(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】溶剤組成物および物品の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C23G 5/028 20060101AFI20220727BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20220727BHJP
C10M 171/02 20060101ALI20220727BHJP
B08B 3/08 20060101ALN20220727BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20220727BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220727BHJP
【FI】
C23G5/028
C11D7/50
C10M171/02
B08B3/08 Z
C10N40:24
C10N30:06
(21)【出願番号】P 2019548826
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2018038991
(87)【国際公開番号】W WO2019078352
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2017203025
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西口 祥雄
(72)【発明者】
【氏名】井村 英明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 正宗
(72)【発明者】
【氏名】佐久 冬彦
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104738(WO,A1)
【文献】特開平02-221388(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038933(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/08
C10M 171/02
C11D 7/30
C11D 7/50
C23G 5/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品に付着した金属塑性加工用潤滑剤を除去するための溶剤組成物であって、
シス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、
トランス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、
1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンおよび
1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン
からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤を
90質量%以上含む、溶剤組成物。
【請求項2】
シス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから実質的になる、請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項3】
トランス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから実質的になる、請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項4】
1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから実質的になる、請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項5】
1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから実質的になる、請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項6】
1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのシス体およびトランス体の混合物から実質的になる、請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項7】
前記混合物における、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのシス体と1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのトランス体との質量比は、シス体/トランス体=90~99.99/10~0.01である、請求項6に記載の溶剤組成物。
【請求項8】
物品に付着した金属塑性加工用潤滑剤を除去するための溶剤組成物であって、
1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを80質量%以上含み、
1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、または1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを1質量%以上含む、溶剤組成物。
【請求項9】
炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、クロロカーボン類、ハイドロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロエーテル類およびフルオロオレフィン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶剤をさらに含む、請求項1
または8に記載の溶剤組成物。
【請求項10】
請求項1~
9の何れかに記載の溶剤組成物と、金属塑性加工用潤滑剤が付着した被洗浄物品とを接触させる工程を含む、物品の洗浄方法。
【請求項11】
前記金属塑性加工用潤滑剤が、潤滑油基油および油性向上剤を含み、不水溶性の潤滑剤である、請求項
10に記載の洗浄方法。
【請求項12】
前記金属塑性加工用潤滑剤が、潤滑油基油および油性向上剤を含み、極圧添加剤、防錆添加剤および酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに含み、不水溶性の潤滑剤である、請求項
10に記載の洗浄方法。
【請求項13】
前記金属塑性加工用潤滑剤が、潤滑油基油および油性向上剤を含み、極圧添加剤、防錆添加剤および酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに含み、40℃における動粘度が50~500mm
2/sであり、不水溶性の潤滑剤である、請求項
10に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品に付着した金属塑性加工用潤滑剤を除去するための溶剤組成物に関する。また、本発明は、金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品、電子部品、精密機械部品等の多くの金属部品は、金属材料の引抜き、絞り、圧延、鍛造等の塑性加工によって製造されている。金属材料を塑性加工する際には、金型と被加工材である金属管や金属板との間に発生する摩擦を低減して焼き付きを防止するとともに、摩擦による金型の磨耗を抑制するため、金属塑性加工用潤滑剤が塗布される。金属塑性加工用潤滑剤は、鉱物油や合成油などの潤滑油基油に、摩擦および磨耗を低減する油性向上剤や、焼き付き防止などに有用な極圧添加剤などの添加剤が配合されている。
【0003】
塑性加工により製造した金属部品は、製造工程、組立工程、最終仕上げ工程等において、洗浄用溶剤組成物で洗浄され、金属部品に付着した金属塑性加工用潤滑剤が除去される。一般的に、不水溶性の金属塑性加工用潤滑剤を除去する際には、炭化水素系溶剤、塩素系溶剤、臭素系溶剤、フッ素系溶剤などの有機溶剤が使用される。
【0004】
フッ素系溶剤として、不燃性かつ低毒性であり、化学的安定性に優れた1,1,2―トリクロロ―1,2,2-トリフルオロエタン(CFC-113)が広く使用されていた。CFC-113はオゾン層破壊物質(ODS)に指定されており、先進国での生産は全廃されている。CFC-113の代替化合物として開発されたハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類もオゾン層に悪影響を及ぼすことから、先進国において2020年に生産が全廃されることになっている。
【0005】
オゾン層に悪影響を及ぼさない溶剤として、ハイドロフルオロカーボン(HFC)類、ハイドロフルオロエーテル(HFE)類が開発されている。HFC類およびHFE類は、ODSに該当しないが、地球温暖化に対する影響の大きい化合物群である。特に、HFC類は地球温暖化に対する影響が大きな化合物として、京都議定書の規制対象物質となっている。また、HFC類やHFE類は、鉱物油などの炭化水素系の潤滑油基油をほとんど溶解しないため、切削油などの加工油が付着した物品の洗浄工程で使用する洗浄用溶剤として、性能が充分ではなかった。
【0006】
近年では、地球環境への影響が少なく、かつ加工油等の洗浄性能に優れたフッ素系溶剤が望まれていることから、分子内に二重結合および塩素原子を有するクロロフルオロオレフィン類の開発が進められている。そのようなクロロフルオロオレフィン類は、OHラジカルとの反応性が高いため大気中での寿命が短く、オゾン破壊係数(ODP)や地球温暖化係数(GWP)が極めて小さいという、優れた環境性能を有している。
【0007】
特許文献1には、炭素数が3である不飽和塩素化フッ素化炭化水素を有効成分として含有する脱脂洗浄剤が開示されている。実施例において、炭素数が3である不飽和塩素化フッ素化炭化水素がスピンドル油の付着したテストピースに対して優れた脱脂効果を有することが示されている。
【0008】
特許文献2には、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、「1223xd」ともいう)を含む溶剤組成物が開示されており、さらに、1223xdが鉱物油と混和することが開示されている。
【0009】
特許文献3には、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(以下「1223za」ともいう)を含む潤滑剤用溶剤組成物が開示されており、さらに、1223zaがフッ素系潤滑剤およびシリコーン系潤滑剤を溶解することが開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1で開示されているスピンドル油は、低粘度かつ添加剤を含まない鉱物油からなる並級潤滑油である。一方、金属塑性加工用潤滑剤は、鉱物油や合成油などの潤滑油基油に、摩擦および磨耗を低減する油性向上剤や、焼き付き防止などに有用な極圧添加剤などの添加剤が配合されている。特許文献1には、炭素数が3である不飽和塩素化フッ素化炭化水素を有効成分として含有する脱脂洗浄剤が開示されているが、油性向上剤や極圧添加剤を含有する金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品の洗浄に適しているかについて記載されていない。
【0011】
また、特許文献2で開示されている鉱物油は、石油、天然ガス、石炭など地下資源由来の炭化水素系化合物であり、油性向上剤や極圧添加剤などの添加剤を含んでいない。特許文献2には、1223xdが、油性向上剤や極圧添加剤を含有する金属塑性加工用潤滑剤を混和するかについて記載されていない。
【0012】
また、特許文献3で開示されている具体的な潤滑剤は、フッ素系潤滑剤およびシリコーン系潤滑剤である。フッ素系潤滑剤として、パーフルオロポリエーテルやクロロトリフルオロエチレンの低重合物、シリコーン系潤滑剤として、ジメチルシリコーンや側鎖や末端に有機基を導入した変性シリコーンオイルなどが例示されている。特許文献3には、1223zaがフッ素系潤滑剤またはシリコーン系潤滑剤を溶解することが示されているが、1223xdが、油性向上剤や極圧添加剤を含有する金属塑性加工用潤滑剤を溶解するかについて記載されていない。
【0013】
以上に述べたように、特許文献1には、炭素数が3である不飽和塩素化フッ素化炭化水素が添加剤を含まないスピンドル油を洗浄できること、特許文献2には、1223xdが添加剤を含まない鉱物油と混和すること、特許文献3には、1223zaがフッ素系潤滑剤またはシリコーン系潤滑剤を溶解することが開示されているに過ぎず、いずれにおいても、1223xd(Z)、1223xd(E)、1223za、1213xaに対する金属塑性加工用潤滑剤の溶解性に関する具体的なデータや、金属塑性加工用潤滑剤の付着した物品の洗浄性は不明であった。
【0014】
このように、地球環境への影響が少ないフッ素系溶剤であっても、油性向上剤や極圧添加剤などの添加剤を含有する金属塑性加工用潤滑剤を除去するための溶剤組成物として好適なものは未だ不十分であり、物品から金属塑性加工用潤滑剤を除去するのに好適な新たな溶剤組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平2-221388号公報
【文献】国際公開第2005/044969号
【文献】特開2016-169256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、地球環境に悪影響を及ぼさない、金属塑性加工用潤滑剤を除去するための洗浄性能に優れた溶剤組成物、および金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品の洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、金属塑性加工用潤滑剤を除去するための溶剤組成物であって、シス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下「1223xd(Z)」ともいう)、トランス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下「1223xd(E)」ともいう)、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下「1223za」ともいう)および1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下「1213xa」ともいう)からなる群から選ばれる少なくとも1種を50質量%以上含む溶剤組成物は、物品表面に付着した金属塑性加工用潤滑剤を除去するのに好適であることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明は、以下の各発明を含む。
[発明1]
物品に付着した金属塑性加工用潤滑剤を除去するための洗浄用溶剤組成物であって、
シス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、
トランス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、
1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンおよび
1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン
からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤を50質量%以上含む、溶剤組成物。
【0019】
[発明2]
シス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから実質的になる、発明1に記載の溶剤組成物。
【0020】
[発明3]
トランス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから実質的になる、発明1に記載の溶剤組成物。
【0021】
[発明4]
1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから実質的になる、発明1に記載の溶剤組成物。
【0022】
[発明5]
1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから実質的になる、発明1に記載の溶剤組成物。
【0023】
[発明6]
1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのシス体およびトランス体の混合物から実質的になる、発明1に記載の溶剤組成物。
【0024】
[発明7]
混合物における、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのシス体と1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのトランス体との質量比は、シス体/トランス体=90~99.99/10~0.01である、発明6に記載の溶剤組成物。
【0025】
[発明8]
炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、クロロカーボン類、ハイドロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロエーテル類およびフルオロオレフィン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶剤をさらに含む、発明1に記載の溶剤組成物。
【0026】
[発明9]
発明1~8の何れかに記載の溶剤組成物と、金属塑性加工用潤滑剤が付着した被洗浄物品とを接触させることを特徴とする、物品の洗浄方法。
【0027】
[発明10]
前記金属塑性加工用潤滑剤が、潤滑油基油および油性向上剤を含み、不水溶性の潤滑剤である、発明9に記載の洗浄方法。
【0028】
[発明11]
前記金属塑性加工用潤滑剤が、潤滑油基油および油性向上剤を含み、極圧添加剤、防錆添加剤および酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに含み、不水溶性の潤滑剤である、発明9に記載の洗浄方法。
【0029】
[発明12]
前記金属塑性加工用潤滑剤が、潤滑油基油および油性向上剤を含み、極圧添加剤、防錆添加剤および酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに含み、40℃における動粘度が50~500mm2/sであり、不水溶性の潤滑剤である、発明9に記載の洗浄方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、金属塑性加工用潤滑剤を除去するのに好適な溶剤組成物、および物品表面に付着した金属塑性加工用潤滑剤を除去する洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は、以下に示す実施の形態や、実施例の記載内容に限定して解釈されるべきではない。
【0032】
本発明の一態様によれば、金属塑性加工用潤滑剤を溶解する溶剤組成物が提供される。この洗浄用溶剤組成物には、シス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223xd(Z))、トランス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223xd(E))、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223za)および1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1213xa)からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤(A)が含まれる。この溶剤組成物は、物品に付着した金属塑性加工用潤滑剤を除去するのに好適に用いられる。
【0033】
以下に開示するように、金属塑性加工用潤滑剤を除去するための溶剤組成物として、シス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223xd(Z))、トランス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223xd(E))、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223za)および1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1213xa)からなる群から選ばれる少なくとも1種を50質量%以上含む溶剤組成物は、物品表面に付着した金属塑性加工用潤滑剤を除去するのに好適であることが判明した。
【0034】
また、本発明の別の一態様によれば、物品に付着した金属塑性加工用潤滑剤を除去する方法が提供される。この方法においては、前述の溶剤組成物が好適に用いられる。
【0035】
1.溶剤組成物
以下、本溶剤組成物について説明する。
【0036】
<溶剤(A)>
本溶剤組成物は、シス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223xd(Z))、トランス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223xd(E))、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223za)、1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1213xa)からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤(A)を含む。
【0037】
本溶剤組成物において、溶剤(A)の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。溶剤(A)の含有量が前記下限値以上であれば、金属塑性加工用潤滑剤の溶解性および洗浄性に優れる。本発明の一態様においては、本溶剤組成物中の溶剤(A)の含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。
【0038】
本溶剤組成物は、1223xd(Z)から実質的になっていてもよい。ここで、「1223xd(Z)から実質的になる」とは、本溶剤組成物中、1223xd(Z)の含有量が99質量%以上であり、1223xd(Z)以外の成分の含有量が1質量%以下であることを意味する。この1223xd(Z)以外の成分の種類は特に限定されない。
【0039】
本溶剤組成物は、1223xd(E)から実質的になっていてもよい。ここで、「1223xd(E)から実質的になる」とは、本溶剤組成物中、1223xd(E)の含有量が99質量%以上であり、1223xd(E)以外の成分の含有量が1質量%以下であることを意味する。この1223xd(E)以外の成分の種類は特に限定されない。
【0040】
本溶剤組成物は、1223xdから実質的になっていてもよい。ここで、「1223xdから実質的になる」とは、本溶剤組成物中、1223xdのシス体およびトランス体を合計した含有量が99質量%以上であり、1223xd以外の成分の含有量が1質量%以下であることを意味する。この1223xd以外の成分の種類は特に限定されない。
【0041】
本明細書において、幾何異性体を限定しない1223xdは、シス体(1223xd(Z))およびトランス体(1223xd(E))の混合物を意味する。本発明の一態様においては、溶剤(A)として、1223xd(Z)と1223xd(E)との混合物が好ましく採用され、熱力学的に安定な異性体である1223xd(Z)が主成分であることがさらに好ましく、1223xd(Z)と1223xd(E)との質量比は、1223xd(Z)/1223xd(E)=80~99.99/20~0.01であることがより好ましく、1223xd(Z)/1223xd(E)=90~99.99/10~0.01であることが特に好ましい。
【0042】
本溶剤組成物は、1223xdを主成分として含み、1223zaまたは1213xaをさらに含んでいてもよい。例えば、本溶剤組成物中、1223xdを80質量%以上あるいは90質量%以上含み、1223zaまたは1213xaを1質量%以上、5質量%以上あるいは10質量%以上含む。
【0043】
本溶剤組成物は、1223zaから実質的になっていてもよい。ここで、「1223zaから実質的になる」とは、溶剤中、1223zaの含有量が99質量%以上であり、1223za以外の成分が1質量%以下含まれることを意味する。この1223za以外の成分の種類は特に限定されない。
【0044】
本溶剤組成物は、1213xaから実質的になっていてもよい。ここで、「1213xaから実質的になる」とは、溶剤中、1213xaの含有量が99質量%以上であり、1213xa以外の成分が1質量%以下含まれることを意味する。この1213xa以外の成分の種類は特に限定されない。
【0045】
1223xd(Z)、1223xd(E)、1223za、1213xaは、炭素-炭素原子間に二重結合を有するクロロフルオロオレフィンであるため、大気中での寿命が短く、オゾン破壊係数や地球温暖化係数が極めて小さい。また、1223xd(Z)、1223xd(E)、1223za、1213xaの沸点は、それぞれ54℃、60℃、54℃、83℃であるため、沸騰させて蒸気となってもその温度は約54℃~約83℃と低いことから、容易に蒸気洗浄を行うことができる。また、1223xd(Z)、1223xd(E)、1223za、1213xaは引火点を持たない、表面張力や粘度が小さい、比較的低温度で容易に蒸発する等、洗浄用溶剤として極めて優れた性能を有している。
【0046】
1223xdは、公知化合物であり、例えば、国際公開第2014/046250号または国際公開第2014/046251号に記載の方法によって製造することができる。また、1223zaは、公知化合物であり、例えば、特開2016-79101号公報に記載の方法によって製造することができる。また、1213xaは、公知化合物であり、例えば、国際公開第2015/174503号に記載の方法によって製造することができる。
【0047】
<溶剤(B)>
本溶剤組成物は、上記の溶剤(A)とともに、その他の溶剤(B)を含んでいてもよい。そのような溶剤(B)としては、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、クロロカーボン類、ハイドロフルオロカーボン(HFC)類、ハイドロフルオロエーテル(HFE)類、フルオロオレフィン類などが挙げられる。溶剤(B)は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0048】
本溶剤組成物において、溶剤(B)の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。本発明の一態様においては、本溶剤組成物中の溶剤(B)の含有量は、本溶剤組成物に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
【0049】
<その他の成分>
本発明の一態様において、本溶剤組成物はその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分は、上記溶剤(A)や上記溶剤(B)以外であれば、特に限定されないが、例えば、1223xd、1223za、1213xa、溶剤(B)の合成過程で使用される原料資材や副生成物、再利用品の1223xd、1223za、1213xa、溶剤(B)に含まれ得る不純物、安定剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
また、その他の成分は水分であってもよいが、水分は、被洗浄物の表面にウォーターマークなどのシミを発生させることがある。そのため、本溶剤組成物中の水分の含有量は、少なければ少ないほど良い。本発明の一態様において、本溶剤組成物中の水分の含有量は、本溶剤組成物に対して、質量比で200ppm以下が好ましく、質量比で100ppm以下がさらに好ましく、50ppm以下が特に好ましい。また、その他の成分は酸分であってもよいが、酸分は、塗布する物品や該物品の用途によっては、物品自身や物品の使用環境に悪影響を与えることがある。そのため、このような酸分は少なければ少ないほど良い。本発明の一態様において、本溶剤組成物中の酸分の含有量は、本溶剤組成物に対して、質量比で1ppm未満が好ましい。また、本発明の一態様において、本溶剤組成物中の水分と酸分の含有量は、少なければ少ないほど好ましく、本溶剤組成物は水分や酸分を含まないことがより好ましい。酸分は水洗などの方法により除去することができ、水分はモレキュラーシーブなどの乾燥剤による乾燥などの方法により除去することができる。
【0051】
2.金属塑性加工用潤滑剤
以下、金属塑性加工用潤滑材について説明する。
【0052】
<金属塑性加工用潤滑剤>
本明細書において、金属塑性加工用潤滑剤とは、例えば、金属材料の圧延、押出し、引抜き、鍛造、せん断、絞り、曲げ等の塑性加工において、金属材料と工具間の摩擦を低減し、工具の磨耗、焼き付きを防止するために使用される潤滑剤である。金属塑性加工用潤滑剤は、鉱物油や合成油などの潤滑油基油とともに、少なくとも油性向上剤を含む。また、金属塑性加工用潤滑剤は、更に極圧添加剤、防錆添加剤、酸化防止剤などの加工油添加剤を含んでいてもよく、その他にも、固体潤滑剤、防食剤、着色剤、消泡剤、香料などの各種公知の添加剤を含んでいてもよい。また、金属塑性加工用潤滑剤は、不水溶性であってもよく、水溶性であってもよいが、不水溶性であることが好ましい。
【0053】
<潤滑油基油>
本明細書において、潤滑油基油とは、油性向上剤などの添加剤を均一にかつ安定に溶解して潤滑に必要な箇所へ送り込む働きをする物質である。潤滑油基油としては、金属塑性加工において公知の潤滑油基油を採用することができる。本発明の一態様において、潤滑油基油としては、例えば鉱物油またはポリブテン、α-オレフィンオリゴマー、アルキルベンゼン、ポリエチレングリコール、ポリオールエステル等の合成油、等を挙げることができ、これらは混合物で用いられてもよい。また、本発明の一態様において、潤滑油基油は、炭化水素系の基油(炭化水素系の鉱物油や合成油)が好ましく、炭化水素系の鉱物油が特に好ましい。なお、潤滑油基油は強い極性基を有しておらず、潤滑性に乏しいため、金属塑性加工において単独では潤滑剤となり得ない。そのため、少なくとも油性向上剤とともに潤滑剤として用いられる。
【0054】
<油性向上剤>
本明細書において、油性向上剤とは、潤滑油基油によって潤滑の必要な金属摩擦面へ送り込まれて吸着して潤滑効果を発揮する化合物である。油性向上剤としては、例えばナタネ油、パーム油、ラードなどの油脂類、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級脂肪族アルコール、オレイン酸メチルエステル、ステアリン酸ブチルエステルなどの高級脂肪酸エステル、ステアリルアミンなどの高級脂肪族アミン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウムなどの金属石鹸、等を挙げることができる。油性向上剤は、長鎖状化合物で分子量が大きく、分子の一端に強力な極性基を有しており、その極性基の作用で金属面に強く吸着および配列して吸着膜を作り、かつ吸着膜を配列した長い分子鎖間の相互引力により強固な潤滑効果を発揮する。
【0055】
<極圧添加剤>
本明細書において、極圧添加剤とは、潤滑油基油によって潤滑の必要な金属摩擦面へ送り込まれ、被加工材と工具との接触領域が増加して高温かつ高圧の極圧状態になるときに金属と化学反応して金属表面に被膜を形成し、磨耗を少なくして焼付けを防止し、潤滑剤の耐焼付性を向上させる働きのある化合物である。極圧添加剤としては、例えば硫化イソブテン、ジベンジルジサルファイド、硫化油脂類などの硫黄系化合物、リン酸トリブチル、リン酸トリクレジルなどのリン系化合物、塩素化パラフィンなどの塩素系化合物、等を挙げることができる。一般に難加工と呼ばれる、特に高い加工圧および高い摩擦熱を伴う金属加工においては、硫黄系極圧剤を含む金属塑性加工用潤滑剤がよく使用される。
【0056】
<防錆添加剤>
本明細書において、防錆添加剤とは、潤滑油基油によって金属表面へ送り込まれ、金属表面へ吸着し、水などの腐食物質との接触を防止する化合物である。防錆添加剤としては、例えば、スルホン酸塩、カルボン酸塩、アミン塩、等を挙げることができる。
【0057】
<酸化防止剤>
本明細書において、酸化防止剤とは、潤滑油基油に均一に溶解し、金属塑性加工用潤滑剤に含まれる成分の酸化劣化を防止する化合物である。酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールなどのフェノール系化合物、スチレン化ジフェニルアミンなどのアミン系化合物、等を挙げることができる。
【0058】
3.金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品の洗浄方法
以下、金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品の洗浄方法について説明する。
【0059】
本溶剤組成物を用いた物品の洗浄方法は、金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品に対して本溶剤組成物を用いること以外は特に限定されない。本発明の一態様において、当該技術において周知の方法により、本溶剤組成物と、金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品とを接触させることで、当該物品から金属塑性加工用潤滑剤を除去することができる。例えば、手拭き洗浄、浸漬洗浄、スプレー洗浄、浸漬揺動洗浄、浸漬超音波洗浄、煮沸洗浄、蒸気洗浄、およびこれらを組み合わせた方法等を採用することができるが、これらに限定されない。
【0060】
本発明の一態様において、40℃における動粘度が50mm2/s~500mm2/sである高粘度の金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品を洗浄する際には、沸騰した本溶剤組成物の中に物品を浸漬させる煮沸洗浄や、26kHz~40kHzの低周波数の超音波を照射させる浸漬超音波洗浄が有効である。また、煮沸洗浄、浸漬超音波洗浄、蒸気洗浄などを組み合わせて物品を洗浄する際には、フッ素系溶剤、塩素系溶剤、臭素系溶剤に対応した洗浄機に本溶剤組成物を充填して使用することが望ましい。
【0061】
<物品>
金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品から該金属塑性加工用潤滑剤を除去する、物品の洗浄工程において、本溶剤組成物は、洗浄剤として好適に用いられる。被洗浄物である金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品は、金属部材で構成される。ここで、金属としては、炭素鋼、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、クロムモリブデン鋼、などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
本発明の好ましい一態様においては、金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品を本溶剤組成物で洗浄した後、物品を乾燥させることにより、該金属塑性加工用潤滑剤が除去された清浄な物品を得ることができる。
【0063】
物品を乾燥させる方法、すなわち物品から溶剤組成物を除去する方法は、特に限定されず、当業者は従来公知の方法を適宜採用することができる。例えば、室温あるいは加温下に放置して溶剤などの成分を揮発させる方法などが挙げられるが、これに限定されない。
【0064】
除去した本溶剤組成物は回収してもよく、また、本溶剤組成物として再利用することができる。あるいは、その他の用途に再利用することができる。回収した溶剤組成物は、精製してから再利用してもよい。
【実施例】
【0065】
1.溶剤に対する金属塑性加工用潤滑剤の溶解性試験
以下、溶剤に対する金属塑性加工用潤滑剤の溶解試験について述べる。
【0066】
[実施例1~実施例25、比較例1~比較例50]
以下の方法に従い、溶剤に所定量の金属塑性加工用潤滑剤を加え、溶解性試験を行った。
【0067】
溶剤としての1223xd(Z)および表1に示す金属塑性加工用潤滑剤(以下、加工油と記す)を、50mL容量のガラス製試料瓶に入れて振とう、混合した。これを23℃に管理された実験室で静置し、30分後に溶液の状態を目視で観察した。溶液が、無色透明(濁りが無い)かつ均一な状態のものを「○」、濁りが生じた状態のものを「△」、二層分離または明らかに不溶物が生じた状態のものを「×」とそれぞれ判定した。それぞれの結果を表1に示す(実施例1~実施例25)。
【0068】
表1において、5種類の加工油は、全て日本工作油株式会社から販売されている不水溶性の金属塑性加工用潤滑剤である。PG-3740は、主成分が石油系炭化水素(鉱物油)、油性向上剤、防錆添加剤であり、15℃における液密度が0.90g/mL、40℃における動粘度が432mm2/s、外観は緑色液体である。PG-3246は、主成分が石油系炭化水素(鉱物油)、油性向上剤、防錆添加剤であり、15℃における液密度が0.90g/mL、40℃における動粘度が96mm2/s、外観は褐色透明液体である。EP-7441は、主成分が石油系炭化水素(鉱物油)、油性向上剤、防錆添加剤であり、15℃における液密度が0.92g/mL、40℃における動粘度が116mm2/s、外観は褐色透明液体である。G-3641は、主成分が石油系炭化水素(鉱物油)、油性向上剤、硫黄系極圧添加剤、防錆添加剤であり、15℃における液密度が0.95g/mL、40℃における動粘度が234mm2/s、外観は褐色透明液体である。CF-879は、主成分が石油系炭化水素(鉱物油)、油性向上剤、固体潤滑剤、硫黄系極圧添加剤であり、15℃における液密度が0.93g/mL、40℃における動粘度が130mm2/s、外観は暗褐色液体である。
【0069】
【0070】
実施例1~実施例25の溶剤をシス―1―クロロ―3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))に代えて、同様の溶解性試験を行った(比較例1~比較例25)。その結果を表2に示す。
【0071】
【0072】
実施例1~実施例25の溶剤をアサヒクリン(登録商標)AK-225(旭硝子株式会社製)に代えて、同様の溶解性試験を行った(比較例26~比較例50)。その結果を表3に示す。ここで、アサヒクリン(登録商標)AK-225は、1,1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225ca)および1,3-ジクロロ-1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225cb)の混合物である。
【0073】
【0074】
表1に示すように、溶剤として、1223xd(Z)を用いた場合には、全ての濃度条件において1223xd(Z)は加工油を良好に溶解した。1223xd(Z)と加工油との混合液は均一かつ緑色透明または淡褐色透明(濁りを生じていない)であり、不溶固形物は認められなかった。このことは、1223xd(Z)が、加工油の潤滑油基油だけでなく、油性向上剤、極圧添加剤、防錆添加剤などの添加剤成分も良好に溶解することを示している。実施例1~実施例25では、1223xd(Z)は、40℃における動粘度が96~432mm2/sである高粘度の不水溶性金属塑性加工用潤滑剤を良好に溶解することを示している。
【0075】
表2に示すように、溶剤として、1233zd(Z)を用いた場合には、混合溶液に濁りが生じたり、混合溶液の上層に不溶固形物の析出が認められた。この傾向は、加工油濃度が10質量%以下の条件で顕著であった。1233zd(Z)と加工油との混合液は全て着色していることから、加工油の潤滑油基油の一部は1233zd(Z)に溶解していることを示している。一方、混合溶液の濁りや上層に析出した不溶固形物は、加工油に含まれる油性向上剤や極圧添加剤が1233zd(Z)に対して完全に溶解することなく、溶け残っていることを示している。
【0076】
表3に示すように、溶剤として、AK-225を用いた場合には、混合溶液に濁りが生じたり、混合溶液の上層に不溶固形物の析出が認められた。この傾向は、加工油濃度が10質量%以下の条件で顕著であった。AK-225と加工油との混合液は全て着色していることから、加工油の潤滑油基油の一部はAK-225に溶解していることを示している。一方、混合溶液の濁りや上層に析出した不溶固形物は、加工油に含まれる油性向上剤や極圧添加剤がAK-225に対して完全に溶解することなく、溶け残っていることを示している。
【0077】
1233zd(Z)およびAK-225は、一般的な脱脂洗浄工程で使用される溶剤であり、炭化水素系の鉱物油を良好に溶解できる。しかしながら、表2および表3に示すように、1233zd(Z)およびAK-225は、鉱物油に油性向上剤や極圧添加剤を添加した不水溶性金属塑性加工用潤滑剤の溶解性が充分ではなかった。比較例1~比較例50の結果は、潤滑油基油である鉱物油を溶解できる溶剤であっても、鉱物油に油性向上剤や極圧添加剤を添加した不水溶性金属塑性加工用潤滑剤を溶解できるとは限らないことを示している。
【0078】
実施例1~実施例25の溶剤を、1223xd(E)、1223zaまたは1213xaに代えて、同様の溶解性試験を行なった。1223xd(E)、1223za、1213xaは、表1に記載の5種類全ての加工油を良好に溶解し、混合溶液の濁りや不溶固形物の析出は認められなかった。このことは、本溶剤組成物が、高粘度の不水溶性金属塑性加工用潤滑剤を良好に溶解することを示している。
【0079】
2.洗浄試験
以下、溶剤を用いた物品の洗浄試験について述べる。
【0080】
[実施例26、比較例51~比較例52]
SPCC(冷間圧延鋼板)製テストピース(30mm×15mm×3mm)の質量(M1)を精密電子天秤で測定し、テストピースの片側表面に、表4に示す加工油を約70mg塗布した。加工油を塗布したテストピースの質量(M2)を精密電子天秤で測定した。ガラス製ビーカーに100mLの1223xd(Z)を入れた。加工油を塗布したテストピースをステンレス鋼製のピンセットで摘み、1223xd(Z)中に30秒間浸漬して洗浄した。洗浄後のテストピースを室温で1分間乾燥し、テストピースの質量(M3)を測定した。加工油を塗布した前後および洗浄後のテストピースの質量から、加工油の除去率を計算した。また、洗浄後のテストピース表面を目視で観察し、加工油の残留状態を評価した。
【0081】
実施例26の溶剤を1233zd(Z)またはAK-225に代えて、同様の洗浄試験を行い、比較例51~52とした。
【0082】
表4において、付着油分はテストピースに塗布した加工油の質量であり、残留油分は洗浄後のテストピースに残留した加工油の質量であり、除去率はテストピースに塗布した加工油の質量に対する洗浄によって除去された加工油の質量の割合である。付着油分、残留油分および除去率の計算式を以下の式1~3に示す。
付着油分=M2-M1 (式1)
残留油分=M2-M3 (式2)
除去率={1-(M2-M3)/(M2-M1)}×100 (式3)
【0083】
表4において、残留油分の値が小さいほど、除去率の値が大きいほど、溶剤の洗浄性能が良好であることを示している。
【0084】
【0085】
表4の実施例26に示すように、溶剤として、1223xd(Z)を用いた場合には、浸漬洗浄した後のテストピースの残留油分は0mg、加工油の除去率は100wt%であり、テストピースの表面に加工油の残渣は認められなかった。このことは、1223xd(Z)で浸漬洗浄することにより、テストピースに付着した加工油を良好に除去できたことを示している。
【0086】
表4の比較例51に示すように、溶剤として、1233zd(Z)を用いた場合には、浸漬洗浄した後のテストピースの残留油分は39.2mg、加工油の除去率は42wt%であり、テストピースの表面に加工油の残渣が認められた。このことは、1233zd(Z)の浸漬洗浄では、テストピースに付着した加工油を充分に除去できていないことを示している。
【0087】
表4の比較例52に示すように、溶剤として、AK-225を用いた場合には、浸漬洗浄した後のテストピースの残留油分は19.6mg、加工油の除去率は72wt%であり、テストピースの表面に加工油の残渣が認められた。このことは、AK-225の浸漬洗浄では、テストピースに付着した加工油を充分に除去できていないことを示している。
【0088】
表4の実施例および比較例は、本溶剤組成物を用いた洗浄方法により、高粘度の不水溶性金属塑性加工用潤滑剤が付着した物品から該潤滑剤を良好に除去できることを示している。
【0089】
また、溶剤として1223xd(Z)のかわりに、1223za、1213xa、1223xd(80質量%の1223xd(Z)と20質量%の1223xd(E)の混合物)、あるいは、1223xdと1223zaの混合物(80質量%の1223xd(Z)と15質量%の1223xd(E)と5質量%の1223zaの混合物)を用いて、実施例1~実施例26と同様の操作を行った。その結果、いずれの溶剤においても、実施例1~実施例26と同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本溶剤組成物は、オゾン層破壊や地球温暖化への寄与が極めて小さく、かつ金属塑性加工用潤滑剤の溶解性に優れているため、自動車部品、電子部品、精密機械部品などの金属部品を塑性加工した後の洗浄に好適に使用できる。