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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/40 20100101AFI20220727BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20220727BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
H01L33/40
H01L33/56
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017189505
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019067841
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀一郎
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-258257(JP,A)
【文献】特開2007-012993(JP,A)
【文献】国際公開第2008/153130(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1749154(KR,B1)
【文献】特開2007-067183(JP,A)
【文献】特開2006-278554(JP,A)
【文献】特開2010-212406(JP,A)
【文献】特開2008-192665(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110621(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0065881(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
H01L 21/28 - 21/288
H01L 21/44 - 21/445
H01L 29/40 - 29/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極が設けられたパッケージと、
透明基板と、当該透明基板上に形成された窒化物半導体層と、フリップチップ実装によって、前記電極に電気的に接続される電極部とを有し、波長355nm以下の紫外光を発光する半導体発光素子と、
前記半導体発光素子を封止し、前記電極部に接触して、側鎖の分解生成物から有機酸を発生する封止樹脂と、を備え、
前記封止樹脂は、側鎖にアルキル基あるいは炭素を含む官能基を有しており、
前記電極部は、アノード側電極部と、カソード側電極部と、からなり、
前記アノード側電極部は、ニッケルを含まず、かつ、前記窒化物半導体層側から、酸化物導電膜であるITOと、前記有機酸に対して不動態を形成するチタンと、水素よりもイオン化傾向の低い金、あるいは、酸化物導電膜であるITOと、水素よりもイオン化傾向の低いパラジウムと、水素よりもイオン化傾向の低い金を順次積層してなり、
前記カソード側電極部は、ニッケルを含まず、かつ、前記窒化物半導体層側から、前記有機酸に対して不動態を形成するチタンと、前記有機酸に対して不動態を形成するアルミニウムと、前記有機酸に対して不動態を形成するチタンと、水素よりもイオン化傾向の低い金を順次積層してなり、
前記パッケージに設けられた前記電極は、前記封止樹脂内に位置するアノード側素子実装部とカソード側素子実装部を有し、
前記アノード側電極部は、前記封止樹脂内に位置する前記アノード側素子実装部に導電部材を介して接続され、
前記カソード側電極部は、前記封止樹脂内に位置する前記カソード側素子実装部に導電部材を介して接続される、
発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を発光する半導体発光素子及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光ダイオード(LED)をシリコーン樹脂等の封止樹脂で封止した樹脂封止型の発光装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。樹脂封止型の発光装置では、封止樹脂は電極構造を含むLEDの全体を覆うように設けられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-067184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、発光ダイオードとして、波長355nm以下の紫外光を発光する紫外光発光ダイオード(紫外光LEDという)を用いた樹脂封止型の発光装置について検討した。その結果、以下の課題があることを見出した。
【0005】
波長355nm以下の紫外線LEDを樹脂封止した場合、封止樹脂の側鎖として用いられているアルキル基、あるいは炭素を含む官能基等が、紫外光の影響で主鎖から切断される解離反応が促進される。紫外光により封止樹脂の側鎖の結合部分が切断されると、その分解生成物からカルボン酸等の有機酸が発生し、紫外光LEDの電極部を腐食してしまうおそれが生じる。本発明者が検討を進めたところ、特に高温高湿の雰囲気においては、側鎖の分解生成物からの有機酸の発生が促進され、電極部の劣化が一層顕著となることが分かった。
【0006】
そこで、本発明は、樹脂封止した際に電極部に腐食が発生しにくい半導体発光素子及び発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、波長355nm以下の紫外光を発光する半導体発光素子であって、実装先の電極に電気的に接続される電極部を有し、前記電極部は、有機酸に対して不動態を形成する金属、水素よりもイオン化傾向の低い金属、または酸化物導電膜のいずれか1つ以上を積層して構成され、有機酸に対して不動態を形成せず、かつ、水素よりもイオン化傾向が高く、かつ、酸化物導電膜でない材料からなる層を含まない、半導体発光素子を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、電極が設けられたパッケージと、前記電極に電気的に接続される電極部を有し、波長355nm以下の紫外光を発光する半導体発光素子と、前記半導体発光素子を封止し、前記電極部に接触している封止樹脂と、を備え、前記封止樹脂は、側鎖にアルキル基あるいは炭素を含む官能基を有しており、前記電極部は、有機酸に対して不動態を形成する金属、水素よりもイオン化傾向の低い金属、または酸化物導電膜のいずれか1つ以上を積層して構成され、有機酸に対して不動態を形成せず、かつ、水素よりもイオン化傾向が高く、かつ、酸化物導電膜でない材料からなる層を含まない、発光装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂封止した際に電極部に腐食が発生しにくい半導体発光素子及び発光装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係る半導体発光装置を用いた発光装置の断面図である。
図2】半導体発光素子の積層構造を説明する説明図である。
図3】本発明の一変形例に係る発光装置の断面図である。
図4】本発明の一変形例に係る発光装置の断面図である。
図5】本発明の一変形例に係る発光装置の断面図である。
図6】本発明の一変形例に係る発光装置の断面図である。
図7】本発明の一変形例に係る半導体発光装置を用いた発光装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る半導体発光装置を用いた発光装置の断面図である。図2は、半導体発光素子の積層構造を説明する説明図である。
【0013】
発光装置1は、電極2が設けられたパッケージ3と、電極2に電気的に接続される電極部43を有する半導体発光素子4と、半導体発光素子を封止する封止樹脂5と、を備えている。
【0014】
パッケージ3は、略直方体形状に形成されると共に、その上面に凹部3aが形成されている。パッケージ3は、例えば高温焼成セラミック多層基板(HTCC、High Temperature Co-fired Ceramic)からなる。
【0015】
電極2は、パッケージ3の底壁3bから凹部3a内に露出しており、素子実装部21と、回路実装部22と、連結部23と、を一体に有している。素子実装部21は、半導体発光素子4が実装される部分である。回路実装部22は、パッケージ3の底壁3bから下方に(凹部3aと反対側に)露出しており、図示しない回路基板等にはんだ等により接続される部分である。連結部23は、素子実装部21と回路実装部22とを連結する部分である。発光装置1は、アノード側電極2aとカソード側電極2bとからなる一対の電極2を有している。
【0016】
半導体発光素子4は、波長355nm以下の紫外光を発光する紫外光LEDからなる。半導体発光素子4は、サファイア基板からなる透明基板41と、透明基板41上に形成されたAlGaN系の窒化物半導体層42と、電極部43と、を有している。図2に示されるように、本実施の形態では、窒化物半導体層42は、透明基板41側から順次、AlNからなるバッファ層42a、n型AlGaNからなるnクラッド層42b、AlGaNを含む発光層42c、p型AlGaNからなるpクラッド層42d、p型GaNからなるコンタクト層42eを順次形成して構成されている。電極部43は、コンタクト層42e上に形成されたアノード側電極部(p電極)43aと、n型クラッド層上に形成されたカソード側電極部(n電極)43bと、からなる。なお、両電極部43a,43bの材質については、後述する。
【0017】
半導体発光素子4は、透明基板41を上側(底壁3bと反対側)として、底壁3b上(電極2上)にフリップチップ実装される。電極部43と電極2との接続は、例えば金バンプ等を介して行う。半導体発光素子4のアノード側電極部43aは、アノード側電極2aの素子実装部21に電気的に接続され、半導体発光素子4のカソード側電極部43bは、カソード側電極2bの素子実装部21に電気的に接続される。
【0018】
封止樹脂5は、電極部43を含む半導体発光素子4全体を覆うように設けられている。つまり、封止樹脂5は、電極部43に直接接触している。封止樹脂5は、パッケージ3の凹部3aに充填されると共に、パッケージ3の上方に盛り上がるように設けられており、その上面が滑らかな曲面形状(例えば半球状、あるいは半楕円球状)となるように形成されている。これにより、例えば上面を平面とした場合と比較して、封止樹脂と空気との境界における全反射を抑制して光の取り出し効率を向上できる。また、封止樹脂5がレンズの役割を果たすようになり紫外光の照射方向を制御可能となる。また、封止樹脂5としては、透明基板41としてのサファイア基板の屈折率と、空気の屈折率の中間の屈折率を有するものを用いることが望ましい。これにより、サファイア基板から紫外光を取り出す効率が向上し、発光強度の向上に寄与する。
【0019】
つまり、封止樹脂5は、半導体発光素子4を覆って半導体発光素子4を保護する役割と、透明基板41と空気間の屈折率差を緩和して光の取り出し効率を向上する役割と、紫外光の照射方向を制御するレンズとしての役割と、を兼ねている。
【0020】
なお、封止樹脂5は、図3のようにパッケージ3の凹部3aに平坦に充填されていてもよいし、また、図4のように、凹状に充填されていてもよい。また、図5のように、封止樹脂5を平坦に充填したのちに石英あるいはサファイア等からなるレンズ6を装着してもよい。なおレンズ6の形状は、図5のように半球状であってもよいし半球以外でも、凸型、凹型、あるいはそれ以外の形状でもよい。
【0021】
封止樹脂5としては、半導体発光素子4が発光する紫外光に対して透明であり、また、紫外光により容易に劣化しないものを用いることが望ましい。具体的には、封止樹脂5としては、シリコーン樹脂やフッ素樹脂を用いることができる。
【0022】
封止樹脂5として用いるシリコーン樹脂の側鎖は、CH等のアルキル基からなるが、密着性の向上等、封止樹脂の特性を改善するために、側鎖の一部が、カルボキシル基等の炭素を含む官能基に置換されたものを用いてもよい。フッ素樹脂についても同様に、密着性を高めるために、側鎖として炭素を含むカルボキシル基等が用いられていてもよい。フッ素樹脂の場合は、さらに密着性を向上させるために、シランカップリング剤等による前処理を実施して、パッケージ3および半導体発光素子4と封止樹脂5との密着性を向上させてから封止することが望ましい。
【0023】
側鎖にアルキル基あるいは炭素を含む官能基を有する封止樹脂5を用いる場合、封止樹脂5の側鎖として用いられているアルキル基、あるいは炭素を含む官能基等が、紫外光の影響を受けて、主鎖から切断されてしまう場合がある。紫外光により封止樹脂5の側鎖の結合部分が切断されると、その分解生成物からカルボン酸等の有機酸が発生する。その結果、電極部43として、イオン化傾向が高く酸などに対する耐性が低いニッケルなどを用いると、電極部43に腐食が発生してしまうおそれが生じる。
【0024】
そこで、本実施の形態では、腐食しにくい、あるいは腐食しない材料で電極部43を構成することにより、電極部43の腐食による特性劣化や寿命の短縮を抑制している。
【0025】
より具体的には、本実施の形態では、電極部43は、有機酸に対して不動態を形成する金属、水素よりもイオン化傾向の低い金属、または酸化物導電膜のいずれか1つ以上を積層して構成されている。電極部43は、有機酸に対して不動態を形成せず、かつ、水素よりもイオン化傾向が高く、かつ、酸化物導電膜でない材料からなるニッケル等からなる層を含まない。
【0026】
有機酸に対して不動態を形成する金属としては、例えばクロム、アルミニウム、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル等が挙げられる。水素よりもイオン化傾向の低い金属としては、銅、銀、パラジウム、プラチナ、金等が挙げられる。酸化物導電膜としては、ITO(Indium Tin Oxide、酸化インジウムスズ)、IGZO(In-Ga-ZnO4)等が挙げられる。電極部43は、これら3つのグループの材料のみを組み合わせて構成される。
【0027】
本実施の形態では、アノード側電極部43aに従来用いていたニッケルに代えて、有機酸に対して不動態を形成する金属であるチタンを用いた。すなわち、電極部43は、有機酸に対して不動態を形成する金属であるチタンからなる層を含んでいる。チタンでは、その表面に形成された酸化チタンが不動態として機能するため、封止樹脂5から分解、生成された有機酸に浸食されないという特性を有している。
【0028】
本実施の形態では、アノード側電極部43aは、窒化物半導体層42側(コンタクト層42e側)から電極2側にかけて、酸化物導電膜であるITOと、有機酸に対して不動態を形成する金属であるチタンと、水素よりもイオン化傾向の低い金属である金と、を順次積層して構成されている。また、カソード側電極43bは、窒化物半導体層42側(nクラッド層42b側)から電極2側にかけて、チタン、アルミニウム、チタン、金を順次積層して構成されている。電極部43における各層の厚さや層数については、ここでは特に限定するものではなく、適宜調整可能である。
【0029】
(変形例)
アノード側電極部43aとして、従来用いていたニッケルに代えて、水素よりもイオン化傾向の低い金属であるパラジウムを用いてもよい。すなわち、電極部43は、水素よりもイオン化傾向の低い金属であるパラジウムからなる層を含んでいてもよい。パラジウムは、水素よりもイオン化傾向が低いため、封止樹脂5から分解、生成された有機酸に浸食されないという特性を有している。この場合、アノード側電極部43aは、窒化物半導体層42側(コンタクト層42e側)から電極2側にかけて、酸化物導電膜であるITOと、水素よりもイオン化傾向の低い金属であるパラジウムと、水素よりもイオン化傾向の低い金属である金と、を順次積層して構成されるとよい。また、カソード側電極43bは、窒化物半導体層42側(nクラッド層42b側)から電極2側にかけて、チタン、アルミニウム、チタン、金を順次積層して構成されるとよい。電極部43における各層の厚さや層数については、ここでは特に限定するものではなく、適宜調整可能である。
【0030】
また、図6に示すように、パッケージ3が、平板状に形成されていてもよい。この場合、封止樹脂5は半導体発光素子4全体を覆うように形成されていればよく、鋳型等で半球などの所望の形状に成型されていてもよい。図6では、封止樹脂5の流出を防止するためのダム材7がパッケージ3に形成されている場合を示しているが、このダム材7は、封止樹脂5の成型後に除去されてもよい。
【0031】
(実施の形態の作用及び効果)
作用及び効果の説明に先立ち、まず、従来の半導体発光素子において、電極部に腐食が発生するメカニズムについて詳細に説明しておく。
【0032】
波長355nm以下の紫外光を発光する半導体発光素子を樹脂封止した場合、半導体発光素子の電極部の腐食が発生し、特に、高温高湿の雰囲気においては、この電極部の劣化が一層顕著となる。本発明者がこの電極劣化の原因について検討を進めたところ、カルボン酸等の有機酸が発生し、その有機酸によって、電極部が腐食されていることが分かった。さらに、有機酸の発生原因について検討を進めた結果、半導体発光素子が発する紫外光の影響を受けて封止樹脂が分解され、さらに水分と紫外光の影響で酸化が進んだ結果、側鎖の分解生成物から有機酸が発生することを突き止めた。また、この樹脂の分解は、主にSiとCの結合部分で発生することもわかった。
【0033】
封止樹脂中のSiとCの結合エネルギーは80.5kcal/molであり、光の波長では355nmに相当する。そのため、355nmより短波長の紫外光を照射すると不純物などを介した光吸収が発生し、SiとCの結合が切断される可能性がある。封止樹脂としてシリコーン樹脂を用いる場合、シリコーン樹脂では主に側鎖の結合がSiとCの結合からなるため、側鎖から結合が切れたアルキル基、官能基等が紫外光のエネルギーを得て、分解生成物の一部から有機酸が発生する。その結果、有機酸の影響により電極部の腐食が発生する。高温高湿の条件においては、この有機酸の発生が促進されるため、電極の腐食もより促進されたと考えられる。
【0034】
封止樹脂としてフッ素樹脂を用いる場合、フッ素樹脂の密着力が弱いため、これを補うために、シランカップリング剤等の表面改質剤を用い、かつ、フッ素樹脂の側鎖に-COOH等の官能基を形成することが要求される。この場合、シランカップリング剤によって形成されたSiと樹脂の側鎖との間で、Si-C結合が形成されることになる。前述のように、この結合は355nm以下の波長の光の影響を受けて、切断される可能性がある。さらに、フッ素樹脂に形成された側鎖の結合はC-C結合等であり、350nm程度の紫外光によって容易に切断される。そのため、封止樹脂としてフッ素樹脂を用いた場合にも、シリコーン樹脂を用いた場合と同様に、分解生成物の一部から有機酸が発生して電極部が腐食されてしまう。なお、封止樹脂としてフッ素樹脂を用い、密着性の改善を行わないことも考えられるが、この場合、パッケージ、半導体発光素子、電極等と封止樹脂との密着性が不十分となり、封止樹脂の剥がれが発生してしまい、十分な封止効果が得られなくなる。
【0035】
このような半導体発光素子の電極部の腐食は、波長355nm以下の紫外光を発光する半導体発光素子を用いた場合に特有の問題である。発光のピーク波長が355nm以上の紫外LEDや青色LED、白色LEDを半導体発光素子として用いた場合には、発光光による封止樹脂の分解速度が著しく遅いため、電極部の腐食は顕著な問題とはならない。
【0036】
そこで、本実施の形態では、たとえ有機酸が発生した場合であっても、腐食しにくい電極部4を用いるようにした。すなわち、本実施の形態に係る半導体発光素子4は、波長355nm以下の紫外光を発光するものであり、その電極部43が、有機酸に対して不動態を形成する金属、水素よりもイオン化傾向の低い金属、または酸化物導電膜のいずれか1つ以上を積層して構成され、有機酸に対して不動態を形成せず、かつ、水素よりもイオン化傾向が高く、かつ、酸化物導電膜でない材料からなる層を含まない。
【0037】
これにより、半導体発光素子4を封止樹脂5で封止した場合であっても、紫外光により封止樹脂5の側鎖から分解、生成された有機酸によって電極部43が腐食されることを抑制し、変色や導通不良等の不具合が発生してしまうことを抑制可能になる。つまり、樹脂封止した際に電極部43に腐食が発生しにくい半導体発光素子4を実現でき、信頼性と寿命とを向上することが可能になる。
【0038】
なお、従来、特に高温高湿の雰囲気において、側鎖の分解生成物からの有機酸の発生が促進され、電極部の劣化が特に顕著となっていた。これは、高温高湿の雰囲気下での半導体発光素子4を発光させると、封止樹脂5の分解生成物と水分とが光エネルギーにより有機酸等に変化しやすくなるためだと考えられる。本実施の形態に係る半導体発光素子4は、このような高温高湿の雰囲気下で使用される場合であっても、電極部43に腐食が発生しにくく、高い信頼性が得られる。
【0039】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0040】
[1]波長355nm以下の紫外光を発光する半導体発光素子(4)であって、実装先の電極(2)に電気的に接続される電極部(43)を有し、前記電極部(43)は、有機酸に対して不動態を形成する金属、水素よりもイオン化傾向の低い金属、または酸化物導電膜のいずれか1つ以上を積層して構成され、有機酸に対して不動態を形成せず、かつ、水素よりもイオン化傾向が高く、かつ、酸化物導電膜でない材料からなる層を含まない、半導体発光素子(4)。
【0041】
[2]電極(2)が設けられたパッケージ(3)と、前記電極(2)に電気的に接続される電極部(43)を有し、波長355nm以下の紫外光を発光する半導体発光素子(4)と、前記半導体発光素子(4)を封止し、前記電極部(43)に接触している封止樹脂(5)と、を備え、前記封止樹脂(5)は、側鎖にアルキル基あるいは炭素を含む官能基を有しており、前記電極部(43)は、有機酸に対して不動態を形成する金属、水素よりもイオン化傾向の低い金属、または酸化物導電膜のいずれか1つ以上を積層して構成され、有機酸に対して不動態を形成せず、かつ、水素よりもイオン化傾向が高く、かつ、酸化物導電膜でない材料からなる層を含まない、発光装置(1)。
【0042】
[3]前記電極部(43)は、有機酸に対して不動態を形成する金属であるチタンからなる層を含む、[2]に記載の発光装置(1)。
【0043】
[4]前記半導体発光素子(4)が発光ダイオードであり、前記電極部(43)は、アノード側電極部(43a)と、カソード側電極部(43b)と、からなり、前記アノード側電極部(43a)は、酸化物導電膜であるITOと、有機酸に対して不動態を形成する金属であるチタンと、水素よりもイオン化傾向の低い金属である金と、を順次積層して構成されている、[3]に記載の発光装置(1)。
【0044】
[5]前記電極部(43)は、水素よりもイオン化傾向の低い金属であるパラジウムからなる層を含む、[2]に記載の発光装置(1)。
【0045】
[6]前記半導体発光素子(4)が発光ダイオードであり、前記電極部(43)は、アノード側電極部(43a)と、カソード側電極部(43b)と、からなり、前記アノード側電極部(43a)は、酸化物導電膜であるITOと、水素よりもイオン化傾向の低い金属であるパラジウムと、水素よりもイオン化傾向の低い金属である金と、を順次積層して構成されている、[5]に記載の発光装置(1)。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0047】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では半導体発光素子4をフリップチップ実装する場合を説明したが、図7に示す発光装置1aのように、電極部43をワイヤ8により電極2に接続するワイヤボンディングにより、半導体発光素子4を実装してもよい。図3の例では、透明基板41であるサファイア基板を除去し、窒化物半導体層42の上面(バッファ層42a上)にカソード側電極部43bを形成しており、このカソード側電極部43bと、パッケージ3のカソード側電極2b上に設けられた導電性のポスト2cとを、金などからなるワイヤ8により電気的に接続した場合を示している。
【符号の説明】
【0048】
1…発光装置
2…電極
3…パッケージ
4…半導体発光素子
43…電極部
43a…アノード側電極部
43b…カソード側電極部
5…封止樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7