(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20220727BHJP
F16H 61/04 20060101ALI20220727BHJP
F16H 61/66 20060101ALI20220727BHJP
F16H 59/70 20060101ALI20220727BHJP
F16H 59/18 20060101ALI20220727BHJP
F16H 59/40 20060101ALI20220727BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/04
F16H61/66
F16H59/70
F16H59/18
F16H59/40
F16H59/42
(21)【出願番号】P 2018217570
(22)【出願日】2018-11-20
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小室 正樹
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-149052(JP,A)
【文献】特開2006-97751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 61/04
F16H 61/66
F16H 59/70
F16H 59/18
F16H 59/40
F16H 59/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連結される無段変速機を制御する変速制御装置であって、
変速モードとして無段変速モードを実行し、前記無段変速機の変速比を無段階に制御する無段変速制御部と、
変速モードとして有段変速モードを実行し、前記無段変速機を複数段の固定変速比で制御する有段変速制御部と、
アクセル操作によって車両を加速させる場合に、変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替えるモード設定部と、
変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替える場合に、有段変速モードにおける最初の目標変速比である初期変速比を設定する変速比設定部と、
を有し、
前記変速比設定部は、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際のエンジン回転数の変化量を推定し、前記エンジン回転数の変化量が下限値以上である固定変速比を前記初期変速比として設定する、
変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記変速比設定部は、アップシフトを伴って無段変速モードから有段変速モードに切り替える場合に、前記下限値を車速に基づき設定する、
変速制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の変速制御装置において、
前記下限値は、車速が上昇するにつれて小さく設定され、車速が低下するにつれて大きく設定される、
変速制御装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の変速制御装置において、
前記変速比設定部は、アップシフトを伴って無段変速モードから有段変速モードに切り替える場合に、前記下限値をエンジン回転数に基づき設定する、
変速制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の変速制御装置において、
前記下限値は、エンジン回転数が上昇するにつれて大きく設定され、エンジン回転数が低下するにつれて小さく設定される、
変速制御装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の変速制御装置において、
前記モード設定部は、アクセル操作量が操作閾値を上回り、かつエンジン回転数が回転閾値を上回る場合に、アップシフトを伴って無段変速モードから有段変速モードに切り替える、
変速制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記変速比設定部は、ダウンシフトを伴って無段変速モードから有段変速モードに切り替える場合に、前記下限値を車速に基づき設定する、
変速制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の変速制御装置において、
前記下限値は、車速が上昇するにつれて大きく設定され、車速が低下するにつれて小さく設定される、
変速制御装置。
【請求項9】
請求項1、7または8に記載の変速制御装置において、
前記変速比設定部は、ダウンシフトを伴って無段変速モードから有段変速モードに切り替える場合に、前記下限値をアクセル操作量に基づき設定する、
変速制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の変速制御装置において、
前記下限値は、アクセル操作量が増加するにつれて大きく設定され、アクセル操作量が減少するにつれて小さく設定される、
変速制御装置。
【請求項11】
請求項1、7~10の何れか1項に記載の変速制御装置において、
前記モード設定部は、アクセル操作量が操作閾値を上回る場合に、ダウンシフトを伴って無段変速モードから有段変速モードに切り替える、
変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機を制御する変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される変速機として、プライマリプーリやセカンダリプーリ等を備えた無段変速機がある。また、無段変速機の変速モードとして、変速比を無段階に制御する無段変速モードがあり、変速比を段階的に制御する有段変速モードがある(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-113946号公報
【文献】特開2014-88907号公報
【文献】特開2016-166647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、無段変速モードを実行する場合には、走行状況に応じて様々な目標変速比が設定される一方、有段変速モードを実行する場合には、複数の固定変速比から目標変速比が選択される。このように、無段変速モードと有段変速モードとでは、同じ走行状況であっても互いに目標変速比が異なるため、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際には、有段変速モードにおいて取り得ない目標変速比から、有段変速モードが開始されることも考えられる。このため、無段変速モードでの目標変速比の設定状況によっては、無段変速モードから有段変速モードに切り替えた後に、有段変速モードを適切に実行することが困難となっていた。
【0005】
本発明の目的は、有段変速モードを適切に実行することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の変速制御装置は、エンジンに連結される無段変速機を制御する変速制御装置であって、変速モードとして無段変速モードを実行し、前記無段変速機の変速比を無段階に制御する無段変速制御部と、変速モードとして有段変速モードを実行し、前記無段変速機を複数段の固定変速比で制御する有段変速制御部と、アクセル操作によって車両を加速させる場合に、変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替えるモード設定部と、変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替える場合に、有段変速モードにおける最初の目標変速比である初期変速比を設定する変速比設定部と、を有し、前記変速比設定部は、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際のエンジン回転数の変化量を推定し、前記エンジン回転数の変化量が下限値以上である固定変速比を前記初期変速比として設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、変速比設定部は、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際のエンジン回転数の変化量を推定し、エンジン回転数の変化量が下限値以上である固定変速比を初期変速比として設定する。これにより、有段変速モードを適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態である変速制御装置を備えた車両を示す概略図である。
【
図2】ミッションコントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図3】無段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図である。
【
図4】有段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図である。
【
図5】変速モードの切り替えを伴う変速状況の一例を示す図である。
【
図6】
図5に示した変速状況に対応するアクセル操作の一例を示す図である。
【
図7】有段変速モードで使用されるアップシフト閾値の一例を示す図である。
【
図8】回転数変化量の下限値の一例を示す図である。
【
図9】無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の一例を示す図である。
【
図10】比較例として、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況を示す図である。
【
図11】無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の他の例を示す図である。
【
図12】本発明の他の実施の形態である変速制御装置が備えるミッションコントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図13】回転数変化量の下限値の一例を示す図である。
【
図14】無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の他の例を示す図である。
【
図15】無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
[車両構造]
図1は本発明の一実施の形態である変速制御装置10を備えた車両11を示す概略図である。
図1に示すように、車両11には、エンジン12および無段変速機13を備えたパワートレイン14が搭載されている。無段変速機13の入力軸であるプライマリ軸15には、前後進切替機構16およびトルクコンバータ17を介してエンジン12が連結されている。また、無段変速機13の出力軸であるセカンダリ軸18には、駆動輪出力軸19やデファレンシャル機構20等を介して車輪21が連結されている。なお、プライマリ軸15の回転方向を切り替える前後進切替機構16は、図示しないクラッチや遊星歯車列等によって構成される。
【0011】
無段変速機13は、プライマリ軸15に設けられるプライマリプーリ31と、セカンダリ軸18に設けられるセカンダリプーリ32と、これらのプーリ31,32に巻き掛けられる駆動チェーン33と、を有している。プライマリプーリ31にはプライマリ室34が設けられており、セカンダリプーリ32にはセカンダリ室35が設けられている。プライマリ室34およびセカンダリ室35に供給される油圧を制御することにより、プライマリプーリ31およびセカンダリプーリ32の溝幅を調整することができる。これにより、プーリ31,32に対する駆動チェーン33の巻き掛け径を変化させることができ、無段変速機13の変速比を制御することができる。
【0012】
[制御系]
パワートレイン14の制御系について説明する。
図1に示すように、車両11には、マイコン等からなるエンジンコントローラ40およびミッションコントローラ41が設けられている。エンジンコントローラ40は、インジェクタ、イグナイタおよびスロットルバルブ等のエンジン補機42に制御信号を出力し、エンジン12の運転状態を制御する。また、ミッションコントローラ41は、複数の電磁バルブや油路から構成されるバルブユニット43に制御信号を出力し、無段変速機13、前後進切替機構16およびトルクコンバータ17等の作動状態を制御する。なお、図示しないオイルポンプから吐出される作動油は、バルブユニット43を経て調圧された後に、無段変速機13やトルクコンバータ17等が備える各油室に対して供給される。
【0013】
これらのコントローラ40,41は、CANやLIN等の車載ネットワーク44を介して互いに通信自在に接続される。また、ミッションコントローラ41には、アクセル操作量(以下、アクセル開度APと記載する。)を検出するアクセルセンサ50、ブレーキ操作量を検出するブレーキセンサ51、車両11の走行速度である車速VSPを検出する車速センサ52が接続されている。さらに、ミッションコントローラ41には、クランク軸12aの回転速度であるエンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ53、プライマリプーリ31の回転速度であるプライマリ回転数を検出するプライマリ回転センサ54、セカンダリプーリ32の回転速度であるセカンダリ回転数を検出するセカンダリ回転センサ55等が接続されている。
【0014】
[無段変速機の変速制御]
無段変速機13の変速制御について説明する。
図2はミッションコントローラ41の構成例を示すブロック図である。
図3は無段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図であり、
図4は有段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図である。
【0015】
変速制御装置10は、無段変速機13の変速モードとして、変速比を無段階に制御する無段変速モードと、複数の固定変速比から変速比を段階的に制御する有段変速モードと、を有している。このため、
図2に示すように、ミッションコントローラ41は、無段変速モードで用いる目標変速比Tr1を設定する無段変速比設定部60と、有段変速モードで用いる目標変速比Tr2を設定する有段変速比設定部61と、を有している。
【0016】
無段変速比設定部60は、アクセル開度APおよび車速VSPに基づき変速特性マップを参照し、無段変速モードで用いる目標変速比Tr1を設定する。ここで、
図3に示すように、変速特性マップには、ロー側の最大変速比を示す特性線Lowが設定されており、ハイ側の最小変速比を示す特性線Highが設定されている。また、変速特性マップには、破線で示すように、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APに対応する複数の特性線が設定されている。アクセル開度APが上昇するほど、つまり車両11に対する要求駆動力が増加するほど、矢印α方向の特性線が選択される。一方、アクセル開度APが低下するほど、つまり車両11に対する要求駆動力が減少するほど、矢印β方向の特性線が選択される。例えば、矢印γで示すように、車速V1での走行中にアクセルペダルが踏み込まれた場合には、新たな特性線の選択に伴って目標プライマリ回転数がN1からN2に引き上げられ、目標変速比Tr1が「Ra」からロー側の「Rb」に連続的に制御される。このように、無段変速モードにおいては、目標変速比Tr1が連続的つまり無段階に変化しながら更新される。
【0017】
有段変速比設定部61は、アクセル開度APおよび車速VSPに基づき図示しない変速特性マップを参照し、有段変速モードで用いる目標変速比Tr2を設定する。ここで、
図4に示すように、有段変速モードの目標変速比Tr2として、例えば、7段の固定変速比R1~R7が予め設定されている。
図4に太線αで示すように、第3速の固定変速比R3を用いた加速走行中に、エンジン回転数Neが所定のアップシフト閾値X1に到達すると(符号a1)、目標変速比Tr2が第4速の固定変速比R4に切り替えられる(符号a2)。その後、第4速の固定変速比R4を用いた加速走行中に、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X1に到達すると(符号a3)、目標変速比Tr2が第5速の固定変速比R5に切り替えられる(符号a4)。このように、有段変速モードにおいては、目標変速比Tr2が固定変速比R1~R7から選択され、目標変速比Tr2が段階的に切り替えられる。
【0018】
図2に示すように、ミッションコントローラ41は、指示変速比Tr3を設定する指示変速比設定部62と、変速モードとして無段変速モードまたは有段変速モードを選択する変速モード選択部(モード設定部)63と、を有している。変速モード選択部63は、後述するように、アクセル開度AP等に基づいて変速モード(無段変速モードまたは有段変速モード)を選択し、選択された変速モードを指示変速比設定部62に出力する。指示変速比設定部62は、変速モードの選択結果に基づいて、最終的な制御目標である指示変速比Tr3を設定する。つまり、指示変速比設定部62は、変速モードとして無段変速モードが選択されると、無段変速比設定部60からの目標変速比Tr1を指示変速比Tr3として設定する。一方、指示変速比設定部62は、変速モードとして有段変速モードが選択されると、有段変速比設定部61からの目標変速比Tr2を指示変速比Tr3として設定する。
【0019】
そして、指示変速比設定部62に接続される制御信号生成部64は、指示変速比Tr3に基づいて制御信号を生成し、この制御信号をバルブユニット43に出力する。バルブユニット43は、プライマリ室34およびセカンダリ室35に供給する作動油を調圧し、無段変速機13の変速比を指示変速比Tr3に向けて制御する。このように、無段変速比設定部60、指示変速比設定部62および制御信号生成部64によって、無段変速モードを実行する無段変速制御部が構成されている。また、有段変速比設定部61、指示変速比設定部62および制御信号生成部64によって、有段変速モードを実行する有段変速制御部が構成されている。
【0020】
[変速モードの切替制御]
続いて、無段変速モードから有段変速モードへの切り替えについて説明する。
図5は変速モードの切り替えを伴う変速状況の一例を示す図である。なお、
図5には、破線で無段変速モードによる変速状況が示されており、実線で有段変速モードによる変速状況が示されている。また、
図6は
図5に示した変速状況におけるアクセル操作の一例を示す図である。
図7は有段変速モードで使用されるアップシフト閾値X1の一例を示す図である。
【0021】
図2に示すように、ミッションコントローラ41は、アップシフト閾値X1を設定するアップシフト閾値設定部65を有している。前述したように、変速モード選択部63は、アクセル開度AP等に基づいて、無段変速モードと有段変速モードとを切り替える。無段変速モードから有段変速モードに切り替える条件としては、アクセル開度APが所定の開度閾値(操作閾値)A1を上回り、かつエンジン回転数Neが所定のアップシフト閾値(回転閾値)X1を上回る、という条件である。つまり、アクセル操作によって車両11を加速させる場合に、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられている。また、有段変速モードから無段変速モードに切り替える条件としては、アクセル開度APが開度閾値A1よりも低開度側の開度閾値A2を下回る、という条件である。
【0022】
つまり、
図6に符号t1で示すように、アクセル開度APが開度閾値A1に到達する迄は、変速モードとして無段変速モードが選択される。また、符号t2で示すように、アクセル開度APが開度閾値A1を上回ってから、アクセル開度APが開度閾値A2を下回る迄は、後述するように、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X1に到達する場合に、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。さらに、符号t3で示すように、アクセル開度APが開度閾値A2を下回ると、変速モードとして無段変速モードが選択される。
【0023】
ここで、
図5に矢印b1で示すように、無段変速モードにおいてアクセルペダルを踏み込んだ場合には、目標変速比Tr1はロー側に変化するとともに、エンジン回転数Neが徐々に引き上げられる。このとき、乗員によってアクセルペダルが踏み込まれており、アクセル開度APが開度閾値A1を上回る状況である。続いて、エンジン回転数Neが所定のアップシフト閾値X1に到達すると(符号b2)、有段変速モードへの切替条件が成立するため、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられ、無段変速機13が第3速の固定変速比R3にアップシフトされる(符号b3)。その後の加速走行においては、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X1に到達する度に(符号b4,b6,b8)、無段変速機13がハイ側の固定変速比R4~R6にアップシフトされる(符号b5,b7,b9)。そして、アクセルペダルの踏み込みが解除されると、無段変速モードへの切替条件が成立するため、矢印b10で示すように、変速モードが有段変速モードから無段変速モードに切り替えられ、無段変速比はハイ側に制御されるとともに、エンジン回転数Neが徐々に引き下げられる。
【0024】
なお、
図5に示されるアップシフト閾値X1は、アクセル開度APおよび車速VSPに基づき設定される。
図7に示すように、アクセル開度APが低下するほどに、アップシフト閾値X1は小さく設定される一方、アクセル開度APが上昇するほどに、アップシフト閾値X1は大きく設定される。また、車速VSPが低下するほどに、アップシフト閾値X1は小さく設定される一方、車速VSPが上昇するほどに、アップシフト閾値X1は大きく設定される。このように、アップシフト閾値X1を設定することにより、アクセル開度APや車速VSPが高い領域でのアップシフトを抑制することができ、有段変速モードで車両11を加速させる際の駆動力を確保することができる。
【0025】
これまで説明したように、無段変速モードでの走行中にアクセルペダルが大きく踏み込まれると、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。これにより、車両11を加速させる際に、エンジン回転数と車速との上昇具合を比例させることができるため、乗員に違和感を与えることなく車両11を加速させることができる。また、
図5に破線Cで示すように、無段変速モードを維持して車両11を加速させる場合には、エンジン回転数が高止まりする傾向になるが、無段変速モードから有段変速モードに切り替えることにより、エンジン回転数を下げて車両11を加速させることができる。このように、エンジン回転数を下げることにより、パワートレイン14の騒音や損失を低減することができる。
【0026】
[有段変速モードの初期変速比:実施例1]
前述したように、無段変速モード中にアクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、固定変速比R2~R7の何れかにアップシフトを行うことにより、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。このとき、有段変速モードを適切に実行する観点から、変速モードの切替過程におけるエンジン回転数の変化量(以下、回転数変化量と記載する。)に対して下限値が設定される。つまり、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際には、アップシフトに伴ってエンジン回転数が低下することになるが、このエンジン回転数の変化量に対して下限値が設定されている。そして、ミッションコントローラ41は、下限値以上の回転数変化量を確保するように、有段変速モードのアップシフト先である初期変速比を設定する。なお、有段変速モードの初期変速比とは、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際に、有段変速モードにおいて最初に設定される目標変速比である。
【0027】
図2に示すように、ミッションコントローラ41は、初期変速比を設定するための下限値Nu1を設定する下限値設定部66と、有段変速モードの初期変速比Trfを設定する初期変速比設定部67と、を有している。下限値設定部66は、エンジン回転数Neと車速VSPとに基づいて回転数変化量の下限値Nu1を設定する。ここで、
図8は回転数変化量の下限値Nu1の一例を示す図である。
図8に示すように、エンジン回転数Neが低下するにつれて、下限値Nu1は小さく設定される一方、エンジン回転数Neが上昇するにつれて、下限値Nu1は大きく設定される。また、車速VSPが低下するにつれて、下限値Nu1は大きく設定される一方、車速VSPが上昇するにつれて、下限値Nu1は小さく設定される。
【0028】
続いて、
図2に示すように、初期変速比設定部67は、無段変速比設定部60からの目標変速比Tr1と、下限値設定部66からの下限値Nu1とに基づいて、有段変速モードのアップシフト先である初期変速比Trfを設定する。すなわち、初期変速比設定部67は、アップシフトを伴って無段変速モードから有段変速モードに切り替える際に、下限値Nu1以上の回転数変化量が得られるように、固定変速比R2~R7からアップシフト先の初期変速比Trfを設定する。
【0029】
図9は無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の一例を示す図である。
図9には、破線で無段変速モードによる変速状況が示されており、実線で有段変速モードによる変速状況が示されている。以下、
図9を用いて、初期変速比設定部67による初期変速比Trfの設定手順について説明する。
【0030】
図9に矢印c1で示すように、無段変速モードにおいてアクセルペダルが踏み込まれた場合には、目標変速比がロー側に制御されるとともに、エンジン回転数Neが徐々に引き上げられる。矢印c1で示す状況とは、乗員によってアクセルペダルが踏み込まれる状況であり、アクセル開度APが開度閾値A1を上回る状況である。このような加速走行が継続され、エンジン回転数Neが所定のアップシフト閾値X1に到達すると(符号c2)、有段変速モードへの切替条件が成立するため、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。このとき、有段変速モードの初期変速比Trfとしては、回転数変化量が下限値Nu1以上となるように、第3速の固定変速比R3ではなく(符号c3)、第4速の固定変速比R4が設定される(符号c4)。
【0031】
すなわち、初期変速比設定部67は、現在の変速比に近いアップシフト候補として第3速の固定変速比R3を選択する。続いて、初期変速比設定部67は、固定変速比R3に制御したときの回転数変化量Ne3を推定し、この回転数変化量Ne3と下限値Nu1とを比較する。図示する例では、回転数変化量Ne3が下限値Nu1よりも小さいことから、初期変速比設定部67は、新たなアップシフト候補として第4速の固定変速比R4を選択する。そして、初期変速比設定部67は、固定変速比R4に制御したときの回転数変化量Ne4を推定し、この回転数変化量Ne4と下限値Nu1とを比較する。図示する例では、回転数変化量Ne4が下限値Nu1よりも大きく、回転数変化量Ne4が下限値Nu1以上であることから、初期変速比設定部67は、第4速の固定変速比R4を初期変速比Trfとして設定する。
【0032】
図10は、比較例として、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況を示す図である。
図10に矢印d1で示すように、無段変速モードにおいてアクセルペダルが踏み込まれた場合には、目標変速比がロー側に制御されるとともに、エンジン回転数Neが徐々に引き上げられる。矢印d1で示す状況とは、乗員によってアクセルペダルが踏み込まれる状況であり、アクセル開度APが開度閾値A1を上回る状況である。続いて、エンジン回転数Neが所定のアップシフト閾値X1に到達すると(符号d2)、有段変速モードへの切替条件が成立するため、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられ、無段変速機13が現在の変速比に近い第3速の固定変速比R3にアップシフトされる(符号d3)。その後、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X1に到達すると(符号d4)、無段変速機13が続けて固定変速比R4にアップシフトされる(符号d5)。
【0033】
図10に示した比較例においては、符号d2~d5で示すように、短い間隔でアップシフトが繰り返される。このように、短期間にアップシフトが繰り返されることは、エンジン回転数Neの微小な上下変動が繰り返され、乗員に対して違和感を与えてしまう要因である。これに対し、変速制御装置10においては、
図9に示したように、回転数変化量が下限値Nu1以上となるように、固定変速比R3を飛ばして固定変速比R4に初期変速比Trfを設定している(符号c3,c4)。これにより、無段変速モードから有段変速モードに切り替えた場合であっても、有段変速モードでの頻繁なアップシフトを防止することができ、有段変速モードを適切に実行することができる。
【0034】
また、
図8に示すように、エンジン回転数Neが低下するほどに、下限値Nu1は小さく設定される一方、エンジン回転数Neが上昇するほどに、下限値Nu1は大きく設定される。また、車速VSPが低下するほどに、下限値Nu1は大きく設定される一方、車速VSPが上昇するほどに、下限値Nu1は小さく設定される。このように、エンジン回転数Neが低い領域や車速VSPが高い領域では、下限値Nu1が小さく設定されている。これにより、有段変速モードに移行して車両11を加速させる際に、エンジン回転数Neを過度に低下させることがなく、車両11を適切に加速させることができる。
【0035】
[有段変速モードの初期変速比:実施例2]
図9に示した実施例1では、有段変速モードの初期変速比Trfとして、固定変速比R4つまり有段変速モード用に予め設定された固定変速比を用いているが、これに限られることはなく、アップシフト先の初期変速比Trfとして固定変速比R2~R7以外の固定変速比を設定しても良い。ここで、
図11は無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の他の例を示す図である。
図11には、破線で無段変速モードによる変速状況が示されており、実線で有段変速モードによる変速状況が示されている。
【0036】
図11に矢印e1で示すように、無段変速モードにおいてアクセルペダルが踏み込まれた場合には、目標変速比がロー側に制御されるとともに、エンジン回転数Neが徐々に引き上げられる。矢印e1で示す状況とは、乗員によってアクセルペダルが踏み込まれる状況であり、アクセル開度APが開度閾値A1を上回る状況である。このような加速走行が継続され、エンジン回転数Neが所定のアップシフト閾値X1に到達すると(符号e2)、有段変速モードへの切替条件が成立するため、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。このとき、有段変速モードの初期変速比Trfとしては、回転数変化量が下限値Nu1に一致するように、演算によって固定変速比R10が設定される(符号e3)。このように、固定変速比R2~R7以外の固定変速比R10を算出し、この固定変速比R10を初期変速比Trfとして設定した場合であっても、有段変速モードでの頻繁なアップシフトを防止することができ、有段変速モードを適切に実行することができる。
【0037】
[有段変速モードの初期変速比:実施例3]
図9,11に示した実施例1,2では、有段変速モードから無段変速モードに切り替える際に、アップシフトを伴って有段変速モードから無段変速モードに切り替えているが、これに限られることはなく、ダウンシフトを伴って有段変速モードから無段変速モードに切り替えても良い。ここで、
図12は本発明の他の実施の形態である変速制御装置70が備えるミッションコントローラ71の構成例を示すブロック図である。なお、
図12において、
図2に示した設定部等と同様の設定部等については、同一の符号を付してその説明を省略する。また、
図13は回転数変化量の下限値Nd1の一例を示す図であり、
図14は無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の他の例を示す図である。
図14には、破線で無段変速モードによる変速状況が示されており、実線で有段変速モードによる変速状況が示されている。
【0038】
前述したように、実施例1,2で用いた変速モード選択部63は、無段変速モードでの走行中に、アクセル開度APが所定の開度閾値(操作閾値)A1を上回り、かつエンジン回転数Neが所定のアップシフト閾値X1を上回る場合に、変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替えている。これに対し、
図12に示すように、実施例3や後述する実施例4で用いる変速モード選択部(モード設定部)72は、無段変速モードでの走行中に、アクセル開度APが所定の開度閾値(操作閾値)A1を上回る場合に、変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替えている。すなわち、実施例3や後述する実施例4においては、無段変速モードからアクセル操作によって車両11を加速させる場合に、エンジン回転数Neの上昇を待つことなく、ダウンシフトを伴って無段変速モードから有段変速モードに切り替えている。
【0039】
また、実施例1,2で用いた下限値設定部66は、エンジン回転数Neおよび車速VSPに基づいて下限値Nu1を設定している。これに対し、実施例3や後述する実施例4で用いる下限値設定部73は、アクセル開度APおよび車速VSPに基づいて下限値Nd1を設定している。つまり、
図13に示すように、アクセル開度APが低下するにつれて、下限値Nd1は小さく設定される一方、アクセル開度APが上昇するにつれて、下限値Nd1は大きく設定される。また、車速VSPが低下するにつれて、下限値Nd1は小さく設定される一方、車速VSPが上昇するにつれて、下限値Nd1は大きく設定される。
【0040】
続いて、
図12に示すように、初期変速比設定部67は、無段変速比設定部60からの目標変速比Tr1と、下限値設定部73からの下限値Nd1とに基づいて、有段変速モードに移行したときの初期変速比Trfを設定する。すなわち、初期変速比設定部67は、ダウンシフトを伴って無段変速モードから有段変速モードに切り替える際に、下限値Nd1以上の回転数変化量が確保されるように、固定変速比R1~R6からダウンシフト先の初期変速比Trfを設定する。
【0041】
図14に示すように、無段変速モードでの走行中に(符号f1)、アクセルペダルが踏み込まれてアクセル開度APが開度閾値A1を上回る場合には、有段変速モードへの切替条件が成立するため、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。このとき、有段変速モードの初期変速比Trfとしては、回転数変化量が下限値Nd1以上となるように、第3速の固定変速比R3が設定される(符号f2)。
【0042】
すなわち、初期変速比設定部67は、現在の変速比に近いダウンシフト候補として第3速の固定変速比R3を選択する。続いて、初期変速比設定部67は、固定変速比R3に制御したときの回転数変化量Ne3を推定し、この回転数変化量Ne3と下限値Nd1とを比較する。図示する例では、回転数変化量Ne3が下限値Nd1よりも大きく、回転数変化量Ne3が下限値Nd1以上であることから、初期変速比設定部67は、第3速の固定変速比R3を初期変速比Trfとして設定する。
【0043】
これまで説明したように、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際には、下限値Nd1以上の回転数変化量が確保されるように、有段変速モードで用いる初期変速比Trfが設定される。このように、ダウンシフト先の初期変速比Trfを設定することにより、初期変速比Trfを後のアップシフト先である固定変速比R4から離すことができるため、有段変速モードでの頻繁なアップシフトを防止することができ、有段変速モードを適切に実行することができる。
【0044】
また、
図13に示すように、アクセル開度APが低下するほど、つまりアクセル操作量が減少するほどに、下限値Nd1は小さく設定される。一方、アクセル開度APが上昇するほど、つまりアクセル操作量が増加するほどに、下限値Nd1は大きく設定される。また、車速VSPが低下するほどに、下限値Nd1は小さく設定される一方、車速VSPが上昇するほどに、下限値Nd1は大きく設定される。このように、アクセル開度APが高い領域や車速VSPが高い領域では、下限値Nd1が大きく設定されている。これにより、有段変速モードに移行して車両11を加速させる際に、積極的なダウンシフトを促してエンジン回転数Neを高めることができ、車両11を適切に加速させることができる。
【0045】
[有段変速モードの初期変速比:実施例4]
図14に示した実施例3では、有段変速モードの初期変速比Trfとして、固定変速比R3つまり有段変速モード用に予め設定された固定変速比を用いているが、これに限られることはなく、ダウンシフト先の初期変速比Trfとして固定変速比R1~R6以外の固定変速比を設定しても良い。ここで、
図15は無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の他の例を示す図である。
図15には、破線で無段変速モードによる変速状況が示されており、実線で有段変速モードによる変速状況が示されている。
【0046】
図15に示すように、無段変速モードでの走行中に(符号g1)、アクセルペダルが踏み込まれてアクセル開度APが開度閾値A1を上回る場合には、有段変速モードへの切替条件が成立するため、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。このとき、有段変速モードの初期変速比Trfとしては、回転数変化量が下限値Nd1に一致するように、演算によって固定変速比R20が設定される(符号g2)。このように、固定変速比R1~R7以外の固定変速比R20を算出し、この固定変速比R20を初期変速比Trfとして設定した場合であっても、初期変速比Trfを後のアップシフト先である固定変速比R4から離すことができるため、有段変速モードでの頻繁なアップシフトを防止することができ、有段変速モードを適切に実行することができる。
【0047】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、
図4に示した例では、有段変速モードで使用する目標変速比として、7段の固定変速比R1~R7を挙げているが、これに限られることはなく、6段以下の固定変速比を使用しても良く、8段以上の固定変速を使用しても良い。また、前述の説明では、アクセル開度APおよび車速VSPに基づきアップシフト閾値X1を設定しているが、これに限られることはない。例えば、アクセル開度APだけに基づきアップシフト閾値X1を設定しても良く、車速VSPだけに基づきアップシフト閾値X1を設定しても良い。
【0048】
前述の説明では、エンジン回転数Neおよび車速VSPに基づき下限値Nu1を設定しているが、これに限られることはない。例えば、エンジン回転数Neだけに基づき下限値Nu1を設定しても良く、車速VSPだけに基づき下限値Nu1を設定しても良い。また、前述の説明では、アクセル開度APおよび車速VSPに基づき下限値Nd1を設定しているが、これに限られることはない。例えば、アクセル開度APだけに基づき下限値Nd1を設定しても良く、車速VSPだけに基づき下限値Nd1を設定しても良い。
【0049】
前述の説明では、ミッションコントローラ41に、無段変速比設定部60、有段変速比設定部61、指示変速比設定部62、変速モード選択部63、制御信号生成部64、アップシフト閾値設定部65、下限値設定部66および初期変速比設定部67を設けているが、これに限られることはない。例えば、他のコントローラに各設定部、選択部および生成部を設けても良く、複数のコントローラに分けて各設定部、選択部および生成部を設けても良い。
【符号の説明】
【0050】
10 変速制御装置
12 エンジン
13 無段変速機
60 無段変速比設定部(無段変速制御部)
61 有段変速比設定部(有段変速制御部)
62 指示変速比設定部(無段変速制御部,有段変速制御部)
63 変速モード選択部(モード設定部)
64 制御信号生成部(無段変速制御部,有段変速制御部)
65 アップシフト閾値設定部
67 初期変速比設定部(変速比設定部)
70 変速制御装置
72 変速モード選択部(モード設定部)
R1~R7,R10,R20 固定変速比
Trf 初期変速比
Nu1,Nd1 下限値
AP アクセル開度(アクセル操作量)
VSP 車速
Ne エンジン回転数
Ne3 回転数変化量(変化量)
Ne4 回転数変化量(変化量)
A1 開度閾値(操作閾値)
X1 アップシフト閾値(回転閾値)