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特許7112448金で作られた計時器の部品、装飾品又は宝石用宝飾品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】金で作られた計時器の部品、装飾品又は宝石用宝飾品
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20220727BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20220727BHJP
   C22C 5/00 20060101ALI20220727BHJP
   A44C 5/00 20060101ALN20220727BHJP
【FI】
C22C9/00
C22C30/02
C22C5/00
A44C5/00 502B
【請求項の数】 27
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020065543
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021031768
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】19193469.4
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507276380
【氏名又は名称】オメガ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ドニ・ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・キスリング
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・フェイ
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ローパー
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-062296(JP,A)
【文献】特開2002-191421(JP,A)
【文献】特開昭56-069338(JP,A)
【文献】特開昭61-079739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00-9/10
C22C 30/02
C22C 5/00
A44C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金、銀、銅及びガリウムからなり
金を37.5~38.5重量%、銀を4~32重量%、銅を31.1~54重量%、ガリウムを2~10重量%含有する
ことを特徴とする亜鉛フリーな金合金。
【請求項2】
金を37.5~38.5重量%、銀を5~26重量%、銅を31.1~53重量%、ガリウムを2~8.5重量%含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の金合金。
【請求項3】
金を37.5~38.5重量%、銀を6~19.5重量%、銅を39~52重量%、ガリウムを2~7重量%含有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金合金。
【請求項4】
金を37.5~38.5重量%、銀を7~17重量%、銅を41~52重量%、ガリウムを2~6重量%含有する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項5】
金を37.5~38.5重量%、銀を7~14.5重量%、銅を44~51重量%、ガリウムを2~6重量%含有する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項6】
金を37.5~38.5重量%、銀を4~27重量%、銅を31.1~54重量%、ガリウムを2~10重量%含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の金合金。
【請求項7】
金を37.5~38.5重量%、銀を4~12重量%、銅を45~51重量%、ガリウムを3~5重量%含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の金合金。
【請求項8】
ニッケルフリー、コバルトフリー、鉄フリー、かつ、マンガンフリーである
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項9】
CIELAB色空間において、a値が1~8、b値が12~18である
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項10】
CIELAB色空間において、a値が5.5~7.5、b値が14~16である
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項11】
硬度HV1が125~180である
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項12】
硬度HV1が130~180であることを特徴とする請求項11に記載の金合金。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の亜鉛フリーな金合金で作られる
ことを特徴とする計時器の部品、装飾品又は宝石用宝飾品。
【請求項14】
金、銀、パラジウム、銅及びガリウムからなり
金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び少なくとも4重量%の銀を合計で32重量%以下、銅を25~54重量%、ガリウムを2~10重量%含有する
ことを特徴とする亜鉛フリーな金合金。
【請求項15】
金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び少なくとも4重量%の銀を合計で5~26重量%、銅を30~53重量%、ガリウムを2~8.5重量%含有する
ことを特徴とする請求項14に記載の金合金。
【請求項16】
金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び少なくとも4重量%の銀を合計で6~19.5重量%、銅を39~52重量%、ガリウムを2~7重量%含有する
ことを特徴とする請求項14または15に記載の金合金。
【請求項17】
金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び少なくとも4重量%の銀を合計で7~17重量%、銅を41~52重量%、ガリウムを2~6重量%含有する
ことを特徴とする請求項14~16のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項18】
金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び少なくとも4重量%の銀を合計で7~14.5重量%、銅を44~51重量%、ガリウムを2~6重量%含有する
ことを特徴とする請求項14~17のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項19】
金を37.5~38.5重量%、パラジウムを2~5重量%、銀を4~27重量%、銅を25~54重量%、ガリウムを2~10重量%含有する
ことを特徴とする請求項14に記載の金合金。
【請求項20】
金を37.5~38.5重量%、パラジウムを2~5重量%、銀を4~12重量%、銅を45~51重量%、ガリウムを3~5重量%含有する
ことを特徴とする請求項14に記載の金合金。
【請求項21】
パラジウムを2重量%含有する
ことを特徴とする請求項14から20のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項22】
ニッケルフリー、コバルトフリー、鉄フリー、かつ、マンガンフリーである
ことを特徴とする請求項14~21のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項23】
CIELAB色空間において、a値が1~8、b値が12~18である
ことを特徴とする請求項14~22のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項24】
CIELAB色空間において、a値が5.5~7.5、b値が14~16である
ことを特徴とする請求項14~23のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項25】
硬度HV1が125~180である
ことを特徴とする請求項14~24のいずれか一項に記載の金合金。
【請求項26】
硬度HV1が130~180であることを特徴とする請求項14に記載の金合金。
【請求項27】
請求項14~26のいずれか一項に記載の亜鉛フリーな金合金で作られる
ことを特徴とする計時器の部品、装飾品又は宝石用宝飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性が良好であり耐応力腐食性及び耐磨耗性が改善された9カラットの金合金に関する。
【0002】
本発明は、この金合金で作られた計時器の部品、装飾品又は宝石用宝飾品に関する。
【背景技術】
【0003】
ほとんどの9カラットの金合金は、光沢を与えるために亜鉛を含有する。Jennifer M. M. DugmoreとCharles D. DesForgesによる文献「Stress Corrosion in Gold Alloys(金合金における応力腐食)」によると、残念ながら、このような合金の大部分は応力腐食の影響を受ける。計時器の部品の分野では、このような合金は大気中で亀裂を発生させ、所望の寸法に収まらなくなることがある。装飾品/宝石用宝飾品の分野における特定の据え付け石の場合においては、石を損失するおそれがあるために、前記のような合金で締め付けることができなくなる。
【0004】
残念なことに、亜鉛には、鋳造及び再結晶化のアニールの際に、炉を汚染してしまうという課題がある。このことは、金の精錬業者にとっては、他の合金への汚染を避けるために絶えず炉の洗浄をしなければならないこととなり、避けたいことである。
【0005】
したがって、高級な計時器の部品/装飾品/宝石用宝飾品の分野では、前記のような合金は、同じ色の18カラットの金合金よりも安価であるという利点があるにもかかわらず、ほとんど用いられていない。
【0006】
我々が知るかぎり、流通している標準的な金合金と比べて、変色、変形性及び耐応力腐食性が優れている9カラットの金合金は市場において存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、従来技術の有色の9カラットの金合金と比べて、耐変色性、変形性及び耐応力腐食性が優れた9カラットの金合金を提供することによって、上述の従来技術の課題を解決することを目的とする。
【0008】
本発明は、さらに、実装を容易にするために亜鉛フリー(亜鉛を含有しない)な9カラットの金合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このために、本発明は、金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び/又は銀を合計で4~32重量%、銅を25.0~54.0重量%、ガリウムを0~10.0重量%含有する亜鉛フリーな金合金に関する。
【0010】
好ましくは、本発明は、金を37.5~38.5重量%、銀及び/又はパラジウムを4~32%、銅を25.0~54.0%、ガリウムを0~10.0%、そして、イリジウム、レニウム及びルテニウムから選択される元素を0~0.05%含有する金合金に関する。
【0011】
本発明は、さらに、このような合金によって作られる計時器の部品、装飾品又は宝石用宝飾品に関する。
【0012】
この合金を用いて作られた計時器の部品、装飾品又は宝石用宝飾品は、色、変形性及び腐食(特に、応力腐食)と変色に対する耐性の点で非常に有利であることを観察することができた。
【0013】
色に関して、これらの合金は、その材料の酸化に関連する課題がないのにもかかわらず、青銅に近い魅力的な色を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、亜鉛フリーな金合金に関し、より詳細には、計時器の部品、装飾品又は宝石用宝飾品の分野において用いられるように意図されたものに関する。したがって、本発明は、さらに、この合金から作られた計時器の部品、装飾品又は宝石用宝飾品に関する。「計時器の部品」は、ケース、表盤、表盤アプリーク、ブレスレットなどの外側部品と、プレート、バー、バランスなどの可動部品の両方を意味するように用いられる。
【0015】
本発明に係る金合金は、金を37.5~38.5重量%、銀及び/又はパラジウムを合計で4~32重量%、銅を25.0~54.0重量%、ガリウムを0~10重量%含有する。この金合金は、亜鉛フリーという特殊性を有する。また、ニッケルフリー、コバルトフリー、鉄フリー、マンガンフリーである。
【0016】
好ましいことに、当該金合金は、銀及び/又はパラジウムを5~26重量%含有する。
【0017】
好ましくは、当該金合金は、銀及び/又はパラジウムを6~19.5重量%含有する。
【0018】
より好ましくは、当該金合金は、銀及び/又はパラジウムを7~17重量%含有する。
【0019】
特に好ましい態様では、当該金合金は、銀及び/又はパラジウムを7~14.5重量%含有する。
【0020】
また、当該金合金は、イリジウム、レニウム及びルテニウムから選択される元素を0~0.05重量%(境界を含む)含有し、好ましくは、当該金合金は、イリジウムを0.0025重量%含有する。
【0021】
当該金合金を用意するために、鋳造の前に、組成物の種々の元素を溶融する。そして、鋳造インゴットは、650℃の温度で30分間行う中間アニール処理によって、数回のパスを経て75%以上の加工硬化速度で変形される。冷却後、例えば、機械加工によって、ブランクの形を形成する。
【0022】
変形及びアニール後に得られる合金は、CIELAB色空間(CIE No. 15、ISO 7724/1、DIN 5033-7、ASTM E-1164の規格に準拠)において、a*値が1~8、好ましくは、5.5~7.5であり、及びb*値が12~18、好ましくは、14~16である。
【0023】
これらの合金の硬度は、125~180HV1、好ましくは、130~180HV1である。これらは、0.52ボルト以上の電気化学ポテンシャルを有する。これは、当該合金の各元素の電気化学ポテンシャルを足し合わせてその原子濃度を乗算することによって得られる。
【0024】
表1は、亜鉛を含有する No. 843、 No. 844及び No. 859、及び亜鉛を含有する2つの実験用合金 No. 846及び No. 848である市場で入手可能な合金の組成を重量‰で示しており、これら5種類の合金は比較例である。亜鉛フリー合金No.849~852、854~858及び860は、本発明に係る9カラットの金合金である。表1には、測定された測色値、測定された硬度(HV1)及び計算された電気化学ポテンシャルも示している。測色のL***値は、D65光源を備え観測角度が10°であるKONIC
A MINOLTA CM-2600d分光光度計を用いて測定した。
【0025】
【表1】
【0026】
このような計算及び試験は、本発明に係る合金が良好な耐食性(0.52ボルトよりも大きい電気化学的ポテンシャル)を有し、また、変形を容易にするようなアニールされた状態の硬度(130~175HV)を有することを明確に示している。これらの合金はすべて、2~7の範囲内のa*値と13~18の範囲内のb*値を有する。具体的には、合金856は、規格ISO 8654: 2019による4Nのシェードを有する。
【0027】
〔付記1〕金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び/又は銀を合計で4~32重量%、銅を25~54重量%、ガリウムを0~10重量%含有することを特徴とする亜鉛フリーな金合金。
〔付記2〕金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び/又は銀を合計で5~26重量%、銅を30~53重量%、ガリウムを0~8.5重量%含有することを特徴とする付記1に記載の金合金。
〔付記3〕金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び/又は銀を合計で6~19.5重量%、銅を39~52重量%、ガリウムを2~7重量%含有することを特徴とする付記1又は2に記載の金合金。
〔付記4〕金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び/又は銀を合計で7~17重量%、銅を41~52重量%、ガリウムを2~6重量%含有することを特徴とする付記1~3のいずれか一項に記載の金合金。
〔付記5〕金を37.5~38.5重量%、パラジウム及び/又は銀を合計で7~14.5重量%、銅を44~51重量%、ガリウムを2~6重量%含有することを特徴とする付記1~4のいずれか一項に記載の金合金。
〔付記6〕金を37.5~38.5重量%、パラジウムを0~5重量%、銀を4~27重量%、銅を25~54重量%、ガリウムを0~10重量%含有することを特徴とする付記1に記載の金合金。
〔付記7〕金を37.5~38.5重量%、パラジウムを0~5重量%、銀を4~12重量%、銅を45~51重量%、ガリウムを3~5重量%含有することを特徴とする付記1に記載の金合金。
〔付記8〕パラジウムを2重量%含有することを特徴とする付記7に記載の金合金。
〔付記9〕イリジウム、レニウム及びルテニウムから選択される元素を最大0.05重量%含有することを特徴とする付記1~8のいずれか一項に記載の金合金。
〔付記10〕ニッケルフリー、コバルトフリー、鉄フリー、かつ、マンガンフリーであることを特徴とする付記1~9のいずれか一項に記載の金合金。
〔付記11〕CIELAB色空間において、a 値が1~8、b 値が12~18であることを特徴とする付記1~10のいずれか一項に記載の金合金。
〔付記12〕CIELAB色空間において、a 値が5.5~7.5、b 値が14~16であることを特徴とする付記1~11のいずれか一項に記載の金合金。
〔付記13〕硬度HV1が125~180、好ましくは、130~180であることを特徴とする付記1~12のいずれか一項に記載の金合金。
〔付記14〕 付記1~13のいずれか一項に記載の亜鉛フリーな金合金で作られる
ことを特徴とする計時器の部品、装飾品又は宝石用宝飾品。