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特許7112425駆動伝達系を動作させるための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】駆動伝達系を動作させるための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20220727BHJP
   B60K 1/00 20060101ALI20220727BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20220727BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20220727BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20220727BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20220727BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20220727BHJP
   F16D 13/72 20060101ALI20220727BHJP
   F16D 25/0638 20060101ALI20220727BHJP
   F16D 25/12 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
F16D13/52 Z
B60K1/00
B60K6/48 ZHV
B60K6/52
B60K6/54
B60W10/02 900
B60W20/00 900
F16D13/72 B
F16D25/0638
F16D25/12 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019555977
(86)(22)【出願日】2017-04-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2017058955
(87)【国際公開番号】W WO2018188754
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2019-12-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】グート,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ハウプト,ヤン
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】段 吉享
【審判官】平瀬 知明
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第2851227(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1550820(EP,A2)
【文献】特表2015-533704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14,25/00-39/00,48/00-48/12
B60K 1/00-6/12,6/20-6/547,7/00-8/00,16/00,17/00-17/08,17/28-17/36
B60W 10/00-10/02,10/06-10/10,10/18,10/26-10/28,10/30-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車(2)の駆動伝達系(1)を動作させるための方法であって、
前記駆動伝達系(1)は、
第1シャフト(3)と、
第2シャフト(4)と、
少なくとも1つの第1摩擦面ペアリング(6)を有する第1クラッチ(5)と、
電気駆動装置(7)と
を少なくとも備え、
前記第1シャフト(3)と前記第2シャフト(4)は、前記少なくとも1つの第1摩擦面ペアリング(6)を介して互いに連結可能であり、
前記第1クラッチ(5)を冷却するために流体(8)が使用され、
前記第1クラッチ(5)が係合解除された後、前記第1クラッチ(5)の引きずりトルク(9)が前記流体(8)を介して影響を受け、
前記方法は、
a)前記第1クラッチ(5)が少なくとも部分的に係合されると前記第1シャフト(3)及び前記第2シャフト(4)を回転させるステップと、
b)前記第1クラッチ(5)を係合解除するステップと、
c)前記電気駆動装置(7)によって前記第1シャフト(3)を加速し、前記少なくとも1つの第1摩擦面ペアリング(6)の領域から前記流体(8)を排出するステップと
を含み、
前記流体(8)の排出が加速されることにより前記第1クラッチ(5)の前記引きずりトルク(9)が低減され、その結果、自動車の車輪に提供されるものを可能な限り自由に配分するというトルクベクタリングとして知られていることが達成され
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
少なくとも前記第1シャフト(3)は、前記ステップa)において及び前記ステップb)の直前において、第1回転速度(10)を有し、
前記第1シャフト(3)は、前記ステップc)において、前記第1回転速度(10)よりも大きい、少なくとも毎分100回転である第2回転速度(11)まで、前記電気駆動装置(7)により加速される
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、
前記ステップc)において、前記第1シャフト(3)は、少なくとも0.1秒の時間にわたって加速される
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法であって、
前記ステップc)において、前記第1シャフト(3)が、多くとも2.0秒の時間にわたって加速される
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法であって、
前記駆動伝達系(1)は、
第3シャフト(12)と、
少なくとも1つの第2摩擦面ペアリング(14)を有する第2クラッチ(13)と
を備え、
前記第1シャフト(3)と前記第3シャフト(12)は、前記少なくとも1つの第2摩擦面ペアリング(14)を介して互いに連結可能であり、
前記第2クラッチ(13)を冷却するために流体(8)が使用され、
前記第2クラッチ(13)が係合解除された後、前記第2クラッチ(13)の引きずりトルク(9)が前記流体(8)を介して影響を受け、
前記ステップb)において、前記第2クラッチ(13)が係合解除され、
前記ステップc)において、前記少なくとも1つの第2摩擦面ペアリング(14)の前記領域から前記流体(8)が排出される
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法であって、
前記ステップb)の直前の前記第1シャフト(3)の第1回転速度(10)が、多くとも毎分2500回転であるときのみ、前記ステップc)は行われる
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法であって、
前記駆動伝達系(1)は、更なる駆動ユニット(15)を備え、
前記駆動ユニット(15)の駆動トルク(16)は、前記第1シャフト(3)を介して少なくとも前記第2シャフト(4)に伝達可能であり、且つ、前記第2シャフト(4)を介して前記自動車(2)の第1車輪(17)に伝達可能であり、
前記駆動ユニット(15)は、前記第1シャフト(3)から少なくとも第3クラッチ(20)を介して切り離し可能であり、
前記駆動ユニット(15)は、前記ステップc)の前に前記第1シャフト(3)から切り離される
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
自動車(2)用の駆動伝達系(1)であって、
前記駆動伝達系(1)が、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成され且つ実行に適合しており、
前記駆動伝達系(1)は、
第1シャフト(3)と、
第2シャフト(4)と、
少なくとも1つの第1摩擦面ペアリング(6)を有する第1クラッチ(5)と、
電気駆動装置(7)と
を少なくとも備え、
前記第1シャフト(3)と前記第2シャフト(4)は、前記少なくとも1つの第1摩擦面ペアリング(6)を介して互いに連結可能である
ことを特徴とする駆動伝達系。
【請求項9】
請求項8に記載の駆動伝達系(1)であって、
前記第1シャフト(3)及び前記第2シャフト(4)は、前記自動車(2)の共通の車軸(18)の一体部分であり、
前記自動車(2)の第1車輪(17)は、前記第2シャフト(4)を介して前記第1シャフト(3)に接続可能である
ことを特徴とする駆動伝達系。
【請求項10】
請求項9に記載の駆動伝達系(1)であって、
前記駆動伝達系(1)は、
第3シャフト(12)と、
少なくとも1つの第2摩擦面ペアリング(14)を有する第2クラッチ(13)と
を備え、
前記第1シャフト(3)と前記第3シャフト(12)は、前記少なくとも1つの第2摩擦面ペアリング(14)を介して互いに連結可能であり、
前記第3シャフト(12)も前記車軸(18)の一体部分であり、
前記第1シャフト(3)に前記第3シャフト(12)を介して前記自動車(2)の第2車輪(19)が接続可能である
ことを特徴とする駆動伝達系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の駆動伝達系を動作させるための方法及び装置に関する。駆動伝達系は、第1シャフトと、第2シャフトと、少なくとも1つの第1摩擦面ペアリングを有する第1クラッチと、電気駆動装置とを少なくとも備える。第1シャフトと第2シャフトは、前記少なくとも1つの第1摩擦面ペアリングを介して互いに連結可能である。第1クラッチを冷却するために作動流体等の流体が使用されており、第1クラッチの引きずりトルクは、第1クラッチの係合解除後にこの流体を介して影響を受ける。
【背景技術】
【0002】
特に、第1クラッチ、第1シャフト、第2シャフトは、自動車の共通の車軸に一体となった部分である。ここで、更なる駆動ユニット(内燃エンジン、別の電気駆動装置等)の駆動トルクが、第1シャフトを介して第2シャフトに、そして第2シャフトを介して自動車の第1車輪に伝達可能である。
【0003】
特に、第1クラッチを個別に制御することができるので、第1車輪は、駆動ユニットの駆動トルクの、基本的に自由に設定可能な成分により駆動可能である。
【0004】
第1シャフトの電気駆動装置によって、更なる駆動トルクを車輪に伝達することができる。特に、第1シャフトは、駆動ユニットから切り離し可能である。
【0005】
自動車の駆動伝達系を改良する必要性が常にある。ねらいは、特に、異なる駆動ユニットから提供される複数の駆動トルクを車輪へ好適に自由配分すること(トルクベクタリング等として知られる)を達成することである。配分の制御は、可能な限り動的に行われるべきである。
【0006】
従って、本発明の目的は、先行技術に存在する課題を少なくとも部分的に解決することであり、特に、駆動トルクの配分を更に改良する方法及び装置を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的は、請求項1の特徴による方法でもって達成される。本方法の、本装置の、及び本発明の、更なる有利な実施形態を、付加的な請求項に明記する。本発明の更なる実施形態を規定する従属請求項で個別に述べる特徴は、技術的に意義のある仕方で互いに組み合わせることができるということを指摘する。更に、本発明の更なる好適な実施形態を記載する本明細書では、請求項に明記する特徴を、より詳細に特定し及び説明する。
【0008】
自動車の駆動伝達系を動作させるための以下のような方法が提案される。本方法では、駆動伝達系は、第1シャフトと、第2シャフトと、少なくとも1つの第1摩擦面ペアリングを有する第1クラッチと、電気駆動装置とを少なくとも備える。第1シャフトと第2シャフトは、少なくとも1つの第1摩擦面ペアリングを介して互いに連結可能である。第1クラッチを冷却するために流体が使用される。第1クラッチが係合解除された後、第1クラッチの引きずりトルクが該流体を介して影響を受ける。本方法は、
a)第1クラッチが少なくとも部分的に係合されると第1シャフト及び第2シャフトを回転させるステップと、
b)第1クラッチを係合解除するステップと、
c)電気駆動装置によって第1シャフトを加速し、少なくとも1つの第1摩擦面ペアリングの領域から流体を排出するステップと
を含み、
流体の排出が加速されることにより、第1クラッチの引きずりトルクが低減される。
【0009】
第1クラッチが係合解除された直後に引きずりトルクが存在し、この引きずりトルクが経時的に減少することが分かっている。この引きずりトルクは、第1クラッチを冷却するために提供された流体の影響を受け、この流体は係合解除後は少なくとも第1の摩擦面ペアの間に存在する。しかしながら、この引きずりトルクは第1車輪に伝達される駆動トルクに影響を与え、第1車輪に伝達されるべき駆動トルクを調節することがより困難になる。特に、自動車の移動速度が特に低いときにはこの引きずりトルクが緩慢にしか減少しない又は高い値を有するということが確認された。
【0010】
本方法は、特に、クラッチから又は少なくとも第1摩擦面ペアリングの領域から流体が可能な限り速やかに除去されるように設計されている。このことは、クラッチを係合解除した直後に(すなわち、第1摩擦面ペアリングが解放される際に)第1シャフトを加速することにより実現可能である。特に、第1シャフトの回転速度が増加することに起因して、(高い)遠心力が流体に伝達される。その結果、流体が、少なくとも第1摩擦面ペアリングの領域から、少なくとも部分的に、より速やかに除去される。
【0011】
少なくとも第1摩擦面ペアリングの領域からの流体の排出が加速されることにより、第1摩擦面ペアリングでの引きずりトルクを、加速した態様で減少させることができる。従って、第1車輪に伝達される駆動トルクを個別に、他の影響とは無関係に、より速やかに調節することが可能となる。
【0012】
少なくとも第1シャフトは、特に、ステップa)において及びステップb)の直前において、第1回転速度を有する。また、第1シャフトは、ステップc)において、第1回転速度よりも大きい第2回転速度まで電気駆動装置により加速される。特に、第1回転速度よりも大きく、少なくとも毎分100回転、好ましくは少なくとも毎分500回転、特に好ましくは少なくとも毎分750回転まで、電気駆動装置により加速される。第2回転速度は、特に、第1回転速度よりも大きく、少なくとも毎分1500回転とすることができる。
【0013】
特に、第2シャフトの回転速度は、第1シャフトの第1回転速度の増加によっては、(著しい)影響を受けない。
【0014】
ステップc)において、第1シャフトは、好ましくは、少なくとも0.1秒、特に、少なくとも0.3秒、好ましくは少なくとも0.5秒の時間にわたって加速される。「加速」とは、特に、第1回転速度が当該時間内で連続的に増加することを意味する。その後、電気駆動装置は、スイッチが切られるか、又は、それ自身の駆動トルクを第1シャフトに伝達しないことが好ましい。
【0015】
特に、加速に続いて、第1シャフトは、増加された回転速度にて、少なくとも0.1秒、特に、少なくとも0.3秒、好ましくは少なくとも0.5秒の時間にわたって保持される。当該時間の終了時又は経過後、電気駆動装置は、スイッチが切られるか、又は、それ自身の駆動トルクを第1シャフトに伝達しないことが好ましい。
【0016】
ステップc)において、第1シャフトは、多くとも2.0秒、特に、多くとも1.0秒、好ましくは多くとも0.5秒の時間にわたって加速することができる。
【0017】
特に、加速に続いて、第1シャフトは、増加された回転速度にて、多くとも2.0秒、特に、多くとも1.0秒、好ましくは多くとも0.5秒の時間にわたって保持される。
【0018】
駆動伝達系は(さらに)、第3シャフトと、少なくとも1つの第2摩擦面ペアリングを有する第2クラッチとを備えてもよい。前記第1シャフトと前記第3シャフトは、前記少なくとも1つの第2摩擦面ペアリングを介して互いに連結可能である。前記第2クラッチを冷却するために流体が使用され、前記第2クラッチが係合解除された後、前記第2クラッチの引きずりトルクが前記流体を介して影響を受ける。前記ステップb)において、(特に、前記第1クラッチと同時に)前記第2クラッチが係合解除され、前記ステップc)において、前記少なくとも1つの第2摩擦面ペアリングの領域から前記流体が排出される。
【0019】
特に、第2クラッチ及び第3シャフトに関するステップb)及びc)の動作は、第1クラッチ及び第2シャフトでの動作と同時に行われる。好ましくは、ステップb)の前に第2クラッチが係合解除状態にあるのか係合状態にあるのかは重要ではない。特に、ステップa)において及びステップb)の直前において、第2クラッチが少なくとも部分的に係合されると第1シャフト及び第3シャフトが回転する。
【0020】
特に、ステップb)の直前の第1シャフトの第1回転速度が、多くとも毎分2500回転、特に、多くとも毎分2000回転、好ましくは多くとも毎分1500回転であるときのみ、ステップc)が行われる。
【0021】
少なくとも第1又は第2摩擦面ペアリングの領域からの流体の排出が加速されることは、特に、第1シャフトの回転速度が低いときに効果的である。従って、本方法は、好ましくは又は専ら、第1シャフトがこの最大回転速度までの範囲にあるときに適用される。
【0022】
特に、駆動伝達系は更なる駆動ユニット(例えば、内燃エンジン、更なる電気駆動装置等)を備える。駆動ユニットの駆動トルクが第1シャフトを介して少なくとも第2シャフトに伝達可能であり、且つ、第2シャフトを介して自動車の第1車輪に伝達可能である。更なる駆動ユニットは、ステップc)の前に第1シャフトから切り離される。
【0023】
特に、第1シャフトを電気駆動装置を介して加速することを提案する。第1シャフトを(この時間区間において)加速するために電気駆動装置により提供される駆動トルクは、自動車の車輪を駆動するために提供されるのではない。更に、第1シャフトは、駆動伝達系の他のコンポーネントの可能な限り多くのものから切り離されるので、低い電力要件及び低い電気エネルギー消費量で且つ好ましい速やかさで、第1シャフトを制御することができる。
【0024】
特に、本明細書に記載する本方法が切替可能であること、又は、本方法が特定の又は所定の駆動状態又は動作モードにおいてのみ実行されることを提案する。従って、第2シャフト又は第3シャフトを介して駆動される車輪を高度に動的に制御することが必要でない又は所望されない場合は、(電気駆動装置による)電力消費量を最小にすることができる。
【0025】
自動車用の駆動伝達系であって、第1シャフトと、第2シャフトと、少なくとも1つの第1摩擦面ペアリングを有する第1クラッチと、電気駆動装置とを少なくとも備える駆動伝達系を提案する。第1シャフトと第2シャフトは、少なくとも1つの第1摩擦面ペアリングを介して互いに連結可能である。この駆動伝達系は、先行する請求項のいずれか1項に記載の本方法を実行するように構成され且つ実行に適合しており、本方法を実行することができる。この意図で、例えば少なくとも1つの電子メモリモジュールを有する制御ユニットを提供することができる。この制御ユニットには、本方法ステップ、及び、駆動伝達系のコンポーネントの有効化又は無効化の少なくとも一方を適切に遂行する又は特定するソフトウェアが組み込まれる。
【0026】
特に、第1シャフト及び第2シャフトは、自動車の共通の車軸の一体部分であり、自動車の第1車輪は、第2シャフトを介して第1シャフトに接続可能である。
【0027】
特に、駆動伝達系は、第3シャフトと、少なくとも1つの第2摩擦面ペアリングを有する第2クラッチとを備える。第1シャフトと第3シャフトは、少なくとも1つの第2摩擦面ペアリングを介して互いに連結可能である。第3シャフトも車軸の一体部分であり、第1シャフトには第3シャフトを介して自動車の第2車輪が接続可能である。
【0028】
駆動伝達系は、好ましくは、更なる駆動ユニット(内燃エンジン、更なる電気駆動装置等)を備える。駆動ユニットの駆動トルクは、第1シャフトを介して少なくとも第2シャフトに(任意で、更に第3シャフトに)伝達可能であり、且つ、第2シャフトを介して自動車の第1車輪に(任意で、第3シャフトを介して同じ車軸上の第2車輪に)伝達可能である。駆動ユニットは、第1シャフトから少なくとも第3クラッチを介して切り離し可能である。
【0029】
特に、本方法の実行を開始し制御する少なくとも1つの制御ユニットが提供される。特に、制御ユニットは、本明細書に記載する本方法が切替可能であるような仕方で、あるいは、本方法が特定の駆動状態又は動作モードにおいてのみ実行されるような仕方で調節することができる。
【0030】
本方法について述べたことは、駆動伝達系にも同様に当てはまり、逆も同様である。この点について、駆動伝達系の更なる特徴付けのために、本方法に関連して言及した技術的特徴をも、単独で又は互いに組み合わせて使用することができ、逆も同様である。
【0031】
特に、少なくとも第1クラッチは(及び任意で少なくとも第2クラッチも)多板クラッチであり、クラッチが係合されると板上の摩擦面(外板キャリヤ上又は内板キャリヤ上にそれぞれ位置しているもの)同士が互いに寄りかかり、これらの摩擦面が駆動トルクを伝達する。クラッチが係合解除されると板は互いから離間するため、伝達可能な駆動トルクはない。特に、外板キャリヤ上に位置している第1板が、内板キャリヤ上に位置している第2板と共に、摩擦面ペアリングを形成する。
【0032】
予防措置として、本明細書において使用する序数(「第1」、「第2」、「第3」…)は、主として、多数の同様な物体、変数、又はプロセスで区別するために(のみ)使用していることに留意されたい。すなわち、特に、これらの物体、変数、又は工程の、互いに対する依存状態及び順序の少なくとも一方を必ずしも特定するものではない。依存状態及び順序の少なくとも一方が必要である場合にはそのことを本明細書においてはっきりと示しているのであり、あるいは、そのことは、明確に記載された実施形態の検討の際には当業者にとって容易に明らかである。
【0033】
本発明及び技術分野を、以下で、図を参照して、より詳細に説明する。本発明は、図説する例示的実施形態により限定されるものと解釈されるべきでないことを指摘する。特に、はっきりと述べるのでない限り、図に示す情報の部分態様を取り出し、それらを本明細書及び図の少なくとも一方からの他の構成要素及び知見と組み合わせることも可能である。同じ参照符号により同一の物体を表す。これにより、他の図についての説明を補足的に使用することがある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】駆動伝達系の部分側面図を断面で示す。
図2】駆動伝達系を有する自動車を示す。
図3】複数の引きずりトルク曲線を含むグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、駆動伝達系1の部分側面図を断面で示す。駆動伝達系1は、第1シャフト3及び第2シャフト4と、第1摩擦面ペアリング6を有する第1クラッチ5と、電気駆動装置7とを備える。第1シャフト3と第2シャフト4は、第1摩擦面ペアリング6を介して互いに連結可能である。第1クラッチ5は多板クラッチである。第1クラッチ5が係合されると、各板21上の各摩擦面(外板キャリヤ23上又は内板キャリヤ22上にそれぞれ位置しているもの)が互いに寄りかかり、これらの摩擦面が駆動トルクを伝達する。第1クラッチ5が係合解除されると、板21同士が互いから離間するため、駆動トルクは伝達できなくなる。外板キャリヤ23上に位置している第1の板21が、この第1の板21に隣接して内板キャリヤ22上に位置している第2の板21と共に、第1摩擦面ペアリング6を形成する。第1クラッチ5を冷却するために、流体(供給)ライン24を介して第1クラッチ5に流体8(油等)が供給される。
【0036】
本方法は、第1クラッチ5から又は少なくとも第1摩擦面ペアリング6の領域(すなわち、板21同士が互いに接触する領域)から、流体8を可能な限り速やかに除去することを目的とする。これは、第1クラッチ5が係合解除した直後に(すなわち、板21同士が互いに離れることにより第1摩擦面ペアリング6が解放される際に)駆動装置7によって第1シャフト3を加速することにより実現する。第1シャフト3の回転速度が(第1回転速度10から第2回転速度11に)増加する(図2参照)ことに起因して、流体8に遠心力が伝達される。その結果、流体8が、少なくとも第1摩擦面ペアリング6の領域から、少なくとも部分的に、より速やかに除去される。
【0037】
少なくとも第1摩擦面ペアリング6の領域からの流体8の排出が加速された結果、第1摩擦面ペアリング6では、引きずりトルク9(図3参照)が加速した態様で減少する。従って、第1車輪17に伝達される駆動トルク16を個別に、他の影響とは無関係に、より速やかに調節することが可能となる(図2参照)。
【0038】
図2は、駆動伝達系1を有する自動車2を示す。自動車2は4つの車輪を有し、2つの車輪がいずれの場合も共通の車軸上に位置している。駆動伝達系1は、駆動ユニット15(内燃エンジン、更なる電気駆動装置等)を有する。この駆動ユニット15の(必要に応じて分割された)駆動トルク16が、第3クラッチを介して第1シャフト3に伝達可能であり、そして第1シャフト3を介して第2シャフト4に伝達可能であり、更には第3シャフト12にも伝達可能であり、第2シャフト4を介して第1車輪17に且つ第3シャフト12を介して自動車2の同じ車軸18上にある第2車輪19に伝達可能である。駆動ユニット15は、第3クラッチ20を介して第1シャフト3から切り離し可能である。
【0039】
第1シャフト3と第2シャフト4は、第1摩擦面ペアリング6を介して互いに連結可能である。流体8は、第1クラッチ5を冷却するために使用される。第1クラッチ5が係合解除された後、第1クラッチ5の引きずりトルク9がこの流体8を介して影響を受ける。本方法によれば、ステップa)において、第1クラッチ5が少なくとも部分的に係合されると第1シャフト3及び第2シャフト4が回転する。ステップb)において、第1クラッチ5が係合解除される。ステップc)において、電気駆動装置7により第1シャフト3を加速し、第1摩擦面ペアリング6の領域から加速した態様で流体8が排出される。流体8の排出が加速されることに起因して、第1クラッチ5の引きずりトルク9が低減される。
【0040】
第1シャフト3と第3シャフト12は、第2クラッチ13の第2摩擦面ペアリング14を介して互いに連結可能である。流体8は、第2クラッチ13を冷却するために使用される。第2クラッチ13が係合解除された後、第2クラッチ13の引きずりトルク9がこの流体8を介して影響を受ける。ステップb)において、(特に、第1クラッチ5と同時に)第2クラッチ13が係合解除される。ステップc)において、第1シャフト3の加速に起因して、第2摩擦面ペアリング14の領域からも流体8が排出される。
【0041】
図3は、引きずりトルク9の各曲線26、27、28のグラフである。縦軸に引きずりトルク9をプロットし、横軸に自動車2の速度29をプロットする。この速度29は、(第1クラッチ5が係合解除される前の)第1回転速度10に比例する。
【0042】
曲線26及び28は、設計が同じである駆動伝達系1上で測定された。第2の曲線27は、既知である別の駆動伝達系1上で測定された。この駆動伝達系も、電気駆動装置7を介して駆動可能である第1シャフト3を有する。
【0043】
第1の曲線26は、クラッチ5が係合解除された直後(約0.5秒後)の、駆動していないシャフト(この場合、例えば第2シャフト4)上に存在する引きずりトルク9の値を示しており、自動車の速度29の異なる値(及び、第1シャフト3の第1回転速度10の異なる値)に対してプロットされている。第1の曲線26では、第1クラッチ5の係合解除後においては、第1シャフト3は加速されなかった。
【0044】
第3の曲線28は、クラッチ5が係合解除された直後(約0.5秒)の、駆動していないシャフト(この場合、例えば第2シャフト4)上に存在する引きずりトルク9の値を示しており、自動車の速度29の異なる値(及び、第1クラッチ5を係合解除する前の、第1シャフト3の第1回転速度10の異なる値)に対してプロットされている。第3の曲線28では、第1クラッチ5の係合解除後においては、第1シャフト3は加速された。
【0045】
特に、車両2の速度29が遅い場合(すなわち、第1シャフト3の第1回転速度10が低い場合)、引きずりトルク9の著しい低減を達成し得ることが示されている。
【0046】
第2の曲線27は、クラッチ5が係合解除された直後(約0.5秒)の、駆動していないシャフト(この場合、例えば第2シャフト4)上に存在する引きずりトルク9の値を示しており、自動車の速度29の異なる値(及び、第1クラッチ5を係合解除する前の、第1シャフト3の第1回転速度10の異なる値)に対してプロットされている。第2の曲線27でも、第1クラッチ5の係合解除後においては、第1シャフト3は加速されなかった。
【0047】
第2の曲線27と第3の曲線28との比較に基づき、引きずりトルク9の著しい低減(最高速度29では60%までの)を、速度範囲全体にわたって達成できることがここで示される。
【符号の説明】
【0048】
1 駆動伝達系
2 自動車
3 第1シャフト
4 第2シャフト
5 第1クラッチ
6 第1摩擦面ペアリング
7 駆動装置
8 流体
9 引きずりトルク
10 第1回転速度
11 第2回転速度
12 第3シャフト
13 第2クラッチ
14 第2摩擦面ペアリング
15 駆動ユニット
16 駆動トルク
17 第1車輪
18 車軸
19 第2車輪
20 第3クラッチ
21 板
22 内板キャリヤ
23 外板キャリヤ
24 流体ライン
25 回転軸
26 第1曲線
27 第2曲線
28 第3曲線
29 速度
図1
図2
図3