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特許7112330基材上に硬質材料層を製造するための方法、硬質材料層、切削工具及び被膜源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】基材上に硬質材料層を製造するための方法、硬質材料層、切削工具及び被膜源
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20220727BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20220727BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20220727BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
C23C14/06 P
C23C14/06 A
C23C14/06 L
C23C14/34 A
B23B27/14 A
B23C5/16
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018546658
(86)(22)【出願日】2017-03-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 AT2017000010
(87)【国際公開番号】W WO2017152196
(87)【国際公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-01-20
(31)【優先権主張番号】GM49/2016
(32)【優先日】2016-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】500005837
【氏名又は名称】セラティチット オーストリア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(73)【特許権者】
【識別番号】515319954
【氏名又は名称】プランゼー コンポジット マテリアルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】特許業務法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】チェットル,クリシュトフ
(72)【発明者】
【氏名】ポーラー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ポルツィク,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】カトライン,マルティン
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-130948(JP,A)
【文献】特開2008-093760(JP,A)
【文献】特開2003-326415(JP,A)
【文献】特開2008-279563(JP,A)
【文献】特開2001-277010(JP,A)
【文献】特開2014-077201(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102978576(CN,A)
【文献】Yung -I Chen, 他,Preparation and annealing study of CrTaN coatings Technology on WC-Co,Surface & Coatings Technology,vol.206,2011年06月17日,p.1640 - p.1647,doi:10.1016/j.surfcoat.2011.06.012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
C23C 14/34
B23B 27/14
B23C 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理気相蒸着(PVD)によってCrTaNとAlTiNとを交互に堆積することにより基材上に多層被膜系が施されることを特徴とする基材上に硬質材料層を製造するための方法であって、
AlTiNが、原子組成AlTi1-xN(0.2≦x≦0.9)で基材上に施され、
CrTaNが原子組成Cr1-yTaN(0.01≦y≦0.65)で基材上に施され、
前記多層被膜系の個々の層が、5~200ナノメータの厚さで堆積され、ここで、10~5,000の数の層が交互に堆積される、
方法。
【請求項2】
CrTaNが、複合ターゲットから堆積されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
AlTiNが、複合ターゲットから堆積されることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
AlTiNが、原子組成AlTi1-xN(式中、GDOES又はEDXで測定して、0.4≦x≦0.8である。)で前記基材上に施されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
CrTaNが原子組成Cr1-yTaN(式中、GDOES又はEDXで測定して、0.2≦y≦0.4である。)で前記基材上に施されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記多層被膜系の個々の層が、10~100ナノメータの厚さで堆積されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記多層被膜系において、25~1,000の数の層が交互に堆積されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記基材上に、先ず、物理気相蒸着(PVD)によりAlTiN基層が堆積され、このAlTiN基層の上にCrTaN層とAlTiN層との交互堆積により前記多層被膜系が施されることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
物理気相蒸着(PVD)により前記多層被膜系の上に、TiN又はCrTaNから成る被覆層が、0.1~10μmの厚さで施されることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
基材上に物理気相蒸着(PVD)層としてのCrTaN層とAlTiN層とが交互に堆積された多層被膜系を含み、
前記AlTiN層の原子組成はAl Ti 1-x N(0.2≦x≦0.9)であり、
前記CrTaN層の原子組成はCr 1-y Ta N(0.01≦y≦0.65)であり、
前記CrTaN層および前記AlTiN層の個々の層が、5~200ナノメータの厚さであり、10~5,000の数の層が交互に堆積されている、
硬質材料層。
【請求項11】
層被膜系が、物理気相蒸着(PVD)によって基材上に交互に堆積されたCrTaN層とAlTiN層とを有することを特徴とする硬質金属から成る基材を有する切削工具であって、
AlTiNが、原子組成AlTi1-xN(0.2≦x≦0.9)であり、
CrTaNが原子組成Cr1-yTaN(0.01≦y≦0.65)であり、
前記多層被膜系の個々の層が、5~200ナノメータの厚さであり、ここで、10~5,000の数の層が交互に堆積されている、
切削工具。
【請求項12】
AlTiN基層が、前記基材と前記CrTaN/AlTiN多層被膜系との間に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の切削工具。
【請求項13】
TiN又はCrTaNから成る少なくとも1つの被覆層が、前記CrTaN/AlTiN多層被膜系の上に施されることを特徴とする請求項11又は12に記載の切削工具。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法において基材上にCrTaNを物理気相蒸着(PVD)するための被膜源の製造方法であって、純Cr粉末と純Ta粉末とから成る粉末混合物が用意され、前記被膜源がこの粉末混合物の熱間高密度化により賦形される方法。
【請求項15】
前記被膜源が、純Cr又はCr混合結晶の相1、純Ta又はTa混合結晶の相2、及びTaCr の相3、からなる3つの相を含むように前記熱間高密度化を行う、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記粉末混合物が1~60原子%のTa含有量を有することを特徴とする請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
Cr粉末又はTa粉末の粒径が45μm以下であることを特徴とする請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記熱間高密度化がホットプレス、直接通電型プレス、又は熱間等方圧プレス(HIP)により実施されることを特徴とする請求項14~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記ホットプレスが1,100~1,750℃の温度範囲で行なわれることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ホットプレスの処理時間が1時間内であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PVD法により基材上に多層被膜系を堆積して、基材上に硬質材料層を製造するための方法に関する。この方法は、好適には、旋盤、フライス又は他の切削加工法用の切削工具の製造に用いられる。
【0002】
更に、本発明は、硬質材料層及び切削工具、好適には切断具又はスローアウェイチップ又は超硬合金工具、に関する。
【0003】
本発明は、更に、被膜源の製造方法及び基材上に硬質材料層を製造する方法を実施するための被膜源に関する。
【背景技術】
【0004】
摩耗に曝される切削工具などの部材の耐摩耗性の向上のために、各部材の耐摩耗性を更に向上させる硬質材料層を施すことは公知である。
【0005】
この場合、各硬質材料層は、通常、気相からの物理的又は化学的な層堆積により同様に耐摩耗性の基材上に堆積される。ここで基材材料としては、硬質金属、サーメット、硬質材料又は工具鋼が使用される。
【0006】
硬質金属とは、一般に、炭化タングステン(WC)からなる主相並びに場合によってはその他の炭化物相及び金属バインダ又は相応する金属マトリックスを含有する複合材料を意味する。金属マトリックスとしては、一般にコバルト、ニッケル及び/又は鉄が使用される。他の炭化物としては、第4族(チタン族)、第5族(バナジウム族)及び第6族(クロム族)、即ち、例えばタンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコンなど、の炭化物を使用することができる。
【0007】
サーメットとは、炭化物として、炭化チタンを主相として含む複合材料を意味する。典型的にはバインダの主成分は、ニッケル及び/又はコバルトにより形成される。
【0008】
硬質材料とは10GPa以上の硬度を有する材料を意味する。
【0009】
同様に、工具鋼はドイツ工業規格DIN17300に従う鋼であり、工具の用途により規定されている。
【0010】
被着法では、切削工具を製造するための対応する基材の被着を化学的又は物理的方法で行なうことができる。対応する被着法は、化学気相蒸着(英語chemical vapour deposition)としても知られているCVD法及び物理気相蒸着(英語physical vapour deposition)としても知られているPVD法である。以下ではPVD法だけを考察する。
【0011】
PVD法としては、とりわけ加熱蒸着、電子ビーム蒸着、マグネトロンスパッタリング、レーザービーム蒸着及びアーク蒸着が知られている。全てのPVD法に共通するのは、堆積すべき材料が排気された被着室内で固体の形にあることである。被膜源又はターゲットと呼ばれる材料が、例えばレーザービーム、磁気的に誘導されるイオン若しくは電子の照射により又はアーク放電によるボンバードメントにより、蒸発させられる。蒸気中における原子、イオン又はそれより大きいクラスタなどの成分がどの程度あるかは方法毎に異なっている。
【0012】
蒸発させられた材料は、弾道的に又は電界により方向づけられて室中を移動し、被着すべき部分に衝突し、そこに被膜が形成される。
【0013】
蒸発された材料が基材にぶつかると、材料は凝縮により基材の表面に堆積し始める。粒子は、その際、基材にぶつかった箇所には留まらず、エネルギーの大きさ次第で表面に沿って動き(表面拡散)、エネルギー的により好適な箇所を見付ける。これは、できるだけ多くの原子が隣接している(より高い結合エネルギーを有する)結晶表面上の箇所である。
【0014】
ほとんど全ての金属及び炭素を、種々のPVD変法により、極めて純粋な形で堆積させることができる。このプロセス中に、酸素、窒素又は炭化水素のような反応性ガスを導入すると、酸化物、窒化物又は炭化物も、また、堆積されることになる。
【0015】
チェカダら(非特許文献1)により、Cr0.58Ta0.42N又はCr0.17Ta0.83Nの組成を有するCrTaN硬質材料層を、PVDにより、基材上に施すことが知られている。この被膜は、立方晶構造及び良好な耐酸化性を示す。この刊行物には、クロムに富んだCr0.58Ta0.42N被膜もタンタルに富んだCr0.17Ta0.83N被膜も、従来のCrN又はTaN二元被膜に比して何等の利点も示さないという結論が示されている。
【0016】
チェンら(非特許文献2)は、コスパッタリングプロセスを利用してシリコン基材上に施された単層の結晶性のTa4852及びCr23Ta2750被膜並びにほぼ非晶質のTa22Si1959及びCrTa25Si1158被膜を研究している。
【0017】
チェンら(非特許文献3)は、更に、単層のCrTaN被膜を、WC基材上に、基材を加熱せずに反応性マグネトロンスパッタリングを利用して堆積している。CrTaN層は、(111)優先配向を有する立方晶(fcc)構造を示した。この刊行物によれば、このような層は、ガラス溶融槽又は切削工具用の酸化保護膜として好適である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【文献】Cekadaら:Vakuum 52,1999/461-467
【文献】Y.L.Chenら:serve.code.technol.(2014)1540184162839_0jp.serve.code.2014.02.005
【文献】Chenら:Surface and Coatings Technology 2006/2011/1640-1647
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
公知の先行技術から出発して、本発明の課題は、基材上の硬質材料層の製造方法、硬質材料層並びに耐摩耗性及び硬度に関して更に良好な特性を有する切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この課題は請求項1の特徴を有する方法により解決される。有利な発展形態は従属請求項に示されている。
【0021】
従って、本発明によれば、基材上に硬質材料層を製造する方法であって、物理気相蒸着(PVD)によるCrTaN及びAlTiNの交互堆積により基材上に多層被膜系が施される方法が提案される。
【0022】
硬質材料層、特にCrTaN硬質材料層、を製造するための先行技術により公知の方法に比して、CrTaN及びAlTiNを交互に堆積して形成された多層被膜系により、このようにして堆積された硬質材料層の硬度の顕著な向上が達成される。これは先行技術で論じられたCrTaNの単層に比して、摩耗特性に良好な効果をもたらす。CrTaN及びAlTiNからなる二層被膜系に対しても顕著な硬度の向上が達成される。
【0023】
純CrTaNから成る単層の硬質材料層は、低い摩擦値を有するので、基本的に切断及び切削工具に適していることが知られている。しかしながら、純CrTaNから成る硬質材料層の耐摩耗性があまり高くないことも知られている。
【0024】
これに対して、CrTaN及びAlTiNからの提案された多層被膜系構造により硬度の顕著な向上が達成されるので、このようにして作られた硬質材料層の切断及び切削工具への適性は顕著に改良される。更に、CrTaN及びAlTiNからなる多層被膜系により、純AlTiN被膜に比べて摩擦値が減少するので、切断及び切削工具に使用する際に改良された特性が得られる。
【0025】
更に、単層の場合に生じるような、文献に記載されているCrTaNのCrN又はTaNへの熱分解が、多層被膜系の堆積により著しく抑制されることが判明している。これにより、上述の方法で製造された硬質材料層が高温での使用に特に適することになる。従って提案された方法は、硬質材料層の製造に適しており、これから生じる硬質材料層は、工具、例えば硬質金属スローアウェイ工具又は超硬合金工具の摩耗保護層として適しているだけでなく、例えばガラス溶融槽の部材の酸化保護としても利用することができる。
【0026】
更に、交互に施されたCrTaN層によりAlTiN層の立方晶結晶構造が安定化されるので、上述の多層被膜系の製造により、著しく安定した立方晶結晶構造が形成できることが判明している。
【0027】
この方法は、有利には、CrTaNが、窒素の添加のもとに、複合ターゲット、有利にはTa含有量が1~60原子%、特に有利にはTa含有量が20~30原子%、更に有利にはTa含有量が25原子%の複合ターゲット、から堆積されるように、構成される。
【0028】
この方法の更に有利な実施形態では、AlTiNが、窒素の添加のもとに、複合ターゲット、有利にはTi含有量が10~80原子%、特に有利にはTi含有量が25~50原子%、更に有利にはTi含有量が40原子%の複合ターゲット、から堆積されるようにされる。
【0029】
このような複合ターゲットからのCrTaN及び/又はAlTiNの堆積により、安定した立方晶結晶構造の形成ばかりでなく、各CrTaN及び/又はAlTiN被膜の単層の堆積も達成できるので、動作寿命に有利に作用する。
【0030】
複合ターゲットの使用により、複数のターゲットを使用する費用の掛かるコスパッタリングもなしで済ませるので、より効率的な被膜工程を達成することができる。
【0031】
多層被膜系において、AlTiNは、AlTi1-xN(ここで、0.2≦x≦0.9、有利には0.4≦x≦0.8、特に有利には0.5≦x≦0.7である。)の原子組成で、基材上に施される。被膜の組成は、有利にはグロー放電発光分析法(英語Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy-以下「GDOES」と表示する。)又はエネルギー分散型X線分析法(英語Energy Dispersive X-ray Spectroscopy-以下「EDX」と表示する。)で測定される。
【0032】
多層被膜系において、CrTaNは、GDOES又はEDXで測定して、Cr1-yTaN(ここで、0.01≦y≦0.65、有利には0.2≦y≦0.4、特に有利には0.25≦y≦0.35である。)の原子組成で、基材上に施される。
【0033】
上述のCrTaN及びAlTiNの組成は、安定した立方晶結晶構造を形成して硬質材料層を形成する特に固い多層被膜系を生じる。
【0034】
ここで多層被膜系とは、PVDにより、CrTaN層及びAlTiN層が交互に基材上に施される系を意味する。この場合、多層被膜系の個々の層は、5~200ナノメータ、有利には10~100ナノメータ、特に有利には15ナノメータ、の厚さで堆積されると有利である。
【0035】
多層被膜系において10~5,000、有利には20~1,000、特に有利には50~250の数の層が交互に堆積されると有利である。このようにすれば、安定した硬質材料層が堆積されるが、これは同時に硬質材料層全体の効率的な製造を可能にする。
【0036】
上述の層厚及び層の数により、一方では硬質材料層の硬度、安定性、耐摩耗性及び動作寿命間の良好な関係が与えられ、他方では硬質材料層の短いプロセス時間、従って、コスト効率的な製造に対する要求が叶えられる。
【0037】
基材材料としては、硬質金属、サーメット又は工具鋼が使用されると有利であり、この際、基材は各被膜の取り付け前に前処理されると有利である。
【0038】
方法の別の実施形態では、多層被膜系においてAlTiNの代わりに少なくとも1つのAlTiXN層(ここで、XはTa、V、Si、Mo又はHfである。)がCrTaNと交互に堆積され、AlTiXNは、有利には、複合ターゲットから堆積される。
【0039】
Ta、V、Si、Mo又はHfの付加的な導入により、硬質材料層の材料特性が更に変更されるが、その際、上述の基本的に有利な特性は引き続き維持される。
【0040】
有利には、先ず、AlTiN基層が、基材上に、物理気相蒸着(PVD)により、好適には0.5~10μm、特に好適には1~5μm、更に特に好適には2μm、の厚さで堆積され、このAlTiN基層上にCrTaN及びAlTiNの交互堆積により多層被膜系が施される。
【0041】
基層被膜は、基材と多層被膜系との間の結合層を提供し、このようにして、硬質材料層の基材への更に良好な固着を可能にする。
【0042】
代替的に、AlTiNに代えてAlTiXN(ここで、Xは、Ta、V、Si、Mo又はHfである。)から成る基層を堆積することができ、この場合、AlTiXNは有利には複合ターゲットから堆積される。
【0043】
更に、多層被膜系に、物理気相蒸着(PVD)により、TiN又はCrTaNから成る被覆層を、有利には、0.1~10μm、有利には0.5~5μm、特に有利には1μmの厚さで、施すことができる。被覆層を施すことにより、例えばヤング率の向上の形で、硬質材料層の特性を更に有利に適合させることができる。
【0044】
好適にはそれぞれ被覆層と結合した形の多層被膜系は、例えば湿式噴射、乾式噴射又は着色により、好適に後処理することができ、これにより、有利には表面構造及び/又は表面粗さがそれぞれの応用分野に適合させられる。
【0045】
CrTaN層の堆積は、CrTa複合ターゲット、有利には原子組成が75/25のCrTa複合ターゲット、から行なうと有利である。例えば、この場合、EDX法により、堆積されたCrTaNの化学組成Cr0.71Ta0.29Nが、測定される。
【0046】
上述の課題は、また、請求項12に記載の硬質材料層によって解決されるが、この場合、硬質材料層は、前述の方法により基材上に形成される。
【0047】
更に、上述の課題は、また、請求項13に記載した硬質金属から成る基材を有する切削工具によって解決される。有利な実施態様は、従属請求項に示されている。
【0048】
これによれば、硬質金属からなる基材を有する切削工具が提案される。本発明によれば、物理気相蒸着(PVD)により、CrTaNとAlTiNとを交互に堆積することにより、基材上に多層被膜系が施される。
【0049】
これから切削工具を形成するため基材上にこの硬質材料層を形成する方法に関して上記した利点が生じる。特に有利なのは摩擦値が比較的低いのと同時に硬質材料層の硬度が高いことである。
【0050】
基材とCrTaN/AlTiN多層被膜系との間に、AlTiN基層を、0.5~10μm、特に有利には1~5μm、更に特に有利には2μm、の厚さで、設けると有利である。
【0051】
更に有利なことは、CrTaN/AlTiN多層被膜系の上に、TiN又はCrTaNから成る少なくとも1つの被覆層を、有利には0.1~10μm、より有利には0.5~5μm、特に有利には1μmの厚さで、施すことである。
【0052】
切削工具の基材を、それぞれ被膜を施す前に、前処理、有利には研磨、すると有利である。
【0053】
切削工具の特に有利な適応性を達成するためには、CrTaN/AlTiN多層被膜系が後処理されると有利であり、表面構造及び/又は表面粗さが、特に有利には湿式噴射、乾式噴射及び/又は着色により、それぞれの用途に適合させられる。
【0054】
硬質材料層の上述の製造方法において、CrTaNの堆積のために複合ターゲットが使用されると有利である。相応して、更に本発明の課題は、硬質材料層の製造方法を実施するための被膜源の製造方法並びに被膜源を提供することにある。
【0055】
この課題は、請求項16の特徴を有する被膜源の製造方法により達成される。有利な実施態様は従属請求項に示されている。
【0056】
従って、CrTaNの物理気相蒸着(PVD)のための被膜源の製造方法が提案される。ここで、本発明によれば、純Cr粉末及び純Ta粉末から成る粉末混合物が用意され、被膜源が粉末混合物の熱間高密度化により賦形される。
【0057】
このようにして、PVD設備におけるCrTaNの堆積のための被膜源が簡単に用意され、これにより所定の原子組成を有するCrTaNの堆積が達成され、その結果得られた層は、安定した立方晶結晶構造を有し単相で形成されている。
【0058】
粉末混合物は、熱間高密度化の前に、1~60原子%のTa含有量、特に有利には20~30原子%のTa含有量、更に特に有利には25原子%のTa含有量、を有すると有利である。このようにして、堆積層において有利と認識された組成が達成できることになる。
【0059】
粉末混合物の特に均質な混合を達成し熱間高密度化の際にCrTa相の特に緻密な分布を得るためには、Cr粉末及び/又はTa粉末の粒径が45μm以下であるのが有利である。
【0060】
熱間高密度化は、ホットプレス、スパーク・プラズマ焼結(SPS)又は熱間等方圧プレス(HIP)により実施すると有利であり、粉末は、好適には、プレス中に、加熱導体により及び/又は直接電流を印加されるか及び/又は誘導加熱により加熱される。
【0061】
被膜源の有利な構造を得るには、有利には1,100~1,750℃の温度範囲、特に有利には1,300~1,500℃の温度範囲、でホットプレスが行なわれる。
【0062】
処理時間は、再結晶化を回避し組成の微粒性を維持するために、1時間以内が有利である。更に、焼結時間が短いとCrTa相へのTaの完全な変換が行なわれないので、生じた被膜源の組成には3つの相、即ち純Ta相、純Cr相及びCrTa相が存在することになる。
【0063】
本発明の有利な実施形態及び側面を以下図面により詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1図1は、種々のCrTaN層系のナノ硬度H及びヤング率Eの測定値のグラフを示す。
図2図2は、AlTiN基層とAlTiN/CrTaN多層被膜系とを有する基材上の層系の破断面のREM(走査電子顕微鏡)写真を示す。
図3図3は、切削試験の測定値を示す。
図4図4は、CrTa複合ターゲットの形の被膜源の粒界エッチングを有する金属組織断面図を示す。
図5図5は、CrTa複合ターゲットの組成の相ダイアグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下に図面に基づき有利な実施形態を述べる。この場合、同一の部材、類似の部材又は同一作用をする部材は、同一の参照符号で表し、これらの部材の説明の繰り返しは、明細書の冗長化を回避するために省略する。
【0066】
物理気相蒸着(PVD)により硬質材料層を形成するため、基材上に多層被膜系がCrTaNとAlTiNの交互堆積により施される。硬質材料層は、例えば切断又は切削工具の摩耗保護被膜として、役立つ。
【0067】
上述のPVD被膜用の基材としては、ほぼ全ての入手可能な硬質金属基材並びにサーメット基材が対象となり、更に全ての耐熱金属が使用できるが、ここで述べる層系は、例えばガラス溶融槽における部材の酸化保護としても、想定できる。基材は、硬質材料層の以後の形成及び完成部材の寸法安定性を支援するために、前処理、特に研磨、研削又はブラストすることができる。
【0068】
複合ターゲット、即ち多数の異なる相から成る構成を有するターゲット、により層を形成すると、特に有利である。この場合、例えば粉末冶金法で作られた複合ターゲットが使用される。CrTa複合ターゲットの可能な製造方法を、以下に図4及び図5を参照して、説明する。
【0069】
被膜は、例えばPVD法により400~600℃の温度で、硬質金属基材上に施される。これは、例えばARC-PVD被膜設備、スパッタリング設備又はHIPIMS設備内で、行なうことができる。
【0070】
以下に例示として、CrTaN層及びAlTiN層が基材上に施される層系を示すが、この場合、種々の層配列が適用され、各場合において多数の関連パラメータが測定された。
【0071】
AlTiN層及びCrTaN層を有する試料の層配列の例を表1に示す。
【0072】
表1:基材、層及び後処理の例示的組み合わせ
【表1】
【0073】
層を堆積できるようにするために、例えば、下記の表2に示したターゲットの組成がPVD設備において使用された。単層被膜が設けられた場合、これらの被膜は、化学組成を調べるために別々に堆積され、組成はGDOESにより調べられた。ターゲット組成との比較性を良くするために、窒素は下記の表では示されていない。従って、最初の二重列に示されたターゲット組成では、GDOESにより調べた結果、第2の二重列に示された被膜組成が生じた。CDOES測定の代わりに又はこれに付加して、EDX測定も実施することができる。
【0074】
表2:例示的ターゲット組成及び層組成(それぞれ原子組成)
【表2】
【0075】
層の堆積に際しては、窒素の添加のもとに、CrTaNを複合ターゲット、有利にはTa含有量が1~60原子%、特に有利にはタンタル含有量が20~30原子%、特に有利にはタンタル含有量が25原子%の複合ターゲット、から堆積すると有利であることが判明している。
【0076】
Cr1-yTaN層の特に有利な組成範囲は、0.01≦y≦0.65、有利には0.2≦y≦0.4、特に有利には0.25≦y≦0.35である。
【0077】
CrTaN被膜はCrTa複合ターゲットから堆積させることができるが、これは複数の金属ターゲットのコスパッタリングに対して、単相の立方晶構造が堆積されるという利点を有し、これは例えばXRDにより確認することができる。従って、複合ターゲットの使用の結果、立方晶結晶構造の安定化により達成される硬質材料層の改良された構造が生じる。
【0078】
AlTiN被膜の堆積には、窒素雰囲気下で、複合ターゲット、有利にはTi含有量が10~80原子%、特に有利にはTi含有量が25~50原子%、特に有利にはTi含有量が40原子%である複合ターゲット、から堆積するのが有利であることが判明している。
【0079】
これにより、0.2≦x≦0.9、有利には0.4≦x≦0.8、特に有利には0.5≦y≦0.7、のAlTi1-xNの組成範囲が生じるので有利である。
【0080】
ここでも複合ターゲットからの堆積により、少なくともほぼ単相の立方晶構造が生じ、これは例えばXRDにより確認することができる。
【0081】
多層被膜系の形成には、多層被膜系の個々の層が、5~200ナノメータ、有利には10~100ナノメータ、特に有利には15ナノメータ、の範囲の厚さで堆積されると有利である。ここで例示的に形成された試料では、個々の層の厚さは約15ナノメータであった。
【0082】
更に、多層被膜系の構築には、10~5,000、有利には25~1,000、特に有利には50~250の数の層が交互に堆積されると有利である。ここで構築された試料では、多層被膜系として約100の層が交互に堆積された。
【0083】
このような背景のもとに、以下の層系が例示的に形成され、次いで測定された。
BL: AlTiN/CrTaN二重層。ここで、基材上に厚さ2μmのAlTiNが堆積され、その上に厚さ2.9μmのCrTaNが堆積された。
ML: AlTiNの基層被膜とその上に構築されたCrTaN/AlTiN多層被膜系。ここで、AlTiN基層は厚さ1.8μmに、CrTaN/AlTiN多層被膜系は厚さが3μmに施された。多層被膜系の個々の被膜は厚さが約15nmであった。
ML+DS: AlTiN基層の上にAlTiN/CrTaN多層被膜系が構築され、その上にCrTaN被覆層が堆積された。CrTAN被覆層の厚さは1.1μm、AlTiN/CrTaN多層被膜系の厚さは2μm、AlTiN基層の厚さは1.9μmであった。多層被膜系の個々の被膜の厚さは約15nmであった。
SL: 層厚が2.5μmのCrTaN単層
Ref.1-PM: 厚さ2.8μmの60Al/40Ti複合ターゲットから堆積されたAlTiN単層から成る参照被膜
Ref.2-CC: 厚さ3μmの60Al/40TiNプラグターゲットから堆積されたAlTiN単層から成る参照被膜
【0084】
下記の表3には、AlTiN基層被膜の上にCrTaN単層が施された系の層配列が示されており、従って、ここでは多層被膜系は選ばれていない。この構造は、上記のBLで示された試料に相当する。
【0085】
表3:基材から始まる例示的層配列、層厚及び層の化学組成
【表3】
【0086】
下記の表4には、多層被膜系がAlTiN基層の上に施され、多層被膜系の個々の層厚が約15nmであった例が示されている。この構造は、上記のML試料に相当する。
【0087】
表4:基材から始まる例示的層配列、層厚及び層の化学組成
【表4】
【0088】
最後に、硬質金属基材の上に、CrTaN被覆層、CrTaN/AlTiN多層被膜系及びAlTiN基層を有する硬質材料層が構築された。この構成を下記の表5に示す。この構造は、上記の試料ML+DSに相当する。
【0089】
表5:基材から始まる例示的層配列、層厚及び層の化学組成
【表5】
【0090】
図1は、少なくとも1つのCrTaN層を有する種々の層系のナノ硬度Hとヤング率Eの値を示す。
【0091】
ここで、ナノ硬度は、バーコヴィッチダイアモンド圧子を有するナノインデンター(ウルトラ マイクロ インデンテーション システム‐UMIS)で測定された。各試料当たり16個の圧子が測定ごとに使用され、ナノ硬度及びヤング率が求められた。
【0092】
図1から直ちに判ることは、それぞれCrTaN層を含む単層SL及び二重層BLに比して、多層被膜系MLを使用することにより顕著な硬度の上昇が生じることである。16.0~15.5GPaのナノ硬度を有するSL及びBL試料から出発して、ML試料におけるナノ硬度は約25~30GPaに上昇する。
【0093】
図1に示した結果から判明するのは、多層被膜系MLが単層SL及び二重層BLに比して、より高い硬度と従って改良された耐摩耗性を有することである。
【0094】
また、AlTiN被膜、特にRef.1-PM層及びRef.2-CC層に比して、同様に図1に示すように、より高いナノ硬度を達成できる。
【0095】
CrTaN及びAlTiNから成る多層被膜系の構造は、これらの材料から成る単層又は二重層に比して硬度の向上を生じる。
【0096】
更に、多層被膜系では、例えば単層被膜に見られるような、また、文献に記載されているような、CrTaNのCrN及びTaNへの熱分解が大幅に抑制されることが分かる。従って、提案された多層被膜系から高温使用に特に適した被膜系が生じる。多層被膜系では、立方晶結晶構造の安定化に基づき熱分解が防止されるので、形成された層は熱的に安定でもあり、これにより比較的長い動作寿命が可能となる。この特性プロフィルは、従って、硬質金属スローアウェイチップ並びに超硬合金工具においても、摩耗保護層としての使用に適切である。
【0097】
更にトライボメーター試験(室温、500℃、700℃)において多層被膜系MLの摩擦値がより小さいことが確認された。
【0098】
このためCSM インスツルメンツ社のピン・ディスクタイプの直径6mmのAl製の対向体を有するトライボメーターが使用され、室温、500℃及び700℃で測定が行なわれた。設定負荷は5N、滑動行程300m、速度10cm/秒であった。摩耗溝の半径は5mmであった。摩耗溝の測定はヴィーコ社の白光プロフィロメータにより行なわれ、2D横断面及び3D表示が設定された。
【0099】
上述の試料の測定結果は下記の表6に示されている。すぐに判ることは、多層被覆系MLの達成可能な摩擦値(摩擦係数μ)は≦0.7であり、最良の場合は≦0.6ですらあることである。従って、多層被覆系MLを有する試料は、摩擦値が低くなければならない工具、例えば、ねじ用工具、リーマー及び超硬合金工具、に対して特に好適である。
【0100】
表6:測定された摩擦係数及び摩耗係数
【表6】
【0101】
更に層系の固有応力値が下記の表7にリストアップされている。この場合、応力は、「成膜直後」の状態でシリコン試料のウエハ曲率法で求められた。被膜の製法次第でこれらの値は勿論変化し得る。
【0102】
表7:Si試料におけるウエハ曲率法で測定された層固有応力
【表7】
【0103】
多層被覆系は比較的低い被膜固有応力を有することも判明しており、これにより動作寿命及び稼働期間にも更に有利な影響が生じる。
【0104】
多層被覆系MLの構造の一例を図2の破断図に示すが、ここでは硬質金属基材の上にAlTiN基層が設けられており、この上にAlTiN/CrTaN多層被覆系が施されている。
【0105】
従って、上述の多層被覆系MLの場合、かなりの硬度の向上が見られ、同時に摩擦値が低く耐久時間が長い。
【0106】
多層被膜系MLの使用時の切削実験では、被膜は、摩擦値が低くなければならず同時に高い硬度が要求されるねじ用工具、リーマー及び超硬合金工具に特に有利であることが実証されている。
【0107】
図3には種々の多層被膜系についての切削試験の測定結果が示されている。この場合、湿式フライスにおけるフライス機の切削インサートの動作寿命が分単位で示されている。切削試験は具体的には以下の試験パラメータで実施された。
【0108】
単歯による同期フライス、ブロック面をスパイラル上に行送り。材料としてSP300高張力鋼を使用し、工具はスローアウェイチップの収容用にISCAR F45ST D050-22で、SK50工具ホルダに入れられた。被加工材は、寸法が400x200x96mmで強度は1,000N/mmであった。フライス機は、直径50mm、迎角45°、切削速度Vc=250m/min(乾式)、150m/min(湿式)、1刃当り送りfz=0.25mm、切込み深さap=32mmで推進した。
【0109】
図3から直ちに判明することは、多層被覆系MLが最良の動作寿命を有することである。湿式加工では参照層系に対し動作寿命が約20%改良されたことが判明している。図示していない乾式加工では、多層被覆系MLは、参照層系に対しそれほど改良されていない。
【0110】
更に、適当な基材、有利には所定の形状の硬質金属基材を有する切削装置用の切削工具を作ることもできる。この切削工具は、例えば旋盤及びフライス装置用の刃体の形で又はスローアウェイチップの形で使用することができる。
【0111】
この基材上に、交互にCrTaNとAlTiNとから成る多層被覆系を有する硬質材料層が、上述のやり方で、僅かな層厚で施される。
【0112】
更に、表面構造及び/又は表面粗さを各用途に適合させるために、硬質材料層を後処理することができる。この後処理は、例えば湿式噴射、乾式噴射及び/又は着色により実施することができる。被覆層及び/又は機能被膜を施す場合には、これらの被膜をも後処理することができる。
【0113】
以下にCrTa複合ターゲットの形の被膜源の製造について説明するが、この被膜源は、上述の硬質材料層の製造方法においてCrTaN被膜をPVDにより堆積するのに有利に使用された。
【0114】
複合ターゲットの製造のため、まず純Crと純Ta粉末が原材料として用意される。粉末の粒径は、それぞれ45μm以下であると有利である。両粉末は、粉末から作られるCrTa複合ターゲットの所望の比で且つできるだけ互いに均質に混合される。小さい粒径のおかげで、両粉末の混合は特に均質に用意することができ、これに続く高密度化工程ではターゲット中に微細分布したTaCr相を形成させることができる。
【0115】
上述のように、製造すべきCrTa複合ターゲットの混合物中において、Ta含有量が1~60原子%、特に有利には20~30原子%、更に特に有利には25原子%とされる。
【0116】
次いで、ほぼ均質の粉末混合物からプレス型内で焼結工程により、CrTa複合ターゲットが作られる。焼結工程は、例えばホットプレス、直接通電型プレス(例えば、スパーク・プラズマ焼結(SPS))、又は熱間等圧プレス(HIP)により、実施される。この場合、粉末は、室内で、プレス中に、加熱導体により又は直接電流により及び/又は誘導加熱により、処理できる。
【0117】
CrTa複合ターゲットを作るためのSPS又はホットプレスによる焼結は、1,100~1,750℃の温度範囲、有利には1,300~1,500℃の温度範囲、で行なわれる。焼結時間は、再結晶を回避し組成の微粒性を維持するためにできるだけ短く、有利には1時間未満とされる。
【0118】
図4は、このようにして作られた複合ターゲットによる粒界エッチングによる金属組織断面図を示す。焼結工程後の組成は3つの相、即ち純Cr又はCr混合結晶の相1、純Ta又はTa混合結晶の相2、及びTaCrの相3から成る。TaCr相3は、TaからCrへの移行の境界面にある。CrTa複合ターゲットを提案されたように用意するためには、上述の3つの相が全て存在しなければならない。対応する相ダイアグラムは図5に示されている。
【0119】
焼結後に測定された密度は、理論密度の少なくとも90%、有利には95%又は98%である。
【0120】
このようにして作られたCrTa複合ターゲットは、直接使用するか又は操作性を良くするために、その裏面でバッキングプレートに、例えば接着、硬ろう付け又は拡散接着により、固定することができ、これによりターゲットはPVD設備においてCrTaNの堆積のために固定することができる。また複数のCrTa複合ターゲットを単一のバッキングプレートに固定し、例えばPVD設備中の所望の配置を考慮することができる。
【0121】
個々の実施例で説明した全ての個々の特徴は、適用可能であれば、本発明の範囲を逸脱することなしに互いに組み合わせるか交換することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 Cr又はCr混合結晶相
2 Ta又はTa混合結晶相
3 TaCr
図1
図2
図3
図4
図5