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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】難燃性スチレン含有配合物
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20220727BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20220727BHJP
   C08K 5/03 20060101ALI20220727BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20220727BHJP
   C08K 5/53 20060101ALI20220727BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20220727BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20220727BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20220727BHJP
   C08L 63/04 20060101ALI20220727BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220727BHJP
   C09K 21/04 20060101ALI20220727BHJP
   C09K 21/08 20060101ALI20220727BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
C08L51/04
C08K3/32
C08K5/03
C08K5/3492
C08K5/53
C08K5/56
C08L25/08
C08L55/02
C08L63/04
C08L83/04
C09K21/04
C09K21/08
C08K3/34
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2019552616
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 IL2018050362
(87)【国際公開番号】W WO2018178985
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】62/478,614
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500165175
【氏名又は名称】ブローミン コンパウンズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヒルシュゾーン, ヤニーヴ
(72)【発明者】
【氏名】エデン, エーヤル
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-506723(JP,A)
【文献】特開2001-335699(JP,A)
【文献】特開2006-265539(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170130(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/176868(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/090751(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/007663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/06
C09K 21/04
C09K 21/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐衝撃性が改良されたスチレン含有ポリマーと、
少なくとも一つの臭素含有難燃剤と、
少なくとも一つの次亜リン酸金属塩Mq+(H2PO2q(Mは、原子価qの金属カチオンを示す)と、
少なくとも一つの滴下防止剤と、を含む組成物であって、
前記耐衝撃性が改良されたスチレン含有ポリマーは、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)および耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)からなる群より選択され、
前記臭素含有難燃剤および前記次亜リン酸金属塩の総濃度は、前記組成物中の全ての成分の総重量に対して28重量%未満であり、前記組成物は、アンチモンを含まず、UL-94 V-l/1.6mm又はUL-94 V-0/1.6mmの試験要件を満たし、
前記組成物中の臭素濃度は、前記組成物の総重量に対して9.5~15.5重量%であり、
前記次亜リン酸金属塩の濃度は、前記組成物の総重量に対して2~9重量%である、組成物。
【請求項2】
前記臭素含有難燃剤および前記次亜リン酸金属塩の総濃度は、組成物の総重量に対して18~26重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
臭素含有難燃剤の臭素含有量は、50重量%~70重量%であり、その臭素原子は、全て芳香族結合又は全て脂肪族結合したものであり、次亜リン酸金属塩は、次亜リン酸アルミニウム、次亜リン酸カルシウム又はそれらの混合物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記臭素含有難燃剤は、
(i)下記式Iで表されるトリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジンと、
【化1】
(式I)
(ii)下記式IIで表されるトリス(トリブロモネオペンチル)リン酸と、
【化2】
(式II)
(iii)下記式IIIで表されるテトラブロモビスフェノールAと、
【化3】
(式III)
(iv)式IVで表される、臭素化エポキシ樹脂及びその末端封鎖誘導体と、からなる群から選択され、
【化4】
(式IV)
式IV中、mは、重合度を表し、R1及びR2は、
【化6】
および
【化7】
からなる群から独立して選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記臭素含有難燃剤は、トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジンである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物の総重量に対して、60~80重量%のABS又はHIPS、15~20重量%のトリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジン、3~9重量%のAl(H2PO23、Ca(H2PO22又はそれらの混合物、及び0.1~0.5重量%のポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記臭素含有難燃剤は、トリス(トリブロモネオペンチル)リン酸である、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物の総重量に対して、60~80重量%のABS、15~20重量%のトリス(トリブロモネオペンチル)リン酸、3~9重量%のAl(H2PO23、Ca(H2PO22又はそれらの混合物、及び0.1~0.5重量%のポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記臭素含有難燃剤は、テトラブロモビスフェノールAである、請求項4に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物の総重量に対して、60~80重量%のABS、18~23重量%のテトラブロモビスフェノールA、3~9重量%のAl(H2PO23、Ca(H2PO22又はそれらの混合物、及び0.1~0.5重量%のポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記臭素含有難燃剤は、1300~2500の数平均分子量を有する、下記式(IVa)で表されるトリブロモフェノール末端封鎖低分子量樹脂及びその混合物であり、
【化4a】
式中、mは、0~5の整数である、請求項4に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物の総重量に対して60~80重量%のABS、18~23重量%の式IVaのトリブロモフェノール末端封鎖低分子量エポキシ樹脂、3~9重量%のAl(H2PO23、Ca(H2PO22又はそれらの混合物、及び0.1~0.5重量%のポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
ヒドロキノンのアリールリン酸エステル、ポリジメチルシロキサン及びノボラックエポキシ樹脂からなる群から選択される添加剤をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物の臭素濃度は、10~15重量%であり、臭素/次亜リン酸金属塩の重量比は、2:1以上である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記臭素/次亜リン酸金属塩の重量比は、3:1~7:1である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物の総重量に対して、60~80重量%のABS、15~20重量%のトリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジン、3~6重量%のAl(H2PO23、Ca(H2PO22又はそれらの混合物、1~10重量%の、ヒドロキノンのアリールリン酸エステルとポリジメチルシロキサン及びノボラックエポキシ樹脂の少なくとも一つとからなる組み合わせ、及び0.1~0.5重量%のポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
ポリジメチルシロキサンを含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
ABS、前記臭素含有難燃剤によって供給される10~15重量%の臭素、Ca(H2PO22、及びポリジメチルシロキサンを含み、臭素:Ca(H2PO22の重量比が2:1以上、Ca(H2PO22:ポリジメチルシロキサンの重量比が7:1~1:2である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
Ca(H2PO22+ポリジメチルシロキサン混合物の総濃度は、組成物の総重量に対して4~7重量%である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物の総重量に対して、70~80重量%のABS、15~22.5重量%のトリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジン、2.0~5.0重量%のCa(H2PO22、0.5~4.0%のポリジメチルシロキサン、及び0.1~0.5重量%のポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物の総重量に対して0.5~3重量%のタルクをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物の総重量に対して、60~80重量%のABS、13~18重量%のトリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジン、4~8重量%のAl(H2PO23、Ca(H2PO22又はそれらの混合物、0.5~3重量%のタルク、及び0.1~0.5重量%のポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか一項に記載の組成物を含む成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
商業用の多くのポリマーは、それらの可燃性を低下させるための難燃剤を含有している。プラスチック材料の可燃特性は、通常、試験するポリマー配合物からなる垂直に取り付けられた試験片の最下端を裸火にさらすというUnderwriter Laboratories標準のUL 94に規定された方法に従って定量化可能である。UL 94試験法で使用される試験片は、厚さに差がある(典型的な厚さが、約3.2mm、約1.6mm、約0.8mm及び約0.4mmである)。試験中、試験片の可燃性の様々な特徴が記録される。次に、分類要件に従って、ポリマー配合物は、試験片の測定された厚さで、V-0、V-1又はV-2のいずれかの等級に認定される。V-0等級に認定されたポリマー配合物は、可燃性が低い。さらに、UL-94燃焼試験では、試験片が薄いほど燃焼時間が長くなる。
【背景技術】
【0002】
耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)のような耐衝撃性が改良されたスチレン系ポリマーのための最適な添加剤は、合理的な濃度で許容可能なレベルの難燃性を達成するとともに、ポリマーの機械的特性を維持する能力がある臭素含有化合物である。しかしながら、この目的を達成するために、臭素含有化合物は、相乗剤としてアンチモンを必要とする。つまり、臭素含有難燃剤は、難燃剤の活性を高めるように相乗的に機能する三酸化アンチモン(Sb)と共に、通常、約2:1~5:1の重量比(ポリマー組成物中の臭素とSbとの濃度比として計算される)で、プラスチックポリマーに添加される。例えば、米国特許第5387636号には、三酸化アンチモンが2~6重量%の濃度でHIPSにおいて使用されることが記載されている。フィンバーグらの[Polymer Degradation and Stability 64, 465-470ページ (1999)]には、UL-94 V-0/1.6mmを満たす、臭素と三酸化アンチモンの濃度がそれぞれ11~15重量%と6~8重量%の範囲である、かなり高い三酸化アンチモン含有レベルを示す難燃性ABSが報告された。
【0003】
HIPS及びABSにおける、いくつかの商業用難燃剤の三酸化アンチモンに対する依存性は、本願と同一出願人(coassigned)の国際公開2010/010561において検討された。三酸化アンチモンを[Sb]≦2.0重量%で少量適用し、かつ10~18重量%の臭素を提供するように難燃剤の濃度を調節した。ポリマー組成物中の臭素の量は、検討中の難燃剤の臭素含有量にポリマー組成物中の難燃剤の重量濃度を掛けることにより計算される。以下、所定の難燃剤により供給された臭素の量は、BrFr nameと称される。UL 94 V-1又はV-0等級を満たすために必要な臭素の量の急激な増加は、一般的に三酸化アンチモンの濃度が2重量%未満(2重量%→1.5重量%→1.0重量%→0.5重量%)に減少したときに観察された。国際公開2010/010561において試験された臭素含有添加剤のうち、トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジン(別称FR-245)は、他の難燃剤と比較して、三酸化アンチモンに対するかなり適切な依存性を示した。しかしながら、FR-245(BrFR-245=12重量%を供給するように添加される)さえも、ABSのUL 94 V-0等級を達成するために、1.5重量%の三酸化アンチモンの助けが必要である(ABSは、HIPSより難燃化されにくく、国際公開2010/010561の実施例32を参照)。さらに、以下の実施例2に示すように、ABSからの三酸化アンチモンの完全な除去を補償するために、FR-245を最大で約33重量%(BrFR-245=22%に相当)の量で適用しなければならない。国際公開2013/176868において報告された別の研究も、10%≦BrFR-245≦15%でUL-94 V-0/1.6mm等級を満たすABSが、アンチモンの添加時のみで達成可能であることを示す。
【0004】
まとめると、市場で入手可能な多くの商業用ABS配合物は、該配合物に組み込まれた10~15重量%の臭素により難燃化される。当該分野の一般的な知識としては、これらの配合物は、添加剤の許容可能な総含有レベルでUL-94 V-1/1.6mm又はUL-94 V-0/1.6mm等級を達成するために、アンチモンが存在しなければならない。
【0005】
Ind. Eng. Chem. Res., 2014, 53 (6), pp 2299-2307及びイタルマッチケミカルズSpA名義の国際公開2015/170130において報告されるように、次亜リン酸の金属塩、すなわち次亜リン酸金属塩(例えば、次亜リン酸アルミニウムAl(HPO及び次亜リン酸カルシウムCa(HPO)は、ABSの可燃性を低下させるために適用された。後者の公開公報には、Al(HPOは、ABS中の唯一の難燃剤の添加剤として、UL-94 V-0/3.2mm等級を達成するために、35%の非常に高い濃度で効果的であることが記載されている。しかしながら、この許容できないほど高い含有レベルでも、より薄い試験片(1.6 mm厚さの試験片)のUL-94等級要件を満たすには不十分である。次亜リン酸カルシウムは、米国特許第6503969号(BASF名義)及び国際公開2012/113146(Rhodia名義)に記載されている。
【0006】
本発明者らは、アンチモンを含まない、約10~15重量%の臭素含有ABS及びHIPS組成物が、次亜リン酸金属塩の添加により非常に効果的に難燃化できることを発見した。以下に報告された実験結果では、ABSからのアンチモンの完全な除去は、かなり少量の次亜リン酸金属塩の存在によって補償されて、UL-94 V-1/1.6mm又はUL-94 V-0/1.6mm等級を達成することが示されている。次亜リン酸金属塩は、ABS中のこれらの添加剤の乏しい有効性に基づいて有効であると予想される量よりも大幅に少ない量で適用される。例えば、臭素含有量が12重量%の例示的なABS組成物は、わずか6重量%の次亜リン酸金属塩によってUL-94 V-0/1.6mmの試験要件を満たすことができ、2つの成分がともに機能する効果は、各成分のそれぞれの効果よりも大きく、次亜リン酸金属塩が主要な(臭素含有)難燃剤の性能を向上させることが示唆されている。
【0007】
次亜リン酸金属塩は、次亜リン酸アルミニウム及び次亜リン酸カルシウムからなる群から選択されることが好ましい。Al(HPOは、様々なメーカーから市場で入手可能であり、アルミニウム塩と次亜リン酸とを反応させることにより製造される((例えば、80~90℃で緩やかに加熱しながら)Handbook of inorganic compounds、D.L.Perry著、第2版、また米国特許第7700680号及びJ. Chem. Soc. 2945ページ (1952)を参照)。Ca(HPOも市販されている。該塩は、国際公開2015/170130に示すような水酸化カルシウムと黄リンとの反応、又は、カルシウムの炭酸塩又は酸化物とHPOとの反応、それに続く溶媒の蒸発及び塩の回収により製造され得る(Encyclopedia of the alkaline earth compounds、R.C.Ropp著、2013年 Elsevier社を参照)。他の方法は、イオン交換樹脂による水酸化ナトリウムの処理に基づいて、米国特許第2938770号に記載されている。次亜リン酸カルシウムの製造も中国特許101332982に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2010/010561
【文献】国際公開2013/176868
【文献】国際公開2015/170130
【文献】米国特許第6503969号
【文献】国際公開2012/113146
【文献】米国特許第7700680号
【文献】米国特許第2938770号
【文献】中国特許101332982
【非特許文献】
【0009】
【文献】Polymer Degradation and Stability 64, 465-470ページ (1999)
【文献】Ind. Eng. Chem. Res., 2014, 53 (6), pp 2299-2307
【文献】Handbook of inorganic compounds、D.L.Perry著 第2版
【文献】J. Chem. Soc. 2945ページ (1952)
【文献】Encyclopedia of the alkaline earth compounds、R.C.Ropp著、2013年 Elsevier社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明に基づいて行われた実験研究では、次亜リン酸金属塩が、アンチモンを含まないABS配合物中の異なるタイプの臭素含有難燃剤を補助できることが示された。しかしながら、次亜リン酸金属塩は、ABSで溶融混合可能な(すなわち、ABSの処理温度で溶融する)臭素含有難燃剤と共に、特に良好に機能する。臭素含有難燃剤は、全て芳香族結合又は全て脂肪族結合した臭素原子を有し、難燃剤の臭素含有量は、50~70重量%の範囲である。芳香族的と脂肪族的の両方に結合した臭素を有する「混合」難燃剤及び臭素含有量が非常に高い(約80%)の難燃剤は、次亜リン酸金属塩との協働があまり効果的ではないように見えるが、機能することもできる。例えば、以下の臭素化難燃剤は、アンチモンを含まないABSで次亜リン酸金属塩と共に良好に機能する。
【0011】
(i)臭素含有量が67重量%の芳香族結合した臭素原子を有する、下記式Iで表されるトリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジン。
【化1】
【0012】
トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジンの製造は、一般に、当該分野において周知の様々な条件下でのシアヌル酸クロリドと2,4,6-トリブロモフェノラートとの反応に基づいている(例えば、米国特許第5907040号、米国特許第5965731号及び米国特許第6075142号を参照)。該難燃剤は、FR-245の名でICL-IP社から市販されている。この化学名及びFR-245は、本明細書において互換可能に使用されている。
【0013】
(ii)臭素含有量が70重量%の脂肪族結合した臭素原子を有する、下記化学構造で表されるトリス(トリブロモネオペンチル)リン酸。
【化2】
【0014】
トリス(トリブロモネオペンチル)リン酸の製造は、一般に、当該分野において周知の条件下での3モルのトリブロモネオペンチルアルコールと1モルのオキシハロゲン化リンとの反応に基づいている(例えば、米国特許第5710309およびそこで引用された文献を参照)。この化合物も、ICL-IP社(FR-370)から市販されている。この化学名及びFR-370は、本明細書において互換可能に使用されている。
【0015】
(iii)臭素含有量が58.5重量%の芳香族的に結合した臭素原子を有する、下記式IIIで表されるテトラブロモビスフェノールA。
【化3】
【0016】
テトラブロモビスフェノールAの製造は、一般に、溶媒としての水性低級アルコール又は水不混和性有機溶媒中で行われるビスフェノールAの臭素化に基づいている。この化合物も、ICL-IP社(FR-1524)から市販されている。この化学名及びFR-1524は、本明細書において互換可能に使用されている。
【0017】
iv)臭素含有量が50~60重量%の、芳香族結合した臭素原子を有する、下記式IVで表される臭素化エポキシ樹脂及びその末端封鎖誘導体。
【化4】
式中、mは、重合度を表し、R及びRは、
【化6】
および
【化7】
からなる群から独立して選択される。
【0018】
好ましくは、下記式IVaで表されるトリブロモフェノール末端封鎖低分子量樹脂及びその混合物であり、
【化4a】

式中、mは、0~5、より好ましくは0~4の整数である。すなわち、式IVa(式中、mは0、1及び2に等しい)の単独のトリブロモフェノール末端封鎖化合物を含む混合物の形態であるビス(2,4,6-トリブロモフェニルエーテル)-末端テトラブロモビスフェノールA-エピクロロヒドリン樹脂であり、またビス(2,4,6-トリブロモフェニルエーテル)-末端テトラブロモビスフェノールA-エピクロロヒドリン樹脂のより高次のオリゴマーである可能性もある。数平均分子量が1300~2500、より好ましくは約1400~2500、例えば1800~2100の式IVaの難燃剤は、分子量2000、臭素含有量56%で市販されている(例えば、ICL-IP社製のF-3020)。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、
耐衝撃性が改良されたスチレン含有ポリマー、好ましくはABSと、少なくとも一つの臭素含有難燃剤、好ましくはトリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジンと、
少なくとも一つの次亜リン酸金属塩Mq+(HPO(Mは、原子価qの金属カチオンを示す)と、
少なくとも一つの滴下防止剤と、を含む組成物であって、
前記臭素含有難燃剤と前記次亜リン酸金属塩の総濃度は、28重量%未満であり(組成物中の全ての成分の総重量に基づくものであり、以下、特に明記しない限り、濃度は組成物の総重量に基づくものとする)、例えば、18~26重量%、より具体的には19~25重量%(例えば、20~25重量%)、特に20~24重量%である、UL-94 V-1/1.6mm又はUL-94 V-0/1.6mmの試験要件を満たす、実質的にアンチモンを含まない組成物を対象とする。
【0020】
本発明の組成物は、実質的にアンチモンを含まない。「実質的にアンチモンを含まない」とは、組成物中のアンチモン(例えば、三酸化アンチモン)の濃度が、スチレン系配合物中のハロゲン化添加剤と組み合わせてプラスチックで使用される許容可能な量よりかなり低く、例えば、(組成物の総重量に対して)0.3重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下、例えば、0.0~0.1重量%であることを意味する。最も好ましくは、本発明の組成物は、アンチモンを全く含まない。
【0021】
特定の耐衝撃性が改良されたスチレン系ポリマー(コポリマー/ターポリマーを含む)は、ABS、HIPS及びASAである。ABSは、前記ポリマーの組成及び製造方法にかかわらず、(任意に置換された)スチレン、アクリロニトリル及びブタジエンに対応する構造単位を含むコポリマー及びターポリマーを指す。ABSの特性及び組成は、例えば、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering, 16巻, 72-74ページ(1985)に記載されている。本発明のABS組成物は、50重量%以上、例えば、60重量%以上、より具体的には65~80重量%で、MFIが1~50g/10分間(220℃/10kgでISO 1133に従って測定される)のABSを含有する。HIPSは、例えば、重合前に、エラストマー(ブタジエン)を(任意に置換された)スチレン系モノマー(複数可)と混合することにより得られる、スチレン系モノマーのゴム変性コポリマーを示す。HIPSの特性及び組成は、例えば、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering, 16巻,88~96ページ(1985)に記載される。本発明により提供されたHIPS組成物は、一般的には、50重量%以上、例えば、60重量%以上、より具体的には65~80重量%で、MFIが1~50(ISO 1133、250℃/5kg)のHIPSを含む。ASAは、アクリロニトリルスチレンアクリレートであり、時には、ABSの代替品として使用される(ブタジエンゴムの代わりにアクリレートゴムを組み込む)。
【0022】
ABS組成物中の臭素含有難燃剤と次亜リン酸金属塩の総濃度は、組成物の総重量に対して、好ましくは15~28重量%、より具体的には20~25重量%、例えば20~24重量%であるため、本発明の組成物中の臭素の濃度が9.5~15.5重量%、例えば10~15%である。上述したように、組成物中の臭素の濃度は、所定の難燃剤の臭素含有量(本明細書ではBrFr nameで示され、重量%で表される)に組成物中の難燃剤の重量濃度を掛けることにより計算される。例えば、市販されているFR-245、FR-370、FR-1524、及びF-3020の臭素含有量は、それぞれBrFR-245=67%、BrFR-370=70%、BrFR-1524=58.5%、及びBrF-3020=56%である。そのため、例えば12重量%の臭素をABS組成物中に組み込むために、これらの4つの難燃剤の対応する濃度は、(組成物の総重量に対して)17.9重量%、17.1重量%、20.5重量%、及び21.4重量%であるべきである。以下に示すように、次亜リン酸金属塩は、ABS(又はHIPS)の総重量に対して、2~9重量%、好ましくは3~9重量%、例えば4~8重量%、より具体的には5~7重量%の濃度で添加することができる。
【0023】
臭素含有難燃剤および次亜リン酸金属塩からなる2成分混合物は、ABS及びHIPSの可燃性を効果的に低下させることが示され、11~15重量%の範囲の臭素濃度を有する本発明のいくつかの好ましい組成物では、混合物は、臭素/Al(HPO又は臭素/Ca(HPOの重量比が2.5:1~1.5:1、好ましくは2.25:1~1.75:1、より好ましくは2.1:1~1.9:1、例えば約2:1であるように釣り合わせる。
【0024】
本発明に係る組成物は、該組成物の総重量に対して0.05~1.0重量%、より好ましくは0.1~0.5重量%、さらに好ましくは0.1~0.3重量%の好ましい量のポリテトラフルオロエチレン(PTFEと略称)のような一つ以上の滴下防止剤をさらに含む。PTFEは、例えば、米国特許第6503988号に記載されている。高い溶融滴下防止性能を示すフィブリル化PTFE等級が好ましい(例えば、Teflon(登録商標)6C(登録商標Dupont)及びHostaflon(登録商標)2071(登録商標Dyneon))。
【0025】
例えば、以下の組成物は、所望の可燃性を有する、すなわちUL 94 V-l/1.6mm又はUL 94 V-0/1.6mm等級の要件を満たすことが発見された。
【0026】
60~80重量%のABS(例えば、72~77重量%)、15~20重量%のFR-245(例えば、16~19重量%)、3~9重量%のA1(HP0、Ca(HPO又はそれらの混合物(例えば4~8重量%)、及び0.1~0.5重量%のPTFE(例えば、0.15~0.35重量%)。
【0027】
60~80重量%のABS(例えば、70~75重量%)、15~20重量%のFR-370(例えば、16~19重量%)、3~9重量%のA1(HPO、Ca(HPO又はそれらの混合物(例えば、4~8重量%)、及び0.1~0.5重量%のPTFE(例えば、0.15~0.35重量%)。
【0028】
60~80重量%のABS(例えば、70~75重量%)、18~23重量%のFR-1524(例えば、19~22重量%)、3~9重量%のA1(HPO、Ca(HPO又はそれらの混合物(例えば、4~8重量%)、及び0.1~0.5重量%のPTFE(例えば、0.15~0.35重量%)。
【0029】
60~80重量%のABS(例えば、73~78重量%)、18~23重量%の式IVaのトリブロモフェノール末端封鎖低分子量エポキシ樹脂(例えば、19~22重量%)、3~9重量%のA1(HPO、Ca(HPO又はそれらの混合物(例えば、4~8重量%)、及び0.1~0.5重量%のPTFE(例えば、0.15~0.35重量%)。
【0030】
本発明の組成物は、スチレン系ポリマー(例えば、ABS、HIPS、又はASA)、臭素含有難燃剤、次亜リン酸金属塩、滴下防止剤以外に、UV安定剤(例えば、ベンゾトリアゾール誘導体)、加工助剤、酸化防止剤(例えば、ヒンダードフェノールタイプ)、潤滑剤、顔料、熱安定剤、ダイなどの従来の添加剤をさらに含有することができる。これらの従来の添加剤の総濃度は、典型的に3重量%以下である。具体的には、本発明の組成物は、酸化防止剤及び熱安定剤、例えば、有機亜リン酸塩およびヒンダードフェノール系酸化防止剤の混合物を含有することができる。
【0031】
本発明者らはまた、本発明の実質的にSbを含まず、臭素を含有し、次亜リン酸金属塩を組み込んだABS組成物の可燃性及び/又は機械的特性が、ハロゲンを含まない難燃剤(例えば、リン系)、炭化剤、及びタルクなどの無機充填剤からなる群から選択される補助添加剤の添加により改良できることを発見した。一般に、本発明の組成物は、ジアルキルホスフィン酸塩を含まない。
【0032】
例えば、式(V)のヒドロキノン(1,4-ジヒドロキシベンゼン)のアリールリン酸エステルが、使用され得る。
【化5】
式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、任意にヘテロ原子で中断されたアリール(例えば、フェニル)又はアルキル置換アリール(例えば、キシレニル)であり、nは約1.0~約2.0の平均値を有する。式(V)の化合物は、EP2089402に記載されている。一般に、式(V)のヒドロキノンビスホスフェートは、触媒の存在下でジアリールハロホスフェートをヒドロキノンと反応させることにより製造される。例えば、MgClの存在下で、ジフェニルクロロホスフェート(DPCP)をヒドロキノンと反応させて、ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)を製造する。式(V)の化合物を合成する詳細な方法は、EP2089402に見出すことができる。本発明で用いられる式(V)の好ましい化合物[R=R=R=R=フェニル、1.0<n≦1.1、つまり、約1.0<n≦1.05のn平均値を有するヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)]は、EP2089402の実施例1の生成物であり、以下、簡略化するために「HDP」と命名する。この化合物は、固体の形態で入手可能であり、トローチの形態で使用され得る。
【0033】
アリールリン酸エステル、及び/又は、一つ以上の炭化剤、及び/又は、一つ以上の充填剤(例えば、a)ポリジメチルシロキサン、例えば、メタクリリック官能性を有する高分子量シロキサン、又は超高分子量ポリジメチルシロキサン、及びb)Ciba社から入手可能なECN樹脂を含むノボラックエポキシ樹脂からなる群から選択される)により、次亜リン酸金属塩の含有レベルが低い場合でも、すなわち、Br/Al(HPO又はBr/Ca(HPOが、好ましくは、2:1以上、例えば3:1~9:1、例えば、3:1~7:1又は3:1~5:1の重量比で機能する場合でも、アンチモンを含まない臭素含有ABSで良好な可燃性能を得ることができる。
【0034】
したがって、本発明の別の態様は、UL-94 V-1/1.6mm又はUL-94 V-0/1.6mmの試験要件を満たす、実質的にSbを含まないABS(又はHIPS)組成物であって、少なくとも一つの臭素含有難燃剤および少なくとも一つの次亜リン酸金属塩を含み、アリールリン酸エステル、ポリジメチルシロキサン及びノボラックエポキシ樹脂からなる群の少なくとも一つをさらに含む、組成物に関する。好ましくは、該組成物は、該組成物の臭素濃度が10~15%であり、Br/次亜リン酸金属塩の重量比が2:1以上、例えば、2:1~7:1、好ましくは、3:1~5:1であることを特徴とする。例えば、以下の組成物は、所望の可燃性を有する、すなわちUL 94 V-l/1.6mm又はUL 94 V-0/1.6mm等級の要件を満たすことが発見された。
【0035】
60~80重量%のABS(例えば、70~75重量%)、15~20重量%のFR-245(例えば、16~19重量%)、3~6重量%のAl(HPO、Ca(HPO又はそれらの混合物(例えば、3~5重量%)、及び1~10重量%の、ヒドロキノンのアリールリン酸エステルおよび炭化剤からなる組み合わせ(例えば、2~8重量%)、及び0.1~0.5重量%のPTFE(例えば、0.15~0.35重量%)
【0036】
無機充填剤は、成形性及び安定性などの熱可塑性プラスチックの特性を改良するものとして知られ、一部の充填剤は、ある程度の難燃性も示す。本発明者らは、タルク(例えば、直鎖状低密度ポリエチレンキャリアの60%濃縮物として、マスターバッチの形態で供給される)は、アンチモンを含まず、臭素を含有し、次亜リン酸塩を組み込んだABSの可燃性作用にプラスの効果があることを発見した。このようなABS組成物に、例えば、0.5~3、好ましくは0.5~1.5の低濃度のタルクを添加することにより、いくつかの利点が得られることが示される。タルクの添加により、臭素濃度(例えば、12~10重量%)又は次亜リン酸金属塩濃度(例えば、6~4.5重量%)の減少が可能となり、特に次亜リン酸カルシウムの存在下で、機械的特性が大幅に改善され、優れた可燃性を達成する。例えば、以下の組成物は、所望の可燃性を有する、すなわちUL 94 V-l/1.6mm又はUL 94 V-0/1.6mm標準の要件を満たすことが発見された。
【0037】
60~80重量%のABS(例えば、70~80重量%)、13~18重量%のFR-245(例えば、14~16重量%)、4~8重量%のA1(HPO、Ca(HPO又はそれらの混合物(例えば、5~7重量%)、0.5~3重量%のタルク(例えば、1~2%)、及び0.1~0.5重量%のPTFE(例えば、0.15~0.35重量%)。
【0038】
60~80重量%のABS(例えば、73~78重量%)、15~20重量%のFR-245(例えば、16~19重量%)、3~9重量%のA1(HPO、Ca(HPO又はそれらの混合物(例えば、3~5重量%)、0.5~3重量%のタルク(例えば、1~2重量%)、及び0.1~0.5重量%のPTFE(例えば、0.15~0.35重量%)。
【0039】
上記添加剤の一つは、ポリジメチルシロキサンである。A1(HP0又はCa(HP0、特にCa(HP0と、固体の形態(例えば、粉末)で入手可能なポリジメチルシロキサン(PDMS)の組み合わせは、9.5~15.5%、例えば、10~15%の臭素(例えば、9.5%≦BrFr 245≦15.5%)を含有するABS組成物において有益であることが示される。ポリジメチルシロキサンには、粉末添加剤(シリカなどと混合される)などの固体形態で市販され、又はペレット化濃縮物に分散された超高分子量(UHMW)が含まれる。以下に報告される実験結果では、Ca(HPOおよび前述のタイプのポリジメチルシロキサンからなる混合物は、ABS(又はHIPS)及び臭素含有化合物に上記のように低下した臭素含有レベルで配合できることが示される。例えば、ABS、FR-245などの臭素含有化合物によって供給される10~15重量%の臭素、Ca(HPO、及びポリジメチルシロキサンを含む組成物であって、臭素:Ca(HPOの重量比が2:1以上、例えば、3:1~7:1であり、Ca(HPO:PDMSの重量比が7:1~1:2である組成物は、UL 94 V-l/1.6mm又はUL 94 V-0/1.6mm等級を満たす。{Ca(H+PDMS}混合物の総濃度は、好ましくは、組成物の総重量に対して4%以上、例えば、4~7重量%である。{Ca(H+PDMS}は、一連の利点(アイゾッドノッチ付き衝撃試験で測定された、低下した可燃性と機械的強度)を得るために釣り合わせることができる。好ましくは、Ca(H+PDMSの混合物は、ほぼ均等に比例し、例えば、Ca(H:PDMSの重量比は3:2~2:3である。
【0040】
より具体的には、本発明は、以下のABS組成物を提供する。
【0041】
60~80重量%のABS(例えば、70~80重量%)、15~22.5重量%のFR-245(例えば、15~21重量%)、2.0~7.0重量%のA1(HPO、Ca(HPO又はそれらの混合物(例えば、2.0~5.0重量%)、0.5~4.0重量%のポリジメチルシロキサン(例えば、1.0~3.0重量%)、及び0.1~0.5重量%のPTFE(例えば、0.15~0.35重量%)。
【0042】
本発明の組成物の製造は、当該分野で公知の様々な方法を用いて実施することができる。例えば、該組成物は、コニーダ又は二軸スクリュー押出機で成分を溶融混合することにより製造し、混合温度は160~240℃の範囲とする。全ての原料を一緒に押出スロートに供給することができるが、一般に、まず、一部の成分を乾燥混合し、次に、一つ以上の原料を必要に応じて下流に添加しながら、乾燥混和物を押出機の主供給ポートに導入することが好ましい。バレル温度、溶融温度及びスクリュー速度などのプロセスパラメータについては、以下の実施例において、より詳細に説明する。
【0043】
得られた押出物を粉砕してペレットにする。乾燥したペレットは、物品成形プロセス、射出成形、押出成形、圧縮成形への供給に適し、必要に応じて別の成形方法が続く。組成物から成形された物品は、本発明の別の態様を形成する。
【実施例
【0044】
配合物を調製するために使用した材料を表1に示す(FRは、難燃剤の略語である)。
【0045】
【表1】
【0046】
調製
ポリマー及び全ての添加剤を予備混合し、混合物をフィーダーno.1により、L/D=32の二軸スクリュー共回転押出機ZE25(Berstorff社)の主ポートに供給した。押出機の動作パラメータについては、以下のとおりである。
バレル温度(供給端から排出端まで):160℃、180℃、200℃、200℃、210℃、220℃、230℃、ダイ-240℃である。
スクリュー回転速度:350rpm、
供給速度:12kg/hである。
【0047】
製造されたストランドを、Accrapak Systems Ltdのペレタイザー750/3でペレット化した。得られたペレットを循環空気オーブン(Heraeus Instruments社)において80℃で3時間乾燥させた。乾燥したペレットを下記に示す条件下で、Arburg社のAllrounder 500-150を用いて試験片に射出成形した。
【0048】
【表2】
【0049】
厚さ1.6mmの試験片を用意した。試験片を23℃で1週間調整し、その後にそれらの特性を決定するためにいくつかの試験を行った。
【0050】
可燃性試験
ガスメタン動作可燃性フード内において、Underwriter-Laboratories標準のUL 94に従って、厚さ1.6mmの試験片に垂直可燃を適用することにより、直接火炎試験を実施した。
【0051】
機械的試験
ASTM D256-81に従って、Instron Ceast 9050振り子衝撃システムを使用して、ノッチ付きアイゾット衝撃試験を実施した。ASTM D638に従って、Zwick 1435材料試験機(タイプ2ダンベルを使用し、試験速度は5mm/minとした)を使用して、引張特性を決定した。
【0052】
実施例1~6(いずれも比較用)
臭素含有化合物又は次亜リン酸金属塩のみで難燃化されたABS

この一連の実施例では、臭素含有難燃剤は、三酸化アンチモンを使用することなくABSの可燃性を低下させるために適用した。同様に、次亜リン酸金属塩は、ABS中の唯一の難燃剤として試験した。可燃性試験の組成物及び結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
この結果は、FR-245又はF-3020のいずれかによって供給された組成物中の16重量%臭素の量が、三酸化アンチモンが存在しない場合には不十分であるため、実施例1でも4でもUL-94等級を達成していないことを示している。ABS中にFR-245のみを使用する場合に、UL-94 V-0/1.6 mm等級を達成するためには、臭素の量を約22重量%に増やす必要があり、つまり、難燃剤の許容できないほど高い含有レベルが必要である(約33%、実施例2)。三酸化アンチモンのかなり良好な置き換えは、メチルメチルホスホン酸のアルミニウム塩(AMMPと略称)であるが、16重量%の臭素が必要であり、難燃系の総含有レベルが組成物の約29%である(実施例3)。
【0055】
次亜リン酸金属塩に関しては、単独で使用した場合、明らかに非効率的である(実施例5及び6)。25~35重量%の高い含有レベルでも、次亜リン酸金属塩含有ABSはUL-94等級を達成することができない。
【0056】
実施例7~12
臭素含有化合物と次亜リン酸金属塩で難燃化されたABS

この一連の実施例に示すように、市場で入手可能な様々な臭素含有難燃剤をアルミニウム又はカルシウムの次亜リン酸塩と組み合わせて、UL 94 V-l/1.6mm又はUL 94 V-0/1.6mm等級のアンチモンを含まないABS組成物を得ることができる。この組成物に組み込んだ臭素化難燃剤の量は、組成物中の臭素濃度が、市販されている多くのABS配合物中の通常の臭素濃度である12重量%になるように調整した。
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示された結果は、次亜リン酸金属塩がABS中で三酸化アンチモンの効果的な置き換えとして機能することを示している。
【0059】
実施例13~18
臭素含有化合物と次亜リン酸金属塩で難燃化されたABS

この一連の実施例に示すように、次亜リン酸金属塩の存在下で、臭素含有化合物{トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジン、FR-245)}で難燃化されたアンチモンを含まないABSは、他の添加剤を組成物に組み込むことで利益を得ることができる。リン含有難燃剤、炭化剤、タルクを補助添加剤として試験した。
【0060】
組成物及び結果を表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
マスターバッチの形態で供給されたタルクの添加が、FR-245を補助する難燃性増強剤の総重量を約6~7重量%の許容可能な含有レベル内に維持しながら、ABSの機械的特性の改善をもたらすことがわかり、添加されたタルクの効果は、特に顕著である。また、アンチモンを含まないUL 94 V-l/1.6mm等級のABS組成物は、臭素濃度がわずか10重量%であり、(FR-245+次亜リン酸金属塩+タルクマスターバッチからなる)難燃剤系の総含有レベルが23重量%未満で達成されることが観察されている。
【0063】
実施例19(比較例)

アンチモンを含まないABS配合物を調製し、上記の手順に従って試験した。組成物及び結果を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
得られた配合物は、MPP含有レベルが6.0重量%の場合、UL 94 1.6mm等級を達成できないから、実施例19は、FR-245で難燃化されたABSにポリリン酸メラミン(MPP)などのリン系難燃剤を添加しても、Sbの非存在を効果的に補償することができないことを示している。
【0066】
実施例20~25
臭素含有化合物、次亜リン酸カルシウム及びポリジメチルシロキサンで
難燃化されたABS

ABS組成物に添加した臭素化難燃剤の量は、組成物中の臭素濃度が約10%~14重量%の範囲にわたって変化するように調節した。上記で指摘したように、これは多くの商業用のABS配合物における通常の臭素濃度範囲である。アンチモン相乗剤を添加することによって利益が得られない場合、そのような配合物に良好な難燃性を与えることは、困難な目標である。
【0067】
したがって、ポリジメチルシロキサンの補助により、アンチモンの置き換えとして次亜リン酸カルシウムを試験した、アンチモンを含有しない10~14重量%の臭素含有ABS組成物を調製した。結果を表7に示す。
【0068】
【表7】
【0069】
この結果は、かなり少量の次亜リン酸カルシウムとポリジメチルシロキサンの添加により、十分な衝撃強度と合わせて可燃性の低下を示すABS組成物を製造したため、UL 94/1.6mm V-0(又はV-1)等級が、アンチモンの非存在下で、約10~約14重量%の臭素含有ABS組成物の範囲で達成可能であることを示している。実施例22に関連するABS組成物(BrFr245=12重量%、次亜リン酸カルシウム6重量%)は、102J/mのノッチ付きアイゾット衝撃を示していることに注意すべきであり、したがって、次亜リン酸カルシウムの一部をポリジメチルシロキサンで置換すると、可燃性が低下し、機械的特性が向上することが分かり、同様の傾向が実施例24及び25で観察されている。
【0070】
実施例26~27
臭素含有化合物と次亜リン酸金属塩とからなる組み合わせで難燃化されたHIPS

この一連の実施例は、三酸化アンチモンの非存在下で、次亜リン酸金属塩を添加すると、臭素含有化合物{トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-s-トリアジン、FR-245)}でHIPSも効果的に難燃化できることを示す。
【0071】
【表8】