(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】無呼吸状態検出システム及び安眠提供システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/08 20060101AFI20220727BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20220727BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20220727BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20220727BHJP
A61M 21/00 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/16 130
A61B5/0245 100D
A61B5/107 300
A61M21/00 A
(21)【出願番号】P 2018233694
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(74)【代理人】
【識別番号】100201237
【氏名又は名称】吉井 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 太志
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 亮
(72)【発明者】
【氏名】安東 賢太郎
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-051387(JP,A)
【文献】国際公開第2011/027438(WO,A1)
【文献】特開2007-167185(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0113838(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
A61B 5/02 - 5/0295
A61M 21/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の無呼吸状態を検出する無呼吸状態検出システムであって、対象者の心臓の拍動間隔を測定する拍動間隔測定手段と、前記拍動間隔測定手段により測定した前記拍動間隔から、呼吸の周期程度の所定の時間Xで平均した短時間平均拍動間隔を算出する短時間平均拍動間隔演算手段と、前記時間Xよりも長い所定の時間Yで平均した長時間平均拍動間隔を算出する長時間平均拍動間隔演算手段と、前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差を演算する拍動間隔谷演算手段と、前記拍動間隔谷演算手段で得られた前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差の時系列のうち、所定の谷深さ閾値Vよりも小さい値が存在している箇所を1個の拍動間隔谷と判定する拍動間隔谷判定手段と、所定の判定時間内に前記拍動間隔谷判定手段で判定された拍動間隔谷の数を積算する所定判定時間内谷数積算手段と、前記所定判定時間内谷数積算手段で積算した拍動間隔谷の数を所定の異常谷数閾値Pと比較し、前記拍動間隔谷の数が前記異常谷数閾値P以上ならば無呼吸状態であると判定する谷数比較手段とを備えたことを特徴とする無呼吸状態検出システム。
【請求項2】
請求項1記載の無呼吸状態検出システムにおいて、前記拍動間隔谷判定手段は、前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差の時系列のうち、前記谷深さ閾値Vよりも小さい値が、所定の谷判定閾値Q以上連続して存在している箇所を1個の拍動間隔谷と判定するように構成されていることを特徴とする無呼吸状態検出システム。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の無呼吸状態検出システムにおいて、対象者の姿勢を測定する姿勢測定手段と、前記姿勢測定手段から得られた姿勢から立位か伏臥位か側臥位かを判定する体位判定手段と、前記拍動間隔測定手段により測定した前記拍動間隔の時系列から、前記体位判定手段によって得られた体位情報に基づき、立位,伏臥位若しくは側臥位のいずれかの体位のときの拍動間隔を除外し、当該拍動間隔が除外された前記拍動間隔の時系列を前記短時間平均拍動間隔演算手段及び前記長時間平均拍動間隔演算手段に転送する所定体位拍動間隔除外手段とを備えたことを特徴とする無呼吸状態検出システム。
【請求項4】
請求項1,2いずれか1項に記載の無呼吸状態検出システムにおいて、対象者の姿勢を測定する姿勢測定手段と、前記姿勢測定手段から得られた姿勢の時系列から体動を検出する体動検出手段と、前記拍動間隔測定手段により測定した前記拍動間隔の時系列から、前記体動検出手段によって検出された体動が発生した時刻から所定の前後の時間の拍動間隔を除外し、当該拍動間隔が除外された前記拍動間隔の時系列を前記短時間平均拍動間隔演算手段及び前記長時間平均拍動間隔演算手段に転送する体動時拍動間隔除外手段とを備えたことを特徴とする無呼吸状態検出システム。
【請求項5】
請求項1,2いずれか1項に記載の無呼吸状態検出システムにおいて、対象者の姿勢を測定する姿勢測定手段と、
前記姿勢測定手段から得られた姿勢から立位か伏臥位か側臥位かを判定する体位判定手段と、前記拍動間隔測定手段により測定した前記拍動間隔の時系列から、前記体位判定手段によって得られた体位情報に基づき、立位,伏臥位若しくは側臥位のいずれかの体位のときの拍動間隔を除外し、当該拍動間隔が除外された前記拍動間隔の時系列を前記短時間平均拍動間隔演算手段及び前記長時間平均拍動間隔演算手段に転送する所定体位拍動間隔除外手段と、
前記姿勢測定手段から得られた姿勢の時系列から体動を検出する体動検出手段と、前記拍動間隔測定手段により測定した前記拍動間隔の時系列から、前記体動検出手段によって検出された体動が発生した時刻から所定の前後の時間の拍動間隔を除外し、当該拍動間隔が除外された前記拍動間隔の時系列を前記短時間平均拍動間隔演算手段及び前記長時間平均拍動間隔演算手段に転送する体動時拍動間隔除外手段とを備えたことを特徴とする無呼吸状態検出システム。
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項に記載の無呼吸状態検出システムにおいて、前記谷深さ閾値Vは、前記長時間平均拍動間隔演算手段から算出された長時間平均拍動間隔の関数であることを特徴とする無呼吸状態検出システム。
【請求項7】
対象者の無呼吸状態を解消して安眠を提供する安眠提供システムであって、対象者の心臓の拍動間隔を測定する拍動間隔測定手段と、前記拍動間隔測定手段により測定した前記拍動間隔から、呼吸の周期程度の所定の時間Xで平均した短時間平均拍動間隔を算出する短時間平均拍動間隔演算手段と、前記時間Xよりも長い所定の時間Yで平均した長時間平均拍動間隔を算出する長時間平均拍動間隔演算手段と、前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差を演算する拍動間隔谷演算手段と、前記拍動間隔谷演算手段で得られた前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差の時系列のうち、所定の谷深さ閾値Vよりも小さい値が存在している箇所を1個の拍動間隔谷と判定する拍動間隔谷判定手段と、所定の判定時間内に前記拍動間隔谷判定手段で判定された拍動間隔谷の数を積算する所定判定時間内谷数積算手段と、前記所定判定時間内谷数積算手段で積算した拍動間隔谷の数を所定の異常谷数閾値Pと比較し、前記拍動間隔谷の数が前記異常谷数閾値P以上ならば無呼吸状態であると判定する谷数比較手段と、前記谷数比較手段が無呼吸状態であると判定したときに、音または振動を発生し対象者をわずかに覚醒させることによって無呼吸状態を解消し眠りを改善する刺激手段とを備えたことを特徴とする安眠提供システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無呼吸状態検出システム及び安眠提供システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の潜在患者数は、治療が必要なものに限定しても256万人いると言われている。SAS患者の交通事故発生率は、健常者の約7倍と有意に高く、また薬剤抵抗性高血圧、心不全、心房細動、高血圧、冠動脈疾患、糖尿病などの様々な生活習慣病が合併する。無呼吸状態を改善する装置で逐次無呼吸状態を通知し、眠りを改善すれば交通事故を避けることができるし、職場の健康診断などによる検診でSASを早期発見できれば、成人病などによる経済損失を減少できる。
【0003】
ところで、SASには、閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)および中枢性睡眠時無呼吸症候群があるが、いずれの場合も拍動間隔に周期的な変動があり、CVHR(Cyclic Variation of Heart Rate)と呼ばれている。このCVHRは25から120秒の周期性があり、心拍変動のパワースペクトラム密度を0.008から0.04Hzまで積分して得られるVLFの帯域と一致している。実際にこの特徴に基づいてSASを検出する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
このようなCVHRの特徴を利用してSASを検出するには長時間心電図を用いる方法があるが、長時間心電図を取得するには高価なホルター心電計が必要であり、心電図から拍動間隔を導出しさらにVLFを計算するには扱うデータ量が膨大で、多くの人が同時に受診する健康診断では用いることができない。
【0005】
また、人は睡眠中寝返りが生じ、このようなときに心電図にアーチファクトが混入するため、VLFを正しく計算できないことがある。さらに、OSASではうつぶせ(伏臥位)や横向き(側臥位)で寝ているとき無呼吸状態にならない。
【0006】
またSASは、前述の通り心房細動も合併することがあるので、健康診断においてこれを同時に検出することも期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-160650号公報
【文献】特許第6150825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、CVHRの特徴を拍動間隔から簡単な演算で検出して無呼吸状態の有無を把握でき、例えば、人の姿勢も同時に解析してアーチファクトによる誤検出なく眠りを改善したり、健康診断で用いることのできる(特許文献2等に開示される)心房細動検出システムと併用したりすることも可能な実用的な無呼吸状態検出システム及び安眠提供システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0010】
対象者の無呼吸状態を検出する無呼吸状態検出システム1であって、対象者の心臓の拍動間隔を測定する拍動間隔測定手段4と、前記拍動間隔測定手段4により測定した前記拍動間隔から、呼吸の周期程度の所定の時間Xで平均した短時間平均拍動間隔を算出する短時間平均拍動間隔演算手段8と、前記時間Xよりも長い所定の時間Yで平均した長時間平均拍動間隔を算出する長時間平均拍動間隔演算手段9と、前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差を演算する拍動間隔谷演算手段10と、前記拍動間隔谷演算手段10で得られた前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差の時系列のうち、所定の谷深さ閾値Vよりも小さい値が存在している箇所を1個の拍動間隔谷と判定する拍動間隔谷判定手段11と、所定の判定時間内に前記拍動間隔谷判定手段11で判定された拍動間隔谷の数を積算する所定判定時間内谷数積算手段14と、前記所定判定時間内谷数積算手段14で積算した拍動間隔谷の数を所定の異常谷数閾値Pと比較し、前記拍動間隔谷の数が前記異常谷数閾値P以上ならば無呼吸状態であると判定する谷数比較手段16とを備えたことを特徴とする無呼吸状態検出システムに係るものである。
【0011】
また、請求項1記載の無呼吸状態検出システムにおいて、前記拍動間隔谷判定手段11は、前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差の時系列のうち、前記谷深さ閾値Vよりも小さい値が、所定の谷判定閾値Q以上連続して存在している箇所を1個の拍動間隔谷と判定するように構成されていることを特徴とする無呼吸状態検出システムに係るものである。
【0012】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の無呼吸状態検出システムにおいて、対象者の姿勢を測定する姿勢測定手段19と、前記姿勢測定手段19から得られた姿勢から立位か伏臥位か側臥位かを判定する体位判定手段23と、前記拍動間隔測定手段4により測定した前記拍動間隔の時系列から、前記体位判定手段23によって得られた体位情報に基づき、立位,伏臥位若しくは側臥位のいずれかの体位のときの拍動間隔を除外し、当該拍動間隔が除外された前記拍動間隔の時系列を前記短時間平均拍動間隔演算手段8及び前記長時間平均拍動間隔演算手段9に転送する所定体位拍動間隔除外手段24とを備えたことを特徴とする無呼吸状態検出システムに係るものである。
【0013】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の無呼吸状態検出システムにおいて、対象者の姿勢を測定する姿勢測定手段19と、前記姿勢測定手段19から得られた姿勢の時系列から体動を検出する体動検出手段25と、前記拍動間隔測定手段4により測定した前記拍動間隔の時系列から、前記体動検出手段25によって検出された体動が発生した時刻から所定の前後の時間の拍動間隔を除外し、当該拍動間隔が除外された前記拍動間隔の時系列を前記短時間平均拍動間隔演算手段8及び前記長時間平均拍動間隔演算手段9に転送する体動時拍動間隔除外手段26とを備えたことを特徴とする無呼吸状態検出システムに係るものである。
【0014】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の無呼吸状態検出システムにおいて、対象者の姿勢を測定する姿勢測定手段19と、
前記姿勢測定手段19から得られた姿勢から立位か伏臥位か側臥位かを判定する体位判定手段23と、前記拍動間隔測定手段4により測定した前記拍動間隔の時系列から、前記体位判定手段23によって得られた体位情報に基づき、立位,伏臥位若しくは側臥位のいずれかの体位のときの拍動間隔を除外し、当該拍動間隔が除外された前記拍動間隔の時系列を前記短時間平均拍動間隔演算手段8及び前記長時間平均拍動間隔演算手段9に転送する所定体位拍動間隔除外手段24と、
前記姿勢測定手段19から得られた姿勢の時系列から体動を検出する体動検出手段25と、前記拍動間隔測定手段4により測定した前記拍動間隔の時系列から、前記体動検出手段25によって検出された体動が発生した時刻から所定の前後の時間の拍動間隔を除外し、当該拍動間隔が除外された前記拍動間隔の時系列を前記短時間平均拍動間隔演算手段8及び前記長時間平均拍動間隔演算手段9に転送する体動時拍動間隔除外手段26とを備えたことを特徴とする無呼吸状態検出システムに係るものである。
【0015】
また、請求項1~5いずれか1項に記載の無呼吸状態検出システムにおいて、前記谷深さ閾値Vは、前記長時間平均拍動間隔演算手段9から算出された長時間平均拍動間隔の関数であることを特徴とする無呼吸状態検出システムに係るものである。
【0016】
また、対象者の無呼吸状態を解消して安眠を提供する安眠提供システムであって、対象者の心臓の拍動間隔を測定する拍動間隔測定手段4と、前記拍動間隔測定手段4により測定した前記拍動間隔から、呼吸の周期程度の所定の時間Xで平均した短時間平均拍動間隔を算出する短時間平均拍動間隔演算手段8と、前記時間Xよりも長い所定の時間Yで平均した長時間平均拍動間隔を算出する長時間平均拍動間隔演算手段9と、前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差を演算する拍動間隔谷演算手段10と、前記拍動間隔谷演算手段10で得られた前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差の時系列のうち、所定の谷深さ閾値Vよりも小さい値が存在している箇所を1個の拍動間隔谷と判定する拍動間隔谷判定手段11と、所定の判定時間内に前記拍動間隔谷判定手段11で判定された拍動間隔谷の数を積算する所定判定時間内谷数積算手段14と、前記所定判定時間内谷数積算手段14で積算した拍動間隔谷の数を所定の異常谷数閾値Pと比較し、前記拍動間隔谷の数が前記異常谷数閾値P以上ならば無呼吸状態であると判定する谷数比較手段16と、前記谷数比較手段16が無呼吸状態であると判定したときに、音または振動を発生し対象者をわずかに覚醒させることによって無呼吸状態を解消し眠りを改善する刺激手段とを備えたことを特徴とする安眠提供システムに係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成したから、CVHRの特徴を拍動間隔から簡単な演算で検出して無呼吸状態の有無を把握できる実用的な無呼吸状態検出システム及び安眠提供システムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図5】CVHRが生じている拍動間隔の時系列を示すグラフである。
【
図6】無呼吸状態の検出方法を説明するためのグラフである。
【
図7】体動によって生じる拍動間隔の変化を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0020】
睡眠時無呼吸症候群(SAS)のために無呼吸状態になると、CVHRと呼ばれる拍動間隔が周期的に大きく増大減少する変動が生じる(変化に山と谷が生じる。)。
図5はCVHRが生じている拍動間隔の時系列を示すもので、横軸は時刻、縦軸は拍動間隔であり、CVHRの発生箇所を括弧で示している。従って、拍動間隔の周期的な変動を探索し(CVHRが生じていることが確認できれば)、SASによる無呼吸状態を検出できる。具体的には、拍動間隔の時系列中に所定深さの谷(深い谷)が周期的に出現するかどうか調べれば良い。
【0021】
本発明者等は、短時間平均拍動間隔と長時間平均拍動間隔との差の時系列中で、所定の谷深さ閾値Vよりも小さい値が存在している箇所(好ましくは谷深さ閾値Vよりも小さい値が所定の谷判定閾値Q以上連続している箇所)を1個の拍動間隔谷とし、所定の判定時間内の拍動間隔谷の数が所定の異常谷数閾値P以上ある場合にCVHRが生じていると判断することが可能であることを確認した。
【0022】
従って、本発明によれば、CVHRが生じていること、即ち、無呼吸状態であることを拍動間隔を用いた簡単な演算で検出可能となる。
【実施例】
【0023】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0024】
本実施例は、対象者の無呼吸状態を検出する無呼吸状態検出システム1であって、対象者の心臓の拍動間隔を測定する拍動間隔測定手段4と、前記拍動間隔測定手段4により測定した前記拍動間隔から、呼吸の周期程度の所定の時間Xで平均した短時間平均拍動間隔を算出する短時間平均拍動間隔演算手段8と、前記時間Xよりも長い所定の時間Yで平均した長時間平均拍動間隔を算出する長時間平均拍動間隔演算手段9と、前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差を演算する拍動間隔谷演算手段10と、前記拍動間隔谷演算手段10で得られた前記短時間平均拍動間隔と前記長時間平均拍動間隔との差の時系列のうち、所定の谷深さ閾値Vよりも小さい値が存在している箇所を1個の拍動間隔谷と判定する拍動間隔谷判定手段11と、所定の判定時間内に前記拍動間隔谷判定手段11で判定された拍動間隔谷の数を積算する所定判定時間内谷数積算手段14と、前記所定判定時間内谷数積算手段14で積算した拍動間隔谷の数を所定の異常谷数閾値Pと比較し、前記拍動間隔谷の数が前記異常谷数閾値P以上ならば無呼吸状態であると判定する谷数比較手段16とを備えたものである。
【0025】
具体的には、本実施例は、
図1に図示したように、拍動間隔測定手段4が設けられた拍動間隔測定用のセンサ2と、短時間平均拍動間隔演算手段8と長時間平均拍動間隔演算手段9と拍動間隔谷演算手段10と拍動間隔谷判定手段11と所定判定時間内谷数積算手段14と谷数比較手段16とが設けられた解析器3とで構成されている。
【0026】
各部を具体的に説明する。
【0027】
センサ2には、拍動間隔測定手段4と、この拍動間隔測定手段4によって測定された拍動間隔データを一時的に保存する拍動間隔保存手段5と、この一時的に保存した拍動間隔データを解析器3の拍動間隔受信手段7に送信する拍動間隔送信手段6とが設けられている。
【0028】
拍動間隔測定手段4は、例えばマイコン等を用いて電極から得られた電圧の変化をもとにした心電図から一つのR波とこれに隣り合う他のR波との間隔、または、一つのS波とこれに隣り合う他のS波との間隔から拍動間隔を測定するように構成されている。従って、センサを小型化して電極を介して皮膚に貼り付ければ、センサを衣服の下に隠すことができ、睡眠に支障を来すことなく測定できる。なお、拍動間隔測定手段4は、例えば赤外線の反射光から脈波を測定し、そのピーク間隔などから拍動間隔を測定するように構成してもよい。この場合、耳たぶや手首や腕などにクリップやバンドでセンサを固定するだけで良く、装着しやすいものとなる。
【0029】
拍動間隔測定手段4によって測定された拍動間隔データは、拍動間隔保存手段5へ逐次転送され一時保存される。検査のためにセンサ2のみを対象者に適用する場合、一時保存する拍動間隔データは半日間程度分となる。この場合、拍動間隔保存手段5は、半導体メモリやテープなどを採用できる。ホルター心電計とは異なり、心電図波形を保存する必要がなく、拍動間隔保存手段5として半導体メモリを用いた場合、非常に小型で低消費電力のメモリを用いることができるので、小型かつ軽量で対象者の負担にならないセンサ2を構成することが可能となる。検査のため、若しくは、無呼吸を改善するための装置を動作させるため、対象者の拍動間隔データからリアルタイムで無呼吸状態か否か判定したい場合は、拍動間隔保存手段5は外部へ拍動間隔データを転送するための一時バッファであるので、例えば、拍動間隔測定手段4のために用いられるマイコン内のランダムアクセスメモリでも良い。この場合は、センサ2をさらに小型かつ軽量化でき、対象者の負担を一層低減できる。
【0030】
拍動間隔保存手段5で一時保存された拍動間隔データは、拍動間隔送信手段6へ転送される。
【0031】
拍動間隔送信手段6は、拍動間隔保存手段5から転送された拍動間隔データを受け取り、解析器3に設けた拍動間隔受信手段7へ転送する。転送方法としては、電波や光を用いた無線や、USBやRS-232Cなどの有線接続を用いることができる。センサ2と解析器3との接続に無線接続を用いたとき、センサ2と解析器3とを物理的に分離でき、センサ2を取り付けられた対象者の負担が小さくなる。従って、検査のため、若しくは、無呼吸を改善するための装置を動作させるため対象者の拍動間隔データからリアルタイムで無呼吸状態か否か判定したい場合に好適である。また、電話回線やインターネットなどの公衆回線を用いることも可能であり、この場合、対象者に対して遠隔に無呼吸状態を検出することが可能となる。また、センサ2と解析器3との接続に有線接続を用いた場合は、拍動間隔データを確実かつ高速に転送できるので、拍動間隔保存手段5に保存された半日間程度分の拍動間隔データを、拍動間隔送信手段6を介して拍動間隔受信手段7へ転送するのに好適である。
【0032】
解析器3には、拍動間隔受信手段7と、短時間平均拍動間隔演算手段8と長時間平均拍動間隔演算手段9と拍動間隔谷演算手段10と拍動間隔谷判定手段11と所定拍動間隔谷深さ保存手段12と所定谷内拍動間隔数保存手段13と所定判定時間内谷数積算手段14と谷数比較手段16と所定谷数保存手段17とが設けられている。解析器3は一連の計算、比較、表示を行う電子計算機や計測器であり、上記各手段を備えた専用の機器、パーソナルコンピュータ、タブレット型のコンピュータ、スマートフォン、携帯電話もしくはインターネット上のサーバなどを採用することができる。
【0033】
拍動間隔受信手段7は、センサ2の拍動間隔送信手段6から拍動間隔データを受信し、短時間平均拍動間隔演算手段8と長時間平均拍動間隔演算手段9とへ転送する。
【0034】
短時間平均拍動間隔演算手段8は、呼吸の周期程度の時間である所定の短時間(時間X)で平均した短時間平均拍動間隔SRを算出する。
【0035】
長時間平均拍動間隔演算手段9は、呼吸の周期程度の時間よりも十分長い所定の長時間(時間Y)で平均した長時間平均拍動間隔LRを算出する。
【0036】
短時間平均拍動間隔演算手段8及び長時間平均拍動間隔演算手段9のいずれの手段も算出したデータを拍動間隔谷演算手段10へ転送する。
【0037】
また、詳細は後述するが、本実施例では、時間Xは例えば4秒から8秒程度に設定する。時間Yを例えばCVHRの周期である25秒から120秒程度に設定する。従って、例えば拍動間隔測定手段4で拍動が検出された毎に測定され蓄積された拍動間隔データを用い、演算時点から過去4秒分の平均拍動間隔を短時間平均拍動間隔SRとし、過去25秒分の平均拍動間隔を長時間平均拍動間隔LRとすることができる。また、短時間平均拍動間隔演算手段8及び長時間平均拍動間隔演算手段9の演算間隔は、例えば拍動が検出された毎に測定された拍動間隔と同間隔とすることができる。
【0038】
拍動間隔谷演算手段10は、短時間平均拍動間隔演算手段8で算出された短時間平均拍動間隔SRと長時間平均拍動間隔演算手段9で算出された長時間平均拍動間隔LRの平均拍動間隔差SR-LRを演算し、その結果を拍動間隔谷判定手段11へ転送する。
【0039】
拍動間隔谷判定手段11は、拍動間隔谷演算手段10で演算された平均拍動間隔差SR-LR(の時系列)のうち、所定拍動間隔谷深さ保存手段12に保存された所定の谷深さ閾値Vよりも小さい値(拍動間隔)が、所定谷内拍動間隔数保存手段13に保存された所定の谷判定閾値Q以上連続しているとき、これを1個の拍動間隔谷と判定し、拍動間隔谷判定結果データを所定判定時間内谷数積算手段14へ転送する。所定拍動間隔谷深さ保存手段12に保存された所定の谷深さ閾値Vは解析器3内で保存されているが、この谷深さ閾値Vはユーザが設定しても良い。そうすれば、無呼吸状態の検出感度を調整できる。
【0040】
なお、拍動間隔谷判定手段11は、谷深さ閾値Vよりも小さい値が所定数連続する場合に限らず、1つだけ存在した場合にこれを1個の拍動間隔谷と判定するように構成しても良い。
【0041】
谷深さ閾値Vは、拍動間隔の長時間平均拍動間隔LRの関数V=V(LR)としてもよい。関数V(LR)としては、例えば、αを定数としてV(LR)=αLRやV(LR)=αLR2などを採用できる。所定谷内拍動間隔数保存手段13に保存された所定の拍動間隔数は、後述するように、突発的な拍動間隔谷の検出を防止し、誤検出を防止するために用いられる。従って、対象者の状態によって適宜設定すれば、感度と特異度のバランスのとれた無呼吸状態検出システムを構成できる。
【0042】
所定判定時間内谷数積算手段14は、所定判定時間内に拍動間隔谷判定結果データに幾つの拍動間隔谷が含まれるかカウントし、その結果を谷数比較手段16へ転送する。
【0043】
谷数比較手段16は、所定谷数保存手段17に保存された所定の異常谷数閾値Pと比較し、拍動間隔谷の数が異常谷数閾値P以上ならば無呼吸状態であると判定する。異常谷数閾値Pを小さくすれば、感度は上がるが誤検出の恐れが生じる。また、異常谷数閾値Pを大きくすれば、無呼吸状態における拍動間隔変動周期の短い対象者の無呼吸状態を、より正確に検出することができる。従って、対象者の状態に応じて異常谷数閾値Pを適宜設定すれば、無呼吸状態検出システムの誤検出を避けることができる。
【0044】
谷数比較手段16で判定した無呼吸状態の有無は、無呼吸状態の有無を通知する通知手段18へ転送される。谷数比較手段16と通知手段18は同じ筐体(解析器3)内に配置されていてもよい。この場合、転送方法はプリント配線基板上の配線による。あるいは、谷数比較手段16が含まれる解析器3と、通知手段18とは別体であってもよい。この場合、転送方法としては、電波や光を用いた無線や、USBやRS-232Cなどの有線接続を用いることができる。無線を用いたとき、通知手段18と解析器3を物理的に分離でき、通知手段18のみを枕元に置くことで対象者にとって利便性の高い無呼吸状態検出システムとなる。また、電話回線やインターネットなどの公衆回線を用いることも可能であり、この場合、対象者に対して遠隔に無呼吸状態を検出しつつ、結果のみを対象者へ通知することができるので、対象者は解析器3の配置などの手間がない。有線接続を用いたとき、解析器3から通知手段18へ電力供給もできるので、無呼吸状態を検出した場合にベッドを揺らすなどが可能になり、通知方法の多様性が増す。
【0045】
通知手段18としては、例えば文字や画像などを表示するディスプレイを用いることができる。この場合、拍動間隔データと無呼吸状態の有無をグラフ表示し、いつ無呼吸状態になったのかをわかりやすく示すことができる。また、通知手段18として、光や音や振動を用いることもできる。この場合、無呼吸状態を直ちに通知できる。
【0046】
また、通知手段18と共に、若しくは、通知手段18を設けずに、無呼吸状態を検出した際に対象者をわずかに覚醒する程度(睡眠状態を継続できる程度)に、音や振動を発生させたり、枕やベッドをわずかに傾けたりする刺激手段を設けた場合には、無呼吸状態を検出した際に対象者の無呼吸状態を解消し眠りを改善する効果が得られることになり、対象者の無呼吸状態を解消して安眠を提供する安眠提供システムを実現可能となる。
【0047】
本実施例による無呼吸状態の検出方法について詳述する。
【0048】
上述したように、SASによる無呼吸状態を検出するには、拍動間隔の時系列中に所定深さの谷(深い谷)が周期的に出現するかどうか調べれば良い。
【0049】
この方法を
図6に従って説明する。「深い谷」を検出するには、谷の深さの測り方が必要である。谷の深さを測るための深さの基準として、拍動間隔の日内変動を考慮し、所定の長時間における拍動間隔の平均を用いる。所定の長時間(時間Y)は、CVHRの周期である25秒から120秒程度が好適である。拍動間隔と、谷の深さを測るための基準とした所定の長時間における拍動間隔の平均との差が、所定の値より小さいひとまとまりを1つの谷とすることができる。しかし、拍動間隔には常に呼吸性不整脈が含まれるため、これに伴う拍動間隔の増減がいちいち谷として識別される恐れがある。そこで、呼吸性不整脈の影響を小さくするため、所定の短時間(時間X)における拍動間隔の平均を用いる。所定の短時間は、呼吸の周期が4秒程度なので、4秒から8秒が好適である。前述したいずれの拍動間隔の平均も、次のように求めることができる。
【0050】
つまり、時刻tの拍動間隔の平均Rバー(t)を求める方法は単純平均でも良く、拍動間隔の時系列をR(ti)、平均時間をTとして、
【0051】
【0052】
を採用することができる。ここで、インデックスiは何番目に測定されたかを表し、tiはi番目に測定された時刻である。また、n(t,T)は、時刻t-Tから時刻tまでに測定された拍動間隔の個数を表す。また、片側ガウス分布を用いた加重平均でも良い。この場合時刻tの平均拍動間隔Rバー(t)は、
【0053】
【0054】
で表され、時間的により一層滑らかな平均拍動間隔Rバー(t)が得られる。
図6では、所定の短時間における拍動間隔の平均、短時間平均拍動間隔SRを、T=5sとした式(1)を使って求め、所定の長時間における拍動間隔の平均、長時間平均拍動間隔LRを、T=60sとした式(1)を使って求めたものを示している。
【0055】
無呼吸によって生じる拍動間隔の「深い谷」は、短時間平均拍動間隔SRと長時間平均拍動間隔LRとの差が、所定の値V(谷深さ閾値V)よりも小さい、SR-LR<Vの部分である。ところで、拍動間隔の変動は、心拍数が大きければ(平均拍動間隔が小さければ)小さく、心拍数が小さければ(平均拍動間隔が大きければ)大きい。従って、「深い谷」を判定するための所定の値Vは、長時間における拍動間隔の平均LRに応じて変化する、関数V=V(LR)でもよい。関数V(LR)としては、例えば、αを定数としてV(LR)=αLRやV(LR)=αLR2などを採用できる。
【0056】
図6では、V(LR)=-0.00009LR
2として、AとBの2カ所の谷を検出している。さらに、SR-LR<Vによって探索した谷であっても、レム睡眠時によって生じた突発的な谷である可能性がある。これを避けるために、SR-LR<Vに含まれる拍動間隔のデータが、所定の数Q(谷判定閾値Q)以上連続しているときに、無呼吸状態によって生じた「深い谷」の候補と判定する。所定の数Qは、突発的な谷を検出しないためであるから、2以上が好適である。
図6のAとBの箇所は、拍動間隔データ(SR-LRの時系列)が連続で2以上含まれている。最後に、SASの特徴であるCVHRは、拍動間隔が周期的に大きく増大減少することであるので、所定の判定時間内に、所定の数P(異常谷数閾値P)以上の「深い谷」を検出したときに無呼吸状態と判定すればよい。所定の判定時間は、CVHRの周期が25秒から120秒程度であることから、120秒以上が好適である。所定の数Pは、「深い谷」が繰り返しているか調べたいので、2以上が好適である。
図6では、120秒の間にAとBの2カ所の「深い谷」があり、無呼吸と判定できる。
【0057】
【0058】
閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)である対象者が、側臥位や伏臥位で睡眠しているときは、無呼吸状態にならない。従って、対象者の姿勢が仰臥位かどうか検知できれば、より一層誤検出の少ない無呼吸状態検出システムを構成できる。
【0059】
図2に示す別例1は、
図1の無呼吸状態検出システム1に、拍動間隔を測定するのと同時に対象者の姿勢を測定する姿勢測定手段19と、姿勢測定手段19によって得られた姿勢から、立位か伏臥位か側臥位かを判定する体位判定手段23と、拍動間隔測定手段4により測定した拍動間隔の時系列から、体位判定手段23によって得られた姿勢状態(体位情報)に基づき、立位,伏臥位若しくは側臥位のいずれか、または、立位,伏臥位及び側臥位すべての状態のとき(仰臥位でないとき)の拍動間隔を除外し、当該拍動間隔が除外された除外後の前記拍動間隔の時系列を短時間平均拍動間隔演算手段8及び長時間平均拍動間隔演算手段9に転送する所定体位拍動間隔除外手段24とを備えたものである。
【0060】
具体的に、
図2に示すセンサ2には、本実施例(
図1)のセンサ2に、姿勢測定手段19と姿勢保存手段20と姿勢送信手段21とが付加されている。また、
図1の解析器3に、姿勢受信手段22と体位判定手段23と所定体位拍動間隔除外手段24とが付加されている。
【0061】
センサ2の姿勢測定手段19は、対象者の姿勢を測定できるデバイスであり、例えばMEMSの3軸加速度センサを使用することができる。このようなセンサは軽量、小型、低消費電力なので、被験者の負担は小さいものになる。
【0062】
姿勢測定手段19によって測定された姿勢データは、姿勢保存手段20へ逐次転送され一時保存される。センサ2を軽量、小型かつ低消費電力とするため、姿勢保存手段20は拍動間隔保存手段5と共通でもよい。
【0063】
姿勢保存手段20で一時保存された姿勢データは、姿勢送信手段21へ転送される。この転送経路は、センサ2を軽量、小型かつ低消費電力とするため、拍動間隔保存手段5と拍動間隔送信手段6の転送経路と共通でもよい。
【0064】
姿勢送信手段21は、姿勢保存手段20から転送された姿勢データを受け取り、解析器3に設けた姿勢受信手段22へ転送する。センサ2を軽量、小型かつ低消費電力とするため、姿勢送信手段21と拍動間隔送信手段6とを一体とし、更に、姿勢受信手段22と拍動間隔受信手段7とを一体としても良い。このとき、姿勢送信手段21から姿勢受信手段22への転送経路は、拍動間隔送信手段6から拍動間隔受信手段7への転送経路と共通となる。
【0065】
姿勢受信手段22で受信した姿勢データは体位判定手段23へ転送される。体位判定手段23は、対象者が仰臥位で寝ているかどうかを判定する。例えば、姿勢測定手段19が重力に対しても感度を持つ3軸加速度センサで構成され、x,y,z軸の出力それぞれを、対象者の右から左、対象者の足から頭、対象者の胸から背中の方向へ一致させ、出力値を(Ax,Ay,Az)とする。もし、対象者が臥位であれば、対象者の足から頭の方向には重力加速度は0に近いので、
【0066】
【0067】
を満たす。対象者が仰臥位かそれ以外かは、AxとAzの合成ベクトルの向く角度から判定できる。合成ベクトルの角度θを
【0068】
【0069】
として、
【0070】
【0071】
ならば仰臥位と判定できる。つまり式(3)と式(5)を満たせば仰臥位である。
【0072】
体位判定手段23は前述のように、姿勢データが仰臥位かそれ以外かを判定し、所定体位拍動間隔除外手段24へ判定結果を転送する。
【0073】
所定体位拍動間隔除外手段24は、体位判定手段23から姿勢データが仰臥位かどうかを受けとると共に、拍動間隔受信手段7から拍動間隔データを受け取り、拍動間隔データから対象者の姿勢が仰臥位でない時間の拍動間隔を除外し、除外後の拍動間隔データを短時間平均拍動間隔演算手段8及び長時間平均拍動間隔演算手段9へ転送する。
【0074】
従って、別例1においては、一層誤検出の少ない無呼吸状態検出システムを実現可能となる。
【0075】
【0076】
対象者が寝返りなどの大きな体動を生じたとき、拍動間隔は大きく増減する。
図7は対象者の寝返りによって生じた拍動間隔の変化と、体動の大きさを示していて、横軸は時刻、左縦軸は体動、右縦軸は拍動間隔である。ここで、体動の大きさは重力加速度を1Gとした単位で表している。寝返りが生じたとき(
図7中、Pで図示)、体動は0.3Gを超えていて、同時におよそ1000ms程度だった拍動間隔が700ms程度まで低下している。このような拍動間隔の変化はCVHRで生じる拍動間隔の増減に酷似している。大きな体動時の拍動間隔を除外すれば、誤検出の少ない無呼吸状態検出システムを構成することができる。
【0077】
図3に示す別例2は、
図1に示す無呼吸状態検出システム1に、拍動間隔を測定するのと同時に対象者の姿勢を測定する姿勢測定手段19と、姿勢測定手段から得られた姿勢の時系列から体動を検出する体動検出手段25と、拍動間隔測定手段4により測定した心臓の拍動間隔の時系列から、体動検出手段25によって検出された体動が発生した時刻から所定の前後の時間の拍動間隔を除外し、除外後の拍動間隔の時系列を短時間平均拍動間隔演算手段8と長時間平均拍動間隔演算手段9とに転送する体動時拍動間隔除外手段26とを備えたものである。
【0078】
具体的には、センサ2は別例1(
図2)と同様であり、解析器3には、
図1の解析器3に対して、姿勢受信手段22と体動検出手段25と体動時拍動間隔除外手段26とが付加されている。
【0079】
センサ2の姿勢測定手段19は、対象者の体動を測定できるデバイスであり、例えばMEMSの3軸加速度センサを使用するのが好適である。このようなセンサは軽量、小型、低消費電力なので、被験者の負担は小さいものになる。
【0080】
センサ2の姿勢測定手段19で測定された姿勢データは、姿勢保存手段20と姿勢送信手段21とを通して、解析器3の姿勢受信手段22へ転送される。
【0081】
解析器3の姿勢受信手段22で受信した姿勢データは、体動検出手段25へ転送される。
【0082】
体動検出手段25は、姿勢データから体動の有無を探索する。対象者が、例えば寝返りをうつとき、対象者は加速度運動する。センサ2が対象者に常に密着していれば姿勢測定手段19が、寝返りに伴う加速度を検出できる。姿勢測定手段19が3軸加速度センサで構成され、x,y,z軸の出力それぞれを(Ax,Ay,Az)とし、静止状態の加速度センサが重力のみを検出するため√(Ax
2+Ay
2+Az
2)=1であることを使って、
【0083】
【0084】
と定義する。
図7からもわかるように、Mが所定の値よりも大きければ体動があると判定できる。ここで言う所定の値は0.1から0.3が好適である。体動検出手段25は、このように体動の有無を検出し、その結果を体動時拍動間隔除外手段26へ転送する。
【0085】
体動時拍動間隔除外手段26は、体動検出手段25から体動の有無を受け取ると共に、拍動間隔受信手段7から拍動間隔データを受け取り、体動のあった時刻から所定の前後の時間にある拍動間隔データを除外する。体動のあった前後は一定時間拍動間隔が変動するためである。ここで言う所定の時間は60秒以上が好適である。体動時拍動間隔除外手段26は体動に関する拍動間隔を除外した後、この拍動間隔データを短時間平均拍動間隔演算手順8及び長時間平均拍動間隔演算手段9へ転送する。
【0086】
従って、別例2においては、一層誤検出の少ない無呼吸状態検出システムを実現可能となる。
【0087】
図4は、別例1及び別例2の構成を共に備えた別例3である。
【0088】
別例1(または別例2)のセンサ2と、
図1における解析器3に姿勢受信手段22と体位判定手段23と所定体位拍動間隔除外手段24と体動検出手段25と体動時拍動間隔除外手段26とを備えたものとを用いれば、より一層誤検出の少ない無呼吸状態検出システム1を構成できる。
【0089】
なお、解析器3の所定体位拍動間隔除外手段24と体動時拍動間隔除外手段26の順序(拍動間隔を除外する順序)は当然入れ替えても良い。
【0090】
本実施例は上述のように構成したから、CVHRの特徴を拍動間隔から簡単な演算で検出して無呼吸状態の有無を把握できる実用的なものとなる。
【符号の説明】
【0091】
1 無呼吸状態検出システム
3 解析器
4 拍動間隔測定手段
8 短時間平均拍動間隔演算手段
9 長時間平均拍動間隔演算手段
10 拍動間隔谷演算手段
11 拍動間隔谷判定手段
14 所定判定時間内谷数積算手段
16 谷数比較手段
19 姿勢測定手段
23 体位判定手段
24 所定体位拍動間隔除外手段
25 体動検出手段
26 体動時拍動間隔除外手段