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特許7111906非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/92 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
G01N33/92 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021543108
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 KR2019014084
(87)【国際公開番号】W WO2020085820
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-03-31
(31)【優先権主張番号】10-2018-0129190
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】504314133
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・キム
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03151007(EP,A1)
【文献】国際公開第2008/021192(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/081534(WO,A1)
【文献】TIWARI-HECKLER, S. et al.,Circulating Phospholipid Patterns in NAFLD Patients Associated with a Combination of Metabolic Risk Factors,Nutrients,2018年05月21日,Vol.10, No.649,p.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/92
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体から分離された生物学的試料の飽和スフィンゴミエリン(sphingomyelin;SM)の含有量を測定する測定段階を含み、前記検体が、アジア人のものであり、かつ、体質量指数(body mass index;BMI)が25未満のものである、非アルコール脂肪肝疾患(Nonalcoholic fatty liver disease;NAFLD)の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法。
【請求項2】
前記測定段階において飽和スフィンゴミエリンの含有量が正常対照群試料に比べて1.3倍以上であれば、検体の非アルコール脂肪肝疾患の重症度に関連した危険度が増加したと判断する危険度判断段階をさらに含む、請求項1に記載の非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法。
【請求項3】
前記生物学的試料は、血清又は血漿である、請求項1に記載の非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保健福祉部の支援下で課題番号1465025699としてなされたものであり、該課題の研究管理専門機関は保健産業振興院、研究事業名は“疾患克服技術開発”、研究課題名は“大規模韓国人非アルコール脂肪肝前向コホートで肝病理組織所見による糞便内マイクロバイオームと血清代謝体分析”、主管機関はソウル特別市ボラメ病院、研究期間は2018.01.01~2018.12.31である。
【0002】
本特許出願は、2018年10月26日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2018-0129190号に対して優先権を主張し、この特許出願の開示事項は本明細書に参照によって組み込まれる。
【0003】
本発明は、非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法に関し、より詳細には、飽和スフィンゴミエリンの含有量を測定し、非アルコール脂肪肝疾患の重症度に関連した危険度増加の有無を確認する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
非アルコール脂肪肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease;NAFLD)は、肝脂肪症と呼ばれる肝臓の中性脂肪(triglycerides;TG)の異常蓄積に起因し、時には非アルコール脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis;NASH)と関連線維化に進行するこがある。肝臓TGの過度な蓄積がNAFLDを開始することが知られているが、脂肪性肝で蓄積される脂質クラスの特定類型、量及びNAFLDの進行に対する脂質変化の影響は完全に特性化されていない。大部分の脂質には重要な生物学的活性があるため、脂質学的プロファイリング接近法は、NAFLDの病因に対する理解を助ける有用な情報を提供する。
【0005】
肥満とインスリン抵抗性はNAFLD及び第2型糖尿病のような代謝症候群の主要危険因子である。しかし、NAFLD患者の相当数は、BMI<25kg/mの比較的低い体質量指数を示し、インスリン抵抗性が比較的低く維持される。NAFLDは肥満と密接な関連があるため、以前のメタボロミクス研究は、BMI≧30kg/m以上である肥満の白人男性成人に焦点を合わせている。
【0006】
しかしながら、より健康な代謝プロファイルを有する痩せたNAFLD患者の場合、過体重又は肥満グループのNAFLD患者と比較して相変らず全体死亡率が増加した。したがって、NAFLDを持つ非肥満及び肥満患者の代謝的差異に対するより良い認識は、NAFLDの様々な表現型と進行度に基づく精密医学及びオーダーメイド治療法の開発に決定的に重要である。
【0007】
BMI<30kg/m未満である西欧の非肥満性NAFLD患者の血中代謝体プロファイルを提示した研究があるが、世界専門家会議(WHO Expert Consultation;WHO)は、アジア人口に対するWHO BMI基準値を国際分類とは異ならせて採択しなければならないと勧告した。
【0008】
非肥満(BMI≦25kg/m)と肥満(BMI≧30kg/m)において血清代謝産物の明確な差異が発見されたが、肥満及び非肥満NAFLD被験者から組織学的に確認された非アルコール脂肪肝(nonalcoholic fatty liver;NAFL)とNASH間の差異は、更なる確認が必要な状況である。
【0009】
したがって、非肥満及び肥満の成人アジア系患者から得た血清を用いて、NAFLDの組織学的重症度による血中脂質分布の変化を総合的に調べる必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者らは、非肥満性非アルコール脂肪肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease,NAFLD)患者の血清中のスフィンゴミエリン(sphingomyelin;SM)含有量を測定することによって組織学的重症度を診断することができるということを実証した。
【0011】
そこで、本発明の目的は、検体から分離された生物学的試料のスフィンゴミエリンの含有量を測定する測定段階を含む非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、スフィンゴミエリン測定値の非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供用途に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法に関し、本発明に係る方法は、患者の血清中のスフィンゴミエリン(sphingomyelin;SM)含有量を測定し、非アルコール脂肪肝疾患(Nonalcoholic fatty liver disease;NAFLD)の重症度に関連した危険度増加の有無が確認できることを示す。
【0014】
本発明者らは、飽和スフィンゴミエリンの量が正常血清に比べて1.3倍以上であれば非アルコール脂肪肝疾患の重症度に関連した危険度が増加したものであることを導出した。
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の一様態は、検体から分離された生物学的試料のスフィンゴミエリンの含有量を測定する測定段階を含む非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法である。
【0016】
本発明において、前記スフィンゴミエリンは、飽和スフィンゴミエリンでよい。
【0017】
本発明において、前記方法は、測定されたスフィンゴミエリンの含有量が正常対照群試料に比べて1.3倍以上であれば、検体の非アルコール脂肪肝疾患の重症度に関連した危険度が増加していると判断する危険度判断段階をさらに含んでよい。
【0018】
本明細書において、検体の体質量指数が25未満の場合は非肥満として、検体の体質量指数が25以上の場合は肥満として区別した。
【0019】
本発明において、前記検体は、体質量指数(body mass index;BMI)が25未満であるものでよい。本発明の一具現例において、体質量指数が25未満である非肥満群の場合、特定飽和SMが非アルコール脂肪肝の発生の他にNASHへの進行にも大きな役割を担当しているが、体質量指数が25以上の肥満群では、このような現象が確認されなかったためである。
【0020】
本発明において、前記検体はアジア人のものでよい。西欧の非肥満性NAFLD患者の血中代謝体プロファイルを提示した研究が公知されたことがあるが、WHOではアジア人口に対するWHO BMI基準値を国際分類とは異ならせて採択しなければならないと勧告したためである。
【0021】
本発明において、“アジア人”とは、中国、モンゴル、台湾、シンガポール、韓国、日本、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、マレーシア、インドネシア、及びフィリピンの本土の人々に起源する人を意味する。
【0022】
本発明において、前記生物学的試料は、血清又は血漿でよい。
【0023】
本発明の一具現例において、体質量指数が25未満である非肥満アジア人の患者から分離された血清から、飽和スフィンゴミエリンの含有量を測定し、正常対照群試料に比べて1.3倍以上増加した場合、非アルコール脂肪肝疾患の重症度に関連した危険度が増加していると判断できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法に関し、スフィンゴミエリンの含有量が正常対照群に比べて1.3倍以上である場合、非アルコール脂肪肝疾患の重症度に関連した危険度が増加していると判断できるので、これを重症度診断又は予後測定に効果的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】非肥満患者に対する、非アルコール脂肪肝(nonalcoholic fatty liver;NAFL)/非-非アルコール脂肪肝疾患(no-nonalcoholic fatty liver disease,no-NAFLD)による脂質種の倍率変化を示すグラフである。
図1B】非肥満患者に対する、非アルコール脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis;NASH)/NAFLによる脂質種の倍率変化を示すグラフである。
図1C】肥満患者に対する、NAFL/no-NAFLDによる脂質種の倍率変化を示すグラフである。
図1D】肥満患者に対する、NASH/NAFLによる脂質種の倍率変化を示すグラフである。
図2A】アシル鎖(acyl chain)の長さ及び不飽和度によるジアシルグリセロール(diacylglycerol;DAG)含有量の変化を示すグラフである。
図2B】アシル鎖(acyl chain)の長さ及び不飽和度によるトリアシルグリセロール(triacylglycerol;TAG)含有量の変化を示すグラフである。
図3】非肥満グループと肥満グループに対してNAFL/no-NAFLD及びNASH/NAFL間のスフィンゴミエリン(sphingomyelin;SM)含有量の変化を示すグラフである。
図4】SM含有量と代謝危険因子及び肝組織学的重症度との相関関係を示すスピアマン(Spearman)の相関関係ヒートマップである。
図5A】非肥満グループで脂肪症における等級別飽和スフィンゴミエリンの含有量を示すグラフである。
図5B】非肥満グループで小葉内炎症における等級別飽和スフィンゴミエリンの含有量を示すグラフである。
図5C】非肥満グループで風船様変形における等級別飽和スフィンゴミエリンの含有量を示すグラフである。
図5D】非肥満グループで線維化における等級別飽和スフィンゴミエリンの含有量を示すグラフである。
図6A】飽和スフィンゴミエリンの組成を用いた脂肪症の肝組織学的予測可能性を示すグラフである。
図6B】飽和スフィンゴミエリンの組成を用いた小葉内炎症の肝組織学的予測可能性を示すグラフである。
図6C】飽和スフィンゴミエリンの組成を用いた風船様変形の肝組織学的予測可能性を示すグラフである。
図7】非肥満(青色曲線)及び肥満(赤色曲線)群においてSM d36:0、SM d38:0及びSM d40:0とアスパラギン酸トランスアミナーゼ(aspartate transaminase;AST)、アラニントランスアミナーゼ(alanine transaminase;ALT)及びガンマグルタミルトランスフェラーゼ(gamma-glutamyl transferase;GGT)の組合せによるNAFLDの組織学的重症度診断能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、検体から分離された生物学的試料からスフィンゴミエリン(sphingomyelin;SM)の含有量を測定する測定段階を含む非アルコール脂肪肝疾患(Nonalcoholic fatty liver disease;NAFLD)の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法に関する。
【実施例
【0027】
以下、本発明を下記の実施例によってより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0028】
実施例1:研究参加者の基本特性
表1及び表2に示すように、被験者はBMIによって非肥満(<25)と肥満(≧25)とに分類されている(DM(diabetes mellitus、糖尿)、MS(metabolic syndrome、代謝症候群)、hsCRP(高感度C反応性タンパク質)、FPG(fasting plasma glucose、空腹時血糖値)、TC(total cholesterol、総コレステロール)、HDL-C(high density lipoprotein cholesterol、高密度脂質タンパクコレステロール))。
【表1】
【表2】
【0029】
表1及び表2から確認できるように、非肥満グループと肥満グループの両方において、NAFLDの組織学的重症度にしたがって血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase;AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase;ALT)及びガンマグルタミルトランスフェラーゼ(gamma-glutamyl transferase;GGT)の含有量を段階的に上昇させた。
【0030】
総361人(平均53±14歳、男性48.5%)のうち295人は、生検による診断がNAFLDであり、66人は代謝的に健康な対照群(No-NAFLD群)であった。No-NAFLD群は、脂肪肝の臨床的、生化学的、放射線学的又は組織学的証拠がなかった。非肥満患者のうち、82人はNAFLDで、48人は対照群であった。肥満グループでは213人がNAFLDで、18人は対照群であった。
【0031】
BMIと肝組織学所見(非NAFLD、NAFL及びNASH)に基づき、研究対象者は非肥満/非NAFLD;非肥満/NAFL;非肥満/NASH;肥満/非NAFLD;肥満/NAFL;及び肥満/NASHの6グループに区別した。NAFLDの組織学的重症度が増加するほど非肥満及び肥満グループにおいてBMI、ウェイストサイズ、VAT面積(内臓脂肪量)、adipo-IR(脂肪組織インスリン抵抗性)、HOMA-IR(インスリン抵抗性)、HbA1c(糖化ヘモグロビン)、空腹時血糖値、TG(中性脂肪)、HDL-コレステロール、糖尿病有病率及び代謝症候群の頻度が増加した(表1)。
【0032】
実施例2:UPLC/Q TOF-MSに基づく血清脂質特性
生検によりNAFLDと診断され且つBMIが25kg/m未満である被験者(‘ボラメNAFLDコホート’(NCT02206841))を、非肥満NAFLD被験者と定義した。対照群は、生体供与者肝移植の評価における肝生検から決定され、腹部画像検査に基づく肝腺腫又は限局性結節性過形成と疑われる固形肝腫塊の特性分析から、NAFLDがないことが確認された。
【0033】
NAFLDは、組織学的検査によって確認された5%以上の大滴性脂肪変性の存在と定義された。NASHは、NASH-CRN(clinical research network)の組織学的基準に基づいて診断された:脂肪症、小葉内炎症、風船様変形又は線維化からなる組織学的肝損傷の全般的なパターンを、NAFLD活動点数体系によって等級を指定した。
【0034】
内臓脂肪量の定量のために内臓脂肪組織面積(visceral adipose tissue area;VAT)を測定した。HOMA-Bを用いて全身インスリン抵抗性(HOMA-IR)とベータ-細胞機能(HOMA-β)を評価し、脂肪組織インスリン抵抗性(adipo-IR)も計算した。代謝症候群は、国際コレステロール教育プログラム成人治療パネルIII(NCEP-ATP III)基準によって定義された。
【0035】
361人の研究対象の血清をUPLC/Q TOF-MSに基づくグローバル脂質プロファイリングによって分析し、224個の脂質代謝産物を種々の標準物質とHMDB(Human Metabolome Database,www.hmdb.ca)、METLIN(metlin.scripps.edu)及びLIPID MAPS(www.lipidmaps.org)のようなオンラインデータベースを用いて確認した。
【0036】
UPLC/QTOF-MS(超高パフォーマンス液体クロマトグラフィー/四重極飛行時間型質量分析;ultra-performance liquid chromatography/quadrupole time-of-flight mass spectrometry)分析のためのHPLC(高速液体クロマトグラフィー)-MS(質量分析)-等級溶媒は、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)から購入した。アンモニウムアセテート及び脂質標準物質はSigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。
【0037】
全ての脂質等級の脂質学的プロファイルには、遊離脂肪酸(free fatty acids;FFA);グリセロ脂質(ジアシルグリセロール(diacylglycerol;DAG)及びトリアシルグリセロール(triacylglycerol;TAG));グリセロリン脂質(リゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid;LPA)、リゾホスファチジルコリン(lysophosphatidylcholine;LPC)、リゾホスファチジルエタノールアミン(lysophosphatidylethanolamine;LPE)、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine;PC)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine;PE)、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol;PI);及びスフィンゴ脂質(セラミド(ceramide;Cer)及びSM)を含む。非肥満及び肥満患者に対するNAFL対非NAFLD及びNASH対NAFLの脂質種の倍率変化(fold changes)を、図1に示す。
【0038】
図1から確認できるように、DAG、TAG、SMのようないくつかの脂質種は、非肥満及び肥満成人NAFLD患者においてNAFLDの組織学的重症度にしたがって特徴的な変化パターンを示している。
【0039】
特に、非肥満群に比べて肥満群において血中グリセロ脂質の、正常肝(非NAFLD)対比NAFLの含有量(濃度)比が有意に高かったが、NAFL対比NASHの含有量比は大差がなかった。一方、一部の特定飽和SMでは、非肥満群においてのみ、血中SMの、正常肝(非NAFLD)対比NAFLの含有量比とNAFL対比NASHの含有量比が有意に高く、肥満群では統計的な差異が見られなかった。
【0040】
このことから、肥満群において、非アルコール脂肪肝の発生に血中グリセロ脂質の役割が重要であるが、NASHへの進行には大きな役割がないか、却ってトリアシルグリセロールの場合は予防的保護役割を担うことが確認できる。
【0041】
これに対し、非肥満群では、特定飽和SMが非アルコール脂肪肝の発生の他にNASHへの進行にも大きな役割を担当するが、肥満群ではこのような現象が確認できなかった。
【0042】
実施例3:NAFLD重症度によるDAG及びTAG変化
50uLの各血清サンプルを、500uLのクロロホルム/メタノール(2:1,v/v)に混合した。4℃で13,000rpm、20分間遠心分離した後、下層の脂質相300uLを収集し、溶媒を室温で軟らかい窒素流れの下で除去した。乾燥抽出物を、イソプロパノール/アセトニトリル/水混合物(2:1:1,v/v/v)250uLで再構成した。その後、4℃で13,000rpmで10分間遠心分離した後、上層液を、四重極飛行時間型質量分析(QTOF-MS)と結合したUPLC(ACQUITYTMUPLCシステム、Waters,Manchester,UK)を用いる脂質分析のためにバイアルに移し、QTOF-MSを用いて測定することができた。
【0043】
カラムオーブンと自動サンプラー温度は、それぞれ、40℃と4℃に保たれた。サンプルをAcquity UPLC BEH C18カラム(2.1um×1.7mm粒子、Waters)を用いて溶離及び分離した。LC移動相は、アセトニトリル/水混合物(4:6,v/v)中10mMアンモニウムアセテート(溶媒A)及びアセトニトリル/イソプロパノール混合物(1:9,v/v)中10mMアンモニウムアセテート(溶媒B)で構成された。勾配溶出は、40% Bから始まって5分後に65% Bに増加した後、B成分が99%10分まで増加し続けた。
【0044】
組成物を99% Bで2分間維持した。17分後に初期状態に戻し、平衡状態になるまで3分間維持した。流速は、350uL/minに設定した。5uLの脂質抽出物をUPLC/QTOF-MSシステムに注入した。
【0045】
全サンプルを同一量で集めて品質管理(QC)サンプルを生成した。ソルベントブランク及びQCサンプル注入は、分析再現性を評価するために、12個のサンプル間で行われた。ハイブリッドQTOF装備とDuoSprayイオンソースが装着されたTriple TOF 5600(AB Sciex,Concord,Canada)を用いて陽イオン及び陰イオンモードを各サンプルに適用した。質量範囲は、m/z 50~1500に設定された。
【0046】
作動のために次のパラメータが用いられた:イオンスプレー電圧5500V、ソース温度500℃、噴霧器圧力50psi、乾燥ガス圧力60psi、カーテンガス30psi、デクラスタリング電位90V、そしてイオンに対するMS/MSスペクトルを得るために情報依存的獲得(Information-dependent acquisition;IDA)が用いられた。
【0047】
MS/MSスペクトルを得るために、衝突エネルギー及び衝突エネルギースプレッドはそれぞれ、40V及び15Vに調整された。質量正確度は、DuoSprayイオンソースとインターフェースされた自動キャリブレーション伝達システム(AB Sciex)で維持された。脂質代謝産物は、オンラインデータベース(DB、HMDB、METLIN、LIPID MAPS)及び標準化合物のデータと一致する使用可能な情報(正確な質量、断片イオン及び/又は保持時間)によって確認された。
【0048】
DAG及びTAG種を含むグリセロ脂質の明確な増加が非肥満及び肥満グループの両方から観察され、NAFLからNASHに段階的に増加した。アシル鎖長、不飽和度、倍変化及びp-値を有するDAG及びTAG含有量の差異をバブルプロットを用いて視角化した。
【0049】
バブルプロットは、組織学的サブグループを比較して、鎖長、不飽和度、倍変化、及びDAG及びTAGのp-値間の関係を示した。y軸は不飽和度を表し、x軸に関連したバブルの位置は、鎖の長さに該当する。バブルの色は倍率変化を表し、バブルの大きさは、ボンフェローニ(Bonferroni)補正を用いてマン・ホイットニー(Mann-Whitney)U-検定から得たp-値を表している。
【0050】
図2Aから確認できるように、DAG含有量の変化は、様々な組織学的サブグループ間の特異なパターンを示した。相対的に短い鎖及び低い不飽和度を有するDAGの含有量は、肥満に関係なくNAFL対NAFLDにおいて統計的に増加した。対照的に、長い鎖及び高度な不飽和度を有するDAGの含有量は、肥満グループのNASH対NAFLにおいて有意に減少した。
【0051】
図2Bから確認できるように、TAG含有量の変化は、DAG含有量の変化に似た傾向を示した。統計的有意性及び倍率変化は弱化したが、鎖長及び不飽和度が若干変化した。
【0052】
DAG及びTAG種を含むグリセロ脂質は、アシル鎖の長さ及び不飽和度によって影響を受ける特有の変化されたパターンを示した。また、組織学的重症度に基づくグリセロ脂質の変化パターンは、非肥満グループと肥満グループにおいて差異があった。結果的に、非肥満NAFLD患者に比べて、組織学的重症度によって分類された循環DAG及びTAGの倍率変化が、肥満NAFLDにおいてより大きかった。
【0053】
特に、非肥満群に比べて肥満群において血中グリセロ脂質の正常肝(非NAFLD)対比NAFLの含有量(濃度)比が有意に高かったが、NAFL対比NASHの含有量比は大差がなかった。
【0054】
このことから、肥満群において非アルコール脂肪肝の発生に血中グリセロ脂質の役割が重要であるが、NASHへの進行には大きく働かないか、却って生物学的不活性化物質であるトリアシルグリセロールは、予防的保護の役割を担う無害な脂質であることが確認できた。
【0055】
実施例4:NAFLDの重症度による代謝症候群の変化と肝組織と肝組織学との連関性
NAFLDの組織学的重症度による代謝症候群の強度の差異は、非肥満グループと肥満グループの両方で見られた。棒グラフで有意な差異点は星印(* Bonferroni 補正を適用したマン・ホイットニーのU検定、* p<0.05、** p<0.01、及び*** p<0.001)で表示した。
【0056】
図3から確認できるように、興味深いことに、SM d36:0、SM d38:0及びSM d40:0を含む飽和SMの含有量は、非肥満グループのNAFL/no-NAFLDグループにおいて1.3倍以上と著しく増加した。対照的に、肥満に関係なく、42炭素以上の長い鎖長を含有するSMの含有量は、NAFL/no-NAFLDグループにおいて減少した。
【0057】
肥満グループにおいてSM d34:0、SM d36:0、SM d38:0及びSM d40:0のような飽和SMの含有量は、NASH/NAFLにおいて有意に増加したが、NAFL/no-NAFLDでは有意でなかった。
【0058】
NAFLDの重症度及び肥満に関連した飽和SM含有量の差異は、代謝危険因子及び肝組織学との相関関係からも確認された。スピアマンの相関関係ヒートマップは、非肥満及び肥満グループの代謝症候群危険因子又は肝組織学とSMの相関関係を示した。統計的有意性は、星印(* p<0.05、** p<0.01、及び*** p<0.001)で表示される。内臓脂肪(VAT);糖化ヘモグロビン(HbA1c);脂肪組織のインスリン耐性(脂肪組織-IR);インスリン抵抗性指数(HOMA-IR);ホメオスタシスモデルアセスメント-ベータ指数(HOMA-β);小葉内炎症(LI)。
【0059】
図4から確認できるように、SM d36:0、SM d38:0、及びSM d40:0の含有量は、非肥満グループにおいてVAT領域、adipo-IR及びHOMA-IRと有意な正の相関関係を示し、肥満グループにおいてadipo-IR及びHOMA-IRと正の相関関係を示した。さらに、飽和SM含有量は、非肥満グループにおいて脂肪症、風船様変形及び小葉内炎症の重症度と強い相関関係を示した。しかし、肥満グループでは脂肪症だけが飽和脂肪濃度と正の相関関係を示した。
【0060】
次に、SM d36:0、SM d38:0及びSM d40:0を含む飽和SM種の含有量が脂肪症、及び小葉内炎症の存在及び重症度により変更されたか否かを確認した。SM d36:0、SM d38:0及びSM d40:0の強度は、脂肪症(A;0-3)、小葉内炎症(B;0-3)及び風船様変形(C;0-2)、非肥満被験者では線維化(D;0-4)がなかった。データは、平均±標準偏差で表現した。有意な差は、星印(ヨンキー・テラプストラ検定(Jonckheere-Terpstra test)、* p<0.05、** p<0.01及び*** p<0.001)で表示した。
【0061】
図5から確認できるように、ヒートマップに見られたのと同様に、飽和SM含有量は、等級による脂肪症、小葉内炎症、風船様変形及び線維化の重症度によって、特に非肥満患者において著しく増加した。これに対し、肥満患者の飽和SM含有量は、脂肪症等級測定の場合を除けば、NAFLDの組織学的重症度の測定と関連して段階的に増加しなかった。線維症段階はまた、肥満に関係なく、飽和SM含有量と段階的な連関性がなかった。
【0062】
飽和SM含有量は、肥満のNAFL及びNASHよりは非肥満患者におけるNAFL及びNASHの診断性能を向上させるのに有用であり、非肥満成人NAFLD患者に特に不要な肝生検を予防することができる。
【0063】
実施例5:循環飽和SM含有量を用いた非肥満NAFLD予測
前記飽和SM含有量(SM d36:0、SM d38:0及びSM d40:0)の組合せの診断性能を評価してNAFLDの組織学的重症度を予測するために、95% CIを有するAUROCを、非肥満グループと肥満グループとに分けて表3及び図6に示した。
【表3】
【0064】
図6Aから確認できるように、非肥満グループにおいて脂肪症1、2及び3(S1-3)に対するAUROCは、0.644、0.789及び0.868であった。肥満グループにおいてS1、S2及びS3のAUROCは、0.679、0.670及び0.809であった。
【0065】
図6Bから確認できるように、小葉内炎症の場合、非肥満グループにおいて小葉内炎症に対するAUROCは、0.613(点数1)及び0.812(点数2)であり、AUROCは肥満グループにおいて0.561及び0.666であった。
【0066】
図6Cから確認できるように、風船様変形の場合、非肥満グループにおいて風船様変形に対するAUROCは、0.726(点数1)及び0.793(点数2)であった。肥満グループにおいて点数1と2のAUROCはそれぞれ、0.613及び0.643であった。
【0067】
全般的に、非肥満グループの組織学的重症度に基づくROC曲線は、肥満グループに比べて有意に高いAUROCを示した。
【0068】
図7から確認できるように、NAFLDのない患者においてNASH又はNAFLを持つ対象を効果的に区別するために、AUROCは、AST、ALT及びGGT含有量(モデル1)又は飽和SM(SM d36:0、SM d38:0及びSM d40:0)をAST、ALT及びGGT含有量(モデル2)の組合せで調整した。AUROCのペアワイズ(pairwise)比較のためのP-値は、DeLongテストを用いて提供した。
【表4】
【0069】
表4から確認できるように、非肥満グループにおいてNAFLDとNAFLを比較したモデル1及びモデル2のAUROCは、0.720及び0.833(AUROCs比較時にp=0.011)であった。血清飽和SMが血清AST、ALT及びGGTの組合せに追加されるとき、非肥満グループにおいてNAFL及びNASHを区別する診断性能は有意に向上した。
【0070】
NAFLDとNASHを比較したモデル1とモデル2のAUROCにおいて0.823及び0.914(AUROCs比較時にp=0.033)であった。肥満グループにおいてNAFLD及びNAFLを比較したモデル1及びモデル2のAUROCは、0.785及び0.781であった(AUROCs比較時にp=0.866)。NAFLDとNASHを比較したモデル1及びモデル2のAUROCは、0.928及び0.960(AUROCs比較のためのp=0.059)であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、非アルコール脂肪肝疾患の組織学的重症度診断又は予後測定に関する情報提供方法に関し、より詳細には、飽和スフィンゴミエリンの含有量を測定して非アルコール脂肪肝疾患の重症度に関連した危険度増加の有無を確認する方法に関する。

図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7