(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】ワイヤ送給装置、送給システムおよび送給制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20220727BHJP
B23K 9/133 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
B23K9/12 301A
B23K9/12 301P
B23K9/133 502Z
(21)【出願番号】P 2020216866
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰博
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-126821(JP,A)
【文献】特開昭54-112755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 9/133
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ送給装置であって、
中空の可撓性導管で構成される送給経路の内部を介して他のワイヤ送給装置に溶接用のワイヤを送給するモータと、
前記モータの駆動を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記ワイヤ送給装置よりも下流側に設けられ且つ前記他のワイヤ送給装置によって送給された前記ワイヤの送給量を検出する検出装置から、前
記送給量を示す情報を取得し、
前記情報に基づいて、前記送給量と同じ量の前記ワイヤを前記ワイヤ送給装置が送給するように前記モータの駆動を制御する、ワイヤ送給装置。
【請求項2】
前記ワイヤ送給装置内で前記ワイヤに弛みをもたせる、請求項1に記載のワイヤ送給装置。
【請求項3】
前記ワイヤ送給装置は、
内部で前記ワイヤが送給される筐体を含み、
前記筐体内で前記ワイヤに弛みをもたせる、請求項2に記載のワイヤ送給装置。
【請求項4】
前記ワイヤ送給装置は、前記筐体内にローラ対をさらに備え、
前記モータは、前記ローラ対を回転させることにより、前記ワイヤを送給し、
前記筐体は、前記可撓性導管を取り付ける取付部を有し、
前記ワイヤ送給装置は、前記ローラ対と前記取付部との間で、前記ワイヤに弛みをもたせる、請求項3に記載のワイヤ送給装置。
【請求項5】
前記ワイヤ送給装置は、
前記ワイヤが収納された収容容器に取り付けられ、
前記収容容器から前記ワイヤを引き出す、請求項1から4のいずれか1項に記載のワイヤ送給装置。
【請求項6】
中空の可撓性導管を有し、前記可撓性導管の内部を介して溶接用のワイヤが搬送される送給経路と、
前記送給経路を介して他のワイヤ送給装置に前記溶接用のワイヤを送給するワイヤ送給装置と、
前記ワイヤ送給装置よりも下流側に設けられ、且つ前記他のワイヤ送給装置によって送給された前記ワイヤの送給量を検出する検出装置とを備え、
前記ワイヤ送給装置は、
前記検出装置から前記送給量を示す情報を取得し、
前記
情報に基づいて、前記送給量と同じ量の前記ワイヤを送給する、送給システム。
【請求項7】
ワイヤ送給装置の送給制御方法であって、
前記ワイヤ送給装置が、可撓性導管で構成される送給経路の内部を介して他のワイヤ送給装置に溶接用のワイヤを送給するステップと、
前記ワイヤ送給装置が、
前記ワイヤ送給装置よりも下流側に設けられ且つ前記他のワイヤ送給装置によって送給された前記ワイヤの送給量を検出する検出装置から、前
記送給量を示す情報を取得するステップとを備え、
前記他のワイヤ送給装置に溶接用のワイヤを送給するステップは、前記情報に基づいて、前記送給量と同じ量の前記ワイヤを前記ワイヤ送給装置が送給するように制御するステップを含む、送給制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤ送給装置、ワイヤの送給システムおよびワイヤの送給制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接用のワイヤを溶接装置に送給する送給システムが知られている。たとえば、特開2002-1536号公報(特許文献1)には、溶接ワイヤの送給経路の途中に多段にわたって配設された複数のワイヤ送給装置を備えた溶接ワイヤ送給システムが開示されている。
【0003】
特許文献1の溶接ワイヤ送給システムは、ワイヤ送給装置として、3台の溶接ワイヤ送出機と1台のワイヤ供給機とを備える。3台の溶接ワイヤ送出機の送給速度は、上流側の溶接ワイヤ送出機よりも下流側の溶接ワイヤ送出機の方が早い。
【0004】
このような速度設定により、特許文献1の溶接ワイヤ送給システムでは、溶接ワイヤにテンションが付与されるため、送給チューブ内の溶接ワイヤの弛みを減少させることにより送給チューブの内面と溶接ワイヤとの接触を少なくしている。これにより、特許文献1の溶接ワイヤ送給システムでは、送給チューブ内での溶接ワイヤの接触抵抗、すなわち送給負荷を軽減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
送給チューブは、しばしば、可撓性のあるチューブであり、複数の箇所が曲がった状態で配設される。特許文献1の送給システムでは、送給チューブが曲がっていない箇所では接触部位を低減できるため、当該箇所での接触抵抗を低減できる。しかしながら、曲がった箇所では、溶接ワイヤの弛みがないため、接触抵抗増加の惧れがある。それゆえ、特許文献1の送給システムでは、必ずしも溶接ワイヤをより小さい負荷で送り出すことはできない。
【0007】
本開示は、上記の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、溶接用のワイヤの送給経路で発生する負荷を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある局面に従うと、ワイヤを送給するワイヤ送給装置は、中空の可撓性導管で構成される送給経路の内部を介して他のワイヤ送給装置に溶接用のワイヤを送給するモータと、モータの駆動を制御するコントローラとを備える。コントローラは、他のワイヤ送給装置によって送給されたワイヤの送給量を示す情報を取得する。コントローラは、情報に基づいて、送給量と同じ量のワイヤをワイヤ送給装置が送給するようにモータの駆動を制御する。
【0009】
本開示の他の局面に従うと、送給システムは、中空の可撓性導管を有し、可撓性導管の内部を介して溶接用のワイヤが搬送される送給経路と、送給経路を介して他のワイヤ送給装置に溶接用のワイヤを送給するワイヤ送給装置と、他のワイヤ送給装置によって送給されたワイヤの送給量を検出する検出装置とを備える。ワイヤ送給装置は、検出の結果に基づいて、送給量と同じ量のワイヤを送給する。
【0010】
本開示のさらに他の局面に従うと、ワイヤ送給装置の送給制御方法は、ワイヤ送給装置が、可撓性導管で構成される送給経路の内部を介して他のワイヤ送給装置に溶接用のワイヤを送給するステップと、ワイヤ送給装置が、他のワイヤ送給装置によって送給されたワイヤの送給量を示す情報を取得するステップとを備える。他のワイヤ送給装置に溶接用のワイヤを送給するステップは、情報に基づいて、送給量と同じ量のワイヤをワイヤ送給装置が送給するように制御するステップを含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ワイヤの送給経路で発生する負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】送給量検出装置とワイヤ送給装置とのハードウェア構成を示した図である。
【
図4】フレキシブルコンジットが曲がった箇所におけるフレキシブルコンジット43と溶接用ワイヤとの状態を模式的に表した図である。
【
図5】フレキシブルコンジット内での溶接用ワイヤの送給負荷の発生メカニズムを模擬的に説明するための図である。
【
図6】溶接ロボットが溶接を開始した後のワイヤ送給装置の処理の流れを示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一部品には、同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0014】
図1は、溶接システム1の概略構成を示した図である。
図1に示されるように、溶接システム1は、溶接ロボット10と、ロボットコントローラ20と、溶接電源30と、送給システム40と、ペールパック50と、溶接用のワイヤ70とを備える。溶接ロボット10は、ロボット側ワイヤ送給装置11と、アーム12と、溶接トーチ13とを含む。送給システム40は、送給量検出装置41と、ペールパック側ワイヤ送給装置42と、フレキシブルコンジット43(可撓性導管)と、信号線44とを含む。
【0015】
溶接ロボット10は、ロボットコントローラ20に通信可能に接続されている。溶接トーチ13のポジショニングおよび溶接速度が、ロボットコントローラ20により指令される。
【0016】
ロボット側ワイヤ送給装置11は、ワイヤ70を自動的に送給する。ロボット側ワイヤ送給装置11は、溶接電源30に接続され、かつ溶接電源30から電力の供給を受ける。供給された電力は、ワイヤ70に給電される。ロボット側ワイヤ送給装置11は、溶接トーチ13にワイヤ70を送給(送出)する。溶接トーチ13によって溶接が行われる。
【0017】
ロボットコントローラ20は、溶接ロボット10と溶接電源30とに通信可能に接続されている。ロボットコントローラ20は、溶接ロボット10の動作を制御する。ロボットコントローラ20は、溶接ロボット10に動作指令信号を送信する。ロボットコントローラ20は、溶接電源30の出力を制御する。ロボットコントローラ20は、溶接電源30に溶接指令信号を送信する。ロボットコントローラ20は、溶接指令信号の送信により、ロボット側ワイヤ送給装置11の動作および溶接条件の指令を行う。ロボットコントローラ20は、溶接電源30の出力を制御する。
【0018】
溶接電源30は、ロボット側ワイヤ送給装置11を介して、溶接に必要な電流をワイヤ70に供給する。溶接電源30は、母材とワイヤ70との間に電圧を印加する。
【0019】
ペールパック50は、ワイヤ70を螺旋状に巻かれた状態で収容する。
送給システム40は、ペールパック50内のワイヤ70を、溶接ロボット10に送給する。送給システム40は、ワイヤ70をロボット側ワイヤ送給装置11に送給する。
【0020】
送給量検出装置41は、信号線44によってペールパック側ワイヤ送給装置42に通信可能に接続されている。送給量検出装置41は、ワイヤ70の送給経路においてペールパック側ワイヤ送給装置42よりも溶接ロボット10側に設けられている。送給量検出装置41は、ロボット側ワイヤ送給装置11によって送給されたワイヤ70の送給量を検出する。詳しくは、送給量検出装置41は、送給されたワイヤ70の長さを検出する。送給量検出装置41は、信号線44を介して、検出結果をペールパック側ワイヤ送給装置42に送る。
【0021】
ペールパック側ワイヤ送給装置42は、ペールパック50に取り付けられている。ペールパック側ワイヤ送給装置42は、ペールパック50の頂部(開口部)に取り付けられている。ペールパック側ワイヤ送給装置42は、ペールパック50からワイヤ70を引き出す。
【0022】
ペールパック側ワイヤ送給装置42と、送給量検出装置41とは、フレキシブルコンジット43(可撓性導管)で接続されている。フレキシブルコンジット43は、内部が空洞(中空)であり、内部においてワイヤ70が搬送される。このように、フレキシブルコンジット43は、ワイヤ70の送給経路を構成する。
【0023】
ペールパック側ワイヤ送給装置42は、ペールパック50から引き出したワイヤ70をフレキシブルコンジット43内に送給する。ワイヤ70は、送給量検出装置41を通過した後、ロボット側ワイヤ送給装置11に送られる。
【0024】
フレキシブルコンジット43は、溶接時には、通常、複数の箇所が曲がった状態となる。
図1では、フレキシブルコンジット43は、6つの箇所Q1~Q6で曲がっている状態を例示している。
【0025】
なお、各矢印901~903は、各所におけるワイヤ70の送給方向を示している。
図2は、溶接システム1の要部を表した図である。
【0026】
図2に示されるように、ロボット側ワイヤ送給装置11は、駆動モータ111と、歯車112と、ローラ対113と、ローラ対114とを備える。ローラ対113は、駆動ローラ113aと従動ローラ113bとを含む。ローラ対114は、駆動ローラ114aと従動ローラ114bとを含む。
【0027】
従動ローラ113bは、駆動ローラ113aに圧力を掛けた状態で設置されている。従動ローラ114bは、駆動ローラ114aに圧力を掛けた状態で設置されている。従動ローラ113b,114bは、加圧ローラとして機能する。ロボット側ワイヤ送給装置11内では、ワイヤ70は、駆動ローラ113aと従動ローラ113bとに挟まれ、かつ駆動ローラ114aと従動ローラ114bとに挟まれた状態となる。
【0028】
ロボットコントローラ20から溶接電源30を経由しての指令(
図1参照)に基づき駆動モータ111が回転すると、駆動モータ111の回転軸119を回転中心として、歯車112が矢印911の方向に回転する。歯車112の回転に伴い、駆動ローラ113a,114aが回転する。従動ローラ113b,114bが駆動ローラ113a,114aに圧力を掛けた状態で回転することにより、ワイヤ70が溶接トーチ13側に送給される。
【0029】
送給量検出装置41は、ローラ対411を備える。ローラ対411は、ローラ411a,411bを含む。
【0030】
ペールパック側ワイヤ送給装置42は、ベース部材410と、電源420と、コントローラ430と、筐体440と、駆動機構450とを備える。駆動機構450は、ステッピングモータ451と、歯車452と、ローラ対453と、ローラ対454とを備える。ローラ対453は、駆動ローラ453aと従動ローラ453bとを含む。ローラ対454は、駆動ローラ454aと従動ローラ454bとを含む。
【0031】
電源420と、コントローラ430と、筐体440と、駆動機構450とは、ベース部材410の上面に設置されている。ベース部材410の下面は、ペールパック50(
図1参照)の頂部に接触している。
【0032】
図2を参照して、本例では、ローラ411aは、ローラ411bに圧力を掛けた状態で設置されている。送給量検出装置41内では、ワイヤ70は、ローラ411aとローラ411bとに挟まれた状態となる。送給量検出装置41は、ローラ411bの回転状態に基づき、ロボット側ワイヤ送給装置11によって送給されたワイヤ70の送給量を検出する。送給量検出装置41は、検出結果(本例では、パルス信号)を、信号線44を介してコントローラ430に送る。なお、送給量の具体的な検出方法については、後述する。
【0033】
コントローラ430は、駆動機構450の動作を制御する。コントローラ430は、ステッピングモータ451の回転を制御する。コントローラ430は、プロセッサと、メモリと、通信インターフェイスとを備える。
【0034】
コントローラ430は、電源420から給電を受ける。ステッピングモータ451は、電源420から給電を受ける。
【0035】
従動ローラ453bは、駆動ローラ453aに圧力を掛けた状態で設置されている。従動ローラ454bは、駆動ローラ454aに圧力を掛けた状態で設置されている。従動ローラ453b,454bは、加圧ローラとして機能する。駆動機構450においては、ワイヤ70は、駆動ローラ453aと従動ローラ453bとに挟まれ、かつ駆動ローラ454aと従動ローラ454bとに挟まれた状態となる。
【0036】
コントローラ430からの指令に基づきステッピングモータ451が回転すると、ステッピングモータ451の回転軸459を回転中心として、歯車452が矢印912の方向に回転する。歯車452の回転に伴い、駆動ローラ453a,454aが回転する。駆動ローラ453a,454aが回転することにより、ワイヤ70がペールパック50から引き出され、かつ引き出されたワイヤ70がフレキシブルコンジット43側に送給される。
【0037】
このように、ステッピングモータ451は、フレキシブルコンジット43で構成される送給経路の内部を介してロボット側ワイヤ送給装置11にワイヤ70を送給する。フレキシブルコンジット43は、少なくとも一部に曲がった経路を有する。
【0038】
コントローラ430は、送給量検出装置41から、ロボット側ワイヤ送給装置11によって送給されたワイヤ70の送給量を示す情報を取得する。コントローラ430は、当該情報として、送給量検出装置41による検出結果(本例では、パルス信号)を、信号線44を介して取得する。コントローラ430は、ロボット側ワイヤ送給装置11によるワイヤ70の送給量と同じ量のワイヤ70を送給するようにステッピングモータ451の駆動を制御する。
【0039】
筐体440は、ワイヤ70を収容している。筐体440は、駆動機構450の少なくとも一部を収容している。本例では、筐体440は、少なくとも、歯車452と、ローラ対453と、ローラ対454とを収容している。
【0040】
筐体440は、筐体440にフレキシブルコンジット43を取り付けるための取付部441を有する。取付部441には、ワイヤ70が通過するための開口が形成されている。取付部441には、フレキシブルコンジット43の端部432が接続される。
【0041】
筐体440は、筐体440をベース部材410に取り付ける取付具443を有する。筐体440の底部には、ペールパックからワイヤ70を引き出すための開口部442が設けられている。
【0042】
筐体440は、内部のメンテナンスおよびワイヤの手動による引き出し操作のため、扉を備えるか、あるいは一部の側面が取り外せることが好ましい。
【0043】
ペールパック側ワイヤ送給装置42は、ペールパック側ワイヤ送給装置42内でワイヤ70に弛みをもたせている。ペールパック側ワイヤ送給装置42は、筐体40内でワイヤ70に弛みをもたせている。ペールパック側ワイヤ送給装置42は、ローラ対454と取付部441との間で、ワイヤ70に弛みをもたせている。
【0044】
ペールパック側ワイヤ送給装置42内でワイヤ70に弛みをもたせるために、溶接開始前に、ペールパック50からワイヤ70を引き出しておく。たとえば、ユーザが、ペールパック50から所定量(所定長さ)のワイヤ70を引き出しておく。
【0045】
ペールパック側ワイヤ送給装置42は、上述したように、ロボット側ワイヤ送給装置11によって送給されたワイヤ70の送給量と同じ量のワイヤ70を送給するようにステッピングモータ451を駆動する。このため、溶接時においても、筐体440内におけるワイヤ70の弛みは維持される。
【0046】
なお、破線C1は、弛みが略ない状態のワイヤ70を示している。破線C2は、破線C1よりも張った状態のワイヤ70を示している。矢印913は、ワイヤ70の弛みにより、ワイヤ70が揺動する方向を示している。
【0047】
上記のように筐体440内でワイヤ70の弛みを維持することにより得られる効果については、
図4および
図5に基づき後述する。
【0048】
図3は、送給量検出装置41とペールパック側ワイヤ送給装置42とのハードウェア構成を示した図である。
【0049】
図3に示されるように、送給量検出装置41は、ローラ411bと、エンコーダ412とを備える。エンコーダ412は、回転軸4121を含む。ローラ411bは、回転軸4121に取り付けられている。ロボット側ワイヤ送給装置11によるワイヤ70の送給によってローラ411bが回転すると、回転軸4121も回転する。
【0050】
エンコーダ412は、回転軸4121の回転に基づき、信号線44を介してパルス信号を外部出力する。エンコーダ412は、パルス出力のロータリーエンコーダであってもよい。
【0051】
ペールパック側ワイヤ送給装置42は、電源420と、コントローラ430と、ステッピングモータ451と、電源スイッチ460とを備える。
【0052】
電源スイッチ460は、商用電源から電源420への電源供給をオンおよびオフさせるスイッチである。
【0053】
電源420は、商用電源の交流電圧(100ボルトの交流)を、5ボルトの直流電圧と24ボルトの直流電圧とに変換する。電源420は、配線49を介して、5ボルトの直流電圧をエンコーダ412に供給する。電源420は、100ボルトの交流電圧をコントローラ430に供給する。
【0054】
コントローラ430は、電源420から給電された100ボルトの交流電圧をステッピングモータ451に供給する。コントローラ430は、エンコーダ412から取得したパルス信号(以下、「パルス信号Se」とも称する)に基づき、ステッピングモータ451を駆動するためのパルス信号(以下、「パルス信号Sm」とも称する)を生成する。コントローラ430は、生成した直流電圧24ボルトのパルス信号Smをステッピングモータ451に送る。
【0055】
詳しくは、コントローラ430は、以下の処理を行う。コントローラ430は、周期的に到来する制御タイミングとなると、取得したパルス信号Seに基づき、制御タイミングの直近の1周期における送給量(以下、「送給量L」とも称する)を算出する。コントローラ430は、送給量Lと同じ量のワイヤ70をペールパック側ワイヤ送給装置42から送給させるためのパルス信号Smを生成する。コントローラ430は、パルス信号Smをステッピングモータ451に出力する。
【0056】
コントローラ430は、パルス信号Seのパルス数に応じて、ステッピングモータ451をどの程度回転させるかを決定する。コントローラ430は、ステッピングモータ451の回転角度を決定する。コントローラ430では、パルス数から回転角度を算出するプログラムが格納されている。コントローラ430は、算出された回転角度だけステッピングモータ451を回転させるためのパルス信号Smを、ステッピングモータ451に出力する。
【0057】
コントローラ430では、パルス信号Seの入力に同期して制御タイミングが設定されてもよい。この場合、ペールパック側ワイヤ送給装置42による溶接用ワイヤの送給速度を、ロボット側ワイヤ送給装置11による溶接用ワイヤの送給速度に一層同期させることができる。
【0058】
なお、矢印921は、エンコーダ412の回転軸4121の回転方向を示している。矢印924は、ステッピングモータ451の回転軸459の回転方向を示している。矢印922,923は、ワイヤ70の送給方向を示している。
【0059】
図4は、フレキシブルコンジット43が曲がっている箇所Q1における、フレキシブルコンジット43とワイヤ70との状態を模式的に表した図である。
【0060】
図4に示されるように、ワイヤ70は、フレキシブルコンジット43内の複数の位置P1~P7でフレキシブルコンジット43の内壁43aと接触する。
図1に示されるフレキシブルコンジット43が曲がった箇所Q2~Q6においても、ワイヤ70は、フレキシブルコンジット43の内壁43aと接触する。
【0061】
図5は、フレキシブルコンジット43内でのワイヤ70の送給負荷の発生メカニズムを模擬的に説明するための図である。
【0062】
図5を参照して、ワイヤ70を模擬するものとして、紐608を用いる。フレキシブルコンジット43の曲がった箇所Q1~Q6を模擬するものとして、各々、滑車601~606を用いる。滑車601~606は、回転しないようにしている。
【0063】
滑車601~606による紐608の折り返し(
図5参照)は、フレキシブルコンジット43の曲がった箇所Q1~Q6(
図1参照)に相当する。滑車601~606の半径がフレキシブルコンジット43の曲がった箇所の曲率半径に相当する。滑車601~606の表面が、フレキシブルコンジット43の内壁に相当する。
【0064】
図5に示す位置U1~U42は、
図4に示されるワイヤ70がフレキシブルコンジット43の内壁43aに接触している接触位置に相当する。位置U1~U7は、位置P1~P7(
図4)に相当する。
【0065】
滑車601の端部に重さがWの錘609を取り付ける。上下に起伏する滑車601~606を介して紐608を引いたときの力Fを計算すると、以下のとおりとなる。
【0066】
滑車601には、Wとf1との合力が位置U1からU7に分布する。このときの分布荷重V1と摩擦係数μとの積が抵抗となる。接触位置の数が増える毎に抵抗が累加する。
【0067】
滑車602~606における分布荷重を、それぞれV2~V6とし、かつ摩擦係数を滑車601と同じ値μとすると、力Fは、以下の式(1)で求まる。
【0068】
F=μ×(V1+V2+V3+V4+V5+V6)+W … (1)
図5を参照して、ワイヤ70の送給負荷は、紐608を引く力Fと見なすことができる。ペールパック側ワイヤ送給装置42においてワイヤ70に弛みを持たせることは、錘609をなくすことに相当する。ワイヤ70に弛みを持たせることは、荷重Wが紐608に加わらないことに相当する。
【0069】
それゆえ、ワイヤ70に弛みを持たせる場合には、式(1)におけるWの値をゼロにすることに相当する。したがって、ペールパック側ワイヤ送給装置42においてワイヤ70に弛みを持たせることにより、ワイヤ70に弛みを持たせない場合よりも、曲がった箇所Q1~Q6において生じる送給負荷を低減することができる。
【0070】
曲がった箇所での接触抵抗の方が、曲がっていない箇所での接触抵抗よりも大きい。よって、曲がった箇所での送給負荷の方が、曲がっていない箇所での送給負荷よりも大きい。また、ワイヤ70に弛みを持たせる場合、曲がった箇所での送給負荷の低減量の大きさは、曲がっていない箇所での送給負荷の増加量の大きさよりも大きい。したがって、ワイヤ70に弛みを持たせることにより、全体としての送給負荷を低減できる。
【0071】
図6は、溶接ロボット10が溶接を開始した後のペールパック側ワイヤ送給装置42の処理の流れを示したフロー図である。
【0072】
図6を参照して、ステップS1において、コントローラ430は、エンコーダ412が出力したパルス信号Seの受信を開始する。ステップS2において、コントローラ430は、周期的に到来する制御タイミングとなったか否かを判断する。
【0073】
コントローラ430は、制御タイミングとなったと判断した場合(ステップS2においてYES)、ステップS3において、パルス信号Seに基づき、制御タイミングの直近の1周期における送給量Lを算出する。コントローラ430は、制御タイミングが到来していないと判断した場合(ステップS2においてNO)、処理をステップS2に戻す。
【0074】
ステップS4において、コントローラ430は、送給量Lと同じ量のワイヤ70をペールパック側ワイヤ送給装置42から送給させるためのパルス信号Smを生成する。ステップS5において、コントローラ430は、パルス信号Smをステッピングモータ451に出力する。コントローラ430は、ステップS5の後、処理をステップS2に進める。
【0075】
上記においては、筐体440内にてワイヤ70に弛みを持たせた。しかしながら、ワイヤ70の弛みを持たせることは必須ではない。上流側のペールパック側ワイヤ送給装置42が下流側のロボット側ワイヤ送給装置11に同期して、ペールパック側ワイヤ送給装置42がロボット側ワイヤ送給装置11によって送給されたワイヤ70と同量のワイヤ70を送給することにより、このような同期を取らない構成に比べて、フレキシブルコンジット43内(送給経路)における接触抵抗を低減できる。よって、同期を取らない構成に比べ、ワイヤ70の送給経路における送給負荷をより多く低減できる。
【0076】
<変形例>
(1)上記においては、ペールパック側ワイヤ送給装置42は、ペールパック50からワイヤ70を引き出す構成を説明したが、これに限定されるものではない。たとえば、ペールパック50の代わりにワイヤリールを用い、ペールパック側ワイヤ送給装置42がワイヤリールからワイヤ70を引き出す構成としてもよい。
【0077】
(2)ワイヤ70の送給経路において、送給量検出装置41をロボット側ワイヤ送給装置11の上流側に配置したが、これに限定されるものではない。送給量検出装置41をロボット側ワイヤ送給装置11の下流側に配置してもよい。
【0078】
(3)ペールパック側ワイヤ送給装置42は、必ずしも、ペールパック50に設置されていなくてもよい。ペールパック側ワイヤ送給装置42をペールパック50と送給量検出装置41との間に設置することにより、ペールパック側ワイヤ送給装置42を設置しない構成に比べて、送給負荷を低減することができる。
【0079】
(4)ステッピングモータ451の代わりに他の種類のモータを用いてもよい。
(5)上記においては、ペールバック側ワイヤ送給装置42は、コントローラ430の直近1周期の制御タイミングにおける送給量検出装置41が検出するロボット側ワイヤ送給装置11近傍で送給されたワイヤ70の長さと同じ長さのワイヤを送給するが、これに限定されるものではない。ペールバック側ワイヤ送給装置42は、ロボット側ワイヤ送給装置11と同じ単位時間当たりのワイヤ70の送給量で、ワイヤ70を送給してもよい。
【0080】
(6)溶接ロボット10による自動溶接が説明されているが、これに限定されるものではない。ヒトによる手動溶接に適用してもよい。
【0081】
今回開示された実施の形態は例示であって、上記内容のみに制限されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
1 溶接システム、10 溶接ロボット、11 ロボット側ワイヤ送給装置(他のワイヤ送給装置)、12 アーム、13 溶接トーチ、20 ロボットコントローラ、30 溶接電源、40 送給システム、41 送給量検出装置、42 ペールパック側ワイヤ送給装置(ワイヤ送給装置)、43 フレキシブルコンジット(可撓性導管)、43a 内壁、44 信号線、50 ペールパック、70 ワイヤ、111 駆動モータ、112,452 歯車、113,114,411,453,454 ローラ対、113a,114a,453a,454a 駆動ローラ、113b,114b,453b,454b 従動ローラ、119,459,4121 回転軸、410 ベース部材、411a,411b ローラ、412 エンコーダ、420 電源、430 コントローラ、440 筐体、441 取付部、442 開口部、443 取付具、450 駆動機構、451 ステッピングモータ(モータ)、460 電源スイッチ、601~606 滑車、608 紐、609 錘。