(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】オーガ装置および杭圧入機
(51)【国際特許分類】
E02D 7/20 20060101AFI20220727BHJP
【FI】
E02D7/20
(21)【出願番号】P 2017167782
(22)【出願日】2017-08-31
【審査請求日】2020-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】北村 精男
(72)【発明者】
【氏名】都築 良夫
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-131471(JP,A)
【文献】特開2002-242182(JP,A)
【文献】特開2015-197037(JP,A)
【文献】特開2018-188830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矢板杭の圧入に用いられるオーガ装置であって、
地盤を掘削するオーガスクリューと、
前記オーガスクリューを囲う筒状のケーシングと、
前記オーガスクリューを回転させるオーガ駆動部とを備え、
前記ケーシングは複数の分割ケーシングを接続することにより構成され、
前記接続される複数の分割ケーシング同士の位置ずれを妨げる、位置決めピンおよび前記位置決めピンを受容する凹部からなるずれ防止機構が、前記オーガスクリューの中心軸に関して、前記ケーシングの外側に矢板杭が配置される側と、その反対側とに設けられ
、
前記複数の分割ケーシングの端面同士が、前記オーガスクリューの中心軸に関して、前記ケーシングの外側に矢板杭が配置される側と、その反対側の両方においてボルトで接続される、オーガ装置。
【請求項2】
前記ケーシングの外側に矢板杭が配置される側において、前記接続される複数の分割ケーシングには、矢板杭を案内するためのガイド部がそれぞれ設けられ、前記矢板杭が配置される側のずれ防止機構が前記ガイド部に配置されている、請求項1に記載のオーガ装置。
【請求項3】
前記ケーシングの外側に矢板杭が配置される側と反対側において、前記接続される複数の分割ケーシングには、前記ケーシングを挟持するためのレール部がそれぞれ設けられ、前記反対側のずれ防止機構が前記レール部とは別の位置に配置されている、請求項1または2に記載のオーガ装置。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のオーガ装置を備えた、地盤に杭を圧入する杭圧入機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を掘削するオーガ装置、およびそのオーガ装置を備える杭圧入機に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質地盤に杭を施工する場合、オーガ装置を備える杭圧入機や三点式杭打機による掘削が行われている。ここで、三点式杭打機は自重が反力なので大きなトルクをかけての掘削は転倒の恐れがあり、危険である。特に長尺杭の施工は危険が大きく、低トルク掘削しか出来ないので所要時間とコストがかかる。
一方、オーガ装置を備える杭圧入機は地盤に圧入した杭に掴まって施工するので転倒の恐れはないといった利点がある。
【0003】
オーガ装置は、地盤を掘削するオーガスクリューと、そのオーガスクリューを囲う筒状のケーシングとを有する。かかるオーガ装置を備える杭圧入機においては、クランプで既設杭を掴みながらケーシングとオーガスクリューを下降させ、オーガスクリューの下端部のオーガヘッド(カッター)で地盤を掘削しながら圧入杭を同時に打設、又は次の圧入杭を圧入するための掘削孔を先行掘削を行い杭を打設していく。
【0004】
しかし、上方に橋などの構造物がある場合等、高さが制限される場所では、全長の長いオーガ装置の適用が制限される場合がある。また、全長の長いオーガ装置を吊り込むためには大型のクレーン装置が必要となり、狭隘な土地では施工が困難になる場合もある。
【0005】
このため本出願人は、特許文献1において、ケーシングを軸方向に連接可能な複数の分割ケーシングで構成し、これら分割ケーシングを連接することにより延長可能にしたオーガ装置を提案した。かかる特許文献1のオーガ装置によれば、複数の分割ケーシングを適宜連接して延長することにより、施工する高さが制限される場所や狭隘な場所においても容易に杭を打設できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、オーガ装置のケーシングには地盤掘削の反力が加わるので、掘削精度を向上するためにケーシングに加わる反力を確実に受け止めることが必要になる。また、硬質地盤などの掘削中に、地中障害物である石や礫、コンクリート片にオーガヘッドが当たると、それらの地中障害物が割れるまでの間、駆動部、ケーシングに歪(ねじれ)が弾性範囲でたまり、地中障害物が割れた瞬間に反動でオーガヘッドが一気に先に進むといったいわゆるキックバック現象が発生する。その結果、オーガ装置のケーシングに大きな変動負荷が加わることになる。このため、ケーシングを複数の分割ケーシングで構成した場合、分割ケーシング同士の位置ずれを効果的に防止することが求められる。
【0008】
一方、U型鋼矢板などの矢板杭では、矢板杭の内側にオーガ装置のケーシングを添わして施工するので、ケーシングのサイズを余り大きくできず、ケーシング内に配置されたオーガスクリューにより肉厚の制限も受ける。そのため、径や肉厚を大きくして強度を上げることができず、分割ケーシング同士の位置ずれを効果的に防止することが困難である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ケーシングを複数の分割ケーシングで構成したオーガ装置において、分割ケーシング同士の位置ずれを効果的に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明によれば、矢板杭の圧入に用いられるオーガ装置であって、地盤を掘削するオーガスクリューと、前記オーガスクリューを囲う筒状のケーシングと、前記オーガスクリューを回転させるオーガ駆動部とを備え、前記ケーシングは複数の分割ケーシングを接続することにより構成され、前記接続される複数の分割ケーシング同士の位置ずれを妨げる、位置決めピンおよび前記位置決めピンを受容する凹部からなるずれ防止機構が、前記オーガスクリューの中心軸に関して、前記ケーシングの外側に矢板杭が配置される側と、その反対側とに設けられ、前記複数の分割ケーシングの端面同士が、前記オーガスクリューの中心軸に関して、前記ケーシングの外側に矢板杭が配置される側と、その反対側の両方においてボルトで接続される、オーガ装置が提供される。
【0011】
本発明のオーガ装置にあっては、オーガスクリューの中心軸に関して、ケーシングの外側に矢板杭が配置される側と、その反対側の両方にずれ防止機構が設けられているため、矢板杭が配置される側と、その反対側の両方で分割ケーシング同士の位置ずれを妨げることができる。そのため、分割ケーシング同士の位置ずれを効果的に防止することができる。
【0012】
本発明のオーガ装置において、前記ケーシングの外側に矢板杭が配置される側において、前記接続される複数の分割ケーシングには、矢板杭を案内するためのガイド部がそれぞれ設けられ、前記矢板杭が配置される側のずれ防止機構が前記ガイド部に配置されていても良い。また、前記ケーシングの外側に矢板杭が配置される側と反対側において、前記接続される複数の分割ケーシングには、前記ケーシングを挟持するためのレール部がそれぞれ設けられ、前記反対側のずれ防止機構が前記レール部とは別の位置に配置されていても良い。
【0013】
また本発明によれば、上記オーガ装置を備えた、地盤に杭を圧入する杭圧入機が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分割ケーシング同士の位置ずれを効果的に防止することにより、地盤掘削時にオーガ装置のケーシングに加わる反力をしっかりと受け止めることができ、掘削効率及び掘削精度が向上し、また、省エネルギー化もはかれる。さらに、分割ケーシング同士の位置ずれが抑制されることにより、いわゆるキックバック現象に伴う装置負担や損傷を低減でき、装置寿命も長くなる。また、掘削効率向上によりオーガヘッドのビットチップ摩耗も軽減され長寿命となる。また、接続ボルトのゆるみ抑制、ボルト折損も抑制されボルト落下、ケーシング折れがなくなり安全である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係るオーガ装置を備えた杭圧入機の概略構成を示す図である。
【
図4】上下に接続される分割ケーシングの接続部分の斜視図である。
【
図5】上下に接続される分割ケーシングの接続部分を、矢板杭が配置される側とは反対側から見た側面図である。
【
図6】上下に接続される分割ケーシングの接続部分を、矢板杭が配置される側と、その反対側の両方が見える位置から見た側面図である。
【
図7】上方の分割ケーシングの下端面と下方の分割ケーシングの上端面の説明図である。
【
図8】上下の分割ケーシングを接続した状態を、矢板杭が配置される側とは反対側から見た側面図である。
【
図9】ボルトとボルト穴の関係を示す部分断面図である。
【
図10】下方の分割ケーシングの上端面に設けられた凸部と上方の分割ケーシングの下端面に設けられた凹部との係合状態を示す部分断面図である。
【
図11】下方の分割ケーシングの上端面に設けられた位置決めピンとは、上方の分割ケーシングの下端面に設けられた凹部との係合状態を示す部分断面図であり、(a)は係合前の状態、(b)は係合後の状態を示している。
【
図12】ケーシングの外側に矢板杭が配置される側に1本の位置決めピンと1つの凹部を配置し、その反対側に残りの1本の位置決めピンと凹部を配置した本発明の実施の形態を説明するための、チャック装置の平面図である。
【
図13】ケーシングの外側に矢板杭が配置される側に2本の位置決めピンと2つの凹部を配置し、その反対側に残りの2本の位置決めピンと凹部を配置した本発明の実施の形態を説明するための、チャック装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施の形態にかかるオーガ装置1は、矢板杭Aを地盤Gに圧入する杭圧入機20に取り付けられている。なお、本明細書において、前方とは、杭圧入機20によって圧入施工を進行していく方向であり、
図1中の紙面右側が前方であり、紙面左側が後方である。左右方向は、圧入施工の進行方向を上から見た状態で定められ、
図1中では、紙面上側が右側方であり、紙面下側が左側方である。
【0018】
オーガ装置1は、地盤Gを掘削するオーガスクリュー2と、オーガスクリュー2の側方を囲うように設けられたケーシング3と、オーガスクリュー2を回転させるオーガ駆動部4を備えている。オーガ装置1は、ケーシング3の長手方向が鉛直方向に向く状態とされ、杭圧入機本体21のチャック装置27で保持されている。チャック装置27は、上方にケーシングチャック部27aを備え、下方にチャック部35を備えている。後述するように、ケーシングチャック部27aは、オーガ装置1のケーシング3を挟持することが可能である。また、チャック部35は、オーガ装置1のケーシング3を保持することも可能であるが、ケーシング3の外側に配置された矢板杭Aをケーシング3と一緒に保持することも可能である。
【0019】
ケーシング3は円筒形状であり、ケーシング3の内部において、オーガスクリュー2が回転する。オーガ装置1のケーシング3は、複数の分割ケーシングを接続することにより構成され、この実施の形態にかかるオーガ装置1では、上から順に3つの分割ケーシング3a、3b、3cを直列に接続した構成であり、分割ケーシング3aの下端と分割ケーシング3bの上端が接続部3j1で接続され、分割ケーシング3bの下端と分割ケーシング3cの上端が接続部3j2で接続されている。なお、分割ケーシング3a、3bの接続部3j1を例として、後で詳しく説明する。
【0020】
ケーシング3の下端から下方に突出しているオーガスクリュー2の下端部には交換可能なオーガヘッド5が取り付けられており、オーガヘッド5には玉石等の岩石を破砕する掘削ビット(不図示)が設けられている。また、ケーシング3には掘削した土砂や石等を排出する排出孔6が形成されており、排出孔6はケーシング3の長手方向に沿って間隔をおいて複数設けられている。
【0021】
オーガ駆動部4はケーシング3の上端部に取り付けられており、オーガ駆動部4の筐体4a内にはオーガスクリュー2の駆動源となる油圧モータ7と、油圧モータ7の下方に配置された減速機8が設けられている。油圧モータ7にはオーガモータ用油圧ホース9が接続されている。
【0022】
杭圧入機20の杭圧入機本体21は、既設の矢板杭A’を掴む複数のクランプ23が装着されたサドル24と、スライド機構25によりサドル24に対し前後動可能に構成されたリーダーマスト26と、リーダーマスト26に対し昇降可能に構成されたチャック装置27とを備えている。リーダーマスト26には、各部の油圧動作を行うための全体油圧ホース28が接続されている。また、リーダーマスト26には、オーガモータ用油圧ホース9の巻き取りと払い出しを行うホースリール29が設けられており、ホースリール29にはオーガモータ用油圧ホース9が接するホース案内ローラ30が取り付けられている。このホースリール29は掘削作業に伴うオーガ装置1の昇降移動に併せて適宜回転し、掘削作業中のオーガモータ用油圧ホース9に張力を付与する。
【0023】
次に、分割ケーシング3a、3b、3cの接続構造について説明する。なお、一例として、分割ケーシング3aと分割ケーシング3bとの接続部3j1の構造について説明する。先ず、
図2に示すように、オーガ装置1のケーシング3は、杭圧入機20のチャック装置27に設けられたケーシングチャック部27aで挟持されることが可能である。また、
図3に示すように、ケーシング3と矢板杭Aは、チャック装置27に設けられたチャック部35によって一体的に保持されることが可能である。
【0024】
図2、3に示すように、ケーシング3の側面には、ケーシング3の内部に配置されるオーガスクリュー2の中心軸Oに関して、互いに反対側となる位置に、ガイド部40とレール部41が設けられている。なお、
図2、3中、右方向が前方(杭圧入機20によって圧入施工を進行していく方向)であり、
図2、3では、ガイド部40を左側に向け、レール部41を右側に向けた状態を示している。但し、杭圧入機20のチャック装置27は、ケーシングチャック部27aとチャック部35を自由に回転させることができ、これらガイド部40とレール部41の向きを任意に変更することができる。
【0025】
ここで、本明細書では、ケーシング3の周囲において、
図2、3中に示したオーガスクリュー2の中心軸Oを通る直線Lによって分割される2つの領域S1と領域S2を定義する。
図2、3中において、直線Lよりも上側に示されている領域S1は、ケーシング3の外側に矢板杭Aが配置される側である。ガイド部40は、ケーシング3の側面において、この領域S1に設けられている。また、ケーシング3の外側に矢板杭Aを保持させるチャック部35も、この領域S1に配置されている。一方、
図2、3中において、直線Lよりも下側に示されている領域S2は、ケーシング3の外側に矢板杭Aが配置される側に対する反対側である。レール部41は、ケーシング3の側面において、この領域S2に一対設けられている。また、チャック装置27に設けられたケーシングチャック部27aも、この領域S2に配置されている。なお、ケーシングチャック部27aとチャック部35は、オーガスクリュー2の中心軸Oを挟んで互いに位置しているが、チャック部35はケーシングチャック部27aよりも下方にある。
【0026】
ガイド部40の外側に矢板杭Aが配置され、ガイド部40の外面に矢板杭Aのウェブ内面を当接させることにより、領域S1において、ケーシング3の外側に矢板杭Aが位置決めされる。そして、
図3に示すように、このようにガイド部40によって位置決めされた矢板杭Aのウェブ外面に、チャック部35に設けられたシリンダで構成される可動爪36が配置される。また、領域S2には、レール部41の外側に、チャック部35の可動爪36に対向する固定爪36’が配置されている。そして、シリンダの動力によって、可動爪36がガイド部40に近づくように移動させられることにより、ガイド部40で位置決めされた矢板杭Aがケーシング3の外側に保持され、チャック部35によって矢板杭Aとケーシング3が一体的に保持される。また、このように矢板杭Aとケーシング3が一体的に保持されることにより、両者の間に土砂等が入り込むことが防止される。
【0027】
一方、
図2に示されるように、ケーシングチャック部27aには、鉛直方向に延びる一対のガイド溝42が設けられており、このガイド溝42にケーシング3の側面の領域S2に設けられたレール部41が通されることにより、ケーシング3はケーシングチャック部27aに対して昇降可能に保持される。ケーシングチャック部27aは、ガイド溝42を挟んで互いに反対の位置に配置されたシリンダで構成される可動爪37と固定爪38を備えており、ガイド溝42に挿入されたレール部41がこれら可動爪37と固定爪38の間に挟まれるように配置される。
【0028】
この状態で、シリンダの動力によって、可動爪37が固定爪38に向かって近接するように移動させられることにより、可動爪37が固定爪38の間でレール部41が挟持され、その結果、ケーシングチャック部27aによってオーガ装置1のケーシング3が挟持される。
【0029】
接続部3j1および接続部3j2の構成について、代表として分割ケーシング3aと分割ケーシング3bとの接続部3j1を例にして、
図4~7を参照にして説明する。分割ケーシング3aの下方に配置される分割ケーシング3b(以下「下方の分割ケーシング3b」という)の上端面には、内周部分が上方に突出するリング状の凸部45が設けられており、分割ケーシング3bの上方に配置される分割ケーシング3a(以下「上方の分割ケーシング3b」という)の下端面には、凸部45を受容するリング状の凹部46が設けられている。
【0030】
また、下方の分割ケーシング3bの上端面には、当該上端面から上方に突出する位置決めピン47が設けられており、上方の分割ケーシング3aの下端面には、位置決めピン47を受容する凹部48が設けられている。
図7を見れば理解されるように、この実施の形態では、下方の分割ケーシング3bの上端面において3か所に位置決めピン47が設けられており、同様に、上方の分割ケーシング3aの下端面において3か所に凹部48が設けられている。これら3本の位置決めピン47の内、2本の位置決めピン47は、矢板杭Aを位置決めするためのガイド部40に配置されている。すなわち、これら2本の位置決めピン47は、ケーシング3の外側に矢板杭Aが配置される側である領域S1に設けられている。一方、残りの1本の位置決めピン47は、オーガスクリュー2の中心軸Oに関して、ガイド部40に配置された2本の位置決めピン47の反対側に配置されている。すなわち、この残りの1本の位置決めピン47は、レール部41のある領域S2に設けられている。同様に、3か所に設けられた凹部48の内、2つの凹部48はガイド部40に配置されている。すなわち、これら2つの凹部48は、ケーシング3の外側に矢板杭Aが配置される側である領域S1に設けられている。一方、残りの1つの凹部48は、オーガスクリュー2の中心軸Oに関して、ガイド部40に配置された2つの凹部48の反対側に配置されている。すなわち、この残りの1つの凹部48は、レール部41のある領域S2に設けられている。
【0031】
なお参考に、
図2、3と同様に、
図7中にも、オーガスクリュー2の中心軸Oを通る直線Lと、この直線Lによって分割される、ケーシング3の外側に矢板杭Aが配置される側の領域S1と、その反対側となる領域S2を示す。但し、
図7では、直線Lよりも左側に領域S1が位置し、直線Lよりも右側に領域S2が位置した状態を示している。
【0032】
下方の分割ケーシング3bの上端近傍には、領域S2において、一対のレール部41の間に、ケーシング3の側面が外側に突出するように形成された肉厚部50が設けられており、領域S2に配置される1本の位置決めピン47は、この肉厚部50に設けられている。同様に、上方の分割ケーシング3aの下端近傍には、領域S2において、一対のレール部41の間に、ケーシング3の側面が外側に突出するように形成された肉厚部51が設けられており、領域S2に配置される1つの凹部48は、この肉厚部51に設けられている。
【0033】
下方の分割ケーシング3bの上端近傍において、ガイド部40には、一対のナット挿入部52が設けられており、下方の分割ケーシング3bの上端面には、このナット挿入部52に連通するボルト穴53が開口している。また、下方の分割ケーシング3bの上端近傍において、一対のレール部41にも、ナット挿入部54が設けられており、下方の分割ケーシング3bの上端面には、このナット挿入部54に連通するボルト穴55が開口している。
【0034】
上方の分割ケーシング3aの下端近傍において、ガイド部40には、一対のボルト挿入部60が設けられており、上方の分割ケーシング3aの下端面には、このボルト挿入部60に連通するボルト穴61が開口している。また、上方の分割ケーシング3aの下端近傍において、一対のレール部41にも、ボルト挿入部62が設けられており、上方の分割ケーシング3aの下端面には、このボルト挿入部62に連通するボルト穴63が開口している。
【0035】
なお、位置関係を理解しやすくするため、凸部45および凹部46、位置決めピン47および凹部48、肉厚部50、51、ボルト穴53、55、61、63の各符号を、
図2、3中に記載した。
【0036】
そして、このように構成された分割ケーシング3a、3bを接続する場合、同芯上に配置した下方の分割ケーシング3bの上端面と上方の分割ケーシング3aの下端面を突き合せ、凸部45を凹部46に挿入し、かつ、各位置決めピン47を各凹部48に挿入する。次に、
図8に示すように、上方の分割ケーシング3aのレール部41に設けられたボルト挿入部62にボルト65を挿入する。そして、ボルト65のネジ部分65’を、ボルト穴63およびボルト穴55に通し、ボルト65のネジ部分65’の先端を、下方の分割ケーシング3bのレール部41に設けられたナット挿入部54に突出させる。また、下方の分割ケーシング3bのレール部41に設けられたナット挿入部54にはナット66を挿入する。そして、ナット挿入部54に突出させたボルト65のネジ部分65’の先端に、ナット66を取り付け、ボルト65およびナット66を締結する。なお、図示はしないが、同様に上方の分割ケーシング3aのガイド部40に設けられたボルト挿入部60にもボルト65を挿入する。そして、ボルト65のネジ部分65’を、ボルト穴61およびボルト穴53に通し、ボルト65のネジ部分65’の先端を、下方の分割ケーシング3bのレール部41に設けられたナット挿入部52に突出させる。また、下方の分割ケーシング3bのガイド部40に設けられたナット挿入部52にはナット66を挿入する。そして、ナット挿入部52に突出させたボルト65のネジ部分65’の先端に、ナット66を取り付け、ボルト65およびナット66を締結する。こうして、4本のボルト65およびナットによって、分割ケーシング3aの下端と分割ケーシング3bの上端をしっかりと固定することにより、分割ケーシング3a、3bが一体的に接続される。
【0037】
ここで、
図9に示すように、ボルト65を円滑に回転させることができるように、ボルト穴53、55、61、63の内径は、ボルト65のネジ部分65’の外径よりも僅かに大きく設定されており、ボルト穴53、55、61、63の内面とボルト65のネジ部分65’の外面との間には、隙間が存在する状態となっている。このため、ボルト65によっては、分割ケーシング3a、3b同士の水平方向への位置ずれ(分割ケーシング3a、3b同士の回転ずれおよび前後左右方向の位置ずれ)を効果的に防止することは困難である。また、
図10に示すように、下方の分割ケーシング3bの上端面に設けられた凸部45と上方の分割ケーシング3aの下端面に設けられた凹部46はいずれもリング状であり、これら凸部45と凹部46の係合によっても、分割ケーシング3a、3b同士の回転ずれを効果的に防止することは困難である。
【0038】
掘削中にオーガヘッド5に下向きの荷重がかかると、ケーシング3には上向きの反力が発生し、接続部3j1では、下方の分割ケーシング3bの上端面と上方の分割ケーシング3aの下端面との間の面圧が低下する。その時、ケーシング3に加わる回転トルクなどにより、分割ケーシング3a、3b同士は水平方向へ位置ずれをしやすくなる。そして、繰り返し荷重等で横ずれが発生するとボルト65が緩みやすくなり、さらに、一部のボルト65が緩むと、緩んでいないボルト65の負担が増加し、ボルト65の破損といった恐れがある。また、分割ケーシング3a、3b同士が水平方向へ位置ずれすることにより、ボルト65にせん断力がかかり、ボルト65を破損する可能性もある。接続部3j1において分割ケーシング3a、3b同士が水平方向へ位置ずれすることにより、振動や騒音が発生する恐れもある。
【0039】
一方、
図11(a)、(b)に示すように、下方の分割ケーシング3bの上端面に設けられた位置決めピン47は、上方の分割ケーシング3aの下端面に設けられた凹部48に差し込むだけで良く、凹部48内で回転させる必要が無い。そのため、凹部48の内径は位置決めピン47の外径とほぼ等しくでき、凹部48の内面と位置決めピン47の外面との間は、隙間が実質的に存在しない状態にすることができる。よって、位置決めピン47を凹部48に差し込んで、4本のボルト65とナット66で締結することにより、接続部3j1において、分割ケーシング3a、3bを水平方向へ位置ずれさせない状態で一体的に接続することが可能となる。
【0040】
この場合、位置決めピン47と凹部48は、ケーシング3の外側に矢板杭Aが配置される側である領域S1と、その反対側の領域S2の両方にそれぞれ配置されており、矢板杭Aが配置される側(領域S1)と、その反対側(領域S2)の両方で、位置決めピン47と凹部48との係合によって分割ケーシング3a、3b同士の位置ずれを妨げることができる。このように、オーガスクリュー2の中心軸Oを通る直線Lによって分割された2つの領域S1と領域S2の両方において、位置決めピン47と凹部48との係合によって分割ケーシング3a、3b同士の位置ずれを妨げることにより、接続部3j1において、水平方向に生ずる位置ずれを効果的に防止することが可能となる。また、凸部45を凹部46に挿入し、位置決めピン47を凹部48に挿入した状態で、ボルト65とナット66でしっかりと接続することにより、分割ケーシング3a、3bを接続した後に横吊りしても充分耐えうる強度が確保される。さらに、ボルト65とナット66とを取り外すことで、分割ケーシング3a、3bを容易に分割することもできる。
【0041】
そして、本発明の実施の形態に係る杭圧入機20においては、既設杭A’をクランプ23で掴み、杭圧入機本体21の姿勢を安定させるための反力を取った状態で地盤Gの掘削を行う。地盤Gの掘削を行う際には、オーガ装置1のオーガスクリュー2を回転させ、ケーシング3と矢板杭Aをチャック装置27のチャック部35で一体的に保持した状態で所定量下降させる。その後、チャック部35の保持を一旦解除し、保持位置を所定量だけ上方に移動させる。そして、再度ケーシング3と矢板杭Aをチャック部35で一体的に保持し、オーガ装置1のオーガスクリュー2を回転させながら、ケーシング3と矢板杭Aを所定量下降させる。この動作を繰り返すことにより、地盤Gの掘削と矢板杭Aの圧入を進めていく。そして、矢板杭Aの圧入終了後、圧入を終了した矢板杭Aの上端よりも上の位置において、チャック部35またはケーシングチャック部27aでケーシング3を挟持して上昇させる。
【0042】
ここで、掘削の際には、オーガ装置1のケーシング3には地盤掘削の反力が加わることとなる。また、硬質地盤などの掘削中には、キックバック現象によりケーシング3に大きな変動負荷が加わることになる。しかるに、この実施の形態に係るオーガ装置1によれば、上述したように、2つの領域S1と領域S2の両方に配置された位置決めピン47と凹部48との係合により、接続部3j1において、分割ケーシング3a、3b同士の水平方向への位置ずれが効果的に防止される。そのため、地盤掘削時にオーガ装置1のケーシング3に加わる反力をしっかりと受け止めることができ、掘削精度が向上し、また、地盤掘削力の伝達効率も向上し、省エネルギー化もはかれる。さらに、分割ケーシング3a、3b同士の位置ずれが抑制されることにより、いわゆるキックバック現象に伴う装置負担やボルト65の緩みや折損、ボルト穴53、55、61、63の変形も解消され、損傷を低減でき、装置寿命も長くなる。さらに、掘削時の振動や騒音の発生も抑えることができる。なお、代表して分割ケーシング3aと分割ケーシング3bとの接続部3j1の構造について説明したが、分割ケーシング3bと分割ケーシング3cの接続部3j2についても、同様の構造にすることによって、分割ケーシング3b、3c同士の位置ずれを抑制することが可能である。
【0043】
以上、本発明の実施の形態の一例について説明したが、本発明は以上に示した形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0044】
例えば、
図3~8では、3本の位置決めピン4とそれらを挿入させる凹部48を備え、ケーシング3の外側に矢板杭Aが配置される側である領域S1に、2本の位置決めピン47と2つの凹部48を配置し、その反対側の領域S2に残りの1本の位置決めピン47と凹部48を配置した例を示した。しかし、位置決めピン4と凹部48の数は2以上であれば任意である。また、ケーシング3の外側に矢板杭Aが配置される側である領域S1と、その反対側の領域S2に、少なくとも1本ずつの位置決めピン47と凹部48が配置されていれば良い。
【0045】
例えば、
図12では、2本の位置決めピン4とそれらを挿入させる凹部48を備え、ケーシング3の外側に矢板杭Aが配置される側である領域S1に、1本の位置決めピン47と1つの凹部48を配置し、その反対側の領域S2に残りの1本の位置決めピン47と凹部48を配置した形態を示している。また、
図13では、4本の位置決めピン4とそれらを挿入させる凹部48を備え、ケーシング3の外側に矢板杭Aが配置される側である領域S1に、2本の位置決めピン47と2つの凹部48を配置し、その反対側の領域S2に残りの2本の位置決めピン47と凹部48を配置した形態を示している。これらの形態はいずれも本発明に含まれる。
【0046】
ここで、
図11に示したように、下方の分割ケーシング3bの上端面において、位置決めピン47の高さPHが、リング状の凸部45の高さKHよりも高くなるように設定すれば、
図11(a)に示されるように、凸部45と凹部46がまだ係合する前の状態で、位置決めピン4と凹部48との位置合わせを行うことができ、作業がしやすくなる。なお、この位置合わせを容易にさせるために、位置決めピン47の上端にテーパー面47’を形成しておくことが望ましい。また、位置決めピン47は、下方の分割ケーシング3bの上端面に例えば溶接や締り嵌め等で固定しておくことができる。
【0047】
また、分割ケーシング3a、3b同士の位置ずれを妨げるずれ防止機構の一例として、位置決めピン4と凹部48との係合構造を示したが、他の形態のずれ防止機構として、例えばキーとキー溝の係合によって位置ずれを妨げる構造も適用できる。なお、ピンと凹部との係合構造と、キーとキー溝の係合によって位置ずれを妨げる構造を併用することもできる。
【0048】
また、以上の実施の形態では杭圧入機20にオーガ装置1を取り付ける構成としたが、例えば地盤に対して杭を貫入させる三点式杭打機にオーガ装置1を取り付けても良い。この場合も同様に、オーガスクリュー2の中心軸Oを通る直線Lによって分割された2つの領域S1と領域S2の両方に、位置決めピンやキーを用いたずれ防止機構を設けて分割ケーシング3a、3b同士の位置ずれを妨げることにより、水平方向に生ずる位置ずれを効果的に防止することが可能となる。
【0049】
また、チャック装置27のチャック部35によってオーガ装置1のケーシング3と矢板杭Aを一体的に保持して圧入を行っていく場合を説明した。しかしながら、例えば地盤Gに先行掘削を行う場合、チャック装置27のチャック部35によってオーガ装置1のケーシング3のみを保持し、オーガ装置1のオーガスクリュー2を回転させて掘削を行うこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、地盤を掘削するオーガ装置として有用である。
【符号の説明】
【0051】
A 矢板杭
A’ 既設の矢板杭
G 地盤
L オーガスクリューの中心軸を通る直線
O オーガスクリューの中心軸
S1、S2 領域
1 オーガ装置
2 オーガスクリュー
3 ケーシング
3a、3b、3c 分割ケーシング
3j1、3j2 接続部
4 オーガ駆動部
5 オーガヘッド
6 排出孔
4a 筐体
7 油圧モータ
8 減速機
9 オーガモータ用油圧ホース
20 杭圧入機
21 杭圧入機本体
23 クランプ
24 サドル
25 スライド機構
26 リーダーマスト
27 チャック装置
27a ケーシングチャック部
28 全体油圧ホース
29 ホースリール
35 チャック部
36 可動爪
36’ 固定爪
37 可動爪
38 固定爪
40 ガイド部
41 レール部
42 ガイド溝
45 凸部
46 凹部
47 位置決めピン
48 凹部
50、51 肉厚部
52、54 ナット挿入部
53、55 ボルト穴
60、62 ボルト挿入部
61、63 ボルト穴