に対向する1対の寸法線が存在する場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されず、対向する寸法線のうちいずれか一方が欠けていても構わない。すなわち、X方向に対向する1対の(つまり左右の)寸法線のうちいずれかひとつ、及びY方向に対向する1対の(つまり上下の)寸法線のうちいずれかひとつが少なくとも存在すれば、全ての寸法線が揃っている場合に比べ精度は落ちるものの、寸法線の認識及びグリッド線の作成は可能である。
【0063】
また、本発明の構成要素は、本発明の趣旨を損なわない範囲において適宜省略し、処理順序を入替え、又は均等物と置換することが可能である。例えば、寸法線の取得(グリッド線生成のために必要である)、外周線の取得(外周線の内外の判別のために必要である)を除く各種処理は、目的に応じ適宜省略して構わない。
【0064】
また、上述の実施の形態では、紙の図面に手描きで着色される例を主に示したが、本発明はこれに限定されず、例えば図面の電子ファイルに対し画像処理アプリケーションを使用して着色を行っても良い。また、上述の実施の形態では、着色された図面をカメラで撮影することにより図面画像データを得る例を主に示したが、本発明はこれに限定されず、例えばスキャナにより図面画像データを取得しても良い。
【0065】
また、本発明はハードウェアにより実現されても良く、CPUがコンピュータプログラムを実行することにより実現されても良い。コンピュータプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)又は一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によりコンピュータに供給され得る。
【符号の説明】
【0066】
100 図面認識装置
11 CPU
13 揮発性メモリ
14 不揮発性メモリ
15 インタフェース
20 バス
70 入出力装置
80 撮影装置
101 図面画像入力手段
103 前処理手段
105 寸法線認識手段
107 外周線認識手段
109 描画線(開口部)認識手段
111 描画線(間仕切)認識手段
113 中庭認識手段
115 描画線(袖壁)認識手段
117 描画線(建具)認識手段
118 閉領域認識手段
121 出力手段