(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20220727BHJP
【FI】
B60G17/015 B
(21)【出願番号】P 2021001222
(22)【出願日】2021-01-07
(62)【分割の表示】P 2015226990の分割
【原出願日】2015-11-19
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】政村 辰也
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/020744(WO,A1)
【文献】特開平08-127214(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0005888(US,A1)
【文献】特開平04-019210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体と前記車両の前後左右の四つの車輪との間に介装される四つのアクチュエータと、
前記車体と前記四つの車輪との間にそれぞれ前記四つのアクチュエータと並列に介装される四つの懸架ばねと、
前記アクチュエータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前後左右の前記四つの車輪の上下変位に基づいて、前記四つの車輪
が上下変位
することで前記懸架ばねが発生する力によって生じる前記車体のロールとピッチの各モーメントを打ち消すピッチ抑制力とロール抑制力を求め、
前記ピッチ抑制力と前記ロール抑制力に基づいて前記アクチュエータの目標制御力を求めて、前記アクチュエータを制御する
ことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記四つの車輪の上下変位から
前記懸架ばねが発生する力によって前記車体に作用するピッチモーメントとロールモーメントを求め、
前記ピッチモーメントと前記ロールモーメントに基づいて、前記ピッチ抑制力と前記ロール抑制力を求める
ことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記車両において前側に配置される前記アクチュエータに発揮させる前記ピッチ抑制力と前記車両において後側に配置される前記アクチュエータに発揮させる前記ピッチ抑制力が互いに大きさが同じで向きが反対となるようにし、
前記車両において右側に配置される前記アクチュエータに発揮させる前記ロール抑制力と前記車両において左側に配置される前記アクチュエータに発揮させる前記ロール抑制力を、互いに大きさが同じで向きが反対となるようにした
ことを特徴とする請求項1または2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記車輪を支持するサスペンションアームに設けた加速度センサで検知する前記車輪の上下加速度から前記車輪の上下変位を求めるか、
或いは、前記車体に設けた加速度センサが検知する前記車体の上下加速度と、前記車輪と前記車体の間に設けたストロークセンサが検知する前記車体と前記車輪の相対変位から前記車輪の上下変位を求める
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のサスペンション装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記車体の振動を検知して前記振動に基づいて車体制御力を求め、
前記ロール抑制力と前記ピッチ抑制力に基づいて路面入力低減制御力を求め、
前記車体制御力と前記路面入力低減制御力を加えて前記目標制御力を求める
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のサスペンション装置は、たとえば、車両の車体と車両の前後左右の四つの車輪との間に介装される四つの流体圧シリンダと、流体圧シリンダを制御するためのコントローラとを備えている。
【0003】
そして、コントローラは、車体の流体圧シリンダ直上の四か所における上下加速度を検出する上下加速度センサを備えており、四つの上下加速度からロール角速度或いはピッチ角速度を演算する。
【0004】
さらに、コントローラは、ロール角速度或いはピッチ角速度からロール或いはピッチを抑制する司令値を四つの流体圧シリンダ毎に演算して、流体圧シリンダを制御するようになっている(たとえば、特許文献1,2参照)。
【0005】
具体的には、コントローラは、ロール角速度にゲインを乗じて流体圧シリンダにロール角速度に比例した力を発揮させるか、ピッチ角速度にゲインを乗じて流体圧シリンダにピッチ角速度に比例した力を発揮させて、ロール或いはピッチを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平03-70616号公報
【文献】特開平03-70617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように従来のサスペンション装置では、車両走行中に路面から入力される振動によって車体がロールしたりピッチしたりすると、これらを抑制する力を流体圧シリンダに発揮させて、車体のロールやピッチを抑制している。
【0008】
しかしながら、車輪の振動によって車体に加わる入力に対しては何ら配慮がないため、車体のロールやピッチを十分に抑制できず、車体の振動抑制効果の向上が望まれる。
【0009】
そこで、本発明は、前記問題を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、車体の振動抑制効果を向上できるサスペンション装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題解決手段におけるサスペンション装置は、車体のロールとピッチの各モーメントを打ち消すピッチ抑制力とロール抑制力を求め、これらを加味して目標制御力を求めて、アクチュエータを制御するようになっている。このピッチ抑制力とロール抑制力をアクチュエータに出力させると、アクチュエータは、車体に作用する力を事後ではなく事前にキャンセルする制御力を発揮する。よって、車体の振動を検知してからこれを抑制する制御力のみを発揮していた従来のサスペンション装置に比較して、本発明のサスペンション装置にあっては、車体の振動を事前に抑制する制御力を発揮でき、車体を効果的に制振できる。
【0011】
また、請求項2の発明では、コントローラが四輪の上下変位から懸架ばねが発生する力によって車体に作用するロールモーメントとピッチモーメントを求め、これらからピッチ抑制力とロール抑制力を求めるようになっている。上下変位から車体に作用するロールモーメントとピッチモーメントを求めると、四輪の振動によって、車体に作用するロールモーメントとピッチモーメントを簡単かつ正確に求め得る。そして、このようにして得られたロールモーメントとピッチモーメントからピッチ抑制力とロール抑制力を求めれば、演算負荷も軽く、タイムリーかつ適切にピッチ抑制力とロール抑制力に基づく制御力を発揮できる。
【0012】
また、請求項3の発明では、コントローラCは、前側に配置されるアクチュエータに発揮させるピッチ抑制力と後側に配置されるアクチュエータに発揮させるピッチ抑制力を互いに大きさが同じで向きが反対となるようにし、さらに、右側に配置されるアクチュエータに発揮させるロール抑制力と左側に配置されるアクチュエータに発揮させるロール抑制力を互いに大きさが同じで向きが反対となるようにしている。このようにすると、車体に対して上下方向の振動に影響を与えずに、車体のピッチとロールを抑制できるので、車体のピッチ振動およびロール振動を大きく低減できる。
【0013】
さらに、請求項4の発明では、車輪を支持するサスペンションアームに設けた加速度センサで検知する車輪の上下加速度から車輪の上下変位を求めるか、或いは、車体に設けた加速度センサが検知する車体の上下加速度と、ストロークセンサが検知する車体と車輪の相対変位から車輪の上下変位を求めるようになっている。このように構成すれば、車両に適するセンサを設置して上下変位を求められるので、無理なくサスペンション装置を車両へ組み込める。
【0014】
また、請求項5の発明では、車体の振動を検知して振動を抑制する車体制御力に、ロール抑制力とピッチ抑制力に基づいて求められる路面入力低減制御力を加えて、目標制御力を求めるようになっている。そのため、このサスペンション装置によれば、車体の振動を検知してこの振動を制振する制御力に加えて、車体の振動を事前に抑制する制御力を発揮できる。よって、サスペンション装置にあっては、従来のサスペンション装置に比較して、車体の振動抑制効果が飛躍的に向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のサスペンション装置によれば、車体の振動抑制効果を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のサスペンション装置の構成を示した図である。
【
図3】車両の重心、ホイールベースおよびトレッドを説明する図である。
【
図4】ピッチ抑制力とロール抑制力によるモーメントと、ピッチモーメントとロールモーメントの釣り合い状態を説明する図である。
【
図5】路面入力低減制御演算部の一構成例を示した図である。
【
図6】サスペンション装置の構成の他のバリエーションを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。サスペンション装置Sは、
図1に示すように、車両Vの車体Bと前記車両Vの前後左右の四つの車輪W
FR,W
FL,W
RR,W
RLとの間に介装される四つのアクチュエータA
FR,A
FL,A
RR,A
RLと、アクチュエータA
FR,A
FL,A
RR,A
RLを制御するコントローラCとを備えて構成されている。
【0018】
アクチュエータA
FR,A
FL,A
RR,A
RLは、
図2に示すように、伸縮可能なシリンダ装置ACと、ポンプ4と、シリンダ装置ACとポンプ4との間に設けられてポンプ4から吐出される液体をシリンダ装置ACへ供給してシリンダ装置ACを伸縮させる液圧回路FCとを備えている。
【0019】
このサスペンション装置Sでは、シリンダ装置ACは、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されてシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン2と、シリンダ1内に移動自在に挿入されてピストン2に連結されるロッド3を備える。ロッド3は、伸側室R1内のみに挿通されていて、シリンダ装置ACは、所謂、片ロッド型のシリンダ装置とされている。なお、リザーバRは、
図2に示したところでは、シリンダ装置ACとは独立して設けられているが、詳しくは図示しないが、シリンダ装置ACにおけるシリンダ1の外周側に配置される外筒を設けて、シリンダ1と外筒との間の環状隙間で形成されてもよい。
【0020】
シリンダ装置ACは、シリンダ1を車両Vの車体Bおよび車輪WFR,WFL,WRR,WRLのうち一方に連結し、ロッド3を車体Bおよび車輪WFR,WFL,WRR,WRLのうち他方に連結して、車体Bおよび車輪WFR,WFL,WRR,WRLとの間に介装される。なお、車体Bおよび車輪WFR,WFL,WRR,WRLとの間には、シリンダ装置ACに並列して懸架ばねSpが介装される。
【0021】
そして、伸側室R1および圧側室R2には液体として、たとえば、作動油等の液体が充満され、リザーバR内は液体が貯留される。リザーバRにも液体が充填され、気体ばね或いはばね或いはこれら両方によって充填される液体を加圧している。伸側室R1、圧側室R2、リザーバRおよびリザーバR内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用できる。また、本発明では、伸長行程時に圧縮される室を伸側室R1とし、収縮行程時に圧縮される室を圧側室R2としてある。
【0022】
ポンプ4は、吸込側から液体を吸い込んで吐出側から液体を吐出する一方向吐出型に設定され、モータ13によって駆動されるようになっている。モータ13には、直流、交流を問わず、種々の形式のモータ、たとえば、ブラシレスモータ、誘導モータ、同期モータ等を採用できる。
【0023】
そして、ポンプ4の吸込側はポンプ通路14によってリザーバRに接続されており、吐出側は液圧回路FCに接続されている。したがって、ポンプ4は、モータ13によって駆動されると、リザーバRから液体を吸い込んで液圧回路FCに液体を吐出するようになっている。
【0024】
また、ポンプ4を駆動するモータ13は、コントローラCによって制御される。コントローラCは、モータ13へ供給する電流量を調節でき、ポンプ4の駆動および停止のみならず、ポンプ4の回転数を制御できるようになっている。つまり、ポンプ4は、コントローラCによって、駆動制御される。
【0025】
液圧回路FCは、コントローラCによって制御される電磁弁を備えており、ポンプ4から吐出される液体をシリンダ装置ACにおける伸側室R1と圧側室R2へ供給できるようになっている。また、液圧回路FCは、伸側室R1と圧側室R2のいずれかから排出される液体およびポンプ4が吐出される液体のうち余剰分をリザーバRへ排出するようになっている。そして、液圧回路FCは、コントローラCからの指令により伸側室R1と圧側室R2の圧力を調節してシリンダ装置ACの推力を制御し、シリンダ装置ACをアクティブサスペンションとして機能させるようになっている。このように、コントローラCは、各アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLにおける推力を自身が求めた目標制御力通りに制御できるようになっている。
【0026】
コントローラCは、
図1に示すように、車体Bに設置されてそれぞれ上下加速度G
1,G
2,G
3を検知する三つの加速度センサ21,22,23と、車体Bに設置されて車体Bの横方向加速度G
latを検知する加速度センサ24と、車体Bに設置されて車体Bの前後方向加速度G
longを検知する加速度センサ25と、四つの車輪W
FR,W
FL,W
RR,W
RLの上下加速度G
UFR,G
UFL,G
URR,G
URLをそれぞれ検知する加速度センサ26,27,28,29と、車体制御演算部30と、路面入力低減制御演算部31と、目標制御力演算部32と、モータ13および液圧回路FCにおける電磁弁を駆動するドライバ33とを備えて構成されている。
【0027】
加速度センサ21,22,23は、車体Bの上下方向の上下加速度G1,G2,G3を検知するものであって、車体Bの前後または左右方向の同一直線上にない任意の3箇所に設置されている。そして、この加速度センサ21,22,23は、検知した上下加速度G1,G2,G3を車体制御演算部30に出力する。加速度センサ24および加速度センサ25は、それぞれ、検知した横方向加速度Glatおよび前後方向加速度Glongを車体制御演算部30に入力する。加速度センサ26,27,28,29は、それぞれ、検知した上下加速度GUFR,GUFL,GURR,GURLを路面入力低減制御演算部31に入力する。
【0028】
車体制御演算部30は、加速度G1,G2,G3を処理して、車体Bのバウンス速度VB、ピッチ角速度VPおよびロール角速度VRを求める速度演算部30aと、速度演算部30aによって求められたバウンス速度VB、ピッチ角速度VP、ロール角速度VRおよび横方向加速度Glatと前後方向加速度Glongから四つのアクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLが発揮すべき車体制御力FFR,FFL,FRR,FRLを求める制御力演算部30bとを備えている。
【0029】
速度演算部30aは、まず、加速度G1,G2,G3を積分して、上下方向の三つの速度を求める。車体Bを剛体と見なして、車体Bの前後または左右方向の同一直線上にない任意の3箇所の上下方向の速度を得れば、車体Bの上下方向、前後方向回転および横方向回転の各速度が得られる。よって、速度演算部30aは、これら速度から車体Bの重心位置における上下方向の速度であるバウンス速度VBと、当該重心位置の前後方向回転の角速度であるピッチ角速度VPと、当該重心位置の横方向回転の角速度およびロール角速度VRを求める。
【0030】
制御力演算部30bは、速度演算部30aで求めたバウンス速度VB、ピッチ角速度VPおよびロール角速度VRと、加速度センサ24および加速度センサ25で検知した横方向加速度Glatおよび前後方向加速度Glongの入力を受ける。そして、制御力演算部30bは、バウンス速度VB、ピッチ角速度VP、ロール角速度VR、横方向加速度Glatおよび前後方向加速度Glongから車体制御力FFR,FFL,FRR,FRLを求める。
【0031】
図3に示すように、重心からの前側の車輪W
FR,W
FLまでの前後方向距離をL
Fとし、重心からの後側の車輪W
RR,W
RLまでの前後方向距離をL
Rとし、また、右側の車輪W
FR(W
RR)と左側の車輪W
FL(W
RL)のトレッドをWとする。制御力演算部30bは、バウンス速度V
Bにゲインを乗じて車体Bの上下方向の振動を制振する制御力を求める。
【0032】
また、制御力演算部30bは、ピッチ角速度VPにゲインを乗じてピッチ方向の減衰モーメントを求め、この減衰モーメントをホイールベース(LF+LR)で除して車体Bのピッチによる振動を制振するための制御力を求める。
【0033】
さらに、制御力演算部30bは、ロール角速度VRにゲインを乗じてロール方向の減衰モーメントを求め、この減衰モーメントをトレッドWで除して車体Bのロールによる振動を制振するための制御力を求める。
【0034】
また、制御力演算部30bは、入力される前後方向加速度Glongにゲインを乗じて、前後方向に作用する慣性力による車体Bのピッチを防止するのに必要な制御力を求める。
【0035】
そして、制御力演算部30bは、入力される横方向加速度Glatにゲインを乗じて、遠心力による車体Bのロールを防止するのに必要な制御力を求める。
【0036】
前述したとおり、制御力演算部30bは、バウンス速度VB、ピッチ角速度VP、ロール角速度VR、前後方向加速度Glongおよび横方向加速度Glatから、それぞれ、制御力を求める。なお、制御力は、下向きの力の符号を正とし、上向きの力の符号を負として求められる。そして、制御力演算部30bは、これら五つの制御力から各アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLが発生すべき車体制御力FFR,FFL,FRR,FRLを求める。
【0037】
車体Bのバウンスを抑制するには、各アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLが同じ向きで同じ大きさの制御力を発生する必要がある。車体Bのピッチを抑制するには、前側のアクチュエータAFR,AFLと後側のアクチュエータARR,ARLでは、同じ大きさで向きが反対の制御力を発揮する必要がある。車体Bのロールを抑制するには、右側のアクチュエータAFR,ARRと左側のアクチュエータAFL,ARLでは、同じ大きさで向きが反対の制御力を発揮する必要がある。
【0038】
よって、制御力演算部30bは、バウンス速度VBから求めた制御力、ピッチ角速度VPおよび横方向加速度Glatから求めた制御力、ロール角速度VRおよび横方向加速度Glongから求めた制御力を、車体Bのバウンス、ピッチおよびロールを抑制するように加算して各アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLが発生すべき車体制御力FFR,FFL,FRR,FRLを求める。求められた車体制御力FFR,FFL,FRR,FRLは、目標制御力演算部32に入力される。
【0039】
路面入力低減制御演算部31は、上下加速度GUFR,GUFL,GURR,GURLから路面入力低減制御力FCFR,FCFL,FCRR,FCRLを求める。車輪WFR,WFL,WRR,WRLが振動すると、懸架ばねSpが伸縮して車体Bをロールおよびピッチさせるように加振する力が発生する。路面入力低減制御力FCFR,FCFL,FCRR,FCRLは、懸架ばねSpが伸縮して発揮する車体Bを加振する力を打ち消す力である。
【0040】
懸架ばねSpが発生する力によるピッチモーメントMSPとロールモーメントMSRは、ピッチ角α、ロール角β、前輪側の懸架ばねSpのばね定数KF、後輪側の懸架ばねのばね定数KR、各輪WFR,WFL,WRR,WRLの上下方向の変位(上下変位)をXUFR,XUFL,XURR,XURLとすると、以下の(式1)および(式2)で示される。
【0041】
【0042】
【数2】
(式1)および(式2)における右辺の第一項は、車体Bがロールおよびピッチするのに対する復元力であり、第二項及び第三項が車輪W
FR,W
FL,W
RR,W
RLが変位した際に車体Bを加振させるモーメント入力として考えられる。
【0043】
各輪WFR,WFL,WRR,WRLの上下変位XUFR,XUFL,XURR,XURLにばね定数KF,KRを乗じた力をそれぞれFUFR,FUFL,FURR,FURLとすると、この力によって発生するピッチモーメントMPとロールモーメントMRは、以下の(式3)および(式4)で示される。
【0044】
【0045】
【数4】
一方、
図4に示すように、車両Vの前側のアクチュエータA
FR,A
FLと後側のアクチュエータA
RR,A
RLで大きさが同じで作用方向が反対のピッチ抑制力F
Pを与え、車両Vの右側のアクチュエータA
FR,A
RRと左側のアクチュエータA
FL,A
RLで大きさが同じで作用方向が反対のロール抑制力F
Rを与えて、モーメントM
P,M
Rを打ち消すモーメントM
PC,M
RCを考える。すると、モーメントM
PC,M
RCは、以下の(式5)および(式6)で示される。
【0046】
【0047】
【数6】
モーメントM
P,M
RをモーメントM
PC,M
RCで打ち消すには、M
P=M
PC、M
R=M
RCの条件を満たせばよい。この条件を満たしつつ、ピッチ抑制力F
Pおよびロール抑制力F
Rについて解くと、以下の(式7)および(式8)を導出できる。
【0048】
【0049】
【数8】
下向きの力の符号を正とし、ピッチとロールを抑制するように、(式7)および(式8)で求めたピッチ抑制力F
Pおよびロール抑制力F
Rから、各アクチュエータA
FR,A
FL,A
RR,A
RLが発揮するべき路面入力低減制御力F
CFR,F
CFL,F
CRR,F
CRLを求めるには、以下の(式9)、(式10)、(式11)および(式12)を演算すればよい。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【数12】
懸架ばねSpのばね定数K
F,K
R、重心からの距離L
F,L
RおよびトレッドWについては既知である。また、各輪W
FR,W
FL,W
RR,W
RLの上下変位X
UFR,X
UFL,X
URR,X
URLは、加速度センサ26,27,28,29から入力される上下加速度G
UFR,G
UFL,G
URR,G
URLを二回積分すれば求められる。
【0054】
よって、路面入力低減制御演算部31は、懸架ばねSpのばね定数KF,KR、距離LF,LR、トレッドWおよび上下加速度GUFR,GUFL,GURR,GURLから、路面入力低減制御力FCFR,FCFL,FCRR,FCRLを求められる。
【0055】
路面入力低減制御演算部31は、
図5に示すように、加速度センサ26,27,28,29から入力される上下加速度G
UFR,G
UFL,G
URR,G
URLを二回積分する積分器40,41,42,43と、積分器40,41で求めた前輪側の上下変位X
UFR,X
UFLにそれぞればね定数K
Fを乗じて力F
UFR,F
UFLを求める乗算器44,45と、積分器42,43で求めた後輪側の上下変位X
URR,X
URLにそれぞればね定数K
Rを乗じて力F
URR,F
URLを求める乗算器46,47と、力F
UFR,F
UFLを加算する加算器48と、力F
URR,F
URLを加算する加算器49と、力F
UFRから力F
UFLを引いた値に力F
URRから力F
URLを引いた値を加算する加算器50と、加算器48が出力した値にL
F/{2(L
F+L
R)}を乗じる乗算器51と、加算器49が出力した値にL
R/{2(L
F+L
R)}を乗じる乗算器52と、加算器50が出力した値に1/4を乗じてロール抑制力F
Rを求める乗算器53と、乗算器51が出力した値から乗算器52が出力した値を減算してピッチ抑制力F
Pを求める加算器54と、ピッチ抑制力F
Pにロール抑制力F
Rを加算して路面入力低減制御力F
CFRを求める加算器55と、ピッチ抑制力F
Pからロール抑制力F
Rを差し引きして路面入力低減制御力F
CFLを求める加算器56と、ピッチ抑制力F
Pの符号を反転してロール抑制力F
Rを加算して路面入力低減制御力F
CRRを求める加算器57と、ピッチ抑制力F
Pとロール抑制力F
Rの符号を反転させてこれらを加算して路面入力低減制御力F
CFLを求める加算器58とを備えている。
【0056】
路面入力低減制御演算部31における各部で入力される上下加速度GUFR,GUFL,GURR,GURLを処理すると、路面入力低減制御演算部31内で、(式7)から(式12)までの演算処理が行われて、路面入力低減制御力FCFR,FCFL,FCRR,FCRLを求められる。
【0057】
このようにして、求められた路面入力低減制御力FCFR,FCFL,FCRR,FCRLは、目標制御力演算部32に入力される。目標制御力演算部32には、前述したとおり、路面入力低減制御力FCFR,FCFL,FCRR,FCRLのほかに車体制御力FFR,FFL,FRR,FRLが入力される。
【0058】
目標制御力演算部32は、車体制御力FFR,FFL,FRR,FRLにそれぞれ対応する路面入力低減制御力FCFR,FCFL,FCRR,FCRLを加算して、各アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLの目標制御力FTFR,FTFL,FTRR,FTRLを求める。目標制御力演算部32は、目標制御力FTFR,FTFL,FTRR,FTRLを求めるとこれらをドライバ33へ出力する。
【0059】
ドライバ33は、アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARL毎に設けられており、液圧回路FCにおける電磁弁をPWM駆動する駆動回路と、ポンプ4を駆動するモータ13をPWM駆動する駆動回路を備えている。目標制御力演算部32からの目標制御力FTFR,FTFL,FTRR,FTRLの指令入力を受けると、指令通りに電磁弁およびモータ13へ電流を供給する。なお、ドライバ33における各駆動回路は、PWM駆動を行う駆動回路以外の駆動回路であってもよい。
【0060】
そして、目標制御力FTFR,FTFL,FTRR,FTRLがシリンダ装置ACの伸長方向の推力である場合、コントローラCは、液圧回路FCの電磁弁を制御しポンプ4から吐出される液体を圧側室R2へ供給させ、目標制御力FTFR,FTFL,FTRR,FTRLの大きさに応じて圧側室R2の圧力を制御する。反対に、目標制御力FTFR,FTFL,FTRR,FTRLがシリンダ装置ACの収縮方向の推力である場合、コントローラCは、液圧回路FCの電磁弁を制御しポンプ4から吐出される液体を伸側室R1へ供給させ、目標制御力FTFR,FTFL,FTRR,FTRLの大きさに応じて伸側室R1の圧力を制御する。
【0061】
なお、本例では、アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLがシリンダ装置ACと液圧回路FCとを備えた液圧アクチュエータとされているが、アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLは、モータを利用した電動アクチュエータであってもよい。また、アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLは、空気圧で駆動される空圧アクチュエータであってもよい。
【0062】
サスペンション装置Sは、前述のように、車体Bのロールとピッチの各モーメントMP,MRを打ち消すピッチ抑制力FPとロール抑制力FRを求め、これらを加味して目標制御力FTFR,FTFL,FTRR,FTRLを求めて、アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLを制御するようになっている。このピッチ抑制力FPとロール抑制力FRをアクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLに出力させると、アクチュエータAFR,AFL,ARR,ARLは、車体Bに作用する力を事後ではなく事前にキャンセルする制御力を発揮する。よって、車体Bの振動を検知してからこれを抑制する制御力のみを発揮していた従来のサスペンション装置に比較して、本発明のサスペンション装置Sにあっては、車体Bの振動を事前に抑制する制御力を発揮でき、車体Bを効果的に制振できる。このように、本発明のサスペンション装置Sでは、車輪WFR,WFL,WRR,WRLの振動に起因する車体Bの振動を打ち消せるので、車体Bの振動抑制効果が向上する。
【0063】
また、本例におけるサスペンション装置Sは、車体Bの振動を検知して振動を抑制する車体制御力FFR,FFL,FRR,FRLに、ピッチ抑制力FPとロール抑制力FRに基づいて求められる路面入力低減制御力FCFR,FCFL,FCRR,FCRLを加えて、目標制御力FTFR,FTFL,FTRR,FTRLを求めるようになっている。そのため、本例のサスペンション装置Sによれば、車体Bの振動を検知してこの振動を制振する制御力に加えて、車体Bの振動を事前に抑制する制御力を発揮できる。よって、本例のサスペンション装置Sにあっては、従来のサスペンション装置に比較して、車体Bの振動抑制効果が飛躍的に向上する。
【0064】
また、コントローラCが四輪WFR,WFL,WRR,WRLの上下変位XUFR,XUFL,XURR,XURLから車体Bに作用するロールモーメントMPCとピッチモーメントMRCを求め、これらからピッチ抑制力FPとロール抑制力FRを求めるようになっている。上下変位XUFR,XUFL,XURR,XURLから車体Bに作用するロールモーメントMPCとピッチモーメントMRCを求めると、四輪WFR,WFL,WRR,WRLの振動によって、車体Bに作用するロールモーメントMPCとピッチモーメントMRCを簡単かつ正確に求め得る。そして、このようにして得られたロールモーメントMPCとピッチモーメントMRCからピッチ抑制力FPとロール抑制力FRを求めれば、演算負荷も軽く、タイムリーかつ適切にピッチ抑制力FPとロール抑制力FRに基づく制御力を発揮できる。
【0065】
また、コントローラCは、前側に配置されるアクチュエータAFR,AFLに発揮させるピッチ抑制力FPと後側に配置されるアクチュエータARR,ARLに発揮させるピッチ抑制力FPを互いに大きさが同じで向きが反対となるようにし、さらに、右側に配置されるアクチュエータAFR,ARRに発揮させるロール抑制力FRと左側に配置されるアクチュエータAFL,ARLに発揮させるロール抑制力FRを互いに大きさが同じで向きが反対となるようにしている。このようにすると、車体Bに対して上下方向の振動に影響を与えずに、車体Bのピッチとロールを抑制できるので、車体Bのピッチ振動およびロール振動を大きく低減できる。
【0066】
なお、車輪W
FR,W
FL,W
RR,W
RLの上下変位X
UFR,X
UFL,X
URR,X
URLは、車体Bに設けた加速度センサ21,22,23が検知する上下加速度G
1,G
2,G
3と、車体Bと車輪W
FR,W
FL,W
RR,W
RLの相対変位からも求められる。この場合、
図6に示すように、車体Bと車輪W
FR,W
FL,W
RR,W
RLの相対変位については、両者の間にストロークセンサ60,61,62,63を設ければ得られる。なお、ストロークセンサ60,61,62,63は、シリンダ装置ACに組み込んでもよい。ストロークセンサ60,61,62,63を設ける場合、車輪W
FR,W
FL,W
RR,W
RLの上下加速度G
UFR,G
UFL,G
URR,G
URLを検知する必要がないので、加速度センサ26,27,28,29を廃止できる。
【0067】
ストロークセンサ60,61,62,63で検知するのは、車体Bと車輪WFR,WFL,WRR,WRLの相対変位である。よって、車輪WFR,WFL,WRR,WRLの直上の車体Bの変位が分かれば、この車体Bの変位と前記の相対変位とから車輪の上下変位XUFR,XUFL,XURR,XURLを求められる。
【0068】
前述したとおり、加速度センサ21,22,23が検知する上下加速度G1,G2,G3から車体Bのバウンス速度VB、ピッチ角速度VPおよびロール角速度VRが求められる。これらを積分すると、車体Bの重心位置における上下変位XSG、ピッチ角αおよびロール角βが得られる。距離LF,LRおよびトレッドWは既知であるので、各輪直上の車体Bの変位XSFR,XSFL,XSRR,XSRLは、以下の(式13)から(式16)を演算すれば求められる。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【数16】
ストロークセンサ60,61,62,63が検知する相対変位をそれぞれS
FR,S
FL,S
RR,S
RLとし、(式13)から(式16)の演算結果を用いて、以下の(式17)から(式20)を演算すれば、上下変位X
UFR,X
UFL,X
URR,X
URLが求まる。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【数20】
このように、上下変位X
UFR,X
UFL,X
URR,X
URLを車体Bに設けた加速度センサ21,22,23が検知する上下加速度G
1,G
2,G
3と、ストロークセンサ60,61,62,63が検知する相対変位S
FR,S
FL,S
RR,S
RLとから求めてもよい。上下変位X
UFR,X
UFL,X
URR,X
URLは、上下加速度G
UFR,G
UFL,G
URR,G
URLから求めてもよいし、車体Bの上下加速度G
1,G
2,G
3と相対変位S
FR,S
FL,S
RR,S
RLから求めてもよい。車体Bに適するセンサを設置して上下変位X
UFR,X
UFL,X
URR,X
URLを求めればよいので、無理なくサスペンション装置Sを車両Vへ組み込める。
【0077】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【符号の説明】
【0078】
21,22,23,26,27,28,29・・・加速度センサ、60,61,62,63・・・ストロークセンサ、AFR,AFL,ARR,ARL・・・アクチュエータ、B・・・車体、V・・・車両、WFR,WFL,WRR,WRL・・・車輪