IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャープライフサイエンス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-音取得装置 図1
  • 特許-音取得装置 図2
  • 特許-音取得装置 図3
  • 特許-音取得装置 図4
  • 特許-音取得装置 図5
  • 特許-音取得装置 図6
  • 特許-音取得装置 図7
  • 特許-音取得装置 図8
  • 特許-音取得装置 図9
  • 特許-音取得装置 図10
  • 特許-音取得装置 図11
  • 特許-音取得装置 図12
  • 特許-音取得装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】音取得装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 1/00 20060101AFI20220727BHJP
   H04R 1/46 20060101ALI20220727BHJP
   A61B 7/04 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
G01H1/00 G
H04R1/46
A61B7/04 J
A61B7/04 L
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020525580
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2019023058
(87)【国際公開番号】W WO2019240118
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2018114213
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】317007266
【氏名又は名称】エア・ウォーター・バイオデザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100127236
【弁理士】
【氏名又は名称】天城 聡
(72)【発明者】
【氏名】里見 俊一
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇治
(72)【発明者】
【氏名】垣内 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 剛
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/143116(WO,A1)
【文献】特開平06-160166(JP,A)
【文献】特開2017-176269(JP,A)
【文献】特開2007-057460(JP,A)
【文献】特開平11-287703(JP,A)
【文献】特開2017-037052(JP,A)
【文献】特表2016-524148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
A61B 7/04
H04R 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音取得装置であって、
一以上のセンサ素子を含み、複数の検出軸を有する振動検出部と、
前記振動検出部を支持する支持部材と、
前記振動検出部からの出力を処理することにより、音データを生成する処理部とを備え、
前記複数の検出軸は、互いに非平行であり、対象部に対向する第1面に対して斜めであり、
前記複数の検出軸は、第1の検出軸と第2の検出軸を含み、
前記処理部は、前記第1の検出軸の検出信号と前記第2の検出軸の検出信号との逆位相成分を用いて、前記第1の検出軸の検出信号と前記第2の検出軸の検出信号との同位相成分を処理することにより、前記音データを生成し、
前記支持部材はベース部を備え、前記ベース部の外周は当該音取得装置の筐体に物理的に接続されており、
前記処理部は、第1の伝達関数、第2の伝達関数、および前記振動検出部からの出力を用いて前記音データを生成し、
前記第1の伝達関数は、当該音取得装置の外部の音を入力とし、前記振動検出部における前記第1面に平行な方向の音成分を出力としたときの伝達関数であり、
前記第2の伝達関数は、当該音取得装置の外部の音を入力とし、前記振動検出部における前記第1面に垂直な方向の音成分を出力としたときの伝達関数である
音取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音取得装置において、
前記複数の検出軸は、前記第1面への投影が互いに平行である二つの前記検出軸からなる対を含む音取得装置。
【請求項3】
請求項2に記載の音取得装置において、
前記対を構成する前記二つの検出軸の、前記第1面に対する角度は互いに等しい音取得装置。
【請求項4】
請求項3に記載の音取得装置において、
前記処理部は、前記対を構成する前記二つの検出軸についての検出信号を足し合わせることにより、前記音データを生成する音取得装置。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載の音取得装置において、
前記対を構成する前記二つの検出軸の成す角は、60°以上120°以下である音取得装置。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか一項に記載の音取得装置において、
前記複数の検出軸は、複数の前記対を含む音取得装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の音取得装置において、
前記ベース部の外周部が物理的に接続されている前記筐体は、利用者が触れるグリップ部の筐体である音取得装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の音取得装置において、
前記支持部材は前記ベース部から前記第1面側とは反対側に突出した凸部を有し、
前記凸部において前記一以上のセンサ素子が支持されている音取得装置。
【請求項9】
請求項8に記載の音取得装置において、
前記振動検出部は、複数の前記センサ素子を含み、
前記凸部の側面には、前記複数のセンサ素子のそれぞれを支持する支持面が設けられており、
前記複数の支持面は、前記第1面に対して斜めであり、互いに異なる方向を向いている音取得装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の音取得装置において、
前記センサ素子は、加速度センサである音取得装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の音取得装置において、
前記対象部に接触または接近させるダイヤフラムをさらに備え、
前記第1面は、前記ダイヤフラムの前記対象部に対向する面である音取得装置。
【請求項12】
請求項11に記載の音取得装置において、
前記ダイヤフラムと前記支持部材との間に、前記ダイヤフラムへの前記対象部からの圧力を検知する圧力センサをさらに備え、
前記処理部は前記圧力センサの出力を用いて前記音データの生成タイミングを制御する音取得装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の音取得装置において、
当該音取得装置は、電子聴診器であり、
前記音データに基づいた音を出力する出力部をさらに備える音取得装置。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の音取得装置において、
前記対象部は生体の一部である音取得装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子聴診器等、対象からの音を電気的に取得する装置においては、対象以外からのノイズ音の低減が求められる。
【0003】
特許文献1には、環境雑音を含む生体音を取得するマイクロホンと、環境雑音を取得するマイクロホンとをチェストピース内に設け、それらのマイクロホンからの信号を処理して環境雑音を低減させた生体音信号を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-67857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、環境雑音の低減のために高次なアルゴリズム処理が必要であった。その結果、処理に時間と電力を要していた。
【0006】
本発明が解決しようとする課題としては、時間遅延およびエネルギー消費を抑えつつ、ノイズを低減可能な音取得装置を提供することが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、
音取得装置であって、
一以上のセンサ素子を含み、複数の検出軸を有する振動検出部と、
前記振動検出部を支持する支持部材と、
前記振動検出部からの出力を処理することにより、音データを生成する処理部とを備え、
前記複数の検出軸は、互いに非平行であり、対象部に対向する第1面に対して斜めであり、
前記複数の検出軸は、第1の検出軸と第2の検出軸を含み、
前記処理部は、前記第1の検出軸の検出信号と前記第2の検出軸の検出信号との逆位相成分を用いて、前記第1の検出軸の検出信号と前記第2の検出軸の検出信号との同位相成分を処理することにより、前記音データを生成し、
前記支持部材はベース部を備え、前記ベース部の外周は当該音取得装置の筐体に物理的に接続されており、
前記処理部は、第1の伝達関数、第2の伝達関数、および前記振動検出部からの出力を用いて前記音データを生成し、
前記第1の伝達関数は、当該音取得装置の外部の音を入力とし、前記振動検出部における前記第1面に平行な方向の音成分を出力としたときの伝達関数であり、
前記第2の伝達関数は、当該音取得装置の外部の音を入力とし、前記振動検出部における前記第1面に垂直な方向の音成分を出力としたときの伝達関数である
音取得装置である。

【図面の簡単な説明】
【0008】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0009】
図1】実施形態に係る音取得装置の構成を模式的に例示する図である。
図2】対象部からの音の検出について説明するための図である。
図3】外部音の検出について説明するための図である。
図4】実施例1に係る音取得装置の機能構成を例示するブロック図である。
図5】実施例1に係る音取得装置の構造を例示する図である。
図6】音取得装置の支持部材および振動検出部近傍を拡大して例示する断面図である。
図7】センサ素子の動作を説明するための図である。
図8】(a)および(b)は、θと振動検出部の指向性との関係を例示する図である。
図9】実施例2に係る処理部の処理方法を説明するための模式図である。
図10】実施例3に係る音取得装置の構造を例示する断面図である。
図11】音取得装置の構造と吸収成分の検出感度との関係について説明するための図である。
図12】音取得装置の支持部材および圧力センサの変形例を示す図である。
図13】(a)から(c)は、実施例4に係る複数の検出軸を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
以下に示す説明において、音取得装置10の処理部110は、ハードウエア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。音取得装置10の処理部110は、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされたプログラム、そのプログラムを格納するフラッシュメモリなどの記憶デバイス、ネットワーク接続用インタフェースを中心にハードウエアとソフトウエアの任意の組合せによって実現される。そして、その実現方法、装置には様々な変形例がある。
【0012】
図1は、実施形態に係る音取得装置10の構成を模式的に例示する図である。本実施形態に係る音取得装置10は、振動検出部120および支持部材140を備える。振動検出部120は、一以上のセンサ素子122を含み、複数の検出軸123を有する。支持部材140は、振動検出部120を支持する。複数の検出軸123は、互いに非平行であり、対象部90に対向する第1面101に対して斜めである。以下に詳しく説明する。
【0013】
本実施形態に係る音取得装置10は、第1面101を対象部90に押し当てることにより、対象部90からの音を選択的に取得しようとする装置である。対象部90からの音は第1面101を介して支持部材140に伝達され、振動検出部120で検出される。一方、音取得装置10の筐体130には対象部90以外の外部からの音が伝わる。この外部音もまた、ノイズとして振動検出部120で検出されうる。外部音としてはたとえば、設備動作音、話し声、足音等の周辺環境音、および、操作音、利用者の生体音等の利用者由来音がある。周辺環境音は主に空気中を伝搬して筐体130に至る。一方、利用者由来音は、筐体130を握ったりこすったりすることにより、直接筐体130の表面で生じる。
【0014】
ここで、振動検出部120には複数のセンサ素子122としてセンサ素子122aおよびセンサ素子122bが含まれる。そして、センサ素子122aの検出軸123aとセンサ素子122bの検出軸123bとが互いに非平行であり、かつ第1面101に対して斜めとなるように構成されている。こうすることで、以下に説明する様に、対象部90からの対象音と外部音とが機械的に切り分けられ、簡単な信号処理でノイズの低減が可能となる。
【0015】
図2は、対象部90からの音の検出について説明するための図であり、図3は、外部音の検出について説明するための図である。
【0016】
対象部90からの対象音の振動方向は、図2中、白矢印で示すように第1面101に対して垂直である。そして、第1面101に対して垂直な方向の振動は、本図中a,bの波形で示すように、検出軸123aの検出信号と検出軸123bの検出信号とにおいて、同位相で現れる。
【0017】
一方、外部音の一部は、筐体130に吸収され、図3中黒矢印で示すように筐体130を伝搬し、支持部材140の外周から内側に向かって伝わる。その結果、筐体130に吸収された外部音は、本図中白矢印で示すように、支持部材140において第1面101に平行な方向の振動となる。そして、第1面101に対して水平な方向の振動は、本図中a,bの波形で示すように、検出軸123aの検出信号と検出軸123bの検出信号とにおいて、逆位相で現れる。
【0018】
以上より、たとえば検出軸123aの検出信号と検出軸123bの検出信号とを足し合わせることにより、対象音の成分は増幅され、外部音の成分は減衰される。すなわち、対象音成分を外部音成分で割って得られるS/N比が、向上する。
【0019】
以上、本実施形態によれば、複数の検出軸123が、互いに非平行であり、対象部90に対向する第1面101に対して斜めである。したがって、検出信号の簡単な処理により、時間遅延およびエネルギー消費を抑えつつ、ノイズを低減できる。
【0020】
(実施例1)
図4は、実施例1に係る音取得装置10の機能構成を例示するブロック図である。本実施例に係る音取得装置10は、実施形態に係る音取得装置10と同様の構成を有する。
【0021】
本実施例に係る音取得装置10は振動検出部120からの出力を処理することにより、音データを生成する処理部110をさらに備える。
【0022】
また、音取得装置10はたとえば電子聴診器であり、処理部110で生成された音データに基づいた音を、出力する出力部192をさらに備える。
【0023】
ただし、音取得装置10は振動検出部120で取得された信号を音取得装置10の外部に有線または無線で出力する装置であっても良い。また、音取得装置10の処理部110で、または音取得装置10の外部で生成された音データは、音として出力されるに限らず、解析に用いられたり、波形としてディスプレイに表示されたりしても良い。音取得装置10では、取得した音を一度電気信号に変換し、たとえばさらにAD変換することでデータ化し、記録することが可能である。
【0024】
たとえばこのように取得したデータに特定の演算処理を施すことで、生体や構造物に関する高精度な診断の可能性が見いだせる。ここで、解析においては取得したデータが全てであり、そのデータが正しいデータであるか否かは判断が困難である。そのため、ノイズを含んだデータの解析では、診断精度が損なわれる虞もある。したがって、電気的な処理によってノイズを低減しておく必要性が特に高いといえる。
【0025】
対象部90は特に限定されないが、橋、建物、トンネル等の構造物や、機械、生体等の一部であり得る。
【0026】
図5は、実施例1に係る音取得装置10の構造を例示する図である。本図において、グリップ部100は断面を示している。また、図6は、音取得装置10の支持部材140および振動検出部120近傍を拡大して例示する断面図である。本図において、検出軸123aおよび検出軸123bが破線で示されている。
【0027】
音取得装置10は、グリップ部100、イヤホン部190、およびケーブル180を含む。音取得装置10が電子聴診器である場合、グリップ部100はチェストピースである。イヤホン部190には出力部192が設けられている。出力部192はスピーカーである。そして、ケーブル180は、グリップ部100とイヤホン部190とを物理的、および電気的に接続している。ただし、音取得装置10はケーブル180を含まず、グリップ部100と出力部192とが無線通信によって接続されていても良い。
【0028】
音取得装置10の利用者は、イヤホン部190を装着し、グリップ部100を握って第1面101を対象部90に押し当てる。するとグリップ部100では、振動検出部120で音が振動として検出され、振動検出部120の出力が処理部110で処理されて音データが生成される。音データはケーブル180を介してイヤホン部190に入力され、出力部192から音データに基づく音が出力される。こうして、利用者は、対象部90からの音を聞くことができる。
【0029】
グリップ部100の外殻は主に筐体130で構成されている。筐体130には対象部90からの対象音を取り込むための開口が設けられている。この開口はダイヤフラム150で覆われている。また、筐体130にはスイッチ112を配置するための開口が設けられている。
【0030】
筐体130とダイヤフラム150で構成されたグリップ部100の内部空間には、振動検出部120、支持部材140、電池111、および回路基板113が配置されている。回路基板113はセンサ素子122の駆動や信号処理が可能な回路を含む。回路基板113は電池111から供給される電力によって駆動され、処理部110として機能する。スイッチ112は処理部110等の動作を制御する。
【0031】
電池111、スイッチ112、および回路基板113は筐体130に固定されている。また、回路基板113には各センサ素子122が、センサ素子122の振動を妨げない状態で電気的に接続されている。そして、回路基板113には各センサ素子122の出力信号が入力される。また、回路基板113からの出力信号がイヤホン部190に入力される。回路基板113からの出力信号は、音データ、または音データに基づく音信号を含む。
【0032】
処理部110はたとえばデジタルシグナルプロセッサ(DSP)またはセントラルプロセッシングユニット(CPU)により実現される。DSPを用いることで、高速な処理が可能である。処理部110は、たとえば、後述する対を構成する二つの検出軸123についての検出信号を足し合わせることにより、音データを生成する。このように処理部110は、簡単な処理で音データを生成することができる。したがって、対象部90における音の取得から、短い遅延時間で出力部192における出力を行える。特に音取得装置10が電子聴診器である場合、遅延が大きいことは使用に際して違和感の一因となるため、短い遅延時間の実現は重要である。また、処理が簡単であることは、信号の誤処理の抑制にも寄与する。さらに、処理が簡単であることからDSPのエネルギー消費を低く抑えることができ、装置の低消費電力化にも寄与する。
【0033】
なお、処理部110ではさらに、デジタルアナログ変換、アナログデジタル変換、フィルタリング、増幅等の処理が適宜行われてもよい。たとえば処理部110は、聴診周波数帯域を切り替え可能なフィルタ機能や、センサ素子122の個体性能バラツキを補正する補正機能を有してもよい。
【0034】
スイッチ112は、音取得装置10の起動のための電源スイッチや、音取得装置10の聴診周波数モード切替のスイッチ等である。
【0035】
イヤホン部190には、必要に応じてデジタルアナログ変換回路、フィルタ、増幅器等がさらに含まれても良い。イヤホン部190に入力された、回路基板113からの出力信号に基づいて、出力部192から音が出力される。
【0036】
筐体130は、金属または樹脂である。筐体130が金属である場合、剛性が高く、遮音性が高いためノイズ低減に好適である。一方、対象部90が生体の一部である場合、筐体130は特に樹脂であることが好ましい。生体に対して用いる場合、静電気の発生を避ける必要があるが、筐体130が樹脂であれば元々静電気が発生しにくい。したがって静電気への対策を特に要しない。また、本実施例によれば、処理部110によりノイズの低減が可能であるため、筐体130に特別高い剛性や遮音性を要しない。よって、樹脂の筐体130を好適に用いることができる。
【0037】
ダイヤフラム150はキャップ状であり、筐体130に対して固定されて、筐体130の対象音を取り込むための開口を覆っている。第1面101は音取得装置10の外面の一部であり、本実施例において第1面101はダイヤフラム150の対象部90に対向する面である。
【0038】
音の取得時には、ダイヤフラム150を対象部90に接触または接近させる。ダイヤフラム150は、音取得装置10の外部に露出しており、対象音に起因する振動を支持部材140および振動検出部120に伝達するための振動体である。対象部90が生体の一部である場合、ダイヤフラム150は生体適合性を有する材料からなることが好ましい。生体適合性を有する材料としては、たとえばシリコーン(silicone)が挙げられる。なお、ダイヤフラム150は保護膜等を含む多層構造を有していても良い。
【0039】
なお、第1面101を対象部90に押し当てるとは、第1面101を対象部90に接触または接近させることをいう。たとえば、音の取得時に第1面101と対象部90との間には服などが介在していても良い。ただし、音の取得時に、ダイヤフラム150は対象音が支持部材140へ伝達されるように、支持部材140に向けて押しつけられる。また、ダイヤフラム150は、支持部材140と一体であってもよい。
【0040】
支持部材140は、振動検出部120を支持する部材である。図6の例において、振動検出部120は、複数のセンサ素子122を含む。また、支持部材140には、複数のセンサ素子122のそれぞれを支持する支持面145が設けられている。そして複数の支持面145は、第1面101に対して斜めであり、互いに異なる方向を向いている。ここで、支持面145に支持されるセンサ素子122の検出軸123は支持面145に垂直または平行でありえる。図6は、検出軸123が支持面145に垂直な例を示している。
【0041】
さらに詳しくは、支持部材140はベース部142とベース部142から第1面101側とは反対側に突出した凸部144を有する。そして、凸部144の側面に支持面145が設けられている。また、ベース部142の外周部は、利用者が触れるグリップ部100の筐体130に物理的に接続されている。支持部材140はたとえば樹脂部材である。
【0042】
図6の例において、ベース部142の外縁部のダイヤフラム150側の面には、凹部が設けられている。そして、筐体130の支持部材140と接続される部分にはその凹部に嵌め込まれる凸部が設けられている。この凹部と凸部の接合により、筐体130と支持部材140が接続される。このような構造により、筐体130からの横振動が支持部材140に伝わる。なお、筐体130に凹部が設けられ、支持部材140にその凹部に嵌め込まれる凸部が設けられても良い。また、支持部材140と筐体130とはネジで接続されてもよいし、支持部材140と筐体130は一体化された部材であっても良い。
【0043】
図6の例において、ベース部142は厚さが非一様な円板状である。ベース部142には、センサ素子122の一部を配置する凹部が設けられている。また、凸部144は直角二等辺三角形を底面とする三角柱の一側面がベース部142と接合した形状により構成されている。そして、この三角柱の互いに直交する二側面が、第1面101とは反対側に向いて支持面145として機能する。また、支持部材140は面対称の構造を有する。ここで、対称面は第1面101に垂直であり、センサ素子122aとセンサ素子122bとの間を通る。また、センサ素子122aおよびセンサ素子122bもこの対称面に対して対称に配置される。
【0044】
本図の例において、音取得装置10は、ダイヤフラム150と支持部材140との間に、ダイヤフラム150への対象部90からの圧力を検知する圧力センサ152をさらに備える。そして、処理部110は圧力センサ152の出力を用いて音データの生成タイミングを制御する。
【0045】
本図の例において、支持部材140のダイヤフラム150側の面は圧力センサ152に密着し、圧力センサ152の支持部材140とは反対側の面はダイヤフラム150に密着している。そして、支持部材140と圧力センサ152との間には全体に圧力センサ152が設けられており、支持部材140とダイヤフラム150とは直接は接していない。
【0046】
圧力センサ152はたとえば接触センサである。圧力センサ152によりダイヤフラム150の対象部90への間接、または直接の接触を検知することができる。圧力センサ152が予め定められた基準以上の圧力を検知しているとき、処理部110は、グリップ部100が対象部90に押し当てられていると判断することができる。基準を示す情報は、音取得装置10の回路基板113に設けられた記憶部115に保持されており、処理部110がそれを読み出して用いることができる。なお、圧力センサ152は圧力値を示す信号を出力する代わりに、圧力の有無を示す信号を出力してもよい。その場合、処理部110は、圧力センサ152から圧力有りの信号が出力されているとき、グリップ部100が対象部90に押し当てられていると判断することができる。
【0047】
たとえば処理部110は、グリップ部100が対象部90に押し当てられている間、音データを生成し、グリップ部100が対象部90に押し当てられていない間、音データの生成を停止する。こうすることで、電池111の電力の消耗を抑制することができる。なお、グリップ部100が対象部90から離された後も、予め定められた時間(たとえば数秒間)、音データの生成を継続するようにしてもよい。
【0048】
支持部材140についてさらに詳しく説明する。各センサ素子122は、支持部材140に対して固定されている一方、筐体130には直接固定されていない。したがって、支持部材140の振動がセンサ素子122によって検出される。
【0049】
上記した通り、第1面101が対象部90に押し当てられることにより、ダイヤフラム150が支持部材140のダイヤフラム150側の面に向かって押しつけられ、対象部90からの音(振動)は支持部材140に伝達される。実施形態で説明した通り、対象部90からの対象音は支持部材140において、第1面101に垂直な方向の振動である。
【0050】
一方、ベース部142の外周部は、利用者が触れるグリップ部100の筐体130に物理的に接続されている。したがって、筐体130からの音(振動)は、支持部材140において第1面101に平行な方向の振動である。音取得装置10では筐体130および支持部材140を通じて外部音が取得されるため、外部音取得用のマイクや音取り込み穴を別途設ける必要がない。ひいては、グリップ部100の密閉性が保たれ耐久性が高まるとともに、グリップ部100の清掃が容易であり清潔さが保たれる。
【0051】
センサ素子122は、たとえば加速度センサである。すなわち、センサ素子122全体が揺さぶられた場合に、その揺れが振動として検出される。センサ素子122の検出軸123は、センサ素子122で原理上主に検出される軸であり、最も感度が大きい軸である。検出軸123は各センサ素子122において、予め定められている。
【0052】
図7は、センサ素子122の動作を説明するための図である。本図では、センサ素子122の断面模式図と、センサ素子122の移動に対する出力波形の関係を示している。センサ素子122の内部には振動板124が設けられている。振動板124の一端または両端はセンサ素子122の筐体に対して固定されており、センサ素子122の振動に応じて振動板124が軸方向に撓む。この撓み量がたとえば静電容量や圧電等により電気信号に変換される。その結果、センサ素子122からは、センサ素子122の振動(加速度)に応じた信号が出力される。なお、センサ素子122の出力の極性は、検出軸123を基準とした加速度の方向に対応している。本図の例において、検出軸123は振動板124の撓み方向に平行である。
【0053】
各センサ素子122は、内部の構造によって、一または二以上の検出軸123を有することができる。各センサ素子122が一の検出軸123を有する場合、振動検出部120は複数のセンサ素子122を用いて実現される。この場合特に、複数の検出軸123の方向を自由に設定して音取得装置10を構成することができる。図5および図6は、このように各センサ素子122が一の検出軸123を有する例を示している。
【0054】
一方、二以上の検出軸123を有するセンサ素子122を用いる場合、振動検出部120は一つのセンサ素子122により構成されてもよい。この場合、センサ素子122はたとえば2軸センサ、または3軸センサであり、検出軸123は互いに直交する。そして、複数の検出軸123がいずれも第1面101に対して斜めとなるように、支持部材140がセンサ素子122を支持すればよい。
【0055】
振動検出部120の複数の検出軸123と、処理部110の処理について、以下に詳しく説明する。上記した通り、複数の検出軸123は、互いに非平行であり、第1面101に対して斜めである。すなわち検出軸123は第1面101の法線に対して斜めである。
【0056】
ここで、複数の検出軸123は、第1面101への投影が互いに平行である二つの検出軸123からなる対を含むことが好ましい。また、対を構成する二つの検出軸123の、第1面101に対する角度は互いに等しいことが好ましい。このような対では、第1面101に平行な方向の振動成分が逆位相かつ同じ強さの振動成分としてセンサ素子122に作用する。したがって、二つの検出軸123についての検出信号を足し合わせるだけで、第1面101に平行な方向の振動成分、すなわち、外部音の成分を効果的に低減できる。
【0057】
なお、対を構成する二つの検出軸123の方向、すなわち検出の極性は、第1面101への投影において、互いに逆向きである。また、対を構成する二つの検出軸123の第1面101への投影は、同一直線上にあることが好ましいが、必ずしも同一直線上に無くても良い。
【0058】
複数の検出軸123が一以上の対からなる場合、振動検出部120は偶数個の検出軸123を有する。
【0059】
図6は、検出軸123aと検出軸123bとが、対を構成する二つの検出軸123であり、第1面101に対する角度が互いに等しい例を示している。
【0060】
対を構成する二つの検出軸123の成す角θは特に限定されないが、対象音に対する感度と指向性とのバランスの観点から、60°以上120°以下であることが好ましく、75°以上105°以下であることがより好ましく、85°以上95°以下であることがさらに好ましい。
【0061】
図8(a)および図8(b)は、θと振動検出部120の指向性との関係を例示する図である。図8(a)の例では図8(b)の例よりもθが大きい。これらの図で示すように、θが大きいほど、より指向性が高い。すなわち、限られた角度範囲からの音を取得できる。このように、振動検出部120の指向性はセンサ素子122自体の指向性と、θの設定によって調整できる。一方、θが小さいほど、対象部90からの対象音、すなわち第1面101に垂直な振動成分を、高い感度で取得することができる。
【0062】
なお、処理部110は、対を構成する二つの検出軸123についての検出信号を足し合わせるほか、必要な処理をさらに行ってもよい。たとえば、処理部110は、センサ素子122の感度や周波数特性等の特性ばらつきを補正する処理を行うことができる。また、センサ素子122間の距離および周波数に応じた位相ずれ、すなわち時間的なずれを補正する処理を行うことができる。ただし、これらの処理も動的な信号処理ではなく、固定パラメータを利用した処理であり、処理は過度に複雑化することはない。
【0063】
複数のセンサ素子122の距離は短いことが好ましい。検出信号の加算によるノイズキャンセルでは、複数の122の検出信号間の位相差を小さくすることで、得られる音データにおける残留誤差を小さくすることができるからである。たとえば、生体音など比較的周波数が低い成分(たとえば3kHz以下)に対する効果を想定すると、センサ素子122aの中心とセンサ素子122bの中心との距離は10mm以下であることが好ましい。
【0064】
以上、本実施例によれば、実施形態と同様、複数の検出軸123が、互いに非平行であり、対象部90に対向する第1面101に対して斜めである。したがって、検出信号の簡単な処理により、時間遅延およびエネルギー消費を抑えつつ、ノイズを低減できる。
【0065】
(実施例2)
図9は、実施例2に係る処理部110の処理方法を説明するための模式図である。本実施例に係る音取得装置10は、処理部110が行う処理内容を除いて実施例1に係る音取得装置10と同じである。
【0066】
本実施例において、処理部110は、第1の伝達関数G、第2の伝達関数G、および振動検出部120からの出力を用いて音データを生成する。第1の伝達関数Gは、音取得装置10の外部の音Sを入力とし、振動検出部120における第1面101に平行な方向の音成分SpNを出力としたときの伝達関数である。そして、第2の伝達関数Gは、音取得装置10の外部の音Sを入力とし、振動検出部120における第1面101に垂直な方向の音成分SvNを出力としたときの伝達関数である。
【0067】
なお、第1面101に平行な方向の音成分とは、振動検出部120において第1面101に平行な振動成分として検出される音であり、すなわち、第1の検出軸123aの検出信号と第2の検出軸123bの検出信号との逆位相成分として検出される音である。また、第1面101に垂直な方向の音成分とは、振動検出部120において第1面101に垂直な振動成分として検出される音であり、すなわち、第1の検出軸123aの検出信号と第2の検出軸123bの検出信号との同位相成分として検出される音である。
【0068】
音取得装置10の外部から振動検出部120へ伝わる外部音80の成分としては、筐体130へ吸収され支持部材140を介して振動検出部120へ伝わる吸収成分81と、筐体130を透過して直接振動検出部120へ伝わる透過成分82とがある。
【0069】
吸収成分81は、実施形態および実施例1で説明した通り、支持部材140において第1面101に平行な方向の音成分Sp1となり、検出軸123aの検出信号と検出軸123bの検出信号を足し合わせることにより打ち消される。一方、透過成分82は、第1面101に垂直な方向の音成分Sv2と第1面101に平行な方向の音成分Sp2との足し合わせである。振動検出部120に至った透過成分82のうち、第1面101に平行な方向の音成分Sp2は検出軸123aの検出信号と検出軸123bの検出信号を足し合わせにより、音成分Sp1と同様に打ち消される。一方、第1面101に垂直な方向の音成分Sv2は、単なる信号の足し合わせでは除去することができない。
【0070】
ここで、吸収成分81と透過成分82の音源は、いずれも外部音80で共通である。そして、吸収成分81は「音源」×「筐体130の振動の伝達関数」で表され、透過成分82は「音源」×「筐体130の透過の伝達関数」で表される。したがって、「筐体130の振動の伝達関数」が既知であれば、逆算して「音源」を特定することができる。さらに、特定した「音源」に対し、「筐体130の透過の伝達関数」を掛け合わされることで、透過成分82を特定することができる。以下に、さらに詳しく説明する。
【0071】
上記した各伝達関数の定義から、SpN=S×GおよびSvN=S×Gが成り立つ。したがって、SvN=(G/G)×SpNの関係が得られる。なお上記した通り、吸収成分81はSpNにしか含まれないことから、SpN=Sp1+Sp2およびSvN=Sv2である。
【0072】
対象部90からの音の取得において、振動検出部120では、第1面101に平行な方向の音成分Sと、第1面101に垂直な方向の音成分Sとが別々に検出できる。すなわち、音成分Sは第1の検出軸123aの検出信号と第2の検出軸123bの検出信号との逆位相成分から得られ、音成分Sは第1の検出軸123aの検出信号と第2の検出軸123bの検出信号との同位相成分から得られる。より具体的には、音成分Sは第1の検出軸123aの検出信号と第2の検出軸123bの検出信号の差として得られ、音成分Sは第1の検出軸123aの検出信号と第2の検出軸123bの検出信号との和として得られる。
【0073】
ここで、対象音Sは音成分Sにしか含まれないことから、S=SpNおよびS=SvN+Sである。よって、So=S-SvN=S-(G/G)×Sが成り立つ。
【0074】
以上の通り、伝達関数Gおよび伝達関数Gが既知であれば、取得された音成分Sおよび音成分Sを用いて、対象音Sを抽出することができる。具体的には、音成分Sから、音成分SにG/Gを乗じた成分を差し引くことにより、透過成分82によるノイズを低減した音データを生成することができる。
【0075】
伝達関数Gおよび伝達関数Gはそれぞれ筐体130の材質や形状に依存する。伝達関数Gおよび伝達関数Gは以下の様にして予め得ることができる。まず、音取得装置10の外部、具体的にはグリップ部100の筐体130の外部に音源を配置する。そして、その音源から既知の音を発生させ、振動検出部120で検出する。このとき、第1面101を静止した剛体に押し当てるなどすることにより、第1面101からは音の入力が無い状態とする。また、振動検出部120の検出結果としては、上記したように、第1面101に平行な方向の音成分Sと、第1面101に平行な方向の音成分Sとをそれぞれ導出する。
【0076】
音源からの既知の音と音成分Sとの関係から伝達関数Gが得られる。また、音源からの既知の音と音成分Sとの関係から伝達関数Gが得られる。得られた伝達関数Gおよび伝達関数Gは記憶部115に保持させておき、処理部110がそれらを読み出して処理に用いることができる。
【0077】
上記した本実施例に係る処理部110の処理は、以下の様に表現することもできる。複数の検出軸123は、第1の検出軸123aと第2の検出軸123bを含む。そして、処理部110は、第1の検出軸123aの検出信号と第2の検出軸123bの検出信号との逆位相成分を用いて、第1の検出軸123aの検出信号と第2の検出軸123bの検出信号との同位相成分を処理することにより、音データを生成する。
【0078】
以上、本実施例によれば、実施形態と同様、複数の検出軸123が、互いに非平行であり、対象部90に対向する第1面101に対して斜めである。したがって、検出信号の簡単な処理により、時間遅延およびエネルギー消費を抑えつつ、ノイズを低減できる。
【0079】
くわえて、本実施例によれば、処理部110が、第1の伝達関数G、第2の伝達関数G、および振動検出部120からの出力を用いて音データを生成する。したがって、筐体130を透過した音成分によるノイズを低減でき、よりノイズ成分の少ない音データを生成することができる。
【0080】
(実施例3)
図10は、実施例3に係る音取得装置10の構造を例示する断面図である。本図は、実施例1の図6に対応する。本実施例に係る音取得装置10は、支持部材140の筐体130に対する複数の連結部を通る平面146が、複数のセンサ素子122の中心の近傍を通る点を除いて実施例1および実施例2の少なくともいずれかに係る音取得装置10と同じである。以下に詳しく説明する。
【0081】
本実施例において、支持部材140のベース部142のダイヤフラム150とは反対側の面には、第1面101に垂直な方向から見て中心部に凹部が設けられている。そして凸部144は、凹部の底から立ち上がっている。また、ベース部142の凹部の外側において、支持部材140は筐体130に接続されている。その結果、支持部材140の筐体130に対する複数の連結部を通る平面146が、複数のセンサ素子122の中心(本図中の点線の交点)の近傍を通ることとなる。そうすることで、二つの検出軸123のなす角θに左右されず、ノイズ低減効果の損失を最小限に抑えることができる。
【0082】
図11は、音取得装置10の構造と吸収成分81の検出感度との関係について説明するための図である。本図では、音取得装置10の筐体130、支持部材140、センサ素子122aおよびセンサ素子122bの関係を示している。ノイズの吸収成分81は、筐体130と支持部材140との連結部から伝達され、振動検出部120に向けて伝搬するが、その伝搬は放射状である。このとき、吸収成分81はセンサ素子122aとセンサ素子122bの各感度軸(検出軸123)方向にベクトル分解され、センサ素子122の各感度軸で検出される。その結果、検出レベルに差異が生じる。
【0083】
より詳しくは、以下に説明するαとβとの差が、センサ素子122aとセンサ素子122bの吸収成分81に対する検出感度の差となって現れる。αは直線125と直線127とのなす角であり、βは直線126と直線127との成す角である。ここで、直線125は、センサ素子122aの中心およびセンサ素子122bの中心を通り第1面101に垂直な断面において、連結部と、その連結部から最も遠いセンサ素子122であるセンサ素子122aの中心とを結ぶ直線である。なお、本実施例において、以下、「センサ素子122aの中心およびセンサ素子122bの中心を通り第1面101に垂直な断面」を単に「第1面101に垂直な断面」と呼ぶ。直線126は、第1面101に垂直な断面において、連結部とその連結部から最も近いセンサ素子122であるセンサ素子122bの中心とを結ぶ直線である。そして、直線127は、第1面101に垂直な断面において、センサ素子122aの中心とセンサ素子122bの中心とを結ぶ直線である。なお、本図の例において、連結部は、第1面101に垂直な断面において、支持部材140と筐体130とが嵌め合うための凸部の中心である。
【0084】
ここで、第1面101に垂直な断面において、支持部材140の両端の連結部間の距離をA、平面146と直線127との距離をH、センサ素子122aの中心とセンサ素子122bの中心との距離をLとする。すると、α=tan-1(H/(A/2+L/2))×180/πが成り立ち、β=tan-1(H/(A/2-L/2))×180/πが成り立つ。
【0085】
αおよびβの関係について、特に限定されないが、上記の観点から|α-β|<1が成り立つことが好ましい。
【0086】
図12は、音取得装置10の支持部材140および圧力センサ152の変形例を示す図である。図10では、支持部材140のダイヤフラム150に対向する面とダイヤフラム150との間の全体に圧力センサ152が設けられている例を示したが、本図の例において、圧力センサ152は支持部材140のダイヤフラム150に対向する面とダイヤフラム150との間の一部の領域にのみ設けられている。そして、支持部材140はダイヤフラム150側の面の一部の領域において、ダイヤフラム150と直接密着している。なお、実施例1で説明した図6の構造において、この様な圧力センサ152の配置を採用してもよい。
【0087】
以上、本実施例によれば、実施形態と同様、複数の検出軸123が、互いに非平行であり、対象部90に対向する第1面101に対して斜めである。したがって、検出信号の簡単な処理により、時間遅延およびエネルギー消費を抑えつつ、ノイズを低減できる。
【0088】
くわえて、本実施例によれば、支持部材140の筐体130に対する複数の固定端を通る平面146が、複数のセンサ素子122の中心の近傍を通る。したがって、処理部110の処理によって、より効果的にノイズを低減できる。
【0089】
(実施例4)
図13(a)から図13(c)は、実施例4に係る複数の検出軸123を例示する図である。これらの図は、複数の検出軸123を第1面101に垂直な方向から見た状態を示している。本実施例に係る音取得装置10は、複数の検出軸123が複数の対を含む点を除いて実施例1から実施例3の少なくともいずれかに係る音取得装置10と同じである。以下に詳しく説明する。
【0090】
本実施例において、複数の対のそれぞれは、実施例1で説明した様に第1面101への投影が互いに平行である二つの検出軸123からなる対である。
【0091】
図13(a)は、複数の検出軸123が2つの対からなる例を示している。本図の例において、振動検出部120は向きが90°ずつ異なる4つの検出軸123を有する。本図の例の場合、凸部144はたとえば四角錐形状であり得る。
【0092】
図13(b)は、複数の検出軸123が3つの対からなる例を示している。本図の例において、振動検出部120は向きが60°ずつ異なる6つの検出軸123を有する。本図の例の場合、凸部144はたとえば六角錐形状であり得る。
【0093】
図13(c)は、複数の検出軸123が4つの対からなる例を示している。本図の例において、振動検出部120は向きが45°ずつ異なる8つの検出軸123を有する。本図の例の場合、凸部144はたとえば八角錐形状であり得る。
【0094】
本実施例において、処理部110は、各対について、実施例1または実施例2で説明した処理を行い、対ごとのデータを得る。そして、得られた複数の対のデータを足し合わせることで、音データを得る。こうすることで、対ごとにノイズを低減させたデータが得られ、さらにそれらの足し合わせにより対象音を増大させることができる。結果的に、S/N比をより向上させた音データが得られる。
【0095】
なお、複数の検出軸123の位置関係は図13(a)~図13(c)の例に限定されない。また、複数の検出軸123は、5つ以上の対を含んでも良い。
【0096】
以上、本実施例によれば、実施形態と同様、複数の検出軸123が、互いに非平行であり、対象部90に対向する第1面101に対して斜めである。したがって、検出信号の簡単な処理により、時間遅延およびエネルギー消費を抑えつつ、ノイズを低減できる。
【0097】
くわえて、本実施例によれば、複数の検出軸123が複数の対を含む。したがって、4つ以上の検出軸123の検出結果に基づきS/N比をさらに向上させた音データが得られる。
【0098】
以上、図面を参照して実施形態及び実施例について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 一以上のセンサ素子を含み、複数の検出軸を有する振動検出部と、
前記振動検出部を支持する支持部材とを備え、
前記複数の検出軸は、互いに非平行であり、対象部に対向する第1面に対して斜めである音取得装置。
2. 1.に記載の音取得装置において、
前記振動検出部からの出力を処理することにより、音データを生成する処理部をさらに備える音取得装置。
3. 2.に記載の音取得装置において、
前記複数の検出軸は、前記第1面への投影が互いに平行である二つの前記検出軸からなる対を含む音取得装置。
4. 3.に記載の音取得装置において、
前記対を構成する前記二つの検出軸の、前記第1面に対する角度は互いに等しい音取得装置。
5. 4.に記載の音取得装置において、
前記処理部は、前記対を構成する前記二つの検出軸についての検出信号を足し合わせることにより、前記音データを生成する音取得装置。
6. 3.~5.のいずれか一つに記載の音取得装置において、
前記対を構成する前記二つの検出軸の成す角は、60°以上120°以下である音取得装置。
7. 3.~6.のいずれか一つに記載の音取得装置において、
前記複数の検出軸は、複数の前記対を含む音取得装置。
8. 2.~7.のいずれか一つに記載の音取得装置において、
前記振動検出部は、複数の前記センサ素子を含み、
前記支持部材には、前記複数のセンサ素子のそれぞれを支持する支持面が設けられており、
前記複数の支持面は、前記第1面に対して斜めであり、互いに異なる方向を向いている音取得装置。
9. 8.に記載の音取得装置において、
前記支持部材はベース部と前記ベース部から前記第1面側とは反対側に突出した凸部を有し、
前記凸部の側面に前記支持面が設けられている音取得装置。
10. 9.に記載の音取得装置において、
前記ベース部の外周部は、利用者が触れるグリップ部の筐体に物理的に接続されている音取得装置。
11. 10.に記載の音取得装置において、
前記処理部は、第1の伝達関数、第2の伝達関数、および前記振動検出部からの出力を用いて前記音データを生成し、
前記第1の伝達関数は、当該音取得装置の外部の音を入力とし、前記振動検出部における前記第1面に平行な方向の音成分を出力としたときの伝達関数であり、
前記第2の伝達関数は、当該音取得装置の外部の音を入力とし、前記振動検出部における前記第1面に垂直な方向の音成分を出力としたときの伝達関数である音取得装置。
12. 10.に記載の音取得装置において、
前記複数の検出軸は、第1の検出軸と第2の検出軸を含み、
前記処理部は、前記第1の検出軸の検出信号と前記第2の検出軸の検出信号との逆位相成分を用いて、前記第1の検出軸の検出信号と前記第2の検出軸の検出信号との同位相成分を処理することにより、前記音データを生成する音取得装置。
13. 8.~12.のいずれか一つに記載の音取得装置において、
前記センサ素子は、加速度センサである音取得装置。
14. 2.~13.のいずれか一つに記載の音取得装置において、
前記対象部に接触または接近させるダイヤフラムをさらに備え、
前記第1面は、前記ダイヤフラムの前記対象部に対向する面である音取得装置。
15. 14.に記載の音取得装置において、
前記ダイヤフラムと前記支持部材との間に、前記ダイヤフラムへの前記対象部からの圧力を検知する圧力センサをさらに備え、
前記処理部は前記圧力センサの出力を用いて前記音データの生成タイミングを制御する音取得装置。
16. 2.~15.のいずれか一つに記載の音取得装置において、
当該音取得装置は、電子聴診器であり、
前記音データに基づいた音を出力する出力部をさらに備える音取得装置。
17. 1.~16.のいずれか一つに記載の音取得装置において、
前記対象部は生体の一部である音取得装置。
【0099】
この出願は、2018年6月15日に出願された日本出願特願2018-114213号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13