(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】センサ及びセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
G01N27/416 331
(21)【出願番号】P 2018243194
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2018041118
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】古田 斉
(72)【発明者】
【氏名】山原 諭
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/088674(WO,A1)
【文献】特開2017-150933(JP,A)
【文献】特開2010-145133(JP,A)
【文献】特開2012-018189(JP,A)
【文献】特開2014-122878(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0293051(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知部を備えるセンサであって、
前記検知部は、
被測定ガスが導入される測定室と、
前記測定室から素子外部への酸素の汲み出し、又は前記素子外部から前記測定室への酸素の汲み入れを行うポンプセルと、
前記測定室内と、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準空間との酸素濃度差に応じて電圧Vs又は電流を発生する基準セルと、
を備え、
前記ポンプセルは、
ポンプセル用固体電解質体と、
前記ポンプセル用固体電解質体上に形成され、前記測定室に面する多孔質のポンプセル用第1電極と、
前記ポンプセル用固体電解質体上に形成され、前記素子外部又は前記素子外部に連通した空間に面するポンプセル用第2電極と、
を備え、
前記基準セルは、
基準セル用固体電解質体と、
前記基準セル用固体電解質体上に形成され、前記測定室に面する基準セル用第1電極と、
前記基準セル用固体電解質体上に形成され、前記基準空間に面する基準セル用第2電極と、
を備え、
前記ポンプセル用第1電極は、貴金属と、前記ポンプセル用固体電解質体に含まれるセラミックとを含有し、
前記ポンプセル用第1電極における前記測定室に面する表面を拡大観察した際に、前記表面には、前記貴金属からなる貴金属領域と、前記セラミックからなるセラミック領域と、前記貴金属及び前記セラミックが共存する共存領域と、が存在し、
前記表面における以下で定義するA領域での前記共存領域の幅は、前記表面における以下で定義するB領域での前記共存領域の幅より大きいセンサ。
A領域:前記表面において、前記基準セル用第1電極から最も遠い部分を最遠部とする。前記表面において、前記基準セル用第1電極に最も近い部分を最近部とする。前記最遠部と前記最近部との距離をLとする。前記表面において、前記最近部から、L/6だけ前記最遠部に向けて移動した位置をa点とする。前記a点を中心とする半径L/12の円の内部をA領域とする。
B領域:前記表面において、前記最遠部から、L/6だけ前記最近部に向けて移動した位置をb点とする。前記b点を中心とする半径L/12の円の内部をB領域とする。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサであって、
発熱体を埋設した発熱部を有するヒータをさらに備え、
前記発熱部が前記検知部に当接しているセンサ。
【請求項3】
請求項2に記載のセンサであって、
前記ヒータと、前記基準セルと、前記ポンプセルとが積層方向に積層され、
前記積層方向において、前記ヒータと前記ポンプセルとの間に前記基準セルが配置されているセンサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサであって、
前記A領域での前記共存領域の幅は、前記B領域での前記共存領域の幅の1.1倍以上であるセンサ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサであって、
前記ポンプセル用固体電解質体と前記基準セル用固体電解質体とは別体であり、
前記ポンプセル用第2電極と前記基準セル用第2電極とは別体であり、
前記基準空間は、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準酸素室であるセンサ。
【請求項6】
検知部を備えるセンサの製造方法であって、
前記検知部は、
被測定ガスが導入される測定室と、
前記測定室から素子外部への酸素の汲み出し、又は前記素子外部から前記測定室への酸素の汲み入れを行うポンプセルと、
前記測定室内と、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準空間との酸素濃度差に応じて電圧Vs又は電流を発生する基準セルと、
を備え、
前記ポンプセルは、
ポンプセル用固体電解質体と、
前記ポンプセル用固体電解質体上に形成され、前記測定室に面する多孔質のポンプセル用第1電極と、
前記ポンプセル用固体電解質体上に形成され、前記素子外部又は前記素子外部に連通した空間に面するポンプセル用第2電極と、
を備え、
前記基準セルは、
基準セル用固体電解質体と、
前記基準セル用固体電解質体上に形成され、前記測定室に面する基準セル用第1電極と、
前記基準セル用固体電解質体上に形成され、前記基準空間に面する基準セル用第2電極と、
を備え、
前記ポンプセル用第1電極の表面における以下で定義するA領域での温度が、前記表面における以下で定義するB領域での温度よりも高くなるように、前記ポンプセル用第1電極に対しリッチエージング処理を行うセンサの製造方法。
A領域:前記表面において、前記基準セル用第1電極から最も遠い部分を最遠部とする。前記表面において、前記基準セル用第1電極に最も近い部分を最近部とする。前記最遠部と前記最近部との距離をLとする。前記表面において、前記最近部から、L/6だけ前記最遠部に向けて移動した位置をa点とする。前記a点を中心とする半径L/12の円の内部をA領域とする。
B領域:前記表面において、前記最遠部から、L/6だけ前記最近部に向けて移動した位置をb点とする。前記b点を中心とする半径L/12の円の内部をB領域とする。
【請求項7】
請求項6に記載のセンサの製造方法であって、
前記ポンプセル用固体電解質体と前記基準セル用固体電解質体とは別体であり、
前記ポンプセル用第2電極と前記基準セル用第2電極とは別体であり、
前記基準空間は、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準酸素室であるセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はセンサ及びセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、以下のようなセンサが知られている。センサは、被測定ガスが導入される測定室と、ポンプセルと、基準酸素室と、基準セルと、を備える。ポンプセルは、測定室から外部への酸素の汲み出し、又は外部から測定室への酸素の汲み入れを行う。基準酸素室は、所定の酸素濃度の雰囲気を有する。基準セルは、測定室内と基準酸素室内との酸素濃度差に応じて電圧Vsを発生する。
【0003】
ポンプセルは、第1固体電解質体と、第1電極と、第2電極と、を備える。第1電極は、第1固体電解質体上に形成され、測定室に面する。第2電極は、第1固体電解質体上に形成され、外部に面する。
【0004】
基準セルは、第2固体電解質体と、第3電極と、第4電極と、を備える。第3電極は、第2固体電解質体上に形成され、測定室に面する。第4電極は、第2固体電解質体上に形成され、基準酸素室に面する(特許文献1参照)。
【0005】
上記のセンサでは、例えば、基準セルの電圧Vsが一定となるように、ポンプセルの通電量Ipがフィードバック制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
第1電極は、貴金属と、第1固体電解質体に含まれるセラミックとを含有する。第1電極に対してリッチエージング処理が行われる。リッチエージング処理を行うと、第1電極において変質が進行し、貴金属及びセラミックが共存する共存領域が形成される。共存領域が形成されると、貴金属と固体電解質とガスとの三相界面が増えるため、第1電極とガスとの反応性が向上し、第1電極の活性が向上する。
【0008】
従来のセンサでは、第1電極のうち、第3電極から遠い側の方が、第3電極に近い側に比べて、変質が進行し易く、活性が高かった。そのため、ポンプセルのうち、主として、第3電極から遠い部分が、測定室から外部に酸素を汲み出したり、外部から測定室に酸素を汲み入れたりしていた。その結果、電圧Vsの変化に対するポンプセルの応答性が低かった。
【0009】
本開示の一局面は、基準セルが発生する電圧Vs又は電流の変化に対するポンプセルの応答性が高いセンサ及びセンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一局面は、検知部を備えるセンサである。検知部は、被測定ガスが導入される測定室と、前記測定室から素子外部への酸素の汲み出し、又は前記素子外部から前記測定室への酸素の汲み入れを行うポンプセルと、前記測定室内と、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準空間との酸素濃度差に応じて電圧Vs又は電流を発生する基準セルと、を備える。
【0011】
前記ポンプセルは、ポンプセル用固体電解質体と、前記ポンプセル用固体電解質体上に形成され、前記測定室に面する多孔質のポンプセル用第1電極と、前記ポンプセル用固体電解質体上に形成され、前記素子外部又は前記素子外部に連通した空間に面するポンプセル用第2電極と、を備える。前記基準セルは、基準セル用固体電解質体と、前記基準セル用固体電解質体上に形成され、前記測定室に面する基準セル用第1電極と、前記基準セル用固体電解質体上に形成され、前記基準空間に面する基準セル用第2電極と、を備える。前記ポンプセル用第1電極は、貴金属と、前記ポンプセル用固体電解質体に含まれるセラミックとを含有する。前記ポンプセル用第1電極における前記測定室に面する表面を拡大観察した際に、前記表面には、前記貴金属からなる貴金属領域と、前記セラミックからなるセラミック領域と、前記貴金属及び前記セラミックが共存する共存領域と、が存在する。前記表面における以下で定義するA領域での前記共存領域の幅は、前記表面における以下で定義するB領域での前記共存領域の幅より大きい。
【0012】
A領域:前記表面において、前記基準セル用第1電極から最も遠い部分を最遠部とする。前記表面において、前記基準セル用第1電極に最も近い部分を最近部とする。前記最遠部と前記最近部との距離をLとする。前記表面において、前記最近部から、L/6だけ前記最遠部に向けて移動した位置をa点とする。前記a点を中心とする半径L/12の円の内部をA領域とする。
【0013】
B領域:前記表面において、前記最遠部から、L/6だけ前記最近部に向けて移動した位置をb点とする。前記b点を中心とする半径L/12の円の内部をB領域とする。
本開示の一局面であるセンサにおいて、ポンプセル用第1電極のうち、基準セル用第1電極に近い側の方が、基準セル用第1電極から遠い側に比べて、変質が進行し、共存領域が拡大している。そのため、ポンプセルのうち、主として、基準セル用第1電極に近い部分が、測定室から素子外部に酸素を汲み出したり、素子外部から測定室に酸素を汲み入れたりする。その結果、基準セルが発生する電圧Vs又は電流の変化に対するポンプセルの応答性が高い。
【0014】
本開示の別の局面は、検知部を備えるセンサの製造方法である。前記検知部は、被測定ガスが導入される測定室と、前記測定室から素子外部への酸素の汲み出し、又は前記素子外部から前記測定室への酸素の汲み入れを行うポンプセルと、前記測定室内と、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準空間との酸素濃度差に応じて電圧Vs又は電流を発生する基準セルと、を備える。
前記ポンプセルは、ポンプセル用固体電解質体と、前記ポンプセル用固体電解質体上に形成され、前記測定室に面する多孔質のポンプセル用第1電極と、前記ポンプセル用固体電解質体上に形成され、前記素子外部又は前記素子外部に連通した空間に面するポンプセル用第2電極と、を備え、前記基準セルは、基準セル用固体電解質体と、前記基準セル用固体電解質体上に形成され、前記測定室に面する基準セル用第1電極と、前記基準セル用固体電解質体上に形成され、前記基準空間に面する基準セル用第2電極と、を備える。
本開示の別の局面であるセンサの製造方法では、前記ポンプセル用第1電極の表面における以下で定義するA領域での温度が、前記表面における以下で定義するB領域での温度よりも高くなるように、前記ポンプセル用第1電極に対しリッチエージング処理を行う。
【0015】
A領域:前記表面において、前記基準セル用第1電極から最も遠い部分を最遠部とする。前記表面において、前記基準セル用第1電極に最も近い部分を最近部とする。前記最遠部と前記最近部との距離をLとする。前記表面において、前記最近部から、L/6だけ前記最遠部に向けて移動した位置をa点とする。前記a点を中心とする半径L/12の円の内部をA領域とする。
【0016】
B領域:前記表面において、前記最遠部から、L/6だけ前記最近部に向けて移動した位置をb点とする。前記b点を中心とする半径L/12の円の内部をB領域とする。
本開示の別の局面であるセンサの製造方法により製造したセンサでは、ポンプセル用第1電極のうち、基準セル用第1電極に近い側の方が、基準セル用第1電極から遠い側に比べて、変質が進行し、共存領域が拡大している。そのため、ポンプセルのうち、主として、基準セル用第1電極に近い部分が、測定室から素子外部に酸素を汲み出したり、素子外部から測定室に酸素を汲み入れたりする。その結果、基準セルが発生する電圧Vs又は電流の変化に対するポンプセルの応答性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】NOxセンサを軸線方向に沿って破断した断面図である。
【
図2】ガスセンサ素子を軸方向の一部を省略して示す斜視図である。
【
図3】ガスセンサ素子の先端側を厚み方向に破断しその内部構造を拡大して示す説明図である。
【
図4】第1電極の表面におけるジルコニア領域、白金領域、共存領域、及び隙間の領域を表す説明図である。
【
図5】第1電極の表面におけるA領域及びB領域を表す説明図である。
【
図6】ガスセンサ素子に接続される電気的構成を示す説明図である。
【
図7】A領域で取得した反射電子像と、その反射電子像における10箇所で測定した共存領域の幅とを表す写真である。
【
図8】B領域で取得した反射電子像と、その反射電子像における10箇所で測定した共存領域の幅とを表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の例示的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
1.NOxセンサ1の全体構成
NOxセンサ1の全体構成を、
図1、
図2に基づき説明する。なお、以下では、
図1における下側をNOxセンサの先端側と呼び、
図1における上側をNOxセンサ1の後端側と呼ぶ。
【0019】
図1に示すように、NOxセンサ1は、主体金具5と、ガスセンサ素子7と、セラミックスリーブ9と、絶縁セパレータ13と、6個のリードフレーム15と、を備える。なお、
図1では、6個のリードフレーム15の一部のみを図示する。
【0020】
以下、各構成について説明する。
図1、
図2に示すように、ガスセンサ素子7は、軸線方向に延びる板状形状の積層部材である。ガスセンサ素子7は、主体金具5を貫通している。ガスセンサ素子7の先端側は、測定対象となる排気ガスに向けられている。排気ガスは被測定ガスに対応する。ガスセンサ素子7の先端側に、検出部17が形成されている。検出部17は、図示しない保護層に覆われている。
【0021】
図2に示すように、ガスセンサ素子7の後端側に、電極パッド23、25、27、29、31、33が形成されている。電極パッド23、25、27は、ガスセンサ素子7の外表面のうち、一方の面である第1板面19に形成されている。電極パッド29、31、33は、ガスセンサ素子7の外表面のうち、第1板面19とは反対の面である第2板面21に形成されている。
【0022】
セラミックスリーブ9は筒状の形態を有する。セラミックスリーブ9は、ガスセンサ素子7の径方向周囲を取り囲むように配置されている。
絶縁セパレータ13は、例えば、アルミナからなる絶縁性材料で形成されている。絶縁セパレータ13は、軸線方向に貫通する素子挿通孔11を有する。素子挿通孔11は、ガスセンサ素子7及びリードフレーム15の少なくとも一部を取り囲む。
【0023】
絶縁セパレータ13が、素子挿通孔11の内部でリードフレーム15及びガスセンサ素子7を保持することで、リードフレーム15は、ガスセンサ素子7の電極パッド23~33に、それぞれ電気的に接続される。また、リードフレーム15は、外部からセンサの内部に配設されるリード線35にも電気的に接続されており、リード線35が接続される外部機器と電極パッド23~33との間に流れる電流の電流経路を形成する。
【0024】
主体金具5は、例えばステンレス鋼からなる略筒状形状の金属部材である。主体金具5は、軸線方向に貫通する貫通孔37を有するとともに、貫通孔37の内部において径方向内側に突出する棚部39を有する。主体金具5の外表面には、排気管に固定するためのネジ部3が形成されている。
【0025】
主体金具5は、貫通孔37に挿通されたガスセンサ素子7を保持するよう構成されている。保持されるガスセンサ素子7は、検出部17を貫通孔37の先端側外部に配置し、電極パッド23~33を貫通孔37の後端側外部に配置する状態である。
【0026】
貫通孔37の内部には、ガスセンサ素子7の径方向周囲を取り囲む状態で、環状形状のセラミックホルダ41、粉末充填層(滑石リング)43、45、上述のセラミックスリーブ9が、この順に先端側から後端側にかけて積層されている。
【0027】
セラミックスリーブ9と主体金具5の後端部47との間には、加締リング49が配置されている。セラミックホルダ41と主体金具5の棚部39との間には、金属カップ51が配置されている。なお、後端部47は、加締リング49を介してセラミックスリーブ9を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0028】
主体金具5の先端側には、ガスセンサ素子7の先端側を覆うように、例えばステンレス鋼からなる筒状のプロテクタ52が配置されている。プロテクタ52は、排気ガスの通過が可能な通気孔53を有している。プロテクタ52は、内側プロテクタ、及び外側プロテクタから成る二重プロテクタの構造を有する。
【0029】
主体金具5の後端側には、例えばステンレス鋼からなる外筒55が固定されている。外筒55の後端側における開口部57は、例えばフッ素ゴムからなるグロメット59によって閉塞されている。
【0030】
なお、絶縁セパレータ13は、後端側がグロメット59に当接した状態で、外筒55内に保持されている。絶縁セパレータ13の保持は、保持部材61によって行われている。保持部材61は、加締めによって、外筒55の内側に固定されている。
【0031】
2.ガスセンサ素子7の構成
ガスセンサ素子7の構成を
図2~
図8に基づき説明する。
図2に示す様に、ガスセンサ素子7は、長方形状の軸断面を有する板状の形態を有する。ガスセンサ素子7は、素子部63と、ヒータ65とが積層された構造を有する。素子部63及びヒータ65は、それぞれ、軸線方向に延びる板状に形成されている。素子部63は検知部に対応する。
【0032】
ガスセンサ素子7の先端側の構成を
図3に示す。ガスセンサ素子7は、
図3における上方より、絶縁層67、第1固体電解質体69、絶縁層71、第2固体電解質体73、絶縁層75、第3固体電解質体77、及び絶縁層79、81が積層された構造を有している。このうち、絶縁層67、第1固体電解質体69、絶縁層71、第2固体電解質体73、絶縁層75、及び第3固体電解質体77は素子部63に対応する。ガスセンサ素子7は、第1ポンプセル83、基準セル85、及び第2ポンプセル87を備える。
【0033】
第1固体電解質体69と第2固体電解質体73との間には、第1測定室89が形成されている。
図3において、第1測定室89の左端は入口である。この入口に、第1拡散抵抗部91が配置されている。第1拡散抵抗部91を介して、排気ガスGMが素子外部から第1測定室89に導入される。第1測定室89における入口とは反対側の端には、第2拡散抵抗部93が配置されている。素子外部とは、ガスセンサ素子7の外部を意味する。
【0034】
図3において、第2拡散抵抗部93の右側には、第2測定室95が形成されている。第2測定室95は、第2拡散抵抗部93を介して第1測定室89と連通する。第2測定室95は、第1固体電解質体69と第3固体電解質体77との間に形成されている。第2固体電解質体73のうち、第2測定室95に該当する部分は切り欠かれている。
【0035】
第1~第3固体電解質体69、73、77は、それぞれ、酸素イオン伝導性を有するジルコニアを主成分とする。各絶縁層67、71、75、79、81は、それぞれ、アルミナを主成分とする。第1、第2拡散抵抗部91、93は、それそれ、アルミナ等の多孔質物質から成る。なお、主成分とは、セラミック層中における含有量が50質量%以上である成分を意味する。
【0036】
絶縁層79、81の間には、抵抗発熱体97が埋設されている。抵抗発熱体97は、
図3における左右方向に沿って延びる。抵抗発熱体97は、例えば、白金から成る。絶縁層79、81と、抵抗発熱体97とは、ヒータ65を構成する。ヒータ65は、素子部63に当接している。ヒータ65は、ガスセンサ素子7を所定の活性温度に昇温し、第1~第3固体電解質体69、73、77の酸素イオンの伝導性を高めて動作を安定化させる作用を奏する。抵抗発熱体97は発熱体に対応する。抵抗発熱体97は、絶縁層79、81の間に埋設されている。絶縁層79、81と、抵抗発熱体97とは、発熱部に対応する。
【0037】
第1ポンプセル83は、第1固体電解質体69と、第1電極101と、第2電極99と、を備える。第1電極101及び第2電極99は第1固体電解質体69を挟む。
第1電極101は、第1固体電解質体69上に形成されている。第1電極101は、第1測定室89に面している。第1電極101は多孔質である。第1電極101は、白金と、ジルコニアと、白金及びジルコニウムの合金(以下ではPtZr合金とする)と、を含む。第1電極101におけるPtZr合金の体積比は15体積%以上である。ジルコニアは第1固体電解質体69に含まれるセラミックに対応する。白金は貴金属に対応する。第1固体電解質体69はポンプセル用固体電解質体に対応する。第1電極101はポンプセル用第1電極に対応する。第2電極99はポンプセル用第2電極に対応する。
【0038】
第1電極101における第1測定室89に面する表面を表面101Aとする。表面101Aを拡大観察すると、例えば、
図4に示すように、ジルコニアからなるジルコニア領域203、白金からなる白金領域205、白金とジルコニアとPtZr合金とからなる共存領域207、及び隙間の領域209が存在する。なお、各領域は、XRD分析により同定することができる。白金領域205は貴金属領域に対応する。ジルコニア領域203はセラミック領域に対応する。共存領域207は、貴金属とセラミックとが共存する領域である。
【0039】
第2電極99は、第1固体電解質体69上に形成されている。第2電極99は、素子外部に面している。第2電極99は、白金を主成分とする。第2電極99は、多孔質層105により覆われている。多孔質層105は、絶縁層67の開口部103に埋め込まれている。多孔質層105は、酸素等のガスが通過可能な多孔質体から成る。この多孔質体として、例えばアルミナ等が挙げられる。
【0040】
基準セル85は、第2固体電解質体73と、第3電極109と、第4電極111と、を備える。第3電極109は第2固体電解質体73上に形成されている。第4電極111は第2固体電解質体73上に形成されている。第3電極109及び第4電極111は第2固体電解質体73を挟む。第3電極109は第1測定室89に面する。
また、積層方向から見たとき、第3電極109は、第1電極101と重ならない位置に形成されている。また、第1測定室89の入口から導入された排気ガスの流れの方向において、第3電極109は、第1電極101よりも下流側に形成されている。
第4電極111は、後述する基準酸素室113に面する。第3電極109及び第4電極111は、それぞれ、白金を主成分とする。第2固体電解質体73は基準セル用固体電解質体に対応する。第3電極109は基準セル用第1電極に対応する。第4電極111は基準セル用第2電極に対応する。第1実施形態では、ポンプセル用固体電解質体と基準セル用固体電解質体とは別体である。第1実施形態では、ポンプセル用第2電極と基準セル用第2電極とは別体である。
【0041】
基準酸素室113は、絶縁層75の一部が切り抜かれた部分である。基準酸素室113は、第2固体電解質体73、第3固体電解質体77、及び絶縁層75により周囲を囲まれた空間である。基準酸素室113の内部は、所定の酸素濃度の雰囲気となっている。基準酸素室113は、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準空間に対応する。第1実施形態では、素子外部に連通した空間と、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準空間とは別の空間である。
【0042】
第2ポンプセル87は、第3固体電解質体77と、第5電極115と、第6電極117と、を備える。第5電極115及び第6電極117は、それぞれ、第3固体電解質体77の一方の表面に形成されている。第5電極115は、第2測定室95に面している。第6電極117は、基準酸素室113に面している。第5電極115と、第6電極117とは、絶縁層75により隔てられている。第5電極115及び第6電極117は、それぞれ、白金を主成分とする。第6電極117は、多孔質から成る絶縁保護層165により覆われている。基準酸素室113には、何も充填されていない空間である空隙167が存在する。
【0043】
第2固体電解質体73の側から見た表面101Aを
図5に示す。
図5における左は、第1測定室89の入口側である。
図5における右側は、第1測定室89の出口側である。表面101Aにおいて、以下のようにA領域301及びB領域303を定義する。
【0044】
A領域301:表面101Aにおいて、第3電極109から最も遠い部分を最遠部305とする。表面101Aにおいて、第3電極109に最も近い部分を最近部307とする。最遠部305と最近部307との距離をLとする。表面101Aにおいて、最近部307から、L/6だけ最遠部305に向けて移動した位置をa点309とする。a点309を中心とする半径L/12の円311の内部をA領域301とする。
【0045】
B領域303:表面101Aにおいて、最遠部305から、L/6だけ最近部307に向けて移動した位置をb点313とする。b点313を中心とする半径L/12の円315の内部をB領域303とする。
【0046】
A領域301での共存領域207の幅Wは、B領域303での共存領域207の幅Wより大きい。なお、共存領域207の幅Wとは、以下のように算出される値である。表面101Aを拡大観察し、倍率8000倍の反射電子像を取得する。反射電子像のうち、ランダムに選択した10箇所の共存領域207で、それぞれ、共存領域207の幅(以下では局所幅とする)を測定する。A領域301で取得した反射電子像と、その反射電子像における10箇所で測定した共存領域207の局所幅との例を
図7に示す。B領域303で取得した反射電子像と、その反射電子像における10箇所で測定した共存領域207の局所幅との例を
図8に示す。10箇所で測定した共存領域207の局所幅の平均値を、共存領域207の幅Wとする。
【0047】
A領域301での共存領域207の幅Wが、B領域303での共存領域207の幅Wより大きい理由は、第1電極101のうち、第3電極109に近い側の方が、第3電極109から遠い側に比べて、変質が進行し、共存領域207が拡大しているためである。
【0048】
第1電極101のうち、第3電極109に近い側の方が、第3電極109から遠い側に比べて、変質が進行し、共存領域207が拡大しているため、第1ポンプセル83のうち、主として、第3電極109に近い部分が、第1測定室89から素子外部に酸素を汲み出したり、素子外部から第1測定室89に酸素を汲み入れたりする。その結果、電圧Vsの変化に対する第1ポンプセル83の応答性が高い。
【0049】
B領域303での共存領域207の幅Wに対する、A領域301での共存領域207の幅Wの比率(以下ではA/B幅比率とする)は、1.1以上であることが好ましく、1.3以上であることがさらに好ましく、1.5以上であることが特に好ましい。A/B幅比率が1.1以上である場合、電圧Vsの変化に対する第1ポンプセル83の応答性が一層高い。A/B幅比率が1.3以上である場合、電圧Vsの変化に対する第1ポンプセル83の応答性がさらに高い。A/B幅比率が1.5以上である場合、電圧Vsの変化に対する第1ポンプセル83の応答性が特に高い。
【0050】
3.センサ制御装置169の構成
ガスセンサ素子7の動作を制御するセンサ制御装置169の構成を
図6に基づき説明する。センサ制御装置169は、マイクロコンピュータ171、電気回路部173等を有している。マイクロコンピュータ171は、各種演算を実行するCPU175と、演算結果等が記憶されるRAM177と、CPU175が実行するプログラム等を記憶するROM179とを備えている。
【0051】
また、マイクロコンピュータ171は、A/Dコンバータ181と、信号入出力部185と、図示しないタイマクロック等を備えている。信号入出力部185は、A/Dコンバータ181を介して電気回路部173に接続すると共に、ECU183と通信する。
【0052】
電気回路部173は、基準電圧比較回路187、Ip1ドライブ回路189、Vs検出回路191、Icp供給回路193、抵抗検出回路194、Ip2検出回路195、Vp2印加回路197、及びヒータ駆動回路199から構成される。電気回路部173は、マイクロコンピュータ171による制御を受けて、ガスセンサ素子7を用いて排気ガスGM中のNOx濃度の検出を行う。
【0053】
第1電極101、第3電極109、及び第5電極115は、基準電位に接続されている。また、抵抗発熱体97の一方の電極は接地されている。
4.NOx濃度検出処理
センサ制御装置169及びNOxセンサ1が実行する、排気ガスGM中のNOx濃度を検出する処理を説明する。ヒータ駆動回路199は抵抗発熱体97に駆動電流を流す。抵抗発熱体97は昇温し、第1~第3固体電解質体69、73、77を加熱し、活性化する。これにより、第1ポンプセル83、基準セル85、及び第2ポンプセル87が動作するようになる。
【0054】
排気ガスGMは、第1拡散抵抗部91による流通量の制限を受けつつ第1測定室89内に導入される。ここで、Icp供給回路193は、基準セル85において、第4電極111から第3電極109へ微弱な電流Icpを流す。このため、排気ガスGM中の酸素は、負極側となる第1測定室89内の第3電極109から電子を受け取ることができ、酸素イオンとなって第2固体電解質体73内を流れ、基準酸素室113内に移動する。つまり、第3電極109と第4電極111との間で電流Icpが流されることによって、第1測定室89内の酸素が基準酸素室113内に送り込まれる。
【0055】
Vs検出回路191は、第3電極109と第4電極111との間の電圧Vsを検出する。電圧Vsは、第1測定室89内と基準酸素室113内との酸素濃度差に応じた電圧である。Vs検出回路191は、検出した電圧Vsを、基準電圧比較回路187を用いて基準電圧(425mV)と比較し、比較結果をIp1ドライブ回路189に対し出力する。ここで、電圧Vsが425mV付近で一定となるように、第1測定室89内の酸素濃度を調整すれば、第1測定室89内の排気ガスGM中の酸素濃度は所定値(例えば10-8~10-9atm)に近づくこととなる。
【0056】
Ip1ドライブ回路189は、第1測定室89内に導入された排気ガスGMの酸素濃度が所定値より薄い場合、第2電極99側が負極となるように第1ポンプセル83に電流Ip1を流し、素子外部から第1測定室89内へ酸素の汲み入れを行う。一方、第1測定室89内に導入された排気ガスGMの酸素濃度が所定値より濃い場合、Ip1ドライブ回路189は、第1電極101側が負極となるように第1ポンプセル83に電流Ip1を流し、第1測定室89内から素子外部へ酸素の汲み出しを行う。
【0057】
第1測定室89において酸素濃度が調整された排気ガスGMは、第2拡散抵抗部93を介し、第2測定室95内に導入される。第2測定室95内で第5電極115と接触した排気ガスGM中のNOxは、Vp2印加回路197により第6電極117と第5電極115との間に電圧Vp2を印加することで、第5電極115上でN2とO2とに分解される。分解された酸素は、酸素イオンとなって第3固体電解質体77内を流れ、基準酸素室113内に移動する。このため、第2ポンプセル87を流れる電流は、NOx濃度に応じた値を示す。
【0058】
センサ制御装置169は、Ip2検出回路195により第2ポンプセル87を流れる電流Ip2を検出し、電流Ip2から、排気ガスGM中のNOx濃度の検出を行う。詳しくは、NOx濃度と電流Ip2との関係を予め求めて、予めマップ等を作製しておき、測定された電流Ip2をこのマップに参照して、NOx濃度を求める。
【0059】
5.NOxセンサ1の製造方法
NOxセンサ1の製造方法を説明する。
(5-1)ガスセンサ素子7の製造方法
絶縁層67、第1固体電解質体69、第2固体電解質体73、第3固体電解質体77、及び絶縁層79、81の原材料となるセラミックシートを用意する。セラミックシートには、適宜、スルーホール等を形成する。また、セラミックシート上へのスクリーン印刷により、絶縁層71、75を形成する。
【0060】
次に、各電極99、101、109、111、115、117を形成するために、対応するセラミックシートの表面に、電極の原料を含むペーストを塗布する。第1電極101を形成するためのペーストは、白金と、ZrO2とを含む。他の電極を形成するためのペーストは、白金を主成分とする。
【0061】
次に、セラミックシートを積層して積層体を作製し、この積層体を焼成する。このとき、後に第1電極101となる部分には、第1電極前駆体が形成される。第1電極前駆体は、白金とZrO2とを含む。第1電極前駆体に含まれる白金の質量を100質量部とした場合、第1電極前駆体に含まれるZrO2の質量は22質量部である。また、第1電極前駆体において、白金が占める体積は56体積%であり、ZrO2が占める体積は44体積%である。
【0062】
次に、第1電極前駆体に対し、リッチエージング処理を行う。リッチエージング処理の条件は、例えば、以下のとおりである。
第1電極前駆体の雰囲気:リッチ雰囲気
第1電極前駆体と第2電極99との間の電圧:0.7~0.8V
リッチエージング処理の時間:40~50sec
リッチ雰囲気とは、理論空燃料比率(λ=1)に対して酸素の割合が少ない雰囲気である。理論空燃料比率とは、理想的な完全燃焼ができる空気と燃料との混合比である。
【0063】
リッチエージング処理では、例えば、ヒータを用いて第1電極前駆体を加熱する。用いるヒータは、ヒータ65であってもよいし、外部のヒータであってもよい。
リッチエージング処理において、第1電極前駆体のA領域301での温度は、第1電極前駆体のB領域303での温度よりも高い。そのような温度差を実現する方法として、例えば、ヒータのうち、最近部307の側の部分のパワーを、最遠部305の側の部分のパワーより大きくする方法がある。具体的には、ヒータのうち、最近部307の側の部分を、最遠部305の側の部分よりも細くする方法がある。第1電極前駆体の温度は、チノ社製の赤外放射温度計を用いて測定した値である。
【0064】
また、上記の温度差を実現する方法として、例えば、ヒータのうち、最遠部305の側に低温のガスを吹き付け、冷却する方法がある。
また、上記の温度差を実現する方法として、例えば、以下の方法がある。ヒータ及び第1電極前駆体をチャンバに収容する。チャンバの内壁から第1電極前駆体までの距離を、最遠部305の側では大きく、最近部307の側では小さくする。この場合、第1電極前駆体がチャンバの内壁から受ける輻射熱の量は、最遠部305の側では少なく、最近部307の側では多くなる。その結果、上記の温度差を実現できる。
【0065】
リッチエージング処理により、第1電極前駆体において変質が進行し、共存領域207が生じる。その結果、第1電極前駆体から第1電極101が形成され、ガスセンサ素子7が完成する。第1電極前駆体のA領域301での温度は、第1電極前駆体のB領域303での温度よりも高いため、A領域301での共存領域207の幅Wは、B領域303での共存領域207の幅Wより大きい。
【0066】
第1電極前駆体のA領域での温度と、第1電極前駆体のB領域での温度との差(以下ではA-B温度差とする)が大きいほど、A/B幅比率が大きくなる。A-B温度差を十分に大きくすることにより、A/B幅比率を1以上、又は1.1以上、又は1.3以上、又は1.5以上とすることができる。
【0067】
(5-2)他の部材の製造方法
NOxセンサ1のうち、ガスセンサ素子7以外の部分は、公知の方法で製造できる。
6.NOxセンサ1の評価
前記「5.NOxセンサ1の製造方法」の項で述べた方法でNOxセンサ1を製造した。第1電極前駆体に対するリッチエージング処理の条件は以下のとおりとした。
【0068】
リッチエージング処理における第1電極前駆体の雰囲気:H2=2.35体積%、H2O=10体積%、N2=残部
リッチエージング処理における雰囲気ガスの流量:7L/min
リッチエージング処理における第1電極前駆体と第2電極99との間の電圧:0.77V
リッチエージング処理の時間:40sec
リッチエージング処理のとき、ヒータのうち、最近部307の側の部分を、最遠部305の側の部分よりも細くする方法により、第1電極前駆体のA領域301での温度を、第1電極前駆体のB領域303での温度よりも高くした。
【0069】
製造したNOxセンサ1において、A領域301での共存領域207の幅Wと、B領域303での共存領域207の幅Wとを測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1には、幅Wの算出に用いた10箇所における局所幅の測定値も示す。
【0070】
【表1】
7.NOxセンサ1が奏する効果
(1A)NOxセンサ1では、第1電極101のうち、第3電極109に近い側の方が、第3電極109から遠い側に比べて、変質が進行し、共存領域207が拡大している。そのため、第1電極101のうち、第3電極109に近い側の方が、第3電極109から遠い側に比べて、活性が高い。そのことにより、第1ポンプセル83のうち、主として、第3電極109に近い部分が、第1測定室89から素子外部に酸素を汲み出したり、素子外部から第1測定室89に酸素を汲み入れたりする。その結果、電圧Vsの変化に対する第1ポンプセル83の応答性が高い。
(1B)NOxセンサ1は、ヒータ65を備える。ヒータ65は素子部63に当接している。ヒータ65は、熱伝導により、素子部63に効率よく熱を伝えることができる。そのため、NOxセンサ1は、リッチエージング処理を効率よく行うことができる。
(1C)NOxセンサ1では、
図3に示すように、ヒータ65と、基準セル85と、第1ポンプセル83とが積層方向に積層されている。積層方向とは、
図3における上下方向である。積層方向において、ヒータ65と第1ポンプセル83との間に基準セル85が配置されている。そのため、ヒータ65を使用した場合でも、第1ポンプセル83の温度上昇を抑制できる。その結果、第1電極101の昇華や改質を抑制できる。
<第2実施形態>
1.第1実施形態との相違点
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0071】
前述した第1実施形態では、第3電極109は、第2固体電解質体73上に形成されている。これに対し、第2実施形態では、第3電極109は、第1固体電解質体69上に形成され、第1測定室89に面している。第3電極109の位置は、第1電極101に比べて、
図3における右方向である。また、第3電極109は、第1固体電解質体69を介して、第2電極99と対向している。
【0072】
前述した第1実施形態では、第2固体電解質体73と、第2固体電解質体73上に形成された第3電極109と、第4電極111とが基準セルに対応する。これに対し、第2実施形態では、第1固体電解質体69と、上記のように第1固体電解質体69上に形成された第3電極109と、第2電極99とが基準セルに対応する。第2実施形態では、第2電極99が、ポンプセル用第2電極及び基準セル用第2電極に対応し、第1固体電解質体69上に形成された第3電極109が、基準セル用第1電極に対応する。
【0073】
第2実施形態では、ポンプセル用固体電解質体と基準セル用固体電解質体とは一体である。第2実施形態では、ポンプセル用第2電極と基準セル用第2電極とは一体である。
前述した第1実施形態では、基準酸素室113が、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準空間に対応する。これに対し、第2実施形態では、第2電極99が面する素子外部が、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準空間に対応する。第2実施形態では、素子外部に連通した空間と、所定の酸素濃度の雰囲気を有する基準空間とは、同じ雰囲気の空間である。
【0074】
2.NOxセンサ1が奏する効果
以上詳述した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様の効果を奏する。
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0075】
(1)本開示のセンサは、NOxセンサ以外のセンサであってもよい。例えば、上述したNOxセンサ1から、第2ポンプセル87を除いたセンサであってもよい。このセンサは、通電量Ip1に基づき、被測定ガス中の酸素濃度を測定するセンサとすることができる。
【0076】
(2)第1固体電解質体69、及び第1電極101に含まれるセラミックはジルコニア以外のものであってもよい。ジルコニア以外のセラミックとして、例えば、CeO2 (セ
リア)、 ThO2 (トリア)、HfO2、 Bi2O3等が挙げられる。第1電極101に含まれる貴金属は、白金以外のものであってもよい。
【0077】
(3)第1電極101の外周側に、第1固体電解質体69上に形成されていない部材が存在してもよい。
(4)第1実施形態において、基準セル85は、第1測定室89内と、基準酸素室113との酸素濃度差に応じて電流を発生してもよい。NOxセンサ1は、その電流が一定となるように、第1ポンプセル83の通電量Ipをフィードバック制御することができる。
【0078】
第2実施形態において、基準セル85は、第1測定室89内と、素子外部との酸素濃度差に応じて電流を発生してもよい。NOxセンサ1は、その電流が一定となるように、第1ポンプセル83の通電量Ipをフィードバック制御することができる。
【0079】
(5)第1、第2実施形態において、第2電極99が面する、素子外部に連通した空間は、例えば、素子外部に連通した流路、部屋等であってもよい。
(6)第1実施形態において、第1固体電解質体69、第1固体電解質体73、及び第3固体電解質体77は1枚のシート状の形態を有していたが、例えば、シート状の形態を有し、貫通孔を有する絶縁層の貫通孔内部に、第1固体電解質体69、第1固体電解質体73、及び第3固体電解質体77が埋め込まれていてもよい。
(7)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0080】
(8)上述したNOxセンサの他、当該NOxセンサを構成要素とするシステム等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0081】
1…NOxセンサ、7…ガスセンサ素子、65…ヒータ、67、71、75、79、81…絶縁層、69…第1固体電解質体、73…第2固体電解質体、77…第3固体電解質体、83…第1ポンプセル、85…基準セル、87…第2ポンプセル、89…第1測定室、91…第1拡散抵抗部、93…第2拡散抵抗部、95…第2測定室、97…抵抗発熱体、99…第2電極、101…第1電極、103…開口部、105…多孔質層、109…第3電極、111…第4電極、113…基準酸素室、115…第5電極、117…第6電極、301…A領域、303…B領域、305…最遠部、307…最近部、309…a点、313…b点