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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】植物栽培システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/02 20060101AFI20220727BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
A01G7/02
A01G7/00 604Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018144840
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2020018233
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591039643
【氏名又は名称】矢橋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】笹原 嘉人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 賛
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/038103(WO,A1)
【文献】特開平07-184478(JP,A)
【文献】特開2002-060254(JP,A)
【文献】特開2017-073989(JP,A)
【文献】特開2011-236750(JP,A)
【文献】特開2011-001641(JP,A)
【文献】特開2004-057145(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0150742(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0066927(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 2/00 - 2/38
A01G 5/00 - 7/06
A01G 9/14 - 9/28
A01G 17/00 - 17/02
A01G 17/18
A01G 20/00 - 22/67
A01G 24/00 - 24/60
F27D 17/00 - 99/00
B01D 53/02 - 53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスと窒素酸化物とを含有する排ガスを用いた植物栽培システムであって、
前記排ガスの供給源としての石灰焼成炉と、前記石灰焼成炉から栽培室へ前記排ガスを流通させる流通部とを備え、
前記流通部に脱硝装置を用いることなく、
前記石灰焼成炉から前記流通部に排出された前記排ガスの炭酸ガス濃度が10体積%以上、50体積%以下であり、窒素酸化物濃度が10ppm超、40ppm未満であることを特徴とする植物栽培システム。
【請求項2】
前記石灰焼成炉から前記流通部に排出された前記排ガスの硫黄酸化物濃度が10ppm以下である請求項1に記載の植物栽培システム。
【請求項3】
前記石灰焼成炉が、縦型炉である請求項1又は2に記載の植物栽培システム。
【請求項4】
前記流通部は、前記排ガスを流通させる樹脂配管を有し、
前記流通部の全長に占める前記樹脂配管の長さの割合が80%以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の植物栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2には、炭酸ガス及び窒素酸化物を含む排ガスから窒素酸化物を低減し、この窒素酸化物を低減した排ガスを炭酸ガス源として使用する植物の栽培システムについて記載されている。
【0003】
特許文献3および非特許文献1には、窒素酸化物が大気汚染物質である一方、植物にとっては窒素源として育成促進に有用であることが記載されている。
特許文献4には、火力発電所の燃焼排ガスのような窒素酸化物を含む混合ガスから窒素酸化物吸着剤によって窒素酸化物を一旦吸着し、植物の栽培地に供給するにあたり窒素酸化物を脱着させる装置とその装置を含む栽培システムについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-184478号公報
【文献】特開2004-57145号公報
【文献】特許第5700661号公報
【文献】特開2017-73988号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「化学と生物」,公益社団法人日本農芸化学会,2002年,Vol.40,No.4,p.239-244
【文献】「北海道立農業試験場集報」,北海道立農業試験場,1980年,第44号,p.90-101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の栽培システムでは、焼成炉から排出される排ガスに含まれる窒素酸化物を低減するために、脱硝装置を用いている。この栽培システムでは、植物に供給する排ガスに関して脱硝装置を用いた窒素酸化物の低減が必須であることから、この脱硝装置を排ガスの流通系から省略することについて何ら考慮されていない。
【0007】
特許文献2の栽培プラントでは、脱硝装置を必須とはしていないが、通常、燃焼炉から発生する排ガスは特別な装置と条件で燃焼しない限り、特許文献2の実施例に記載されているように窒素酸化物濃度が高くなる(例えば、石灰焼成炉であれば、特許文献1に記載されているように通常40~400ppmである)。窒素酸化物濃度を低減することなく排ガスを栽培室へ導入した場合、栽培室内は人の許容濃度をはるかに上回る窒素酸化物濃度となってしまい、植物の生長促進も阻害する恐れがある。そのため、実質的に脱硝装置が必須となる。硫黄酸化物についても、石灰焼成炉のように脱硫剤、または脱硫剤に転用可能な製品を製造する焼成炉の排ガスでない限り、脱硫装置で低減せずにそのまま栽培室に導入した場合、人の許容濃度を超えるだけではなく、植物にも被害が発生する(例えば非特許文献2)。
【0008】
また、特許文献2には、窒素酸化物濃度については、10ppm以下にすることが好ましいとの記載があるのみで、燃焼排ガス中の窒素酸化物を植物の育成促進に積極的に利用するという発想はない。燃焼排ガス中の窒素酸化物濃度を10ppm以下にしたうえで栽培室に導入した場合、栽培室内は育成促進効果が期待できるような窒素酸化物濃度とはならない。
【0009】
特許文献3の植物の生長を促進する方法では、二酸化窒素(NO)が充填されたボンベから栽培室にNOを供給しているが、高価で厳格な安全管理が必要な高純度NOガスを使用する必要があるうえ、閉鎖空間で実施するにあたっては光合成の原料である炭酸ガスを別途供給する必要があるため高額なコストがかかる。そのため、研究目的以外での採用は考えられない。
【0010】
特許文献4の植物栽培方法では、栽培地に窒素酸化物を供給するために特許文献3のNOガスボンベに替えて窒素酸化物吸着剤を介する方法を用いている。この方法では、窒素酸化物を栽培地に供給するにあたり、吸着工程、移送工程、供給工程といった煩雑な装置、工程、及び窒素酸化物を選択的に吸着する窒素酸化物吸着剤と脱着に伴って発生する高純度の窒素酸化物の厳格な安全管理を必要とする。加えて特許文献3と同様に炭酸ガスを別途供給する必要があるため、よほど大規模な栽培施設において資金面、敷地面などで余裕がない限り採用は考えられない。
【0011】
従って、植物の生長促進に有効な炭酸ガスと窒素酸化物を安全、安価、且つ簡便に栽培室へ供給する栽培システムの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための植物栽培システムは、炭酸ガスと窒素酸化物とを含有する排ガスを用いた植物栽培システムであって、前記排ガスの供給源としての石灰焼成炉と、前記石灰焼成炉から栽培室へ前記排ガスを流通させる流通部とを備え、前記石灰焼成炉から前記流通部に排出された前記排ガスの炭酸ガス濃度が10体積%以上、50体積%以下であり、窒素酸化物濃度が10ppm超、40ppm未満であることを要旨とする。
【0013】
この構成によれば、石灰焼成炉から流通部に排出された排ガスの窒素酸化物濃度が10ppm超、40ppm未満と低いため、流通部に脱硝装置を用いることなく、排ガスを栽培室へ供給して植物栽培に使用することができる。
【0014】
上記植物栽培システムについて、前記石灰焼成炉から前記流通部に排出された前記排ガスの硫黄酸化物濃度が10ppm以下であることが好ましい。この構成によれば、排ガスの硫黄酸化物濃度が10ppm以下と低いため、流通部に脱硫装置を用いることなく、排ガスを栽培室へ供給して植物栽培に使用することができる。
【0015】
上記植物栽培システムについて、前記石灰焼成炉が、縦型炉であることが好ましい。縦型炉は、熱の損失割合が小さく熱効率を高くすることが容易であるため、熱効率が高い分、石灰石を焼成するための温度を高温にしなくても済む。そのため、サーマルNOx(高温燃焼の際に本来反応しにくい空気中の窒素と酸素が反応して生成する窒素酸化物)の濃度の上昇を抑制することができる。
【0016】
上記植物栽培システムについて、前記流通部は、前記排ガスを流通させる樹脂配管を有し、前記流通部の全長に占める前記樹脂配管の長さの割合が80%以上であることが好ましい。樹脂配管は、排ガス中に含まれる窒素酸化物と湿分によって形成される硝酸との反応性が低いため、流通部の全長に占める樹脂配管の長さの割合が80%以上であることによって、流通部における配管の腐食を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、脱硝装置を排ガスの流通系から省略し、植物栽培に適した炭酸ガスと窒素酸化物の混合ガスを安全、低コスト且つ簡便に供給する植物栽培システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】植物栽培システムの模式図。
図2】変更例の植物栽培システムの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
植物栽培システムの実施形態を添付図面によって説明する。尚、本発明に直接関係のない要素については図示を省略する。
図1に示すように、植物栽培システム10は、炭酸ガスと窒素酸化物とを含有する排ガスの供給源としての石灰焼成炉20と、石灰焼成炉20から排出された排ガスを栽培室11へ流通させる流通系としての流通部50とを備える。流通部50の下流側の端部50aは栽培室11内に配置されており、石灰焼成炉20から排出された排ガスを、栽培室11内に直接供給することができるように構成されている。栽培室11としては、例えば、植物の栽培に使用されるプラスチックフィルムハウス、ガラスハウス、植物工場などが挙げられる。植物栽培システム10は、石灰焼成炉20から排出された排ガスを流通部50を介して栽培室11へ供給することにより、石灰焼成炉20から排出された排ガスを植物栽培に使用することができるように構成されている。
【0020】
石灰焼成炉20について説明する。
石灰焼成炉20の型式については特に限定されず、既存の石灰焼成炉20をそのまま利用すればよいが、縦型炉であることが好ましい。
【0021】
図1の植物栽培システム10では、石灰焼成炉20として、通常の石灰焼成で採用されている再生式の縦型焼成炉であるメルツ炉を用いている。
メルツ炉は、2つの円筒状の炉体21を備えている。2つの炉体21を約5~15分ごとに燃焼側と排気側を交代させることにより、排熱の回収や予熱、均熱が効果的に行われるため、熱効率が高い石灰焼成炉20である。各炉体21は、直立した状態で並設されている。各炉体21の上部には、燃料用ランス21aが垂設されている。燃料用ランス21aの先端部に供給された燃料は、各炉体21内に充填された石灰石Gの充填層において燃焼する。各炉体21の下側には、石灰石Gの焼成によって生成した生石灰Kを排出する排鉱部23を備えている。排鉱部23、および炉体21の下部には、ブロア23aからの冷風が導入されるように構成されている。ブロア23aから導入された冷風によって、排鉱部23及び各炉体21下部の生石灰Kを冷却することができるように構成されている。排鉱部23の下側には、貯鉱部24が配置されていて、排鉱部23で冷却された生石灰Kを貯留することができるように構成されている。2つの炉体21は中間付近の連通路22で連結しており、片側の炉体21で燃焼させ、反対側の炉体21から排気する。排気された排ガスから粉塵を除去したのちに大気へ放出するために、各炉体21の上端部の排気部25に接続されて、排気部25から排気された排ガスを大気中に放出する排気管25aを備えている。排気管25aの下流側の端部に、排気口25bが設けられている。排気管25aにおける排気口25bよりも上流側には、排ガス中の粉塵を除去する集塵部30が設けられている。集塵部30は、排気管25aの経路中に設けられた第1集塵機30aと、第1集塵機30aよりも下流側に設けられた第2集塵機30bとを備える。第1集塵機30aは、第2集塵機30bよりも粒度の大きい粉塵を集塵するように構成されている。排気管25aにおける第2集塵機30bと排気口25bとの間に、流通部50への分岐口25cが設けられている。
【0022】
流通部50について説明する。
図1に示すように、流通部50は管状部材で構成されており、排気管25aの分岐口25cに内部が連通した状態で接続されている。流通部50の下流側の端部50aは、栽培室11内に配置されている。流通部50の下流側の端部50aが栽培室11内に配置されていることにより、流通部50を流通した排ガスが、栽培室11内に供給されるように構成されている。
【0023】
流通部50を構成する管状部材の材質は特に限定されないが、樹脂製の部材(樹脂配管ともいう。)であることが好ましい。樹脂配管であると、排ガス中に含まれる窒素酸化物と湿分によって形成される硝酸との反応性を低くすることができる。すなわち、樹脂配管は硝酸との反応性が低いため、配管の腐食を抑制することができる。流通部50の全長に占める樹脂配管の長さの割合は特に限定されないが、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。樹脂配管の長さの割合が80%以上であることにより、流通部50を構成する配管の腐食を好適に抑制することができる。配管に用いられる樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、フッ素樹脂などが挙げられる。排気管25aの分岐口25cに流通部50を接続する方法は特に限定されず、例えば、管継手を用いて接続する方法を採用することができる。流通部50において、樹脂配管同士を接続する箇所や、樹脂配管を固定する箇所など、配管の強度が必要となる箇所には、樹脂配管以外に金属製の配管を用いてもよい。
【0024】
石灰焼成炉20焼成条件について説明する。
石灰焼成炉20における石灰石の焼成温度は、1350℃以下であることが好ましく、1150℃以下であることがより好ましい。焼成温度が1350℃以下であることにより、サーマルNOxの濃度の上昇を抑制することができる。
【0025】
図1に例示のメルツ炉は縦型炉であるため熱の損失割合が小さく、燃料用ランス21aの熱を効率良く石灰石Gに伝達することができる。これにより、石灰石Gを焼成する際の熱効率を向上させることができるため、石灰石Gを焼成するための温度を過度に高温にしなくても済む。
【0026】
各炉体21の内部に石灰石Gが投入されてから、生石灰Kとして各炉体21の下端から排出されるまでの時間は、20~30時間であることが好ましい。また、排鉱部23において生石灰Kが冷却される温度は100~120℃であることが好ましい。
【0027】
排気管25aの分岐口25cにおける排ガスの温度は、特に限定されないが、120℃以下であることが好ましい。分岐口25cにおける排ガスの温度が120℃以下であることにより、分岐口25cに接続する流通部50の管状部材の材質をより安価で加工性の良い樹脂にすることができる。分岐口25cにおける排ガスの温度は、90℃以下であることがより好ましい。
【0028】
燃料用ランス21aの燃料は特に限定されないが、窒素含有率が低い燃料を用いることが好ましい。窒素含有率が低い燃料を用いることによって、フューエルNOxの濃度を低くすることができる。燃料に含まれる窒素含有率としては、0.3質量%以下であることが好ましい。窒素含有率が低い燃料としては、例えば、灯油、軽油、重油、再生重油を用いることができる。排ガス中の酸素濃度は、特に限定されないが、13体積%以下となるように石灰焼成を行うことが好ましい。排ガス中の酸素濃度が13体積%を超える石灰焼成は、過剰な空気を供給しているため、十分な炭酸ガス濃度の排ガスを得ることができない。
【0029】
上記焼成条件を採用することによって、流通部50を流通する排ガスは、炭酸ガス濃度が10体積%以上、50体積%以下であり、窒素酸化物濃度が10ppm超、40ppm未満であり、硫黄酸化物濃度が10ppm以下となる。排ガスの炭酸ガス濃度は、20体積%以上、50体積%以下であることが好ましい。窒素酸化物濃度の好適な範囲は、植物の種類と生育に好適な炭酸ガス濃度とのバランスによって異なるが、上記範囲内でより高い濃度であることが生育促進には有効であるため、20ppm超、40ppm未満であることが好ましい。
【0030】
排ガス中の窒素酸化物濃度については、栽培室11において植物の生長促進に最適となるように調整してもよい。調整する方法としては簡易なものでよく、例えば電気動力を使用しない繊維状活性炭のフィルターを装着した装置(ACFユニット)を流通部50の下流側の端部50aの先に配置し、排ガスの一部ないし全量を通過させることで窒素酸化物濃度を調整することが可能である。
【0031】
排ガスの硫黄酸化物濃度は、人や植物への安全面から低いほどよく、栽培室11内の炭酸ガス濃度をより高く維持して植物の生育促進を図るためには、1ppm以下であることがより好ましい。排ガスに含まれる炭酸ガス、窒素酸化物、硫黄酸化物の濃度は、公知のガス濃度測定器を用いて測定することができる。上記焼成条件を採用することによって、石灰石Gを効率良く加熱して生石灰Kを製造することができるため、製造された生石灰Kは、残留二酸化炭素の含有率が5質量%以下となる。残留二酸化炭素の含有率が5質量%を超える生石灰は、未焼成の石灰石分が多く、工業用途における利用価値は著しく低下する。
【0032】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)石灰焼成炉20から流通部50に排出された排ガスの炭酸ガス濃度が10体積%以上、50体積%以下であり、窒素酸化物濃度が10ppm超、40ppm未満である。石灰焼成炉20から流通部50に排出された排ガスの窒素酸化物濃度が10ppm超、40ppm未満と低いため、流通部50に脱硝装置を用いることなく、排ガスを栽培室11へ供給して植物栽培に使用することができる。また、炭酸ガス濃度が10体積%以上、50体積%以下であるため、排ガスを植物栽培に利用するにあたり、炭酸ガス濃度が好適なものとなる。さらに、窒素酸化物濃度が10ppm超含まれていることにより、排ガス中の窒素酸化物を、植物の育成に活用することができる。すなわち、排ガス中に窒素酸化物が10ppm超含まれていることによって、植物の育成を促進させることができる。したがって、植物の生長促進に有効な炭酸ガスと窒素酸化物を安全、安価、且つ簡便に栽培室へ供給することができる。
【0033】
(2)石灰焼成炉20から流通部50に排出された排ガスの硫黄酸化物濃度が10ppm以下である。硫黄酸化物濃度が10ppm以下と低いため、流通部50に硫黄酸化物の除去装置を用いることなく、排ガスを栽培室11へ供給して植物栽培に使用することができる。
【0034】
(3)石灰焼成炉20が、縦型炉である。縦型炉は、熱の損失割合が小さく熱効率を高くすることが容易であるため、熱効率が高い分、石灰石Gを焼成するための温度を高温にしなくても済む。したがって、焼成温度が高いことに起因する排ガス中のサーマルNOxの上昇を抑制することができる。
【0035】
(4)流通部50の全長に占める樹脂配管の長さの割合が80%以上である。樹脂配管は、硝酸との反応性が低いため、流通部50の全長に占める樹脂配管の長さの割合が80%以上であることによって、流通部50における配管の腐食を抑制することができる。
【0036】
(5)石灰焼成炉20が、残留二酸化炭素が5質量%以下である生石灰Kを製造する焼成炉である。残留二酸化炭素が5質量%以下である生石灰Kを製造する焼成炉は、石灰石Gの燃焼効率が相対的に高くなっているため、石灰石Gを脱炭酸させて生石灰Kを製造する際に、炭酸ガスを多く生成させることができる。したがって、排ガス中の炭酸ガス濃度を高くして、植物の栽培に好適に使用することができる。
【0037】
(6)植物栽培システム10は、脱硝装置を用いることなく構成されている。脱硝装置を用いていない分、植物栽培システム10の構成を簡素化することができる。
本実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。また、上記実施形態の構成や以下の変更例に示す構成を適宜組み合わせて実施することも可能である。
【0038】
・石灰焼成炉20から流通部50に排出された排ガスの硫黄酸化物濃度は、10ppmを超えていてもよい。
・石灰焼成炉20は、メルツ炉に限定されない。本実施形態の組成を有する排ガスの供給源として使用することができれば、メルツ炉以外の縦型炉であってもよい。メルツ炉以外の縦型炉としては、例えば、ベッケンバッハ炉、シャフト炉、コマ炉、K.H.D炉などが挙げられる。石灰焼成炉20は、横型炉であってもよい。横型炉としては、例えば、ロータリーキルンが挙げられる。
【0039】
・石灰焼成炉20は、残留二酸化炭素が5質量%以下である生石灰Kを製造する焼成炉に限定されない。残留二酸化炭素が5質量%を超える生石灰Kを製造する焼成炉であってもよい。
【0040】
・排気管25aの分岐口25cは、排気管25aにおける第2集塵機30bと排気口25bとの間に設けられた態様に限定されない。第1集塵機30aと第2集塵機30bの間に設けられていてもよく、第1集塵機30a及び第2集塵機30bの上流側に設けられていてもよい。
【0041】
・流通部50の経路内に、集塵機や送風ファンが設けられていてもよい。
・流通部50の全長に占める樹脂配管の長さの割合は、80%未満であってもよい。
・流通部50の下流側の端部50aに拡散ファンが取付けられていてもよい。拡散ファンが取付けられていることにより、流通部50を流通した排ガスを、効率良く栽培室11内に拡散させることができる。
【0042】
・流通部50は、石灰焼成炉20から流通部50に排出された排ガスを管状部材のみによって栽培室11内に直接供給する態様に限定されない。例えば、図2に示すように、複数の管状部材と、排ガスを容器51aに充填する充填部51と、容器51aに充填された排ガスを栽培室11内に供給する供給部52とを備えていてもよい。流通部50が、充填部51と供給部52とを備え、流通部50として容器51aを介在させることにより、石灰焼成炉20と栽培室11との間を管状部材のみによって排ガスを流通し難い場合であっても、容器51aを用いて石灰焼成炉20の排ガスを栽培室11へ供給することが可能になる。また、排ガスを容器51aに充填して保管することができるため、必要に応じて容器51aから排ガスを取り出して使用することが可能になる。容器51aとしては、特に限定されないが、例えば、公知のガスボンベを用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
10…植物栽培システム、11…栽培室、20…石灰焼成炉、50…流通部。
図1
図2