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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の防食工法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/10 20060101AFI20220727BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20220727BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20220727BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220727BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220727BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220727BHJP
   C08L 63/10 20060101ALI20220727BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20220727BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20220727BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20220727BHJP
   C08K 5/315 20060101ALI20220727BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20220727BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20220727BHJP
   C08F 290/14 20060101ALI20220727BHJP
   E04B 1/64 20060101ALI20220727BHJP
   C04B 41/48 20060101ALI20220727BHJP
   C04B 41/63 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
C09D163/10
C09D5/08
C09D4/02
C09D7/63
C09D7/61
C09D7/65
C08L63/10
C08K5/101
C08K7/02
C08K5/01
C08K5/315
C08J5/04 CEY
C08F220/18
C08F290/14
E04B1/64 Z
C04B41/48
C04B41/63
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017163874
(22)【出願日】2017-08-29
(65)【公開番号】P2019038972
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000187194
【氏名又は名称】昭和電工建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】若林 康人
(72)【発明者】
【氏名】野口 隆志
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/181731(WO,A1)
【文献】特開2002-138220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 -201/10
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
C04B 41/00 - 41/72
E04B 1/62 - 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部、重合性不飽和単量体1~200質量部、硬化促進剤0.1~10質量部、及び反応性界面活性剤1~50質量部を含有する混合液に、水10~200質量部を滴下して転相乳化させることにより得られる水系ビニルエステル樹脂と、繊維とを含有する防食ライニングをコンクリート構造物に塗布し、乾燥させる工程1を1~3回繰り返し行うことにより、厚さ0.35~1.05mmの塗膜を形成させた後、
上塗り材として、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部、重合性不飽和単量体1~200質量部、硬化促進剤0.1~10質量部、及び反応性界面活性剤1~50質量部を含有する混合液に、水10~200質量部を滴下して転相乳化させることにより得られる水系ビニルエステル樹脂を、工程1で形成させた塗膜上に塗布し、乾燥させる工程2を1~3回繰り返し行うことにより、厚さ0.35~1.05mmの塗膜を形成させる、コンクリート構造物の防食工法。
【請求項2】
前記反応性界面活性剤が、アニオン性反応性界面活性剤及びノニオン性反応性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のコンクリート構造物の防食工法。
【請求項3】
前記重合性不飽和単量体が、アルキル(メタ)アクリレート、アルケニル(メタ)アクリレート、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、スチレン及びその誘導体、並びにビニル化合物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の防食工法。
【請求項4】
前記硬化促進剤が、金属アセチルアセテート、金属石鹸、バナジウム化合物、硫化金属及びアミンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防食工法。
【請求項5】
前記繊維が有機繊維及び無機繊維から選択される一種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防食工法。
【請求項6】
前記繊維の繊維長が3~10mmである、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防食工法。
【請求項7】
前記工程1及び前記工程2において、1回の塗布量が0.1~0.8kg/m2である、請求項1~6のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防食工法。
【請求項8】
前記工程1で形成させる塗膜と、前記工程2で形成させる塗膜とを合わせた膜厚が0.35~1.75mmである、請求項1~7のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防食工法。
【請求項9】
前記工程1に先立ち、
(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部、重合性不飽和単量体1~200質量部、硬化促進剤0.1~10質量部、及び反応性界面活性剤1~50質量部を含有する混合液に、水10~200質量部を滴下して転相乳化させることにより得られる水系ビニルエステル樹脂と、無機粉体とを含有する素地調整材を、コンクリート構造物に塗布し、乾燥させて塗膜を形成する工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防食工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の表面処理用の水中油型エマルション形の防食材に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道関連施設等では、排水中に含まれる硫酸塩が、硫酸塩還元菌によって分解されて硫化水素が発生する。その硫化水素は、前記の下水道施設等で用いられるコンクリート構造物の内壁表面に生息する硫黄細菌によって硫酸に変化する。硫酸がそのまま内壁表面に留まると、コンクリート構造物の内壁表面が硫酸酸性の雰囲気に晒されることとなり、コンクリートの腐食が発生する。一方、地下階にある商業ビル・ホテル等の厨房や水洗便所から排出される雑排水や汚水を一時的に貯留するビルピット等では、排水中に食品や油脂類から発生すると考えられている有機酸が多く含まれている。近年、耐硫酸性の高いライニング材が短期間で劣化する事例が多く見られている。そのため有機酸を含む排水施設では耐薬品性の高いビニルエステル樹脂や耐有機酸性のエポキシ樹脂などを選定せざるを得なくなっている。
【0003】
コンクリート構造物の腐食が進むと、下水の漏洩のみならず、施設そのものの劣化や破損等に繋がることから、コンクリート構造物の腐食の抑制は課題となっている。このような状況下、すでに種々の腐食抑制方法が報告されている。例えば、モルタルの成分によって耐腐食性を高める手法として、耐酸性セメントを使用したモルタル、抗菌剤混入モルタル、及びスラグ超微粉混入モルタル、等が知られているが、その耐硫酸性は充分に高いものではない。一方、耐酸性材料で防食被覆するライニング工法は、耐硫酸性に高い効果が認められ現状多くの施設で施工されてきた。
【0004】
このように、コンクリート構造物には、主として耐久性向上の目的で、様々な腐食抑制材が試されている。その一つに、防水・防食材料があるが、近年、省資源及び環境保全の観点から、有機溶剤をなるべく使用しない、水系材料での防水・防食材料が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、水系合成樹脂エマルション及び有機フィラーを含有する水系樹脂組成物であって、不揮発分が65~80質量%である厚膜施工用水系樹脂組成物が記載され、コンクリート構造物等の被処理面に該水系樹脂組成物を施工した塗膜が乾燥性に優れ、かつ、耐久性(例えば、耐水性、耐酸性及び耐塩基性等)にも優れること、及び、厚膜に施工するのに、セメント等の無機フィラーで粘性を調整できることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部、重合性不飽和単量体1~200質量部、硬化促進剤0.1~10質量部、反応性界面活性剤1~50質量部、及び水10~200質量部を含む水中油型エマルション組成物に硬化剤を添加してなる塗布液が、常温で容易に硬化させることができ、該塗布液をコンクリート等の被処理面に塗布した塗布膜は、耐水性、耐酸性及び耐塩基性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-57802号公報
【文献】国際公開第2014/181731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のモルタルや水系樹脂組成物では、強度や接着性が必ずしも充分でなかった。また、耐酸性を向上させると、材料費が高くなるため、耐酸性をそれほど必要としない施設では、施工費が高くなるという問題がある。このため、コンクリート構造物の長期耐久性の観点、及びコスト低減の観点から、耐腐食性を有する新たな材料を使用した表面処理方法の開発が要望されている。
そこで、本発明は、耐腐食性を有するライニング材を使用した表面処理方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコンクリート構造物の防食工法は、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部、重合性不飽和単量体1~200質量部、硬化促進剤0.1~10質量部、及び反応性界面活性剤1~50質量部を含有する混合液に、水10~200質量部を滴下して転相乳化させることにより得られる水系ビニルエステル樹脂と、繊維とを含有する防食ライニングをコンクリート構造物に塗布し、乾燥させる工程1を1~3回繰り返し行うことにより、厚さ0.35~1.05mmの塗膜を形成させた後、上塗り材として、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部、重合性不飽和単量体1~200質量部、硬化促進剤0.1~10質量部、及び反応性界面活性剤1~50質量部を含有する混合液に、水10~200質量部を滴下して転相乳化させることにより得られる水系ビニルエステル樹脂を、工程1で形成させた塗膜上に塗布し、乾燥させる工程2を1~3回繰り返し行うことにより、厚さ0.35~1.05mmの塗膜を形成させることを特徴とする。
前記反応性界面活性剤は、アニオン性反応性界面活性剤及びノニオン性反応性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
前記重合性不飽和単量体は、アルキル(メタ)アクリレート、アルケニル(メタ)アクリレート、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、スチレン及びその誘導体、並びにビニル化合物からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
前記硬化促進剤は、金属アセチルアセテート、金属石鹸、バナジウム化合物、硫化金属及びアミンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
前記繊維は、有機繊維及び無機繊維から選択される一種以上であることが好ましい。
前記繊維の繊維長は3~10mmであることが好ましい。
【0010】
前記工程1及び前記工程2において、1回の塗布量は0.1~0.8kg/m2であることが好ましい。
前記工程1で形成させる塗膜と、前記工程2で形成させる塗膜とを合わせた膜厚は0.35~1.75mmであることが好ましい。
前記工程1に先立ち、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部、重合性不飽和単量体1~200質量部、硬化促進剤0.1~10質量部、及び反応性界面活性剤1~50質量部を含有する混合液に、水10~200質量部を滴下して転相乳化させることにより得られる水系ビニルエステル樹脂と、無機フィラーとを含有する素地調整材を、コンクリート構造物に塗布し、乾燥させて塗膜を形成する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防食ライニング材は充分な耐腐食性を有する。上記防食ライニング材は水系であるから、環境保全の観点で優れ、また、コテを使って厚膜施工が可能であるから、ハンドリング性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の防食ライニング材は、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部、重合性不飽和単量体1~200質量部、硬化促進剤0.1~10質量部、及び反応性界面活性剤1~50質量部を含有する混合液に、水10~200質量部を滴下して転相乳化させることにより得られる水系ビニルエステル樹脂と、繊維とを含有する。
【0013】
〔防食ライニング材〕
[水系ビニルエステル樹脂]
(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ樹脂に、α,β-不飽和プロトン酸を反応させて得られる樹脂である。
1分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂、ハロゲン化ノボラック型エポキシ樹脂、シアヌレート型エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、少なくとも分子の両末端にエポキシ基を1つずつ有しているエポキシ樹脂がより好ましい。
【0014】
一方、α,β-不飽和プロトン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
1分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ樹脂とα,β-不飽和プロトン酸とは、エポキシ基とカルボキシル基とがほぼ当量になるように混合し、重合禁止剤の存在下で、大気中で100~140℃で、酸価が6~20mgKOH/gになるまで反応させることにより、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂を合成する。酸価を前記範囲にすることで、エマルションの安定性が良好となり、かつ、耐水性を高く維持できる。
【0015】
なお、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂は、例えば、ウレタン変性、フェノール変性、クレゾール変性、酸変性、酸無水物変性、酸ペンダント変性、リン酸ペンダント変性、シリコン変性、アリルエーテル変性、アセトアセチル化変性、部分エステル化変性等がされていてもよい。
【0016】
重合性不飽和単量体は、水系ビニルエステル樹脂を常温で硬化する際、硬化塗膜の形成を容易にする効果がある。
このような重合性不飽和単量体の具体例としては、アルキル(メタ)アクリレート、アルケニル(メタ)アクリレート、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、スチレン及びその誘導体、並びにビニル化合物等が挙げられる。これらのうち、スチレン及びその誘導体、並びにアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、スチレン及びエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、スチレンが特に好ましい。
なお、上記の化合物は、沸点が200℃未満と低く、水系ビニルエステル樹脂を常温で硬化させるのに有利である。
【0017】
重合性不飽和単量体の含有量は、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部に対して、通常1~200質量部、好ましくは10~80質量部、より好ましくは20~55質量部である。重合性不飽和単量体の含有量が1質量部未満であると、水系ビニルエステル樹脂を常温で硬化する際、硬化塗膜の形成が困難なことがある。一方、200質量部を超えると、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂の機械的強度を損なうことがある。
【0018】
硬化促進剤には、上記水系ビニルエステル樹脂を常温で硬化する硬化剤、具体的には有機過酸化物を還元できるものが用いられる。具体的には、銅アセチルアセテート、バナジウムアセチルアセテート、コバルトアセチルアセテート、マンガンアセチルアセテート及び鉄アセチルアセテート等の金属アセチルアセテート;金属石鹸;五酸化二バナジウム等のバナジウム化合物;硫化コバルト、硫化銅、硫化マンガン、硫化ニッケル及び硫化鉄等の硫化金属;N,N-ジメチルアニリン及びN,N-ジメチルトルイジン等の芳香族アミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン及びトリブチルアミン等のトリアルキルアミン、並びにモノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等のアルコールアミン等のアミン等が挙げられる。これらのうち、金属石鹸が好ましい。
硬化促進剤の含有量は、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部に対して、通常0.1~10質量部、好ましくは0.3~3質量部である。
【0019】
(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂や重合性不飽和単量体等から界面活性剤が分離するのを抑制し、かつ、硬化塗膜の耐水性、耐酸性及び耐塩基性を高めるため、反応性界面活性剤を用いる必要がある。非反応性の界面活性剤では、硬化塗膜の耐水性、耐酸性及び耐塩基性が不充分である。「反応性」とは、ラジカル反応性を有することをいう。
反応性界面活性剤は、分子内に炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有するものである。このような反応性界面活性剤には、アニオン性反応性界面活性剤とノニオン性反応性界面活性剤とがあり、これらから選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。アニオン性反応性界面活性剤とノニオン性反応性界面活性剤のいずれか一方を用いてもよいが、それらを併用することがより好ましい。
【0020】
アニオン性反応性界面活性剤としては、例えば、α-スルホ-ω-(1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)アンモニウム塩[(株)ADEKA製のアデカリアソープ(登録商標)SR-10、SR-1025等]、α-スルホ-ω-(1-(ノニルフェノキシ)メチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)アンモニウム塩[(株)ADEKA製のアデカリアソープ(登録商標)SE-10、SE-1025A等]、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩[第一工業製薬(株)製のアクアロン(登録商標)HS-10、HS-5、BC-10、BC-5等]、α-スルホナト-ω-{1-(アリルオキシメチル)-アルキルオキシ}ポリオキシエチレンアンモニウム塩[第一工業製薬(株)製のアクアロン(登録商標)KH-10等]、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩[花王(株)製のラテムル(登録商標)PD-104等]、アルキルアリルスルホ琥珀酸塩[花王(株)製のラテムル(登録商標)S-180A、S-180等、三洋化成工業(株)製のエレミノール(登録商標)JS-20]等が挙げられる。これらうち、硬化塗膜の耐水性、耐酸性及び耐塩基性の観点から、α-スルホ-ω-(1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)アンモニウム塩[(株)ADEKA製のアデカリアソープ(登録商標)SR-10、SR-1025等]が好ましい。
【0021】
ノニオン性反応性界面活性剤としては、例えば、α-ヒドロ-ω-(1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)[(株)ADEKA製のアデカリアソープ(登録商標)ER-10、ER-20、ER-30、ER-40]、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル[花王(株)製のラテムル(登録商標)PD-420、PD-430、PD-450]、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル[第一工業製薬(株)製のアクアロン(登録商標)RN20、RN30、RN50]等が挙げられる。これらのうち、硬化塗膜の耐水性、耐酸性及び耐塩基性の観点から、α-ヒドロ-ω-(1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)[(株)ADEKA製のアデカリアソープ(登録商標)ER-10、ER-20、ER-30、ER-40]が好ましい。
【0022】
アニオン性反応性界面活性剤とノニオン性反応性界面活性剤とを併用する場合、反応性界面活性剤中のノニオン性界面活性剤の含有率は、通常80質量%以上、好ましくは90質量%以上である。
反応性界面活性剤の含有量は、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部に対して、通常1~50質量部、好ましくは15~30質量部である。1質量部未満であると、エマルションの安定性が低下する。一方、50質量部を超えると、硬化塗膜を形成し難くなり、かつ、硬化塗膜の耐水性、耐酸性及び耐塩基性が低下する。
【0023】
なお、反応性界面活性剤と共に、非反応性である公知のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を併用してもよい。
【0024】
上記水系ビニルエステル樹脂は、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部に対して、水を通常10~200質量部、好ましくは10~50質量部含有する。水の含有量が10質量部未満であると、エマルション組成物が水中油型になり難く、かつ、エマルションの安定性を保つことが困難である。一方、200質量部を超えると、常温で硬化させることが困難になる。水としては、イオン交換水、蒸留水等の純水が好ましい。
【0025】
上記水系ビニルエステル樹脂は、必要に応じて、補強材、充填材、顔料、その他各種添加剤を含有していてもよい。例えば、水系ビニルエステル樹脂中に、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子を添加すると、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂の安定性が向上する。
上記水系ビニルエステル樹脂中のこれらの成分の含有量は、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部に対して、通常10質量部以下である。
【0026】
水系ビニルエステル樹脂は、例えば、上記した(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂、重合性不飽和単量体、硬化促進剤及び反応性界面活性剤を混合した混合液中に、水を滴下して転相乳化させる方法により調製する。このとき、水を一度に添加せずに、滴下することで、油中水型(W/O;water in oil)型エマルションから、連続相が水である、いわゆる水中油型(O/W;oil in water)型エマルションへと変化させることができる。また、水を滴下することによって、分散相がより一層微細に分散された状態となり、エマルションの安定性が高くなり、かつ、硬化塗膜の耐水性、耐酸性及び耐塩基性が高くなる。水の滴下速度は通常10~300ml/h程度、好ましくは50~150ml/hである。
【0027】
[繊維]
本発明の防食ライニング材は、上記した水系ビニルエステル樹脂を主剤とし、この主剤に繊維を添加することで、塗膜の強度や耐衝撃性を向上させる効果を発揮する。
繊維は、有機繊維及び無機繊維から選択される一種以上であることが好ましい。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維、及び岩石繊維等が挙げられ、有機繊維としては、例えば、アラミド繊維、PBO繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維及びナイロン繊維等が挙げられる。さらに、これらの繊維のうち繊維長が3~10mmであるものがより好ましい。
【0028】
繊維の含有量は、水系ビニルエステル樹脂100容量部に対して、通常0.1~3容量部、好ましくは0.5~1.5容量部である。繊維の含有量が0.1容量部未満であると、塗膜の強度や耐衝撃性が充分に得られないことがある。一方、3容量部を超えると、混合時ファイバーボールを形成し、塗膜が不均一になり、かえって強度が劣ることとなる。
【0029】
[防食ライニング材]
本発明の防食ライニング材は、上記の水系ビニルエステル樹脂と繊維とを含有するペースト状のものである。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、繊維に加えて、例えば、酸化チタン及びカーボンブラックの添加剤を添加してもよい。
【0030】
〔コンクリート構造物の防食工法〕
本発明のコンクリート構造物の防食工法は、上記した防食ライニング材をコンクリート構造物に塗布し、乾燥させる工程1を1~3回繰り返し行うことにより、厚さ0.35~1.05mmの塗膜を形成させた後、上塗り材として、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部、重合性不飽和単量体1~200質量部、硬化促進剤0.1~10質量部、及び反応性界面活性剤1~50質量部を含有する混合液に、水10~200質量部を滴下して転相乳化させることにより得られる水系ビニルエステル樹脂を、工程1で形成させた塗膜上に塗布し、乾燥させる工程2を1~3回繰り返し行うことにより、厚さ0.35~1.05mmの塗膜を形成させることを特徴とする。
【0031】
工程1では、防食ライニング材に硬化剤を添加した混合物を、金ゴテ等を用いてコンクリート構造物に塗布し、1回塗布するごとに、塗布物を乾燥させて、合計の厚さが0.35~1.05mmの塗膜を形成する。
硬化剤としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂等、無色液状の通常の常温硬化剤を用いることができる。なお、防食ライニング材と硬化剤との混合比(重量比)は、通常100:1~6、例えば100:3である。
防食ライニング材による塗膜の硬化物比重(20℃、g/cm3)は、通常1.00~1.30、例えば1.14である。
【0032】
工程2では、工程1で形成させた塗膜上に上塗り材を塗布する。ここで、上塗り材には、上記防食ライニング材の構成成分である、水系ビニルエステル樹脂及び硬化剤をそのまま使用してもよい。なお、上塗り材に用いる水系ビニルエステル樹脂の性状は、例えば、ペースト状である。上塗り材には、水系ビニルエステル樹脂以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で、酸化チタン及びカーボンブラック等の添加剤を添加してもよい。
上塗り材による塗膜の硬化物比重(20℃、g/cm3)は、通常1.00~1.30、例えば1.14である。
【0033】
工程1及び2における、防食ライニング材及び上塗り材の1回の塗布量はそれぞれ0.1~0.8kg/m2が好ましく、0.3~0.6kg/m3がより好ましい。そして、工程1で形成させる塗膜と、工程2で形成させる塗膜との合計膜厚は0.35~1.75mmとすることが好ましい。
【0034】
上記工程1に先立ち、水系ビニルエステル樹脂と、無機粉体とを含有する素地調整材を、コンクリート構造物に塗布し、乾燥させて塗膜を形成する工程を含むことが好ましい。
すなわち、コンクリート構造物に防食ライニング材を塗布する前に、上記素地調整材を塗布することが好ましい。ここで、素地調整材に用いる水系ビニルエステル樹脂は、防食ライニング材の構成成分である、水系ビニルエステル樹脂と同じであってもよい。なお、素地調整材に用いる水系ビニルエステル樹脂は、ペースト状である。素地調整材は、コンクリート表面に直接塗布し、コンクリート表面の凹凸を被覆することで、続いて塗布する防食ライニング材、及び上塗り材の塗布を均一かつ容易にする効果を発揮する。
【0035】
上記無機粉体には、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、珪酸、珪酸塩、カオリンクレー、酸化マグネシウム、サテンホワイト、酸化アルミニウム、タルク、マイカ、焼成クレー、水酸化アルミニウム、シリカ、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、セメント、珪砂、及びパーライトが好ましい。これらのうち、セメント、(珪砂)、(高炉スラグ)等がより好ましく、セメントはアルミナセメントが特に好ましい。これらは一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
水系ビニルエステル樹脂と無機粉体との配合比は(20℃、重量比)は、通常1~2:0.5~4、具体的には2:3である。無機粉体の含有量が配合比を下回ると、塗膜の厚みをつけられなくなり、塗膜内部の乾燥が充分でないことがある。一方、上記配合比を上回ると、塗膜の強度が不充分となったり、コンクリート表面の凹凸を被覆できなくなることがある。
【0037】
さらに、上記素地調整材は、上記無機粉体に加えて、粉体の過酸化物を含有することが好ましい。粉体の過酸化物を用いることで、上記素地調整材が二材構成となり、無機粉体と過酸化物とを予め混合してから使用できるため、取り扱いがしやすくなる。過酸化物には、例えば、過酸化ベンゾイル、ジアルキルパーオキサイド、ビステトラブチルシクロヘキシルパーオキサイド等が用いられる。なお、無機粉体と過酸化物との混合物は通常、茶灰色の粉体である。
過酸化物の含有量は、水系ビニルエステル樹脂100質量部に対して、通常1~8質量部、好ましくは2~4質量部である。
【0038】
上記素地調整材は、上記の水系ビニルエステル樹脂を主剤とし、この主剤に無機粉体及び必要に応じて粉体の過酸化物を添加することで調製される。
上記素地調整材を用いることで、耐食性及び防腐性の格段に向上した塗布物を形成することができる。
【0039】
以上のとおり、本発明の防食ライニング材及びこれを用いるコンクリート構造物の防食工法は、商業ビル・ホテル等の厨房排水関連水槽、汚水、雑排水等ビルピット関連施設、下水道施設の防食ライニングに好適である。
【実施例
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
〔実施例1〕防食ライニング材の調製
反応容器に、ノボラック型エポキシ樹脂「EPICRON(登録商標)N-740」(エポキシ当量=170~190g/eq、DIC(株)製)948g、メタクリル酸451g、ハイドロキノン1.2g、及びN,N-ジメチルベンジルアミン6gを仕込み、空気を吹き込みながら115±5℃で2時間反応させて、(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂(酸価=10mgKOH/g)を得た。次いで、ハイドロキノン0.3g及びスチレン600gを加え、よく攪拌して溶解させた。こうして得られた樹脂成分中の(メタ)アクリレート系エポキシ樹脂100質量部に対するスチレンの配合比率は30質量部であった。
前記樹脂成分100gに対して、オクチル酸コバルト1.0g、アニオン性反応性界面活性剤「アデカリアソープ(登録商標)SR-10」((株)ADEKA製)1.5g及びノニオン性反応性界面活性剤「アデカリアソープ(登録商標)ER-30」((株)ADEKA製)25gを加え、得られた混合液中に、水30gを100ml/hで滴下しながらよく撹拌することで、水系ビニルエステル樹脂を調製した。
得られた水系ビニルエステル樹脂に対して、繊維(タフバインダ―(東レ(株)製))を1.0vol%の量で添加して防食ライニング材を得た。
【0041】
〔実施例2〕コンクリート平面への塗布試験
コンクリート歩道板に、金ゴテを用いて素地調整材を厚さ約1.0mmに塗布した後、素地調整材が充分に乾燥したのを確認後、防食ライニング材を1回の塗布量0.4kg/m2で1回重ね塗りをし、乾燥後、厚さ0.35mmの塗膜を形成した。次いで、上塗り材を1回の塗布量0.4kg/m2で2回重ね塗りをし、乾燥後、厚さ0.7mmの塗膜を形成した。
ここで、素地調整材は、実施例1で調製した水系ビニルエステル樹脂6kgと、表1に示す無機粉体(No.1)9kgを混合して、よく攪拌することにより調製した。上塗り材は、実施例1で調製した水系ビニルエステル樹脂1kgに硬化剤(パーメックS(日油(株)製))30gを添加することにより調製した。
塗布翌日、表面を目視で観察したところ、白化等はみられず、塗布乾燥直後の灰色が概ね維持されており、また、熱冷繰り返し試験後も、壁面に裂け目や劣化は発生しなかった。
【表1】
【0042】
[比較例1]
実施例2において、防食ライニング材の塗布量を0.4kg/m2から1kg/m2に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、コンクリート歩道板面の表面処理を行った。
翌日、コンクリート表面を目視で観察したところ、表面が白化していた。原因として、一回の塗布塗膜が厚いために塗膜内部が硬化する前に表面が硬化し成膜したため、内部に水分が残存したままになったためと考えられる。
【0043】
[比較例2]
実施例1における水系ビニルエステル樹脂に繊維を添加せず、水系ビニルエステル樹脂をそのまま防食材として用いた。
実施例2において、前記防食材を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、コンクリート歩道板の表面処理を行った。
比較例2では、繊維を入れていない防食材を用いたため、熱冷繰り返し試験でひび割れが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の防食ライニングは、ビルピット施設や下水道施設の壁面の表面加工に好適に用いられる。