(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】インパクト工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/02 20060101AFI20220727BHJP
B25B 23/14 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
B25B21/02 F
B25B23/14 610K
B25B23/14 610M
(21)【出願番号】P 2019032360
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】坂 豊
(72)【発明者】
【氏名】荻野 翼
(72)【発明者】
【氏名】折笠 守
(72)【発明者】
【氏名】金子 聡
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】貫井 竜太
(72)【発明者】
【氏名】波田 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】細谷 知希
(72)【発明者】
【氏名】増山 浩平
(72)【発明者】
【氏名】松本 昇
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-247326(JP,A)
【文献】特開2017-140681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/02
B25B 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって駆動する回転打撃機構を有する工具本体と、
該工具本体に着脱可能に装着される先端工具と、を備え、
該先端工具に対して前記モータによる回転力とともに前記回転打撃機構による回転方向への打撃力を付与するインパクト工具において、
前記先端工具に取付けられ、該先端工具の回転動作を視覚的に識別可能な識別部材と、
該識別部材を撮像する撮像手段と、
該撮像手段による撮像データに基づいて、前記先端工具の回転動作が所定の締付終了状態に達したと判断した場合に、前記モータの駆動を停止する制御部と、を備えたことを特徴とするインパクト工具。
【請求項2】
前記識別部材は、前記先端工具の回転方向に対して弾性変形可能に構成され、
前記制御部は、前記撮像手段が撮像した前記識別部材のねじれ変形に基づいて打撃回数をカウントし、所定の打撃回数に達した際に締付終了状態と判断することを特徴とする請求項1に記載のインパクト工具。
【請求項3】
前記制御部は、撮像データに基づいて前記先端工具の回転角度を検出し、検出した回転角度が所定の回転角度に達した際に締付終了状態と判断することを特徴とする請求項1に記載のインパクト工具。
【請求項4】
前記制御部は、色情報と打撃回数情報又は色情報と回転角度情報を関連付けたマップ情報を記憶する記憶部を有し、前記撮像手段による撮像データから前記識別部材に施された色を判別し、判別された色情報に基づいて、前記締付終了状態と判断するための打撃回数又は回転角度を決定することを特徴とする請求項2又は3に記載のインパクト工具。
【請求項5】
前記撮像手段及び前記制御部は、前記工具本体に対して着脱可能な撮像ユニットに搭載されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のインパクト工具。
【請求項6】
前記工具本体は、前記モータ及び前記回転打撃機構を有するとともに前記先端工具が装着される駆動ユニットと、該駆動ユニットに対して着脱可能であって該駆動ユニットに電力を供給するバッテリユニットとを備え、
前記撮像ユニットは、前記駆動ユニットと前記バッテリユニットとの間に装着されることを特徴とする請求項5に記載のインパクト工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転方向に対して打撃力を付与可能なインパクト工具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の組み立て作業では、ボルトやナット等の締結部品を締付ける締付工程が多数行われる。
【0003】
一般に、各締付工程において締付トルクの管理重要度が高い部位では、トルク保証が可能な電動締付工具、例えば、ナットランナー等のトルク管理精度の高い電動締付工具が用いられる。
【0004】
一方、締付トルクの管理重要度が低い部位では、工具コストを抑える観点から、トルク管理機能のない電動締付工具、例えば、トルク制限のないインパクトドライバやインパクトトレンチ等のインパクト工具が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0005】
特許文献1に記載のインパクト工具は、工具本体と、工具本体に着脱可能に装着される先端工具であるビットとを備える。工具本体は、モータと、モータにより回転するスピンドルと、スピンドルに保持されるハンマと、ハンマの前方側(ビットを装着する側)に配置されるとともにハンマによって打撃されるアンビルとを備えており、アンビルに形成された先端工具保持部にビットが装着される。工具本体においてハンマ及びこれを付勢するバネ等は、モータの回転力を回転方向への打撃力に変換する回転打撃機構を構成している。
【0006】
このインパクト工具では、工具本体に締結部品に応じたビットを装着し、モータを駆動すると、ビットに対してモータによる回転力が付与されるとともに、回転打撃機構によって回転方向への打撃力が間欠的に付与され、その結果、締結部品を強固に締付けることができる。モータの駆動及び停止は、工具本体に設けられた駆動スイッチを作業者が手動操作することによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したインパクト工具では、トルク管理機能が付与されていないため、締結部品を締付ける時間が長くなるほど締付トルクが大きくなる。既述のとおり、駆動スイッチの操作は作業者の手動によるため、作業者の感覚によって締付時間にバラツキが生じ、締付トルクが高くなり過ぎたり、低くなったりすることが懸念される。
【0009】
しかしながら、締付トルクを安定化させるために、全ての締付部品に対してトルク管理制度の高いナットランナーを採用すると工具コストが増大してしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、コストを抑えながら、締付トルクの精度を向上することができるインパクト工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、モータによって駆動する回転打撃機構を有する工具本体と、該工具本体に着脱可能に装着される先端工具と、を備え、該先端工具に対して前記モータによる回転力とともに前記回転打撃機構による回転方向への打撃力を付与するインパクト工具において、前記先端工具に取付けられ、該先端工具の回転動作を視覚的に識別可能な識別部材と、該識別部材を撮像する撮像手段と、該撮像手段による撮像データに基づいて、前記先端工具の回転動作が所定の締付終了状態に達したと判断した場合に、前記モータの駆動を停止する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、撮像手段が撮像した識別部材の撮像データに基づいて、先端工具の回転動作が所定の締付終了状態に達したと判断した場合に、制御部が自動でモータの駆動を停止するので、作業者による締付トルクの大きさバラつきを抑制して、締付トルクの精度を高めることができる。また、既存の工具本体を活用しながら、これらに識別部材、撮像手段及び制御部を付属させることにより締付トルク精度の高いインパクト工具を構成することができるので、工具コストを抑えることができる。
【0013】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載のインパクト工具において、前記識別部材は、前記先端工具の回転方向に対して弾性変形可能に構成され、前記制御部は、前記撮像手段が撮像した前記識別部材のねじれ変形に基づいて打撃回数をカウントし、所定の打撃回数に達した際に締付終了状態と判断することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、識別部材のねじれ変形によって打撃の有無を視覚的に検出して打撃回数をカウントすることができる。また、インパクト工具による打撃回数が所定の打撃回数に達した場合にモータを停止させることで、打撃回数を均一化し、締付トルクを安定化させることができる。
【0015】
また、請求項3に係る発明は、請求項1に記載のインパクト工具において、前記制御部は、撮像データに基づいて前記先端工具の回転角度を検出し、検出した回転角度が所定の回転角度に達した際に締付終了状態と判断することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、締結部材の締付作業において、先端工具の回転角度が所定の回転角度に達した場合にモータを停止させることで、締付部材の締付回転角度を均一化し、締付トルクを安定化させることができる。
【0017】
また、請求項4に係る発明は、請求項2又は3に記載のインパクト工具において、前記制御部は、色情報と打撃回数情報又は色情報と回転角度情報を関連付けたマップ情報を記憶する記憶部を有し、前記撮像手段による撮像データから前記識別部材に施された色を判別し、判別された色情報に基づいて、前記締付終了状態と判断するための打撃回数又は回転角度を決定することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、識別部材に施された色の違いによって、締付終了状態を判断するための打撃回数又は回転角度を決定することができるので、同一の工具本体に対して、識別部材の色が異なる複数の先端工具を用いることで、締付対象の異なる締付作業に迅速かつ安価に対応させることができる。
【0019】
また、請求項5に係る発明は、請求項1~4のいずれか1項に記載のインパクト工具において、前記撮像手段及び前記制御部は、前記工具本体に対して着脱可能な撮像ユニットに搭載されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、工具本体に撮像ユニットを装着する簡易な構造で締付トルク精度の高いインパクト工具として使用することができる。
【0021】
また、請求項6に係る発明は、請求項5に記載のインパクト工具において、前記工具本体は、前記モータ及び前記回転打撃機構を有するとともに前記先端工具が装着される駆動ユニットと、該駆動ユニットに対して着脱可能であって該駆動ユニットに電力を供給するバッテリユニットとを備え、前記撮像ユニットは、前記駆動ユニットと前記バッテリユニットとの間に装着されることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、駆動ユニットとバッテリユニットとの間に、モータの駆動を制御する制御部を有する撮像ユニットを配置することで、電力回路を大きく変更することなく、簡易な設計変更によって締付トルク精度の高いインパクト工具とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るインパクト工具によれば、コストを抑えながら、締付トルクの精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施の形態であるインパクト工具の概略説明図。
【
図3】識別部材が取り付けられたビットの側面図であって(a)は識別部材の初期状態を示す側面図、(b)は識別部材がねじれ変形した状態を示す側面図。
【
図4】識別部材のねじれ変形量と締付時間との関係を簡略的に示すグラフ。
【
図6】本発明の第2の実施の形態に用いられるビット及び識別部材を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態であるインパクト工具の概略説明図である。インパクト工具10は、工具本体20と、先端工具であるビット30と、ビット30に取付けられた識別部材40と、撮像ユニット50とを備え、撮像ユニット50は、撮像装置(撮像手段)52と、制御装置(制御部)54とを備える。
【0026】
工具本体20は、互いに分離及び一体化可能な駆動ユニット21とバッテリユニット25とを備える。さらに、本実施の形態において撮像ユニット50は、分離された駆動ユニット21とバッテリユニット25との間に装着可能である。
【0027】
駆動ユニット21は、モータM及びモータMにより駆動する回転打撃機構22を有する本体部23と、モータMの駆動・停止を操作する操作部24が設けられたグリップ部29とを備える。本実施の形態において操作部24は、モータMに電力を供給する電力回路28に配置された第1スイッチ27をON/OFF操作するトリガであり、グリップ部29から突出した操作部24を押し込むことで第1スイッチ27がON状態となる。
【0028】
回転打撃機構22は、モータMによる回転力をビット30に付与するとともに、モータMの回転力を回転方向への打撃力に変換してビット30に付与するものであり、モータMにより回転するスピンドルと、スピンドルに保持されるハンマと、ハンマを付勢するバネと、これらを収容するケース22aと、ハンマの前方側(
図1の左方側)に配置されるとともにハンマによって打撃されるアンビル22bとを備える。なお、
図1では、回転打撃機構22を構成するスピンドルやハンマ等の記載を省略している。
【0029】
アンビル22bの先端部には、凹状の先端工具保持部(図示せず)が形成されており、この先端工具保持部にビット30の基部31aが着脱可能に装着される。アンビル22bには、複数のビット30-1,30-2の中から、締付対象であるボルトやナット等の締付部材の形状に応じた先端形状を有するビット30-1を適宜選択して装着することができる。各ビット30-1,30-2には、それぞれ、識別部材40-1,40-2が取り付けられている。
【0030】
バッテリユニット25は、モータMを駆動する電力源であるバッテリ26を有しており、駆動ユニット21と連結された状態で、バッテリ26とモータMとは、各ユニット21,22内に配設された電力回路28を介して電気的に接続可能である。また、本実施の形態では、撮像ユニット50の内部にもモータMを駆動するための電力回路28の一部が配設されており、駆動ユニット21とバッテリユニット25との間に撮像ユニット50を装着した状態で、バッテリ26とモータMとを電気的に接続可能に構成されている。
【0031】
なお、
図1は、駆動ユニット21、撮像ユニット50及びバッテリユニット25が互いに連結されて一体化された状態を示しており、モータMを駆動する電力回路28の構成を理解しやすくするために、各ユニット21,25,50の内部に配置されたモータM及び電力回路28を実線で記載している。
【0032】
ビット30は、高剛性の金属材料で形成されており、アンビル22bに装着される基部31aと、基部31aから直線状に延びる軸部31bと、締付部材と嵌合する締付ヘッド31cとを有する。識別部材40は、ビット30の回転動作を視覚的に識別可能とするための部材であり、ビット30の軸部31bの外周を囲む略円筒状であって、その周面に、着色が施された模様からなる識別表示44を有する。
【0033】
図2に示すように、ビット30は、基部31aを有する入力部32と、ボルト等の締付部材と嵌合する締付ヘッド31cを有する出力部36とを備えており、入力部32と出力部36とは別部品で構成され、識別部材40を介して連結される。
【0034】
入力部32は、ロッド状の入力側軸部32aと、入力側軸部32aの一端側に位置してアンビル22の先端工具保持部に嵌合する基部31aと、入力側軸部32aの他端側に位置する係合部32bとを有する。出力部36は、ロッド状の出力側軸部36aと、出力側軸部36aの一端側に位置して係合部32bと係合する被係合部36bと、出力側軸部36aの他端側に位置する締付ヘッド31cとを有する。入力側軸部32a及び出力側軸部36aは、ビット30の軸部31bを構成している。
【0035】
ビット30は、入力部32の係合部32bを形成する凹部に出力部36の軸状の被係合部36bが嵌め込まれることにより、入力側軸部32aと出力軸部36aとの軸心が一致し、かつ入力部32に対して出力部36が軸心周りに回転可能に構成されている。また、入力部32と出力部36とは直接接合されておらず、入力側軸部32a及び出力側軸部36aが、それぞれ、接合部38,39を介して識別部材40と接合されることにより、一体となっている。ビット30を工具本体20に装着した状態において、入力部32に入力された回転力及び打撃力は、識別部材40を介して出力部36に伝達される。
【0036】
識別部材40は、ビット30に装着した状態で、ビット30の回転方向に弾性変形可能に構成されている。このような識別部材40は、例えば、樹脂(ゴムやウレタン等)やバネ等の弾性変形可能な材料で構成することができる。
【0037】
本実施の形態において識別表示44は、着色された複数の平行に延びる直線状のライン(以下、ストライプ模様44とも称する)であり、各ラインは、回転力が付与されていない初期状態において、ビット30の軸方向に平行に延びている。本実施の形態では
図1に示すように、工具本体20に装着可能な複数のビット30-1,30-2のそれぞれに、色の異なるストライプ模様44を有する識別部材40-1,40-2、一例として、赤色ストライプ模様44の識別部材40-1と青色ストライプ模様44の識別部材40-2のそれぞれを取り付けている。
【0038】
図3は、識別部材40が取り付けられたビット30の側面図である。
図3(a)に示すように、ビット30をアンビル22bに装着した状態であって、回転力や打撃力が付与されていない初期状態においては、側面視でストライプ模様44がビット30の軸方向に平行に延びている。一方、ビット30に打撃力が付与された際には、打撃力によってビット30の入力部32が回転方向への急激に回転する一方、出力部36は、回転方向に弾性変形する識別部材40を介して回転するため、回転動作が入力部32よりも遅くなる。これにより、ビット30が打撃力を受けた際には、
図3(b)に示すように、側面視でストライプ模様44は、識別部材40のねじれ変形により、ビット30の軸方向に対して傾斜した状態となる。また、打撃後は、識別部材40の弾性力により、ストライプ模様44がビット30の軸方向と平行な状態に戻っていく。
【0039】
撮像ユニット50の撮像装置52は、撮像レンズと、CCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の撮像素子とを含んで構成され、光学像を電気信号に変換する。この撮像装置52は、工具本体20に撮像ユニット50を装着した状態で、工具本体20に装着されたビット30に取付けられた識別部材40を撮像可能な位置に配置される。
【0040】
撮像ユニット50の制御装置54は、例えば、CPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス等からなるマイクロコンピュータを備えて構成されており、撮像装置52と通信可能に接続され、撮像装置52が取得した撮像データに基づいて撮像ユニット50内の電力回路28に設けられた第2スイッチ56をON/OFF制御する。
【0041】
本実施の形態において制御装置54は、マップ情報が記憶された記憶部と、撮像装置52の撮像データ及び記憶部のマップ情報から締付終了状態を決定する終了状態設定部と、計測部と、締付終了状態を判定する判定部とを有する。
【0042】
マップ情報は、色情報と打撃回数情報とが関連付けられた情報であり、本実施の形態では、赤色には5回の打撃回数、青色には3回の打撃回数が関連付けられている。
【0043】
計測部は、撮像装置52が取得した撮像データに基づいて打撃回数をカウントする。具体的には、計測部は識別部材40のねじれ変形に基づいて打撃の有無を検出し、打撃回数をカウントする。判定部は、計測部の計測結果に基づき、終了状態設定部が決定した所定の締付終了状態に達したと判断した場合に締付終了状態と判定し、第2スイッチ56をOFF状態にする。
【0044】
次に、上述したインパクト工具10を用いた締付部材の締付作業について説明する。
【0045】
まず、
図1に示すように、駆動ユニット21、撮像ユニット50及びバッテリユニット25が一体となった工具本体20のアンビル22bに、締付部材に応じたビット30-1を取り付ける。ビット30-1の識別部材40-1には、識別表示44として赤色のストライプ模様が付されている。インパクト工具10の電力回路28は、第1スイッチ27がOFF状態、第2スイッチ56がON状態となっている。
【0046】
ビット30-1が装着された状態において、撮像装置52は、常時、識別部材40-1の撮像データを制御装置54に送信する。制御装置54の終了状態設定部は、撮像装置52の撮像データに基づき、マップ情報から締付終了状態を決定する。この例では、赤色に関連付けられた5回の打撃回数が締付終了状態として設定される。
【0047】
その後、作業者はビット30-1の締付ヘッド31cに締付部材を着座して、トリガであるインパクト工具10の操作部24を押込み操作する。これにより、第1スイッチ27がON状態となって電力回路28が通電状態となり、モータMが駆動開始して締付部材の締付が開始される。
【0048】
締付の開始直後は、ビット30の入力部32と出力部36とがほぼ同一の速度で回転し、識別部材40は、
図3(a)に示すように、ストライプ模様44が軸方向と平行な状態で軸周りに回転する。その後、回転打撃機構22によってビット30に打撃力が付与されると、
図3(b)に示すように、識別部材40は大きくねじれ変形してストライプ模様44が軸方向に対して傾斜し、その後に弾性力によって元の平行な状態に戻っていく。
【0049】
図4は、インパクト工具10による締付部材の締付時間と、識別部材40のねじれ変形量との関係を簡略的に示すグラフであり、
図5の(a)、(b)及び(c)のそれぞれは、
図4の締付時間t
1、t
2及びt
3のそれぞれにおける識別部材40のねじれ変形状態を簡略的に示す側面図である。
【0050】
識別部材40は、初期状態において
図5(a)に示す変形量X
0の状態にあり、締付時間t
1において打撃力を受けると、急激にねじれ変形して締付時間t
2に
図5(b)に示す変形量X
2の状態となる。その後、次の打撃力を受けるまでの間、
図5(c)に示すようにねじれ変形量は小さくなっていく。このように、
図4に示す識別部材40の変形量のピークの数が、打撃回数の数になり、このピークの数は、
図5に示すように、識別部材40のねじれ変形から検出することができる。なお、回転打撃機構22による打撃回数は、例えば、約3000回/分とすることができ、これは既存のカメラ等の撮像装置52によって撮像することが可能である。
【0051】
制御装置54の計測部は、撮像装置52が撮像した識別部材40のねじれ変形のデータから打撃回数をカウントし、判定部は、カウント数が5回に達すると締付終了状態と判定し、第2スイッチ56をOFF状態にする。これにより、インパクト工具10の操作部24が押込み操作された状態であっても、電力回路28は非通電状態となり、モータMの駆動が停止される。
【0052】
なお、第2スイッチ56は、OFF状態となった後、撮像ユニット50に設けられた図示していない手動スイッチを操作することによりON状態とすることができる。また、これに代えて、又はこれとともに、制御装置54によって所定時間経過後に自動でON状態になるように制御することができる。
【0053】
なお、工具本体10に、識別表示44として青色のストライプ模様が付された識別部材40-2が取り付けられたビット30-2を装着した場合、制御装置54の終了状態設定部は、撮像装置52の撮像データから、青色に関連付けられた3回の打撃回数が締付終了状態として設定する。また、制御装置54の判定部は、計測部による打撃回数のカウント数が3回に達した場合に、締付終了状態と判定して第2スイッチ56をOFF状態にする。
【0054】
上述したインパクト工具10では、撮像装置52が撮像した識別部材40の撮像データに基づいて、ビット30の回転動作が所定の締付終了状態に達したと判断した場合に、制御装置54が第2スイッチ56をOFF状態にして、モータMの駆動を自動停止するので、作業者による締付トルクの大きさバラつきを抑制して、締付トルクの精度を高めることができる。特に、本実施の形態においては、インパクト工具10による打撃回数が所定の打撃回数に達した場合にモータMを停止させる構造とすることで、打撃回数を均一化して締付トルクを安定化させることができる。
【0055】
また、このインパクト工具10は、識別部材40のねじれ変形によって打撃の有無を視覚的に検出して打撃回数をカウントする構成であるため、既存の工具本体20を活用しながら、これらに識別部材40、撮像装置52及び制御装置54を付属させる簡易な構造で締付トルク精度の高いインパクト工具10とすることができ、工具コストの増加を抑えることができる。
【0056】
また、本実施の形態では、撮像装置52と制御装置54とをユニット化した撮像ユニット50とを用いており、これを工具本体20に装着する構造としているため、使い勝手に優れている。また、駆動ユニット21とバッテリユニット25との間に撮像ユニット50を配置することで、電力回路を大きく変更することなく、簡易な構造によって締付トルク精度の高いインパクト工具10とすることができるとともに、撮像ユニット50を取外して、駆動ユニット21とバッテリユニット25とを直接連結して使用することも可能であるため、汎用性に優れている。
【0057】
また、識別部材40に施された色の違いによって、締付終了状態を判断するための打撃回数を自動的に設定することができるので、作業者がその都度、設定変更を行う手間を省くことができる。
【0058】
なお、識別表示44は、図示例のストライプ模様に限られず、打撃力を受けた際に弾性変形によって表示が視覚的に変化するものであればよく、例えば、初期状態においてビット30の軸方向に対して傾斜したストライプ模倣や曲線模様等の他の模様、さらに、イラスト等であってもよい。
【0059】
(第2の実施の形態)
図6は、本発明の第2の実施の形態に用いられるビット30及び識別部材40を示す側面図である。第2の実施形態のインパクト工具10は、ビット30、識別部材40及び制御装置54の構成が第1の実施の形態と異なっており、制御装置54は、撮像装置52による識別部材40の撮像データに基づいて、ビット30の回転角度を検出して締付終了状態を判断する。以下に説明する第2の実施の形態では、第1の実施の形態と対応する部位に同一の符号を付し、第1の実施の形態と同一の構成についての詳細を省略する。
【0060】
本実施の形態のビット30は、基部31aと、軸部31bと、締付ヘッド31cとを有する1つの部品で構成されており、識別部材40は、軸部31bの外周に接合部を介して固定されており、締付作業において、ビット30と同一の回転速度で回転する。識別部材40は剛性の高い樹脂材料や金属材料等で形成される。識別部材44は、その外周面に回転角度を視認可能な識別表示44を有している。一例として、
図6の識別表示44は、識別部材40の外周面に90度間隔で配置された4本の赤色のライン(1本は図示せず)と、各ライン上に記された軸方向の位置が異なるドット状の角度識別部48とによって形成されている。なお、識別表示44は、
図6に示すライン状の模様に限られず、回転角度を視覚的に認識できるものであればよい。
【0061】
制御装置54は、マップ情報が記憶された記憶部と、撮像装置52の撮像データ及び記憶部のマップ情報から締付終了状態を決定する終了状態設定部と、計測部と、締付終了状態を判定する判定部とを有する。マップ情報は、色情報と回転角度情報とが関連付けられた情報である。
【0062】
計測部は、撮像装置52が取得した識別部材40の撮像データに基づいてビット30の回転角度を検出する。判定部は、計測部の計測結果に基づき、終了状態設定部が決定した所定の締付終了状態に達したと判断した場合に締付終了状態を判定し、第2スイッチ56をOFF状態にする。
【0063】
次に、第2の実施の形態のインパクト工具10を用いた締付部材の締付作業について説明する。まず、駆動ユニット21、撮像ユニット50及びバッテリユニット25が一体となった工具本体20のアンビル22bにビット30を取り付ける。ビット30が装着された状態において、撮像装置52は、常時、識別部材40の撮像データを制御装置54に送信する。制御装置54の終了状態設定部は、撮像装置52の撮像データに基づき、マップ情報から締付終了状態を決定する。この例では、赤色に関連付けられた所定の回転角度が締付終了状態として設定される。
【0064】
その後、作業者はビット30の締付ヘッド31cに締付部材を着座してインパクト工具10の操作部24を押込み操作する。これにより、第1スイッチ27がON状態となり、モータMが駆動開始して締付部材の締付が開始される。
【0065】
制御装置54の計測部は、撮像装置52が撮像した識別部材40の回転角度に基づいてビット30の回転角度を検出する。判定部は、検出された回転角度が、終了状態設定部により設定された所定の回転角度に達したと判断した場合に、締付終了状態と判定し、第2スイッチ56をOFF状態にする。これにより、電力回路28は非通電状態となり、モータMの駆動が停止される。
【0066】
このように、撮像データからビット30の回転角度が所定の回転角度に達したと判断した場合にモータMを停止させることで、締付部材の締付回転角度を均一化し、締付トルクを安定化させることができる。また、ビット30ごとに識別表示44の色が異なるようにし、色の違いによって締付終了状態を判断するための回転角度を決定することがで、締付対象の異なる締付作業に迅速かつ安価に対応させることができる。
【0067】
なお、本発明は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0068】
例えば、撮像装置52と制御装置54とはユニット化されておらず、個々に工具本体20に装着する構造であってもよいし、工具本体20に一体的に搭載された構造であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 インパクト工具
12 回転打撃機構
20 工具本体
21 駆動ユニット
22 バッテリユニット
24 操作部
27 第1スイッチ
28 電力回路
30 ビット
32 入力部
36 出力部
40 識別部材
44 識別表示
50 撮像ユニット
52 撮像装置
54 制御装置
56 第2スイッチ
M モータ