(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】抗Fel D1抗体を含む組成物及びヒトのネコアレルギーの少なくとも1つの症状を減少させる方法
(51)【国際特許分類】
A23K 20/147 20160101AFI20220727BHJP
A23K 10/20 20160101ALI20220727BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20220727BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20220727BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20220727BHJP
A23K 20/174 20160101ALI20220727BHJP
A23K 20/20 20160101ALI20220727BHJP
A23K 50/40 20160101ALI20220727BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20220727BHJP
A23L 29/281 20160101ALI20220727BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20220727BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220727BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220727BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220727BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220727BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220727BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220727BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
A23K20/147
A23K10/20
A23K10/30
A23K20/158
A23K20/163
A23K20/174
A23K20/20
A23K50/40
A23L29/256
A23L29/281
A23L33/17
A61K9/14
A61K9/48
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 V
A61K47/02
A61K47/36
A61K47/42
A61P37/08
(21)【出願番号】P 2019539984
(86)(22)【出願日】2018-01-18
(86)【国際出願番号】 IB2018050320
(87)【国際公開番号】W WO2018138607
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2021-01-06
(32)【優先日】2017-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ウースター, ティモシー, ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】サトヤラジ, エベニーザー
(72)【発明者】
【氏名】ギャーバー, ビート
(72)【発明者】
【氏名】ゴンバス, エディ
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特許第5873631(JP,B2)
【文献】国際公開第2008/103046(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/072636(WO,A2)
【文献】Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 2014年,Vol.113,p.346-351
【文献】Ther. Deliv., 2015年,Vol.6, No.5,p.595-608
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 47/42
A61K 47/36
A61K 9/48
A61K 9/14
A61K 47/02
A61K 39/35
A61P 37/08
A23L 33/17
A23L 29/281
A23L 29/256
A23K 50/40
A23K 20/147
A23K 10/20
A23K 10/30
A23K 20/158
A23K 20/163
A23K 20/174
A23K 20/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗Fel D1分子の持続放出を提供する
ネコ用ペットフード粉末であって、
乾燥されたヒドロゲル及び前記抗Fel D1分子を含み、
前記乾燥されたヒドロゲルが、ゼラチン
及びカラギーナンを含み、
前記抗Fel D1分子が、前記乾燥されたヒドロゲル中に封入されて
おり、
前記抗Fel D1分子が抗Fel D1 IgYである、ネコ用ペットフード粉末。
【請求項2】
前記ゼラチ
ンが、7.0未満のpHで正電荷を有するタイプAブタゼラチン由来である、請求項1に記載の
ネコ用ペットフード粉末。
【請求項3】
前記カラギーナンが、(i)κ(カッパ)カラギーナン、(ii)Ι(イオタ)カラギーナン、(iii)κカラギーナン及びΙカラギーナンの物理的混合物、並びに(iv)κカラギーナン及びΙカラギーナンのコポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の
ネコ用ペットフード粉末。
【請求項4】
前記ゼラチン及び前記カラギーナンが、前記乾燥されたヒドロゲル中の唯一のバイオポリマーである、請求項1に記載の
ネコ用ペットフード粉末。
【請求項5】
前記乾燥されたヒドロゲルが、前記抗Fel D1分子及び0.5~90重量%のゼラチンを含む噴霧乾燥されたヒドロゲルであり、前記粉末が
、0.265
~0.3g/cm
3の密度を有する、請求項1に記載の
ネコ用ペットフード粉末。
【請求項6】
前記ゼラチ
ンが、2,000~1,000,000ダルトンの分子量及び40~300のブルーム値を有する、請求項5に記載の
ネコ用ペットフード粉末。
【請求項7】
25.0~60.0重量%の前記ゼラチンと、40~75重量%の前記抗Fel D1分子の供給源とを含む、請求項5に記載の
ネコ用ペットフード粉末。
【請求項8】
抗Fel D1分子の持続放出を提供する
ネコ用ペットフード粉末の製造方法であって、
ゼラチン、カラギーナン、及び前記抗Fel D1分子を含む溶液を加熱する工程と、
前記加熱された溶液の液滴を形成する工程と、
前記液滴を塩又は油を含むゲル化浴に供することによって、前記液滴をゲル化して、前記抗Fel D1分子が封入されているゲル化されたビーズを形成する工程と、
前記ゲル化されたビーズを乾燥させて、
ネコ用ペットフード粉末を形成する工程と、を含
み、
前記抗Fel D1分子が抗Fel D1 IgYである、方法。
【請求項9】
前記ゲル化浴が
、100mMの塩化カリウム
、100mMの塩化カルシウム、又はその両方を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記乾燥が、前記ビーズを流動床乾燥させる工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ゼラチン及び前記カラギーナンが、前記乾燥されたヒドロゲル中で60℃未満でゲル化が可能な唯一のバイオポリマーである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
抗Fel D1分子の持続放出を提供する
ネコ用ペットフード粉末の製造方法であって、
ゼラチン、カラギーナン、及び前記抗Fel D1分子を含む溶液を加熱する工程と、
前記加熱された溶液を押出成形して冷却し、前記加熱された溶液を形状化し、前記抗Fel D1分子が封入されている押出成形されたヒドロゲルを形成する工程と、
前記押出成形されたヒドロゲルを乾燥させる工程と、を含
み、
前記抗Fel D1分子が抗Fel D1 IgYである、方法。
【請求項13】
前記押出成形が
、0.1℃
~35℃の温度を有する管状熱交換器によって実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記押出成形されたヒドロゲルを、前記乾燥前に、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウムを含む組成物中に浸漬する工程を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記乾燥が、前記押出成形されたヒドロゲルを乾燥トンネル、オーブン、又は流動床乾燥機に供する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
抗Fel D1分子の持続放出を提供する
ネコ用ペットフード粉末の製造方法であって、
前記抗Fel D1分子と5.0~20.0重量%の、2,000~1,000,000ダルトンの分子量及び40~300のブルーム値を有するゼラチ
ンとを含む溶液を噴霧乾燥して、前記抗Fel D1分子が封入されている乾燥されたヒドロゲルを形成する工程を含
み、
前記抗Fel D1分子が抗Fel D1 IgYである、方法。
【請求項17】
前記ゼラチ
ンが、前記乾燥されたヒドロゲル中で60℃未満でゲル化が可能な唯一のバイオポリマーである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記溶液が、7.5~12.5重量%のゼラチンと、5~20重量%の前記抗Fel D1分子の供給源とを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ネコに対するヒトのアレルギー症状を低減する方法であって、有効量の請求項1に記載の
ネコ用ペットフード粉末を前記ネコに経口投与する工程を含む、方法。
【請求項20】
前記
ネコ用ペットフード粉末が、タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン及びミネラルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を更に含むペットフードの一部として投与される、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
[0001]本出願は、2017年1月24日に出願された米国特許仮出願第62/449,883号の優先権を主張するものであり、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
[0002]成人の約20%は、ネコ及び/又はネコのフケに対するアレルギーを患っている。ネコアレルギーの症状は、軽度鼻炎及び結膜炎から、生命を脅かす喘息反応までの範囲にわたり、ネコアレルギーは、ネコを飼うことに対する主要な障害である。例えば、ネコアレルギーは、ネコの飼い主がネコを動物保護施設に戻す際に主要な理由とする。
【0003】
[0003]ほとんどのネコアレルギーは、Fel D1(Feline domesticus allergen number 1)と呼ばれる、小さく安定した糖タンパク質により引き起こされる。このタンパク質は、ネコの毛づくろいの過程でネコのフケに移り、空中を浮遊するようになる。Fel D1が付着したネコのフケを吸入すると、ヒト免疫細胞によりFel D1が認識されるため、アレルギーカスケードが誘発される。
【発明の概要】
【0004】
[0004]本開示は、Fel D1に特異的に結合する分子の口腔付着/粘膜付着、抗Fel D1分子の制御放出のためのヒドロゲル技術、及びヒドロゲルから粉末を生成するための加工方法、に関する。この抗Fel D1分子(例えば、Fel D1で免疫されたトリからのIgYなどの卵免疫グロブリン)は、ヒト免疫細胞によるFel D1の認識を遮断するため、ヒトのネコアレルギーの少なくとも1つの症状を低減することができる。この抗Fel D1分子が作用する部位は、Fel D1タンパク質が分泌されるネコの口内及び/又は毛づくろいの過程でFel D1が蓄積されるネコの毛皮上である。
【0005】
[0005]本発明者らは、食物を介した抗Fel D1分子のネコへの送達を提案している。初期の動物試験は、食物を介したこの分子のネコへの投与のみが、ネコの唾液中の遊離Fel D1を約30~35%減少させることを示した。本発明者らは、ネコの口内に抗Fel D1分子が長時間留まる必要があることが主要な制限であるものの、摂食及び飲水のプロセスでは、嚥下される食品に投与される分子は多量となり、したがって影響はないものと考えている。IgYの経口滞留の増加は、2つの異なる方法で測定することができる。一態様では、IgYは、特定の時点、例えば摂食の5分後に、より高濃度であるとして測定することができる。別の態様では、IgYは、特定の閾値未満にまで、例えば、10μg/mL超、≧1μg/mL、又は更には>100ng/mLにまで減少するのに長い時間がかかるものとして測定することができる。
【0006】
[0006]本発明者らは、ネコの口内に送達するための制御放出ヒドロゲルを作製する際の主要な課題の1つは、ヒドロゲルがネコの口内で溶融せずに即座に分散し、粘膜付着性を有し、ネコにとって確実に魅力的なものにすることであると考えている。キトサンは、周知の高度に粘膜付着性のポリマーであるが、酸性pHで粘膜付着性であり、ネコの口腔及び典型的なペットフードは中性pHを有する。別の主要な粘膜付着性ポリマーはブタゼラチンであるが、ゼラチンから作製されたゲルは体温で溶融する。
【0007】
[0007]本明細書で後に開示される実験結果に詳述されるように、本発明者らは、驚くべきことに、追加のバイオポリマーにより、ゼラチンベースのヒドロゲルの融解/溶解を制御することができることを見出した。具体的には、ゼラチン/κカラギーナンの共ゲル(co-gel)である湿潤ヒドロゲルは、抗Fel D1免疫グロブリン(IgY)のより緩やかな放出をもたらした。この2種類のポリマーは相分離するため、これらのバイオポリマーを組み合わせても典型的には良好なゲルが得られないことから、この発見は予想外のものであった。Lundin,L.O.,Odic,K.and Foster,T.J.(1999)Phase separation in mixed carrageenan systems. Proceedings to Supermolecular and Colloidal Structures in Biomaterials and Biosubstrates,Mysore,India。
【0008】
[0008]したがって、一実施形態では、抗Fel D1分子の持続放出を提供する食品等級粉末が提供される。食品等級粉末は、乾燥されたヒドロゲル及び抗Fel D1分子を含むことができ、乾燥されたヒドロゲルは、ゼラチン、コラーゲンペプチド、又はゼラチン及びコラーゲンペプチド、並びにカラギーナンを含み、抗Fel D1分子は、乾燥されたヒドロゲル中に封入されている。
【0009】
[0009]加えて、一実施形態では、本開示は、抗Fel D1分子の持続放出を提供する食品等級粉末の製造方法を提供する。方法は、ゼラチン、カラギーナン及び抗Fel D1分子を含む溶液を加熱する工程と、加熱された溶液の液滴を形成する工程と、液滴を食塩又は油を含むゲル化浴に供することによって液滴をゲル化して、抗Fel D1分子が封入されているゲル化されたビーズを形成する工程と、ゲル化されたビーズを乾燥させて食品等級粉末を形成する工程と、を含む。
【0010】
[0010]液滴は、加熱された溶液をノズルに通すことによって形成することができる。溶液の加熱は、溶液を約60℃の温度に供する工程を含み得る。ゲル化浴は、約100mMの塩化カリウムを含み得る。乾燥は、ビーズを流動床乾燥させる工程を含み得る。
【0011】
[0011]本発明者らはまた、食品業界での乾燥に最も一般的な方法は噴霧乾燥であると認めるが、ゼラチン又はゼラチン/カラギーナン組成物に従来の噴霧乾燥を行うと、in vitro試験中に高多孔性粉末構造により抗Fel D1分子(IgY)の急速な放出がもたらされることを見出した。驚くべきことに、本発明者らは、組成物が乾燥前にゲル化されたとき、in vitro試験中の抗Fel D1分子の放出が大幅に遅くなったことを見出した。例えば、押出プロセスにより、カプセル化の割合は高くなり、粉末粒子の最終サイズを制御する能力は高くなる。興味深いことに、押出プロセスは、カラギーナンが押出成形前に混合物に組み込まれたときに、はるかに良好な構造(より滑らかな表面、より少ない含有物)をもたらした。
【0012】
[0012]したがって、一実施形態では、本開示は、抗Fel D1分子の持続放出を提供する食品等級粉末の製造方法を提供する。方法は、ゼラチン、カラギーナン、及び抗Fel D1分子を含む溶液を加熱する工程と、加熱された溶液を押出成形して冷却し、抗Fel D1分子が封入されている押出成形されたヒドロゲルを形成する工程と、押出成形されたヒドロゲルを乾燥する工程と、を含む。
【0013】
[0013]この方法は、乾燥されたヒドロゲルを規定の大きさに粉砕する工程を含み得る。溶液の加熱は、押出成形前に溶液を少なくとも約60℃の温度に供する工程を含むことができ、溶液を少なくとも約40℃の温度を有する保持タンクに供し、次いで、溶液を保持タンクから少なくとも約60℃の温度に供する別の装置に移す工程を更に含むことができる。押出成形は、約5℃~約55℃の温度、又は一態様では約5℃~約35℃の温度を有する管状熱交換器によって実施することができ、溶液の加熱の少なくとも一部は、漏斗及び/又は管状熱交換器のポンプ内で実施することができる。この方法は、乾燥前に、押出成形されたヒドロゲルを、カルシウムを含む組成物中に浸漬する工程を含み得る。乾燥は、押出成形されたヒドロゲルを乾燥トンネル、オーブン、又は流動床乾燥機に供する工程を含み得る。
【0014】
[0014]別の実施形態では、本開示は、抗Fel D1分子の持続放出を提供する食品等級の粉末を提供する。食品等級粉末は、ゼラチン、コラーゲン、又はゼラチン及びコラーゲンペプチドを含む乾燥されたヒドロゲル、カラギーナン、及び抗Fel D1分子を含み、抗Fel D1分子は、乾燥されたヒドロゲル中に封入されている。粉末は、上記の2つの方法のうちの1つによって作製することができる。
【0015】
[0015]本発明者らはまた、ゼラチンを噴霧乾燥することは非常に困難であることが周知であることも記載した。総固形分の多いゼラチン溶液は、高弾性を有し、噴霧乾燥における噴霧中に長フィラメントを形成することがその理由である。噴霧乾燥プロセス中にフィラメントが形成されると、非常に低い多孔性を有し、かつ非常に綿毛状(fluffy)である粉末が生じ、これらの特徴は、いずれも粉末の流動性及び加工能力を著しく制限する。
【0016】
[0016]本発明者らは、驚くべきことに、最適化された噴霧乾燥条件並びにまたゼラチン特性(例えば、分子量)及び壁材料の注意深い選択により、得られる粉末がその粘膜付着性を保持する、噴霧乾燥可能な配合物を開発できることを見出した。特に、ゼラチン及び抗Fel D1分子を単に乾燥混合することで作製される粉末は、抗Fel D1分子が封入されていないため、抗Fel D1分子の口腔保持の増加をもたらさない。
【0017】
[0017]したがって、一実施形態では、本開示は、抗Fel D1分子の持続放出を提供する食品等級粉末の製造方法を提供する。この方法は、抗Fel D1分子と、40~300、一態様では40~300、又は更には約100のブルーム値を有する5.0~20.0重量%のゼラチンとを含む溶液を噴霧乾燥させて、抗Fel D1分子が封入されている乾燥されたヒドロゲルを形成する工程を含む。
【0018】
[0018]得られる粉末は、抗Fel D1分子の持続放出を提供し、かつ抗Fel D1分子と0.5~90重量%のゼラチンとを含む乾燥されたヒドロゲルを含む、食品等級粉末であり得る。抗Fel D1分子は、乾燥されたヒドロゲル中に封入されており、粉末は約0.265~約0.3g/cm3の密度を有し得る。一実施形態では、ゼラチンは、7.0未満のpHで正電荷を有し、乾燥されたヒドロゲルにおいて60℃未満でゲル化が可能な唯一のバイオポリマーであってもよいタイプAのブタゼラチンであり得る。一実施形態では、ゼラチン及びコラーゲンペプチドは、2,000~1,000,000ダルトンの分子量、及び/又は40~300のブルーム値を有することができる。
【0019】
[0019]本開示はまた、ネコに対するヒトのアレルギー症状を低減する方法を提供する。本方法は、本明細書に開示されるいずれかの実施形態の食品等級粉末、及び/又は本明細書に開示される食品等級粉末の製造方法のいずれかから得られる食品等級粉末を、有効量でネコに経口投与する工程を含む。粉末は、タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン及びミネラルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を更に含むペットフードの一部として投与することができる。
【0020】
[0020]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の利点は、感作されたヒトにおけるネコに対するアレルギー反応の少なくとも1つの症状を、低減、最小化、又は予防することである。
【0021】
[0021]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、ネコによって引き起こされるアレルギーを低減、最小化、又は予防することである。
【0022】
[0022]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、感作されたヒトと接触する前に、ネコの口をFel D1に結合する分子に曝露することであり、結合を受けたアレルゲンは、ヒトのマスト細胞と相互作用することができなくなることから、アレルゲン性反応は生じ得ない。
【0023】
[0023]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更なる利点は、ネコの口内における抗Fel D1分子の口腔滞留時間を強化し、ネコに対する訴求力が非常に高い(例えば、ペットフードにおいて投与可能である)担持/送達システムである。
【0024】
[0024]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更なる利点は、飼い主への訴求力を高め、猫の飼い主を増やし、猫を飼う家庭の成人及び子供の健康を改善することである。
【0025】
[0025]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、ヒトのネコアレルギー症状を低減するために複数の技術を使用することである。
【0026】
[0026]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、活性分子を封入するヒドロゲルの融解/溶解を制御することである。
【0027】
[0027]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、ネコの食餌を使用してネコのアレルギーに対処することによって、アレルギーのあるヒトが薬剤を摂取する又はネコとの接触を回避する必要性を低減又は除去することである。
【0028】
[0028]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更なる利点は、封入効果の高さ(例えば、ゲル化浴の代わりにin situのゲル化を使用することによる)、及び/又は抗Fel D1分子の損失を最小限に抑えること(例えば、温度が低くなるほど粘度が高くなるマトリックスを複製することによる)により、高含有量で抗Fel D1分子を有する粉末を提供することである。
【0029】
[0029]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、ゲル化温度プロファイル、ストランド強度、及び潤滑特性による、押出封入された材料の容易な形成である。
【0030】
[0030]追加の特徴及び利点を本明細書に記載する。これらは、以降の発明を実施するための形態及び図面から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】[0031] ヒトのネコアレルギーのうちの少なくとも1つの症状を低減する食品等級粉末を作製する第1の方法の一実施形態で使用することができるシステムの概略図である(「滴下法」)。
【
図1B】[0032] 滴下法によって製造された食品等級粉末の一実施形態の概略図である。
【
図2A】[0033] ヒトのネコアレルギーのうちの少なくとも1つの症状を低減する食品等級粉末を製造する第2の方法の一実施形態で使用することができるシステムの概略図である(「押出法」)。
【
図2B】[0034] 押出法によって作製された食品等級粉末の実施形態と、従来の噴霧乾燥によって製造された食品等級粉末との比較写真である。
【
図2C】[0035] 押出法で使用することができるシステムの一実施形態の写真である。
【
図2D】[0036] 使用中の
図2Cのシステムの写真である。
【
図3】[0037] ヒトのネコアレルギーの少なくとも1つの症状を低減する食品等級粉末を作製する第3の方法の一実施形態で使用することができるシステムの概略図である(「制御された噴霧乾燥方法」)。
【
図4】[0038] 異なる組成物のヒドロゲルからの経時的な抗Fel D1 IgY放出を比較するグラフである。
【
図5】[0039] 10重量%のタイプAのゼラチン及び2重量%の卵黄抽出物の溶液から調製された異なるヒドロゲルの視覚的外観を示す写真である。試料は、(I)ゲル片3×20×20mm、(II)噴霧乾燥された粉末(直径、D4、3 32μm)、(III)油中への滴下によって製造された湿潤ビーズレット(beadlet)、及び(IV)(III)から製造された、乾燥されたビーズレットとして調製した。
【
図6】[0040] 10重量%のゼラチン及び2重量%の卵黄抽出物の溶液から作製された粉末の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。粉末は、(I)噴霧乾燥によって又は(II)滴下後に流動床乾燥によって作製した。
【
図7】[0041] 湿潤(A~C)及び乾燥(D)ビーズレットの微細構造の複雑性についてのSEM分析である。組成:9.81重量%のゼラチン(タイプA)、1.99重量%の活性成分、1.47重量%のWR78カラギーナンを含み、塩を含まない。(A)フリーズフラクチャーcryo-SEMの画像である。(B)氷昇華を伴うcryo-SEMの画像である。(C)延長した氷昇華を伴うcryo-SEMの画像である。(D)乾燥されたビーズレットのSEMの画像である。
【
図8】[0042] 2重量%の卵黄抽出物を用い調製した10重量%のタイプAのゼラチンのヒドロゲルからの抗Fel IgY放出に対し異なるゲル調製方法が与える影響についてのグラフである。試料は、(I)ゲル片3×20×20mm、(II)噴霧乾燥された粉末(直径、D4、3 32μm)、(III)油中への滴下によって製造された湿潤ビーズレット、及び(IV)(III)から製造された、乾燥されたビーズレットとして調製した。
【
図9】[0043] 10重量%のゼラチン、1重量%のκカラギーナン及び2重量%の卵黄抽出物の溶液を噴霧乾燥することによって製造された粉末(A)及び(B)の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図10】[0044] 10重量%のゼラチン(タイプA 280ブルーム)、1重量%のκカラギーナン、及び2重量%の卵黄抽出物の溶液を噴霧乾燥することによって製造された(A)湿潤ビーズの写真、(B)乾燥ビーズの写真、(C)ビーズの走査型電子顕微鏡写真である。
【
図11】[0045] 2重量%の卵黄抽出物を用い調製した10重量%のゼラチン/1重量%のκカラギーナン共ヒドロゲルからのIgY放出に対し異なるゲル調製方法が与える影響を示すグラフである。(A)試料は、(I)100mMのKCl溶液に滴下して製造された湿潤ビーズレット、及び(II)(I)から製造された乾燥されたビーズレットとして調製した。(B)試料は、(I)100mMのKCl溶液に滴下して製造された湿潤ビーズレット、(II)(I)から製造された乾燥されたビーズレット、(III)10重量%のゼラチン(タイプA)及び2重量%の卵黄抽出物を油中に滴下して製造された湿潤ビーズレット、及び(IV)(III)から製造された、乾燥されたビーズレットとして調製した。
【
図12】[0046] 滴下及び押出法によって封入された抗Fel D1 IgYの変性及び封入効率に関する実験データのグラフである。
【
図13】[0047] 滴下及び押出法によって封入された抗Fel D1 IgYの制御放出に関する実験データのグラフである。
【
図14】[0048] 押出法によって封入された抗Fel D1 IgYの口腔付着に関する実験データのグラフである。
【
図15】[0049] 封入されていない抗Fel D1 IgYのin vivoでの口腔滞留時間に関する実験データのグラフである。
【
図16】[0050] 制御された噴霧乾燥法によって封入された抗Fel D1 IgYの口腔付着に関する実験データのグラフである。
【
図17】[0051] 異なる噴霧乾燥されたゼラチン粉末の組成及び粉末特性(物理的外観及び密度)を示す表である。粉末品質指数:1-液体が吸い上げられない、2-ノズルが遮断された、3-広範なスパイダーウェブ(extensive spider webs)、4-綿毛状の粉末、5-中密度の粉末、6-高密度粉末。
【
図18】[0052] IgYの口腔保持に対する封入の影響を評価するために使用される臨床試験の設計を示す概略図である。
【
図19】[0053] IgYの口腔保持に対する封入の影響を評価するために使用されるヒト臨床試験において使用される2つの試験サンプルの組成である。
【
図20】[0054] 2とおりの処理i)1gの卵粉末で送達される140mgのIgY、ii)ゼラチン(タイプA、100ブルーム)及び脱脂卵黄タンパク質の噴霧乾燥された粉末として送達される140mgのIgY、によるヒトの唾液中のIgY濃度の変化を、時間経過に対し示す。エラーバーは、95%信頼区間を表し、n=12人の参加者である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[0055]定義
[0056]本開示及び添付の特許請求の範囲において使用するとき、単数形「1つの」(「a」、「an」及び「the」)には、別段の指示がない限り、複数の参照物も含まれる。「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含んでいる(comprising)」という用語は、排他的にではなく包含的に解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」はすべて、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは包括的なものであると解釈される。しかしながら、本明細書において開示される装置には、具体的に開示されない任意の要素が存在しない場合がある。したがって、「を含む(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成成分「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」実施形態の開示を含む。
【0033】
[0057]「X及び/又はY」の文脈にて使用される用語「及び/又は」は、「X」又は「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。本明細書において使用する場合、用語「例(example)」及び「などの(such as)」は、特に後に用語の掲載が続く場合は、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであると判断すべきではない。別途記載のない限り、本明細書で開示される任意の実施形態を、本明細書で開示される任意の別の実施形態と組み合わせることができる。
【0034】
[0058]本明細書において、範囲は、要するに、範囲内のすべての値を列挙することを避けるために使用される。範囲内の任意の適切な値を、範囲の上限値又は下限値として選択することができる。更に、本明細書における数値範囲は、その範囲内のすべての整数又は分数を含む。
【0035】
[0059]本明細書に記載するすべてのパーセンテージは、別途記載のない限り組成物の総重量によるものである。pHについての参照がなされるとき、値は標準的な装置により25℃にて測定されるpHに相当する。本明細書で使用するとき、数字を参照する際の「約」又は「実質的に」とは、数字の範囲、例えば参照する数字の-10%~+10%、-5%~+5%、-1%~+1%、又は一態様では-0.1%~+0.1%の範囲の数字を指すものと理解される。
【0036】
[0060]「食品等級」とは、粉末がネコによって可食のものであり、ネコにとって毒性ではないことを意味する。例えば、食品等級粉末は、最大5.0重量%のグリセロールを含有する。
【0037】
[0061]用語「アレルギー」は、「アレルギー応答」又は「アレルギー反応」と同義である。それぞれの用語は、他の点では動物に対して有害ではない、外因性の抗原(又は「アレルゲン」)に対する動物特異的な免疫応答性の状態を指す。アレルギー応答の「症状」は、例えば、分子レベル(タンパク質又は転写物又は遺伝子の活性又は発現の測定を含む)、細胞レベル、臓器レベル、全身レベル、又は生物レベルでの免疫応答のいずれかの基準を指す。このような症状は、1つ以上のこのようなレベルを含み得る。「少なくとも1つの症状を低減する」とは、アレルギー応答のための症状がなく、ひいてはアレルギー応答が予防されるように、症状が生じる前に当該症状を低減することを含む。
【0038】
[0062]症状としては、アトピー性皮膚炎(例えば、湿疹)、皮膚掻痒症(例えば、蕁麻疹)及び血管浮腫、並びにアレルギー性接触皮膚炎が挙げられるがこれらに限定されないアレルギー、鼻炎、浮腫、及びアレルギー性皮膚疾患に典型的に関連する炎症、呼吸不全、腫脹、又は損傷などの一般的な現象を挙げることができる。アレルギー応答の「症状」であるより具体的な現象としては、測定可能又は観察可能な任意の変化が挙げられ、それは、例えば、細胞レベルで、例えば、細胞集団、好酸球増加、動員及び/若しくは例えば、マスト細胞及び/若しくは好塩基球を含む免疫細胞の活性化が挙げられるがこれらに限定されない局所的又は全身性の変化、及び/又は抗原提示細胞(FcεRIを有する樹状細胞を含むがこれらに限定されない)における変化、免疫カスケード、アレルギー応答を介在する細胞内化合物(例えば、メディエータ)の放出における1つ以上の測定若しくは観察を含む細胞内若しくは分子の変化、並びに1つ以上のサイトカイン(例えば、IL-3、IL-5、IL-9、IL-4、又はIL-13)若しくは関連する化合物若しくはそれらのアンタゴニストにおける変化である。当業者であれば、本明細書で定義される特定の症状が他の症状よりも容易に測定され、いくつかが症状の主観的評価又は自己評価によって測定されることを理解するであろう。他の症状については、客観的に変化を評価するための便利な又は迅速なアッセイ又は測定が存在する。
【0039】
[0063]本明細書で使用するとき、「有効量」は、ネコに投与されたときに、当該ネコと同じ環境下(例えば、家、部屋、車、オフィス、ホテル、庭、ガレージ)にいる感作されたヒトにおけるネコアレルギーのうちの少なくとも1つの症状を減少させる、本明細書に開示される任意の組成物の量である。相対的な用語「少なくとも1つの症状を減少させる」及び同様の用語は、本明細書に開示される組成物及び方法の結果として得られる重篤度が、当該組成物及び方法が使用されていないことを除きその他の条件が同一である場合の重篤度と比較して低減することを指す。本明細書で使用するとき、「少なくとも1つの症状を低減する」は、アレルギー応答のための症状がなく、ひいてはアレルギー応答が予防されるように、症状が生じる前に当該症状を低減することを含むが、これらに限定されない。
【0040】
[0064]本明細書で使用するとき、「抗Fel D1分子」は、ネコ(Feline domesticus)アレルゲン番号1(Fel D1)に特異的に結合することができる任意の分子、例えば、抗体、アプタマー、Fel D1のアゴニスト/アンタゴニスト又はそのような分子の一部(例えば、抗体の抗原結合フラグメント(Fab))である。用語「抗体」は、任意の種類及び任意の型のポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体、並びにFv、Fab、Fab’、F(ab’)2などの免疫グロブリンフラグメント、又は他の抗原結合抗体フラグメント、抗原特異的な分子と相互作用する(例えば、特異的結合を示す)配列若しくはサブ配列を含む。
【0041】
[0065]一実施形態では、抗Fel D1分子は、Fel D1を用いて鶏肉などのトリを免疫することによって産生される抗体(例えば、IgY)であり、卵において抗体産生を引き起こす。抗体は、卵から分離され、動物に投与され得る。あるいは卵及び/又は卵黄などの卵の一部は、動物に投与するのに好適な食品又は他の組成物上に直接適用され得る、又はそれらと混合され得る。一態様では、抗Fel D1分子は、米国特許第8,454,953号(Wellsら)「Methods for reducing allergies caused by environmental allergens」に開示されている分子の実施形態のうちの1つであってもよく、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0042】
[0066]本明細書で開示される方法及び機器並びに他の進歩は、当業者により認識されるとおり変更可能であるので、特定の方法、手順、及び試薬に限定されるものではない。更に、本明細書で使用される用語は、具体的な実施形態を記載することのみを目的とするものであり、開示又は請求の範囲を制限するものではない。
【0043】
[0067]特に別段の定義がない限り、本明細書で用いられているすべての技術用語及び科学用語、専門用語、並びに頭字語は、本開示の分野(複数可)の当業者により、又は用語が用いられている分野(複数可)において、共通の理解がなされているという意味を有している。本明細書に記載のものと類似する又は等価の任意の組成物、方法、製品、又はその他の手法若しくは材料を使用できるが、特定の装置、方法、製品、又はその他の手法若しくは材料を本明細書において記載する。
【0044】
[0068]実施形態
[0069]本開示は、概して、ヒトのネコアレルギーのうちの少なくとも1つの症状を低減する活性分子を使用する組成物及び方法に関する。より具体的には、本開示は、活性分子を投与されるネコの口内に活性分子が留まる時間を延長することによって、及び/又は口内で検出される活性分子の濃度を増加させることによって活性分子の有効性を強化することを目的とする。活性分子、例えばIgYの口腔滞留の増加は、2つの異なる方法で測定することができる。一態様では、活性分子は、特定の時点、例えば摂食の5分後に、より高濃度であるとして測定され得る。別の態様では、活性分子は、口腔内における特定の閾値未満にまで、例えば、10μg/mL超、≧1μg/mL、又は更には>100ng/mL未満にまで減少するのに長い時間がかかるとして測定することができる。
【0045】
[0070]本開示の一態様は、抗Fel D1分子の持続放出を提供する食品等級粉末である。抗Fel D1分子は、乾燥されたヒドロゲル中に封入されている。
【0046】
[0071]一実施形態では、食品等級粉末は、ゼラチン、カラギーナン、及び抗Fel D1分子を含む乾燥されたヒドロゲルを含む。一態様では、ゼラチン及びカラギーナンは、乾燥されたヒドロゲルにおいて60℃未満でゲル化が可能な唯一のバイオポリマーである。別の態様では、ゼラチン及びカラギーナンは、アレルギーを低減しない唯一のバイオポリマーである。ゼラチンは、豚、牛肉、又は魚などの任意の供給源から得ることができる。一態様では、カラギーナンと共に使用されるゼラチンは、タイプAゼラチン(酸処理済み)であり、正電荷を有し、2,000~2,000,000ダルトン(すなわち、40~300ブルーム)、又は一態様では100~200ブルームの中程度の分子量を有する。例えば、特定の一実施形態では、7.0未満のpHで正電荷を有するブタゼラチンである。
【0047】
[0072]カラギーナンは、藻類又は植物源由来の任意のカラギーナン(例えば、κ(カッパ)カラギーナン、Ι(イオタ)カラギーナン、又はλ(ラムダ)カラギーナン(gammacarrageenan))であり得る。一態様では、カラギーナンゲルは、塩イオン(例えば、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム)を含むことができる。例えば、カラギーナンは、κカラギーナン、Ιカラギーナン、κカラギーナン及びΙカラギーナンのコポリマー、又はκカラギーナン及びΙカラギーナンの混合物であり得る。一態様は、カリウムの存在下でゲル化するカラギーナン、すなわちκカラギーナン、又はκカラギーナン及びΙカラギーナンのコポリマーである。
【0048】
[0073]食品等級粉末は、抗Fel D1分子の供給源を含み得る。一態様では、抗Fel D1分子は、抗Fel D1 IgYであり得、供給源は、Fel D1で免疫されたトリ由来の、部分的に脱脂された卵黄粉末であり得る。粉末は、0.5~90重量%のゼラチンと、0.1~50重量%のカラギーナンと、10~99.5重量%の抗Fel D1分子の供給源と、を含み、一態様では、10.0~80.0重量%のゼラチンと、0.5~20重量%のカラギーナンと、20~89.5重量%の抗Fel D1分子の供給源と、を含み、特定の一態様では、20.0~80.0重量%のゼラチンと、1~10重量%のカラギーナンと、19~79重量%の抗Fel D1分子の供給源と、を含み、更に別の態様では、25.0~60.0重量%のゼラチンと、1~10重量%のカラギーナンと、39~74重量%の抗Fel D1分子の供給源と、を含む。
【0049】
[0074]本開示の別の態様は、抗Fel D1分子を含む粉末の持続放出を提供する食品等級粉末、例えば、ゼラチン、カラギーナン、及び上記の抗Fel D1分子を含む粉末の製造方法である。本方法は、ゼラチン、カラギーナン、及び抗Fel D1分子を含む溶液を加熱する工程を含んでよく、一態様では約60℃の温度に加熱する工程を含み得る。本方法は、加熱された溶液の液滴を形成する工程、例えば、加熱された溶液をノズルに通すことによって形成する工程を更に含み得る。マトリクス材料(ゼラチン及びカラギーナン)は、ノズルによって霧化され得る。
図1Aは、この方法を実施するための好適な装置の非限定的な例の概略図であり、
図1Bは、この方法によって形成されたゼラチン-カラギーナンコポリマーに封入された活性化合物(抗Fel D1分子)の図である。
【0050】
[0075]液滴は、食塩又は油を含むゲル化浴に、例えば液滴を滴下、噴射、又は滴下して、抗Fel D1分子が封入されているゲル化されたビーズを形成することによってゲル化することができる。一実施形態では、シリンジポンプ又は容積測定ポンプは、加熱された溶液をノズルを通してゲル化浴に送り込む。
【0051】
[0076]ゲル化浴は、約25~100mMの塩化カリウム又は100mMの塩化カルシウム、又はその両方を含み得る。この点に関し、本発明者らは、100mMよりも高い塩化カリウム濃度を使用するいくつかの実施形態では、カラギーナン融解点が必要以上に高くなり、それによって処理温度を増加させ、変性による抗Fel D1分子の活性の相当な減少(30~80%)を引き起こすことを見出した。いくつかの実施形態では、塩化カリウムは、塩化カルシウムによって部分的に又は完全に置換され得る。
【0052】
[0077]ゲル化されたビーズを回収し、所望により洗浄し、乾燥させて、食品等級の粉末を形成することができる。一態様では、ゲル化されたビーズは、流動床乾燥によって乾燥させることができる。例えば、洗浄された湿潤ビーズは、80m3/分の空気流量で3~5時間にわたり、25℃の吸気温度を有する流動床乾燥機内で乾燥させることができる。
【0053】
[0078]上記に詳述した方法は、抗Fel D1分子の持続放出を提供する食品等級の粉末を製造するのに好適であるが、本発明者らは、より高い割合の抗Fel D1分子が封入され、粉末粒子の最終サイズを制御する能力がより高い押出プロセスを発見した。更に、この押出プロセスは、驚くべきことに、カラギーナンが押出成形前に混合物に組み込まれるときに、はるかに良好な構造(より滑らかな表面、より少ない含有物)をもたらした。
【0054】
[0079]したがって、本開示は、抗Fel D1分子の持続放出を提供し、かつゼラチン、カラギーナン、及び抗Fel D1分子を含む、食品等級粉末の製造方法の別の実施形態を提供する。本方法は、ゼラチン、カラギーナン、及び抗Fel D1分子を含む溶液を、少なくとも約40℃の温度を有する保持タンク内で加熱する工程を含み得る。次いで、溶液を、少なくとも約50~60℃の温度に、例えば、管状熱交換器の漏斗及び/又はポンプで加熱することができる。次いで管状熱交換器は、加熱された溶液を冷却し、抗Fel D1分子が封入されているヒドロゲルを押し出すことができる。例えば、管状熱交換器は、約15℃~約25℃の温度を有し得る。一態様では、方法はゲル化浴を使用しないことで、このようなゲル化浴に関連する、例えばゲル化されたビーズを洗浄及び収集することによる損失を回避する。
【0055】
[0080]
図2Aは、この方法を実施するための好適な装置の非限定的な例の概略図であり、
図2Bは、この方法によって得られる高密度な粉末構造を、従来の噴霧乾燥によって得られる高多孔性粉末構造と比較する写真を含み、
図2Cは、この方法を実施するための好適な装置の非限定的な例の写真である。熱交換器は、ヒドロゲルを所望の形状に、例えば
図2Dの写真に示されるようなストランド状のヒドロゲルに押し出すことができる。
【0056】
[0081]一実施形態では、押出成形されたヒドロゲルは、乾燥前に塩化カルシウムを含む組成物中に浸漬される。別の実施形態では、押出成形されたヒドロゲルは、乾燥前に塩化カリウムを含む組成物、例えば、約1mMの塩化カリウムを入れたゲル化浴に浸漬される。一態様では、押出成形されたヒドロゲルは、乾燥トンネル又は流動床乾燥機内で乾燥することができる。方法は、乾燥されたヒドロゲルを規定の大きさに粉砕して粉末を形成することを含み得る。
【0057】
[0082]例えば、押出成形された材料のストランド(又はその切断片)を、20~25℃の吸気温度を有する流動床乾燥機内で、120m3/分の空気流量で30~60分間、次いで約40℃で約120m3/分の空気流量で更に60~90分間、乾燥させることができる。得られる乾燥された材料を回収し、「そのまま」又は粉砕して、粒径を所望のサイズに更に減少させて使用することができる。
【0058】
[0083]別の例として、押出成形された材料のストランド(又はその切断片)を、20~25℃の吸気温度を有する乾燥トンネル内で、20~80m3/分の空気流量で30~60分間、次いで約40℃で20~120m3/分の空気流量で更に60~90分間、乾燥させることができる。得られる乾燥された材料を回収し、「そのまま」又は粉砕して、粒径を所望のサイズに更に減少させて使用することができる。
【0059】
[0084]上述のように、本発明者らは、驚くべきことに、最適化された噴霧乾燥条件並びにまたゼラチン特性(例えば、分子量)及び壁材料の注意深い選択により、得られる粉末がその粘膜付着性を保持している、噴霧乾燥することができる配合物を開発できることを見出した。したがって、本開示の更に別の態様は、抗Fel D1分子の持続放出を提供し、抗Fel D1分子及び0.5~90.0重量%のゼラチンを含む噴霧乾燥されたヒドロゲルを含む食品等級粉末である。噴霧乾燥されたヒドロゲルを含む粉末は、約0.1g/cm3~約0.6g/cm3、約0.265g/cm3~約0.5g/cm3、又は一態様では、約0.4g/cm3~約0.5g/cm3の密度を有する。抗Fel D1分子は、噴霧乾燥されたヒドロゲル中に封入され得る。一実施形態では、ゼラチンは、噴霧乾燥されたヒドロゲルにおいて60℃未満でゲル化することができる唯一のバイオポリマーであり得る。いくつかの態様では、ゼラチンは、40~300、又は40~200、又は更には約100のブルーム値を有し得る。一態様では、ゼラチンは、タイプAゼラチン(酸処理済み)であり得る。
【0060】
[0085]一実施形態では、粉末は、10.0~99.5重量%の抗Fel D1分子の供給源(例えば、Fel D1で免疫されたトリからの部分脱脂卵黄粉末)を含むことができる。一態様では、粉末は、10.0~80.0重量%のゼラチンと、20~90重量%の抗Fel D1分子の供給源とを含み得る。別の態様では、粉末は、25.0~80.0重量%のゼラチンと、20~75重量%の抗Fel D1分子の供給源とを含み得る。更に別の態様では、粉末は、25.0~60.0重量%のゼラチンと、40~75重量%の抗Fel D1分子の供給源とを含み得る。
【0061】
[0086]
図3は、この実施形態の粉末を製造するための好適な装置の非限定的な例を示す。この実施形態の粉末を作製する方法は、抗Fel D1分子と、40~200のブルーム値を有する5.0~20.0重量%のゼラチンとを含む溶液を噴霧乾燥して、抗Fel D1分子が封入されている乾燥されたヒドロゲルを形成する工程を含み得る。一実施形態では、ゼラチンは、溶液中で60℃未満でゲル化することができる唯一のバイオポリマーであり得る。別の実施形態では、ゼラチンは、40~200、又は一態様では約100のブルーム値を有することができる。
【0062】
[0087]溶液は、0.5~30.0重量%の抗Fel D1分子の供給源(例えば、Fel D1で免疫されたトリからの部分脱脂卵黄粉末)を含むことができる。一態様では、溶液は、2.0~15.0重量%のゼラチンと、2.0~20.0重量%の抗Fel D1分子の供給源とを含み得、特定の一態様では、7.5~12.5重量%のゼラチンと、5~20重量%の抗Fel D1分子の供給源と、を含み得る。
【0063】
[0088]本開示の更に別の態様は、ネコに対するヒトのアレルギー症状を低減する方法である。本方法は、有効量の本明細書に開示される食品等級粉末のいずれか及び/又は本明細書に開示される方法のいずれかから得られる食品等級粉末を、ネコに経口投与する工程を含む。粉末は、タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン及びミネラルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を更に含むペットフードの一部として投与することができる。この方法は、抗Fel D1分子をネコの口内のFel D1に結合させることによって、Fel D1によって引き起こされるアレルギーの影響を受けやすいか又はそれに罹患しているヒトにおいてFel D1がアレルギー応答を誘発するのを防ぐことができる。
【実施例】
【0064】
[0089][0090]例示を目的として、かつ制限しないことを目的として、以下の非限定的な実施例により、本開示により提供される実施形態における、ヒトのネコアレルギー症状を低減するための組成物及び方法を例示する。
【0065】
[0091]実施例1
[0092]送達システムの製造方法の開発を導くのを助けるために、ヒドロゲルからの抗Fel D1 IgYの放出に対し異なる乾燥方法が与える影響を理解するために、第1の研究を実施した。2つの異なるヒドロゲル配合物;i)単純なゼラチンのみの配合物及びii)ゼラチン/κカラギーナン共ゲル配合物を、2つの方法を使用して作成した。i)直接噴霧乾燥する及びii)ビーズレット形成後に乾燥させる。中心的な仮説は、乾燥前にヒドロゲルをゲル化することで、乾燥されたヒドロゲルからの抗Fel D1 IgY放出の速度を遅らせることができるより良好なカプセル構造が得られるというものであった。
【0066】
[0093]この研究により、ヒドロゲル粉末を作製するために使用される乾燥の種類が、ヒドロゲルのマイクロカプセルからの抗Fel D1 IgYの放出速度に大きな影響を及ぼし得ることが見出された。乾燥前にヒドロゲル配合物をゲル化すると、より厚くより高密度な壁構造を有するマイクロカプセルが得られることが見出された。得られた「ゲルから乾燥された」マイクロカプセルは、噴霧乾燥されたマイクロカプセルよりも2.75倍遅い抗Fel D1 IgY放出速度を有した。単にゼラチンのみのマイクロカプセルと複合ゼラチン/κカラギーナン共ゲルとの間に、抗Fel D1 IgY放出速度の差は観察されなかった。ゼラチン/κカラギーナン共ゲルの湿潤ヒドロゲルでは、共ゲルからの抗Fel D1 IgYの放出は、ゼラチンのみのゲルより10倍遅かった。
【0067】
[0094]カプセル化の前作業では、ネコの口内の抗Fel D1 IgYの滞留時間を高めるために、いくつかの異なる技術(すなわち、ヒドロゲル、自己組織化構造、リポソーム、及び油中水型エマルション)を評価した。全体として、タイプAゼラチンのバイオポリマーヒドロゲルは、高い封入効果及び固有の粘膜付着を有しているため、有力な技術であることが見出された。
【0068】
[0095]
図4に示されるように、単純なゼラチン(10重量%)ヒドロゲルでは、口腔条件(37℃及び擬似唾液)に曝露されたときに、カプセル化されたすべてのIgYを急速に放出することが制限となる。しかし、ゼラチンヒドロゲルを第2のヒドロゲル(例えば、アガー、カラギーナン)と組み合わせることにより、湿潤ゼラチン/κカラギーナンヒドロゲルに2時間にわたり抗Fel D1 IgYを放出させることができることが判明した。驚くべきことに、すべての共ゲルは、ゼラチン単独又はκカラギーナン単独の単純なヒドロゲルと比較して、はるかに遅い抗Fel D1 IgY放出動態を有し、2つのバイオポリマーを組み合わせることに関する固有の相乗効果を強調した。
【0069】
[0096]これらのヒドロゲルは、微生物による腐敗、タンパク質の酸化/変性、及び酵素分解に対する抗Fel D1 IgYの安定性に関し、有意なリスクを示す高いAw(>0.6)を有する。したがって、これらのヒドロゲル構造体は、抗Fel D1 IgYの持続的放出を有する能力を失うことなく2~4時間にわたって乾燥されなければならない。ヒドロゲルマトリクスは、それぞれ最終粉末構造に影響を有し、したがってIgY放出動態に影響を有する、多くの方法を使用して乾燥させることができる。最も従来型の方法は噴霧乾燥であり、この場合、親溶液は、ゲル状態を経過することなく霧化された空気流中で直接乾燥される。第2の方法は、乾燥工程の前に親溶液の湿潤ゲル粒子(例えば、押出/滴下又は顆粒化による)が作製される「ゲルからの乾燥」である。「ゲルからの乾燥」法の利点は、ヒドロゲルの構造が保持される可能性がより高いことである。
【0070】
[0097]異なる乾燥技術がヒドロゲルからの抗Fel D1 IgYの放出に及ぼす効果を、ゼラチンから構成される単純なヒドロゲルを使用して最初に試験した。親溶液は、10重量%のゼラチン(タイプAブルーム280)及び2重量%の卵黄抽出物から構成された。
図5に示すように、この溶液から、ゲル化せずに直接乾燥させた(パネルII)か、又は乾燥前にゲル化した(パネルIV)かに応じて、異なる構造を得た。
【0071】
[0098]
図6に示すように、溶液をゲル化せずに直接乾燥させた場合、得られる粉末粒子は、小さく、非常に多孔質であり、更には中空であった(パネルI)。このような粉末構造は、低総固形分(12重量%)の溶液から作製された、噴霧乾燥された粉末に共通である。ゼラチン溶液を乾燥前に滴下によりゲル化したとき、得られた粉末粒子は「収縮」したが、厚く、非常に高密度な粉末壁構造(パネルII)を有した。
【0072】
[0099]乾燥前にヒドロゲルをゲル化すると、噴霧乾燥により直接乾燥した場合とは著しく異なる構造になることが明らかであった。この構造がどのように形成されるかを洞察するために、氷昇華を伴うcryo-SEMを使用して、ヒドロゲルの微細構造を調べた。
図7Aは、ゲルのビーズレットの外観を示し、その構造の唯一の明白な要素は、粗面を有する球体であることである。ヒドロゲルの内部構造の断面分析は、フリーズフラクチャーSEMを介して達成することができる(
図7B及び7C)。
図7B及び7Cの両方は、ゼラチンのヒドロゲルが、各セル構造の壁におけるゼラチンの濃縮(consentration)及び各セルの中央の大きな空隙により、メッシュ様構造を形成することを示す。構造内の水を除去する氷昇華は、ゼラチンハイドロゲルのセル構造の複雑性を示し、高密度なハニカムマトリクスを形成するセル構造の階層が存在する。
【0073】
[0100]最初の観察では、これらのセルのサイズが(マイクロメートルの尺度で)大きすぎて、IgYの輸送を制限すると考えられ得る。しかし、ゼラチンゲルの壁の微細構造の検査により、非常に厚く高密度なネットワーク(
図7Bの右側パネル)が明らかである。乾燥すると、このセル構造は、それ自体が崩壊して、粉末粒子の非常に高密度な壁を形成する。
【0074】
[0101]これらの異なる粒子からの抗Fel D1 IgYの放出は、粉末を生理食塩水に37℃で分散させて、口内条件を模倣することによって評価した。
図8は、異なるヒドロゲル構造:(I)湿潤ゲル片、(II)噴霧乾燥された粒子、(III)湿潤ヒドロゲルビーズレット及び(IV)乾燥ヒドロゲルビーズレットからの抗Fel D1 IgYの放出を示す。
【0075】
[0102]対照サンプルからの抗Fel D1 IgYの放出、10重量%のゼラチンのゲル化片を
図8に示す。最初に、ゲル片を低温の生理食塩水に浸漬したときに、抗Fel D1 IgYはほとんど存在しなかった。これは、高いIgY封入効率(>98%)を有することを示している。37℃で生理食塩水に浸漬すると、放出される抗Fel D1 IgYの量が急速に増加し、5分後に80%及び15分後に100%に達する。このような急速な放出は、25~30℃を超える温度で10重量%のゼラチンゲルが溶融することから予想される。
【0076】
[0103]同様に、小さな湿潤ゼラチンビーズレットは、再びヒドロゲルの溶融により、37℃の生理食塩水に浸漬すると急速に抗Fel D1 IgYを放出し、15分間にわたって100%のIgYを放出する(
図8)。しかし、湿潤ビーズレットを乾燥させたとき、抗Fel D1 IgYの放出はかなり遅くなった。15分後、33.5%のIgYのみが放出され、30分後、75%のIgYが放出され、60分後では、100%のIgYが放出された(
図8)。
【0077】
[0104]対照的に、噴霧乾燥を用いたゼラチン溶液の直接の乾燥は、IgY放出の遅延をもたらさなかった。噴霧乾燥されたゼラチン粉末を37℃の生理食塩水に浸漬したとき、5分後に50%のIgYを放出し、15分後に100%を放出した(
図8)。
【0078】
[0105]噴霧乾燥された粉末からのIgY放出速度は、ゲル化後に乾燥されたビーズレットと比較して、著しく異なる。このIgY放出の差は、2つの技法によって作製される粉末の壁構造の違いに起因する可能性が高い。噴霧乾燥では、カプセルは非常に薄い壁構造を有し、これは、生理食塩水に暴露される表面積が相対的に大きい。対照的に、ゲル化後にゼラチン溶液を乾燥させると、生理食塩水に曝露される表面積が相対的にかなり小さく、厚く高密度な壁構造を有する粉末粒子が生成された。表面積対体積比が低くなるほど及び粉末壁構造がより厚く/より高密度になるほど、粉末粒子の溶解がはるかに遅くなり、抗Fel D1 IgY放出がはるかに遅くなる可能性が高い。
【0079】
[0106]また、異なる乾燥技術がヒドロゲルからの抗Fel D1 IgYの放出に及ぼす効果も、ゼラチン及びカラギーナンから構成される複合ヒドロゲル共ゲルを使用して試験した。親溶液は、10重量%のゼラチン(タイプAブルーム280)、1重量%のκカラギーナン及び2重量%の卵黄抽出物から構成された。共ゲル系を乾燥する効果を、(i)噴霧乾燥及び(ii)滴下、次いで流動床乾燥を使用して評価した。
【0080】
[0107]
図9Aは、噴霧乾燥された後のゼラチン/κカラギーナン系の外観を示す。噴霧乾燥されたゼラチン/κカラギーナン粉末は、薄い壁を有する中空の小粒子から構成された。加えて、凝集体は、溶液のワイヤによって互いに結合した小さな個々の粉末粒子の集合体であることが判明している構造において存在した(
図9B)。このような構造は、10重量%のゼラチン、1重量%のκカラギーナンの親溶液の高い粘弾性に起因して生じる。粘弾性が高い溶液は、2つの分離している液滴間の液架橋により、完全な液滴破壊が遅延され、ストランドの形成がもたらされるため、霧化が困難である。これらのストランドは、互いに又はスプレー塔内の液滴と相互作用することによって、繊維又は凝集体を形成し得る。これは、溶液の霧化のために回転ディスクを使用した場合に特に当てはまる。
【0081】
[0108]
図10A及び10Bは、それぞれ、湿潤ゼラチン/κカラギーナン共ビーズレット及び乾燥ゼラチン/κカラギーナン共ゲルビーズレットの外観を示す。両方とも親溶液を100mMのKClに滴下することによって生成される。ビーズレットをゲル化し、次いで乾燥させるプロセスにより、厚く高密度な粉末壁構造を有する粉末粒子が生成される(
図10C)。ほとんどの粉末粒子は、中に多数の空気ポケットを有する。これはおそらく、水の除去によって水の体積が失われた(the loss of volume caused by the removal of the water)結果である。ゼラチンのみの系と同様の昇華実験(図示せず)は、共ゲルがゼラチンのみの系と比較して同様の湿潤ビーズレット構造を有することを示した。
【0082】
[0109]
図11Aは、10重量%のゼラチン/1重量%のκカラギーナン共ゲルの噴霧乾燥された粉末からの抗Fel D1 IgYの放出プロファイルを示す。ゼラチン/カラギーナン共ゲルの噴霧乾燥された粉末は、低温の生理食塩水中に配置されたときに、10%のIgYを放出し、高いIgY封入効率(約90%)を示した。しかし、共ゲル粉末を37℃の生理食塩水中に配置した場合、IgYの放出は急速であり、5分後に30%、15分後に90%、30分後に100%のIgYが放出された。この放出速度はゼラチンのみのカプセルと同等であり、κカラギーナンの存在がIgYの放出に影響を及ぼさないことを示す。
【0083】
[0110]
図11Aはまた、湿潤及び乾燥形態の10重量%のゼラチン/1重量%のκカラギーナンの共ゲルビーズレットからのIgYの放出プロファイルを示す。湿潤ビーズレット及び乾燥ビーズレットは両方とも高いIgY封入効率を示し、ビーズレットが低温の生理食塩水(4℃)中に分散されたときに放出するIgYは、2重量%未満である。湿潤ビーズレットを37℃の生理食塩水に浸漬すると、IgY放出は急速であり、5分後に約50%のIgYが放出され、15分後には100%が放出される。乾燥された共ゲルのビーズレットは、湿潤共ゲルのビーズレットと比較して、より遅いIgY放出を示す。乾燥された共ゲルのビーズレットを37℃の生理食塩水に入れたとき、IgY放出は緩やかになる:5分後に17%のIgYが放出され、15分後に40%まで上昇し、30分後に67%まで上昇する。約60分ですべてのIgYが放出される。
【0084】
[0111]乾燥前に共ゲル溶液をゲル化することにより、IgY放出速度のかなりの遅延がもたらされる(約2.75倍)。しかし、乾燥された共ゲルのビーズレットのIgY放出速度は、乾燥されたゼラチンのビーズレットのものと同等である(
図11B)。これは、κカラギーナンが存在しても、IgY放出の更なる遅延がもたらされないことを示す。この結果は、ゼラチン/カラギーナン共ゲルがゼラチンのみのヒドロゲルと比較して10倍遅いIgY放出速度を有したことが実証された湿潤ゲルによる以前の研究とは対照的である(
図11B)。乾燥されたゼラチンゲルのビーズレット(乾燥状態及び湿潤状態の両方)と比較して、乾燥された共ゲルのIgY放出速度が遅くならなかったことは、カラギーナンゲルが適切に形成されなかったことを示す。これらのビーズレットは、滴下するには溶液の粘度が高すぎるため、100mMのKCl溶液に共ゲル溶液を滴下することによって形成された。ゲル化前に共ゲル溶液にKClを含ませて、おおもとの共ゲル片を作製した。共ゲル溶液からのKClの除去が、共ゲル中にカラギーナンが存在してもIgY放出が緩徐化しなかったことの重要な理由であり得ることは、以前の実験から明らかである。
【0085】
[0112]要約すると、ヒドロゲル粉末の作製に使用される乾燥の種類が、ヒドロゲルマイクロカプセルからのIgYの放出速度に大きな影響を及ぼし得る。乾燥前にヒドロゲル配合物をゲル化することは、より厚くより高密度な壁構造を有するマイクロカプセルをもたらすことが判明した。得られた「ゲルから乾燥された」マイクロカプセルは、噴霧乾燥されたマイクロカプセルよりも2.75倍遅い抗IgY放出速度を有した。単にゼラチンのみのマイクロカプセルと複合ゼラチン/Kカラギーナン共ゲルとの間に、IgY放出速度の差は観察されなかった。湿潤ヒドロゲルでは、ゼラチン/κカラギーナン共ゲルは、ゼラチンのみのゲルより10倍遅いIgYの放出を提供した。
【0086】
[0113]実施例2
[0114]ゲル化浴を使用する本明細書に開示される滴下方法、及びゲル化浴を使用しない本明細書に開示される押出法を精査する、第2の実験を実施した。抗Fel D1 IgYをゼラチン-カラギーナンコポリマーゲル中で使用した。
【0087】
[0115]経口送達溶媒は、活性分子を高含有量で有するべきである。活性分子の典型的な損失は、加工/製造中のIgYの封入効果の低さ及びIgYの変性により生じる。変性及び封入効率に関する滴下法及び押出法の結果を
図12に示す。抗Fel D1 IgYの変性に関して、滴下法での製造中には、20~60%のIgYが失われ、押出法での製造中には、0~15%のIgYが失われた。抗Fel D1 IgYの封入に関して、滴下法のゲル化工程中にはゲル化槽内で約20%のIgYが失われ、押出法中には、1%未満のIgYが失われた。
【0088】
[0116]また、経口送達溶媒は、活性分子の放出が制御されるものであるべきであり、ネコの口内での抗Fel D1 IgYの放出は、溶解によって生じる。したがって、抗Fel D1 IgYの放出を、37℃の擬似唾液中で精査した。
図13に示されるように、卵粉末中の抗Fel D1 IgYは、迅速な放出(5分未満で100%放出)を有し(対照1)、ゼラチンのみに封入された抗Fel D1 IgYもまた、迅速な放出(5分未満で90%)を有した(対照2)。ゼラチン-カラギーナンコポリマーゲルにより、滴下法を使用したときには100%放出の時間が30~90分に調整され、押出法を使用したときには100%放出の時間が30~60分に調整された。
【0089】
[0117]ネコの口内で抗Fel D1 IgYを持続放出させるためには、しばらくの間IgYを口内に留める必要があることから、経口送達溶媒も口腔付着力を有するべきである。したがって、粘膜接着性粒子は、唾液膜に付着することができるため、有利である。押出法からの粒子の口腔付着を、約37℃でヒト唾液膜との相互作用を精査することによって、具体的には36.8℃で唾液薄膜上への吸着を測定することによって、遊離IgYと比較した。結果を
図14に示す。遊離IgYは唾液膜との相互作用を有さなかったが、共ゲル押出から得られた粒子は、唾液膜との相互作用の中程度の増加、フィルム上への粒子の明らかな付着(Δマス・ピリオドD)を有した。
【0090】
[0118]実施例3
[0119]更なる研究のため、抗Fel D1 IgYの口腔滞留時間を改善するために封入を使用して、第3の実験を実施した。
図15は、湿潤食品又は乾燥食品を用いて抗Fel D1 IgYを含む1g又は2gの卵黄を供給した後のネコの唾液中の抗Fel D1 IgYの濃度を示すグラフである。ネコの口内で検出された抗Fel D1 IgYは5%未満であり、残りはすぐに飲み込まれていた。
【0091】
[0120]制御された噴霧乾燥法からの粒子の口腔付着を、約37℃でヒト唾液膜との相互作用を精査することによって、具体的には36.8℃で唾液薄膜上への吸着を測定することによって、遊離IgYと比較した。結果を
図16に示す。遊離IgYは、唾液膜との相互作用を有さなかったが、制御された噴霧乾燥法から得られた粒子は、唾液膜との相互作用が相当に増加しており、粒子は明らかにフィルム上に付着していた(Δマス・ピリオドD)。
【0092】
[0121]実施例4
[0122]第4の実験を実施し、噴霧乾燥されたゼラチン/IgY混合物を更に分析した。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、噴霧乾燥されたゼラチン/IgY混合物の粘膜付着は、i)静電相互作用(ゼラチン上の正電荷)及び水の水和/競合(すなわち、粒子が粘着性である)の組み合わせを介して粘膜付着相互作用を生じさせる、いくらかの初期水和を可能にする多孔質粉末構造によるものであると考える。ゼラチン-カラギーナンのガラス状共ゲルは、依然として有効であるが、水和がはるかに遅いため、口腔付着はより低いものであり得る。
【0093】
[0123]粒子が口腔表面に付着するように作製され得る場合、口腔滞留時間は、溶解速度を制御することによって更に向上させることができる。本明細書に開示される滴下及び押出法の粉末は、粉末の多孔性及びカラギーナンゲルの制御された分解によって溶解を制御する。噴霧乾燥されたゼラチン/IgY混合物は、in vitroで比較的迅速に溶解する多孔質ゼラチン粉末を使用する。主な焦点は、口腔付着を最大化することである。しかし、臨床試験からの非公式のフィードバックでは、in vivoでの溶解はin vitroで観察されるよりも遅く、有益であり得ることが示唆される。
【0094】
[0124]ゼラチンから粉末を作製することは困難であり得ることが周知である。主な技術的な課題は、ゼラチン溶液の粘弾特性が、乾燥機内での噴霧中に液滴の分断(droplet break-up)を制限することである。溶液の粘度が高すぎる場合、又は噴霧が速すぎる場合、溶液は、粉末粒子ではなくフィラメント構造を形成する。これにより、低密度の「綿毛状の」粉末が得られる。粉体の密度が低いと、粉末の取り扱いの間に、粉末の安定性に又はコーティングとして製品に塗布しようとする際に問題が生じる。
【0095】
[0125]
図17に示すように、低密度の羽毛状のゼラチン粉末の問題を克服するために、本発明者らは密度を改善することができる3つの因子を見出した。(1)ゼラチンの濃度-16%超のゼラチン濃度により高度にフィラメント状の粉末が形成され、したがって噴霧乾燥できない(表1-TJW040シリーズ-比較ii)、(2)ゼラチン分子量(ブルーム強度)-低分子量ゼラチン(ブルーム280ではなく100)に切り替えると、フィラメント形成が減少し、粉末密度が増加する(表1-比較i)、及び(3)他のタンパク質/分子との組み合わせ-活性成分/賦形剤の量を増加させると、フィラメント形成が減少し、粉末密度が増加する(表1-TJW040シリーズの比較ii)。
【0096】
[0126]これらの計画を使用して、粉末の密度は、使用不可の粉末であるTJW020A試料の0.1~0.15g/cm3から、TJW050A及び106粉末の、市販の乳清タンパク質分離物(WPI)乳粉末の密度(0.43g/cm3)に届く密度(0.265~0.3g/cm3)にまで増加させることができた。
【0097】
実施例5
[0127]IgYの口腔保持に対する封入の影響を評価する第5の実験を実施した。12名のヒト被験者に、2つの粉末[i)IgY対照-脱脂卵黄粉末及びii)ゼラチン(タイプa、100ブルーム)中に封入された脱脂卵黄粉末]を与え、ランダム化したクロスオーバー試験の設計(
図18)を使用して、粉末を30秒間噛み、次いで嚥下するように求めた。2つの試験サンプルの組成及び用量を
図19に示す。
図18に概説される臨床試験スキームに従って、ベースライン及び様々な時点で唾液中のIgY濃度を測定することによって、IgYの口腔保持を評価した。口腔保持の測定値は、最大濃度(C
max)及び曲線下面積(AUC)とした。
【0098】
図20iは、対照IgY及び噴霧乾燥ゼラチンに封入されたIgYについて、参加者の唾液におけるIgY濃度(ng/mL)の経時的な平均変化を示す。対照IgYを摂取した後5分で、IgY濃度は206645±71911ng/mLにてピークに達した(第1の時点)。次いで、与えられたIgY濃度は、15分で21502±6095ng/mLまで、30分で3224±905ng/mLまで、60分で1329±480ng/mLまで指数関数的に減少し、対照IgY(脱脂卵黄粉末)の摂取後2時間に200~300μg/mLで定常に達した。ヒトの口内で検出されたIgYの平均総量は、1.95mg(単積分)から、3~3.5mg(二重指数関数型pk積分)の間であった。ヒト被験者の口内で検出されたIgYの平均量は、投与された元の量(約123mg)の1.6~2.8%であった。
【0099】
[0128]
図20iiはまた、ヒト唾液のIgY濃度に対する封入の効果を示す。噴霧乾燥された封入IgYは、5分で、対照IgYより4.2倍大きい871,000ng/mLのC
maxを有した(p<0.001)。次いで、唾液のIgY濃度は、15分で81,500ng/mLまで、30分で10,200ng/mLまで、60分で980ng/mLまで指数関数的に減少し、対照IgY(脱脂卵黄粉末)の摂取後2時間後に400~500ng/mLで定常に達した。噴霧乾燥された封入IgYの摂取後のIgYの唾液濃度は、最初の30分間については対照IgYよりも4倍大きい(p<0.05)。噴霧乾燥され封入されたIgY及び対照IgYの唾液中IgY濃度は、摂取後60分間同一であったが、90分及び120分では、噴霧乾燥され封入されたIgYの唾液中濃度は対照の2倍であった(p<0.15)。噴霧乾燥された封入IgYについて検出されたIgYの総量は、投与された用量の6.4~10.7%と同等の7.8(台形積分)~13.2(二重指数関数pk積分)mgのIgYであった。これらの結果は、噴霧乾燥を使用した粘膜付着性ゼラチン中へのIgYの封入により、4つの要因によって、IgYの有効性(C
max及びAUCの両方)が増加することを強調している(p<0.001)。
【0100】
[0129]本明細書に記載される本実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者には明らかであることは理解されるべきである。かかる変更及び修正は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。したがって、かかる変更及び修正は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。