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特許7111917グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体の全てに対して活性を有する三重活性体又はその結合体の肝疾患に対する治療的使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体の全てに対して活性を有する三重活性体又はその結合体の肝疾患に対する治療的使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20220726BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220726BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220726BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220726BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220726BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61K47/68
A61P1/16
A61P3/00
A61P29/00
A61P35/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021578001
(86)(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 KR2020008479
(87)【国際公開番号】W WO2020263063
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0077776
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0004386
(32)【優先日】2020-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0004379
(32)【優先日】2020-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0069219
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】クウォン ヒョン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュン クク
(72)【発明者】
【氏名】パク ウン ジン
(72)【発明者】
【氏名】リー ジョン ミン
(72)【発明者】
【氏名】リー ジョン スク
(72)【発明者】
【氏名】チョ ヒョ サン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ イン ヨン
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-515229(JP,A)
【文献】特表2019-504055(JP,A)
【文献】特表2019-504057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/17
A61K 47/68
A61P 1/16
A61P 3/00
A61P 29/00
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝疾患の予防又は治療のための薬学的組成物であって、
薬学的に許容される賦形剤と、
薬学的有効量の配列番号42のアミノ酸配列を有するペプチドとみ、
前記肝疾患は、単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝(NAFL)、肝炎症、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、代謝性肝疾患、胆汁鬱滞性肝疾患、肝線維症、肝硬変、肝不全及び肝癌からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、薬学的組成物。
【請求項2】
前記ペプチドは、持続型結合体の形態であり、前記持続型結合体は、下記化学式(1)で表される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【化1】
ここで、Xは配列番号42のアミノ酸配列のペプチドであり、
Lはエチレングリコールの繰り返し単位を含有するリンカーであり、
Fは免疫グロブリンFcフラグメント又はその誘導体であり、
-はXとL間、LとF間の共有結合連結を示す。
【請求項3】
前記ペプチドは、そのC末端がアミド化されたものである、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記肝疾患は肝炎症である、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記薬学的組成物は、投与されると肝組織内のTNF-α、MCP-1、及びIL-6の少なくとも1つの発現を減少させることを特徴とする、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記肝疾患は代謝性肝疾患である、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記薬学的組成物は、投与されると肝組織内のトリグリセリド及び/又はコレステロール量を減少させることを特徴とする、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記肝疾患は、単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝(NAFL)、肝炎症、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、胆汁鬱滞性肝疾患、肝線維症、肝硬変、肝不全及び肝癌からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記胆汁鬱滞性肝疾患は、原発性胆汁性肝硬変症(Primary biliary cirrhosis)、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかである、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記肝疾患は、脂肪肝、肝線維症又は肝硬変を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)である、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記肝疾患は、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)による肝癌である、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記肝疾患は、単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝(NAFL)及び肝硬変からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記肝疾患は、肝炎症、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)及び肝線維症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記肝疾患は肝線維症であり、前記薬学的組成物は、投与されると投与された個体においてTIMP-1及び/又はヒアルロン酸の血中濃度を低下させることを特徴とする、請求項13に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記L内のエチレングリコールの繰り返し単位部分の化学式量は、1~100kDaの範囲にある、請求項2に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体の全てに対して活性を有する三重活性体又はその結合体の肝疾患に対する治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は動物の主要生体器官の一つであり、肝臓に関連する疾患としては、非アルコール性脂肪肝、肝炎、肝線維症、胆汁鬱滞性肝疾患、肝硬変、肝不全、肝癌などが代表的に挙げられる。ウイルス、アルコール、薬物、免疫異常、代謝疾患などの原因で肝臓に炎症が生じ、肝炎症の進行及び慢性化により肝線維症、肝硬変、肝癌などの疾患が発症することが知られている。
【0003】
一般に、肝臓に炎症が生じる肝炎が肝疾患の大部分を占め、肝炎症が進行すると、肝炎症を伴うか、肝炎症が原因となる様々な肝疾患(肝線維症、硬変など)が発症することが知られている。肝炎症の様相によって急性肝炎、慢性肝炎、原因によってウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、薬物性肝炎などに分けられる。胆汁鬱滞性肝疾患(cholestasis liver disease)も、炎症性疾患が原因となって発生するものと推定されている。
【0004】
肝疾患の代表的な例としては、脂肪肝、非アルコール性脂肪肝疾患、脂肪肝炎などの代謝性肝疾患、肝線維症、肝硬変症、肝不全、肝癌などが挙げられる。このような肝疾患は、初期に自覚症状がないためかなり進行が進んでから発見されるので、韓国だけでなく、世界的に死亡原因の首位を占めており、薬物の開発が強く求められている。
【0005】
肝線維症は、反復的な肝損傷に対する損傷回復過程の結果であるので、肝損傷の原因が消失すると正常に回復するが、肝線維症過程が反復的に続いて肝線維化が進むと、肝硬変症(cirrhosis)が起こる。肝硬変症は、病理学的には肝細胞の壊死、炎症及び線維化を伴う慢性疾患であり、究極的には肝不全(liver decompensation)などの肝硬変合併症、肝癌などの疾患に進行し、死亡に至る。特に、初期に自覚症状がないためかなり進行が進んでから発見されるので、肝硬変などに進行する前の状態である肝線維症を迅速に治療する方法を開発するための研究が盛んに行われている。近年、クノス博士チームが脳に浸透するカンナビノイド1型(CB1)受容体拮抗薬の一種であるイビピナパント(ibipinapant)を化学的に改良した薬物を報告しているが、依然として実際の薬物としての効果は未知数である(非特許文献1)。よって、患者の利便性を確保することができ、副作用を伴うことなく、様々な組織の線維症又は肝線維症を治療することのできる薬物の開発が依然として求められている。
【0006】
代謝性肝疾患である非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD, nonalcoholic steatohepatitis disease)は、アルコール摂取と関連がないにも関わらずアルコール性肝炎に類似した組織所見を示す疾患の一種であり、単純性脂肪肝(simple steatosis)、非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver, NAFL)、非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis, NASH)などが含まれる疾患である。非アルコール性脂肪肝疾患は、肥満及び糖尿病の人口が増加するにつれて増加する傾向にあり、韓国においても年間発症率が約16%に達している。
【0007】
このような非アルコール性脂肪肝疾患を予防及び/又は治療するために、インスリン抵抗性を改善すべく多くの努力がなされている。例えば、インスリン感受性改善薬(insulin sensitizer)の一種であるTZD(thiazolidnedinones)やメトホルミンの臨床試験は現在も盛んに行われている(非特許文献2)。
【0008】
しかし、TZD系の薬物を用いた治療には、体重増加が大きく、体液の流れを遅くするという欠点があるので、心臓疾患の患者には適用できないことが知られている。これらの結果からも分かるように、インスリン抵抗性改善薬などの糖尿病治療に効果があることが知られている薬物を非アルコール性脂肪肝疾患の治療剤としてそのまま用いると副作用などの問題が生じることが当該技術分野で様々に知られている。
【0009】
一方、マクロファージは、肝臓における重要な免疫反応を担い、非アルコール性脂肪肝炎をはじめとする非アルコール性脂肪肝疾患に関与することが知られている(非特許文献3)。具体的には、非アルコール性脂肪肝疾患の患者においてはマクロファージが活性化されているので、そのマクロファージをターゲットとする薬物が肝臓における炎症及び線維化を抑制し、非アルコール性脂肪肝炎に対する治療効能を示すことが知られている。
【0010】
GLP-1(Glucagon-like peptide-1)及びGIP(Glucose-dependent insuliontropic polypeptide)は、代表的な胃腸ホルモンであると共に、神経ホルモンとして食物摂取による血中の糖成分の調節に関与する物質である。グルカゴン(Glucagon)は、膵臓から分泌されるペプチドホルモンであり、前述した2つの物質と共に血中糖濃度の調節作用に関与する。
【0011】
GLP-1は、食物摂取に刺激されて小腸から分泌されるホルモンであり、血糖濃度依存的に膵臓からのインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制することにより、血糖濃度を低くする作用がある。また、満腹因子として作用し、胃腸の消化作用を遅らせて食品消化物の胃腸通過時間を遅延させることにより、食物摂取を減らす役割を果たす。さらに、マウスに投与すると食品摂取抑制及び体重減少効果があることが報告されており、これらの効果は正常及び肥満状態の両方において同様に発揮されることが確認されており、肥満治療剤としての可能性が示唆されている。
【0012】
GLP-1と共に食品摂取に刺激されて分泌される胃腸ホルモンの一つであるGIPは、小腸のK細胞から分泌される42個のアミノ酸から構成されるホルモンであり、血糖濃度依存的に膵臓からのインスリン分泌を促進することにより、血糖濃度を低くする機能を果たし、GLP-1の活性増加効果なども報告されている。
【0013】
グルカゴンは、薬物治療や、疾病、ホルモン、酵素欠乏などの原因で血糖値が下がり始めると膵臓から産生される。グルカゴンは、肝臓にシグナルを送り、グリコーゲンを分解してグルコースを放出するように働きかけ、血糖レベルを正常レベルまで引き上げる役割を果たす。それだけでなく、グルカゴンは、血糖上昇効果以外に、動物とヒトにおいて食欲を抑制し、脂肪細胞のホルモン感受性リパーゼ(hormone sensitive lipase)を活性化して脂肪分解を促進し、エネルギー代謝(energy expenditure)を促進することにより、抗肥満効果を示すことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第97/034631号
【文献】国際公開第96/032478号
【非特許文献】
【0015】
【文献】JCI Insight. 2016;1(11):e87336.doi:10.1172/jci.insight.87336
【文献】Hepatology(2003) 38:1008-17, J Clin Invest. (2001) 108:1167-74
【文献】Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2019 Mar;16(3):145-159.
【文献】H.Neurath, R.L.Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979
【文献】G.J. Webb et al, J. Autoimmunity, 2015 Nov; 64: 42-52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、グルカゴン受容体、GLP-1(Glucagon-like peptide-1)受容体及びGIP(Glucose-dependent insuliontropic polypeptide)受容体に対して活性を有するペプチド又はその結合体を含む、肝疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、前記ペプチド又はそれを含む組成物を必要とする個体に前記ペプチド又はそれを含む組成物を投与するステップを含む、肝疾患の予防又は治療方法を提供することを目的とする。
【0018】
さらに、本発明は、肝疾患の予防又は治療のための薬剤の製造における、前記ペプチド又はそれを含む組成物の使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一実施態様は、グルカゴン受容体、GLP-1(Glucagon-like peptide-1)受容体及びGIP(Glucose-dependent insuliontropic polypeptide)受容体に対して活性を有するペプチド又はその結合体を含む、肝疾患の予防又は治療用薬学的組成物である。
【0020】
一具体例において、肝疾患の予防又は治療のための薬学的組成物であって、薬学的に許容される賦形剤と、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドとを薬学的有効量で含むことを特徴とする。
【0021】
他の具体例において、前記ペプチドは、持続型結合体の形態であり、前記持続型結合体は、化学式(1)で表されることを特徴とする。
【0022】
X-L-F・・・(1)
【0023】
ここで、Xは配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列のペプチドであり、Lはエチレングリコールの繰り返し単位を含有するリンカーであり、Fは免疫グロブリンFcフラグメント又はその誘導体であり、-はXとL間、LとF間の共有結合連結を示す。
【0024】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、そのC末端がアミド化されたものであることを特徴とする。
【0025】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記肝疾患は肝炎症であることを特徴とする。
【0026】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記薬学的組成物は、投与されると肝組織内のTNF-α、MCP-1、IL-6の少なくとも1つの発現を減少させることを特徴とする。
【0027】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記肝疾患は代謝性肝疾患であることを特徴とする。
【0028】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記薬学的組成物は、投与されると肝組織内のトリグリセリド及び/又はコレステロール量を減少させることを特徴とする。
【0029】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記肝疾患は、単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝、肝炎症、非アルコール性脂肪肝炎、胆汁鬱滞性肝疾患(cholestasis liver disease)、肝線維症、肝硬変、肝不全及び肝癌からなる群から選択される少なくとも1つの疾患であることを特徴とする。
【0030】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記胆汁鬱滞性肝疾患は、原発性胆汁性肝硬変症(Primary biliary cirrhosis)、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかであることを特徴とする。
【0031】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記肝疾患は、脂肪肝、肝線維症又は肝硬変を伴う非アルコール性脂肪肝炎であることを特徴とする。
【0032】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記肝疾患は、非アルコール性脂肪肝炎による肝癌であることを特徴とする。
【0033】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記肝疾患は、単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝及び肝硬変からなる群から選択される少なくとも1つの疾患であることを特徴とする。
【0034】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記肝疾患は、肝炎症、非アルコール性脂肪肝炎及び肝線維症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患であることを特徴とする。
【0035】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記肝疾患は肝線維症であり、前記薬学的組成物は、投与されると投与された個体においてTIMP-1及び/又はヒアルロン酸の血中濃度を低下させることを特徴とする。
【0036】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、配列番号21、22、42、43、50、64、66、67、70、71、76、77、96、97及び100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0037】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、配列番号21、22、42、43、50、66、67、77、96、97及び100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0038】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、配列番号21、22、42、43、50、77及び96からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0039】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記L内のエチレングリコールの繰り返し単位部分の化学式量は、1~100kDaの範囲にあることを特徴とする。
【0040】
本発明の他の実施態様は、前記ペプチド又はそれを含む組成物を必要とする個体に前記ペプチド又はそれを含む組成物を投与するステップを含む、肝疾患の予防又は治療方法である。
【0041】
本発明のさらに他の実施態様は、肝疾患の予防又は治療のための薬剤の製造における、前記ペプチド又はそれを含む組成物の使用である。
【0042】
本発明のさらに他の実施態様は、肝疾患の予防又は治療のための前記ペプチド又はそれを含む組成物の使用である。
【発明の効果】
【0043】
本発明による三重活性体又はその結合体は、肝疾患の予防又は治療用途を有する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】MCD食摂取により誘導したNASHマウスモデルにおいて配列番号42の持続型結合体を2日に1回、28日間投与したマウスのNAS score変化結果を示す図である(p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, vs. vehicle by One-way ANOVA)。
図2】AMLN食により誘導した脂肪肝炎マウスにおいて配列番号42の持続型結合体による脂肪肝改善効果を確認した結果を示す図である。
図3】AMLN食により誘導した脂肪肝炎マウスにおいて配列番号42の持続型結合体によるsteatosis score低下効果を確認した結果を示す図である。
図4】TAA投与により誘導した肝線維症マウスモデルにおける配列番号42の持続型結合体の投与によるELF score変化結果を示す図である(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, vs. vehicle by One-way ANOVA)。
図5】TAA投与により誘導した肝線維症マウスモデルにおける配列番号42の持続型結合体の投与による肝組織内のsirius red染色の陽性面積(positive area)の面積変化を示す図である(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, vs. vehicle by One-way ANOVA)。
図6】BDLにより誘導した肝線維症マウスモデルにおける配列番号42の持続型結合体の投与による血中肝線維症マーカーの濃度変化を示す図である(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, vs. vehicle by One-way ANOVA, †††p<0.01 vs. obeticholic acid by unpaired t-test)。
図7a】BDLにより誘導した肝線維症マウスモデルにおける配列番号42の持続型結合体の投与によるsirius red染色結果を示す図である。
図7b】BDLにより誘導した肝線維症マウスモデルにおける配列番号42の持続型結合体の投与による肝組織の線維症スコア(fibrosis score)を示す図である(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, vs. vehicle by One-way ANOVA)。
図8】PBCマウスモデルにおける配列番号42の持続型結合体の投与によるH&E染色及び肝組織のinflammation score変化を示す図である(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, vs. vehicle by One-way ANOVA)。
図9】PSCマウスモデルにおける配列番号42の持続型結合体の投与によるH&E染色及び肝組織のparenchmal necrosis score変化を示す図である(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, vs. vehicle by One-way ANOVA)。
図10】PSCマウスモデルにおける配列番号42の持続型結合体の投与によるbile duct hyperplasia score変化を示す図である(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, vs. vehicle by One-way ANOVA)。
図11】配列番号42の持続型結合体の投与による肝組織内の炎症関連サイトカイン発現変化を示す図である(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, vs. vehicle by One-way ANOVA)。
図12】ヒトマクロファージ株において配列番号42、66、67、97及び100の三重活性体によるヒト腫瘍壊死因子α(TNF-α)減少効果を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0046】
なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0047】
本明細書全体を通して、天然に存在するアミノ酸に対する通常の1文字及び3文字コードが用いられるだけでなく、Aib(α-アミノイソブチル酸)、Sar(N-methylglycine)、α-メチルグルタミン酸(α-methyl-glutamic acid)などの他のアミノ酸に対して一般に許容される3文字コードが用いられる。また、本明細書において略語で言及したアミノ酸は、IUPAC-IUB命名法に従って記載したものである。
アラニン Ala,A
アルギニン Arg,R
アスパラギン Asn,N
アスパラギン酸 Asp,D
システイン Cys,C
グルタミン酸 Glu,E
グルタミン Gln,Q
グリシン Gly,G
ヒスチジン His,H
イソロイシン Ile,I
ロイシン Leu,L
リシン Lys,K
メチオニン Met,M
フェニルアラニン Phe,F
プロリン Pro,P
セリン Ser,S
トレオニン Thr,T
トリプトファン Trp,W
チロシン Tyr,Y
バリン Val,V
【0048】
本発明の一実施態様は、グルカゴン受容体、GLP-1(Glucagon-like peptide-1)受容体及びGIP(Glucose-dependent insuliontropic polypeptide)受容体に対して活性を有するペプチド、具体的には配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドを含む、肝疾患の予防又は治療用薬学的組成物である。
【0049】
前記「グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチド」は、本発明において三重活性体と混用される。
【0050】
このようなペプチドには、グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体に対して有意なレベルの活性を有する様々な物質、例えば様々なペプチドが含まれる。
【0051】
前記グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体に対して有意なレベルの活性を有する三重活性体は、グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体のうち1つ又はそれ以上の受容体、具体的には2つ又はそれ以上の受容体、より具体的には3つの受容体の全てに対するin vitro活性が、当該受容体の天然リガンド(天然グルカゴン、天然GLP-1及び天然GIP)に比べて、約0.001%以上、約0.01%以上、約0.1%以上、約1%以上、約2%以上、約3%以上、約4%以上、約5%以上、約6%以上、約7%以上、約8%以上、約9%以上、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約100%以上であるが、有意に増加する範囲であれば特にこれらに限定されるものではない。
【0052】
ここで、受容体に対する活性は、天然のものに比べて、受容体に対するin vitro活性が0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、約200%以上である例が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0053】
本発明における「約」とは、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1などが全て含まれる範囲であり、約という用語の後に続く数値と同等又は同程度の範囲の数値が全て含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
このような三重活性体のin vitro活性を測定する方法を本願明細書の実施例1に示すが、特にこれに限定されるものではない。
【0055】
一方、前記ペプチドは、次のi)~iii)の1つ以上、2つ以上、特に3つの活性を有すること、具体的には有意な活性を有することを特徴とする。
i)GLP-1受容体の活性化
ii)グルカゴン受容体の活性化
iii)GIP受容体の活性化
【0056】
ここで、受容体を活性化するとは、天然のものに比べて、受容体に対するin vitro活性を約0.1%以上、約1%以上、約2%以上、約3%以上、約4%以上、約5%以上、約6%以上、約7%以上、約8%以上、約9%以上、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約100%以上にすることを意味する。しかし、これらに限定されるものではない。
【0057】
また、前記ペプチドは、天然GLP-1、天然グルカゴン及び天然GIPのいずれかに比べて、体内半減期が延長されたものであるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0058】
このような前記ペプチドは、非自然発生の(non-naturally occurring)ものであってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0059】
前記ペプチドは、天然グルカゴンのアナログであってもよいが、特にこれに限定されるものではない。具体的には、前記天然グルカゴンのアナログには、天然グルカゴンと比較してアミノ酸配列に少なくとも1つの差異のあるペプチド、天然グルカゴン配列を修飾(modification)することにより改変されたペプチド、天然グルカゴンの模倣体が含まれる。
【0060】
一方、天然グルカゴンは、次のアミノ酸配列を有するが、特にこれに限定されるものではない。
His-Ser-Gln-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Tyr-Ser-Lys-Tyr-Leu-Asp-Ser-Arg-Arg-Ala-Gln-Asp-Phe-Val-Gln-Trp-Leu-Met-Asn-Thr(配列番号118)
【0061】
具体的には、前記ペプチドは、天然グルカゴン配列において少なくとも1つのアミノ酸の置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)、修飾(modification)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される改変が行われた天然グルカゴンのアナログであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0062】
また、前記アミノ酸の置換には、アミノ酸への置換や、非天然化合物への置換が全て含まれる。
【0063】
さらに、付加は、ペプチドのN末端及び/又はC末端において行われてもよい。なお、付加されるアミノ酸は、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上のアミノ酸の長さであってもよいが、特にこれらに限定されるものではなく、広義にはポリペプチドの付加が含まれるが、特にこれに限定されるものではない。
【0064】
より具体的には、前記ペプチドは、天然グルカゴンのアミノ酸配列において、1番、2番、3番、7番、10番、12番、13番、14番、15番、16番、17番、18番、19番、20番、21番、23番、24番、27番、28番及び29番からなる群から選択される、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、16個以上、17個以上、18個以上、19以上又は20個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものであってもよく、また、独立して又は追加でそのC末端に1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上のアミノ酸が付加されたものであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0065】
より具体的には、前記ペプチドは、天然グルカゴンのアミノ酸配列において、1番、2番、3番、10番、12番、13番、14番、15番、16番、17番、18番、19番、20番、21番、23番、24番、27番、28番及び29番からなる群から選択される、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、16個以上、17個以上、18個以上、19個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものであってもよく、また、独立して又は追加でそのC末端に1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上又は11個以上のアミノ酸が付加されたものであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0066】
より具体的には、前記ペプチドは、天然グルカゴンのアミノ酸配列において、1番、2番、3番、10番、13番、14番、15番、16番、17番、18番、19番、20番、21番、23番、24番、28番及び29番からなる群から選択される、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、16個以上、17個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものであってもよく、また、独立して又は追加でそのC末端に1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上又は11個以上のアミノ酸が付加されたものであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0067】
より具体的には、前記ペプチドは、天然グルカゴンのアミノ酸配列において、1番、2番、13番、16番、17番、18番、19番、20番、21番、23番、24番、27番、28番及び29番からなる群から選択される、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上又は14個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものであってもよく、また、独立して又は追加でそのC末端に1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上のアミノ酸が付加されたものであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0068】
前述したように導入されるアミノ酸は、チロシン、α-メチルグルタミン酸、Aib、メチオニン、グルタミン酸、ヒスチジン、リシン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、バリン、グリシン、アラニン、システイン、セリン、アラニン、アスパラギン酸及びアルギニンからなる群から選択されてもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0069】
例えば、前述したように付加されるアミノ酸配列は、天然GLP-1、天然GIP又は天然エキセンジン-4のアミノ酸配列に由来する1つ以上のアミノ酸配列であってもよい。
【0070】
このようなペプチドは、分子内架橋(intramolecular bridge)を含んでもよく(例えば、共有結合的架橋又は非共有結合的架橋)、具体的には環を含む形態であってもよい。例えば、ペプチドの16番目のアミノ酸と20番目のアミノ酸間に環が形成された形態であってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0071】
前記環の例として、ラクタム架橋(又はラクタム環)が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0072】
また、前記ペプチドには、目的とする位置に環を形成するアミノ酸を含むことにより環を含むように改変されたものが全て含まれる。
【0073】
例えば、ペプチドの16番目と20番目のアミノ酸対がそれぞれ環を形成するグルタミン酸又はリシンに置換されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0074】
このような環は、前記ペプチド内のアミノ酸側鎖間に形成され、例えばリシンの側鎖とグルタミン酸の側鎖間にラクタム環が形成される形態であてもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0075】
前記方法の組み合わせにより作製されるペプチドの例として、天然グルカゴンとアミノ酸配列が少なくとも1つ異なり、N末端のアミノ酸残基のα炭素が除去された、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、アナログ作製のための様々な方法の組み合わせにより、本発明に用いられるペプチドを作製することができる。
【0076】
また、本発明のペプチドは、活性体分解酵素の認識作用を回避して体内半減期を延長させるために、一部のアミノ酸を他のアミノ酸又は非天然化合物に置換するが、特にこれらに限定されるものではない。
【0077】
具体的には、前記ペプチドのアミノ酸配列のうち2番目のアミノ酸配列の置換により、分解酵素の認識作用を回避して体内半減期を延長させたペプチドであってもよいが、体内の分解酵素の認識作用を回避するためのアミノ酸の置換又は変更であればいかなるものでもよい。
【0078】
また、ペプチドの作製のためのこのような改変には、L型もしくはD型アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸を用いた改変、並びに/又は天然配列の修飾、例えば側鎖官能基の改変、分子内の共有結合、一例として側鎖間の環形成、メチル化、アシル化、ユビキチン化、リン酸化、アミノヘキサン化、ビオチン化などの修飾による改変が全て含まれる。
【0079】
さらに、天然グルカゴンのN及び/又はC末端に少なくとも1つのアミノ酸が付加されたものが全て含まれる。
【0080】
前記置換されるか、付加されるアミノ酸としては、ヒトタンパク質において通常観察される20種のアミノ酸だけでなく、異常又は非自然発生アミノ酸を用いることができる。異常アミノ酸の市販元には、Sigma-Aldrich、ChemPep、Genzyme pharmaceuticalsが含まれる。これらのアミノ酸が含まれるペプチドと定型的なペプチド配列は、民間のペプチド合成会社、例えば米国のAmerican peptide companyやBachem、又は韓国のAnygenにおいて合成及び購入することができる。
【0081】
アミノ酸誘導体も同じ方式で入手することができ、一例として4-イミダゾ酢酸(4-imidazoacetic acid)などが挙げられる。
【0082】
また、本発明によるペプチドは、生体内のタンパク質切断酵素から保護して安定性を向上させるために、そのN末端及び/又はC末端などが化学的に修飾された形態、有機基により保護された形態、又はペプチド末端などにアミノ酸が付加されて改変された形態であってもよい。
【0083】
特に、化学的に合成したペプチドの場合、N及びC末端が電荷を帯びているので、その電荷を除去するために、N末端のアセチル化(acetylation)及び/又はC末端のアミド化(amidation)を行ってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0084】
また、本発明によるペプチドには、ペプチド自体、その塩(例えば、前記ペプチドの薬学的に許容される塩)又はその溶媒和物の形態が全て含まれる。さらに、ペプチドは、薬学的に許容されるものであれば、いかなる形態であってもよい。
【0085】
前記塩の種類は、特に限定されるものではない。もっとも、個体、例えば哺乳類に安全かつ効果的な形態であることが好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0086】
前記「薬学的に許容される」とは、医薬学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、アレルギー反応などを誘発することなく所望の用途に効果的に使用できる物質を意味する。
【0087】
本発明における「薬学的に許容される塩」には、薬学的に許容される無機酸、有機酸又は塩基から誘導された塩が含まれる。好適な酸の例としては、塩酸、臭素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸などが挙げられる。好適な塩基から誘導された塩には、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニウムなどが含まれる。
【0088】
また、本発明における「溶媒和物」とは、本発明によるペプチド又はその塩が溶媒分子と複合体を形成したものを意味する。
【0089】
前記ペプチドの他の例として、一般式1で表されるアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。
【0090】
Xaa1-Xaa2-Xaa3-Gly-Thr-Phe-Xaa7-Ser-Asp-Xaa10-Ser-Xaa12-Xaa13-Xaa14-Xaa15-Xaa16-Xaa17-Xaa18-Xaa19-Xaa20-Xaa21-Phe-Xaa23-Xaa24-Trp-Leu-Xaa27-Xaa28-Xaa29-Xaa30-R1(一般式1,配列番号103)
【0091】
一般式1において、Xaa1はヒスチジン、4-イミダゾアセチル又はチロシンであり、Xaa2はグリシン、α-メチルグルタミン酸又はAibであり、Xaa3はグルタミン酸又はグルタミンであり、Xaa7はトレオニン又はイソロイシンであり、Xaa10はロイシン、チロシン、リシン、システイン又はバリンであり、Xaa12はリシン、セリン又はイソロイシンであり、Xaa13はグルタミン、チロシン、アラニン又はシステインであり、Xaa14はロイシン、メチオニン又はチロシンであり、Xaa15はシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸又はロイシンであり、Xaa16はグリシン、グルタミン酸又はセリンであり、Xaa17はグルタミン、アルギニン、イソロイシン、グルタミン酸、システイン又はリシンであり、Xaa18はアラニン、グルタミン、アルギニン又はヒスチジンであり、Xaa19はアラニン、グルタミン、システイン又はバリンであり、Xaa20はリシン、グルタミン又はアルギニンであり、Xaa21はグルタミン酸、グルタミン、ロイシン、システイン又はアスパラギン酸であり、Xaa23はイソロイシン又はバリンであり、Xaa24はアラニン、グルタミン、システイン、アスパラギン、アスパラギン酸又はグルタミン酸であり、Xaa27はバリン、ロイシン又はリシンであり、Xaa28はシステイン、リシン、アラニン、アスパラギン又はアスパラギン酸であり、Xaa29はシステイン、グリシン、グルタミン、トレオニン、グルタミン酸又はヒスチジンであり、Xaa30はシステイン、グリシン、リシンもしくはヒスチジンであるか、又は存在せず、R1はシステイン、GKKNDWKHNIT(配列番号106)、m-SSGAPPPS-n(配列番号107)もしくはm-SSGQPPPS-n(配列番号108)であるか、又は存在せず、ここで、mは-Cys-、-Pro-又は-Gly-Pro-であり、nは-Cys-、-Gly-、-Ser-もしくは-His-Gly-であるか、又は存在しない。
【0092】
前記三重活性体の例として、配列番号1~11、13~102からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、配列番号1~11、13~102からなる群から選択されるアミノ酸配列(必須)からなるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
また、本発明に特定配列番号で「表される」ペプチドと記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、当該配列番号のアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加、自然発生する突然変異、又はその非表現突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、このような配列付加又は突然変異を有するものも本発明に含まれることは言うまでもない。
【0094】
以上の内容は、本発明の他の具体例又は他の態様にも適用されるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
具体的には、一般式1において、Xaa14はロイシン又はメチオニンであり、Xaa15はシステイン、アスパラギン酸又はロイシンである。
【0096】
このようなペプチドの例として、配列番号1~11、14~17及び21~102からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、当該アミノ酸配列(必須)からなるペプチドが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0097】
このようなペプチドは、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体の少なくとも1つを有意に活性化させることができるが、特にこれらに限定されるものではない。具体的には、GLP-1を有意に活性化させるものであるか、さらにグルカゴン受容体及び/又はGIP受容体を有意に活性化させるものであるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0098】
より具体的には、一般式1において、Xaa2はグリシン、α-メチルグルタミン酸又はAibであり、Xaa7はトレオニンであり、Xaa10はチロシン、システイン又はバリンであり、Xaa12はリシン又はイソロイシンであり、Xaa13はチロシン、アラニン、グルタミン又はシステインであり、Xaa14はロイシン、システイン又はメチオニンであり、Xaa15はシステイン、ロイシン、グルタミン酸又はアスパラギン酸であり、Xaa17はグルタミン、アルギニン、イソロイシン、システイン、グルタミン酸又はリシンであり、Xaa18はアラニン、グルタミン、アルギニン又はヒスチジンであり、Xaa19はアラニン、グルタミン、バリン又はシステインであり、Xaa20はリシン、アルギニン又はグルタミンであり、Xaa21はグルタミン酸、グルタミン、ロイシン、システイン又はアスパラギン酸であり、Xaa23はイソロイシン又はバリンであり、Xaa24はシステイン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸又はアスパラギン酸であり、Xaa27はロイシン又はリシンであるペプチドであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0099】
より具体的には、一般式1において、Xaa2はグリシン、α-メチルグルタミン酸又はAibであり、Xaa7はトレオニンであり、Xaa10はチロシン、システイン又はバリンであり、Xaa12はリシン又はイソロイシンであり、Xaa13はチロシン、アラニン又はシステインであり、Xaa14はロイシン又はメチオニンであり、Xaa15はシステイン又はアスパラギン酸であり、Xaa17はグルタミン、アルギニン、イソロイシン、システイン又はリシンであり、Xaa18はアラニン、アルギニン又はヒスチジンであり、Xaa19はアラニン、グルタミン又はシステインであり、Xaa20はリシン又はグルタミンであり、Xaa21はグルタミン酸、システイン又はアスパラギン酸であり、Xaa23はバリンであり、Xaa24はアラニン、グルタミン、システイン、アスパラギン又はアスパラギン酸であり、Xaa27はロイシン又はリシンであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0100】
より具体的には、一般式1において、Xaa2はα-メチルグルタミン酸又はAibであり、Xaa7はトレオニンであり、Xaa10はチロシン又はシステインであり、Xaa12はリシン又はイソロイシンであり、Xaa13はチロシン、アラニン又はシステインであり、Xaa14はロイシン又はメチオニンであり、Xaa15はシステイン又はアスパラギン酸であり、Xaa16はグルタミン酸であり、Xaa17はアルギニン、イソロイシン、システイン又はリシンであり、Xaa18はアラニン、アルギニン又はヒスチジンであり、Xaa19はアラニン、グルタミン又はシステインであり、Xaa20はリシン又はグルタミンであり、Xaa21はグルタミン酸又はアスパラギン酸であり、Xaa23はバリンであり、Xaa24はグルタミン、アスパラギン又はアスパラギン酸であり、Xaa27はロイシンであり、Xaa28はシステイン、アラニン、アスパラギン又はアスパラギン酸であってもよい。
【0101】
具体的には、一般式1において、Xaa1はヒスチジン又は4-イミダゾアセチルであり、Xaa2はα-メチルグルタミン酸又はAibであり、Xaa3はグルタミンであり、Xaa7はトレオニンであり、Xaa10はチロシンであり、Xaa12はイソロイシンであり、Xaa13はアラニン又はシステインであり、Xaa14はメチオニンであり、Xaa15はアスパラギン酸であり、Xaa16はグルタミン酸であり、Xaa17はイソロイシン又はリシンであり、Xaa18はアラニン又はヒスチジンであり、Xaa19はグルタミン又はシステインであり、Xaa20はリシンであり、Xaa21はアスパラギン酸であり、Xaa23はバリンであり、Xaa24はアスパラギンであり、Xaa27はロイシンであり、Xaa28はアラニン又はアスパラギンであり、Xaa29はグルタミン又はトレオニンであり、Xaa30はシステインもしくはリシンであるか、又は存在しなくてもよい。
【0102】
より具体的には、一般式1において、Xaa2はグリシン、α-メチルグルタミン酸又はAibであり、Xaa3はグルタミンであり、Xaa7はトレオニンであり、Xaa10はチロシン、システイン又はバリンであり、Xaa12はリシンであり、Xaa13はチロシンであり、Xaa14はロイシンであり、Xaa15はアスパラギン酸であり、Xaa16はグリシン、グルタミン酸又はセリンであり、Xaa17はグルタミン、アルギニン、システイン又はリシンであり、Xaa18はアラニン、アルギニン又はヒスチジンであり、Xaa19はアラニン又はグルタミンであり、Xaa20はリシン又はグルタミンであり、Xaa21はグルタミン酸、システイン又はアスパラギン酸であり、Xaa23はバリンであり、Xaa24はアラニン、グルタミン又はシステインであり、Xaa27はロイシン又はリシンであり、Xaa29はグリシン、グルタミン、トレオニン又はヒスチジンであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0103】
このようなペプチドは、GLP-1受容体及びグルカゴン受容体の活性化の程度が有意に高く、GIP受容体の活性化の程度に比べて高いか、GLP-1受容体、グルカゴン受容体及びGIP受容体の活性化の程度が全て有意に高いか、GLP-1受容体及びGIP受容体の活性化の程度が有意に高く、グルカゴン受容体の活性化の程度に比べて高いものであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0104】
このようなペプチドの例として、配列番号8、9、21~37、39、42、43、49~61、64~83、85、86、88、89、91~93、95~102からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、当該アミノ酸配列(必須)からなるペプチドが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0105】
具体的な態様として、前記ペプチドは、一般式2で表されるアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0106】
Xaa1-Xaa2-Gln-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Xaa10-Ser-Lys-Xaa13-Xaa14-Xaa15-Xaa16-Xaa17-Xaa18-Xaa19-Xaa20-Xaa21-Phe-Xaa23-Xaa24-Trp-Leu-Leu-Xaa28-Xaa29-Xaa30-Xaa31-Ser-Ser-Gly-Gln-Pro-Pro-Pro-Ser-Xaa40(一般式2,配列番号104)
【0107】
前記式において、Xaa1は4-イミダゾアセチル、ヒスチジン又はチロシンであり、Xaa2はグリシン、α-メチルグルタミン酸又はAibであり、Xaa10はチロシン又はシステインであり、Xaa13はアラニン、グルタミン、チロシン又はシステインであり、Xaa14はロイシン、メチオニン又はチロシンであり、Xaa15はアスパラギン酸、グルタミン酸又はロイシンであり、Xaa16はグリシン、グルタミン酸又はセリンであり、Xaa17はグルタミン、アルギニン、イソロイシン、グルタミン酸、システイン又はリシンであり、Xaa18はアラニン、グルタミン、アルギニン又はヒスチジンであり、Xaa19はアラニン、グルタミン、システイン又はバリンであり、Xaa20はリシン、グルタミン又はアルギニンであり、Xaa21はシステイン、グルタミン酸、グルタミン、ロイシン又はアスパラギン酸であり、Xaa23はイソロイシン又はバリンであり、Xaa24はシステイン、アラニン、グルタミン、アスパラギン又はグルタミン酸であり、Xaa28はリシン、システイン、アスパラギン又はアスパラギン酸であり、Xaa29はグリシン、グルタミン、システイン又はヒスチジンであり、Xaa30はシステイン、グリシン、リシン又はヒスチジンであり、Xaa31はプロリン又はシステインであり、Xaa40はシステインであるか、又は存在しない。
【0108】
より具体的には、一般式2において、Xaa13はアラニン、チロシン又はシステインであり、Xaa15はアスパラギン酸又はグルタミン酸であり、Xaa17はグルタミン、アルギニン、システイン又はリシンであり、Xaa18はアラニン、アルギニン又はヒスチジンであり、Xaa21はシステイン、グルタミン酸、グルタミン又はアスパラギン酸であり、Xaa23はイソロイシン又はバリンであり、Xaa24はシステイン、グルタミン又はアスパラギンであり、Xaa28はシステイン、アスパラギン又はアスパラギン酸であり、Xaa29はグルタミン、システイン又はヒスチジンであり、Xaa30はシステイン、リシン又はヒスチジンであってもよい。
【0109】
このようなペプチドの例として、配列番号21、22、42、43、50、64~77及び95~102からなる群から選択されるアミノ酸配列、より具体的には配列番号21、22、42、43、50、64~77及び96~102からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、当該アミノ酸配列(必須)からなるペプチドが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0110】
具体的な態様として、前記ペプチドは、一般式3のアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0111】
Xaa1-Xaa2-Gln-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Tyr-Ser-Lys-Xaa13-Leu-Asp-Glu-Xaa17-Xaa18-Xaa19-Lys-Xaa21-Phe-Val-Xaa24-Trp-Leu-Leu-Xaa28-Xaa29-Xaa30-Xaa31-Ser-Ser-Gly-Gln-Pro-Pro-Pro-Ser-Xaa40(一般式3,配列番号105)
【0112】
一般式3において、Xaa1はヒスチジン又はチロシンであり、Xaa2はα-メチルグルタミン酸又はAibであり、Xaa13はアラニン、チロシン又はシステインであり、Xaa17はアルギニン、システイン又はリシンであり、Xaa18はアラニン又はアルギニンであり、Xaa19はアラニン又はシステインであり、Xaa21はグルタミン酸又はアスパラギン酸であり、Xaa24はグルタミン又はアスパラギンであり、Xaa28はシステイン又はアスパラギン酸であり、Xaa29はシステイン、ヒスチジン又はグルタミンであり、Xaa30はシステイン又はヒスチジンであり、Xaa31はプロリン又はシステインであり、Xaa40はシステインであるか、又は存在しなくてもよい。
【0113】
このようなペプチドの例として、配列番号21、22、42、43、50、64~71、75~77及び96~102からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、当該アミノ酸配列(必須)からなるペプチドが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0114】
また、一般式1において、R1はシステイン、GKKNDWKHNIT(配列番号106)、CSSGQPPPS(配列番号109)、GPSSGAPPPS(配列番号110)、GPSSGAPPPSC(配列番号111)、PSSGAPPPS(配列番号112)、PSSGAPPPSG(配列番号113)、PSSGAPPPSHG(配列番号114)、PSSGAPPPSS(配列番号115)、PSSGQPPPS(配列番号116)又はPSSGQPPPSC(配列番号117)であるか、又は存在しないが、特にこれらに限定されるものではない。
【0115】
また、本発明のペプチドは、その長さに応じてこの分野で周知の方法、例えば自動ペプチド合成機により合成することができ、遺伝子操作技術により産生することができる。
【0116】
具体的には、本発明のペプチドは、標準合成方法、組換え発現システム又は任意の他の当該分野の方法により作製することができる。よって、本発明によるペプチドは、例えば(a)ペプチドを固相もしくは液相法で段階的に又はフラグメント組立により合成し、最終ペプチド生成物を分離及び精製する方法、(b)ペプチドをコードする核酸作製物を宿主細胞内で発現させ、発現生成物を宿主細胞培養物から回収する方法、(c)ペプチドをコードする核酸作製物を無細胞試験管内で発現させ、発現生成物を回収する方法、又は(a)、(b)及び(c)の任意の組み合わせによりペプチドのフラグメントを得て、次にフラグメントを連結してペプチドを得ることにより当該ペプチドを回収する方法が含まれる多くの方法で合成することができる。
【0117】
具体的には、本発明による組成物は、肝疾患の予防又は治療のための薬学的組成物であって、薬学的に許容される賦形剤と、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチド、又は当該アミノ酸配列(必須)からなるペプチドとを薬学的有効量で含む薬学的組成物であってもよい。
【0118】
より具体的な例として、前記ペプチドは、配列番号21、22、42、43、50、64、66、67、70、71、76、77、96、97及び100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、もしくは当該アミノ酸配列(必須)からなるものであるか、配列番号21、22、42、43、50、66、67、77、96、97及び100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、もしくは当該アミノ酸配列(必須)からなるものであるか、又は配列番号21、22、42、43、50、77及び96からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、もしくは当該アミノ酸配列(必須)からなるものであるが、これらに限定されるものではない。また、本発明において、前記ペプチドは、持続型結合体の形態であり、前記持続型結合体は、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチドに、その生体内半減期を延長させるための生体適合性物質が結合されたものであってもよい。本発明における前記生体適合性物質は、キャリアと混用される。
【0119】
本発明における前記ペプチドの結合体は、キャリアが結合されていない前記ペプチドより効力の持続性が向上したものであり、本発明においては、このような結合体を「持続型結合体」といい、これは「結合体」と混用される。
【0120】
なお、このような結合体は、非自然発生の(non-naturally occurring)ものであってもよい。
【0121】
具体的には、前記持続型結合体は、化学式(1)で表されるものであるが、これに限定されるものではない。
【0122】
X-L-F・・・(1)
【0123】
ここで、Xは配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチドであり、Lはエチレングリコールの繰り返し単位を含有するリンカーであり、Fは免疫グロブリンFcフラグメント又はその誘導体であり、-はXとL間、LとF間の共有結合連結を示す。
【0124】
前記結合体において、FはX、すなわちグルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチド、具体的には配列番号1~102のアミノ酸配列のいずれかの配列を含むペプチドの半減期を延長させることのできる物質であり、本発明の前記結合体の一部をなす一構成である。
【0125】
前記Fは、Xに共有化学結合又は非共有化学結合により互いに結合されたものであってもよく、具体的には、Lを介して、Xに共有化学結合により互いに結合されたものであってもよい。
【0126】
具体例において、前記Fは、免疫グロブリンFcフラグメント又はその誘導体であり、より具体的には、前記免疫グロブリンFcフラグメント又はその誘導体は、IgG由来のものであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0127】
本発明における「免疫グロブリンFcフラグメント」とは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除いたものであり、重鎖定常領域2(CH2)及び/又は重鎖定常領域3(CH3)部分を含む部位を意味する。前記免疫グロブリンFcフラグメントは、本発明の結合体の一部をなす一構成であってもよい。
【0128】
本発明において、Fcフラグメントには、免疫グロブリンのパパイン消化により得られる天然配列だけでなく、その誘導体、例えば天然配列の少なくとも1つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより置換されて天然のものとは異なる配列も含まれる。
【0129】
前記Fは、2つのポリペプチド鎖がジスルフィド結合で連結されている構造であり、前記2つの鎖のうち1つの鎖の窒素原子を介してのみ連結されている構造であるが、これに限定されるものではない。前記窒素原子を介する連結は、リシンのεアミノ原子やN末端のアミノ基に還元的アミノ化により連結されるものであってもよい。
【0130】
還元的アミノ化反応とは、反応物のアミン基又はアミノ基が他の反応物のアルデヒド(すなわち、還元的アミノ化が可能な官能基)と反応してアミンを生成し、次いで還元反応によりアミン結合を形成する反応を意味し、当該技術分野で周知の有機合成反応である。
【0131】
一具体例において、前記Fは、そのN末端のプロリンの窒素原子を介して連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0132】
このような免疫グロブリンFcフラグメントは、重鎖定常領域にヒンジ(hinge)部分を含んでもよいが、これに限定されるものではない。
【0133】
本発明における免疫グロブリンFcフラグメントは、N末端に特定のヒンジ配列を含んでもよい。
【0134】
本発明における「ヒンジ配列」とは、重鎖に位置してジスルフィド結合(inter disulfide bond)により免疫グロブリンFcフラグメントの二量体を形成する部位を意味する。
【0135】
本発明における前記ヒンジ配列は、次のアミノ酸配列を有するヒンジ配列中の一部が欠失して1つのシステイン残基のみ有するように変異したものであってもよいが、これに限定されるものではない。
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号119)
【0136】
前記ヒンジ配列は、配列番号119のヒンジ配列中の8番目又は11番目のシステイン残基が欠失して1つのシステイン残基のみ含むものであってもよい。本発明のヒンジ配列は、1つのシステイン残基のみ含む、3~12個のアミノ酸からなるものであるが、これに限定されるものではない。より具体的には、本発明のヒンジ配列は、次の配列を有するものであってもよい。
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号120)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser-Pro(配列番号121)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser(配列番号122)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Pro(配列番号123)
Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser(配列番号124)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys(配列番号125)
Glu-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys(配列番号126)
Glu-Ser-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号127)
Glu-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号128)
Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号129)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号130)
Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号131)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号132)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys(配列番号133)
Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro(配列番号134)
Glu-Ser-Lys-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号135)
Glu-Ser-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号136)
Glu-Pro-Ser-Cys(配列番号137)
Ser-Cys-Pro(配列番号138)
【0137】
より具体的には、前記ヒンジ配列は、配列番号129(Pro-Ser-Cys-Pro)又は配列番号138(Ser-Cys-Pro)のアミノ酸配列を含むものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0138】
本発明の免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒンジ配列の存在により免疫グロブリンFc鎖の2つの分子が二量体を形成した形態であり、また、本発明の化学式(1)の結合体は、リンカーの一末端が二量体の免疫グロブリンFcフラグメントの1つの鎖に連結された形態であるが、これらに限定されるものではない。
【0139】
本発明における「N末端」とは、タンパク質又はポリペプチドのアミノ末端を意味し、アミノ末端の最末端、又は最末端から1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個もしくは10個以上のアミノ酸が含まれる。本発明の免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒンジ配列をN末端に含んでもよいが、これに限定されるものではない。
【0140】
また、本発明の免疫グロブリンFcフラグメントは、天然のものと実質的に同等又は向上した効果を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖定常領域1(CH1)及び/又は軽鎖定常領域1(CL1)を含む拡張されたFcフラグメントであってもよい。さらに、CH2及び/又はCH3に相当する非常に長い一部のアミノ酸配列が欠失したフラグメントであってもよい。
【0141】
例えば、本発明の免疫グロブリンFcフラグメントは、1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、2)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、3)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、4)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、5)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域(又はヒンジ領域の一部)との組み合わせ、6)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体である。しかし、これらに限定されるものではない。
【0142】
また、一具体例において、前記免疫グロブリンFcフラグメントは、二量体形態(dimeric form)であってもよく、二量体形態の1つのFcフラグメントにX1分子が共有結合的に連結されたものであってもよく、ここで前記免疫グロブリンFcとXは非ペプチド性重合体により互いに連結されたものであってもよい。一方、二量体形態の1つのFcフラグメントにX2分子が対称に結合されたものであってもよい。ここで、前記免疫グロブリンFcとXは、非ペプチド性リンカーにより互いに連結されてもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0143】
また、本発明の免疫グロブリンFcフラグメントには、天然アミノ酸配列だけでなく、その配列誘導体も含まれる。アミノ酸配列誘導体とは、天然アミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより異なる配列を有するものを意味する。
【0144】
例えば、IgG Fcの場合、結合に重要であることが知られている214~238、297~299、318~322又は327~331番目のアミノ酸残基が修飾に適した部位として用いられてもよい。
【0145】
また、ジスルフィド結合を形成する部位が除去された誘導体、天然FcからN末端のいくつかのアミノ酸が欠失された誘導体、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加された誘導体など、様々な誘導体が用いられる。さらに、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えばC1q結合部位が除去されてもよく、ADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去されてもよい。このような免疫グロブリンFcフラグメントの配列誘導体を作製する技術は、特許文献1、2などに開示されている。
【0146】
分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は、当該分野で公知である(非特許文献4)。最も一般的な交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などにより修飾(modification)されてもよい。
【0147】
前述したFc誘導体は、本発明のFcフラグメントと同等の生物学的活性を示し、Fcフラグメントの熱、pHなどに対する構造的安定性を向上させたものであってもよい。
【0148】
また、このようなFcフラグメントは、ヒトや、ウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物の生体内から分離した天然のものから得てもよく、形質転換された動物細胞もしくは微生物から得られた組換えたもの又はその誘導体であってもよい。ここで、天然のものから得る方法は、全免疫グロブリンをヒト又は動物の生体から分離し、その後タンパク質分解酵素で処理することにより得る方法であってもよい。パパインで処理するとFab及びFcに切断され、ペプシンで処理するとpF’c及びF(ab)2に切断される。これらは、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)などを用いてFc又はpF’cを分離することができる。より具体的な実施形態において、ヒト由来のFcフラグメントは、微生物から得られた組換え免疫グロブリンFcフラグメントである。
【0149】
また、免疫グロブリンFcフラグメントは、天然糖鎖、天然のものに比べて増加した糖鎖、天然のものに比べて減少した糖鎖、又は糖鎖が除去された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法、微生物を用いた遺伝工学的手法などの通常の方法が用いられてもよい。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFcフラグメントは、補体(c1q)との結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞傷害又は補体依存性細胞傷害が低減又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このようなことから、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFcフラグメントは、薬物のキャリアとしての本来の目的に適する。
【0150】
本発明における「糖鎖の除去(Deglycosylation)」とは、酵素で糖を除去したFcフラグメントを意味し、非グリコシル化(Aglycosylation)とは、原核生物、より具体的な実施形態においては大腸菌で産生されてグリコシル化されていないFcフラグメントを意味する。
【0151】
一方、免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒト起源、又はウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物起源であってもよく、より具体的な実施形態においてはヒト起源である。
【0152】
また、免疫グロブリンFcフラグメントは、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来のものであってもよく、それらの組み合わせ(combination)又はそれらのハイブリッド(hybrid)によるものであってもよい。より具体的な実施形態においては、ヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来のものであり、さらに具体的な実施形態においては、リガンド結合タンパク質の半減期を延長させることが知られているIgG由来のものである。一層具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFcフラグメントはIgG4 Fcフラグメントであり、最も具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFcフラグメントはヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFcフラグメントであるが、これらに限定されるものではない。
【0153】
また、具体的な一実施形態における免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒトIgG4 Fcフラグメントであり、各単量体(monomer)の3番目のアミノ酸であるシステイン間のジスルフィド結合(inter-chain形態)により2個の単量体が連結されたホモ二量体(homodimer)形態であってもよく、ここで、ホモ二量体の各単量体は、独立して35番目と95番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、及び141番目と199番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、すなわち2つの内部のジスルフィド結合(intra-chain形態)を有するものである/有するものであってもよい。各単量体のアミノ酸は、221個のアミノ酸からなり、ホモ二量体を形成するアミノ酸は、全体で442個のアミノ酸からなるが、これらに限定されるものではない。具体的には、免疫グロブリンFcフラグメントは、配列番号139のアミノ酸配列(221個のアミノ酸からなる)を有する2個の単量体が各単量体の3番目のアミノ酸であるシステイン間のジスルフィド結合によりホモ二量体を形成し、前記ホモ二量体の単量体は、それぞれ独立して35番目と95番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、及び141番目と199番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合を形成するものであるが、これに限定されるものではない。
【0154】
一方、本発明における「組み合わせ(combination)」とは、二量体又は多量体を形成する際に、同一起源の単鎖免疫グロブリンFcフラグメントをコードするポリペプチドが異なる起源の単鎖ポリペプチドに結合することを意味する。すなわち、IgG Fc、IgA Fc、IgM Fc、IgD Fc及びIgE Fcフラグメントからなる群から選択される少なくとも2つのフラグメントから二量体又は多量体を作製することができる。
【0155】
一方、前記Lは、非ペプチド性リンカー、例えばエチレングリコールの繰り返し単位を含有するリンカーであってもよい。
【0156】
本発明における「非ペプチド性リンカー」には、繰り返し単位が少なくとも2つ結合された生体適合性重合体が含まれる。前記繰り返し単位は、ペプチド結合を除く任意の共有結合により互いに連結される。前記非ペプチド性リンカーは、本発明の結合体の一部をなす一構成であり、化学式(1)のLに該当する。本発明に用いられる非ペプチド性リンカーは、生体内タンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体であればいかなるものでもよい。本発明における前記非ペプチド性リンカーは、非ペプチド性重合体と混用される。
【0157】
前記非ペプチド性リンカーは、エチレングリコールの繰り返し単位を含有するリンカー、例えばポリエチレングリコールであるが、特にこれらに限定されるものではない。また、当該分野で公知のそれらの誘導体や当該分野の技術水準で容易に作製できる誘導体も本発明に含まれる。
【0158】
前記非ペプチド性リンカーの繰り返し単位は、エチレングリコールの繰り返し単位であってもよく、具体的には、前記非ペプチド性リンカーは、エチレングリコールの繰り返し単位を含むと共に、結合体の作製に用いられる官能基を末端に含むものであってもよい。本発明による持続型結合体は、前記官能基を介してXとFが連結された形態であるが、これに限定されるものではない。本発明における前記非ペプチド性リンカーは、2個又は3個以上の官能基を含み、各官能基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0159】
具体的には、前記リンカーは、化学式(2)で表されるポリエチレングリコール(PEG)であるが、これに限定されるものではない。
【0160】
・・・(2)
【0161】
ここで、n=10~2400、n=10~480又はn=50~250であるが、これらに限定されるものではない。
【0162】
前記持続型結合体のPEG部分は、-(CH2CH2O)n-構造だけでなく、連結要素とその-(CH2CH2O)n-間に介在する酸素原子も含むが、これに限定されるものではない。
【0163】
また、具体的な一実施形態における前記結合体は、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチド(X)と免疫グロブリンフラグメント(F)がエチレングリコールの繰り返し単位を含有するリンカーを介して共有結合により連結された構造であるが、これに限定されるものではない。前記ポリエチレングリコールは、エチレングリコールホモポリマー、PEGコポリマー又はモノメチル置換PEGポリマー(mPEG)の形態を包括するものであるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0164】
前記非ペプチド性重合体の分子量は、1~100kDaの範囲、具体的には1~20kDaの範囲、又は1~10kDaの範囲であるが、これらに限定されるものではない。また、前記Fに該当するポリペプチドに結合される本発明の非ペプチド性リンカーは、1種類の重合体だけでなく、異なる種類の重合体の組み合わせが用いられてもよい。
【0165】
具体的な一実施形態における前記非ペプチド性リンカーの両末端は、それぞれF、例えば免疫グロブリンFcフラグメントのアミノ基又はチオール基、及びXのアミノ基又はチオール基に結合することができる。
【0166】
具体的には、前記非ペプチド性重合体は、両末端にそれぞれF(例えば、免疫グロブリンFcフラグメント)とXに結合される反応基、より具体的には、X、あるいはFのN末端もしくはリシンに位置するアミノ基、又はシステインのチオール基に結合される反応基を含むが、これらに限定されるものではない。
【0167】
また、F、例えば免疫グロブリンFcフラグメント、及びXに結合される前記非ペプチド性重合体の反応基は、アルデヒド基、マレイミド基及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0168】
前記において、アルデヒド基の例として、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0169】
前記において、スクシンイミド誘導体としては、スクシンイミジルバレレート、スクシンイミジルメチルブタノエート、スクシンイミジルメチルプロピオネート、スクシンイミジルブタノエート、スクシンイミジルプロピオネート、N-ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチル又はスクシンイミジルカーボネートが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0170】
非ペプチド性リンカーは、このような反応基を介してXとFに連結されるが、特にこれに限定されるものではない。
【0171】
また、アルデヒド結合による還元的アミノ化で生成された最終産物は、アミド結合で連結されたものよりはるかに安定している。アルデヒド反応基は、低いpHではN末端に選択的に反応し、高いpH、例えばpH9.0の条件ではリシン残基と共有結合を形成することができる。
【0172】
また、前記非ペプチド性リンカーの両末端の反応基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。例えば、一末端にはマレイミド基、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基を有してもよい。しかし、非ペプチド性リンカーの各末端にF、具体的には免疫グロブリンFcフラグメントとXが結合されるものであれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0173】
例えば、前記非ペプチド性リンカーの一末端には反応基としてマレイミド基を含み、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基などを含んでもよい。
【0174】
両末端にヒドロキシ反応基を有するポリエチレングリコールを非ペプチド性重合体として用いる場合、公知の化学反応により前記ヒドロキシ基を前述した反応基として活性化するか、市販されている修飾された反応基を有するポリエチレングリコールを用いることにより、本発明の持続型タンパク質結合体を製造することができる。
【0175】
具体的な一実施形態における前記非ペプチド性重合体は、Xのシステイン残基、より具体的にはシステインの-SH基に連結されたものであるが、これらに限定されるものではない。
【0176】
例えば、前記Xに該当するペプチドにおいて、10番目のシステイン残基、13番目のシステイン残基、15番目のシステイン残基、17番目のシステイン残基、19番目のシステイン残基、21番目のシステイン残基、24番目のシステイン残基、28番目のシステイン残基、29番目のシステイン残基、30番目のシステイン残基、31番目のシステイン残基、40番目のシステイン残基、又は41番目のシステイン残基に前記非ペプチド性重合体が連結されたものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0177】
具体的には、前記システイン残基の-SH基に非ペプチド性重合体の反応基が連結されてもよい。反応基については前述した通りである。マレイミド-PEG-アルデヒドを用いる場合、マレイミド基はXの-SH基にチオエーテル(thioether)結合で連結することができ、アルデヒド基はF、具体的には免疫グロブリンFcの-NH2基と還元的アミノ化反応により連結することができるが、これらに限定されるものではなく、これらは一例にすぎない。
【0178】
また、前記結合体において、非ペプチド性重合体の反応基が免疫グロブリンFcフラグメントのN末端に位置する-NH2に連結されたものであってもよいが、これは一例にすぎない。
【0179】
さらに、前述した結合体は、天然GLP-1、GIPもしくはグルカゴンより、又はFが修飾されていないXより効力の持続性が向上したものであってもよく、このような結合体には、前述した形態だけでなく、生分解性ナノ粒子に封入された形態などが全て含まれる。
【0180】
本発明によるペプチド又はその結合体は、肝疾患に対する予防又は治療用途を有するものであってもよい。
【0181】
本発明における「肝疾患」とは、肝臓で発症する疾患を意味し、代謝性肝疾患又は肝炎症が含まれるが、これらに限定されるものではない。前記肝疾患の代表的な例としては、単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝、肝炎症、非アルコール性脂肪肝炎、胆汁鬱滞性肝疾患(cholestasis liver disease)、肝線維症、肝硬変、肝不全、肝癌などが挙げられ、本発明における肝疾患は、肝臓の組織や機能に異常が生じるものであればいかなるものでもよい。多くの場合、ウイルス、アルコール、薬物、免疫異常、代謝疾患などの原因で肝臓に炎症が生じ、肝炎症の進行及び慢性化により肝硬変、肝癌などの疾患が発症することが知られている。本発明による組成物は、肝炎症を伴うか、肝炎症が原因となる肝疾患、例えば肝炎症、非アルコール性脂肪肝炎又は肝線維症に対して効果を発揮するが、これらに限定されるものではない。一方、本発明による組成物は、炎症を伴わない肝疾患に対しても予防又は治療効果を発揮し、このような肝疾患の例としては、単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝、肝硬変などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0182】
本発明のペプチド又はその結合体が治療効果を有する肝疾患は代謝性肝疾患であるが、これに限定されるものではない。代謝性肝疾患は、身体の正常でない化学反応が身体の新陳代謝を妨害することにより発生する疾患であり、単純性脂肪肝、脂肪肝、脂肪肝炎などが含まれる。
【0183】
本発明による組成物は、投与されると肝組織内のトリグリセリド及び/又はコレステロール量を減少させることにより代謝性肝疾患に予防又は治療効果を発揮するものであるが、これらに限定されるものではない。前記代謝性肝疾患は、炎症を伴ってもよく、炎症を伴わなくてもよい。本発明の組成物により治療することのできる肝疾患の例としては、単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝炎などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0184】
代謝性肝疾患の代表例である「非アルコール性脂肪肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease, NAFLD)」とは、アルコール摂取歴がないか、アルコール摂取に関連がないにもかかわらず、脂肪肝を伴うものを意味する。脂肪肝とは、中性脂肪が正常ではなく、肝細胞内に異常に沈着して発生する現象を意味する。正常な肝臓は約5%が脂肪組織からなり、中性脂肪、脂肪酸、リン脂質、コレステロール及びコレステロールエステルが脂肪の主成分であるが、一度脂肪肝が発生するとほとんどの成分が中性脂肪に代わるので、中性脂肪の量が肝臓重量の5%以上になると脂肪肝と診断される。脂肪肝は、肝細胞内の脂肪代謝障害や過剰脂肪を運搬する過程における欠陥などによりもたらされるものであり、主に肝臓における脂肪代謝障害により発生する。前記脂肪肝において蓄積される脂肪のほとんどは中性脂肪(triglyceride)である。
【0185】
非アルコール性脂肪肝疾患とは、肝細胞に脂肪の過度な蓄積のみ起こる単純性脂肪肝(simple steatosis)、非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver)、肝細胞壊死と炎症と線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis, NASH)などが含まれる一連の疾患群を意味するが、本発明の組成物で治療されるものであればいかなるものでもよい。本発明による非アルコール性脂肪肝疾患は、非アルコール性脂肪肝炎を伴うものであるが、これに限定されるものではない。
【0186】
また、本発明のペプチド又はその結合体が治療効果を有する肝疾患は肝炎症(liver inflammation)であるが、これに限定されるものではない。本発明における「肝炎症」とは、肝疾患の最も大きな原因であり、肝臓に炎症を引き起こす疾病を意味し、原因と症状に応じて急性肝炎と慢性肝炎に分けられる。ウイルス、アルコール、薬物、免疫異常、代謝疾患などが主原因である。
【0187】
本発明による組成物は、投与されると肝組織内のTNF-α、MCP-1、IL-6の少なくとも1つの発現を減少させることができるので、肝炎症の予防又は治療効果を発揮するが、これらに限定されるものではない。
【0188】
本発明によるペプチド及びその結合体は、肝臓の炎症自体を緩和する効果を有するだけでなく、肝臓の炎症を伴うか、肝臓の炎症により発症する疾患、例えば肝炎、非アルコール性脂肪肝炎、肝線維症などに効果を発揮する。
【0189】
本発明における「非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis)」は、非アルコール性脂肪肝疾患の一種であり、肝細胞壊死、炎症及び線維化を伴う肝疾患の代表的例である。本発明による組成物は、肝炎症及び線維化を抑制することにより、非アルコール性脂肪肝炎に対する効果を発揮し、具体的には、脂肪肝、肝線維症又は肝硬変を伴う非アルコール性脂肪肝炎、又は非アルコール性脂肪肝炎による肝癌に対する効果を発揮するが、これらに限定されるものではない。
【0190】
本発明における「肝線維症(liver fibrosis)」とは、反復的な肝損傷に対する損傷回復過程の結果であり、再生(reparative)又は反応過程において器官や組織に過度な線維性結合組織が形成されることを意味する。肝炎症の慢性化及び悪化が発症の一原因として知られている。肝硬変症とは異なり、可逆的であり、薄い原線維(thin fibril)からなり、結節(nodule)形成がないことが知られており、肝損傷の原因が消失すると正常に回復するが、このような肝線維症過程が続くと、ECM(extra cellular matrix)間の架橋結合(crosslinking)が増加することにより、結節(nodule)のある非可逆的な肝硬変症に進む。本発明による組成物は、肝線維症、具体的には非アルコール性脂肪肝炎を伴う肝線維症に対する予防又は治療効果を発揮するが、これらに限定されるものではない。
【0191】
本発明による組成物は、投与されると、投与された個体においてTIMP-1及び/又はヒアルロン酸の血中濃度を低下させることにより、肝線維症に対する予防又は治療効果を発揮するが、これらに限定されるものではない。
【0192】
具体的には、本発明によるペプチド又はその結合体を含む組成物は、肝線維症に効果を発揮するものであってもよく、具体的にはELFスコア(enhanced liver fibrosis score)を低下させて肝線維症を予防又は治療するものであってもよい。
【0193】
ELFスコア(enhanced liver fibrosis score)は、肝線維症の治癒の程度を示すスコアであり、次の数式により計算することができる。血液試料内のヒアルロン酸(Hyaluronic acid, HA)、PIIINP(N-terminal propeptide of procollagen type III)及びTIMP-1(tissue inhibitor of metalloproteinase-1)の濃度を測定して次の数式により算出することができる。
【0194】
【数1】
【0195】
前記ELFスコアの低下は、本発明によるペプチド又はその持続型結合体非投与群に比べて、約10%~約100%、約10%~約95%、約10%~約90%、約10%~約80%、約10%~約70%、約10%~約60%、約10%~約50%、約14%~約30%低下するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0196】
前記組成物は、投与された個体のELFスコアを約9.8以下、約9.7以下、約9.6以下、約9.5以下、約9.4以下、約9.3以下、約9.2以下、約9.1以下に低下させることにより、肝線維症を予防又は治療するが、これらに限定されるものではない。
【0197】
本発明における「胆汁鬱滞(cholestasis)」とは、肝臓から十二指腸への胆汁の流動が遅くなるか、遮断された病態であり、「胆汁鬱滞性肝疾患(cholestasis liver disease)」とは、肝臓内での胆汁形成が各種疾患、拡張された頚静脈栄養、又は特定薬物(例えば、一部の抗生剤)の副作用などの病態により妨害されることを意味する。胆汁鬱滞の通常の兆候には、疲労、掻痒感(掻痒症)、黄疸及び黄色腫(皮下への高コレステロール(cholesterol-rich)物質の沈着)が含まれる。胆汁鬱滞の影響は深刻かつ広範囲であり、それは肝疾患の全身的疾患への悪化、肝不全、及び肝移植の必要をもたらす。胆汁鬱滞性肝疾患の原因としては、急性肝炎、胆管の炎症などが挙げられる。
【0198】
前記胆汁鬱滞性肝疾患には、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、進行性家族性肝内胆汁鬱滞症(PFIC)、アラジール症候群(Alagille syndrome)(AS)などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0199】
原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis: PBC)ともいう原発性胆汁性肝硬変症は、原因不明の慢性胆汁鬱滞性肝疾患である。門脈(portal)及び門脈周囲(periportal)の炎症による進行性胆管損傷は、進行性線維症、及び最終的には肝硬変をもたらすことがある。現在では、免疫学的、遺伝的及び環境的要因が疾患の潜在的な原因であると考えられている。原発性胆汁性肝硬変症は、主に中年女性に多く見られ、原発性胆汁性肝硬変症の症状として、初期発現の疲労、掻痒症や、未解明の脂質異常症が現れることもある。
【0200】
現在では、原発性胆汁性肝硬変症は免疫介在性疾患であることが知られており、具体的には門脈及び門脈周囲においてTリンパ球の免疫組織化学的染色はCD4陽性及びCD8陰性T細胞を示す。また、罹患した個体の無症状第1度近親者(relatives)において異常なサプレッサーT細胞活性が報告されている。インターロイキンが、改変された免疫機能及び線維症に寄与することにより、PBCの発症機序に役割を果たすことが報告されている(非特許文献5)。
【0201】
PBCの治療方法は、ウルソデオキシコール酸(UDSA)及びオベチコール酸(OCA)を用いる胆汁酸療法である。PBCにおける両薬物の作用機序は、FXR及びTGFR-5を活性化し、抗炎症性効果を発揮させるそれらの能力に関連する。しかし、UDCAにより治療した患者の約40%において、十分な生化学的反応が得られなかった。
【0202】
原発性硬化性胆管炎(Primary sclerosing cholangitis: PSC)は、原因が解明されていない肝内外の胆道の炎症と線維化により発生する慢性進行性胆汁鬱滞性肝疾患である。具体的には、胆管及び胆道の炎症性疾患であり、疾患が進むと線維化が起こり、胆管壁が肥厚して狭小化や狭窄が生じる疾患である。未だ原因は不明であるが、遺伝的要因、環境的要因、それらに関連する免疫反応など、様々な因子が複合的な原因として推定されている。
【0203】
血液による肝機能検査において、alkaline phosphataseスコアの上昇、aminotransferaseスコアの上昇、ガンマグロブリン血症などが認められると、原発性硬化性胆管炎と診断される。
【0204】
PSCの治療方法はいまだ明確に報告されておらず、肝移植手術が根本的に治療できる唯一の治療方法である。
【0205】
よって、患者の利便性を確保し、かつ副作用なくPBS及びPSCを治療することのできる薬物の開発が依然として求められている。
【0206】
本発明における「肝硬変(liver cirrhosis)」は、肝細胞の再生と線維組織の増加を繰り返すことにより発症し、病理学的には壊死(necrosis)、炎症(inflammation)及び線維化(fibrosis)を伴う慢性疾患であり、究極的には肝不全などの肝硬変合併症、肝癌などの疾患に進行し、死亡に至る。特に、初期に自覚症状がないため進行が進んでから発見されるので、肝硬変などに進行する前の状態である肝線維症を迅速に治療することが求められる。本発明による組成物は、肝硬変、具体的には非アルコール性脂肪肝炎を伴う肝硬変に対する予防又は治療効果を発揮するが、これらに限定されるものではない。
【0207】
本発明における「肝不全(liver decompensation)」とは、ウイルス性肝炎、肝硬変症、薬物、アルコールなどによる肝損傷又は肝疾患によって肝機能が弱まり、肝臓が正常な生理作用であるタンパク質合成と代謝機能を行えない状態を意味する。進行速度によって急性肝不全と慢性肝不全に分けられ、様々な合併症を引き起こすことが知られている。本発明による組成物は、炎症及び線維化の抑制などの効果を発揮することにより、肝不全に対する予防又は治療効果を発揮する。
【0208】
本発明における「肝癌(hepatocellular carcinoma)」とは、肝細胞起源の悪性腫瘍を意味し、肝細胞自体に発生する原発性肝癌(肝細胞癌;hepatocellular carcinoma)と他の組織の癌が肝臓に転移した転移性肝癌に分けられるが、肝癌の約90%以上は原発性肝癌である。主な原因としては、肝炎、慢性肝疾患以外に、アルコール、喫煙、肥満などが知られている。本発明による組成物は、肝癌、具体的には非アルコール性脂肪肝炎による肝癌に対する予防又は治療効果を発揮するが、これらに限定されるものではない。
【0209】
本発明の実施例に用いられるMCD食により誘導したモデルは、非アルコール性脂肪肝炎モデルとして知られており、AMLN食により誘導したモデルは、脂肪肝及び脂肪肝炎モデルとして知られている。また、AMLN/TAAマウスモデルは、肝線維化又は非アルコール性脂肪肝炎モデルとして用いられることが知られている。これらのモデルは様々な肝疾患関連研究に用いられるモデルであり、本発明の実施例においては、本発明によるペプチド(三重活性体)又はその持続型結合体の効果が各モデルにおいて確認された。これは、肝炎、肝線維症、単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝炎などの肝疾患の予防又は治療に有用であることを示唆するものである。また、本発明の実施例においては、PBC及び/又はPSCモデルを用いて、本発明の三重活性体持続型結合体の改善効果を評価したところ、胆汁鬱滞性肝疾患に対する効果も確認された。
【0210】
本発明による組成物は、従来の肝疾患治療剤の副作用である体重増加がないか、その程度が相対的に低いことを特徴とする。
【0211】
本発明の組成物は、次の(a)~(k)の特性の少なくとも1つの特性を有することにより、肝疾患を予防又は治療することができるが、これらに限定されるものではない。
(a)NASスコア(NAFLD Activity Score)の低下
(b)肝臓中の中性脂肪の減少
(c)血中コレステロールの減少
(d)脂肪症スコア(steatosis score)の低下
(e)肝組織内のTNF-α、MCP-1、IL-6レベルの低下
(f)肝炎症スコア(inflammation score)の低下
(g)実質壊死スコア(parenchymal necrosis score)の低下
(h)胆管過形成スコア(bile duct hyperplasia score)の低下
(i)ELF(enhanced liver fibrosis)スコアの低下
(j)肝線維症マーカーであるTIMP-1及び/又はヒアルロン酸の血中濃度の低下
(k)線維症スコア(fibrosis score)の低下
【0212】
本発明における「予防」とは、前記ペプチド又はそれを含む組成物の投与により肝疾患の発症を抑制又は遅延させるあらゆる行為を意味し、「治療」とは、前記ペプチド又はそれを含む組成物の投与により肝疾患の症状を好転又は有利に変化させるあらゆる行為を意味する。
【0213】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤をさらに含んでもよい。このような薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤は、天然に存在しないものであってもよい。
【0214】
本発明における「薬学的に許容される」とは、治療効果を発揮する程度の十分な量と副作用を起こさないことを意味し、疾患の種類、患者の年齢、体重、健康状態、性別、薬物に対する感受性、投与経路、投与方法、投与回数、治療期間、配合、同時用いられる薬物などの医学分野における公知の要素により当業者が容易に決定することができる。
【0215】
本発明のペプチドを含む薬学的組成物は、薬学的に許容される賦形剤をさらに含んでもよい。前記賦形剤は、経口投与の場合は、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを用いることができ、注射剤の場合は、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定化剤などを混合して用いることができ、局所投与用の場合は、基剤、賦形剤、滑沢剤、保存剤などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0216】
本発明の組成物の剤形は、前述したような薬学的に許容される賦形剤と混合して様々な形態に製造することができる。例えば、経口投与の場合は、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー剤などの形態に製造することができ、注射剤の場合は、使い捨てアンプル又は複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、徐放性製剤などに剤形化することができる。
【0217】
なお、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、デンプン、アカシア、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱油などが挙げられる。また、充填剤、抗凝集剤、滑沢剤、湿潤剤、香料、防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0218】
さらに、本発明の薬学的組成物は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、凍結乾燥剤及び坐剤からなる群から選択されるいずれかの剤形を有してもよい。
【0219】
さらに、前記組成物は、薬学的分野における通常の方法による患者の体内投与に適した単回投与型の製剤、具体的にはタンパク質医薬品の投与に有用な製剤形態に剤形化し、当該技術分野で通常用いる投与方法を用いて経口、又は皮膚、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、髄膜腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、消化管内、局所、舌下、膣内もしくは直腸経路が含まれる非経口投与経路で投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0220】
さらに、前記結合体は、生理食塩水や有機溶媒のように薬剤に許容される様々な担体(carrier)と混合して用いることができ、安定性や吸収性を向上させるために、グルコース、スクロース、デキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸(ascorbic acid)、グルタチオンなどの抗酸化剤(antioxidants)、キレート剤、低分子タンパク質、他の安定化剤(stabilizers)などを薬剤として用いることができる。
【0221】
本発明の薬学的組成物の投与量と回数は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、疾患の重症度などの様々な関連因子と共に、活性成分である薬物の種類により決定される。具体的には、本発明の組成物は、配列番号1~102のアミノ酸配列のいずれかを含むペプチド又はそれを含む持続型結合体を薬学的有効量で含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0222】
前記ペプチド又は持続型結合体を薬学的有効量で含むとは、ペプチド又は持続型結合体により目的とする薬理活性(例えば、肝疾患の予防、改善又は治療)が得られる程度で含むことを意味し、また投与される個体に毒性や副作用がないか、僅かなレベルであって、薬学的に許容されるレベルで含むことを意味するが、これらに限定されるものではない。このような薬学的有効量は、投与回数、患者、剤形などを総合的に考慮して決定される。
【0223】
本発明の組成物の総有効量は、単回投与量(single dose)で患者に投与してもよく、複数回投与量(multiple dose)で長期間投与する分割治療方法(fractionated treatment protocol)により投与してもよい。本発明の薬学的組成物は、疾患の程度に応じて有効成分の含有量を変えてもよい。具体的には、本発明の結合体の総用量は、1日体重1kg当たり約0.0001mg~500mgであることが好ましい。しかし、前記結合体の用量は、薬学的組成物の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌、排泄率などの様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量が決定されるので、これらを考慮すると、当該分野における通常の知識を有する者であれば、前記本発明の組成物の特定の用途に応じた適切な有効投与量を決定することができるであろう。本発明による薬学的組成物は、本発明の効果を奏するものであれば、その剤形、投与経路及び投与方法が特に限定されるものではない。
【0224】
本発明の薬学的組成物は、生体内持続性及び力価に優れるので、本発明の薬学的製剤の投与回数及び頻度を大幅に減少させることができる。
【0225】
本発明の他の実施態様は、前記ペプチド又はそれを含む組成物を必要とする個体に前記ペプチド又はそれを含む組成物を投与するステップを含む、肝疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0226】
前記ペプチド又はそれを含む組成物、肝疾患、予防及び治療については前述した通りである。
【0227】
本発明における前記個体とは、肝疾患の疑いのある個体であり、前記肝疾患の疑いのある個体とは、肝疾患が発症したか、発症するリスクのある、ヒトをはじめとしてマウス、家畜などが含まれる哺乳動物を意味するが、本発明の結合体又はそれを含む前記組成物で治療可能な個体であればいかなるものでもよい。
【0228】
本発明における「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記組成物の投与経路は、前記組成物を生体内標的に送達できるものであれば、一般的なあらゆる経路で投与することができ、例えば腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などが挙げられる。
【0229】
本発明の方法は、前記ペプチドを含む薬学的組成物を薬学的有効量で投与するステップを含んでもよい。好適な総1日使用量は正しい医学的判断の範囲内で担当医により決定され、1回又は数回に分けて投与することができる。しかし、本発明の目的上、特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によっては他の製剤が用いられるか否か、具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食餌、投与時間、投与経路、組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と共に又は同時に投与される薬物をはじめとする様々な因子や、医薬分野で周知の類似の因子に応じて異なる量であることが好ましい。
【0230】
本発明のさらに他の実施態様は、肝疾患の予防又は治療のための前記ペプチド又はそれを含む組成物の使用である。
【0231】
本発明のさらに他の実施態様は、肝疾患の予防又は治療のための薬剤の製造における、前記ペプチド又はそれを含む組成物の使用である。
【0232】
前記ペプチド又はそれを含む組成物、肝疾患、予防及び治療については前述した通りである。
【0233】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0234】
三重活性体及びその持続型結合体のin vitro活性の測定
実施例1-1:三重活性体の製造
GLP-1、GIP及びグルカゴン受容体の全てに対して活性を有する三重活性体を製造した。表1にその配列を示す。
【0235】
【表1】





【0236】
表1に示す配列において、Xで表記したアミノ酸は非天然アミノ酸であるAib(aminoisobutyric acid)であり、下線を引いたアミノ酸は下線を引いたアミノ酸が互いに環を形成することを意味する。また、表1において、CAは4-イミダゾアセチル(4-imidazoacetyl)を意味し、Yはチロシンを意味する。
【0237】
実施例1-2:三重活性体持続型結合体の製造
両末端にそれぞれマレイミド基及びアルデヒド基を有する10kDaのPEG、すなわちマレイミド-PEG-アルデヒド(10kDa,NOF, 日本)を実施例1の三重活性体(配列番号21、22、42、43、50、77及び96)のシステイン残基にペグ化するために、三重活性体とマレイミド-PEG-アルデヒドのモル比を1:1~3とし、タンパク質の濃度を1~5mg/mlとし、低温で0.5~3時間反応させた。ここで、反応は、50mM Tris緩衝液(pH7.5)に20~60%イソプロパノールを添加した環境下で行った。反応終了後に、前記反応液をSPセファロースHP(GE healthcare, 米国)に適用し、システインにモノペグ化された三重活性体を精製した。
【0238】
次に、前記精製したモノペグ化した三重活性体と免疫グロブリンFcのモル比を1:1~5とし、タンパク質の濃度を10~50mg/mlとし、4~8℃で12~18時間反応させた。反応は、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に還元剤である10~50mMシアノ水素化ホウ素ナトリウムと10~30%イソプロパノールを添加した環境下で行った。反応終了後に、前記反応液をブチルセファロースFF精製カラム(GE healthcare, 米国)とSource ISO精製カラム(GE healthcare, 米国)に適用し、三重活性体と免疫グロブリンFcとを含む結合体を精製した。
【0239】
製造後に逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーで分析した純度は95%以上であった。
【0240】
ここで、配列番号21の三重活性体及び免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を、「配列番号21と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号21の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0241】
ここで、配列番号22の三重活性体及び免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を、「配列番号22と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号22の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0242】
ここで、配列番号42の三重活性体及び免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を、「配列番号42と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号42の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0243】
ここで、配列番号43の三重活性体及び免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を、「配列番号43と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号43の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0244】
ここで、配列番号50の三重活性体及び免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を、「配列番号50と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号50の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0245】
ここで、配列番号77の三重活性体及び免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を、「配列番号77と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号77の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0246】
ここで、配列番号96の三重活性体及び免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を、「配列番号96と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号96の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0247】
実施例1-3:三重活性体及びその持続型結合体のin vitro活性の測定
実施例1-1及び1-2で製造した三重活性体とその持続型結合体の活性を測定するために、GLP-1受容体、グルカゴン(GCG)受容体及びGIP受容体がそれぞれ形質転換された細胞株を用いて、in vitroで細胞活性を測定する方法を用いた。
【0248】
前記各細胞株は、CHO(chinese hamster ovary)にヒトGLP-1受容体、ヒトGCG受容体及びヒトGIP受容体遺伝子をそれぞれ発現するように形質転換されたものであり、GLP-1、GCG及びGIPの活性を測定するのに適している。よって、それぞれの形質転換細胞株を用いて各部分の活性を測定した。
【0249】
実施例1-1及び1-2で製造した三重活性体とその持続型結合体のGLP-1活性の測定のために、ヒトGLP-1を50nMから0.000048nMまで4倍連続希釈し、実施例1-1及び1-2で製造した三重活性体とその持続型結合体を400nMから0.00038nMまで4倍連続希釈した。前記培養したヒトGLP-1受容体を発現するCHO細胞から培養液を除去し、連続希釈した各物質を5μlずつ前記細胞に添加し、次いでcAMP抗体を含む緩衝液を5μlずつ追加し、その後常温で15分間培養した。次に、細胞溶解緩衝液(cell lysis buffer)を含むdetection mixを10μlずつ加えて細胞を溶解させ、常温で90分間反応させた。前記反応が終了した細胞溶解物をLANCE cAMP kit(PerkinElmer, USA)に適用し、蓄積されたcAMPからEC50値を算出し、相互比較した。ヒトGLP-1に対する相対力価を表2と表3に示す。
【0250】
実施例1-1及び1-2で製造した三重活性体とその持続型結合体のGCG活性の測定のために、ヒトGCGを50nMから0.000048nMまで4倍連続希釈し、実施例1-1及び1-2で製造した三重活性体とその持続型結合体を400nMから0.00038nMまで4倍連続希釈した。前記培養したヒトGCG受容体を発現するCHO細胞から培養液を除去し、連続希釈した各物質を5μlずつ前記細胞に添加し、次いでcAMP抗体を含む緩衝液を5μlずつ追加し、その後常温で15分間培養した。次に、細胞溶解緩衝液(cell lysis buffer)を含むdetection mixを10μlずつ加えて細胞を溶解させ、常温で90分間反応させた。前記反応が終了した細胞溶解物をLANCE cAMP kit(PerkinElmer, USA)に適用し、蓄積されたcAMPからEC50値を算出し、相互比較した。ヒトGCGに対する相対力価を表2と表3に示す。
【0251】
実施例1-1及び1-2で製造した三重活性体とその持続型結合体のGIP活性の測定のために、ヒトGIPを50nMから0.000048nMまで4倍連続希釈し、実施例1-1及び1-2で製造した三重活性体とその持続型結合体を400nMから0.00038nMまで4倍連続希釈した。前記培養したヒトGIP受容体を発現するCHO細胞から培養液を除去し、連続希釈した各物質を5μlずつ前記細胞に添加し、次いでcAMP抗体を含む緩衝液を5μlずつ追加し、その後常温で15分間培養した。次に、細胞溶解緩衝液(cell lysis buffer)を含むdetection mixを10μlずつ加えて細胞を溶解させ、常温で90分間反応させた。前記反応が終了した細胞溶解物をLANCE cAMP kit(PerkinElmer, USA)に適用し、蓄積されたcAMPからEC50値を算出し、相互比較した。ヒトGIPに対する相対力価を表2と表3に示す。
【0252】
【表2】



【0253】
【表3】
【0254】
前述したように製造した新規な三重活性体持続型結合体は、GLP-1受容体、GIP受容体及びグルカゴン受容体を全て活性化させることのできる三重活性体としての機能を有するので、目的とする疾患の治療的物質として用いることができる。
【実施例2】
【0255】
三重活性体の代謝性肝疾患治療効果の確認
本発明者らは、本発明による三重活性体の代謝性肝疾患治療効果についての確認を試みた。
【0256】
実施例2-1:MCD食摂取により誘導したNASHマウスにおけるNASH治療効果
まず、次のように非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する三重活性体持続型結合体の効果を確認した。
【0257】
C57BL/6マウスにMCD(methionine-choline deficient)食を2週間摂取させ、NASH(Non Alchoholic Steato Hepatatis)マウスモデルを誘導した。
【0258】
開発物質のNASH治療効力を確認するために、正常マウス、NASH誘導マウス(賦形剤対照群)、配列番号42の持続型結合体投与群(0.36,0.72,1.44nmol/kg,Q2D)に分け、当該物質を4週間かけて皮下に反復投与した。4週間の反復投与後に、剖検により各マウスの肝組織を採取し、次いでH&E(Haematoxylin and Eosin)染色を行ってNASHの進行の程度をNAS(NAFLD Activity Score)で評価した。
【0259】
図1に示すように、配列番号42の持続型結合体を4週間かけて反復投与した結果、肝組織におけるNASスコアが有意に低下することが確認された(NASH賦形剤対照群=3.71,配列番号42の持続型結合体0.36nmol/kg=2.57,配列番号42の持続型結合体0.72nmol/kg=0.43,配列番号42の持続型結合体1.44nmol/kg=0)。
【0260】
よって、本発明による代表的な三重活性体の結合体である配列番号42の持続型結合体のNASHに対する治療効果が確認された。
【0261】
実施例2-2:AMLN(アミリン)食により誘導したマウスにおける脂肪肝改善効果
また、本発明者らは、本発明による三重活性体の脂肪肝改善効果を確認するために、AMLN(アミリン)マウスモデルを用いた。
【0262】
AMLN食は、高脂肪、高果糖、高コレステロール含有量を有するので、長期摂取により肥満及び脂肪肝炎を誘発することが知られており、AMLNマウスモデルは、脂肪肝炎のモデルの一つとして用いられている。
【0263】
AMLN食で37週間誘導したマウスを賦形剤対照群、オベチコール酸(obeticholic acid; 30mg/kg,QD,経口)投与群、配列番号42の持続型結合体(2.6nmol/kg,Q2D,皮下)投与群に分け、12週間かけて反復投与した。12週間の反復投与後に、剖検により各マウスの肝組織を採取し、肝組織内の脂肪含有量を測定すると共に、H&E染色により脂肪肝改善効能を評価した。
【0264】
その結果、配列番号42の持続型結合体を12週間かけて反復投与すると、賦形剤対照群及びオベチコール酸投与群と比較して、配列番号42の持続型結合体を投与した群において、中性脂肪(triglyceride)及びコレステロール(cholesterol)スコアが大幅に低下することが確認された。よって、本発明による配列番号42の持続型結合体により肝内脂肪含有量が減少することが確認された(図2)。
【0265】
また、本発明者らは、配列番号42の持続型結合体の投与による脂肪肝改善効果をさらに確認するために、前記と同様に、配列番号42の持続型結合体の投与後のsteatosis score変化を確認した。
【0266】
その結果、脂肪症のレベルを示すスコアであるsteatosis scoreは、配列番号42の持続型結合体を投与すると、賦形剤対照群及びオベチコール酸投与群と比較して、大幅に低下することが確認された(図3)。
【実施例3】
【0267】
三重活性体の肝線維症治療効果の確認
実施例3-1:TAA投与により誘導した肝線維症マウスにおける肝線維症指標改善効果の確認
実施例1で製造した三重活性体持続型結合体の肝線維症改善効能を確認するために、肝線維症モデルとして知られるAMLN/TAA(Thioacetamide)マウスモデルを用いた。簡単に述べると、C57BL/6マウスに16週間のAMLN食摂取及びTAA投与(50~400mg/kg,TIW-週3回)によりモデルを誘導した。誘導した動物を賦形剤対照群、代表的な三重活性体として選択した配列番号42の持続型結合体(1.3nmol/kg,Q2D)投与群に分け、当該物質を誘導期間の最後に8週間かけて皮下に反復投与した。陰性対照群(negative control)としては、AMLN食のみ摂取したマウスを用いた。8週間の反復投与後に、採血した血液試料における血中のヒアルロン酸(hyaluronic acid)、TIMP-1(tissue inhibitor of metalloproteinase-1)及びPIIINP(N-terminal propeptide of procollagen type III)の濃度を分析し、次いで非侵襲的(non-invasive)肝線維症指標として知られるELF(enhanced liver fibrosis) scoreを算出した。
【0268】
図4に示すように、配列番号42の持続型結合体を8週間かけて反復投与した結果、AMLN/TAA賦形剤対照群において上昇するELF scoreが有意に低下することが確認された。
【0269】
これらの結果は、本発明の三重活性体又はその持続型結合体がELF scoreを画期的に低減し、肝線維症の予防又は治療効果を有することを示唆するものである。
【0270】
実施例3-2:TAA投与により誘導した肝線維症マウスにおける肝線維症治療効果の確認
実施例3-1で確認した非侵襲的肝線維症指標改善効果に基づいて、三重活性体持続型結合体の肝線維症治療効果を明確に評価するために、侵襲的(invasive)方法を用いた。簡単に述べると、実施例3-1で用いたマウス(8週間の反復投与)の肝組織を剖検により採取し、その後sirius red染色を行った。
【0271】
その結果、肝組織内のsirius red染色の陽性(positive)面積も、三重活性体持続型結合体の投与により有意に減少することが確認された(図5)。
【0272】
これらの結果は、本発明の三重活性体又はその持続型結合体が肝線維症の予防又は治療効果を有することを示唆するものである。
【0273】
実施例3-3:BDLにより誘導した肝線維症マウスにおける肝線維症改善効果の確認
実施例3-1及び3-2で確認した配列番号42の持続型結合体の肝線維症改善効果を確認するために、肝線維症モデルとして知られるBDL(bile duct ligation)マウスモデルを用いた。簡単に述べると、C57BL/6マウスを麻酔し、その後手術的療法で胆管を縫合して胆汁鬱滞(cholestasis)を誘導することにより、肝線維症を誘導した。誘導した動物を賦形剤対照群、代表的な三重活性体として選択した配列番号42の持続型結合体(1.3nmol/kg,Q2D,皮下投与)投与群に分けた。対照物質としては、Ocaliva(登録商標)の活性成分(active pharmaceutical ingredient)であるobeticholic aicd(30mg/kg,QD,経口投与)投与マウスを用いた。薬物投与は、手術の2日後から2週間かけて反復投与した。陰性対照群(negative control)としては、shamマウスを用いた。2週間かけて反復投与したマウスから採血した血液試料において、肝線維症指標マーカーであるTIMP-1及びヒアルロン酸(hyaluronic acid)の血中濃度を測定した。
【0274】
その結果、TIMP-1及びヒアルロン酸濃度が三重活性体持続型結合体の投与により一貫して低下することが確認された。(図6)。
【0275】
これらの結果は、本発明の三重活性体又はその持続型結合体が肝線維症に対する治療効果を有することを再度示唆するものである。
【0276】
実施例3-4:BDLにより誘導した肝線維症マウスにおける肝線維症治療効果の確認
実施例3-3で確認した非侵襲的肝線維症指標改善効果に基づいて、三重活性体持続型結合体の肝線維症治療効果を明確に評価するために、侵襲的(invasive)方法を用いた。簡単に述べると、実施例3-3で用いたマウス(2週間の反復投与)の肝組織を剖検により採取し、その後sirius red染色を行い、それに基づいてfibrosis scoreを測定した。
【0277】
その結果、配列番号42の持続型結合体を2週間かけて反復投与すると、BDL賦形剤対照群において上昇するfibrosis scoreが有意に低下することが確認された(図7a及び図7b)。
【0278】
これらの結果は、本発明の三重活性体又はその持続型結合体が肝線維症の予防又は治療剤として使用可能であることを示唆するものである。
【実施例4】
【0279】
三重活性体の肝炎症に対する効果の確認
肝疾患の一種である胆汁鬱滞性肝疾患に対する治療効果を確認するために、次の実験を行った。
【0280】
実施例4-1:BDLにより誘導したPBC(primary biliary cirrhosis)マウスにおけるPBC改善効果の確認
実施例1で製造した三重活性体持続型結合体のPBC改善効能を確認するために、PBCモデルとして知られるBDL(bile duct ligation)マウスモデルを用いた。簡単に述べると、C57BL/6マウスを麻酔し、その後手術的療法で胆管を縫合して胆汁鬱滞(cholestasis)を誘導することにより、肝炎症を誘導した。
【0281】
誘導した動物を賦形剤対照群、配列番号42の持続型結合体(1.3nmol/kg,Q2D,皮下投与)投与群に分けた。対照物質としては、PBC疾患治療剤として市販されているOcaliva(登録商標)の活性成分(active pharmaceutical ingredient)であるobeticholic aicd(30mg/kg,QD,経口投与)投与マウスを用いた。薬物投与は、手術の2日後から2週間かけて反復投与した。Negative controlとしては、shamマウスを用いた。2週間の反復投与後に、剖検により各マウスの肝組織を採取し、H&E染色により肝炎症改善効果を評価した。
【0282】
その結果、三重活性体持続型結合体を2週間かけて反復投与すると、BDL賦形剤対照群において上昇する、肝組織における炎症スコア(inflammation score)が有意に低下することが確認された(図8)。
【0283】
よって、三重活性体持続型結合体は、PBCマウスにおける優れた肝炎症改善効果を有することが確認された。
【0284】
実施例4-2:BDLにより誘導したPSC(Primary sclerosing cholangitis)マウスにおけるPSC改善効果の確認
実施例1で製造した三重活性体持続型結合体のPSC改善効能を確認するために、PSCモデルとして知られるBDL(bile duct ligation)マウスモデルを用いた。
【0285】
具体的には、C57BL/6マウスを麻酔し、その後手術的療法で胆管を縫合して胆汁鬱滞(cholestasis)を誘導することにより、肝及び胆管損傷(injury)を誘導した。誘導した動物を賦形剤対照群、配列番号42の持続型結合体(1.3nmol/kg,Q2D)投与群に分け、手術の2日後から2週間かけて皮下に反復投与した。陰性対照群としては、shamマウスを用いた。2週間の反復投与後に、剖検により各マウスの肝組織を採取し、H&E染色により肝及び胆管injury改善効果を評価した。
【0286】
その結果、三重活性体持続型結合体を2週間かけて反復投与すると、BDL賦形剤対照群において上昇する、胆汁逆流によるparenchymal necrosis scoreが有意に低下することが確認された(図9)。
【0287】
また、図10に示すように、胆管損傷により上昇するbile duct hyperplasia scoreが三重活性体持続型結合体の投与により有意に低下することが確認された。
【0288】
よって、三重活性体持続型結合体がPSCマウスにおいて肝及び胆管injuryを改善し、肝臓の炎症反応を緩和することが確認された。
【0289】
実施例4-3:TAA投与マウスにおける肝炎症改善効果の確認
本発明者らは、実施例1で製造した三重活性体持続型結合体の肝臓における炎症改善効能を確認するために、AMLN/TAA(Thioacetamide)マウスモデルを用いた。
【0290】
具体的には、C57BL/6マウスに16週間のAMLN食摂取及びTAA投与(50~400mg/kg,TIW-週3回)によりモデルを誘導した。誘導した動物を賦形剤対照群、配列番号42の持続型結合体(1.3nmol/kg,Q2D)投与群に分け、当該物質を誘導期間の最後に8週間かけて皮下に反復投与した。陰性対照群としては、AMLN食のみ摂取したマウスを用いた。また、剖検により採取した各マウスの肝組織におけるサイトカインの発現量を測定した。
【0291】
具体的には、図11に示すように、MCP-1の相対発現量は、AMLN(賦形剤対照群)を1.0とすると、AMLN/TAA(賦形剤対照群)において1.506であり、配列番号42の持続型結合体において0.984であり、IL-6の相対発現量は、AMLN(賦形剤対照群)を1.0とすると、AMLN/TAA(賦形剤対照群)において1.61であり、配列番号42の持続型結合体において1.048である。三重活性体持続型結合体を投与した群においては、AMNL/TAAと比較して、MCP-1、IL-6がそれぞれ34.7%、34.9%減少することが確認された。
【0292】
すなわち、図11に示すように、肝組織内のMCP-1及び/又はIL-6の発現は、三重活性体持続型結合体の投与により一貫して減少することが確認された。
【0293】
また、図11において確認した肝炎症改善効果をさらに確認するために、ヒトマクロファージ株(THP-1 cell line)におけるヒト腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor-α, TNF-α)のレベル変化を測定した。
【0294】
具体的には、ヒトマクロファージ株をphorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)で処理して72時間分化させ、その後実施例1で製造した配列番号42の三重活性体、配列番号66の三重活性体、配列番号67の三重活性体、配列番号97の三重活性体、及び配列番号100の三重活性体がそれぞれ1μMの濃度となるように培地を処理して試験群として用いた。各三重活性体で48時間処理し、その後さらにリポ多糖類(Lipopolysaccharide, LPS)で6時間処理して炎症反応を活性化した。
【0295】
12時間後に、各三重活性体で処理した試験群、三重活性体でもLPSでも処理していない陰性対照群、及び三重活性体で処理せず、LPSのみで処理した陽性対照群の培地において、分泌されたヒト腫瘍壊死因子αの変化をHuman TNF-α ELISA Kitで測定して比較した(図12)。統計処理は、1元ANOVAを用いて、陽性対照群と試験群と陰性対照群とを比較した。
【0296】
その結果、特定配列に限定されることなく、GLP-1受容体、GIP受容体及びグルカゴン受容体を活性化させることのできる三重活性体によりヒトマクロファージ株を三重活性体で処理した全ての試験群において、LPSのみで処理した陽性対照群と比較して、培地中の分泌されたヒト腫瘍壊死因子α量が有意に減少することが確認されたので、炎症を伴う肝疾患に対する治療効果も確認された。
【0297】
前記実施例により、本発明者らは、本発明の三重活性体持続型結合体が非アルコール性脂肪肝炎、脂肪肝、原発性胆汁性肝硬変症(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)などの様々な肝疾患に対して治療効果を発揮することを確認した。
【0298】
これらを総合すると、本発明の三重活性体及びその持続型結合体は、肝疾患治療効果を有するので、薬物の製造に有用である。
【0299】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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