(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】血液脳関門の選択的標的開放のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/00 20060101AFI20220726BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
A61B17/00 700
A61B5/055 390
A61B5/055 370
(21)【出願番号】P 2019564141
(86)(22)【出願日】2018-05-22
(86)【国際出願番号】 IB2018000774
(87)【国際公開番号】W WO2018215839
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-01-26
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508154863
【氏名又は名称】インサイテック・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】レヴィ, ヨアフ
(72)【発明者】
【氏名】ザディカリオ, エーヤル
(72)【発明者】
【氏名】グリンフェルド, ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】デ ピチオット, ラフィ
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0015953(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0318002(US,A1)
【文献】特表2009-508649(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0016039(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
A61B 17/22
A61B 5/055
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血液脳関門(BBB)を一時的に崩壊させるためのシステムであって、前記システムは、
超音波変換器と、
コントローラと
を備え、
前記コントローラは、
(a
)標的BBB領域
またはその周囲領域
のうちの少なくとも1つに関連付けられ
た累積音響応答
量の閾
値を記憶することと、
(b)前記変換器に、少なくとも1つの超音波パルスを伝送させることと、
(c)前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの
前記少なくとも1つに関連付けられ
た前記
累積音響応答
量を取得することと、
(d)前記測定を、
前記記憶された閾値と比較することと、
(e)前記比較に少なくとも部分的に基づいて、前記変換器を動作させることと
を行うように構成されている、システム。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられた音響応答レベルおよび組織応答量の閾値のうちの少なくとも1つを記憶することと、
(b)を実行した後に、前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられた前記音響応答レベルまたは前記組織応答量のうちの少なくとも1つを取得することと、
前記音響応答レベルまたは前記組織応答量のうちの前記少なくとも1つの前記測定を、対応する記憶された閾値と比較することと
を行うようにさらに構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コントローラは、
検出デバイスまたは前記変換器のうちの少なくとも1つに、前記標的BBB領域および/またはその周囲領域からの音響信号を測定させることと、
前記測定された音響信号に少なくとも部分的に基づいて、前記音響応答レベル、前記
累積音響応答量、および/または前記組織応答量を決定することと
を行うようにさらに構成されている、請求項
2に記載のシステム。
【請求項4】
前記標的BBB領域および/またはその周囲領域からの前記測定された音響信号をフィルタ処理するためのフィルタをさらに備えている、請求項
3に記載のシステム。
【請求項5】
前記フィルタは、前記伝送された超音波パルスに対する高調波応答または副高調波応答のうちの少なくとも1つを選択するように構成されている、請求項
4に記載のシステム。
【請求項6】
前記フィルタは、前記伝送された超音波パルスに対する広帯域応答を選択するように構成されている、請求項
4に記載のシステム。
【請求項7】
前記コントローラは、所定の期間にわたって前記音響応答レベルを積分することによって、前記
累積音響応答量を算出するようにさらに構成されている、請求項
2に記載のシステム。
【請求項8】
前記コントローラは、前記変換器を使用して、前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つにおける微小気泡の発生を引き起こすようにさらに構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
微小気泡を前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つの中に導入するための投与デバイスをさらに備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
シード微小気泡を前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つの中に導入するための投与デバイスをさらに備え、前記コントローラは、前記シード微小気泡および前記変換器を使用して、追加の微小気泡の発生を引き起こすようにさらに構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記コントローラは、その解剖学的特性に少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの標的BBB領域およびその周囲領域に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値を決定するようにさらに構成されている、請求項
2に記載のシステム。
【請求項12】
複数の標的BBB領域が存在し、前記コントローラは、前記標的BBB領域の各々およびそれらの周囲領域の各々に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値を決定し、記憶するようにさらに構成されている、請求項
11に記載のシステム。
【請求項13】
前記少なくとも1つの標的BBB領域に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の閾値のうちの前記少なくとも1つは、前記周囲領域に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値と異なる、請求項
11に記載のシステム。
【請求項14】
前記周囲領域は、異なる場所における異なるタイプを有する組織を備え、前記コントローラは、前記周囲領域の各場所における各タイプの前記組織に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値を決定するようにさらに構成されている、請求項
11に記載のシステム。
【請求項15】
前記標的BBB領域およびその周囲領域の前記解剖学的特性を取得するための撮像デバイスをさらに備えている、請求項
11に記載のシステム。
【請求項16】
前記撮像デバイスは、前記標的BBB領域および/またはその周囲領域の画像をさらに取得し、前記コントローラは、前記取得された画像に少なくとも部分的に基づいて、前記組織応答量を決定するようにさらに構成されている、請求項
15に記載のシステム。
【請求項17】
前記組織応答量は、前記標的BBB領域
またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられた温度を備えている、請求項
2に記載のシステム。
【請求項18】
前記組織応答量は、前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられたMRI T
2緩和時間を測定することによって取得される、請求項
2に記載のシステム。
【請求項19】
前記コントローラは、
前記音響応答レベル、前記
累積音響応答量、または前記組織応答量のうちの前記少なくとも1つが前記対応する閾値を超えるかどうかを決定することと、
超える場合、超音波振動を一時停止し、超えない場合、前記変換器に、第2の超音波パルスを伝送させることと
を行うようにさらに構成されている、請求項
2に記載のシステム。
【請求項20】
前記組織応答量は、前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられたMRI T
2
*撮像またはMRI T
2
*加重撮像のうちの少なくとも1つから導出される情報を備えている、請求項
2に記載のシステム。
【請求項21】
前記コントローラは、前記変換器に関連付けられた伝送電力または超音波振動パターンのうちの少なくとも1つを調整することによって、前記変換器を動作させるようにさらに構成されている、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、米国仮特許出願第62/510,023号(2017年5月23日出願)に対する優先権およびその利益を主張し、上記出願の全内容は、参照により本明細書に引用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明の分野は、概して、超音波システムに関し、より具体的には、超音波手技を使用した血液脳関門の選択的標的開放のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
中枢神経系(CNS)内の細胞の層によって形成される、血液脳関門(BBB)は、大分子が脳実質に進入することを排除し、それによって、それを毒性異物による損傷から保護する。しかし、BBBは、多くの脳疾患を治療するための最大の障害物のうちの1つを提示する。具体的には、BBBは、薬物および遺伝子療法ベクター等の多くの治療薬が患者の脳組織に到達することを阻む。例えば、CNS感染症、神経変性疾患、先天性酵素欠損症、および脳癌のための治療の全ては、とりわけ、抗生物質、抗レトロウイルス薬、酵素置換療法、遺伝子製剤、および抗悪性腫瘍薬の通過を遮断するBBBの能力によって妨げられる。したがって、BBBを一時的かつ局所的に「開放」し、これらの薬剤の療法量が、罹患脳組織にアクセスすることを可能にすることが望ましい。
【0004】
集束超音波(すなわち、約20キロヘルツを上回る周波数を有する音響波)が、神経的疾患の治療において、BBBを開放するために利用されている。BBB開放の根底にある機構的事象は、超音波パルスに対する微小気泡の反応を伴うと考えられ、それは、音響キャビテーションとして知られる一連の挙動をもたらし得る。安定キャビテーションでは、微小気泡は、いくつかのサイクルにわたって、音響圧力の希薄化および圧縮に伴って拡張および収縮する。すなわち、そのような作用は、近傍の血管の拡張および収縮をもたらし得る。慣性キャビテーションでは、微小気泡は、それらの平衡半径を数倍上回って拡張し、続いて、周囲組織の慣性に起因して、崩れ得る。両方の場合において、血管の結果として生じる崩壊が、BBBの「開放」を誘発する。
【0005】
しかしながら、非制御微小気泡キャビテーションは、望ましくない損傷をBBBおよびその周囲にもたらし得る。例えば、BBBの一部を形成する細胞のアブレートは、BBB機能を損なわせるのみならず、望ましくない細胞死または壊死も周囲組織内に引き起こし得る。BBB崩壊の間の微小気泡キャビテーションの望ましくない効果を最小化するために、1つの従来のアプローチは、各超音波振動後の微小気泡の音響応答を測定する受動キャビテーション検出器を利用する。すなわち、音響応答レベルが、所定の閾値振幅を上回る場合、超音波手技は、一時停止される。しかしながら、微小気泡キャビテーションの効果は、超音波振動に沿って、かつ一連の超音波振動にわたって、累積し得、キャビテーションが生じる組織の性質にも依存し得る。すなわち、微小気泡からの音響応答を測定することは、周囲組織へのキャビテーションの効果を正確に反映しないこともある。
【0006】
故に、超音波から生じる微小気泡キャビテーションを確実に検出し、BBBまたはその周囲組織への恒久的損傷を回避するために、局所組織へのキャビテーションの効果をリアルタイムで監視する必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、制御および可逆的様式において標的BBB領域を崩壊させるために、超音波を用いて微小気泡キャビテーションを誘発するためのシステムおよび方法を提供する。微小気泡キャビテーションの形成および累積量は、(i)各超音波振動パルス後の微小気泡の一時的音響効果を表す音響応答レベルと、(ii)単一超音波振動または複数の超音波振動にわたる微小気泡の累積効果を表す音響応答量(acoustic response dose)とを使用して、確実に検出され得る。例えば、音響応答量は、所定の期間にわたる時変音響応答レベルの積分であり得る。したがって、検出された音響応答レベルおよび/または累積音響応答量が、臨床上容認され得る、例えば、標的BBB領域またはその周囲組織に恒久的に影響を及ぼさない、またはそれを損傷させない微小気泡キャビテーションの大きさおよび/または累積量に関する上限を反映する所定の閾値を超える場合、超音波手技は、一時停止され、微小気泡キャビテーションをさらに誘発することを回避し得る。しかしながら、検出された音響応答レベルおよび/または累積音響応答量が、所定の閾値を下回る場合、追加の微小気泡キャビテーションが、誘発され、標的BBB領域をさらに崩壊させ得る。これは、超音波変換器を動作させ、追加の音響エネルギーを標的BBB領域に送達すること、および/または、微小気泡投与システムをアクティブにし、追加の微小気泡を導入することによって、達成され得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、撮像デバイス(例えば、磁気共鳴画像診断(MRI)デバイス)が、標的BBB領域および/またはその周囲組織の組織タイプおよび/または性質を特性評価するために採用される。すなわち、組織の各タイプおよび場所は、その性質に応じて、音響応答レベルおよび音響応答量に対する対応する許容量を有し得る。加えて、撮像デバイスは、標的BBB領域および/または周囲組織へのキャビテーション効果(例えば、温度上昇または崩壊させられる面積)をリアルタイムで測定し得る。標的BBB領域および/またはその周囲組織への望ましくない効果が、観察される(例えば、温度上昇が閾値を超える、および/または崩壊させられる面積が所望のサイズより大きい)場合、超音波手技は、中止され得る。故に、本発明に説明されるアプローチは、有利には、微小気泡キャビテーション事象を確実に検出し、標的および/または周囲組織へのキャビテーションの効果をリアルタイムで監視することによって、標的BBB領域およびその周囲組織の恒久的損傷を回避し得る。
【0009】
故に、第1の側面では、本発明は、患者の血液脳関門(BBB)を一時的に崩壊させるためのシステムに関する。種々の実施形態では、システムは、超音波変換器と、(a)1つ以上の標的BBB領域およびその周囲領域に関連付けられた1つ以上の音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値を記憶し、(b)変換器に1つ以上の超音波パルスを伝送させ、(c)標的BBB領域および/または周囲領域に関連付けられた音響応答レベル、音響応答量、および/または組織応答量を取得し、(d)測定を対応する記憶された閾値と比較し、(e)少なくとも部分的に比較に基づいて、変換器を動作させるように構成されているコントローラとを含む。一実装では、コントローラは、変換器に関連付けられた伝送電力および/または超音波振動パターンを調整することによって、変換器を動作させるように構成される。加えて、コントローラは、所定の期間にわたって音響応答レベルを積分することによって、音響応答量を算出するようにさらに構成され得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、コントローラは、検出デバイスおよび/または変換器に標的BBB領域および/または周囲領域からの音響信号を測定させ、少なくとも部分的に測定された音響信号に基づいて、音響応答レベル、音響応答量、および/または組織応答量を決定するようにさらに構成される。加えて、システムは、標的BBB領域および/または周囲領域から測定された音響信号をフィルタ処理するための1つ以上のフィルタをさらに含み得る。フィルタは、伝送された超音波パルスに対する高調波および/または副高調波応答を選択するように構成され得る。代替として、フィルタは、伝送された超音波パルスに対する広帯域応答を選択するように構成され得る。
【0011】
一実施形態では、コントローラは、変換器を使用して、微小気泡の発生を標的BBB領域および/または周囲領域内で引き起こすようにさらに構成される。加えて、または代替として、システムは、微小気泡を標的BBB領域および/または周囲領域の中に導入するための投与デバイスを含み得る。一実装では、投与デバイスは、シード微小気泡を標的BBB領域および/または周囲領域の中に導入し、コントローラは、次いで、シード微小気泡および変換器を使用して、追加の微小気泡の発生を引き起こすように構成される。
【0012】
種々の実施形態では、コントローラは、少なくとも部分的にその解剖学的特性に基づいて、標的BBB領域および/または周囲領域に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値を決定するようにさらに構成される。一実施形態では、システムは、標的BBB領域およびその周囲領域の解剖学的特性を取得するための撮像デバイスを含む。例えば、撮像デバイスは、標的BBB領域および/または周囲領域の画像を取得し得、コントローラは、少なくとも部分的に取得された画像に基づいて、組織応答量を決定するようにさらに構成される。
【0013】
複数の標的BBB領域が存在し得、コントローラは、標的BBB領域の各々およびその周囲領域の各々に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値を決定し、記憶するようにさらに構成され得る。いくつかの実施形態では、標的BBB領域に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値は、周囲領域に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値と異なる。加えて、周囲領域は、異なる場所における異なるタイプを有する組織を含み得る。コントローラは、周囲領域の各場所における各タイプの組織に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値を決定するようにさらに構成され得る。
【0014】
組織応答量は、標的BBB領域および/または周囲領域に関連付けられた温度を含み得る。いくつかの実施形態では、組織応答量は、標的BBB領域および/または周囲領域に関連付けられたMRI T2緩和時間を測定することによって取得される。加えて、組織応答量は、標的BBB領域および/または周囲領域に関連付けられたMRI T2
*撮像および/またはMRI T2
*加重撮像から導出される情報を含み得る。さらに、コントローラは、音響応答レベル、音響応答量、および/または組織応答量が、対応する閾値を超えるかどうかを決定し、超える場合、超音波振動を一時停止し、超えない場合、変換器に第2の超音波パルスを伝送させるように構成され得る。
【0015】
別の側面では、本発明は、変換器から超音波振動を印加し、患者のBBBを一時的に崩壊させる方法に関する。種々の実施形態では、方法は、(a)それらの解剖学的特性に基づいて、1つ以上の標的BBB領域およびその周囲領域に関連付けられた1つ以上の音響応答レベル、音響応答量、および/または組織応答量の閾値を記憶することと、(b)変換器に1つ以上の超音波パルスを伝送させることと、(c)標的BBB領域および/または周囲領域に関連付けられた音響応答レベル、音響応答量、および/または組織応答量を取得することと、(d)測定を対応する記憶された閾値と比較することと、(e)少なくとも部分的に比較に基づいて、変換器を動作させることとを含む。例えば、変換器を動作させることは、変換器に関連付けられた伝送電力および/またはパルスパターンを調節することを含み得る。一実装では、音響応答量は、所定の期間にわたる音響応答レベルの積分を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、方法は、標的BBB領域および/または周囲領域からの音響信号を測定することと、少なくとも部分的に測定された音響信号に基づいて、音響応答レベル、音響応答量、および/または組織応答量を決定することとをさらに含む。加えて、方法は、1つ以上のフィルタを使用して、測定された音響信号をフィルタ処理することを含み得る。例えば、フィルタは、伝送された超音波パルスに対する高調波および/または副高調波応答を選択し得る。代替として、フィルタは、伝送された超音波パルスに対する広帯域応答を選択し得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、方法は、微小気泡を標的BBB領域および/または周囲領域の中に導入することをさらに含む。微小気泡は、変換器をアクティブにし、第2のパルスを伝送すること、および/または投与デバイスを使用することによって、導入され得る。一実施形態では、投与デバイスは、シード微小気泡を標的BBB領域および/またはその周囲領域の中に注入し、微小気泡が、シード微小気泡および変換器を使用して発生させられる。
【0018】
種々の実施形態では、標的BBB領域および周囲領域に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値が、少なくとも部分的にその解剖学的特性に基づいて、決定される。一実施形態では、方法は、標的BBB領域および/または周囲領域の画像を取得することをさらに含み、解剖学的特性が、次いで、少なくとも部分的に取得された画像に基づいて、決定される。
【0019】
複数の標的BBB領域が存在し得、方法は、標的BBB領域の各々およびその周囲領域の各々に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値を決定し、記憶することをさらに含み得る。加えて、標的BBB領域に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値は、周囲領域に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値と異なり得る。いくつかの実施形態では、周囲領域は、異なる場所における異なるタイプを有する組織を含み、方法は、周囲領域内の組織の各タイプおよび/または各場所に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および/または組織応答量の閾値を決定することをさらに含む。
【0020】
組織応答量は、標的BBB領域および周囲領域に関連付けられた温度を含み得る。いくつかの実施形態では、組織応答量は、標的BBB領域および/または周囲領域に関連付けられたMRI T2緩和時間を測定することによって取得される。加えて、組織応答量は、標的BBB領域または周囲領域に関連付けられたMRI T2
*撮像および/またはMRI T2
*加重撮像から導出される情報を含み得る。一実施形態では、方法は、音響応答レベル、音響応答量、および/または組織応答量が、対応する閾値を超えるかどうかを決定することと、超える場合、超音波振動を一時停止し、超えない場合、変換器に第2の超音波パルスを伝送させることとをさらに含む。
【0021】
本発明のさらに別の側面は、治療薬を脳腫瘍に適用する方法に関する。種々の実施形態では、方法は、(a)それらの解剖学的特性に基づいて、1つ以上の標的BBB領域および/またはその周囲領域に関連付けられた1つ以上の音響応答レベル、音響応答量、および/または組織応答量の閾値を記憶することと、(b)標的BBB領域を含む病巣に収束する変換器の位相アレイを使用して、1つ以上の超音波パルスを伝送することと、(c)標的BBB領域またはその周囲領域に関連付けられた音響応答レベル、音響応答量、および/または組織応答量を取得することと、(d)測定を対応する記憶された閾値と比較することと、(e)少なくとも部分的に比較に基づいて、変換器アレイを動作させることと、(f)治療薬を標的BBB領域に投与することとを含む。治療薬は、ブスルファン、チオテパ、CCNU(ロムスチン)、BCNU(カルムスチン)、ACNU(ニムスチン)、テモゾロミド、メトトレキサート、トポテカン、シスプラチン、エトポシド、イリノテカン/SN-38、カルボプラチン、ドキソルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、プロカルバジン、パクリタキセル、フォテムスチン、イホスファミド/4-ヒドロキシイフォスファミド/アルドイホスファミド、ベバシズマブ、5-フルオロウラシル、ブレオマイシン、ヒドロキシウレア、ドセタキセル、および/またはシタラビン(シトシンアラビノシド、ara-C)/ara-Uを含み得る。
【0022】
本明細書で使用されるように、用語「実質的に」は、±10秒、いくつかの実施形態では、±5秒を意味する。「臨床上許容可能」は、例えば、そこへの損傷の発症を誘起することに先立って臨床医によって重要ではないと見なされる組織への望ましくない効果を有する(時として、所望の効果を欠いている)ことを意味する。本明細書の全体を通して、「一実施例」、「ある実施例」、「一実施形態」、または「ある実施形態」の言及は、実施例と関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本技術の少なくとも1つの実施例に含まれることを意味する。したがって、本明細書の全体を通した種々の箇所における「一実施例では」、「ある実施例では」、「一実施形態」、または「ある実施形態」という語句の出現は、必ずしも全てが同一の実施例を指すわけではない。その上さらに、特定の特徴、構造、ルーチン、ステップ、または特性は、本技術の1つ以上の実施例において、任意の好適な様式で組み合わせられ得る。本明細書で提供される表題は、便宜のためだけのものであり、請求される技術の範囲または意味を限定または解釈することを意図していない。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
患者の血液脳関門(BBB)を一時的に崩壊させるためのシステムであって、前記システムは、
超音波変換器と、
コントローラと
を備え、
前記コントローラは、
(a)少なくとも1つの標的BBB領域およびその周囲領域に関連付けられた音響応答レベル、累積音響応答量、および組織応答量の閾値のうちの少なくとも1つを記憶することと、
(b)前記変換器に少なくとも1つの超音波パルスを伝送させることと、
(c)前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの少なくとも1つに関連付けられた前記音響応答レベル、前記音響応答量、または前記組織応答量のうちの少なくとも1つを取得することと、
(d)前記測定を対応する記憶された閾値と比較することと、
(e)少なくとも部分的に前記比較に基づいて、前記変換器を動作させることと
を行うように構成されている、システム。
(項目2)
前記コントローラは、
検出デバイスまたは前記変換器のうちの少なくとも1つに前記標的BBB領域および/またはその周囲領域からの音響信号を測定させることと、
少なくとも部分的に前記測定された音響信号に基づいて、前記音響応答レベル、前記音響応答量、および/または前記組織応答量を決定することと
を行うようにさらに構成されている、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記標的BBB領域および/またはその周囲領域から測定された音響信号をフィルタ処理するためのフィルタをさらに備えている、項目2に記載のシステム。
(項目4)
前記フィルタは、前記伝送された超音波パルスに対する高調波応答または副高調波応答のうちの少なくとも1つを選択するように構成されている、項目3に記載のシステム。
(項目5)
前記フィルタは、前記伝送された超音波パルスに対する広帯域応答を選択するように構成されている、項目3に記載のシステム。
(項目6)
前記コントローラは、所定の期間にわたって前記音響応答レベルを積分することによって、前記音響応答量を算出するようにさらに構成されている、項目1に記載のシステム。
(項目7)
前記コントローラは、前記変換器を使用して、前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つにおける微小気泡の発生を引き起こすようにさらに構成されている、項目1に記載のシステム。
(項目8)
微小気泡を前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つの中に導入するための投与デバイスをさらに備えている、項目1に記載のシステム。
(項目9)
シード微小気泡を前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つの中に導入するための投与デバイスをさらに備え、前記コントローラは、前記シード微小気泡および前記変換器を使用して、追加の微小気泡の発生を引き起こすようにさらに構成されている、項目1に記載のシステム。
(項目10)
前記コントローラは、少なくとも部分的にその解剖学的特性に基づいて、前記少なくとも1つの標的BBB領域およびその周囲領域に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値を決定するようにさらに構成されている、項目1に記載のシステム。
(項目11)
複数の標的BBB領域が存在し、前記コントローラは、前記標的BBB領域の各々およびそれらの周囲領域の各々に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値を決定し、記憶するようにさらに構成されている、項目10に記載のシステム。
(項目12)
前記少なくとも1つの標的BBB領域に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の閾値のうちの前記少なくとも1つは、前記周囲領域に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値と異なる、項目10に記載のシステム。
(項目13)
前記周囲領域は、異なる場所における異なるタイプを有する組織を備え、前記コントローラは、前記周囲領域の各場所における各タイプの前記組織に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値を決定するようにさらに構成されている、項目10に記載のシステム。
(項目14)
前記標的BBB領域およびその周囲領域の前記解剖学的特性を取得するための撮像デバイスをさらに備えている、項目10に記載のシステム。
(項目15)
前記撮像デバイスは、前記標的BBB領域および/またはその周囲領域の画像をさらに取得し、前記コントローラは、前記少なくとも部分的に前記取得された画像に基づいて、前記組織応答量を決定するようにさらに構成されている、項目14に記載のシステム。
(項目16)
前記組織応答量は、前記標的BBB領域およびその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられた温度を備えている、項目1に記載のシステム。
(項目17)
前記組織応答量は、前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられたMRI T
2
緩和時間を測定することによって取得される、項目1に記載のシステム。
(項目18)
前記コントローラは、
前記音響応答レベル、前記音響応答量、または前記組織応答量のうちの前記少なくとも1つが前記対応する閾値を超えるかどうかを決定することと、
超える場合、超音波振動を一時停止し、超えない場合、前記変換器に第2の超音波パルスを伝送させることと
を行うようにさらに構成されている、項目1に記載のシステム。
(項目19)
前記組織応答量は、前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられたMRI T
2
*
撮像またはMRI T
2
*
加重撮像のうちの少なくとも1つから導出される情報を備えている、項目1に記載のシステム。
(項目20)
前記コントローラは、前記変換器に関連付けられた伝送電力または超音波振動パターンのうちの少なくとも1つを調整することによって、前記変換器を動作させるようにさらに構成されている、項目1に記載のシステム。
(項目21)
変換器から超音波振動を印加し、患者の血液脳関門(BBB)を一時的に崩壊させる方法であって、前記方法は、
(a)少なくとも1つの標的BBB領域およびその周囲領域の解剖学的特性に基づいて、それらの音響応答レベルの閾値、音響応答量、および組織応答量のうちの少なくとも1つを記憶することと、
(b)前記変換器に少なくとも1つの超音波パルスを伝送させることと、
(c)前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの少なくとも1つに関連付けられた前記音響応答レベル、前記音響応答量、または前記組織応答量のうちの少なくとも1つを取得することと、
(d)前記測定を対応する記憶された閾値と比較することと、
(e)少なくとも部分的に前記比較に基づいて、前記変換器を動作させることと
を含む、方法。
(項目22)
前記標的BBB領域および/またはその周囲領域からの音響信号を測定することと、
少なくとも部分的に前記測定された音響信号に基づいて、前記音響応答レベル、前記音響応答量、および/または前記組織応答量を決定することと
をさらに含む、項目21に記載の方法。
(項目23)
少なくとも1つのフィルタを使用して、前記測定された音響信号をフィルタ処理することをさらに含む、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記フィルタは、前記伝送された超音波パルスに対する高調波応答または副高調波応答のうちの少なくとも1つを選択する、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記フィルタは、前記伝送された超音波パルスに対する広帯域応答を選択する、項目23に記載の方法。
(項目26)
前記音響応答量は、所定の期間にわたる前記音響応答レベルの積分を備えている、項目21に記載の方法。
(項目27)
微小気泡を前記標的BBB領域およびその周囲領域のうちの少なくとも1つの中に導入することをさらに含む、項目21に記載の方法。
(項目28)
前記微小気泡は、前記変換器をアクティブにし、第2のパルスを伝送することによって導入される、項目21に記載の方法。
(項目29)
前記微小気泡は、投与デバイスを使用して導入される、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記投与デバイスは、シード微小気泡を前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つの中に注入し、前記微小気泡は、前記シード微小気泡および前記変換器を使用して発生させられる、項目29に記載の方法。
(項目31)
前記少なくとも1つの標的BBB領域およびその周囲領域に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値のうちの前記少なくとも1つは、少なくとも部分的に前記少なくとも1つの標的BBB領域およびその周囲領域の解剖学的特性に基づいて決定される、項目21に記載の方法。
(項目32)
複数の標的BBB領域が存在し、前記方法は、前記標的BBB領域の各々およびその周囲領域の各々に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値を決定し、記憶することをさらに含む、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記少なくとも1つの標的BBB領域に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値は、前記周囲領域に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値と異なる、項目31に記載の方法。
(項目34)
前記周囲領域は、異なる場所における異なるタイプを有する組織を備え、前記方法は、前記周囲領域における前記組織の各タイプおよび/または各場所に関連付けられた前記音響応答レベル、前記累積音響応答量、および前記組織応答量の前記閾値を決定することをさらに含む、項目31に記載の方法。
(項目35)
前記少なくとも標的BBB領域およびその周囲領域の画像を取得することをさらに含み、前記解剖学的特性は、少なくとも部分的に前記取得された画像に基づいて決定される、項目31に記載の方法。
(項目36)
前記組織応答量は、前記標的BBB領域およびその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられた温度を備えている、項目21に記載の方法。
(項目37)
前記組織応答量は、前記標的BBB領域およびその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられたMRI T
2
緩和時間を測定することによって取得される、項目21に記載の方法。
(項目38)
前記音響応答レベル、前記音響応答量、または前記組織応答量のうちの前記少なくとも1つが前記対応する閾値を超えるかどうかを決定することと、
超える場合、前記超音波振動を一時停止し、超えない場合、前記変換器に第2の超音波パルスを伝送させることと
をさらに含む、項目21に記載の方法。
(項目39)
前記組織応答量は、前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの前記少なくとも1つに関連付けられたMRI T
2
*
撮像またはMRI T
2
*
加重撮像のうちの少なくとも1つから導出される情報を備えている、項目21に記載の方法。
(項目40)
前記変換器を動作させることは、前記変換器に関連付けられた伝送電力またはパルスパターンのうちの少なくとも1つを調節することを含む、項目21に記載の方法。
(項目41)
治療薬を脳腫瘍に適用する方法であって、前記方法は、
(a)少なくとも1つの標的BBB領域およびその周囲領域の解剖学的特性に基づいて、それらに関連付けられた音響応答レベル、音響応答量、および組織応答量の閾値のうちの少なくとも1つを記憶することと、
(b)変換器の位相アレイを使用して、前記標的BBB領域を含む病巣に収束する少なくとも1つの超音波パルスを伝送することと、
(c)前記標的BBB領域またはその周囲領域のうちの少なくとも1つに関連付けられた前記音響応答レベル、前記音響応答量、または前記組織応答量のうちの少なくとも1つを取得することと、
(d)前記測定を対応する記憶された閾値と比較することと、
(e)少なくとも部分的に前記比較に基づいて、前記変換器アレイを動作させることと、
(f)前記治療薬を前記標的BBB領域に投与することと
を含む、方法。
(項目42)
前記治療薬は、ブスルファン、チオテパ、CCNU(ロムスチン)、BCNU(カルムスチン)、ACNU(ニムスチン)、テモゾロミド、メトトレキサート、トポテカン、シスプラチン、エトポシド、イリノテカン/SN-38、カルボプラチン、ドキソルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、プロカルバジン、パクリタキセル、フォテムスチン、イホスファミド/4-ヒドロキシイフォスファミド/アルドイホスファミド、ベバシズマブ、5-フルオロウラシル、ブレオマイシン、ヒドロキシウレア、ドセタキセル、またはシタラビン(シトシンアラビノシド、ara-C)/ara-Uのうちの少なくとも1つを備えている、項目41に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0023】
前述は、図面と併せて、以下の発明を実施するための形態からより容易に理解されるであろう。
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の種々の実施形態による、例示的超音波システムを図式的に描写する。
【0025】
【
図2-1】
図2Aは、種々の実施形態による、標的組織領域内の微小気泡の存在を描写する。
【0026】
【
図2-2】
図2B-2Dは、種々の実施形態による、キャビテーション検出アプローチを実施する変換器要素の種々の構成を描写する。
【
図2-3】
図2B-2Dは、種々の実施形態による、キャビテーション検出アプローチを実施する変換器要素の種々の構成を描写する。
【0027】
【
図3-1】
図3Aおよび3Bは、種々の実施形態による、検出された音響応答レベルの振幅と微小気泡キャビテーションの大きさとの間の種々の関係を描写する。
【0028】
【
図3-2】
図3Cは、種々の実施形態による、一時的音響応答レベルと累積音響応答量との間の例示的関係を描写する。
【0029】
【
図4-1】
図4A-4Cは、種々の実施形態による、超音波手技の間の超音波パルスの振幅変動を図示する。
【0030】
【
図4-2】
図4D-4Fは、種々の実施形態による、超音波手技の間に印加される種々の超音波振動パターンを図示する。
【0031】
【
図5A】
図5Aは、種々の実施形態による、組織応答量と検出された音響応答レベルとの間の関係を描写する。
【0032】
【
図5B】
図5Bは、種々の実施形態による、組織応答量と微小気泡キャビテーションによって崩壊させられる標的/非標的領域のサイズとの間の関係を描写する。
【0033】
【
図6】
図6は、本発明のいくつかの実施形態による、超音波振動および微小気泡を使用して、患者のBBBを一時的に崩壊させるアプローチを図示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、頭蓋骨を通して超音波を患者の脳(例えば、標的BBB領域)内に集束させるための例示的超音波システム100を図示する。印加される超音波振動は、制御および可逆的様式で微小気泡キャビテーションを誘発し、標的BBB領域を崩壊させ得る。種々の実施形態では、システム100は、変換器要素104の位相アレイ102と、位相アレイ102を駆動するビーム形成器106と、ビーム形成器106と通信するコントローラ108と、入力電子信号をビーム形成器106に提供する周波数発生器110とを含む。種々の実施形態では、システムは、頭蓋骨、標的BBB領域、およびBBB領域を包囲する組織の解剖学的特性を決定するために、磁気共鳴画像診断(MRI)デバイス、コンピュータ断層撮影(CT)デバイス、陽電子放射断層撮影(PET)デバイス、単一光子放射断層撮影(SPECT)デバイス、または超音波検査デバイス等の撮像機112をさらに含む。超音波システム100および/または撮像機112は、下でさらに説明されるように、微小気泡キャビテーションに関連付けられた存在、タイプ、および/または場所を検出するために利用され得る。加えて、または代替として、いくつかの実施形態では、システムは、微小気泡キャビテーションに関連付けられた情報を検出するためのキャビテーション検出デバイス(ハイドロフォンまたは好適な代替等)114をさらに含む。
【0035】
アレイ102は、それを頭蓋骨の表面上に設置するために好適な湾曲(例えば、球状または放物線)形状を有し得るか、または、1つ以上の平面または成形された区分を含み得る。その寸法は、数ミリメートル~数十センチメートルで変動し得る。アレイ102の変換器要素104は、圧電セラミック要素であり得、シリコーンゴムまたは要素104間の機械的結合を減衰させるために好適な任意の他の材料内に搭載され得る。圧電複合材料、すなわち、概して、電気エネルギーを音響エネルギーに変換することが可能な任意の材料も、使用され得る。変換器要素104への最大電力伝達を保証するために、要素104は、入力コネクタインピーダンスに合致する50Ωにおける電気共鳴のために構成され得る。
【0036】
変換器アレイ102は、ビーム形成器106に結合され、ビーム形成器106は、個々の変換器要素104が、集束超音波ビームまたは場を集合的に生産するように、それらを駆動する。n個の変換器要素に関して、ビーム形成器106は、n個の駆動回路を含み得、各々は、増幅器118と、位相遅延回路120とを含むか、またはそれらから成り、各駆動回路は、変換器要素104のうちの1つを駆動する。ビーム形成器106は、典型的には、0.1MHz~1.0MHzの範囲内の無線周波数(RF)入力信号を周波数発生器110から受信し、周波数発生器110は、例えば、Stanford Research Systemsから利用可能なモデルDS345発生器であり得る。入力信号は、ビーム形成器106のn個の増幅器118および遅延回路120のためのn個のチャネルに分割され得る。いくつかの実施形態では、周波数発生器110は、ビーム形成器106と統合される。無線周波数発生器110およびビーム形成器106は、同一周波数であるが、異なる位相および/または異なる振幅で変換器アレイ102の個々の変換器要素104を、駆動するように構成される。
【0037】
ビーム形成器106によって課される増幅または減衰係数α1-αnおよび位相シフトa1-anは、患者の頭蓋骨を通して超音波エネルギーを患者のBBBの選択された領域122上に伝送し、集束させ、頭蓋骨および軟質脳組織内で誘発される波形の歪を考慮する役割を果たす。増幅係数および位相シフトは、コントローラ108を使用して算出され、コントローラ108は、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、結線接続、または任意のそれらの組み合わせを通して、算出機能を提供し得る。例えば、コントローラ108は、所望の集束または任意の他の所望の空間場パターンを取得するために必要な位相シフトおよび増幅係数を決定するために、従来の様式で、過度の実験を伴わずに、ソフトウェアでプログラムされる汎用または特殊目的デジタルデータプロセッサを利用し得る。ある実施形態では、算出は、変換器要素と選択された領域122との間に位置する介在組織(例えば、頭蓋骨および/または脳組織)の特性(例えば、構造、厚さ、密度等)および音響エネルギーの伝搬へのそれらの効果についての詳細な情報に基づく。そのような情報は、撮像機112から取得され得る。画像入手は、3次元であり得るか、または代替として、撮像機112は、頭蓋骨の3次元画像を再構成するために好適な2次元画像の組を提供し得、それらから、厚さおよび密度は、推測されることができる。画像操作機能性が、撮像機112、コントローラ108、または別個のデバイス内に実装され得る。
【0038】
図2Aを参照すると、種々の実施形態では、変換器要素104によって放出される音響エネルギーは、閾値を上回り、それによって、小気泡群(または「微小気泡」)202の発生を標的BBB領域204内に含まれる液体中に引き起こし得る。微小気泡202は、加熱された液体が、破裂し、ガス/蒸気で充填されるとき、または軽度の音響場が、キャビテーション核を含む組織上に印加されるとき、伝搬する超音波またはパルスによって生産される負圧に起因して、形成されることができる。しかしながら、概して、比較的に低音響電力(例えば、微小気泡発生閾値を1~2ワット上回る)では、発生させられた微小気泡202は、大きさが等しい圧縮と希薄化とに伴う振動を受け、したがって、微小気泡は、概して、破裂しないままである。より高い音響電力(例えば、微小気泡発生閾値を10ワット上回る)では、発生させられた微小気泡202は、圧縮を上回る希薄化を受け、それは、微小気泡のキャビテーションを引き起こし得る。微小気泡キャビテーションは、得る標的BBB領域204の一過性の崩壊(または「開放」)をもたらし、それによって、血流内に存在する療法薬または予防薬が、「開放された」BBB領域204に浸透し、療法を標的脳細胞に効果的に送達することを可能にする。
【0039】
再び
図1を参照すると、いくつかの実施形態では、微小気泡が、患者の血流の中に導入され、投与システム124を使用して、患者の脳の中に全身的に、または標的BBB領域204の中に局所的に注入され得る。例えば、微小気泡は、液体液滴の形態で患者の脳の中に導入され得、それは、続いて、ガス充填泡として蒸発するか、または、従来の超音波造影剤等の別の好適な物質と同伴される。注入された微小気泡は、それ自体が追加の微小気泡を生成するか、または生成を促進し得る。したがって、組織への実際の効果は、注入された微小気泡と組織内で加えて生成された微小気泡との組み合わせから生じ得る。微小気泡を発生させるアプローチ、および/または微小気泡を標的領域に導入するためのアプローチは、例えば、米国特許出願第62/366,200号、第62/597,071号、第15/708,214号、第15/837,392号、および第62/597,073号(その内容は、参照することによって本明細書に組み込まれる)に提供される。
【0040】
微小気泡キャビテーションから生じる標的BBB領域204および/またはその周囲組織206の望ましくない損傷を回避するために、種々の実施形態では、標的BBB領域204内で誘発される微小気泡202の形成および/または量は、キャビテーション検出デバイス114を使用して、標的BBB領域204から発出する音響信号を検出することによって監視され、キャビテーション検出デバイス114は、次いで、信号をコントローラ108に伝送する。代替として、変換器要素104は、伝送および検出能力の両方を保有し得る。
図2Bを参照すると、一実施形態では、各個々の変換器要素104は、超音波信号を微小気泡に伝送することと、超音波信号をそれらから受信することとの間で交互する。例えば、全ての変換器要素104は、実質的に同時に、超音波を微小気泡202に伝送し、続いて、エコー信号をそれらから受信し得る。
図2Cを参照すると、一実装では、変換器アレイは、複数のサブ領域212に分割される。すなわち、各サブ領域212は、変換器要素104の1または2次元アレイ(すなわち、行または行列)を備えている。サブ領域212は、別個に制御可能であり得、すなわち、それらの各々は、(i)超音波/パルスを他のサブ領域212の振幅および/または位相から独立した振幅、周波数、および/または位相で放出し、(ii)微小気泡202からの音響信号を測定することが可能である。一実施形態では、サブ領域212は、互いに異なる振幅、周波数、および/または位相を割り当てられ、一度に1つずつアクティブにされ、超音波を伝送しエコー信号を微小気泡202から受信する。
図2Dを参照すると、別の実施形態では、変換器アレイは、伝送領域214と、受信領域216とに分割される。すなわち、伝送領域214内の変換器要素は、超音波/パルスを伝送する一方、受信領域216内の変換器要素は、エコー信号を微小気泡202から受信する。受信される信号は、次いで、分析のために、コントローラ108に伝送される。変換器アレイの伝送領域214および受信領域216は、変換器アレイの種々の場所において、異なるパターンおよび形状で構成され得る。
【0041】
微小気泡音響信号は、微小気泡202の形状変化から生じる放出、および/または、ガスを封入する微小気泡から生じる反射であり得る。音響信号は、(i)瞬間音響応答レベルおよび/または、(ii)音響応答のスペクトル分布を含み得る。音響応答レベルは、線形または非線形のいずれかにおいてであるが、既知の様式において、音響的に駆動されるキャビテーションの大きさに対応する。例えば、
図3Aを参照すると、検出された音響応答レベルの振幅は、その範囲全体を通して、微小気泡キャビテーションの大きさと線形に相関し得る。代替として、
図3Bを参照すると、線形相関は、微小気泡キャビテーションの大きさが閾値キャビテーションC
thを下回るときのみ生じ得る。キャビテーションの大きさが、閾値、C
thを超えると、キャビテーションのわずかな増加も、音響信号の応答レベルの大規模な増加をもたらし得る。
【0042】
音響応答レベルの振幅と微小気泡キャビテーションの大きさとの間の関係は、臨床前研究、治療前手技、および/または公知の文献から、実験的に確立され得る。例えば、臨床前研究において、撮像機112が、微小気泡キャビテーション事象に関連付けられた量および/または面積を直接的に撮像し得、それに基づいて、微小気泡キャビテーションの大きさが、定量化され得る。実質的に同時に、微小気泡キャビテーションからの音響信号は、キャビテーション検出デバイス114および/または変換器アレイ102によって検出され、続いて、コントローラ108によって分析され、それらに関連付けられた振幅を取得することができる。微小気泡キャビテーションの定量化された大きさと音響応答レベルの振幅との間の関係が、次いで、確立されることができる。
【0043】
加えて、音響信号は、微小気泡キャビテーションのタイプおよび/または場所を示す音響応答のスペクトル分布を含み得る。これは、各場所におけるキャビテーションの各タイプが、微小気泡の固有の非線形応答を表すそれ自身のスペクトル「シグネチャ」を有し得るからである。例えば、微小気泡の音響応答は、比較的に低音響電力(例えば、微小気泡発生閾値を1~2ワット上回る)では、線形であり得る。すなわち、検出された信号のスペクトル分布は、したがって、入射超音波(すなわち、基本周波数または基本高調波周波数)のそれと同一である、またはその高調波である周波数を含み得る。安定キャビテーションが、中間音響電力(例えば、微小気泡発生閾値を5ワット上回る)において誘発される場合、検出された信号のスペクトル分布は、強副高調波応答(すなわち、副高調波周波数においてより多くの成分を有する、および/または副高調波周波数のより大きい振幅を有する)を含み得る。同様に、慣性キャビテーションが、高音響電力(例えば、微小気泡発生閾値を10ワット上回る)において誘発される場合、検出された信号は、広帯域応答を含み得る。したがって、微小気泡から放出される音響信号を検出および分析することによって、超音波手技中に組織内で誘発されるキャビテーションの存在、タイプ、および/または場所が、決定されることができる。微小気泡からの信号を使用してキャビテーション事象を監視するアプローチは、例えば、米国特許出願第15/415,351号(その内容は、参照することによって本明細書に組み込まれる)に提供される。
【0044】
種々の実施形態では、音響応答の検出されたスペクトル分布は、ハードウェアおよび/またはソフトウェア内に実装される1つ以上の好適なフィルタによってフィルタ処理される。例えば、フィルタは、各々がスペクトルシグネチャの周波数成分(例えば、基本高調波周波数または副高調波周波数)に関連付けられた複数の帯域通過フィルタおよび/または窓関数を含み得る。一実施形態では、フィルタは、信号のベースバンド応答が処理されることを可能にするベースバンドフィルタを含む。フィルタは、したがって、有利には、検出された信号の分解能および/または信号対雑音比を改良し、それによって、微小気泡キャビテーションの存在、タイプ、および/または場所が、確実かつ正確に決定されることを可能にする。好適なフィルタは、信号処理(特に、デジタル信号処理)の当技術分野において周知であり、過度の実験を伴わずに、容易に実装される。
【0045】
代替として、または加えて、微小気泡キャビテーションは、超音波振動全体または複数の連続した超音波振動パルスにわたって、微小気泡を介して送達される累積キャビテーション関連音響エネルギーに線形または非線形のいずれかにおいて対応する累積音響応答量値を使用して監視され得る。これは、組織許容量が、瞬間応答レベルおよび累積応答量の両方の関数であり得るからである。例えば、瞬間応答レベルが、その対応する所定の閾値を下回る場合でも、累積応答量は、その所定の閾値を超え得る。すなわち、それは、標的BBB領域またはその周囲組織への恒久的効果または損傷をもたらし得る。逆に言えば、累積応答量が、その所定の閾値を下回る場合でも、閾値を上回るバースト瞬間応答レベルは、臨床上容認可能でないこともある。故に、好ましい実施形態では、瞬間応答レベルと累積応答量との両方が、超音波手技中、監視される。
【0046】
いくつかの実施形態では、累積音響応答量は、瞬間音響応答レベルを利用して定義される。例えば、
図3Cを参照すると、累積音響応答量は、所定の期間Δtにわたる音響応答レベルの積分であり得る。すなわち、所定の期間は、超音波振動手技全体または1つ以上の連続した超音波振動パルスにわたり得る。故に、超音波手技中に受信される音響信号に基づいて、コントローラ108は、任意の所望の期間の間の音響応答量を算出し得る。
【0047】
加えて、検出された音響応答レベルおよび/または算出された音響応答量は、メモリ内のデータベースに記憶されたその関連付けられた所定の閾値と比較され得る。すなわち、閾値は、臨床上容認され得る微小気泡キャビテーションの大きさおよび/または量の上限を表す。音響応答レベルおよび/または音響応答量が、所定の閾値またはそれを上回る場合、超音波手技は、一時停止され、さらなる微小気泡キャビテーションを誘発することを回避し、それによって、標的および/または非標的組織領域への損傷を回避し得る。しかしながら、音響応答レベルおよび/または音響応答量が、対応する所定の閾値を下回る場合、超音波変換器要素104は、追加のキャビテーションを誘発し、標的BBB領域を崩壊させるように、追加の音響エネルギーを微小気泡に送達し得る。例えば、
図4A-4Cを参照すると、変換器要素104は、アクティブにされ、1つ以上の追加のパルス402を微小気泡に伝送し得る。すなわち、追加のパルス402の振幅は、前のパルス404のものと同一であることも、異なることもある。代替として、または加えて、追加のパルス402の超音波振動パターン(例えば、周波数、集束形状、および/または時間に伴って変動する超音波振動プロファイル)は、前のパルス404のそれと同一であることも、異なることもある。例えば、追加のパルス402内の要素のアクティブ化時間のデューティサイクルは、
図4D-4Fに描写されるように、前のパルス404におけるそれと同一であることも、それより小さいことも、またはそれより大きいこともある。概して、デューティサイクルは、微小気泡に送達されるエネルギーレベルと正に相関し、すなわち、より高いデューティサイクルは、電力が時間の大部分にわたってオンであるので、より大きいエネルギーに対応する。
【0048】
いくつかの実施形態では、音響応答レベルおよび/または音響応答量が、対応する所定の閾値を下回る場合、追加の微小気泡が、さらなる微小気泡キャビテーションを誘発するために、発生させられ、および/または、標的BBB領域の中に導入され得る。これは、変換器アレイ102をアクティブにし、さらなる音響エネルギーを標的BBB領域に送達し、および/または、投与システム124をアクティブにし、追加の微小気泡を標的BBB領域の中に注入することによって、達成されることができる。いくつかの実施形態では、投与デバイス124は、最初に、シード微小気泡を標的BBB領域の中に注入する。すなわち、変換器アレイ102は、次いで、音響エネルギーをシード微小気泡に伝送し、さらなる微小気泡を発生させる。
【0049】
音響応答レベルおよび累積音響応答量の閾値は、標的BBB領域および/またはその周囲領域の組織タイプ、性質、および/または他の解剖学的特性に基づいて決定され得る。すなわち、標的BBB領域および/またはその周囲領域は、異なるタイプの組織を含み、および/または、異なる組織性質(例えば、密度、熱エネルギーの許容量、熱吸収係数等)を有し、それによって、超音波パルスおよび/または微小気泡キャビテーションに異なって応答し得る。その結果、音響応答レベルおよび音響応答量の閾値は、異なる場所における異なるタイプの組織に対して異なり得る。加えて、音響応答レベルおよび累積音響応答量の閾値は、超音波治療プロトコル、超音波振動パターン(例えば、周波数、デューティサイクル、集束形状、および/または時間に伴って変動する超音波振動プロファイル)、および/または現在または前の治療中の音響および/または組織応答の履歴に関連付けられた他のパラメータに依存し得る。例えば、より低い閾値は、より高いデューティサイクルを有する超音波パルスのために使用され得る。これは、標的/非標的組織が、連続したパルス間で和らぐためにより少ない時間を有し得るからである。いくつかの実施形態では、より大きい閾値は、治療の開始時に許容可能であるが、より小さい閾値が、例えば、治療中の主な療法事象の発生後には好ましい。
【0050】
種々の実施形態では、変換器要素104の動作(アクティブ化、非アクティブ化、または超音波振動パターンの調節等)および/または投与システム124の動作は、組織応答量に基づいて決定される。組織応答量は、各領域内の組織のタイプ、性質、および/または他の解剖学的特性に基づいて、各罹患標的/非標的領域のための最大臨床上許容可能温度に基づき得る。したがって、異なる場所における異なる性質を有する種々のタイプの組織は、異なる組織応答量を有し得る。組織応答量は、治療に先立って、および/またはその間、任意の好適なアプローチを使用して取得され得る。例えば、
図5Aを参照すると、組織応答量は、音響応答レベルおよび/または累積音響応答量と経験的に互いに関係付けられ得る。故に、組織応答量は、上で説明されるように検出/算出された音響応答レベルおよび/または累積音響応答量に基づいて取得され得る。
【0051】
加えて、または代替として、組織応答量は、撮像機(例えば、MRIデバイス)112を使用して決定され得る。例えば、MRIデバイス112は、微小気泡キャビテーションから生じる標的BBB領域204および/またはその周囲領域206の崩壊させられる面積をリアルタイムで測定し得る。崩壊させられる面積のサイズは、
図5Bに示されるように、組織応答量と相関し得る。種々の実施形態では、標的BBB領域および/またはその周囲領域における温度は、その組織応答量を表す。標的BBB領域204およびその周囲領域206内のMRI T
2緩和時間の温度依存性は、超音波手技に先立って決定され得る。超音波手技中、MRI T
2緩和時間は、標的BBB領域204および/またはその周囲領域206の温度をリアルタイムで推定するために、迅速(1ミリ秒~1秒以内)に測定されることができる。このアプローチは、有利には、リアルタイム温度フィードバックを超音波コントローラ108に提供し、超音波コントローラ108は、適宜、超音波伝送を調節し得る。例えば、測定された温度が、所定の最大温度を下回る場合、超音波手技は、例えば、追加のパルスを伝送すること、振幅を増加させること、および/またはパルスのデューティサイクルを増加させることによって、さらなる微小気泡キャビテーションを誘発し、標的BBB領域204を崩壊させ続け得る。しかしながら、測定された温度が、最大温度を上回る場合、超音波手技は、中止され、組織を恒久的に損傷させることを回避し得る。他のMRI信号が、加えて、または代替として、標的BBB領域204および/またはその周囲領域206の組織応答を推定するために使用され得ることに留意されたい。例えば、MRI T
2
*加重撮像は、有利には、脳内の血液の溢血(レベル)を検出し得る。加えて、プロトン共鳴周波数(PRF)、拡散係数(D)、T
1およびT
2緩和時間、磁化移動、および/またはプロトン密度等の温度感受性MRパラメータ、ならびに温度感受性造影剤が、単独で、または組み合わせて、組織応答を推定するために利用され得る。
【0052】
図6は、制御および可逆的様式で患者のBBBを一時的に崩壊させるために、超音波振動を使用して微小気泡キャビテーションを誘発するための代表的アプローチ600を図示する。第1のステップ602では、患者のBBBおよびその周囲組織の種々の領域の解剖学的特性を取得するために、撮像機(例えば、MRIデバイス)が、超音波振動を印加することに先立って、利用される。第2のステップ604では、標的BBB領域および/またはその周囲領域のそれぞれ1つにおける微小気泡に関連付けられた音響応答レベルおよび累積音響応答量の閾値と、標的BBB領域および/またはその周囲領域に関連付けられた閾値組織応答量とが、上で説明されるように、MRIデータから抽出される組織の解剖学的特性に基づいて決定され得る。異なる場所における異なるタイプの標的/非標的組織は、異なる閾値を有し得る。音響応答レベルおよび累積音響応答量の閾値ならびに閾値組織応答量が、次いで、コントローラ108によってアクセスされ得るメモリ内のデータベースに記憶され得る。第3のステップ606では、微小気泡が、超音波パルスの印加によって発生させられ、および/または、投与システムによって、標的BBB領域の近傍に導入される。第4のステップ608では、超音波変換器アレイが、微小気泡キャビテーションを標的BBB領域の近傍で誘発するように、アクティブにされ、波またはパルスを印加し得る。第5のステップ610では、微小気泡からの音響信号が、持続的に測定され(例えば、各超音波振動の送達後)、音響応答レベルおよび/または累積音響応答量の所定の閾値と比較され得る。検出された音響信号の振幅が、閾値を上回る場合、微小気泡キャビテーションの大きさおよび/または量は、安全(すなわち、臨床上許容可能)レベルを超え得る。したがって、超音波手技は、検出された音響信号振幅が閾値を下回るまで、または最大許容可能用量の印加に続く回復間隔後まで、一時停止され得る(第6のステップ612において)。
【0053】
音響応答レベルおよび/または累積音響応答量が、それぞれの閾値を下回る場合、さらなる微小気泡が、発生させられ、および/または導入され、キャビテーション事象を増加させ、標的BBB領域の崩壊を継続し得る(第7のステップ614において)。加えて、または代替として、超音波変換器は、アクティブにされ、前に印加された波/パルスと同一または異なる振幅および超音波振動パターンを用いて、次の波/パルスを送達し得る(第8のステップ616において)。加えて、超音波手技中、撮像機(例えば、MRIデバイス)が、標的BBB領域および/またはその周囲領域の温度をリアルタイムで測定し得る(第9のステップ618において)。例えば、リアルタイム温度は、MRI T2緩和時間を測定することによって取得され得る。再び、測定された温度が、組織応答量の所定の閾値を下回る場合、追加の微小気泡が、発生および/または導入され得る(ステップ614)、および/または超音波手技は、継続し得る(ステップ616)。しかしながら、測定された温度が、閾値を上回る場合、超音波手技は、中止され、標的BBB領域および/またはその周囲領域への恒久的損傷をもたらし得る、過熱を回避する(ステップ612)。一実施形態では、データベースは、代替として、または加えて、PRF、拡散係数(D)、T1緩和時間、磁化移動、プロトン密度等の他の温度感受性MRパラメータ、ならびに温度感受性造影剤に関連付けられたパラメータに関連付けられた閾値を記憶し得る。撮像機は、次いで、超音波手技中、これらのパラメータを測定し得る。測定された値は、次いで、記憶された閾値に対して比較され得、それに基づいて、コントローラ108は、上で説明されるように、変換器アレイ102および/または管理システムを動作させ得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、MRIデバイス、超音波手技中、標的BBB領域および/またはその周囲領域の解剖学的画像も取得する(第10のステップ620において)。標的BBB領域および/またはその周囲領域の望ましくない変化が、観察される場合、超音波手技は、直ちに停止され得る。望ましくない変化は、例えば、崩壊させられるBBB面積のサイズが所望の面積より大きいおよび/または非標的周囲領域の一部が崩壊させられていることを含み得る。本発明の実施形態は、したがって、超音波手技中、キャビテーション検出デバイス(または超音波変換器アレイ)と、撮像デバイスとを採用し、微小気泡の形成/発生、キャビテーション事象、および組織応答をリアルタイムで監視する。監視される応答に基づいて、標的BBB領域の崩壊は、次いで、標的BBB領域および/またはその周囲領域を恒久的に損傷させずに、制御された様式で促進され得る。
【0055】
その後、治療薬が、血流から、開放されたBBB領域を介して、標的脳細胞に浸透し得る。治療薬は、脳腫瘍を治療するために好適な任意の薬物を含み得る。例えば、膠芽腫(GBM)を治療するために、薬物は、例えば、ブスルファン、チオテパ、CCNU(ロムスチン)、BCNU(カルムスチン)、ACNU(ニムスチン)、テモゾロミド、メトトレキサート、トポテカン、シスプラチン、エトポシド、イリノテカン/SN-38、カルボプラチン、ドキソルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、プロカルバジン、パクリタキセル、フォテムスチン、イホスファミド/4-ヒドロキシイフォスファミド/アルドイホスファミド、ベバシズマブ、5-フルオロウラシル、ブレオマイシン、ヒドロキシウレア、ドセタキセル、シタラビン(シトシンアラビノシド、ara-C)/ara-U等のうちの1つ以上のものを含むか、またはそれらから成り得る。
【0056】
当業者は、患者安全性制約内でBBBを横断して薬物吸収を向上させるために最適化された薬物およびBBB開放方式を選択することができる。この点において、BBBは、実際には、多くの腫瘍のコア内ですでに崩壊させられており、抗腫瘍薬物の部分的浸透を可能にすることが知られている。しかし、BBBは、侵襲性/逃散GBM細胞が見出され得る、「腫瘍に隣接する脳」(BAT)領域の周囲で広く無傷であり、それは、腫瘍再発を引き起こす。腫瘍コアおよびBAT内のより良好な薬物送達のために、BBBを克服することは、本明細書に説明されるように、超音波を使用して遂行されることができる。採用される薬物は、種々の毒性度およびBBBを通した種々の浸透パーセンテージを有する。理想的薬物は、腫瘍に対して高細胞毒性および無BBB浸透性(その吸収および細胞毒性効果が、BBBが崩壊させられる領域に閉じ込められ得るように)、低神経毒性(神経系への損傷を回避するため)、ならびに事前に規定された用量における許容可能全身毒性(例えば、閾値を下回る)を有する。薬物は、静脈内から、またはある場合、腫瘍領域に近接した注射によって、投与され得る。
【0057】
上で説明されるように、制御および可逆的様式で標的BBB領域の崩壊を実施するための機能性は、超音波システム100のコントローラ108、撮像機122、および/または投与システム124内に統合されるか、または別個の外部コントローラによって提供されるかどうかにかかわらず、ハードウェア、ソフトウェア、または両方の組み合わせにおいて実装される1つ以上のモジュール内で構造化され得る。加えて、撮像機122および/または投与システム124は、コントローラ108または他の別個のプロセッサによって制御され得る。機能が1つ以上のソフトウェアプログラムとして提供される実施形態に対して、プログラムは、PYTHON、FORTRAN、PASCAL、JAVA(登録商標)、C、C++、C#、BASIC、種々のスクリプト言語、および/またはHTML等のいくつかの高レベル言語のうちのいずれかで書かれ得る。加えて、ソフトウェアは、標的コンピュータ上に常駐するマイクロプロセッサにダイレクトされるアセンブリ言語で実装されることができる。例えば、ソフトウェアは、IBM PCまたはPCクローン上で起動するように構成される場合、Intel 80x86アセンブリ言語で実装され得る。ソフトウェアは、限定ではないが、フロッピー(登録商標)ディスク、ジャンプドライブ、ハードディスク、光ディスク、磁気テープ、PROM、EPROM、EEPROM、フィールドプログラマブルゲートアレイ、またはCD-ROMを含む、製造品上で具現化され得る。ハードウェア回路を使用する実施形態は、例えば、1つ以上のFPGA、CPLD、もしくはASICプロセッサを使用して実装され得る。
【0058】
本明細書で採用される用語および表現は、限定ではなく、説明の用語および表現として使用され、そのような用語および表現の使用において、図示および説明される特徴またはその一部の任意の均等物を除外する意図はない。加えて、本発明のある実施形態を説明したので、本明細書に開示される概念を組み込む他の実施形態が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく使用され得ることが、当業者に明白であろう。故に、説明される実施形態は、あらゆる点において、制限ではなく、例証のみと見なされるべきである。