(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/003 20190101AFI20220727BHJP
G01H 1/00 20060101ALI20220727BHJP
G01H 11/08 20060101ALI20220727BHJP
G01M 3/24 20060101ALN20220727BHJP
【FI】
G01M13/003
G01H1/00 Z
G01H11/08 Z
G01M3/24 A
(21)【出願番号】P 2018161204
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】萩原 一成
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-192748(JP,A)
【文献】国際公開第2010/071040(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00-3/40,13/00-99/00
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に対し、所定の適正基本姿勢をもって検査処理を実行する検査装置において、
各々の対象物について設定されている種別データを認識する種別認識手段、
適正基本姿勢に対する姿勢の傾きを検出して、傾斜データを出力する傾斜検出手段
であって、所定の判定時間内、一定のサンプリング頻度で適正基本姿勢に対する姿勢の傾きを検出して、複数回、傾斜データを出力する傾斜検出手段、
当該複数回の傾斜データを高速フーリエ変換処理してFFT波形を生成するFFT処理手段、
各種別データに対応した複数の対比基準データ
であって、各々、姿勢の適正判定に関し、対応する種別データによって異なる一定の許容範囲を有する複数の対比基準データを記憶している記憶手段、
種別認識手段が認識した種別データに対応した対比基準データを取り込み、傾斜検出手段が出力した傾斜データと、当該対比基準データとを比較して、姿勢の適正又は不適正を判定する判定手段
であって、前記FFT波形について最大値と最小値との差を実測差データとして求め、当該実測差データが、種別データに対応する対比基準データの許容範囲より大きいとき、姿勢が不適正であると判定する判定手段、
を備えたことを特徴とする姿勢判定機能付き検査装置。
【請求項2】
対象物に対し、所定の適正基本姿勢をもって検査処理を実行する検査装置において、
各々の対象物について設定されている種別データを認識する種別認識手段、
適正基本姿勢に対する姿勢の傾きを検出して、傾斜データを出力する傾斜検出手段
であって、所定の判定時間内、一定のサンプリング頻度で適正基本姿勢に対する姿勢の傾きを検出して、複数回、傾斜データを出力する傾斜検出手段、
当該複数回の傾斜データを高速フーリエ変換処理してFFT波形を生成するFFT処理手段、
各種別データに対応した複数の対比基準データ
であって、各々、姿勢の適正判定に関し、対応する種別データによって異なる一定の許容範囲を有する複数の対比基準データ、並びに最大閾値及び最小閾値を記憶している記憶手段、
種別認識手段が認識した種別データに対応した対比基準データを取り込み、傾斜検出手段が出力した傾斜データと、当該対比基準データとを比較して、姿勢の適正又は不適正を判定する判定手段
であって、前記FFT波形について最大閾値を上回る上側波形領域の面積と、最小閾値を下回る下側波形領域の面積の総和を実測総和データとして求め、当該実測総和データが、種別データに対応する対比基準データの許容範囲より大きいとき、姿勢が不適正であると判定する判定手段、
を備えたことを特徴とする姿勢判定機能付き検査装置。
【請求項3】
対象物に対し、所定の適正基本姿勢をもって検査処理を実行する検査装置の姿勢判定方法であって、
各々の対象物について設定されている種別データを認識する種別認識ステップと、
所定の判定時間内、一定のサンプリング頻度で適正基本姿勢に対する姿勢の傾きを検出して、複数回、傾斜データを出力する傾斜検出ステップと、
当該複数回の傾斜データを高速フーリエ変換処理してFFT波形を生成するFFT処理ステップと、
各種別データに対応した複数の対比基準データであって、各々、姿勢の適正判定に関し、対応する種別データによって異なる一定の許容範囲を有する複数の対比基準データを予め記憶する記憶ステップと、
前記FFT波形について最大値と最小値との差を実測差データとして求め、当該実測差データが、種別データに対応する対比基準データの許容範囲より大きいとき、姿勢が不適正であると判定する判定ステップと、
を含むことを特徴とする検査装置の姿勢判定方法。
【請求項4】
対象物に対し、所定の適正基本姿勢をもって検査処理を実行する検査装置の姿勢判定方法であって、
各々の対象物について設定されている種別データを認識する種別認識ステップと、
所定の判定時間内、一定のサンプリング頻度で適正基本姿勢に対する姿勢の傾きを検出して、複数回、傾斜データを出力する傾斜検出ステップと、
当該複数回の傾斜データを高速フーリエ変換処理してFFT波形を生成するFFT処理ステップと、
各種別データに対応した複数の対比基準データであって、各々、姿勢の適正判定に関し、対応する種別データによって異なる一定の許容範囲を有する複数の対比基準データ、並びに最大閾値及び最小閾値を予め記憶する記憶ステップと、
前記FFT波形について最大閾値を上回る上側波形領域の面積と、最小閾値を下回る下側波形領域の面積の総和を実測総和データとして求め、当該実測総和データが、種別データに対応する対比基準データの許容範囲より大きいとき、姿勢が不適正であると判定する判定ステップと、
を含むことを特徴とする検査装置の姿勢判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係る姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法は、対象物に対する検査装置の姿勢の適正又は不適正を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の対象物について検査を行う場合、正確な検査結果を得るために、対象物に対する検査装置の適正な姿勢が求められることがある。このような検査として、たとえば、産業プラントの配管系統に設けられているスチームトラップの検査がある。
【0003】
産業プラントには、ボイラーで生成された蒸気等を供給先に向けて高温・高圧で移送する配管系統が設置されている。この配管内で蒸気が液化してドレン(蒸気の凝縮水)が発生し滞留すると、蒸気の移送効率が低下してしまう。
【0004】
このような事態を回避するために、配管系統には随所に多数のスチームトラップが設けられている。フロート式スチームトラップは液化によって生じた内部のドレン水量が一定レベルに達した場合、内蔵されているフロートが浮上してスチームトラップの排出口を開放し、自動的にドレンを配管外に排出する構造を備えている。
【0005】
ところで、スチームトラップに作動不良が生じると、配管内に過度のドレンが滞留して適正な蒸気の移送が妨げられ、産業プラントの効率的な稼動が確保できない。これに関連して、配管系統に流れる流体が蒸気又はドレンのいずれであるかを検知する検査装置として、後記特許文献1に開示されている流体判定装置及び流体判定方法がある。
【0006】
この技術は、スチームトラップが設けられている配管系統を検査対象物として、流体判定装置が有するプローブを検査対象物に押し当ててその振動又は音響を検知する。そして、検知したデータから異なる二つの周波数成分の強度を取り出した上、両者の差を求め、この差と所定の閾値とを比較して流体が蒸気であるか否かを判定する。
【0007】
ここで、検査装置のプローブを押し当てて振動等を検知する場合、プローブを検査対象物に対して垂直に位置させて接触させる必要がある。この点、種々のスチームトラップの形状や様々な測定ポイントに対応できるようプローブのセンサ部分は尖端的に構成されているため、測定ポイントの周囲を支えるような垂直ガイド部材等に頼らず検査者がプローブを手で垂直に保持して検査しなければならない。
【0008】
このような検査装置として、後記特許文献2に開示されている技術がある。この検査装置は、プローブの後端部に水準器を備えている。プローブが傾くと水準器の気泡管内の気泡の位置が動くため、気泡と基準線との位置関係のずれを視認することによって、検査者は傾きを認識することができる。傾きを認識した検査者は、プローブを垂直に修正し検査を続行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-11904号公報
【文献】特開2008-170389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の特許文献1に開示された技術においては、検査装置が備えるプローブの姿勢を、検査対象物に対して垂直に保つための構成が設けられていない。このため、検査装置のプローブの傾斜や揺れが、検出する振動又は音響に影響を及ぼす可能性を回避することができず、検査の精度を確保することができない。
【0011】
また、前述の特許文献2に開示された技術においては、水準器を上から覗き込む姿勢でプローブの垂直を確認する必要があるので、検査効率が良いとは言えない。特に、複雑に入り組んで配置された配管のスチームトラップを検査するような場合、水準器を目視することが困難である。さらに、水準器を検査者が手で保持しているため、気泡と基準線との位置関係は微妙に変動し、位置関係のずれを目視によって正確に判断することも困難である。
【0012】
そこで、本願に係る姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法は、これらの問題を解決することを課題とし、容易かつ確実に検査装置の姿勢の適正又は不適正を把握し、検査精度を高めることができる姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願に係る姿勢判定機能付き検査装置は、
対象物に対し、所定の適正基本姿勢をもって検査処理を実行する検査装置において、
適正基本姿勢に対する姿勢の傾きを検出して、傾斜データを出力する傾斜検出手段、
設定されている対比基準データを記憶している記憶手段、
対比基準データを取り込み、傾斜検出手段が出力した傾斜データと、当該対比基準データとを比較して、姿勢の適正又は不適正を判定する判定手段、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本願に係る検査装置の姿勢判定方法は、
対象物に対し、所定の適正基本姿勢をもって検査処理を実行する検査方法において、
適正基本姿勢に対する姿勢の傾きを傾斜データとして検出し、
検出した傾斜データと、設定されている対比基準データとを比較して、姿勢の適正又は不適正を判定する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本願に係る姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法においては、検出した傾斜データと、設定されている対比基準データとを比較して、姿勢の適正又は不適正を判定する。したがって、容易かつ確実に検査装置の姿勢の適正又は不適正を把握し、検査精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本願に係る姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法の第1の実施形態を示す検査器の外観図である。
【
図2】
図1に示す検査器が備えるプローブの先端部近傍の拡大外観図である。
【
図3】
図2に示すプローブの先端部を矢印III方向から見た外観図である。
【
図5】
図2に示すメモリが予め記憶しているデータテーブルであって、スチームトラップの重要度と差基準値との対応関係を示すデータテーブルの内容を示す図である。
【
図6】
図2に示す制御部が実行する検査処理のプログラムのフローチャートである。
【
図7】第1の実施形態における傾斜データの二乗和のFFT波形を示すグラフである。
【
図8】本願に係る姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法の第2の実施形態におけるスチームトラップの重要度と総和基準値との対応関係を示すデータテーブルの内容を示す図である。
【
図9】第2の実施形態における制御部が実行する検査処理のプログラムのフローチャートである。
【
図10】第2の実施形態における傾斜データの二乗和のFFT波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態において示す主な用語は、それぞれ本願に係る姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法の下記の要素に対応している。
制御部30・・・判定手段
メモリ32・・・記憶手段
FFT処理部33・・・FFT処理手段
三軸加速度センサ35・・・傾斜検出手段
RFタグ読取器37・・・種別認識手段
検査器50・・・検査装置
垂直70に沿った姿勢・・・適正基本姿勢
範囲外総和値As・・・実測総和データ
下側領域As1・・・下側波形領域
上側領域As2・・・上側波形領域
下限値a1・・・最小閾値
上限値a2・・・最大閾値
差基準値D、D1、D2、D3・・・対比基準データ
総和基準値Su、Su1、Su2、Su3・・・対比基準データ
差値Yd・・・実測差データ
xデータ、yデータ及びzデータ・・・傾斜データ
スチームトラップ・・・対象物
スチームトラップの重要度・・・種別データ
【0018】
[第1の実施形態]
本願に係る姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法の第1の実施形態を
図1ないし
図7に基づいて説明する。本実施形態に係る検査器50は、配管系統の随所に設置されているスチームトラップ(図示せず)の作動不良を検知するための検査装置である。
【0019】
(スチームトラップの作動不良の説明)
たとえばフロート式のスチームトラップは、配管内でドレンが発生・滞留した場合、内蔵されているフロートが浮上して排出口を開放し、配管内の高圧による勢いに従って自動的にドレンを配管外に排出する。排出後はフロートが元の状態に復帰し排出口を閉塞して密閉する。この排出は数秒間に一度行われ、開放による排出・閉塞による密閉が繰り返されている。
【0020】
ところで、スチームトラップには作動不良が生じることがあり、この作動不良には排出不良と密閉不良の二つのケースがある。ドレンを適正に排出することができないという排出不良が生じている場合、ドレンの滞留によってスチームトラップ自体の表面温度が低下する。このため、スチームトラップの表面温度を検出することによって排出不良を検知することができる。一方、排出口を密閉することができないという密閉不良が生じている場合、蒸気の漏洩に伴って漏洩音が発生し、スチームトラップの表面が振動する。このため、蒸気の漏洩音に固有の振動を検出することによって密閉不良を検知することができる。
【0021】
(検査器50の全体構成の説明)
図1に示すように、本実施形態に係る検査器50には液晶部51が設けられており、この液晶部51はタッチパネルとして構成されている入力領域56、及び所定の表示を行う表示領域57を備えている。
【0022】
また、検査器50の先端部にはプローブ10が突出して設けられている。このプローブ10は保護管3を有しており、
図2に示すように保護管3内には検出針2が設けられている。検出針2の検出針先端2 aは保護管3からが僅かに突出している。検出針2は検査器50内部に設けられているばね部(図示せず)によって突出方向に付勢されており、検出針2の後端部には検査器50内において圧電素子(図示せず)が接続されている。
【0023】
スチームトラップの検査を行う場合、スチームトラップの測定面60にプローブの先端を押し当て、検出針先端2aを保護管3内に十分に埋没させる。本実施形態においては、スチームトラップ外面の水平面を測定面60として選択して検査を行う。
【0024】
測定面60にプローブの先端を押し当て、検出針先端2aを埋没させたことによって、測定面60の振動は検出針2に伝わり、検出針2の後端に接続されている圧電素子に電圧変動を生じさせ、圧電素子から振動を表す電気信号が出力される。
【0025】
また、プローブ10の保護管3からは、
図2に示すように、熱電対4が僅かに突出して固定的に設けられている。そして、この熱電対4の中央穴から上述の検出針先端2aが突出している(
図3)。熱電対4は測定面60の温度に反応し、温度を表す電気信号を出力する。
【0026】
ところで、精度の高い検査を行うためには、検査器50の検出針2をできる限り垂直70(
図1)に沿わせた姿勢で、測定面60に押し当てる必要がある。仮に、検査を行う際、検出針2に傾斜が生じている場合、この傾斜の度合いが大きくなるに従って、検出針2に対する測定面60の振動の伝達が不正確になり、振動検出の精度が低下する。また、検出針2の傾斜の度合いが大きくなるに従って、熱電対4と測定面60との接触が不十分になり、温度検出の精度が低下する。
【0027】
図4は、本実施形態における検査器50の電気回路の機能ブロック図である。プローブ10には振動センサ20及び温度センサ40が設けられている。そして、振動センサ20は、前述の検出針2及び圧電素子等から構成されており、温度センサ40は、前述の熱電対4等によって構成されている。
【0028】
振動センサ20からは測定面60の振動を表す電気信号が出力され、増幅器21によって増幅されて、A/D変換器22を介してデジタルデータとして制御部30に与えられる。また、温度センサ40からは、測定面60の温度を表す電気信号が出力され、増幅器41によって増幅されて、A/D変換器42を介してデジタルデータとして制御部30に与えられる。
【0029】
本実施形態における検査器50内には、三軸加速度センサ35が設けられており、検査器50の垂直姿勢に対する三軸方向の傾斜を示す傾斜信号xデータ、yデータ及びzデータを制御部30に向けて出力している。また、検査器50内には、RFID(radio frequency identifier)のRFタグ読取器37が設けられており、RFタグ読取器37は各々のスチームトラップに取り付けられているRFタグのデータを読み取って制御部30に与える。
【0030】
液晶部51の入力領域56を通じて入力された指示は制御部30に取り込まれる。また、制御部30は表示領域57の表示を制御する。そして、制御部30は処理プログラムに従い、メモリ32へのデータの記録やデータの更新を行いながら所定の処理を実行する。なお、メモリ32には、
図5に示す、スチームトラップの重要度と差基準値Dとの対応関係を示すデータテーブルが予め登録されている。また、FFT処理部33は、メモリ32から取り込んだデータについてFFT(高速フーリエ変換)処理を行い、FFT波形を生成する。
【0031】
(検査処理及び姿勢判定処理の説明)
続いて、
図6のフローチャートに従い、制御部30が実行する検査処理及び姿勢判定処理の内容を説明する。本実施形態においては、配管系統の随所に設けられているスチームトラップに、各々、予め「重要度A」、「重要度B」又は「重要度C」のいずれかが付与されている。この重要度は、前述のように、それぞれのスチームトラップに取り付けられているRFタグに記録されている。重要度Aが最も重要性が高いことを示しており、重要度Cが重要性の低いことを示している。重要度Bはその中間的な重要性であることを示している。
【0032】
すなわち、重要度Aは、たとえば配管上のタービンの前後に直接的に設けられているようなスチームトラップに付与されている。このようなスチームトラップに作動不良が生じ、ドレンが適正に排出することができなくなった場合、タービンの故障を招き深刻な事態に至る危険がある。また、重油等の高粘性流体の凝固を回避するためのトレース配管に設けられているスチームトラップに関しても、スチームトラップの作動不良は確実に回避すべきであるため重要度Aが与されている。このような重要度Aのスチームトラップについては、作動不良の検査にあたってより高い精度が求められる。
【0033】
これに対して重要度Cは、たとえば配管末端の出口の近傍に設けられているようなスチームトラップに付与されており、このようなスチームトラップに、仮に排出不良又は密閉不良といった作動不良が生じたとしても、それほど大きな不都合が直ちに生じるわけではないことから、重要度は最も低い「C」として設定されている。このような重要度Cのスチームトラップについては、作動不良の検査にあたり、検査精度よりも検査の迅速性や効率性を優先することが許される。
【0034】
重要度Bは、重要度Aと重要度Cとの中間的な重要性のスチームトラップに付与されており、重要度Aほどの高い重要性はないものの、重要度Cに比較すれば重要性は高いと判断されるスチームトラップであることを示している。
【0035】
スチームトラップの検査を行う場合、まず検査者は検査器50を持ち、検査対象となるスチームトラップに検査器50を近づける。各スチームトラップに取り付けられているRFタグには、そのスチームトラップの重要度を示す重要度データが記録されているため、検査器50のRFタグ読取器37がその重要度データを読み取り、制御部30に与える(
図4参照)。制御部30はこの重要度データをメモリ32に記憶する(ステップS1、S2)。今、仮に検査対象となるスチームトラップのRFタグに重要度Aが記録されており、制御部30に重要度Aの重要度データが与えられ、これをメモリ32に記憶したとする。
【0036】
次に、制御部30は、測定スイッチがONになったか否かを判別する(ステップS3)。本実施形態においては、検査器50に設けられている検出針2が埋没したとき測定スイッチがONになる。すなわち、スチームトラップのRFタグに記録されている重要度データを読み取った後、検査者が検査器50のプローブ先端10aをスチームトラップの測定面60に押し当てることによって、検出針先端2aが保護管11内に十分に埋没し、制御部30はこれを認識して測定スイッチがONになったと判断する。
【0037】
そして、測定時間をカウントするためにタイマーをスタートし(ステップS4)、スチームトラップの測定面60における振動データ及び温度データをそれぞれ振動センサ20、温度センサ40を通じて取り込み、これらをメモリ32に記憶する(ステップS5)。これと共に、制御部30は、三軸加速度センサ35から検査器50の傾斜を示すxデータ、yデータ及びzデータを得て、傾斜データの値x、y、zの二乗和(x2+y2+z2)を求めてメモリ32に記憶する(ステップS6)。なお、以後の計算処理は、傾斜データの二乗和に代えて、傾斜データの二乗和平方根や二乗平均平方根を求めて行うようにしてもよい。
【0038】
この振動データ及び温度データの取得・記憶、及び傾斜データの取得・二乗和の演算・記憶の処理を、測定時間のカウントから15秒が経過するまで繰り返す(ステップS7)。スチームトラップ内のフロートの浮上によるドレンの排出が数秒間に一度行われていることから、排出不良や密閉不良を確実に検出するため、15秒間にわたって各データを取得する。
【0039】
15秒間の各データの検出を繰り返した後、制御部30は、ステップS6において求めたすべての傾斜データの値x、y、zの二乗和(x
2+y
2+z
2)についてFFT(高速フーリエ変換)処理を行って傾斜データの二乗和に関するFFT波形を得る(ステップS8)。本実施形態において、たとえば
図7に示すようなFFT波形を得たとする。検査器50は検査者が手で保持して測定面60に押し当てているため、15秒の間に検査器50に揺れが生じ、これに応じて傾斜データは
図7に示すようなFFT波形となって現れる。
【0040】
次に、制御部30はFFT波形中の最大値Y2と最小値Y1との差を差値Ydとして求め、この差値Ydが差基準値Dよりも小さいか否かを判別する(ステップS9、S10)。ここで、差基準値Dは、ステップS1で読み取ったスチームトラップの重要度に対応した差基準値「D1」、「D2」又は「D3」のいずれかが選択される。「重要度A」に対応する「D1」の値が最も小さく、「重要度C」に対応する「D3」の値が最も大きい。「重要度B」に対応する「D2」は、「D1」と「D3」との中間の値である。すなわち、「重要度A」に対応する基準値が最も緩く設定されており、「重要度C」に対応する基準値が最も厳しく設定されている。「重要度B」に対応する基準値は、「重要度A」と「重要度C」との中間の値に設定されている。
【0041】
ここでは、ステップS1において重要度Aを読み取っていると仮定したため、差基準値D1を選択し、制御部30はステップS10で差値Ydが差基準値D1よりも小さいか否かを判別することになる。
図7に示す例においては、差値Ydが差基準値D1よりも大きいため、ステップS13に進み、「傾斜によるエラー」の表示を行う。
【0042】
すなわち、差値Ydが差基準値D1よりも大きいことから、検査器50の揺れによる傾斜の度合いが大きく、検査時における検査器50の姿勢が不適正であったと判断することができる。これによって、制御部30は、ステップS5で得た振動データや温度データが基準を満たさない不正確なデータであると判定する。このため、スチームトラップの作動不良の判定(ステップS11)は行わず、液晶部51の表示領域57(
図1、
図4)にエラー表示を行って、検査者に検査のやり直しを促す。
【0043】
そして、検査のやり直しを経て、差値Ydが差基準値D1よりも小さい結果を得たとき、検査時における検査器50の姿勢が適正であったと判断する。これによって、ステップS10からステップS11に進み、スチームトラップの作動不良の判定を行う。スチームトラップの作動不良の判定は、ステップS5で得た振動データ及び温度データと、予め登録されている基準振動データ及び基準温度データとの比較に基づいて行われる。この判定に基づき、スチームトラップの作動の判定結果(良又は不良)を液晶部51の表示領域57に表示し(ステップS12)、処理を終了する。
【0044】
上述の例では、ステップS1で読み取ったスチームトラップの重要度が「A」であった場合を示したが、仮に読み取った重要度が「C」であった場合、制御部30はステップS10で差基準値Dとして「D3」を選択することになる(
図5参照)。前述のように、スチームトラップの重要度Cはスチームトラップの設置場所等から見て、重要度が比較的低いことを示している。したがって、検査精度よりも検査の迅速性や効率性を優先するために、判定の許容範囲が広くなるように「D3」の値は大きく設定されている。
【0045】
すなわち、
図7に例示する波形に対して、数値差Ydと差基準値D3とを比較した場合、差値Ydは差基準値D3よりも小さいため、検査器50の揺れによる傾斜の度合いは、検査対象となっているスチームトラップの重要度との関係から見て許容範囲内にあると判断することができる。このため、制御部30はステップS10の処理において検査器50の姿勢が適正であったと判定して、ステップS11に進み、スチームトラップの作動不良の判定を行う。そして、この判定に基づき、スチームトラップの作動の良又は不良を液晶部51の表示領域57に表示し(ステップS12)、処理を終了する。
【0046】
また、ステップS1で読み取ったスチームトラップの重要度が「B」であった場合、制御部30はステップS9で差基準値Dとして「D2」を選択する。そして、
図7に例示するFFT波形について、数値差Ydと差基準値D2とを比較した場合、差値Ydは差基準値D2よりも小さいため、検査器50の揺れによる傾斜の度合いは、許容範囲内にあると判断し、制御部30はステップS11に進み、スチームトラップの作動不良の判定を行う。そして、スチームトラップの作動の良又は不良を液晶部51の表示領域57に表示し(ステップS12)、処理を終了する。
【0047】
[第2の実施形態]
次に、本願に係る姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法の第2の実施形態を
図8ないし
図10に基づいて説明する。本実施形態における検査器50の構成は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0048】
本実施形態では、メモリ32に予め
図8に示すデータテーブルが登録されている。このデータテーブルは、スチームトラップの重要度と総和基準値Suとの対応関係が定められている。重要度Aに対応する総和基準値Su1が最も小さく、重要度Cに対応する総和基準値Su3が最も大きい。重要度Bに対応する総和基準値Su2は、Su1とSu3との中間の値である。また、本実施形態においては、メモリ32に上限値a2及び下限値a1が予め登録されている。
【0049】
本実施形態における
図9のプログラムのフローチャートのうち、ステップS1ないしステップS8は、前述の第1の実施形態におけるプログラムのフローチャート(
図6)と同様である。本実施形態のステップS8において得たFFT波形は、たとえば第1の実施形態において例示した
図7のFFT波形と同様の波形であるとする(
図10)。
【0050】
本実施形態において制御部30は、ステップS29の処理で、
図10に示す上限値a2を上回る上側領域As2の面積、及び下限値a1を下回る下側領域As1の面積の総和を、積分によって範囲外総和値Asとして求める。ここで、上側領域As2とは上限値a2を上回るFFT波形部分と上限値a2を示す直線とによって囲まれた領域であり、下側領域As1とは下限値a1を下回るFFT波形部分と上限値a1を示す直線とによって囲まれた領域である。
【0051】
そして、この範囲外総和値Asが総和基準値Suよりも小さいか否かを判別する(ステップS30)。ここで、総和基準値Suは、ステップS1で読み取ったスチームトラップの重要度に対応した総和基準値「Su1」、「Su2」又は「Su3」のいずれかが選択される。仮に、ステップS1において、「重要度A」を読み取っていたとすると、ここでは総和基準値Su1を選択し、制御部30はステップS30で範囲外総和値Asが総和基準値Su1よりも小さいか否かを判別することになる。本実施形態においては、範囲外総和値Asが総和基準値Su1よりも大きいものとし、ステップS13に進んで「傾斜によるエラー」の表示を行う。
【0052】
すなわち、範囲外総和値Asが総和基準値Su 1よりも大きいことから、検査器50の揺れによる傾斜の度合いが大きく姿勢が不適正であったと判断することができ、ステップS5で得た振動データや温度データが基準を満たさない不正確なデータであると判定する。このため、スチームトラップの作動不良の判定(ステップS11)は行わず、液晶部51の表示領域57(
図1、
図4)にエラー表示を行って、検査者に検査のやり直しを促す。
【0053】
そして、検査のやり直しを経て、範囲外総和値Asが総和基準値Su1よりも小さい結果を得たとき、ステップS30からステップS11、ステップS12に進む。ステップS11及びステップS12の処理は前述の第1の実施形態における内容と同様である。
【0054】
上述の例では、ステップS1で読み取ったスチームトラップの重要度が「A」であった場合を示したが、仮に読み取った重要度が「C」であった場合、制御部30はステップS30で総和基準値Suとして「Su3」を選択することになる(
図8参照)。前述のように、スチームトラップの重要度「C」はスチームトラップの設置場所等から見て、重要度が比較的低いことを示している。したがって、検査精度よりも検査の迅速性や効率性を優先するために、判定の許容範囲が広くなるように「Su3」の値は大きく設定されている。
【0055】
そして、たとえば範囲外総和値Asが総和基準値Su3よりも小さいものとした場合、検査器50の揺れによる傾斜の度合いは、検査対象となっているスチームトラップの重要度との関係から見て許容範囲内にあると判断することができる。このため、制御部30はステップS10の処理において検査器50の姿勢が適正であったと判定して、ステップS11、ステップS12に進む。
【0056】
また、ステップS1で読み取ったスチームトラップの重要度が「B」であった場合は、ステップS30で総和基準値Suとして「Su2」を選択し(
図8参照)、範囲外総和値Asがこの総和基準値Su2よりも小さいか否かを判別して以後の処理を行う。
【0057】
なお、本実施形態においては、スチームトラップの重要度に対応して、異なる総和基準値「Su1」、「Su2」又は「Su3」を対応させることによって、スチームトラップの重要度によって対比基準データの許容範囲に広狭を設けたが、スチームトラップの重要度に対応させて異なる上限値及び下限値(
図9)を設定しておき、スチームトラップの重要度に応じて上限値及び下限値を選択することによって、対比基準データの許容範囲に広狭を設けることもできる。
【0058】
[その他の実施形態]
上述の実施形態においては、各々のスチームトラップに取り付けられているRFタグに重要度データを記録した例を示したが、バーコードやQRコード(登録商標)に記録して各スチームトラップに取り付け、これらを専用の読取器を用いて読み取って制御部が重要度データを認識してもよい。また、各々のスチームトラップにその重要度を表示した表示部を設けておき、検査者がこれを視認した上、液晶部51の入力領域56からタッチ操作によって入力してもよい。
【0059】
また、上述の実施形態においては、傾斜データの値x、y、zの二乗和についてFFT処理を行ってFFT波形を生成したが、傾斜データの値x、y、zの二乗和を、横軸を時間、縦軸を二乗和の値とするグラフにそのまま表し、これらを連続させた波形をFFT波形の代わりに用いてもよい。
【0060】
上述の実施形態においては、スチームトラップの検査器に、本願に係る姿勢判定機能付き検査装置及び検査装置の姿勢判定方法を適用した例を掲げたが、対象物に対し、所定の適正基本姿勢をもって検査処理を実行する検査装置である限り、他の検査装置に適用することもできる。
【0061】
また、上述の実施形態においては、傾斜検出手段として三軸加速度センサを例示したが、検査装置の適正基本姿勢に対する姿勢の傾きを検出して傾斜データを出力するものであれば他の構成を採用してもよい。
【0062】
さらに、上述の実施形態においては、スチームトラップの重要度(種別データ)に対応させて差基準値D(
図5)や総和基準値Su(
図8)を複数、設定した例を示したが、姿勢の適正判定に関する一定の許容範囲を有しており、対応する種別データによって許容範囲に広狭があるものであれば他の構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0063】
30:制御部 32:メモリ 35:三軸加速度センサ 37:RFタグ読取器
50:検査器 70:垂直 As:範囲外総和値 a1:下限値 a2:上限値
D:差基準値 Su:総和基準値 Yd:差値