IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ケンブリッジ エンタープライズ リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-炎症性腸疾患用のバイオマーカー 図1
  • 特許-炎症性腸疾患用のバイオマーカー 図2
  • 特許-炎症性腸疾患用のバイオマーカー 図3
  • 特許-炎症性腸疾患用のバイオマーカー 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】炎症性腸疾患用のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20220726BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220726BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220726BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220726BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220726BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z ZNA
A61K45/00
A61P1/04
C12M1/00 A
C12N15/09 200
G01N33/50 P
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2018565368
(86)(22)【出願日】2017-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 IB2017000997
(87)【国際公開番号】W WO2018007872
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2019-10-15
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】1611738.4
(32)【優先日】2016-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501308812
【氏名又は名称】ケンブリッジ エンタープライズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】リオンズ,ポール,エー.
(72)【発明者】
【氏名】マッキニー,オーエン,エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ビアシ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジェームズ
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】高堀 栄二
【審判官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-517279(JP,A)
【文献】特表2015-532425(JP,A)
【文献】国際公開第2015/148809(WO,A1)
【文献】特表2015-505300(JP,A)
【文献】特表2014-507160(JP,A)
【文献】特表2013-526852(JP,A)
【文献】特表2011-509071(JP,A)
【文献】特表2008-545437(JP,A)
【文献】国際公開第2016/066288(WO,A1)
【文献】特表2008-501332(JP,A)
【文献】Nat.Med.(2010)Vol.16,No.5,p.586-591
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/68-1/6851
C12N15/00-15/09
CA/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における炎症性腸疾患(IBD)の進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価する方法であって、前記個体から得られた全血試料中の2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することにより、前記個体が高リスク(IBD1)表現型を有するかまたは低リスク(IBD2)表現型を有するかを確認することを含み、
ここで、前記2個以上の遺伝子が、
アレスチンドメイン含有4(ARRDC4);
グアニル酸結合タンパク質5(GBP5);
プリン作動性受容体P2Y Gタンパク質共役、14(P2RY14);
ヴォールトRNA1-1(VTRNA1-1);
インターロイキン18受容体アクセサリータンパク質(IL18RAP);
ハプトグロビン(HP);
nudix(ヌクレオシド二リン酸連結部分X)型モチーフ7(NUDT7);
グランザイムH(GZMH);
T細胞受容体γ定常2(TRGC2);
レクチン、ガラクトシド結合様(LGALSL);
Fc受容体様5(FCRL5);
インターフェロン誘導タンパク質44様(IFI44L);
長い遺伝子間非タンパク質コードRNA1136(LINC01136);
リンパ球抗原96(LY96);
グランザイムK(GZMK);および
T細胞受容体γ可変3(TRGV3)
からなる群から選択され、
前記2個以上の遺伝子が、IL18RAPおよびTRGC2を含み、
前記個体が、高リスク(IBD1)表現型を有する場合にはIBDの進行が高リスクとされ、低リスク(IBD2)表現型を有する場合にはIBDの進行が低リスクとされ、
低リスク(IBD2)表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較で、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの上方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の下方制御発現が、前記個体が高リスク(IBD1)表現型を有することを示し、かつ
高リスク(IBD1)表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの下方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の上方制御発現が、前記個体が低リスク(IBD2)表現型を有することを示す、方法。
【請求項2】
前記2個以上の遺伝子の発現レベルが、リアルタイム定量PCR(RT-qPCR)、デジタルPCR、マイクロアレイ分析、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析を用いて測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2個以上の遺伝子の発現レベルが、RT-qPCRを用いて測定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(i)前記個体から得られた全血試料を準備すること;
(ii)前記全血試料からRNAを抽出すること;
(iii)前記RNAをcDNAに変換すること;および
(iv)前記2個以上の遺伝子の発現レベルを決定するため、RT-qPCR、デジタルPCR、または全トランスクリプトームショットガン配列決定を実施すること、
を含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法における使用のための自己免疫性疾患の進行リスク評価システムであって、
ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子であって、IL18RAPおよびTRGC2を含む前記2個以上の遺伝子の発現を測定するための1つまたは複数のツールと、
ならびに
被験者の前記遺伝子発現データからIBDの進行リスクスコアを計算するようにプログラムされたコンピュータと、を含む、システム。
【請求項6】
2個以上の遺伝子の前記発現を、RT-qPCR、デジタルPCR、マイクロアレイ分析、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析により測定するための1つまたは複数のツールを含む、請求項5に記載の自己免疫性疾患の進行リスク評価システム。
【請求項7】
治療すべき個体であって、IBDの進行が高リスクまたは低リスクである者として識別された個体を選択する事後工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
個体における炎症性腸疾患(IBD)の進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価するためのキットであって、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子であって、IL18RAPおよびTRGC2を含む前記2個以上の遺伝子の全血試料中での発現レベルを確認するための試薬を含み、
前記個体が、高リスク(IBD1)表現型を有する場合にはIBDの進行が高リスクとされ、低リスク(IBD2)表現型を有する場合にはIBDの進行が低リスクとされ、
IBD1表現型が、IBD2表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの上方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の下方制御発現を特徴としており、かつ
IBD2表現型が、IBD1表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの下方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の上方制御発現を特徴としている、キット。
【請求項9】
前記キットが、前記2個以上の遺伝子の発現レベルを、RT-qPCR、マイクロアレイ分析、デジタルPCR、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析により確認するための試薬を含む、請求項に記載のキット。
【請求項10】
前記IBDが、潰瘍性大腸炎(UC)またはクローン病である、請求項1~4または7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記IBDが、潰瘍性大腸炎(UC)またはクローン病である、請求項5または6に記載の自己免疫性疾患の進行リスク評価システム。
【請求項12】
前記IBDが、潰瘍性大腸炎(UC)またはクローン病である、請求項またはに記載のキット。
【請求項13】
物質がIBD患者における低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力があるか否かを決定するインビトロ方法であって、
(i)目的の物質を用いる治療前にIBD患者から得られた全血試料、および
(ii)目的の前記物質を用いる治療後に前記IBD患者から得られた全血試料を準備することと、
ここで、前記IBD患者は、請求項1~4に記載の方法、または請求項に記載のキットを用いて、高リスク(IBD1)表現型を有することが判定されている;
試料(i)および(ii)中の、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子であって、IL18RAPおよびTRGC2を含む前記2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することと、
を含み;
試料(i)に対して試料(ii)中での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKのより低い発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3のより高い発現が、前記物質がIBD患者において低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力があることを示す、方法。
【請求項14】
IBD患者において低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力があるとして同定された物質を薬剤に配合することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
個体におけるIBDを治療する能力がある物質を同定するインビトロ方法であって、
(i)IBDの進行が高リスクまたは低リスクである個体を、請求項1~4または10のいずれか一項に記載の方法を用いて同定することと;
(ii)目的の前記物質を用いる治療後の前記個体におけるIBDの進行の前記レベルを対照と比較することとを含み、ここで、前記対照と比べての前記個体におけるIBDの進行のより低いレベルは、前記物質がIBDを治療する能力があることを示す、方法。
【請求項16】
IBDを治療する能力があるとして同定された物質を薬剤に配合することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
炎症性腸疾患を示している患者の全血試料由来の、患者が識別された、選択された遺伝子の発現産物のアレイ上で遺伝子発現産物を定量化する方法であって、
a)前記患者の前記全血試料からRNAを準備することと;
b)前記RNAをcDNAに変換することと;
c)前記cDNAの一定分量を前記cDNAの一定分量が患者試料cDNAの一定分量として同定されるようにアレイ上に置くことと;
d)ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される3個以上の遺伝子の各遺伝子における前記cDNAの一定分量に対してRT-qPCR、デジタルPCR、または配列決定を実施し、RT-qPCR、デジタルPCRまたは配列決定された産物を前記アレイ上に提供し、それにより前記3個以上の遺伝子発現産物を含む、患者が識別された、選択された遺伝子の発現産物のアレイを提供することと、前記3個以上の遺伝子がIL18RAPおよびTRGC2を含み;
e)前記3個以上の遺伝子の各選択された遺伝子についての遺伝子発現産物の量を、各選択された遺伝子についての対照との比較で定量するステップと、を含み、
ここで、各選択された遺伝子についての対照が、IBDの進行を有すると診断された患者群における前記遺伝子の遺伝子発現産物の発現レベルの中央値である、方法。
【請求項18】
前記RT-qPCR産物が、前記cDNAを前記3個以上の遺伝子の各々に特異的なプライマーセットと接触させることにより提供される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記プライマーセットが、フォワードプライマー、リバースプライマー、およびプローブを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アレイ上の選択された各遺伝子発現産物について、
ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKからなる群から選択される遺伝子における遺伝子発現産物の量が、前記遺伝子における前記対照よりも少なく;かつ
LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される遺伝子における遺伝子発現産物の量が、前記遺伝子における前記対照よりも多い、
請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記アレイ上の選択された各遺伝子発現産物について、
ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKからなる群から選択される遺伝子における遺伝子産物の量が、前記遺伝子における前記対照よりも多く;かつ
LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される遺伝子における遺伝子産物の量が、前記遺伝子における前記対照よりも少ない、
請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記遺伝子の4個、5個、13個、14個、または16個が、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される、請求項17~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
IBDの進行を有すると診断された前記患者群が、
前記疾患の初期症状からの12か月の期間にわたる平均0.5以上の再発(relapses);
IBD2群における患者との比較でのフォローアップの単位期間当たりのさらなる治療拡大;及び
IBDの維持段階中に投与される治療より、より高頻度もしくはより侵襲性である疾患の治療計画、
から成る群から選択される1又は複数の指標を経験した患者群である、請求項17~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記患者群が、IBDの進行を有する10人の患者を含む、請求項17~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記患者群が、IBDの進行を有する100人の患者を含む、請求項17~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記配列決定が全トランスクリプトームショットガン配列決定を含む、請求項17~25のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本願は、2016年7月5日に出願された英国特許出願第GB1611738.4号に対する優先権を主張し、その内容はその全体が本明細書中に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、個体におけるクローン病(CD)および潰瘍性大腸炎(UC)の進行を含む炎症性腸疾患(IBD)の進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価する方法に関する。個体はさらに、任意選択的には、IBDに対する治療を受けてもよく、またはそのために選択されてもよく、ここでは治療は、個体におけるIBDの進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかに基づいて選択される。
【背景技術】
【0003】
発明に対する背景
CDにおける侵襲療法の早期導入が、標準のステップアップ手法と比べてより良好な転帰をもたらすことが確立されている(D’Haens et al., 2008; Colombel et al., 2010)。特に、早期併用療法(アザチオプリンと組み合わせたインフリキシマブ;D’Haens et al., 2008)で治療された患者は、より長期間のステロイドを含まない寛解を経験し、粘膜治癒を達成し、最終的には外科的切除を回避する可能性はより高い(D’Haens et al., 2008; Colombel et al., 2010)。しかし、この方法は、無視できない割合の患者が通常の治療手法であっても延長された寛解を得ていることになり(Jess et al., 2007)、ひいては併用療法を用いたそれら治療が彼らを不必要な副作用および毒性に曝露することになるので、すべての患者に適するのではない。この理由のため、予後を予測する能力は、CD、および一般にIBDを有する患者に対する治療の改善に向けての主要なステップとなる(IBD Research Priority, 2015; Gerich et al., 2014)。
【0004】
幾つかの異なる変数が、CDにおける予後;つまり、臨床的因子、血清学的マーカー、および遺伝子変異体に関連している(Gerich et al., 2014; Billiet et al., 2014)。しかし、単独でまたは組み合わせて用いられるこれらのマーカーの予測力は、現状では制限されることが判明しており、診療所における日常使用に適するものはない(Loly et al., 2008; Markowitz et al., 2011 ; Ananthakrishnan et al., 2014)。結果として、CDおよびUCを含むIBDに対する信頼できる予後試験の開発は、未だ優先事項であり、現在では胃腸病学における未対処の最も重要な必要性の一つとして認識されている(IBD Research Priority, 2015)。
【0005】
この目標を達成するため、遺伝子変異体は、安定であり、容易に測定され得、かつCDの遺伝的構造が少なくとも感度に関して既に広範に試験されていることから、有望な候補予後マーカーである(Jostins et al., 2012)。しかし、これまで発見された遺伝要因は、患者間でのCDの転帰において認められる表現型相違の5~6%を説明し得るに過ぎない。この数字が増加するものとしても、能力が増強された試験にて他の転帰に関連する変異体が発見されるとき、単離の際、CD、一般にIBDにおける転帰を正確に予測できるのにその遺伝要因が十分となる可能性は低いように思われる。これは、喫煙を含む環境要因がIBDの自然経過において重要な役割を担うという概念に合致する(Kaser et al., 2010)。
【0006】
遺伝子発現マーカーは、特に病因に関与する組織または細胞型において直接的に測定される場合、これらの制限を克服するためのより優れた候補であり得る(McKinney et al., 2010; Lee et al., 2011)。事実、遺伝子発現は、生物と外部環境との間の相互作用についてのさらなる情報を取得する一方で(Choi et al., 2007)、さらに個体の遺伝的背景の幾つかの局面を反映することがある。他方、遺伝子発現は通常、経時的に安定であると予想されず、特定の細胞集団を遺伝子発現レベルに影響することなく単離することは、技術的難題である(Lyons et al., 2007)。管理された研究環境以外では、これらの要因のすべては、臨床状況下で遺伝子発現マーカーの使用を制限する。
【0007】
最近、IBDにおける予後を予測するため、CD8+T細胞内で検出可能である特徴的な遺伝子発現シグネチャーを用いることができることが報告されている(Lee et al., 2011)。特に、かかるシグネチャーは、CDおよびUC双方における異なる臨床経過に関連した2つの異なる患者群(IBD1およびIBD2)を、診断時および治療前に識別することができた(Lee et al., 2011)。より正確には、標準のステップアップ手法(Peyrin-Biroulet et al., 2008)で管理されるとき、IBD1群に属する者として分類された患者は、IBD2群における患者よりも有意に高い治療拡大のリスクを一貫して示し(Lee et al., 2011)、それ故、これらの患者をより早い段階でより侵襲性の高い治療法で治療するための理論的根拠をもたらした(Lee et al., 2011)。
【0008】
上記のシグネチャーは、3つの主な理由において、IBDにおける転帰の予測に向けた大きな進歩を表した(Friedman et al., 2011)。第1に、患者層間での転帰における差異は、以前に報告された予後マーカー(Gerich et al., 2014)と異なり、治療決定を導くのに潜在的に有用であることが十分に顕著である(Lee et al., 2011 ; Friedman et al., 2011)。第2に、重複するCD8+遺伝子発現シグネチャーは、全身性エリテマトーデス(SLE)およびANCA関連脈管炎(AAV)患者における疾患転帰を予測することが以前に報告され、それ故、共通の生物学的過程が異なる炎症性疾患の予後の基礎であり得るという仮説が示唆された(McKinney et al., 2010)。最後に、基礎をなす生物学的過程における部分的であるが説得力のある機構的説明が、最近、提起された(McKinney et al., 2015)。これらの最後の2つのポイントは特に重要である。事実、予後調査では、データ収集に時間および費用の双方を費やす場合の長期試験が必然的に必要になり、それ故、試験規模が制限される。結果として、患者の小コホートが基礎集団から十分な複雑性を得ることができるか否かや、提起された予後マーカーが確かに再現可能か否かについて疑念が残ることが多い。これを考慮すると、異なる疾患を有する患者の異なるコホートにわたる疾患転帰についての一貫性を信頼できる機構的洞察と併せて観察することにより、上記のCD8+T細胞遺伝子発現シグネチャーの再現性についての自信が大いに高まる(McKinney et al., 2010; Lee et al., 2011)。
【0009】
しかし、患者を臨床状況下で層別化するため、CD8+T細胞遺伝子発現シグネチャーをルーチン的に用いることができる以前に、重要な課題が解決されないままである。現在、患者をIBD1/IBD2群に割り当てるには、精製されたCD8+T細胞からのRNAの抽出が必要である(McKinney et al., 2010; Lee et al., 2011)。このステップでは、有望な予後試験に対しての複雑性がかなりの規模で加わり、それ故、その適応性が管理された研究環境下での少数の試料に制限されることが幾度も認められている(Friedman et al., 2011 ; Billiet et al., 2014。
【0010】
反対に、容易にアクセス可能な生体試料、例えば全血においてIBD1/IBD2サブグループを検出できる場合、その臨床的有用性や、潜在的には予後マーカーとしてのその適応性が大いに促進されることになる。さらに、一部の臨床試験の間、精製されたCD8+T細胞でなく全血試料がルーチン的に収集されていることから、これにより、患者層別化後の薬剤有効性を再評価するために過去のIBD薬試験を再分析する可能性が開かれることになる。
【0011】
潜在的には有用であるのにもかかわらず、以前から精製されたCD8+T細胞とは異なる試料中でのIBD1/IBD2シグネチャーの検出が難題であると判明していることは注目されるべきである(Lee et al., 2011)。事実、IBD(Lee et al., 2011)、SLE、またはAAV(McKinney et al., 2010)における疾患転帰によって患者を層別化するため、CD4+T細胞から得られる遺伝子発現シグネチャーを使用できないことが幾度も認められた。これらの観察に一致して、CD8+T細胞の発現シグネチャーを発見するために最初に用いられた同じ目的変数なしのクラスタリング方法(Monti et al., 2003)を用いて、同じ予後シグネチャーを末梢血単核球(PBMC)において同定することはできなかった(McKinney et al., 2010; Lee et al., 2011)。これは、CD8+T細胞がPBMC集団の極小の変わりやすい画分を表すという事実に起因し得る(Lyons et al., 2007)。
【0012】
さらに、予後シグネチャーがハイスループット遺伝子発現プロファイリング技術、例えばマイクロアレイを用いて発見され得る一方(Schena et al., 1995)、実行可能な予後試験では、リアルタイム定量PCR(RT-qPCR)などのより小規模な遺伝子発現プラットフォームに依存する必要がある(Freeman et al., 1999)。事実、異なる条件用に開発された現行の予後試験の大部分、例えばAlloMap、Oncotype DxおよびCorusCADがqPCRに基づく試験である一方(Micheel et al., 2012)、極小のより古い試験、例えばMammaPrintは、マイクロアレイに依存する(Micheel et al., 2012)。この理由から、IBD1/IBD2サブグループを再現するシグネチャーが全血中で発見できる場合、qPCRによりそれを検出する可能性は、臨床状況下でのその適用にとって重要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、当該技術分野では、qPCRなどの方法を用いて全血中で検出され得るIBD1/IBD2遺伝子発現シグネチャーに対する需要が残る。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の声明
本発明者は、意外にも、個体から得られる全血試料中の遺伝子発現を分析することにより、個体におけるIBD(例えば潰瘍性大腸炎またはクローン病)の進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価するために使用可能な遺伝子発現シグネチャーを同定している。全血中のこれら遺伝子の発現は、例えばRT-qPCRにより測定され得る。詳細には、本発明者は、高リスク(IBD1)表現型が、低リスク(IBD2)表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、全血中の遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの上方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の下方制御発現を特徴とすることを発見している。
【0015】
したがって、一態様では、本発明は、個体におけるIBDの進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価する方法であって、個体から得られる全血試料中の2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することにより、前記個体が高リスク(IBD1)表現型を有するかまたは低リスク(IBD2)表現型を有するかを確立することを含み、ここで2個以上の遺伝子が、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、GZMK、およびTRGV3からなる群から選択される、方法を提供する。
【0016】
一実施形態では、方法は、前記2個以上の遺伝子の発現レベルを、例えば、RT-qPCR、デジタルPCR、または全トランスクリプトームショットガン配列決定を用いて測定することを含んでもよい。この場合、方法は、(i)個体から得られる全血試料を提供することと;(ii)RNA(例えばmRNA)を全血試料から抽出することと;(iii)RNA(例えばmRNA)をcDNAに変換することと、(iv)RT-qPCR、デジタルPCR、または全トランスクリプトームショットガン配列決定を実行し、2個以上の遺伝子の発現レベル測定することと、を含んでもよい。
【0017】
本発明はまた、本発明の方法における使用が意図される自己免疫性疾患の進行リスクの評価システムであって、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現を測定するための1つまたは複数のツール、ならびに被験者の遺伝子発現データからIBDの進行リスクスコアを計算するようにプログラムされたコンピュータを含む、システムを提供する。
【0018】
遺伝子の発現を測定するためのツールは、本明細書に記載の任意の技術、例えばRT-qPCR、デジタルPCR、マイクロアレイ分析、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析(direct multiplexed gene expression analysis)を用いて問題の遺伝子の発現レベルを確立するための試薬であってもよく、またはそれを含んでもよい。例えば、ツールは、例えば、RT-qPCR、デジタルPCR、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析を用いて問題の遺伝子の発現のレベルを確認することに適したプライマーであってもよく、またはそれを含んでもよい。好適なプライマーの設計は、ルーチン的であり、十分に当業者の能力の範囲内である。方法が多重遺伝子発現分析を含む場合、ツールは、問題の遺伝子の発現のレベルを確認するための蛍光プローブを追加的または代替的に含んでもよい。ツールはまた、RNA抽出試薬および/またはRNAのcDNAへの逆転写用の試薬であってもよく、またはそれを含んでもよい。ツールはまた、方法を実施するための1つ以上の物品および/または試薬、例えば緩衝液、および/または試験試料自体を入手するための手段、例えば試料を入手および/または単離するための手段、ならびに試料処理容器(一般に滅菌されているような部品)であってもよく、またはそれを含んでもよい。IBDの進行リスクスコアの計算は幾つかの方法で行われてもよく、例示的方法が以下に示される。
【0019】
さらに提供される本発明は、個体におけるIBDを治療する方法である。一実施形態では、方法は、(i)本発明の方法を用いて個体をIBDの進行が高リスクまたは低リスクである者として識別することと、(ii)個体にIBDに対する治療を施すことと、を含んでもよい。
【0020】
他の実施形態では、方法は、(i)個体から得られる全血試料中のARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを決定するための分析の結果を提供する試験を要求することと、(ii)IBDにおけるIBD1またはIBD2表現型を有することが判定された個体を治療することと、を含んでもよい。
【0021】
また、提供されるのは、個体が高リスクのIBD1を有するかまたは低リスクのIBD2表現型を有するかを評価するためのキットであって、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを確認するための試薬を含む、キットである。
【0022】
本発明はまた、IBD患者において低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力がある物質を同定するインビトロ方法に関する。方法は、好ましくは、(i)目的の物質を用いる治療前にIBD患者から得られる全血試料、および(ii)目的の物質を用いる治療後にIBD患者から得られる全血試料を提供することと;試料(i)および(ii)中のARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することと、を含み、ここでIBD患者は、本発明の方法を用いて高リスク(IBD1)表現型を有すると判定されており、かつ試料(i)中に対する試料(ii)中での遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKのより低い発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3のより高い発現は、物質がIBD患者において低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力があることを示す。
【0023】
本発明はさらに、個体におけるIBDを治療する能力がある物質を同定するインビトロ方法に関する。方法は、好ましくは、(i)IBDの進行が高リスクまたは低リスクである個体を本発明の方法を用いて識別することと;(ii)目的の物質を用いる治療後の個体におけるIBDの進行のレベルを対照と比較することと、を含み、ここで個体におけるIBDの進行の対照と比べてのより低いレベルは、物質がIBDを治療する能力があることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図面の簡単な説明
図1】元のCD8T細胞に基づくIBD1/IBD2群(左)と実施例1に記載の全血qPCR分類子を用いて予測されるIBD1/IBD2群(右;分類子中に含まれる遺伝子の詳細については表1を参照)との間で治療拡大を含まない生存を比較したカプラン・マイヤープロットを示す。Obs:観察された元の群;pred:全血qPCRデータを用いて予測された群;p:ログランク検定P値。CL1およびCL2は各々、IBD1(高リスク)およびIBD2(低リスク)サブグループを指す。
図2】qPCR分類子に従う、各患者がIBD1群に属することが予測される確率を示すプロットを示す(表1)。白点:IBD1患者;黒点:IBD2患者。
図3】新規に診断されたIBD患者85名の独立コホート(分類子中に含まれる遺伝子の詳細については表2を参照)における実施例2に記載の最適化された全血qPCR分類子を用いて予測されたIBD1/IBD2群における治療拡大を含まない生存を示すカプラン・マイヤープロットを示す。qPCR PAX1およびqPCR PAX2は各々、サブグループIBD1およびIBD2を指す。サブグループIBD2に対するサブグループIBD1におけるハザード比は、図3に示される通り、3.52であった。
図4】国際公開第2010/084312号に記載の遺伝子発現シグネチャーを用いて予測されたIBD1/IBD2群間で治療拡大を含まない生存を比較したカプラン・マイヤープロットを示す。p:ログランク検定P値。CL1およびCL2は各々、IBD1およびIBD2サブグループを指す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
上述のように、本発明者は、個体から得られる全血試料中の遺伝子発現を分析することにより、例えばリアルタイム定量PCR(RT-qPCR)により個体におけるIBDの進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価するために使用可能な遺伝子発現シグネチャーを同定している。
【0026】
詳細には、本発明者は、高リスク(IBD1)表現型が、低リスク(IBD2)表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの上方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の下方制御発現を特徴とすることを発見している。これら遺伝子におけるNCBI受入番号(およびGI番号)は、下の表2に示される。
【0027】
上で説明の通り、個体が高リスク(IBD1)を有するかまたは低リスク(IBD2)表現型を有するかを評価するための方法が前述されているが、これらの方法は直接的に全血試料に適用できないばかりか、例えばCD8 T細胞の血液試料からの単離を必要とし、それ故、それらの臨床適用性が著しく制限される。それに対し、本発明者によって同定される遺伝子発現シグネチャーは、全血試料中で検出され得、それ故、特定の細胞型を血液試料から単離する必要性がなくなり、この遺伝子発現シグネチャーを用いる診断方法の臨床的有用性が大いに高まる。特に、特定の細胞型を遺伝子発現分析前に単離する必要性を回避することにより、本発明の方法の技術的複雑性が低減されるとともに、前記方法を実施する上で時間が節約され、費用効果が高くなる。
【0028】
したがって、本明細書で開示される方法、例えば個体におけるIBDの進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価する方法は、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することを含んでもよい。遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3は、本発明者によって同定されるとき、個体から得られる全血試料中での高リスク(IBD1)または低リスク(IBD2)表現型の存在を判定するためのトップ16のマーカー遺伝子を表す。
【0029】
前記遺伝子の2個以上の発現レベルを測定することは、単一遺伝子のみの発現レベルを測定するよりも強固であると予想される。例えば、2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することは、高リスク(IBD1)または低リスク(IBD2)表現型の存在、または不在の正確な判定を、例えば1個の遺伝子の発現レベルが測定不能である、または不正確である場合であっても可能にする。
【0030】
例えば、本明細書で開示される方法は、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、または16個すべての遺伝子の発現レベルを測定することを含んでもよい。好ましくは、本明細書で開示される方法は、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される遺伝子の少なくとも5つの発現レベルを測定することを含む。
【0031】
好ましい実施形態では、本明細書で開示されるような方法は、IL18RAPおよびTRGC2の発現レベルを測定することを含んでもよい。この実施形態では、方法は、任意選択的には、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、HP、NUDT7、GZMH、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、または14個すべての遺伝子の発現レベルを測定することをさらに含んでもよい。
【0032】
さらなる好ましい実施形態では、本明細書で開示されるような方法は、IL18RAP、TRGC2およびTRGV3の発現レベルを測定することを含んでもよい。この実施形態では、方法は、任意選択的には、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、HP、NUDT7、GZMH、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、およびLY96からなる群から選択される1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、または13個すべての遺伝子の発現レベルを測定することをさらに含んでもよい。
【0033】
一態様では、本発明は、個体から得られる全血試料中の2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することにより個体が高リスク(IBD1)表現型を有するかまたは低リスク(IBD2)表現型を有するかを確認することにより、個体における炎症性腸疾患(IBD)の進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価する方法に関し、ここで2個以上の遺伝子は、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される。本発明の方法は、IBD2表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの上方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の下方制御発現によるIBD1表現型の特徴づけをさらに含んでもよい。本発明の方法は、個体におけるIBDの進行のリスクを、a)選択遺伝子の測定された発現レベルを重み付けすること;b)リスクスコアを決定するために、ロジスティック回帰モデルを重み付けた発現レベルに適用することであって、0.5未満のリスクスコアはIBDの進行が低リスクであることを示し、0.5のリスクスコアはIBDの進行が高リスクであることを示す、適用すること;およびc)その決定の結果をまとめた報告を作成することにより、患者におけるリスクスコアを計算することによって判定することをさらに含んでもよい。
【0034】
本発明の特定の態様では、方法は、IBDに対する治療のため、IBDの進行が高リスクまたは低リスクである者として識別された個体を選択することを含んでもよい。本発明の方法は、IBDの進行が高リスクまたは低リスクである者として識別された個体にIBDに対する治療を施すことをさらに含んでもよい。
【0035】
本発明の特定の態様では、2個以上の遺伝子の発現レベルは、リアルタイム定量PCR(RT-qPCR)、デジタルPCR、マイクロアレイ分析、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析を用いて測定される。
【0036】
本発明の特定の態様では、方法は、(i)個体から得られる全血試料を提供することと;(ii)全血試料からRNAを抽出することと;(iii)RNAをcDNAに変換することと;(iv)2個以上の遺伝子の発現レベルを測定するため、RT-qPCR、デジタルPCR、または全トランスクリプトームショットガン配列決定を実施することと、を含む。
【0037】
特定の態様では、本発明は、個体におけるIBDを治療するための方法であって、(i)IBDの進行が高リスクまたは低リスクである個体を識別することと、(ii)個体にIBDに対する治療を施すことと、を含む、方法に関する。
【0038】
本発明の他の態様は、本発明の方法における使用のための自己免疫性疾患の進行リスクの評価システムであって、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現を測定するための1つまたは複数のツール、ならびに被験者の遺伝子発現データからIBDの進行リスクスコアを計算するようにプログラムされたコンピュータを含む、システムを含む。システムは、RT-qPCR、デジタルPCR、マイクロアレイ分析、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析により、2個以上の遺伝子の発現を測定するための1つまたは複数のツールを含んでもよい。
【0039】
特定の態様では、本発明は、IBDの進行について高リスクまたは低リスクであると判定される個体におけるIBDを治療するための方法であって、(i)前記個体をIBD1(高リスクのIBDの進行)またはIBD2(低リスクのIBDの進行)として分類する試験結果をレビューすることであって、試験は2個以上の遺伝子の発現レベルを測定し、2個以上の遺伝子は、個体から得られる全血試料中のARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択され、かつ低リスク(IBD2)表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの上方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の下方制御発現が、個体が高リスク(IBD1)表現型を有することを示し、かつ高リスク(IBD1)表現型を有する個体におけるこれら遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの下方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の上方制御発現が、個体が低リスク(IBD2)表現型を有することを示す、レビューすることと、(ii)IBDにおけるIBD1またはIBD2表現型を有すると判定された個体を治療することと、を含む、方法に関する。方法は、RT-qPCR、デジタルPCR、マイクロアレイ分析、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析により、2個以上の遺伝子の発現レベルを測定するための分析の結果を提供する試験を要求することをさらに含んでもよい。
【0040】
特定の態様では、本発明は、個体が高リスクのIBD1表現型を有するかまたは低リスクのIBD2表現型を有するかを評価するためのキットであって、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを確認するための試薬を含み、ここでIBD1表現型が、IBD2表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの上方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の下方制御発現を特徴とし、かつIBD2表現型が、IBD1表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの下方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の上方制御発現を特徴とする、キットに関する。キットは、RT-qPCR、マイクロアレイ分析、デジタルPCR、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析により、2個以上の遺伝子の発現レベルを確認するための試薬を含んでもよい。
【0041】
発明の特定の態様では、IBDは、潰瘍性大腸炎(UC)またはクローン病である。
【0042】
特定の態様では、本発明は、IBD患者において低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力がある物質を同定するインビトロ方法であって、(i)目的の物質を用いる治療前にIBD患者から得られる全血試料、および(ii)目的の物質を用いる治療後にIBD患者から得られる全血試料を提供することであって、IBD患者は、高リスク(IBD1)表現型を有することが判定されている、提供することと;試料(i)および(ii)中のARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することと、を含み、、試料(i)に対する試料(ii)中の遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKのより低い発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3のより高い発現が、物質がIBD患者において低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力があることを示す、方法に関する。方法は、IBD患者において低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力があるとして同定された物質を薬剤に配合することをさらに含んでもよい。
【0043】
特定の態様では、本発明は、個体におけるIBDを治療する能力がある物質を同定するインビトロ方法であって、(i)IBDの進行が高リスクまたは低リスクである個体を識別することと;(ii)目的の物質を用いる治療後の個体におけるIBDの進行のレベルを対照と比較することであって、対照と比べての個体におけるIBDの進行のより低いレベルが、物質がIBDを治療する能力があることを示す、比較することと、を含む、方法に関する。方法は、IBDを治療する能力があるとして同定された物質を薬剤に配合することをさらに含んでもよい。
【0044】
特定の態様では、本発明は、患者の全血試料由来の患者識別化選択遺伝子の発現産物のアレイを提供する方法であって、a)前記患者の全血試料由来のRNAを提供することと;b)RNAをcDNAに変換することと;c)cDNAの一定分量が患者試料cDNAの一定分量として同定されるように、cDNAの各一定分量をアレイ上に置くことと;d)ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される3個以上の遺伝子の各遺伝子におけるcDNAの各一定分量に対してRT-qPCR、デジタルPCR、または全トランスクリプトームショットガン配列決定を実施し、RT-qPCR、デジタルPCRまたは全トランスクリプトームショットガン配列決定の産物をアレイ上に提供することにより、本質的に3つ以上の遺伝子発現産物からなる患者識別化選択遺伝子の発現産物のアレイを提供することと、を含む、方法に関する。方法は、RT-qPCR、デジタルPCRまたは全トランスクリプトームショットガン配列決定の産物を定量化するステップをさらに含んでもよい。RT-qPCR産物は、cDNAを3個以上の遺伝子の各々に特異的なプライマーセットと接触させることにより得てもよい。プライマーセットは、フォワードプライマー、リバースプライマー、およびプローブプライマーを含んでもよい。一部の実施形態では、遺伝子の4個、5個、13個、14個、または1個6は、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される。
【0045】
特定の態様では、本発明は、患者の全血試料由来の患者識別化選択遺伝子の発現産物のアレイであって、患者試料cDNAとして同定されたcDNAの各一定分量を含み、ここでアレイの3つ以上のcDNAの一定分量の各々が、cDNAの一定分量中で選択遺伝子発現産物を増幅するための特異的なRT-qPCRプライマー対を含み、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される3個以上の遺伝子に特異的なプライマー対を含む、アレイに関する。アレイは、遺伝子の3個以上に特異的なRT-qPCRプローブをさらに含んでもよい。一部の実施形態では、遺伝子の4個、5個、13個、14個、または16個は、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される。
【0046】
特定の態様では、本発明は、患者の全血試料由来の定量化された患者識別化選択遺伝子の発現産物のアレイを提供する方法であって、a)患者の全血試料由来のRNAを提供することと;b)前記RNAをcDNAに変換することと;c)cDNAの一定分量が患者試料cDNAの一定分量として同定されるように、前記cDNAの一定分量をアレイ上に置くことと;d)前記cDNAの一定分量に対してRT-qPCR、デジタルPCR、または全トランスクリプトームショットガン配列決定を実施し、RT-qPCR、デジタルPCRまたは全トランスクリプトームショットガン配列決定の遺伝子発現産物をアレイ上に提供することと;e)ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる遺伝子の群から選択される3個以上の遺伝子の選択された各遺伝子における遺伝子発現産物の量を定量化し、それにより患者の全血試料由来の定量化された患者識別化選択遺伝子の発現産物のアレイを提供することと、を含む、方法に関する。方法の特定の態様では、アレイ上の選択された各遺伝子発現産物においては、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKからなる群から選択される遺伝子における遺伝子発現産物の量は、遺伝子における対照よりも少なく;かつLGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される遺伝子における遺伝子発現産物の量は、遺伝子における対照よりも多い。方法の別の態様では、アレイ上の選択された各遺伝子発現産物においては、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKからなる群から選択される遺伝子における遺伝子産物の量は、遺伝子における対照よりも多く;かつLGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される遺伝子における遺伝子産物の量は、遺伝子における対照よりも少ない。一部の実施形態では、遺伝子の4個、5個、13個、14個、または16個は、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される。
【0047】
特定の態様では、本発明は、定量化された患者識別化選択遺伝子の発現産物のアレイであって、患者の全血試料の個別の定量化された遺伝子発現産物を含み、ここで定量化された遺伝子発現産物が、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される3個以上の遺伝子の増幅されたcDNA産物からなる、アレイに関する。一部の実施形態では、アレイ上の選択された各遺伝子発現産物においては、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKからなる群から選択される遺伝子における遺伝子発現産物の量は、遺伝子における対照よりも少なく;かつLGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される遺伝子における遺伝子発現産物の量は、遺伝子における対照よりも多い。一部の実施形態では、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKからなる群から選択される遺伝子における遺伝子産物の量は、遺伝子における対照よりも多く;かつLGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される遺伝子における遺伝子産物の量は、遺伝子における対照よりも少ない。一部の実施形態では、遺伝子の4個、5個、13個、14個、または16個は、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される。
【0048】
本明細書で用いられるとき、用語「アレイ」または「パネル」は、実験操作の過程の中で個別の核酸メンバーの同定および定量を可能にする様式で、1つ以上の容器、基板、または固体支持体の内部に含有される、またはそれらに固定される、核酸分子のプールを意味するように定義される。容器、基板、または固体支持体の非限定例として、反応チューブのシリーズ、マイクロアレイ、マルチウェルプレート(例えば、16ウェル、32ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェル、および1536ウェルプレート)、マイクロ流体デバイス、および当該技術分野で周知のその他の容器、基板、または固体支持体が挙げられる。
【0049】
本明細書で用いられるとき、「患者識別化」は、個別患者の出身、起源、または由来がマークされるか、ラベルされるか、コードされるか、または、その他として表示されることを意味するように定義される。非限定例として、患者の名前、患者の社会保障番号、バーコード、患者番号、コード、記号、または他の好適な固有識別子が挙げられる。
【0050】
本明細書で用いられるとき、「遺伝子発現産物」は、特定遺伝子の転写から生成される核酸を意味するように定義される。遺伝子発現産物の非限定例として、mRNA転写物、前記mRNAから作出または誘導されるcDNAおよびcDNA断片、前記mRNAまたは前記cDNAおよびcDNA断片から作出または誘導されるDNAまたはDNA断片が挙げられる。遺伝子発現産物の非限定例として、mRNA、逆転写により前記mRNAから作出されるcDNAおよびそのcDNA断片、ならびにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、および当該技術分野で周知の他の核酸増幅技術を用いる増幅により生成された前記mRNA、cDNAまたはそのcDNA断片から作出または誘導されるDNAが挙げられる。
【0051】
本明細書で用いられるとき、「本質的に~からなる」は、請求される方法、アッセイ、または生成物の結果、成果、または読み取りに実質的に影響しない他の要素または生成物を任意選択的に含むことを意味するように定義される。
【0052】
本明細書で用いられるとき、「定量化される」は、患者から得られる試料の遺伝子発現産物の測定量を意味するように定義される。患者から誘導または入手される試料中に存在する遺伝子発現産物の量を測定する非限定的な好適な方法は、RT-qPCR、デジタルPCR、全トランスクリプトームショットガン配列決定、直接多重遺伝子発現解析、および当該技術分野で周知のその他の方法を含む。
【0053】
本明細書で用いられるとき、「プライマー対」は、特定のcDNAもしくはDNA配列、またはその断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する能力がある、フォワードおよびリバースプライマーまたはオリゴヌクレオチドからなる、2つのプライマーまたはオリゴヌクレオチドを意味するように定義される。
【0054】
本明細書で用いられるとき、「プライマーセット」は、1つ以上の特定のcDNAもしくはDNA配列、またはその断片をPCRにより増幅する能力がある、1つ以上のプライマー対を意味するように定義される。
【0055】
本明細書で用いられるとき、「重度疾患経過」は、IBDの再発間の比較的短い期間および/またはIBD疾患の再発率の経時的増加を有するIBD患者の症状を意味するように定義される。IBDの再発は、Harvey Bradshaw(疾患活動性)指数>5;および(i)>10mg/lのC反応性タンパク質(CRP)レベル、(ii)>200μg/gのカルプロテクチンレベル、または(iii)疾患活動性の内視鏡的証拠によって特徴づけられる。
【0056】
本明細書で用いられるとき、「軽度疾患経過」は、IBDの再発間の比較的長い期間および/または経時的に増加しないIBD疾患の再発率を有するIBD患者の症状を意味するように定義される。IBDの再発は、Harvey Bradshaw(疾患活動性)指数>5;および(i)>10mg/lのC反応性タンパク質(CRP)レベル、(ii)>200μg/gのカルプロテクチンレベル、または(iii)疾患活動性の内視鏡的証拠によって特徴づけられる。
【0057】
高リスク(IBD1)表現型を有する、ひいてはIBDの進行が高リスクである個体は、低リスクのIBD2表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの上方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の下方制御発現によって特徴づけられる。
【0058】
同様に、低リスク(IBD2)表現型を有する、ひいてはIBDの進行が低リスク個体は、高リスクのIBD1表現型を有する個体における以下の遺伝子の発現のレベルとの比較での、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKの下方制御発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の上方制御発現によって特徴づけられる。
【0059】
遺伝子の上方制御または下方制御発現は各々、前記遺伝子の有意に上方制御された、または有意に下方制御された発現のレベルを指してもよい。個体が問題の遺伝子の上方制御された発現のレベルを有するかまたは下方制御された発現のレベルを有するかは、任意の便宜的手段により判定されてもよく、多くの好適な技術は、当該技術分野で公知であり、本明細書に記載される。
【0060】
大部分のバイオマーカーの場合のように、予測の正確性は、絶対的でない可能性がある。したがって、個体は、IBDの進行が高リスクまたは低リスクのいずれかであるものとして分類される。このリスクは、幾つかの方法で表されてもよい。
【0061】
例えば、個体におけるIBDの進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかは、ハザード比の観点で表されてもよい。ここでハザード比は、高リスク(IBD1)または低リスク(IBD2)表現型を有する個体におけるIBDの進行の瞬時確率を表す。あるいは、IBDの進行のリスクは、ハザード比(HR)の観点で表されてもよく、ここでハザード比は、低リスク(IBD2)表現型を有する個体に対する、高リスク(IBD1)表現型を有する個体において生じるIBDの進行の確率を表す。
【0062】
本発明者は、高リスク(IBD1)表現型を有する個体が、低リスク(IBD2)表現型を有する個体と比べて、IBDの進行の確率に関して3.52のハザード比を有したことを示している(実施例3および図3を参照)。
【0063】
したがって、好ましい実施形態では、IBDの進行が高リスクである個体は、IBDの進行が低リスクである個体のハザード比よりも少なくとも2、少なくとも2.5、少なくとも3、または少なくとも3.5倍高いIBDの進行に対するハザード比を有してもよい。同様に、IBDの進行が低リスクである個体は、IBDの進行が高リスクである個体のハザード比よりも少なくとも2、少なくとも2.5、少なくとも3、または少なくとも3.5倍低いIBDの進行に対するハザード比を有してもよい。したがって、IBDの進行が高リスクである個体は、IBDの進行が低リスクである個体と比べて、少なくとも2、少なくとも2.5、少なくとも3、または少なくとも3.5のIBDの進行に対するハザード比を有してもよい。より好ましくは、IBDの進行が高リスクである個体は、IBDの進行が低リスクである個体のハザード比よりも少なくとも3.5倍高いIBDの進行に対するハザード比を有する、すなわち、IBDの進行が低リスクである個体に対して、IBDの進行に対する少なくとも3.5のハザード比を有し、IBDの進行が低リスクである個体は、IBDの進行が高リスクである個体のハザード比よりも少なくとも3.5倍低いIBDの進行に対するハザード比を有する。
【0064】
あるいは、IBDの進行が高リスクである個体は、IBDの進行を経験する可能性が、IBDの進行が低リスクである個体よりも少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3倍、少なくとも3.1倍、少なくとも3.2倍、少なくとも3.3倍、少なくとも3.4倍、または少なくとも3.5倍高くてもよい。同様に、IBDの進行が低リスクである個体は、IBDの進行を経験する可能性が、IBDの進行が高リスクである個体よりも少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3倍、少なくとも3.1倍、少なくとも3.2倍、少なくとも3.3倍、少なくとも3.4倍、または少なくとも3.5倍低くてもよい。IBDの進行の可能性は、1年間、2年間、3年間、4年間または5年間にわたるIBDの進行の可能性を指してもよい。
【0065】
したがって、IBDの進行が高リスクである個体は、IBDの進行が低リスクである個体よりも少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、少なくとも160%、少なくとも170%、少なくとも180%、少なくとも190%、少なくとも200%、少なくとも210%、少なくとも220%、少なくとも230%、少なくとも240%、少なくとも250%、少なくとも260%、少なくとも270%、少なくとも280%、少なくとも290%、少なくとも300%、少なくとも310%、少なくとも320%、少なくとも330%、少なくとも340%、または少なくとも350%高いIBDの進行の確率を有してもよい。同様に、IBDの進行が低リスクである個体は、IBDの進行が高リスクである個体よりも少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、少なくとも160%、少なくとも170%、少なくとも180%、少なくとも190%、少なくとも200%、少なくとも210%、少なくとも220%、少なくとも230%、少なくとも240%、少なくとも250%、少なくとも260%、少なくとも270%、少なくとも280%、少なくとも290%、少なくとも300%、少なくとも310%、少なくとも320%、少なくとも330%、少なくとも340%、または少なくとも350%低いIBDの進行の確率を有してもよい。IBDの進行の確率は、1年間、2年間、3年間、4年間または5年間にわたるIBDの進行の確率を指してもよい。
【0066】
個体から得られる試料(すなわち試験試料)中のARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することにより、個体が高リスク(IBD1)表現型を有するかまたは低リスク(IBD2)表現型を有するか(本明細書中でIBDの進行リスクスコアとも称される)を確認するために用いられてもよい好適な方法が数多く存在し、ここで試料は、好ましくは全血試料である。
【0067】
例えば、個体から得られる試料中の、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現のレベルは、問題の遺伝子の発現を高リスク(IBD1)または低リスク(IBD2)表現型と関連付けたデータコレクションと比較されてもよい。好ましい実施形態では、個体から得られる試料中のARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現のレベルは、高リスク(IBD1)または低リスク(IBD2)表現型を有することが知られる個体から得られる問題の遺伝子についての発現データと比較され、前記比較から、個体におけるIBDの進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかが評価される。比較では、線形回帰モデルを用いてもよい。
【0068】
あるいは、個体から得られる試料中の、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現のレベルは、IBDを有することが知られた個体から得られる問題の遺伝子についての遺伝子発現データに基づく計算モデル、ならびに好適な機械学習技術(ロジスティック回帰、サポートベクターマシン、または決定木に基づく方法)の使用を通じて、個体が高リスク(IBD1)表現型を有するかまたは低リスク(IBD2)表現型を有するかを確認するため、用いられてもよい。例えば、計算モデルは、高リスク(IBD1)または低リスク(IBD2)表現型を有することが知られた個体から得られる問題の遺伝子についての遺伝子発現データに基づいてもよい。あるいは、計算モデルは、IBDを有することが知られ、かつIBDの進行を経ているかまたは経ていないことが知られた個体から得られる問題の遺伝子についての遺伝子発現データに基づいてもよい。
【0069】
さらなる例では、好ましくは個体から得られる全血試料(すなわち試験試料)である試料中の、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現のレベルは、問題の各遺伝子における閾値レベルと比較されてもよい。遺伝子における好適な閾値レベルは、患者の別々の予後サブグループIBD1およびIBD2への最大分離を可能にする最適な発現閾値を確認するため、例えばqPCR発現データおよび機械学習方法(ロジスティック回帰、サポートベクターマシン、または決定木に基づく方法など)を用いて決定され得る。したがって、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現のレベルと問題の遺伝子の各々における閾値レベルとの比較は、個体が高リスク(IBD1)表現型を有するかまたは低リスク(IBD2)表現型を有するかを示し得る。
【0070】
あるいは、個体群から得られる試料中の問題の遺伝子(すなわち、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子)の各々の発現レベル中央値は、対照値として用いられてもよく、ここで群は、IBDの進行を有しない個体、好ましくは少なくとも100、少なくとも50、または少なくとも10の個体からなった。この場合、個体から得られる全血試料中の、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、もしくはGZMKの発現レベル中央値を上回ること、または遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、もしくはTRGV3の発現レベル中央値未満が、高リスク(IBD1)表現型の存在を示し得る一方で、個体から得られる全血試料中の、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、もしくはGZMKの発現レベル中央値以下、または遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、もしくはTRGV3の発現レベル中央値以上は、低リスク(IBD2)表現型の存在を示し得る。
【0071】
さらにその他として、個体、好ましくは、少なくとも100、少なくとも50、または少なくとも10の個体の群から得られる試料中の問題の遺伝子の各々の発現レベル中央値は、対照として用いられてもよく、ここで群はIBDの進行を有する個体からなった。この場合、個体から得られる全血試料中の、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、もしくはGZMKの発現レベル中央値以上、または遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、もしくはTRGV3の発現レベル中央値以下が、高リスク(IBD1)表現型の存在を示し得る一方で、個体から得られる全血試料中の、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、もしくはGZMKの発現レベル中央値未満、または遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、もしくはTRGV3の発現レベル中央値超は、低リスク(IBD2)表現型の存在を示し得る。
【0072】
さらにその他として、個体、好ましくは、少なくとも100、少なくとも50、または少なくとも10の個体の群から得られる試料中の問題の遺伝子の各々の発現レベル中央値は、対照として用いられてもよく、ここで群は、IBDの進行を有する個体およびIBDの進行を有しない個体を含んだ。好ましくは、群は、IBDの進行を有する個体およびIBDの進行を有しない個体を等しい数、または本質的に等しい数で含んだ。この場合、個体から得られる全血試料中の、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、もしくはGZMKの発現レベル中央値超、または遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、もしくはTRGV3の発現レベル中央値未満が、高リスク(IBD1)表現型の存在を示し得る一方で、個体から得られる全血試料中の、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、もしくはGZMKの発現レベル中央値未満、または遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、もしくはTRGV3の発現レベル中央値超は、低リスク(IBD2)表現型の存在を示し得る。
【0073】
遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の発現のレベルは、任意の便宜的手段により測定されてもよく、多数の好適な技術は当該技術分野で公知である。例えば、好適な技術は、リアルタイム定量PCR(RT-qPCR)、デジタルPCR、マイクロアレイ分析、全トランスクリプトームショットガン配列決定(RNA-SEQ)、直接多重遺伝子発現解析、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)、プロテインチップ、フローサイトメトリー(FlowRNAとも称されるRNA用のFlow-FISHなど)、質量分析、ウエスタンブロッティング、およびノーザンブロッティングを含む。したがって、本発明の方法は、個体から得られる全血試料を、RT-qPCR、デジタルPCR、マイクロアレイ分析、全トランスクリプトームショットガン配列決定、直接多重遺伝子発現解析、ELISA、プロテインチップ、フローサイトメトリー、質量分析、またはウエスタンブロッティングを用いて、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを測定するのに適した試薬、例えば、前記遺伝子の2個以上の発現レベルを測定するのに適した1つまたは複数の試薬と接触させることを含んでもよい。例えば、試薬は、RT-qPCR、デジタルPCR、または全トランスクリプトームショットガン配列決定を用いて前記遺伝子の1つ以上の発現レベルを測定するのに適した核酸プライマーの1つまたは複数のペアであってもよい。あるいは、試薬は、ELISAまたはウエスタンブロッティングを用いて前記1個以上の遺伝子の発現レベルを測定するのに適した抗体であってもよい。好ましくは、前記遺伝子の発現のレベルは、RT-qPCR、デジタルPCR、マイクロアレイ分析、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析を用いて測定される。最も好ましくは、前記遺伝子の発現のレベルは、RT-qPCRを用いて測定される。
【0074】
RT-qPCRは、標的DNA分子の増幅および同時定量化を可能にする。RT-qPCRを用いて遺伝子発現レベルを分析するため、全血試料の全mRNAはまず、単離され、逆転写酵素を用いてcDNAに逆転写されてもよい。例えば、mRNAレベルは、例えば、ABI PRISM 7900HT機器上でのTaqMan遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)を用いて、製造業者の使用説明書に従って測定され得る。次に、転写物存在量が検量線との比較により計算され得る。
【0075】
デジタルPCRは、絶対的定量化および希少な対立遺伝子検出のための、通常のリアルタイム定量PCRに対する代替的方法を提供する、核酸の検出および定量化に対する新しい手法である。デジタルPCRは、DNAまたはcDNAの試料を多数の個別のパラレルPCR反応物に分割することによって動作し;これらの反応物の一部が標的分子を含有する(陽性)一方で、それ以外は含有しない(陰性)。単一分子は、百万倍以上増幅され得る。増幅の間、配列特異的標的を検出するため、色素標識プローブを用いたTaqMan(登録商標)化学が用いられる。標的配列が存在しないとき、シグナルは蓄積しない。PCR分析後、試料中の標的分子の数の絶対数を得るため、陰性反応物の画分が用いられ、標準または内因性対照は必要でない。ナノ流体チップの使用により、数千のPCR反応を並行的に実行するための便宜的かつ直接的な機構が提供される。各ウェルは、試料、マスターミックス、およびTaqMan(登録商標)アッセイ試薬の混合物が負荷され、個別に分析され、エンドポイントシグナルの存在(陽性)または不在(陰性)が検出される。標的配列の2個以上の分子を受けている可能性があるウェルを説明するため、補正因子がポアソンモデルを用いて適用される。
【0076】
RNA-SEQでは、所与の時点での生体試料中のRNAの検出および定量化を意図した次世代配列決定(NGS)が用いられる。RNAライブラリーが調製、転写、断片化、配列決定、再構成され、配列または目的の配列が定量化される。
【0077】
NanoString技術では、多種タイプの標的核酸分子に直接的にハイブリダイズし得る固有の色分けされた分子バーコードが用いられ、qPCRと同等の感度を有する、最大800個の遺伝子の発現レベルを同時に分析するための費用効果の高い方法が提供される。
【0078】
RNA用のFlow-FISHでは、蛍光標識RNAオリゴを用いて試料中の標的mRNAの存在量を測定するため、フローサイトメトリーが用いられる。この技術は、例えば、Porichis et al. , Nat Comm (2014) 5:5641に記載されている。この技術の利点は、試料中に存在する細胞を分離する必要なしにそれが使用可能である点である。
【0079】
マイクロアレイは、2つの試料中の遺伝子発現の比較を可能にする。最初に全RNAが、例えばTrizolまたはRNeasy mini kit(Qiagen)を用いて、例えばPBMCまたは全血から単離される。次に、単離された全RNAが、逆転写酵素およびポリTプライマーを用いて二本鎖cDNAに逆転写され、例えばCy3-またはCy5-dCTPを用いて標識される。次に、適切なCy3-およびCy5-標識試料がプールされ、好適な遺伝子を表すプローブおよび対照特徴からなるカスタムスポットオリゴヌクレオチドマイクロアレイ、例えば(Willcocks et al., J Exp Med 205, 1573- 82, 2008)に記載のマイクロアレイにハイブリダイズされる。試料は、プールされたPBMCまたは全血試料に由来する共通の参照RNAに対して、色素交換法を用いて、二通りにハイブリダイズされてもよい。ハイブリダイゼーション後、アレイは洗浄され、例えばAgilent G2565Bスキャナーでスキャンされる。上記ステップに対する好適な代替物は、当該技術分野で周知であり、当業者にとって明白となる。次に、得られる生のマイクロアレイデータは、遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3の相対的発現を測定するための好適な方法を適用可能であれば用いて分析され得る。
【0080】
酵素結合免疫吸着測定(ELISA)は、試料中に存在するタンパク質の相対量の検出を可能にする。試料はまず、固体支持体、例えばポリスチレンマイクロタイタープレートに、直接的に、または目的のタンパク質に特異的な抗体を介して固定化される。固定化後、抗原は、標的タンパク質に特異的な抗体を用いて検出される。標的タンパク質を検出するために用いられる一次抗体のいずれかは、検出できるように標識されてもよく、または一次抗体は、好適に標識された二次抗体を用いて検出され得る。例えば、抗体は、抗体をレポーター酵素にコンジュゲートすることにより標識されてもよい。この場合、プレートは、可視シグナルを生成するための好適な酵素基質を添加することにより展開される。シグナルの強度は、試料中に存在する標的タンパク質の量に依存する。
【0081】
プロテインアレイまたはプロテインマイクロアレイとも称されるプロテインチップは、試料中に存在するタンパク質の相対量の検出を可能にする。異なる捕獲分子が、チップに固定されてもよい。例として、抗体、抗原、酵素基質、ヌクレオチドおよび他のタンパク質が挙げられる。プロテインチップはまた、広範なタンパク質に結合する分子を含有し得る。プロテインチップは当該技術分野で周知であり、多種のプロテインチップが市販されている。
【0082】
ウエスタンブロッティングもまた、試料中に存在するタンパク質の相対量の測定を可能にする。試料中に存在するタンパク質はまず、ゲル電気泳動を用いて分離される。次に、タンパク質は、膜、例えばニトロセルロースまたはPVDF膜に移され、標的タンパク質に特異的なモノクローナルまたはポリクローナル抗体を用いて検出される。多種の抗体が市販されており、所与の標的タンパク質に対する抗体を作製するための方法もまた、当該技術分野で十分に確立されている。検出を可能にするため、目的のタンパク質に特異的な抗体、または好適な二次抗体が、例えば、比色分析反応を駆動し、適切な基質に曝露されるときに発色する、レポーター酵素に連結されてもよい。他のレポーター酵素は、適切な基質とともに提供されるときに化学発光を生じる西洋わさびペルオキシダーゼを含む。抗体はまた、好適な放射性または蛍光標識で標識されてもよい。用いられる標識に依存し、タンパク質レベルは、デンシトメトリー、分光光度法、写真フィルム、X線フィルム、または光センサーを用いて測定されてもよい。
【0083】
フローサイトメトリーは、被験者から得られる例えばPBMC中または全血試料中に存在するタンパク質の相対量の測定を可能にする。フローサイトメトリーはまた、細胞表面上での目的のタンパク質の発現のレベルを検出または測定するために用いることができる。フローサイトメトリーを用いてのタンパク質および細胞の検出は通常、最初に蛍光標識を目的のタンパク質または細胞に付着させることを含む。蛍光標識は、例えば目的のタンパク質または細胞に特異的な蛍光標識抗体であってもよい。多種の抗体が市販されており、目的のタンパク質に特異的な抗体を作製するための方法もまた、当該技術分野で十分に確立されている。
【0084】
質量分析、例えばマトリックス支援レーザー脱着/イオン化(MALDI)質量分析は、例えばペプチド質量フィンガープリンティングを用いて、個体から得られる試料中に存在するタンパク質の同定を可能にする。質量分析前、試料中に存在するタンパク質は、ゲル電気泳動、例えば、SDS-PAGE、サイズ排除クロマトグラフィー、または二次元ゲル電気泳動を用いて単離されてもよい。
【0085】
さらに開示されるのは、個体が高リスク(IBD1)表現型を有するかもしくは低リスク(IBD2)表現型を有するかの評価における使用、または個体から得られる全血試料中に高リスク(IBD1)表現型が存在するかもしくは低リスク(IBD2)表現型が存在するかの評価が意図されるキットである。キットは、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを確認するための試薬を含んでもよい。これら遺伝子におけるNCBI受入番号(およびGI番号)は、表2に示される。キットは、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される遺伝子の3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、または16個すべての発現レベルを確認するための試薬を含んでもよい。好ましくは、キットは、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される遺伝子の少なくとも5個の発現レベルを確認するための試薬を含む。
【0086】
好ましい実施形態では、キットは、IL18RAPおよびTRGC2の発現レベルを確認するための試薬、また任意選択的には、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、HP、NUDT7、GZMH、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、または14個すべての遺伝子の発現レベルを確認するための試薬を含む。
【0087】
さらなる好ましい実施形態では、キットは、IL18RAP、TRGC2およびTRGV3の発現レベルを確認するための試薬、また任意選択的には、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、HP、NUDT7、GZMH、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、およびLY96からなる群から選択される1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、または13個すべての遺伝子の発現レベルを確認するための試薬を含む。
【0088】
例えば、試薬は、本明細書に記載の任意の技術、例えばRT-qPCR、デジタルPCR、マイクロアレイ分析、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析を用いて、問題の遺伝子の発現を確認するのに適した試薬であってもよい。例えば、キットは、例えば、RT-qPCR、デジタルPCR、全トランスクリプトームショットガン配列決定、または直接多重遺伝子発現解析を用いて、問題の遺伝子の発現のレベルを確認するのに適したプライマーを含んでもよい。好適なプライマーの設計は、ルーチン的であり、十分に当業者の能力の範囲内である。直接多重遺伝子発現解析用のキットは、問題の遺伝子の発現のレベルを確認するための蛍光プローブを追加的または代替的に含んでもよい。
【0089】
検出試薬に加えて、キットはまた、RNA抽出試薬および/またはRNAのcDNAへの逆転写用の試薬を含んでもよい。
【0090】
キットはまた、方法を実施するための1つ以上の物品および/または試薬、例えば緩衝液、および/または試験試料自体を入手するための手段、例えば試料を入手および/または単離するための手段、ならびに試料処理容器(一般に滅菌されているような部品)を含んでもよい。キットは、個体が高リスク(IBD1)表現型を有するかもしくは低リスク(IBD2)表現型を有するか、または全血試料中に高リスク(IBD1)表現型が存在するかもしくは低リスク(IBD2)表現型が存在するかを評価するための方法におけるキットの使用説明書を含んでもよい。
【0091】
本発明の主な利点は、個体が高リスク(IBD1)表現型を有するかまたは低リスク(IBD2)表現型を有するかを評価するため、本発明者によって同定された遺伝子の発現レベルが個体から得られる全血試料中で測定可能である点である。したがって、本発明との関連で参照される試料は、好ましくは全血試料である。全血試料、末梢血試料、および末梢全血試料という用語は、本明細書中で交換可能に用いられる。全血試料は、個体から得られる血液、例えば末梢血の、その成分すべてを伴う試料を指す。したがって、用語「全血試料」は、本明細書で用いられるとき、先行技術の方法において用いられる、(a)全血から単離された特定の血液細胞型、例えば単離された末梢血単核球(PBMC)または単離されたT細胞、例えば単離されたCD8+もしくはCD4+T細胞の試料を包含しない。全血試料は、試料収集後のプロセシング、例えば細胞溶解および/または全血試料中のRNA分解を阻害するための1つ以上の酵素阻害剤の添加が施されてもよい。
【0092】
本発明は、個体から得られる(例えばPBMC試料よりはむしろ)全血試料中の2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することにより、個体におけるIBDの進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価する方法を対象とするが、個体におけるIBDの進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価するため、個体から得られるPBMC試料中でのARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルの測定を同様に用いることができることが予想される。しかし、これは請求されない。
【0093】
用語「個体」は、ヒト個体を指す。個体はまた、患者すなわちヒト患者と称されてもよい。本発明との関連で、個体は、文脈上特に断りのない限り、IBDを有する。好ましくは、個体は、IBDと診断されている。IBDが重度の症状(再発)の期間および寛解の期間によって特徴づけられるとき、個体は、IBDの再発を経験する過程であり得る、またはIBDから寛解中であり得る。
【0094】
IBDは、腸の炎症によって特徴づけられる状態群を指す。IBDの症状は、腹痛、再発性または血性下痢、食欲不振および体重減少、疲労(tiredness)および疲労(fatigue)、ならびに貧血を含み得る。IBDの2つの主なタイプが、潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)である。他のタイプは、コラーゲン大腸炎およびリンパ球性大腸炎を含む。UCおよびクローン病は、英国単独で300.000を超える人々を冒す。潰瘍性大腸炎は主に結腸および直腸を冒す一方で、クローン病は小腸および大腸を冒し、口、食道、胃および肛門も冒し得る。UCおよびクローン病は、重度の症状(疾患再発)の期間および寛解の期間によって特徴づけられる慢性状態である。いずれの疾患にも治療法はないが、抗炎症および免疫抑制療法、ならびに手術を含む治療は利用可能である。
【0095】
「IBDの進行」は、個体における疾患の初期症状後のIBDの進行を指す。UCおよびクローン病を含むIBDは、疾患の再発(relapses)によって特徴づけられる。これらの再発(relapses)はまた、再発(flare-ups)と称される。したがって、IBDの進行は、疾患の初期症状後のIBDの再発(relapses)、または再発(flare-ups)を指してもよい。特に、IBDの進行は、疾患の初期症状後のIBDの高頻度の再発(relapses)、または再発(flare-ups)を指してもよい。本発明者は、実施例3におけるIBD1およびIBD2サブグループに属するとして識別された個体が、疾患の初期症状後の12か月の期間にわたり、各々、平均0.66および0.34のIBDの再発(relapses)、または再発(flare-ups)を有することを見出した。したがって、高頻度の再発(relapses)、または再発(flare-ups)は、疾患の初期症状後の12か月の期間にわたる、または疾患の初期症状の12か月以内の、平均0.5以上、または0.6以上、好ましくは平均0.6以上の再発(relapses)、または再発(flare-ups)を指してもよい。再発(relapse)または再発(flare-up)は、治療の増強、例えば、免疫抑制もしくは抗炎症療法または手術の増強を必要とする事象であってもよい。治療の増強に対するかかる必要性はまた、治療拡大と称されてもよい。再発(relapse)または再発(flare-up)は、未治療で放置される場合、または不適切に治療される場合、腸の損傷または破壊を生じ得る。したがって、IBDの進行の高リスクは、個体が初期症状後に疾患の再発(relapses)または再発(flare-ups)を経験することになる高リスク、特に個体が疾患の初期症状後の12か月の期間にわたり平均で0.6以上の疾患の再発(relapses)または再発(flare-ups)を経験することになる高リスクを指してもよい一方で、IBDの進行の低リスクは、個体が初期症状後に疾患の再発(relapses)または再発(flares)を経験することになる低リスク、特に個体が疾患の初期症状後の12か月の期間にわたり平均で0.6以上の疾患の再発(relapses)または再発(flare-ups)を経験することになる低リスクを指してもよい。
【0096】
疾患の再発(relapse)または再発(flare-up)の診断は、熟練した施術者の能力の範囲内に十分に含まれる。例えば、個体におけるIBDの再発(relapse)または再発(flare-up)は、Harvey Bradshaw(疾患活動性)指数>5;および(i)>10mg/lのC反応性タンパク質(CRP)レベル、(ii)>200μg/gのカルプロテクチンレベル、または(iii)疾患活動性の内視鏡的証拠;および疾患の以前の再発(flare-up)後に得られた寛解を有する個体によって特徴づけられてもよい。CRPは、肝臓により生成される炎症の血液マーカーである。炎症性事象の間、レベルが上昇する。CRPレベルが通常、個体から得られる血液試料中で測定される一方で、カルプロテクチンレベルは通常、便試料中で測定される。
【0097】
Harvey Bradshaw(疾患活動性)指数では通常、以下のパラメータ:
(i)一般的な健康問題(0=非常に良い、1=平均を若干下回る、2=不良、3=非常に良くない、4=ひどい)
(ii)腹痛(0=なし、1=軽度、2=中等度、3=重度)
(iii)1日当たりの液体便の回数
(iv)腹部腫瘤(0=なし、1=疑わしい、2=確実、3=圧痛あり)
(v)合併症の存在(各合併症について1ポイントの存在を伴う):関節痛、ぶどう膜炎、結節性紅斑、アフタ性潰瘍、壊疽性膿皮症、裂肛、新しい瘻孔、膿瘍
が測定される。
【0098】
Harvey Bradshaw指数スコア>5は、軽度から重度の疾患の存在を示す。
【0099】
IBDに対する公知の治療は、抗炎症療法、免疫抑制療法、および手術を含む。抗炎症療法の例として、ステロイド(コルチコステロイド、例えば、プレドニゾロン、またはブデソニド)、および/またはメサラジンを用いる治療が挙げられる。免疫抑制療法の例として、TNFα阻害剤(インフリキシマブなど)、アザチオプリン、メトトレキサート、および/または6-メルカプトプリンを用いる治療が挙げられる。
【0100】
治療は、(維持療法とも称される)疾患の管理が意図される進行中の疾患の治療、および疾患の再発(relapses)または再発(flare-ups)の治療を指してもよい。
【0101】
標準の「ステップアップ」治療は、専ら進行中の疾患の再発(flare-ups)または疾患の初期治療への不応答に応じての拡大治療を含む。例えば、(診断が下される時の)疾患の初期再発であれば、抗炎症ステロイド、例えばプレドニゾロン、または抗炎症薬、例えばメサラジン(例えばUCにおける)を用いて治療されることになるが、維持療法であれば開始されないことになる。その後に再発が生じる場合、この治療は反復されることになり、次に維持療法(例えば、アザチオプリン、メトトレキサート、または6-メルカプトプリンを用いる治療)も加わることになる。この維持療法にもかかわらず疾患の再発が続いた場合、次により強力な維持療法、例えばTNFα阻害剤(インフリキシマブまたはアダリムマブ)を用いる治療が加わることになる。この治療方法は、専ら不適切に制御された疾患に応じて治療を拡大することにより過剰治療を防止するが、最終的には疾患の制御時に有効でない治療が試されることから、さらなる進行性疾患を有する患者を実質的な疾患関連合併症に曝露するというリスクがある。
【0102】
既に上で説明されたように、IBDにおける侵襲療法の早期導入が、標準のステップアップ手法と比べて、より良好な転帰をもたらすことが見出されている。具体的には、活動性クローン病を有する大部分の患者が、コルチコステロイドを用いて初期治療される。この手法は通常、症状を制御するが、多くの患者は、コルチコステロイドに対して耐性または依存性を示すようになり、コルチコステロイドへの曝露延長は、死亡率のリスク増加に関連する。インフリキシマブおよびアザチオプリンを用いての組み合わされた免疫抑制療法の早期利用と通常の疾患管理との比較により、クローン病であると最近診断されていた患者における寛解を誘導し、コルチコステロイド使用を低減するため、組み合わされた免疫抑制療法が通常の疾患管理よりも有効であることが示された。したがって、より集約的な治療を疾患経過における早期に開始することで、IBDを有する患者において、より良好な転帰をもたらすことができた(D’Haens et al., 2008; Colombel et al., 2010)。特に、早期の組み合わせ免疫抑制療法で治療されたクローン病患者(D’Haens et al., 2008)は、より長期間のステロイドを含まない寛解を経験し、粘膜治癒を達成し、最終的には外科的切除を回避する可能性がより高い(D’Haens et al., 2008; Colombel et al., 2010)。しかし、この方法は、ある割合の患者が通常のコルチコステロイド治療であっても延長された寛解を得ていることになり(Jess et al., 2007)、ひいては組み合わせ免疫抑制療法を用いたそれらの治療により、彼らが不必要な副作用および毒性に曝露されることになることから、すべてのクローン病患者に適することはない。
【0103】
本発明者によって同定された全血遺伝子分類子は、クローン病および潰瘍性大腸炎を含むIBDにおける疾患経過を予測する。具体的には、IBD1サブグループにおける患者は、疾患の再発(relapses)または再発(flare-ups)を実質的により高い発生率で有し、(IBD2群における患者と比べて)より早期の治療拡大だけでなく、フォローアップの単位期間当たりのさらなる治療拡大に対する需要をもたらす。疾患の再発(relapses)または再発(flare-ups)のこのパターンは、かなり高い罹患率に関連し、それ故、IBD1サブグループにおける患者は、早期侵襲療法、例えばTNFα阻害剤の使用から利益を得る可能性が最も高い。
【0104】
したがって、IBDの進行が高リスクであると識別された患者は、疾患経過における通常の早期投与よりも一層の侵襲療法、例えば、患者が、診断時、TNFα阻害剤、例えばインフリキシマブをアザチオプリン、メトトレキサートまたは6-メルカプトプリンと併用して治療され、その後の再発(relapses)または再発(flare-ups)が、抗炎症性ステロイド、例えばプレドニゾロンの追加投与で治療され、TNFα阻害剤の投与が増加され、または例えば抗インテグリン抗体を用いて治療される場合の「トップダウン」手法で治療されてもよい。
【0105】
それ故、IBDの進行が高リスクである者として識別された個体の場合、治療は、より高頻度もしくはより侵襲性である疾患の治療計画、または通常はIBDの維持段階中に投与されない疾患の治療計画で、治療対象の個体を治療すること、または選択することを含んでもよい。より高頻度もしくはより侵襲性である疾患の治療計画は、通常はIBDの維持段階中に投与される治療よりも頻繁または集約的である疾患の治療計画を指してもよい。より侵襲性である疾患の治療計画の例が、例えば診断時、1つ以上の免疫抑制剤を用いる治療、例えば、TNFα阻害剤、例えばインフリキシマブを、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、またはメトトレキサートと併用する治療である。
【0106】
IBDの進行が低リスクである者として識別された個体の場合、治療は、上記の標準のステップアップ治療手法を用いて治療すること、またはそれによる治療のための個体を選択することを含んでもよい。標準のステップアップ手法は、かかる患者の不必要な過剰治療を回避する。したがって、IBDの進行が低リスクである者として識別された個体は、疾患の初期症状時、炎症性ステロイド、例えばプレドニゾロン、または抗炎症薬、例えばメサラジンを用いて治療されてもよく、またはそれによる治療のために選択されてもよい。疾患のその後の再発(relapse)、または再発(flare-up)は、炎症性ステロイド、例えばプレドニゾロン、または抗炎症薬、例えばメサラジンを、維持療法の実施、例えばアザチオプリン、メトトレキサート、または6-メルカプトプリンを用いる治療と組み合わせて用いて治療されてもよい。さらに、疾患の再発(relapses)、または再発(flare-ups)は、炎症性ステロイド、例えばプレドニゾロン、または抗炎症薬、例えばメサラジンを、維持療法としてのTNFα阻害剤(インフリキシマブまたはアダリムマブなど)の投与と組み合わせて用いて治療されてもよい。
【0107】
本発明の方法は、1以上の個体から得られる全血試料の使用を含み、それ故にインビトロ方法である。
【0108】
本発明は、個体から得られる全血試料中の、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することを含むインビトロ方法を提供する。
【0109】
本発明の方法は、個体におけるIBDを治療する能力がある物質を同定するための方法における適用、例えば臨床試験が見出されることが予想される。かかる方法において用いられる個体は、IBDの進行が高リスクまたは低リスクであり得、好ましくは、個体はIBDの進行が高リスクである。IBDの進行が高リスクである個体は、IBDの進行が低リスクである個体よりも頻繁な疾患の再発(relapses)または再発(flare-ups)を経験することが予想され、それ故、例えばかかる再発(flare-ups)または再発(relapses)の頻度および/または重症度を低下させる場合に、推定上の治療の有効性を評価することが容易になる。
【0110】
個体におけるIBDを治療する能力がある物質を同定する方法、好ましくはインビトロ方法は、
(i)IBDの進行が高リスクまたは低リスク、好ましくはIBDの進行が高リスクである個体を本発明の方法を用いて識別することと;
(ii)目的の物質を用いた治療を受けている個体におけるIBDの進行のレベルを対照と比較することと、を含んでもよい。個体におけるIBDの進行の対照と比べてより低いレベルは、物質がIBDを治療する能力があることを示す。IBDの進行のより低いレベルは、IBDの再発(flare-ups)または再発(relapses)の頻度および/または重症度における対照と比べての低下を指してもよい。方法は、上記方法におけるステップ(i)の後およびステップ(ii)の前に個体に目的の物質を用いた治療を施すステップをさらに含んでもよい。対照は、目的の物質を用いて治療されていない、例えば本発明の方法を用いてIBDの進行が高リスクまたは低リスク、好ましくは高リスクであると識別された、個体または個体群において認められるIBDの進行のレベルであってもよい。
【0111】
したがって、個体におけるIBDを治療する能力がある物質を同定する方法は、
(i)IBDの進行が高リスクまたは低リスク、好ましくはIBDの進行が高リスクである第1の個体を本発明の方法を用いて識別することと;
(ii)IBDの進行が高リスクまたは低リスク、好ましくはIBDの進行が高リスクである第2の個体を本発明の方法を用いて識別することと;
(iii)第1の個体におけるIBDの進行のレベルを第2の個体におけるIBDの進行のレベルと比較することと、を含んでもよく、ここで第1の個体は目的の物質を用いた治療を受けており、かつ第1の個体におけるIBDの進行の第2の個体と比べてより低いレベルは、物質がIBDを治療する能力があることを示す。方法は、任意選択的には、ステップ(i)の後であるがステップ(iii)の前に第1の個体を目的の物質を用いて治療するステップをさらに含んでもよい。
【0112】
本発明の方法はまた、IBD患者における低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力がある物質を同定するための方法における適用が見出されることが予想される。かかる方法において用いられる患者は、IBDの進行が高リスクである。詳細には、本発明は、IBD患者における低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力がある物質を同定する方法、好ましくはインビトロ方法であって、
(i)目的の物質を用いる治療前にIBD患者から得られる全血試料、および(ii)目的の物質を用いる治療後にIBD患者から得られる全血試料を提供することであって、IBD患者は本発明に従う方法を用いて高リスク(IBD1)表現型を有することが判定されている、提供することと;
試料(i)および(ii)中の、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個以上の遺伝子の発現レベルを測定することと、を含み、
試料(i)に対する試料(ii)中の遺伝子ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、およびGZMKのより低い発現、ならびに遺伝子LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3のより高い発現が、物質がIBD患者において低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力があることを示す、方法を提供する。
【0113】
IBDを治療するかまたはIBD患者における低リスク(IBD2)表現型を誘導する能力があるとして同定された物質はさらに、薬剤に配合されてもよい。物質に加えて、かかる薬剤は、例えば、薬学的に許容できる賦形剤を含んでもよい。
【0114】
本発明のさらなる態様および実施形態は、以下の実験的例証を含む本開示を仮定すれば、当業者にとって明らかになるであろう。
【0115】
本明細書中に記述されるすべての文書は、それら全体が参照により本明細書中に援用される。
【0116】
「および/または」は、本明細書で用いられるとき、2つの具体的特徴または成分の各々の他方の有無と無関係の具体的開示として解釈されるべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、あたかも各々が個別に本明細書中に示されるように、(i)A、(ii)Bならびに(iii)AおよびB、の各々の具体的開示として解釈されるべきである。
【0117】
特に文脈上指示されない限り、上で示される特徴の説明および定義は、本発明の任意の特定の態様または実施形態に限定されず、記述されるすべての態様および実施形態に等しく適用される。
【0118】
本発明の特定の態様および実施形態は、例として、上記図面を参照して、ここで例示されることになる。
【実施例
【0119】
実施例
実施例1-全血中のIBD1/IBD2遺伝子シグネチャーの同定
材料および方法
遺伝子発現プロファイリングのための患者動員
活動性クローン病(CD)(n=39)および潰瘍性大腸炎(UC)(n=30)を有する患者69名を治療開始前にリクルートし、その後、(Lee et al., 2011)に既に記載のようにフォローアップデータを収集した。この作業のための倫理的承認は、Cambridgeshire Regional Ethics Committee (REC08/H0306/21)から得た。すべての参加者が、書面でのインフォームドコンセントを提出した。
【0120】
CD8+T細胞試料
(Lyons et al., 2007)に記載の方法に従い、CD8+T細胞を患者69名から得た血液試料から陽性選択し、(Lee et al., 2011)に既に記載のように、RNEasy Mini Kits (Qiagen)を用いて、製造業者の使用説明書に従い、RNAを抽出した。
【0121】
全血試料
直ぐにRNAを固定するため、全血2.5mlを患者69名からRNeasy miniまたはPAXgene Blood RNA Tube IVD (Qiagen)へ収集した(Rainen et al., 2002)。収集した試料を、製造業者の使用説明書に従って貯蔵し、その後、PAXgene Blood RNA Kit IVD (Qiagen)を用いてRNAを抽出した。
【0122】
RNAの定量化
RNAの量および質を各々、Nanodrop 1000分光光度計(Thermo Scientific)およびAgilent 2100 Bioanalyser (Agilent Technologies)を用いて判定した。
【0123】
全血遺伝子発現プロファイリング
200ngの全RNAを、Affymetrix Human Gene ST 1.0マイクロアレイ(CD8+RNA試料)またはAffymetrix Human Gene ST 2.0(全血RNA試料)上で処理およびハイブリダイズし、次に製造業者の使用説明書に従って洗浄およびスキャンした。
【0124】
マイクロアレイデータの処理
マイクロアレイの生データは、BioConductor (Huber et al., 2015)におけるpreprocessCoreパッケージ(Bolstad, 2013)を用いてRで処理した。つまり、生データは、表4.1に報告されたコードを用いて、バックグラウンド補正、分位正規化、および要約を行った。潜在的な異常値の存在は、パッケージarrayQualityMetricsを用いて評価した(Kauffmann et al., 2009)。バッチ補正をComBatを用いて実施した(Johnson et al., 2007)。重要なことに、一個抜き交差検証により汎化誤差推定値における任意の下向きバイアスを回避するため、個体試料のIBD1/IBD2メンバーシップについての知識をバッチ補正手順に組み込まなかった。(試料の少なくとも75%においてlog2発現シグナル>7.0を示すプローブセットとして定義した)発現された転写物を検出するプローブセットのみを保持した。未発現のプローブセットおよびアノテーションのないプローブセットをデータセットから除去し、全血遺伝子発現データセットとして、12,874のプローブセットが残った。
【0125】
定量PCR
候補遺伝子および3個の参照遺伝子におけるmRNAのレベルを、Roche LightCycler 480リアルタイムPCR機器上でTaqMan Expression Assays (Life Technologies)を用いて、製造業者の使用説明書に従って測定した。プレート内およびプレート間の変動を最小化するため、PCR条件を最適化した。転写物の存在量を、ΔΔCT法(Livak et al., 2001)を用いて計算した。健常者の全血から抽出したプールRNAに由来するcDNA試料を各プレートに加え、標準物質として用いた。各測定を3回反復し、3回の技術的反復の中央値を最終分析に用いた。
【0126】
CD8+T細胞遺伝子発現データに基づくIBD1/IBD2患者の分類
IBD1(予後不良)またはIBD2(良好な予後)状態を患者69名に割り当てるため、患者のCD8+T細胞試料からの正規化した発現データを、本発明者の既存のIBD患者コホートからのデータとマージした。次に、Lee et al., 2011に記載のように、マージしたデータセットのコンセンサスクラスタリングを用いて、コホートを2つの以前に識別された予後群に層別化した。
【0127】
IBD1サブグループ内の患者は、(IBD2群における患者と比べて)疾患の再発(relapses)または再発(flare-ups)の実質的により高い発生率を有し、これは治療拡大に対するより早期の要求だけでなく、フォローアップの単位期間当たりのさらなる治療拡大に対する要求によって特徴づけられる。
【0128】
全血遺伝子発現データに基づくIBD1/IBD2患者の分類
並行して、IBD患者69名からの全血遺伝子発現データのデータセットもまた作成した。患者を2つの予後群(IBD1およびIBD2)に全血遺伝子発現データに基づいて層別化するのに必要な幾つかの遺伝子を、適応的エラスティックネット型正則化を伴うロジスティック回帰モデルを全血遺伝子発現データセットに適用することにより選択した。選択された候補遺伝子および幾つかの密接に相関する遺伝子は、リアルタイムPCR分析を用いる試験の対象とした。10の不変参照遺伝子と一緒に各候補遺伝子に対して、TaqManリアルタイムPCRアッセイを実施した。エラスティックネット型正則化回帰モデルをリアルタイムPCRデータに適用し、15個の遺伝子からなる最適なモデルを同定し、それはIBD患者69名のコホートを2つの元の予後群IBD1およびIBD2に層別化することができた(PPV=0.87、NPV=0.94、感度0.94、特異度0.85;図1および2)。IBD1およびIBD2サブグループはまた、拡大を含まない生存(P=0.0074)および幾つかの経時的拡大(P=0.0003、治療拡大の平均数:1.62(IBD1)、0.70(IBD2)の双方の観点で、疾患経過と等価な関連性があることを示した。15個の遺伝子を表1に列挙する。
【0129】
【表1】
【0130】
実施例2-RT-qPCR分析における全血分類子の最適化
実施例1で同定した遺伝子をリアルタイムqPCRアッセイ展開の対象とし、全血分類子の最終内容物(16個の有益な遺伝子および2個の参照遺伝子)を最適化し、完了させた。この分類子の一部を形成する有益な遺伝子を下の表2に列挙する。
【0131】
RT-qPCRなどの方法により全血中で検出可能であることを通じての、この全血遺伝子分類子を用いての患者の層別化は、例えば国際公開第2010/084312号に記載のように、遺伝子発現を測定する前に特定細胞型の単離を必要とする試験よりも簡素化され、かつ費用効果が高くなる。
【0132】
さらに、全血遺伝子分類子は、IBDの管理における大きな改善を直接的にもたらすこと;侵襲性疾患を有する患者が診断から適切に強力な治療を受けることを可能にする一方、無痛性疾患を有する患者が不要な免疫抑制のリスクおよび副作用に曝露されないことを保証することを含む、広範囲なヘルスケアベネフィットを有することが予想される。これは、治療毒性を最小化し、疾患合併症および医療費を低減することにより、臨床成績を改善することが予想される。全血遺伝子分類子はまた、疾患再発の可能性に基づく臨床試験用の患者の予備選択を容易にし、それにより再発の予防または治療の試験にて必要とされる患者の数を2~3倍低減することが予想される。
【0133】
【表2】
【0134】
実施例3-qPCRに基づく全血アッセイの独立検証
次に、実施例2で同定された16の遺伝子分類子の予後性能の独立検証を、英国周辺の4つの施設(Cambridge, Nottingham, Exeter,およびLondon)からの85の新規に診断されたIBD患者の第2の独立コホートを用いて実施した。実施例2で展開したqPCRに基づく試験を用いた全血遺伝子発現の分析により、3.52のIBD1/IBD2ハザード比を有する発見コホートにおいて認められる予後層別化が再現された(95パーセント信頼区間[CI]:1.84~6.76、P=0.0002、図3)。この性能は、既存の遺伝子発現に基づくインビトロ診断検査の場合に匹敵する。例えば、Oncotype DX(乳がん再発を予測する遺伝子発現診断)におけるハザード比は2.81である(95%CI:1.70 4.64)(Paik et al., NEJM, 2004)。
【0135】
実施例4-最小の遺伝子分類子
患者を2つの予後群IBD1およびIBD2に層別化するのに必要である、実施例2で展開した最適化された全血分類子の遺伝子の最小数を判定するため、本発明者は、実施例2で同定した16個の遺伝子のあらゆる可能な組み合わせについて徹底的な計算分析を実施し、IBD患者をIBD1およびIBD2サブグループに正確に層別化するのに使用可能な遺伝子の最小数を判定した。
【0136】
n個の遺伝子の各々の可能な組み合わせにおいて(1<=n<=16の場合)、L2正規化ロジスティック回帰モデルを、関連のqPCR遺伝子発現データにフィッティングし、各モデルにおける関連の予測性能を、実施例1で既に述べたように評価した。
【0137】
下の表3に列挙する結果は、IBD患者をIBD1およびIBD2サブグループに正確に層別化するため、実施例2で同定した最適化された16遺伝子全血分類子から選択されるわずか2個の遺伝子からの全血遺伝子発現データを用いることができたことを示す。具体的には、IBD患者から得た全血試料中の遺伝子IL18RAPおよびTRGC2の発現を測定することは、患者をIBD1およびIBD2サブグループに0.71の正確度(感度:0.73;特異度:0.69;PPV:0.69;NPV:0.74)で層別化するのに十分であった。
【0138】
同様に、実施例2で展開した最適化された全血分類子から選択される3個の遺伝子における全血遺伝子発現データは、IBD患者をIBD1およびIBD2サブグループに正確に層別化するのに適することが示された。例えば、IBD患者から得た全血試料中の遺伝子IL18RAP、TRGC2およびTRGV3の発現を測定することは、患者をIBD1およびIBD2サブグループに0.74の正確度(感度:0.74;特異度:0.74;PPV:0.74;NPV:0.74)で層別化するのに十分であった。
【0139】
表2に列挙する遺伝子からの4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個および15個の遺伝子の組み合わせは、同様に試験したところ、表3に示す通り、IBD患者をIBD1およびIBD2サブグループに0.7以上の正確度で層別化するのに適することが見出された。
【0140】
表3が報告するのは、試験した遺伝子の各番号における、IBD患者のIBD1およびIBD2サブグループへの最適な層別化をもたらした遺伝子の組み合わせに限ることは注目する必要がある。例えば、IBD患者のIBD1およびIBD2サブグループへの最適な層別化を可能にする4個の遺伝子の組み合わせのみを表3に示す。しかし、実施例2で同定した16遺伝子分類子から選択される4個の遺伝子の他の組み合わせもまた、IBD患者をIBD1およびIBD2サブグループに0.7以上の正確度で層別化するのに適した。
【0141】
IBD患者から得た全血試料中の16個の遺伝子すべての発現を測定することにより、患者がIBD1およびIBD2サブグループに0.971の正確度(PPV=1.000;NPV=0.941;感度:0.946;および特異度:1.000)で層別化された。
【0142】
【表3】
【0143】
比較実施例5
本発明者は、実施例1に既に記載のように、以前に国際公開第2010/084312号に記載された遺伝子発現シグネチャーが、全血遺伝子発現データに基づき、患者を高リスクIBD1および低リスクIBD2サブグループに正確に層別化する能力を試験した。全血中の、国際公開第2010/084312号の表1または2に開示される遺伝子、すなわち国際公開第2010/084312号に記載の遺伝子KAT2B、ANKRD32およびZNF26、またはITGA2、PTPN22およびNOTCH1の発現を測定することにより、当該グラフを下回ることが報告されたログランク検定P値によって示される通り、IBD患者のIBD1およびIBD2サブグループへの正確な分類が得られなかった(図4を参照)。これらの結果は、国際公開第2010/084312号に開示される遺伝子シグネチャーが、遺伝子発現を全血中で測定するとき、個体におけるIBDの進行が高リスクであるかまたは低リスクであるかを評価するために適さないことを示す。
【0144】
実施例6-3、4、5、13、14、および16遺伝子モデルを用いた患者分類
本発明の方法は、患者を高または低リスクのIBDの進行を有する患者に層別化し、RNA材料の安定性を促進する捕集管内の全血としてわずか2.5mlの収集を必要とし、(RNAが室温で最大3日間安定性を維持することから)国際的に公開してもよい。アッセイでは、48時間以内に迅速な結果が戻され、治療開始前の患者診断用に定量RT-PCRを通じて遺伝子発現を測定する。
【0145】
各RT-PCRの測定結果は、転帰予測(高/低リスクのIBDの進行)を、高および低リスク転帰群間での3.5の検証されたオッズ比で戻すような具体的な重み付けを適用するためのアルゴリズムに依存する。
【0146】
3、4、5、13、14、および16遺伝子モデルを用いた患者分類
それらの考えられる疾患経過を判定するため、患者429名および483名が、血液試料をPAXGene(登録商標)Blood RNAチューブに提供した。RNA抽出およびcDNA合成後、16個の有益な遺伝子(ARRDC4、FCRL5、GBP5、GZMH、GZMK、HP、IFI44L、IL18RAP、LGALSL、LINC01136、LY96、NUDT7、P2RY14、TRGC2、TRGV3およびVTRNA1-1)および2個の参照遺伝子(RNA18S5およびCDV3)の発現レベルを、Roche Lightcycler 480を用いる定量PCRにより測定した(Ct、表4)。生データを、2個の参照遺伝子の平均値を有益な遺伝子各々から減ずることにより正規化し(dCt、表4)、次に平均中心化により標準化した(dCt’、表4)。
【0147】
【表4】
【0148】
軽度疾患(低リスクのIBDの進行)を経験するいずれかの患者の、確率(P)として表されるリスクスコアは、以下のロジスティック回帰モデルを、標準化された遺伝子発現データに、3遺伝子モデル(方程式(1))、4遺伝子モデル(方程式(2))、5遺伝子モデル(方程式(3))、13遺伝子モデル(方程式(4))、14遺伝子モデル(方程式(5))、および16遺伝子モデル(方程式(6))を用いて適用することにより判定することができる。
Logit(Psevere)=β+β(IL18RAP)+β(TRGC2)+β(TRGV3) (1)
Logit(Psevere)=β+β(IL18RAP)+β(LINC01136)+β(TRGC2)+β(VTRNA1-1) (2)

Logit(Psevere)=β+β(IL18RAP)+β(LINC01136)+β(TRGC2)+β(TRGV3)+β(VTRNA1-1) (3)
Logit(Psevere)=β+β(ARRDC4)+β(FCRL5)+β(GBP5)+β(GZMH)+β(ΗΡ)+β(IFI44L)+β(IL18RAP)+β(LGALSL)+β(LINC01136)+β10(LY96)+β11(P2RY14)+β12(TRGV3)+β13(VTRNA1-1) (4)
Logit(Psevere)=β+β(FCRL5)+β(GBP5)+β(GZMK)+β(ΗΡ)+β(IFI44L)+β(IL18RAP)+β(LGALSL)+β(LINC01136)+β10(LY96)+β11(NUDT7)+β12(P2RY14)+β13(TRGC2)+β14(TRGV3) (5)
Logit(Psevere)=β+β(ARRDC4)+β(FCRL5)+β(GBP5)+β(GZMH)+β(GZMK)+β(ΗΡ)+β(IFI44L)+β(IL18RAP)+β(LGALSL)+β10(LINC01136)+β11(LY96)+β12(NUDT7)+β13(P2RY14)+β14(TRGC2)+β15(TRGV3)+β16(VTRNA1-1) (6)
【0149】
次に、-60~60、-30~30、または-10~10の範囲の個別重み付けを、モデルにおける各遺伝子に対する標準化された遺伝子発現データに適用する。各アッセイに対する個別重み付け(β)は、表5に示す通りである。
【0150】
【表5】
【0151】
3遺伝子モデル
再編成方程式(1)重度疾患経過に従う患者429名の確率は、
【数1】

によって与えられる。
severe=0.24
severe<0.5であることから、患者429名は軽度疾患経過に従うことが予測される。
同様に、患者483名においては:
【数2】

severe=0.45
severe<0.5であることから、患者483名は軽度疾患経過に従うことが予測される。
【0152】
4遺伝子モデル
再編成方程式(2)重度疾患経過に従う患者429名の確率は、
【数3】

によって与えられる。
severe=0.13
severe<0.5であることから、患者429名は軽度疾患経過に従うことが予測される。
同様に、患者483名においては:
【数4】

severe=0.73
severe>0.5であることから、患者483名は重度疾患経過に従うことが予測される。
【0153】
5遺伝子モデル
再編成方程式(3)重度疾患経過に従う患者429名の確率は、
【数5】

によって与えられる。
severe=0.35
severe<0.5であることから、患者429名は軽度疾患経過に従うことが予測される。
同様に、患者483名においては:
【数6】

severe=0.55
severe>0.5であることから、患者483名は重度疾患経過(高リスクのIBD進行)に従うことが予測される。
【0154】
13遺伝子モデル
再編成方程式(4)重度疾患経過に従う患者429名の確率は、
【数7】

によって与えられる。
severe=0.058
severe<0.5であることから、患者429名は軽度疾患経過に従うことが予測される。
同様に、患者483名においては:
【数8】

severe=1
severe>0.5であることから、患者483名は重度疾患経過(高リスクのIBD進行)に従うことが予測される。
【0155】
14遺伝子モデル
再編成方程式(5)重度疾患経過に従う患者429名の確率は、
【数9】

によって与えられる。
severe=0.201
severe<0.5であることから、患者429名は軽度疾患経過に従うことが予測される。
同様に、患者483名においては:
【数10】

severe=0.98
severe>0.5であることから、患者483名は重度疾患経過(高リスクのIBD進行)に従うことが予測される。
【0156】
16遺伝子モデル
再編成方程式(6)重度疾患経過に従う患者429名の確率は、
【数11】

によって与えられる。
severe=0.008
severe<0.5であることから、患者429名は軽度疾患経過に従うことが予測される。
同様に、患者483名においては:
【数12】

severe=1
severe>0.5であることから、患者483名は重度疾患経過に従うことが予測される。
【0157】
上の非限定例では、本発明の一実施形態を、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される3個、4個、5個、13個、14個、および16個の遺伝子に適用する場合を例示する。しかし、方法は、ARRDC4、GBP5、P2RY14、VTRNA1-1、IL18RAP、HP、NUDT7、GZMH、TRGC2、GZMK、LGALSL、FCRL5、IFI44L、LINC01136、LY96、およびTRGV3からなる群から選択される2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、または16個の遺伝子に、当業者により容易に適応することができる。
【0158】
方法
RNA抽出
被験者から得た血液試料を、PAXgene(登録商標)チューブ(PAXgene Blood RNA Kit、カタログ番号762164、BD Biosciences, San Jose, CA)内、室温(15~25℃)で3時間インキュベートする。次に、試料を含有するチューブを4,000×gで10分間遠心分離し、上清をチューブからデカントし、廃棄する。上清のデカンテーション後、新しい二次的なBD Hemogard(商標)(PAXgene Blood RNA Kit、BD Biosciences, San Jose, CA)クロージャを用いて、チューブを閉じる。次に、ペレットが見かけ上溶解するまでチューブをボルテックスし、4,000×gで10分間遠心分離する。遠心分離後、全上清を、ピペットを用いて除去および廃棄する。次に、再懸濁緩衝液BR1(PAXgene Blood RNA Kit、BD Biosciences, San Jose, CA)350μlを添加し、ペレットが見かけ上溶解するまでチューブをボルテックスする。次に、結合緩衝液BR2(PAXgene Blood RNAMDxキット、BD Biosciences, San Jose, CA)300μlおよびプロテイナーゼK40μlが個別に添加された1.5mlのマイクロ遠心チューブに試料をピペッティングする。次に、チューブを5秒間ボルテックスし、シェーカー-インキュベーターを1000rpmで用いて、55℃で10分間インキュベートする。インキュベーション後、マイクロ遠心チューブからの可溶化液を、2mlの処理チューブ内に置いたPAXgene(登録商標)Shredderスピンカラム(ライラック)(PAXgene Blood RNA Kit、BD Biosciences, San Jose, CA)に直接ピペッティングし、15,000×gで3分間遠心分離した。次に、フロースルー画分の全上清を、新しい1.5mlのマイクロ遠心チューブに、処理チューブ内のペレットを妨げることなく慎重にピペッティングする。96~100%エタノール350μlを上清に添加し、2秒間ボルテックスし、500×gで1秒間遠心分離し、チューブ蓋内部からの液滴を除去する。試料700μlを、2mlの処理チューブ内に置いたPAXgene(登録商標)RNAスピンカラム(赤)(PAXgene Blood RNA Kit、BD Biosciences, San Jose, CA)にピペッティングし、15,000×gで1分間遠心分離する。スピンカラムを新しい2mlの処理チューブ内に置き、フロースルーを含有する古い処理チューブを廃棄する。残存試料を、PAXgene(登録商標)RNAスピンカラム(PAXgene Blood RNA Kit、BD Biosciences, San Jose, CA)にピペッティングし、15,000×gで1分間遠心分離する。スピンカラムを新しい2mlの処理チューブ内に置き、フロースルーを含有する古い処理チューブを廃棄する。洗浄緩衝液BR3の350μlを、PAXgene(登録商標)RNAスピンカラムにピペッティングし、15,000×gで1分間遠心分離する。スピンカラムを新しい2mlの処理チューブ内に置き、フロースルーを含有する古い処理チューブを廃棄する。
【0159】
別々の1.5mlのマイクロ遠心チューブ内で、デオキシリボヌクレアーゼIインキュベーション混合物を、デオキシリボヌクレアーゼI溶液(PAXgene Blood RNA Kit、BD Biosciences, San Jose, CA)10μlを緩衝液RDD (PAXgene Blood RNA Kit、BD Biosciences, San Jose, CA)70μlと混合することによって作製する。次に、デオキシリボヌクレアーゼIインキュベーション混合物80μlを、PAXgene(登録商標)RNAスピンカラム膜上に直接的に添加し、室温(20~30℃)で15分間インキュベートする。緩衝液BR3の350μlを、PAXgene(登録商標)RNAスピンカラムにピペッティングし、15,000×gで1分間遠心分離する。スピンカラムを新しい2mlの処理チューブ内に置き、フロースルーを含有する古い処理チューブを廃棄する。洗浄緩衝液BR4 (PAXgene Blood RNA Kit、BD Biosciences, San Jose, CA)500μlをPAXgene(登録商標)RNAスピンカラムにピペッティングし、15,000gで1分間遠心分離する。スピンカラムを新しい2mlの処理チューブ内に置き、フロースルーを含有する古い処理チューブを廃棄する。緩衝液BR4の500μlを、PAXgene(登録商標)RNAスピンカラムにピペッティングし、15,000gで3分間遠心分離する。スピンカラムを新しい2mlの処理チューブ内に置き、15,000×gで1分間遠心分離する。PAXgene(登録商標)RNAスピンカラムを1.5mlのマイクロ遠心チューブ内に置き、溶出緩衝液BR5 (PAXgene Blood RNA Kit、BD Biosciences, San Jose, CA)40μlを、PAXgene RNAスピンカラム膜上に直接的にピペッティングし、15,000×gで1分間遠心分離し、RNAを溶出する。溶出緩衝液BR5の40μlおよび同じマイクロ遠心チューブを用いて溶出ステップを反復する。溶出液のRNA試料を65℃で5分間インキュベートし、直ぐに氷上でRNA試料を冷却する。
【0160】
RNA定量化
即用可能なAgilent RNA 6000 gel-dye mixチューブ(Agilent RNA 6000 Nano Kit、カタログ番号5067-1511、Agilent, Santa Clara, CA)の一定分量を13,000×gで10分間回転させ、次にgel-dye mixを室温(15~25℃)で30分間、平衡化しておく。新しいRNA Nano chip(Agilent RNA 6000 Nano Kit、カタログ番号5067-1511、Agilent, Santa Clara, CA)を即用可能なチッププライミングステーション(カタログ番号5065- 4401、Agilent, Santa Clara, CA)上に置く。gel-dye mixの9μlを「G」というマークのウェルの底部にピペッティングする。チッププライミングステーションでは、プランジャー1mlに位置づけ、チッププライミングステーションを閉じる。正確に30秒間待機し、次にプランジャーをクリップリリース機構でリリースし、プランジャーが少なくとも0.3mlのマークまで戻ることを目視検査する。5秒間待機し、次にプランジャーを1mlの位置まで徐々に引き戻す。チッププライミングステーションを開き、gel-dye mixの9μlを反応ウェルの各々にピペッティングする。即用可能なAgilent RNA 6000 Ladder(カタログ番号5067-1529、Agilent, Santa Clara, CA)の一定分量を氷上に15分間置いて完全解凍させ、次に70℃で2分間インキュベートする。Agilent RNA 6000 Ladderの1μlを、ラダー記号をマークしたウェルにピペッティングする。Agilent RNA 6000 Nano marker(Agilent RNA 6000 Nano Kit、カタログ番号5067-1511、Agilent, Santa Clara, CA)5μlを、ラダー記号をマークしたウェルおよび反応ウェルの各々にピペッティングする。RNA試料1μlをRNA Nano chipの左上ウェルにピペッティングする。RNA Nano chipを水平に2400rpmで60秒間ボルテックスする。チップをAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent, Santa Clara, CA)の容器に慎重に入れ、蓋を閉じ、チップを動作させる。動作の完了後、RNAの完全性を点検し、RIN>7の場合、cDNA合成を処理する前、Nanodrop分光光度計を用いてRNAを定量化する。
【0161】
cDNA合成
標識した0.2mlの薄壁内で氷上チューブを以下と組み合わせ、混合物を作出する(表6)。
【0162】
【表6】
【0163】
各試料において、調製した混合物10μlを、15ng/μlに希釈したRNA試料10μl(150ngのRNA)に添加する。参照RNAにおいて、(2.)で調製したcDNA合成混合物25μlを、15ng/μlに希釈した参照RNA25μl(375ng)に添加する。緩やかに混合し、チューブをサーモサイクラー(Eppendorf MasterCycler Nexus SX1 , SKU # 8125-30-1030, Eppendorf AG, Germany)内に置く。25℃で10分間インキュベートする。42℃で60分間インキュベートする。85℃で5分間反応を終了させる。それを4℃に冷やす。qPCRの前に、チューブを短時間遠心分離し、チューブの底部で内容物を収集し、cDNA試料を-20℃で貯蔵する。
【0164】
qPCR
解凍したcDNA試料を再懸濁し、緩やかにボルテックスし、次に短時間遠心分離し、チューブの底部で液体を収集する。各試料において、内容物を標識した0.5mlのチューブに移し、ヌクレアーゼを含まない水380μlを添加することにより、20倍に希釈する。参照cDNAにおいて、内容物を標識した0.5mlのチューブに移し、ヌクレアーゼを含まない水200μlを添加することにより、5倍に希釈する。
【0165】
各アッセイにおいて、標識したヌクレアーゼを含まない1.5mlのチューブ内で、分析対象のcDNA試料の数に応じて以下の成分を組み合わせる(表7)。
【0166】
【表7】
【0167】
以下の例示的なRT-qPCRプライマー(表8)を用いてもよい。しかし、当業者は、例示的な本RT-qPCRアッセイを実施するため、他の好適なプライマーを容易に設計することができる。
【0168】
【表8】
【0169】
【表9】
【0170】
チューブをキャップし、数回反転させて混合する。短時間遠心分離し、チューブの底部における反応混合物を収集する。下のプロトコルは、16個遺伝子の発現レベルを2つの参照対照とともに測定する、患者4名からのcDNA試料に対して実行したアッセイを例示する。しかし、アッセイは、1つ以上のcDNA試料に対して実施することができ、16個の遺伝子の2個以上の遺伝子の発現レベルを1つ以上の参照対照を用いて測定するように、当業者により容易に設計することができる。以下のように、各cDNA鋳型4μlを標識した384ウェルプレートのウェルにピペッティングする。
a.参照cDNA(CDV3およびRNA85S5)ウェルA1~C6
b.cDNA試料#1ウェルD1~F6
c.cDNA試料#2ウェルG1~I6
d.cDNA試料#3ウェルJ1~L6
e.cDNA試料#4ウェルM1~O6
【0171】
ヌクレアーゼを含まない水4を各番号の鋳型対照ウェル(ウェルP1~P18)にピペッティングする。
【0172】
各TaqMan遺伝子発現アッセイ16μlを以下のウェルに添加する。
a.アッセイ1:ウェルA1~A3、D1~D3、G1~G3、J1~J3、M1~M3、P1
b.アッセイ2:ウェルA4~A6、D4~D6、G4~G6、J4~J6、M4~M6、P2
c.アッセイ3:ウェルA7~A9、D7~D9、G7~G9、J7~J9、M7~M9、P3
d.アッセイ4:ウェルA10~A12、D10~D12、G10~G12、J10~J12、M10~M12、P4
e.アッセイ5:ウェルA13~A15、D13~D15、G13~G15、J13~J15、M13~M15、P5
f.アッセイ6:ウェルA16~A18、D16~D18、G16~G18、J16~J18、M16~M18、P6
g.アッセイ7:ウェルA19~A21、D19~D21、G19~G21、J19~J21、M19~M21、P7
h.アッセイ8:ウェルA22~A24、D22~D24、G22~G24、J22~J24、M22~M24、P8
i.アッセイ9:ウェルB1~B3、E1~E3、H1~H3、K1~K3、N1~N3、P9
j.アッセイ10:ウェルB4~B6、E4~E6、H4~H6、K4~K6、N4~N6、P10
k.アッセイ11:ウェルB7~B9、E7~E9、H7~H9、K7~K9、N7~N9、P11
l.アッセイ12:ウェルB10~B12、E10~E12、H10~H12、K10~K12、N10~N12、P12
m.アッセイ13:ウェルB13~B15、E13~E15、H13~H15、K13~K15、N13~N15、P13
n.アッセイ14:ウェルB16~B18、E16~E18、H16~H18、K16~K18、N16~N18、P14
o.アッセイ15:ウェルB19~B21、E19~E21、H19~H21、K19~K21、N19~N21、P15
p.アッセイ16:ウェルB22~B24、E22~E24、H22~H24、K22~K24、N22~N24、P16
q.アッセイ17:ウェルC1~C3、F1~F3、I1~I3、L1~L3、O1~O3、P17
r.アッセイ18:ウェルC4~C6、F4~F6、I4~I6、L4~L6、O4~O6、P18
【0173】
384ウェルプレートをシーリングホイル(カタログ番号04729757001、Roche Diagnostics Corporation, Indianapolis, IN)で密封する。プレートを短時間遠心分離し、ウェルの内容物を混合し、プレートをサーマルサイクラー(Roche LightCycler480 II, Roche Diagnostics Corporation, Indianapolis, IN)に負荷する。Dual Color Hydrolysis Probe/UPL Probeに対して検出フォーマットを選択し、qPCRプログラムを、以下に従って70サイクル間で設定し、アッセイを実行する。
a.95℃で10分間
b.95℃で10秒間
c.60℃で1分間
d.40℃で30秒間
【0174】
参考文献
本明細書中に記載のすべての文書は、それら全体が参照により本明細書中に援用される。
Ananthakrishnan, Ashwin N., et al. ”Differential effect of genetic burden on disease phenotypes in Crohn’s disease and ulcerative colitis: analysis of a North American cohort.” The American journal of gastroenterology 109.3 (2014): 395.
Billiet, Thomas, Marc Ferrante, and Gert Van Assche. ”The use of prognostic factors in inflammatory bowel diseases.” Current gastroenterology reports16.11 (2014): 1-14.
Bolstad, Benjamin Milo. ”preprocessCore: A collection of pre-processing functions.” R package version 1.0 (2013).
Choi, Jung Kyoon, and Sang Cheol Kim. ”Environmental effects on gene expression phenotype have regional biases in the human genome.” Genetics175.4 (2007): 1607-1613.
Colombel, Jean Frederic, et al. ”Infliximab, azathioprine, or combination therapy for Crohn’s disease.” New England Journal of Medicine 362.15 (2010): 1383-1395.
D’Haens, Geert, et al. ”Early combined immunosuppression or conventional management in patients with newly diagnosed Crohn’s disease: an open randomised trial.” The Lancet 371.9613 (2008): 660- 667.
Freeman, Willard M., Stephen J. Walker, and Kent E. Vrana. ”Quantitative RT-PCR: pitfalls and potential.” Biotechniques 26 (1999): 112-125.
Friedman, David J., Laurence A. Turka, and Simon C. Robson. ”There’sa goat behind door number 3: from Monty Hall to medicine.” The Journal of clinical investigation 121.10 (2011): 3819.
Gerich, Mark E., and Dermot PB McGovern. ”Towards personalized care in IBD.” Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology 11.5 (2014): 287-299.
Huber, Wolfgang, et al. ”Orchestrating high-throughput genomic analysis with Bioconductor.” Nature methods 12.2 (2015): 115-121.
IBD Research Priority, Setting Partnership (2015). Inflammatory Bowel Disease (IBD) Research Priorities. Accessed: 2015-04-20. url: http://www.bsq.org. uk/images/stories/docs/research/i bd_psp_top10_final.pdf.
Jess, Tine, et al. ”Changes in clinical characteristics, course, and prognosis of inflammatory bowel disease during the last 5 decades: a population-based study from Copenhagen, Denmark.” Inflammatory bowel diseases 13.4 (2007): 481-489.
Jostins, Luke, et al. ”Host-microbe interactions have shaped the genetic architecture of inflammatory bowel disease.” Nature 491.7422 (2012): 119-124.
Kaser, A, S Zeissig, and RS Blumberg (2010). ”Inflammatory Bowel Disease”.
In: Annual Review of Immunology 28, pp. 573-621.
Lee, James C, et al. ”Gene expression profiling of CD8+ T cells predicts prognosis in patients with Crohn disease and ulcerative colitis.” The Journal of clinical investigation 121.10 (2011): 4170-4179.
Livak, Kenneth J., and Thomas D. Schmittgen. ”Analysis of relative gene expression data using realtime quantitative PCR and the 2-ΔΔCT method. ”methods 25.4 (2001): 402-408.
Loly, Catherine, Jacques Belaiche, and Edouard Louis. ”Predictors of severe Crohn’s disease.”Scandinavian journal of gastroenterology 43.8 (2008): 948-954.
Lyons, Paul A., et al. ”Novel expression signatures identified by transcriptional analysis of separated leucocyte subsets in systemic lupus erythematosus and vasculitis.” Annals of the rheumatic diseases 69.6 (2010): 1208-1213.
Lyons, Paul A., et al. ”Microarray analysis of human leucocyte subsets: the advantages of positive selection and rapid purification.” BMC genomics 8.1 (2007): 1.
Markowitz, James, et al. ”The Prometheus Crohn’s prognostic test does not reliably predict complicated Crohn’s disease in children.” Gastroenterology Q. (2011): S-153.
McKinney, Eoin F., et al. ”A CD8+ T cell transcription signature predicts prognosis in autoimmune disease.” Nature medicine 16.5 (2010): 586-591.

McKinney, Eoin F., et al. ”T-cell exhaustion, co-stimulation and clinical outcome in autoimmunity and infection.” Nature (2015).
Micheel, Christine M., Sharly J. Nass, and Gilbert S. Omenn, eds. Evolution of translations omics: lessons learned and the path forward. National Academies Press, 2012.
Peyrin-Biroulet, Laurent, et al. ”Surgery in a population-based cohort of Crohn’s disease from Olmsted County, Minnesota (1970-2004).” The American journal of gastroenterology 107v.11 (2012): 1693- 1701.
Schena, Mark, et al. ”Quantitative monitoring of gene expression patterns with a complementary DNA microarray.” Science 270.5235 (1995): 467.
図1
図2
図3
図4
【配列表】
0007111630000001.app