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  • 特許-硫化水素ガス脱硫装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】硫化水素ガス脱硫装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/52 20060101AFI20220726BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20220726BHJP
   B09B 1/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
B01D53/52 ZAB
B01D53/82
B09B1/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020137871
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034194
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】520312924
【氏名又は名称】公益財団法人滋賀県環境事業公社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【弁理士】
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【識別番号】100175385
【氏名又は名称】葛西 さやか
(72)【発明者】
【氏名】木村 光一
(72)【発明者】
【氏名】内藤 幹滋
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-224781(JP,A)
【文献】特開2008-055258(JP,A)
【文献】特開2000-237531(JP,A)
【文献】特開2003-236329(JP,A)
【文献】国際公開第2010/020023(WO,A1)
【文献】特開2015-077548(JP,A)
【文献】特開2016-172250(JP,A)
【文献】特開2017-170350(JP,A)
【文献】特開2013-132577(JP,A)
【文献】特開2006-289231(JP,A)
【文献】実開昭57-199032(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34- 53/73
B01D 53/74- 53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋め立てられた廃棄物から発生する発生ガスを地表まで誘引するガス抜き管に付設される脱硫装置であって、
硫化水素に対し耐腐食性を有する材質から成り、前記発生ガスが大気中へ放散されないように処置された前記ガス抜き管に一端が接続され、水平方向に延びる横引き管と、
硫化水素に対し耐腐食性を有する材質から成り、鉛直方向に延び、少なくとも上方が開口し、中間部に前記横引き管の他端が接続される気液分離管と、
前記気液分離管の上方に配置される脱硫器とを備え、
前記脱硫器は、硫化水素に対する耐腐食性及び耐熱性を有する材質から成り鉛直方向の上下両端が開口する筒状の容器と、この容器内に収納され前記発生ガスから硫化水素を除去する脱硫剤とを含み、前記容器の下端側の開口部が前記気液分離管の上端側の開口部に臨むように配置され、
前記横引き管、前記気液分離管、及び、前記脱硫器における少なくとも下方側の一部が覆土されている、脱硫装置。
【請求項2】
前記脱硫器は、前記容器内に収納された前記脱硫剤の下部に発泡資材で形成された下部調整層を更に含む、請求項1記載の脱硫装置。
【請求項3】
前記脱硫器は、前記容器内に収納された前記脱硫剤の上部に発泡資材で形成された上部調整層を更に含む、請求項1又は2記載の脱硫装置。
【請求項4】
前記気液分離管は、上端側の開口部に配置される、網状又は格子状の仕切り体を更に含む、請求項1から請求項3のいずれかに記載の脱硫装置。
【請求項5】
前記仕切り体は、表面が樹脂コーティングされた金属製網体を含む、請求項4記載の脱硫装置。
【請求項6】
前記横引き管は、前記ガス抜き管へ向かって下り勾配となる排水勾配が付与されている、請求項1から請求項5のいずれかに記載の脱硫装置。
【請求項7】
前記容器は、コンクリート製の筒状体から成る、請求項1から請求項6のいずれかに記載の脱硫装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱硫装置に関し、特に、最終処分場に埋め立てられた廃棄物から発生するガス中から硫化水素を除去する脱硫装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物である廃石膏ボードは、地中に埋め立てられると、特定の条件下で硫化水素を発生させることが知られている。硫化水素の発生メカニズムは、土壌中の微生物が石膏の主成分である硫酸カルシウム(CaSO)を分解することによると考えられている。廃石膏ボードの保護紙や糊や建物解体時に付着した木屑等の有機物と共に廃石膏ボードを地中に埋め立てると、一部の微生物がこの有機物を分解して酢酸等の有機酸を生成すると共に酸素を消費する。これにより地中が嫌気性環境になると、嫌気性微生物である硫酸塩還元菌の活性が高まって、廃石膏ボードに含まれる硫酸カルシウム中の硫酸イオン(SO 2-)を有機酸の存在下で還元し硫化水素ガス(HS)を生成する。従って、廃石膏ボードを埋め立てた地中に、硫酸塩還元菌が存在し、十分な有機物が存在し、適当な温度・水分・嫌気的状態が保持される環境を全て満たしたときには、高濃度の硫化水素を発生させる可能性がある。
【0003】
そこで法令改正により、平成19年以降、廃石膏ボードの埋め立ては管理型最終処分場のみで行うように規制された。管理型最終処分場は、埋立廃棄物から生成される汚濁物質を含む保有水が地下水を汚染するのを防止するための遮水工、保有水等を集水して処理施設へ送るための集排水管、及び、地中の埋立廃棄物から発生するガスを大気中へ放出するためのガス抜き管を設置することが義務付けられている。
【0004】
ガス抜き管から大気中へ放出されるガスは一般に、水蒸気、二酸化炭素、メタンガス等を含むが、上述したように廃石膏ボードを埋め立てたときには、硫化水素も含む可能性が有る。硫化水素は、悪臭の原因となるばかりでなく、濃度が高くなると人体に有害である。
【0005】
そこで、発生ガス中から硫化水素を除去するため、脱硫装置をガス抜き管に設置することが特許文献1に記載されている。特許文献1に記載される技術は、ガス抜き管における地表側の開口部に脱硫剤を収納した容器を設置し、発生ガスが内部を流通する間に脱硫剤で硫化水素を吸着除去するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-210937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脱硫装置に収納される脱硫剤は、硫化水素と反応する際に反応熱を生じさせて高温になることがある。特許文献1のようにガス抜き管に脱硫装置を直接付設した場合、硫化水素と脱硫剤との反応熱によって、プラスチック製のガス抜き管が変形したり損傷を受けたりする可能性がある。このため、数百ppmから数万ppmに至る高濃度には不向きと考えられる。
【0008】
又、ガス抜き管から放出されるガスには水蒸気を多く含んでいることから、発生ガスが脱硫装置の容器内に流入した際、水蒸気が脱硫剤に接触することで脱硫剤の含水率を増大させ、脱硫性能を低下させるおそれがある。
【0009】
更に、脱硫剤の脱硫性能は時間経過と共に低下するため、一定期間ごとに脱硫剤を交換する必要があるが、特許文献1では、脱硫剤を交換するための手段について記載されていない。
【0010】
本発明は、廃棄物(埋立)処理場での発生ガスが高濃度であっても硫化水素ガスと脱硫剤との反応熱がガス抜き管や装置に影響を及ぼすことがなく、発生ガス中の水蒸気と脱硫剤との接触を抑制でき、必要時には容易に脱硫剤の交換を行うことが可能な脱硫装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、請求項1記載の発明は、地中に埋め立てられた廃棄物から発生するガスを地表まで誘引するガス抜き管に付設される脱硫装置であって、硫化水素に対し耐腐食性を有する材質から成り、発生ガスが大気中へ放散されないように処置されたガス抜き管に一端が接続され、水平方向に延びる横引き管と、硫化水素に対し耐腐食性を有する材質から成り、鉛直方向に延び、少なくとも上方が開口し、中間部に前記横引き管の他端が接続される気液分離管と、気液分離管の上方に配置される脱硫器とを備え、脱硫器は、硫化水素に対する耐腐食性及び耐熱性を有する材質から成り鉛直方向の上下両端が開口する筒状の容器と、この容器内に収納された発生ガスから硫化水素を除去する脱硫剤とを含み、容器の下端側の開口部が気液分離管の上端側の開口部に臨むように配置され、横引き管、気液分離管、及び、脱硫器における少なくとも下方側の一部が覆土されているものである。
【0012】
このように構成すると、地中の廃棄物から発生したガスは、ガス抜き管に誘引されて地表の位置まで到達し、横引き管及び気液分離管を経由して、脱硫器内に下側から流入する。発生ガスが脱硫器内を通過する間に、発生ガスに含まれる硫化水素が脱硫剤によって除去される。硫化水素が除去された発生ガスは脱硫器の上方から大気中へ放出される。横引き管、気液分離管、及び、脱硫器における少なくとも下方側の一部が覆土されるので、これらが冷却されると共に、硫化水素の地表への流出が防止される。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、脱硫器は、容器内に収納された脱硫剤の下部に発泡資材で形成された下部調整層を更に含むものである。
【0014】
このように構成すると、脱硫器における下方側の少なくとも一部が土中に埋設されることにより、発泡資材から成る下部調整層は発生ガスより温度が低く保たれるから、ここを通過する発生ガス中の水蒸気が凝縮されて除去される。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明の構成に加えて、脱硫器は、容器内に収納された脱硫剤の上部に発泡資材で形成された上部調整層を更に含むものである。
【0016】
このように構成すると、上部調整層の厚みや空隙率により気体の流通抵抗を調整することで、発生ガスの流速を制御することができる。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の構成において、気液分離管は、上端側の開口部に配置される、網状又は格子状の仕切り体を更に含むものである。
【0018】
このように構成すると、気液分離管の上端側の開口部に網状又は格子状の仕切り体を配置したことにより、気体や液体は通過可能であるが、仕切り体の目より大きな固体の通過が阻止される。
【0019】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、仕切り体は、表面が樹脂コーティングされた金属製網体を含むものである。
【0020】
このように構成すると、金網製網体は表面が樹脂コーティングされているから耐腐食性を備える。
【0021】
請求項6記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の発明の構成において、横引き管は、ガス抜き管へ向かって下り勾配となる排水勾配が付与されているものである。
【0022】
このように構成すると、横引き管内の液体は、ガス抜き管へ向かって流動する。
【0023】
請求項7記載の発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の発明の構成において、容器は、コンクリート製の筒状体から成るものである。
【0024】
このように構成すると、コンクリート製の容器は、耐熱性、耐腐食性、耐候性、及び、強度を備える。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の発明によれば、横引き管、気液分離管、及び脱硫器の容器は、硫化水素に対し耐腐食性を有する材質から成るため、発生ガスに硫化水素が含まれていても腐食しにくい。横引き管が覆土により温度が低く保たれるので、内部を流通する発生ガスは冷やされて含有する水蒸気を凝縮させる。これにより、脱硫器内へ流入する発生ガスの水蒸気量を低減させることができるから、脱硫剤の反応性が悪くなって硫化水素の除去効率が低下するのを防止できる。硫化水素と脱硫剤との反応により水が生じた場合、この水(水蒸気)は、脱硫器の容器の上・下端側の開口部から外部へ排出されるから、脱硫剤の含水量を減らして反応性が低下するのを防止できる。容器を耐熱性にしたので、硫化水素と脱硫剤との反応により発熱が生じた場合でも、容器が損傷を受けにくい。発熱は脱硫器内で生じるので、ガス抜き管や、横引き管、気液分離管に熱の影響を及ぼさない。脱硫器の容器の設置は覆土によるものなので、バックホウ等の適当な重機を使用して、容器を簡単に移動させることができる。これにより、容器内に収納した脱硫剤の交換作業を容易に行える。
【0026】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、下部調整層を通過させることにより、発生ガスの湿度を低く保てるから、脱硫剤の反応効率が低下するのを防止できる。
【0027】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、上部調整層により発生ガスの流速を制御できるから、発生ガスが容器内を通過する時間を、硫化水素を確実に除去するのに必要な時間に設定して、脱硫器から放出される発生ガス中に硫化水素を含まないようにすることができる。
【0028】
請求項4記載の発明によれば、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、脱硫器の下端側の開口部から脱硫剤や発泡資材が気液分離管内に落下するのを防止して、脱硫器の機能が低下するのを防止することができる。
【0029】
請求項5記載の発明によれば、請求項4記載の発明の効果に加えて、硫化水素に対し長期にわたり腐食しにくい仕切り体を提供できる。
【0030】
請求項6記載の発明によれば、請求項1から請求項5のいずれかに記載の発明の効果に加えて、発生ガスが横引き管内を流通する間に含まれる水蒸気が凝縮により液体化すると、この液体は排水勾配に従ってガス抜き管へ向かって流動し排出される。横引き管内に液体を停留させないことにより、横引き管内における水蒸気分圧の増大が抑制されるので、水蒸気の凝縮を効率よく行える。
【0031】
請求項7記載の発明によれば、請求項1から請求項6のいずれかに記載の発明の効果に加えて、容器を耐熱性及び耐腐食性を有するコンクリート製の筒状体としたので、脱硫剤が硫化水素との反応熱で高温になっても、容器が変形したり損傷を受けたりすることがない。又、硫化水素と接触しても容易に腐食することが無い。コンクリートは強度を有し耐候性に優れるので、屋外に長期間設置することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1の実施の形態による脱硫装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の第1の実施の形態による脱硫装置の概略構成を示す断面図である。この実施の形態の脱硫装置10は、産業廃棄物の管理型最終処分場に設置されるガス抜き管1に付設されるものである。
【0034】
図1に示すように、脱硫装置10は、ガス抜き管1に一端が接続され、水平方向に延びる横引き管11と、鉛直方向に延び、少なくとも上方が開口し、中間部に横引き管11の他端が接続される気液分離管12と、気液分離管12の上方に配置される脱硫器14とを備える。
【0035】
ガス抜き管1は、最終処分場の底部から地表に到るまで鉛直方向に設置されるものであり、多数の開孔2を周壁に有するポリエチレン製有孔管が使用される。有孔管を使用することにより、地中に埋め立てられた廃棄物から発生するガスを、開孔2を通じてガス抜き管1内へ導入し、地表まで誘引することができる。又、ガス抜き管1の下端は最終処分場の底部に設置される浸出水集排水管に接続される場合が多く、これにより、廃棄物から生じる浸出水を、開孔2を通じて集水し、速やかに集排水管へ排水する機能を発揮する。
【0036】
脱硫装置10を付設するガス抜き管1は、上端の開口部を蓋体3で開閉可能に閉塞するなどして、ガス抜き管1から発生ガスが直接大気中へ放散されないように処置される。又、蓋体3を開閉可能としたので、定期的に又は必要に応じ蓋体3を開放して、ガス抜き管1内の原ガス濃度を検査することが可能である。
【0037】
尚、最終処分場に設置される全てのガス抜き管に脱硫装置10を付設することもできるが、発生ガス中に硫化水素が検出されたガス抜き管、或いは、発生ガス中の硫化水素濃度が所定値(例えば100ppm)以上のガス抜き管を選択して、脱硫装置10を付設してもよい。
【0038】
横引き管11は、ポリエチレン等の硫化水素に対し耐腐食性を有する材質から成り、周壁に開孔を持たない無孔管が使用される。横引き管11の長さを十分に長くすることで、横引き管11内を流通する発生ガスを冷却して水蒸気を凝縮により除去する効果を高めることができる。ガス抜き管1と脱硫器14との離隔を確保することで、脱硫器14での発熱がガス抜き管1に影響を及ぼさないようにすることができる。但し、横引き管11が長過ぎると、発生ガスが脱硫器14まで十分には誘引されないことが有る。そこで、横引き管11の管径が例えば200mm場合、その長さは4~10m程度に設定することが望ましい。又、横引き管11は水平に設置してもよいが、ガス抜き管1へ向かって下り勾配となる排水勾配が付与されるように設定することが望ましい。
【0039】
気液分離管12は、硫化水素に対し耐腐食性を有するポリエチレン等の材質から成るT字管が使用される。設置に際しては、T字の横画部分(第1部分12a)が鉛直方向に延びるように配置され、T字の縦画部分(第2部分12b)が横引き管11と接続される。第1部分12aは鉛直方向の上下に開口部を有し、上端側の開口部には、網状又は格子状の仕切り体13が備えられる。この仕切り体13には、例えば表面が樹脂コーティングされた金属製網体であって、目の大きさが、後述する発泡資材の粒径以下のものが使用される。又、この金属製網体単独では強度が不足する場合は、より径の大きな金属線から成る網体を重ねて使用してもよい。
【0040】
脱硫器14は、仕切り体13の周囲を囲むように設置される筒状の容器15と、この容器15内に収納される脱硫剤から成る脱硫剤層20と、脱硫剤層20の上下に発泡資材で形成される上部調整層21及び下部調整層22を含む。
【0041】
容器15は、コンクリート等の、硫化水素に対する耐腐食性及び耐熱性を有する材質から成り、鉛直方向の上下両端が開口する筒状体で構成され、例えばヒューム管が使用される。容器15の配置は、下端側の開口部が、仕切り体13を介して、気液分離管12の上端側の開口部に臨むように設定される。又、容器15の上端側の開口部には、板状の雨覆い16が配置される。雨覆い16は、雨水が容器15内に流入するのを防止するためのものである。但し、雨覆い16と容器15との間には、気体の流通を許容する程度の隙間を有する。容器をコンクリート製としたので、反応熱で変形したり損傷を受けたりすることがなく、硫化水素と接触しても容易に腐食することが無い。更にコンクリートは強度が高く耐候性に優れるので、屋外に長期間設置することが可能である。
【0042】
脱硫剤は、容器15内を流通する発生ガスから硫化水素を除去するものであり、例えば酸化鉄(FeO、Fe)を主成分とする金属化合物を粒状、ペレット状に成形したものが使用される。容器15に収納する脱硫剤の分量は、流通する発生ガスから硫化水素を確実に除去できるように設定される。即ち、容器15の上端側の開口部において気体成分を検査したときに、硫化水素濃度を0ppm又は許容値(例えば10ppm)以下とするのに必要な分量が使用される。
【0043】
上部調整層21及び下部調整層22を形成する発泡資材は、例えば発泡ガラスや天然軽石等の無機質多孔体が使用される。上部調整層21は、流通する発生ガスの流速を調整するためのものである。発生ガスの流速は、地中での発生量や装置内を通過する際の脱硫剤等の厚みに依存する。そこで上部調整層21を形成する発泡資材の分量は、発泡資材の粒径を考慮して、容器15内を流通する発生ガスの流速を適度に抑えて、発生ガスと脱硫剤との接触時間が十分に確保されるように設定される。又、上部調整層21は、容器15内に万一雨が降りこんだ時に、雨水が脱硫剤に接触するのを防止する機能も有している。
【0044】
下部調整層22は、発生ガスと接触して流量調整と水蒸気を除去するためのものである。そのため下部調整層22を形成する発泡資材の分量は、発生ガスと発泡資材との接触時間が十分確保され、発泡資材が発生ガス中の水蒸気を除去する機能を確実に発揮できるように設定される。
【0045】
脱硫装置10の施工手順の概略は、次の通りである。始めに、廃棄物が埋め立てられている最終処分場30において、地表31から突出しているガス抜き管1の部分に対し、上端の開口部に蓋体3を装着して閉塞すると共に、横引き管11の一端を接続する。次いで、横引き管11の他端に気液分離管12の第2部分12bを接続する。又、横引き管11の姿勢が、ガス抜き管1へ向かって下り勾配となるように調整する。この状態で、一旦、地表31から突出しているガス抜き管1の部分、横引き管11、及び、気液分離管12を覆土40で覆う。この時、ガス抜き管1に装着した蓋体3の開閉作業が容易に行えるように、ガス抜き管1の上端部又は上端を含む一部を覆土40上に露出させておくことが望ましい。続いて、気液分離管12の上端の開口部に仕切り体13を配置した後、この仕切り体13を囲むように、脱硫器14の容器15を覆土40の上に載置する。そして、容器15の下端側からの発生ガスの流出を阻止するため、容器15の外周における下方側の部分を覆土する。引き続き、容器15内に発泡資材を投入して下部調整層22を形成する。この時、気液分離管12の上端側の開口部に配置した仕切り体13により、発泡資材が気液分離管12内へ落下するのが防止される。次に、脱硫剤を投入して脱硫剤層20を形成し、更に発泡資材を投入して上部調整層21を形成する。最後に、容器の上端側の開口部に雨覆い16を配置し、脱硫装置10の施工を完了する。
【0046】
このように構成される脱硫装置10は、ガス抜き管1から、横引き管11、気液分離管12を経由して、脱硫器14に到る連通経路が形成される。又、横引き管11、気液分離管12、及び脱硫器14における容器15の少なくとも下方側の一部が覆土されることにより、これらが土壌によって常時冷却される状態が維持される。そのため、地中の廃棄物から発生し、ガス抜き管1を通じて地表まで誘引された発生ガスは、横引き管11を経由して気液分離管12まで導かれる間に冷却される。その結果、発生ガス中に含まれる水蒸気が凝縮することで除去されるので、横引き管11から気液分離管12へは、水蒸気が除去された発生ガスが排出される。従って、気液分離管12から脱硫器14へ供給される発生ガスの湿度は低いものとなる。又、横引き管11内で水蒸気の凝縮により生成した液体は、横引き管11に付与した排水勾配に従って流動し、ガス抜き管1内へ放出される。
【0047】
気液分離管12から脱硫器14内へ流入した発生ガスは、下部調整層22を通過する間に冷却された発泡資材と接触し、ここでも凝縮により水蒸気が除去される。こうして湿度をさらに低減させた発生ガスが脱硫剤層20を通過する間に、脱硫剤との反応により発生ガス中の硫化水素が除去される。鉄化合物を主成分とする脱硫剤は一般に、含水率が高くなると反応性が低下することが知られているが、本例では湿度の低い発生ガスを導入するので、脱硫剤の反応性低下が抑制される。脱硫剤との接触によって硫化水素が除去された発生ガスは、上部調整層21を通過したのち、容器15の上端の開口部から外気へ放出される。上部調整層21を設けたことにより、発生ガスが脱硫剤層20を通過する際の流速を制御して脱硫剤との接触時間が確保されるので、発生ガスから硫化水素を確実に除去することができる。その結果、脱硫器14から放出される発生ガスは、硫化水素濃度を0ppm又は許容値以下とすることができるから、周囲の環境に悪影響を及ぼすおそれがない。
【0048】
脱硫剤の主成分が酸化鉄(III)の場合、反応式は下記の通りである。
Fe+3HO+3HS → Fe+6H
脱硫反応の結果、脱硫剤層20で生成された水、及び、下部調整層22で発生ガスから除去された水は、容器15から気液分離管12内へ流出する。つまり、容器内15で生じた水は、容器15の下端側の開口部から外部へ速やかに排出されるから、脱硫剤の含水率が増大するのが抑制され、脱硫反応が低下するのを防止できる。水は気液分離管12の第1部分12aの下端から流出し、最終処分場30の土壌に吸収される。
【0049】
又、脱硫反応により発熱が生じるが、容器15をコンクリート等の耐熱性の材質にしたので、容器15が変形や損傷を受けることがない。しかも発熱は、脱硫器14の容器15内で生じるので、ガス抜き管1や、横引き管11、気液分離管12に熱の影響を及ぼさない。
【0050】
脱硫剤は、発生ガス中の硫化水素との脱硫反応が進行するに従い、主成分である酸化鉄が硫化鉄に置き換わるので、経時的に脱硫性能が低下していく。そこで、一定期間ごとに、又は、脱硫器14の容器15の上端側における硫化水素濃度が許容値(例えば容器外で10ppm、容器内の上端部で70~100ppm)を超えたときには、脱硫剤を交換することが必要となる。脱硫剤の交換は、容器15を重機等の適当な手段で持ち上げて移動させ、覆土40上に残留した脱硫剤及び発泡資材を除去したのち、容器15を再度元の位置に載置し、発泡資材及び脱硫剤を投入すればよい。容器15は覆土40上に載置しただけのものなので、適当な重機(例えばバックホウ等)を使用して簡単に移動させることができるから、脱硫剤の交換作業が容易である。
【0051】
又、仕切り体13は、樹脂コーティングした金網のほか、プラスチック製やセラミック製の網体を使用してもよい。
【0052】
発生ガスの成分、特に水蒸気量や、発生ガスの流量によっては、上部調整層を省略してもよい。
【0053】
雨覆いは、スレート板等の1枚の板状体で構成してもよいが、複数枚の板状体を一部重ね合わせて使用してもよい。この場合、容器と雨覆いとの間に通気用の隙間を確保しやすくなる。
【実施例
【0054】
管理型最終処分場に設置されるガス抜き管1に対し、以下の構成の脱硫装置10を付設した。横引き管11には、直径200mm、長さ5mの無孔ポリエチレン管を使用した。横引き管1の排水勾配は2~4%に設定した。気液分離管12には、直径200mmのポリエチレン製T字管を使用した。気液分離管12の上端側に配置される仕切り体13には、目が発泡資材の粒径よりも十分小さい樹脂コーティングを施した第1の金網と、第1の金網よりも径が太い線材からなる比較的目の大きな金網とを重ねて用いた。脱硫器14は、容器15として、直径600mm、長さ約1mのヒューム管を使用し、その中に発泡資材約80リットルを投入し、次にその上に酸化鉄を主成分とする脱硫剤約120kgを投入し、更に発泡資材約40リットルを投入し、最後に容器15の上端側の開口部を雨覆い16で蓋をした。発泡資材には、天然軽石又はガラス質発泡体である「スーパーソル」(ガラス質発泡事業協同組合販売)を用い、脱硫剤には、酸化鉄(III)を主成分とする「ニオノン」(株式会社伊吹正製造)を用いた。雨覆いにはスレート板を用いた。
【0055】
このように施工された脱硫装置10によれば、ガス抜き管1内における硫化水素濃度が
数10~70000ppmの発生ガスを、脱硫器14から大気中へ放出する際には実質的に硫化水素濃度0ppmまで低下させることができた。
【0056】
上記の脱硫装置10を連続して使用した結果、外気へ放出される発生ガス中に許容値(容器外で10ppm、容器内の上端で70~100ppm)を超える濃度の硫化水素が検出されるようになったので、脱硫剤の交換を行った。交換作業には、容器(ヒューム管)の移動用に、重機としてバックホウを用意したほか、バックホウとの連結用にベルトスリングを準備した。交換作業の手順の概略は次の通りである。最初に、容器15であるヒューム管の上端から雨覆い16を取り除いた後、ヒューム管にベルトスリングを装着した。次にバックホウのバケットでヒューム管の周囲の覆土を除去した後、ベルトスリングをバックホウのアームフックに係合させ、バックホウのアームを操作し、ベルトスリングを介してヒューム管を持ち上げて側方へ移動させた。続いてバックホウのバケットを操作し、覆土上に残留した脱硫剤及び発泡資材を概ね取り去った後、残存した脱硫剤及び発泡資材を作業者がスコップ等を用いて除去し、気液分離管12の上端部を露出させた。引き続き、気液分離管12の上端側に金網から成る仕切り体13を載置して位置を調整した後、再度バックホウを操作してヒューム管を持ち上げ、仕切り体13の周りを取り囲む位置にヒューム管を降ろした。そしてヒューム管の外周下部に50cm程度の盛り土を施して発生ガスの漏出を防止した後、ヒューム管内に発泡資材及び脱硫剤を投入し、ヒューム管の上端に雨覆い16を載せ、交換作業を完了した。
【符号の説明】
【0057】
1…ガス抜き管
2…開孔
3…蓋体
10…脱硫装置
11…横引き管
12…気液分離管
13…仕切り体
14…脱硫器
15…容器
16…雨覆い
20…脱硫剤層
21…上部調整層
22…下部調整層
30…最終処分場
31…地表
40…覆土
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1