(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】Ce-Zr複合酸化物およびその製造方法ならびにこれを用いた排気ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20220726BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20220726BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C01G25/00
B01J23/63 A
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 245
B01D53/94 280
(21)【出願番号】P 2022517580
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2021014474
(87)【国際公開番号】W WO2021220727
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2020078886
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】312016218
【氏名又は名称】ユミコア日本触媒株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】荻野 祐司
(72)【発明者】
【氏名】羽田 有佑
(72)【発明者】
【氏名】中川 晃二
(72)【発明者】
【氏名】岩本 伸司
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-014451(JP,A)
【文献】特開平11-217220(JP,A)
【文献】特開2008-150237(JP,A)
【文献】特表平03-504712(JP,A)
【文献】特開平04-342421(JP,A)
【文献】特表2018-506424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00
B01J 23/63
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム化合物およびジルコニウム化合物を混合して混合物を得;
前記混合物を250℃を超える温度でソルボサーマル処理してソルボサーマル処理物を得;
前記ソルボサーマル処理物を220℃以上380℃未満の温度で表面安定化処理して、前駆体を得;
前記前駆体を380℃以上の温度で構造安定化処理して、Ce-Zr複合酸化物を生成することを有し、
前記表面安定化処理して得られた前記前駆体のBET比表面積が
170m
2/g以上であり、前記
表面安定化処理後の前記前駆体のBET比表面積に対する、前記
構造安定化処理後の前記Ce-Zr複合酸化物のBET比表面積の比が0.54以上、1.0以下である、Ce-Zr複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記ソルボサーマル処理が、不活性ガスで置換された密閉系で行われる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ce-Zr複合酸化物およびその製造方法ならびにこれを用いた排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の排気ガス規制が強化されてきている。規制の強化に対応するため、排気ガス浄化用触媒における排気ガス浄化性能のさらなる向上が求められている。特に、一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と同時に、窒素酸化物(NOx)の還元を行うことは難しいため、NOx浄化性能を向上させるための技術が盛んに開発されている。
【0003】
NOxの浄化方法として、NOxから窒素(N2)へ直接分解する方法と、NOxと還元剤とを反応させてN2へ還元する方法が挙げられる。しかしながら、前者の直接分解する方法は極めて困難であるため、現在、後者の還元剤を用いる方法が広く採用されている。
【0004】
NOxを浄化するために酸素貯蔵材を用いる方法が有効である。例えば、セリアが固溶したジルコニア粉末(セリア-ジルコニア固溶体)を酸素貯蔵材として用いることが報告されている(特開平10-212122号公報)。特開平10-212122号公報に係るセリア-ジルコニア固溶体は、高表面積を有するため、酸素吸収放出量が増える(実施例)。
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特開平10-212122号公報に開示されたセリア-ジルコニア固溶体は平均粒径が0.01μm(10nm)以上と大きい。このようなセリア-ジルコニア固溶体は、特に低温での酸素の放出性能が低い。このため、このようなセリア-ジルコニア固溶体を排気ガス浄化用触媒に使用した場合には、特に低温での排気ガス浄化能が十分でない。
【0006】
したがって、本発明は、上記課題に対してなされたものであり、従来よりも低い温度で酸素を放出させる手段を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の他の目的は、排気ガス浄化性能、特に低温での排気ガス浄化性能を向上させる手段を提供することである。
【0008】
本発明の一態様に係るセリア-ジルコニア複合酸化物(Ce-Zr複合酸化物)は、結晶子径が6.5nm以下で、かつ、BET比表面積が90m2/g以上である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、粉体A~GのBET比表面積を示すグラフである。
【
図2】
図2は、粉体H、IのBET比表面積を示すグラフである。
【
図3】
図3は、粉体J、KのBET比表面積を示すグラフである。
【
図4】
図4は、R値に対するH
2-TPR測定におけるピーク温度の関係示すグラフである。
【
図5】
図5は、排気ガス浄化用触媒M、Nの排気ガス浄化性能結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものであり、以下の実施形態に限定されない。なお、本明細書中の数値範囲「A~B」は、AおよびBを含み、「A以上、B以下」を意味する。また、「Aおよび/またはB」とは、「AまたはBのいずれか一方」又は「AおよびBの両方」を意味する。
【0011】
本発明の一態様に係るCe-Zr複合酸化物は、結晶子径が6.5nm以下で、かつ、BET比表面積が90m2/g以上である。当該構成のCe-Zr複合酸化物は、従来よりも低温で酸素の放出が可能である。ゆえに、本発明のCe-Zr複合酸化物を用いた触媒によれば、排気ガスの浄化能が向上する。
【0012】
本発明者らは、前述の本発明が解決しようとする課題について鋭意検討を行った。その結果、結晶子径が最大でも6.5nmと小さくかつBET比表面積が90m2/g以上と大きなCe及びZrを含有する複合体(Ce-Zr複合体;以下では、単に「複合体」とも称する)は、従来よりも低温から酸素を吸収および放出でき、このようなCe-Zr複合酸化物を含む触媒は、低温での排気ガス浄化性能に優れることを知得した。
【0013】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物が、上記構成を有することにより、低温での排気ガス浄化性能が向上する理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推察している。なお、本発明は下記メカニズムに限定されるものではない。
【0014】
Ce-Zr複合酸化物は結晶子が小さく、高比表面積を有しているため、通常の結晶子が大きく、低比表面積を有するCe-Zr複合酸化物に比べると、セリア及びジルコニアの露出面積が大きい。このため、このようなCe-Zr複合酸化物は、排気ガスと接触させる際に排気ガスとの接触確率を向上できる。そのため、Ce-Zr複合酸化物による下記式(1)の反応速度が高まり、低温であっても酸素貯蔵放出特性が優れると考えられる。
【0015】
【0016】
上記式(1)の反応において、CeO2の還元反応は一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)のような還元剤と接触することで起こる。このため、COやHCのようなガスとの接触確率が向上したCe-Zr複合酸化物は、低温であっても、高い酸素放出能に加え、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)を含む排気ガス浄化性能に優れる。
【0017】
<Ce-Zr複合酸化物>
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、Ceの金属および/または金属酸化物ならびにZrの金属および/または金属酸化物を含有する。本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、運転状況に応じて変化する空燃比(A/F)の変動に応じて、酸化雰囲気(リーン)では酸素を貯蔵し、還元雰囲気(リッチ)では酸素を放出することにより、酸化・還元反応を安定して進行させる酸素貯蔵材(「酸素貯蔵放出物質」とも称される)として機能する。
【0018】
(結晶子径)
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、6.5nm以下の結晶子径を有する。ここで、結晶子径が6.5nmを超えると、酸素の貯蔵・放出性能が低い。また、低温では酸素を放出しにくい、またはできない(ゆえに低温での排気ガス(特にCO、HC)の浄化性能に劣る)。低温での酸素の放出性能(低温での排気ガス(特にCO、HC)の浄化性能)のさらなる向上効果の観点から、Ce-Zr複合酸化物の結晶子径は、好ましくは6.5nm未満であり、より好ましくは5.5nm以下であり、特に好ましくは4.6nm以下である。なお、Ce-Zr複合酸化物の結晶子径が小さい(微結晶である)ほど、結晶格子内部の格子酸素の放出が起こりやすく、セリウム由来の酸素貯蔵放出特性が十分発揮できる。また、結晶子径が小さいほど、酸素の伝導が起こりやすいため、好ましい。なお、酸素の伝導とは、以下の現象を意図する。すなわち、排気ガスのガス雰囲気がリーンからリッチに変わった時に、又は、リッチからリーンに変わった時に、Ce-Zr複合酸化物粒子の表面と内部との間で起こる酸素の伝導現象である。排気ガス雰囲気がリーンからリッチに変わった時に、表面近傍にあるCe(Ce0とする)に吸着していた酸素は、容易に放出される。次に、当該酸素を放出したCe0に隣接し、かつ、より結晶内部のCe(Ce1とする)が保持していた酸素が、Ce0に移動、伝導する。同様に、Ce2、Ce3、Ce4と連続することで結晶内部から連続的に酸素の伝導が起こっている可能性がある。また、排気ガスのガス雰囲気がリッチからリーンに変わった時には、逆にCe0に気相中の酸素がまず吸着し、隣接Ce1がCe0の酸素を奪うことでCe0は次の酸素を吸着可能となる。Ce1が保持した酸素は、より内部のCe2がさらに奪うことで連続的に酸素の伝導が表面から内部へと進行する。
【0019】
結晶子径が大きなCe-Zr複合酸化物は、その深い内部の酸素の伝導に時間を要するため、低温では酸素の放出を起こすことが困難である。このため、結晶子径の下限は特に制限されないが、好ましくは1.0nm以上であり、より好ましくは2.0nm以上であり、さらに好ましくは3.0nm以上であり、特に好ましくは3.0nmを超える。すなわち、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、好ましくは1.0nm以上6.5nm以下、より好ましくは2.0nm以上6.5nm未満、さらに好ましくは3.0nm以上5.5nm以下、特に好ましくは3.0nmを超え4.6nm以下の結晶子径を有する。
【0020】
Ce-Zr複合酸化物の結晶子径は、X線回折法、TEM法等の公知の方法に従って測定できる。なお、本明細書において、Ce-Zr複合酸化物の結晶子径は、下記方法に従って測定される値である。
【0021】
XRD(X線回折)の回折パターンにおいて、2θ=28~30°のピークの測定結果を、下記Scherrerの式に当てはめ、算出したCe-Zr複合酸化物の結晶子径を算出する。
【0022】
【0023】
上記Scherrerの式において、λはX線の波長(nm)であり、θは回折角(°)であり、Kは形状因子(定数)であり、βは装置による回折線の広がりを補正した後のピーク幅である。測定手順は、JIS H 7805:2005に準拠して行う。
【0024】
(BET比表面積)
上記に加えて、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、90m2/g以上のBET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積を有する。ここで、BET比表面積が90m2/g未満であると、Ce-Zrの露出面積が低く、排気ガスとの接触確率が低下することとなり、十分な酸素貯蔵放出特性が発揮されない。また、触媒製造時に貴金属を高分散できない。酸素貯蔵放出特性のさらなる向上、高分散な貴金属を得るなどの観点から、本発明に係るCe-Zr複合酸化物のBET比表面積は、好ましくは135m2/g以上、より好ましくは165m2/g以上、特に好ましくは180m2/g以上である。なお、Ce-Zr複合酸化物のBET比表面積は大きいほど、酸素との接触確率が高くなる。このため、BET比表面積の上限は特に制限されないが、通常470m2/g以下である。BET比表面積が470m2/gを超えると、スラリーの粘度が高くなり、触媒の作製が困難となるため、好ましくない。本発明に係るCe-Zr複合酸化物のBET比表面積は、好ましくは320m2/g以下である。すなわち、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、好ましくは90m2/g以上470m2/g以下、より好ましくは135m2/g以上320m2/g以下、さらに好ましくは165m2/g以上320m2/g以下、特に好ましくは180m2/g以上320m2/g以下のBET比表面積を有する。
【0025】
本明細書において、Ce-Zr複合酸化物のBET比表面積は、吸着分子として窒素を用いてBET法により測定した値である。具体的には、マイクロミリティックス社製トライスターII3020を用いて測定したBET比表面積(m2/g)を採用する。また、Ce-Zr複合酸化物のBET比表面積は、最終産物としてのCe-Zr複合酸化物のBET比表面積であり、下記実施例中の「BET比表面積(構造安定化処理後)」である。
【0026】
(R値)
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、上記6.5nm以下の小さい結晶子径および90m2/g以上の高いBET比表面積を有し、かつ、下記の関係性を有することが好ましい。BET比表面積が大きくても結晶子径が大きなCe-Zr複合酸化物や、結晶子径が小さくてもBET比表面積が小さなCe-Zr複合酸化物では、低温から十分な酸素の放出が起こらない。高い表面積に由来する酸素分子の乱流拡散によって、酸素分子が多くのCe-Zr複合酸化物にたどり着き、所定の結晶子径を有していることで結晶内部の格子酸素の格子からの離脱を容易にする。ここで、Ce-Zr複合酸化物の、BET比表面積を結晶子径から求められる表面積で除した値(=S/(πr2)(S=BET比表面積(m2/g)、r=結晶子径(nm));「R値」とも称する)が所定の範囲にある場合には、酸素貯蔵放出特性をさらに向上できることを見出した。具体的には、Ce-Zr複合酸化物は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.5以上30以下、さらに好ましくは2.0以上8.0以下、特に好ましくは2.5以上6.6以下のR値を有する。このようなR値を有するCe-Zr複合酸化物は、結晶子径の小さなCe-Zr複合酸化物が凝集せず高い表面積を有している。これにより低温においても結晶内部の格子酸素の移動(酸素伝導)が起こりやすくなり、高い酸素貯蔵放出特性(故に、より低温での排気ガス浄化性能)を発揮できる。
【0027】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、Ceの金属および/または金属酸化物(好ましくはCeの金属酸化物(セリア))ならびにZrの金属および/または金属酸化物(好ましくはZrの金属酸化物(ジルコニア))を必須に含有する。ここで、Ce-Zr複合酸化物におけるセリウム(Ce)の割合は、Ce-Zr複合酸化物に対して、CeO2として好ましくは5~80質量%、より好ましくは20~70質量%である。このような範囲であれば、排気ガス中の酸素を貯蔵できる。また、Ce-Zr複合酸化物におけるジルコニウム(Zr)の割合は、Ce-Zr複合酸化物に対して、ZrO2として好ましくは20~95質量%であり、より好ましくは30~80質量%である。このような範囲であれば、Ceに貯蔵した酸素を効率良く放出できる。
【0028】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、必要に応じて、Ce及びZr以外の金属元素(以下、「他の金属元素」とも称する)をさらに含有してもよい。他の金属元素としては、ネオジム(Nd)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)およびイットリウム(Y)が挙げられる。これらのうち、Nd、LaおよびYの少なくとも1種を含有することが好ましく、LaまたはYを含有することがより好ましく、Laを含有することが特に好ましい。ここで、上記他の金属原子は、金属および/または金属酸化物の形態で存在してもよいが、金属酸化物の形態が好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、セリウムおよびセリアの少なくとも一方ならびにジルコニウムおよびジルコニアの少なくとも一方から構成される、またはセリウムおよびセリアの少なくとも一方、ジルコニウムおよびジルコニアの少なくとも一方、ならびにネオジム、ランタン、プラセオジムおよびイットリウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属または前記金属の酸化物から構成される。なお、上記において、「から構成される」とは、「のみから構成される」および「から実質的に構成される」を包含する。好ましくは、「から構成される」は「のみから構成される」を意味する。なお、本明細書において、「実質的に」とは、規定される成分以外の成分の含有率が、Ce-Zr複合酸化物に含まれる金属元素の全原子数に対して、0.5原子%未満(下限:0原子%)の割合で含まれることを意味する。
【0029】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物がネオジム(Nd)をさらに含有する場合における、Ce-Zr複合酸化物におけるネオジム(Nd)の割合は、Ce-Zr複合酸化物に対して、Nd2O3として好ましくは0質量%を超えて15質量%であり、より好ましくは2~10質量%である。このような範囲であれば、十分なCeやZrの原子数の割合を確保できるため、優れた酸素貯蔵放出特性を達成できる。
【0030】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物がランタン(La)をさらに含有する場合における、Ce-Zr複合酸化物におけるランタン(La)の割合は、Ce-Zr複合酸化物に対して、La2O3として好ましくは0質量%を超えて15質量%であり、より好ましくは2~10質量%である。このような範囲であれば、十分なCeやZrの原子数の割合を確保できるため、優れた酸素貯蔵放出特性を達成でき、また、Ce-Zr複合酸化物の熱安定性がさらに向上できる。
【0031】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物がプラセオジム(Pr)をさらに含有する場合における、Ce-Zr複合酸化物におけるプラセオジム(Pr)の割合は、Ce-Zr複合酸化物に対して、Pr2O3として好ましくは0質量%を超えて15質量%であり、より好ましくは2~10質量%である。このような範囲であれば、十分なCeやZrの原子数の割合を確保できるため、優れた酸素貯蔵放出特性を達成できる。
【0032】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物がイットリウム(Y)をさらに含有する場合における、Ce-Zr複合酸化物におけるイットリウム(Y)の割合は、Ce-Zr複合酸化物に含まれる金属元素の全原子数に対して、Y2O3として好ましくは0質量%を超えて15質量%であり、より好ましくは0質量%を超えて10質量%である。このような範囲であれば、十分なCeやZrの原子数の割合を確保できるため、優れた酸素貯蔵放出特性を達成できる。
【0033】
なお、本明細書において、複合体における各元素の含有率(質量%)は、下記方法により、XRF分析の結果から算出される。
【0034】
(XRF分析)
Ce-Zr複合酸化物をディスクミルにて粉砕し、プレス機で直径31mm、厚さ5mmの円形プレート状に成形したものを試料とする。この試料について、BRUKER ANALYTIK社製 S8 TIGER(波長分散型、Rh管球)を用いてXRF分析を行う。得られたスペクトルから、CeおよびZrならびに他の成分(ネオジム、ランタン、プラセオジムおよびイットリウム)(即ち、全ての金属元素)の原子の総数を100%とした際のそれぞれの原子数の割合(原子%)を算出する。
【0035】
Ce-Zr複合酸化物の結晶構造は、立方晶、正方晶、単斜晶、斜方晶などがあるが、好ましくは立方晶、正方晶又は単斜晶であり、より好ましくは立方晶又は正方晶である。
【0036】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、特定の温度でソルボサーマル法を用い、かつ表面安定化処理を行った後に構造安定化処理を行うことによって製造される。詳細には、セリウム化合物、ジルコニウム化合物および必要であればネオジム、ランタン、プラセオジムおよびイットリウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属を含む化合物を混合して混合物を得;前記混合物を250℃を超える温度でソルボサーマル処理してソルボサーマル処理物を得;前記ソルボサーマル処理物を220℃以上380℃未満の温度で表面安定化処理して、前駆体を得;前記前駆体を380℃以上の温度で構造安定化処理して、Ce-Zr複合酸化物を生成する。
【0037】
すなわち、本発明の他の態様では、セリウム化合物およびジルコニウム化合物を混合して混合物を得;前記混合物を250℃を超える温度でソルボサーマル処理してソルボサーマル処理物を得;前記ソルボサーマル処理物を220℃以上380℃未満の温度で表面安定化処理して、前駆体を得;前記前駆体を380℃以上の温度で構造安定化処理して、Ce-Zr複合酸化物を生成することを有する、Ce-Zr複合酸化物の製造方法が提供される。
【0038】
また、本発明のさらなる態様では、セリウム化合物、ジルコニウム化合物ならびにネオジム、ランタン、プラセオジムおよびイットリウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属を含む化合物を混合して混合物を得;前記混合物を250℃を超える温度でソルボサーマル処理してソルボサーマル処理物を得;前記ソルボサーマル処理物を220℃以上380℃未満の温度で表面安定化処理して、前駆体を得;前記前駆体を380℃以上の温度で構造安定化処理して、Ce-Zr複合酸化物を生成することを有する、Ce-Zr複合酸化物の製造方法が提供される。
【0039】
以下、各工程について順に説明する。なお、上記他の態様及びさらなる態様に係る方法は、Ce-Zr複合酸化物が他の金属元素を含むことを規定しているか否かのみである。このため、以下では、重複する事項は一括して説明する。
【0040】
(工程(I))
まず、Ce原料であるセリウム化合物、Zr原料であるジルコニウム化合物および必要であれば他の金属元素原料である他の金属原料を、好ましくは溶媒中で、混合する(工程(I))。
【0041】
ここで、上記セリウム化合物は、特に制限されないが、溶媒に溶解するものが好ましい。具体的には、塩化セリウム等のハロゲン化物;硝酸第一セリウム(硝酸セリウム)、硫酸セリウム等の無機塩類;酢酸セリウム、2-エチルヘキサン酸セリウム(III)等のカルボン酸塩;水酸化セリウム;セリウムにアセチルアセトン、アルコキシド(メトキシド、エトキシド、tert-ブトキシドなど)のような配位子が配位した錯体化合物(例えば、セリウム(III)トリアセチルアセトナート)などが挙げられる。これらのうち、硝酸セリウム、セリウム(III)トリアセチルアセトナートが好ましい。これらのセリウム化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いても構わない。また、これらのセリウム化合物は、水和物の形態であってもよい。セリウム化合物の添加量は、特に制限されないが、上記したCe-Zr複合酸化物におけるCeの原子数の割合となるような量であることが好ましい。また、これらのセリウム化合物は、合成したものを使用してもまたは市販品を使用してもよい。
【0042】
上記ジルコニウム化合物は、特に制限されないが、溶媒に溶解するものが好ましい。具体的には、塩化ジルコニウム(IV)、塩化ジルコニウム(III)、オキシ塩化ジルコニウム、ジアルコキシジルコニウムジクロリド等のハロゲン化物;硝酸ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硫酸酸化ジルコニウム等の無機塩類;酢酸ジルコニウム、2-エチルヘキサン酸ジルコニウム等のカルボン酸塩;水酸化ジルコニウム;ジルコニウムテトラ-n-プロポキシド、ジルコニウムテトラ-iso-プロポキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシド等のテトラアルコキシジルコニウム;ジルコニウムにアセチルアセトン、アルコキシド(メトキシド、エトキシド、tert-ブトキシドなど)のような配位子が配位した錯体化合物(例えば、ジルコニウムアセチルアセトナート、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトラキス(ジエチルマロネート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセテート)ジルコニウム)などが挙げられる。これらのうち、ジルコニウムテトラ-n-プロポキシド、ジルコニウムアセチルアセトナートが好ましい。これらのジルコニウム化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いても構わない。また、これらのジルコニウム化合物は、水和物の形態であってもよい。ジルコニウム化合物の添加量は、特に制限されないが、上記したCe-Zr複合酸化物におけるZrの原子数の割合となるような量であることが好ましい。また、これらのジルコニウム化合物は、合成したものを使用してもまたは市販品を使用してもよい。
【0043】
また、Ce-Zr複合酸化物が他の金属元素を含む場合には、他の金属原料は、特に制限されないが、溶媒に溶解するものが好ましい。具体的には、他の金属元素の、硝酸塩(例えば、硝酸ランタン、硝酸イットリウム)、リン酸塩(例えば、リン酸ランタン)等の無機塩類;ハロゲン化物(例えば、塩化ランタン、塩化イットリウム);酢酸塩(例えば、酢酸ランタン、酢酸イットリウム)等のカルボン酸塩;水酸化物(例えば、水酸化ランタン、水酸化イットリウム);他の金属元素にアセチルアセトン、アルコキシド(メトキシド、エトキシド、tert-ブトキシドなど)のような配位子が配位した錯体化合物(例えば、ランタンアセチルアセトナート、イットリウムアセチルアセトナート);2-エチルヘキサン酸ランタン、2-エチルヘキサン酸イットリウムなどが挙げられる。これらのうち、他の金属元素にアセチルアセトンが配位した錯体化合物(例えば、ランタンアセチルアセトナート、イットリウムアセチルアセトナート)が好ましく、ランタンアセチルアセトナート、イットリウムアセチルアセトナートがより好ましい。これらの他の金属原料は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いても構わない。また、これらの他の金属原料は、水和物の形態であってもよい。他の金属原料の添加量は、特に制限されないが、上記したCe-Zr複合酸化物における各他の金属元素の原子数の割合となるような量であることが好ましい。また、これらの他の金属原料は、合成したものを使用してもまたは市販品を使用してもよい。
【0044】
セリウム化合物、ジルコニウム化合物および他の金属原料の混合比は、特に制限されず、Ce-Zr複合酸化物の組成が上記したようなるように適切に選択されることが好ましい。
【0045】
溶媒は、セリウム化合物、ジルコニウム化合物および添加する場合には他の金属原料を溶解または懸濁できるものであれば特に制限されないが、これらを溶解できるものが好ましい。具体的には、1,4-ブタンジオール、オクタノール、グリセリンなどのアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテルなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いても構わない。これらのうち、1,4-ブタンジオール、オクタノールが好ましく、1,4-ブタンジオールがより好ましい。
【0046】
溶媒の使用量は、上記セリウム化合物、ジルコニウム化合物及び必要であれば他の金属原料が溶解でき、下記ソルボサーマル処理が進行できる量であれば特に制限されない。具体的には、固形分濃度(溶媒100mLにおけるセリウム化合物、ジルコニウム化合物及び必要であれば他の金属原料の合計重量)が、0.01~5g/100mL 溶媒となるような量であり、0.1~3g/100mL 溶媒となるような量であることが好ましい。
【0047】
(工程(II))
上記工程(I)で得られた混合物に対し、ソルボサーマル処理(ソルボサーマル法による処理)を施し、ソルボサーマル処理物を得る。ここで、ソルボサーマル処理は、反応(加熱)温度以外は従来公知の方法が同様にしてまたは適宜修飾して行われる。好ましくは、ソルボサーマル処理は、密閉系で(例えば、オートクレーブ内で)行われる。また、ソルボサーマル処理は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等)で置換した雰囲気で行うことが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、ソルボサーマル処理は、不活性ガスで置換された密閉系で行われる。
【0048】
ソルボサーマル処理における反応温度は、250℃を超える。ここで、反応温度が250℃以下であると、溶媒がセリウム(Ce)やジルコニウム(Zr)などの溶質に配位子として結合するため、同じ極性を持つ配位子同士の反発により、CeとZrと(および含まれる場合には、他の金属元素と)の凝集反応は進まない。一方、250℃より高い温度では、配位子が溶質(Ce、Zrなど)から外れるため、CeとZrと(および含まれる場合には、他の金属元素と)の凝集反応が進む。このため、本発明に係る方法において、250℃を超える温度でソルボサーマル法を実施する場合には、最終産物のCe-Zr複合酸化物の、結晶子径を6.5nm以下と小さくかつBET比表面積を90m2/g以上と大きくできる。
【0049】
上記反応は、特に溶媒として1,4-ブタンジオールを使用する場合に適合される。なお、上記メカニズムは推定であり、本発明は上記推定によって限定されない。CeとZrと(および含まれる場合には、他の金属元素と)の凝集反応効率(ゆえに、結晶子径のさらなる低減およびBET比表面積のさらなる増大)などの観点から、ソルボサーマル処理における反応温度は、好ましくは255℃以上500℃以下であり、より好ましくは270℃以上400℃以下であり、特に好ましくは300℃を超えて350℃以下である。上記温度以外のソルボサーマル処理条件は、CeとZrと(および含まれる場合には、他の金属元素と)の凝集反応が進行する条件であれば特に制限されない。反応圧力は、好ましくは1MPa以上30MPa以下、より好ましくは5MPa以上15MPa以下である。反応時間は、好ましくは30分以上15時間以下、より好ましくは1時間以上4時間以下である。
【0050】
上記ソルボサーマル処理後は、反応物(凝集物)は、沈殿物として生成する。この反応物(凝集物)は、遠心、濾過などの公知の方法によって分離される。
【0051】
(工程(III))
上記工程(II)で得られたソルボサーマル処理物を220℃以上380℃未満の温度で表面安定化処理して、前駆体を得る。表面安定化処理を行うことで、主に硝酸根を除く溶媒成分中の低温燃焼有機成分(220℃以上、380℃未満の沸点を有する有機成分)を燃焼させることが可能となる。また、表面安定化処理を行うことで6.5nm以下の結晶子径の状態で、Ce-Zr複合酸化物の表面が酸化物となり安定化する。表面安定化処理を行わずに、後述する構造安定化処理のみを行うと、6.5nm以下の結晶子径を有し、かつ、90m2/g以上の高いBET比表面積を有するCe-Zr複合酸化物が得ることが難しい。表面安定化処理を行わずに、構造安定化処理のみを行うと、表面の酸化物安定化と、内部の低温燃焼有機物、高温燃焼有機物(380℃以上の温度の沸点を有する有機成分)、及び硝酸根の燃焼が同時に起こるため、当該燃焼時に発生する熱、火炎によって、結晶同士の成長も同時に生じるためと考えられる。ここで、表面安定化処理温度が220℃未満であると、前駆体上に220℃以上、380℃未満の溶媒成分が残存し、次工程である構造安定化処理において、これらの残存した溶媒が燃焼する。結果として、構造安定化処理において結晶子径が増大するため好ましくない。また、表面安定化処理温度が380℃以上であると、220℃以上、380℃未満の溶媒成分のみならず、触媒成分の原料中の有機成分などが同時に燃焼し、発熱するため、BET比表面積の増大を招くため好ましくない。また、CeとZrと(および含まれる場合には、他の金属元素と)の凝集反応効率(ゆえに、結晶子径のさらなる低減およびBET比表面積のさらなる増大)などの観点から、表面安定化処理温度は、好ましくは230℃以上370℃未満であり、より好ましくは240℃以上350℃未満である。また、表面安定化処理の時間は、特に制限されないが、CeとZrと(および含まれる場合には、他の金属元素と)の凝集反応効率(ゆえに、結晶子径のさらなる低減およびBET比表面積のさらなる増大)などの観点から、好ましくは10分以上5時間以下、より好ましくは20分以上2時間以下である。なお、表面安定化処理は、空気、酸素ガス、酸素ガスと不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス)との混合ガスなど、いずれの雰囲気で行われてもよい。なお、工程(II)のソルボサーマル処理と、工程(III)の表面安定化処理とは、熱処理温度が重複するが、ソルボサーマル処理は加圧下で行われるのに対し、表面安定化処理は常圧下で行われるため、これらの処理は異なるものである。
【0052】
ここで、表面安定化処理後の前駆体のBET比表面積は、好ましくは155m2/g以上、より好ましくは160m2/g以上、特に好ましくは170m2/g以上である。表面安定化処理後のBET比表面積が、上記範囲であれば、構造安定化処理後においても高いBET比表面積を保持できるため好ましい。なお、表面安定化処理後の前駆体のBET比表面積は、高いほど好ましいため、上限は特に限定されないが、通常、350m2/g以下程度であり、好ましくは300m2/g以下程度であり、より好ましくは250m2/g以下程度である。
【0053】
(工程(IV))
上記工程(III)で得られた前駆体を380℃以上の温度で構造安定化処理を行う。構造安定化処理は、表面安定化処理により得られた表面が酸化物で安定化されたCe-Zr複合酸化物の構造の安定性を強化するために行う。構造安定化処理を行うことで、Ce-Zr複合酸化物の内部に残存する原料由来の有機成分などが燃焼除去され、CeO2とZrO2の固溶が促進することで構造安定性が強化され、6.5nm以下の結晶子径と90m2/g以上の高いBET比表面積とを共に満足するCe-Zr複合酸化物を得ることが可能となる。
【0054】
ここで、構造安定化処理の温度は、380℃未満であると、原料由来の有機成分の一部が構造安定化処理後においても残存するため、コーキングなどによりCe-Zr複合酸化物の性能が低下するため好ましくない。CeとZrと(および含まれる場合には、他の金属元素と)の凝集反応効率(ゆえに、結晶子径のさらなる低減およびBET比表面積のさらなる増大)、有機成分の除去などの観点から、構造安定化処理温度は、好ましくは380℃以上950℃未満であり、より好ましくは400℃以上800℃未満である。また、構造安定化処理時間は、特に制限されないが、CeとZrと(および含まれる場合には、他の金属元素と)の凝集反応効率(ゆえに、結晶子径のさらなる低減およびBET比表面積のさらなる増大)、有機成分除去などの観点から、好ましくは15分以上10時間以下であり、より好ましくは30分以上5時間以下であり、さらに好ましくは1時間以上3時間以下である。
【0055】
なお、構造安定化処理は、空気、酸素ガス、酸素ガスと不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス)との混合ガスなど、いずれの雰囲気で行われてもよい。
【0056】
本発明のCe-Zr複合酸化物は、表面安定化処理後のBET比表面積に対する、構造安定化処理後のBET比表面積の比が0.54以上、1.0以下であることが好ましく、0.8以上、0.98以下であることがより好ましく、0.9以上、0.95以下であることがさらに好ましく、0.90以上、0.95以下であることが特に好ましい。
【0057】
すなわち、本発明の好ましい形態では、表面安定化処理して得られた前駆体のBET比表面積が155m2/g以上であり、表面安定化処理後の前駆体のBET比表面積に対する、構造安定化処理後のCe-Zr複合酸化物のBET比表面積の比が0.54以上、1.0以下である。本発明のより好ましい形態では、表面安定化処理して得られた前駆体のBET比表面積が160m2/g以上であり、表面安定化処理後の前駆体のBET比表面積に対する、構造安定化処理後のCe-Zr複合酸化物のBET比表面積の比が0.8以上、0.98以下である。本発明の特に好ましい形態では、表面安定化処理して得られた前駆体のBET比表面積が170m2/g以上であり、表面安定化処理後の前駆体のBET比表面積に対する、構造安定化処理後のCe-Zr複合酸化物のBET比表面積の比が0.9以上、0.95以下(特に0.90以上、0.95以下)である。
【0058】
本明細書において、Ce-Zr複合酸化物のBET比表面積は、吸着分子として窒素を用いてBET法により測定した値である。具体的には、マイクロミリティックス社製トライスターII3020を用いて測定したBET比表面積(m2/g)を採用する。
【0059】
上記方法によって、本発明に係るCe-Zr複合酸化物が製造される。本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、低温であっても酸素貯蔵放出特性に優れる。このため、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、排気ガス浄化用触媒に酸素貯蔵材(OSC材)として適用できる。すなわち、本発明の別の態様によると、本発明に係るCe-Zr複合酸化物および貴金属が三次元構造体に担持されてなる排気ガス浄化用触媒が提供される。以下、上記態様について説明する。なお、上記態様に係る排気ガス浄化用触媒(以下、単に「触媒」とも称する)は、本発明に係るCe-Zr複合酸化物を含む以外は、限定されず、従来公知の成分、技術が適用できる。このため、本発明は、下記に限定されない。
【0060】
本発明に係る触媒は、本発明に係るCe-Zr複合酸化物を必須に含む。ここで、Ce-Zr複合酸化物の含有量(担持量;酸化物換算)は、特に制限されないが、三次元構造体1リットル当たり、好ましくは5~200g、より好ましくは5~100g、さらに好ましくは10~90gである。このような含有量でCe-Zr複合酸化物が含まれることにより、酸化・還元反応を安定して進行させることができる。
【0061】
(貴金属)
本発明に係る触媒は、貴金属(触媒成分)を必須に含む。貴金属(触媒成分)は、排気ガスを浄化するための酸化・還元反応に触媒作用を示す。ここで、貴金属の種類は特に制限されないが、具体的には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などが挙げられる。これらの貴金属は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用されてもよい。これらのうち、貴金属は、好ましくは白金、パラジウムおよびロジウムであり、より好ましくはパラジウム単独;白金および/またはパラジウムとロジウムとの組み合わせであり、特に好ましくはパラジウム単独、パラジウムとロジウムとの組み合わせである。すなわち、本発明の好ましい形態によると、貴金属は、白金、パラジウムおよびロジウムからなる群より選択される少なくとも一種である。また、本発明のより好ましい形態によると、貴金属は、パラジウムのみ、または白金およびパラジウムの少なくとも一方ならびにロジウムである。本発明の特に好ましい形態によると、貴金属は、パラジウムまたはパラジウムおよびロジウムである。
【0062】
ここで、白金(Pt)の使用量(担持量)は、特に制限されないが、排気ガス浄化能を考慮すると、三次元構造体1リットル当たり、貴金属換算で、0.01~20gが好ましく、0.05~10gがより好ましく、0.5gを超えて5g未満が最も好ましい。
【0063】
パラジウム(Pd)の使用量(担持量)は、特に制限されないが、排気ガス(特にHC)浄化能を考慮すると、三次元構造体1リットル当たり、貴金属換算で、0.01~20gが好ましく、0.05~5gがより好ましく、0.3~3gが最も好ましい。
【0064】
ロジウム(Rh)の使用量(担持量)は、特に制限されないが、排気ガス(特にNOx)浄化能を考慮すると、三次元構造体1リットル当たり、貴金属換算で、0.01~20gが好ましく、0.05~5gがより好ましく、0.1~3gが最も好ましい。
【0065】
また、貴金属が白金およびパラジウムである際の、白金とパラジウムの混合比(白金:パラジウム(質量比))は、50:1~1:1、40:1~1:1、30:1~1.1:1、20:1~1.3:1、5:1~1.5:1の順で好ましい。白金とパラジウムの混合比の範囲が上記好ましい範囲になるにつれて、排気ガス浄化効率が向上できる。
【0066】
また、貴金属がパラジウムおよびロジウムである際の、パラジウムとロジウムとの混合比(白金:ロジウム(質量比))は、好ましくは30:1~1.1:1、より好ましくは20:1~1.3:1、特に好ましくは5:1~1.5:1である。パラジウムとロジウムの混合比の範囲が上記好ましい範囲になるにつれて、排気ガス浄化効率が向上できる。
【0067】
貴金属源(貴金属の出発原料)は、特に制限されることなく、水溶性貴金属塩、貴金属錯体等、当該分野で用いられている原料を用いることができ、これらは触媒を調製する方法に応じて変更して使用することができる。具体的には、パラジウム(Pd)の原料(パラジウム源)としては、塩化パラジウム等のハロゲン化物;パラジウムの、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、アミン塩、テトラアンミン塩、ヘキサアンミン塩、炭酸塩、重炭酸塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩等の、無機塩類;蟻酸塩などのカルボン酸塩;および水酸化物、アルコキサイド、酸化物などが挙げられる。これらのうち、硝酸塩(硝酸パラジウム)、テトラアンミン塩(テトラアンミンパラジウム)、ヘキサアンミン塩(ヘキサアンミンパラジウム)、カルボン酸塩、水酸化物が好ましく、硝酸塩がより好ましい。なお、本発明では、上記パラジウム源は、単独であってもあるいは2種以上の混合物であってもよい。ロジウム(Rh)の原料(ロジウム源)としては、ロジウムの、アンモニウム塩、アミン塩、へキサアンミン塩、炭酸塩、重炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩等の、無機塩類;蟻酸塩などのカルボン酸塩;および水酸化物、アルコキサイド、酸化物などが挙げられる。これらのうち、硝酸塩、アンモニウム塩、アミン塩、へキサアンミン塩、炭酸塩が好ましい。なお、本発明では、上記ロジウム源は、単独であってもあるいは2種以上の混合物であってもよい。白金(Pt)の原料(白金源)としては、臭化白金、塩化白金等のハロゲン化物;白金の、硝酸塩、ジニトロジアンミン塩、テトラアンミン塩、ヘキサアンミン塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン塩、ビスエタノールアミン塩、ビスアセチルアセトナート塩、炭酸塩、重炭酸塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩等の、無機塩類;蟻酸塩などのカルボン酸塩;および水酸化物、アルコキサイド、ヘキサヒドロキソ酸塩、酸化物などが挙げられる。これらのうち、硝酸塩(硝酸白金)、ジニトロジアンミン塩(ジニトロジアンミン白金)、塩化物(塩化白金)、テトラアンミン塩(テトラアンミン白金)、ヘキサアンミン塩(ヘキサアンミン白金)、ヘキサヒドロキソ酸塩が好ましい。なお、本発明では、上記白金源は、単独であってもあるいは2種以上の混合物であってもよい。
【0068】
貴金属源の量は、特に制限されないが、上記したような各貴金属の含有量(担持量)となるような量であることが好ましい。なお、貴金属源を2種以上組み合わせて使用する場合には、貴金属源の合計量が上記貴金属の含有量(担持量)となるような量であることが好ましい。
【0069】
(耐火性無機酸化物)
本発明に係る触媒は、上記貴金属に加えてまたは上記貴金属に代えて、耐火性無機酸化物を含んでもよい。耐火性無機酸化物は、貴金属、希土類金属、その他の金属元素などの触媒活性成分を担持する担体として使用されうる。耐火性無機酸化物としては、通常、触媒担体として用いられるものであれば特に制限されない。また、耐火性無機酸化物は、高い比表面積を有しており、これに触媒成分を担持させることで、触媒成分と排気ガスとの接触面積を増加させたり、反応物を吸着させたりすることができる。その結果、触媒全体としての反応性をさらに高めることが可能となる。
【0070】
耐火性無機酸化物としては、例えば、アルミナ、ゼオライト、チタニア、ジルコニア、シリカなどを挙げることができる。これらの耐火性無機酸化物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。これらのうち、高温耐久性および高比表面積の観点から、アルミナ、ジルコニアが好ましく、アルミナがより好ましい。ここで、耐火性無機酸化物として好ましく使用されるアルミナは、アルミニウムの酸化物が含まれるものであれば特に制限されず、γ、δ、η、θ-アルミナなどの活性アルミナ、ランタナ含有アルミナ、シリカ含有アルミナ、シリカ-チタニア含有アルミナ、シリカ-チタニア-ジルコニア含有アルミナなどが挙げられる。これらのアルミナは、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。これらのうち、高温耐久性および高比表面積の観点から、γ、δ、またはθ-アルミナ、ランタナ含有アルミナが好ましい。
【0071】
また、耐火性無機酸化物のBET比表面積もまた、特に制限されないが、触媒成分を担持させる観点から、好ましくは50~750m2/g、より好ましくは80~500m2/g、特に好ましくは120~250m2/gである。このような比表面積であれば、十分量の貴金属(触媒成分)を耐火性無機酸化物に担持させることができ、触媒成分と排気ガスとの接触面積を増加させたり、反応物を吸着させたりすることができる。その結果、触媒全体としての反応性をさらに高めることが可能となる。
【0072】
耐火性無機酸化物の含有量(担持量)は、特に制限されないが、三次元構造体1L当たり、好ましくは10~300gであり、より好ましくは30~200gである。三次元構造体1L当たりの耐火性無機酸化物の含有量が10g以上であると、貴金属を十分に耐火性無機酸化物に分散でき、より十分な耐久性を有する触媒が得られる。一方、耐火性無機酸化物の含有量が三次元構造体1L当たり300g以下であると、貴金属と排気ガスとの接触状態が良好となり、排気ガス浄化性能がより十分に発揮され得る。また、本発明に係る触媒が本発明に係るCe-Zr複合酸化物および耐火性無機酸化物を含む場合の、Ce-Zr複合酸化物と耐火性無機酸化物との混合比(質量比)は、好ましくは1:0.2~9、より好ましくは1:0.8~5である。このような比であれば、十分量の貴金属(触媒成分)を耐火性無機酸化物に担持させることができ、触媒成分と排気ガスとの接触面積を増加させると共に、Ce-Zr複合酸化物は、十分酸素貯蔵放出特性を発揮できかつ排気ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を十分吸着できる。その結果、触媒全体としての反応性をさらに高めると共に排気ガスの浄化性能をさらに高めることが可能となる。
【0073】
(希土類元素)
本発明に係る触媒は、Ce-Zr複合酸化物以外の希土類金属をさらに含んでもよい。ここで、希土類金属としては、特に制限されないが、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)及びプラセオジム(Pr)などが挙げられる。これらのうち、ランタン、ネオジム、イットリウム及びプラセオジムが好ましく、ランタン及びプラセオジムがより好ましい。これらの希土類金属は、単独で含有されていてもよいし、2種以上が組み合わされて含有されていてもよい。また、希土類金属は、金属そのままの形態であってもよいし、酸化物の形態であってもよい。
【0074】
希土類金属の含有量(酸化物換算)は、三次元構造体1リットル当たり、好ましくは0.2~30g、より好ましくは0.3~10gである。
【0075】
(その他の成分)
本発明に係る触媒は、その他の成分をさらに含んでもよい。ここで、その他の成分は特に制限されないが、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等の第2族元素が使用できる。これらの元素は、排気ガス浄化用触媒中に、酸化物、硫酸塩又は炭酸塩の形態で含有され得る。中でも、Ba、Srを用いることが好ましく、酸化ストロンチウム、硫酸バリウム(BaSO4)または酸化バリウム(BaO)を用いることがより好ましい。これらのその他の成分は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0076】
本発明に係る触媒がその他の成分を含む場合の、その他の成分(特に、SrO、BaSO4、BaO)の含有量(酸化物換算)は、三次元構造体1リットル当たり、好ましくは0~50gであり、より好ましくは0.1~30gであり、さらに好ましくは0.5~20gである。
【0077】
(三次元構造体)
本発明に係る触媒は、貴金属および本発明に係るCe-Zr複合酸化物が三次元構造体に担持されてなる。
【0078】
ここで、三次元構造体は、特に制限されず、当該分野で通常使用される耐火性三次元構造体を同様にして使用することができる。三次元構造体としては、例えば、貫通口(ガス通過口、セル形状)が三角形、四角形、六角形を有するハニカム担体等の耐熱性担体が使用できる。三次元構造体は一体成形型のもの(三次元一体構造体、一体構堰体)が好ましく、例えば、モノリス担体、メタルハニカム担体、パンチングメタル等が好ましく用いられる。
【0079】
これらモノリス担体は、押出成型法やシート状素子を巻き固める方法等によって製造される。その貫通口(ガス通気口、セル形状)の形は、六角形(ハニカム)、四角形、三角形又はコルゲート(コルゲーション形)の何れであってもよい。セル密度(セル数/単位断面積)は、100~1200セル/平方インチであれば十分に使用可能であり、好ましくは200~900セル/平方インチ、より好ましくは200~600セル/平方インチ、さらに好ましくは250~500セル/平方インチ(1インチ=25.4mm)である。
【0080】
以下、本発明の触媒の製造方法の好ましい形態を説明する。しかし、本発明は、下記好ましい形態に限定されるものではない。
【0081】
すなわち、本発明に係るCe-Zr複合酸化物、貴金属源、ならびに必要であれば、上記したような他の成分(例えば、耐火性無機酸化物、希土類金属、その他の成分)および水性媒体を、所望の組成に応じて、適宜秤量、混合して、5~95℃で0.5~24時間、攪拌し(必要であれば撹拌した後、湿式粉砕し)、スラリーを調製する。ここで、水性媒体としては、水(純水、超純水、脱イオン水、蒸留水等)、エタノール、2-プロパノールなどの低級アルコール、有機系のアルカリ水溶液などを使用することができる。中でも、水、低級アルコールを使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。水性媒体の量は、特に制限されないが、スラリー中の固形分の割合(固形分質量濃度)が5~60質量%、より好ましくは10~50質量%となるような量であることが好ましい。固形分の割合は、上述のスラリーをるつぼに入れ、550℃で30分間空気中にて溶媒成分の除去を行う前のスラリーの質量に対する、550℃で30分間空気中にて溶媒成分の除去をした後に残存している固形分の質量の割合から算出することができる。
【0082】
ここで、Ce-Zr複合酸化物、貴金属源、他の原料(例えば、耐火性無機酸化物、希土類金属、その他の成分)の添加順序は、特に制限されず、一括して水性媒体中に投入してもまたは適切な順番で別々に添加してもよい。また、各原料を添加した後の混合物(スラリー)のpHを1~12、好ましくは3~9に調整することが好ましい。このため、各添加工程後の混合物(スラリー)のpHが上記範囲から外れる場合は、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸などの酸、またはアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの塩基を用いて、pHを上記所定の範囲に調整することが好ましい。
【0083】
次に、上記にて調製したスラリーを三次元構造体に塗布する。スラリーを三次元構造体上に塗布する方法は、ウォッシュコート法などの公知の方法を適宜採用することができる。また、スラリーの塗布量は、スラリー中の固体物の量、及び形成する触媒層の厚さに応じて当業者が適宜設定することができる。スラリーの塗布量は、好ましくは、各成分が上記したような含有量(担持量)となるような量である。
【0084】
次に、上記にてスラリーを塗布した三次元構造体を、空気中で、好ましくは50~170℃、より好ましくは70~150℃の温度で、5分間~10時間、好ましくは15分間~3時間、乾燥させる。次に、このようにして得られた乾燥スラリー塗膜(触媒前駆層)を、空気中で、440℃~800℃、好ましくは450℃~610℃、より好ましくは450℃~555℃の温度で、10分間~3時間、好ましくは15分間~1時間、焼成する。このような条件であれば、触媒成分(貴金属、Ce-Zr複合酸化物等)を効率よく三次元構造体に付着(担持)できる。また、焼成工程は、空気等のガスを流しながら行うことが好ましい。ここで、ガスを流す速度(ガス流速)は、特に制限されないが、好ましくは0.1m/秒以上、より好ましくは0.2~1.2m/秒である。なお、上記触媒層形成工程は、1回であってもまたは複数回行ってもよい(2以上の触媒層を三次元構造体に形成してもよい)。
【0085】
上記により、本発明の触媒が製造できる。なお、本発明に係る触媒は、上記したように、本発明に係るCe-Zr複合酸化物を有するものであれば、触媒層1層のみを有していても、あるいは2層以上の触媒層が積層した構造を有するものであってもよい。本発明の触媒が2層以上の触媒層が積層した構造を有する場合において、本発明に係るCe-Zr複合酸化物はいずれの触媒層に配置されてもよい。好ましくは、本発明に係るCe-Zr複合酸化物が少なくともパラジウムを含む層に配置されることが好ましい。このような配置により、本発明に係るCe-Zr複合酸化物の能力を最大限に発揮できる。また、本発明に係るCe-Zr複合酸化物を含まない他の触媒層は、特に制限されず、触媒の分野において公知の触媒層でありうる。例えば、本発明に係るCe-Zr複合酸化物を使用しない以外は、上記したのと同様の構成(成分)を使用できる。また、各触媒層における構成(成分)は、同じであってもよいが、異なる構成であることが好ましい。例えば、貴金属では、触媒層2層における貴金属の好ましい組み合わせ(触媒下層における貴金属と触媒上層における貴金属との組み合わせとして記載)としては、以下に制限されないが、白金とロジウムとの組み合わせ、パラジウムとロジウムとの組み合わせ、白金及びパラジウムとロジウムとの組み合わせ、白金とロジウム及びパラジウムとの組み合わせ、パラジウムとロジウム及び白金との組み合わせなどがある。このような組み合わせにより、効率よく排気ガスを浄化できる。このうち、白金とロジウムとの組み合わせ、パラジウムとロジウムとの組み合わせがより好ましい。なお、すべての触媒層に貴金属を含む必要はないが、すべての触媒層に貴金属を含むことが好ましい。これにより、触媒性能をより向上できる。
【0086】
<排気ガスの浄化方法>
本発明の触媒は、低温であっても排気ガス(炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx))に対して高い浄化性能を発揮できる。ゆえに、本発明は、本発明に係る排気ガス浄化用触媒を用いて排気ガスを処理する(特に排気ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および窒素酸化物(NOx)を浄化する)ことを有する、排気ガスの浄化方法をも提供する。なお、本発明に係る触媒は、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジン双方からの排気ガスに適用できるが、ガソリンエンジンからの排気ガスに特に好適に使用できる。なお、ガソリンエンジンを用いて排気ガスの浄化率(浄化能)は、例えば、下記ライトオフ(LO)試験におけるCO、THC、NOxの各浄化率が50%に達する時の温度(T50(℃))によって評価できる。なお、T50が低いほど、触媒は高い排気ガス浄化性能を発揮することを示す。
【0087】
排気ガスは、通常、HC、CO、NOxを含み、例えば、窒素酸化物(例えば、NO、NO2、N2O)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、酸素(O2)、水素(H2)、アンモニア(NH3)、水(H2O)、二酸化硫黄(SO2)、炭化水素(HC)などを任意の割合で含む。
【0088】
本形態の排気ガス浄化方法を適用するガソリンエンジンは、ディーゼルエンジンとの差異を強調することを意図しており、通常のガソリンエンジンに加えて、例えば、ガソリンハイブリッドエンジン、天然ガス、エタノール、ジメチルエーテルなどを燃料として用いるエンジンなどを包含する。中でも、ガソリンエンジンであることが好ましい。
【0089】
本発明の触媒に排気ガスを接触させる方法としては、例えば、排気ガス浄化用触媒をガソリンエンジンの排気ポートの排気流路中に触媒を設置し、排気ガスを排気流路に流入させる方法が挙げられる。
【0090】
本発明に係る触媒は、低温域であっても高い排気ガス浄化性能を発揮できるものであるが、排気ガスの温度は、0℃~800℃、つまり通常のガソリンエンジンの運転時の排気ガスの温度範囲内でありえる。ここで、温度が0℃~800℃であるガソリンエンジンの排気ガスにおける空燃比(A/F)は10~30であり、好ましくは11.0~14.7である。
【0091】
本発明の触媒に排気ガスを接触させる方法としては、例えば、排気ガス浄化用触媒をガソリンエンジンの排気ポートの排気流路中に触媒を設置し、排気ガスを排気流路に流入させる方法が挙げられる。
【0092】
本発明に係る触媒は、低温域であっても高い排気ガス浄化性能を発揮できるものである。詳細には、本発明に係る触媒は、50~600℃(特に100~500℃)の低温の排気ガス(特に、HC、CO、NOx、水蒸気等を含む)に対して、または触媒床部の温度が650~900℃の高温の排気ガス(特に、HC、CO、NOx、水蒸気等を含む)に長時間曝された後の50~600℃(特に100~500℃)の低温の排気ガスに対しても、優れた排気ガス処理効果を発揮できる。加えて、本発明に係る触媒は、上記したような低温域に加えて、800~1200℃の高温領域であっても、高い浄化性能を発揮できる。ここで、温度が800~1200℃である内燃機関の排気ガスの空燃比は、好ましくは10~18.6である。
【0093】
このため、上記したような本発明の触媒または上記したような方法によって製造される触媒は、温度が800~1200℃、好ましくは900~1000℃である排気ガスに曝されていてもよい。また、本発明の触媒を高温の排気ガスに曝す時間(排気ガスを流入させる時間)も、特に限定されるものではなく、例えば、10~800時間、好ましくは16~500時間、より好ましくは40~100時間である。このような高温の排気ガスに曝された後にも本発明の触媒は、高い性能を有する。このように高温の排気ガスに曝された後の触媒の排気ガス浄化性能を調べるために、熱処理として、900~1000℃の排気ガスに、10~300時間曝す処理を触媒に施した後に、排気ガス浄化性能(触媒の劣化に対する耐性)を評価することが有効である。
【0094】
なお、本明細書において「排気ガスの温度」とは、触媒入口部における排気ガスの温度を意味する。ここで、「触媒入口部」とは、排気ガス浄化用触媒が設置された排気管における排気ガス流入側の触媒端面から内燃機関側に向かって10cmまでの部分を指し、かつ、排気管の長手方向(軸方向)の中心部分の箇所を指す。また、本明細書において「触媒床部」とは、上記排気管における排気ガス流入側の触媒端面から排気ガス流出側の触媒端面までの間の中央部分であり、かつ、排気管の横断面の中心部分の箇所(排気管の横断面が円形でない場合は、排気管の横断面の重心部分の箇所)を指す。
【0095】
また、本形態の触媒は、単独で十分な触媒活性を発揮できるものであるが、本発明に係る触媒の前段(流入側)または後段(流出側)に同様の、または異なる排気ガス浄化触媒を配置してもよい。好ましくは、本発明に係る触媒を単独で配置する、または本発明に係る触媒を前段(流入側)および後段(流出側)双方に配置する、または本発明の触媒を前段(流入側)および後段(流出側)のいずれか一方に配置しかつ従来公知の排気ガス浄化触媒を他方に配置する。より好ましくは、本発明の触媒を単独で配置する、または本発明の触媒を前段(流入側)および後段(流出側)双方に配置する。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。なお、特記しない限り、各操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行われた。また、特記しない限り、比は質量比を表す。
【0097】
[実施例1]
Ce原料として酢酸セリウム1.5水和物、Zr原料としてジルコニウムテトラ-n-プロポキシドおよびLa原料としてランタンアセチルアセトナート2水和物を用いて、CeO2:ZrO2:La2O3の組成比(質量比)が表1の値となるようそれぞれ秤量した。溶媒として1,4-ブタンジオールを400mL秤量した容器に、各原料を投入して、スリーワンモーターにて10分間攪拌して、混合物(固形分濃度=1.5g/100mL 1,4-ブタンジオール)を得た。この混合物をオートクレーブ(日東高圧社製、商品名:NU-4)に移し、N2置換したオートクレーブ(反応圧力=10.3MPa)中で、340℃で2時間、得られた混合物を攪拌した(ソルボサーマル処理)。得られた生成物を遠心分離機により分離し、250℃で30分空気中で表面安定化処理して、前駆体A’を得た。ここで得られた前駆体A’のBET比表面積を測定した。なお、BET比表面積の測定には、マイクロミリティックス社製トライスターII3020を用いた。結果を下記表2中の「BET比表面積(表面安定化処理後)」に示す。
【0098】
次に、得られた前駆体A’について、500℃で1時間空気中で構造安定化処理することで、粉体Aを得た。このようにして得られた粉体Hは、セリウム、ジルコニウム及びランタンを、47:47:6(CeO2:ZrO2:La2O3の質量比)[Ce:Zr:La(原子比)=40:57:3]で含むCe-Zr-La複合酸化物である。
【0099】
[実施例2]
実施例1において、N2置換したオートクレーブ中、300℃で2時間攪拌した(ソルボサーマル処理)以外は、実施例1と同様にして、粉体Bを得た。なお、本例においても、表面安定化処理後の前駆体(前駆体B’)のBET比表面積を、実施例1と同様にして測定し、結果を下記表2中の「BET比表面積(表面安定化処理後)」に示す。
【0100】
[比較例1]
実施例1において、N2置換したオートクレーブ中、250℃で2時間攪拌した(ソルボサーマル処理)以外は、実施例1と同様にして、粉体Cを得た。なお、本例においても、表面安定化処理後の前駆体(前駆体C’)のBET比表面積を、実施例1と同様にして測定し、結果を下記表2中の「BET比表面積(表面安定化処理後)」に示す。
【0101】
[実施例3]
実施例1において、Zr原料としてジルコニウムアセチルアセトナートを代わりに用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体Dを得た。なお、本例においても、表面安定化処理後の前駆体(前駆体D’)のBET比表面積を、実施例1と同様にして測定し、結果を下記表2中の「BET比表面積(表面安定化処理後)」に示す。
【0102】
[比較例2]
実施例3において、N2置換したオートクレーブ中、200℃で2時間攪拌した(ソルボサーマル処理)こと以外は、実施例3と同様にして、粉体Eを得た。なお、本例においても、表面安定化処理後の前駆体(前駆体E’)のBET比表面積を、実施例1と同様にして測定し、結果を下記表2中の「BET比表面積(表面安定化処理後)」に示す。
【0103】
[実施例4]
実施例3において、Ce原料としてセリウム(III)トリアセチルアセトナート2水和物を代わりに用いた以外は、実施例3と同様にして、粉体Fを得た。なお、本例においても、表面安定化処理後の前駆体(前駆体F’)のBET比表面積を、実施例1と同様にして測定し、結果を下記表2中の「BET比表面積(表面安定化処理後)」に示す。
【0104】
[比較例3]
Ce原料として硝酸セリウム、Zr原料として硝酸ジルコニウム、La原料として硝酸ランタンを用いて、CeO2:ZrO2:La2O3の組成比(質量比)が表1の値となるようそれぞれ秤量した。蒸留水を500mL秤量した容器に、各原料を投入し、スリーワンモーターにて10分間攪拌した。攪拌後の溶液に、pHが10になるようにアンモニアを加え、水酸化セリウム、水酸化ジルコニウムおよび水酸化ランタンを共沈させた。得られた生成物を遠心分離機を用いて、3500rpmで10分間遠心分離した。上澄みを取り除いた後、水を加え生成物を洗浄し、3500rpmで10分間遠心分離した。上記洗浄および遠心分離の操作を計3回繰り返し、生成物を得た。得られた生成物を250℃で30分空気中で乾燥し、次に、500℃で1時間空気中で構造安定化処理することで、粉体Gを得た。
【0105】
【0106】
上記で得られた粉体A~Gについて、BET比表面積を測定した。なお、BET比表面積の測定には、マイクロミリティックス社製トライスターII3020を用いた。結果を下記表2中の「BET比表面積(構造安定化処理後)」および
図1に示す。表2および
図1から、合成(ソルボサーマル処理)温度が250℃より高い粉体A、B、D、及びFのBET比表面積は比較例の粉体C(合成温度が250℃のソルボサーマル法)、粉体E(合成温度が200℃のソルボサーマル法)、及び粉体G(共沈法)よりも高いことがわかる。
【0107】
[実施例5]
実施例3において、CeO2:ZrO2:La2O3の組成比(質量比)が表1の値となるようそれぞれ秤量した以外は、実施例3と同様にして、粉体Hを得た。このようにして得られた粉体Hは、セリウム、ジルコニウム及びランタンを、30:64:6(CeO2:ZrO2:La2O3の質量比)[Ce:Zr:La(原子比)=24:73:3]で含むCe-Zr-La複合酸化物である。
【0108】
[比較例4]
比較例3において、CeO2:ZrO2:La2O3の組成比(質量比)が表1の値となるようそれぞれ秤量した以外は、比較例3と同様にして、粉体Iを得た。
【0109】
上記で得られた粉体H及びIについて、上記と同様にして、BET比表面積を測定した。結果を下記表2中の「BET比表面積(構造安定化処理後)」および
図2に示す。
図2から、ソルボサーマル法で製造した粉体Hは、共沈法で製造した粉体Iに比して、大きなBET比表面積を有することがわかる。
【0110】
[実施例6]
実施例3において、CeO2:ZrO2:La2O3の組成比(質量比)が表1の値となるようそれぞれ秤量した以外は、実施例3と同様にして、粉体Jを得た。このようにして得られた粉体Jは、セリウム、ジルコニウム及びランタンを、64:30:6(CeO2:ZrO2:La2O3の質量比)[Ce:Zr:La(原子比)=59:38:3]で含むCe-Zr-La複合酸化物である。
【0111】
[比較例5]
比較例3において、CeO2:ZrO2:La2O3の組成比(質量比)が表1の値となるようそれぞれ秤量した以外は、比較例3と同様にして、粉体Kを得た。
【0112】
上記で得られた粉体J及びKについて、上記と同様にして、BET比表面積を測定した。結果を下記表2中の「BET比表面積(構造安定化処理後)」および
図3に示す。
図3から、ソルボサーマル法で製造した粉体Jは、共沈法で製造した粉体Kに比して、大きなBET比表面積を有することがわかる。
【0113】
また、各粉体A~Kについて、XRD測定を行い、結晶子径(nm)を測定した。測定には、スペクトリス社製X’Pert Proを用いて、X線管球には銅管球を用いた。X線波長λは、1.54056Å、Kは0.9であった。また、得られた結晶子径からR値を算出した。結果を下記表2に示す。
【0114】
【0115】
さらに、粉体A、D、G、H、I、及びKについて、H
2-TPR測定を行った。測定には、全自動触媒ガス吸着量測定装置「R-6015」(ヘンミ計算尺製)を用いた。具体的には各粉体0.5gを、酸素ガス(O
2)流通下で500℃にて10分間酸化処理した後、室温(25℃)まで温度を下げ、ヘリウムガス(He)を15分間流通させることで装置内に残る余分なO
2を十分パージさせた。その後5%H
2を含むHe流通下に切り替え、700℃まで昇温させ、その昇温中のH
2Oの生成挙動をTCD(熱電導度検出器)にて、連続的に測定した。得られたH
2Oの生成曲線から、H
2Oが最も多く生成する温度をH
2O生成ピーク温度(
図4中の「Peak temperature in TPR [℃]」)として算出した。各粉体のR値に対するH
2-TPR測定におけるピーク温度(
図4中の「Peak temperature in TPR [℃]」)の関係を
図4に示す。
【0116】
[実施例7]
Pd原料として硝酸パラジウム、実施例1で得られた粉体A、アルミナ(平均二次粒子径:25μm、BET比表面積:150m2/g)、水酸化ストロンチウム、酢酸ランタンを、Pd:粉体A:アルミナ:SrO:La2O3の組成比(質量比)が1:50:50:9:2となるように、それぞれ、秤量した。300mLの蒸留水に、所定量の硝酸パラジウム、粉体A、アルミナ、水酸化ストロンチウムおよび酢酸ランタンを投入し、1時間スリーワンモーターにて攪拌した。硝酸にてpHを6に調整した後、ボールミルにて湿式粉砕することでスラリー(固形分質量濃度=40質量%)を得た。この時スラリーの粒子径(D50)が5μmであった。次に、得られたスラリーをコージェライト担体(直径24mm、長さ67mmの円筒形、400セル/1平方インチ、壁圧2.5ミリインチ)に焼成後の質量が、三次元構造体1リットルあたり112gとなるようにウォッシュコートした。次に、150℃の空気で1時間で乾燥した後、550℃で30分間空気中にて焼成することで触媒Mを得た。
【0117】
[比較例6]
実施例7において、粉体Aの代わりに粉体Gを用いた以外は、実施例7と同様にして、触媒Nを得た。
【0118】
上記で製造した排気ガス浄化用触媒M、Nについて、下記方法に従って、排気ガス浄化性能を評価した。
【0119】
<耐熱処理>
各排気ガス浄化用触媒を、V型8気筒、4.6リットルガソリンエンジンの排気口から25cm下流側に設置した。触媒床部の温度を960℃となるようにエンジンを回転させ、触媒入口部のA/Fが14.6となるようにエンジンを回転させ、つづいて、A/Fが13.0となる、燃料供給停止のサイクルを繰り返した。このサイクルにより各排気ガス浄化用触媒の耐熱処理をそれぞれ合計50時間行った。
【0120】
<排気ガス浄化性能評価>
上記耐熱処理後の排気ガス浄化用触媒を、それぞれ、直列6気筒、2.4リットルガソリンエンジンの排気口から30cm下流側に設置した。触媒入口部のA/Fを14.6となるようにエンジンを回転させ、触媒入口部の温度を100℃から500℃まで、1分間あたり50℃の速度で昇温させながら、触媒に排気ガスを流通させた。触媒出口部から排出されるガスを分析し、CO、HC及びNOxの各浄化率を算出し、各浄化率が50%に達する時の温度をT50とした。
【0121】
結果を
図5に示す。
図5より、実施例の触媒Mは、比較例の触媒Nに比して、CO、HC及びNOxの浄化性能に優れることが示される。
以下に、本発明の態様・形態を要約する。
1. 結晶子径が6.5nm以下で、かつ、BET比表面積が90m
2/g以上である、Ce-Zr複合酸化物。
2. R値が1.5以上である、上記1.に記載のCe-Zr複合酸化物。
3. セリウムおよびセリアの少なくとも一方ならびにジルコニウムおよびジルコニアの少なくとも一方から構成される、またはセリウムおよびセリアの少なくとも一方、ジルコニウムおよびジルコニアの少なくとも一方、ならびにネオジム、ランタン、プラセオジムおよびイットリウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属または前記金属の酸化物から構成される、上記1.または上記2.に記載のCe-Zr複合酸化物。
4. セリウム化合物およびジルコニウム化合物を混合して混合物を得;
前記混合物を250℃を超える温度でソルボサーマル処理してソルボサーマル処理物を得;
前記ソルボサーマル処理物を220℃以上380℃未満の温度で表面安定化処理して、前駆体を得;
前記前駆体を380℃以上の温度で構造安定化処理して、Ce-Zr複合酸化物を生成することを有する、Ce-Zr複合酸化物の製造方法。
5. 前記表面安定化処理して得られた前記前駆体のBET比表面積が155m
2/g以上であり、前記
表面安定化処理後の前記
前駆体のBET比表面積に対する、前記
構造安定化処理後の前記
Ce-Zr複合酸化物のBET比表面積の比が0.54以上、1.0以下である、上記4.に記載のCe-Zr複合酸化物の製造方法。
6. 前記ソルボサーマル処理が、不活性ガスで置換された密閉系で行われる、上記4.または上記5.に記載の方法。
7. 上記1.~3.のいずれかに記載のCe-Zr複合酸化物および貴金属が三次元構造体に担持されてなる排気ガス浄化用触媒。
8. 上記7.に記載の排気ガス浄化用触媒を用いて排気ガスを処理することを有する、排気ガスの浄化方法。
【0122】
本出願は、2020年4月28日に出願された日本特許出願番号2020-078886号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。