(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】低摩擦コーティングを備えるガラス製物品
(51)【国際特許分類】
C03C 17/32 20060101AFI20220727BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20220727BHJP
A61J 1/00 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
C03C17/32 A
C03C17/30 A
A61J1/00
(21)【出願番号】P 2020082562
(22)【出願日】2020-05-08
(62)【分割の表示】P 2018006412の分割
【原出願日】2013-02-28
【審査請求日】2020-06-08
(32)【優先日】2012-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】アンドレイ ゲナディエヴィッチ ファディーヴ
(72)【発明者】
【氏名】テレサ チャン
(72)【発明者】
【氏名】ダナ クレイグ ブックバインダー
(72)【発明者】
【氏名】サントナ パル
(72)【発明者】
【氏名】チャンダン クマール サハ
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン エドワード デマルティノ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー リー ティモンズ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ステファン ピーナスカイ
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-204728(JP,A)
【文献】特開2010-274091(JP,A)
【文献】国際公開第2011/001501(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/097376(WO,A1)
【文献】特開平03-131548(JP,A)
【文献】DE ROSA, R. L.,Scratch Resistant Polyimide Coatings for Aluminosilicate Glass Surfaces,J. Adhes.,英国,Taylor & Francis,2002年,Vol. 78, No. 2,pp. 113-127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00
A61J 1/00
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされた医薬品容器の製造方法であって、該方法は、
ガラス管を形成する工程、
前記ガラス管を、内表面および外表面を有する医薬品容器に成形する工程、および
前記外表面にコーティングを適用する工程であって、前記内表面にコーティングを適用しない、工程を含み、
前記コーティングの摩擦係数は0.7以下であり、該摩擦係数は、バイアル重畳テスト治具において、前記医薬品容器と同一のガラス組成物から形成され、同一のコーティングを有し、同一の測定前環境に曝露されていた第2の医薬品容器に対して30Nの垂直荷重下で測定される最大摩擦係数であり、かつ
前記コーティングされた医薬品容器は、空気中、少なくとも260℃の温度で30分間の加熱後に熱的安定であり、
前記コーティングがポリマーを含み、
前記ポリマーが、1種または複数種のポリイミド、フッ素化ポリマー、シルセスキオキサン系ポリマーおよびシリコーン樹脂を含
み、
前記医薬品容器のガラスがアルカリアルミノケイ酸ガラスである、方法。
方法。
【請求項2】
コーティングされた医薬品容器の製造方法であって、該方法は、
医薬品容器の外表面に、1種または複数種のポリイミド、フッ素化ポリマー、シルセスキオキサン系ポリマーおよびシリコーン樹脂を含むポリマーを含むコーティングを適用する工程であって、前記医薬品容器の内表面にコーティングを適用しない、工程、および
前記コーティングを加熱硬化する工程を含み、
前記コーティングの摩擦係数は0.7以下であり、該摩擦係数は、バイアル重畳テスト治具において、前記医薬品容器と同一のガラス組成物から形成され、同一のコーティングを有し、同一の測定前環境に曝露されていた第2の医薬品容器に対して30Nの垂直荷重下で測定される最大摩擦係数であり、かつ
前記コーティングされた医薬品容器は、空気中、少なくとも260℃の温度で30分間の加熱後に熱的安定であ
り、
前記医薬品容器のガラスがアルカリアルミノケイ酸ガラスである、方法。
【請求項3】
前記コーティングの厚さが1μm以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングの厚さが100nm以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティングを適用する工程が、浸漬プロセス、噴霧プロセスまたはいずれも含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記コーティングを適用する工程が、
前記外表面と直接接触するカップリング剤層を適用する工程、および
該カップリング剤層と直接接触するポリマー層を適用する工程を含む、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記コーティングされた医薬品容器を、前記摩擦係数が発熱物質除去サイクル後に30%を超えては増大しない発熱物質除去サイクルに供する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記発熱物質除去サイクルが、コーティングされたガラス医薬品容器を、少なくとも250℃の温度で少なくとも30分間加熱することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記発熱物質除去サイクルが、コーティングされたガラス医薬品容器を、少なくとも250℃の温度で72時間加熱することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記発熱物質除去サイクルが、コーティングされたガラス医薬品容器を、250℃~400℃の温度で30分~72時間の間加熱することを含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティングの摩擦係数が、コーティングされていないガラス製医薬品容器よりも少なくとも20%低く、該コーティングされていないガラス製医薬品容器の摩擦係数は、バイアル重畳テスト治具において、該コーティングされていないガラス製医薬品容器と同一のガラス組成物から形成されかつ同一の測定前環境条件に曝露されていた第2のコーティングされてない医薬品容器に対して30Nの垂直荷重下で測定される最大摩擦係数である、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2012年2月28日に出願され、「Glass Container with a Surface Treatment that Enhances Glass Reliability and Methods for Manufacturing the Same」と題された米国仮特許出願第61/604,220号、および、2012年6月28日に出願され、「Delamination Resistant Glass Containers with Heat Resistant Coatings」と題された米国仮特許出願第61/665,682号に対する優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、全体として、コーティングに関し、より具体的には、医薬品パッケージなどのガラス製容器に適用される低摩擦コーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
歴史的に、ガラスは、他の材料と比したその気密性、光学的透明性および優れた化学的耐久性のために医薬品をパッケージングするための好ましい材料として用いられている。特に、医薬品のパッケージにおいて用いられるガラスは、その中に入れられる医薬品組成物の安定性に影響を及ぼさないよう十分な化学的耐久性を有していなければならない。好適な化学的耐久性を有するガラスは、化学的耐久性に関して実績を有するASTM規格「Type 1B」を満たすガラス組成物を含む。
【0004】
しかしながら、このような用途に対するガラスの使用はガラスの機械的性能により限定的である。医薬品産業においては、破損したパッケージおよび/またはパッケージの内容物によりエンドユーザーが危害を被る可能性があるために、ガラスの破損がエンドユーザーに対する安全上の懸念となっている。さらに、非完全破損(すなわち、ガラスに亀裂が生じているが破損はしていない場合)によって内容物の無菌状態が損なわれてしまう可能性があり、結果として、製品のリコールとなり費用がかさんでしまう場合がある。
【0005】
特に、生産、および、ガラス医薬品パッケージへの充填における高速の処理速度によって、パッケージが処理器具、取り扱い器具および/または他のパッケージと接触することとなり、パッケージの表面に擦傷などの機械的損傷がもたらされる可能性がある。この機械的損傷によってガラス医薬品パッケージの強度が顕著に低減してしまい、ガラスにおいて亀裂が拡大する可能性が高まり、パッケージ中に含まれる医薬品の無菌状態が損なわれるか、または、パッケージが完全に破壊されてしまうことになりかねない。
【0006】
ガラスパッケージの機械的耐久性を向上させる1つのアプローチは、ガラスパッケージを熱的、および/または化学的に強化することである。熱強化では、形成後の急冷中に表面圧縮応力を誘起させることによりガラスが強化される。この技術は、平坦な幾何学形状を有するガラス製物品(窓など)、約2mm超の厚さを有するガラス製物品、および、高熱膨張ガラス組成物については良好に作用する。しかしながら、医薬品ガラスパッケージは、典型的には、複雑な幾何学形状(バイアル、管、アンプル等)を有し、壁厚は薄く(時には約1~1.5mm)、低膨張ガラスから製造されるものであり、ガラス医薬品パッケージは熱強化による強化には好適ではない。化学強化もまた、表面圧縮応力を誘起することによりガラスを強化するものである。応力は溶融塩浴中に物品を浸漬することにより誘起される。ガラス由来のイオンが溶融塩由来のより大きなイオンによって置き換えられることにより、圧縮応力がガラスの表面に誘起される。化学強化の利点は、複雑な幾何学形状を有する、薄壁のサンプルにも使用可能であり、ガラス基材の熱膨張特徴に比較的無感応性であるということである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の強化技術によって鋭利でない物体との衝撃に対する強化ガラスの耐性能が向上される一方で、これらの技術は、生産、輸送および取り扱い中に生じ得るスクラッチなどの擦傷に対するガラスの耐性の向上にはあまり効果的ではない。
【0008】
従って、機械的損傷に対する耐性が向上した代替的なガラス製物品に対する需要が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態によれば、コーティングされたガラス製物品は、第1の表面を備えるガラス本体と、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に位置された低摩擦コーティングとを含み、低摩擦コーティングはポリマー化学組成物を含むことが好ましい。コーティングされたガラス製物品は、少なくとも約260℃の温度で30分間の間熱的に安定であることが好ましい。コーティングされたガラス製物品の光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上であることが好ましい。低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、その質量の約5%未満の質量損失率を有することが好ましい。
【0010】
他の実施形態において、コーティングされたガラス製物品は、外表面と外表面の少なくとも一部分に位置された低摩擦コーティングとを備えるガラス本体を備え、低摩擦コーティングはポリマー化学組成物を含むことが好ましい。低摩擦コーティングを備える外表面の一部分の擦過領域の摩擦係数は、280℃の高温への30分間の曝露、および、30N荷重下での擦傷の後に0.7未満であり、観察可能な損傷を有さないことが好ましい。水平圧縮におけるコーティングされたガラス製物品の残留強度は、280℃の高温への30分間の曝露および30N荷重下での擦傷後に約20%を超えて低減しないことが好ましい。
【0011】
さらなる他の実施形態において、コーティングされたガラス製物品は、第1の表面を有するガラス本体を備えることが好ましい。低摩擦コーティングは、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に位置されることが好ましい。低摩擦コーティングは:第1のシラン化学組成物、その加水分解物またはそのオリゴマーであって、第1のシラン化学組成物が芳香族シラン化学組成物であるもの、ならびに、少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物の少なくとも一方を含むカップリング剤と、ポリマー化学組成物とを含むことが好ましい。第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物は異なる化学組成物であることが好ましい。コーティングされたガラス製物品は、少なくとも約260℃の温度で30分間の間熱的に安定であることが好ましい。コーティングされたガラス製物品を通した光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上である。低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、その質量の約5%未満の質量損失率を有することが好ましい。
【0012】
他の実施形態において、コーティングされたガラス製物品は、第1の表面を備えるガラス本体と、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に位置された低摩擦コーティングとを備えることが好ましい。低摩擦コーティングは、1種または複数種のシラン化学組成物のオリゴマーを含むカップリング剤を含むことが好ましい。オリゴマーはシルセスキオキサン化学組成物であることが好ましく、シラン化学組成物の少なくとも1種は少なくとも1つの芳香族部分および少なくとも1つのアミン部分を含む。低摩擦コーティングはまた、少なくとも第1のジアミンモノマー化学組成物、第2のジアミンモノマー化学組成物および二無水物モノマー化学組成物の重合から形成されるポリイミド化学組成物を含むことが好ましい。第1のジアミンモノマー化学組成物は、第2のジアミンモノマー化学組成物とは異なることが好ましい。
【0013】
他の実施形態において、コーティングされたガラス製物品は、第1の表面を備えるガラス本体と、第1の表面の少なくとも一部分に位置された低摩擦コーティングとを備えることが好ましい。低摩擦コーティングは、ポリマー化学組成物を含むことが好ましい。コーティングされたガラス製物品は、少なくとも約300℃の温度で30分間の間熱的に安定であることが好ましい。コーティングされたガラス製物品の光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上であることが好ましい。
【0014】
他の実施形態において、コーティングされたガラス製物品は、第1の表面を備えるガラス本体と第1の表面の裏側の第2の表面とを備えることが好ましい。第1の表面は、ガラス製容器の外表面であることが好ましい。低摩擦コーティングは、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に結合されることが好ましい。低摩擦コーティングは、ポリマー化学組成物を含むことが好ましい。コーティングされたガラス製物品は、少なくとも約280℃の温度で30分間の間熱的に安定であることが好ましい。コーティングされたガラス製物品の光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上であることが好ましい。
【0015】
他の実施形態において、コーティングされたガラス製物品は、第1の表面を備えるガラス本体と、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に結合された低摩擦コーティングとを備えることが好ましい。低摩擦コーティングは、ガラス本体の第1の表面に位置されたカップリング剤層を備えることが好ましい。カップリング剤層は:第1のシラン化学組成物、その加水分解物またはそのオリゴマーであって、第1のシラン化学組成物が芳香族シラン化学組成物であるものと、少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物との少なくとも一方を含むカップリング剤を含むことが好ましい。ポリマー層は、カップリング剤層上に位置されることが好ましい。ポリマー層はポリイミド化学組成物を含むことが好ましい。第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物は異なる化学組成物であることが好ましい。コーティングされたガラス製物品は、少なくとも約280℃の温度で30分間の間熱的に安定であることが好ましい。コーティングされたガラス製物品の光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上であることが好ましい。
【0016】
他の実施形態において、コーティングされたガラス製物品は、第1の表面を有するガラス本体と、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に結合された低摩擦コーティングとを備えることが好ましい。低摩擦コーティングは、1種または複数種のシラン化学組成物のオリゴマーを含むカップリング剤を含むカップリング剤層を備えることが好ましい。オリゴマーは、シルセスキオキサン化学組成物であり、シラン化学組成物の少なくとも1種は、少なくとも1つの芳香族部分および少なくとも1つのアミン部分を含むことが好ましい。低摩擦コーティングは、少なくとも第1のジアミンモノマー化学組成物、第2のジアミンモノマー化学組成物および二無水物モノマー化学組成物の重合から形成されるポリイミド化学組成物を含むポリマー層をさらに備えることが好ましい。第1のジアミンモノマー化学組成物は、第2のジアミンモノマー化学組成物とは異なるものであることが好ましい。低摩擦コーティングはまた、カップリング剤層の化学組成物の1種または複数種と結合したポリマー層の化学組成物の1種または複数種を含む界面層を備えることが好ましい。
【0017】
他の実施形態において、基材用の低摩擦コーティングは、ポリイミド化学組成物およびカップリング剤を含むことが好ましい。カップリング剤は:第1のシラン化学組成物、その加水分解物またはそのオリゴマーおよび第2のシラン化学組成物、その加水分解物またはそのオリゴマーの混合物であって、第1のシラン化学組成物が芳香族シラン化学組成物であることが好ましく、および、第2のシラン化学組成物が脂肪族シラン化学組成物であることが好ましい混合物と、少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物との少なくとも一方を含むことが好ましい。コーティングは、少なくとも約260℃の温度で30分間の間熱的に安定であることが好ましい。コーティングの光透過率は約55%以上であることが好ましい。低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、その質量の約5%未満の質量損失率を有する。
【0018】
コーティングされたガラス製物品、ならびに、その生産方法およびプロセスの追加の特性および利点が以下の発明を実施するための形態に記載されており、その一部は、この記載により当業者にとって直ちに明白であるか、または、以下の発明を実施するための形態、特許請求の範囲および添付の図面を含む本明細書に記載の実施形態を実施することにより認識されるであろう。
【0019】
前述の概要および以下の発明を実施するための形態は共に種々の実施形態を記載するものであり、特許請求されている主題の性質および特徴を理解するための概要または枠組みを提供するものであることが意図されていることが理解されるべきである。添付の図面は、種々の実施形態の理解をさらに深めるために含まれており、この明細書に組み込まれていると共にその一部を構成するものである。図面は、本明細書に記載の種々の実施形態を図示するものであり、説明を伴うことにより、特許請求されている主題の原理および作用の説明に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る低摩擦コーティングを備えるガラス製容器の断面を概略的に図示する。
【
図2】
図2は、ポリマー層およびカップリング剤層を備える、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る低摩擦コーティングを備えるガラス製容器の断面を概略的に図示する。
【
図3】
図3は、ポリマー層、カップリング剤層および界面層を備える、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る低摩擦コーティングを備えるガラス製容器の断面を概略的に図示する。
【
図4】
図4は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係るジアミンモノマー化学組成物の一例を示す。
【
図5】
図5は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係るジアミンモノマー化学組成物の一例を示す。
【
図6】
図6は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係るガラス製容器に適用されるポリイミドコーティングに用いられ得るモノマーの化学構造を示す。
【
図7】
図7は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る低摩擦コーティングを備えるガラス製容器を形成する方法の一実施形態のフローチャートである。
【
図8】
図8は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、
図7のフローチャートのステップを概略的に図示する。
【
図9】
図9は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、2つの表面間の摩擦係数を測定するためのテスト治具を概略的に図示する。
【
図10】
図10は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係るガラス製容器の質量損失率をテストするための装置を概略的に図示する。
【
図11】
図11は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、400~700nmの可視光スペクトルで測定されたコーティングされたバイアルおよび未コーティングのバイアルに対する光透過率データを図示する。
【
図12】
図12は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、バイアルに対する水平圧縮テストにおける負荷荷重に応じる破壊確率を図示する。
【
図13】
図13は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、Schott Type 1Bガラスバイアル、および、イオン交換され、コーティングされた基準ガラス組成物から形成したバイアルに対する荷重および測定された摩擦係数を報告する表を含む。
【
図14】
図14は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、入手状態、イオン交換状態(未コーティング)、イオン交換状態(コーティングされ、擦過されたもの)、イオン交換状態(未コーティングおよび擦過されたもの)の基準ガラス組成物から形成した管、ならびに、入手状態およびイオン交換状態のSchott Type 1Bガラスから形成した管に対する4点曲げにおいて加わった応力に応じる破壊確率を図示する。
【
図15】
図15は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、APS/Novastrat(登録商標)800コーティングに対するガスクロマトグラフィ-質量分光計出力データを示す。
【
図16】
図16は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、DC806Aコーティングに対するガスクロマトグラフィ-質量分光計出力データを示す。
【
図17】
図17は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、凍結乾燥条件下でテストした異なる低摩擦コーティング組成物を報告する表を含む。
【
図18】
図18は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、バイアル重畳治具においてテストしたコーティングを有さないガラスバイアルおよびシリコーン樹脂コーティングを有するバイアルに対する摩擦係数を報告するチャートを含む。
【
図19】
図19は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、APS/Kaptonポリイミドコーティングでコーティングされ、バイアル重畳治具において異なる負荷荷重下で複数回擦過されたバイアルに対する摩擦係数を報告するチャートを含む。
【
図20】
図20は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、APSコーティングでコーティングされ、バイアル重畳治具において異なる負荷荷重下で複数回擦過されたバイアルに対する摩擦係数を報告するチャートを含む。
【
図21】
図21は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、APS/Kaptonポリイミドコーティングでコーティングされ、バイアルを300℃に12時間曝露させた後にバイアル重畳治具において異なる負荷荷重下で複数回擦過されたバイアルに対する摩擦係数を報告するチャートを含む。
【
図22】
図22は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、APSコーティングでコーティングされ、バイアルを300℃に12時間曝露させた後にバイアル重畳治具において異なる負荷荷重下で複数回擦過されたバイアルに対する摩擦係数を報告するチャートを含む。
【
図23】
図23は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、Kaptonポリイミドコーティングでコーティングされ、バイアル重畳治具において異なる負荷荷重下で複数回擦過されたSchott Type 1Bバイアルに対する摩擦係数を報告するチャートを含む。
【
図24】
図24は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、凍結乾燥の前後におけるAPS/Novastrat(登録商標)800コーティングされたバイアルに対する摩擦係数を示す。
【
図25】
図25は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、バイアルに対する水平圧縮テストにおける負荷荷重に応じる破壊確率を図示する。
【
図26】
図26は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、オートクレービングの前後におけるAPS/Novastrat(登録商標)800コーティングされたバイアルに対する摩擦係数を示す。
【
図27】
図27は、異なる温度条件に曝露したコーティングされたガラス製容器およびコーティングされていないガラス製容器に対する摩擦係数を図示する。
【
図28】
図28は、本明細書に記載のガラス製容器に適用される低摩擦コーティングのカップリング剤の組成における変更に伴う摩擦係数における変化を示す表を含む。
【
図29】
図29は、発熱物質除去の前後におけるコーティングされたガラス製容器に対する摩擦係数、加わった力および摩擦力を図示する。
【
図30】
図30は、異なる発熱物質除去条件に対するコーティングされたガラス製容器に対する摩擦係数、加わった力および摩擦力を図示する。
【
図31】
図31は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、基材に結合するシランの反応ステップの概略図を示す。
【
図32】
図32は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、シランに結合するポリイミドの反応ステップの概略図を示す。
【
図33】
図33は、比較例の素コーティングバイアルに対する、加えたスクラッチの長さ(x座標)に応じる摩擦係数、スクラッチ侵入度、加わった垂直力および摩擦力(y座標)を図示する。
【
図34】
図34は、比較例の熱処理したバイアルに対する、加えたスクラッチの長さ(x座標)に応じる摩擦係数、スクラッチ侵入度、加わった垂直力および摩擦力(y座標)を図示する。
【
図35】
図35は、比較例の素コーティングバイアルに対する、加えたスクラッチの長さ(x座標)に応じる摩擦係数、スクラッチ侵入度、加わった垂直力および摩擦力(y座標)を図示する。
【
図36】
図36は、比較例の熱処理したバイアルに対する、加えたスクラッチの長さ(x座標)に応じる摩擦係数、スクラッチ侵入度、加わった垂直力および摩擦力(y座標)を図示する。
【
図37】
図37は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、発熱物質除去の前後におけるコーティングされたガラス製容器に対する摩擦係数、加わった力および摩擦力を図示する。
【
図38】
図38は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、バイアルに対する水平圧縮テストにおける負荷荷重に応じる破壊確率を図示する。
【
図39】
図39は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、発熱物質除去の前後におけるコーティングされたガラス製容器に対する摩擦係数、加わった力および摩擦力を図示する。
【
図40】
図40は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る様々な熱処理時間後の摩擦係数を図示する。
【
図41】
図41は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、発熱物質除去の前後におけるコーティングされたガラス製容器に対する摩擦係数、加わった力および摩擦力を図示する。
【
図42】
図42は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、バイアルに対する水平圧縮テストにおける負荷荷重に応じる破壊確率を図示する。
【
図43】
図43は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係るコーティングの走査型電子顕微鏡イメージを示す。
【
図44】
図44は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係るコーティングの走査型電子顕微鏡イメージを示す。
【
図45】
図45は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係るコーティングの走査型電子顕微鏡イメージを示す。
【
図46】
図46は、図示および本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態に係る、400~700nmの可視光スペクトルで測定されたコーティングされたバイアルおよび未コーティングのバイアルに対する光透過率データを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで、その例を図面中に図解しながら、低摩擦コーティング、低摩擦コーティングを備えるガラス製物品、および、その製造方法の種々の実施形態を詳細に説明する。このようなコーティングされたガラス製物品は、特に限定されないが、医薬品パッケージを含む種々のパッケージ用途における使用に好適なガラス製容器であり得る。これらの医薬品パッケージは、医薬品組成物を含むものであっても、そうでなくてもよい。低摩擦コーティング、低摩擦コーティングを備えるガラス製物品、および、その形成方法の種々の実施形態を、添付の図面を特定的に参照しながら、本明細書においてさらに詳細に説明する。本明細書に記載の低摩擦コーティングの実施形態はガラス製容器の外表面に適用されるが、記載の低摩擦コーティングは、非ガラス材料を含む広く多様な材料、および、特に限定されないが、ガラス製ディスプレイパネル等を含む容器以外の基材へのコーティングとして用いられ得ることが理解されるべきである。
【0022】
一般に、低摩擦コーティングは、医薬品パッケージとして用いられ得る容器などのガラス製物品の表面に適用され得る。低摩擦コーティングは、低い摩擦係数および高い耐損傷性などの有利な特性をコーティングされたガラス製物品に与え得る。低い摩擦係数により、ガラスに対する摩擦による損傷を軽減させることにより、ガラス製物品に対して向上した強度および耐久性が与えられ得る。さらに、低摩擦コーティングによって、医薬品のパッケージにおいて利用されるパッケージステップおよびパッケージ前のステップの最中に受ける、例えば、発熱物質除去、オートクレービング等などの高温条件および他の条件に対する曝露後においても前述の向上した強度および耐久性といった特徴が維持され得る。従って、低摩擦コーティングおよび低摩擦コーティングを備えるガラス製物品は熱的に安定である。
【0023】
低摩擦コーティングは、一般に、シランなどのカップリング剤、および、ポリイミドなどのポリマー化学組成物を含んでいてもよい。いくつかの実施形態においては、ガラス製物品の表面上に位置するカップリング剤層中にカップリング剤が含まれていてもよく、カップリング剤層上に位置するポリマー層中にポリマー化学組成物が含まれていてもよい。他の実施形態において、カップリング剤およびポリマー化学組成物は単一の層において混合されてもよい。
【0024】
図1は、コーティングされたガラス製物品、特にコーティングされたガラス製容器100の断面を概略的に示す。コーティングされたガラス製容器100は、ガラス本体102および低摩擦コーティング120を備える。ガラス本体102は、外表面108(すなわち、第1の表面)と、内表面110(すなわち、第2の表面)との間に延在するガラス製容器壁部104を有する。コーティングされたガラス製容器100の内部空間106がガラス製容器壁部104の内表面110によって画定される。低摩擦コーティング120はガラス本体102の外表面108の少なくとも一部分に位置される。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティング120は、ガラス本体102の外表面108の実質的に全体に位置され得る。低摩擦コーティング120は外表面122を有し、ガラス本体は、ガラス本体102と低摩擦コーティング120との界面で表面124と接触している。低摩擦コーティング120は外表面108でガラス本体102と接着されていてもよい。
【0025】
一実施形態においては、コーティングされたガラス製容器100は医薬品パッケージである。例えば、ガラス本体102は、バイアル、アンプル、アンプル、ボトル、フラスコ、小瓶、ビーカ、バケツ、水差し、平皿、シリンジ本体等の形状であり得る。コーティングされたガラス製容器100は何らかの組成物を含むために用いられ得、一実施形態においては、医薬品組成物を含むために用いられ得る。医薬品組成物は、疾病の医学的診断、治療、処置または予防における使用が意図される何らかの化学物質を含み得る。医薬品組成物の例としては、これらに限定されないが、製剤、薬物、投薬、薬、治療薬等が挙げられる。医薬品組成物は、液体、固体、ゲル、懸濁液、粉末等の形態であり得る。
【0026】
ここで
図1および
図2を参照すると、一実施形態において、低摩擦コーティング120は二層構造を有している。
図2はコーティングされたガラス製容器100の断面を示し、ここで、低摩擦コーティングはポリマー層170およびカップリング剤層180を備える。ポリマー化学組成物はポリマー層170中に含有され得、カップリング剤はカップリング剤層180中に含有され得る。カップリング剤層180は、ガラス製容器壁部104の外表面108に直接接触していてもよい。ポリマー層170はカップリング剤層180と直接接触していてもよく、低摩擦コーティング120の外表面122を形成していてもよい。いくつかの実施形態において、カップリング剤層180はガラス製壁部104に接着されており、ポリマー層170は界面174でカップリング剤層180に接着されている。しかしながら、いくつかの実施形態において、低摩擦コーティング120はカップリング剤を含んでいなくてもよく、ポリマー化学組成物がガラス製容器壁部104の外表面108に直接接触するポリマー層170に含まれていてもよいことが理解されるべきである。他の実施形態において、ポリマー化学組成物およびカップリング剤は単一の層中で実質的に混合されていてもよい。いくつかの他の実施形態において、ポリマー層はカップリング剤層上に位置されていてもよく、これは、ポリマー層170が、カップリング剤層180およびガラス製壁部104に対して外側層であることを意味する。本明細書において用いられるところ、第2の層の「上」に位置された第1の層とは、第1の層が第2の層と直接に接触していること、または、第1の層と第2の層との間に位置された第3の層などにより第2の層から離間していることが可能であることを意味する。
【0027】
ここで
図3を参照すると、一実施形態において、低摩擦コーティング120は、カップリング剤層180とポリマー層170との間に位置された界面層190をさらに備えていてもよい。界面層190は、カップリング剤層180に含まれる化学組成物の1種または複数種と結合したポリマー層170に含まれる1種または複数種の化学組成物を含み得る。この実施形態においては、カップリング剤層とポリマー層との界面が界面層190を形成し、ここでは、ポリマー化学組成物とカップリング剤とが結合している。しかしながら、
図2を参照して上記されているとおり、いくつかの実施形態において、ポリマーおよびカップリング剤が互いに化学的に結合するカップリング剤層180とポリマー層170との界面において相当する層が存在しない場合もあることが理解されるべきである。
【0028】
ガラス本体102に適用される低摩擦コーティング120は、約100μm未満の厚さ、または、さらには約1μm以下の厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティング120の厚さは、約100nm厚以下であり得る。他の実施形態において、低摩擦コーティング120は、約90nm厚未満、約80nm厚未満、約70nm厚未満、約60nm厚未満、約50nm未満、または、さらには約25nm厚未満であり得る。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティング120は、ガラス本体102全体にわたって厚さが均一でなくてもよい。例えば、コーティングされたガラス製容器100は、ガラス本体102と低摩擦コーティング120を形成する1種または複数種のコーティング溶液とを接触させるプロセスのために、いくつかの領域において低摩擦コーティング120が厚くてもよい。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティング120は厚さが不均一であってもよい。例えば、コーティング厚は、コーティングされたガラス製容器100の異なる領域にわたって様々であってもよく、これにより選択された領域で保護が促進されていてもよい。
【0029】
ポリマー層170、界面層190および/またはカップリング剤層180などの少なくとも2つの層を含む実施形態において、各層は、約100μm未満、または、さらには約1μm以下の厚さを有していてもよい。いくつかの実施形態において、各層の厚さは、約100nm以下であってもよい。他の実施形態において、各層は、約90nm厚未満、約80nm厚未満、約70nm厚未満、約60nm厚未満、約50nm未満、または、さらには約25nm厚未満であり得る。
【0030】
本明細書において記載されているとおり、いくつかの実施形態において、低摩擦コーティング120はカップリング剤を含む。カップリング剤は、ポリマー化学組成物のガラス本体102に対する固着もしくは接着を向上し得、また、一般に、ガラス本体102とポリマー化学組成物との間に位置されるか、または、ポリマー化学組成物と混合される。本明細書において用いられるところ、固着性とは、熱処理などのコーティングされたガラス製容器に適用される処理の前後における低摩擦コーティングの固着または接着の強度を指す。熱処理としては、特に限定されないが、オートクレービング、発熱物質除去、凍結乾燥等が挙げられる。
【0031】
一実施形態において、カップリング剤は、少なくとも1種のシラン化学組成物を含み得る。本明細書において用いられるところ、「シラン」化学組成物は、オルガノシラン官能基、ならびに、水溶液中においてシランから形成されるシラノールを含むシラン部分を含むいずれかの化学組成物である。カップリング剤のシラン化学組成物は芳香族または脂肪族であり得る。いくつかの実施形態において、少なくとも1種のシラン化学組成物は、第一級アミン部分または第二級アミン部分などのアミン部分を含み得る。さらに、カップリング剤は、1種または複数種のシラン化学組成物から形成される1種または複数種のシルセスキオキサン化学組成物などの、このようなシランの水解物および/またはオリゴマーを含み得る。シルセスキオキサン化学組成物は、完全ケージ構造、部分ケージ構造または非ケージ構造を含み得る。
【0032】
カップリング剤は、1種の化学組成物、2種の異なる化学組成物、または、2種以上の単量体化学組成物から形成されるオリゴマーを含む2種を超える異なる化学組成物などの、任意の数の異なる化学組成物を含み得る。一実施形態において、カップリング剤は、(1)第1のシラン化学組成物、その加水分解物もしくはそのオリゴマー、ならびに、(2)少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物の少なくとも一方を含み得る。他の実施形態において、カップリング剤は、第1および第2のシランを含む。本明細書において用いられるところ、「第1の」シラン化学組成物および「第2の」シラン化学組成物は、異なる化学組成を有するシランである。第1のシラン化学組成物は、芳香族または脂肪族化学組成物であり得、任意によりアミン部分を含み得、任意によりアルコキシシランであり得る。同様に、第2のシラン化学組成物は芳香族または脂肪族化学組成物であり得、任意によりアミン部分を含み得、任意によりアルコキシシランであり得る。
【0033】
例えば、一実施形態においては、1種のシラン化学組成物のみがカップリング剤として適用される。このような実施形態において、カップリング剤は、シラン化学組成物、その加水分解物またはそのオリゴマーを含み得る。
【0034】
他の実施形態においては、複数種のシラン化学組成物がカップリング剤として適用され得る。このような実施形態において、カップリング剤は、(1)第1のシラン化学組成物と第2のシラン化学組成物との混合物、ならびに、(2)少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物の少なくとも一方を含み得る。
【0035】
上記の実施形態を参照すると、第1のシラン化学組成物、第2のシラン化学組成物、または、その両方が芳香族化学組成物であり得る。本明細書において用いられるところ、芳香族化学組成物は、ベンゼン系および関連する有機部分の特徴である6員炭素環を1つまたは複数含有する。芳香族シラン化学組成物は、特にこれらに限定されないが、ジアルコキシシラン化学組成物、その加水分解物もしくはそのオリゴマー、または、トリアルコキシシラン化学組成物、その加水分解物もしくはそのオリゴマーなどのアルコキシシランであり得る。いくつかの実施形態において、芳香族シランはアミン部分を含み得、アミン部分を含むアルコキシシランであり得る。他の実施形態において、芳香族シラン化学組成物は、芳香族アルコキシシラン化学組成物、芳香族アシルオキシシラン化学組成物、芳香族ハロゲンシラン化学組成物または芳香族アミノシラン化学組成物であり得る。他の実施形態において、芳香族シラン化学組成物は、アミノフェニル、3-(m-アミノフェノキシ)プロピル、N-フェニルアミノプロピル、または、(クロロメチル)フェニル置換アルコキシ、アシルオキシ、ハロゲン、もしくはアミノシランからなる群から選択され得る。例えば、芳香族アルコキシシランは、特に限定されないが、アミノフェニルトリメトキシシラン(本明細書においては時に、「APhTMS」と称される)、アミノフェニルジメトキシシラン、アミノフェニルトリエトキシシラン、アミノフェニルジエトキシシラン、3-(m-アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、3-(m-アミノフェノキシ)プロピルジメトキシシラン、3-(m-アミノフェノキシ)プロピルトリエトキシシラン、3-(m-アミノフェノキシ)プロピルジエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルジメトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルジエトキシシラン、その水解物またはそのオリゴマー化化学組成物であり得る。例示的な実施形態において、芳香族シラン化学組成物はアミノフェニルトリメトキシシランであり得る。
【0036】
上記の実施形態を再度参照すると、第1のシラン化学組成物、第2のシラン化学組成物、または、その両方が脂肪族化学組成物であり得る。本明細書において用いられるところ、脂肪族化学組成物は、特にこれらに限定されないが、アルカン、アルケンおよびアルキンなどといった、開環鎖構造を有する化学組成物などの非芳香族である。例えば、いくつかの実施形態において、カップリング剤は、アルコキシシランといった化学組成物を含み得、特にこれらに限定されないが、ジアルコキシシラン化学組成物、その加水分解物もしくはそのオリゴマーなどの脂肪族アルコキシシラン、または、その加水分解物もしくはそのオリゴマーなどのトリアルコキシシラン化学組成物であり得る。いくつかの実施形態において、脂肪族シランはアミン部分を含み得、アミノアルキルトリアルコキシシランなどのアミン部分を含むアルコキシシランであり得る。一実施形態において、脂肪族シラン化学組成物は、3-アミノプロピル、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル、ビニル、メチル、N-フェニルアミノプロピル、(N-フェニルアミノ)メチル、N-(2-ビニルベンジルアミノエチル)-3-アミノプロピル置換アルコキシ、アシルオキシ、ハロゲン、または、アミノシラン、その水解物もしくはそのオリゴマーからなる群から選択され得る。アミノアルキルトリアルコキシシランとしては、これらに限定されないが、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(本明細書においては時に、「GAPS」と称される)、3-アミノプロピルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジエトキシシラン、その水解物およびそのオリゴマー化化学組成物が挙げられる。他の実施形態において、脂肪族アルコキシシラン化学組成物は、アルキルトリアルコキシシランまたはアルキルビアルコキシシランなどのアミン部分を含み得る。このようなアルキルトリアルコキシシランまたはアルキルビアルコキシシランとしては、これらに限定されないが、ビニルトリメトキシシラン、ビニルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、その水解物またはオリゴマー化化学組成物が挙げられる。例示的な実施形態において、脂肪族シラン化学組成物は3-アミノプロピルトリメトキシシランである。
【0037】
異なる化学組成物の組み合わせ、特にシラン化学組成物の組み合わせからカップリング剤を形成することにより、低摩擦コーティング120の熱安定性を向上させ得ることが見出された。例えば、上記のものなどの芳香族シランおよび脂肪族シランの組み合わせにより、低摩擦コーティングの熱安定性が向上され、これにより、高温での熱処理後においても摩擦係数および固着性能などのその機械特性が保持されるコーティングがもたらされることが見出された。従って、一実施形態において、カップリング剤は芳香族および脂肪族シランの組み合わせを含む。これらの実施形態において、脂肪族シラン対芳香族シラン(脂肪族:芳香族)の比は、約1:3~約1:0.2であり得る。カップリング剤が少なくとも脂肪族シランおよび芳香族シランなどの2種以上の化学組成物を含む場合、これら2種の化学組成物の重量比は、約0.1:1~約10:1の第1のシラン化学組成物対第2のシラン化学組成物(第1のシラン:第2のシラン)の重量比など、いかなる比であってもよい。例えば、いくつかの実施形態において、比は、2:1、1:1、0.5:1などの0.5:1~約2:1であり得る。いくつかの実施形態において、カップリング剤は複数種の脂肪族シランおよび/または複数種の芳香族シランの組み合わせを含み得、これは、有機もしくは無機充填材を伴ってまたは伴わずに、1回もしくは複数回のステップでガラス製容器に適用されることが可能である。いくつかの実施形態において、カップリング剤は、脂肪族および芳香族シランの両方から形成されるシルセスキオキサンなどのオリゴマーを含む。
【0038】
例示的な実施形態において、第1のシラン化学組成物は芳香族シラン化学組成物であり、第2のシラン化学組成物は脂肪族シラン化学組成物である。例示的な一実施形態において、第1のシラン化学組成物は少なくとも1つのアミン部分を含む芳香族アルコキシシラン化学組成物であり、第2のシラン化学組成物は少なくとも1つのアミン部分を含む脂肪族アルコキシシラン化学組成物である。他の例示的な実施形態において、カップリング剤は1種または複数種のシラン化学組成物のオリゴマーを含み、ここで、オリゴマーはシルセスキオキサン化学組成物であり、シラン化学組成物の少なくとも1種は、少なくとも1つの芳香族部分および少なくとも1つのアミン部分を含む。特定の例示的な一実施形態において、第1のシラン化学組成物はアミノフェニルトリメトキシシランであり、第2のシラン化学組成物は3-アミノプロピルトリメトキシシランである。芳香族シラン対脂肪族シランの比は約1:1であり得る。他の特定の例示的な実施形態において、カップリング剤は、アミノフェニルトリメトキシおよび3-アミノプロピルトリメトキシから形成されるオリゴマーを含む。他の実施形態において、カップリング剤は、アミノフェニルトリメトキシおよび3-アミノプロピルトリメトキシの混合物と、この2種から形成されるオリゴマーとの両方を含み得る。
【0039】
他の実施形態において、カップリング剤は、アミノアルキルシルセスキオキサンである化学組成物を含み得る。一実施形態において、カップリング剤はアミノプロピルシルセスキオキサン(APS)オリゴマー(Gelestから水溶液として市販されている)を含む。
【0040】
一実施形態において、芳香族シラン化学組成物はクロロシラン化学組成物である。
【0041】
他の実施形態において、カップリング剤は、特にこれらに限定されないが、(3-アミノプロピル)シラントリオール、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-シラントリオールおよび/またはこれらの混合物などのアミノアルコキシシランの加水分解された類似体である化学組成物を含み得る。
【0042】
他の実施形態において、カップリング剤は、金属および/またはセラミックフィルムなどの無機材料であり得る。カップリング剤として用いられる好適な無機材料の非限定的な例としては、チタン酸塩、ジルコン酸塩、錫、チタン、および/または、これらの酸化物が挙げられる。
【0043】
一実施形態において、カップリング剤は、浸漬プロセスによって希釈されたカップリング剤と接触させることによりガラス本体102の外表面108に適用される。カップリング剤は、ガラス本体102に適用される際に溶剤中に混合されてもよい。他の実施形態において、カップリング剤は、噴霧または他の好適な手段によってガラス本体102に適用され得る。カップリング剤が適用されたガラス本体102は、次いで、約120℃で約15分間、または、ガラス製容器壁部104の外表面108上に存在する水および/もしくは他の有機溶剤を適切に遊離させるのに十分な任意の時間および温度で乾燥され得る。
【0044】
図2を参照すると、一実施形態において、カップリング剤は、ガラス製容器にカップリング剤層180として位置されており、特にこれらに限定されないが、メタノールなどの有機溶剤および水の少なくとも一方と混合された約0.5重量%の第1のシランおよび約0.5重量%の第2のシラン(合計で1重量%のシラン)を含む溶液として適用される。しかしながら、溶液中の合計シラン濃度は、約0.1重量%~約10重量%、約0.3重量%~約5.0重量%または約0.5重量%~約2.0重量%などの約1重量%超もしくは未満であり得ることが理解されるべきである。例えば、一実施形態において、有機溶剤対水の重量比(有機溶剤:水)は約90:10~約10:90であり得、一実施形態においては、約75:25であり得る。シラン対溶剤の重量比はカップリング剤層の厚さに影響し得、ここで、カップリング剤溶液中のシラン化学組成物の割合が大きいと、カップリング剤層180の厚さが厚くなり得る。しかしながら、特に限定されないが、浴からの引き上げ速度などのディップコーティングプロセスの詳細などの他の可変要素がカップリング剤層180の厚さに影響し得ることが理解されるべきである。例えば、引き上げ速度が速いほど形成されるカップリング剤層180は薄くなり得る。
【0045】
他の実施形態において、カップリング剤層180は、0.1体積%の市販されているアミノプロピルシルセスキオキサンオリゴマーを含む溶液として適用され得る。特にこれらに限定されないが、0.01~10.0体積%アミノプロピルシルセスキオキサンオリゴマー溶液を含む、他の濃度のカップリング剤層溶液も用いられ得る。
【0046】
本明細書において記載されているとおり、低摩擦コーティングはポリマー化学組成物をも含む。ポリマー化学組成物は、熱的に安定なポリマーまたはポリマーの混合物であり得、特にこれらに限定されないが、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリフェニル、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾキサゾール、ポリビスチアゾール、ならびに、有機充填材または無機充填材を含むポリ芳香族複素環式ポリマーおよび有機充填材または無機充填材を含まないポリ芳香族複素環式ポリマーなどであり得る。ポリマー化学組成物は、250℃、300℃および350℃を含む200℃~400℃の範囲内の温度で分解しないポリマーなどの他の熱的に安定なポリマーから形成され得る。これらのポリマーは、カップリング剤を伴って、または、伴わずに適用され得る。
【0047】
一実施形態において、ポリマー化学組成物はポリイミド化学組成物である。低摩擦コーティング120がポリイミドを含む場合、ポリイミド組成物は、モノマーの重合により溶液中で形成されるポリアミド酸由来のものであり得る。このようなポリアミド酸の一種はNovastrat(登録商標)800(NeXolveから市販されている)である。硬化ステップによりポリアミド酸がイミド化されてポリイミドが形成される。ポリアミド酸は、ジアミンなどのジアミンモノマーと、二無水物などの無水物モノマーとの反応から形成され得る。本明細書において用いられるところ、ポリイミドモノマーは、ジアミンモノマーおよび二無水物モノマーとして記載される。しかしながら、ジアミンモノマーは2つのアミン部分を含むが、以下の記載においては、少なくとも2つアミン部分を含むいずれかのモノマーがジアミンモノマーとして好適であり得ることが理解されるべきである。同様に、二無水物モノマーは2つの無水物部分を含むが、以下の記載においては、少なくとも2つの無水物部分を含むいずれかのモノマーが二無水物モノマーとして好適であり得ることが理解されるべきである。無水物モノマーの無水物部分とジアミンモノマーのアミン部分との反応によりポリアミド酸が形成される。従って、本明細書において用いられるところ、特定のモノマーの重合から形成されるポリイミド化学組成物とは、これらの特定のモノマーから形成さえるポリアミド酸のイミド化後に形成されるポリイミドを指す。一般に、無水物モノマーの合計とジアミンモノマーとのモル比は約1:1であり得る。ポリイミドは相違する2種の化学組成物(1種の無水物モノマーと1種のジアミンモノマー)のみから形成され得るが、少なくとも1種の無水物モノマーは重合されていてもよく、また、少なくとも1種のジアミンモノマーはポリイミドから重合されていてもよい。例えば、1種の無水物モノマーは2種の異なるジアミンモノマーと重合されていてもよい。任意の数のモノマー種の組み合わせが用いられ得る。さらに、1種の無水物モノマー対異なる無水物モノマーの比、または、1種もしくは複数種のジアミンモノマー対異なるジアミンモノマーの比は、約1:9、1:4、3:7、2:3、1:1、3:2、7:3、4:1または1:9などの約1:0.1~0.1:1などのいずれかの比であり得る。
【0048】
ジアミンモノマーと共にポリイミドが形成される無水物モノマーは、いずれかの無水物モノマーを含み得る。一実施形態において、無水物モノマーはベンゾフェノン構造を含む。例示的な実施形態において、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物は、ポリイミドが形成される無水物モノマーの少なくとも1種であり得る。他の実施形態において、ジアミンモノマーは、上記の二無水物の置換されたものを含む、アントラセン構造、フェナントレン構造、ピレン構造またはペンタセン構造を有し得る。
【0049】
無水物モノマーと共にポリイミドが形成されるジアミンモノマーは、いずれかのジアミンモノマーを含み得る。一実施形態において、ジアミンモノマーは少なくとも1つの芳香族環部分を含む。
図4および
図5は、1種または複数種の選択された無水物モノマーと共にポリマー化学組成物を含むポリイミドを形成し得るジアミンモノマーの例を示す。ジアミンモノマーは、
図4に示されているとおり、2つの芳香族環部分を結合する1つまたは複数の炭素分子を有していてもよく、ここで、
図5中のRは、1つまたは複数の炭素原子を含むアルキル部分に相当する。あるいは、ジアミンモノマーは、
図5に示されているとおり、直接結合されている2つの芳香族環部分を有しており、少なくとも1つの炭素分子によって分離されていなくてもよい。ジアミンモノマーは、
図4および
図5においてR’およびR’’により表されている1つまたは複数のアルキル部分を有していてもよい。例えば、
図4および
図5において、R’およびR’’は、メチル、エチル、プロピルまたはブチル部分などの、1つまたは複数の芳香族環部分に結合されたアルキル部分を表し得る。例えば、ジアミンモノマーは2つの芳香族環部分を有し得、ここで、各芳香族環部分は、これに結合するアルキル部分を有し、また、芳香族環部分に結合された隣接するアミン部分を有する。
図4および
図5の両方におけるR’およびR’’は、同一の化学的部分であっても、異なる化学的部分であってもよいことが理解されるべきである。あるいは、
図4および
図5の両方におけるR’および/またはR’’は、原子を表さないものであってもよい。
【0050】
ジアミンモノマーの2種の異なる化学組成物はポリイミドから形成され得る。一実施形態において、第1のジアミンモノマーは、直接結合されており、結合する炭素分子によって分離されていない2つの芳香族環部分を含み、また、第2のジアミンモノマーは、2つの芳香族環部分を結合する少なくとも1つの炭素分子で結合された2つの芳香族環部分を含む。例示的な一実施形態において、第1のジアミンモノマー、第2のジアミンモノマーおよび無水物モノマーは、約0.465:0.035:0.5のモル比(第1のジアミンモノマー:第2のジアミンモノマー:無水物モノマー)を有する。しかしながら、第1のジアミンモノマーと第2のジアミンモノマーとの比は、約0.01:0.49~約0.40:0.10の範囲内で様々であり得、一方で、無水物モノマー比は約0.5に保持される。
【0051】
一実施形態において、ポリイミド組成物は、少なくとも第1のジアミンモノマー、第2のジアミンモノマーおよび無水物モノマーの重合から形成され、ここで、第1および第2のジアミンモノマーは異なる化学組成物である。一実施形態において、無水物モノマーはベンゾフェノンであり、第1のジアミンモノマーは直接結合された2つの芳香族環を含み、また、第2のジアミンモノマーは第1の芳香族環と第2の芳香族環とを結合する少なくとも1つの炭素分子で結合された2つの芳香族環を含む。第1のジアミンモノマー、第2のジアミンモノマーおよび無水物モノマーは、約0.465:0.035:0.5のモル比(第1のジアミンモノマー:第2のジアミンモノマー:無水物モノマー)を有し得る。
【0052】
例示的な実施形態において、第1のジアミンモノマーはオルトトリジンであり、第2のジアミンモノマーは4,4’-メチレン-ビス(2-メチルアニリン)であり、また、無水物モノマーはベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物である。第1のジアミンモノマー、第2のジアミンモノマーおよび無水物モノマーは、約0.465:0.035:0.5のモル比(第1のジアミンモノマー:第2のジアミンモノマー:無水物モノマー)を有し得る。
【0053】
いくつかの実施形態において、ポリイミドは:ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボキシル1,2;3,4-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2t,3t,6c,7c-テトラカルボキシル2,3:6,7-二無水物、2c,3c,6c,7c-テトラカルボキシル2,3:6,7-二無水物、5-エンド-カルボキシメチルビシクロ[2.2.1]-ヘプタン-2-エクソ、3-エクソ、5-エクソ-トリカルボン酸2,3:5,5-二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、ビス(アミノエチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンの異性体、または、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、ピロメリト酸二無水物(PMDA)3,3’,4,4’-ビフェニル二無水物(4,4’-BPDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノン二無水物(4,4’-BTDA)、3,3’,4,4’-オキシジフタル酸無水物(4,4’-ODPA)、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシル-フェノキシ)ベンゼン二無水物(4,4’-HQDPA)、1,3-ビス(2,3-ジカルボキシル-フェノキシ)ベンゼン二無水物(3,3’-HQDPA)、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシルフェノキシフェニル)-イソプロピリデン二無水物(4,4’-BPADA)、4,4’-(2,2,2-トリフルオロ-1-ペンタフルオロフェニルエチリデン)二フタル酸二無水物(3FDA)、4,4’-オキシジアニリン(ODA)、m-フェニレンジアミン(MPD)、p-フェニレンジアミン(PPD)、m-トルエンジアミン(TDA)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,4,4-APB)、3,3’-(m-フェニレンビス(オキシ))ジアニリン(APB)、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン(DMMDA)、2,2’-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(BAPP)、1,4-シクロヘキサンジアミン2,2’-ビス[4-(4-アミノ-フェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロイソプロピリデン(4-BDAF)、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン(DAPI)、無水マレイン酸(MA)、無水シトラコン酸(CA)、ナド酸無水物(NA)、4-(フェニルエチニル)-1,2-ベンゼンジカルボン酸無水物(PEPA)、4,4’-ジアミノベンズアニリド(DABA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6-FDA)、ピロメリト酸二無水物、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ならびに、米国特許第7,619,042号明細書、米国特許第8,053,492号明細書、米国特許第4,880,895号明細書、米国特許第6,232,428号明細書、米国特許第4,595,548号明細書、国際公開第2007/016516号パンフレット、米国特許出願公開第2008/0214777号明細書、米国特許第6,444,783号明細書、米国特許第6,277,950号明細書および米国特許第4,680,373号明細書に記載の材料の1種または複数種の重合から形成され得る。
図6は、ガラス本体102に適用されるポリイミドコーティングの形成に用いられ得るいくつかの好適なモノマーの化学構造を表す。他の実施形態において、ポリイミドが形成されるポリアミド酸溶液は、ポリ(ピロメリト酸二無水物-コ-4,4’-オキシジアニリン)アミック酸(Aldrichから市販されている)を含み得る。
【0054】
他の実施形態において、ポリマー化学組成物はフッ素化ポリマーを含み得る。フッ素化ポリマーは、両方のモノマーが高度にフッ素化されているコポリマーであり得る。フッ素化ポリマーのモノマーのいくつかはフルオロエチレンであり得る。一実施形態において、ポリマー化学組成物は、特にこれらに限定されないが、Teflon AF(DuPontから市販されている)などのアモルファスフッ素化ポリマーを含む。他の実施形態において、ポリマー化学組成物は、特にこれらに限定されないが、Teflon PFA TE-7224(DuPontから市販されている)などのパーフルオロアルコキシ(PFA)樹脂粒子を含む。
【0055】
他の実施形態において、ポリマー化学組成物はシリコーン樹脂を含み得る。シリコーン樹脂は、一般式RnSi(X)mOy(式中、Rは非反応性置換基であって、通常はメチルまたはフェニルであり、また、XはOHまたはHである)を有する分岐ケージ様オリゴシロキサンによって形成される多分岐三次元ポリマーであり得る。理論に束縛されることは望まないが、Si-O-Si結合の形成を伴うSi-OH部分の縮合反応を介して樹脂の硬化が生じると考えられている。シリコーン樹脂は、M-樹脂、D-樹脂、T-樹脂およびQ-樹脂を含む可能な4種のシロキサン官能性単量体ユニットの少なくとも1つを有し得、ここで、M-樹脂は一般式R3SiOを有する樹脂を指し、D-樹脂は一般式R2SiO2を有する樹脂を指し、T-樹脂は一般式RSiO3を有する樹脂を指し、Q-樹脂は一般式SiO4(溶融水晶)を有する樹脂を指す。いくつかの実施形態において、樹脂は、DおよびTユニット(DT樹脂)、または、MおよびQユニット(MQ樹脂)から形成される。他の実施形態において、他の組み合わせ(MDT、MTQ、QDT)もまた用いられる。
【0056】
一実施形態において、ポリマー化学組成物は、メチルまたはフェニルシリコーン樹脂と比して高い熱安定性のために、フェニルメチルシリコーン樹脂を含む。シリコーン樹脂中におけるフェニル対メチル部分の比は、ポリマー化学組成物において様々であり得る。一実施形態において、フェニル対メチルの比は約1.2である。他の実施形態において、フェニル対メチルの比は約0.84である。他の実施形態において、フェニル対メチル部分の比は、約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.3、1.4または1.5であり得る。一実施形態において、シリコーン樹脂はDC255(Dow Corningから市販されている)である。他の実施形態において、シリコーン樹脂はDC806A(Dow Corningから市販されている)である。他の実施形態において、ポリマー化学組成物は、DCシリーズの樹脂(Dow Corningから市販されている)、および/または、Hardsil Series APおよびAR樹脂(Gelestから市販されている)のいずれかを含み得る。シリコーン樹脂は、カップリング剤を伴わずに、または、カップリング剤を伴って用いられることが可能である。
【0057】
他の実施形態において、ポリマー化学組成物は、特にこれらに限定されないが、T-214(Honeywellから市販されている)、SST-3M01(Gelestから市販されている)、POSS Imiclear(Hybrid Plasticsから市販されている)およびFOX-25(Dow Corningから市販されている)などのシルセスキオキサン系ポリマーを含み得る。一実施形態において、ポリマー化学組成物はシラノール部分を含み得る。
【0058】
図1および
図2を再度参照すると、低摩擦コーティング120は多段プロセスで適用され得、ここでは、ガラス本体102とカップリング剤溶液とが接触させられてカップリング剤層180が形成され(上記のとおり)、乾燥され、次いで、浸漬プロセスなどによりポリマーもしくはポリマー前駆体溶液などのポリマー化学組成物溶液と接触され、または、あるいは、ポリマー化学組成物層170が噴霧もしくは他の好適な手段により適用され、乾燥され、次いで、高温で硬化され得る。あるいは、カップリング剤層180が用いられない場合、ポリマー層170のポリマー化学組成物は、ガラス本体102の外表面108に直接適用され得る。他の実施形態において、ポリマー化学組成物およびカップリング剤は低摩擦コーティング120中で混合され得、ポリマー化学組成物およびカップリング剤を含む溶液が単一のコーティングステップでガラス本体102に適用され得る。
【0059】
一実施形態において、ポリマー化学組成物はポリイミドを含み、ここで、ポリアミド酸溶液はカップリング剤層180上に適用される。他の実施形態においては、例えばポリアミド酸塩、ポリアミド酸エステル等などのポリアミド酸誘導体が用いられ得る。一実施形態において、ポリアミド酸溶液は、1体積%ポリアミド酸および99体積%有機溶剤の混合物を含み得る。有機溶剤は、トルエンと、N,N-ジメチルアセタミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)および1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)溶剤またはこれらの混合物の少なくとも1つとの混合物を含み得る。一実施形態において、有機溶剤溶液は、DMAc、DMFおよびNMPの少なくとも1つ約85体積%と、トルエン約15体積%とを含む。しかしながら、他の好適な有機溶剤が用いられ得る。次いで、コーティングされたガラス製容器100は、約150℃で約20分間、または、低摩擦コーティング120中に存在する有機溶剤を適切に遊離させるのに十分な任意の時間および温度で乾燥され得る。
【0060】
積層された低摩擦コーティング実施形態においては、ガラス本体102に、カップリング剤層180を形成するためにカップリング剤を接触させ、また、ポリマー層170を形成するためにポリアミド酸溶液を接触させた後、コーティングされたガラス製容器100は高温で硬化に供され得る。コーティングされたガラス製容器100は300℃で約30分間以下硬化され得、または、少なくとも320℃、340℃、360℃、380℃または400℃などの300℃超の温度で短時間で硬化されてもよい。硬化ステップでは、カルボン酸部分とアミド部分との反応によりポリマー層170中のポリアミド酸がイミド化されて、ポリイミドを含むポリマー層170が形成されると考えられている。硬化ステップはまた、ポリイミドとカップリング剤との間の結合を促進し得る。次いで、コーティングされたガラス製容器100は室温に冷却される。
【0061】
さらに、限定によっては束縛されないが、カップリング剤、ポリマー化学組成物、または、この両方の硬化ステップにより、水および他の有機分子などの揮発性材料が留去されると考えられている。従って、硬化ステップの最中に遊離されるこれらの揮発性材料は、容器として用いられる場合に、物品が熱処理(発熱物質除去のためなど)されるか、または、物品がパッケージされる医薬品などの材料に接触する際に存在していない。本明細書に記載の硬化プロセスは、発熱物質除去などの医薬品パッケージ産業におけるプロセスと同様もしくは同等の加熱処理、または、本明細書に記載されている熱安定性を定義するために用いられる加熱処理などの本明細書に記載の加熱処理とは異なる別個の加熱処理であることが理解されるべきである。
【0062】
低摩擦コーティング120が適用され得るガラス製容器は多様な異なるガラス組成物から形成され得る。ガラス製物品の特定の組成物は、ガラスが所望される一連の物理特性を有することとなるよう特定の用途において応じて選択され得る。
【0063】
ガラス製容器は、約25×10-7/℃~80×10-7/℃の範囲内の熱膨張係数を有するガラス組成物から形成され得る。例えば、本明細書に記載のいくつかの実施形態において、ガラス本体102は、イオン交換による強化が可能であるアルカリアルミノケイ酸ガラス組成物から形成される。このような組成物としては、一般に、Na2Oおよび/またはK2Oなどの、SiO2、Al2O3、少なくとも1種のアルカリ土類酸化物、および、1種または複数種のアルカリ酸化物の組み合わせが挙げられる。これらの実施形態のいくつかにおいて、ガラス組成物は、ホウ素およびホウ素含有化合物を含有しないものであり得る。いくつかの他の実施形態において、ガラス組成物はさらに、例えば、SnO2、ZrO2、ZnO、TiO2、As2O3等などの1種または複数種の追加の酸化物を微量に含有していてもよい。これらの成分は、清透剤として、および/または、ガラス組成物の化学的耐久性をさらに高めるために添加され得る。他の実施形態において、ガラス表面は、SnO2、ZrO2、ZnO、TiO2、As2O3等を含む金属酸化物コーティングを含み得る。
【0064】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、ガラス本体102はイオン交換強化などにより強化されており、本明細書において「イオン交換ガラス」と称される。例えば、ガラス本体102は、約300MPa以上、または、さらには約350MPa以上の圧縮応力を有し得る。いくつかの実施形態において、圧縮応力は、約300MPa~約900MPaの範囲内であり得る。しかしながら、いくつかの実施形態において、ガラス中の圧縮応力は300MPa未満であるか、または、900MPa超であり得ることが理解されるべきである。いくつかの実施形態において、ガラス本体102は20μm以上の層厚を有し得る。これらの実施形態のいくつかにおいて、層厚は50μm超であるか、または、さらには75μm以上であり得る。さらに他の実施形態において、層厚は100μm以下または100μm超であり得る。イオン交換強化は、約350℃~約500℃の温度に維持された溶融塩浴中で実施され得る。所望の圧縮応力を達成するために、ガラス製容器(未コーティング)は、約30時間未満、または、さらには約20時間未満、塩浴中に浸漬され得る。例えば、一実施形態において、ガラス製容器は、100%KNO3塩浴中に450℃で約8時間浸漬される。
【0065】
例示的な特定の一実施形態において、ガラス本体102は、2012年10月25日に出願され、「Glass Compositions with Improved Chemical and Mechanical Durability」と題され、Corning,Incorporatedに譲渡された係属中の米国特許出願第13/660894号明細書に記載のイオン交換可能なガラス組成物から形成され得る。
【0066】
しかしながら、本明細書に記載のコーティングされたガラス製容器100は、特に限定されないが、イオン交換可能なガラス組成物およびイオン交換可能でないガラス組成物を含む他のガラス組成物から形成され得ることが理解されるべきである。例えば、いくつかの実施形態において、ガラス製容器は、例えば、Schott Type 1Bアルミノケイ酸ガラスなどのType 1Bガラス組成物から形成され得る。
【0067】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、ガラス製物品は、加水分解耐性に基づいて、USP(米国薬局方)、EP(ヨーロッパ薬局方)およびJP(日本薬局方)などの規制機関に記載されている医薬品用ガラスに係る判断基準を満たすガラス組成物から形成され得る。USP660およびEP7に従って、ホウケイ酸ガラスはType I基準を満たすと共に、ルーチン的に非経口パッケージに用いられる。ホウケイ酸ガラスの例としては、特にこれらに限定されないが、Corning(登録商標)Pyrex(登録商標)7740、7800およびWheaton 180、200および400、Schott Duran、Schott Fiolax、KIMAX(登録商標)N-51A、Gerrescheimer GX-51 Flint等が挙げられる。ソーダ石灰ガラスはType III基準を満たすと共に、溶解されて溶液または緩衝剤とされる乾燥粉末のパッケージに許容される。Type IIIガラスはまた、アルカリに非感受性であることが証明された液体配合物のパッケージにも好適である。Type IIIソーダ石灰ガラスの例としては、Wheaton 800および900が挙げられる。脱アルカリ化ソーダ石灰ガラスは水酸化ナトリウムおよび酸化カルシウムをより高いレベルで含有しており、Type II基準を満たす。これらのガラスはType Iガラスよりも浸出に対する耐性に劣るが、Type IIIガラスよりは浸出に対して耐性である。Type IIガラスは、保管寿命にわたってpHが7未満に維持される製品に用いられることが可能である。例としては、硫酸アンモニウム処理ソーダ石灰ガラスが挙げられる。これらの医薬品用ガラスは様々な化学組成物を有すると共に、20~85×10-7℃-1の範囲内の線熱膨張係数(CTE)を有する。
【0068】
本明細書に記載のコーティングされたガラス製物品がガラス製容器である場合、コーティングされたガラス製容器100のガラス本体102は、多様に異なる形態であり得る。例えば、本明細書に記載のガラス本体は、医薬品組成物を保管するためのバイアル、アンプル、カートリッジ、シリンジ本体、および/または、いずれかの他のガラス製容器などのコーティングされたガラス製容器100の形成に用いられ得る。しかも、コーティングに先立ってガラス製容器を化学的に強化することが可能であることにより、これを利用してガラス製容器の機械的耐久性をさらに向上させることが可能である。従って、少なくとも一実施形態において、ガラス製容器は低摩擦コーティングの適用に先立ってイオン交換強化され得ることが理解されるべきである。あるいは、米国特許第7,201,965号明細書に記載の加熱強化、火炎研磨および積層などの他の強化方法を用いてコーティング前にガラスを強化することが可能である。
【0069】
一実施形態において、カップリング剤は、ポリマー化学組成物のガラス本体に対する固着性を改善させ得るアルコキシシランなどのシラン化学組成物を含む。理論によって束縛はされないが、アルコキシシラン分子は水中で急速に加水分解されて、単離されたモノマー、環式オリゴマーおよび大型の分子内環を形成すると考えられている。種々の実施形態において、どの種が優勢となるかの制御は、シランタイプ、濃度、pH、温度、保管条件および時間によって決定され得る。例えば、水溶液中において低濃度であるとき、アミノプロピルトリアルコキシシラン(APS)は安定であり得、トリシラノールモノマーおよび超低分子量オリゴマー系環を形成し得る。
【0070】
なお、理論によって束縛はされないが、1種または複数種のシラン化学組成物のガラス本体に対する反応には数々のステップが関与し得ると考えられている。
図31に示されているとおり、いくつかの実施形態において、シラン化学組成物の加水分解後に反応性シラノール部分が形成され得、これは、例えば、ガラス本体などの基材の表面上の他のシラノール部分と縮合可能である。第1および第2の加水分解可能な部分が加水分解された後、縮合反応が初期化され得る。いくつかの実施形態において、自己縮合に向かう傾向は、新しい溶液、アルコール系溶剤、希釈の使用、および、pH範囲の注意深い選択によって制御可能である。例えば、シラントリオールはpH3~6で最も安定であるが、pH7~9.3で急速に縮合し、シラノールモノマーの部分縮合によりシルセスキオキサンが生成され得る。
図31に示されているとおり、形成された種のシラノール部分が基材上のシラノール部分と水素結合を形成し得、乾燥ステップまたは硬化ステップの最中に、水の脱離を伴いながら基材と共有結合が形成され得る。例えば、適度の硬化サイクル(110℃で15分間)ではシラノール部分が遊離形態で残され得、いずれかのシラン有機官能基と共に、その後のトップコートと結合して向上した固着性をもたらし得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、カップリング剤のシラン化学組成物の1種または複数種はアミン部分を含み得る。なお、理論によって束縛はされないが、このアミン部分は加水分解および共縮合重合において塩基性触媒として作用して、ガラス表面上へのアミン部分を有するシランの吸着率を高め得ると考えられている。これはまた、水溶液中において高pH(9.0~10.0)をもたらし得、これによりガラス表面がコンディショニングされ、表面シラノール部分の密度が高められる。水とプロトン性溶剤との強固な相互作用によって、APSなどのアミン部分化学組成物を有するシランの溶解度および安定性が維持される。
【0072】
例示的な実施形態において、ガラス本体はイオン交換ガラスを含み得、カップリング剤はシランであり得る。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングのイオン交換ガラス本体に対する固着性は、低摩擦コーティングの非イオン交換ガラス本体に対する固着性よりも強固であり得る。理論によって束縛はされないが、イオン交換ガラスの数々の態様のいずれかは、非イオン交換ガラスと比して結合および/または固着性を促進し得ると考えられている。第1に、イオン交換ガラスは、カップリング剤の安定性および/またはガラス表面に対する固着性に影響し得る高い化学的安定性/加水分解に対する安定性を有し得る。非イオン交換ガラスは、典型的には加水分解に対する安定性が低く、湿性条件および/または高温条件下では、アルカリ金属が、ガラス本体から、ガラス表面とカップリング剤層(存在する場合)との界面に移動する可能性、または、さらには存在する場合にはカップリング剤層にまで移動する可能性がある。上記のとおりアルカリ金属が移動する場合であって、pHに変化がある場合、ガラス/カップリング剤層界面、または、カップリング剤層自体におけるSi-O-Si結合の加水分解によって、カップリング剤機械特性またはそのガラスへの固着性が弱まってしまう場合がある。第2に、イオン交換ガラスは、400℃~450℃などの高温で亜硝酸カリウム浴などの強酸化剤浴に曝露され、取り出されると、ガラスの表面上の有機化学組成物が除去されて、さらなるクリーニングを伴わずにシランカップリング剤に対して特に好適とされる。例えば、非イオン交換ガラスは追加の表面クリーニング処理に供される必要があり得、プロセスに時間および経費が加わってしまう。
【0073】
例示的な一実施形態において、カップリング剤はアミン部分を含む少なくとも1種のシランを含み得、ポリマー化学組成物はポリイミド化学組成物を含み得る。ここで、
図32を参照すると、理論によって束縛はされないが、このアミン部分相互作用とポリイミドのポリアミド酸前駆体との相互作用は段階的なプロセスによって進行すると考えられている。
図32に示されているとおり、第1のステップは、ポリアミド酸のカルボキシル部分とアミン部分との間におけるポリアミド酸塩の形成である。第2のステップは、塩からアミド部分への熱転換である。第3のステップは、ポリマーアミド結合の切断を伴う、アミド部分のイミド部分へのさらなる転換である。結果的には、
図32に示されているとおり、短縮されたポリマー鎖(ポリイミド鎖)のカップリング剤のアミン部分への共有結合イミド結合がもたらされる。
【0074】
まとめて
図7および
図8を参照すると、
図7は低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器100を製造するための方法のプロセスフローチャート500を含み、また、
図8は、フローチャートにおいて記載されているプロセスを概略的に図示する。第1のステップ502においては、イオン交換可能なガラス組成物から形成されたガラス管ストック1000が、先ず、従来の成形および形成技術を用いてガラス製容器900(具体的には、図示の実施形態においてはガラスバイアル)に成形される。ステップ504においては、ガラス製容器900が機械式マガジンローダ602を用いてマガジン604に積載される。マガジンローダ602は、複数のガラス製容器を一度に把持することが可能であるキャリパー等などの機械式把持装置であり得る。あるいは、把持装置は、ガラス製容器900を把持するために減圧システムを利用するものであってもよい。マガジンローダ602は、マガジンローダ602をガラス製容器900およびマガジン604に対して位置調節可能なロボットアームまたは他の同様の装置と組み合わされてもよい。
【0075】
次のステップ506においては、ガラス製容器900が積載されたマガジン604がコンベヤベルト606などの機械式コンベヤ、オーバーヘッドクレーン等によりカセット積載エリアに移される。その後、ステップ508において、マガジン604がカセット608に積載される。カセット608は、多数のガラス製容器を同時に処理することが可能であるよう複数のマガジンが保持されるよう構成されている。各マガジン604は、カセットローダ610を利用してカセット608中に配置される。カセットローダ610は、1つまたは複数のマガジンを一度に把持することが可能であるキャリパー等などの機械式把持装置であり得る。あるいは、把持装置は、マガジン604を把持するために減圧システムを利用するものであってもよい。カセットローダ610は、カセットローダ610をカセット608およびマガジン604に対して位置調節可能なロボットアームまたは他の同様の装置と組み合わされてもよい。
【0076】
次のステップ510においては、マガジン604およびガラス製容器900を含むカセット608がイオン交換ステーションに移送され、イオン交換タンク614に入れられてガラス製容器900の化学的強化が促進される。カセット608はカセット移送装置612によってイオン交換ステーションに移送される。カセット移送装置612は、カセット608を把持することが可能であるキャリパー等などの機械式把持装置であり得る。あるいは、把持装置は、カセット608を把持するために減圧システムを利用するものであってもよい。カセット移送装置612および付随するカセット608は、カセット積載エリアからイオン交換ステーションにガントリークレーン等などのオーバーヘッドレールシステムで自動的に輸送され得る。あるいは、カセット移送装置612および付随するカセット608は、カセット積載エリアからイオン交換ステーションにロボットアームで輸送され得る。さらなる他の実施形態において、カセット移送装置612および付随するカセット608は、カセット積載エリアからイオン交換ステーションにコンベヤで輸送され得、その後、コンベヤからイオン交換タンク614にロボットアームまたはオーバーヘッドクレーンで移送され得る。
【0077】
一旦カセット移送装置612および付随するカセットがイオン交換ステーションに移されると、カセット608およびその中のガラス製容器900は、カセット608およびガラス製容器900をイオン交換タンク614に浸漬する前に予熱され得る。カセット608は、室温を超えるが、イオン交換タンク中の溶融塩浴の温度以下の温度に予熱され得る。例えば、ガラス製容器は、約300℃~500℃の温度に予熱され得る。
【0078】
イオン交換タンク614は、KNO3、NaNO3および/またはこれらの組み合わせなどの溶融アルカリ塩などの溶融塩616の浴を含む。一実施形態において、溶融塩の浴は、約350℃以上および約500℃以下の温度で維持される100%溶融KNO3である。しかしながら、種々の他の組成物および/または温度を有する溶融アルカリ塩浴もまた、ガラス製容器のイオン交換を促進させるために用いられ得ることが理解されるべきである。
【0079】
ステップ512において、ガラス製容器900は、イオン交換タンク614中においてイオン交換強化される。具体的には、ガラス製容器は溶融塩中に浸漬され、ガラス製容器900において所望される圧縮応力と層厚とが達成されるのに十分な一定の時間浴中に保持される。例えば、一実施形態において、ガラス製容器900は、約100μm以下の層厚が、少なくとも約300MPaの圧縮応力、または、さらには350MPaの圧縮応力を伴って達成されるのに十分な時間、イオン交換タンク614中に保持され得る。保持時間は30時間未満、または、さらには20時間未満であり得る。しかしながら、ガラス製容器がタンク614中に保持される時間は、ガラス製容器の組成、溶融塩浴616の組成、溶融塩浴616の温度、ならびに、所望される層厚および所望される圧縮応力に応じて様々であり得ることが理解されるべきである。
【0080】
ガラス製容器900がイオン交換強化された後、カセット608およびガラス製容器900は、カセット移送装置612をロボットアームまたはオーバーヘッドクレーンと併用してイオン交換タンク614から取り出される。イオン交換タンク614からの取り出しの最中、カセット608およびガラス製容器900はイオン交換タンク614の上方で吊り下げられ、ガラス製容器900が空になり中に残留する溶融塩のすべてがイオン交換タンク614に戻されるようカセット608が水平軸について回転される。その後、カセット608は回転されて元の姿勢に戻され、すすがれる前にガラス製容器が冷却される。
【0081】
次いで、カセット608およびガラス製容器900は、カセット移送装置612によりすすぎステーションに移送される。この移送は、上記のとおり、ロボットアームまたはオーバーヘッドクレーンにより行われるか、あるいは、コンベヤベルト等などの自動コンベヤにより行われる。次のステップ514においては、カセット608およびガラス製容器900が水浴620を含むすすぎタンク618中に下ろされてガラス製容器900の表面から過剰な塩が除去される。カセット608およびガラス製容器900は、カセット移送装置612と連結するロボットアーム、オーバーヘッドクレーンまたは同様の装置によりすすぎタンク618に下ろされ得る。次いで、カセット608およびガラス製容器900はすすぎタンク618から引き上げられ、すすぎタンク618の上方で吊り下げられ、ガラス製容器900が空になり中に残留するすすぎ水のすべてがすすぎタンク618に戻されるようカセット608が水平軸について回転される。いくつかの実施形態において、すすぎ作業は、カセット608およびガラス製容器900を次の処理ステーションに移す前に複数回行われてもよい。
【0082】
特定の一実施形態において、カセット608およびガラス製容器900は水浴中に少なくとも2回浸漬される。例えば、カセット608は、第1の水浴中に浸漬され、その後、異なる第2の水浴に浸漬されて、すべての残存アルカリ塩がガラス製物品の表面から確実に除去され得る。第1の水浴から水は廃水処理または蒸発器に送られ得る。
【0083】
次のステップ516においては、マガジン604がカセットローダ610でカセット608から取り外される。その後、ステップ518において、ガラス製容器900がマガジン604からマガジンローダ602で取り出され、洗浄ステーションに移送される。ステップ520においては、ガラス製容器がノズル622から噴射される脱イオン水624の噴流で洗浄される。脱イオン水624の噴流は圧縮空気と混合されてもよい。
【0084】
任意選択により、ステップ521(
図8に図示せず)において、ガラス製容器900は、ガラス製容器が欠陥、デブリ、変色等について検査される検査ステーションに移送される。
【0085】
ステップ522において、ガラス製容器900はコーティングステーションにマガジンローダ602で移送され、ここで、ガラス製容器900に低摩擦コーティングが適用される。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングの適用は、上記のとおり、ガラス製容器の表面への直接的なカップリング剤の適用およびポリマー化学組成物へのカップリング剤の適用が挙げられ得る。これらの実施形態において、ガラス製容器900は、カップリング剤628を含有する第1の浸漬タンク626中に部分的に浸漬されて、ガラス製容器の外表面がカップリング剤でコーティングされる。あるいは、カップリング剤は噴霧適用されてもよい。その後、ガラス製容器は第1の浸漬タンク626から引き上げられ、カップリング剤が乾燥される。上記のとおり1種または複数種のシラン化学組成物がカップリング剤に含まれる実施形態などのいくつかの実施形態において、ガラス製容器900はオーブンに輸送され得、ここで、ガラス製容器900が約120℃で15分間乾燥される。
【0086】
図8において概略的に図示するプロセスはガラス製容器の外側をカップリング剤でコーティングするステップを含んでいるが、このステップは、カップリング剤が必要とされるコーティング組成物に対してのみ用いられることが理解されるべきである。カップリング剤が必要とされない低摩擦コーティングの他の実施形態において、カップリング剤を適用するステップは省略されてもよい。
【0087】
その後、ガラス製容器900は、マガジンローダ602でコーティング浸漬タンク630に輸送される。コーティング浸漬タンク630は、本明細書において上記のポリマー化学組成を含むポリマー化学組成物コーティング溶液632で満たされる。ポリマー化学組成物コーティング溶液632中にガラス製容器が少なくとも部分的に浸漬されてガラス製容器にポリマー化学組成物がコーティングされるが、コーティングは、ガラス製容器900の外表面に直接、または、ガラス製容器900に既にコーティングされたカップリング剤上になされる。その後、ポリマー化学組成物溶液が乾燥されて溶剤が除去される。上記のとおり、ポリマー化学組成物コーティング溶液がNovastrat(登録商標)800を含有する一実施形態において、コーティング溶液は、ガラス製容器900をオーブンに輸送し、ガラス製容器を150℃で20分間加熱することにより乾燥され得る。一旦ポリマー化学組成物コーティング溶液が乾燥したら、ガラス製容器900は、(任意選択により)ポリマー化学組成物コーティング浸漬タンク630に再浸漬されて、ポリマー化学組成物の1つまたは複数の層が追加的に適用されてもよい。いくつかの実施形態において、ポリマー化学組成物コーティングは容器の外部表面全体に適用されるが、他の実施形態においては、低摩擦コーティングは、容器の外部表面の一部にのみ適用される。カップリング剤およびポリマー化学組成物は、いくつかの実施形態において、2つの個別のステップにおいて適用されて本明細書に記載されているが、代替的な実施形態においては、カップリング剤および低摩擦コーティングは、カップリング剤およびポリマー化学組成物が混合物中に混合されている場合など、単一のステップで適用されることが理解されるべきである。
【0088】
一旦ポリマー化学組成物コーティング溶液632がガラス製容器900に適用されたら、ポリマー化学組成物はガラス製容器900上で硬化される。硬化プロセスはコーティングプロセスにおいて適用されるポリマー化学組成物コーティングのタイプに応じ、コーティングの熱硬化、UV光によるコーティングの硬化、および/または、これらの組み合わせが挙げられ得る。上記のNovastrat(登録商標)800ポリアミド酸コーティング溶液により形成されるポリイミドなどのポリイミドがポリマー化学組成物コーティングに含まれる本明細書に記載の実施形態において、ガラス製容器900はオーブン634に輸送され、ここで、150℃~約350℃で約5~30分間の間加熱される。オーブン634からガラス製容器を取り出すと、ポリマー化学組成物コーティングは硬化されており、これによりコーティングされた低摩擦コーティングを備えるガラス製容器がもたらされる。
【0089】
低摩擦コーティングがガラス製容器に適用された後に、コーティングされたガラス製容器100は、容器が充填されるパッケージプロセスに移送される(ステップ524)、および/または、追加の検査ステーションに移送される。
【0090】
コーティングされたガラス製容器の種々の特性(すなわち、摩擦係数、水平圧縮強度、4点曲げ強さ)は、コーティングされたガラス製容器が素コーティング状態(すなわち、コーティングの適用後であって、追加の処理がまったく行われていない状態)にある際に、または、特に限定されないが、洗浄、凍結乾燥、発熱物質除去、オートクレーブ等を含む医薬品充填ラインで行われるものと同様もしくは同等の処理などの1つもしくは複数の加工処理後に測定され得る。
【0091】
発熱物質除去は、物質から発熱物質を除去するプロセスである。医薬品パッケージなどのガラス製物品の発熱物質除去は、サンプルに熱処理を行うことにより実施可能であり、ここで、サンプルは一定の時間の間、高温に加熱される。例えば、発熱物質除去は、ガラス製容器を、約250℃~約380℃の温度で、特に限定されないが、20分間、30分間40分間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、24時間、48時間および72時間を含む約30秒~約72時間の間加熱するステップを含み得る。熱処理の後、ガラス製容器は室温に冷却される。医薬品産業において通例採用される従来の発熱物質除去条件の1つは、約250℃の温度で約30分間の熱処理である。しかしながら、より高い温度が用いられる場合には、熱処理時間を短縮し得ることが予期されている。本明細書に記載のコーティングされたガラス製容器は、一定の時間、高温に曝され得る。本明細書に記載の加熱ステップに係る高温および時間は、ガラス製容器の発熱物質除去に十分であってもなくてもよい。しかしながら、本明細書に記載の加熱ステップに係る温度および時間のいくつかは、本明細書に記載のコーティングされたガラス製容器などのコーティングされたガラス製容器の脱水素に十分であることが理解されるべきである。例えば、本明細書に記載のとおり、コーティングされたガラス製容器は、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃の温度に、30分間の時間曝され得る。
【0092】
本明細書において用いられるところ、凍結乾燥条件(すなわち、凍結乾燥ステップ)とは、サンプルがタンパク質を含有する液体で充填され、次いで、-100℃で凍結され、続いて、-15℃、減圧下で20時間かけて水が昇華されるプロセスを指す。
【0093】
本明細書において用いられるところ、オートクレーブ条件とは、サンプルを100℃で10分間水蒸気パージし、続いて、20分間の停止時間でサンプルを121℃の環境に曝露させ、続いて、121℃で30分間熱処理することを指す。
【0094】
低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数(μ)は、同一のガラス組成物から形成されたコーティングされていないガラス製容器の表面よりも低い摩擦係数を有し得る。摩擦係数(μ)は、2つの表面間の摩擦の定量的な測定値であり、表面粗度、ならびに、特にこれらに限定されないが温度および湿度などの環境的条件を含む、第1の表面および第2の表面の機械的特性および化学的特性に応じる。本明細書において用いられるところ、コーティングされたガラス製容器100に係る摩擦係数の測定値は、第1のガラス製容器(約16.00mm~約17.00mmの外径を有する)の外表面と、第1のガラス製容器と同等の第2のガラス製容器の外表面との間の摩擦係数として報告され、ここで、第1のガラス製容器および第2のガラス製容器は、同一の本体および同一のコーティング組成(適用される場合)を有し、製造の前後および製造の最中には同一の環境に曝露されていたものである。本明細書において別段の定めがある場合を除き、摩擦係数とは、本明細書に記載のとおり、バイアル重畳テスト治具における測定で、30Nの垂直荷重で測定される最大摩擦係数を指す。しかしながら、特定の負荷荷重で最大摩擦係数を示すコーティングされたガラス製容器はまた、荷重が小さい場合には、同一またはより良好な(すなわち、より小さい)最大摩擦係数を示すこととなることが理解されるべきである。例えば、コーティングされたガラス製容器が50Nの負荷荷重下で0.5以下の最大摩擦係数を示す場合、コーティングされたガラス製容器はまた、25Nの負荷荷重下で0.5以下の最大摩擦係数を示すこととなる。
【0095】
本明細書に記載の実施形態において、ガラス製容器(コーティング済および未コーティングの両方)の摩擦係数は、バイアル重畳テスト治具で測定される。テスト治具200が
図9に概略的に図示されている。同一の装置は、治具中に配置された2つのガラス製容器間の摩擦力を測定するためにも用いられ得る。バイアル重畳テスト治具200は、交差する構成で配置された第1のクランプ212および第2のクランプ222を備える。第1のクランプ212は、第1のベース216に連結する第1の固定アーム214を備える。第1の固定アーム214には第1のガラス製容器210が取り付けられており、第1のガラス製容器210は第1のクランプ212に対して固定して保持されている。同様に、第2のクランプ222は第2のベース226に連結する第2の固定アーム224を備える。第2の固定アーム224には第2のガラス製容器220が取り付けられており、ガラス製容器220は第2のクランプ222に対して固定して保持されている。第1のガラス製容器210の長軸と第2のガラス製容器220の長軸とがx-y軸によって定義される水平面上で互いに約90°の角度で配置されるよう、第1のガラス製容器210は第1のクランプ212で位置決めされていると共に第2のガラス製容器220は第2のクランプ222で位置決めされている。
【0096】
第1のガラス製容器210は、接触点230で第2のガラス製容器220と接触するよう配置されている。垂直力は、x-y軸によって定義される水平面とは直交する方向に加えられる。垂直力は、固定式の第1のクランプ212に対して第2のクランプ222に加えられる静重量または他の力によって適用され得る。例えば、重しを第2のベース226上に置き、第1のベース216を安定した表面に配置し、これにより、接触点230で第1のガラス製容器210と第2のガラス製容器220との間に測定可能な力が誘起させてもよい。あるいは、力は、UMT(ユニバーサル機械式テスタ)マシンなどの機械装置で加えられてもよい。
【0097】
第1のクランプ212または第2のクランプ222は、第1のガラス製容器210の長軸および第2のガラス製容器220の長軸と共に、45°の角度の方向に、他方と相対的に動かされてもよい。例えば、第1のクランプ212が固定され、第2のクランプ222が、第2のガラス製容器220が第1のガラス製容器210をx-軸の方向に横切るよう動かされてもよい。同様の機構が、R.L.De Rosa et al.,「Scratch Resistant Polyimide Coatings for Alumino Silicate Glass surfaces」,The Journal of Adhesion,78:113-127、2002によって記載されている。摩擦係数を測定するために、第2のクランプ222を動かすために必要とされる力と、第1および第2のガラス製容器210、220に加えられた垂直力とが荷重計で測定され、摩擦係数は摩擦力および垂直力の比率の商として算出される。治具は25℃および相対湿度50%の環境で操作される。
【0098】
本明細書に記載の実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分は、上記のバイアル重畳治具による測定で、同様のコーティングされたガラス製容器に対して約0.7以下の摩擦係数を有する。他の実施形態において、摩擦係数は約0.6以下、または、さらには約0.5以下であり得る。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分は、約0.4以下、または、さらには約0.3以下の摩擦係数を有する。約0.7以下の摩擦係数を有するコーティングされたガラス製容器は、一般に、摩擦による損傷に対して高い耐性を示し、その結果、高い機械特性を有する。例えば、従来のガラス製容器(低摩擦コーティングを有さない)は、0.7を超える摩擦係数を有し得る。
【0099】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、同一のガラス組成物から形成されたコーティングされていないガラス製容器の表面の摩擦係数よりも少なくとも20%低い。例えば、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、同一のガラス組成物から形成されたコーティングされていないガラス製容器の表面の摩擦係数よりも、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、または、さらには少なくとも50%小さければよい。
【0100】
いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分は、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃の温度に、30分間の間曝露した後に約0.7以下の摩擦係数を有し得る。他の実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分は、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃の温度に、30分間の間曝露した後に、約0.7以下の摩擦係数(すなわち、約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、または、さらには約0.3以下)を有し得る。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、約260℃の温度に30分間曝露された後に、約30%を超えては増大し得ない。他の実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃の温度に30分間曝露された後に、約30%(すなわち、約25%、約20%、約15%、または、さらには約10%)を超えて増大し得ない。他の実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃の温度に30分間曝露された後に、約0.5(すなわち、約0.45、約.04、約0.35、約0.3、約0.25、約0.2、約0.15、約0.1、または、さらには約0.5)を超えて増大し得ない。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃の温度に30分間曝露された後に、まったく増大し得ない。
【0101】
いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分は、約70℃の温度で10分間水浴中に浸漬された後に、約0.7以下の摩擦係数を有し得る。他の実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分は、約70℃の温度で5分間、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、または、さらには1時間水浴中に浸漬された後に、約0.7以下の摩擦係数(すなわち、約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、または、さらには約0.3以下)を有し得る。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、約70℃の温度で10分間水浴中に浸漬された後に、約30%を超えて増大し得ない。他の実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、約70℃の温度で5分間、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、または、さらには1時間水浴中に浸漬された後に、約30%(すなわち、約25%、約20%、約15%、または、さらには約10%)を超えて増大し得ない。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、約70℃の温度で5分間、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、または、さらには1時間水浴中に浸漬された後に、まったく増加し得ない。
【0102】
いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分は、凍結乾燥条件への曝露後に、約0.7以下の摩擦係数を有し得る。他の実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分は、凍結乾燥条件への曝露後に、約0.7以下の摩擦係数(すなわち、約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、または、さらには約0.3以下)を有し得る。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、凍結乾燥条件への曝露後に、約30%を超えて増大し得ない。他の実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、凍結乾燥条件への曝露後に、約30%(すなわち、約25%、約20%、約15%、または、さらには約10%)を超えて増大し得ない。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、凍結乾燥条件への曝露後に、まったく増加し得ない。
【0103】
いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分は、オートクレーブ条件への曝露後に、約0.7以下の摩擦係数を有し得る。他の実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分は、オートクレーブ条件への曝露後に、約0.7以下の摩擦係数(すなわち、約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、または、さらには約0.3以下)を有し得る。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、オートクレーブ条件への曝露後に、約30%を超えて増大し得ない。他の実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、オートクレーブ条件への曝露後に、約30%(すなわち、約25%、約20%、約15%、または、さらには約10%)を超えて増大し得ない。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス製容器の一部分の摩擦係数は、オートクレーブ条件への曝露後に、まったく増加し得ない。
【0104】
本明細書に記載のコーティングされたガラス製容器は水平圧縮強度を有する。
図1を参照すると、本明細書に記載の水平圧縮強度は、ガラス製容器の長軸と並行に配向された2つの並行なプラテンの間にコーティングされたガラス製容器100を水平に配置することにより測定される。次いで、プラテンによって機械荷重がコーティングされたガラス製容器100に対して、ガラス製容器の長軸と直交する方向に加えられる。バイアルの圧縮に係る荷重速度は0.5in/minであり、これは、プラテンが、0.5in/minの速度で互いに向かって動くことを意味する。水平圧縮強度は25℃および相対湿度50%で測定される。水平圧縮強度の測定値は、選択された垂直圧縮荷重における破壊の確率として求められることが可能である。本明細書において用いられるところ、水平圧縮下で少なくともサンプルの50%においてガラス製容器が破損した場合に破壊が生じたものとする。いくつかの実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、未コーティングのバイアルよりも少なくとも10%、20%または30%大きい水平圧縮強度を有し得る。
【0105】
ここで
図1および
図9を参照すると、水平圧縮強度の測定は、擦過ガラス製容器においても実施され得る。具体的には、テスト治具200が操作されることにより、コーティングされたガラス製容器100の強度を低下させる表面スクラッチまたは擦傷などの損傷がコーティングされたガラス製容器の外表面122に形成され得る。次いで、ガラス製容器が上記の水平圧縮法に供されるが、ここでは、容器は、スクラッチがプラテンと並行に外側に向くよう2つのプラテンの間に配置される。スクラッチは、バイアル重畳治具によって加えられる選択された垂直圧力とスクラッチ長さとによって特徴付けられることが可能である。別段の定めがある場合を除き、水平圧縮法に係る擦過ガラス製容器に対するスクラッチは、30Nの垂直荷重で形成された20mmのスクラッチ長さにより特徴付けられる。
【0106】
コーティングされたガラス製容器は、熱処理の後に水平圧縮強度について評価することが可能である。熱処理は、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃の温度に対する30分間の曝露であり得る。いくつかの実施形態において、コーティングされたガラス製容器の水平圧縮強度は、上記のものなどの熱処理に曝露され、次いで、上記のとおり擦過された後に、約20%、30%、または、さらには40%を超えて低減されない。一実施形態において、コーティングされたガラス製容器の水平圧縮強度は、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃で、30分間の熱処理に曝露され、次いで、擦過された後に、約20%を超えて低減されない。
【0107】
本明細書に記載のコーティングされたガラス製物品は、少なくとも260℃の温度で30分間の時間の加熱ステップ後においても熱的に安定であり得る。本明細書において用いられるところ、「熱的に安定である」という句は、曝露後に、特に摩擦係数および水平圧縮強度といったコーティングされたガラス製物品の機械特性が影響を受けたとしても最低限であるよう、ガラス製物品に適用された低摩擦コーティングが、高温への曝露後にガラス製物品の表面上で実質的に損なわれていないままであることを意味する。これは、低摩擦コーティングは高温への曝露後にもガラスの表面に付着したままであり、ガラス製物品が、擦傷、衝撃等などの機械的な傷から継続して保護されていることを示している。
【0108】
本明細書に記載の実施形態において、コーティングされたガラス製物品が、特定の温度への加熱および特定の時間のその温度での保持後に、摩擦係数基準および水平圧縮強度基準の両方を満たす場合には、コーティングされたガラス製物品は熱的に安定であるとみなされる。摩擦係数基準が満たされているかを判定するために、第1のコーティングされたガラス製物品の摩擦係数は、入手状態(すなわち、熱曝露の前)において、
図9に示されているテスト治具を用いて30N負荷荷重で測定される。第2のコーティングされたガラス製物品(すなわち、第1のコーティングされたガラス製物品と同一のガラス組成および同一のコーティング組成を有するガラス製物品)は規定の条件下で熱に曝露され、室温に冷却される。その後、第2のガラス製物品の摩擦係数は、
図9に示されているテスト治具を用いて、コーティングされたガラス製物品を
30N負荷荷重で擦過しておよそ20mmの長さを有する擦過(すなわち、「スクラッチ」)をもたらすことにより測定される。第2のコーティングされたガラス製物品の摩擦係数が0.7未満であり、擦過領域における第2のガラス製物品のガラスの表面に観察可能な損傷をまったく有さない場合、摩擦係数基準は、低摩擦コーティングの熱安定性を測定する目的を満たしている。本明細書において用いられるところ、「観察可能な損傷」という用語は、ガラス製物品の擦過領域におけるガラスの表面が、LEDまたはハロゲン光源を用いるノマルスキーまたは微分干渉コントラスト(DIC)分光顕微鏡で、100倍の倍率で観察した場合に、長さ0.5cmの擦過領域あたり6個未満のガラス割目が含まれることを意味する。ガラス割目またはガラス割れの基準の定義は、G.D.Quinn、「NIST Recommended Practice Guide:Fractography of Ceramics and Glasses」,NIST special publication,960-17(2006)に記載されている。
【0109】
水平圧縮強度基準が満たされているかを判定するために、第1のコーティングされたガラス製物品は、
図9に示されているテスト治具において30Nの荷重下で擦過されて20mmスクラッチが形成される。次いで、第1のコーティングされたガラス製物品は本明細書に記載の水平圧縮テストに供されて、第1のコーティングされたガラス製物品の残留強度が測定される。第2のコーティングされたガラス製物品(すなわち、第1のコーティングされたガラス製物品と同一のガラス組成および同一のコーティング組成を有するガラス製物品)は規定の条件下で熱に曝露され、室温に冷却される。その後、第2のコーティングされたガラス製物品は
図9に示されているテスト治具において30N荷重下で擦過される。次いで、第2のコーティングされたガラス製物品は、本明細書に記載のとおり水平圧縮テストに供され、第2のコーティングされたガラス製物品の残留強度が測定される。第2のコーティングされたガラス製物品の残留強度が第1のコーティングされたガラス製物品と比して約20%を超えて低減しない場合、水平圧縮強度基準は、低摩擦コーティングの熱安定性を判定する目的を満たしている。
【0110】
本明細書に記載の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、コーティングされたガラス製容器を少なくとも260℃の温度に約30分間曝露させた後に摩擦係数基準および水平圧縮強度基準が満たされた場合に熱的に安定であるとみなされる(すなわち、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約260℃の温度で約30分間の時間は熱的に安定である)。熱安定性は、約260℃~約400℃以下の温度でも評価され得る。例えば、いくつかの実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約270℃の温度、または、さらには約280℃の温度で約30分間の時間で基準が満たされた場合は、熱的に安定であるとみなされるであろう。さらに他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約290℃の温度、または、さらには約300℃の温度で約30分間の時間で基準が満たされた場合は、熱的に安定であるとみなされるであろう。さらなる実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約310℃の温度、または、さらには約320℃の温度で約30分間の時間で基準が満たされた場合は、熱的に安定であるとみなされるであろう。さらに他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約330℃の温度、または、さらには約340℃の温度で約30分間の時間で基準が満たされた場合は、熱的に安定であるとみなされるであろう。さらに他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約350℃の温度、または、さらには約360℃の温度で約30分間の時間で基準が満たされた場合は、熱的に安定であるとみなされるであろう。いくつかの他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約370℃の温度、または、さらには約380℃の温度で約30分間の時間で基準が満たされた場合は、熱的に安定であるとみなされるであろう。さらに他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約390℃の温度、または、さらには約400℃の温度で約30分間の時間で基準が満たされた場合は、熱的に安定であるとみなされるであろう。
【0111】
本明細書に開示のコーティングされたガラス製容器はまた、一連の温度にわたって熱的に安定であり得、これは、コーティングされたガラス製容器が、範囲における各温度で摩擦係数基準および水平圧縮強度基準を満たすことにより熱的に安定であることを意味する。例えば、本明細書に記載の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約260℃~約400℃以下の温度で熱的に安定であり得る。いくつかの実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約260℃~約350℃の範囲において熱的に安定であり得る。いくつかの他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約280℃~約350℃以下の温度で熱的に安定であり得る。さらに他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、少なくとも約290℃~約340℃で熱的に安定であり得る。他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、約300℃~約380℃の一連の温度で熱的に安定であり得る。他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器は、約320℃~約360℃の一連の温度で熱的に安定であり得る。
【0112】
本明細書に記載のコーティングされたガラス製容器は4点曲げ強さを有する。ガラス製容器の4点曲げ強さを測定するためには、コーティングされたガラス製容器100の前駆体となるガラス管が測定に用いられる。ガラス管は、ガラス製容器と同一の直径を有するが、ガラス製容器の底またはガラス製容器の口を備えていない(すなわち、管からガラス製容器を形成する前)。次いで、ガラス管は4点曲げ応力テストに供されて機械的な破壊が誘起される。テストは、相対湿度50%で、外側接触部材を9インチ(22.86センチメートル)離間させ、内側接触部材を3インチ(7.62センチメートル)離間させ、10mm/minの荷重速度で行われる。
【0113】
4点曲げ応力測定はまた、コーティングされ、擦過された管についても行われ得る。擦過バイアルの水平圧縮強度の測定において記載されているとおり、テスト治具200が操作されることにより、管の強度を低下させる表面スクラッチなどの擦傷が管表面に形成され得る。次いで、ガラス管が4点曲げ応力テストに供されて機械的な破壊が誘起される。テストは、25℃および相対湿度50%で、9インチ(22.86センチメートル)離間した外側プローブおよび3インチ(7.62センチメートル)離間した内側接触部材を10mm/minの荷重速度で用い、一方で、管がテスト中に張力下でスクラッチが形成されるよう配置されて行われる。
【0114】
いくつかの実施形態において、擦傷後の低摩擦コーティングを備えるガラス管の4点曲げ強さは、同一の条件下で擦過されたコーティングされていないガラス管に対するものよりも、平均で、少なくとも10%、20%、または、さらには50%高い機械的強度を示す。
【0115】
いくつかの実施形態において、コーティングされたガラス製容器100が同等のガラス製容器によって30N垂直力で擦過された後、コーティングされたガラス製容器100の擦過領域の摩擦係数は、同一箇所における30N垂直力での同等のガラス製容器によるさらなる擦傷後に、約20%を超えて増加しないか、または、まったく増加しない。他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器100が同等のガラス製容器によって30N垂直力で擦過された後、コーティングされたガラス製容器100の擦過領域の摩擦係数は、同一箇所における30N垂直力での同等のガラス製容器によるさらなる擦傷後に、約15%、または、さらには10%を超えて増加しないか、または、まったく増加しない。しかしながら、コーティングされたガラス製容器100のすべての実施形態がこのような特性を示すことは必須ではない。
【0116】
質量損失率とは、コーティングされたガラス製容器が選択された高温に選択された時間曝露された場合にコーティングされたガラス製容器100から遊離される揮発物の量に関連するコーティングされたガラス製容器100の測定可能な特性を指す。質量損失率は一般に、熱曝露によるコーティングの機械的劣化を示すものである。コーティングされたガラス製容器のガラス本体は報告された温度では測定可能な質量損失率を示さないために、質量損失率テストでは、本明細書において詳述されているとおり、ガラス製容器に適用された低摩擦コーティングについてのみ質量損失率データが得られる。複数の要因が質量損失率に影響し得る。例えば、コーティングから除去可能である有機材料の量が質量損失率に作用し得る。ポリマーにおける炭素主鎖および側鎖の破断は、理論上は100%のコーティングの除去をもたらすであろう。有機金属ポリマー材料は、典型的には、全有機成分を損失するが、無機成分は残される。それ故、質量損失率結果は、完全な理論的な酸化に対して、コーティングのどの程度が有機および無機であるか(例えば、コーティングの%シリカ)に基づいて正規化される。
【0117】
質量損失率を測定するために、コーティングされたガラスバイアルなどのコーティングされたサンプルは、先ず150℃に加熱され、この温度で30分間保持されてコーティングが乾燥され、H2Oがコーティングから効果的に留去される。次いで、サンプルは、空気中などの酸化環境中において、10℃/minの昇温速度で150℃から350℃に加熱される。質量損失率を測定する目的のためには、150℃~350℃において収集されたデータのみが考慮される。いくつかの実施形態において、低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、その質量の約5%未満の質量損失率を有する。他の実施形態において、低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、約3%未満、または、さらには約2%未満の質量損失率を有する。いくつかの他の実施形態において、低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、約1.5%未満の質量損失率を有する。いくつかの他の実施形態において、低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、実質的にその質量を損失しない。
【0118】
質量損失率結果は、コーティングされたガラス製容器の重量が、本明細書に記載のとおり10°/分の昇温温度で150℃から350℃などの熱処理の前後で比較される手法に基づいている。熱処理前のバイアルと熱処理後のバイアルとの間の重量差がコーティングの重量損失であり、これを、コーティングの熱処理前重量(容器のガラス本体を含まず、予加熱ステップ後の重量)がコーティングされていないガラス製容器の重量と処理前コーティングされたガラス製容器の重量とを比較することにより分かるように、コーティングの重量損失割合として基準化することが可能である。あるいは、コーティングの総質量は、総有機炭素テストまたは同様の手段によって判定され得る。
【0119】
脱ガスとは、コーティングされたガラス製容器が選択された高温に選択された時間曝露された場合にコーティングされたガラス製容器100から遊離される揮発物の量に関連するコーティングされたガラス製容器100の測定可能な特性を指す。脱ガス測定値は、本明細書において、高温へのある時間での曝露中における、コーティングを有するガラス製容器の表面積あたりの遊離した揮発物の重量による量として報告される。コーティングされたガラス製容器のガラス本体は脱ガスについて報告された温度では測定可能な脱ガスを示さないために、脱ガステストでは、上記において詳述されているとおり、実質的に、ガラス製容器に適用された低摩擦コーティングについてのみ脱ガスデータが得られる。脱ガス結果は、コーティングされたガラス製容器100が
図10に示されている装置400のガラスサンプルチャンバ402中に置かれる手法に基づいている。空のサンプルチャンバのバックグラウンドサンプルが各サンプル試験に先行して収集される。サンプルチャンバが100ml/minの一定の空気パージ下に保持される一方で、加熱炉404が350℃に加熱され、その温度で1時間保持されてチャンババックグラウンドサンプルが収集される。その後、コーティングされたガラス製容器100がサンプルチャンバ402中に置かれ、サンプルチャンバが100ml/minの一定の空気パージ下に保持され、高温に加熱され、その温度で一定時間保持されてコーティングされたガラス製容器100からサンプルが収集される。ガラスサンプルチャンバ402はPyrex(登録商標)製であり、最高分析温度が600℃に限定されている。Carbotrap 300吸着媒トラップ408がサンプルチャンバの排出ポートに構築されており、サンプルから放出され、揮発性種吸着用の吸収剤樹脂に空気パージガス410によって吹き込まれることで、もたらされる揮発性種が吸着される。次いで、吸収剤樹脂が、Hewlett Packard 5890 Series IIガスクロマトグラフィ/Hewlett Packard 5989 MSエンジンと直接組み合わされたGerstel Thermal Desorptionユニットに直接置かれる。脱ガス種は350℃で吸着媒樹脂から熱的に脱着され、非極性ガスクロマトグラフィカラム(DB-5MS)のヘッドに極低温で集められる。ガスクロマトグラフィ中の温度は325℃の最終温度まで10℃/minの速度で昇温されて、揮発性および半揮発性有機種の分離および精製が行われる。分離メカニズムは、実質的に沸点または蒸留クロマトグラムがもたらされる異なる有機種の蒸発熱に基づくものとして実証されている。分離の後、精製された種が従来の電子衝撃イオン化質量分析プロトコルによって分析される。標準条件下で操作されることにより、得られる質量スペクトルが既存の質量スペクトルライブラリと比較され得る。
【0120】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のコーティングされたガラス製容器は、約250℃、約275℃、約300℃、約320℃、約360℃、または、さらには約400℃の高温への約15分間、約30分間、約45分間または約1時間の時間の曝露の最中に、約54.6ng/cm2以下、約27.3ng/cm2以下、または、さらには、約5.5ng/cm2以下の脱ガスを示す。さらに、コーティングされたガラス製容器は特定の温度範囲において熱的に安定であり得、これは、コーティングされた容器は、特定の範囲中のすべての温度で上記のとおり一定の脱ガスを示すことを意味する。脱ガス測定に先立って、コーティングされたガラス製容器は、素コーティング状態(すなわち、低摩擦コーティングを適用した直後)、または、発熱物質除去、凍結乾燥もしくはオートクレービングのいずれか1つの後であり得る。いくつかの実施形態において、コーティングされたガラス製容器100は実質的に脱ガスを示し得ない。
【0121】
いくつかの実施形態において、脱ガスデータは、低摩擦コーティングの質量損失率を測定するために用いられ得る。熱処理前コーティング質量は、コーティングの厚さ(SEMイメージまたは他の様式により測定)、低摩擦コーティングの密度およびコーティングの表面積により測定可能である。その後、コーティングされたガラス製容器は脱ガス法に供されることが可能であり、質量損失率は、脱ガスにおいて放出される質量対熱処理前質量の比を見出すことにより測定可能である。
【0122】
図11を参照すると、コーティングされた容器の透明度および色は、400~700nmの一連の波長において分光測光計を用いて容器の光透過率を測定することにより評価され得る。測定は、ビームが低摩擦コーティングを2回通過(容器への入射時に1回、次いで、出射時)するよう容器壁部に対して垂直に光ビームが指向されるよう行われる。いくつかの実施形態において、コーティングされたガラス製容器の光透過率は、約400nm~約700nmの波長について、コーティングされていないガラス製容器の光透過率の約55%以上であり得る。本明細書に記載されているとおり、光透過率は、本明細書に記載の熱処理などの熱処理の前または熱処理の後に測定可能である。例えば、約400nm~約700nmの各波長について、光透過率は、コーティングされていないガラス製容器の光透過率の約55%以上であり得る。他の実施形態において、コーティングされたガラス製容器の光透過率は、約400nm~約700nmの波長について、コーティングされていないガラス製容器の光透過率の約55%以上、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、または、さらには約90%である。
【0123】
本明細書に記載されているとおり、光透過率は、本明細書に記載の熱処理などの環境処理の前、または、環境処理の後に測定可能である。例えば、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃で30分間の熱処理後、または、凍結乾燥条件への曝露後に、または、オートクレーブ条件への曝露後に、コーティングされたガラス製容器の光透過率は、約400nm~約700nmの波長について、コーティングされていないガラス製容器の光透過率の約55%以上、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、または、さらには約90%である。
【0124】
いくつかの実施形態において、コーティングされたガラス製容器100は、すべての角度から見たときにヒトの裸眼に対して無色および透明として認識され得る。いくつかの他の実施形態において、低摩擦コーティング120は、低摩擦コーティング120がAldrichから市販されている、ポリ(ピロメリト酸二無水物-コ-4,4’-オキシジアニリン)アミド酸から形成されたポリイミドを含む場合など、知覚可能な色合いを有していてもよい。
【0125】
いくつかの実施形態において、コーティングされたガラス製容器100は、粘着ラベルが貼り付け可能である低摩擦コーティング120を有し得る。換言すると、コーティングされたガラス製容器100は、粘着ラベルがしっかりと取り付けられるよう、コーティングされた表面上に粘着ラベルが貼り付けられ得る。しかしながら、粘着ラベルを取り付けることが可能であることは、本明細書に記載のコーティングされたガラス製容器100のすべての実施形態について必要とされるものではない。
【実施例】
【0126】
以下の実施例により、低摩擦コーティングを備えるガラス製容器の種々の実施形態をさらに明確化する。実施例は例示的性質のものであり、本開示の主題を限定するものとして理解されるべきではない。
【0127】
実施例1
ガラスバイアルをSchott Type 1Bガラスから形成し、ガラス組成をCorning,Incorporatedに譲渡された2012年10月25日に出願され、「Glass Compositions with Improved Chemical and Mechanical Durability」と題された米国特許出願第13/660894号明細書の表1の「Example E」のとおり特定した(本明細書以降において、「基準ガラス組成物」という)。これらのバイアルを脱イオン水で洗浄し、窒素で通風乾燥させ、APS(アミノプロピルシルセスキオキサン)の0.1%溶液で浸漬コーティングをした。APSコーティングを対流オーブン中において100℃で15分間かけて乾燥させた。次いで、これらのバイアルを、15/85トルエン/DMF溶液中のNovastrat(登録商標)800ポリアミド酸の0.1%溶液、または、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の0.1%~1%ポリ(ピロメリト酸二無水物-コ-4,4’-オキシジアニリン)アミド酸溶液(Kapton前駆体)中に浸漬した。コーティングされたバイアルを150℃に加熱し、20分間保持して溶剤を蒸発させた。その後、コーティングされたバイアルを予熱した加熱炉中に入れることにより、コーティングを300℃で30分間硬化させた。硬化の後、Novastrat(登録商標)800の0.1%溶液でコーティングしたバイアルは視認可能な色を有していなかった。しかしながら、ポリ(ピロメリト酸二無水物-コ-4,4’オキシジアニリン)の溶液でコーティングしたバイアルは、色が視覚的に黄色であった。両方のコーティングが、バイアル-バイアル接触テストで低い摩擦係数を示した。
【0128】
実施例2
Schott Type 1Bガラスバイアルから形成したガラスバイアル(入手状態/未コーティング)および低摩擦コーティングでコーティングしたバイアルを比較して、擦傷による機械的強度の損失を評価した。コーティングされたバイアルは、先ず、基準ガラス組成物から製造したガラスバイアルをイオン交換強化することにより製造した。イオン交換強化は、100%KNO3浴において450℃で8時間かけて行った。その後、これらのバイアルを脱イオン水で洗浄し、窒素で通風乾燥させ、APS(アミノプロピルシルセスキオキサン)の0.1%溶液で浸漬コーティングをした。APSコーティングを対流オーブン中において100℃で15分間かけて乾燥させた。次いで、これらのバイアルを、15/85トルエン/DMF溶液中のNovastrat(登録商標)800ポリアミド酸の0.1%溶液に浸漬した。コーティングされたバイアルを150℃に加熱し、20分間保持して溶剤を蒸発させた。その後、コーティングされたバイアルを予熱した加熱炉中に入れることにより、コーティングを300℃で30分間硬化させた。次いで、コーティングされたバイアルを70℃の脱イオン水中に1時間浸漬し、空気中に320℃で2時間加熱して実際の処理条件をシミュレートした。
【0129】
Schott Type 1Bガラスから形成した未擦過バイアル、ならびに、イオン交換強化およびコーティングされた基準ガラス組成物から形成した未擦過バイアルを、水平圧縮テストにおいて破壊に対してテストした(すなわち、プレートをバイアルの上部に置くと共にプレートをバイアルの下部に置き、両方のプレートを一緒に押して破壊時の負荷荷重を荷重計で測定した)。
図12は、基準ガラス組成物から形成したバイアル、コーティングされた擦過状態の基準ガラス組成物から形成したバイアル、Schott Type 1Bガラスから形成したバイアル、および、擦過状態のSchott Type 1Bガラスから形成したバイアルに対する水平圧縮テストにおける負荷荷重に応じる破壊確率を図示する。未擦過バイアルの破壊荷重がワイブルプロットで図示されている。次いで、Schott Type 1Bガラスから形成したサンプルバイアルおよびイオン交換強化されコーティングされたガラスから形成した未擦過バイアルを
図9のバイアル重畳治具に配置してバイアルを擦過して、0.3mmの直径を有する接触領域でこすりあわすことでバイアル間の摩擦係数を測定した。テスト中のバイアルに対する荷重は、UMTマシンで加え、24N~44Nの間で変化させた。負荷荷重および対応する最大摩擦係数は、
図13に含まれている表に報告されている。未コーティングのバイアルについては、最大摩擦係数は0.54~0.71で変化させ(
図13において、それぞれ、バイアルサンプル「3&4」および「7&8」として示されている)、一方で、コーティングされたバイアルについては、最大摩擦係数は0.19~0.41で変化させた(
図13において、それぞれ、バイアルサンプル「15&16」および「12&14」として示されている)。その後、スクラッチしたバイアルを水平圧縮テストにおいてテストして未擦過バイアルに対する機械的強度の損失を評価した。未擦過バイアルに加わった破壊荷重は
図12のワイブルプロット中に図示されている。
【0130】
図12に示されているとおり、未コーティングのバイアルは擦傷後には強度が顕著に低下し、一方で、コーティングされたバイアルは、擦傷後の強度の低下は比較的軽微であった。これらの結果に基づくと、バイアル重畳擦傷後の強度の損失を軽減するためには、バイアル間の摩擦係数は、0.7もしくは0.5未満、または、さらには0.45未満であるべきであると考えられている。
【0131】
実施例3
本実施例においては、複数の組のガラス管を4点曲げでテストしてそれぞれの強度を評価した。基準ガラス組成物から形成した1組目の管を入手状態(未コーティングで、非イオン交換強化済)で4点曲げにおいてテストした。基準ガラス組成物から形成した2組目の管を、100%KNO
3浴中において450℃で8時間イオン交換強化した後4点曲げにおいてテストした。基準ガラス組成物から形成した3組目の管を、100%KNO
3浴中において450℃で8時間イオン交換強化し、実施例2において記載のとおり0.1%APS/0.1%Novastrat(登録商標)800でコーティングした後に、4点曲げにおいてテストした。コーティングされた管をまた、70℃脱イオン水中に1時間浸し、空気中で320℃で2時間加熱して実際の処理条件をシミュレートした。これらのコーティングされた管をまた、曲げテストの前に、30N荷重下で
図9に示すバイアル重畳治具において擦過した。基準ガラス組成物から形成した4組目の管を、100%KNO
3浴中において450℃で1時間イオン交換強化した後に4点曲げにおいてテストした。これらの未コーティングのイオン交換強化管をまた、曲げテストの前に、30N荷重下で
図9に示すバイアル重畳治具において擦過した。Schott Type 1Bガラスから形成した5組目の管を、入手状態(未コーティング、非イオン交換強化済)で4点曲げにおいてテストした。Schott Type 1Bガラスから形成した6組目の管を、100%KNO
3浴中において450℃で1時間イオン交換強化した後に4点曲げにおいてテストした。テスト結果は、
図14に示されているワイブルプロットで図示されている。
【0132】
図14を参照すると、擦過しておらず、基準ガラス組成物から形成し、イオン交換強化した2組目の管は、壊れる前に最も高い応力に耐えた。擦過前の0.1%APS/0.1%Novastrat(登録商標)800でコーティングされた3組目の管は、未コーティングの擦過していない同等の物(すなわち、2組目の管)と比して強度のわずかな低下を示した。しかしながら、コーティング後に擦過に供したにもかかわらず強度の低下は比較的軽微であった。
【0133】
実施例4
2組のバイアルを調製し、医薬品充填ラインに通した。感圧テープ(富士フイルム株式会社から市販されている)をバイアルの間に差し込んで、バイアル間、ならびに、バイアルと器具との間の接触/衝撃力を測定した。1組目のバイアルは、基準ガラス組成物から形成し、コーティングされていないものであった。2組目のバイアルは、上記のとおり、基準ガラス組成物から形成し、約0.25の摩擦係数を有する低摩擦ポリイミド系コーティングでコーティングされたものであった。感圧テープを、バイアルを医薬品充填ラインに通した後に分析したところ、2組目のコーティングされたバイアルは1組目の未-コーティングのバイアルと比して応力の2~3倍の低減が示すことが実証された。
【0134】
実施例5
3組の4つのバイアルの各々を調製した。すべてのバイアルは、基準ガラス組成物から形成した。1組目のバイアルを、実施例2において記載のとおり、APS/Novastrat(登録商標)800コーティングでコーティングした。2組目のバイアルを、トルエン中の0.1%DC806Aで浸漬コーティングした。溶剤を50℃で蒸発させ、コーティングを300℃で30分間硬化させた。バイアルの各組を管中に入れ、空気パージ下に320℃で2.5時間加熱して、実験室の環境においてバイアル吸着された微量の汚染物を除去した。次いで、サンプルの各組を管の中でさらに30分間加熱し、脱ガスした揮発物を活性炭素吸着剤トラップで捕集した。トラップを30分間かけて350℃に加熱して捕集した材料をすべて脱着させて、これをガスクロマトグラフィ-質量分光計に供給した。
図15は、APS/Novastrat(登録商標)800コーティングに対するガスクロマトグラフィ-質量分光計出力データを示す。
図16は、DC806Aコーティングに対するガスクロマトグラフィ-質量分光計出力データを示す。0.1%APS/0.1%Novastrat(登録商標)800コーティングまたはDC806Aコーティングから脱ガスは検出されなかった。
【0135】
1組の4つのバイアルを、メタノール/水混合物中の0.5%/0.5%GAPS/APhTMS溶液を用いる結束層でコーティングした。各バイアルは、約18.3cm2のコーティングした表面積を有していた。溶剤を、120℃で15分間かけてコーティングされたバイアルから蒸発させた。次いで、ジメチルアセタミド中の0.5%Novastrat(登録商標)800溶液をサンプルに適用した。溶剤を150℃で20分間かけて蒸発させた。これらの未硬化のバイアルを上記の脱ガステストに供した。これらのバイアルを空気流(100mL/min)中で320℃に加熱し、320℃に達したら、脱ガスした揮発物を15分間毎に活性炭素吸着剤トラップで捕集した。次いで、トラップを30分間かけて350℃に加熱して捕集した材料をすべて脱着させて、これをガスクロマトグラフィ-質量分光計に供給した。表1は、サンプルを320℃に保持していた時間区分にわたる捕集した材料の量を示す。時間ゼロは、サンプルが最初に320℃の温度に達した時間に相当する。表1に見られるとおり、30分間加熱した後、揮発物の量は100ngの機器の検出限界未満に低下する。表1にはまた、コーティングした表面1平方センチメートルあたりの揮発物の損失が報告されている。
【0136】
【0137】
実施例6
複数のバイアルを、カップリング剤を伴って、および、伴わずにケイ素樹脂またはポリイミド系の種々のコーティングを伴って調製した。カップリング剤が用いられる場合、カップリング剤は、APSの前駆体であるAPSおよびGAPS(3-アミノプロピルトリアルコキシシラン)を含んでいた。外側コーティング層は、Novastrat(登録商標)800、上記のポリ(ピロメリト酸二無水物-コ-4,4’オキシジアニリン)、または、DC806AおよびDC255などのシリコーン樹脂から調製した。APS/Kaptonコーティングは、APS(アミノプロピルシルセスキオキサン)の0.1%溶液、および、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中のポリ(ピロメリト酸二無水物-コ-4,4’-オキシジアニリン)アミド酸(Kapton前駆体)の0.1%溶液、0.5%溶液または1.0%溶液を用いて調製した。また、Kaptonコーティングを、カップリング剤を伴わずに、NMP中のポリ(ピロメリト酸二無水物-コ-4,4’オキシジアニリン)の1.0%溶液を用いて適用した。APS/Novastrat(登録商標)800コーティングを、APS(アミノプロピルシルセスキオキサン)の0.1%溶液および15/85トルエン/DMF溶液中のNovastrat(登録商標)800ポリアミド酸の0.1%溶液を用いて調製した。DC255コーティングを、トルエン中のDC255の1.0%溶液を用いて、カップリング剤を伴わずにガラスに直接適用した。APS/DC806Aコーティングを、先ず水中のAPSの0.1%溶液を、次いで、トルエン中のDC806Aの0.1%溶液または0.5%溶液を適用することにより調製した。GAPS/DC806Aコーティングを、カップリング剤として水中の95重量%エタノール中のGAPSの1.0%溶液を、次いで、トルエン中のDC806Aの1.0%溶液を用いて適用した。カップリング剤およびコーティングを本明細書に記載のディップコーティング方法を用いて適用し、適用後にカップリング剤を加熱処理し、適用後にケイ素樹脂およびポリイミドコーティングを乾燥および硬化させた。コーティングの厚さを用いた溶液の濃度に基づいて推定した。
図17中に含まれる表には、種々のコーティング組成物、推定コーティング厚、および、テスト条件が列挙されている。
【0138】
その後、バイアルのいくつかをコーティングの損傷をシミュレーションするためにタンブラーにかけ、他のものを
図9に示すバイアル重畳治具において、30Nおよび50N荷重下で擦傷に供した。その後、すべてのバイアルを、バイアルに0.5mLの塩化ナトリウム溶液を充填し、次いで、-100℃で凍結させる凍結乾燥(凍結乾燥プロセス)に供した。次いで、凍結乾燥を20時間かけて-15℃、減圧下で行った。これらのバイアルを光学品質保証器具で、および、顕微鏡下で検査した。凍結乾燥によるコーティングに対する損傷は観察されなかった。
【0139】
実施例7
3組の6つのバイアルを調製して、未コーティングのバイアルおよびDow Corning DC 255 シリコーン樹脂でコーティングしたバイアル摩擦係数に対する荷重を増加した場合の影響を評価した。1組目のバイアルはType 1Bガラスから形成し、未コーティングのままとした。2組目のバイアルは、基準ガラス組成物から形成し、トルエン中のDC255の1%溶液でコーティングし、300℃で30分間硬化させた。3組目のバイアルは、Schott Type 1Bガラスから形成し、トルエン中のDC255の1%溶液でコーティングした。各組のバイアルを
図9中に図示したバイアル重畳治具に配置し、同様にコーティングしたバイアルに対する摩擦係数を、10N、30Nおよび50Nの静荷重下での擦傷の最中に測定した。結果が
図18に図示にて報告されている。
図18に示されているとおり、コーティングしたバイアルは、ガラス組成物に関係なく同一の条件下で擦過した場合に、未コーティングのバイアルと比してかなり低い摩擦係数を示した。
【0140】
実施例8
3組の2つのガラスバイアルをAPS/Kaptonコーティングと共に調製した。先ず、バイアルの各々を、APS(アミノプロピルシルセスキオキサン)の0.1%溶液中で浸漬コーティングした。APSコーティングを対流オーブン中において100℃で15分間かけて乾燥させた。次いで、これらのバイアルを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の0.1%ポリ(ピロメリト酸二無水物-コ-4,4’-オキシジアニリン)アミド酸溶液(Kapton前駆体)に浸漬した。その後、コーティングされたバイアルを300℃に予熱した加熱炉中に30分間入れることによりコーティングを硬化させた。
【0141】
2つのバイアルを
図9中に図示したバイアル重畳治具に配置し、10N荷重下で擦過した。擦傷法を同一の領域に対してさらに4回繰り返し、摩擦係数を擦傷の各々について測定した。これらのバイアルの擦傷の間を拭き、各擦傷の開始点を未だ擦過されていない領域に配置した。しかしながら、各擦傷は同一の「トラック」上を移動した。同一の手法を30Nおよび50Nの荷重について繰り返した。各擦傷の摩擦係数(すなわち、A1~A5)が、各荷重に対して
図19に図示されている。
図19に示されているとおり、APS/Kaptonコーティングしたバイアルの摩擦係数は、すべての荷重でのすべての擦傷について一般に0.30未満であった。この実施例は、カップリング剤で処理されたガラス表面上に適用された場合のポリイミドコーティングに係る擦傷に対する向上した耐性を実証するものである。
【0142】
実施例9
3組の2つのガラスバイアルをAPSコーティングと共に調製した。バイアルの各々をAPS(アミノプロピルシルセスキオキサン)の0.1%溶液中で浸漬コーティングし、対流オーブン中で100℃で15分間加熱した。2つのバイアルを
図9中に図示したバイアル重畳治具に配置し、10N荷重下で擦過した。擦傷法を同一の領域に対してさらに4回繰り返し、摩擦係数を擦傷の各々について測定した。これらのバイアルの擦傷の間を拭き、各擦傷の開始点を未だ擦過されていない領域に配置した。しかしながら、各擦傷は同一の「トラック」上を移動した。同一の手法を30Nおよび50Nの荷重について繰り返した。各擦傷の摩擦係数(すなわち、A1~A5)が、各荷重に対して
図20に図示されている。
図20に示されているとおり、APSのみでコーティングしたバイアルの摩擦係数は、一般に、0.3より高く、度々0.6、または、それ以上に達している。
【0143】
実施例10
3組の2つのガラスバイアルをAPS/Kaptonコーティングと共に調製した。バイアルの各々を、APS(アミノプロピルシルセスキオキサン)の0.1%溶液中で浸漬コーティングした。APSコーティングを対流オーブン中で100℃で15分間加熱した。次いで、これらのバイアルをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の0.1%ポリ(ピロメリト酸二無水物-コ-4,4’-オキシジアニリン)アミド酸溶液(Kapton前駆体)に浸漬した。その後、コーティングされたバイアルを300℃に予熱した加熱炉に30分間入れることによりコーティングを硬化させた。次いで、コーティングされたバイアルについて、300℃で12時間、発熱物質除去(加熱)を行った。
【0144】
2つのバイアルを
図9中に図示したバイアル重畳治具に配置し、10N荷重下で擦過した。擦傷法を同一の領域に対してさらに4回繰り返し、摩擦係数を擦傷の各々について測定した。これらのバイアルの擦傷の間を拭き、各擦傷の開始点を既に擦過した領域に配置し、各擦傷を同一の「トラック」上で実施した。同一の手法を30Nおよび50Nの荷重について繰り返した。各擦傷の摩擦係数(すなわち、A1~A5)が、各荷重に対して
図21に図示されている。
図21に示されているとおり、APS/Kaptonコーティングしたバイアルの摩擦係数は、10Nおよび30Nの荷重で導入した擦傷について、一般に均一であり、およそ0.20以下であった。しかしながら、負荷荷重が50Nに増やされると、各連続する擦傷について摩擦係数が増加し、5番目の擦傷は0.40よりわずかに小さい摩擦係数を有していた。
【0145】
実施例11
3組の2つのガラスバイアルをAPS(アミノプロピルシルセスキオキサン)コーティングと共に調製した。バイアルの各々を、APSの0.1%溶液中で浸漬コーティングし、対流オーブン中で100℃で15分間加熱した。次いで、コーティングされたバイアルについて、300℃で12時間、発熱物質除去(加熱)を行った。2つのバイアルを
図9中に図示したバイアル重畳治具に配置し、10N荷重下で擦過した。擦傷法を同一の領域に対してさらに4回繰り返し、摩擦係数を擦傷の各々について測定した。これらのバイアルの擦傷の間を拭き、各擦傷の開始点を既に擦過した領域に配置し、各擦傷は同一の「トラック」上を移動した。同一の手法を30Nおよび50Nの荷重について繰り返した。各擦傷の摩擦係数(すなわち、A1~A5)が、各荷重に対して
図22に図示されている。
図22に示されているとおり、12時間発熱物質除去したAPSコーティングしたバイアルの摩擦係数は、
図20に示されているAPSコーティングしたバイアルよりも顕著に高く、コーティングされていないガラスバイアルにより示される摩擦係数と同様であり、これにより、バイアルが擦傷のために機械的強度を顕著に失った可能性があることを示している。
【0146】
実施例12
Schott Type 1Bガラスから形成した3組の2つのガラスバイアルを、Kaptonコーティングと共に調製した。これらのバイアルをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の0.1%ポリ(ピロメリト酸二無水物-コ-4,4’-オキシジアニリン)アミド酸溶液(Kapton前駆体)に浸漬した。その後、コーティングを150℃で20分間乾燥させ、次いで、コーティングされたバイアルを300℃に予熱した加熱炉に30分間入れることにより硬化させた。
【0147】
2つのバイアルを
図9中に図示したバイアル重畳治具に配置し、10N荷重下で擦過した。擦傷法を同一の領域に対してさらに4回繰り返し、摩擦係数を擦傷の各々について測定した。これらのバイアルの擦傷の間を拭き、各擦傷の開始点を未だ擦過されていない領域に配置した。しかしながら、各擦傷は同一の「トラック」上を移動した。同一の手法を30Nおよび50Nの荷重について繰り返した。各擦傷の摩擦係数(すなわち、A1~A5)が、各荷重に対して
図23に図示されている。
図23に示されているとおり、Kaptonの摩擦係数は、コーティングしたバイアルは一般に最初の擦傷の後に増加し、カップリング剤を伴わずにガラス上に適用されたポリイミドコーティングの劣った耐摩耗性を実証していた。
【0148】
実施例13
実施例6のAPS/Novastrat(登録商標)800コーティングしたバイアルを、凍結乾燥後に、30N荷重で
図9に示すバイアル重畳治具を用いて摩擦係数についてテストした。摩擦係数における増加は凍結乾燥後に検出されなかった。
図24は、凍結乾燥の前後におけるAPS/Novastrat(登録商標)800コーティングしたバイアルに対する摩擦係数を示す表を含む。
【0149】
実施例14
基準ガラス組成物バイアルを、実施例2において記載のとおりイオン交換し、コーティングした。コーティングされたバイアルを以下のプロトコルを用いてオートクレーブに供した:100℃での10分間水蒸気パージ、続いて、20分間の停止時間(ここで、コーティングされたガラス製容器100は121℃環境に曝露される)、続いて、121℃での30分間の処理。オートクレーブバイアルおよび非オートクレーブバイアルに係る摩擦係数を30N荷重で
図9に示すバイアル重畳治具を用いて測定した。
図26は、オートクレービングの前後におけるAPS/Novastrat(登録商標)800コーティングしたバイアルに対する摩擦係数を示す。摩擦係数における増加はオートクレービング後に検出されなかった。
【0150】
実施例15
3組のバイアルを調製して、バイアルに対する損傷を軽減するコーティングの効力を評価した。1組目のバイアルを、ポリイミド外側コーティングで、後に中間体カップリング剤層でコーティングした。外側層はNovastrat(登録商標)800ポリイミドからなり、これは、ジメチルアセタミド中のポリアミド酸の溶液として適用し、300℃に加熱することによりイミド化した。カップリング剤層を、1:8比のAPSおよびアミノフェニルトリメトキシシラン(APhTMS)で構成した。これらのバイアルを320℃で12時間の発熱物質除去に供した。1組目のバイアルと同様に、2組目のバイアルを、中間体カップリング剤層と共にポリイミド外側コーティング層でコーティングした。2組目のバイアルを320℃で12時間の発熱物質除去に供し、次いで、121℃で1時間オートクレーブに供した。3組目のバイアルは未コーティングのままとした。次いで、バイアルの各組を、30N荷重下でバイアル重畳摩擦テストに供した。バイアルの各組に係る摩擦係数が
図27に報告されている。各バイアルに生じた損傷(または、損傷が存在しないこと)を示すバイアル表面の写真もまた
図27に示されている。
図27に示されているとおり、未コーティングのバイアルは、一般に、約0.7を超える摩擦係数を有していた。未コーティングのバイアルではまた、テストの結果、視覚的に知覚可能な損傷が生じた。しかしながら、コーティングされたバイアルは、視覚的に知覚可能な表面損傷をまったく伴わずに0.45未満の摩擦係数を有していた。
【0151】
コーティングされたバイアルをまた、上記のとおり発熱物質除去、オートクレーブ条件、または、両方に供した。
図25は、バイアルに対する水平圧縮テストにおける負荷荷重に応じる破壊確率を図示する。発熱物質除去バイアルと発熱物質除去およびオートクレーブバイアルとの間で統計的な差異は見られなかった。
【0152】
実施例16
ここで
図28を参照すると、バイアルを3種の異なるコーティング組成物と共に調製して、適用したコーティングの摩擦係数に対するシランの異なる比の効果を評価した。第1のコーティング組成物は、1:1比のGAPS対アミノフェニルトリメチルオキシシランおよび1.0%Novastrat(登録商標)800ポリイミドからなる外側コーティング層を有するカップリング剤層を含んでいた。第2のコーティング組成物は、1:0.5比のGAPS対アミノフェニルトリメチルオキシシランおよび1.0%Novastrat(登録商標)800ポリイミドからなる外側コーティング層を有するカップリング剤層を含んでいた。第3のコーティング組成物は、1:0.2比のGAPS対アミノフェニルトリメチルオキシシランおよび1.0%Novastrat(登録商標)800ポリイミドからなる外側コーティング層を有するカップリング剤層を含んでいた。すべてのバイアルを320℃で12時間の発熱物質除去に供した。その後、バイアルを、20Nおよび30Nの荷重下でバイアル重畳摩擦テストに供した。各バイアルに対する加わった平均垂直力、摩擦係数、および最大摩擦力(Fx)が
図28において報告されている。
図28に示されているとおり、芳香族シラン(すなわち、アミノフェニルトリメチルオキシシラン)の量を減らすことで、バイアル間の摩擦係数、ならびに、バイアルに生じる摩擦力が増加する。
【0153】
実施例17
Type 1Bイオン交換ガラスから形成したバイアルを、シランを様々な比で有する低摩擦コーティングと共に調製した。
【0154】
サンプルを、1:8の比を有する0.125%APSおよび1.0%アミノフェニルトリメチルオキシシラン(APhTMS)から形成したカップリング剤層、および、0.1%Novastrat(登録商標)800ポリイミドから形成した外側コーティング層を含む組成で調製した。適用したコーティングの熱安定性を、発熱物質除去の前および後におけるバイアルの摩擦係数および摩擦力を測定することにより評価した。具体的には、コーティングしたバイアルを30Nの荷重下でバイアル重畳摩擦テストに供した。摩擦係数および摩擦力を測定し、これが時間に対して
図29にプロットされている。2組目のバイアルを320℃で12時間の発熱物質除去に供し、30Nの荷重下での同一のバイアル重畳摩擦テストに供した。摩擦係数は発熱物質除去の前後において共に同一のままであり、これは、コーティングが熱的に安定であったことを示していた。ガラスの接触領域の写真もまた示されている。
【0155】
サンプルを、1:8の比を有する0.0625%APSおよび0.5%アミノフェニルトリメチルオキシシラン(APhTMS)から形成したカップリング剤層、および、0.05%Novastrat(登録商標)800ポリイミドから形成した外側コーティング層を含む組成で調製した。適用したコーティングの熱安定性を、発熱物質除去の前および後におけるバイアルの摩擦係数および摩擦力を測定することにより評価した。具体的には、コーティングしたバイアルを30Nの荷重下でバイアル重畳摩擦テストに供した。摩擦係数および摩擦力を測定し、これが時間に対して
図37にプロットされている。2組目のバイアルを320℃で12時間の発熱物質除去に供し、30Nの荷重下での同一のバイアル重畳摩擦テストに供した。摩擦係数は発熱物質除去の前後において共に同一のままであり、これは、コーティングが熱的に安定であったことを示していた。ガラスの接触領域の写真もまた示されている。
【0156】
図38は、1:8の比を有する0.125%APSおよび1.0%アミノフェニルトリメチルオキシシラン(APhTMS)から形成した低摩擦コーティング、ならびに、0.1%Novastrat(登録商標)800ポリイミドから形成した外側コーティング層(
図38において「260」で示されている)、ならびに、1:8の比を有する0.0625%APSおよび0.5%アミノフェニルトリメチルオキシシラン(APhTMS)から形成した外側コーティング層、ならびに、0.05%Novastrat(登録商標)800ポリイミドから形成した外側コーティング層(
図38において「280」で示されている)を伴うバイアルに対する水平圧縮テストにおける負荷荷重に応じる破壊確率を図示する。ガラスの接触領域の写真もまた示されている。データは、破壊荷重が、未コーティングの未スクラッチサンプルからコーティングした発熱物質除去およびスクラッチサンプルに対して一定のままであることを示しており、コーティングによる損傷からのガラス保護が実証されている。
【0157】
バイアルを、シランの様々な比を有する低摩擦コーティングと共に調製した。サンプルを、1:1の比を有する0.5%Dynasylan(登録商標)Hydrosil 1151および0.5%アミノフェニルトリメチルオキシシラン(APhTMS)から形成したカップリング剤層、ならびに、0.05%Novastrat(登録商標)800ポリイミドから形成した外側コーティング層を含む組成で調製した。適用したコーティングの熱安定性を、発熱物質除去の前および後におけるバイアルの摩擦係数および摩擦力を測定することにより評価した。具体的には、コーティングしたバイアルを30Nの荷重下でバイアル重畳摩擦テストに供した。摩擦係数および摩擦力を測定し、これが時間に対して
図39にプロットされている。2組目のバイアルを320℃で12時間の発熱物質除去に供し、30Nの荷重下での同一のバイアル重畳摩擦テストに供した。摩擦係数は発熱物質除去の前後において共に同一のままであり、これは、コーティングが熱的に安定であったことを示していた。ガラスの接触領域の写真もまた示されている。これは、アミノシルセスキオキサンなどのアミノシランの水解物は、コーティング配合物においても有用であることを示唆している。
【0158】
適用したコーティングの熱安定性を一連の発熱物質除去条件についても評価した。具体的には、Type 1Bイオン交換ガラスバイアルを、1:1比のGAPS(0.5%)対アミノフェニルトリメチルオキシシラン(0.5%)を有するカップリング剤層、および、0.5%Novastrat(登録商標)800ポリイミドからなる外側コーティング層を含む組成で調製した。サンプルバイアルを以下の発熱物質除去サイクルの1つに供した:320℃で12時間、320℃で24時間、360℃で12時間、または、360℃で24時間。次いで、摩擦係数および摩擦力をバイアル重畳摩擦テストを用いて測定し、
図30に示されているとおり、各発熱物質除去条件について時間に対してプロットした。
図30に示されているとおり、バイアルの摩擦係数は発熱物質除去条件と共に変化することはなく、これは、コーティングが熱的に安定であったことを示していた。
図40は、360℃および320℃での様々な熱処理時間後の摩擦係数を図示する。
【0159】
実施例18
バイアルを、実施例2において記載のとおり、APS/Novastrat 800コーティングでコーティングした。コーティングしたバイアルの光透過率、ならびに、未コーティングのバイアルの光透過率を、400~700nmの一連の波長で分光測光計を用いて測定した。測定は、ビームが低摩擦コーティングを2回通過(容器への入射時に1回、次いで、出射時)するよう容器壁部に対して垂直に光ビームが指向されるよう行われる。
図11は、400~700nmの可視光スペクトルで測定されたコーティングされたバイアルおよび未コーティングのバイアルに対する光透過率データを図示する。線440はコーティングされていないガラス製容器を示し、線442コーティングされたガラス製容器を示す。
【0160】
実施例19
バイアルを、0.25%GAPS/0.25%APhTMSカップリング剤および1.0%Novastrat(登録商標)800ポリイミドでコーティングし、320℃で12時間の発熱物質除去の前および後において光透過率についてテストした。未コーティングのバイアルもまたテストした。結果が
図46に示されている。
【0161】
実施例20
ポリイミドコーティングの均一性を向上させるために、4gのトリエチルアミンを1Lのメタノール中に添加し、次いで、Novastrat(登録商標)800ポリアミド酸を添加して0.1%溶液を形成することにより、Novastrat(登録商標)800ポリアミド酸をポリアミド酸塩に転換させ、ジメチルアセタミドと比して蒸発が顕著に速い溶剤であるメタノール中に溶解させた。
【0162】
メタノール/水混合物中の1.0%GAPS/1.0%APhTMSおよびメタノール中の0.1%Novastrat(登録商標)800ポリアミド酸塩から形成した1Bイオン交換バイアル上のコーティング。コーティングされたバイアルを360℃で12時間の発熱物質除去に供し、非発熱物質除去サンプルおよび発熱物質除去サンプルを、バイアル重畳治具において10、20および30N垂直荷重でスクラッチした。10N、20Nおよび30Nの垂直力ではガラスの損傷は観察されなかった。
図1は、360℃で12時間の熱処理後のサンプルに対する摩擦係数、加わった力および摩擦力を示す。
図42は、サンプルに対する水平圧縮テストにおける負荷荷重に応じる破壊確率を図示する。統計的に、10N、20Nおよび30Nでの一連のサンプルは相互に区別可能であった。低荷重破壊サンプルはスクラッチから離れた基点から壊れた。
【0163】
図43~45にそれぞれ示されているとおり、コーティング層の厚さを偏光解析法および走査電子顕微鏡検査(SEM)を用いて推定した。コーティング厚測定用のサンプルをケイ素ウェハ(偏光解析法)およびスライドガラス(SEM)を用いて作製した。この方法は、シルセスキオキサン結束層について55~180nmおよびNovastrat(登録商標)800ポリアミド酸塩について35nmと様々な厚さを示す。
【0164】
実施例21
プラズマクリーニングしたSiウェハ片を、75/25メタノール/水vol/vol混合物中の0.5%GAPS、0.5%APhTMS溶液を用いて浸漬コーティングした。コーティングを120℃に15分間曝露した。コーティング厚を偏光解析法を用いて測定した。3つのサンプルを調製したところ、厚さは、それぞれ、92.1nm、151.7nmおよび110.2nmであり、標準偏差は30.6nmであった。
【0165】
スライドガラスを浸漬コーティングし、走査型電子顕微鏡で試験した。
図43は、1.0%GAPS、1.0%APhTMSおよび0.3%NMPのコーティング溶液中に、8mm/sの引き上げ速度で浸漬し、150℃で15分間硬化した後のSEMイメージスライドガラスを示す。コーティングは約93nm厚であるように見える。
図44は、1.0%GAPS、1.0%APhTMSおよび0.3%NMPのコーティング溶液中に、4mm/sの引き上げ速度で浸漬し、150℃で15分間硬化した後のSEMイメージスライドガラスを示す。コーティングは約55nm厚であるように見える。
図45は、0.5Novastrat(登録商標)800溶液のコーティング溶液中に2mm/sの引き上げ速度で浸漬し、150℃で15分間硬化し、320℃で30分間熱処理した後のSEMイメージスライドガラスを示す。コーティングは約35nm厚であるように見える。
【0166】
比較例A
Type 1Bガラスから形成したガラスバイアルを、固形分含有量が約1~2%であるBaysilone MのBayer Silicone水性エマルジョンの希釈コーティングでコーティングした。これらのバイアルを150℃で2時間処理して、表面から水を留去させて、ポリジメチルシロキサンコーティングをガラスの外表面に残留させる。コーティングの公称厚は約200nmであった。1組目のバイアルを未処理状態(すなわち、「素コーティングバイアル」)のままとした。2組目のバイアルを280℃で30分間処理した(すなわち、「処理済バイアル」)。各組からのバイアルのいくつかを、0から48Nに線形に増加する荷重で、およそ20mmの長さのスクラッチをUMT-2摩擦計を用いて加えることにより先ず機械的にテストした。スクラッチを摩擦係数および形態学について評価して、スクラッチ手法がガラスに損傷を与えたか、または、コーティングがスクラッチによる損傷からガラスを保護したかについて判定した。
【0167】
図33は、素コーティングバイアルに対する、加えたスクラッチの長さ(x座標)に応じる摩擦係数、スクラッチ侵入度、加わった垂直力および摩擦力(y座標)を示すプロットである。
図33において図示されているとおり、素コーティングバイアルは、約30Nの荷重以下でおよそ0.03の摩擦係数を示していた。データは、およそ30N未満では、COFは常に0.1未満であることを示している。しかしながら、30Nを超える垂直力では、スクラッチの長さに沿ったガラス割れの存在によって示されているとおり、コーティングは破損し始める。ガラス割れはガラス表面損傷を示しており、その損傷の結果によりガラスが破損する傾向が高まる。
【0168】
図34は、処理済バイアルに対する、加えたスクラッチの長さ(x座標)に応じる摩擦係数、スクラッチ侵入度、加わった垂直力および摩擦力(y座標)を示すプロットである。処理済バイアルについては、負荷荷重がおよそ5Nの値に達するまで摩擦係数は低いままであった。この時点でコーティングは破損し始め、荷重の増加に伴って生じた大量のガラス割れから明らかであるとおり、ガラス表面が激しく損傷していた。処理済バイアルの摩擦係数は約0.5に増加した。しかしながら、コーティングは熱曝露後には30Nの荷重でガラスの表面を保護することができず、コーティングは熱的に不安定であったことが示された。
【0169】
次いで、20mmスクラッチの全長にわたって30N静荷重を加えることによりバイアルをテストした。素コーティングバイアルの10個のサンプルおよび処理済バイアルの10個のサンプルを、20mmスクラッチの全長にわたって30N静荷重を加えることにより、水平圧縮においてテストした。素コーティングサンプルではスクラッチで破損したものはなかったが、一方で、10個の処理済バイアルのうち6個がスクラッチで破損し、処理済バイアルでは残留強度が低下していたことが示された。
【0170】
比較例B
Wacker Silres MP50(製品番号60078465番ロット番号EB21192番)の溶液を2%に希釈し、これを基準ガラス組成物から形成したバイアルに適用した。これらのバイアルは、コーティング前に、先ずプラズマを10秒間印加することによりクリーニングした。これらのバイアルを315℃で15分間乾燥させて水をコーティングから留去させた。1組目のバイアルは「素コーティング」状態に維持した。2組目のバイアルは250℃~320℃の範囲の温度で30分間した(すなわち、「処理済バイアル」)。各組からのバイアルのいくつかを、0から48Nに線形に増加する荷重で、およそ20mmの長さのスクラッチをUMT-2摩擦計を用いて加えることにより先ず機械的にテストした。スクラッチを摩擦係数および形態学について評価して、スクラッチ手法がガラスに損傷を与えたか、または、コーティングがスクラッチによる損傷からガラスを保護したかについて判定した。
【0171】
図35は、素コーティングバイアルに対する、加えたスクラッチの長さ(x座標)に応じる摩擦係数、スクラッチ侵入度、加わった垂直力および摩擦力(y座標)を示すプロットである。素コーティングバイアルはコーティングに対する損傷を示したが、ガラスに対する損傷は示さなかった。
【0172】
図36は、280℃で処理した処理済バイアルに対する、加えたスクラッチの長さ(x座標)に応じる摩擦係数、スクラッチ侵入度、加わった垂直力および摩擦力(y座標)を示すプロットである。処理済バイアルは、約20Nを超える負荷荷重で顕著なガラス表面損傷を示した。ガラス損傷に対する荷重閾値は、熱曝露温度の上昇に伴って低下し、コーティングは高い温度で劣化したことが示された(すなわち、コーティングは熱的に不安定)こともまた判定した。280℃未満の温度で処理したサンプルは30Nを超える荷重でガラス損傷を示した。
【0173】
比較例C
基準ガラス組成物から形成したバイアルを、水中で2%固形分に希釈したEvonik Silikophen P 40/Wで処理した。次いで、サンプルを150℃で15分間乾燥させ、その後、315℃で15分間硬化させた。1組目のバイアルは「素コーティング」状態に維持した。2組目のバイアルは260℃の温度で30分間処理した(すなわち、「260℃処理済バイアル」)。3組目のバイアルは280℃の温度で30分間処理した(すなわち、「280℃処理済バイアル」)。これらのバイアルを、
図9に示されているテスト治具を用いて30Nの静荷重でスクラッチした。次いで、これらのバイアルを水平圧縮においてテストした。260℃処理済バイアルおよび280℃処理済バイアルは圧縮で損傷し、一方で、16個の素コーティングバイアルのうち2個がスクラッチで損傷した。これは、コーティングは高温への曝露で劣化しており、その結果、コーティングは30N荷重から表面を十分に保護しなかったことを示す。
【0174】
前述の記載に基づいて、コーティングされたガラス製物品の種々の態様が本明細書に開示されていることがここで理解されるべきである。第1の態様によれば、コーティングされたガラス製物品は:第1の表面を備えるガラス本体、および、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に位置された低摩擦コーティングを備え、低摩擦コーティングはポリマー化学組成物を含み、ここで:コーティングされたガラス製物品は、少なくとも約260℃、または、さらには280℃の温度で30分間熱的に安定である。熱的に安定であるという用語は、(1)低摩擦コーティングを備える外表面の一部分の擦過領域の摩擦係数が、特定の高温への30分間の曝露および30N荷重下での擦傷の後に0.7未満であり、観察可能な損傷を有さず、ならびに、(2)水平圧縮におけるコーティングされたガラス製物品の残留強度が280℃の高温への30分間の曝露および30N荷重下での擦傷後に約20%を超えて低下しないことを意味する。この第1の態様のいくつかの実施形態において、コーティングされたガラス製物品を通した光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上である。この第1の態様のいくつかの実施形態において、低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、その質量の約5%未満の質量損失率を有する。
【0175】
第2の態様において、コーティングされたガラス製物品は、第1の表面を備えるガラス本体、および、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に位置された低摩擦コーティングを備え、低摩擦コーティングは:ポリマー化学組成物と、第1のシラン化学組成物、その加水分解物またはそのオリゴマーであって、第1のシラン化学組成物が芳香族シラン化学組成物であるもの、ならびに、少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物の少なくとも一方を含むカップリング剤とを含み、ここで:第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物は異なる化学組成物であり、コーティングされたガラス製物品は少なくとも約260℃の温度で30分間の間熱的に安定であり、コーティングされたガラス製物品を通した光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上であり、ならびに、低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、その質量の約5%未満の質量損失率を有する。
【0176】
第3の態様において、コーティングされたガラス製物品は、第1の表面を備えるガラス本体と、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に位置された低摩擦コーティングを備え、低摩擦コーティングは:1種または複数種のシラン化学組成物のオリゴマーを含むカップリング剤であって、オリゴマーがシルセスキオキサン化学組成物であり、シラン化学組成物の少なくとも1種が少なくとも1つの芳香族部分および少なくとも1つのアミン部分を含むカップリング剤と、少なくとも第1のジアミンモノマー化学組成物、第2のジアミンモノマー化学組成物および二無水物モノマー化学組成物の重合から形成されるポリイミド化学組成物とを含み、ここで、第1のジアミンモノマー化学組成物は第2のジアミンモノマー化学組成物とは異なるものである。
【0177】
第4の態様において、コーティングされたガラス製物品は、第1の表面を備えるガラス本体、および、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に位置された低摩擦コーティングを備え、低摩擦コーティングはポリマー化学組成物を含み、ここで:コーティングされたガラス製物品は少なくとも約300℃の温度で30分間の間熱的に安定であり、および、コーティングされたガラス製物品を通した光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上である。
【0178】
第5の態様において、コーティングされたガラス製物品は:第1の表面を備えるガラス本体および第1の表面の裏側の第2の表面を備え、ここで、第1の表面はガラス製容器の外表面であり、および、低摩擦コーティングはガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に結合しており、低摩擦コーティングはポリマー化学組成物を含み、ここで:コーティングされたガラス製物品は少なくとも約280℃の温度で30分間の間熱的に安定であり、および、コーティングされたガラス製物品を通した光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上である。
【0179】
第6の態様において、コーティングされたガラス製物品は:第1の表面を備えるガラス本体、および、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に結合した低摩擦コーティングを備え、低摩擦コーティングは:ガラス本体の第1の表面に位置されたカップリング剤層であって、カップリング剤を含むカップリング剤層を含み、カップリング剤は:第1のシラン化学組成物、その加水分解物またはそのオリゴマーであって、第1のシラン化学組成物が芳香族シラン化学組成物であるもの、および、少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物、カップリング剤層上に位置されたポリマー層であって、ポリイミド化学組成物を含むポリマー層の少なくとも1つを備え、ならびに、ここで:第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物は異なる化学組成物であり、コーティングされたガラス製物品は少なくとも約280℃の温度で30分間の間熱的に安定であり、および、コーティングされたガラス製物品を通した光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上である。
【0180】
第7の態様において、コーティングされたガラス製物品は:第1の表面を備えるガラス本体、ガラス本体の第1の表面の少なくとも一部分に結合された低摩擦コーティングを備え、低摩擦コーティングは:カップリング剤を含むカップリング剤層であって、カップリング剤が1種または複数種のシラン化学組成物のオリゴマーを含み、ここで、オリゴマーがシルセスキオキサン化学組成物であり、ならびに、シラン化学組成物の少なくとも1種が少なくとも1つの芳香族部分および少なくとも1つのアミン部分を含むカップリング剤層と、ポリマー層であって、少なくとも第1のジアミンモノマー化学組成物、第2のジアミンモノマー化学組成物および二無水物モノマー化学組成物の重合から形成されるポリイミド化学組成物を含み、ここで、第1のジアミンモノマー化学組成物が第2のジアミンモノマー化学組成物とは異なるものであるポリマー層と、カップリング剤層の化学組成物の1種または複数種と結合したポリマー層の化学組成物の1種または複数種を含む界面層とを含む。
【0181】
第8の態様は、第1~4、6または第7の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで:ガラス本体は第1の表面の裏側の第2の表面を備えるガラス製容器であって、および、第1の表面はガラス製容器の外表面である。
【0182】
第9の態様は、第1~第7の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、コーティングされたガラス製物品は医薬品パッケージである。
【0183】
第10の態様は、第9の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、薬品パッケージは医薬品組成物を含む。
【0184】
第11の態様は、第1~第7の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、ガラス本体はイオン交換ガラスを含む。
【0185】
第12の態様は、第1~第5の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、低摩擦コーティングは:ガラス本体の第1の表面に位置されたカップリング剤層であって、カップリング剤を含むカップリング剤層、および、カップリング剤層上に位置されたポリマー層であって、ポリマー化学組成物を含むポリマー層を含む。
【0186】
第13の態様は、第6または第12の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで:低摩擦コーティングは、カップリング剤層とポリマー層との間に位置された界面層をさらに備え、界面層は、カップリング剤層の化学組成物の1種または複数種と結合したポリマー層の化学組成物の1種または複数種を含む。
【0187】
第14の態様は、第1~第7の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、低摩擦コーティングを備えたコーティングされたガラス製物品の一部分の摩擦係数は、同一のガラス組成物から形成されたコーティングされていないガラス製物品の表面の摩擦係数の少なくとも20%未満である。
【0188】
第15の態様は、第1~第7の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、低摩擦コーティングを備えたコーティングされたガラス製物品の一部分は、オートクレーブ条件への曝露後に、約0.7以下の摩擦係数を有する。
【0189】
第16の態様は、第1~第7の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、低摩擦コーティングを備えたコーティングされたガラス製物品の一部分は、コーティングされたガラス製物品が水浴中に約70℃の温度で1時間浸漬された後に約0.7以下の摩擦係数を有する。
【0190】
第17の態様は、第1~第7の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、低摩擦コーティングを備えたコーティングされたガラス製物品の一部分は凍結乾燥条件への曝露後に、約0.7以下の摩擦係数を有する。
【0191】
第18の態様は、第1、4または第5の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、低摩擦コーティングは、カップリング剤をさらに含む。
【0192】
第19の態様は、第18の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カップリング剤は:第1のシラン化学組成物、その加水分解物またはそのオリゴマー、および、少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物の少なくとも一方を含み、ここで、第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物は異なる化学組成物である。
【0193】
第20の態様は、第19の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物は芳香族シラン化学組成物である。
【0194】
第21の態様は、第18の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カップリング剤はシルセスキオキサン化学組成物を含む。
【0195】
第22の態様は、第21の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、シルセスキオキサン化学組成物は芳香族部分を含む。
【0196】
第23の態様は、第22の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、シルセスキオキサン化学組成物はアミン部分をさらに含む。
【0197】
第24の態様は、第18の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カップリング剤は:第1のシラン化学組成物と第2のシラン化学組成物との混合物、ならびに、少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物の少なくとも一方を含み、ここで、第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物は異なる化学組成物である。
【0198】
第25の態様は、第24の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物は芳香族シラン化学組成物である。
【0199】
第26の態様は、第18の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物は芳香族シラン化学組成物である。
【0200】
第27の態様は、第2、6または第26の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物は少なくとも1つのアミン部分を含む。
【0201】
第28の態様は、第2、6または第26の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物は、芳香族アルコキシシラン化学組成物、芳香族アシルオキシシラン化学組成物、芳香族ハロゲンシラン化学組成物または芳香族アミノシラン化学組成物である。
【0202】
第29の態様は、第2、6または第26の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物は、アミノフェニル、3-(m-アミノフェノキシ)プロピル、N-フェニルアミノプロピル、または、(クロロメチル)フェニル置換アルコキシ、アシルオキシ、ハロゲンまたはアミノシランからなる群から選択される。
【0203】
第30の態様は、第2、6または第26の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物はアミノフェニルトリメトキシシランである。
【0204】
第31の態様は、第2、6または第26の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カップリング剤は:第1のシラン化学組成物と第2のシラン化学組成物との混合物であって、第2のシラン化学組成物が脂肪族シラン化学組成物である混合物、および、少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物の少なくとも一方を含む。
【0205】
第32の態様は、第31の態様のコーティングされたガラス製物品を含む、ここで、第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のモル比は約0.1:1~約10:1である。
【0206】
第33の態様は、第31の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物は少なくとも1つのアミン部分を含む芳香族アルコキシシラン化学組成物であり、および、第2のシラン化学組成物は少なくとも1つのアミン部分を含む脂肪族アルコキシシラン化学組成物である。
【0207】
第34の態様は、第31の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物は、アミノフェニル、3-(m-アミノフェノキシ)プロピル、N-フェニルアミノプロピル、または、(クロロメチル)フェニル置換アルコキシ、アシルオキシ、ハロゲンまたはアミノシラン、その水解物もしくはそのオリゴマーからなる群から選択され、また、第2のシラン化学組成物は、3-アミノプロピル、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル、ビニル、メチル、N-フェニルアミノプロピル、(N-フェニルアミノ)メチル、N-(2-ビニルベンジルアミノエチル)-3-アミノプロピル置換アルコキシ、アシルオキシ、ハロゲンまたはアミノシラン、その水解物もしくはそのオリゴマーからなる群から選択される。
【0208】
第35の態様は、第31の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物は少なくとも1つのアミン部分を含み、および、第2のシラン化学組成物は少なくとも1つのアミン部分を含む。
【0209】
第36の態様は、第31の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物はアミノフェニルトリメトキシシランであり、および、第2のシラン化学組成物は3-アミノプロピルトリメトキシシランである。
【0210】
第37の態様は、第3または第7の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、オリゴマーは、少なくともアミノフェニルトリメトキシシランから形成される。
【0211】
第38の態様は、第3または第7の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、オリゴマーは、少なくともアミノフェニルトリメトキシシランおよびアミノプロピルトリメトキシシランから形成される。
【0212】
第39の態様は、第3または第7の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のジアミンモノマー化学組成物はオルトトリジンであり、第2のジアミンモノマー化学組成物は4,4’-メチレン-ビス(2-メチルアニリン)であり、および、二無水物モノマー化学組成物はベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物である。
【0213】
第40の態様は、第1、2、4または第5の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、ポリマー化学組成物はポリイミド化学組成物である。
【0214】
第41の態様は、第1、2、4または第5の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、ポリマー化学組成物は:少なくとも2つのアミン部分を含む少なくとも1種のモノマー化学組成物と、少なくとも2つの無水物部分を含むと共にベンゾフェノン構造を有する少なくとも1種のモノマー化学組成物との重合から形成されるポリイミド化学組成物である。
【0215】
第42の態様は、第41の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、少なくとも2つの無水物部分を含むモノマー化学組成物はベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物である。
【0216】
第43の態様は、第1、2、4または第5の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、ポリマー化学組成物は、少なくとも:第1のモノマー化学組成物であって、少なくとも2つのアミン部分を含む第1のモノマー化学組成物と、第2のモノマー化学組成物であって、少なくとも2つのアミン部分を含む第2のモノマー化学組成物と、第3のモノマー化学組成物であって、少なくとも2つの無水物部分を含む第3のモノマー化学組成物との重合から形成されるポリイミド化学組成物であり、ここで、第1のモノマー化学組成物は第2のモノマー化学組成物とは異なるものである。
【0217】
第44の態様は、第43の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第3のモノマー化学組成物はベンゾフェノン構造を有する。
【0218】
第45の態様は、第44の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第3のモノマー組成物はベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物である。
【0219】
第46の態様は、第43の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のモノマー化学組成物は2つの芳香族環部分を含む。
【0220】
第47の態様は、第46の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のモノマー化学組成物の2つの芳香族環部分は互いに直接結合している。
【0221】
第48の態様は、第47の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第2のモノマー化学組成物は2つの芳香族環部分を含み、第2のモノマー化学組成物の2つの芳香族環部分はアルキル部分と結合している。
【0222】
第49の態様は、第48の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のモノマー化学組成物対第2のモノマー化学組成物のモル比は、約0.01:0.49~約0.40:0.10である。
【0223】
第50の態様は、第46の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のモノマー化学組成物の2つの芳香族環部分はアルキル部分と結合している。
【0224】
第51の態様は、第46の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のモノマー化学組成物はトリジン構造を含む。
【0225】
第52の態様は、第51の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のモノマー化学組成物はオルトトリジンである。
【0226】
第53の態様は、第51の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のモノマー化学組成物は4,4’-メチレン-ビス(2-メチルアニリン)である。
【0227】
第54の態様は、第51の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のモノマー化学組成物はオルトトリジンであり、および、第2のモノマー化学組成物は4,4’-メチレン-ビス(2-メチルアニリン)である。
【0228】
第55の態様は、第46の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第2のモノマー化学組成物は芳香族環部分を含む。
【0229】
第56の態様は、第1~第55の態様のいずれかのコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、その質量の約5%未満の質量損失率を有する。
【0230】
第57の態様において、基材用の低摩擦コーティングである低摩擦コーティングは:ポリイミド化学組成物と、第1のシラン化学組成物、その加水分解物またはそのオリゴマーおよび第2のシラン化学組成物、その加水分解物またはそのオリゴマーの混合物であって、第1のシラン化学組成物が芳香族シラン化学組成物であり、および、第2のシラン化学組成物が脂肪族シラン化学組成物である混合物、ならびに、少なくとも第1のシラン化学組成物および第2のシラン化学組成物のオリゴマー化から形成される化学組成物の少なくとも一方を含むカップリング剤とを含み、ここで:コーティングされたガラス製物品は少なくとも約260℃の温度で30分間の間熱的に安定であり、コーティングされたガラス製物品を通した光透過率は、約400nm~約700nmの波長についてコーティングされていないガラス製物品を通した光透過率の約55%以上であり、および、低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度に加熱された場合、その質量の約5%未満の質量損失率を有する。
【0231】
第58の態様は、第57の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、ガラス本体はイオン交換ガラスを備える。
【0232】
第59の態様は、第57の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、ポリイミド化学組成物は:少なくとも2つのアミン部分を含む少なくとも1種のモノマー化学組成物、および、少なくとも2つの無水物部分を含むと共にベンゾフェノン構造を有する少なくとも1種のモノマー化学組成物の重合から形成される。
【0233】
第60の態様は、第57の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、ポリイミド化学組成物は、少なくともベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、オルトトリジンおよび4,4’-メチレン-ビス(2-メチルアニリン)の重合から形成される。
【0234】
第61の態様は、第57の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物は少なくとも1つのアミン部分を含む。
【0235】
第62の態様は、第57の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、第1のシラン化学組成物はアミノフェニルトリメトキシシランであり、および、第2のシラン化学組成物は3-アミノプロピルトリメトキシシランである。
【0236】
第63の態様において、コーティングされたガラス製容器の製造プロセスは:複数のガラス製容器をカセットに積載するステップ、カセットおよび複数のガラス製容器を溶融アルカリ塩浴中に浸漬するステップ、カセットおよびガラス製容器を溶融アルカリ塩浴から取り出すステップ、カセットおよび複数のガラス製容器を水浴中に浸漬して残存するアルカリ塩をガラス製容器から除去するステップ、ガラス製容器を脱イオン水で洗浄するステップ、ならびに、ガラス製容器を低摩擦コーティングでコーティングするステップを含む。
【0237】
第64の態様は、第63の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カセットおよび複数のガラス製容器は、溶融アルカリ塩浴中に浸漬される前に予熱される。
【0238】
第65の態様は、第63の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、溶融アルカリ塩浴は、約350℃以上および約500℃以下の温度の100%KNO3である。
【0239】
第66の態様は、第63の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カセットおよびガラス製容器は、ガラス製容器の表面において約100μm以下の層厚および300MPa以上の圧縮応力を達成するのに十分な保持時間の間、溶融アルカリ塩浴中に保持される。
【0240】
第67の態様は、第65の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、保持時間は30時間未満である。
【0241】
第68の態様は、第63の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カセットおよびガラス製容器が溶融アルカリ塩浴から取り出された後、カセットは水平軸について回転されてガラス製容器中の溶融塩が空にされる。
【0242】
第69の態様は、第63の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カセットおよびガラス製容器は、カセットが回転されるに伴って、溶融アルカリ塩浴の上方で吊り下げられる。
【0243】
第70の態様は、第63の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カセットおよびガラス製容器は、水浴中に浸漬される前に冷却される。
【0244】
第71の態様は、第63の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、水浴は第1の水浴であり、カセットおよびガラス製容器は、第1の水浴中に浸漬された後に第2の水浴中に浸漬される。
【0245】
第72の態様は、第63の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ガラス製容器を脱イオン水中で洗浄するステップの前に、ガラス製容器をカセットから取り外すステップをさらに含む。
【0246】
第73の態様は、第63の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、ガラス製容器を低摩擦コーティングでコーティングするステップは、コーティング溶液をガラス製容器に適用するステップを含む。
【0247】
第74の態様は、第63の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、ガラス製容器を低摩擦コーティングでコーティングするステップは:カップリング剤をガラス製容器の外表面に適用するステップ、および、ポリマーコーティングをガラス製容器のカップリング剤の上に適用するステップを含む。
【0248】
第75の態様は、第74の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カップリング剤およびポリマーコーティング溶液は、ガラス製容器に浸漬コーティングされる。
【0249】
第76の態様は、第74の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カップリング剤およびポリマーコーティング溶液は、ガラス製容器に噴霧コーティングされる。
【0250】
第77の態様は、第74の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カップリング剤およびポリマーコーティング溶液は、ガラス製容器上にミスト化または霧化して適用される。
【0251】
第78の態様は、第74の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カップリング剤およびポリマーコーティング溶液は、任意の溶液転移技術(スワブによる塗布、ブラシによる塗布、印刷、ローラによる塗布等)によりガラス製容器に移される。
【0252】
第79の態様は、第74の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、適用したカップリング剤を伴うガラス表面は、ポリマーコーティング溶液が適用される前に加熱処理される。
【0253】
第80の態様は、第79の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、適用したカップリング剤を伴うガラス表面は、ガラス製容器をオーブン中で加熱することにより加熱処理される。
【0254】
第81の態様は、第74の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ポリマーコーティング溶液がガラス製容器に適用された後に、ポリマーコーティング溶液を硬化するステップをさらに含む。
【0255】
第82の態様は、第74の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カップリング剤および/またはポリマーコーティングは熱硬化される。
【0256】
第83の態様は、第74の態様のコーティングされたガラス製物品を含み、ここで、カップリング剤および/またはポリマーコーティングはUV光で硬化される。
【0257】
ここで、本明細書に記載の低摩擦コーティングを備えるガラス製容器は低摩擦コーティングを適用することにより機械的損傷に対する向上した耐性を示し、従って、ガラス製容器は高い機械的耐久性を有するものであることが理解されるべきである。この特性により、ガラス製容器は、特に限定されないが、医薬品パッケージ材料を含む種々の用途における使用にきわめて好適となる。
【0258】
特許請求されている主題の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の実施形態に種々の変更および変形を加えることが可能であることは当業者に明らかであろう。それ故、変更および変形が添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内に含まれる場合に限り、本明細書は、本明細書に記載の種々の実施形態の変更および変形を包含することが意図される。