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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】デジタル移相器
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/185 20060101AFI20220726BHJP
   H03H 7/20 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
H01P1/185
H03H7/20 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022024000
(22)【出願日】2022-02-18
【審査請求日】2022-03-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】上道 雄介
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0158068(US,A1)
【文献】特開2011-259215(JP,A)
【文献】特開2013-098744(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111326839(CN,A)
【文献】特開2016-158035(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0312986(US,A1)
【文献】米国特許第06816031(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第106785250(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00-11/00
H03H 7/18- 7/21
H03H 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号線路、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路、当該内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に接続された第1の接地導体、前記外側線路の各他端に接続された第2の接地導体、前記内側線路の各他端と前記第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチを少なくとも備えた複数のデジタル移相回路が縦続接続されてなり、当該デジタル移相回路が前記内側線路にリターン電流が流れる低遅延モードあるいは前記外側線路にリターン電流が流れる高遅延モードに各々設定されるデジタル移相器であって、
複数の前記デジタル移相回路のうち、移相量が他の前記デジタル移相回路に対して不均一となる不均一デジタル移相回路について、前記移相量の不均一性を緩和する移相量緩和部を備え
前記不均一デジタル移相回路の前記信号線路に接続された単一の出力信号線路と、前記不均一デジタル移相回路の前記一対の内側線路に接続された一対の出力接地線路とを有する出力回路を備えており、
前記移相量緩和部は、前記不均一デジタル移相回路の前記第1の接地導体と前記出力接地線路とに接続する拡張接地線路である、
ジタル移相器。
【請求項2】
前記出力信号線路の中心から前記拡張接地線路の外縁までの長さが前記第1、第2の接地導体の長さの1/4を超える幅に設定されている請求項1に記載のデジタル移相器。
【請求項3】
前記デジタル移相回路は、上部電極が前記信号線路に接続され、下部電極が前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方に接続されるコンデンサを備える請求項1又は2に記載のデジタル移相器。
【請求項4】
前記移相量緩和部は、前記不均一デジタル移相回路であって、前記コンデンサが他の前記デジタル移相回路よりも小さいという条件を満たす請求項3に記載のデジタル移相器。
【請求項5】
前記デジタル移相回路は、前記コンデンサの下部電極と前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方との間にコンデンサ用電子スイッチをさらに備える請求項3又は4に記載のデジタル移相器。
【請求項6】
前記移相量緩和部は、前記不均一デジタル移相回路であって、前記内側線路の各他端と前記第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチが他の前記デジタル移相回路よりも小さいという条件を満たす請求項1~5のいずれか一項に記載のデジタル移相器。
【請求項7】
信号線路、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路、当該内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に接続された第1の接地導体、前記外側線路の各他端に接続された第2の接地導体、前記内側線路の各他端と前記第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチを少なくとも備えた複数のデジタル移相回路が縦続接続されてなり、当該デジタル移相回路が前記内側線路にリターン電流が流れる低遅延モードあるいは前記外側線路にリターン電流が流れる高遅延モードに各々設定されるデジタル移相器であって、
複数の前記デジタル移相回路のうち、移相量が他の前記デジタル移相回路に対して不均一となる不均一デジタル移相回路について、前記移相量の不均一性を緩和する移相量緩和部を備え、
前記移相量緩和部は、前記不均一デジタル移相回路であって、長さが他の前記デジタル移相回路よりも短いという条件、前記信号線路と前記内側線路との距離が他の前記デジタル移相回路よりも長いという条件及び前記信号線路と前記外側線路の距離が他の前記デジタル移相回路よりも短いという条件のうち少なくとも1つを満足する、
デジタル移相器。
【請求項8】
前記デジタル移相回路は、上部電極が前記信号線路に接続され、下部電極が前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方に接続されるコンデンサを備える請求項7に記載のデジタル移相器。
【請求項9】
前記移相量緩和部は、前記不均一デジタル移相回路であって、前記コンデンサが他の前記デジタル移相回路よりも小さいという条件を満たす請求項8に記載のデジタル移相器。
【請求項10】
前記デジタル移相回路は、前記コンデンサの下部電極と前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方との間にコンデンサ用電子スイッチをさらに備える請求項8又は9に記載のデジタル移相器。
【請求項11】
前記移相量緩和部は、前記不均一デジタル移相回路であって、前記内側線路の各他端と前記第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチが他の前記デジタル移相回路よりも小さいという条件を満たす請求項7~10のいずれか一項に記載のデジタル移相器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル移相器に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1には、マイクロ波、 準ミリ波あるいはミリ波を対象とするデジタル制御型の移相回路(デジタル移相回路)が開示されている。このデジタル移相回路は、非特許文献1の図2に示されているように、信号線路(signal line)、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路(inner lines)、一対の内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路(outer lines)、一対の内側線路及び一対の外側線路の各一端に接続された第1接地バー、一対の外側線路の各他端に接続された第2接地バー、一対の内側接路の各他端と第2接地バーとの間に各々設けられる一対のNMOSスイッチ等を備える。
【0003】
このようなデジタル移相回路は、信号線路における信号波の伝送に起因して一対の内側線路あるいは一対の外側線路に流れるリターン電流を一対のNMOSスイッチの開/閉に応じて切り替えることにより、動作モードを低遅延モードと高遅延モードとに切り替える。すなわち、デジタル移相回路は、一対の内側線路にリターン電流が流れる場合に動作モードが低遅延モードとなり、一対の外側線路にリターン電流が流れる場合に動作モードが高遅延モードとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】A Ka-band Digitally-Controlled Phase Shifter with sub-degree Phase Precision (2016,IEEE,RFIC)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したデジタル移相回路は、例えばフェイズドアレイアンテナ等を用いた基地局等に適用されるものであり、実際には多数が縦続接続された状態で半導体基板上に実装される。すなわち、上記デジタル移相回路は、実際の移相器の構成における単位ユニットであり、各段を構成する数十個が縦続接続されることによってデジタル移相器を構成する。このデジタル移相器は、各段の単位ユニットが各々に低遅延モードあるいは高遅延モードに設定されることにより、全体として複数の移相量を実現する。
【0006】
このようなデジタル移相器には各段の単位ユニットの動作モードの切り替えによって各段の移相量が均一に変化することが要求されるが、本願の発明者は、動作モードの特異な設定状態において各段の移相量が均一に変化しないことを見出した。このデジタル移相器では、例えば1つの単位ユニットが高遅延モードに設定され、残りの単位ユニットが低遅延モードに設定された状態から全ての単位ユニットが低遅延モードに設定された状態に変化する際に移相量の均一な変化が損なわれる。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、移相量をより均一に変化させることが可能なデジタル移相器の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、デジタル移相器に係る第1の解決手段として、信号線路、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路、当該内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に接続された第1の接地導体、前記外側線路の各他端に接続された第2の接地導体、前記内側線路の各他端と前記第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチを少なくとも備えた複数のデジタル移相回路が縦続接続されてなり、当該デジタル移相回路が前記内側線路にリターン電流が流れる低遅延モードあるいは前記外側線路にリターン電流が流れる高遅延モードに各々設定されるデジタル移相器であって、複数の前記デジタル移相回路のうち、移相量が他の前記デジタル移相回路に対して不均一となる不均一デジタル移相回路について、前記移相量の不均一性を緩和する移相量緩和部を備える、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、デジタル移相器に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記不均一デジタル移相回路の前記信号線路に接続された単一の出力信号線路と、前記不均一デジタル移相回路の前記一対の内側線路に接続された一対の出力接地線路とを有する出力回路を備えており、前記移相量緩和部は、前記不均一デジタル移相回路の前記第1の接地導体と前記出力接地線路とに接続する拡張接地線路である、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、デジタル移相器に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記出力信号線路の中心から前記拡張接地線路の外縁までの長さが前記第1、第2の接地導体の長さの1/4を超える幅に設定されている、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、デジタル移相器に係る第4の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記移相量緩和部は、前記不均一デジタル移相回路であって、長さが他の前記デジタル移相回路よりも短いという条件、前記信号線路と前記内側線路との距離が他の前記デジタル移相回路よりも長いという条件及び前記信号線路と前記外側線路の距離が他の前記デジタル移相回路よりも短いという条件のうち少なくとも1つを満足する、という手段を採用する。
【0012】
本発明では、デジタル移相器に係る第5の解決手段として、上記第1~第4のいずれかの解決手段において、前記デジタル移相回路は、上部電極が前記信号線路に接続され、下部電極が前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方に接続されるコンデンサを備える、という手段を採用する。
【0013】
本発明では、デジタル移相器に係る第6の解決手段として、上記第5の解決手段において、前記移相量緩和部は、前記不均一デジタル移相回路であって、前記コンデンサが他の前記デジタル移相回路よりも小さいという条件を満たす、という手段を採用する。
【0014】
本発明では、デジタル移相器に係る第7の解決手段として、上記第5又は第6の解決手段において、前記デジタル移相回路は、前記コンデンサの下部電極と前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方との間にコンデンサ用電子スイッチをさらに備える、という手段を採用する。
【0015】
本発明では、デジタル移相器に係る第8の解決手段として、上記第1~第7のいずれかの解決手段において、前記移相量緩和部は、前記不均一デジタル移相回路であって、前記内側線路の各他端と前記第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチが他の前記デジタル移相回路よりも小さいという条件を満たす、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、移相量をより均一に変化させることが可能なデジタル移相器を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係るデジタル移相器A1の構成を示す正面図である。
図2】本発明の第1実施形態におけるデジタル移相回路Yの機能構成を示す概念図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るデジタル移相器A1のリターン電流の通電経路を示す模式図である。
図4】本発明の第2実施形態に係るデジタル移相器A2の構成を示す正面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係るデジタル移相器A3の構成を示す正面図である。
図6】本発明の第4実施形態に係るデジタル移相器A4の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
最初に、本発明の第1実施形態について説明する。第1実施形態に係るデジタル移相器A1は、マイクロ波、 準ミリ波あるいはミリ波等の高周波信号を入力とし、所定の移相量だけ位相シフトした複数の高周波信号を外部に出力する高周波回路である。
【0019】
このデジタル移相器A1は、図1に示すように、入力回路X、8個(複数)のデジタル移相回路Y~Y及び出力回路Zを縦続接続したものである。なお、第1実施形態におけるデジタル移相回路Y~Yの個数(=8)は、あくまでも一例である。すなわち、デジタル移相回路Y~Yの個数(段数)は、2以上の任意の数である。
【0020】
このデジタル移相器A1は、図示するように、入力回路X、8段(複数段)のデジタル移相回路Y~Y及び出力回路Zが直線状に縦続接続されてなる。このようなデジタル移相器A1は、入力回路Xの一端(左端)から入力された高周波信号を各デジタル移相回路Y~Yで所定の移相量だけ順次移相させ、出力回路Zの一端(右端)から外部に出力する。
【0021】
入力回路Xは、外部からマイクロ波、 準ミリ波あるいはミリ波等の波長域を有する高周波信号を受け入れ、右側に隣接する第1のデジタル移相回路Yに供給する高周波回路である。この入力回路Xは、図1に示すように、入力信号線路x1及び一対の入力接地線路x2,x3を備える。
【0022】
入力信号線路x1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有し、所定方向に延在する直線状の帯状導体である。この入力信号線路x1には、外部から入力端(左端)にマイクロ波、 準ミリ波あるいはミリ波等の波長域を有する高周波信号が印加されることにより、入力端(左端)から出力端(右端)に向かって信号電流が流れる。
【0023】
また、入力信号線路x1は、出力端(右端)が後述する第1のデジタル移相回路Yにおける信号線路1の一端に接続している。すなわち、この入力信号線路x1は、外部から入力端(左端)に入力された高周波信号を伝送し、出力端(右端)から第1のデジタル移相回路Yにおける信号線路1に供給する。
【0024】
一対の入力接地線路x2,x3は、上記入力信号線路x1の両側に設けられた直線状の帯状導体である。このような一対の入力接地線路x2,x3のうち、第1の入力接地線路x2は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、入力信号線路x1の一方側(図1における下側)に離間配置されている。
【0025】
第1の入力接地線路x2は、電気的に接地されており、一端(左端)が外部に接続され、他端(右端)が後述する第1のデジタル移相回路Yにおける第2の接地導体4bに接続されている。このような第1の入力接地線路x2には、後述する第1のリターン電流が他端(右端)から一端(左端)に向かって流れる。
【0026】
一対の入力接地線路x2,x3のうち、第2の入力接地線路x3は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、入力信号線路x1の他方側(図1における上側)に離間配置されている。第2の入力接地線路x3は、第1の入力接地線路x2と同様に電気的に接地されており、一端(左端)が外部に接続され、他端(右端)が後述する第1のデジタル移相回路Y1における第2の接地導体4bに接続されている。このような第2の入力接地線路x3には、後述する第2のリターン電流が他端(右端)から一端(左端)に向かって流れる。
【0027】
8個(複数)のデジタル移相回路Y~Yは、デジタル移相器A1を構成する単位移相ユニットであり、図示するように第1のデジタル移相回路Y→第2のデジタル移相回路Y→(中略)→第8のデジタル移相回路Yの順で直線状に縦続接続されている。各デジタル移相回路Y~Yは、非特許文献1に開示されたデジタル制御型の移相回路と略同様な機能を備える。
【0028】
すなわち、各デジタル移相回路Y~Yは、入力回路Xあるいは左側に隣り合うデジタル移相回路から入力される高周波信号を予め設定された移相量分だけ遅延させて右側に隣り合うデジタル移相回路あるいは出力回路Zに出力する遅延回路である。このような各デジタル移相回路Y~Yは、図2に代表符号Yとして示すように、信号線路1、一対の内側線路2a,2b、一対の外側線路3a,3b、一対の接地導体4a,4b、コンデンサ5、7つの接続導体6a~6g、4つの電子スイッチ7a~7d及びスイッチ制御部8を備える。
【0029】
信号線路1は、図2に示すように所定方向に延在する直線状の帯状導体である。すなわち、この信号線路1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。このような信号線路1には、手前側から奥側に向かって、つまり手前側の端部(入力端)から奥側の端部(出力端)に向かって信号電流が流れる。
【0030】
このような信号線路1は、電気的には分布回路定数としてのインダクタンスL1を有する。このインダクタンスL1は、信号線路1の長さ等、信号線路1の形状に応じた大きさの寄生インダクタンスである。また、この信号線路1は、電気的には分布回路定数としての静電容量C1をも有する。この静電容量C1は、信号線路-内側、外側線路間あるいはシリコン基板間の寄生容量である。
【0031】
一対の内側線路2a,2bは、上記信号線路1の両側に設けられた直線状の帯状導体である。このような一対の内側線路2a,2bのうち、第1の内側線路2aは、信号線路1の一方側(図2における右側)に離間配置され、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。すなわち、この第1の内側線路2aは、信号線路1と所定距離を隔てて平行に設けられており、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0032】
第2の内側線路2bは、上記信号線路1の他方側(図2における左側)に離間配置され、第1の内側線路2aと同様に一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。この第2の内側線路2bは、信号線路1に対して第1の内側線路2aと同様な距離を隔てて平行に設けられており、第1の内側線路2aと同様に信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0033】
第1の外側線路3aは、上述した信号線路1の一方側において第1の内側線路2aの外側に設けられた直線状の帯状導体である。すなわち、第1の外側線路3aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、信号線路1の一方側において第1の内側線路2aよりも信号線路1から遠い位置に設けられている。
【0034】
また、第1の外側線路3aは、図示するように第1の内側線路2aを挟んだ状態で信号線路1から所定距離を隔てて平行に設けられている。すなわち、第1の外側線路3aは、上述した第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bと同様に信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0035】
第2の外側線路3bは、上述した信号線路1の他方側つまり第1の外側線路3aとは異なる側において、第2の内側線路2bの外側に設けられた直線状の帯状導体である。すなわち、第2の外側線路3bは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、信号線路1の他方側において第2の内側線路2bよりも信号線路1から遠い位置に設けられている。
【0036】
また、第2の外側線路3bは、図示するように第2の内側線路2bを挟んだ状態で信号線路1から所定距離を隔てて平行に設けられている。すなわち、第2の外側線路3bは、上述した第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b並びに第1の外側線路3aと同様に、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0037】
第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各一端側に設けられる直線状の帯状導体である。すなわち、第1の接地導体4aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、電気的に接地されている。
【0038】
また、第1の接地導体4aは、同一方向に延在する第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bに対して直交するように設けられている。すなわち、第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各一端側において、左右方向に延在するように設けられている。
【0039】
さらに、第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bから所定距離を隔てた下方に設けられている。すなわち、第1の接地導体4aと第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各端部との間には、上下方向に一定の距離が設けられている。
【0040】
ここで、第1の接地導体4aは、左右方向における一端(図2における右端)が第1の外側線路3aの右側縁部と略同一位置となるように長さ設定されている。また、この第1の接地導体4aは、左右方向における他端(図2における左端)が第2の外側線路3bの左側縁部と略同一位置となるように長さ設定されている。
【0041】
第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各他端側に設けられる直線状の帯状導体である。すなわち、第2の接地導体4bは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、電気的に接地されている。
【0042】
また、第2の接地導体4bは、同一方向に延在する第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bに対して直交するように設けられている。すなわち、第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各他端側において、左右方向に延在するように設けられている。
【0043】
さらに、第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bから所定距離を隔てた下方に設けられている。すなわち、第2の接地導体4bと第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各端部との間には、上下方向に一定の距離が設けられている。
【0044】
ここで、第2の接地導体4bは、左右方向における一端(図2における右端)が第1の外側線路3aの右側縁部と略同一位置となるように長さ設定されている。また、第2の接地導体4bは、左右方向における他端(図2における左端)が第2の外側線路3bの左側縁部と略同一位置となるように長さ設定されている。すなわち、第2の接地導体4bは、左右方向における位置が第1の接地導体4aと同一である。
【0045】
コンデンサ5は、上部電極が第7の接続導体6gを介して信号線路1に接続され、下部電極が第4の電子スイッチ7dを介して第2の接地導体4bに接続される平行平板である。このコンデンサ5は、平行平板の対向面積に応じた静電容量Caを有する。すなわち、この静電容量Caは、信号線路1と第2の接地導体4bとの間に設けられる回路定数である。
【0046】
第1の接続導体6aは、第1の内側線路2aの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。すなわち、この第1の接続導体6aは、上下方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の内側線路2aの下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0047】
第2の接続導体6bは、第2の内側線路2bの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。すなわち、この第2の接続導体6bは、第1の接続導体6aと同様に上下方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の内側線路2bの下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0048】
第3の接続導体6cは、第1の外側線路3aの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。すなわち、この第3の接続導体6cは、上下方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の外側線路3aの一端における下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0049】
第4の接続導体6dは、第1の外側線路3aの他端と第2の接地導体4bとを電気的かつ機械的に接続する導体である。すなわち、この第4の接続導体6dは、上下方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の外側線路3aの他端における下面に接続し、他端(下端)が第2の接地導体4bの上面に接続する。
【0050】
第5の接続導体6eは、第2の外側線路3bの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。すなわち、この第5の接続導体6eは、上下方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の外側線路3bの一端における下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0051】
第6の接続導体6fは、第2の外側線路3bの他端と第2の接地導体4bとを電気的かつ機械的に接続する導体である。すなわち、この第6の接続導体6fは、上下方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の外側線路3bの他端における下面に接続し、他端(下端)が第2の接地導体4bの上面に接続する。
【0052】
第7の接続導体6gは、信号線路1とコンデンサ5の上部電極とを電気的かつ機械的に接続する導体である。すなわち、第7の接続導体6gは、上下方向に延在する導体であり、一端(上端)が信号線路1の下面に接続し、他端(下端)がコンデンサ5の下部電極(上面)に接続する。
【0053】
第1の電子スイッチ7aは、第1の内側線路2aの他端と第2の接地導体4bとを開閉自在に接続するトランジスタである。この第1の電子スイッチ7aは、図示するように例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が第1の内側線路2aの他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、またゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。
【0054】
このような第1の電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいてドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態あるいは閉状態に切替える。すなわち、第1の電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8によって第1の内側線路2aの他端と第2の接地導体4bとの接続をON/OFFする。
【0055】
第2の電子スイッチ7bは、第2の内側線路2bの他端と第2の接地導体4bとを開閉自在に接続するトランジスタである。この第2の電子スイッチ7bは、第1の電子スイッチ7aと同様にMOS型FETであり、ドレイン端子が第2の内側線路2bの他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、またゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。
【0056】
このような第2の電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいてドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態あるいは閉状態に切替える。すなわち、第2の電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8によって第2の内側線路2bの他端と第2の接地導体4bとの接続をON/OFFする。
【0057】
第3の電子スイッチ7cは、信号線路1の一端と第2の接地導体4bとを開閉自在に接続するトランジスタである。この第3の電子スイッチ7cは、上述した第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bと同様にMOS型FETであり、ドレイン端子が信号線路1の一端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、またゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。
【0058】
このような第3の電子スイッチ7cは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいてドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態あるいは閉状態に切替える。すなわち、第3の電子スイッチ7cは、スイッチ制御部8によって信号線路1の一端と第2の接地導体4bとの接続をON/OFFする。
【0059】
第4の電子スイッチ7dは、コンデンサ5の他端と第2の接地導体4bとを開閉自在に接続するトランジスタである。この第4の電子スイッチ7dは、上述した第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b及び第3の電子スイッチ7cと同様にMOS型FETであり、ドレイン端子がコンデンサ5の他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、またゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。
【0060】
このような第4の電子スイッチ7dは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいてドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態あるいは閉状態に切替える。すなわち、第4の電子スイッチ7dは、スイッチ制御部8によってコンデンサ5の他端と第2の接地導体4bとの接続をON/OFFする。なお、第4の電子スイッチ7dは、本発明のコンデンサ用電子スイッチに相当する。
【0061】
スイッチ制御部8は、上述した第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7dを制御する制御回路である。このスイッチ制御部8は、4つの出力ポートを備えており、各出力ポートから第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7dの各ゲート端子にゲート信号を個別に出力する。すなわち、このスイッチ制御部8は、上記ゲート信号によって第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7dのON/OFF動作を制御する。
【0062】
このように構成された複数のデジタル移相回路Y~Yのうち、第8のデジタル移相回路Yは、信号電流の通電方向において最下流に位置する最下流デジタル移相回路である。すなわち、入力回路Xにおける入力信号線路x1の入力端(左端)に外部から供給された高周波信号の信号電流は、入力信号線路x1→第1のデジタル移相回路Yの信号線路1→第2のデジタル移相回路Yの信号線路1→(中略)→第8のデジタル移相回路Y(最下流デジタル移相回路)の順に流れ、最終的に出力回路Zに流入する。
【0063】
上記第8のデジタル移相回路Yは、高周波信号の伝送方向において最下流に位置する最下流デジタル移相回路である。詳細については後述するが、第8のデジタル移相回路Yは、高遅延モードから低遅延モードへ切り替わる際の移相量が他のデジタル移相回路Y~Yの移相量に対して不均一となる不均一デジタル移相回路である。
【0064】
出力回路Zは、このような第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)の右側に隣接する高周波回路であり、第8のデジタル移相回路Yから高周波信号を受け入れて外部に出力する。この出力回路Zは、図1に示すように、単一の出力信号線路z1、一対の出力接地線路z2,z3及び一対の拡張接地線路z4,z5を備えている。
【0065】
出力信号線路z1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有し、所定方向に延在する直線状の帯状導体である。この出力信号線路z1は、入力端(左端)が第8のデジタル移相回路Yにおける信号線路1の出力端(右端)に接続している。このような出力信号線路z1は、入力端(左端)に第8のデジタル移相回路Yから入力された高周波信号を伝送して出力端(右端)から外部に出力する。すなわち、出力信号線路z1には、入力端(左端)から出力端(右端)に向かって高周波信号の信号電流が流れる。
【0066】
一対の出力接地線路z2,z3は、上記出力信号線路z1の両側に設けられた直線状の帯状導体である。このような一対の出力接地線路z2,z3のうち、第1の出力接地線路z2は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、出力信号線路z1の一方側(図1における下側)に離間配置されている。
【0067】
第1の出力接地線路z2は、電気的に接地されており、一端(左端)が第8のデジタル移相回路Yにおける第1の接地導体4aに接続され、他端(右端)が外部に接続されている。このような第1の出力接地線路z2には、後述する第1のリターン電流が他端(右端)から一端(左端)に向かって流れる。
【0068】
一対の出力接地線路z2,z3のうち、第2の出力接地線路z3は、第1の出力接地線路z2と同様に一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、出力信号線路z1の他方側(図1における上側)に離間配置されている。第2の出力接地線路z3は、第1の出力接地線路z2と同様に電気的に接地されており、一端(左端)が第8のデジタル移相回路Yにおける第1の接地導体4aに接続され、他端(右端)が外部に接続されている。このような第2の出力接地線路z3には、後述する第2のリターン電流が他端(右端)から一端(左端)に向かって流れる。
【0069】
一対の拡張接地線路z4,z5は、第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)における第1の接地導体4a及び一対の出力接地線路z2,z3に各々接続する移相量緩和部である。すなわち、一対の拡張接地線路z4,z5のうち、第1の拡張接地線路z4は、第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)における第1の接地導体4a及び第1の出力接地線路z2に接続する。この第1の拡張接地線路z4は、第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)の他のデジタル移相回路Y~Yに対する移相量の不均一性を緩和する第1の移相量緩和部である。
【0070】
第1の拡張接地線路z4は、図示するように第1の出力接地線路z2の外縁から第1の接地導体4aの一端(端部)に亘る幅Wで設けられている。すなわち、第1の拡張接地線路z4は、第1の接地導体4aの一端、第1の出力接地線路z2の一端(左端)及び第1の出力接地線路z2の他端(右端)を頂点とする矩形状の接地線路である。なお、第1の拡張接地線路z4は、上記幅Wに限定されず、幅が出力信号線路z1の中心から自身の外縁までの長さが第1、第2の接地導体4a,4bの長さの1/4を超えるように設定されていれば良い。
【0071】
第2の拡張接地線路z5は、第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)における第1の接地導体4a及び第2の出力接地線路z3に接続する。この第2の拡張接地線路z5は、第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)の他のデジタル移相回路Y~Yに対する移相量の不均一性を緩和する第2の移相量緩和部である。
【0072】
また、第2の拡張接地線路z5は、図示するように第2の出力接地線路z3の外縁から第1の接地導体4aの他端(端部)に亘る幅Wで設けられている。すなわち、第2の拡張接地線路z5は、第1の接地導体4aの他端、第2の出力接地線路z3の一端(左端)及び第2の出力接地線路z3の他端(右端)を頂点とする矩形状の接地線路である。なお、第2の拡張接地線路z5についても幅Wに限定されず、出力信号線路z1の中心から自身の外縁までの長さがが第1、第2の接地導体4a,4bの長さの1/4を超えるように幅が設定されていれば良い。
【0073】
なお、図2ではデジタル移相回路Y(各デジタル移相回路Y~Y)の機械的構造が解り易いようにデジタル移相回路Yを斜視した模式図を示しているが、実際のデジタル移相回路Yは、半導体製造技術を利用することにより、絶縁層を挟んで複数の導電層が積層された積層構造物として形成される。
【0074】
例えば、デジタル移相回路Yは、信号線路1、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bが第1の導電層に形成され、第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bは、絶縁層を挟んで第1の導電層と対向する第2の導電層に形成される。
【0075】
第1の導電層の構成要素、第2の導電層の構成要素、コンデンサ5並びに第1~第4の電子スイッチ7a~7dは、ビア(スルーホール)によって接続される。すなわち、これらビアは、絶縁層内に埋設され、上述した第1の接続導体6a、第2の接続導体6b、第3の接続導体6c、第4の接続導体6d、第5の接続導体6e、第6の接続導体6f及び第7の接続導体6gとして機能する。
【0076】
このようなデジタル移相回路Y(各デジタル移相回路Y~Y)を構成要素とするデジタル移相器A1は、図1に示すように8個のデジタル移相回路Y~Yが接触するように配置される。すなわち、このデジタル移相器A1において、互いに隣り合う8個のデジタル移相回路Y~Yは、隣り合う8個の信号線路1、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bが一列に各々接続され、また隣り合う第1の接地導体4aの外縁と第2の接地導体4bの外縁とが接続されている。
【0077】
続いて、第1実施形態に係るデジタル移相器A1の動作について、図3をも参照して詳しく説明する。
【0078】
このデジタル移相器A1におけるデジタル移相回路Y(各デジタル移相回路Y~Y)は、第1~第4の電子スイッチ7a,7b,7dの導通状態に応じて動作モードが切替えられる。すなわち、デジタル移相回路Yの動作モードには、スイッチ制御部8によって第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bのみがON状態に設定される低遅延モードと、スイッチ制御部8によって第4の電子スイッチ7dのみがON状態に設定される高遅延モードとがある。
【0079】
低遅延モードにおいて、スイッチ制御部8は、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bをON状態に設定し、また第4の電子スイッチ7dをOFF状態に設定す。すなわち、低遅延モードでは、高周波信号が信号線路1の入力端(他端)から出力端(一端)まで伝搬するまで第1の伝搬遅延時間Tによって、高遅延モードにおける第2の位相差θよりも小さな第1の位相差θが発生する。
【0080】
この低遅延モードについてさらに詳しく説明すると、第1の内側線路2aは、第1の電子スイッチ7aがON状態に設定されることにより、他端が第2の接地導体4bと接続された状態となる。すなわち、第1の内側線路2aは、一端が第1の接続導体6aを介して第1の接地導体4aに常時接続されており、他端が第1の電子スイッチ7aを介して第2の接地導体4bと接続されることによって一端と他端との間に電流が流れ得る第1の通電経路を形成する。
【0081】
一方、第2の内側線路2bは、第2の電子スイッチ7bがON状態に設定されることにより、他端が第2の接地導体4bと接続された状態となる。すなわち、第2の内側線路2bは、一端が第2の接続導体6bを介して第1の接地導体4aに常時接続されており、他端が第2の電子スイッチ7bを介して第2の接地導体4bと接続されることによって一端と他端との間に電流が流れ得る第2の通電経路を形成する。
【0082】
そして、このような第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bの両端接続状態において、信号線路1に入力端から出力端に向かって信号電流が流れると、当該伝搬に起因して第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bには、一端から他端に向かって信号電流のリターン電流が流れる。
【0083】
すなわち、第1の通電経路を形成する第1の内側線路2aには、信号線路1における信号電流の通電によって信号電流の通電方向とは逆方向の第1のリターン電流が流れる。また、第2の通電経路を形成する第2の内側線路2bには、信号線路1における信号電流の通電によって信号電流の通電方向とは逆方向、つまり第1のリターン電流と同方向に第2のリターン電流が流れる。
【0084】
ここで、第1の内側線路2aに流れる第1のリターン電流及び第2の内側線路2bに流れる第2のリターン電流は、いずれも信号電流の通電方向に対して逆方向である。したがって、第1のリターン電流及び第2のリターン電流は、信号線路1と第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bとの電磁気的な結合に起因して、信号線路1のインダクタンスL1を減少させるように作用する。このインダクタンスL1の低減量をΔLsとすると、信号線路1の実効的なインダクタンスLmは(L1-ΔLs)となる。
【0085】
また、信号線路1は、上述したように寄生容量としての静電容量C1を有している。低遅延モードでは、第4の電子スイッチ7dがOFF状態に設定されるので、コンデンサ5は、信号線路1と第2の接地導体4bとの間に接続されていない状態である。すなわち、コンデンサ5の静電容量Caは、信号線路1を伝搬する高周波信号に影響を与えない。したがって、信号線路1を伝搬する高周波信号には、(Lm×C1)1/2に比例した第1の伝搬遅延時間Tが作用する。
【0086】
そして、信号線路1の出力端(一端)における高周波信号は、このような第1の伝搬遅延時間Tに起因して信号線路1の入力端(他端)における高周波信号より位相が第1の位相差θだけ遅れたものとなる。すなわち、低遅延モードでは、第1のリターン電流及び第2のリターン電流によって信号線路1のインダクタンスL1がインダクタンスLmに低減されることによって、信号線路1が有する本来の伝搬遅延時間が減少し、この結果として信号線路1が本来有する位相差よりも小さな第1の位相差θが実現される。
【0087】
ここで、低遅延モードでは、第3の電子スイッチ7cがON状態に設定されることにより、信号線路1の損失を意図的に増加させている。この損失付与は、低遅延モードにおける高周波信号の出力振幅を高遅延モードにおける出力振幅に近づけるものである。なお、第3の電子スイッチ7cについては必須の構成要素ではなく、削除してもよい。
【0088】
すなわち、低遅延モードにおける高周波信号の損失は、高遅延モードにおける高周波信号の損失よりも明確に小さい。この損失差は、動作モードを低遅延モードと高遅延モードとに切り替えた場合にデジタル移相回路Yから出力される高周波信号の振幅差を招来させるものである。このような事情に対して、デジタル移相回路Yでは、低遅延モードで第3の電子スイッチ7cをON状態に設定することにより、上記振幅差を解消している。
【0089】
一方、高遅延モードにおいて、スイッチ制御部8は、第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7cをOFF状態に設定し、また第4の電子スイッチ7dをON状態に設定する。すなわち、高遅延モードでは、高周波信号が信号線路1の入力端(他端)から出力端(入力端)まで伝搬するまで第2の伝搬遅延時間Tによって、低遅延モードにおける第1の位相差θよりも大きな第2の位相差θが発生する。
【0090】
この高遅延モードでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bがOFF状態に設定されるので、第1の内側線路2aには第1の通電経路が形成されず、また第2の内側線路2bには第2の通電経路が形成されない。したがって、第1の内側線路2aには第1のリターン電流は極めて小さくなり、また第2の内側線路2bには第2のリターン電流は極めて小さくなる。
【0091】
これに対して、第1の外側線路3aは、一端が第3の接続導体6cを介して第1の接地導体4aに接続され、また他端が第4の接続導体6dを介して第2の接地導体4bに接続されている。すなわち、第1の外側線路3aには一端と他端との間に電流が流れ得る第3の通電経路が予め形成されている。
【0092】
したがって、高遅延モードでは、信号線路1における信号電流に起因して、第1の外側線路3aの一端から他端に向かって第3のリターン電流が流れる。この第3のリターン電流は、信号線路1における信号電流の通電方向に対して逆方向である。したがって、第3のリターン電流は、信号線路1と第1の外側線路3aとの電磁気的な結合に起因して信号線路1のインダクタンスL1を減少させ得る。
【0093】
また、第2の外側線路3bは、一端が第5の接続導体6eを介して第1の接地導体4aに接続され、また他端が第6の接続導体6fを介して第2の接地導体4bに接続されている。すなわち、第2の外側線路3bには一端と他端との間に電流が流れ得る第4の通電経路が予め形成されている。
【0094】
したがって、高遅延モードでは、信号線路1における信号電流に起因して、第2の外側線路3bの一端から他端に向かって第4のリターン電流が流れる。この第4のリターン電流は、信号線路1における信号電流の通電方向に対して逆方向である。したがって、第4のリターン電流は、信号線路1と第2の外側線路3bとの電磁気的な結合に起因して信号線路1のインダクタンスL1を減少させ得る。
【0095】
ここで、信号線路1と第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bとの距離は、信号線路1と第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bとの距離よりも大きい。したがって、第3のリターン電流及び第4のリターン電流は、第1のリターン電流及び第2のリターン電流よりもインダクタンスL1を減少させる作用が小さい。第3のリターン電流及び第4のリターン電流に起因するインダクタンスL1の低減量をΔLhとすると、信号線路1の実効的なインダクタンスLpは(L1-ΔLh)となる。
【0096】
一方、信号線路1は寄生容量としての静電容量C1を有している。また、高遅延モードでは、第4の電子スイッチ7dがON状態に設定されるので、信号線路1と第2の接地導体4bとの間にはコンデンサ5が接続されている。すなわち、信号線路1は、コンデンサ5の静電容量Caと静電容量C1(寄生容量)とを合算した静電容量Cbを有する。したがって、信号線路1を伝搬する高周波信号には、(Lp×Cb)1/2に比例した第2の伝搬遅延時間Tが作用する。
【0097】
そして、信号線路1の出力端における高周波信号は、このような第2の伝搬遅延時間Tに起因して信号線路1の入力端における高周波信号より位相が第2の位相差θだけ遅れたものとなる。すなわち、高遅延モードでは、第3のリターン電流及び第4のリターン電流によって信号線路1のインダクタンスL1がインダクタンスLnに弱く低減されることによって、また第4の電子スイッチ7dがON状態に設定されることによって、低遅延モードの第1の位相差θよりも大きな第2の位相差θが実現される。
【0098】
なお、高遅延モードでは、第3の電子スイッチ7cがOFF状態に設定されてもよい。すなわち、高遅延モードでは、信号線路1の損失を意図的に増加させる処置は施されない。この結果、高遅延モードにおいて高周波信号に与える損失は、低遅延モードにおいて高周波信号に与える損失と同程度となる。
【0099】
このような8個のデジタル移相回路Y~Yが直線状に配置されたデジタル移相器A1では、各デジタル移相回路Y~Yの動作モードの設定状態に応じてリターン電流の通電経路が様々に変化する。例えば、図3(a)は、各デジタル移相回路Y~Yのうち、第1のデジタル移相回路Yから第7のデジタル移相回路Yまでを低遅延モードに設定し、かつ第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)を高遅延モードに設定した場合におけるリターン電流の通電経路を一例として示している。
【0100】
すなわち、この場合、第1のリターン電流R1は、第1の出力接地線路z2及び第1の拡張接地線路z4→第8のデジタル移相回路Yにおける第1の接地導体4a→第8のデジタル移相回路Yにおける第1の外側線路3a→第8のデジタル移相回路Y8における第2の接地導体4b→第7のデジタル移相回路Yにおける第1の内側線路2a→(中略)→第1のデジタル移相回路Yにおける第1の内側線路2a→入力回路Xにおける第1の入力接地線路x2の順で流れる。
【0101】
また、第2のリターン電流R2は、第2の出力接地線路z3及び第2の拡張接地線路z5→第8のデジタル移相回路Y8における第1の接地導体4a→第8のデジタル移相回路Y8における第2の外側線路3b→第8のデジタル移相回路Y8における第2の接地導体4b→第7のデジタル移相回路Y7における第2の内側線路2b→(中略)→第1のデジタル移相回路Y1における第2の内側線路2b→入力回路Xにおける第2の入力接地線路x3の順で流れる。
【0102】
ここで、出力回路Zには第1の拡張接地線路z4及び第2の拡張接地線路z5が設けられているので、出力回路Zを流れる第1のリターン電流R1及び第2のリターン電流R2は、第1の出力接地線路z2及び第2の出力接地線路z3のみが設けられている場合に比較して電流経路が第1の拡張接地線路z4及び第2の拡張接地線路z5の幅Wの分だけ広くなる。
【0103】
一方、図3(b)は、全てのデジタル移相回路Y~Yを低遅延モードに設定した場合におけるリターン電流の通電経路を一例として示している。この場合における第1のリターン電流R1’は、第1の出力接地線路z2→第8のデジタル移相回路Yにおける第1の内側線路2a→第7のデジタル移相回路Yにおける第1の内側線路2a→(中略)→第1のデジタル移相回路Yにおける第1の内側線路2a→入力回路Xにおける第1の入力接地線路x2の順で流れる。
【0104】
また、この場合における第2のリターン電流R2’は、第2の出力接地線路z3→第8のデジタル移相回路Yにおける第2の内側線路2b→第7のデジタル移相回路Yにおける第2の内側線路2b→(中略)→第1のデジタル移相回路Yにおける第2の内側線路2b→入力回路Xにおける第2の入力接地線路x3の順で流れる。
【0105】
第1実施形態に係るデジタル移相器A1は、出力回路Zに第1の拡張接地線路z4及び第2の拡張接地線路z5が設けられているので、第8のデジタル移相回路Yにおけるリターン電流の経路変化を緩和する。すなわち、第1の拡張接地線路z4は、第8のデジタル移相回路Yにおける第1の接地導体4aと第1の出力接地線路z2とを接続する接地線路なので、図3(a)で一点鎖線で囲んだ領域における第1のリターン電流R1の経路を短くするように作用する。
【0106】
また、第2の拡張接地線路z5は、第8のデジタル移相回路Yにおける第1の接地導体4aと第2の出力接地線路z3とを接続する接地線路なので、図3(a)で一点鎖線で囲んだ領域における第2のリターン電流R2の経路を短くするように作用する。このような一対の拡張接地線路z4,z5によるリターン電流の経路の短縮によって、第8のデジタル移相回路Yの高遅延モードから低遅延モードへ切り替わる際の移相量は、他のデジタル移相回路Y~Yの高遅延モードから低遅延モードへ切り替わる際の移相量により近いものとなる。
【0107】
このような第1実施形態に係るデジタル移相器A1によれば、他のデジタル移相回路Y~Yに対する第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)の移相量の均一性を向上させることが可能である。すなわち、第1実施形態によれば、8段のデジタル移相回路Y~Yの移相量をより均一に変化させることが可能なデジタル移相器A1を提供することが可能である。
【0108】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について図4を参照して説明する。第2実施形態に係るデジタル移相器A2は、図4に示すように、第1実施形態に係るデジタル移相器A1において第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)を第1変形デジタル移相回路aYに置き換えるとともに出力回路Zを変形出力回路Z’に置き換えたものである。
【0109】
すなわち、第1変形デジタル移相回路aYは、長さ(一対の外側線路3a,3b等の長さ)Paが他のデジタル移相回路Y~Yの長さPよりも短いという条件を満足するものである。このような第1変形デジタル移相回路aYは、第1実施形態における第8のデジタル移相回路Yの他のデジタル移相回路Y~Yに対する移相量の不均一性を緩和する移相量緩和部である。
【0110】
変形出力回路Z’は、第1実施形態の出力回路Zから一対の拡張接地線路z4,z5を削除したものである。すなわち、第2実施形態に係るデジタル移相器A2は、第1実施形態における一対の拡張接地線路z4,z5に代えて、第1変形デジタル移相回路aYを移相量緩和部として採用するものである。
【0111】
第1実施形態で説明したように、第8のデジタル移相回路Yにおけるリターン電流の経路変化は、第8のデジタル移相回路Yの高遅延モードから低遅延モードへ切り替わる際の移相量を他のデジタル移相回路Y~Yの高遅延モードから低遅延モードへ切り替わる際の移相量よりも大きくするように作用する。第1変形デジタル移相回路aY(不均一デジタル移相回路)は、高遅延モードから低遅延モードへ切り替わる際の移相量が他のデジタル移相回路Y~Yの高遅延モードから低遅延モードへ切り替わる際の移相量と同等となるように、他のデジタル移相回路Y~Yの長さPに対する長さPaが設定されている。
【0112】
ここで、一対の外側線路3a,3bの長さPaを他のデジタル移相回路Y~Yにおける一対の外側線路3a,3bの長さPよりも短く設定すると、一対の内側線路2a,2bも一対の外側線路3a,3bの長さPaと同様に短くなる。この一対の内側線路2a,2bの短縮は、第8のデジタル移相回路Yの長さを短くするものであり、ユニットセルの低遅延モードと高遅延モード間の位相差を小さくするものである。
【0113】
デジタル移相器で最も重視される性能は、低遅延モードにおける移相量と高遅延モードにおける移相量との差(位相)である。第2実施形態における第1変形デジタル移相回路aY(不均一デジタル移相回路)は、高遅延モードにおける移相量とともに低遅延モードにおける移相量を小さくするものであり、よって上記移相差が他のデジタル移相回路Y~Yと同様である。
【0114】
このような第2実施形態に係るデジタル移相器A2によれば、第1変形デジタル移相回路aY(不均一デジタル移相回路)の他のデジタル移相回路Y~Yに対する移相量の均一性を第1実施形態に係るデジタル移相器A1よりも向上させることが可能である。すなわち、第2実施形態によれば、8段のデジタル移相回路Y~Yの移相量の均一性をデジタル移相器A1よりも向上させることが可能なデジタル移相器A2を提供することができる。
【0115】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について図5を参照して説明する。第3実施形態に係るデジタル移相器A3は、図5に示すように、第1実施形態に係るデジタル移相器A1において第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)を第2変形デジタル移相回路bYに置き換えるとともに出力回路Zを変形出力回路Z’に置き換えたものである。
【0116】
第2変形デジタル移相回路bYは、図示するように、一対の内側線路2a,2bの信号線路1に対する距離Qaが他のデジタル移相回路Y~Yにおける一対の内側線路2a,2bの信号線路1に対する距離Qよりも大きいという条件を満足するものである。この第2変形デジタル移相回路bYは、高遅延モードにおける位相と低遅延モードにおける位相との差(移相差)が他のデジタル移相回路Y~Yの移相量と同等となるように、低遅延モードにおける移相量を増加させる。
【0117】
このような第2変形デジタル移相回路bY(不均一デジタル移相回路)は、第1実施形態における第8のデジタル移相回路Yの他のデジタル移相回路Y~Yに対する移相量の不均一性を緩和する移相量緩和部である。すなわち、第4実施形態に係るデジタル移相器A4は、第3変形デジタル移相回路cYを移相量緩和部として採用するものである。
【0118】
変形出力回路Z’は、第1実施形態の出力回路Zから一対の拡張接地線路z4,z5を削除したものである。すなわち、第3実施形態に係るデジタル移相器A3は、第1実施形態における一対の拡張接地線路z4,z5に代えて、第2変形デジタル移相回路bYを採用するものである。なお、変形出力回路Z’については出力回路Zにおける一対の拡張接地線路z4,z5に相当する拡張接地線路を備えていてもよい。
【0119】
このような第3実施形態に係るデジタル移相器A3によれば、第2変形デジタル移相回路bY(不均一デジタル移相回路)の他のデジタル移相回路Y~Yに対する移相量の均一性を第1実施形態に係るデジタル移相器A1よりも向上させることが可能である。すなわち、第3実施形態によれば、8段のデジタル移相回路Y~Yの移相量の均一性をデジタル移相器A1よりも向上させることが可能なデジタル移相器A3を提供することができる。
【0120】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について図6を参照して説明する。第4実施形態に係るデジタル移相器A4は、図6に示すように、第1実施形態に係るデジタル移相器A1において第8のデジタル移相回路Y(不均一デジタル移相回路)を第3変形デジタル移相回路cYに置き換えるとともに出力回路Zを変形出力回路Z’に置き換えたものである。
【0121】
第3変形デジタル移相回路cYは、図示するように、一対の外側線路3a,3bの信号線路1に対する距離Saが他のデジタル移相回路Y~Yにおける一対の外側線路3a,3bの信号線路1に対する距離Sよりも小さいという条件を満足するものである。この第3変形デジタル移相回路cYは、高遅延モードにおける位相と低遅延モードにおける位相との差(移相差)が他のデジタル移相回路Y~Yの移相量と同等となるように、高遅延モードにおける移相量を低下させる。
【0122】
このような第3変形デジタル移相回路cY(不均一デジタル移相回路)は、第1実施形態における第8のデジタル移相回路Yの他のデジタル移相回路Y~Yに対する移相量の不均一を緩和する移相量緩和部である。すなわち、第4実施形態に係るデジタル移相器A4は、第3変形デジタル移相回路cYを移相量緩和部として採用するものである。
【0123】
変形出力回路Z’は、第1実施形態の出力回路Zから一対の拡張接地線路z4,z5を削除したものである。すなわち、第4実施形態に係るデジタル移相器A4は、第1実施形態における一対の拡張接地線路z4,z5に代えて、第3変形デジタル移相回路cYを採用するものである。なお、この変形出力回路Z’については、出力回路Zにおける一対の拡張接地線路z4,z5に相当する拡張接地線路を備えていてもよい。
【0124】
このような第4実施形態に係るデジタル移相器A4によれば、第3変形デジタル移相回路cY(不均一デジタル移相回路)の他のデジタル移相回路Y~Yに対する移相量の均一性を第1実施形態に係るデジタル移相器A1よりも向上させることが可能である。すなわち、第4実施形態によれば、段のデジタル移相回路Y~Yの移相量の均一性をデジタル移相器A1よりも向上させることが可能なデジタル移相器A4を提供することができる。
【0125】
ここで、上述した第2~第4実施形態は、第1実施形態における一対の拡張接地線路z4,z5に代えて、第1変形デジタル移相回路aY、第2変形デジタル移相回路bYあるいは第3変形デジタル移相回路cYを採用するものである。すなわち、第2~第4実施形態は、移相量緩和部が不均一デジタル移相回路であって、長さ(外側線路3a,3b等の長さ)Paが他のデジタル移相回路Y~Yの長さPよりも短いという条件、信号線路1と内側線路2a,2bとの距離Qaが他のデジタル移相回路Y~Yの距離Qよりも長いという条件及び信号線路1と外側線路3a,3bの距離Saが他のデジタル移相回路Y~Yの距離Sよりも短いという条件のうち、いずれか1つを満足するものである。
【0126】
不均一デジタル移相回路の位相を他のデジタル移相回路Y~Yの位相に近付けるための不均一デジタル移相回路に関する条件としては、上記3つの条件の他に最下流デジタル移相回路のコンデンサ5の静電容量が他のデジタル移相回路Y~Yのコンデンサ5の静電容量よりも小さいという条件、また不均一デジタル移相回路における第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが他のデジタル移相回路Y~Yにおける第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bよりも小さいという条件が考えられる。
【0127】
すなわち、不均一デジタル移相回路のコンデンサ5の静電容量が他のデジタル移相回路Y~Yのコンデンサ5の静電容量よりも小さいという条件によって、高遅延モードにおける移相量を低下させることが可能である。また、不均一デジタル移相回路における第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが他のデジタル移相回路Y~Yにおける第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bよりも小さいという条件によって、低遅延モードにおける移相量を高くすることが可能である。
【0128】
したがって、このような不均一デジタル移相回路のコンデンサ5に関する条件あるいは不均一デジタル移相回路における第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bに関する条件によって、不均一デジタル移相回路の他のデジタル移相回路Y~Yに対する移相量の均一性を向上させることが可能である。
【0129】
また、上述した3つの条件を複合化させることによって、不均一デジタル移相回路におけるリターン電流の経路変化に起因する移相差の変化を解消してもよい。すなわち、本発明における移相量緩和部は、不均一デジタル移相回路の長さ(外側線路3a,3b等の長さ)Paが他のデジタル移相回路Y~Yの長さPよりも短いという条件、不均一デジタル移相回路における信号線路1と内側線路2a,2bとの距離Qaが他のデジタル移相回路Y~Yの距離Qよりも長いという条件、また不均一デジタル移相回路における信号線路1と外側線路3a,3bの距離Saが他のデジタル移相回路Y~Yの距離Sよりも短いという条件のうち少なくとも1つを満足するものであれば良い。
【0130】
さらに、上述した5つの条件を複合化させることによって、不均一デジタル移相回路におけるリターン電流の経路変化に起因する移相差の変化を解消してもよい。すなわち、最下流デジタル移相回路の長さ(外側線路3a,3b等の長さ)Paが他のデジタル移相回路Y~Yの長さPよりも短いという条件、不均一デジタル移相回路における信号線路1と内側線路2a,2bとの距離Qaが他のデジタル移相回路Y~Yの距離Qよりも長いという条件、また不均一デジタル移相回路における信号線路1と外側線路3a,3bの距離Saが他のデジタル移相回路Y~Yの距離Sよりも短いという条件、不均一デジタル移相回路のコンデンサ5に関する条件あるいは不均一デジタル移相回路における第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bに関する条件のうち、少なくとも1つを満足する不均一デジタル移相回路を移相量緩和部としても良い。
【0131】
上記各実施形態では、高周波信号の伝送方向において最下流に位置する最下流デジタル移相回路(第8のデジタル移相回路Y)が不均一デジタル移相回路である場合について説明した。しかしながら、本発明における不均一デジタル移相回路は、最下流デジタル移相回路に限定されない。
【0132】
8段のデジタル移相回路Y~Yにおける高遅延モードと低遅延モードとの設定の仕方によっては、他のデジタル移相回路Y~Yが不均一デジタル移相回路になり得る。例えば、第1のデジタル移相回路Yが不均一デジタル移相回路の場合には、入力回路Xに第1実施形態の第1の拡張接地線路z4及び第2の拡張接地線路z5に相当する移相量緩和部を設けたり、第1のデジタル移相回路Yの形状を第2~第4実施形態のように変更する。
【符号の説明】
【0133】
A1~A4 デジタル移相器、Y,Y~Y デジタル移相回路、Y デジタル移相回路(不均一デジタル移相回路)、aY 第1変形デジタル移相回路(不均一デジタル移相回路)、bY 第2変形デジタル移相回路(不均一デジタル移相回路)、cY 第3変形デジタル移相回路(不均一デジタル移相回路)、x1 入力信号線路、x2 第1の入力接地線路、x3 第2の入力接地線路、Z 出力回路、Z’ 変形出力回路、z1 出力信号線路、z2 第1の出力接地線路、z3 第2の出力接地線路、z4 第1の拡張接地線路(移相量緩和部)、z5 第2の拡張接地線路(移相量緩和部)、1 信号線路、2a 第1の内側線路、2b 第2の内側線路、3a 第1の外側線路、3b 第2の外側線路、4a 第1の接地導体、4b 第2の接地導体、5 コンデンサ、6a 第1の接続導体、6b 第2の接続導体、6c 第3の接続導体、6d 第4の接続導体、6e 第5の接続導体、6f 第6の接続導体、6g 第7の接続導体、7a 第1の電子スイッチ、7b 第2の電子スイッチ、7c 第3の電子スイッチ、7d 第4の電子スイッチ(コンデンサ用電子スイッチ)、8 スイッチ制御部
【要約】
【課題】移相量をより均一に変化させることが可能なデジタル移相器を提供する。
【解決手段】信号線路、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路、当該内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路、内側線路及び外側線路の各一端に接続された第1の接地導体、外側線路の各他端に接続された第2の接地導体、内側線路の各他端と第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチを少なくとも備えた複数のデジタル移相回路が縦続接続されてなり、当該デジタル移相回路が内側線路にリターン電流が流れる低遅延モードあるいは外側線路にリターン電流が流れる高遅延モードに各々設定されるデジタル移相器であって、複数の前記デジタル移相回路のうち、移相量が他の前記デジタル移相回路に対して不均一となる不均一デジタル移相回路について、前記移相量の不均一性を緩和する移相量緩和部を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6