(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】温度制御装置、温度制御方法、ガスセンサ、ガスセンサの製造方法、ガスセンサの温度制御システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20220727BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20220727BHJP
G01N 27/41 20060101ALI20220727BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
G01N27/41 325Q
G01N27/419 327Q
(21)【出願番号】P 2018121613
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】古田 斉
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-200574(JP,A)
【文献】特開昭57-192849(JP,A)
【文献】特開平11-108885(JP,A)
【文献】特開2007-212405(JP,A)
【文献】特開2017-161325(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0151338(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/409
G01N 27/41
G01N 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質体と前記固体電解質体に配置される一対の電極とを備える検出素子部と前記検出素子部を加熱するヒータとを少なくとも有するガスセンサの温度を制御する温度制御装置であって、
前記ガスセンサは、前記検出素子部固有の情報であって、前記検出素子部の温度変化に対する前記一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報である固有特性情報を記録した記録部を有し、
前記固有特性情報に基づいて設定された前記検出素子部の温度と内部抵抗値との関係式を記憶する関係式記憶部と、
前記一対の電極間の内部抵抗値を検出する内部抵抗検出部と、
前記関係式と
所望の目標温度とに基づいて算出される目標抵抗値と、前記内部抵抗検出部にて検出された内部抵抗値
と、に基づいて前記ヒータへの通電を制御する通電制御部と、
を有する温度制御装置。
【請求項2】
前記記録部に記録された前記固有特性情報を読み取る読取装置と、
前記読取装置で読み取った前記固有特性情報に基づいて目標抵抗値を求める特定部と、
を有する請求項1に記載の温度制御装置。
【請求項3】
外部から入力された前記記録部に記録された前記固有特性情報、又は前記固有特性情報に基づく前記検出素子部の温度と内部抵抗値との関係を特定する情報を記憶する情報記憶部と、
前記情報記憶部に記憶された情報を基に目標抵抗値を求める特定部と、
を有する請求項1に記載の温度制御装置。
【請求項4】
前記関係式は、前記検出素子部の内部抵抗値をRpvsとし、前記検出素子部の温度をTとし、定数a及び定数bを含む以下の式
Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b
で表される数式であり、
前記固有特性情報は、少なくとも前記定数a及び前記定数bを特定可能な情報である
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の温度制御装置。
【請求項5】
前記固有特性情報は、
前記検出素子部が第1温度のときの前記検出素子部の内部抵抗値を前記第1温度と対応付けた情報である第1対応情報と、
前記検出素子部が前記第1温度とは異なる第2温度のときの前記検出素子部の内部抵抗値を前記第2温度と対応付けた情報である第2対応情報と、
を含む
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の温度制御装置。
【請求項6】
固体電解質体と前記固体電解質体に配置される一対の電極とを備える検出素子部と、前記検出素子部を加熱するヒータと、を少なくとも有するガスセンサの温度を制御する温度制御方法であって、
前記ガスセンサは、前記検出素子部固有の情報であって前記検出素子部の温度変化に対する前記一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報である固有特性情報を記録した記録部を有し、
前記記録部に記録された前記固有特性情報を読取装置によって読み取る読取工程と、
前記読取工程によって読み取られた前記固有特性情報に基づいて前記検出素子部の温度と内部抵抗値との関係式を設定する関係式設定工程と、
前記検出素子部の内部抵抗値を内部抵抗検出部によって検出しつつ、前記関係式と
所望の目標温度とに基づいて算出される目標抵抗値と、前記内部抵抗検出部によって検出される内部抵抗値
と、に基づいて通電制御部によって前記ヒータへの通電を制御する制御工程と、
を含む
温度制御方法。
【請求項7】
固体電解質体と、前記固体電解質体に配置される一対の電極と、を備える検出素子部と、
前記検出素子部を加熱するヒータと、
を少なくとも有
し、
温度制御装置によって温度が制御されるガスセンサであって、
前記検出素子部に固有の情報であって、前記検出素子部の温度変化に対する前記一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報である固有特性情報を記録した記録部を有し、
前記温度制御装置は、
(1)前記固有特性情報に基づいて設定された前記検出素子部の温度と内部抵抗値との関係式を記憶する関係式記憶部と、
(2)前記一対の電極間の内部抵抗値を検出する内部抵抗検出部と、
(3)前記関係式と所望の目標温度とに基づいて算出される目標抵抗値と、前記内部抵抗検出部にて検出された内部抵抗値と、に基づいて前記ヒータへの通電を制御する通電制御部と、
を有する
ガスセンサ。
【請求項8】
請求項7に記載のガスセンサ
を製造する製造方法であって、
前記検出素子部が第1内部抵抗値のときの前記検出素子部の温度である第1温度と、前記検出素子部が前記第1内部抵抗値とは異なる第2内部抵抗値のときの前記検出素子部の温度である第2温度と、を測定する測定工程と、
前記測定工程によって測定された前記第1温度及び前記第2温度に基づき、前記検出素子部の温度変化と内部抵抗値の変化との関係を設定可能な情報であって且つ前記ガスセンサの固有の情報である固有特性情報を、前記ガスセンサと一体的な記録部又は前記ガスセンサとは別体で設けられた記録部に記録する記録工程と、
を含む、
ガスセンサの製造方法。
【請求項9】
前記記録工程では、前記固有特性情報を前記ガスセンサ自身に付される前記記録部に記録する請求項8に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載のガスセンサと、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の温度制御装置と、
を備える
ガスセンサの温度制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度制御装置、温度制御方法、ガスセンサ、ガスセンサの製造方法、ガスセンサの温度制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排気ガス中の特定成分(酸素等)の濃度を検出するためのガスセンサが用いられ、このガスセンサは、自身の内部にガスセンサ素子を有し、ガスセンサ素子は、それぞれ固体電解質体と一対の電極とからなる酸素濃度検出セル及び酸素ポンプセルを積層してなる。この種のガスセンサは、測定時に、測定室内部の排気ガスの酸素濃度に応じて酸素濃度検出セルの電極間に生じる電圧が所定値となるように、測定室内の酸素を酸素ポンプセルによりポンピングして測定室内の酸素濃度が調整され、酸素ポンプセルを流れるポンピング電流に応じた排ガス中の酸素濃度をリニアに検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の技術を用いる場合、固体電解質体の温度によって酸素濃度検出セルの検出出力が変化するため、検出精度を高めるために、酸素濃度検出セルを所定温度に保つ制御が採用される。具体的には、固体電解質体の温度と内部抵抗値Rpvsとの間に相関があるため、この相関を特定する関係式に基づいて、固体電解質体の内部抵抗値Rpvsが所定値になるように制御を行う。
【0005】
しかし、固体電解質体の温度と内部抵抗値Rpvsとの関係は、ガスセンサ毎に個体差があるため、この個体差を考慮せずに上記制御を行うと、検出精度の低下を招いてしまうという問題がある。
【0006】
なお、ガスセンサ毎の個体差を考慮して補正を行おうとする技術として特許文献1のような技術が提案されているが、この特許文献1の技術は、それぞれのガスセンサでばらつく「固体電解質体の温度と内部抵抗値Rpvsとの関係」をガスセンサ毎に正確に特定し得る技術ではない。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、検出素子部の温度と一対の電極間の内部抵抗値との関係をガスセンサ固有の関係として正確に特定し得る技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様である温度制御装置は、
固体電解質体と前記固体電解質体に配置される一対の電極とを備える検出素子部と前記検出素子部を加熱するヒータとを少なくとも有するガスセンサの温度を制御する温度制御装置であって、
前記ガスセンサは、前記検出素子部固有の情報であって、前記検出素子部の温度変化に対する前記一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報である固有特性情報を記録した記録部を有し、
前記固有特性情報に基づいて設定された前記検出素子部の温度と内部抵抗値との関係式を記憶する関係式記憶部と、
前記一対の電極間の内部抵抗値を検出する内部抵抗検出部と、
前記関係式と前記内部抵抗検出部にて検出された内部抵抗値とに基づいて前記ヒータへの通電を制御する通電制御部と、
を有する。
【0009】
第1態様の温度制御装置では、制御対象となるガスセンサの記録部に記録された固有特性情報(検出素子部固有の情報であって、検出素子部の温度変化に対する一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報)に基づいて設定された検出素子部の温度と内部抵抗値との関係式が関係式記憶部に記憶されるため、制御対象となるガスセンサにおいて固有に定まる「検出素子部の温度と内部抵抗値との関係」を関係式記憶部に記憶される関係式によって正確に特定することができるようになる。そして、通電制御部は、この関係式と、内部抵抗検出部にて検出された内部抵抗値(一対の電極間の内部抵抗値)とに基づいてヒータへの通電を制御することができるため、制御対象となるガスセンサにおいて固有に定まる関係(検出素子部の温度と一対の電極間の内部抵抗値との関係)を正確に特定し、内部抵抗検出部によって内部抵抗値を実際に検出した上で、所望の温度が得られるようにヒータの通電を正確に制御することができる。
【0010】
第1態様の温度制御装置は、前記記録部に記録された前記固有特性情報を読み取る読取装置と、前記読取装置で読み取った前記固有特性情報に基づいて目標抵抗値を求める特定部と、を有していてもよい。
この温度制御装置は、記録部に記録された固有特性情報を読取装置によって容易に且つ正確に読み取り、その固有特性情報に基づいて目標抵抗値を定めることができる。つまり、制御対象となるガスセンサにおいて固有に定まる関係(検出素子部の温度と一対の電極間の内部抵抗値との関係)を正確に特定した上で所望の温度が得られるように目標抵抗値を求める動作を、簡易に且つ正確に行うことができる。
【0011】
第1態様の温度制御装置は、外部から入力された記録部に記録された固有特性情報、又は固有特性情報に基づく検出素子部の温度と内部抵抗値との関係を特定する情報を記憶する情報記憶部と、情報記憶部に記憶された情報を基に目標抵抗値を求める特定部と、を有していてもよい。
この温度制御装置は、記録部に記録された固有特性情報、又は固有特性情報に基づく検出素子部の温度と内部抵抗値との関係を特定する情報を情報記憶部に記憶しておくことができ、この情報記憶部に記憶された情報を基に目標抵抗値を定めることができる。つまり、制御対象となるガスセンサにおいて固有に定まる関係(検出素子部の温度と一対の電極間の内部抵抗値との関係)を正確に特定した上で所望の温度が得られるように目標抵抗値を求める動作を、簡易に且つ正確に行うことができる。
【0012】
第1態様の温度制御装置において、関係式は、検出素子部の内部抵抗値をRpvsとし、検出素子部の温度をTとし、定数a及び定数bを含む以下の式
Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b
で表される数式であってもよい。
そして、固有特性情報は、少なくとも定数a及び定数bを特定可能な情報であってもよい。
このようにすれば、制御対象となるガスセンサにおける検出素子部の内部抵抗値Rpvsと温度Tとの関係をLn(Rpvs)=a×(1/T)+bの数式で近似することができ、しかも、定数a、bの値を、そのガスセンサ固有の値として特定することができる。つまり、ガスセンサの温度を制御する場合に、そのガスセンサの内部抵抗値Rpvsと温度Tとの関係をより正確に特定し得る固有の近似式に基づいて通電を制御することができ、所望の温度が得られるようにヒータの通電を正確に制御し得る構成を、より簡易に実現できる。
【0013】
第1態様の温度制御装置において、固有特性情報は、検出素子部が第1温度のときの検出素子部の内部抵抗値を第1温度と対応付けた情報である第1対応情報と、検出素子部が第1温度とは異なる第2温度のときの検出素子部の内部抵抗値を第2温度と対応付けた情報である第2対応情報と、を含んでいてもよい。
このように、固有特性情報が上記第1対応情報と上記第2対応情報とを含んでいれば、固有特性情報に基づいて検出素子部の温度と内部抵抗値との関係式を設定する場合に、この関係式が、ガスセンサ固有の正確性の高い式となる。
【0014】
本発明の第2態様の温度制御方法は、
固体電解質体と前記固体電解質体に配置される一対の電極とを備える検出素子部と、前記検出素子部を加熱するヒータと、を少なくとも有するガスセンサの温度を制御する温度制御方法であって、
前記ガスセンサは、前記検出素子部固有の情報であって前記検出素子部の温度変化に対する前記一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報である固有特性情報を記録した記録部を有し、
前記記録部に記録された前記固有特性情報を読取装置によって読み取る読取工程と、
前記読取工程によって読み取られた前記固有特性情報に基づいて前記検出素子部の温度と内部抵抗値との関係式を設定する関係式設定工程と、
前記検出素子部の内部抵抗値を内部抵抗検出部によって検出しつつ、前記関係式と前記内部抵抗検出部によって検出される内部抵抗値とに基づいて通電制御部によって前記ヒータへの通電を制御する制御工程と、
を含む。
【0015】
第2態様の温度制御方法では、制御対象となるガスセンサの記録部に記録された固有特性情報(検出素子部固有の情報であって、検出素子部の温度変化に対する一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報)を読取装置によって読み取るように読取工程を行い、読み取られた固有特性情報に基づいて検出素子部の温度と内部抵抗値との関係式を設定するように関係式設定工程を行う。このような方法を用いれば、制御対象となるガスセンサにおいて固有に定まる「検出素子部の温度と内部抵抗値との関係」を、上記関係式によって正確に特定することができるようになり、このような関係式を制御に利用することができるようになる。そして、制御工程では、この関係式と、内部抵抗検出部にて検出された内部抵抗値(一対の電極間の内部抵抗値)とに基づいてヒータへの通電を制御することができるため、制御対象となるガスセンサにおいて固有に定まる関係(検出素子部の温度と一対の電極間の内部抵抗値との関係)を正確に特定し、内部抵抗検出部によって内部抵抗値を実際に検出した上で、所望の温度が得られるようにヒータの通電を正確に制御することができる。
【0016】
本発明の第3態様のガスセンサは、
固体電解質体と、前記固体電解質体に配置される一対の電極と、を備える検出素子部と、
前記検出素子部を加熱するヒータと、
を少なくとも有するガスセンサであって、
前記検出素子部に固有の情報であって、前記検出素子部の温度変化に対する前記一対の
電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報である固有特性情報を記録した記録部を有
する。
このガスセンサは、固有特性情報(検出素子部固有の情報であって、検出素子部の温度変化に対する一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報)を記録した記録部を備えているため、このガスセンサの通電を制御する際に、記録部に記録された固有特性情報を利用した制御が可能となる。つまり、このガスセンサにおいて固有に定まる「検出素子部の温度と内部抵抗値との関係」を特定した上で、所望の温度が得られるようにヒータの通電を正確に制御することができるようになる。
【0017】
本発明の第4態様のガスセンサの製造方法は、
固体電解質体と、前記固体電解質体に配置される一対の電極と、を有するセルを1以上備える検出素子部と、前記検出素子部を加熱するヒータと、を少なくとも有するガスセンサの製造方法であって、
前記検出素子部が第1内部抵抗値のときの前記検出素子部の温度である第1温度と、前記検出素子部が前記第1内部抵抗値とは異なる第2内部抵抗値のときの前記検出素子部の温度である第2温度と、を測定する測定工程と、
前記測定工程によって測定された前記第1温度及び前記第2温度に基づき、前記検出素子部の温度変化と内部抵抗値の変化との関係を設定可能な情報であって且つ前記ガスセンサの固有の情報である固有特性情報を、前記ガスセンサと一体的な記録部又は前記ガスセンサとは別体で設けられた記録部に記録する記録工程と、
を含む。
この製造方法は、固有特性情報(検出素子部固有の情報であって、検出素子部の温度変化に対する一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報)を記録した記録部を利用可能な形でガスセンサを製造することができる。従って、このガスセンサに関して、記録部に記録された固有特性情報を利用した制御が可能となる。つまり、このガスセンサにおいて固有に定まる「検出素子部の温度と内部抵抗値との関係」を特定した上で、所望の温度が得られるようにヒータの通電を正確に制御することができるようになる。
【0018】
第4態様のガスセンサの製造方法において、前記記録工程では、前記固有特性情報を前記ガスセンサ自身に付される前記記録部に記録してもよい。
このようにすれば、ガスセンサの固有の特性を示す固有特性情報をそのガスセンサ自身に対応付けて記録しておくことができ、記録工程の後の工程において、固有特性情報の管理及び利用を簡易に且つ容易に行いやすくなる。
【0019】
本発明の第5態様のガスセンサの温度制御システムは、本発明の第3態様のガスセンサと、本発明の第1態様の温度制御装置と、を備える。
このようにすれば、第3態様のガスセンサ及び第1態様の温度制御装置と同様の効果を生じうる温度制御システムを実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、固体電解質体と固体電解質体に配置される一対の電極とを備える検出素子部と、検出素子部を加熱するヒータと、を少なくとも有するガスセンサに関して、検出素子部の温度と一対の電極間の内部抵抗値との関係をガスセンサ固有の関係として正確に特定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態のガスセンサを概略的に例示する断面図である。
【
図2】
図1のガスセンサにおけるガスセンサ素子を概略的に例示する斜視図である。
【
図3】
図1のガスセンサの一部の分解斜視図である。
【
図4】ガスセンサ素子を長手方向に沿って積層方向に切断し、その先端側における内部構造を模式的に示す説明図である。
【
図5】検出素子部の温度と内部抵抗値との関係式を例示するグラフである。
【
図6】ガスセンサ素子の成形体の製造方法に関する説明図である。
【
図7】エージング工程に用いる一部の装置を簡略的に例示する説明図である。
【
図8】ガスセンサを車両に組み付ける前の工程に用いる装置及び組み付け後のシステムを簡略的に例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、以下に示す実施形態では、ガスセンサの一種であるNOxセンサを例に挙げる。具体的には、自動車や各種内燃機関における排気管に装着されるガスセンサであって、測定対象となる排気ガス中の特定ガス(窒素酸化物:NOx)を検出するガスセンサ素子(検出素子)が組み付けられて構成されるNOxセンサを例に挙げて説明する。
【0023】
[第1実施形態]
1-1.ガスセンサの全体構成
まず、ガスセンサ1の全体構成について、
図1に基づいて説明する。
図1で示すガスセンサ1は、NOxセンサとして構成され、排気管に固定するためのネジ部3が外表面に形成された筒状の主体金具5と、軸線O方向(ガスセンサ1の長手方向:
図1の上下方向)に延びる板状形状のガスセンサ素子7と、ガスセンサ素子7の径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ9と、軸線O方向に貫通する貫通孔11の内壁面がガスセンサ素子7の後端部の周囲を取り囲む状態で配置される第1セパレータ13と、ガスセンサ素子7と第1セパレータ13との間に配置される6個(
図1には2個のみ図示)の接続端子15と、を主に備える。
【0024】
ガスセンサ素子7は、長手方向に伸びる直方体形状(板型形状)に形成されており、その先端側に、被測定ガスに含まれる特定ガス(ここではNOx)を検出する検知部17を備える。また、ガスセンサ素子7は、後端側(
図1の上方:長手方向後端部)の外表面のうち表裏の位置関係となる第1主面21および第2主面23に、電極パッド25,26,27,28,29,30(詳細は、
図2、
図3参照)が形成されている。接続端子15は、ガスセンサ素子7の電極パッド25,26,27,28,29,30にそれぞれ電気的に接続されるとともに、外部からガスセンサ1の内部に配設されるリード線35にも電気的に接続されている。これにより、リード線35が接続される外部機器と電極パッド25,26,27,28,29,30との間に流れる電流の電流経路が形成される。
【0025】
主体金具5は、軸線O方向に貫通する貫通孔37を有し、貫通孔37の径方向内側に突出する棚部39を有する略筒状形状に構成されている。この主体金具5は、検知部17を貫通孔37の先端よりも先端側に配置し、電極パッド25,26,27,28,29,30を貫通孔37の後端よりも後端側に配置する状態で、貫通孔37に挿通されたガスセンサ素子7を保持するよう構成されている。
【0026】
主体金具5の貫通孔37の内部には、ガスセンサ素子7の径方向周囲を取り囲む状態で、環状形状のセラミックホルダ41、滑石リング43,45、及び上述のセラミックスリーブ9が、この順に先端側から後端側にかけて積層されている。セラミックスリーブ9と主体金具5の後端部47との間には、加締パッキン49が配置され、セラミックホルダ41と主体金具5の棚部39との間には、滑石リング43,45やセラミックホルダ41を保持するための金属ホルダ51が配置されている。主体金具5の後端部47は、加締パッキン49を介して、セラミックスリーブ9を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0027】
主体金具5の先端部53の外周には、ガスセンサ素子7の突出部分を覆う金属製(例えば、ステンレスなど)の二重構造とされたプロテクタ55が溶接等によって取り付けられている。主体金具5の後端側外周には、外筒57が固定されており、外筒57の後端側の開口部には、グロメット59が配置されている。グロメット59には、各電極パッド25,26,27,28,29,30とそれぞれ電気的に接続される6本のリード線35(
図1では2本が図示)が挿通されるリード線挿通孔61が形成されている。
【0028】
第1セパレータ13の外周には、鍔部63が形成されており、鍔部63は、保持部材65を介して外筒57に固定されている。第1セパレータ13の後端側には、第1セパレータ13とグロメット59に挟持される第2セパレータ67が配置されており、接続端子15の後端側が第2セパレータ67内に挿入されている。
【0029】
1-2.ガスセンサ素子の構成
次に、ガスセンサ素子7について、
図2~
図4に基づいて説明する。
図3、
図4において、図面左方向がガスセンサ素子7の先端側であり、図面右方向がガスセンサ素子7の後端側である。
図2では、図面下方がガスセンサ素子7の先端側であり、図面上方がガスセンサ素子7の後端側である。
図4では、ガスセンサ素子7の長手方向における中間位置の図示を省略するとともに、ガスセンサ素子7と外部機器(制御部180A)との電気的な接続状態を模式的に表している。
【0030】
図2のように、ガスセンサ素子7は、長手方向(Y軸方向)に延びる長尺の板材である。
図2において、長手方向がガスセンサの軸線O方向に沿う形態となる。また
図2のZ軸方向は、長手方向に垂直な積層方向であり、X軸方向は、長手方向及び積層方向に垂直な幅方向である。ガスセンサ素子7は、長手方向に伸びる直方体形状(板型形状)に形成されており、長手方向に伸びる板状の検出素子部71と、長手方向に延びる板状のヒータ73とが、積層されて構成されている。
【0031】
検出素子部71は、第1絶縁層81、第1セラミック層83、第2絶縁層85、第2セラミック層87、第3絶縁層89、第3セラミック層91を、この順に積層した構造を有する。また、ヒータ73は、第4絶縁層93、第5絶縁層95をこの順に積層した構造を有する。第1~第3セラミック層83,87,91は、ガスセンサ素子7の長手方向に延びる板状である。第1セラミック層83と第2セラミック層87との間には、第1測定室97が形成されている。第1測定室97の先端側領域は、2つの拡散抵抗体99(
図3参照)を介して外部に繋がっており、拡散抵抗体99を介して外部から外気である被測定ガス(排気ガス)がガスセンサ素子7の内部に導入される。第1測定室97は、その後端側領域において、第2セラミック層87に形成される後述する導入路101を介して、第3絶縁層89に形成される第2測定室103に繋がっている。なお、拡散抵抗体99は、アルミナ等の多孔質物質を用いて形成され、気体の流通が可能になっている。
【0032】
第4、第5絶縁層93,95の間には、タングステン等の導体によって形成された発熱抵抗体105がヒータ73の一部として備えられている。ヒータ73は、外部から供給された電力によって発熱抵抗体105が発熱することで、ガスセンサ素子7(特に、検出素子部71)を所定の活性温度に昇温し、固体電解質体の酸素イオンの伝導性を高めて動作を安定化させるために用いられる。
【0033】
図3、
図4に示すように、第1セラミック層83は、長手方向に延びる板状の第1絶縁性セラミック部111と、長手方向先端側に設けられ、第1絶縁性セラミック部111を厚み方向に貫通する第1挿通孔113と、第1挿通孔113を埋めるように配置された板状の第1固体電解質部115とを備える。第2セラミック層87は、長手方向に延びる板状の第2絶縁性セラミック部117と、長手方向先端側に設けられ、第2絶縁性セラミック部117を厚み方向に貫通する第2挿通孔119と、第2挿通孔119を埋めるように配置された板状の第2固体電解質部121とを備える。第3セラミック層91は、長手方向に延びる板状の第3絶縁性セラミック部123と、長手方向先端側に設けられ、第3絶縁性セラミック部123を厚み方向に貫通する第3挿通孔125と、第3挿通孔125を埋めるように配置された第3固体電解質部127とを備える。
【0034】
図3及び
図4に示すように、検出素子部71は、第1ポンプセル75と、酸素濃度検知セル77と、第2ポンプセル79とを有する。
【0035】
第1ポンプセル75は、第1セラミック層83の第1固体電解質部115と、これを挟持するように配置された一対の電極(第1内側電極137、第1対電極139)とを備える。第1内側電極137は、第1測定室97に面している。第1内側電極137及び第1対電極139は、いずれも白金を主成分にして形成されている。第1対電極139は、第1絶縁層81のうちの第1対電極139と対向する部分(開口部141)に埋め込まれた多孔質部143(例えば、アルミナ)により覆われている。多孔質部143は、ガス(例えば、酸素)が通過可能に構成されている。
【0036】
酸素濃度検知セル77は、第2セラミック層87の第2固体電解質部121と、これを挟持するように配置された検知電極145及び基準電極147とを備える。第2固体電解質部121は、「固体電解質体」の一例に相当し、検知電極145及び基準電極147は、「一対の電極」の一例に相当する。第3絶縁層89のうち、基準電極147に接する部分には、第3絶縁層89の厚さ方向に貫通する空間部分としての基準酸素室149が形成されている。基準酸素室149は、その内部の第3固体電解質部127に面する領域に、多孔質部151(
図4参照)が配置され、その他の領域が空洞として形成されている。第3絶縁層89のうち、基準酸素室149より後端側には、第3絶縁層89の厚さ方向に貫通する空間部分としての第2測定室103が形成されている。この酸素濃度検知セル77については、予め定められた微弱な一定値の電流を流すことにより、酸素が酸素濃度検知セル77を介して第1測定室97から基準酸素室149に送り込まれる。そして、基準酸素室149の酸素濃度は、所定の濃度に維持される。これにより、基準酸素室149は、酸素濃度の基準として利用される。
【0037】
第2ポンプセル79は、第3固体電解質部127と、第3固体電解質部127のうち、第2測定室103に面した表面に配置された第2内側電極153と、基準酸素室149に面した表面に配置された第2対電極155とを備えている。
【0038】
各電極139,137,145,147,153,155は、いずれも白金を主成分として形成されている。また、第1絶縁層81の後端側外表面には、3つの電極パッド25,26,27が形成されており、第5絶縁層95の後端側外表面にも、3つの電極パッド28,29,30が形成されている。
図3に示すように、第1電極パッド25は、第1配線ユニットL1(L1a,L1b)によって第1対電極139と電気的に接続され、第2電極パッド26は、第2配線ユニットL2(L2a,L2b)によって基準電極147と電気的に接続され、第3電極パッド27は、第3配線ユニットL3(L3a,L3b,L3c、L3d)によって第1内側電極137、検知電極145、第2内側電極153に電気的に接続される。第4電極パッド30は、第4配線ユニットL4(L4a,L4b)によって第2対電極155に電気的に接続され、第1ヒータ用電極パッド28は、第1ヒータ用配線ユニットL5(L5a,L5b)によって発熱抵抗体105に電気的に接続され、第2ヒータ用電極パッド29は、第2ヒータ用配線ユニットL6(L6a,L6b)によって発熱抵抗体105に電気的に接続される。なお、
図3において、符号H1,H2,H3,H4,H5,H6,H7,H8,H9,H10,H11,H12,H13,H14,H15は、貫通孔である。
【0039】
第1セラミック層83は、第1絶縁性セラミック部111と第1固体電解質部115とからなる第1ポンプセル用複合セラミック層である。第2セラミック層87は、第2絶縁性セラミック部117と第2固体電解質部121とからなる検知セル用複合セラミック層である。第2固体電解質部121には導入路101が設けられている。第3セラミック層91は、第3絶縁性セラミック部123と第3固体電解質部127とからなる第2ポンプセル用複合セラミック層である。第1~第3固体電解質部115,121,127は、それぞれ、酸素イオン伝導性を有するジルコニアを主成分に用いて形成されている。第1~第5絶縁層81,85,89,93,95、第1~第3絶縁性セラミック部111,117,123は、電気絶縁性を有するアルミナを主成分に用いて形成されており、気体等の流体の透過(流通)を防止できる程度に密に形成されている。
【0040】
なお、主成分とは、「各構成中の主材料の含有量が50wt%以上であること」を指し、例えば、第1~第3固体電解質部115,121,127は、ジルコニアが50wt%以上含有されている。
【0041】
更に、ガスセンサ素子7には、記録部170が形成されている。記録部170は、検出素子部71に固有の情報であって、検出素子部71の温度変化に対する一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報である固有特性情報を記録した部分である。記録部170は、QRコード(登録商標)やデータマトリックスコードなどの情報コード(上記固有特性情報を記録した情報コード)として構成されていてもよく、固有特性情報が文字や記号などによって表されていてもよい。また、記録部170の形成方法は、ガスセンサ素子7の表面に直接的に印字されていてもよく、ガスセンサ素子7の表面にラベルとして付されていてもよい。
【0042】
検出素子部71における検知電極145と基準電極147との間の内部抵抗値をRpvsとし、検出素子部71の温度をTとした場合、内部抵抗値Rpvsと温度Tの関係は、
図5のように、定数a及び定数bを含む「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」の数式(アレニウスの式)で表すことができ、記録部170に記録される固有特性情報は、この数式を特定し得る情報となっている。例えば、固有特性情報は、検出素子部71が第1温度T1のときの検出素子部71の内部抵抗値Rpvs1を第1温度T1と対応付けた情報である第1対応情報と、検出素子部71が第1温度T1とは異なる第2温度T2のときの検出素子部71の内部抵抗値Rpvs2を第2温度T2と対応付けた情報である第2対応情報とを含んでいれば、第1対応情報(Rpvs1,T1)を「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」に代入した第1の式「Ln(Rpvs1)=a×(1/T1)+b」と、第2対応情報(Rpvs2,T2)を「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」に代入した第2の式「Ln(Rpvs2)=a×(1/T2)+b」とによって定数a、bの値を特定することができるようになる。
【0043】
このように、ガスセンサ1は、固有特性情報(検出素子部71固有の情報であって、検出素子部71の温度変化に対する一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報)を記録した記録部170を備えているため、このガスセンサ1の通電を制御する際に、記録部170に記録された固有特性情報を利用した制御が可能となる。つまり、このガスセンサ1において固有に定まる「検出素子部71の温度と内部抵抗値との関係」を特定した上で、所望の温度が得られるようにヒータ73の通電を正確に制御することができるようになる。なお、ガスセンサ1の具体的な制御方法は後述する。
【0044】
1-3.ガスセンサの製造方法
次に、本実施形態のガスセンサ1の製造方法について、前記
図3及び
図6を用いて簡単に説明する。
なお、ここでは、以下に述べるように、
図3に示す下方の層から順次他の層を積層するようにしてガスセンサ1を製造する例について説明するが、各構成の製造手順は、これに限定されるものではない。
【0045】
<材料作製工程>
図3に示すように、ガスセンサ素子7を製造する場合、まず、公知のガスセンサ素子7の材料となる各種積層材料、即ち、検出素子部71の第1~第3絶縁性セラミック部111,117,123となる未焼成絶縁シート、第1~第3固体電解質部115,121,127となる未焼成固体電解質シート、第1絶縁層81となる未焼成絶縁層シート、ヒータ73の第4、第5絶縁層93、95となる未焼成絶縁シートを作製する。具体的には、未焼成絶縁シートを形成する場合には、アルミナを主体とするセラミック粉末に対して、ブチラール樹脂とジブチルフタレートとを加えて、更に混合溶媒(トルエン及びメチルエチルケトン)を混合して、スラリーを生成する。そして、このスラリーをドクターブレード法によりシート状とし、混合溶媒を揮発させることで未焼成絶縁シートを作製する。特に、第1~第3絶縁性セラミック部111,117,123となる各未焼成絶縁シートには、第1~第3固体電解質部115,121,127の未焼成固体電解質シートの平面形状に対応した矩形状の貫通孔を形成する。
【0046】
つまり、ガスセンサ素子7は、第1~第3絶縁性セラミック部111,117,123の挿通孔113,119,125に、第1~第3固体電解質部115,121,127が埋め込まれた構成であるので、予め、第1~第3絶縁性セラミック部111,117,123となる各未焼成絶縁シートに、第1~第3固体電解質部115,121,127の各挿通孔113,119,125の平面形状に対応した貫通孔を形成する。また、第1絶縁層81となる未焼成絶縁シートにも、開口部141に対応した矩形状の貫通孔を形成する。なお、後述する焼成によって、各未焼成絶縁シート及びその貫通孔の形状は若干変化する(以下、未焼成の部材についても、焼成の前後で形状は変化する)。
【0047】
また、前記未焼成固体電解質シートを形成する場合、まず、ジルコニアを主体とするセラミック粉末に対して、アルミナ粉末やブチラール樹脂などを加えて、さらに混合溶媒(トルエン及びメチルエチルケトン)を混合して、スラリーを生成する。そして、このスラリーをドクターブレード法によりシート状とし、混合溶媒を揮発させることで未焼成固体電解質シートを作製する。
【0048】
そして、第1~第3各固体電解質部115,121,127となる未焼成固体電解質シートを、第1~第3絶縁性セラミック部111,117,123の未焼成絶縁シートに開けられた貫通孔(即ち、各挿通孔113,119,125に対応した形状の貫通孔)に隙間無く埋め込むことができるような矩形状に切断する。
【0049】
これとは別に、焼成後に、第2、第3絶縁層85,89となる材料として、アルミナを主体とするセラミック粉末に対して、ブチラール樹脂とジブチルフタレートとを加えて、更に混合溶媒(トルエン及びメチルエチルケトン)を混合して、アルミナスラリーを作製する。
【0050】
また、焼成後に、拡散抵抗体99、多孔質部143、多孔質部151などになる未焼成の多孔質を形成するために、アルミナ粉末100質量%、加熱焼失材(例えば、カーボンなど)及び可塑剤を湿式混合により分散した多孔質用スラリーを作製する。可塑剤はブチラール樹脂及びDBPを有する。
【0051】
そして、これらの材料を用いて、下記に示すように、ガスセンサ素子7を作製する。
<積層工程>
まず、ヒータ73の第5絶縁層95となる未焼成絶縁シートの表面(上面)に、発熱抵抗体105及び第1、第2ヒータ用リード部L5a,L6aとなるヒータパターンを形成する。ヒータパターンの材料として、例えば白金を主成分とし、セラミック(例えば、アルミナ)が含まれる白金ペーストを作製し、この白金ペーストを印刷してヒータパターンを形成する。
【0052】
また、未焼成絶縁シートの下面には、例えば白金等のメタライズインクを用いて、各電極パッド28,29,30の形状に印刷しておく。さらに、第5絶縁層95には、貫通孔H13,H14,H15となる孔をあけておき、この孔の内周面には、前記メタライズインクを塗布しておく。なお、他の貫通孔H1~H15の形成方法及びメタライズインクの塗布方法も同様であるので、以下では、他の貫通孔H1~H15に関する同様な説明は省略する。
【0053】
次に、ヒータパターン等を形成した第5絶縁層95の表面に、ヒータパターンを覆うように、第4絶縁層93となる未焼成絶縁シートを積層する。
【0054】
次に、第3絶縁性セラミック部123となる未焼成絶縁シートの挿通孔125に対応した貫通孔に、第3固体電解質部127となる未焼成固体電解質シートを埋め込んで、第3セラミック層91となる第3複合シート91a(
図3参照)を作製する。
【0055】
次に、第4絶縁層93となる未焼成絶縁シートの表面(上面)に、第3セラミック層91となる第3複合シート91aを積層する。なお、第3複合シート91aを作製する時期は、第3複合シート91aを積層する前であればよい(以下、他の第1、第2複合シート83a,87a(
図3参照)の作製時期も同様である)。
【0056】
次に、第3複合シート91aの表面に、上述したメタライズインクを用いて、第2内側電極153と第2対電極155となる電極パターンを印刷する。また、上述した白金ペーストを用いて、第4、第5リード部L3c,L4aとなるリードパターンを印刷する。なお、電極パターンとリードパターンの材料は、他のセラミック層83,87でも同様である。また、第3複合シート91aの表面(上面)に、上述したアルミナスラリーを用いて、第3絶縁層89となる層を印刷する。この層を形成する際には、基準酸素室149及び第2測定室103となる部分には層を形成せずに、開口としておく。そして、基準酸素室149となる開口の底部には、多孔質部151となる多孔質スラリーを印刷する。また、多孔質スラリーの上面と第2測定室103となる開口には、昇華剤としてカーボンペーストを印刷する。
【0057】
次に、第2絶縁性セラミック部117となる未焼成絶縁シートの挿通孔119に対応した貫通孔に、第2固体電解質部121となる未焼成固体電解質シートを埋め込んで、第2セラミック層87となる第2複合シート87aを作製する。次に、第2複合シート87aの未焼成固体電解質シートに、導入路101となる貫通孔を開ける。なお、この貫通孔には、カーボンペーストを充填する。そして、第2複合シート87aの上面に、検知電極145となる電極パターンと第3リード部L3bとなるリードパターンを形成する。一方、第2複合シート87aの下面には、基準電極147と第2リード部L2aとなるリードパターンを形成する。
【0058】
次に、前記第3絶縁層89となる層の表面に、前記電極パターン等を設けた第2複合シート87aを積層する。次に、第2複合シート87aの表面(上面)に、アルミナスラリーを用いて、第2絶縁層85となる層を印刷する。この層には、拡散抵抗体99を形成する位置に第1の開口を設けるとともに、第1測定室97となる位置にも第2の開口を設けておく。そして、第1の開口には、拡散抵抗体99となる多孔質スラリーを印刷する。また、第1測定室97となる第2の開口には、カーボンペーストを印刷する。なお、第1、第2の開口は連通している。
【0059】
次に、第1絶縁性セラミック部111となる未焼成絶縁シートの挿通孔113に対応した貫通孔に、第1固体電解質部115となる未焼成固体電解質シートを埋め込んで、第1セラミック層83となる第1複合シート83aを作製する。そして、この第1複合シート83aの上面に、第1対電極139となる電極パターンと第1リード部L1aとなるリードパターンを形成する。一方、第1複合シート83aの下面には、第1内側電極137と第3リード部L3aとなるリードパターンを形成する。
【0060】
次に、前記第2絶縁層85となる層の表面に、前記電極パターン等を設けた第1複合シート83aを積層する。次に、第1複合シート83aの表面に、第1絶縁層81となる未焼成絶縁シートを積層する。なお、この未焼成絶縁シートの開口部141に対応した貫通孔には、予め多孔質スラリーを印刷しておく。また、この未焼成絶縁シートの下面には、前記メタライズインクを用いて、各電極パッド25,26,27の形状に印刷しておく。このようにして、各層を積層することにより、未焼成積層体が形成される。そして、この未圧着積層体を1MPaで加圧することにより、
図6に示す様な圧着された成形体161を得る。
【0061】
<切断工程>
その後、加圧により得られた成形体161を、所定の大きさで切断することにより、ガスセンサ素子7と大きさが同等の複数(例えば10個)の未焼成積層体を得る。
【0062】
<焼成工程>
その後、この未焼成積層体を樹脂抜きし、さらに焼成温度1500℃にて、1時間で本焼成する。このようにしてガスセンサ素子7が得られる。
【0063】
<測定工程>
このようにガスセンサ素子7が得られた後に、測定工程を行う。測定工程では、検出素子部71を第1内部抵抗値Rpvs1で制御したときの検出素子部71の温度である第1温度T1と、検出素子部71を第1内部抵抗値Rpvs1とは異なる第2内部抵抗値Rpvs2で制御したときの検出素子部71の温度である第2温度T2とを測定する。具体的には、後述する制御部180Aと同様の制御装置によってヒータ73を加熱し、第1内部抵抗値Rpvs1となるように制御した際の検出素子部71の温度を公知の温度測定装置(例えば、サーモカメラ等)によって測定する。そして、第1内部抵抗値Rpvs1のときに測定された検出素子部71の温度を第1温度T1とする。さらに、検出素子部71の内部抵抗値が第1内部抵抗値Rpvs1とは異なる第2内部抵抗値Rpvs2となるように制御し、検出素子部71の温度を公知の温度測定装置(例えば、サーモカメラ等)によって測定する。そして、第2内部抵抗値Rpvs2のときに測定された検出素子部71の温度を第2温度T2とする。
【0064】
<第1記録工程>
このように測定工程を行った後、第1記録工程を行う。第1記録工程では、測定工程によって測定された第1温度び第2温度に基づき、固有特性情報(検出素子部71の温度変化と内部抵抗値の変化との関係を設定可能な情報であって且つガスセンサの固有の情報)を、ガスセンサ1と一体的な記録部170(ガスセンサ自身に付される記録部)に記録する。記録部170は、QRコード(登録商標)やデータマトリックスコードなどの情報コード(上記固有特性情報を記録した情報コード)として構成してもよく、固有特性情報を文字や記号などによって表してもよい。また、記録部170の形成方法は、ガスセンサ素子7の表面に情報コード等を直接的に印字してもよく、ガスセンサ素子7の表面に情報コード等が表されたラベル等を付してもよい。
【0065】
上述したように、ガスセンサ1は、検出素子部71における検知電極145と基準電極147との間の内部抵抗値Rpvsと検出素子部71の温度Tとの関係を、
図5のように、定数a及び定数bを含む「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」の数式(アレニウスの式)で表すことができ、記録部170に記録される固有特性情報は、この数式を特定し得る情報とする。具体的には、例えば、上述の第1温度T1と、第1温度T1のときの検出素子部71の内部抵抗値Rpvs1と対応付けた情報である第1対応情報(T1,Rpvs1)と、上述の第2温度T2と第2温度T2のときの検出素子部71の内部抵抗値Rpvs2と対応付けた情報である第2対応情報(T2,Rpvs2)とを固有特性情報として記録部170に記録する。このようにすれば、記録部170から第1対応情報(T1,Rpvs1)及び第2対応情報(T2,Rpvs2)を読み取った場合に、第1対応情報(Rpvs1,T1)を「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」に代入した第1の式「Ln(Rpvs1)=a×(1/T1)+b」と、第2対応情報(Rpvs2,T2)を「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」に代入した第2の式「Ln(Rpvs2)=a×(1/T2)+b」とによって定数a、bの値を特定することができるようになる。
【0066】
<エージング工程>
第1記録工程の後、第1記録工程で得られたガスセンサ素子7に対し、以下のようなエージング工程を行う。エージング工程によってエージング処理を施す場合、まず、第1記録工程で得られたガスセンサ素子7を、水分を略一定状態にしたリッチ雰囲気下で予め設定した温度領域に加熱しつつ、第1内側電極137と第1対電極139との間、および第2内側電極153と第2対電極155との間に通電するエージング工程を行う。ここで、「リッチ雰囲気」とは、理論空燃比(λ=1)に対して酸素の割合が少ない雰囲気、即ち、理想的な完全燃焼ができる空気と燃料の混合比である理論空燃比で燃焼されたガス雰囲気を基準にしたときに、そのガス雰囲気よりも酸素の割合が少ない(酸素分圧が低い)ガス雰囲気を意味する。また、ここでいう「水分が略一定状態」とは、1時間あたりの絶対湿度の変化量が8%以下である状態を意味する。このエージングにおけるリッチ雰囲気としては、例えばH2が数体積%で残部N2のガスに対し、水分が0体積%を超え5体積%以下含むものが挙げられる。なお、リッチ雰囲気としては、COが1体積%、CO2が10体積%で残部がN2のガスに対し、水分が0体積%を超え5体積%以下含むものも例示できる。
【0067】
エージング工程では、第2ポンプセル79の温度を所望の目標温度Ttaとなるように制御する。具体的には、
図7のように、ガスセンサ素子7の記録部170に記録された固有特性情報を読取装置162(例えば情報コードリーダなど)によって読み取る。なお、このように読取装置162によって記録部170を読み取る工程は、読取工程の一例に相当する。そして、読取装置162が記録部170から読み取った固有特性情報を制御部164が取得し、制御部164は、この固有特性情報に基づいて「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」の数式(ガスセンサ素子7固有の数式)を特定する。このように制御部164が上記数式を特定する工程は、関係式設定工程(読取工程によって読み取られた固有特性情報に基づいて検出素子部71の温度と内部抵抗値との関係式を設定する工程)の一例に相当する。制御部164は、上記数式(固有特性情報に基づいて設定された検出素子部71の温度と内部抵抗値との関係式)を特定した後、この数式を特定するための情報(例えば、定数a、b)を、関係式記憶部に相当する記憶部166に記憶する。更に、制御部164は、このように特定された数式に基づいて目標温度Ttaのときの内部抵抗値(目標抵抗値)を算出する。この例では、制御部164が特定部の一例に相当し、読取装置162で読み取った固有特性情報に基づいて目標抵抗値を求める。
【0068】
エージング工程では、このように得られた目標抵抗値となるように制御部164がヒータ73の通電を制御しながら、第2内側電極153と第2対電極155との間に通電する。なお、エージング工程の際に制御部164がヒータ73の通電を制御する工程は、制御工程(検出素子部71の内部抵抗値を内部抵抗検出部によって検出しつつ、上記関係式と内部抵抗検出部によって検出される内部抵抗値とに基づいて通電制御部によってヒータへの通電を制御する工程)の一例に相当する。また、この例では、制御部164が内部抵抗検出部として機能し、公知の方法によって一対の電極間(検知電極145と基準電極147との間)の内部抵抗値を検出する。更に、制御部164は、通電制御部として機能し、上記関係式と内部抵抗検出部にて検出された内部抵抗値とに基づき、一対の電極間(検知電極145と基準電極147との間)の内部抵抗値が上述した目標抵抗値となるようにヒータ73への通電を制御する。なお、エージング工程での目標温度Ttaは、例えば550~700℃の範囲の所望の温度とすることができる。
そして、このようにして、エージング工程が施されたガスセンサ素子7が得られる。なお、エージング工程では、制御部164及び記憶部166を備えた制御装置163と読取装置162とが、温度制御装置160として機能する。また、ガスセンサ素子7及び温度制御装置160が温度制御システム169として機能する。
【0069】
<組付工程>
このようにしてガスセンサ素子7を得た後、ガスセンサ素子7を主体金具5に組み付ける組付工程を行う。この組付工程では、上記製造方法で作製されたガスセンサ素子7を金属ホルダ51に挿入し、さらにガスセンサ素子7をセラミックホルダ41、滑石リング43で固定し、組み立て体を作製する。その後、この組み立て体を主体金具5に固定し、ガスセンサ素子7の軸線O方向後端部側を滑石リング45、セラミックスリーブ9に挿通させつつ、これらを主体金具5に挿入する。
【0070】
そして、主体金具5の後端部47にてセラミックスリーブ9を加締め、下部組立体を作製する。なお、下部組立体には、あらかじめプロテクタ55が取付けられている。一方、外筒57、セパレータ13、グロメット59などを組みつけ、上部組立体を作製する。そして、下部組立体と上部組立体とを接合し、
図1で示すガスセンサ1と同様の構造体を得る。
【0071】
<第2記録工程>
組付工程により、ガスセンサ素子7に下部組立体及び上部組立体を接合して構造体を構成した後、この構造体の外表面(主体金具5や外筒57など)にも記録部170と同様の記録部170(
図7、
図8参照)を形成する。組付工程で得られた構造体の外表面に記録する記録部は、記録部170と同一の記録部であってもよいが、上述の固有特性情報が記録された構成であれば、記録部170と多少異なっていてもよい。
【0072】
以上のような製造方法によれば、固有特性情報(検出素子部固有の情報であって、検出素子部の温度変化に対する一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報)を記録した記録部170を利用可能な形でガスセンサ1を製造することができる。従って、このガスセンサ1に関して、記録部170に記録された固有特性情報を利用した制御が可能となる。つまり、このガスセンサ1において固有に定まる「検出素子部の温度と内部抵抗値との関係」を特定した上で、所望の温度が得られるようにヒータ73の通電を正確に制御することができるようになる。
【0073】
また、上述の製造方法では、固有特性情報をガスセンサ自身に付される記録部170に記録するように記録工程を行うため、ガスセンサ1の固有の特性を示す固有特性情報をそのガスセンサ自身に対応付けて記録しておくことができ、記録工程の後の工程(例えば、エージング工程や車両搭載後の工程など)において、固有特性情報の管理及び利用を簡易に且つ容易に行いやすくなる。
【0074】
1-4.ガスセンサの動作
次に、上述したガスセンサ1の動作について詳述する。
図8で示す温度制御システム190は、車両に搭載されるシステムであり、主に、ガスセンサ1と温度制御装置180とを備え、後述する温度制御方法を実現し得るシステムとして構成されている。温度制御装置180は、例えば、車載用の電子制御装置(ECU)として構成される。
【0075】
図8で示す温度制御システム190を車両に組み込む場合、まず、読取工程を行う。この読取工程では、ガスセンサ1の記録部170(例えば、第2記録工程で形成された記録部170)に記録された固有特性情報を読取装置192によって読み取る。
【0076】
そして、このように読取装置192によって読取工程を行った後に関係式設定工程を行う。この関係式設定工程は、読取工程によって読み取られた固有特性情報に基づいて検出素子部71の温度と内部抵抗値との関係式を設定する工程であり、具体的には、読取装置192が記録部から読み取った固有特性情報に基づいて「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」の数式(ガスセンサ素子7固有の数式)を設定する工程である。なお、この数式(関係式)は、読取装置192が読み取った情報に基づいて情報処理装置194が設定してもよく、温度制御装置180を構成する制御部180Aが設定してもよい。例えば、読取装置192が読み取った固有特性情報(記録部170に記録された固有特性情報)を情報処理装置194が制御部180Aに送信するようになっており、制御部180Aは、このように外部から入力された情報(記録部170に記録された固有特性情報)に基づいて、上記関係式(固有特性情報に基づいて検出素子部71の温度と内部抵抗値との関係を特定する情報であり、具体的には「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」の数式)を特定するデータを記憶部180Bに記憶する。更に、制御部180Aは、特定部として機能し、このように記憶部180B(情報記憶部)に記憶された情報(上記関係式)を基に目標抵抗値を求める。具体的には、予め目標温度が定められており、記憶部180Bに記憶された情報によって特定される関係式「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」により、目標温度のときの内部抵抗値を算出し、算出された内部抵抗値を目標抵抗値とする。
【0077】
このように、情報を備えた形で温度制御装置180を車両に組み込むことができる。そして、ガスセンサ1も、温度制御装置180による制御対象として車両に組み込まれる。このように温度制御装置180及びガスセンサ1が車両に組み込まれた状態で、制御工程が実行される。この制御工程は、検出素子部71の内部抵抗値(具体的には、検知電極145と基準電極147との間の内部抵抗値)を内部抵抗検出部(具体的には、制御部180A)によって検出しつつ、上記関係式と内部抵抗検出部によって検出される内部抵抗値とに基づき、検知電極145と基準電極147との間の内部抵抗値が目標抵抗値となるように通電制御部(具体的には、制御部180A)によってヒータ73への通電を制御する工程である。
【0078】
より具体的には、エンジンの始動によって制御部180Aが起動すると、制御部180Aは、ヒータ73に電力を供給する。これに応じて、ヒータ73は、第1ポンプセル75、酸素濃度検知セル77、第2ポンプセル79を活性化温度まで加熱する。このとき、制御部180Aは、固体電解質部115,121,131(本実施例では、固体電解質部121)が狙いとする目標温度になるように(具体的には、検知電極145と基準電極147との間の内部抵抗値が上記目標抵抗値となるように)、内部抵抗値検出部(制御部180A)によって検知電極145と基準電極147との間の内部抵抗値を検出しながらヒータ73の通電を制御する。
【0079】
そして、各セル75、77、79が活性化温度まで加熱されると、制御部180Aは、第1ポンプセル75に電流(第1ポンピング電流Ip1)を流す。これにより、第1ポンプセル75は、第1固体電解質部115を介して第1内側電極137と第1対電極139との間で酸素を移動させることで、第1測定室97に流入した被測定ガス(排気ガス)における酸素の汲み入れおよび汲み出しを行う。
【0080】
制御部180Aは、酸素濃度検知セル77の電極間電圧(端子間電圧)が一定電圧V1(例えば425mV)になるように、第1ポンプセル75に通電する第1ポンピング電流Ip1を制御する。酸素濃度検知セル77の電圧は、基準酸素室149の酸素濃度を基準として、検知電極145における酸素濃度に応じた値となる。この制御によって、第1測定室97の内部の酸素濃度は、NOxが分解しない程度に調整される。
【0081】
第1測定室97にて酸素濃度が調整された被測定ガスは、第2固体電解質部121の導入路101を介して、第2測定室103に向かってさらに流れる。制御部180Aは、第2ポンプセル79に電極間電圧(端子間電圧)を印加する。この電圧は、被測定ガス中のNOxガスが酸素と窒素ガスに分解する程度の一定電圧に設定されている(酸素濃度検知セル77の制御電圧の値より高い電圧、例えば450mV)。これにより、被測定ガス中のNOxが、窒素と酸素に分解される。
【0082】
制御部180Aは、NOxの分解により生じた酸素を第2測定室103から汲み出すように、第2ポンプセル79に電流(第2ポンピング電流Ip2)が流れる。第2ポンピング電流Ip2とNOx濃度の間には比例関係があるので、第2ポンピング電流Ip2の電流値を検出することによって被測定ガス中のNOx濃度を検出することができる。
【0083】
なお、ガスセンサ素子7は、接続端子15およびリード線35を介して、外部機器(制御部180A)に接続される。制御部180Aは、ヒータ73に発熱用の電力を供給するとともに、検出素子部71の各セル(第1ポンプセル75,酸素濃度検知セル77,第2ポンプセル79)との間で信号を送受信することによって、ガスセンサ素子7を制御する。
【0084】
なお、本実施形態では、制御部180Aは、オペアンプ等を用いて形成された電子回路として備えられる。制御部180Aは、CPUやメモリなどを有するコンピュータを用いて形成してもよい。
【0085】
以上のように、上述した温度制御装置180では、制御対象となるガスセンサ1の記録部170に記録された固有特性情報(検出素子部固有の情報であって、検出素子部の温度変化に対する一対の電極間の内部抵抗変化の関係を設定可能な情報)に基づいて設定された検出素子部71の温度と内部抵抗値との関係式が関係式記憶部に記憶されるため、制御対象となるガスセンサ1において固有に定まる「検出素子部の温度と内部抵抗値との関係」を関係式記憶部に記憶される関係式によって正確に特定することができるようになる。そして、通電制御部は、この関係式と、内部抵抗検出部にて検出された内部抵抗値(一対の電極間の内部抵抗値)とに基づいてヒータ73への通電を制御することができるため、制御対象となるガスセンサ1において固有に定まる関係(検出素子部の温度と一対の電極間の内部抵抗値との関係)を正確に特定し、内部抵抗検出部によって内部抵抗値を実際に検出した上で、所望の温度が得られるようにヒータ73の通電を正確に制御することができる。
なお、本発明の一態様である「ガスセンサ」は、上述したガスセンサ1のような構成であってもよく、上述したガスセンサ素子7のような構成であってもよい。
【0086】
更に、上述した温度制御装置180は、外部から入力された情報(記録部に記録された固有特性情報に基づく検出素子部の温度と内部抵抗値との関係を特定する情報)を記憶する情報記憶部(記憶部180B)と、この情報記憶部に記憶された情報を基に目標抵抗値を求める特定部(制御部180A)とを有する。この温度制御装置180は、記録部170に記録された固有特性情報に基づく「検出素子部の温度と内部抵抗値との関係を特定する情報」を情報記憶部に記憶しておくことができ、この情報記憶部に記憶された情報を基に目標抵抗値を定めることができる。つまり、制御対象となるガスセンサ1において固有に定まる関係(検出素子部の温度と一対の電極間の内部抵抗値との関係)を正確に特定した上で所望の温度が得られるように目標抵抗値を求める動作を、簡易に且つ正確に行うことができる。
【0087】
温度制御装置180では、関係式は、検出素子部71の内部抵抗値をRpvsとし、検出素子部の温度をTとし、定数a及び定数bを含む式「Ln(Rpvs)=a×(1/T)+b」で表される数式となっている。そして、固有特性情報は、少なくとも定数a及び定数bを特定可能な情報である。このようにすれば、制御対象となるガスセンサ1における検出素子部71の内部抵抗値Rpvsと温度Tとの関係をLn(Rpvs)=a×(1/T)+bの数式で近似することができ、しかも、定数a、bの値を、そのガスセンサ固有の値として特定することができる。つまり、ガスセンサ1の温度を制御する場合に、そのガスセンサ1の内部抵抗値Rpvsと温度Tとの関係をより正確に特定し得る固有の近似式に基づいて通電を制御することができ、所望の温度が得られるようにヒータ73の通電を正確に制御し得る構成を、より簡易に実現できる。
【0088】
温度制御装置180において、固有特性情報は、検出素子部71が第1温度T1のときの検出素子部の内部抵抗値Rpvs1を第1温度T1と対応付けた情報である第1対応情報と、検出素子部71が第1温度T1とは異なる第2温度T2のときの検出素子部71の内部抵抗値Rpvs2を第2温度T2と対応付けた情報である第2対応情報と、を含んでいる。このように、固有特性情報が上記第1対応情報と上記第2対応情報とを含んでいれば、固有特性情報に基づいて検出素子部71の温度と内部抵抗値との関係式を設定する場合に、この関係式が、ガスセンサ固有の正確性の高い式となる。
【0089】
<他の実施形態>
本発明は、本明細書の実施形態の各態様や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現できる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、先述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、先述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことができる。その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除できる。変更例としては、例えば、以下のようなものが該当する。
【0090】
上述した実施形態では、記録工程において、ガスセンサの固有の情報である固有特性情報をガスセンサと一体的な記録部に記録する例を示したが、ガスセンサとは別体で設けられた記録部に記録してもよい。例えば、ガスセンサにシリアル番号やロット番号を印字しておき、ガスセンサとは別体で設けられた記録部(例えば、情報処理装置の記憶部)に当該ガスセンサに関する固有特性情報と上記シリアル番号又は上記ロット番号とを対応付けて記憶しておけば、記録部(例えば、情報処理装置の記憶部)を参照することでガスセンサに印字されたシリアル番号に対応付けられた固有特性情報を読み出すことができるようになり、上記実施形態と同様に固有特性情報を利用することができる。或いは、複数のガスセンサを順番に製造する場合に、各々のガスセンサの固有特性情報をガスセンサとは別体で設けられた記録部(例えば、情報処理装置の記憶部)に順番に記憶すれば、どの順番の固有特性情報がどのガスセンサに対応するかを特定することが可能となる。
【0091】
上述した実施形態では、固有特性情報として第1対応情報及び第2対応情報を例示したが、上記関係式の定数a、bを特定し得る情報であればよい。例えば、第1温度T1と、この第1温度T1のときの内部抵抗値Rpvs1と、定数a、bのいずれかの情報であってもよい。例えば、第1温度T1、第1温度T1のときの内部抵抗値Rpvs1、定数aが固有特性情報に含まれていれば、この固有特性情報に基づいて上記関係式を正確に特定することができる。
【0092】
上述した実施形態では、第1記録工程及び第2記録工程を例示したが、いずれか一方の工程のみを行ってもよい。そして、ガスセンサ素子7又はガスセンサ素子7に組み付けられる部品の一方のみに記録部170を設けてもよい。
【0093】
上述した実施形態では、温度制御装置180は、外部から入力された情報(記録部170に記録された固有特性情報に基づく検出素子部の温度と内部抵抗値との関係を特定する情報)を記憶部180B(情報記憶部)に記憶する構成であったが、記録部170に記録された固有特性情報が情報処理装置194から入力された場合に、この固有特性情報を記憶部180B(情報記憶部)に記憶する構成であってもよい。このように固有特性情報そのものを記憶部180Bに記憶しておいても、制御部180Aがこの固有特性情報を読み出して上記関係式を特定することが可能となる。
【0094】
上述した実施形態では、第1内部抵抗値に制御したときの第1温度及び第2内部抵抗値に制御したときの第2温度を測定していたが、例えば、所定の第1タイミング及び第2タイミングにおける温度と内部抵抗値とをそれぞれ測定し、第1タイミングにおける温度を第1温度、内部抵抗値を第1内部抵抗値とし、第2タイミングにおける温度を第2温度、内部抵抗値を第2内部抵抗値としてもよい。ただし、上述したアレニウスの式を特定する前は、内部抵抗値による制御は容易だが、所望の温度に制御することが困難である。そのため、第1内部抵抗値、第2内部抵抗値に制御をし、そのときの温度を測定する方が、第1内部抵抗値及び第2内部抵抗値の数値が一定の状態でアレニウスの数式を特定できるため、計算が簡便である。
【符号の説明】
【0095】
1…ガスセンサ
71…検出素子部
73…ヒータ
121…第2固体電解質部(固体電解質体)
145…検知電極(一対の電極)
147…基準電極(一対の電極)
160,180…温度制御装置
162,192…読取装置
164…制御部(通電制御部、内部抵抗検出部、特定部)
166…記憶部(関係式記憶部)
169,190…温度制御システム
170…記録部
180A…制御部(通電制御部、内部抵抗検出部、特定部)
180B…記憶部(関係式記憶部、情報記憶部)