(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】生体ガス検知装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20220727BHJP
G01N 33/497 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
G01N27/12 A
G01N33/497 A
G01N33/497 Z
(21)【出願番号】P 2021072875
(22)【出願日】2021-04-22
(62)【分割の表示】P 2017050415の分割
【原出願日】2017-03-15
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000133179
【氏名又は名称】株式会社タニタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草間 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】笠原 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】皆川 直隆
(72)【発明者】
【氏名】児玉 美幸
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-085230(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0211207(US,A1)
【文献】国際公開第00/065334(WO,A1)
【文献】特開2011-027676(JP,A)
【文献】特開2008-281514(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0341716(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106338597(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
G01N 33/48-33/98
A61B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉ガス及び生体ガスに含まれる所望ガスに感度を有する半導体式ガスセンサの基準大気中における出力値を基準出力値として取得する基準出力値取得部と、
前記生体ガスの測定中における前記半導体式ガスセンサの第1の出力値に基づいて、前記所望ガスの濃度を取得する所望ガス濃度取得部と、
前記生体ガスの測定前における大気中での前記半導体式ガスセンサの第2の出力値と、前記基準出力値と、に基づいて、前記生体ガスの測定環境
における大気中の干渉ガスの量を表す指標を評価する評価部と、
前記評価部による評価結果に基づいた情報を出力する出力部と、
を備えた生体ガス検知装置。
【請求項2】
前記評価部は、今回の前記第2の出力値と前回の前記第2の出力値との比較結果に基づいて、今回の前記第2の出力値を用いて前記
指標を評価するか、前回の前記第2の出力値を用いて前記
指標を評価するかを決定する
請求項1記載の生体ガス検知装置。
【請求項3】
前記評価部は、今回の前記第2の出力値と前回の前記第2の出力値との比較結果が閾値未満である場合は、今回の前記第2の出力値を用いて前記
指標を評価し、前記閾値以上である場合は、前回の前記第2の出力値を用いて前記
指標を評価する
請求項1又は請求項2記載の生体ガス検知装置。
【請求項4】
前記評価部が前回の前記第2の出力値を用いて前記
指標を評価したときは、
前記出力部は、前回の前記第2の出力値を用いて前記
指標を評価したことに関する情報を出力する
請求項2又は請求項3記載の生体ガス検知装置。
【請求項5】
前記評価部は、前記
指標が前記生体ガスの測定に適した環境であるか否かを評価する
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の生体ガス検知装置。
【請求項6】
干渉ガス及び生体ガスに含まれる所望ガスに感度を有する半導体式ガスセンサの基準大気中における出力値を基準出力値として取得し、
前記生体ガスの測定中における前記半導体式ガスセンサの出力値に基づいて、前記所望ガスの濃度を取得し、
前記生体ガスの測定前における大気中での前記半導体式ガスセンサの出力値と、前記基準出力値と、に基づいて、前記生体ガスの測定環境
における大気中の干渉ガスの量を表す指標を評価し、
評価結果に基づいた情報を出力する
生体ガス検知方法。
【請求項7】
コンピュータに、
干渉ガス及び生体ガスに含まれる所望ガスに感度を有する半導体式ガスセンサの基準大気中における出力値を基準出力値として取得し、
前記生体ガスの測定中における前記半導体式ガスセンサの出力値に基づいて、前記所望ガスの濃度を取得し、
前記生体ガスの測定前における大気中での前記半導体式ガスセンサの出力値と、前記基準出力値と、に基づいて、前記生体ガスの測定環境
における大気中の干渉ガスの量を表す指標を評価し、
評価結果に基づいた情報を出力する
ことを含む処理を実行させるための生体ガス検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体ガス検知装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体式ガスセンサを用いて生体ガス成分を検知し、検知した生体ガス成分中の所望ガス成分の濃度を算出することで生体の健康状態に関する情報を取得する技術が提案されている。
【0003】
しかしながら、半導体式ガスセンサは、所望ガス成分だけでなく、干渉ガス成分に対しても感度を有する。干渉ガス成分は、例えば大気中に含まれており、周囲環境によって大気中に含まれる干渉ガス成分の濃度が異なる。そのため、周囲環境によって半導体式ガスセンサの干渉ガス成分に反応する度合いが変化し、所望ガスのみを精度良く計測するのが困難であった。
【0004】
生体ガス成分中の所望ガス成分の濃度を正しく求めるために、例えば特許文献1には、呼気測定の前後で周囲の大気を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1には、どのようにして周囲の大気の測定結果を用いて生体ガス成分中の所望ガス成分の濃度を正しく求めるのかについては具体的に開示されていない。
【0007】
本発明は、大気中に含まれる干渉ガスの影響を軽減可能な生体ガス検知装置、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に従う第1の態様の生体ガス検知装置は、干渉ガス及び生体ガスに含まれる所望ガスに感度を有する半導体式ガスセンサの基準大気中における出力値を基準出力値として取得する基準出力値取得部と、前記生体ガスの測定中における前記半導体式ガスセンサの第1の出力値に基づいて、前記所望ガスの濃度を取得する所望ガス濃度取得部と、前記生体ガスの測定前における大気中での前記半導体式ガスセンサの第2の出力値と、前記基準出力値と、に基づいて、前記所望ガス濃度取得部により取得された前記所望ガスの濃度を補正する補正部と、前記補正部により補正された補正所望ガス濃度に応じた情報を出力する出力部と、を備える。
【0009】
本発明に従う第2の態様では、第1の態様において、前記第2の出力値と、前記基準出力値と、に基づいて、前記生体ガスの測定環境の換気推奨レベルを判定する第1の判定部を備え、前記出力部は、前記第1の判定部による判定結果に応じた情報を出力してもよい。
【0010】
本発明に従う第3の態様では、第1又は第2の態様において、今回の前記第2の出力値と、前回の前記第2の出力値と、で定まる判定値が閾値以上であるか否かを判定する第2の判定部を備え、前記補正部は、前記第2の判定部による判定が前記閾値未満である場合は、今回の前記第2の出力値を用いて前記所望ガスの濃度を補正し、前記第2の判定部による判定が前記閾値以上である場合は、前回の前記第2の出力値を用いて前記所望ガスの濃度を補正してもよい。
【0011】
本発明に従う第4の態様では、第3の態様において、前記所望ガス濃度取得部は、前記判定値が前記閾値未満である場合は、今回の前記第1の出力値と、今回の前記第2の出力値と、に基づいて、前記所望ガスの濃度を取得し、前記判定値が前記閾値以上である場合は、今回の前記第1の出力値と、前回の前記第2の出力値と、に基づいて、前記所望ガスの濃度を取得してもよい。
【0012】
本発明に従う第5の態様では、第3又は第4の態様において、前記第2の判定部は、前回の測定から前記半導体式ガスセンサの出力値が安定していない場合に、前記判定値が閾値以上か否かを判定してもよい。
【0013】
本発明に従う第6の態様の生体ガス検知方法は、干渉ガス及び生体ガスに含まれる所望ガスに感度を有する半導体式ガスセンサの基準大気中における出力値を基準出力値として取得し、測定環境における測定中の前記半導体式ガスセンサの出力値に基づいて、前記所望ガスの濃度を取得し、測定環境における測定前の大気中での前記半導体式ガスセンサの出力値と、前記基準出力値と、に基づいて、取得された前記所望ガスの濃度を補正し、補正された所望ガス濃度に応じた情報を出力する。
【0014】
本発明に従う第7の態様の生体ガス検知プログラムは、コンピュータに、干渉ガス及び生体ガスに含まれる所望ガスに感度を有する半導体式ガスセンサの基準大気中における出力値を基準出力値として取得し、測定環境における測定中の前記半導体式ガスセンサの出力値に基づいて、前記所望ガスの濃度を取得し、測定環境における測定前の大気中での前記半導体式ガスセンサの出力値と、前記基準出力値と、に基づいて、取得された前記所望ガスの濃度を補正し、補正された所望ガス濃度に応じた情報を出力することを含む処理を実行させるための生体ガス検知プログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大気中に含まれる干渉ガスの影響を軽減可能にすることができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】生体ガス検知プログラムによる処理のフローチャートである。
【
図5】換気推奨レベルと換気必要度との対応関係を示す図である。
【
図6】半導体式ガスセンサの出力値の変化の一例を示す線図である。
【
図7】異なる環境条件で測定したアセトン濃度を補正しない場合の測定結果を示す図である。
【
図8】異なる環境条件で測定したアセトン濃度を補正した場合の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る生体ガス検知ユニット10の構成図である。
図1に示すように、生体ガス検知ユニット10は、生体ガス検知装置12及びセンサ装置14を備える。生体ガス検知装置12は、コントローラ16、表示部18、操作部20、計時部22、及び通信部24を備えている。センサ装置14は、半導体式ガスセンサ26及び圧力センサ28を備える。
【0019】
コントローラ16は、CPU(Central Processing Unit)16A、ROM(Read Only Memory)12B、RAM(Random Access Memory)16C、不揮発性メモリ16D、及び入出力インターフェース(I/O)16Eがバス16Fを介して各々接続された構成となっている。この場合、後述する生体ガス検知処理をコントローラ16のCPU16Aに実行させる生体ガス検知プログラムを、例えば不揮発性メモリ16Dに書き込んでおき、これをCPU16Aが読み込んで実行する。なお、生体ガス検知プログラムは、CD-ROM、メモリーカード等の記録媒体により提供するようにしてもよく、図示しないサーバからダウンロードするようにしてもよい。
【0020】
I/O16Eには、表示部18、操作部20、計時部22、通信部24、半導体式ガスセンサ26、及び圧力センサ28が接続されている。
【0021】
表示部18は、例えば液晶パネル等で構成される。表示部18には、例えば各種設定画面、検知結果等の各種結果表示画面が表示される。
【0022】
操作部20は、ユーザーが各種操作を行うための操作部である。
【0023】
なお、表示部18及び操作部20をタッチパネルを用いて一体に構成し、このタッチパネルに直接タッチすることで操作が可能な構成としてもよい。
【0024】
計時部22は、現在時刻を取得する機能及び時間を計時する計時機能を有する。
【0025】
通信部24は、外部装置と無線通信又は有線通信により情報の送受信を行う機能を有する。
【0026】
生体ガス検知装置12は、例えば専用の装置としてもよいし、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、携帯電話、及びタブレット端末等の汎用の情報処理装置としてもよい。
【0027】
半導体式ガスセンサ26は、ユーザーにより吹きかけられた呼気等の生体ガスに含まれる所望ガスと、この生体ガス及び/又は大気中に含まれる干渉ガスに感度を有するガスセンサである。半導体式ガスセンサ26は、所望ガス及び干渉ガスを含む生体ガスを検知し、検知した生体ガスを構成する各種ガスの混合比に応じた電圧値で出力する。呼気中の生体ガスには、例えばケトン体、エタノール、アセトアルデヒド、水素、水蒸気、メタン、その他口臭を構成する各種ガス等の様々な種類のガスが含まれる。ここで、ケトン体とは、アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸(β-ヒドロキシ酪酸)、アセトンの総称であり、これらのうちの少なくとも一つを表す。
【0028】
具体的には、半導体式ガスセンサ26は、SnO2等の金属酸化物半導体とヒータ及び電極を備えている。金属酸化物半導体は、所望ガス及び/又は干渉ガスが吸着すると、抵抗値が変化する。すなわち、半導体式ガスセンサ26に採用される金属酸化物半導体は、微量のアセトン等に高感度である一方で、干渉ガスに対しても感度を有するものである。
【0029】
なお、本実施形態では、所望ガスがアセトンである場合について説明する。アセトンは、脂質代謝の副産物であり、アセトンの濃度は脂肪の燃焼量に相当する。体内に糖質エネルギーが余っている場合には脂肪が燃焼されないためアセトンの濃度は低くなり、体内に糖質エネルギーが足りなくなった場合には脂肪が燃焼されるためアセトンの濃度は高くなる。従って、アセトンの濃度により脂肪の燃焼量を知ることができる。
【0030】
圧力センサ28は、ユーザーから吹きかけられた呼気の圧力を検知する。圧力センサ28は、検知した圧力の大きさを電圧値で出力する。
【0031】
図2には、センサ装置14の外観図を示した。
図2に示すように、センサ装置14は、ユーザーが呼気を吹き込むための吹き込み口30を備えている。ユーザーが吹き込み口30に呼気を吹き込むと、その生体ガスに含まれる所望ガス及び干渉ガスが半導体式ガスセンサ26によって検知される。なお、
図2に示したセンサ装置14は、有線により生体ガス検知装置12と接続されるが、これに限らず、無線で生体ガス検知装置12と接続されてもよい。また、センサ装置14と生体ガス検知装置12とが一体に形成されていてもよい。
【0032】
コントローラ16のCPU16Aは、機能的には
図3に示すように、基準出力値取得部40と、所望ガス濃度取得部42と、補正部44と、出力部46と、を備える。また、コントローラ16のCPU16Aは、第1の判定部48と、第2の判定部50と、を更に備えてもよい。基準出力値取得部40は、半導体式ガスセンサ26の基準大気中における出力値を基準出力値として取得する。なお、基準大気とは、一例として、生体ガス検知ユニット10の工場等での製造環境の大気、生体ガス検知ユニット10の校正を行う環境の大気、又は、清浄大気である。所望ガス濃度取得部42は、生体ガスの測定中における半導体式ガスセンサ26の第1の出力値に基づいて、所望ガスの濃度を取得する。補正部44は、生体ガスの測定前における大気中での半導体式ガスセンサ26の第2の出力値と、基準出力値と、に基づいて、所望ガス濃度取得部42により取得された所望ガスの濃度を補正する。出力部46は、補正部44により補正された補正所望ガス濃度に応じた情報を出力する。第1の判定部48は、第2の出力値と、基準出力値と、に基づいて、生体ガスの測定環境の換気推奨レベルを判定する。第2の判定部50は、今回の第2の出力値と、前回の第2の出力値と、で定まる判定値が閾値以上であるか否かを判定する。なお、これに限らず、基準出力値取得部40、所望ガス濃度取得部42、補正部44、出力部46、第1の判定部48、及び第2の判定部50の少なくとも1つが、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって個別のハードウェアによって構成されていてもよい。
【0033】
次に、本実施形態の作用として、コントローラ16のCPU16Aにおいて実行される生体ガス検知プログラムによる処理について、
図4に示すフローチャートを参照して説明する。なお、
図4に示す処理は、ユーザーが生体ガス検知装置12の操作部20を操作して、生体ガス検知プログラムの実行を指示した場合に実行される。なお、ユーザーによる吹きかけを検知することによって
図4に示す処理が実行されてもよい。
【0034】
ステップS100では、基準出力値取得部40が、半導体式ガスセンサ26の基準出力値MAXRを不揮発性メモリ16Dから読み出して取得する。半導体式ガスセンサ26の基準出力値MAXRは、例えば基準大気中で取得した半導体式ガスセンサ26の出力値であり、予め不揮発性メモリ16Dに記憶される。
【0035】
ステップS102では、所望ガス濃度取得部42が、生体ガスの測定前における大気中での半導体式ガスセンサ26の出力値Rair(第2の出力値)を取得し、不揮発性メモリ16Dに記憶させる。すなわち、ユーザーが生体ガス検知ユニット10を使用する環境において、ユーザーがセンサ装置14に呼気を吹き掛ける前の半導体式ガスセンサ26の出力値Rairを取得する。これにより、測定環境の大気中の半導体式ガスセンサ26の出力値が得られる。
【0036】
ステップS104では、所望ガス濃度取得部42が、呼気を吹き込み口30に吹きかけるようユーザーに促すメッセージを表示部18に表示し、吹き込み口30に呼気を吹きかけさせる。
【0037】
ステップS106では、所望ガス濃度取得部42が、半導体式ガスセンサ26の出力値Rs(第1の出力値)を取得する。なお、吹き掛け開始直後の呼気には、大気中のガス成分が多く含まれている。そのため、脂肪の燃焼量に関連する所望ガスの濃度を算出するときには、大気中のガス成分を排出し切った終末呼気を利用することが好ましい。すなわち、終末呼気が得られるタイミングの半導体式ガスセンサ26の出力値を第1の出力値として採用することが好ましい。従って、呼気の吹き掛けが検出された時点で計時部22による計時を開始させ、予め定めた時間(例えば4秒)経過した時点の半導体式ガスセンサ26の出力値を第1の出力値として採用することが好ましい。
【0038】
なお、呼気が吹き掛けられたか否かの判定は、例えば圧力センサ28の出力値を取得し、取得した圧力センサ28の出力値が予め定めた閾値以上であるか否かを判定すればよい。
【0039】
ステップS108では、所望ガス濃度取得部42が、前回の測定時から所定時間経過したか否かを判定することにより、半導体式ガスセンサ26の出力値(すなわち第2の出力値)の時間当たりの変化量が安定しているか否かを判定する。前回の測定時から十分な待ち時間を設けずに連続して大気中で半導体式ガスセンサ26の出力値を取得した場合、前回の測定時における生体ガスが半導体式ガスセンサ26付近に残存していることの影響を受け、生体ガスを含んだ状態の出力値Rairが取得されてしまうためである。
【0040】
なお、測定時とは、ステップS106で半導体式ガスセンサ26の出力値Rs(第1の出力値)を取得した時点をいう。また、前回とは、過去に
図4の処理を実行した回のうち、ステップS102で時間当たりの変化量が安定した半導体式ガスセンサ26の出力値(第2の出力値)が得られた回で且つ直近の回をいう。
【0041】
また、所定時間は、半導体式ガスセンサ26の出力値の時間当たりの変化量が安定した場合に相当する時間、すなわち前回の測定時の生体ガスが半導体式ガスセンサ26付近に残存していないと判定できる時間に設定される。なお、半導体式ガスセンサ26の出力値の時間当たりの変化量を算出し、算出した変化量が予め定めた閾値以下であるか否かを判定することにより、半導体式ガスセンサ26の出力値の時間当たりの変化量が安定しているか否かを判定するようにしてもよい。
【0042】
ステップS108の判定が肯定判定となった場合、すなわち、半導体式ガスセンサ26の出力値の時間当たりの変化量が安定していると判定された場合は、ステップS112へ移行する。一方、ステップS108の判定が否定判定となった場合、すなわち、半導体式ガスセンサ26の出力値の時間当たりの変化量が安定していないと判定された場合は、ステップS110へ移行する
【0043】
ステップS112では、所望ガス濃度取得部42が、ステップS102で取得した今回の出力値Rairと、ステップS106で取得した今回の出力値Rsと、に基づいて、生体ガス中に含まれる所望ガス濃度D1を次式により算出する。
【0044】
D1=f1(Rair、Rs) ・・・(1)
【0045】
上記(1)式の関数f1は、出力値Rair及び出力値Rsを変数として含む演算式である。演算式は一次式に限らず二次式以上の多項式でもよい。また、逆数、指数、対数等の演算を含む演算式でもよい。なお、演算式の係数は、例えば生体ガス検知ユニット10の工場出荷時に出力値のキャリブレーションを実行した結果に基づいて設定され、基準出力値MAXRを用いて定まる係数である。
【0046】
ステップS114では、補正部44が、ステップS100で取得した出力値MAXRと、ステップS102で取得した今回の出力値Rairと、に基づいて、ステップS112で算出した所望ガス濃度D1を次式により補正し、補正所望ガス濃度D2を取得する。
【0047】
D2=f2(D1、Rair) ・・・(2)
【0048】
なお、上記(2)式の関数f2は、所望ガス濃度D1及び出力値Rairを変数として含む演算式である。演算式は一次式に限らず二次式以上の多項式でもよい。また、逆数、指数、対数等の演算を含む演算式でもよい。なお、演算式の係数は、例えば基準出力値MAXRを用いて定まる係数である。
【0049】
そして、上記(2)式により算出した補正所望ガス濃度D2を表示部18に出力し、表示させる。
【0050】
ステップS116では、第1の判定部48が、ステップS100で取得した基準出力値MAXRと、ステップS102で取得した今回の出力値Rairと、に基づいて、換気推奨レベルを判定し、出力部46が、第1の判定部48が判定した換気推奨レベルを表示部18に出力することにより表示させる。ここで、換気推奨レベルとは、大気中の干渉ガスの量を表す指標である。
【0051】
具体的には、例えば換気推奨レベルを判定するための判定値Lvを次式により算出する。
【0052】
Lv=f(MAXR、Rair) ・・・(3)
【0053】
ここで、f(MAXR、Rair)は、基準出力値MAXR、ステップS102で取得した今回の出力値Rairをパラメータとして判定値Lvを算出する演算式である。
【0054】
そして、例えば
図5に示すように、判定値Lvと換気推奨レベルとの対応関係に基づいて、判定値Lvに対応する換気推奨レベルを求める。
図5の例では、判定値Lvが閾値TH1以上の場合に換気推奨レベルを「0」としている。また、判定値レベルLvが閾値TH2以上で且つ閾値TH1未満の場合に換気推奨レベルを「1」としている。また、判定値Lvが閾値TH3以上で且つ閾値TH2未満の場合に換気推奨レベルを「2」としている。また、判定値Lvが閾値TH3未満の場合に換気必要度を「3」としている。すなわち、判定値Lvの値が大きくなるに従って(出力値Rairが基準出力値MAXRに近づくに従って)、換気推奨レベルが低くなり(換気の必要度が低くなり)、判定値レベルLvの値が小さくなるに従って(出力値Rairが基準出力値MAXRから遠ざかるに従って)、換気推奨レベルが高くなる(換気の必要度が高くなる)。
【0055】
ステップS110では、第2の判定部50が、不揮発性メモリ16Dから前回の測定においてステップS102で取得した出力値Rair0を読み出し、読み出した前回の出力値Rairと、今回の測定においてステップS102で取得した出力値Rairと、で定まる判定値Aが予め定めた閾値以上か否かを判定する。このように、ステップS108の判定をしてからステップS110の判定を行うため、必ずステップS110の判定を行う場合と比較して処理負荷が軽減される。
【0056】
判定値Aは、前回の出力値をRairA、今回の出力値をRairBとして例えば次式で算出することができる。
【0057】
A=f(RairA、RairB) ・・・(5)
【0058】
ここで、f(RairA、RairB)は、前回の出力値RairA、今回の出力値RairBをパラメータとして判定値Aを算出する演算式である。この演算式は、前回の出力値RairAと今回の出力値RairBとの違いが大きくなるほど、判定値Aの値が大きくなる演算式である。
【0059】
そして、判定値Aが予め定めた閾値以上の場合、すなわち今回の出力値RairBを用いて所望ガス濃度Dを算出するのに適さない場合はステップS118へ移行する。一方、判定値Aが予め定めた閾値未満の場合、すなわち今回の出力値RairBを用いて所望ガス濃度Dを算出してもよい場合はステップS112へ移行する。
【0060】
ステップS118では、所望ガス濃度取得部42が、前回の測定時にステップS102で取得した出力値Rairと、ステップS106で取得した今回の出力値Rsと、に基づいて、生体ガス中に含まれる所望ガスの濃度D1を上記(1)式により算出する。
【0061】
すなわち、ステップS110で肯定判定された場合は十分な待ち時間を設けずに連続して測定したと考えられるため、今回の測定時の出力値Rairは用いずに前回の測定時の出力値Rairを用いて所望ガスの濃度D1を算出する。
【0062】
図6には、十分な待ち時間を設けずに連続して測定した場合の半導体式ガスセンサ26の出力値(V)の変化の一例を示した。
図6に示すように、生体ガス検知ユニット10に電源が投入されてt1の時点で1回目の半導体式ガスセンサ26の出力値Rair1を取得した場合、出力値Rair1は、生体ガスが半導体式ガスセンサ26付近に存在しないと判定できる時点で取得された大気中の出力値である。そして、ユーザーにより呼気が吹き掛けられて半導体式ガスセンサ26の出力値が上昇し、1回目の出力値Rs1を取得した時点t2の後、ユーザーによる呼気の吹き掛けが停止されると、その後は徐々に半導体式ガスセンサ26の出力値が低下する。そして、半導体式ガスセンサ26の出力値がRair1まで低下する前のt3の時点で2回目の出力値Rair2を取得してしまうと、前回の測定時の生体ガスが半導体式ガスセンサ26付近に残存している影響により、出力値Rair2が大気中での半導体式ガスセンサ26の出力値である第2の出力値として不正確な値となってしまう。このため、
図6に示すように、t4の時点で取得した2回目の出力値Rs2と1回目の出力値Rs1とが仮に同じ値であっても、大気中の出力値Rair1と出力値Rair2の値が大きく異なるため、精度良く所望ガスを算出することができなくなってしまう。
【0063】
このため、t3の時点で取得した出力値Rair2を用いるのではなく、t1の時点で取得した出力値Rair1とt4の時点で取得した2回目の出力値Rs2とに基づいて所望ガスの濃度D1を算出する。
【0064】
ステップS120では、補正部44が、ステップS100で取得した基準出力値MAXRと、前回の測定時にステップS102で取得した前回の出力値Rairと、に基づいて、ステップS118で算出した所望ガス濃度D1を上記(2)式により補正する。
【0065】
そして、上記(2)式により算出した補正所望ガス濃度D2を表示部18に出力し、表示させる。
【0066】
ステップS122では、第1の判定部48が、ステップS100で取得した基準出力値MAXRと、前回の測定時にステップS102で取得した出力値Rairと、に基づいて、判定値Lvを上記(3)式により算出する。そして、ステップS116と同様に、判定値Lvに応じた換気推奨レベルを求める。そして、出力部46が、第1の判定部48が求めた換気推奨レベルを表示部18に出力することにより表示させる。このように、今回の出力値RairBではなく、前回の出力値RairAを用いて、環境推奨レベルを判定することによって、前回の測定時の生体ガスが半導体式ガスセンサ26の付近に残存していることの影響を軽減して、環境推奨レベルの判定が可能となる。
【0067】
なお、本来は十分な待ち時間を設けて測定すべきところ、ステップS120、S122では、十分な待ち時間が設けられずに連続測定された場合でも前回の測定時の出力値Rairを用いて所望ガスの濃度及び換気推奨レベルを算出して表示するものである。すなわち、表示された所望ガスの濃度及び換気推奨レベルはステップS114、S116で算出した所望ガスの濃度及び換気推奨レベルと比べて簡易的なものといえる。そこで、ステップS122の処理の後で、例えば「これは簡易モードでの計測結果です。」といったメッセージを表示部18に表示するようにしてもよい。これにより、ユーザーは、表示された所望ガスの濃度及び換気推奨レベルが簡易的に算出されたものであることを容易に認識することができる。
【0068】
このように、本実施形態では、工場出荷時に清浄大気中で取得した半導体式ガスセンサ26の基準出力値MAXRと、測定環境において呼気を吹き掛ける前の出力値Rairと、に基づいて所望ガス濃度を補正するので、干渉ガスの影響下においても所望ガスを精度良く検知することができる。
【0069】
また、前回の測定時から十分な待ち時間を持たずに連続して測定した場合でも、前回の出力値Rairを用いて所望ガス濃度Dを算出、補正するので、精度良く所望ガス濃度Dを算出できると共に、連続測定時の待ち時間を短縮することができる。
【0070】
さらに、基準出力値MAXRと、今回又は前回の出力値Rairと、に基づいて換気推奨レベルを求めて表示するので、ユーザーは、現在の環境が測定に適した環境であるか否かを容易に把握することができる。このように、今回の出力値RairBではなく、前回の出力値RairAを用いて所望ガス濃度を取得することによって、前回の測定時の生体ガスが半導体式ガスセンサ26の付近に残存していることの影響を軽減して、所望ガス濃度の取得が可能となる。
【0071】
(実施例)
【0072】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0073】
図7には、大気の状態が異なる6パターン(*、◆、■、×、▲、●)の環境条件の各々について、含有するアセトンの量が異なるアセトン含有ガスを用いてアセトン濃度を測定し、アセトン濃度の補正を行わなかった場合の結果を示した。なお、アセトン含有ガスは、含有するアセトン濃度(設定アセトン濃度)がd1、d2、d3の3種類を用いた。なお、この3種類の設定アセトン濃度d1~d3のうちd1が最も濃度が低く、d3が最も濃度が高い。また、測定は、6パターンの環境条件の各々について、3種類の設定アセトン濃度のアセトン含有ガスの各々に対する、アセトン濃度の測定を実施した。なお、この測定は、繰り返し複数回行った。
図7に示されるグラフ中の実線は、繰り返し行なった測定結果の近似値を通る直線である。縦軸が設定アセトン濃度、横軸が補正無しのアセトン濃度の測定値(実測アセトン濃度)を示す。
【0074】
また、
図8には、
図7の場合と同様に、6パターンの環境条件の各々について、上記3種類の設定アセトン濃度のアセトン含有ガスの各々に対する、アセトン濃度の測定を実施し、本実施形態のようにアセトン濃度を補正した場合の結果を示した。縦軸が設定アセトン濃度、横軸が補正有りの実測アセトン濃度を示す。
【0075】
図7の設定アセトン濃度がd3の場合の実測アセトン濃度を見れば明らかな通り、10ppmの場合を見れば明らかなように、アセトン濃度の補正を行わなかった場合は、測定されたアセトン濃度のばらつきが大きいのに対して、
図8に示すように、アセトン濃度の補正を行った場合は、ばらつきが小さいのが判る。すなわち、本実施形態のようにアセトン濃度の補正を行うことにより、環境条件が異なる場合でも精度良くアセトン濃度を測定できることが判った。
【0076】
なお、本実施形態では、所望ガスがアセトンの場合について説明したが、例えば健常者であれば生体ガスに含まれるアセトアルデヒドの濃度は低いが、肝臓が悪い場合はアセトアルデヒドの濃度が高くなる。そこで、所望ガスとしてアセトアルデヒドの濃度を求めるようにしてもよい。これにより、肝臓の状態を精度良く把握することが可能となる。また、検知対象の生体ガスは、呼気に含まれる生体ガスに限らず、例えば皮膚から発生する生体ガスでもよい。
【符号の説明】
【0077】
10 生体ガス検知ユニット
12 生体ガス検知装置
14 センサ装置
16 コントローラ
18 表示部
20 操作部
22 計時部
24 通信部
26 半導体式ガスセンサ
28 圧力センサ
40 基準出力値取得部
42 所望ガス濃度取得部
44 補正部
46 出力部