(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩及びその使用
(51)【国際特許分類】
C01B 21/086 20060101AFI20220727BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220727BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220727BHJP
【FI】
C01B21/086
H01M10/052
H01M10/0569
(21)【出願番号】P 2018559827
(86)(22)【出願日】2018-02-13
(86)【国際出願番号】 FR2018050339
(87)【国際公開番号】W WO2018150131
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2019-01-09
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-12
(32)【優先日】2017-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シュミット, グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】テシエ, レミ
(72)【発明者】
【氏名】ボネ, フィリップ
【合議体】
【審判長】日比野 隆治
【審判官】原 賢一
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/043489(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/158979(WO,A1)
【文献】特開2010-254543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B21/086,21/093-21/096
H01M10/052,10/056-10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7.45±0.5のpHを有する水に溶解させて水溶液を形成した後に、前記水溶液が
、25℃の温度において、4~8のpHを有することを特徴とする、
Liイオン電池のためのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩であって、水溶液中の前記塩の濃度が、
0.125g/mLである、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩。
【請求項2】
水に溶解させて水溶液を形成した後に、前記水溶液が、4.1~
8のpHを有することを特徴とする、請求項1に記載のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩。
【請求項3】
携帯デバイス、電気自動車、又
は再生可能な蓄電装置のLiイオン電池における、請求項1
又は2に記載のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩の使用。
【請求項4】
4.2V以
上のカットオフ電圧で機能するLiイオン電池における、請求項
3に記載の使用。
【請求項5】
請求項1
又は2に記載のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩と、有機溶媒とを含む、
Liイオン電池のための電解質組成物。
【請求項6】
Liイオン電池の寿命及び/又はLiイオン電池の電子性能を改善するための請求項1
又は2に記載のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の含量のプロトンH+を有するリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩に関する。
【0002】
本発明はまた、前記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩のさまざまな使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
Liイオン電池市場では高出力電池の開発が必要とされている。これは、Liイオン電池の公称電圧を増加させることによって行われる。目的の電圧を達成するため、高純度の電解質が必要とされている。
【0004】
Liイオン電池の特定の分野において、現在最も広く使用されている塩はLiPF6である。この塩は、限られた熱安定性、加水分解に対する感受性、従って不十分な電池の安定性など、多くの欠点を有する。
【0005】
最近、充電式電池の性能を改善するために、スルホニルイミドタイプの新規なリチウム塩が開発されている。LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)及びLiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)が挙げられよう。これらの塩は、自然分解をほとんど又は全く示さず、LiPF6よりも加水分解に対して安定である。しかしながら、LiTFSIは、アルミニウム集電体に対して腐食性であるという欠点を有する。
【0006】
しかしながら、Liイオン電池において、電子性能が改善された、及び/又は、より長い寿命を有する新しい塩が必要とされている。
【0007】
高いカットオフ電圧で使用することができる新しい塩もまた、必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、水に溶解させて水溶液を形成した後に、前記水溶液が、特に25℃の温度において、4~8のpHを有することを特徴とする、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好ましい実施態様によれば、LiFSI塩は、水に溶解させて水溶液を形成した後に、前記水溶液が、例えば、4.1~8、4.2~8、4.3~8、4.4~8、4.5~8、4.6~8、4.7~8、4.8~8、4.9~8、5~8、5.1~8、5.2~8、5.3~8、5.4~8、5.5~8、5.6~8、5.7~8、5.8~8、5.9~8、6~8、6.1~8、6.2~8、6.3~8、6.4~8、6.5~8、6.6~8、6.7~8、6.8~8、6.9~8、7~8、4~7.5、4.1~7.5、4.2~7.5、4.3~7.5、4.4~7.5、4.5~7.5、4.6~7.5、4.7~7.5、4.8~7.5、4.9~7.5、5~7.5、5.1~7.5、5.2~7.5、5.3~7.5、5.4~7.5、5.5~7.5、5.6~7.5、5.7~7.5、5.8~7.5、5.9~7.5、6~7.5、6.1~7.5、6.2~7.5、6.3~7.5、6.4~7.5、又は6.5~7.5のpHを有する。好ましくは、本発明によるLiFSI塩は、水に溶解させて水溶液を形成した後に、前記水溶液が、6~8、好ましくは6.5~8、特に6.5~7.5のpHを有する。
【0010】
本発明の文脈において、用語「ビス(フルオロスルホニル)イミドのリチウム塩」、「リチウムビス(スルホニル)イミド」、「LiFSI」、「LiN(FSO2)2」、「リチウムビス(スルホニル)イミド」、及び「リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド」は、同等に用いられる。
【0011】
典型的には、pHは、次式に従う、水素イオン活性の負の対数として定義される:
pH=-log10[H+]
【0012】
溶液のpHは、当業者に知られているいずれかの方法によって測定することができる。pHは、例えば、その電位がネルンストの等式に従って水素イオンの濃度の関数として変動しうる、ガラス電極を使用して測定することができる。この電位は、一般にpHメーターとして知られる、高インピーダンスの電位差計を使用して、基準電極に対して測定することができる。用いられうるpHメーターの例は、Radiometer社のpHM210モデルである。
【0013】
LiFSI溶液のpHは、特に3つの緩衝液(pH=4.0、7.0及び10.0)を使用して予め較正されているpHメーターを使用して測定することができる。LiFSI塩は、水(好ましくは7.45±0.5のpHを有する水)に溶解させてよく、0.125g/mLのLiFSI質量濃度を得ることができる。水溶液は、pH測定中、攪拌してもよい。
【0014】
一実施態様によれば、本発明に従う水溶液中のLiFSI濃度は、0.050~0.250g/mL、好ましくは0.080~0.200g/mL、優先的には0.1~0.2g/mLであり、特には、該濃度は0.125g/mLである。
【0015】
一実施態様によれば、上記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩は、0.08ppb~0.80ppm、0.08ppb~0.63ppm、0.08ppb~0.50ppm、0.08ppb~0.40ppm、0.08ppb~0.32ppm、0.08ppb~0.25ppm、0.08ppb~0.20ppm、0.08ppb~0.16ppm、0.08ppb~0.13ppm、0.08ppb~0.10ppm、0.08ppb~0.08ppm、0.08ppb~0.06ppm、0.08ppb~0.05ppm、0.08ppb~0.04ppm、0.08ppb~0.032ppm、0.08ppb~0.025ppm、0.08ppb~0.020ppm、0.08ppb~0.016ppm、0.08ppb~0.013ppm、0.08ppb~10ppb、0.08ppb~8ppb、0.08ppb~6.35ppb、0.08ppb~5.05ppb、0.08ppb~4ppb、0.08ppb~3.18ppb、0.08ppb~2.53ppb、0.08ppb~2.01ppb、0.08ppb~1.59ppb、0.08ppb~1.27ppb、0.08ppb~1.01ppb、0.25ppb~0.8ppm、0.25ppb~0.63ppm、0.25ppb~0.50ppm、0.25ppb~0.40ppm、0.25ppb~0.32ppm、0.25ppb~0.25ppm、0.25ppb~0.20ppm、0.25ppb~0.16ppm、0.25ppb~0.13ppm、0.25ppb~0.10ppm、0.25ppb~0.08ppm、0.25ppb~0.06ppm、0.25ppb~0.05ppm、0.25ppb~0.04ppm、0.25ppb~0.032ppm、0.25ppb~0.025ppm、0.25ppb~0.020ppm、0.25ppb~0.016ppm、0.25ppb~0.013ppm、0.25ppb~10ppb、0.25ppb~8ppb、0.25ppb~6.35ppb、0.25ppb~5.05ppb、0.25ppb~4ppb、0.25ppb~3.18ppb、又は0.25ppb~2.53ppbの含量のH+イオンを含む。
【0016】
本発明の文脈において、用語「ppm」は、「パーツ・パー・ミリオン(100万分の1)」に対応し、重量基準でのppmとして理解される。
【0017】
本発明の文脈において、用語「ppb」は、「パーツ・パー・ビリオン(10億分の1)」に対応し、重量基準でのppbとして理解される。
【0018】
本発明の文脈において、表現「8質量ppmに等しいH+イオン含量を有する塩」とは、例えば、前記塩の総重量に対して、8質量ppmに等しいH+イオン含量を有する塩を意味する。
【0019】
本発明はまた、0.08ppb~0.80ppm、0.08ppb~0.63ppm、0.08ppb~0.50ppm、0.08ppb~0.40ppm、0.08ppb~0.32ppm、0.08ppb~0.25ppm、0.08ppb~0.20ppm、0.08ppb~0.16ppm、0.08ppb~0.13ppm、0.08ppb~0.10ppm、0.08ppb~0.08ppm、0.08ppb~0.06ppm、0.08ppb~0.05ppm、0.08ppb~0.04ppm、0.08ppb~0.032ppm、0.08ppb~0.025ppm、0.08ppb~0.020ppm、0.08ppb~0.016ppm、0.08ppb~0.013ppm、0.08ppb~10ppb、0.08ppb~8ppb、0.08ppb~6.35ppb、0.08ppb~5.05ppb、0.08ppb~4ppb、0.08ppb~3.18ppb、0.08ppb~2.53ppb、0.08ppb~2.01ppb、0.08ppb~1.59ppb、0.08ppb~1.27ppb、0.08ppb~1.01ppb、0.25ppb~0.8ppm、0.25ppb~0.63ppm、0.25ppb~0.50ppm、0.25ppb~0.40ppm、0.25ppb~0.32ppm、0.25ppb~0.25ppm、0.25ppb~0.20ppm、0.25ppb~0.16ppm、0.25ppb~0.13ppm、0.25ppb~0.10ppm、0.25ppb~0.08ppm、0.25ppb~0.06ppm、0.25ppb~0.05ppm、0.25ppb~0.04ppm、0.25ppb~0.032ppm、0.25ppb~0.025ppm、0.25ppb~0.020ppm、0.25ppb~0.016ppm、0.25ppb~0.013ppm、0.25ppb~10ppb、0.25ppb~8ppb、0.25ppb~6.35ppb、0.25ppb~5.05ppb、0.25ppb~4ppb、0.25ppb~3.18ppb、又は0.25ppb~2.53ppbの含量のH+イオンを含む、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩にも関する。
【0020】
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩中のプロトンH+の含量の決定は、好ましくは、特に上述した方法に従って、pHメトリーによって行われる。
【0021】
本出願人は、Liイオン電池電解質における本発明によるLiFSI塩の使用が、有利には、例えば4.2V又は4.4Vのカットオフ電圧において、低い残留電流を可能にすることを見出した。この残留電流は、その使用中にLiイオン電池において生じるスプリアス(spurious)反応を反映している。これらのスプリアス反応は、電子を消費し、よって、使用中のLiイオン電池の自律性を低下させる。さらには、このような反応は、Liイオン電池の暴走反応及び爆発を引き起こしうる連鎖反応を生じうることから、これらのスプリアス反応は、電池の安全性にも強い影響を与える。
【0022】
よって、Liイオン電池における本発明によるLiFSI塩の使用は、有利には、特に、例えば4.4Vなどの高いカットオフ電圧において、Liイオン電池の寿命、及び/又はLiイオン電池の電子性能、及び/又は該電池の安全性の改善を可能にする。
【0023】
Liイオン電池における本発明によるLiFSI塩の使用は、有利には、とりわけ4.4V以上の高いカットオフ電圧への到達を可能にする。
【0024】
本発明の文脈において、特に記載がない限り、用語「カットオフ電圧」とは、完全に充電されていると考えられる電池の電圧の上限を意味する。カットオフ電圧は、通常、最大電池容量を得るように選択される。
【0025】
本発明はまた、Liイオン電池におけるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩の使用にも関する。
【0026】
本発明はまた、4.2V以上、好ましくは4.4V以上のカットオフ電圧で機能するLiイオン電池における、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩の使用にも関する。
【0027】
本発明はまた、電解質、とりわけLiイオン電池の電解質における、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩の使用にも関する。
【0028】
本発明はまた、本発明によって定められるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩と有機溶媒とを含む、電解質組成物にも関する。
【0029】
有機溶媒の例としては、エチレングリコールジメチルエーテル(1,2-ジメトキシエタン)、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,6-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、及び1,3-ジオキソランなどのエーテル;炭酸ジメチル、炭酸メチルエチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル、及び炭酸メチルフェニルなどの炭酸エステル;炭酸エチレン、炭酸プロピレン、エチレン2,3-ジメチルカーボネート(ethylene 2,3-dimethyl carbonate)、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、及びエチレン2-ビニルカーボネート(ethylene 2-vinyl carbonate)などの環状炭酸エステル;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及び酢酸アミルなどの脂肪族カルボン酸エステル;安息香酸メチル及び安息香酸エチルなどの芳香族カルボン酸エステル;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及び5-バレロラクトンなどのカルボン酸エステル;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、及びリン酸トリエチルなどのリン酸エステル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2-メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、及びイソブチロニトリルなどのニトリル;N-メチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン、N-メチルピロリドン、及びN-ビニルピロリドンなどのアミド;ジメチルスルホン、メチルエチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、及び2,4-ジメチルスルホランなどの硫黄系化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール・モノメチルエーテル、及びエチレングリコール・モノエチルエーテルなどのアルコール;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、及びジエチルスルホキシドなどのスルホキシド;ベンゾニトリル及びトルニトリルなどの芳香族ニトリル;ニトロメタン;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン;1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1,H)-ピリミジノン;3-メチル-2-オキサゾリジノンが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0030】
炭酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、カルボン酸エステル及びエーテルが好ましく、炭酸エステルがさらに好ましい。特に、有機溶媒は、炭酸エチレン/炭酸メチルエチル混合物であり、特に、3/7の体積比のものである。
【0031】
本発明によるLiFSI塩の濃度は、電解質組成物の総重量に対し、0.1質量%~15質量%、好ましくは1質量%~10質量%の範囲でありうる。
【0032】
一実施態様によれば、電解質組成物は、1つ以上の添加剤を含みうる。例えば、炭酸フルオロエチレン、炭酸ビニレン、イオン液体、例えば無水コハク酸などの無水物、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0033】
本発明による電解質組成物中の添加剤の含量は、電解質組成物の総重量に対し、0.1質量%~10質量%、好ましくは1質量%~5質量%の範囲でありうる。
【0034】
本発明はまた、Liイオン電池、特に、例えば携帯電話若しくはラップトップコンピュータの携帯デバイス、電気自動車、又は例えば太陽光発電若しくは風力発電装置の再生可能な蓄電装置のLiイオン電池における、前記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩又はそれを含む電解質組成物の使用にも関する。
【0035】
本特許出願は、特に、例えば4.4Vなどの高いカットオフ電圧において、Liイオン電池の寿命及び/又はLiイオン電池の電子性能及び/又は該電池の安全性を改善するための本発明によるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩の使用に関する。
【0036】
好ましくは、本発明は、例えば4.2ボルト又は4.4ボルトのカットオフ電圧の印加中の残留電流を低下させるための本発明によるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩の使用に関する。
【0037】
水溶液中、特定のH+イオン含量又は特定のpHを有する、本発明によるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩は、当技術分野で知られた任意の方法によって最初に調製された、水中のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩のpHを調整する工程を行うことによって得ることができる。
【0038】
本発明はまた、上記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩を調製する方法であって、
- i)リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩を調製する工程;及び
- ii)pHを調整する工程
を含み、それによって、水に溶解した後に、特に25℃の温度において、4~8のpHを有する水溶液を形成するリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩を得る、
方法にも関する。
【0039】
本発明はまた、上記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩を調製する方法であって、
- i)リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩を調製する工程;及び
- ii)pHを調整する工程
を含み、それによって、0.08ppb~0.80ppmの含量のH+イオンを含むリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩を得る、
方法にも関する。
【0040】
pHを調整する工程は、水、とりわけ脱イオン水で1回以上洗浄すること、又は塩基性水溶液を加えることからなりうる。
【0041】
調製方法は、有機相において、工程ii)の終結時に得られるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩を抽出する(例えば、酢酸ブチルなどの有機溶媒を加えることによって)、例えば60℃未満の温度で、濃縮する、結晶化する等、その後の工程を含んでいてもよい。
【0042】
上述の実施態様はすべて、互いに組み合わせることができる。以下の実施例は本発明を例証しているが、それを限定するものではない。
【実施例】
【0043】
クロノアンペロメトリー試験を行った。これを行うため、作用電極としての直径20mmのアルミニウムシートと、基準電極としての直径8mmのリチウム金属ペレットと、3/7の体積比の炭酸エチレン及び炭酸メチルエチル(CAS=623-53-0)で構成された溶媒混合物中、1モル/LのLiFSI溶液12滴(0.6mL)に浸した直径18mmのガラス繊維セパレータとを備えた、CR2032ボタン電池を製造した。次に、ボタン電池の末端に電圧を印加し、生成した電流を測定し、記録した。
【0044】
実施例1:4.2ボルトのカットオフ電圧におけるクロノアンペロメトリー研究
作用電極としてアルミニウム電極、基準電極としてリチウム金属を有するシステムにおいて、クロノアンペロメトリーの測定を行った。
【0045】
pH測定:LiFSI溶液のpHは、3つの緩衝液(pH=4.0、7.0及び10.0)を使用して予め較正されたpHメーター(Radiometer社のpHM210モデル)を使用して測定される。ある量の水(7.45±0.5のpHを有する)にLiFSI塩を溶解させて、0.125g/mLのLiFSI質量濃度を得た。水溶液は、pH測定中、攪拌される。
【0046】
溶液番号3のLiFSI塩は、Abouimrane et al. “Liquid electrolyte based on lithium bis-fluorosulfonyl imide salt: Al corrosion studies and lithium ion battery investigation”, Journal of Power Sources 189 (2009), pages 693-696 (paragraph 3. Results)に記載される方法に従って、得られた。Abouimraneらの上記記事に記載される方法に従って調製されたLiFSI塩から、溶液番号1及び2のLiFSI塩を得た後、pHを調整する工程を行った。下記溶液1~3を調製し、それらのpHを上述の方法に従って測定した:
【0047】
電解質の調製:
クロノアンペロメトリー試験を実施するために、番号1~番号3(上記表を参照)のLiFSI溶液から出発して、さまざまなLiイオン電池電解質を調製した。
【0048】
3/7の体積比の炭酸エチレン及び炭酸メチルエチル(CAS=623-53-0)で構成された溶媒混合物にLiFSI塩(番号1~番号3)を溶解させて、1モル/LのLiFSI含量を有する溶液を得ることによって、3つの電解質を調製した:
【0049】
クロノアンペロメトリー:
一定のカットオフ電圧(4.2ボルト)を印加することによって25℃でクロノアンペロメトリー試験を行い、得られた電流を観察した。5時間後、残留電流値を測定し、下記表に再転記した。この残留電流は、Liイオン電池の機能中に起こりうる副反応を示している。
【0050】
結果は、電解質E番号3(LiFSI:pH=2.27)が、機能して5時間後(すなわち、アルミニウム電極上へのパッシベーション層の形成後)に、電解質E番号1(LiFSI:pH=7.29)のものより2倍高い残留電流を生じることを示している。ところで、この電流は、Liイオン電池の寿命に直接関係している。特に、スプリアス反応において消費される各電子は、もはや、電池の容量又は自律性には関与しない。
【0051】
よって、本発明に従うLiFSI塩(水に溶解した後に7.29のpHを有する)の使用によって、より低い残留電流をもたらし、結果として、水に溶解した後に2.27のpHを有するLiFSI塩よりも良好な寿命のLiイオン電池をもたらす。
【0052】
実施例2:4.4ボルトにおけるクロノアンペロメトリーの研究
実施例2のものと同様であるが、4.4Vのカットオフ電圧において、実験を行った。
【0053】
5時間後、残留電流値を測定し、下記表に再転記した。
【0054】
結果は、電解質E番号3(LiFSI:pH=2:27)が、機能して5時間後(すなわち、アルミニウム電極上へのパッシベーション層の形成後)に、電解質E番号1(LiFSI:pH=7.29)のものよりも3倍高い残留電流を生じることを示している。
【0055】
よって、本発明に従うLiFSI塩(水に溶解した後に7.29のpHを有する)の使用により、2.27のpHを有するLiFSI塩を用いたときよりも低い残留電流をもたらし、結果として、より良好な寿命のLiイオン電池をもたらす。
【0056】
2.27のpHを有するものと比較して水に溶解した後に6.79のpHを有するLiFSIでも同様の結果が得られる。