(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】分析物決定のための汎用的前処理試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20220727BHJP
G01N 33/74 20060101ALI20220727BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220727BHJP
G01N 33/64 20060101ALI20220727BHJP
G01N 33/82 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
G01N33/48 A
G01N33/74
G01N33/68
G01N33/64
G01N33/82
(21)【出願番号】P 2019553172
(86)(22)【出願日】2018-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2018057754
(87)【国際公開番号】W WO2018178068
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-12
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】ロペス-カレ,エロイザ
(72)【発明者】
【氏名】ヘーゲル,エベリナ
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ビルダ,カロリーネ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼル,ハンス-ペーター
(72)【発明者】
【氏名】レードル,ヨーゼフ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-529304(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0273021(US,A1)
【文献】国際公開第2014/122972(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48
G01N 33/74
G01N 33/68
G01N 33/64
G01N 33/82
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から分析物を放出するin vitro方法であって、前記試料を、(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤と接触させるステップを含
み、
(1)前記カオトロピック剤の濃度は1Mから4Mまでであり;
前記有機溶媒の濃度は2%(v/v)から20%(v/v)までであり;
前記界面活性剤の濃度は0.2%(w/v)から20%(w/v)までであり;および/または
重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンの濃度は、0.1Mから2Mまでであり、
(2)前記カオトロピック剤は塩酸グアニジンおよび/または尿素であり;
前記有機溶媒はアセトニトリルであり;
前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり;および/または
重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤は、環状炭酸エステルを含み、
(3)前記試料が体液の試料、分離された細胞の試料、組織もしくは器官からの試料、または外側のもしくは内側の身体表面から得られた洗浄/すすぎ液の試料であり、ならびに
(4)前記分析物は、ステロイドホルモン、オリゴペプチド、ポリケチド、およびビタミンのうちの少なくとも1種を含む、
前記方法。
【請求項2】
前記界面活性剤がアルキル-グリコシドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記界面活性剤がβ-D-オクチル-グルコシドである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料は体液試料であ
る、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が血液、血漿、または血清の試料である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステロイドホルモンは、アンドロゲン、エストロゲン、およびプロゲストゲンのうちの少なくとも1種であり;
前記オリゴペプチドは環状オリゴペプチド抗生物質であり;
前記ポリケチドはマクロライド、タクロリムス、シロリムス、もしくはエベロリムスであり;ならびに/または
前記ビタミンはビタミンDであ
る、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステロイドホルモンがテストステロンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記オリゴペプチドがシクロスポリンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリケチドがエベロリムスである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ビタミンがビタミンD3である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ビタミンが25-ヒドロキシ-ビタミンD3である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記分析物は、テストステロン、シクロスポリン、エベロリムス、および25-ヒドロキシ-ビタミンD3のうちの少なくとも1種を含む、請求項1から
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記分析物が、テストステロン、シクロスポリン、エベロリムス、および25-ヒドロキシ-ビタミンD3のうちの少なくとも2種を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記分析物が、テストステロン、シクロスポリン、エベロリムス、および25-ヒドロキシ-ビタミンD3のうちの少なくとも3種を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記分析物が、テストステロン、シクロスポリン、エベロリムス、および25-ヒドロキシ-ビタミンD3のうちの全てを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤を含む、
試料から分析物を放出するための放出剤
であって、
(1) 前記放出剤は3倍濃縮溶液であり、かつ
前記カオトロピック剤の濃度は2Mから飽和までであり;
前記有機溶媒の濃度は2%(v/v)から30%(v/v)までであり;
前記界面活性剤の濃度は0.5%(w/v)から20%(w/v)までであり;
重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンの濃度は、0.1Mから6Mまでであり、
(2) 前記カオトロピック剤は塩酸グアニジンおよび/または尿素であり;
前記有機溶媒はアセトニトリルであり;
前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり;および/または
重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤は、環状炭酸エステルを含み、(3) 前記試料が体液の試料、分離された細胞の試料、組織もしくは器官からの試料、または外側のもしくは内側の身体表面から得られた洗浄/すすぎ液の試料であり、ならびに
(4)前記分析物は、ステロイドホルモン、オリゴペプチド、ポリケチド、およびビタミンのうちの少なくとも1種を含む、
前記放出剤。
【請求項17】
前記界面活性剤がアルキル-グリコシドである、請求項16に記載の放出剤。
【請求項18】
前記界面活性剤がβ-D-オクチル-グルコシドである、請求項17に記載の放出剤。
【請求項19】
前記重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤が、エチレンカーボネートを含むかまたはそれである、請求項16~18のいずれか一項に記載の放出剤。
【請求項20】
(I)(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを放出剤に供給する少なくとも1種の薬剤を含む組成物、ならびに/または、
(II)試料から少なくとも1種の分析物を放出するための請求項1から
15のいずれか一項に記載の方法、の使用。
【請求項21】
前記組成物は請求項
16~19のいずれか一項に記載の放出剤である、請求項
20に記載の使用。
【請求項22】
ハウジングに備えられた、(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤を含む、キット
であって、請求項16~19のいずれか一項に記載の放出剤を含む、前記キット。
【請求項23】
少なくとも1種の分析物向けの少なくとも1種の検出剤をさらに含む、請求項
22に記載のキット。
【請求項24】
試料中の少なくとも1種の分析物を決定する方法であって、
(a)請求項1から
15のいずれか一項に記載の方法に従って前記分析物を放出して、抽出物を発生させるステップ;
(b)前記抽出物中の前記放出された分析物を決定するステップ;および、それによって、
(c)試料中の前記分析物を決定するステップ、
を含む方法。
【請求項25】
前記方法は、多数の分析物を決定する方法であ
る、
請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
前記多数の分析物とは少なくとも2種の分析物のことである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記多数の分析物とは少なくとも4種の分析物のことである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記多数の分析物とは少なくとも10種の分析物のことである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記多数の分析物とは少なくとも25種の分析物のことである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記多数の分析物とは少なくとも50種の分析物のことである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項
16~19のいずれか一項に記載の放出剤を含む、試料中の分析物を決定するための、ならびに/あるいは
請求項1から
15および/または
24~30のいずれか一項に記載の方法を行うように構成された、
デバイス。
【請求項32】
前記デバイスは、少なくとも1種の分析物を決定するために適合させた分析ユニット、および/または前記試料中の前記分析物の量および/または濃度を計算するために適合させた評価ユニットをさらに含む、請求項
31に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料から分析物を放出するin vitro方法に関し、前記試料を、(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤と接触させるステップを含む。本発明は、上記化合物を含む、試料から分析物を放出するための放出剤にさらに関する。さらに、本発明は、本発明の方法および放出剤に関連した使用、キット、方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
in vitro診断(IVD)方法には、実際の分析を行う前に試料調製ステップが通常は必要である。試料調製は、試料マトリックスからの分析物放出、分析物が赤血球内に閉じ込められている場合の溶血(例えば、免疫抑制薬)および場合によっては存在量の低い分析物に関して分析物の濃縮などの、いくつかの機能を伴う場合がある。試料調製ステップの別の重要な機能とは、干渉を回避するための試料マトリックスの除去である;特に、血液および血液由来の試料は、タンパク質(アルブミン、免疫グロブリン)と他の生体分子との高濃度でかつ複雑な混合物からなり、これによって、下流の分析において問題に、例えば、その寿命を短縮するクロマトグラフィーカラムの閉塞または目詰まりに(Fureyら(2013) Talanta 115:104)、分析物の存在量が低いことによるMSシグナルの「掻き消し(drown out)」または抑制等に、つながる可能性がある。
【0003】
質量分析(MS)、特に液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)は、in vitro診断における分析物の定量に選択される方法となっている。特に、類似の構造の代謝物を有する小分子の決定の場合、MSの特異性および精度は、信頼できる結果を生み出すことに欠かせないものとなっている。そのような小分子の例は、25-ヒドロキシビタミンD3などのビタミン、テストステロンなどのステロイド、シクロスポリンAおよびエベロリムスなどの免疫抑制薬である。25-ヒドロキシビタミンD3およびテストステロンは血清または血漿の試料から決定される。免疫抑制薬の場合、これらの分析物は赤血球に強く結合しているので、推奨されるマトリックスは全血であり(Al-Jenoobi、FI(2016)、Austin Chromatography 3:1039;Sallustio、BC(2010)、Bioanalysis 2:1141)、したがって、それらの定量の前に溶血ステップが必要である。25-ヒドロキシ-ビタミンD3、テストステロン、シクロスポリンAおよびエベロリムスの場合、これらの分析物は試料中でマトリックスタンパク質に結合しており、定量前にマトリックスタンパク質からの放出を必要とすることも知られている:例えば、血中シクロスポリンAの定量前(「Personalized Immunosuppression in transplantation:role of biomarker monitoring and therapeutic drug monitoring」、Oellerich & Das Gupta(2016):Elsevier、Amsterdam)、これは50~70%が赤血球に結合している、および、血漿中に見いだされるシクロスポリンAの定量前、これは98%がリポタンパク質に結合し、一方、わずか2%が血漿中に遊離していることが見いだされている。同様に、血中エベロリムス(Oellerich & DasGupta、上記引用文中)の定量前、およそ75%は赤血球に結合している、および、血漿中に見いだされるエベロリムスの定量前、75%が血漿タンパク質に結合しており、一方、25%が血漿中に遊離していることが見いだされている。25-ヒドロキシ-ビタミンD3およびテストステロンは、それぞれ、ビタミンD結合タンパク質および性ホルモン-結合グロブリンに事実上ほとんどが結合している(Elecsysアッセイ 総ビタミンDの添付文書(2014-11、V5.0);Rommerts FFG(2004):「Testosterone:an overview of biosynthesis,transport,metabolism and non-genomic actions」;In:Nieschlag、E、Behre、HM(編):Testosterone action,deficiency,substitution、第3版、Cambridge、Cambridge University Press、1~38ページ.)。
【0004】
試料の前処理試薬を含めて、試料調製ステップは、分析方法の精度に直接影響を与えるので、LC-MS/MS分析および他のIVD定量方法/アッセイにおける方法開発の第一のかつ最も重要な部分である(10)。最先端の最も一般的な前処理方法とは、沈殿のための添加剤の一助となるように、メタノールまたはアセトニトリルなどの有機溶媒で、時にはまたZnSO4などの硫酸塩で、試料(血清、血漿、または全血)を処理することであり、試料マトリックスからの分析物放出および同時に沈殿によるマトリックス成分の除去を誘導する(Sallustio,BC、上記引用文中;Gomesら(2013)、Bioanalysis 5:3063;Elecsysアッセイの添付文書:シクロスポリン(2013-06、V1.0)、エベロリムス(2015-11、V1.0)、シロリムス(2015-12、V1.0)、タクロリムス(2014-11、V3.0)、およびそれらのISD前処理試薬(2014-10、V3.0);Sadjadi S(2013)、Chromatography Today、11月/12月:20)。しかし、これらの方法は、沈殿物の除去が必要であり、したがって、LC-MS/MS向けのビーズ濃縮などの一部の下流の適用性に対応していない;さらに、有機溶媒はビーズによる分析物の捕捉を阻害する場合がある。したがって、ビーズ濃縮LC-MS/MS方法には通常、前分析に水性ビーズ溶液が必要である。ビーズ濃縮ワークフローでの試料調製に使用される前処理試薬は、安定したすぐに使用できる状態の溶液として理想的には提供される。こういった溶液は、機器に搭載して長期間配置することができ、ユーザーとのやりとりを必要としないワークフローを提供する。しかし、凍結乾燥物としての試薬を使用することは、化学的に不安定な試薬が含まれる場合に必要であり、このことは、手作業のステップは追加費用を発生させ間違いの原因ももたらすので、再構成のための手作業のステップが必要であることによってワークフローを妨害する。加えて、再構成された試薬は通常、短い貯蔵寿命を示し、新しく調製した溶液に交換する必要がある。
【0005】
一部の前処理方法は、マトリックスからの分析物放出に鹸化を使用し(Elecsysアッセイ 総ビタミンDの添付文書(2014-11、V5.0);Gomesら、上記引用文中)、試料と水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムの溶液とを混合するステップからなる。この前処理方法は、多くの場合、アンフォールドするマトリックスタンパク質のジスルフィド架橋を開くためのジチオトレイトール(DTT)などの還元剤の添加を伴う。この利点は、マトリックスタンパク質の変性がなんら沈殿物を形成せずに起こることである。しかし、還元剤はアルカリ溶液では普通化学的に安定ではないので、DTTおよびNaOHなどの2つの個別の成分を用意する必要がある。その結果は、分析装置上により広いスペースが必要になり、2回のピペッティングステップの前処理が必要になる、ということである。
【0006】
他のアッセイでは、前処理試薬を使用して、構造的に類似の化合物を過剰に加えるステップによって、決定すべき分析物の競争的置換を引き起こす。例えば、Elecsysテストステロン試験では、テストステロンをその結合タンパク質から放出するために、免疫試薬中に2-ブロモエストラジオールを含有する(Elecsysアッセイ テストステロンの添付文書(2014-12、V8.0)。しかし、この方法では、捕捉ビーズの位置を占めることによってビーズ濃縮ワークフローを損なう可能性があり、分析物自体を捕捉するその能力が低下または制限され、分析物の喪失にいたる可能性がある。競合化合物は、類似の構造に起因してLC-MS/MSに干渉を引き起こす可能性もあり、したがって、これにより、共溶出およびイオン抑制は可能性が非常に高くなる。
【0007】
また、タンパク質分解試料処理を試料マトリックスの除去および分析物放出に使用できる(US7964363B2;US8221986B2)。しかし、タンパク質分解試薬はマトリックスタンパク質から多数のペプチド断片を生じるが、これらの断片は貴重なビーズの位置を占めることによってビーズ濃縮のワークフローを妨げる可能性がある。結果として、ビーズによる分析物の捕捉は、完全には不可能であり、分析物および感度の喪失という結果となる。さらに、タンパク質分解前処理方法には普通、様々な試薬と一緒に複数のピペッティングステップが必要であり、分析器上においてより複雑で時間を浪費するワークフローに至る。
【0008】
カオトロピック試薬はまた、タンパク質変性および細胞可溶化向けの試薬として文献で知られており(Peterson PA(1971)、J Biol Chem 246、7748;Marston FAO(1990)、Methods Enzymol、182:264)、アッセイにおける放出試薬として適用される(17)。しかし、通常の製剤では、6~8M濃度の尿素またはグアニジンHClを含む、高用量の試薬を使用し、こういった試薬はLC-MS/MS測定で干渉を引き起こすことが多い(Samskog J(2003)、J Chromatography A、998:83;Antignac JP(2005、Anal Chim Acta、529:129;Chiu ML(2010)、JALA 15:233;Procら(2010)、J Proteome Res 9:5422)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、試料から分析物を放出する改善された手段および方法に対する、特に良好な抽出効率を提供しかつビーズ濃縮などの下流の適用性を妨害しない前処理試薬に対する必要性が、当技術分野において存在する。この問題は、本明細書で開示の手段および方法によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、試料から分析物を放出するin vitro方法に関し、前記試料を、(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤と接触させるステップを含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下で使用する場合、用語「有する」、「含む(comprise)」もしくは「含む(include)」、または任意の恣意的なその文法的変型は、非排他的方式で使用される。したがって、これらの用語は、これらの用語により導入される特徴以外のさらなる特徴がこの文脈において記述される実体には存在しないという状況、および1つまたは複数のさらなる特徴が存在するという状況の両方を参照することができる。一例として、表現「AはBを有する」、「AはBを含む(comprise)」、および「AはBを含む(include)」とは、AにはB以外の他の要素が存在しないという状況(すなわち、Aは単独かつ独占的にBから成るという状況)、および実体AにはB以外に1つまたは複数のさらなる要素が、例えば要素C、要素CおよびD、またはそれ以上の要素が存在するという状況の両方を意味することができる。
【0012】
さらに、以下で使用する場合、「好ましくは」、「より好ましくは」、「最も好ましくは」、「具体的には」、「より具体的には」、「詳細には」、「より詳細には」、または類似の用語は、任意の特徴と合わせて、さらなる可能性を制限することなく使用される。従って、これらの用語により導入される特徴は、任意の特徴であり、特許請求の範囲をいかようにも制限することは意図されていない。本発明は、当業者であれば認識されるように、代替の特徴を使用することにより実施されることができる。同様に、「本発明の実施形態において」または類似の表現により導入される特徴は、本発明のさらなる実施形態に関する一切の制限なしで、本発明の範囲に関する一切の制限なしで、かつそのような方式で導入される特徴を本発明の他の任意の、または任意ではない特徴と組み合わせる可能性に関する一切の制限なしで、任意の特徴であることが意図される。さらに、別途示されない限り、用語「約」とは、関連分野で一般に受け入れられている技術的精度を有する指示値に関し、好ましくは指示値±20%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%に関する。
【0013】
本発明の方法はin vitro方法である。したがって、一実施形態では、方法は人体上では行われない。また、本発明の方法は、一実施形態では、対象の健康状態の診断を提供する診断方法ではない;しかし、本発明の方法は、一実施形態では、診断を確立する際に役立つ医師が見つけることが可能な情報を、または対照のさらなる処置を決定する際に考慮し得る情報を提供することが想定される。さらに、方法は、上で明確に言及されたステップに加えて複数のステップを含むことができる。例えば、さらなるステップは、例えば、下に本明細書で記載されるように得られる一実施形態において試料を、例えば対象からの試料を提供するステップに;前記試料を、下に本明細書で特定される1つまたは複数のさらなる化合物と接触させるステップに;および/または、試料を前記化合物と接触させた後に不溶性化合物を除去するステップに、関してもよい。さらに、方法のステップのうちの1つまたは複数は、自動化された機器によって行うことができる。
【0014】
用語「試料」とは、本明細書で使用する場合、少なくとも1種の分析物を含むまたは含むと疑われる試料を指す。一実施形態では、試料は生体試料であり、一実施形態では、体液の試料、分離された細胞の試料、組織もしくは器官からの試料、または外側のもしくは内側の身体表面から得られた洗浄/すすぎ液の試料である。試料は、周知されている技法によって得ることができ、掻爬、スワブおよび生検を含む。試料は、ブラシ、(コットンの)スワブ、スパーテル、すすぎ/洗浄液、パンチ生検装置、針での空洞穿刺または手術器具の使用によって得ることができる。組織または器官の試料は、例えば、生検または他の外科手技により、任意の組織または器官から得ることができる。一実施形態では、試料は液体試料であり、さらなる実施形態では体液の試料であり、例えば、一実施形態では、血液、血漿、血清、尿、唾液、涙液、および乳腺から得られる液体、例えば乳汁である。さらなる実施形態では、試料は血液、血漿、または血清の試料である。血液試料は、採血により、例えば動脈および/または静脈の血管を穿刺することにより得ることができる。血漿および血清の試料は、周知の方法に従って血液試料から得ることができる。一実施形態では、試料はEDTA血漿試料であり、さらなる実施形態では、試料はEDTA血液試料である。試料は、一実施形態では、本明細書の他で明記される少なくとも1種の分析物を含むまたは含むと疑われるものである。本明細書で使用する場合、用語「試料」とは、本明細書で特定される化合物と接触させる前の試料に関する。接触中、試料の成分および上記の化合物の成分の両方が存在する限り、用語「放出混合物」が使用されるが、一方、接触後、すなわち、試料の成分および/または上記の化合物の成分のうちの少なくとも1種が除去された後、用語「抽出物」が使用される。一実施形態では、試料は、in vitroでの評価目的のために個体から得られた生体試料である。さらなる実施形態では、液体試料は、濾紙またはフィルターメンブレイン上で乾燥される。一実施形態では、本明細書で使用する試料は、個体から得られた試料の一定分量を指す。
【0015】
用語「接触させるステップ」とは、本発明の方法の文脈で使用する場合、当業者であれば明らかである。一実施形態では、用語は、本発明の試料を少なくとも指示された化合物との物理的接触にもたらすこと、それにより試料と化合物とが相互作用することを可能にすること、に関する。試料を多数の化合物に、例えば、カオトロピック剤、有機溶媒、界面活性剤、および重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤に接触させるステップは、それぞれの化合物の連続添加によって、前記化合物のうちの2種以上を含む試薬の連続添加によって、例えば、カオトロピック剤と重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤とを含む一試薬を加え、続いて有機溶媒と界面活性剤とを含む第2の試薬を加えるステップによって、または、本発明の放出剤を使用する一実施形態において、上記の化合物の全てを含む放出剤と試料を接触させるステップによって、行うことができる。上記の場合のいずれにおいても、試料は、上記の化合物の4種全てに同時に接触する、すなわち、試料は、少なくとも本明細書の他で明記される時間フレームの間、試料に接触する上記の化合物の全てと相互作用することができる。化合物全部が同時に加えられるわけではない場合、最後の化合物が加えられると、指示されたインキュベーション時間が開始する。
【0016】
本明細書で使用する場合、用語「分析物」とは、対象の試料中に、一実施形態では、体液中に、存在する化学的化合物を指す。一実施形態では、分析物は小分子である、すなわち、一実施形態では、分析物は生体高分子ではない。さらなる実施形態では、分析物は、有機分子であり、一実施形態では、少なくとも隣接する2個の炭素原子を含む分子である。一実施形態では、分析物とは対象の代謝の分子である。さらなる実施形態では、分析物は、例えば、予防的処置を含めて、医学的処置において、前記対象に投与された化合物である。また、一実施形態では、分析物は、低分子量の化学化合物であり、一実施形態では5000Da未満の分子質量を有し、一実施形態では2000Da未満の分子質量を有する。さらなる実施形態では、分析物は、ステロイドホルモン、オリゴペプチド、ポリケチド、およびビタミンからなるリストから選択される。
【0017】
一実施形態では、放出される少なくとも1種の分析物はステロイドホルモンである。用語「ステロイドホルモン」とは、ステロイド環系を含む構造を有し、対象においてホルモン機能を有する化合物に関するものであることは、当業者であれば知っている。一実施形態では、ステロイドホルモンはコルチコステロイドまたは性ステロイドであり、一実施形態では性ステロイドである。一実施形態では、分析物は、アンドロゲン、エストロゲン、およびプロゲストゲンのうちの少なくとも1種であり、さらなる実施形態では、テストステロン、ジヒドロテストステロン、およびアンドロステンジオンイン(androstenedionein)のうちの少なくとも1種であり、さらなる実施形態では、テストステロンである。
【0018】
一実施形態では、放出される少なくとも1種の分析物はオリゴペプチドである。用語「オリゴペプチド」とは、本明細書で使用する場合、ペプチド結合を介して接続された少なくとも2個のアミノ酸を含むあらゆる化合物が含まれる。一実施形態では、オリゴペプチドは2から50個までのアミノ酸で構成され、一実施形態では3から25個までのアミノ酸で構成され、さらなる実施形態では4から15個までのアミノ酸で構成される。一実施形態では、前記アミノ酸のうちの少なくとも1種はアルファ-アミノ酸であり、一実施形態ではL-アルファ-アミノ酸であり、さらなる実施形態ではタンパク質を構成するアミノ酸である。当然のことながら、オリゴペプチドは、限定されないが、メチル基、エチル基、エチレン基、ケト基、ヒドロキシル基、環状アルキル基、糖残基等を含めて、化学側鎖をさらに含んでもよい。一実施形態では、オリゴペプチドは内因性または治療用オリゴペプチドである。さらなる実施形態では、オリゴペプチドは環状オリゴペプチドであり、一実施形態では環状オリゴペプチド抗生物質であり、一実施形態ではシクロスポリンである。
【0019】
一実施形態では、放出される少なくとも1種の分析物は「ポリケチド」であり、この用語は当業者であれば知っており、これには、特に、マクロライド、アンサマイシン、ポリエン、テトラサイクリン、および関連化合物が含まれる。一実施形態では、ポリケチドはマクロライドである。用語「マクロライド」とは、本明細書で使用する場合、大環状ラクトン構造を含む化合物のクラスに関する。一実施形態では、大環状ラクトン環は、8から50個までの環原子を、一実施形態では12から40個までの環原子を、さらなる実施形態では15から35個までの環原子を、含む。一実施形態では、マクロライドは、タクロリムスおよびピメクロリムスなどにおいて、23個の環原子を含むか、またはマクロライドは、シロリムス、エベロリムス、およびテムシロリムスなどにおいて、31個の環原子を含む。当業者であれば明らかなように、マクロライドは、大環状ラクトン環に直接的または間接的に結合したさらなる環構造を含んでもよく、および/またはラクトン環および可能性のあるさらなる環は、少なくとも1個の酸素ヘテロ原子に加えて、さらなるヘテロ原子を、特に窒素原子を含んでもよい。さらに、マクロライドは、特にメチル基、エチル基、エチレン基、ケト基、ヒドロキシル基、環状アルキル基、糖残基等を含めて、有機および/または無機側鎖をさらに含んでもよい。一実施形態では、少なくとも1種の分析物は、エベロリムス((1R,9S,12S,15R,16E,18R,19R,21R,23S,24E,26E,28E,30S,32S,35R)-1,18-ジヒドロキシ-12-[(2R)-1-[(1S,3R,4R)-4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メトキシシクロヘキシル]プロパン-2-イル]-19,30-ジメトキシ-15,17,21,23,29,35-ヘキサメチル-11,36-ジオキサ-4-アザトリシクロ[30.3.1.04,9]ヘキサトリアコンタ-16,24,26,28-テトラエン-2,3,10,14,20-ペントン、CAS番号159351-69-6)、シロリムス((1R,9S,12S,15R,16E,18R,19R,21R,23S,24E,26E,28E,30S,32S,35R)-1,18-ジヒドロキシ-12-{(2R)-1-[(1S,3R,4R)-4-ヒドロキシ-3-メトキシシクロヘキシル]-2-プロパニル}-19,30-ジメトキシ-15,17,21,23,29,35-ヘキサメチル-11,36-ジオキサ-4-アザトリシクロ[30.3.1.04,9]ヘキサトリアコンタ-16,24,26,28-テトラエン-2,3,10,14,20-ペントン、CAS番号53123-88-9)、タクロリムス((1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R)-1,14-ジヒドロキシ-12-[(1E)-1-[(1R,3R,4R)-4-ヒドロキシ-3-メトキシシクロヘキシル]プロパ-1-エン-2-イル]-23,25-ジメトキシ-13,19,21,27-テトラメチル-17-(プロパ-2-エン-1-イル)-11,28-ジオキサ-4-アザトリシクロ[22.3.1.04,9]オクタコス-18-エン-2,3,10,16-テトロン、CAS番号104987-11-3)、ピメクロリムス((1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R)-12-[(1E)-1-[(1R,3R,4S)-4-クロロ-3-メトキシシクロヘキシル]プロパ-1-エン-2-イル]-17-エチル-1,14-ジヒドロキシ-23,25-ジメトキシ-13,19,21,27-テトラメチル-11,28-ジオキサ-4-アザトリシクロ[22.3.1.04,9]オクタコス-18-エン-2,3,10,16-テトロン、CAS番号137071-32-0)、または、テムシロリムス((1R,2R,4S)-4-[(2R)-2-[(1R,9S,12S,15R,16E,18R,19R,21R,23S,24E,26E,28E,30S,32S,35R)-1,18-ジヒドロキシ-19,30-ジメトキシ-15,17,21,23,29,35-ヘキサメチル-2,3,10,14,20-ペンタオキソ-11,36-ジオキサ-4-アザトリシクロ[30.3.1.04,9]ヘキサトリアコンタ-16,24,26,28-テトラエン-12-イル]プロピル]-2-メトキシシクロヘキシル3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロパノエート、CAS番号162635-04-3)、である。一実施形態では、分析物は、エベロリムス、シロリムス、タクロリムス、ピメクロリムスおよびテムシロリムスから選択され、一実施形態では、エベロリムス、シロリムス、およびタクロリムスから選択され、さらなる実施形態ではエベロリムスであり、一実施形態ではシロリムスであり、一実施形態ではタクロリムスである。
【0020】
一実施形態では、放出される少なくとも1種の分析物は「ビタミン」であり、この用語は、少量で対象が必要とし、かつ、対象の体はこれを合成することができない有機化合物に関するものであることは、当業者であれば知っている。当業者であればまた知っているように、用語「ビタミン」とは、種に応じて化学化合物がビタミンである場合もありそうでない場合もあるので、種に固有な分類である。一実施形態では、ビタミンは、ヒト対象についてのビタミン、すなわち、ヒトのビタミンである。一実施形態では、分析物は、ビタミンA(レチノール)、B1(チアミン)、B2(リボフラビン)、B3(ナイアシン)、B5(パントテン酸)、B6(ピリドキシン)、B7(ビオチン)、B9(葉酸)、B12(シアノコバラミン)、C(アスコルビン酸)、ビタミンD(コレカルシフェロールまたはエルゴカルシフェロール)、E(トコフェロール)、およびK(フィロキノン)のうちの1つである。一実施形態では、分析物は疎水性ビタミンであり、一実施形態では疎水性のヒトビタミンであり、さらなる実施形態ではヒトのA、B、またはDビタミンであり、さらなる実施形態ではビタミンDである。一実施形態では、用語「ビタミンD」には、ビタミンD2の骨格またはビタミンD3の骨格を含有する天然に存在するあらゆる化合物が含まれるということが理解されるべきである。さらなる実施形態では、ビタミンはビタミンD3であり、さらなる実施形態では25-ヒドロキシ-ビタミンD3である。
【0021】
一実施形態では、本発明に従う試料から多数の分析物が放出される。一実施形態では、少なくとも4種、一実施形態では少なくとも10種、さらなる実施形態では、少なくとも100種の分析物が試料から放出される。一実施形態では、放出される前記分析物は、テストステロン、シクロスポリン、エベロリムス、および25-ヒドロキシ-ビタミンD3のうちの少なくとも1種を、一実施形態では少なくとも2種を、さらなる実施形態では少なくとも3種を、さらなる実施形態では全てを含む。
【0022】
用語「分析物を放出する(こと)」とは、本明細書で使用する場合、試料に含まれる分析物を溶液にもたらすことまたは維持することに関するものである。当業者であれば明らかなように、本発明の分析物は、試料中に遊離で溶解して存在してもよく、または試料の成分に、例えば、タンパク質に、膜に結合している、小胞に閉じ込められている、等でもよい。本発明によれば、抽出後の抽出溶液に可溶性で見いだされる特定の分析物の割合は、前記試料中に存在する全分析物の少なくとも50%であり、一実施形態では少なくとも60%であり、さらなる実施形態では少なくとも70%であり、さらなる実施形態では少なくとも80%であり、さらなる実施形態では少なくとも90%である。したがって、一実施形態では、本発明の方法の抽出効率は、少なくとも50%であり、一実施形態では少なくとも60%であり、さらなる実施形態では少なくとも70%であり、さらなる実施形態では少なくとも80%であり、さらなる実施形態では少なくとも90%である。一実施形態では、分析物を放出するとは、生体膜を破壊することおよび/もしくは溶解させることを含み、ならびに/またはタンパク質を変性させることおよび/もしくは沈殿させることを含む。当業者であれば明らかなように、用語「タンパク質を変性させる(こと)」とは、その天然の立体構造とは異なる、前記タンパク質の立体構造状態を誘導することに関するものである。一実施形態では、変性させるとは、タンパク質が結合した補因子および/または他の分析物を放出するように、タンパク質をアンフォールディングすることである。したがって、一実施形態では、タンパク質を変性させることには、前記タンパク質の沈殿が含まれ得る;しかし、タンパク質を変性させることはまた、ポリペプチドをアンフォールドディングするおよび可溶化することであってもよい。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「対象」とは、脊椎動物に関する。一実施形態では、対象は哺乳動物であり、さらなる実施形態では、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ハムスター、モルモット、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、またはウマである。なおさらなる実施形態では、対象は霊長類である。さらなる実施形態では、対象はヒトである。一実施形態では、対象は、少なくとも1種の分析物に関して正常からの測定可能な逸脱を伴う疾患または状態に罹患しているかまたは罹患していると疑われる。さらなる実施形態では、対象は、少なくとも1種の分析物の投与、一実施形態では、ステロイドホルモン、オリゴペプチド、ポリケチド、およびビタミンのうちの少なくとも1種の投与、を含む医学的処置を受ける。さらなる実施形態では、対象は、テストステロン、シクロスポリン、エベロリムス、およびビタミンD3のうちの少なくとも1種の投与を含む医学的処置を受ける。さらなる実施形態では、対象は、シクロスポリンおよびエベロリムスのうちの少なくとも1種の投与を含む医学的処置を受ける。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「カオトロピック剤」とは、水分子間の水素結合を崩壊させ、かつ生体高分子の三次構造を崩壊させる、化合物に関する。一実施形態では、カオトロピック剤は、グアニジニウムイオンを含む、すなわち、塩化グアニジニウムもしくはグアニジンチオシアン酸塩であるか、チオ尿素であるか、または尿素である。一実施形態では、カオトロピック剤は硫黄原子を含まない薬剤である。したがって、一実施形態では、カオトロピック剤は、塩化グアニジニウムまたは尿素を含むかまたはそれであり、さらなる実施形態では、塩化グアニジニウムを含むかまたはそれであり、さらなる実施形態では尿素を含むかまたはそれである。一実施形態では、カオトロピック剤は塩化グアニジニウムまたは尿素であり、さらなる実施形態では塩化グアニジウムであり、さらなる実施形態では尿素である。一実施形態では、カオトロピック剤の濃度は、一実施形態では塩化グアニジニウムの濃度は、さらなる実施形態では尿素の濃度は、1Mから4Mまでであり、一実施形態では2Mから3.5Mまでであり、ここで、前記濃度は、前記接触ステップの間の処理された試料における濃度である。
【0025】
用語「有機溶媒」とは、本明細書で使用する場合、その分子が少なくとも1個の炭素原子を含み、IUPAC標準周囲温度および圧力条件下で(温度:25℃、圧力:105kPa)液体である、化合物に関する。一実施形態では、有機溶媒は、少なくとも50℃、一実施形態では少なくとも60℃、さらなる実施形態では少なくとも70℃、さらなる実施形態では少なくとも80℃の沸点を有する。一実施形態では、有機溶媒は中性有機溶媒であり、さらなる実施形態では非プロトン性溶媒である。一実施形態では、有機溶媒は極性溶媒であり、一実施形態では非プロトン性極性溶媒である。一実施形態では、有機溶媒は、少なくとも1.5D、一実施形態では少なくとも2D、さらなる実施形態では少なくとも2.5D、さらなる実施形態では少なくとも3Dの双極子モーメントを有する。一実施形態では、有機溶媒は、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン、およびアセトニトリルから選択され、さらなる実施形態では、アセトニトリルである。一実施形態では、前記有機溶媒の濃度は、アセトニトリルの実施形態では、2%(v/v)から20%(v/v)まで、一実施形態では3%(v/v)から15%(v/v)まで、一実施形態では5%(v/v)から10%(v/v)までであり、ここで、前記濃度は、前記接触ステップの間の処理された試料における濃度である。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「界面活性剤」とは、当業者であれば原理的に周知されており、水の表面張力を減少させる両親媒性化合物に関する。一実施形態では、界面活性剤は両親媒性化合物の混合物である;さらなる実施形態では、界面活性剤は単一の両親媒性化合物である、すなわち、表面活性剤である。一実施形態では、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤を含み、一実施形態では非イオン性界面活性剤からなる。さらなる実施形態では、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。一実施形態では、界面活性剤は、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル、グリセロールアルキルエステル、またはグリコシドアルキルエーテルを含むかまたはそれである。一実施形態では、グリコシドアルキルエーテルは5から12個までの炭素原子を有するアルキル鎖を持つアルキル-グリコシドであり、さらなる実施形態では、5から12個までの炭素原子を有するアルキル鎖を持つアルキル-グルコシドであり、さらなる実施形態ではオクチルグリコシドである。さらなる実施形態では、界面活性剤は、アルキル-グリコシドを含むか、またはそれであり、一実施形態では、ラウリルグルコシド、デシルグルコシド、またはオクチル-グルコシドであり、さらなる実施形態では、オクチル-グルコシドであり、さらなる実施形態では、β-D-オクチル-グルコシド((2R,3S,4S,5R,6R)-2-(ヒドロキシメチル)-6-オクトオキシオキサン-3,4,5-トリオール、CAS番号:29836-26-8)である。一実施形態では、界面活性剤の濃度は、0.2%(w/v)から20%(w/v)まで、一実施形態では0.3%(w/v)から2%(w/v)までであり、ここで、前記濃度は、前記接触ステップの間の処理された試料における濃度である。
【0027】
本明細書で使用する場合、用語「重炭酸イオンを供給する薬剤」には、pH7での水溶液において重炭酸イオンと化学平衡にある任意の化学化合物が含まれる。本発明による「重炭酸イオン」(炭酸水素イオン)は、実験式HCO3
-を持つアニオンであり、理論上は61.01ダルトンの分子質量を有する。重炭酸イオンは、少なくとも1種の炭酸水素塩または炭酸塩を含有する化学化合物によって、および/または加水分解時に重炭酸イオンを放出することができる化学化合物によって、提供することができる。本発明によれば、「炭酸塩」とは、炭酸イオンを含む化学化合物である;一実施形態では、炭酸塩は可溶性炭酸塩であり、特に炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、または炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)である。本発明によれば、「炭酸水素塩」とは、HCO3
-イオンを含む化学化合物であり、一実施形態では炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)、炭酸水素カルシウム(Ca(HCO3)2)および炭酸水素マグネシウム(Mg(HCO3)2)からなる群から選択される。本発明の一実施形態による「加水分解時に重炭酸イオンを放出することができる化学化合物」とは、炭酸エステルである。本発明による「炭酸エステル」とは、2つのアルコキシ基が隣接するカルボニル基である。これらの炭酸塩の一般構造は、R1O(C=O)OR2である(式中、R1およびR2は、アルキルまたは環状アルキルであり、一実施形態では、独立して、メチル、エチル、プロピオニル、およびブチルから選択され、またはR1およびR2は一緒にアルキルブリッジを、特にエチレン基を形成する)。したがって、環状炭酸エステル(例えば、エチレンカーボネート)または非環状炭酸エステル(例えば、ジメチルカーボネート)、ならびに利用可能なそれらのヒドロキシル化またはハロゲン化誘導体がある。
【0028】
当業者であれば明らかなように、炭酸塩は水溶液のアルカリ化を引き起こす。したがって、一実施形態では、炭酸塩は、特にアルカリ条件に敏感ではない分析物の放出に使用される。さらなる実施形態では、特にアルカリ性pHに敏感である分析物が、例えばマクロライドが放出されることになる場合、接触ステップの間のpHを調整するか、または、一実施形態では、炭酸水素塩または炭酸エステルを使用することができる。したがって、一実施形態では、重炭酸イオンを供給する薬剤は、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カルシウムおよび炭酸水素マグネシウムからなる群から選択される。さらに好ましい実施形態では、炭酸水素塩は、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸水素アンモニウムからなる群から選択される。さらに好ましいのは、炭酸水素塩は炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムからなる群から選択される。
【0029】
一実施形態では、重炭酸イオンを供給する薬剤は、それぞれ、環状または非環状炭酸エステルまたはそのヒドロキシル化またはハロゲン化誘導体である。さらなる実施形態では、重炭酸イオンを供給する薬剤は、それぞれ、環状または非環状炭酸エステルまたはそのハロゲン化誘導体である。さらなる実施形態では、環状または非環状炭酸エステルまたはそのハロゲン化誘導体は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、エリスリトールビスカーボネート、グリセロール1,2-カーボネート、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジクロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、2,5-ジオキサヘキサン二酸ジメチルエステル、1,2ブチレンカーボネート、cis2,3ブチレンカーボネートおよびtrans2,3ブチレンカーボネート、からなる群から選択される。さらなる実施形態では、環状または非環状炭酸エステルまたはそのハロゲン化誘導体は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、エリスリトールビスカーボネート、グリセロール1,2-カーボネート、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オンおよび4,5-ジクロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、からなる群から選択される。さらなる実施形態では、環状または非環状炭酸エステルは、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、グリセロール1,2-カーボネート、プロピレンカーボネートおよびビニレンカーボネートからなる群から選択される。さらなる実施形態では、環状または非環状炭酸エステルは、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、グリセロール1,2-カーボネートおよびプロピレンカーボネートからなる群から選択される。さらなる実施形態では、環状または非環状炭酸エステルは、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびグリセロール1,2-カーボネートからなる群から選択される。さらなる実施形態では、重炭酸イオンを供給する薬剤は、上で特定した炭酸エステルを含むかまたはそれであり、一実施形態では環状炭酸エステルを含むかまたはそれであり、一実施形態ではエチレンカーボネート(1,3-ジオキソラン-2-オン、CAS番号:96-49-1)を含むかまたはそれである。
【0030】
一実施形態では、重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンの濃度は、0.1Mから2Mまで、一実施形態では0.2Mから0.5Mまでであり、ここで、前記濃度は、前記接触ステップの間の処理された試料における濃度である。本明細書で使用する場合、重炭酸イオンを供給するそれぞれの薬剤の全てのCO3-ユニットが重炭酸イオンとして、一実施形態ではpHにかかわらず、存在すると想定して、重炭酸イオンの濃度指示が形式基準で提供される;したがって、例えば、炭酸塩の0.1M溶液は、0.1Mの濃度で重炭酸イオンを供給すると想定される;また、炭酸エステルの0.1M溶液は、実際の加水分解の程度にかかわらず、0.1Mの濃度で重炭酸イオンを供給すると想定される。
【0031】
当業者であれば当然のことながら、本発明で開示される効果を達成するために、重炭酸イオンを供給する複数の薬剤を任意に混合することができる。また、当業者であれば知っているように、水溶液では、重炭酸イオンは次の式に従って二酸化炭素と平衡状態にある:
2H2O+CO2→←H2O+H2CO3→←H3O++HCO3
-.
したがって、炭酸の塩、すなわち炭酸塩および炭酸水素塩は、揮発性二酸化炭素と平衡状態にあり、特に短期または中期貯蔵の試薬で重炭酸イオンを供給する薬剤として適切である。他方、炭酸エステルは、特に少なくとも4週間、一実施形態では少なくとも2ヶ月間、さらなる実施形態では少なくとも3ヶ月間、さらなる実施形態では少なくとも6ヶ月間の長期貯蔵の試薬用と、特にみなすことができる。
【0032】
驚くべきことに、本発明の基礎となる研究でわかったことは、放出混合物(前処理混合物)に重炭酸イオンを供給する薬剤を含めることによって、抽出効率に悪影響を与えることなく、カオトロピック剤の濃度を低下し得ることである。したがって、一実施形態では、(i)前記カオトロピック剤と(ii)重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンとの濃度の合計は、少なくとも1.5Mであり、一実施形態では1.5Mから4Mまでである。
【0033】
上記の通り、特に長時間接触させた場合、分析物およびその抽出の効率は極端なpHに敏感となる場合がある。したがって、接触ステップの間のpHは、一実施形態では3から9まで、一実施形態では4から8まで、さらなる実施形態では5から7.5までである。一実施形態では、接触ステップの間のpHは6.5±1.5であり、さらなる実施形態では6.5±1であり、さらなる実施形態では6.5±0.5であり、さらなる実施形態では6.5±0.3である。さらに、分析物およびその抽出の効率は、特に長時間接触させた場合、温度偏差に敏感となる場合がある。したがって、一実施形態では、接触ステップは、一実施形態では、最高でも50℃、一実施形態では最高でも45℃、さらなる実施形態では最高でも40℃の温度で行われる。一実施形態では、接触ステップは、少なくとも0℃、一実施形態では少なくとも10℃、さらなる実施形態では少なくとも20℃、さらなる実施形態では少なくとも25℃、さらなる実施形態では少なくとも30℃の温度で行われる。したがって、一実施形態では、接触ステップは、10℃から50℃までの、一実施形態では20℃から45℃までの、さらなる実施形態では25℃から40℃までの、さらなる実施形態では37℃±2℃の、さらなる実施形態では約37℃の、さらなる実施形態では37℃の、温度で行われる。一実施形態では、接触ステップは最長でも1時間、一実施形態では最長でも30分間、さらなる実施形態では最長でも20分間行われる。一実施形態では、接触ステップは、少なくとも2分間、一実施形態では少なくとも3分間、さらなる実施形態では少なくとも5分間、さらなる実施形態では少なくとも8分間、さらなる実施形態では、少なくとも12分間行われる。したがって、一実施形態では、接触ステップは、2から30分までの間、一実施形態では3から20分までの間、さらなる実施形態では5から15分までの間行われる。当業者であれば、例えば、目的の分析物を意図した条件下でインキュベートし、インキュベーション後に残っている目的の分析物の量を決定することによって、目的の分析物を放出するために上に指示した条件の適合性を、検証することができる。一実施形態では、pHおよび温度に関する上記条件は、手順全体の間維持される、すなわち、一実施形態では、分析物を放出する方法が行われ、一方、さらなる実施形態では、少なくとも1種の分析物を決定する方法が行われる。
【0034】
分析物を放出する方法は、試料をさらなる薬剤に接触させるステップを含んでもよい。例えば、一実施形態では、放出混合物は、還元剤、例えば、タンパク質中のジスルフィド結合を還元するチオールまたは他の薬剤を、特に2-メルカプトエタノール、2-メルカプトエチルアミン-HCl、TCEP、システイン-HCl、ホモシステイン-HCl、ジチオトレイトール(DTT)、ジチオエリスロール(DTE)、N-メチルマレイミド、エルマン試薬および1,2-ジチオラン-3-カルボン酸を、さらに含んでもよい。さらに、一実施形態では、pH安定化剤が、例えば緩衝剤が含まれてもよい。
【0035】
有利には、本発明の基礎となる研究でわかったことは、試料を、特に血液または血液由来試料を本発明の化合物と接触させるステップによって、ビタミンDなどの抽出が困難であると当技術分野で知られている化合物を含めて、特に広範囲の化学化合物が高い効率で抽出できる、ことである。したがって、本発明は、高度に効率的な汎用的抽出方法および相応する試薬を提供するが、これらは、ステロイドホルモン、オリゴペプチド、ポリケチド、およびビタミンを抽出するのに、特に上記の化合物クラスのうちの2種以上のメンバーが同時に抽出される場合に、特によく適する。さらに、放出混合物に重炭酸イオンを供給する薬剤を含めることによって、完全な放出に必要なカオトロピック剤の量を著しく低減させることができ、したがってイオン抑制などの質量分析における問題を特に回避できることがわかった。
【0036】
上でなされた定義は、必要な変更を加えて以下に適用される。下でさらになされるさらなる定義および説明は、本明細書に記載される全ての実施形態についても、必要な変更を加えて適用される。
【0037】
本発明はさらに、(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤を含む、試料から分析物を放出するための放出剤に関する。
【0038】
本明細書で使用する場合、用語「放出剤」とは、少なくとも特定された化学化合物を含む混合物に関する。原則として、放出剤は、固体形態で提供されてもよく、一実施形態では適切な濃度で溶解していてもユーザーによって試料に直接加えられてもよい。一実施形態では、放出剤は、少なくとも特定の化合物を含む水溶液である。さらなる実施形態では、放出試薬は、3倍濃縮溶液であり、一実施形態ではすぐに使用できる状態である、すなわち、本明細書で特定の試料への直接3倍希釈向けに、すなわち、放出剤1部を試料2部と組み合わせることによって、提供される。当業者であれば明らかなように、放出剤はまた、様々な濃度比で、例えば、一実施形態では、2倍、4倍、または5倍濃縮物として提供されてもよい。当業者であれば、特に放出剤の成分の溶解度を、また試料のおよび目的とする分析物の特定の特性をも考慮して、特定の用途に応じて放出剤の濃縮係数を確立することができる。例えば、分析物が試料中に高度に濃縮されている場合、試料の強い希釈が必要である放出剤を、例えば1.1倍濃縮の放出剤を提供することが適切であろう。他方、分析物が低濃度で試料中に存在すると予想される場合、より高い濃縮係数が考えられる。
【0039】
一実施形態では、放出剤は3倍濃縮溶液である。したがって、一実施形態では、放出剤中の、特に3倍濃縮放出剤中のカオトロピック剤の濃度は、2Mから飽和まで、一実施形態では2.5Mから6Mまでである。さらなる実施形態では、放出剤中の、特に3倍濃縮放出剤中の有機溶媒の濃度は、2%(v/v)から30%(v/v)まで、一実施形態では5%(v/v)から20%(v/v)まで、一実施形態では15%(v/v)から20%(v/v)までである。さらなる実施形態では、放出剤中の、特に3倍濃縮放出剤中の界面活性剤の濃度は、0.5%(w/v)から20%(w/v)まで、一実施形態では1%(w/v)から3%(w/v)までである。さらなる実施形態では、放出剤中の、特に3倍濃縮放出剤中の、重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンの濃度は、0.1Mから6Mまで、一実施形態では0.5Mから2Mまでである。さらなる実施形態では、(i)カオトロピック剤と(ii)放出剤中の、特に3倍濃縮放出剤中の重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンとの濃度の合計は少なくとも2Mであり、一実施形態では3Mから8Mまでである。したがって、一実施形態では、放出剤中の、特に3倍濃縮放出剤中の、カオトロピック剤の濃度は2Mから飽和まで、一実施形態では2.5Mから6Mまでである;有機溶媒の濃度は2%(v/v)から30%(v/v)まで、一実施形態では5%(v/v)から20%(v/v)まで、一実施形態では15%(v/v)から20%(v/v)までである;界面活性剤の濃度は、0.5%(w/v)から20%(w/v)まで、一実施形態では1%(w/v)から3%(w/v)までである;および、重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンの濃度は、0.1Mから6Mまで、一実施形態では0.5Mから2Mまでである;ならびに、任意選択で、(i)カオトロピック剤と(ii)重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンとの濃度の合計は少なくとも2Mであり、一実施形態では3Mから8Mまでである。
【0040】
放出剤は、特定の化合物に加えて複数の化合物を含んでもよい。例えば、一実施形態では、チオール化合物、緩衝剤等。
本発明はまた、(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤を含む組成物、一実施形態では本発明による放出剤、ならびに/または、試料から少なくとも1種の分析物を放出するための、本発明の、試料から分析物を放出する方法、の使用に関する。
【0041】
さらに、本発明は、ハウジングに備えられた、(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤を含み、一実施形態では本発明の放出剤を含み、一実施形態では少なくとも1種の分析物向けの少なくとも1種の検出剤をさらに含むキットに、関する。
【0042】
用語「キット」とは、本明細書で使用する場合、一緒にパッケージされていてもされていなくてもよい、本発明の上述の化合物、手段または試薬の集合を指す。キットの成分は、個別のハウジングによって構成してもよく(すなわち、個別の部品のキットとして)、2種以上の成分が単一のハウジングで提供されてもよい。したがって、キットは、それぞれの化合物として、例えば、ユーザーによる溶解向けの純粋な化合物として、および/またはすぐに使用できる状態の溶液として、指示された化合物を含むことができる。キットはまた、上記の化合物のうちの2種以上の混合物を、例えばカオトロピック剤と重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤とを含む試薬および有機溶媒と界面活性剤とを含む第2の試薬を、含んでもよい。あるいは、キットは、上記の化合物の全てを含む試薬を含んでもよく、特に、本発明の放出剤を含んでもよい。さらに、本発明のキットは、一実施形態では、試料から分析物を放出する方法および/または本明細書で言及の、試料中の少なくとも1種の分析物を決定する方法を実施するのに使用されるものであることを理解されたい。一実施形態では、本明細書で言及の方法を実施するために、すぐに使用できる状態の様式で成分が提供されることが想定される。一実施形態では、前記化合物の全てまたは一部が濃縮液体形態で提供されるが、この場合、本明細書の他で明記の通り、濃縮成分は水性緩衝溶液または水などの液体を使用して希釈される。さらに、キットは、一実施形態では、前記方法を実行するための指示書を含有する。指示書は紙または電子形態のユーザーマニュアルによって提供できる。加えて、マニュアルは、本発明のキットを使用して上述の方法を実施する際に得られた結果を解釈するための指示書を含んでもよい。一実施形態では、キットは、本発明の方法を行うための、水、緩衝剤、および/または適切な容器をさらに含む。
【0043】
キットは、少なくとも1種の分析物向けの検出剤をさらに含んでもよい。用語「検出剤」とは、本明細書で使用する場合、分析物の検出を助ける任意の薬剤に関する。したがって、検出剤は、分析物と相互作用するかまたは化学反応を起こす化学化合物であり得る。一実施形態では、検出剤は、本発明の分析物に直接的または間接的に結合する化学分子である。当業者であれば当然のことながら、検出剤はまた間接検出剤であり得る、すなわち、検出剤が分析物に直接に接触しないが、それ自体が分析物に結合するさらなる化合物による。一実施形態では、検出剤は直接検出剤である、すなわち、分析物に直接に結合する薬剤である。一実施形態では、検出剤は抗体であり、一実施形態ではIgGである。一実施形態では、検出剤はモノクローナル抗体である。さらなる実施形態では、検出剤は、指示薬化合物に、すなわち、当業者であれば知っている手段によって、試料中におけるその存在を検出できる化合物に、結合した抗体である。既知の指示薬化合物には、色素、電気化学的に活性な基、またはラテックスビーズなどのビーズが含まれる。一実施形態では、キットは抽出容器をさらに含み、これは、単回抽出用の容器、例えばプラスチックチューブまたはエッペンドルフカップ、または多回抽出用のデバイス、特にマルチウェルプレート、例えば96ウェルプレート、であり得る。一実施形態では、抽出容器は、所定量のまたは所定容量の本発明の放出試薬を含むことができる;例えば、一実施形態では、所定容量がマルチウェルプレートのウェルに提供されても、前記ウェル中で乾燥されていてもよい。
【0044】
本発明はまた、試料中の少なくとも1種の分析物を決定する方法に関するものであり、
(a)本発明に従う試料から分析物を放出する方法に従って前記分析物を放出して、抽出物を発生させるステップ;
(b)前記抽出物中の前記放出された分析物を決定するステップ;および、それによって、
(c)試料中の前記分析物を決定するステップ、
を含む。
【0045】
用語「決定する(ステップ)」とは、本明細書で使用する場合、試料から得られた抽出物において決定しようとする分析物の少なくとも1つの特長を決定することを指す。本発明による特長は、分析物の生化学的特性を含めて、物理的および/または化学的特性の特色を示す特徴である。かかる特性には、例えば、分子量、粘度、密度、電荷、スピン、光学活性、色、蛍光、化学発光、元素組成、化学構造、他の化合物と反応する能力、生物学的読出しシステムで応答を引き出す能力(例えば、レポーター遺伝子の誘導)等が含まれる。前記特性の値は特長として役に立つ可能性があり、当技術分野で周知されている技法によって決定することができる。さらに、特長は任意の特徴であり得、これは、標準的な操作によって、例えば、乗算、除算、または対数計算などの数学的計算によって、分析物の物理的および/または化学的特性の値から導出される。一実施形態では、少なくとも1つの特長を使用すれば、分析物およびその量の決定および/または化学的同定が可能になる。したがって、一実施形態では、特性値はまた、特性値が由来する分析物の存在量に関する情報も含む。例えば、分析物の特性値は、質量スペクトルのピークである場合もある。このようなピークは、分析物の特性情報を;すなわち、m/z情報を、ならびに抽出物中の前記分析物の存在量(すなわちその量)に関連する強度値を、含有する。
【0046】
試料が含む分析物は、一実施形態では、本発明に従って定量的または半定量的に決定し得る。定量的決定の場合、上で本明細書に参照された特長について決定された値に基づいて、分析物の絶対量もしくは正確な量が決定されるか、または、分析物の相対量が決定されるかの、いずれかである。相対量は、分析物の正確な量が決定できない場合または決定されない場合に決定してよい。前記の場合、分析物の存在量が、前記分析物を第2の量で含む第2の試料と対比して増加または低減しているかどうかを、判定できる。したがって、分析物の定量分析には、分析物の半定量分析と呼ばれることもある分析も含まれる。
【0047】
さらに、本発明の方法で使用する場合、決定するステップは、一実施形態では、先に参照した分析ステップの前に化合物分離ステップを使用することを含む。一実施形態では、前記化合物分離ステップによって、試料が含む代謝物の時間分解分離が得られる。したがって、本発明に従って使用される分離に適切な技法には、全てのクロマトグラフィー分離技法、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、薄層クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、またはアフィニティークロマトグラフィーが含まれる。これらの技法は、当技術分野で周知されており、当業者であればさらに苦心することなく適用可能である。一実施形態では、LCおよび/またはGCが、本発明の方法で想定されるクロマトグラフィー技法である。分析物のかかる決定に適切なデバイスは、当技術分野でも知られている。一実施形態では、質量分析が分析物の決定に使用されるが、特に、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)、直接注入質量分析もしくはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR-MS)、キャピラリー電気泳動質量分析(CE-MS)、高速液体クロマトグラフィー連結質量分析(HPLC-MS)、四重極質量分析、任意の逐次連結質量分析、例えばMS-MSもしくはMS-MS-MS、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)、熱分解質量分析(Py-MS)、イオン移動度質量分析、または飛行時間質量分析(TOF)である。質量分析技法の別の方法としてまたはそれに加えて、以下の技法を化合物決定に使用可能である:核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴イメージング(MRI)、フーリエ変換赤外分析(FT-IR)、紫外(UV)分光、屈折率(RI)、蛍光検出、放射化学的検出、電気化学的検出、光散乱(LS)、分散ラマン分光、またはフレームイオン化検出(FID)。これらの技法は、当業者であれば周知しており、さらに苦心することなく適用可能である。本発明の方法は、一実施形態では、自動化により支援される。例えば、試料の処理をロボット工学により自動化することが可能である。データの処理および比較は、一実施形態では、適切なコンピュータープログラムおよびデータベースにより支援される。前に本明細書で記載の自動化により、本発明の方法をハイスループットアプローチで使用することが可能となる。したがって、一実施形態では、本発明の方法は、多数の分析物を決定する方法であり、ここで、一実施形態では前記多数とは少なくとも2種、一実施形態では少なくとも4種、さらなる実施形態では少なくとも10種、さらなる実施形態では少なくとも25種、さらなる実施形態では少なくとも50種の分析物のことである。さらなる実施形態では、少なくとも1種の分析物を決定するための方法のステップa)に従って、1つの抽出物からからまたは多数の抽出物から多数の分析物が決定される。
【0048】
さらに、少なくとも1種の分析物はまた、特異的な化学的または生物学的アッセイにより決定することができる。前記アッセイは、試料中の少なくとも1種の分析物を特異的に検出することを可能にする手段を含む。一実施形態では、前記手段は、分析物の化学構造を特異的に認識することができるか、または他の化合物と反応する能力もしくは生物学的読取りシステムで応答を引き起こすその能力(例えば、レポーター遺伝子の誘導)に基づいて分析物を特異的に同定することができる。分析物の化学構造を特異的に認識することができる手段は、一実施形態では、化学構造と特異的に相互作用する抗体または他のタンパク質、例えば、受容体もしくは酵素である。例を挙げると、特異的抗体は、当技術分野で周知されている方法により分析物を抗原として使用して得ることができる。本明細書に参照する抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方、ならびにそれらの断片、例えば、抗原またはハプテンを結合することができるFv、Fab、およびF(ab)2断片が含まれる。さらに、単鎖抗体およびナノボディも包含される。また、所望の抗原特異性を呈する非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列とヒトアクセプター抗体の配列とが組み合わされたヒト化ハイブリッド抗体も含まれる。ドナー配列は普通、ドナーの少なくとも抗原結合性アミノ酸残基を含むが、ドナー抗体の他の構造上および/または機能上重要なアミノ酸残基をも含み得る。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知されているいくつかの方法により調製することができる。分析物を特異的に認識できる適切なタンパク質は、一実施形態では、前記分析物の代謝転換に関与する酵素である。前記酵素は、分析物を基質として使用しても、または基質を分析物に変換しても、いずれでもよい。さらに、前記抗体は、分析物を特異的に認識するオリゴペプチドを生成する基礎として使用することができる。これらのオリゴペプチドは、例えば、前記分析物に対する酵素の結合ドメインまたは結合ポケットを含む。適切な抗体および/または酵素をベースとするアッセイは、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチ免疫アッセイ(ECLIA)、解離促進ランタニド蛍光免疫アッセイ(DELFIA)、または固相免疫試験であり得る。さらに、他の化合物と反応する能力に基づいて、すなわち、特異的な化学反応により、分析物を決定することもできる。さらに、生物学的読取りシステムで応答を引き起こす能力によって、試料中の分析物を決定することができる。生物学的応答は、試料が含む分析物の存在および/または量を指示する読取り値として検出される。生物学的応答は、例えば、遺伝子発現の誘導または細胞もしくは生物の表現型応答であり得る。一実施形態では、少なくとも1種の分析物の決定は定量的プロセスであり、例えば、試料中の少なくとも1種の分析物の量を決定することも可能とする。
【0049】
本発明は、本発明による放出剤を含む、試料中の分析物を決定するためのおよび/または本発明の方法を行うように構成された、デバイスにさらに関する。
用語「デバイス」とは、本明細書で使用する場合、決定が可能となるように互いに作動可能に連結された、少なくとも記載の手段を含む手段のシステムに関する。操作する様式においてデバイス手段をいかに連結するかは、デバイスに組み込まれる手段の種類に依存する。一実施形態では、手段は単一のデバイスによって備えられる。一実施形態では、デバイスは少なくとも分析ユニットを含み、前記分析ユニットは試料から少なくとも1種の分析物の抽出を行うように構成される;一実施形態では、分析ユニットは、本発明による放出剤を含む、および/または本発明の方法を行うように構成される。分析ユニットはまた、少なくとも1種の分析物を検出するように構成することができる。さらに、デバイスは、分析ユニットから得られたデータを、例えば分析物の決定に関するデータを評価するための評価ユニットをさらに含むことができる。
【0050】
したがって、一実施形態では、デバイスは、少なくとも1種の分析物を決定するために適合させた分析ユニット、および/または前記試料中の前記分析物の量および/または濃度を計算するために適合させた評価ユニットをさらに含む。したがって、一実施形態では、デバイスは分析デバイスであり、一実施形態ではin vitro診断デバイスである。当業者であれば、上記の手段を連結する方法をさらに苦心することなく実現するであろう。一実施形態では、デバイスは、本明細書に記載のさらなる特徴を含ませるために適合させる。
【0051】
上記を鑑みて、以下の実施形態が特に想定される:
1.試料から分析物を放出するin vitro方法であって、前記試料を、(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤と接触させるステップを含む、方法。
【0052】
2.前記カオトロピック剤の濃度は1Mから4Mまで、一実施形態では2Mから3.5Mまでである、実施形態1に記載の方法。
3.前記有機溶媒の濃度は2%(v/v)から20%(v/v)まで、一実施形態では3%(v/v)から15%(v/v)まで、一実施形態では5%(v/v)から10%(v/v)までである、実施形態1または2に記載の方法。
【0053】
4.前記界面活性剤の濃度は0.2%(w/v)から20%(w/v)まで、一実施形態では0.3%(w/v)から2%(w/v)までである、実施形態1から3のいずれか一形態に記載の方法。
【0054】
5.重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンの濃度は、0.1Mから2Mまで、一実施形態では0.2Mから0.5Mまでである、実施形態1から4のいずれか一形態に記載の方法。
【0055】
6.(i)前記カオトロピック剤と(ii)重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンとの濃度の合計は、少なくとも1.5Mであり、一実施形態では1.5Mから4Mまでである、実施形態1から5のいずれか一形態に記載の方法。
【0056】
7.前記濃度は、前記接触ステップの間の処理された試料における濃度である、実施形態1から6のいずれか一形態に記載の方法。
8.前記試料は生体試料である、一実施形態では対象からの生体試料である、実施形態1から7のいずれか一形態に記載の方法。
【0057】
9.前記試料は体液試料であり、一実施形態では血液、血漿、または血清の試料である、実施形態1から8のいずれか一形態に記載の方法。
10.前記分析物のうちの少なくとも1種は低分子量の分析物であり、一実施形態では5000Da未満の分子質量を有し、一実施形態では2000Da未満の分子質量を有する、実施形態1から9のいずれか一形態に記載の方法。
【0058】
11.前記分析物は、ステロイドホルモン、オリゴペプチド、ポリケチド、およびビタミンのうちの少なくとも1種を含む、実施形態1から10のいずれか一形態に記載の方法。
【0059】
12.前記分析物は、ステロイドホルモン、オリゴペプチド、ポリケチド、およびビタミンのうちの少なくとも2種を、一実施形態では少なくとも3種を、さらなる実施形態では全てを含む、実施形態1から11のいずれか一形態に記載の方法。
【0060】
13.前記ステロイドホルモンは、アンドロゲン、エストロゲン、およびプロゲストゲンのうちの少なくとも1種であり、一実施形態ではテストステロンである、実施形態1から12のいずれか一形態に記載の方法。
【0061】
14.前記オリゴペプチドは内因性または治療用オリゴペプチドであり、一実施形態では、環状オリゴペプチドであり、一実施形態では環状オリゴペプチド抗生物質であり、一実施形態ではシクロスポリンである、実施形態1から13のいずれか一形態に記載の方法。
【0062】
15.前記ポリケチドはマクロライドであり、一実施形態では抗生物質マクロライドおよび免疫抑制性マクロライドのうちの少なくとも1種であり、一実施形態ではタクロリムス、シロリムス、またはエベロリムスであり、さらなる実施形態ではエベロリムスである、実施形態1から14のいずれか一形態に記載の方法。
【0063】
16.前記ビタミンはヒトビタミンであり、一実施形態では疎水性のヒトビタミンであり、さらなる実施形態ではヒトのA、B、またはDビタミンであり、さらなる実施形態ではビタミンDであり、さらなる実施形態ではビタミンD3であり、さらなる実施形態では25-ヒドロキシ-ビタミンD3である、実施形態1から15のいずれか一形態に記載の方法。
【0064】
17.前記分析物は、テストステロン、シクロスポリン、エベロリムス、および25-ヒドロキシ-ビタミンD3のうちの少なくとも1種を、一実施形態では少なくとも2種を、さらなる実施形態では少なくとも3種を、さらなる実施形態では全てを含む、実施形態1から16のいずれか一形態に記載の方法。
【0065】
18.前記カオトロピック剤、有機溶媒、界面活性剤、および任意選択で、環状炭酸エステルが、3倍濃縮放出剤から、一実施形態では実施形態19から34のいずれか一形態に記載の放出剤から提供される、実施形態1から17のいずれか一形態に記載の方法。
【0066】
19.(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤を含む、
試料から分析物を放出するための放出剤。
【0067】
20.前記放出剤は3倍濃縮溶液である、実施形態19に記載の放出剤。
21.前記カオトロピック剤の濃度は2Mから飽和まで、一実施形態では2.5Mから6Mまでである、実施形態19または20に記載の放出剤。
【0068】
22.前記有機溶媒の濃度は2%(v/v)から30%(v/v)まで、一実施形態では5%(v/v)から20%(v/v)まで、一実施形態では15%(v/v)から20%(v/v)までである、実施形態19から21のいずれか一形態に記載の放出剤。
【0069】
23.前記界面活性剤の濃度は、0.5%(w/v)から20%(w/v)まで、一実施形態では1%(w/v)から3%(w/v)までである、実施形態19から22のいずれか一形態に記載の放出剤。
【0070】
24.重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンの濃度は、0.1Mから6Mまで、一実施形態では0.5Mから2Mまでである、実施形態19から23のいずれか一形態に記載の放出剤。
【0071】
25.(i)前記カオトロピック剤と(ii)重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤によって理論上供給される重炭酸イオンとの濃度の合計は少なくとも2Mであり、一実施形態では3Mから8Mまでである、実施形態19から24のいずれか一形態に記載の放出剤。
【0072】
26.前記カオトロピック剤は硫黄原子を含まない薬剤である、実施形態1から18のいずれか一形態に記載の方法または実施形態19から25のいずれか一形態に記載の放出剤。
【0073】
27.前記カオトロピック剤は塩酸グアニジンおよび/または尿素であり、一実施形態では塩酸グアニジンである、実施形態1から18のいずれか一形態に記載の方法または実施形態19から26のいずれか一形態に記載の放出剤。
【0074】
28.前記有機溶媒はアセトニトリルである、実施形態1から18のいずれか一形態に記載の方法または実施形態19から27のいずれか一形態に記載の放出剤。
29.前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、一実施形態ではアルキル-グリコシドである、実施形態1から18のいずれか一形態に記載の方法または実施形態19から28のいずれか一形態に記載の放出剤。
【0075】
30.前記界面活性剤は、5から12個までの炭素原子を有するアルキル鎖を持つアルキル-グリコシドであり、さらなる実施形態では、5から12個までの炭素原子を有するアルキル鎖を持つアルキル-グルコシドであり、さらなる実施形態ではオクチルグリコシドであり、さらなる実施形態ではオクチル-グルコシドであり、さらなる実施形態では、β-D-オクチル-グルコシド((2R,3S,4S,5R,6R)-2-(ヒドロキシメチル)-6-オクトオキシオキサン-3,4,5-トリオール、CAS番号:29836-26-8)である、実施形態1から18のいずれか一形態に記載の方法または実施形態19から29のいずれか一形態に記載の放出剤。
【0076】
31.重炭酸イオンを供給する前記少なくとも1種の薬剤は、環状炭酸エステルを含み、一実施形態ではエチレンカーボネート(1,3-ジオキソラン-2-オン、CAS番号:96-49-1)を含むかまたはそれである、実施形態1から18のいずれか一形態に記載の方法または実施形態19から30のいずれか一形態に記載の放出剤。
【0077】
32.前記試料は生体試料である、一実施形態では対象からの生体試料である、実施形態19から31のいずれか一形態に記載の放出剤。
33.前記試料は体液試料であり、一実施形態では血液、血漿、または血清の試料である、実施形態19から32のいずれか一形態に記載の放出剤。
【0078】
34.前記放出剤は水溶液である、実施形態19から33のいずれか一形態に記載の放出剤。
35.(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを放出剤に供給する少なくとも1種の薬剤を含む組成物、一実施形態では実施形態19から34のいずれか一形態に記載の放出剤、ならびに/または、試料から少なくとも1種の分析物を放出するための実施形態1から18のいずれか一形態に記載の方法、の使用。
【0079】
36.ハウジングに備えられた、(i)カオトロピック剤、(ii)有機溶媒、(iii)界面活性剤、および(iv)重炭酸イオンを供給する少なくとも1種の薬剤を含み、一実施形態では本発明の放出剤を含み、一実施形態では少なくとも1種の分析物向けの少なくとも1種の検出剤をさらに含む、キット。
【0080】
37.試料中の少なくとも1種の分析物を決定する方法であって、
(a)実施形態1から18のいずれか一形態に記載の方法に従って前記分析物を放出して、抽出物を発生させるステップ;
(b)前記抽出物中の前記放出された分析物を決定するステップ;および、それによって、
(c)試料中の前記分析物を決定するステップ、
を含む方法。
【0081】
38.前記方法は多数の分析物を決定する方法である、実施形態37に記載の方法。
39.前記多数とは少なくとも2種、一実施形態では少なくとも4種、さらなる実施形態では少なくとも10種、さらなる実施形態では少なくとも25種、さらなる実施形態では少なくとも50種の分析物のことである、実施形態37または38に記載の方法。
【0082】
40.前記多数の分析物は、ステップa)に従って1つの抽出物からまたは多数の抽出物から決定される、実施形態37から39のいずれか一形態に記載の方法。
41.実施形態19から34のいずれか一形態に記載の放出剤を含む、試料中の分析物を決定するための、ならびに/または実施形態1から18および/もしくは37から40のいずれか一形態に記載の方法を行うように構成された、デバイス。
【0083】
42.前記デバイスは分析デバイスであり、一実施形態ではin vitro診断デバイスである、実施形態41に記載のデバイス。
43.前記デバイスは、少なくとも1種の分析物を決定するために適合させた分析ユニット、および/または前記試料中の前記分析物の量および/または濃度を計算するために適合させた評価ユニットをさらに含む、実施形態41または42に記載のデバイス。
【0084】
44.前記接触させるステップは、6.5±0.3のpHで前記試料を、
(i)約3.3Mの濃度で塩化グアニジニウム、約0.33Mの濃度でエチレンカーボネート、約10%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および約1%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;
(ii)約1.3Mの濃度で塩化グアニジニウム、約0.33Mの濃度でエチレンカーボネート、約10%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および約1%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;
(iii)約2Mの濃度で塩化グアニジニウム、約0.2Mの濃度でエチレンカーボネート、約6%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および約0.6%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;または
(iv)約1.3Mの濃度で塩化グアニジニウム、約0.8Mの濃度でエチレンカーボネート、約6%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および約0.6%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド、
に接触させるステップを含む、実施形態1から18または37から40のいずれか一形態に記載の方法。
【0085】
45.前記接触させるステップは、6.5±0.3のpHで前記試料を、
(i)3.3Mの濃度で塩化グアニジニウム、0.33Mの濃度でエチレンカーボネート、10%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および1%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;
(ii)1.3Mの濃度で塩化グアニジニウム、0.33Mの濃度でエチレンカーボネート、10%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および1%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;
(iii)2Mの濃度で塩化グアニジニウム、0.2Mの濃度でエチレンカーボネート、6%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および0.6%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;または
(iv)1.3Mの濃度で塩化グアニジニウム、0.8Mの濃度でエチレンカーボネート、6%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および0.6%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド、
に接触させるステップを含む、実施形態1から18または37から40のいずれか一形態に記載の方法。
【0086】
46.前記放出剤は、
(i)約5Mの濃度で塩化グアニジニウム、約0.5Mの濃度でエチレンカーボネート、約15%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および約1.5%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;
(ii)約2Mの濃度で塩化グアニジニウム、約0.5Mの濃度でエチレンカーボネート、約15%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および約1.5%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;
(iii)約6Mの濃度で塩化グアニジニウム、約0.6Mの濃度でエチレンカーボネート、約18%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および約1.8%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;または
(iv)約4Mの濃度で塩化グアニジニウム、約2.4Mの濃度でエチレンカーボネート、約18%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および約1.8%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド、
を含む、実施形態20から34のいずれか一形態に記載の放出剤、実施形態36のキット、または実施形態41から43のいずれか一形態に記載のデバイス。
【0087】
47.前記放出剤は、
(i)5Mの濃度で塩化グアニジニウム、0.5Mの濃度でエチレンカーボネート、15%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および1.5%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;
(ii)2Mの濃度で塩化グアニジニウム、0.5Mの濃度でエチレンカーボネート、15%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および1.5%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;
(iii)6Mの濃度で塩化グアニジニウム、0.6Mの濃度でエチレンカーボネート、18%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および1.8%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド;または
(iv)4Mの濃度で塩化グアニジニウム、2.4Mの濃度でエチレンカーボネート、18%の濃度(v/v)でアセトニトリル、および1.8%の濃度(w/v)でベータ-オクチル-グルコシド、
を含む、実施形態20から34のいずれか一形態に記載の放出剤、実施形態36のキット、または実施形態41から43のいずれか一形態に記載のデバイス。
【0088】
本明細書で引用した参考文献全ては、それらの全開示内容および本明細書で特記される開示内容に関して、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図において:
【
図1】濃縮ビーズを用いて調製したヒト血清試料の高速LC-MSクロマトグラムの図であり、a)は前処理無し(PT)およびb)は前処理(PT)試薬としてFを用い、かつテストステロン(Testo)0.7ng/mLを添加してある。両試料とも、a)およびb)、3回繰返しで測定されている。 +ESI MRM Frag=380.0V CF=0.000 DF=0.000 CID@25.0(292.2000→99.8000) testo lgc000l.d; X軸:アクイジションタイム(秒);Y軸:カウント×10
2
【
図2】濃縮ビーズワークフローによって精製された、分析物を含まないヒト全血に、64ng/mLで添加されたシクロスポリン(CSA)のLC-MS分析の図であり、a)前処理無し、およびb)はF4による前処理有りである。シクロスポリン D6 IS:+ESI MRM Frag=380.0V CF=0.000 DF=0.000 CID@30.0(1225.8500→1208.8500) cyclo lgc0002.d;シクロスポリン:+ESI MRM Frag=380.0V CF=0.000 DF=0.000 CID@30.0(1219.8500→1202.8500) cyclo lgc0002.d;シクロスポリン クオリファイア1:+ESI MRM Frag=380.0V CF=0.000 DF=0.000 CID@61.0(1208.8800→224.1000) cyclo lgc0002.d;シクロスポリン クオリファイア2:+ESI MRM Frag=380.0V CF=0.000 DF=0.000 CID@33.0(1202.8500→1184.8000) cyclo lgc0002.d; X軸:アクイジションタイム(秒);Y軸:カウント×10
2
【
図3】濃縮ビーズワークフローによって精製された、分析物を含まないヒト血清に、250pg/mLで添加されたテストステロン(Testo)のLCMS分析の図であり、a)前処理無し、およびb)はF4による前処理有りである。 a)+ESI MRM Frag=380.0V CF=0.000 DF=0.000 CID@25.0(289.2200→96.8000) 試料 16.d; b)+ESI MRM Frag=380.0V CF=0.000 DF=0.000 CID@25.0(289.2200→96.8000) 試料 4.d; X軸:アクイジションタイム(秒);Y軸:カウント×10
2 以下の実施例は、本発明を単に例示するものである。それらは、何であれ、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0090】
実施例1
方法
試料:
ビタミンD(VitD)向けの試料:ヒトEDTA血漿、VitD 0および140または700ng/mLを有する。
【0091】
テストステロン(Testo)向けの試料:ヒトEDTA血漿、Testo 0および15ng/mLを有する。
シクロスポリン(CSA)向けの試料:ヒトEDTA全血、CSA 0および2000ng/mLを有する。
【0092】
エベロリムス(Eve)向けの試料:ヒトEDTA全血、およびEve 0および30ng/mLを有する。
内部標準(IS):
試料 100μL当たりIS 10μL、VitD(25-ヒドロキシ-ビタミンD3、d6)465ng/mL、Testo(テストステロン、3×C13)50ng/mL、CSA(シクロスポリン、d4および3×C13)6600ng/mL、Eve(エベロリムス、d4および3×C13)100ng/mLで、ヒト血清またはEDTA血漿に溶かした。
試料の前処理の手順:
エッペンドルフカップを前処理(PT)容器として使用した。試料100μLを内部標準(上を参照されたい)10μLと混合し、室温(RT)で10秒間ボルテックス撹拌し、次いで、振とう機(1400rpm)で37℃で5分間インキュベートした。次いで、指示容量のPT試薬を試料に加え、RTで10秒間ボルテックス撹拌し、次いで、振とう機(1400rpm)で37℃で規定の期間の間インキュベートした。最終的に、前処理済み試料を、下に記載のように、タンパク質の沈殿、溶血および分析物放出に関して評価した。
溶血事象および沈殿事象の完全性に関する前処理済み試料の確認:
タンパク質沈殿および全血溶血に関するPT試薬の定性的評価を行った。タンパク質沈殿と溶血とは個別に解析した。タンパク質沈殿の実験の場合、EDTA血漿を試料マトリックスとして使用した。前処理を行った後、前処理済み試料をRTで20分間遠心分離した(20000g)。製剤は、視覚分析によって適切または不適切として分類した。カップの底にペレットが観察された場合、製剤は不適切であると分類した。溶血の評価の場合、全血(EDTA)を試料マトリックスとして使用した。前処理を行った後、前処理済み試料をマイクロヘマトクリットキャピラリーに充填し、RTで30分間遠心分離した(13000rpm)。遠心分離後に赤血球がまだ観察された場合、製剤は、溶血に不適切であると分類した。ある特定の製剤を使用して、溶血が得られなかったか、または沈殿が観察されたかのいずれかである場合、分析物放出の程度に関するさらなる評価は行わなかった。
分析物放出の完全性に関する前処理済み試料の確認-直接Elecsys方法:
試料を前処理した後、分析物放出の定量を、Elecsys前処理ステップ(オフライン沈殿によるCSAおよびエベロリムス、オンライン変性による総ビタミンD、R1競合剤によるテストステロン)を省略する独自のプロトコルによって、市販のElecsysアッセイ(CSA、エベロリムス、テストステロン、総ビタミンD)を用いてElecsys 2010アナライザーで、行った。分析物放出0または100%の対照として、遊離の分析物(VitDを0および700ng/mL含む30%v/vのアセトニトリル/水;Testoを0および15ng/mL含む1%水性オクチル-β-D-グルコピラノシド;CSAを0および2000ng/mL含むメタノ-ル:エチレングリコール90:10中の100mM ZnSO4:ならびにEve 0および30ng/mL)を含有する試料で回収率を測定した。前処理済み試料から生じる強力なマトリックス効果によって、Elecsysアッセイにおいて問題が生じるので(例えば、シグナルダイナミクスの低下、再現性の悪化および/または測定セルの汚染)、いくつかの対策を実施する必要があった。前処理済み試料(PT-S)の容量を減らし、試薬の容量を増やした新しいElecsysプロトコルを開発し、使用した。場合によっては、マトリックス効果がシグナルをなおも妨害し、したがって、測定前にPT-Sを希釈した。Elecsysの測定は3回繰返しで行った。さらに、測定セルを定期的に洗浄した。修正Elecsys方法の不正確度のために、製剤は、回収率>90%を示す場合はすでに「完全な分析物放出」を生じていると、回収率80~90%を示す場合は許容できると、分類した。良好な製剤は、3つの特徴全てを示す:完全な分析物放出、完全な溶血、および沈殿無し。
分析物放出の完全性に関する前処理済み試料の確認-LLE(液体-液体抽出)方法:
試料を前処理した後、PT-Sを、Elecsysアッセイでの最終分析物定量ステップ向けにマトリックス効果を低減させるためにLLEに供した。有機溶媒650μLをPT-Sに加え(VitD、TestoおよびCSAにはn-ヘキサン、Eveには酢酸エチル)、室温(RT)で3分間穏やかに混合した。短い遠心分離(21000gで40秒、RT)の後、上清有機相500μLをエッペンドルフチューブに移し、speedvacで30℃で蒸発乾固させた。乾燥抽出物を溶かした。CSAおよびEveは、Elecsys ISD前処理試薬300μL中に、0.9%NaCl溶液で1:2に希釈した;VitDは、50%v/vのアセトニトリル/水100μL中に、続いて、これの80μLを、VitDを除いたヒト血清180μLで希釈した。Testoは30%v/vのアセトニトリル/水に溶かし、続いて、これの50μLをステロイドを含まないヒト血清200μLで希釈した。最終的に、当初のアッセイプロトコルを用いるElecsysで溶液を測定した。分析物放出100%の対照として、試料はまた、上記の直接Elecsys方法で決定された通りに、良好なワーキングPT試薬で並行して処理し、LLE方法と同様に加工し、当初のアッセイプロトコルを使用することによってElecsysで最終的に定量した。方法の不正確度のために、製剤は、回収率>90%を示す場合はすでに「完全な分析物放出」を生じていると、回収率80~90%を示す場合は許容できると、分類した。良好な製剤は、3つの特徴全てを示す:完全な分析物放出、完全な溶血、および沈殿無し。
【0093】
実施例2
分析物放出
上記の方法に従って評価され、かつ沈殿物を形成することなく完全な分析物放出および溶血をもたらした第1の製剤「F」は:5MグアニジンHCL(Gua)、0.5Mエチレンカーボネート(EtC)、15%ACN、1.5%オクチル-β-D-グルコピラノシド(OβDG)、pH6.5±0.3、試料100μL当たり容量200μL、37℃で15分のインキュベーション時間(表1)、から成った。
【0094】
【0095】
機能に影響を与えることなく、同じクラス由来の代替試薬で試薬を交換することができ、また沈殿物を形成することなく完全な分析物放出および溶血をもたらすこと、を示すことができた。変形形態についても、試料100μL当たりPT試薬200μLおよび37℃で15分のインキュベーション時間を使用することによって、試験した(表2)。
【0096】
・F-V1:5M尿素、0.5M EtC、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
・F-V2:5M Gua、0.5Mプロピレンカーボネート、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
【0097】
・F-V3:5M Gua、0.5Mグリセロール-1,2-カーボネート、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
・F-V4:5M Gua、0.5M EtC、15%n-プロパノール、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
【0098】
【0099】
Fのそれぞれの成分を、前処理に及ぼすそれらの影響を示すために漸減させた。変形形態についても、試料100μL当たりPT試薬200μLおよび37℃で15分のインキュベーション時間を使用することによって、試験した(表3)。
【0100】
・F-V5:2.5M Gua、0.5M EtC、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
・F-V6:1.25M Gua、0.5M EtC、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
【0101】
・F-V7:0.63M Gua、0.5M EtC、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
・F-V8:0M Gua、0.5M EtC、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
【0102】
・F-V9:5M Gua、0.25M EtC、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
・F-V10:5M Gua、0.13M EtC、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
【0103】
・F-V11:5M Gua、0M EtC、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
・F-V12:5M Gua、0.5M EtC、30%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
【0104】
・F-V13:5M Gua、0.5M EtC、20%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
・F-V14:5M Gua、0.5M EtC、10%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
【0105】
・F-V15:5M Gua、0.5M EtC、5%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
・F-V16:5M Gua、0.5M EtC、0%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3。
【0106】
【0107】
実施例3
ビーズ濃縮の干渉
製剤Fは、ビーズ濃縮をベースとするLC-MS/MS分析においてTestoおよびCSAに対する干渉を、すなわちイオン抑制によるシグナル強度の喪失を示す:ビーズ濃縮ワークフローの最適化に際して、試料の前処理の条件について実験計画法を使用して調査した。長いクロマトグラフィーステップ(7.5分)および質量分析検出を用いる多重化HPLC方法を、この研究のための読み出し方法とした。試薬Fを前処理試薬として選択し、ワークフロー条件は次の通りとした:
血清の場合(テストステロン/25-OHビタミンD3):血清100μL+PT-F100μL;0.1%ギ酸アンモニウム中のビーズ(25mg/mL)50μL;洗浄:ACN/H2O 5:95+5mM NH4OHで2×;溶出:ACN+2%FA 100μL。
【0108】
全血の場合(シクロスポリン/エベロリムス):試料100μL+PT-F 200μL;15%ACN中のビーズ(25mg/mL)50μL;洗浄:ACN/H2O 35:65+5mM NH4OHで2×;溶出:ACN+2%FA 100μL。
【0109】
次いで、これらの最適化されたワークフローを使用してヒト試料を調製し、医学的決定点に相応する分析物濃度を添加した。分析は、高速クロマトグラフィーステップを含む分析物特異的LC-MS方法を使用して行った。例(
図1)に、テストステロン(Testo)のLC-MS分析の感度に対するF試薬による前処理ステップの効果を示す。シクロスポリン(CSA)についても同様のシグナルの低下が得られた。前処理としてFを使用した場合のテストステロンのシグナル強度は、前処理無しで得られた分析物シグナルのわずかおよそ10%であった。理論に縛られることを望むものではないが、この効果は、濃縮ワークフローにおける洗浄手順が前処理ステップ後の試薬の痕跡全てを除去するのに十分ではなかったという事実に起因するものである可能性が高い。溶出ステップにまで、ワークフローを通して持ち越された残留グアニジニウム塩が、感度ロスにいたった強力なイオン抑制効果の原因であった可能性がある。
グアニジンHClが少ない製剤、F4、F6:
より少ないグアニジンHClを含有するさらなる2種の製剤、F4およびF6を上記の方法に従って評価したが、これらは:
・F4:2M Gua、0.5M EtC、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3、試料100μL当たり容量200μL、および37℃で15分のインキュベーション時間。
【0110】
・F6:0.5M Gua、0.5M EtC、15%ACN、1.5%OβDG、pH6.5±0.3、試料100μL当たり容量200μL、および37℃で15分のインキュベーション時間、
から成った。
【0111】
結果を表4に示す。記載の15分よりも短い前処理時間が可能である。F4の場合、3分でもうまく機能することを確認した。
【0112】
【0113】
これらの製剤は、ビーズ濃縮ベースのLC-MS/MS分析で干渉を示さない。
グアニジン濃度の低下は、試料の分析物放出または溶血に対してポジティブな効果を有した。高速クロマトグラフィーを使用するLC-MS検出に対するF4の効果を、シクロスポリン(CSA)、テストステロン(Testo)、およびビタミンD(VitD)を使用して評価した。Fに対してグアニジンがより低濃度であることは、イオン抑制効果を低下させるのに有益である。
図2が示すところは、前処理無しで抽出したマトリックスと比較して、感度を著しくロスさせることなく、試薬F4を使用した前処理後の高速LC-MSによって、シクロスポリンを測定できた、ということである。また、テストステロンの場合、Fで観察されたイオン抑制(
図1を参照)とは対照的に、F4で前処理/放出された場合(
図3を参照)、感度の喪失は観察されないことを示すことができた。
【0114】
実施例4
試薬安定性
PT試薬について、加速貯蔵寿命試験(ASL、18ヶ月の貯蔵寿命時間モデル)では35℃で3週間、オンボード安定性(OBS)研究では12℃で最長で29日間ストレスを加えた。両研究において、2mLのマイクロチューブ(ポリプロピレン)中で試薬にストレスを加えた。ストレスを加えたASL試薬およびOBS試薬ならびに相応するストレスを加えていない試薬(T0)を、これらの機能テストまで-80℃で貯蔵した。ストレスを加えたおよびストレスを加えていないPT試薬を、試料の前処理ワークフロー(上を参照、試料100μL、IS 10μL、PT試薬200μLで37℃で15分間前処理)にこれらを適用することによって、それに続いて、上記のElecsys手順を使用して分析物放出に関する回収率を測定することによって、試験した。ストレスを加えた試料の回収率の値を、ストレスを加えていないアナログ(T0、100%)と比較し、および修正Elecsys方法の不正確度のために、回収率≧90%を示す場合は、すでに製剤は安定であると分類した。結果を表5に示す。
【0115】
【0116】
実施例4
前処理試薬の容量の低減
それぞれの成分の最高濃度を含有するさらなる製剤F0を、より速いPT時間およびPTのより低い容量の使用に関して上記の方法に従って評価した(表6を参照されたい)。F0は、6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3から成った。試験時間および容量を表6に示す;テスト条件はいずれも沈殿を引き起こさなかった。しかし、50μL未満の容量では、完全な溶血は達成可能ではなかった;したがって、分析物放出を決定するために試験した最小容量は50μLとした。フォローアップ実験向けに、これらの結果に基づいて選択された条件は:
F0:6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。試料100μL当たり容量50μL、および37℃で5分のインキュベーション時間、であった。
【0117】
【0118】
F0のそれぞれの成分を、前処理に及ぼすそれらの影響を示すために漸減させた。変形形態についても、試料100μL当たりPT試薬50μLおよび37℃で5分のインキュベーション時間を使用することによって、試験した(表7)。
【0119】
・F0-V1:4M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3
・F0-V2:3M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
【0120】
・F0-V3:1M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
・F0-V4:0M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
【0121】
・F0-V5:6M Gua、0.3M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
・F0-V6:6M Gua、0.15M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
【0122】
・F0-V7:6M Gua、0M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
・F0-V8:6M Gua、0.6M EtC、9%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
【0123】
・F0-V9:6M Gua、0.6M EtC、4.5%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
・F0-V10:6M Gua、0.6M EtC、0%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
【0124】
・F0-V11:6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、0.9%OβDG、pH6.5±0.3。
・F0-V12:6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、0.45%OβDG、pH6.5±0.3。
【0125】
・F0-V13:6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、0%OβDG、pH6.5±0.3。
【0126】
【0127】
F0に対する他のpH値およびF0による前処理に対する他の温度の影響を評価した。変形形態についても、試料100μL当たりPT試薬50μLおよび5分のインキュベーション時間を使用することによって、試験した(表8)。60℃によって、バイアルのへりに沈殿物と皮殻状沈殿がもたらされた。
【0128】
・F0-V14:6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH5.0。37℃でのPT
・F0-V15:6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH8.0。37℃でのPT
・F0-V16:6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。6℃でのPT。
【0129】
・F0-V17:6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。22℃でのPT。
・F0-V18:6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。50℃でのPT。
【0130】
・F0-V19:6M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。60℃でのPT。
【0131】
【0132】
F0変形形態F0-V7を使用すると、完全な分析物放出を達成するのにエチレンカーボネートが必要ないことがわかった。次のステップで、エチレンカーボネートがF0に含まれるグアニジンHCLの必要量を低減する助けとなるかどうかを確認し、その結果、LC-MS/MS分析(例えばイオン抑制)へのその干渉を最小限に抑える可能性が得られた。分析物放出に関して最も困難なケースはVitDであるので、これらの実験はVitDのみで行なった。最終的には、ワーキング変形形態(F0-29)を使用して、他の分析物を試験した。変形形態を、試料100μL当たりPT試薬50μLおよび5分のインキュベーション時間を使用することによって、試験した(表9);2変形形態(V26、V-27)の場合のみ、試験インキュベーション時間を15分とした。
【0133】
・F0-V20:2M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
・F0-V21:2M Gua、1.2M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
【0134】
・F0-V22:2M Gua、2.4M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
・F0-V23:3M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
【0135】
・F0-V24:3M Gua、1.2M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
・F0-V25:3M Gua、2.4M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
【0136】
・F0-V26:2M Gua、2.4M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3、15分。
・F0-V27:3M Gua、2.4M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3.15分。
【0137】
・F0-V28:4M Gua、0.6M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
・F0-V29:4M Gua、2.4M EtC、18%ACN、1.8%OβDG、pH6.5±0.3。
【0138】
【0139】
上の変形形態F-V11およびF0-V7を用いた実験からも理解されるように、重炭酸イオンを供給する薬剤を含めることによって、カオトロピック剤の濃度をおよそ2分の1に低減させることが可能である。さらに、F0から一成分のみを取り出すことによって、ならびに可溶化剤ACNまたはOβDGを含有する2成分変形形態によって、最小限の製剤を評価した。変形形態を、試料100μL当たりPT試薬50μLおよび5分のインキュベーション時間を使用することによって、試験した(表10)。
【0140】
・F0-V30:6M Gua
・F0-V31:0.6M EtC
・F0-V32:18%ACN
・F0-V33:1.8%OβDG
・F0-V34:6M Gua、1.8%OβDG
・F0-V35:6M Gua、18%ACN
・F0-V36:0.6M EtC、1.8%OβDG
・F0-V37:0.6M EtC、18%ACN
【0141】
【0142】
実施例5
ビーズワークフロー
製剤F、F4、およびF0を、ビーズ濃縮ワークフローで確認した。試料100μL(VitD、Testo、CSAおよびEveを添加した血清)をRTで15分間平衡化した。次いで、PT試薬(FおよびF4:200μL;F0:50μL)を試料に加え、37℃でインキュベートした(FおよびF4:15分;F0 5分)。ビーズ懸濁液(ビーズおよそ2.5mg)50μLを加え、RTで5分間平衡化した後、磁気分離を行った。それぞれ水溶液200μLを含有する2回の洗浄ステップを実施し、それに続いて100μLのアセトニトリル(ACN)/2%ギ酸水溶液(FA) 70/30またはアセトニトリル/2%ギ酸 98/2で溶出ステップを実施した。磁気分離後、上清80μLをIS(50%メタノール/水中)5μLと混合し、これの5μLを注入し、LC-MS/MSで定量した。本研究の場合、ワークフロー後の分析物の全収率を決定するために、最終ステップでISを加えた。ビーズ濃縮ワークフローで見いだされた分析物の回収率は、いくつかのパラメータによって、例えば、分析物の捕捉に使用したビーズタイプ(サイズ排除、逆相および/またはイオン交換による固相抽出)およびビーズ緩衝剤の組成、洗浄条件、ビーズ溶出溶媒、前処理試薬の製剤および容量、前処理時間によって、左右される。LC-MS/MS条件:Phenomenex製のカラム、F5(2.6μm粒子、150×2.1mm);40℃のカラム温度;溶媒A(2mM酢酸アンモニウム、水に溶かした0.1%ギ酸)および溶媒B(2mM酢酸アンモニウム、95%ACN+5%水に溶かした0.1%ギ酸)による勾配(表11を参照されたい);マルチリアクションモニタリングを備えるMS/MS。
【0143】
【0144】
様々なビーズタイプと様々なビーズバッファーとの組み合わせにあるPT試薬F、F4、およびF0について得られた結果が表13にまとめられている。良好なまたは許容可能な収率が、特に98/2のACN/2%FAによる分析物溶出の組み合わせでのF4およびF0で、得られた。
【0145】
【0146】
実施例6
汎用的製剤
いくつかのPT試薬は、完全な分析物放出および溶血(ISDの場合)、ならびに沈殿を示さないことに関して、汎用的であることがわかった(表13を参照されたい)。製剤は安定しており、1-ステップPTプロセス向けにすぐに使用できる状態であり、かつビーズ濃縮ワークフローに対応していた。イオン抑制などのLC-MS/MS干渉の可能性を低減させるために、かつ同時にPTに必要な試薬容量を低減させるために、製剤F0-V29が開発された。
【0147】