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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】オリゴヌクレオチドの保存方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6806 20180101AFI20220726BHJP
   C12Q 1/6848 20180101ALI20220726BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220726BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20220726BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20220726BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20220726BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220726BHJP
   C07K 14/005 20060101ALN20220726BHJP
   C07K 14/245 20060101ALN20220726BHJP
【FI】
C12Q1/6806 Z ZNA
C12Q1/6848 Z
C12N15/11 Z
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6813 Z
G01N33/53 M
C07K14/005
C07K14/245
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019523936
(86)(22)【出願日】2018-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2018021669
(87)【国際公開番号】W WO2018225772
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2017112148
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302019245
【氏名又は名称】タカラバイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】秋友 美和
(72)【発明者】
【氏名】上森 隆司
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05605824(US,A)
【文献】特開2009-273432(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0219945(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0323795(US,A1)
【文献】DNA Storage and Quality,Oxford Gene Technology website,2011年08月22日,https://www.ogt.com/resources/literature/403_dna_storage_and_quality,[retrieved on 2018-08-03], Retrieved from the Internet
【文献】BRUNSTEIN, J.,Freeze-thaw cycles and nucleic acid stability: what's safe for your samples?,Med. Lab. Obs.,2015年09月,Vol.47, No.9,pp.44-45,https://www.mlo-online.com/archives,[retrieved on 2018-08-03], Retrieved from the Internet
【文献】KREADER, C.A.,Relief of amplification inhibition in PCR with Bovine Serum Albumin or T4 Gene 32 Protein,Appl. Environ. Microbiol.,1996年,Vol.62, No.3,pp.1102-1106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6806
C12Q 1/6848
C12N 15/11
C12Q 1/6876
C12Q 1/6844
C12Q 1/6813
G01N 33/53
C07K 14/005
C07K 14/245
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴヌクレオチドの保存方法であって、核酸結合タンパク質及びオリゴヌクレオチドを含有する溶液を凍結させて保存する工程包含し、該核酸結合タンパク質がCspA、T4ファージ由来SSB及び大腸菌由来SSBより選択されるタンパク質であることを特徴とする方法。
【請求項2】
オリゴヌクレオチドがオリゴデオキシリボヌクレオチドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
標的核酸を増幅するためのキットであって、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する溶液を包含し、該溶液が凍結している溶液であり、該核酸結合タンパク質がCspA、T4ファージ由来SSB及び大腸菌由来SSBより選択されるタンパク質であることを特徴とするキット。
【請求項4】
オリゴヌクレオチドがオリゴデオキシリボヌクレオチドである、請求項に記載のキット。
【請求項5】
オリゴデオキシリボヌクレオチドが標的核酸の増幅に使用されるプライマーである請求項に記載のキット。
【請求項6】
核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する第一の溶液と、DNAポリメラーゼ、二価金属イオン、デオキシリボヌクレオシド3リン酸及び緩衝成分からなる群より選択される1以上の要素を含有する第二の溶液を包含する、請求項のいずれか一項に記載のキット。
【請求項7】
核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する溶液が、さらにDNAポリメラーゼ、二価金属イオン、デオキシリボヌクレオシド3リン酸及び緩衝成分を含有する、請求項のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴヌクレオチドの保存方法、及び標的核酸を増幅するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
DNA合成は研究において様々な目的で使用される。そのうち、短鎖DNAの化学合成を除く大抵のDNA合成は、DNAポリメラーゼや逆転写酵素を利用する酵素法によって行われる。in vitroで所望のDNA断片を容易に増幅することが可能なポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと称す)は非常に有益であり、生物学、医学、農学、及び他の分野において必須のツールとなっている。PCRによるDNAの増幅においては、多くの場合、反応の高い特異性が必要とされる。非特異的増幅を低減するために新たなDNAポリメラーゼの開発及び反応混合物(以下、反応液と称す)の組成の最適化がされているが、それでも依然としてPCR増幅特異性の向上が必要とされている。
【0003】
一般的に、PCRによるDNAの増幅において、反応液には、鋳型核酸、プライマー、デオキシリボヌクレオチド、酵素、などの成分が含まれる。さらに、増幅したDNAを検出する場合は、反応液に蛍光色素やプローブが含まれることがある。安定的で正確なDNA合成反応を実現するためには、これらの成分を反応液に供するまで、又はPCRを開始するまで、適切に保存することが重要である。
【0004】
プライマーやプローブは固体または溶液(凍結された溶液を包含する)として保存することが可能である。固体は安定なので室温で保存できるというメリットがある反面、反応液に供するためには、溶解しなければならないなどのデメリットがある。一方、プライマーやプローブを溶液で保存しておくと、すぐに反応液に供することができる。さらに、プライマー、プローブ、デオキシリボヌクレオチド、酵素など、PCRに必要な成分を全て含んだ反応液をあらかじめ調製して保存しておくことにより、迅速にPCRを行うことができる。しかし、溶液での保存は安定性に欠けるというデメリットがある。すなわち、プライマーやプローブを溶液として保存した場合、PCRの反応性が低下しやすい。溶液を低温で保存したり、凍結保存することにより、反応性の低下を抑制することはできるが、より効果的な保存方法が求められている。
【0005】
前記PCRの反応性や特異性の向上を目的として種々の改良がなされた。例えば、PCR時に界面活性剤やある種のタンパク質を共存させることが挙げられる。当該PCRの改善として、非イオン性界面活性剤を共存させる技術が報告されている(特許文献1)。また、核酸結合活性を有するタンパク質、例えば一本鎖核酸に結合するタンパク質はPCRのような核酸合成反応において非特異的な核酸合成を抑制することが知られている(特許文献2)。前記一本鎖核酸に結合するタンパク質として、大腸菌由来SSBやT4ファージ由来SSB(T4 gene 32 proteinとも称される)が例示されている。さらに、コールドショックタンパク質をDNA合成反応液調製時に添加することにより、DNA合成反応の反応性を向上させる方法が報告された(特許文献3)。
【0006】
前記コールドショックタンパク質は、種々の微生物から見出されており、低温への生育温度シフトへの適応に関与すると考えられている。このうち、Major Cold Shock Proteinとして知られるCspAは、その遺伝子が大腸菌(Escherichia coli)から単離され、組換え体が製造されている(特許文献4)。また、CspAは一本鎖DNAや一本鎖RNAに結合する性質を有している。
【0007】
以上のように、核酸結合活性を有するタンパク質がDNA合成反応に有益な作用を有することは知られている。これらの方法では、合成反応開始の直前に、タンパク質が反応液に添加される。しかしながら、プライマーやプローブを含む溶液の長期保存に関して、前記のタンパク質の効果が検討されたことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第6127155号公報
【文献】米国特許第5773257号公報
【文献】国際公開第2009/108949号パンフレット
【文献】国際公開第90/09444号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、プライマーやプローブの溶液状態での保存は安定性に欠けるという課題がある。さらに、本発明者らは、プライマーやプローブを溶液状態で低温または凍結保存しても安定性に欠けることがあるという課題を見出した(例えば、実施例1)。本発明は、プライマーやプローブ等のオリゴヌクレオチドを含む溶液を安定的に保存する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意努力した結果、オリゴヌクレオチドを含む溶液に核酸結合タンパク質をあらかじめ添加することにより、該オリゴヌクレオチドを安定的に保存できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は
[1] オリゴヌクレオチドの保存方法であって、核酸結合タンパク質及びオリゴヌクレオチドを含有する溶液を低温で保存する工程、を包含することを特徴とする方法、
[2] 核酸結合タンパク質が一本鎖核酸に結合するタンパク質である、[1]に記載の方法、
[3] 一本鎖核酸に結合するタンパク質がコールドショックタンパク質及びSSBより選択されるタンパク質である、[2]に記載の方法、
[4] 一本鎖核酸に結合するタンパク質がCspA、T4ファージ由来SSB及び大腸菌由来SSBより選択されるタンパク質である[2]に記載の方法、
[5] オリゴヌクレオチドがオリゴデオキシリボヌクレオチドである、[1]~[4]のいずれかに記載の方法、
[6] 溶液を凍結させて保存する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法、
[7] 標的核酸を増幅するためのキットであって、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する溶液を包含することを特徴とするキット、
[8] 核酸結合タンパク質が一本鎖核酸に結合するタンパク質である、[7]に記載のキット、
[9] 一本鎖核酸に結合するタンパク質がコールドショックタンパク質及びSSBより選択されるタンパク質である、[8]に記載のキット、
[10] 一本鎖核酸に結合するタンパク質がCspA、T4ファージ由来SSB及び大腸菌由来SSBより選択されるタンパク質である[9]に記載のキット。
[11] オリゴヌクレオチドがオリゴデオキシリボヌクレオチドである、[7]~[10]のいずれかに記載のキット、
[12] オリゴデオキシリボヌクレオチドが標的核酸の増幅に使用されるプライマーである[11]に記載のキット、
[13] 核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する溶液が低温で保存されている、[7]~[12]のいずれかに記載のキット、
[14] 核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する溶液が凍結している溶液である、[7]~[13]のいずれかに記載のキット、
[15] 核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する第一の溶液と、DNAポリメラーゼ、二価金属イオン、デオキシリボヌクレオシド3リン酸及び緩衝成分からなる群より選択される1以上の要素を含有する第二の溶液を包含する[7]~[14]のいずれかに記載のキット、
[16] 核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴデオキシリボヌクレオチドを含有する溶液が、さらにDNAポリメラーゼ、二価金属イオン、デオキシリボヌクレオシド3リン酸及び緩衝成分を含有する[7]~[14]のいずれかに記載のキット、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、核酸合成反応に有用な、オリゴヌクレオチドの保存方法が提供される。また、本発明により、標的核酸を増幅するためのキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1における、PCRの増幅曲線の例を示す図である。
図2】実施例1における、PCRの融解曲線の例を示す図である。
図3】実施例1における、Ct値を示す図である。
図4】実施例2における、Ct値を示す図である。
図5】実施例3における、Ct値を示す図である。
図6】実施例4における、Ct値を示す図である。
図7】実施例5における、Ct値を示す図である。
図8】実施例6における、Ct値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(定義)
本明細書中で使用される「核酸」(「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」を包含する)という用語は、ヌクレオシドが鎖状に連結されて形成された直鎖上のポリマーを意味し、デオキシリボ核酸、リボ核酸、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ポリアミド核酸が例示される。天然の核酸、人為的に作製された核酸、ならびに修飾された核酸やそれらの断片も「核酸」に包含される。
【0015】
本明細書で使用される「プライマー」という用語は、DNA鋳型またはRNA鋳型と重合用試薬(DNAポリメラーゼ、ヌクレオシド3リン酸など)の存在下で起こる核酸合成反応において開始点として機能するオリゴヌクレオチドを示す。プライマーは好ましくは一本鎖であるが、二本鎖プライマーも前記の機能を果たし得る。二本鎖プライマーが用いられる場合、増幅反応での使用前にそれをその一本鎖形態に変換することが望ましい。プライマーは、周知の方法を用いて化学的または酵素的に合成されることができ、また生物から単離されうる。
【0016】
本明細書で使用される「プローブ」という用語は、標的核酸を検出又は定量するためのオリゴヌクレオチドであって、標的核酸と特異的にハイブリダイズできるものを示す。プローブは好ましくは一本鎖であるが、二本鎖プローブも前記の機能を果たし得る。二本鎖プローブが用いられる場合、検出反応での使用前にそれをその一本鎖形態に変換することが望ましい。プローブは、周知の方法を用いて化学的または酵素的に合成されることができ、また生物から単離されうる。
【0017】
(1)本発明の「オリゴヌクレオチドの保存方法」
本発明のオリゴヌクレオチドの保存方法は、核酸結合タンパク質及びオリゴヌクレオチドを含有する溶液を低温で保存する工程、を包含することを特徴とする。
【0018】
核酸結合タンパク質及びオリゴヌクレオチドを含有する溶液(以下、「本発明の溶液」と称す)を調製する工程を以下に示す。
【0019】
<オリゴヌクレオチド>
本発明におけるオリゴヌクレオチドは、通常は、アデニン、グアニン、シトシン及びチミンのいずれかの塩基を有するデオキシリボヌクレオチドが連結したDNA(オリゴデオキシリボヌクレオチド)及び/又はアデニン、グアニン、シトシン及びウラシルのいずれかの塩基を有するリボヌクレオチドが連結したRNA(オリゴリボヌクレオチド)、さらにはDNAとRNAのキメラのような、天然型ヌクレオチドが連結してなる核酸が該当する。自然界に存在する天然の核酸を制限エンドヌクレアーゼなどで消化し、その消化物から単離して作製したオリゴヌクレオチドであっても良い。酵素的もしくは化学的な方法で人為的に作製されたオリゴヌクレオチドも本発明のオリゴヌクレオチドに包含される。
【0020】
その他にも、本発明に使用されるオリゴヌクレオチドは非天然型核酸も含むことができる。本明細書において、「非天然型核酸」とは、天然型核酸に類似の構造及び/又は性質を有する人工的に構築された核酸類似体をいう。例えば、ペプチド核酸(PNA:Peptide Nucleic Acid)、ホスフェート基を有するペプチド核酸(PHONA)、非天然型の塩基(イノシン、デアザグアノシン等)を含む核酸、架橋化核酸(BNA/LNA:Bridged Nucleic Acid/Locked Nucleic Acid)、モルホリノ核酸等が挙げられる。メチルホスホネート型DNA/RNA、ホスホロチオエート型DNA/RNA、ホスホルアミデート型DNA/RNA、2'-O-メチル型DNA/RNA等の化学修飾核酸や核酸類似体を含むオリゴヌクレオチドを本発明に使用することもできる。さらに、蛍光物質、消光物質、色素、ハプテン、ビオチン等が付加されたオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0021】
本発明において、オリゴヌクレオチドは一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチド、及びこれらのオリゴヌクレオチドの混合物が該当する。例えば、オリゴヌクレオチドは、標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであってもよい。標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドとしては、標的核酸検出のためのプローブとして機能するもの、標的核酸の増幅においてプライマーとして機能するもの、が例示される。
【0022】
本発明において、オリゴヌクレオチドの鎖長には特に制限はないが、一本鎖オリゴヌクレオチドの場合は好ましくは6ヌクレオチド以上であり、更に好ましくは10ヌクレオチド以上である。人工合成した一本鎖オリゴヌクレオチドの場合、オリゴヌクレオチドの合成の観点から、好ましくは100ヌクレオチド以下であり、更に好ましくは30ヌクレオチド以下である。前記オリゴヌクレオチドは、例えばホスホアミタイト法により合成出来る。他にもリン酸トリエステル法、H-ホスホネート法、チオホスホネート法等いかなる方法で合成されても良い。また、天然の核酸を酵素的もしくは化学的な方法で切断してオリゴヌクレオチドを作製してもよい。
【0023】
本発明の溶液に含まれるオリゴヌクレオチドの種類の数には、特に制限はないが、例えば1種以上、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上の核酸が例示される。また、2種以上のオリゴヌクレオチドを使用する場合は、それらの混合比に限定はない。特に限定はされないが、マルチプレックス核酸増幅反応に用いる異なる塩基配列を有するプライマー対の混合物も含まれる。さらに当該混合物に標的核酸検出用のプローブとして使用するオリゴヌクレオチドが含まれる場合であってもよい。
【0024】
本発明の溶液に含まれるオリゴヌクレオチドの濃度は、本発明の効果を奏し得る濃度であれば、特に限定されず、オリゴヌクレオチドの種類、核酸結合タンパク質の種類や濃度、その他の成分の種類や濃度、及び保存温度等を考慮して適宜決定することができる。鎖長が10~30ヌクレオチドの一本鎖オリゴヌクレオチドDNAの場合は、トータルの濃度として、例えば0.1~100μM、好ましくは0.5~50μM、より好ましくは1~20μMが例示される。
【0025】
<核酸結合タンパク質>
本発明に使用される核酸結合タンパク質は、核酸に結合することが可能なタンパク質であればよく、その種類は特に限定されない。自然界から単離したタンパク質でもよいし、人為的に作成した組換えタンパク質であってもよい。好ましくは、本発明に使用される核酸結合タンパク質は、組換えタンパク質である。
【0026】
本発明で使用される核酸結合タンパク質として、一本鎖核酸に結合するタンパク質が例示される。一本鎖核酸に結合するタンパク質は、一本鎖核酸、すなわち一本鎖DNA及び/又は一本鎖RNAに結合することが可能なタンパク質であればよい。特に限定されないが、一本鎖核酸に結合するタンパク質として、SSB(Single-Stranded binding protein)及びコールドショックタンパク質が例示される。
【0027】
本発明に使用されるSSBとして、大腸菌に代表される微生物やショウジョウバエ、アフリカツメガエル、およびバクテリオファージ(T4ファージ、T7ファージ等)に由来するSSBが例示される。好ましくは、大腸菌のSSBまたはT4ファージ由来のSSBが使用される。SSBは一本鎖DNAに結合する性質を有している。なお、T4ファージ由来のSSBは、T4 gene 32 protein(T4gp32)と称されることもある。
【0028】
大腸菌の培養温度を37℃から15℃に低下させると、CspAが一過性に高レベルで発現される。大腸菌にはCspAとアミノ酸配列上の同一性のあるホモローグとしてCspB~CspIの8種のタンパク質が知られている[ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J.Bacteriol.),1999,181,1603-1609]。さらに、CspAのホモローグがBacillus subtilis(CspB)、Bacillus caldolyticus(CspB)、Thermotoga maritima(CspB、CspL)、Lactobacillus plantarum(CspL)等の微生物にも存在していることが知られている。本発明において、「コールドショックタンパク質」とは、大腸菌のCspAのアミノ酸配列に対して好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列を有するタンパク質のことを言う。
【0029】
本発明には、これらのコールドショックタンパク質を使用することができる。本発明に使用されるコールドショックタンパク質としては、好ましくはCspAが、より好ましくはグラム陰性菌由来のCspAが、さらにより好ましくは大腸菌のCspAが例示される。CspAは一本鎖DNA及び一本鎖RNAに結合する性質を有している。
【0030】
上述したように、本発明では、大腸菌由来のSSB(GenBank Acc.No.NP_418483.1)、T4ファージ由来のSSB(GenBank Acc.No.NP_049854.1)、大腸菌由来のCspA(GenBank Acc.No.NP_418012.1)を使用することができる。これらのタンパク質のアミノ酸配列には相同性を有する領域が存在する。すなわち、大腸菌由来SSBの部分アミノ酸配列(VASEYLRKGSQV)、T4ファージ由来SSBの部分アミノ酸配列(EGANFVLKVKQV)、大腸菌由来CspAの部分アミノ酸配列(DGYKSLDEGQKV)は互いに相同性を有する。すなわち、前記部分アミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列を有する核酸結合タンパク質は、本発明において同様の効果を示すと考えられ、本発明において使用できる。
【0031】
本発明の溶液に含まれる核酸結合タンパク質の種類の数には、特に制限はなく、1種の核酸結合タンパク質を含んでもよく、2種以上を含んでいてもよい。また、2種以上の核酸結合タンパク質を使用する場合は、それらの混合比に限定はない。
【0032】
本発明の溶液に含まれる核酸結合タンパク質の濃度は、本発明の効果を奏し得る濃度であれば、特に限定されず、オリゴヌクレオチドの種類や濃度、核酸結合タンパク質の種類、その他の成分の種類や濃度、及び保存温度等を考慮して適宜決定することができる。核酸結合タンパク質の濃度(トータル)として、特に限定されないが、0.1mg/ml以上、0.2mg/ml以上、0.3mg/ml以上、0.4mg/ml以上、0.5mg/ml以上、0.6mg/ml以上、0.7mg/ml以上、0.8mg/ml以上、0.9mg/ml以上、1.0mg/ml以上、1.5mg/ml以上、2.0mg/ml以上、2.5mg/ml以上、3.0mg/ml以上、3.5mg/ml以上、4.0mg/ml以上、4.5mg/ml以上、5.0mg/ml以上、または5.5mg/ml以上が例示される。また、核酸結合タンパク質の濃度(トータル)の上限は、特に限定されないが、10.0mg/ml以下、9.0mg/ml以下、8.0mg/ml以下、7.0mg/ml以下、または6.0mg/ml以下が例示される。
【0033】
<溶液>
核酸結合タンパク質とオリゴヌクレオチドを溶媒中で混合することにより、核酸結合タンパク質及びオリゴヌクレオチドを含有する溶液(本発明の溶液)が調製される。核酸結合タンパク質およびオリゴヌクレオチドを混合する溶媒の例として、限定するものではないが、水、およびバッファーが挙げられる。
【0034】
本発明の溶液は、核酸結合タンパク質およびオリゴヌクレオチドに加えて、その他の成分を含有していてもよい。本発明の溶液の組成は、本発明の効果を奏し得る組成であれば、特に限定はない。オリゴヌクレオチドの種類や濃度、核酸結合タンパク質の種類や濃度、及びその他の成分の種類や濃度はその使用目的や保存温度等を考慮して適宜決定することができる。
【0035】
本発明の溶液は、緩衝成分を含むことが好ましい。本発明において「緩衝成分」は、溶液の水素イオン濃度(pH)の変動を和らげる作用を持つ化合物又は混合物のことをいう。本発明の溶液に含まれる緩衝成分として、特に限定はないが、例えば、トリス、ビシン、トリシン、ヘペス、リン酸塩(リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等)が好適に使用できる。特にトリス、ビシン、トリシン、ヘペス、あるいはリン酸塩が緩衝成分として本発明に好適である。例えば、上記の核酸結合タンパク質およびオリゴヌクレオチドを混合する溶媒として、TEバッファーを使用してもよい。TEバッファーとは、核酸を溶解及び/又は保存する際に使用される標準的な溶液で、核酸の分解を防ぐ働きがある。一般的なTEバッファーの組成は、10mM Tris-HCl(pH7.2~8.0)、1mM EDTAである。
【0036】
本発明を特に限定しないが、本発明の溶液のpHは、例えばpH6.0~pH10.0、好ましくはpH6.5~pH9.5、さらに好ましくはpH7.0~pH9.0、の範囲に設定されるのが適当である。本発明の溶液がPCR反応液に供される場合は、反応温度、使用するDNAポリメラーゼやその他の成分を考慮し、緩衝成分の種類、濃度、及びpHを最適化するのは当然のことである。
【0037】
本発明の溶液は、さらに標的核酸を増幅するために必要又は有用な成分、例えば、デオキシリボヌクレオチド、酵素(DNAポリメラーゼ、逆転写酵素、等)、金属塩、界面活性剤、などを含んでもよい。さらに、増幅した標的核酸を検出するために必要又は有用な成分、すなわち、インターカレーティング色素などをさらに含んでもよい。
【0038】
本発明の溶液に含まれるデオキシリボヌクレオチドは、酵素(DNAポリメラーゼ、逆転写酵素、等)の基質となりうるものであればよい。天然型DNAに見られる、アデニン、グアニン、シトシン又はチミン塩基を有するヌクレオチドやそれらの混合物が例示される。一般に、DNAポリメラーゼは3つのリン酸部分を有するデオキシリボヌクレオチドを核酸合成反応の基質とする。従って、ひとつの態様において、本発明の溶液はデオキシリボヌクレオシド三リン酸(例えば、dATP、dCTP、dITP、dGTP及びdTTP)並びにそれらの誘導体からなる群より選択されるデオキシリボヌクレオチドを含む。デオキシリボヌクレオチド誘導体は、[αS]dATP、7-デアザ-dGTP、7-デアザ-dATP及び核酸分解に抵抗性を示すデオキシヌクレオチド誘導体を含む。ヌクレオチド誘導体は、例えば、32P若しくは35Sなどの放射性同位体、蛍光部分、化学発光部分、生物発光部分又は酵素で検出できるように標識されているデオキシリボヌクレオチドを含む。
【0039】
本発明の溶液はDNAポリメラーゼを含んでいてもよい。本発明の溶液に含まれるDNAポリメラーゼは、特に限定されないが、本発明の溶液がPCRに使用される場合には熱安定性DNAポリメラーゼが好ましい。本発明に利用可能なDNAポリメラーゼとしては、真正細菌、例えばサーマス属又はバシラス属に属する細菌(Thermus aquaticus、Thermus thermophilus、Bacillus caldotenax等)に由来するDNAポリメラーゼ、古細菌、例えばパイロコッカス属又はサーモコッカス属に属する細菌(Pyrococcus furiosus、Thermococcus litralis、Thermococcus kodakaraensis等)に由来するDNAポリメラーゼが例示される。さらに、これらDNAポリメラーゼの改変体も本発明に使用することができる。
【0040】
2種以上のDNAポリメラーゼが本発明の溶液に含まれる場合もある。例えば、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼと、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を実質的に有しない別のDNAポリメラーゼとの組み合わせを本発明において使用することができる。かかるDNAポリメラーゼの組み合わせを用いる技術は、LA PCR(Long and accurate PCR)として知られている。
【0041】
本発明の溶液は逆転写酵素を含んでいてもよい。本発明の溶液に含まれる逆転写酵素は、逆転写活性、すなわちRNAを鋳型としてこれに相補的なDNAを合成する活性を有するものであれば本発明に使用でき、このような逆転写酵素としては、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)由来逆転写酵素やトリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)由来逆転写酵素等のウイルス由来の逆転写酵素やそれらの改変体が例示される。さらに、サーマス属細菌(例えばThermus thermophilus)由来DNAポリメラーゼや好熱性バシラス属細菌(例えばBacillus caldotenax)由来DNAポリメラーゼ等の真正細菌由来の耐熱性の逆転写酵素(逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ)が例示される。
【0042】
本発明の溶液は金属塩を含んでいてもよい。例えば、DNAポリメラーゼの活性に必須である2価の金属イオンの塩が挙げられる。このような2価の金属イオンとしては、マグネシウムイオン、マンガンイオン、及びコバルトイオンが例示される。各DNAポリメラーゼに適する2価の金属イオンとその濃度は、当該分野で知られている。2価の金属イオンは塩化物、硫酸塩、又は酢酸塩等の塩の形態で供給され得る。本発明を特に限定しないが、本発明の溶液に含まれる2価の金属イオンの濃度としては、例えば0.1~200mM、好ましくは0.2~100mM、さらに好ましくは0.5~50mMが例示される。使用する酵素(DNAポリメラーゼ、逆転写酵素、等)の金属要求性等や当該酵素を含む反応液調製の手順等に応じて塩の種類及び濃度を最適化するのは当然のことである。さらに、本発明の溶液はその他の塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)を含んでもよい。
【0043】
本発明の溶液はインターカレーティング色素を含んでもよい。本発明の溶液に含まれるインターカレーティング色素は、二本鎖核酸へのインターカレーションにより蛍光が増強される色素のことをいう。本発明に使用されるインターカレーティング色素としては、PCRに使用可能なものが好ましく、SYBR(登録商標) Green I、TB Green(登録商標)、SYTO-60、SYTO-62、POPO-3、TOTO-3、BOBO-3、TO-PRO-3、YO-PRO-1、及びSYTOX Orangeが例示され、中でもSYBR(登録商標) Green IやTB Green(登録商標)がより好適に例示される。
【0044】
SYBR(登録商標) Green Iは、市販されている非対称シアニン系色素であり、その構造はZipper Hら(“Nucleic Acids Research”、2004年、第32巻、第12号、e103)により明らかにされている。Zipper Hらによれば、ライフテクノロジーズ社より販売されているSYBR(登録商標) Green IのDMSO溶液の10,000倍希釈液(1X濃度)のSYBR(登録商標) Green Iのモル濃度は、約2μMである。
【0045】
本発明の溶液は界面活性剤を含んでもよい。本発明の溶液に含まれる界面活性剤は、特に限定はないが、Triton(登録商標) X-100(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)、Tween(登録商標) 20(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate)、及びNonidet(登録商標) P-40(Octylphenyl-polyethylene glycol)等の非イオン性界面活性剤、poly(ethylene glycol)4-nonylphenyl 3-sulfopropyl ether(PNSE)等の陰イオン性界面活性剤、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム等の陽イオン性界面活性剤、及びコカミドプロピルベタイン等の両性界面活性剤が例示される。
【0046】
本発明の溶液に含まれる界面活性剤の濃度は、特に限定はないが、当該溶液がPCRに使用されるものである場合、調製されるPCR反応液に含有される界面活性剤が適切な濃度となるように設定される。
【0047】
<調製>
核酸結合タンパク質とオリゴヌクレオチド、及び必要に応じてその他の成分を溶媒中で混合することにより、核酸結合タンパク質及びオリゴヌクレオチドを含有する溶液(本発明の溶液)が調製される。上記調製方法は、特に限定されないが、あらかじめ各成分を高濃度で含んだ溶液を作製しておき、それらを必要量分取して、順次容器に加えていくことが好ましい。各成分の混合の順番は、本発明の効果を奏し得る順番であれば、特に限定されない。すべての成分を加えた後、穏やかに撹拌し、すべての成分が均一になるまで混合する。例えば、ピペッティングや転倒混和などによる撹拌が例示される。
【0048】
<保存>
調製した本発明の溶液は容器に分注して保存してもよい。本発明において使用される容器の素材は、本発明の効果を奏し得る素材であれば、特に限定されないが、少なくともオリゴヌクレオチドに対する吸着性が低い素材によって形成されていることが好ましい。本発明において使用される容器の大きさ及び形状は、本発明の効果を奏し得れば、特に限定されない。また、分注方法及び分注量は、本発明の効果を奏し得る方法及び分注量であれば、特に限定されない。
【0049】
上記工程で調製した溶液、すなわち「核酸結合タンパク質及び核酸を含有する溶液(本発明の溶液)」を低温で保存する。
【0050】
本発明において「低温」とは、本発明の効果を奏し得る温度であれば、特に限定されず、オリゴヌクレオチドの種類や濃度、核酸結合タンパク質の種類や濃度、オリゴヌクレオチドと核酸結合タンパク質の混合比、その他の成分の種類や濃度、及び保存時間等を考慮して適宜決定することができる。特に限定されないが、4℃以下、0℃以下、-10℃以下、-20℃以下、-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-70℃以下、-80℃以下が例示される。特に限定されないが、溶液が凍結する温度が好ましい。
【0051】
本発明の溶液を保存する時間は、本発明の効果を奏し得る時間であれば、特に限定されず、オリゴヌクレオチドの種類や濃度、核酸結合タンパク質の種類や濃度、オリゴヌクレオチドと核酸結合タンパク質の混合比、その他の成分の種類や濃度、及び保存温度等を考慮して適宜決定することができる。特に限定されないが、24時間以上、2日間以上、3日間以上、4日間以上、6日間以上、1週間以上、2週間以上、3週間以上、4週間以上、5週間以上、6週間以上、7週間以上、または8週間以上の保存が例示される。また、保存する時間の上限は、特に限定されないが、10年以下、9年以下、8年以下、7年以下、6年以下、5年以下、4年以下、3年以下、2年以下、1年以下、または使用期限までの保存が例示される。前記使用期限は本発明の溶液がその効果を奏し得る範囲で適宜設定すればよい。
【0052】
溶液が凍結して保存された場合、適切な方法で融解して使用することができる。融解方法は、特に限定されず、例えば凍結した溶液を含む容器を室温で静置することにより、融解することができる。また、凍結した溶液を含む容器を氷中(又は氷上)や恒温水槽中で静置することにより、融解することもできる。
【0053】
本発明のオリゴヌクレオチドの保存方法により保存されたオリゴヌクレオチドは、公知の核酸解析方法を用いて解析することができる。このような核酸解析方法として、例えば、核酸を定量する方法や、PCR等の核酸増幅反応を用いて増幅産物を解析する方法等がある。
【0054】
本発明の一つの態様では、本発明のオリゴヌクレオチドの保存方法により保存されたオリゴヌクレオチドは、公知の核酸解析方法におけるプライマー、プローブとして使用される。このような核酸解析方法として、例えば、鋳型核酸の相補鎖の合成(例えばcDNAの合成)、標的核酸の増幅(例えばPCR法)、種々のハイブリダイゼーション法による核酸の検出や定量等が例示される。プライマーを含有する本発明の溶液は、単一のプライマーを含むもの、標的核酸を増幅可能な1対のプライマーを含むもの、複数の標的核酸のそれぞれに対応する複数のプライマー対を含むもの、等が例示される。プローブの場合も同様に、1種もしくは複数種のプローブを含むことができる。さらに、1又は複数のプライマーと、1又は複数のプローブとを含む溶液も本発明の態様の一つである。
【0055】
本発明の溶液に含有されるオリゴヌクレオチドをプライマーとして、又はプローブとして使用する核酸増幅反応は本発明の一つの態様である。本発明の溶液ならびに核酸増幅反応に必要な各種の成分を混合して核酸増幅用の反応液を調製し、反応が実施される。核酸増幅反応に必要な成分は当業者に周知である。代表的な成分としてはDNAポリメラーゼ、2価金属イオン、デオキシリボヌクレオシド3リン酸、緩衝成分が例示されるが、それ以外の成分を適宜使用することができる。本発明の溶液に含有されるオリゴヌクレオチドがプライマーもしくはプライマー対である場合、反応液には適切な鋳型核酸もしくは鋳型核酸を含む可能性のある試料が添加される。前記の核酸増幅反応は、鋳型核酸の定性的な検出及び/又は定量に利用することができる。
【0056】
核酸増幅過程のモニタリング結果を利用したDNAの定量は、当該技術分野で公知の方法を利用すればよい。例えば、核酸増幅反応に使用するプライマー対による核酸増幅の鋳型となる核酸配列を有するスタンダードDNA(ポジティブコントロールDNA)の希釈系列を作成し、そのそれぞれを鋳型として用いたリアルタイムPCRによりCt値を算出して検量線を作成し、これに基づいて検体中のDNAを定量することができる。上記のスタンダードDNAとしては、例えばプラスミドDNAを用いることができる。Ct値の算出方法としては、例えば閾値と増幅曲線の交点をCt値とする方法(Crossing Point法)や、増幅曲線の2次導関数を求めてそれが最大となる点をCt値とする方法(2nd Derivative Maximum法)が利用できる。
【0057】
上記方法は、更に融解曲線分析を実施する工程を含んでもよい。融解曲線分析では、核酸増幅反応後に反応液の温度を徐々に上げ、その際にインターカレーティング色素の蛍光シグナルをモニタリングする。低温では核酸増幅産物が二本鎖を形成して強い蛍光シグナルを示すが、ある一定の温度に達すると一本鎖に解離し、インターカレーティング色素の蛍光シグナル強度は急激に低下する。このときの温度が融解温度(Tm値)である。融解曲線分析により増幅産物のTm値を調べ、特異的な増幅産物であるか否かを確認することができる。
【0058】
標識プローブを使用する核酸の検出・定量方法が知られている。代表的な方法は、蛍光物質と消光物質とで二重標識したプローブと標的核酸とを接触させ、両者がハイブリダイズした場合に前記のプローブの切断が起こるようにしたものである。プローブが切断されて生じる蛍光を指標として標的核酸を検出及び/又は定量することができる。このような方法として、DNAポリメラーゼが有する5’→3’エキソヌクレアーゼ活性でプローブを切断するTaqman法、プローブとしてDNA/RNAキメラプローブを使用し、これをリボヌクレアーゼHで切断するサイクリングプローブ法が挙げられる。本発明の溶液は、このような用途に使用可能な標識プローブ(オリゴヌクレオチド)を含有するものであってもよい。
【0059】
標的核酸の増幅に使用されるプライマー対と核酸結合タンパク質とを含有する本発明の溶液の一つの態様として、さらに核酸増幅反応に必要な成分(ただし鋳型核酸を除く)を含有させた溶液(プレミックス溶液)が例示される。このような溶液は鋳型核酸もしくは鋳型核酸を含む可能性のある試料を添加して簡便に核酸増幅用の反応液を調製することができ、鋳型核酸の迅速な検出や定量に有用である。長期に保存しても核酸増幅反応の効率が低下しないことから、検出・定量を再現性良く実施することができる。
【0060】
(2)本発明の「標的核酸を増幅するためのキット」
核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する本発明の溶液の態様は、当該標的核酸の検出または増幅に有用である。本発明の溶液は低温で保存された際にオリゴヌクレオチドの劣化がより抑えられることから、好ましくは、低温保存された本発明の溶液を用いて標的核酸の検出や定量を再現性良く実施することができる。前記のオリゴヌクレオチドとしては、標的核酸検出のためのプローブとして機能するもの、標的核酸の増幅においてプライマーとして機能するもの、が例示される。したがって、本発明の一態様において、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する溶液を含む、標的核酸を増幅するためのキット(以下、「本発明のキット」と称す)が提供される。
【0061】
本発明のキットは、さらに核酸増幅に必要又は有用な各種の成分、例えば、前記の酵素(例えば、DNAポリメラーゼ、逆転写酵素、等)、金属塩(例えば、2価金属イオン)、デオキシリボヌクレオチド(例えば、デオキシリボヌクレオシド3リン酸)、緩衝成分、界面活性剤などを含むものであってもよい。これらの成分は、例えば、DNAポリメラーゼ、二価金属イオン、デオキシリボヌクレオシド3リン酸及び緩衝成分からなる群より選択される1以上の成分であってもよい。前記の核酸増幅に必要又は有用な成分はそれぞれ別のコンポーネントとしてキットに含まれてもよいが、複数の成分を組み合わせたコンポーネントとすることもできる。さらに、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する溶液がこれらの成分の1以上を含んでいてもよい。
【0062】
本発明のキットの一つの態様として、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する溶液と、DNAポリメラーゼを含有する溶液とを組み合わせた本発明のキットの態様は、標的核酸の増幅や検出に有用である。標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドがプライマーである場合、両溶液を混合して標的核酸増幅用の反応液を調製することができる。また、標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドがプローブである場合、両溶液に加えて適切なプライマーを使用し、標的核酸検出用の反応液を調製することができる。さらに、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する溶液、又はDNAポリメラーゼを含有する溶液は、前記の核酸増幅に必要又は有用な成分の1以上を含んでいてもよい。例えば、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する第一の溶液と、DNAポリメラーゼ、二価金属イオン、デオキシリボヌクレオシド3リン酸及び緩衝成分からなる群より選択される1以上の要素を含有する第二の溶液を包含するキットが挙げられる。前記の各コンポーネント又は第一の溶液及び第二の溶液は、それぞれ、別の容器中で保存される。
【0063】
本発明のキットの別の態様として、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドに加えて、核酸増幅反応に必要な成分その他の成分(ただし鋳型核酸を除く)のすべてを含有させた溶液(プレミックス溶液)をコンポーネントとするキットが例示される。プレミックス溶液の一例として、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドに加えて、DNAポリメラーゼ、二価金属イオン、デオキシリボヌクレオシド3リン酸及び緩衝成分を含有する溶液が挙げられる。当該キットは、前記のコンポーネントに鋳型核酸もしくは鋳型核酸を含む可能性のある試料を添加して簡便に核酸増幅用の反応液を調製することができ、鋳型核酸の迅速な検出や定量に有用である。長期に保存しても核酸増幅反応の効率が低下しないことから、検出・定量を再現性良く実施することができる。
【0064】
本発明の好適な態様では、本発明のキットは、標的核酸の塩基配列の少なくとも一部を有する陽性対照核酸、試料の前処理で使用される試薬等を含んでもよい。
【0065】
さらに、本発明の別の態様として、オリゴヌクレオチドを安定に保存するための核酸結合タンパク質の使用、が挙げられる。本態様により、保存されたオリゴヌクレオチドを含む反応液を使用した核酸増幅反応における、核酸増幅効率の低下が防止される。本発明の「核酸結合タンパク質の使用」は、具体的には、前記の本発明の「オリゴヌクレオチドの保存方法」に記載されたようにして実施することができ、標的核酸の増幅/検出方法、当該方法に使用されるキットの製造に有用である。
【0066】
前記の本発明のキットは、好ましくは、使用するまでは低温で保存される。特に好ましくは、本発明のキットにおいて、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する溶液が低温で保存されている。特に本発明を限定するものではないが、核酸結合タンパク質及び標的核酸にハイブリダイズするオリゴデオキシリボヌクレオチドを含有する溶液については、凍結した状態で保存されることが望ましい。
【実施例
【0067】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されない。
【0068】
調製例1 CspA原液の調製
S.Chatterjeeら[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),1993,114,663-669]に記載の方法に従って、大腸菌のCspAタンパク質を発現、精製した後、CspA原液(10mg/mL CspAタンパク質、20mM Tris-HCl(pH7.8(4℃))、100mM NaCl、1mM EDTA、1mM DTT、50% Glycerol)を調製した。CspA原液をチューブに分注し、使用時まで、-20℃で凍結保存した。
【0069】
調製例2 プライマー原液の調製
invA_F-6プライマー(配列番号1)、invA_R-6プライマー(配列番号2)、及びstx1_R-2プライマー(配列番号3)をそれぞれTEバッファー(pH8.0)に溶解し、プライマー原液(100μM)を調製した。プライマー原液をチューブに分注し、使用時まで、-20℃で凍結保存した。
【0070】
実施例1 プライマーミックス溶液の経時的なPCR反応性低下
プライマー原液及びTEバッファーを混合して、プライマーミックス溶液を調製した。すなわち、invA_F-6プライマー(10μM、配列番号1)、invA_R-6プライマー(10μM、配列番号2)、及びstx1_R-2プライマー(10μM、配列番号3)をTEバッファー中に含む、プライマーミックス溶液を調製した。
【0071】
このプライマーミックス溶液をチューブに分注し、-20℃で凍結保存した。凍結前のプライマーミックス溶液、及び凍結開始後3、5、7、10日目に融解したプライマーミックス溶液を、それぞれ下記PCRに供した。ここで、凍結前のプライマーミックス溶液については調整後すぐに、また凍結保存したプライマーミックス溶液は融解後速やかに、それぞれPCRを実施した。以降の実施例においても同様の手順でPCRを実施した。
【0072】
PCR反応液は、n=2で調製した。すなわち、上記プライマーミックス溶液を2.5μl、TaKaRa腸管系病原細菌遺伝子検出キット(タカラバイオ社製、RR139A)に含まれるReaction Mix Fastを12.5μl、100X SYBR(登録商標) Green I(タカラバイオ社製)を0.25μl、及び滅菌水を混合して、最終容量を25μlとした。PCRおよび蛍光検出は、Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III(タカラバイオ社製、TP950)で行った。PCRの反応条件は、94℃30秒の予温の後、90℃1秒、64℃10秒を1サイクルとする45サイクル反応で行い、最後に解離反応として68℃から90℃まで継時的に温度を上昇させ、各温度の蛍光強度を観察した。また、対照として、5pgのサルモネラゲノムを鋳型DNAとして含む反応液で同様の測定を行った。
【0073】
上記PCRのうち、凍結前のプライマーミックス溶液を使用した場合の増幅曲線及び融解曲線の例を、それぞれ図1及び図2に示す。図1に示したように、鋳型DNAを含む反応液(対照)では、鋳型DNAを含まない場合に比べて蛍光の立ち上がりが早くなる。また、図2で観察される85℃付近のピークはinvA遺伝子断片の増幅産物に由来し、73℃付近のピークは非特異的増幅産物に由来する。これらの結果は、鋳型DNAを含まない反応液では、非特異的増幅産物が生成することを示す。すなわち、増幅曲線及び融解曲線を解析することにより、非特異的増幅産物の生成をモニターできる。
【0074】
測定結果から計算される、鋳型DNAを含まない反応液のCt値の経時的変化を図3に示す。図3に示したように、プライマーミックス溶液を凍結保存すると、反応液に鋳型DNAが含まれないにも関わらず、Ct値が経時的に減少する。この結果は、プライマーミックス溶液の保存期間が長くなるにつれて、非特異的増幅産物が生成しやすくなることを示す。
【0075】
実施例2 プライマーミックス溶液へのCspA添加によるPCR反応性維持
3種のプライマー及び添加物(CspA又はTween 20)を含むプライマーミックス溶液を調製した。すなわち、実施例1と同様の方法でプライマーミックス溶液を調製する際に、更にCspAタンパク質(タカラバイオ社製)を終濃度4mg/mlになるように添加することにより、CspAを含むプライマーミックス溶液を調製した。また、実施例1と同様の方法でプライマーミックス溶液を調製し、更にTween(登録商標) 20(ナカライテスク社製)を終濃度0.5%になるように添加することにより、Tween 20を含むプライマーミックス溶液を調製した。対照として、添加物を含まないプライマーミックス溶液も調製し、TE controlとした。
【0076】
これらのプライマーミックス溶液をチューブに分注し、-20℃で凍結保存した。凍結前のプライマーミックス溶液、及び凍結開始後3、6日目に融解したプライマーミックス溶液を、PCRに供した。実施例1記載の方法でPCR反応液をn=4で調製し、実施例1記載の条件でPCRを行った。なお、PCRの条件を合わせるために、TE control及びTween 20のPCR反応液には、反応液調製時に、CspAタンパク質を添加した。測定結果から計算される、鋳型DNAを含まない反応液のCt値を図4に示す。
【0077】
図4に示したように、CspA又はTween 20をプライマーミックス溶液に添加することにより、Ct値の減少が抑えられる。特に、CspAを添加することにより、効果的にCt値の減少を抑えることができた。この結果は、プライマーミックス溶液へCspAを添加して保存することにより、非特異的増幅産物の生成を抑制できることを示す。
【0078】
実施例3 CspAの濃度評価(1回目)
3種のプライマー及び濃度の異なるCspAを含むプライマーミックス溶液を調製した。すなわち、実施例1と同様の方法でプライマーミックス溶液を調製する際に、更にCspAタンパク質を終濃度4mg/ml又は終濃度2mg/mlになるように添加することにより、濃度の異なるCspAを含むプライマーミックス溶液を調製した。対照として、CspAを含まないプライマーミックス溶液も調製し、TE controlとした。
【0079】
これらのプライマーミックス溶液をチューブに分注し、-20℃で凍結保存した。凍結前のプライマーミックス溶液、及び凍結開始後3、6日目に融解したプライマーミックス溶液を、PCRに供した。実施例1記載の方法でPCR反応液をn=4で調製し、実施例1記載の条件でPCRを行った。なお、PCRの条件を合わせるために、TE control及び2mg/ml CspAのPCR反応液には、反応液調製時に、CspAタンパク質を添加した。測定結果から計算される、鋳型DNAを含まない反応液のCt値を図5に示す。
【0080】
図5に示したように、終濃度4mg/ml又は終濃度2mg/mlのCspAを含むプライマーミックス溶液は、CspAを含まないプライマーミックス溶液(TE control)に比べてCt値の減少が抑えられる。この結果は、プライマーミックス溶液へ終濃度4mg/ml又は終濃度2mg/mlのCspAを添加して保存することにより、非特異的増幅産物の生成を抑制できることを示す。
【0081】
実施例4 CspAの濃度評価(2回目)
3種のプライマー及び濃度の異なるCspAを含むプライマーミックス溶液を調製した。すなわち、実施例1と同様の方法でプライマーミックス溶液を調製する際に、更にCspAタンパク質を終濃度4mg/ml、終濃度1mg/ml、又は終濃度0.25mg/mlになるように添加することにより、濃度の異なるCspAを含むプライマーミックス溶液を調製した。対照として、CspAを含まないプライマーミックス溶液も調製し、TE controlとした。
【0082】
これらのプライマーミックス溶液をチューブに分注し、-20℃で凍結保存した。凍結前のプライマーミックス溶液、及び凍結開始後3、7日目に融解したプライマーミックス溶液を、PCRに供した。実施例1記載の方法でPCR反応液をn=4で調製し、実施例1記載の条件でPCRを行った。なお、PCRの条件を合わせるために、TE control、1mg/ml CspA、及び0.25mg/ml CspAのPCR反応液には、反応液調製時に、CspAタンパク質を添加した。測定結果から計算される、鋳型DNAを含まない反応液のCt値を図6に示す。
【0083】
図6に示したように、CspAの濃度依存的にCt値が減少した。この結果は、プライマーミックス溶液へ添加するCspAの濃度依存的に非特異的増幅産物の生成を抑制できることを示す。
【0084】
実施例5 プライマーミックス溶液への核酸結合タンパク質添加によるPCR反応性維持
3種のプライマー及び核酸結合タンパク質(CspA、T4 SSB、又はE.coli SSB)を含むプライマーミックス溶液を調製した。すなわち、invA_F-6プライマー(20μM、配列番号1)、invA_R-6プライマー(20μM、配列番号2)、及びstx1_R-2プライマー(20μM、配列番号3)を含むTEバッファーを調製する際に、更にCspAタンパク質(終濃度4mg/ml)、T4ファージ由来SSBタンパク質(バイオアカデミア社製、終濃度2mg/ml)、又は大腸菌のSSBタンパク質(バイオアカデミア社製、終濃度2mg/ml)をそれぞれ添加することにより、核酸結合タンパク質を含むプライマーミックス溶液を調製した。対照として、核酸結合タンパク質を含まないプライマーミックス溶液も調製し、TE controlとした。
【0085】
これらのプライマーミックス溶液をチューブに分注し、-20℃で凍結保存した。凍結前のプライマーミックス溶液、及び凍結開始後2、5、9日目に融解したプライマーミックス溶液を、PCRに供した。
【0086】
PCR反応液は、n=4で調製した。すなわち、上記プライマーミックス溶液を1.25μl、Reaction Mix Fastを12.5μl、100X SYBR(登録商標) Green Iを0.25μl、及び滅菌水を混合して、最終容量を25μlとし、実施例1記載の条件でPCRを行った。なお、PCRの条件を合わせるために、TE controlのPCR反応液には、反応液調製時に、CspAタンパク質を添加した。測定結果から計算される、鋳型DNAを含まない反応液のCt値(比率)を図7に示す。
【0087】
図7に示したように、核酸結合タンパク質(CspA、T4 SSB、又はE.coli SSB)をプライマーミックス溶液に添加することにより、Ct値の減少が抑えられる。この結果は、プライマーミックス溶液へ核酸結合タンパク質を添加して保存することにより、非特異的増幅産物の生成を抑制できることを示す。
【0088】
実施例6 プレミックス溶液へのCspA添加によるPCR反応性維持
鋳型DNA以外のPCRに必要な成分(プライマー、dNTP、酵素、蛍光色素、など)及びCspAを含むプレミックス溶液を調製した。すなわち、容量14.5μlあたりにinvA_F-6プライマー(1.7μM、配列番号1)、invA_R-6プライマー(1.7μM、配列番号2)、stx1_R-2プライマー(1.7μM、配列番号3)、Reaction Mix Fast(12.5μl)、SYBR(登録商標) Green I(1.7X)、及びCspA(0.69mg/ml)を含むプレミックス溶液を調製した。対照として、CspAを含まないプレミックス溶液も調製し、TE controlとした。
【0089】
これらのプレミックス溶液をチューブに分注し、-20℃で凍結保存した。凍結前のプレミックス溶液、及び凍結開始後3、7日目に融解したプレミックス溶液を、PCRに供した。すなわち、上記プレミックス溶液14.5μl及び滅菌水10.5μlを混合して、PCR反応液を調製し、実施例1記載の条件でPCRを行った(n=4)。測定結果から計算される、鋳型DNAを含まない反応液のCt値を図8に示す。
【0090】
図8に示したように、CspAをプレミックス溶液に添加することにより、Ct値の減少が抑えられる。この結果は、プレミックス溶液へCspAを添加して保存することにより、非特異的増幅産物の生成を抑制できることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、遺伝子工学、生物学、医学、農業等幅広い分野において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0092】
SEQ ID NO:1 ; PCR primer "invA_F-6"
SEQ ID NO:2 ; PCR primer "invA_R-6"
SEQ ID NO:3 ; PCR primer "stx1_R-2"
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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