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特許71125402個のリガンドと1個のレセプタとからなる高親和性錯体の特定方法と該方法を実行する装置及び該方法に用いられる自己集合型ケミカルライブラリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】2個のリガンドと1個のレセプタとからなる高親和性錯体の特定方法と該方法を実行する装置及び該方法に用いられる自己集合型ケミカルライブラリ
(51)【国際特許分類】
   C40B 30/04 20060101AFI20220727BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20220727BHJP
   C40B 40/10 20060101ALI20220727BHJP
   C40B 40/06 20060101ALI20220727BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
C40B30/04
C12Q1/68
C40B40/10
C40B40/06
C12N15/09
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021013303
(22)【出願日】2021-01-29
(62)【分割の表示】P 2017502621の分割
【原出願日】2015-07-10
(65)【公開番号】P2021092576
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】102014213783.7
(32)【優先日】2014-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519065008
【氏名又は名称】ディーエヌエー バインド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レッダヴィデ フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】デ アンドラーデ ヘレナ
(72)【発明者】
【氏名】リン ワイリン
(72)【発明者】
【氏名】チャン イーシン
(72)【発明者】
【氏名】メーレ エリーザ
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-503860(JP,A)
【文献】国際公開第03/076943(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/150103(WO,A2)
【文献】特表2000-510136(JP,A)
【文献】SPRINZ K. I. et al.,Bioorg. Med. Chem. Lett.,15 (2005),p.3908-3911
【文献】REDDAVIDE F. V. et al.,Angew. Chem. Int. Ed,54 [Epub 2015 May 26],p.7924-7928
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C40B 30/04
C40B 40/00-40/18
C12N 15/09-15/90
C12Q 1/68-1/6897
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個のリガンドと1個のレセプタとからなる高親和性錯体の特定方法であって、
i)ケミカルライブラリのリガンドと、溶液中の少なくとも1個のレセプタとからなる多数の異なる錯体相互作用させるステップであって、前記ライブラリの該リガンドが前記リガンドと化学共有結合する長さ少なくとも20ベースの一本鎖DNA又はRNAを有し、前記リガンドの第1部位における前記一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースのみが前記リガンドの第2部位における前記一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的であると共に、前記リガンドが、前記DNA又はRNAのハイブリダイゼーションを介してリガンド錯体を形成するために複合化され、
ii)前記溶液を所定時間培養し、リガンド錯体と前記レセプタとからなる錯体を生成するステップと、
iii)リガンド錯体とレセプタとからなる、結果物たる前記錯体を特定するステップと、を備え、
前記溶液は、前記リガンドの第1部位と前記リガンドの第2部位との間において、リガンド錯体を形成するハイブリダイゼーションと遊離リガンドを形成する分離化との平衡をもたらす15℃~30℃の温度で培養され
前記リガンドの前記第1部位における前記一本鎖DNA又はRNA及び前記リガンドの前記第2部位における前記一本鎖DNA又はRNAは、化学共有結合されたリガンドをコード化する塩基配列を含む、ことを特徴とする方法
【請求項2】
前記リガンドの第1部位における一本鎖DNA又はRNAのうちの3から9ベースのみ、好ましくは5から9ベースのみ、より好ましくは6から8ベースのみが前記リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAと相補的であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リガンドの前記第1部位における前記DNA又はRNAの長さ及び/又は前記リガンドの前記第2部位における前記DNA又はRNAの長さが、少なくとも40ベース、好ましくは少なくとも100ベース、具体的には少なくとも200ベースであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記リガンドの前記第1部位がL個の異なるリガンドを有し、前記リガンドの前記第2部位がM個の異なるリガンドを有し、よってL・M個の異なるリガンド錯体が形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶液が、前記ii)のステップにおいて、1℃から50℃、好ましくは5℃から37℃、より好ましくは10℃から25℃、具体的には15℃から20℃で培養されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶液が、前記ii)のステップにおいて、0.1から48時間、好ましくは0.2から24時間、より好ましくは0.5から12時間、具体的には1から6時間、培養されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記レセプタが、好ましくはガラス、セラミック、バイオポリマ、セファロース、合成ポリマ、及びハイドロゲルからなる一群から選択される基板上に固定されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記レセプタが、タンパク質、DNA、RNA、セル、及び/又は、分子量200kDa以下、好ましくは100kDa以下、より好ましくは10kDa以下、具体的には3kDa以下の有機分子を含む、又はこれらからなることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記リガンドが、タンパク質、ペプチド、リピド、炭水化物、dsDNA、ssDNA、dsRNA、及びssRNAからなる一群から選択された分子と、アプタマーと、分子量200kDa以下、好ましくは100kDa以下、より好ましくは10kDa以下、具体的には3kDa以下の有機分子と、を含む、又はこれらからなることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
リガンド錯体と前記レセプタとからなる前記錯体が、質量分光、HPLC、ガスクロマトグラフィ、赤外線分光、及びDNA配列、好ましくはDNA又はRNAバーコードのDNA配列、からなる一群から選択される分析手法によって特定されることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
記化学共有結合されたリガンドをコード化する前記塩基配列は、少なくとも部分的にハイブリダイゼーションして、更なる一本鎖DNA又はRNAの相補的塩基配列を形成することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ライブラリのリガンドの前記一本鎖DNA又はRNAが、更なる一本鎖DNA又はRNAの相補的塩基配列を形成するために部分的にハイブリダイゼーションされ、
前記リガンドの第1部位における前記更なる一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースが、前記リガンドの第2部位における前記一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的であると共に、前記相補的ベースと連結し、
前記方法において、Y型を形成し、
リガーゼを添加して、前記リガンドの前記第1部位における前記更なる一本鎖DNA又はRNAと、前記リガンドの前記第2部位における前記更なる一本鎖DNA又はRNAとを化学共有結合することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記リガンドの第1部位における一本鎖DNA又はRNAが、i)5´端末に前記リガンドを有しているとき、該5´端末において、前記リガンドの第2部位における前記一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的であると共に、前記リガンドの第2部位における前記一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的である前記更なる一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースが、前記更なる一本鎖DNA又はRNAの3´端末に配置される、又はii)3´端末に前記リガンドを有しているとき、該3´端末において、前記リガンドの第2位部位における前記一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的であるベースを有すると共に、前記リガンドの第2部位における前記一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的である前記更なる一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースが、前記更なる一本鎖DNA又はRNAの5´端末に配置される、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ベース長さが少なくともベースの一本鎖DNA又はRNAと化学共有結合した第1のリガンド及び第2のリガンドを備えるケミカルライブラリであって、
前記第1のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースのみが前記第2のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的であり、
前記ケミカルライブラリは、前記第1のリガンド及び前記第2のリガンドの各々の二元錯体を含み、
前記第1のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNA及び前記第2のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNAは、化学共有結合されたリガンドをコード化する塩基配列を含む、ことを特徴とするライブラリ
【請求項15】
前記第1のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNAのうちの3から9ベースのみ、好ましくは5から9ベースのみ、より好ましくは6から8ベースのみが前記第2のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNAと相補的であることを特徴とする請求項14に記載のライブラリ。
【請求項16】
前記第1のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNAの長さ及び/又は前記第2のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNAの長さが、少なくとも40ベース、好ましくは少なくとも100ベース、具体的には少なくとも200ベースであることを特徴とする請求項14又は15に記載のライブラリ。
【請求項17】
前記第1のリガンドがL個の異なるリガンドを有すると共に、前記第2のリガンドがM個の異なるリガンドを有し、よって前記ライブラリがL・M個の異なるリガンド錯体を有することを特徴とする請求項14から16のいずれか1項に記載のライブラリ。
【請求項18】
前記リガンドが、タンパク質、ペプチド、リピド、炭水化物、dsDNA、ssDNA、dsRNA、及びssRNAからなる一群から選択された分子と、アプタマーと、分子量200kDa以下、好ましくは100kDa以下、より好ましくは10kDa以下、具体的には3kDa以下の有機分子と、を含む、又はこれらからなることを特徴とする請求項14から17のいずれか1項に記載のライブラリ。
【請求項19】
前記ライブラリのリガンドの前記一本鎖DNA又はRNAが、更なる一本鎖DNA又はRNAの相補的塩基配列を形成するためにそれぞれ部分的にハイブリダイゼーションされ、
前記第1のリガンドにおける第1の更なる一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースが、前記第2のリガンドにおける前記第2の一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的であることを特徴とする請求項14から18のいずれか1項に記載のライブラリ。
【請求項20】
前記第1のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNAが、
i)5´端末に前記第1のリガンドを有しているとき、該5´端末において、前記第2のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的であると共に、前記第2のリガンドにおける前記第2の一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的である前記更なる一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースが、前記更なる一本鎖DNA又はRNAの3´端末に配置される、又は
ii)3´端末に前記第1のリガンドを有しているとき、該3´端末において、前記リガンドの第2位部位における前記一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的であるベースを有すると共に、前記第2のリガンドにおける前記一本鎖DNA又はRNAのベースと相補的である前記更なる一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースが、前記更なる一本鎖DNA又はRNAの5´端末に配置される、ことを特徴とする請求項19に記載のライブラリ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
2個のリガンドと1個のレセプタとからなる高親和性錯体の特定方法を提案する。本方法では、それぞれ一本鎖DNA又はRNAを有するリガンドが用いられる。リガンドの一部としてのDNAやRNAは、他のリガンドの一部であるDNAやRNAを補完するため、両リガンドの対応部分が一緒になって二元錯体を形成する。ある実施例における当該DNAやRNAの長さは3~10ベース、別の実施例にあっては、10ベース以上である。本発明によれば、一本鎖DNAやRNAのハイブリッド化及び分離化をダイナミックに実現でき、第1実施例の場合には室温で、第2実施例の場合には過熱/冷却サイクルを適用することでこれを実現できる。さらに、本発明に係る方法を実行する微小流体装置と、各リガンドの二元錯体を有する自己集合型ケミカルライブラリを提案する。
【0002】
生物医学的に興味のある種々の標的タンパク質に対して効果的なバインダや阻害薬を見つける際に、DNAコード化されたケミカルライブラリやDNA/RNAアプタマーライブラリを利用するために必要な要件は、結合力の弱い又は結合力の無い成分と高い結合親和性を持つ分子とを区別するために、選択実験におけるノイズに対する信号の比率を向上させることである。
【背景技術】
【0003】
今日までの従来技術にあっては、公知の標的タンパク質に対する選択条件を最適化するために、通常異なる選択厳格性の下で並行選択実験が実行されている。例えば、複数の固体キャリア物質をそれぞれ異なる量の標的タンパク質でチャージする。さらに、種々の洗浄方法が確立されており、異なるイオン強度の緩衝剤と洗浄剤が用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
並行選択実験を実行するには、標的タンパク質に関する多くの追加実験が必要となるが、これは時間的にも費用的にも負担が大きい。また、標的タンパク質の全ライブラリにおける結合親和性の分布が不明である場合、様々に変化する選択厳格性の下で並行選択実験を設計することは非常に難しい。高い親和性を持つバインダを選択するには、特別な選択条件が適用されなければならない。そのため、高親和性結合分子がライブラリに存在していることが既知である場合に限り、厳格な平行選択実験が実行できるという欠点がある。
【0005】
他方、第1選択実験(デノボ選択実験)における成分の特徴付けは非常に時間と費用がかかる。加えて、先行する一次選択により得られた知識や情報無しでは、並行選択実験を設計することは難しい。
【0006】
したがって、本発明の目的は、2個のリガンドと1個のレセプタとからなる高親和性三元錯体の、簡易かつ経済的であって高感度な特定方法の提供を可能にすることにある。加えて、該方法を実行する装置と、該方法に用いられる自己集合型ケミカルライブラリを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、請求項1に係る方法、請求項14に係るダイナミック自己集合型ケミカルライブラリ、及び請求項21に係るライブラリの用途によって達成される。
【0008】
本発明にあっては、2個のリガンドと1個のレセプタとからなる高親和性錯体の高感度特定方法が提供され、該方法は以下のステップを含む:
a)ケミカルライブラリのリガンドと溶液中の少なくとも1個のレセプタとからなる多数の異なる錯体の相互作用。該ライブラリのリガンドは、当該リガンドと化学共有結合する長さ10ベース以上の一本鎖DNA又はRNAを有する。また、リガンドの第1部位における一本鎖DNA又はRNAのうちの10ベース以上が、リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完する。さらに、該リガンドは、前記DNA又はRNAのハイブリッド化を介してリガンド錯体を形成するために複合化される。
b)溶液を所定時間培養し、リガンド錯体とレセプタとからなる錯体を生成する。
c)遊離リガンドを形成するために該リガンド錯体を分離する。
d)更なるリガンド錯体を形成するために該リガンド錯体を再ハイブリッド化する。
e)溶液を所定時間培養し、更なるリガンド錯体とレセプタとからなる更なる錯体を生成する。
f)リガンド錯体とレセプタとからなる、結果物たる錯体の特定をする。
【0009】
本方法は、リガンドの第1部位と該リガンドの第2部位とが溶液の中でハイブリッド化されてリガンド錯体を形成する温度(ステップb),d),e))で培養されることを特徴とする。
【0010】
2個のリガンドからなる特定の化合物(dsDNA又はdsRNAを介して結合されたリガンド1及びリガンド2からなる特定の二元リガンド錯体)に対して高い親和性を持つレセプタが存在する場合、当該2個のリガンドと該レセプタとからなる高親和性三元リガンド‐レセプタ錯体が形成される。したがって、二元リガンド対の高親和性リガンド対が枯渇すると共に、三元リガンド対‐レセプタ錯体がリッチになる。
【0011】
最新技術に係る方法の欠点は、アフィンリガンドをほとんど含まない又は一切含まない特定割合の高親和性リガンドが、ハイブリッド化されて低親和性リガンド錯体に「トラップされる(trapped)」ことである。当該課題は、本発明に係る方法によって解決することができる。即ち、リガンド対が分離される方法ステップにより、リガンド錯体に「トラップ(trapped)」された高親和性リガンドは、ハイブリッド化のために再び「遊離(Free)」され、続くハイブリッド化のステップにおいて、他の遊離高親和性リガンドと共に新たなリガンド錯体を形成する。新たに形成されたリガンド錯体は、リガンド‐レセプタ錯体を形成するのに利用可能となる。その結果、定量的に望ましい状況では、高親和性リガンドがリガンド‐レセプタ錯体に変換され、これによりより多くのリガンド‐レセプタ錯体が生成されると共に、最新技術に係る方法に対して感度を増加させることができる(即ち、信号‐ノイズ比が向上する)。実際、理論的に可能なライブラリ内の高親和性リガンド対の数をNとした場合、高親和性リガンド対の形成頻度は、理想的には係数Nまで増加する(高親和性錯体の定量的形成。高親和性リガンドが低親和性リガンドと結合して「トラップされる(trapped)」ことはない)。
【0012】
リガンド錯体は、例えば溶液の温度を上昇させることで分離可能である。具体的には、溶液の温度を35℃から95℃、好ましくは50℃から95℃、より好ましくは70℃から95℃、具体的には80℃から95℃とする。
【0013】
リガンド錯体の分離化は、好適には、レセプタから所定距離だけ離れて配置された溶液の一部において実行され、該レセプタは、分離化を誘起する当該状況によってその機能を損なうことのないように配置されるのが望ましい。この実施例の有利な点は、分離化の効果がレセプタの(生化学的な)機能に悪影響を及ぼさない点にある。具体的には、熱及び/又はpHに起因する変性(例えば、タンパク質を含む、又はタンパク質からなるレセプタへの変性)からレセプタが保護される。
【0014】
遊離リガンドは、溶液の温度を低下することで(再)ハイブリッド化することができる。具体的には、溶液の温度を1℃から30℃、好ましくは5℃から28℃、より好ましくは10℃から25℃、具体的には15℃から20℃とする。
【0015】
本方法のステップc)からe)は、少なくとも1回又は2回繰り返され、好ましくは少なくとも3回又は4回、より好ましくは少なくとも5回又は6回、具体的には少なくとも7回又は8回繰り返される。該ステップを頻繁に繰り返すほど、より多くの高親和性リガンド錯体がリガンド‐レセプタ錯体へと変換される(感度の向上)。
【0016】
好適な実施例にあっては、リガンドの第1部位における一本鎖DNA又はRNAのうち、少なくとも20ベース、好ましくは少なくとも40ベース、より好ましくは少なくとも100ベース、具体的には少なくとも200ベースが、リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAを補完する。
【0017】
さらに、本発明に係る目的を達成する別の解決手段にあっては、加熱・冷却処理を省略することができる。
【0018】
この点において、2個のリガンドと1個のレセプタとからなる高親和性錯体の高感度な特定方法が提供される。当該方法は、以下のステップを含む:
i)ケミカルライブラリのリガンドと、溶液中の少なくとも1個のレセプタとからなる多数の異なる錯体の相互作用。該ライブラリのリガンドは、当該リガンドと化学共有結合する長さ2ベース以上の一本鎖DNA又はRNAを有する。また、リガンドの第1部位における一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースのみが、リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完する。さらに、該リガンドは、前記DNA又はRNAのハイブリッド化を介してリガンド錯体を形成するために複合化される。
ii)溶液を所定時間培養し、リガンド錯体とレセプタとからなる錯体を生成する。
iii)リガンド錯体とレセプタとからなる、結果物たる錯体の特定をする。
【0019】
本方法は、リガンドの第1部位とリガンドの第2部位との間において、リガンド錯体を形成するハイブリッド化と遊離リガンドを形成する分離化との平衡を達成できる温度(例えば室温、即ち15℃から30℃)で溶液が培養されることを特徴とする。これにより、ダイナミックなハイブリッド化と分離化を実現できる。
【0020】
本発明に係る、最初に記載した方法との差異として、リガンドの2つの部位間における補完用ベースの数が小さいため、リガンドの(ハイブリッド化による)結合と分離が室温で実行できることが挙げられる(動的平衡)。また、レセプタの存在により、高親和性リガンド対が該動的平衡状態から「取り出されて(withdrawn)」、リガンド‐レセプタ錯体に変換される。したがって、高親和性リガンド対がケミカルライブラリの一般リガンドプールで枯渇し、高親和性三元リガンド‐レセプタ錯体がリッチになる。また、動的平衡により、全高親和性リガンド対が(定量的に望ましい状況では)、加熱・冷却処理を要することなく、レセプタ錯体に変換される。これにより、リガンド‐レセプタ錯体の濃度が増加すると共に、本検出方法の感度も向上する。一方、欠点としては、補完用ベースの数が小さいためにリガンド対の安定性が低く、最初に記載した方法のリガンド対に比して全体的に低親和性のリガンド対となってしまう点が挙げられる。このため、該平衡状態における三元リガンド‐レセプタ錯体の密度も低くなる。
【0021】
本変形例では、リガンドの第1部位における一本鎖DNA又はRNAのうちの3から9ベースのみ、好ましくは4から8ベースのみ、より好ましくは5から7ベースのみがリガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAを補完する。
【0022】
いずれの方法にあっても、リガンドの第1部位及び/又はリガンドの第2部位のDNAやRNAの長さは、少なくとも20ベース、好ましくは少なくとも40ベース、より好ましくは少なくとも100ベース、具体的には少なくとも200ベースである。
【0023】
リガンドの第1部位及び/又は第2部位は、全リガンド量の20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、具体的には50%以上を占める。また、リガンドの第1部位は、好ましくはL個の異なるリガンドを有し、リガンドの第2部位は、好ましくはM個の異なるリガンドを有する。この結果、L・M個の異なる二元リガンド錯体が形成される。L・M個の二元リガンド錯体のライブラリとして、少なくとも1.5からN倍、好ましくは2からN(1/2)倍、具体的には3から10倍の効率で特定の高親和性リガンド錯体がリッチ化される。
【0024】
好ましい実施形態にあっては、少なくともステップb)、e)、及びii)のいずれか1つのステップにおいて、温度1℃から50℃、好ましくは5℃から37℃、より好ましくは10℃から25℃、具体的には15℃から20℃で溶液が培養される。上記温度範囲は、多くの種類のレセプタ(具体的には、タンパク質レセプタ)が安定しており、結合しているリガンドの機能を損なうことがないことが利点である。
【0025】
また、少なくともステップb)、e)、及びii)のいずれか1つのステップにおいて、0.1から48時間、好ましくは0.2から24時間、より好ましくは0.5から12時間、具体的には1から6時間、溶液が培養される。リガンド対とレセプタの結合は熱力学的に有利である一方で緩い動特性を有するため培養時間を十分に長くとることが有利である。
【0026】
本発明に係る方法において用いられるレセプタは、好ましくは基板に固定される。当該基板は、ガラス、セラミック、バイオポリマ、セファロース、合成ポリマ、ハイドロゲルからなる一群から選択される。具体的には、リガンドを含む溶液が、1サイクル中に上記固定されたレセプタに導入される。本実施例では、リガンド錯体の分離が、レセプタから所定距離だけ離れた場所に配置された溶液の一部で実行される場合に有利である。なぜならば、リガンドの分離化及びハイブリッド化を離間して行う一方で、両者を同時に実行することができるためである(例えば、レセプタから所定距離だけ離れた場所で分離化をし、レセプタの近くでハイブリッド化をする)。
【0027】
レセプタは、好ましくはタンパク質、DNA、RNA、セル、及び/又は、分子量200kDa以下、好ましくは100kDa以下、より好ましくは10kDa以下、具体的には3kDa以下の有機分子を含む、又はこれらからなる。
【0028】
使用されるリガンドは、タンパク質、ペプチド、リピド、炭水化物、dsDNA、ssDNA、dsRNA、及びssRNAからなる一群から選択された分子と、アプタマーと、分子量200kDa以下、好ましくは100kDa以下、より好ましくは10kDa以下、具体的には3kDa以下の有機分子と、を含む、又はこれらからなる。
【0029】
好ましい実施例では、リガンド錯体とレセプタとからなる錯体は、ある解析手法を用いて特定される。当該手法は、好ましくは、質量分光、HPLC、ガスクロマトグラフィ、クロマトグラフィ、赤外線分光、及びDNA配列(好ましくはDNA又はRNAバーコードのDNA配列)からなる一群から選択される。
【0030】
より好ましくは、リガンドの第1部位及び/又は第2部位の一本鎖DNA又はRNAは、化学共有結合されたリガンドをコード化する塩基配列(バーコードとしての塩基配列)を備え、該塩基配列は、好ましくはハイブリッド化されて、更なる一本鎖DNA又はRNAに対する相補的塩基配列を形成する。当該バーコードの有利な点は、DNAやRNA配列を介して複雑に結合したリガンドを容易に特定できる点にある。即ち、リガンドの塩基配列がバーコードとして機能し得るハイブリッド化された相補的な一本鎖DNA又はRNAを含む場合に特に有利である。リガンド‐レセプタ錯体の両リガンド(リガンド1,2)が一本鎖DNA又はRNAを含む場合には、これらが結合される(例えば、リガーゼを添加すると、リガンド1,2の特定の組み合わせをコード化する一本鎖DNA又はRNAが得られる)。したがって、かかる場合、(結合された)バーコードは各リガンドだけでなく、結合されて高親和性リガンド錯体を形成する2つのリガンドもコード化する。
【0031】
本方法に用いられる一本鎖DNAは、
i)アデニン、チミン、グアニン、及び/又はシトシンを含む。
また、本方法に用いられる一本鎖RNAは、
ii)アデニン、ウラシル、グアニン、シトシン、及び/又はイノシンを含む。
【0032】
本方法は(有意な実施例にあっては)、ライブラリ内のリガンドの一本鎖DNA又はRNAが部分的にハイブッリド化されて、更なる一本鎖DNA又はRNAの相補的塩基配列を形成し、リガンドの第1部位における当該更なる一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースが、リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完する。また、本方法において、該相補的なベースと連結し(好ましくは、図6に具体的に示すように、Y型を形成し)、リガーゼが添加され、これにより、リガンドの第1部位における当該更なる一本鎖DNA又はRNAと、リガンドの第2部位における当該更なるDNA又はRNAとが化学共有結合される。
【0033】
このように、更なるDNAやRNAとの連結は、結果が各ベースのハイブリッド化である場合、即ち、全錯体が十分に安定している場合に限り生じる。しかしながら、一度錯体の形成が起これば、更なるDNAやRNAの化学共有結合によってこれが格納される(stored)。換言すれば、当該連結の基礎が全錯体の安定した形成である場合には、連結された更なるDNA又はRNAが蓄積されていく。この場合、本方法の感度を顕著に上昇させることができる。特に、蓄積された連結DNA又はRNAが、公知の方法(PCT,RT-PCR)を介してさらに増幅されると、本発明の感度が顕著に向上する。この結果、非常に濃度の低いリガンドを用いることも可能となったり、非常に濃度の低いレセプタの場合であっても高親和性リガンドを特定したりすることができる。
【0034】
上記実施例にあっては、リガンドの第1部位における一本鎖DNA又はRNAが、
i)その5´端末にリガンドが結合され、当該5´端末において、リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完すると共に、リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完する更なる一本鎖DNA又はRNAの2~10ベースが、当該更なる一本鎖DNA又はRNAの3´端末に配置される、又は、
ii)その3´端末にリガンドが結合されているとき、当該3´端末において、リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完すると共に、リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完する更なる一本鎖DNA又はRNAのうちの2から10ベースが、当該更なる一本鎖DNA又はRNAの5´端末に配置される。
【0035】
上記各相補的ベースの特定の配置により、Y構造の形成を補助し、その結果、リガーゼによる2つの更なる一本鎖DNA又はRNAの連結の効率が高まる。
【0036】
さらに、本発明に係る上記方法を実行する微小流体装置が提供される。当該装置は、a)固定レセプタを受け取る容器であって、ライブラリのリガンドの注入とリガンド‐レセプタ錯体の隔離とを実現するバルブへのアクセスを有し、流体パイプの流入口及び流出口を備える容器と、
b)容器の入口と出口に接続された流体パイプであって、1か所にバルブ付き排出口を有する流体パイプと、
c)流体パイプの第1領域に設けられた加熱装置と、
d)流体パイプの第1領域とは異なる第2領域に設けられた冷却領域と、
を備える。
【0037】
本微小流体装置では、溶液中のリガンドの過熱及び固定レセプタと結合したリガンドの選択が、互いに離間した位置で行われ、その結果、レセプタの損傷(例えばタンパク質の変性)を防ぐことができる。容器は、固定レセプタを保護し、固定レセプタが流体パイプに流れるのを防ぐ。そのため、容器は固定レセプタが流体パイプに流れるのを防ぐフィルタを備えていることが好ましい。
【0038】
好適な実施例では、本装置の冷却領域は冷却装置を備え、及び/又は、該冷却領域はバルブ付き排出口の部位に設けられる。
【0039】
本装置は、流体パイプを介して液体を送り出すために設けられたポンプを備える。また、本装置の容器は固定レセプタが流体パイプに流れるのを防ぐフィルタを備える。
【0040】
本微小流体装置は、容器及び/又は流体パイプが、本発明に係るダイナミック自己集合型ケミカルライブラリを備えることを特徴とする。
【0041】
さらに、リガンドを備えるケミカルライブラリを提供する。該ライブラリは、他のリガンドと化学共有結合されたリガンドであって、ベース長さが2ベース以上の一本鎖DNA又はRNAを有するリガンドを備える。また、該ライブラリは、リガンドの第1部位における2~10ベースの一本鎖DNA又はRNAが、該リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完することを特徴とする。
【0042】
リガンドの第1部位における一本鎖DNA又はRNAのうち、3から9ベースのみ、好ましくは4から8ベースのみ、より好ましくは5から7ベースのみがリガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完する。
【0043】
リガンドの第1部位及び/又は該リガンドの第2部位におけるDNA又はRNAの長さは、少なくとも20ベースであり、好ましくは少なくとも40ベース、より好ましくは少なくとも100ベース、具体的には少なくとも200ベースである。
【0044】
好適な実施例では、リガンドの第1部位及び/又は第2部位は、ライブラリ内のリガンドの総量に対して20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、具体的には50%のリガンドを構成する。第1部位のリガンドLは、好ましくはL個の異なるリガンドを有し、第2部位のリガンドは、好ましくはL個の異なるリガンドを有する。これにより、ライブラリにはL2個の異なるリガンド錯体が格納される。
【0045】
ライブラリのリガンドは、タンパク質、ペプチド、リピド、炭水化物、dsDNA、ssDNA、dsRNA、及びssRNAからなる一群から選択された分子と、アプタマーと、分子量200kDa以下、好ましくは100kDa以下、より好ましくは10kDa以下、具体的には3kDa以下の有機分子と、を含む、又はこれらからなる。
【0046】
上記一本鎖の
i)DNAは、アデニン、チミン、グアニン、及び/又はシトシンを備え、
ii)RNAは、アデニン、ウラシル、グアニン、シトシン、及び/又はイノシンを備える。
【0047】
ライブラリは、該ライブラリのリガンドの一本鎖DNA又はRNAがそれぞれ部分的にハイブリッド化されて、更なる一本鎖DNA又はRNAの相補的塩基配列を形成することを特徴とする。ここで、該リガンドの第1部位における第1の更なる一本鎖DNA又はRNAの2~10ベースが、該リガンドの第2部位における第2の一本鎖DNA又はRNAのベースを補完する。
【0048】
リガンドの第1部位における一本鎖DNA又はRNAは、
i)リガンドの5´端末にリガンドを備え、当該5´端末にリガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完するベースを有し、リガンドの第2部位における第2の一本鎖DNA又はRNAのベースを補完する更なる一本鎖DNA又はRNAの2~10ベースが、当該更なる一本鎖DNA又はRNAの3´端末に配置される、又は、
ii)リガンドの3´端末にリガンドを備え、当該3´端末にリガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完するベースを有し、リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完する更なる一本鎖DNA(9)又はRNAの2~10ベースが、当該更なる一本鎖DNA又はRNAの5´端末に配置される。
【0049】
最後に、本発明に係る、高親和性三元リガンド‐レセプタ錯体の選択的で高感度な特定を実現する、ケミカルライブラリの用途を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】ケミカルライブラリの多数の異なるリガンドと、少なくとも1つのレセプタとを示す。
図2】他の実施例に係るケミカルライブラリの多数の異なるリガンドと、少なくとも1つのレセプタとを示す。
図3】高親和性リガンド対がレセプタとの錯体としてどのように蓄積されていくかを説明する説明図である。
図4】本発明に係る微小流体装置を示す。
図5】本発明に係る方法の効果を実証する実験結果を示す。
図6】錯体全体が本発明の好適な実施例に適合したY型を示す。
【0051】
本発明の対象を添付の図面を参照してより詳細に説明するが、当該対象をここで図示される特定の実施例に限定する意図はない。
【0052】
図1は、ケミカルライブラリの多数の異なるリガンド2,3,4,5,6,7と、少なくとも1つのレセプタ1とを示す。リガンド2,3,4,5,6,7は、ベース長さ10以上の一本鎖DNA8,9とそれぞれ化学共有結合される。一本鎖DNA8,9は、塩基配列を介して結合された対応するリガンドをそれぞれコード化する。本実施例では、リガンド2,6,7の第1部位における一本鎖DNA8の18ベースが、リガンド3,4,5の第2部位における一本鎖DNA9を補完している(一本鎖DNA8,9間の破線を参照)。ここでは、(符号2,3のリガンドによって形成される)特定のリガンド対のみが高親和性でレセプタ1と結合する。(符号4,5,6,7のリガンドによって形成される)他のリガンド対は結合力が弱く、レセプタ1とは一切結合しない。2つのリガンド2,3,4,5,6,7の一本鎖DNA8,9間における多数の相補的ベースにより、当該リガンド錯体が安定し、検出方法としての使用中、高い感度をもたらすことができる。また、ダイナミックハイブリッド化と分離化を達成するためには、永続的な暖房(分離化)と冷却(再結合又はハイブリッド化)、即ちエネルギ供給が必要となる。
【0053】
図2は、図1に対応する図面であるが、この実施例では、リガンドの第1部位における一本鎖DNAの6ベースのみが該リガンドの第2部位における一本鎖DNA又はRNAのベースを補完している点で図1に示す例と相違する(その他の分子や符号については、図1と同一である)。相補的ベースが少ないため、2つのリガンドの結合(ハイブリッド化)を室温(15℃~30℃)でダイナミックに実現できるという利点を持つ。即ち、永続的なハイブリッド化と分離化が実現できる。特定のリガンド対の場合、レセプタとの高親和性結合により、これらリガンド対の分離化が妨げられ、その結果、レセプタと高親和性リガンド対とからなる錯体がより長く存在し、「蓄積し(accumulate)」、やがて、平衡状態においてより高い密度で存在する。この実施例にあっては、ダイナミックな結合及びハイブリッド化が室温で実現されるため、図1の実施例に比して、熱エネルギを供給する必要性がないという利点を有する。一方、本実施例では、ベース対の数が少なく(18ではなく6)リガンド錯体及びリガンドとレセプタとからなる錯体が不安定な状態となるため、図1の実施例に比して感度が低いという点で不利である。その結果、図1の実施例よりも、平衡状態における密度が低くなる。
【0054】
図3は、反応式によって、高親和性リガンド対がレセプタとの錯体としてどのように「蓄積されていく(accumulate)」かを説明するものである。図1から図2を参照して既に説明した分子に加え、リガンド対は、リガンドと共有結合された一本鎖DNAを補完する一本鎖DNA10,11をさらに有する(それ以外は、分子も符号も図1と同一である)。当該追加の一本鎖DNA10,11は、例えば適切なプライマ及びPCR反応を介して生成される。下向き矢印12は、(例えば、該追加の一本鎖DNA10,11が相互に化学共有結合するように促すリガーゼ酵素を追加することで実現する)連結反応を示す。この例において有利な点は、連結されたDNAフラグメントが、塩基配列を介して特定のリガンド対用にコード化される結果、DNA配列により当該リガンド対を容易に特定できることにある。
【0055】
図4は、本発明に係る微小流体装置を示す。バルブ付き開口15から容器に充填された固定レセプタが容器14内に存在する。容器14は一方側及び反対側が、液体を導入する1つのパイプで接続される。該パイプは加熱領域に配置される。加熱処理は、熱源13となる赤外線ラジエータにより実行される。さらに、当該装置は冷却領域17を有する。該領域には、冷却装置を設けても良い。さらに、該冷却領域17において、パイプにバルブ付き排出口16が設けられ、分析のために(遊離)リガンドを含む液体を取り出したり供給したりすることができる。加えて、所定の培養時間経過後、高親和性リガンドで充填された固定レセプタが開口15から取り出される。
【0056】
図5は、本発明に係る方法の効果を実証する実験結果を示す。リガンドとしては、ssDNAと化学共有結合したイミノビオチン(Im‐ssDNA)を用いた。該Im-ssDNAは、均等に、第1部位Im‐ssDNA1と第2部位Im‐ssDNA2に分離される。本実験において、Im‐ssDNA1及びIm‐ssDNA2は異なる数のベースを有し、該ベースは互いに補完し合う(例えば、“6‐mer”の場合には、6つの相補的ベースを有する)。また、Im‐ssDNA1は蛍光色素Cy5と化学共有結合されて、遊離Im‐ssDNA1や、レセプタを備えないIm‐ssDNA2とIm‐ssDNA1とからなる遊離二元錯体の検出及び定量化を可能とすると共に、三元Im‐ssDNA1・Im‐ssDNA2・レセプタ錯体の検出を可能とする。なお、レセプタには固定されたストレプトアビジンを用い、溶液にはpH9.2の水性緩衝材を用いた。図は、競合条件、即ち、非アフィンリガンドの一例としてイミノビオチンフリーssDNA(ssDNA)が存在している状況(x軸の「ワンアーム(one-arm)」、「6‐mer(6-mer)」、「8‐mer(8-mer)」、「21‐mer(21-mer)」を参照)と、競合するssDNAが存在しない非競合条件(x軸の「21-mer、非競合(21-mer, no comp.)」を参照)において、リガンド‐レセプタ錯体に対するレセプタと結合していないリガンドの割合(y軸の「結合/非結合(bonded/unbonded)」)を示す。
【0057】
非競合実験(x軸における「21-mer:非競合(21-mer, no comp.)」)を除き、溶液中にはイミノビオチンフリーssDNAが300倍以上存在する。「ワンアーム(one-arm)」(及び「6‐mer(6-mer)」)での実験では、Im‐ssDNA1のみが存在し、Im‐ssDNA2は存在しないため、2元リガンド錯体が形成されることはなかった。したがって、「ワンアーム(one-arm)」の実験は、単量体イミノビオチンのストレプトアビジンに対する結合率を示す。また、「6‐mer(6-mer)」実験との直接比較から、二量体イミノビオチン(=二元リガンド錯体)を用いた当該実験条件下において、結合平衡がリガンド‐レセプタ錯体の方向に移動したことが明確に見て取れる。なお、「8‐mer(8-mer)」実験の場合、8ベース対のハイブリッド化の方がより高い安定性を有するため、当該効果がより顕著に見て取れる。しかしながら、相補的ベースの数がさらに増えると(例えば、「21‐mer(21-mer)」実験の21相補的ベースの場合)、得られるリガンド‐レセプタ錯体の量は、「ワンアーム(one-arm)」実験の値と略同じ値にまで低下する。
【0058】
かかる現象は、Cy5とラベル化したssDNA(Im-ssDNA1)が、イミビオチンフリーのssDNA(ssDNA)を有する低親和性錯体に「トラップされ(trapped)」、Cy5フリーだがイミビオチンを含むssDNA(Im‐ssDNA2)とは相補的に結合しえなくなることに起因する。なお、かかる結果は「21-mer(21-mer)」実験でのみ見られる。なぜなら、形成されたIm‐ssDNA1・ssDNA錯体が非常に安定しており、室温では(追加のエネルギ供給がない限り)当該錯体の分離が発生しないためである。一方、相補的ベースの数が6個や8個である場合(「6‐mer(6-mer)」、「8‐mer(8-mer)」の場合)、Im‐ssDNA1・ssDNA錯体の形成が安定せず、ダイナミックであるため、上記現象は発生しない。このため、相補的ベースの数が少ない場合には、ssDNAによって「ブロックされた(blocked)」、イミビオチン結合ssDNA(Im‐ssDNA1)が再び遊離し、更なるイミビオチン結合ssDNA(Im‐ssDNA2)と反応して高親和性錯体を形成することができる。この結果、相補的ベースの数が6個又は8個の場合、レセプタ(この例にあってはストレプトアビジン)と高親和性リガンド対(この例にあっては、2つのイミビオチン分子)とからなる錯体の「蓄積(accumulation)」が室温で発生する。これにより、静的な方法に比して本方法が有利なものとなる。なお、21個のベースを用いても、加熱(分離)と冷却(ハイブリッド化)を交互に加えることによって、すなわちエネルギを供給することで、感度を上昇させることができる。
【0059】
図6は、錯体全体が本発明の好適な実施例に適合したY型を示す。第1の一本鎖DNA8と化学共有結合した第1リガンド2は、該第1リガンド2をコード化する部位18を有する。第2の一本鎖DNA9と化学共有結合した第2リガンド3は、該第2リガンド3をコード化する部位19を有する。第1の一本鎖DNA8の6個のベースは、第2の一本鎖DNA9の6つのベースを補完し、本方法の実施中、ベース対20を形成する(第1一本鎖DNA8,9の間の線を参照)。さらに、この実施例における第1の一本鎖DNA8は、部分的に(3´端末で)第1の追加的一本鎖DNA10とハイブリッド化される。該追加的一本鎖DNA10は、第2の一本鎖DNA9の2~12個のベース(ここでは、5個)を補完する2~12個のベース(3´端末に位置する5個のベース)の「張出し部(overhand)」を備え、上記補完的ベースと共に、本発明の実施中に上記ベース対20を形成している(第1の追加的一本鎖DNA10と第2の一本鎖DNA9との間の線を参照)。
【0060】
第2リガンド3が第2の一本鎖DNA9を介して対応する第2の追加的DNA11と部分的にハイブリッド化される場合に、錯体全体の形成が実現され(Y型)、第1の追加的DNA10と第2の追加的DNA11とが一体となり、リガーゼ酵素を介して化学共有結合される。本方法においてリガーゼ酵素を追加することにより、追加的一本鎖DNA10,11の結合物を得ることができ、本方法によって蓄積された高親和性リガンド錯体をコード化できる。その結果、検出感度が向上する。なお、当該蓄積物はDNAであるため、これを(例えばPCRによって)さらに増幅させ、本方法に係る感度をさらに向上させることもできる。さらに、結合されたDNAは両リガンド2,3をコード化する部位18,19を有しているため、その結合されたDNAの配列により、当該2つのリガンド2,3に関する迅速な結論を可能とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6