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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】半導体光素子及び光送信モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/042 20060101AFI20220727BHJP
【FI】
H01S5/042 614
H01S5/042 612
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018119555
(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公開番号】P2020004754
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 秀明
(72)【発明者】
【氏名】中村 厚
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊也
(72)【発明者】
【氏名】中井 義博
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-277492(JP,A)
【文献】特開2012-019053(JP,A)
【文献】特開平05-029708(JP,A)
【文献】特開2012-059890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一導電型を有する基板と、
前記基板上に設けられる活性層、該活性層上に設けられて前記第一導電型とは異なる第二導電型を有するクラッド層、及び前記クラッド層上に設けられる第二導電型を有するコンタクト層を含むメサ構造と、
前記基板上に設けられ、かつ、前記メサ構造の上部が露出するように前記メサ構造を埋め込む埋め込み層と、
前記メサ構造の前記上部上と前記埋め込み層上に設けられる電極層、
を有し、前記電極層は、前記メサ構造の前記上部に接触する接着層、導電層、及び前記接着層及び前記導電層の間にあるバリア層を含み、
前記接着層は、前記メサ構造の前記上部との接着強度において、前記電極層の他のどの層よりも強く、
前記接着層、前記導電層、及び前記バリア層が、前記コンタクト層上でオーミック電極を構成し、
前記電極層は、前記接着層及び前記バリア層のうちの一の層と、前記接着層及び前記バリア層の他の層を含み、
前記メサ構造上及び前記埋め込み層上に設けられた前記電極層の、前記一の層及び前記他の層の少なくとも一方は、前記メサ構造の前記上部にある部分と前記埋め込み層にある部分に分離されている、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体光素子であって、
前記他の層の厚さが、前記メサ構造の前記上部が前記埋め込み層から露出している部分の厚さより厚く、
前記他の層は前記コンタクト層上から前記埋め込み層上において、連続的に繋がっており、
前記一の層は、前記メサ構造の前記上部の側壁で分離する、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体光素子であって、
前記一の層の厚さが、前記メサ構造の前記上部が前記埋め込み層から露出している部分の厚さより厚く、
前記一の層は前記コンタクト層上から前記埋め込み層上において、連続的に繋がっており、
前記他の層は、前記メサ構造の前記上部の側壁で分離する、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体光素子であって、
前記メサ構造の内、前記埋め込み層から露出している領域は、前記コンタクト層の一部である、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体光素子であって、
前記一の層と前記他の層の厚さの合計は、前記メサ構造の前記上部が前記埋め込み層から露出している厚さより薄い、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の半導体光素子であって、
前記一の層と前記他の層の厚さの合計は、前記メサ構造の前記上部が前記埋め込み層から露出している厚さより厚い、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の半導体光素子であって、
前記メサ構造の内、前記埋め込み層から露出している領域は、前記コンタクト層の全部である、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の半導体光素子であって、
前記接着層はTiであり、
前記バリア層はPtである、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の半導体光素子を備える光送信モジュール。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の半導体光素子を備える光送受信モジュール。
【請求項11】
第一導電型を有する基板と、
前記基板上に設けられる活性層、該活性層上に設けられて前記第一導電型とは異なる第二導電型を有するクラッド層、及び前記クラッド層上に設けられる第二導電型を有するコンタクト層を含むメサ構造と、
前記基板上に設けられ、かつ、前記メサ構造を埋め込む埋め込み層と、
前記コンタクト層上と前記埋め込み層上に設けられる少なくとも2つの層を含む電極層、
を有し、
前記メサ構造の上部は前記埋め込み層から露出し、
前記メサ構造上と前記埋め込み層上に堆積される前記電極層のうちの一の層及び/又は該一の層上に堆積される他の層は、前記メサ構造の前記上部の側壁で分離し、
前記一の層の厚さが、前記メサ構造の前記上部が前記埋め込み層から露出している部分の厚さより厚く、
前記一の層は前記コンタクト層上から前記埋め込み層上において、連続的に繋がっており、
前記他の層は、前記メサ構造の前記上部の側壁で分離する、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項12】
第一導電型を有する基板と、
前記基板上に設けられる活性層、該活性層上に設けられて前記第一導電型とは異なる第二導電型を有するクラッド層、及び前記クラッド層上に設けられる第二導電型を有するコンタクト層を含むメサ構造と、
前記基板上に設けられ、かつ、前記メサ構造を埋め込む埋め込み層と、
前記コンタクト層上と前記埋め込み層上に設けられる少なくとも2つの層を含む電極層、
を有し、
前記メサ構造の上部は前記埋め込み層から露出し、
前記メサ構造上と前記埋め込み層上に堆積される前記電極層のうちの一の層及び/又は該一の層上に堆積される他の層は、前記メサ構造の前記上部の側壁で分離し、
前記電極層のうちの一の層はTiであり、
前記電極層のうちの他の層はPtである、
ことを特徴とする半導体光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光素子及びその製造方法並びに光送信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体光素子の一つである半導体レーザは、光通信、情報処理、光源など、様々な用途で利用されており、低コスト、低消費電力、小型、高光出力、高信頼性が求められている。一般的に、半導体光素子は、pn接合を構成する半導体結晶と、電極を構成する金属を有する。
【0003】
半導体光素子のなかでも埋め込みヘテロ構造(BH:Buried-Heterostructure)は、pn接合を構成する半導体結晶をメサ構造にし、該メサ構造の側部を半絶縁性半導体の埋め込み層で埋め込んでいる。そのため電極はメサ構造の上面(コンタクト層の上部の露出した面)と埋め込み層の上面にわたって配置される。
【0004】
半導体光素子の電極を構成する金属は、電子ビーム蒸着等の高温プロセスによって半導体結晶層上に成膜されることが一般的である。成膜された金属が高温から室温へ降温すると、半導体と金属の熱膨張係数の差によって半導体結晶に応力が発生する。このような応力は半導体光素子の性能に悪影響を及ぼすことが知られている。そのため、これまでこのような応力を緩和するための様々な提案がなされてきた。
【0005】
特許文献1では、二重チャネル平面埋め込みヘテロ構造(DC-PBH:Double-Channel Planar Buried Heterostructure)型半導体レーザにおいて、電極を構成するPtによる半導体結晶に生じる応力と信頼性の関係が報告されている。例えば特許文献1では、TiPtAuオーミック電極を、メサ構造の両外部近傍でメサ部に沿って切断することが提案されている。
【0006】
特許文献2では、リッジ型半導体レーザにおける、金属による半導体結晶の応力とレーザ活性層又は光吸収層の特性ばらつきの関係が報告されている。例えば特許文献2では、メサ構造上の電極に応力低減用スリットを加えることが提案されている。
【0007】
特許文献3では、リッジ型半導体レーザにおいて電極によるリッジ直下の活性層の応力を緩和することが提案されている。例えば特許文献3では、リッジ上部のコンタクト層の側壁部分とコンタクト直下の半導体リッジ構造の側壁部分に空洞を設ける構造が提案されている。
【0008】
特許文献4では、窒化物半導体レーザのリッジ型構造において、電極による窒化物半導体層、およびリッジの応力と信頼性の関係が報告されている。例えば特許文献4では、リッジ基底部において、半導体層上の保護膜と、保護膜上の電極の間に空隙を設ける構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭64-28884号公報
【文献】特開2012-256712号公報
【文献】特開2012-94564号公報
【文献】特開2012-59890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したBH構造では、メサ構造の上面と埋め込み層の上面は概ね同一面となることが一般的であるが、BH構造の製造プロセスの中には、埋め込み層からメサ構造の上部を突出させるプロセスがある。そのようにメサ構造の一部が埋め込み層から突出する半導体光素子では、突出したメサ構造の一部の側面にも電極が形成される。そのためメサ構造は上面に加えて側面からも電極の応力を感じることになる。結果として、上部が突出したメサ構造は、上部が突出していないメサ構造よりも電極からより大きな影響を受ける。そのためメサ構造の上部が突出したBH構造型半導体レーザにおいては、応力緩和は特に重要であることを我々は見出した。
【0011】
しかし特許文献1で開示されている応力緩和は、コンタクト層が埋め込み層から露出していないBH構造の応力を緩和している。また特許文献2乃至4で開示されている応力緩和は、リッジ型半導体レーザの応力緩和であってBH構造型半導体レーザの応力緩和ではない。そのため特許文献1乃至4に開示された応力緩和では、BH構造型半導体レーザの応力緩和を十分に実現し得ない恐れがある。
【0012】
上記の理解に基づき本願発明者等は、特許文献1乃至4に開示された応力緩和について検討した。その結果本願発明者等は、特許文献1乃至4に開示された応力緩和では、コンタクト層が埋め込み層から一部又は全部が露出しているBH構造半導体レーザのSMSR(Side Mode Suppression Ratio)特性に及ぼす悪影響が十分に緩和されないことを発見した。
【0013】
よって本願発明は、メサ構造上部が埋め込み層から突出するBH構造型半導体レーザにおいて、埋め込み層から突出するメサ構造上部の側面が電極層から受ける応力を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本願の半導体光素子は、第一導電型を有する基板と、前記基板上に設けられる活性層、該活性層上に設けられて前記第一導電型とは異なる第二導電型を有するクラッド層、及び前記クラッド層上に設けられる第二導電型を有するコンタクト層を含むメサ構造と、前記基板上に設けられ、かつ、前記メサ構造を埋め込む埋め込み層と、前記コンタクト層上と前記埋め込み層上に設けられる少なくとも2つの層を含む電極層、を有する。当該半導体光素子では、前記メサ構造の上部は前記埋め込み層から露出し、前記メサ構造上と前記埋め込み層上に堆積される前記電極層のうちの一の層及び/又は該一の層上に堆積される他の層は、前記メサ構造の上部の側壁で分離する。
【0015】
(2)(1)の半導体光素子において、前記他の層の厚さが、前記メサ構造の上部が前記埋め込み層から露出している部分の厚さより厚く、前記他の層は前記コンタクト層上から前記埋め込み層上において、連続的に繋がっており、前記一の層は、前記メサ構造の上部の側壁で分離する。
【0016】
(3)(1)の半導体光素子において、前記一の層の厚さが、前記メサ構造の上部が前記埋め込み層から露出している部分の厚さより厚く、前記一の層は前記コンタクト層上から前記埋め込み層上において、連続的に繋がっており、前記他の層は、前記メサ構造の上部の側壁で分離する。
【0017】
(4)(1)の半導体光素子において、前記メサ構造の内、前記埋め込み層から露出している領域は、前記コンタクト層の一部である。
【0018】
(5)(1)の半導体光素子において、前記一の層と前記他の層の厚さの合計は、前記メサ構造の上部が前記埋め込み層から露出している厚さより薄い。
【0019】
(6)(1)乃至(4)のいずれかの半導体光素子において、前記一の層と前記他の層の厚さの合計は、前記メサ構造の上部が前記埋め込み層から露出している厚さより厚い。
【0020】
(7)(1)乃至(3)のいずれかの半導体光素子において、前記メサ構造の内、前記埋め込み層から露出している領域は、前記コンタクト層の全部である。
【0021】
(8)(1)乃至(7)のいずれかの半導体光素子において、前記電極層のうちの一の層はTiであり、前記電極層のうちの他の層はPtである。
【0022】
(9)本願の光送信モジュールは、(1)乃至(8)のいずれかの半導体光素子を備える。
【0023】
(10)本願の光送受信モジュールは、(1)乃至(8)のいずれかの半導体光素子を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、メサ構造上部が埋め込み層から突出するBH構造型半導体レーザにおいて、埋め込み層から突出するメサ構造上部の側面が電極層から受ける応力を低減させる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態による光送信モジュールを備える光送受信モジュールを示す。
図2】本発明の実施形態による半導体光素子を搭載した光送信モジュールを示す。
図3】本発明の実施形態による半導体光素子の上面図を示す。
図4】本発明の実施形態による半導体光素子の断面図を示している。
図5】本発明の実施形態による半導体光素子のメサ構造の拡大断面図を示している。
図6】本発明の実施形態による半導体光素子のメサ構造の拡大断面図を示している。
図7】本発明の実施形態による半導体光素子のメサ構造の拡大断面図を示している。
図8】本発明の実施形態による半導体光素子のメサ構造の拡大断面図を示している。
図9】本発明の実施形態による半導体光素子のメサ構造の拡大断面図を示している。
図10】本発明の実施形態による半導体光素子の製造方法を表している。
図11】本発明の実施形態による半導体光素子の製造方法を表している。
図12】本発明の実施形態による半導体光素子の製造方法を表している。
図13】本発明の実施形態による半導体光素子の製造方法を表している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本願実施形態による光送信モジュールを備える光送受信モジュールを示す。光送受信モジュール100は、筺体101と、筺体101中に設けられる、エッジ・コネクタ102を備えるプリント基板103と、光送信モジュール106(TOSA:Transmitter Optical Sub Assembly)と、光受信モジュール107(ROSA:Receiver Optical Sub Assembly)と、筺体101に取り付けられる光ファイバコネクタ108a,108bを有する。プリント基板103は該プリント基板103上に集積回路104を有する。
【0027】
プリント基板103は、光送信モジュール106及び光受信モジュール107とはフレキシブル基板105によってそれぞれ接続される。光ファイバコネクタ108a,108bは、光送信モジュール106及び光受信モジュール107にそれぞれ光学的に位置合わせされている。
【0028】
集積回路104は信号再生機能や増幅機能を有する。光送信モジュール106は電気信号を光信号に変換する機能を有する。光受信モジュール107は光信号を電気信号に変換する機能を有する。
【0029】
エッジ・コネクタ102は、光受信モジュール107からの電気信号をホスト装置(不図示)へ出力し、かつ、ホスト装置(不図示)からの電気信号を光送信モジュール106へ出力する。光ファイバコネクタ108a,108bは光送受信モジュール100の入出力手段として機能する。すなわち、入力光は、光ファイバコネクタ108bに接続される光ファイバ(不図示)を介して光受信モジュール107へ入力され、かつ、出力光は、光ファイバコネクタ108aに接続される光ファイバ(不図示)を介して光送信モジュール106から出力される。
【0030】
図2は本願実施形態による光送信モジュールを示す。光送信モジュール106は、チップキャリア109と、該チップキャリア109上に搭載された半導体光素子110と、凸レンズ111を有する。
【0031】
半導体光素子110は光を放出する。凸レンズ111は半導体光素子110から放出された光を平行光又は集束光に変換する。
【0032】
図3は本願実施形態による半導体光素子の上面図を示す。図示されている半導体光素子110は電界吸収型光変調器集積分布帰還型レーザ(EA-DFB:Electro-Absorption modulator - Distributed Feedback laser)である。半導体光素子110は、レーザ部112と、導波路部113と、変調器部114と、メサ構造(メサストライプ)115を有する。
【0033】
レーザ部112の上部には電極116が設けられている。電極116は少なくとも2層の金属層を含んでよい。レーザ部112はDFBレーザ素子であることが好ましいが、他の形式のレーザ素子であってもよい。変調器部114の上部には電極116と電極パッド117が設けられている。変調器部114はEA光変調器であることが好ましいが、他の形式の光変調器であってもよい。
【0034】
図4は、本発明の実施形態による半導体光素子110の線A-A’に沿った断面図を示している。図示された半導体光素子110は半絶縁性半導体で埋め込まれたBH構造型半導体レーザである。なお図4に示された断面図は図3の断面A-A‘での断面に限定されるものではなく、レーザ部112のどの断面も図4に示された構造を有する。
【0035】
半導体光素子110は、第一導電型を有する基板118と、基板118の表面に設けられるメサ構造115と、メサ構造115を埋め込む埋め込み層122と、埋め込み層122の一部の上に設けられるパッシベーション膜123と、メサ構造115、埋め込み層122、及びパッシベーション膜123を覆うTi層124と、Ti層124上に設けられるPt層125と、Pt層125上に設けられるAu層126と、基板118の裏面に形成される第一導電型を有する電極127を有する。
【0036】
メサ構造115は、活性層119と、活性層119上に設けられて第一導電型とは異なる第二導電型を有するクラッド層120と、クラッド層120上に設けられて第二導電型を有するコンタクト層121を有する。Ti層124と、Pt層125と、Au層126は、第二導電型を有する電極層116を構成する。メサ構造115は、本実施形態では、図4の鉛直方向にストライプ状の共振器構造を有する。本説明では省略したが、メサ構造115にはSCH層、回折格子層等の他の層が含まれていても良い。ただしメサ構造115の最上層はコンタクト層である。また本実施形態では、基板118はn型InP基板、活性層119はInGaAsPを含む多重量子井戸、クラッド層120はp型のInP層、コンタクト層121はp型のInGaAs層とした。さらにメサ構造115共振器構造はλ/4シフト回折格子構造とした。
【0037】
半導体光素子110はInGaAsP系材料で構成されるが他の材料系で構成されてもよい。埋め込み層122は半絶縁性半導体で構成される。ここではFeが添加されたInP層とした。コンタクト層121の上面ではTi層124、Pt層125、及びAu層126からなる電極層116はオーミック電極を構成するため、低抵抗の電気的接続が十分に保たれる。本実施形態では、第一導電型がn型で第二導電型はp型だが、実施形態によっては、第一導電型がp型で第二導電型はn型であってもよい。
【0038】
半導体光素子の通電及び放熱並びに後工程(ワイヤボンディング、はんだ付け)を考慮すると、Auを電極として用いることが好ましい。しかし電極層中のAuはメサ構造中の半導体層中へ拡散することで、半導体光素子の信頼性及び特性を劣化させる恐れがある。そのようなAuの半導体層への拡散を防止するため、Pt電極層がバリア層としてAu電極層の下に設けられる。コンタクト層121とAu層126は直接接触せず、Auの半導体結晶への拡散はPt層125のバリアメタル効果により抑制される。しかしPtの半導体への接着強度は弱いため、接着層及びオーミック電極を形成するため、Ti層124がPt層125と埋め込み層122及びメサ構造115上部との間に設けられる。
【0039】
前述したように、Auは通電及び放熱のためにメサ構造以外の領域に広がっていることが必要である。そのためたとえAu電極層がメサ構造へ及ぼす応力は大きいとしても、Au層が半導体層へ及ぼす応力は不可避である。しかしPt層とTi層は電極本来の機能である通電以外の目的を主として設けられている。そのためPt層とTi層はメサ構造に応力を及ぼさないことが好ましい。
【0040】
上記観点から鋭意検討した結果、本願発明者等は、Pt層とTi層がメサ構造へ及ぼす応力を緩和するため、メサ構造の側面に接するPt電極層及び/又はTi電極層と上面に接するPt電極層及び/又はTi電極層の繋がりを弱くすることに想到した。具体的には本願発明者等は、Pt電極層及び/又はTi電極層がメサ構造上部と側部で分離する半導体光素子を提案した。Pt層及び/又はTi層は、メサ構造の上部のみに形成されることが好ましいが、実際にはメサ構造の側部にもある程度形成される。
【0041】
前述した半導体光素子の電極層は、メサ構造の側部で分離しているためメサ構造の上部であるコンタクト層側部への電極層による応力は緩和され、メサ構造全体の応力緩和が実現され、その結果本願実施形態による半導体光素子のSMSR歩留りを3%改善させることを本願発明者等は発見した。
【0042】
図5は、本願実施形態による半導体光素子のメサ構造の図4のBでの拡大断面図を示している。本実施形態では、コンタクト層121の全部が埋め込み層122から露出している。すなわち本実施形態では、埋め込み層122から露出するメサ構造115の上部はコンタクト層121である。本実施形態では、Ti層124及びPt層125の両者がコンタクト層121の側部において分離されて不連続となっている。また、それぞれのコンタクト層121上部に形成された領域の厚さと、埋め込み層122上部に形成された領域の厚さとは略等しい。なお実施形態によっては、コンタクト層121より下に位置する層(例えばクラッド層120)が埋め込み層122から露出してもよい。本実施形態では、Ti層124の厚さがコンタクト層121の埋め込み層122から露出した部分の厚さ(以下、Hと呼称)より薄く(Ti層<H)、また、Pt層125の厚さも露出した部分の厚さより薄い(Pt厚<H)。さらに、Ti層124とPt層125の厚さの合計は、Hよりも大きい。そのため、Pt層125の上に配置されるAu層126が露出部(半導体層であるコンタクト層121)の側部に接することがなく、Au拡散の懸念はない。なお、本実施形態ではコンタクト層121の埋め込み層122から露出した部分の厚さは200nmで、Ti層124の厚さは100nmで、Pt層125は150nmで、かつ、Au層126は1000nmである。
【0043】
図5に示されたメサ構造においては、Ti層124は、コンタクト層121の側部において分離されて不連続となっている。そのため、連続している場合と比較して、本実施形態による半導体光素子では、メサ構造115へのTi層124が及ぼす応力は緩和される。さらに、Pt層125も同様に不連続となっており、メサ構造115へのPt層125が及ぼす応力は緩和される。
【0044】
[第2実施形態]
図6は、本願実施形態による半導体光素子のメサ構造の拡大断面図を示している。本実施形態では、Pt層125がメサ構造115の側壁で連続していることを除き、第1実施形態と同様である。本実施形態では、Pt層厚は250nmとした。Ti層124はメサ構造115の側壁で分離しているので、Ti層124がコンタクト層121へ及ぼす応力は緩和される。よって本実施形態でも同様の効果が得られる。
【0045】
[第3実施形態]
図7は、本願実施形態による半導体光素子のメサ構造の拡大断面図を示している。本実施形態では、Ti層124がメサ構造115の側壁で連続していることを除き、第1実施形態と同様である。本実施形態では、Ti層厚は250nmとした。Pt層125がメサ構造115の側壁で分離しているので、コンタクト層121へ及ぼされる応力は緩和される。よって本実施形態でも同様の効果が得られる。
【0046】
[第4実施形態]
図8は、本願実施形態による半導体光素子のメサ構造の拡大断面図を示している。本実施形態では、コンタクト層121の一部が埋め込み層122から露出していること、Pt層の厚さが異なる点を除き、第1実施形態と同様である。また本実施形態では、露出している部分の厚さHは150nmであり、Pt層厚は100nmとした。本実施形態においても、コンタクト層121の一部しか露出していないとしても、Ti層124とPt層125がメサ構造115の側壁で分離しているので、コンタクト層121の露出した部分へ及ぼされる応力は緩和される。よって本実施形態でも同様の効果が得られる。逆に、メサ構造のうち、クラッド層120の一部まで露出していたとしても、Ti層124及び/又はPt層125が不連続であれば、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0047】
[第5実施形態]
図9は、本願実施形態による半導体光素子のメサ構造の拡大断面図を示している。本実施形態では、Ti層124とPt層125の厚さが異なることを除いて第1実施形態と同様である。ここではTi層厚は50nm、Pt層厚は100nmとした。なお、コンタクト層121の埋め込み層122から露出した部分の厚さHは200nmである。本実施形態では、Ti層124とPt層125がメサ構造115の側壁で分離しているので、コンタクト層121の露出した部分へ及ぼされる応力は緩和される。ただし、Ti層124とPt層125の合計の厚さはHより薄いために、メサ構造の側壁にはAu層126が接している。Au層126が半導体層(コンタクト層121)に接している場合は、Auが半導体内部に拡散する恐れがあるが、その領域が小さい場合は信頼性などへの影響は小さい。そのため、本構造においても本願発明の効果は得られる。
【0048】
なお、本実施形態1乃至3と実施形態4,5は各々適宜組み合わせても良い。本願発明は、メサ構造の一部が埋め込み層より露出している状態において、Ti層及び/又はPt層が不連続でメサ上部から埋め込み層上部に配置されていることに特徴がある。
【0049】
[本願実施形態による半導体光素子の製造方法]
本願実施形態による半導体光素子の製造方法が図10,11,12,13示されている。最初に図10に示されているように、複数の層を含む発光に適した活性層119が基板118上に堆積され、活性層119上にクラッド層120が堆積され、p型InPクラッド層120上にコンタクト層121が堆積される。基板118はたとえばn型InP基板であってよい。活性層119はたとえば多重量子井戸であってよい。活性層119はまた、レーザの発振状態を制御する回折格子層を有してよい。コンタクト層121はたとえばp型InGaAsであってよい。
【0050】
次にエッチング処理によりメサ構造115が形成され、続いて埋め込み層122を選択的に堆積することによってBH構造が形成される。たとえば埋め込み層122は半絶縁性InPであってよい。メサ構造115の幅は単一モード発振条件を満たすように決定されることが好ましい。メサ構造115の幅はたとえば約2マイクロメートル以下であってよい。埋め込み層122の結晶成長時には、メサ上部にはメサ幅より少し太い幅のマスクが配置されているために、図11に示されているように、埋め込み層122はメサ上部において少し平坦な領域があり、その後結晶面に沿って斜め上に延び、また平坦部が続く形状となる。続いて、埋め込み層122の上面にパッシベーション膜123を成膜した後、メサ構造115の幅より大きな幅でパッシベーション膜123をエッチングし、メサ構造115との電気的接続のための構造が作成される(図11)。
【0051】
その後図12に示されているように、コンタクト層121の側部が埋め込み層122から露出するようにエッチングが行なわれる。コンタクト層121は埋め込み層122から全体又は一部が露出する。
【0052】
次に図13に示されているように、Ti層124、Pt層125、及びAu層126がこの順に堆積される。結果としてp型電極が形成される。最後に基板118の裏面にn型電極127が形成される。
【0053】
以上の構造により、本発明はコンタクト層上面にTi、Pt、及びAuからなるオーミック電極による抵抗値の小さい電気的接続を有し、Ti層124及び/又はPt層125がコンタクト層側部において分離していることで、Ti層124及び/又はPt層125によるコンタクト層側部への応力が緩和される。これにより、メサ構造115に及ぼされる応力が低減される。結果として、応力に起因する屈折率変化及び回折格子ピッチの変化が低減されること等で、SMSR歩留り向上が実現される。
【0054】
本実施形態は、InGaAsP系EA-DFBレーザについて述べたが、BH構造を有するその他材料を用いた半導体レーザ、および半導体レーザ集積素子にも同様の効果が期待できる。さらに、この半導体光素子110を用いた光送信モジュール106、光送受信モジュール100においても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
100 光送受信モジュール、101 筺体、102 エッジ・コネクタ、103 プリント基板、104 集積回路、105 フレキシブル基板、106 光送信モジュール、107 光受信モジュール、108a,b 光ファイバコネクタ、109 チップキャリア、110 半導体光素子、111 凸レンズ、112 レーザ部、113 導波路部、114 変調器部、115 メサ構造、116 電極、117 電極パッド、118 基板、119 活性層、120 クラッド層、121 コンタクト層、122 埋め込み層、123 パッシベーション膜、124 Ti層、125 Pt層、126 Au層、127 電極。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13