(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】伸縮可撓継手構造と耐震補修弁
(51)【国際特許分類】
F16L 27/12 20060101AFI20220727BHJP
【FI】
F16L27/12 G
(21)【出願番号】P 2021038882
(22)【出願日】2021-03-11
(62)【分割の表示】P 2017051161の分割
【原出願日】2017-03-16
【審査請求日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2016052628
(32)【優先日】2016-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000147291
【氏名又は名称】株式会社清水合金製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081293
【氏名又は名称】小林 哲男
(72)【発明者】
【氏名】呉竹 賢二
(72)【発明者】
【氏名】千野 一広
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-250388(JP,A)
【文献】特開2015-190614(JP,A)
【文献】特開2001-159485(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02472158(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管機材に設けられた挿し口側と、押輪
が固着された受け口部材側とを有し、前記挿し口側を前記受け口部材側に嵌めた状態で前記挿し口側と前記受け口部材側で形成された伸縮可撓スペースに伸縮可撓構造を
内蔵した伸縮可撓継手構造であって、前記挿し口側の外側に設けた係合部を前記受け口部材側の外側に設けた係止部に係止させて前記挿し口側を回り止め構造とし、前記係合部と前記係止部との係止状態の掛かり代Tと前記挿し口側に抜け出し力が作用した際の移動可能距離tとの関係をT>tと設定し、抜け出し力の作用で前記挿し口側が伸縮し、かつ可撓しても前記係合部と前記係止部との回動及び離脱ができないようにしたことを特徴とする伸縮可撓継手構造。
【請求項2】
前記係合部は突設部であり、前記係止部は、一対の突部からなる係合溝であり、前記突設部を前記係合溝で挟持するようにした請求項1に記載の伸縮可撓継手構造。
【請求項3】
前記配管機材は、前記挿し口側を設けた補修弁用ボデーである請求項1
又は2に記載の伸縮可撓継手構造を有する耐震補修弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮可撓継手構造とこの構造を有する耐震補修弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、補修弁は、消火栓や空気弁の直下に併設され、消火栓や空気弁の点検修理等を行う際に閉止して、水道管内から消火栓や空気弁に加わる水圧を遮断するために使用される。
【0003】
この種の地下式消火栓として、例えば、
図23(a)に示すものが知られている。地下式消火栓の設置場所では、地中に水平方向に埋設されている水道管1に到達する弁室2が地表から形成されており、この弁室2の内部においては、水道管1は、上向きに伸びる分岐部3を備えたT字管4により構成されている。T字管4の上部には短管5とバルブ6とから構成される補修弁7が接続され、そしてこの補修弁7の上部に消火栓8が接続されている。また、消火栓8と弁室2の室壁2aとの間には、初期隙間9が設けられている。なお、空気弁についても上記の消火栓の場合と同様に構成され、水道管内の空気を外部へと逃がしている。
【0004】
消火栓8の点検整備や交換を行う際には、補修弁7のバルブ6を閉止することにより水道管1から消火栓8への水圧を遮断することができるので、漏水させることなく安全に作業を実施することができる。
【0005】
平成7年に発生した阪神・淡路大震災及び平成23年に発生した東日本大震災においては、震災区域の配水管に多数の被害が発生するとともに、管以外の消火栓、空気弁等にも多くの被害が発生した。
【0006】
震災時の消火栓、空気弁の損傷原因や損傷メカニズムを究明した結果、空気弁、消火栓で被害の大多数を占めるフランジ部やT字管の損傷の直接原因は、弁栓本体と弁室等の室壁等が衝突して発生する反力によると考えられている。参考文献名「水道管路付属設備の耐震性向上に関する研究(水道協会雑誌第67巻第3号(第762号))」、「平成23年(2011年)東日本大震災における管本体と管路付属設備の被害調査報告書(社団法人日本水道協会)」。
【0007】
すなわち、地震の際には弁室2が設けられている地盤10と水道管1の変位量は同じではなく、相対変位する。その結果、
図23(b)に示すように、初期隙間が無くなって弁室2の室壁2aと消火栓8が接触(衝突)すると双方の変位が拘束される。その後も地盤10と水道管1の相対変位が続くと消火栓8は室壁2aからの反力Frを受け、図に示す様に傾倒することになる。この傾倒に伴う変形が限界変形量を超えると、消火栓8、補修弁7のフランジ部12やT字管4が損傷することになる。
【0008】
従って、この様な地下式の消火栓や空気弁の震災時における損傷を防止するためには、弁栓本体とT字管との間に可撓性を有する継手等を装着する必要がある。
【0009】
従来から、配管構造に伸縮可撓性を与える継手構造として、例えば、特許文献1の管の継手構造が知られている。この管の継手構造は、継手部に、この継手部を屈曲させる方向に大きな力が作用した場合に継手部を円滑に屈曲させる構造を備えているので、補修弁とT字管をこの継手機構を有する継手で接続して可撓性を持たせると、地震時に地盤と水道管が相対変位して弁栓本体と弁室の壁面が衝突する場合であっても、継手構造が屈曲するため、弁栓本体やT字管に限界変形量を超える変形が発生することを避け得る可能性が大きい。
【0010】
一方、特許文献2には、接続するフランジ同士の回り止め構造が提案されている。同文献によれば、一方の流路構成部材の受口管部に他方の挿口管部を挿入しリング状の密封部材を介して接続する管接続構造であって、受口管部に形成されたフランジと挿口管部に形成されたフランジとは、これら両フランジを一体に挟むことができる凹溝を有する複数の分割部材と、複数の分割部材の外周面を囲繞する無端状のリング部材と、により接続される構造とすることで、フランジ部分の強度確保が図られ、また、両フランジは相互に係合可能な凹部と凸部を有しており、これら凹部と凸部を係合させることで、双方の流路構成部材を所定角度に配置可能としつつ、両フランジの相対的な回転の防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-214573号公報
【文献】特開2015-183731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の管の継手構造では、伸縮可撓機構を構成する部分が管軸方向に長く配設されているため、この継手構造を有する継手を使用して補修弁とT字管を接続して可撓性を持たせた場合には、弁栓本体と水道管との距離がそれまでよりも増加することになる。
【0013】
特に、地下式消火栓では、キャップ深さ150mm以上を確保することが規格(JWWA B 103)に規定されているため、上記の継手構造を有する継手を使用すると、水道管の埋設深度(土被り)が従来よりも深くなり敷設コストが増加する問題がある。
また、浅層埋設(埋設深度600mm)された既設の消火栓に対して上記の継手構造を有する継手を用いて耐震化しようとすると、キャップ深さ150mm以上を確保できる埋設深度に水道管を埋設し直す必要があるため、敷設コストが非常に膨大となり、実施が極めて困難であるという問題がある。
【0014】
一方で、特許文献2の管接続構造は、基本的には強度が補強された剛性構造であり、十分な伸縮可撓性を有していないため、地震力等の大きさ・方向が極めてランダムな外力に対し十分な追随性が発揮されず、よって、接続構造の破損や故障に対する確実な安全性が担保できない。また、回り止め構造としては過度に強固であり、これに伴い、回転の係止又は係止の解除作業も複雑化していることで作業性が悪く、また、リング部材や分割部材など構造自体も複雑であるから、製品の生産性・管理性が悪く、容易には採用し難い。すなわち、両フランジを回り止め接続するためには、少なくとも、リング部材の準備や両フランジの凹部・凸部同士の位置合わせと係合、両分割部材の取り付けとリング部材の回動、といった作業を経なければならないから、複雑な解除・接続作業を一度に行う必要があるので、工程が多く煩雑で作業性が極めて悪い。挿口管部側部材が受口管部側部材に接続する向きを変更しようとする場合は、尚更である。
【0015】
そこで、本発明は上記問題点を解決するために開発されたものであり、その目的とするところは、水道管に設置した消火栓、空気弁に耐震性を持たせることができる伸縮可撓継手構造であり、この伸縮可撓する構造の場合にも回転を確実に防止できる伸縮可撓継手構造と耐震補修弁とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、配管機材に設けられた挿し口側と、押輪が固着された受け口部材側とを有し、挿し口側を受け口部材側に嵌めた状態で挿し口側と受け口部材側で形成された伸縮可撓スペースに伸縮可撓構造を内蔵した伸縮可撓継手構造であって、挿し口側の外側に設けた係合部を受け口部材側の外側に設けた係止部に係止させて挿し口側を回り止め構造とし、係合部と係止部との係止状態の掛かり代Tと挿し口側に抜け出し力が作用した際の移動可能距離tとの関係をT>tと設定し、抜け出し力の作用で挿し口側が伸縮し、かつ可撓しても係合部と係止部との回動及び離脱ができないようにした伸縮可撓継手構造である。
【0017】
請求項2に係る発明は、係合部は突設部であり、係止部は、一対の突部からなる係合溝であり、突設部を係合溝で挟持するようにした伸縮可撓継手構造である。
【0018】
請求項3に係る発明は、配管機材は、挿し口側を設けた補修弁用ボデーである伸縮可撓継手構造を有する耐震補修弁である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1又は請求項2に記載の発明によると、配管機材に設けられた挿し口側を受け口部材側に嵌めた状態で、これらの間の伸縮可撓スペースに伸縮可撓構造を内蔵していることにより配管機材に耐震性を持たせることができ、かつ、挿し口側の係合部(突設部)を受け口部材側の係止部(係合溝)に係止させてこれらによる回り止め構造を設けていることで、極めて簡単な構成により相互の回転を防止し、配管機材の接続時に締付け力等による水平方向の強い回動力が加わった場合にも、受け口部材側に対する回動を防止して漏れを防ぎつつ配管機材を取付けでき、配管機材の操作性が損なわれたり、配管機材が使用できなくなるおそれがない。
しかも、係合部と係止部との係止状態の掛かり代Tと挿し口側に抜け出し力が作用した際の移動可能距離tとの関係をT>tと設定したので、抜け出し力の作用及び曲げ力の作用で、挿し口側が最大距離移動しても係合部(突設部)と係止部(係合溝)との係合が外れることがなく、挿し口側の回動も防止される等の効果がある。
【0020】
請求項3に記載の発明によると、配管機材を補修弁用ボデーとすることで、この補修弁用ボデーを通して消火栓や空気弁を接続でき、補修弁用ボデーに設けた挿し口側と、受け口部材側とで形成される伸縮可撓スペースに伸縮可撓構造を設けることで、この伸縮可撓構造により消火栓や空気弁に耐震性を持たせてこれらの損傷を防ぐことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の耐震補修弁の一実施例の縦断面図である。
【
図2】
図1の耐震補修弁の抜け止めリングと筒状スペーサの係合状態を説明する図面である。
【
図3】バルブ本体に過大な抜け出し力が作用した状態の耐震補修弁の縦断面図である。
【
図4】バルブ本体に過大な抜け出し力が作用した時の抜け止めリングとスペーサの係合状態を説明する図面である。
【
図5】バルブ本体に過大な曲げ力が作用した状態の耐震補修弁の縦断面図である。
【
図6】バルブ本体に過大な曲げ力が作用した時の過大な曲げ力が作用した側の抜け止めリングとスペーサの係合状態を説明する図面である。
【
図7】バルブ本体に過大な曲げ力が作用した時の過大な曲げ力が作用した側とは反対側の抜け止めリングとスペーサの係合状態を説明する図面である。
【
図8】部品一式を取付けた本体と短管の組立方法を説明する図面である。
【
図9】本発明の耐震補修弁の他の実施例の縦断面図である。
【
図10】本発明の伸縮可撓継手構造を有する継手の一実施例を補修弁とT字管の間に配置した状態を示す図面である。
【
図11】(a)は、
図2において、他例のスペーサを用いた場合の通常の係合状態を説明する図面であり、(b)は、バルブ本体に大きな抜け出し力が作用した時の同係合状態を説明する図面であり、(c)は、(b)においてさらに過大な抜け出し力が作用した時の同係合状態を説明する図面である。
【
図12】本発明の耐震補修弁の回り止め構造の一実施例の縦断面図である。
【
図14】係止部の着脱の手順を説明した説明図である。
【
図15】本発明の耐震補修弁の回り止め構造の別の一実施例の縦断面図である。
【
図17】本発明の耐震補修弁の回り止め構造のその他の例の縦断面図である。
【
図19】本発明の耐震補修弁の回り止め構造のその他の例の縦断面図である。
【
図21】本発明の耐震補修弁の回り止め構造のその他の例の縦断面図である。
【
図23】(a)は、従来の地下式消火栓の構造を説明する図面である。(b)は地震時に従来の地下式消火栓が弁室の室壁に衝突する状況を説明する図面である。
【
図24】消火栓の口金と室壁が干渉した状態を示す平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明における伸縮可撓継手構造は種々の配管機材に適用可能であるが、以下の説明においては、本発明における伸縮可撓継手を耐震補修弁に適用した実施形態の一例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1~8は、耐震補修弁の一例を示す。
図1は、本実施形態の耐震補修弁の縦断面図であり、
図2はこの時の抜け止めリングとスペーサの係合状態の一例を示す拡大図であり、
図11は、スペーサの他例を用いた係合状態を示した拡大断面図である。
【0025】
図1において、耐震補修弁21は、少なくともバルブ本体22と、押輪23と、受け口部材24から構成されている。
【0026】
先ず、バルブ本体22の構成について説明する。バルブ本体22は、ボールバルブ25と、このバルブのボデー26の一次側に設けた挿し口27、抜け止めリング28、スペーサ29、バックアップリング30、ゴム輪31、ゴムカバー32とから構成される。
【0027】
ボールバルブ25は、ボデー26内にボール35を収納し、ボール35をボデー26内に収納する際に使用するため、ボデー26の上部に設けた開口部36に弁座受け37を螺着している。ボデー26内に収納したボール35は、外部のハンドル38によりステム39を介して回動自在であり、流路40を開放又は閉止することができる。また、ボデー26の側面外周には、ゴムカバー32を装着するための突起部41が突設されている。
【0028】
挿し口27は、ボールバルブ25のボデー26の一次側を延設して設けられており、その外周面43には、流路軸を中心とする円周状の外周溝44が形成されている。この外周溝44は、スペーサ29が装着可能な幅W1を有して設けられている。
【0029】
抜け止めリング28は金属製であり、
図2に示すように、その内径D1が挿し口27の外径よりも大で、その高さH1が外周溝44の幅W1よりも大である円筒の上端に内径側に突条部48が突設された断面逆L字に形成されている。突条部48の先端には円弧部49が形成されており、突条部48の幅W2は外周溝44の幅W1よりも小さく、突条部48の内径D2は挿し口27の外径よりも小さく、かつ外周溝44の奥側底部53の径よりも大きく形成されている。
【0030】
抜け止めリング28は以上のように形成されているので、抜け止めリング28を外周溝44に挿入すると、
図2に示すように、抜け止めリング28の内周面55と外周溝44の底部53との間に、突条部48の伸縮可撓スペース56が形成される。また、抜け止めリング28の内径D1は挿し口27の外径よりも大であり、高さH1は外周溝44の幅W1よりも大であるため、ゴム輪31を押圧する面58(下面)が挿し口27の外周面43に設けた外周溝44に干渉することがない。
なお、抜け止めリング28は、外周溝44に挿入可能にするため、図示しないが、分割リングとして形成されており、後述する押輪23に形成された段部73と組み合わせることによりリング形状を保持することができる。
【0031】
スペーサ29は金属製又は合成樹脂製であり、本実施例では、
図2に示すように、大径部60の上部に小径部61を載せ、円弧面62で結んだ形状を有している。スペーサ29の大径部60の外径D3は抜け止めリング28の突条部48の内径D2よりも大であり、かつ小径部61の外径D4は抜け止めリング28の突条部48の内径D2よりも小であり、また、高さH2は、外周溝44の幅W1と略同一に形成されている。なお、スペーサ29は、外周溝44の奥側底部53に装着可能とするため、2分割又はバイアスカットを施して成形される。
【0032】
図2に示すように、外周溝44の奥側底部53に装着されたスペーサ29の円弧面62は、抜け止めリング28の突条部48の先端に形成された円弧部49により係止されるが、前述したように、スペーサ29の高さH2は外周溝44の幅W1と略同一であるため、スペーサ29が外周溝44内で移動することがないので、この係合状態が維持される。
【0033】
挿し口27に過大な抜け出し力が作用すると、外周溝44の壁66からスペーサ29に力が伝達され、スペーサ29の円弧面62が抜け止めリング28の突条部48の先端に形成された円弧部49を押圧するが、抜け止めリング28は押輪23で係止されているので、抜け出し力は専らこれらの部品の中で最も強度が弱いスペーサ29の大径部60を、抜け止めリング28の突条部48の先端からの反力で変形(縮径)させるように作用する。この結果、スペーサ29の大径部60が変形して縮径し、スペーサ29と抜け止めリング28との係合状態が解消される結果、挿し口27は、外周溝44の壁66が抜け止めリング28の突条部48と当接するまで移動することになる。
【0034】
スペーサ29の役割は、挿し口27に通常の力が作用している状態では抜け止めリング28の突条部48で係止された状態を維持して挿し口27の抜け出しを防止するとともに、挿し口27に過大な抜け出し力が作用した場合には、抜け止めリング28の突条部48からの反力により変形して抜け止めリング28の突条部48との係合状態を解除し、挿し口27が抜け出し方向に移動可能とすることである。従って、この役割を果たすことができれば、スペーサ29の形状は本実施例の形状に限られるものではない。本実施例の形状の他に、例えば、
図11に示すように、抜け止めリング28の突条部48の内径よりも外径が小さい円筒の外周面に、抜け止めリング28の突条部48と係合可能な鍔部(断面矩形状凸部84)を連続的に又は断続的に設けた形状とし、通常の力が作用している状態ではこの係合状態を維持するが、過大な抜け出し力が作用すると抜け止めリング28の突条部48から受ける力によりこの鍔部(断面矩形状凸部84)が破断し又は押し潰されて係合状態が解除されるようにしても良い。
【0035】
図11(a)は、
図2に示した係合状態において、他例のスペーサ83を用いた場合の拡大断面図であり、同一部分は同一符号を付してその説明を省略する。
図11(a)に示すように、この他例のスペーサ83は、内周面側の一部に、段部84a、84bを介して、突条部48と係合できる高さの断面矩形状凸部84が形成されており、突条部48と当接する側となる筒状面部85aの幅は、前述の突条部48の幅W2と略同一となっている。このため、
図2と同様に、スペーサ83の段部84aは、突条部48の先端部(円弧部49)に係止されており、一方、スペーサ83の高さも外周溝44の幅W1と略同一であるから、スペーサ83が外周溝44内で移動することが無いため、
図11(a)に示されるような係合状態が維持されることになる。この他例のスペーサ83では、断面矩形状の凸部84の段部84aにより突条部48の先端を係止・保持するので、平常時におけるボデー26の移動を係止・保持する効果が極めて良好である。
【0036】
バックアップリング30は金属製又は合成樹脂製であり、中央に挿し口27を挿通させるための円孔を設けた円盤状に形成されている。
図2に示すとおり、バックアップリング30は抜け止めリング28とゴム輪31の間に介在し、押輪23で抜け止めリング28を介してゴム輪31を押圧する際に、圧縮されたゴム輪31の変形部分が、分割リングとして構成されている抜け止めリング28の分割部に浸入することを防止している。
これに加え、抜け止めリング28の高さH1が外周溝44の幅W1よりも大であるため、抜け止めリング28の突条部48が外周溝44に挿入された状態では、バックアップリング30は外周溝44よりも下側に位置することになるため、押輪23が抜け止めリング28を介してゴム輪31を押圧する際に、圧縮されたゴム輪31の変形部分の外周溝44方向への移動を阻止して、圧縮されたゴム輪31の変形部分が外周溝44内に浸入することを防止するので、外周溝44内の抜け止めリング28の伸縮可撓スペース56に影響を与えることがない。
【0037】
ゴム輪31は、弾力性に富んだゴム材で成形され、挿し口27の外周面43と受け口部材24の内周面68との間に装着されて、挿し口27と受け口部材24の間のシール性を保持するが、バルブ本体22に過大な曲げ力が作用して挿し口27が傾いた状態となり、ゴム輪31装着部位の隙間が増加しても挿し口27の外周面43と受け口部材24の内周面68との間のシール性を確実に維持する必要があるため、ゴム輪31は、ゴムのつぶし量を十分に確保可能な形状に成形されている。
【0038】
ゴムカバー32は、弾力性に富んだゴム材で伸縮可能な構造、例えば蛇腹構造に成形され、バルブ本体22に抜け出し力が作用してバルブ本体22が引き出された場合でも、或いはバルブ本体22に過大な曲げ力が作用してバルブ本体22が傾いた場合でも確実にバルブ本体22に追随して変形することができる構造に成形されている。
【0039】
次に、押輪23について説明する。押輪23は金属製であり、
図1に示すように、挿し口27の外周面43に遊嵌状態に嵌めるための挿通孔70を中央に設けた円盤状に形成されている。また、
図2に示すように、上面側の挿通孔70の周囲には大径段部71を形成し、この段部をバルブ本体22に過大な曲げ力が作用してバルブ本体22が傾いた場合の可撓スペース72とし、バルブ本体22が傾いた時にバルブ本体22の下部と押輪23が干渉することを防止している。
【0040】
これに加え、押輪23の下面には、抜け止めリング28を収納可能な段部73を形成し、この段部73内に抜け止めリング28を収納して、抜け止めリング28を係止するとともに、抜け止めリング28を介してゴム輪31を押圧している。このような構成とすることにより、抜け止めリング28の係止と、ゴム輪31の押圧とを別々の部品で行う必要がなく、押輪23一つで兼用可能となるので、伸縮可撓構造をコンパクト化することができる。
【0041】
受け口部材24は金属製であり、
図1に示すように、外径がT字管のフランジ外径と同等であり、厚みが前記フランジの厚みの2~3倍程度の短尺な扁平形状に形成されている。
図2に示すように、受け口部材24の受け口76の内周には抜け止めリング28を収納可能な段部77を形成し、この段部77より下側にゴム輪31を収納する小径部78を設けている。また、受け口部材24の下端内周側には張出部24aを設け、T字管と接合する際のガスケットの当たり面を確保するとともに、バルブ本体22に過大な曲げ力が作用して挿し口27が傾いた場合でも、T字管からの通水を挿し口27の内径に円滑に導くためのガイドとしての機能を発揮できるようにしている。
【0042】
押輪23と受け口部材24をボルト79で結合(固着)すると、押輪23の下面側に形成された段部73と、受け口部材24の受け口76の内周に形成された段部77とにより抜け止めリング28を内蔵する装着溝80を構成することができる。
【0043】
抜け止めリング28をこの装着溝80に内蔵することにより、受け口部材24にボルト79を使用して確実に取付けた押輪23により、抜け止めリング28を係止して挿し口27の抜け出しを防止することができるとともに、抜け止めリング28を介して強固にゴム輪31を押圧し、挿し口27の外周面43と受け口部材24の内周面68との間を水密にシールすることができる。
【0044】
また、抜け止めリング28を押輪23の段部73と受け口部材24の段部77とで形成される装着溝80に内蔵したことにより、抜け止めリング28の厚さ(高さ)を押輪23と受け口部材24の寸法の中に内蔵し、耐震補修弁21の面間寸法の短縮化に寄与することができる。
【0045】
さらに、金属製の押輪23と受け口部材24が形成する装着溝80内に抜け止めリング28を内蔵して、押輪27により抜け止めリング28を介してゴム輪31を押圧する構成なので、押輪23と受け口部材24が当接するまでボルト79を締め込むと、それ以上にボルト79を締め込んでゴム輪31を押圧することができないので、ゴム輪31を過剰圧縮するおそれがない。
【0046】
次いで、本発明における耐震補修弁の作用を説明する。耐震補修弁21が通常使用されている状態では、
図2に示す様に、スペーサ29の円弧面62と抜け止めリング28の突条部48の先端に形成された円弧部49とが当接して係止された状態が維持されており、バルブ本体22は受け口部材24に対して安定して保持されている。この状態で、
図1に示すように、消火栓や空気弁の整備点検時にボール35を閉止位置に回動しても、バルブ本体22にはボール35が開放位置にあった時に消火栓や空気弁に作用していた水圧と同じ通常時の水圧F1が負荷されるため、スペーサ29の円弧面62と抜け止めリング28の突条部48の先端に形成された円弧部49とが当接して係止された状態が維持され、バルブ本体22は受け口部材24に対して安定して保持される。
【0047】
一方で、
図3に示すように、バルブ本体22に所定の力を超える過大な抜け出し力F2が作用した場合には、その力は挿し口27の外周面43に設けた外周溝44の壁66を介してスペーサ29を押圧し、さらには抜け止めリング28の突条部48先端に形成された円弧部49を押圧する。しかしながら、抜け止めリング28は押輪23で係止されているので、抜け出し力は専らこれらの部品の中で最も強度が弱いスペーサ29の大径部60を抜け止めリング28の突条部48の先端からの反力で変形(縮径)させるように作用し、最終的には、抜け止めリング28の突条部48の先端に形成された円弧部49によって、
図4に示すように、スペーサ29の大径部60が変形して縮径される。スペーサ29の大径部60が縮径すると、スペーサ29と抜け止めリング28の突条部48の先端に形成された円弧部49との係合状態が解消され、スペーサ29は抜け止めリング28の突条部48の内側を通過することが可能となり、外周溝44の壁66が抜け止めリング28の突条部48と当接するまで移動する。
【0048】
このとき、バルブ本体22に作用している過大な抜け出し力F2は、挿し口27の外周面43に設けた外周溝44の壁66から、この壁66に係合している抜け止めリング28の突条部48に作用して抜け止めリング28を押圧するが、抜け止めリング28は押輪23で係止されているため、抜け止めリング28に係合している挿し口27の受け口部材24からの抜け出しは防止される。また、
図3に示すように、バルブのボデー26と押輪23との間に取付けられたゴムカバー32は、バルブ本体22の動きに追随して変形し、バルブのボデー26と押輪23との間に土砂等が浸入することを防止する。
【0049】
図11(b)、(c)は、同図(a)に示した係合状態において、上記同様に過大な抜け出し力が作用した状態を示している。
図11(b)では、スペーサ83の断面矩形状凸部84が突条部48の先端からの反力で外周溝44の壁66側に押圧され、これに伴い、断面矩形状凸部84の形状は潰されずに維持されつつ、筒状面部85b側が壁66に押し潰されて折れ曲がった状態の一例を示している。さらに、
図11(c)は、同図(b)よりもさらに過大な抜け出し力が作用した状態を示しており、同図(c)に示すように、断面矩形状凸部84は完全に押し潰されて形状が消滅している。なお、後述の表1は、抜け出し力とこの他例のスペーサ83の形状との関係を測った実験例である。
【0050】
また、地震発生時に地盤と水道管に相対変位が発生し、消火栓又は空気弁が弁室の室壁に衝突した場合には、
図5に示すように、耐震補修弁21に過大な曲げ力F3が作用する。この場合、衝突した側には過大な抜け出し力が作用するが、その反対側には圧縮力が作用する。
図6は、過大な抜け出し力が作用した側の抜け止めリング28とスペーサ29の状況を示しているが、この過大な抜け出し力が作用した側では、前述したように、スペーサ29の大径部60が変形して縮径したことにより、スペーサ29と抜け止めリング28の突条部48との係合状態が解消され、スペーサ29は抜け止めリング28の突条部48の内側を通過することが可能となるので、外周溝44の壁66が抜け止めリング28の突条部48と当接するまで移動する。その一方で、衝突した側の反対側には抜け出し力が作用しないので、
図7に示すように、スペーサ29と抜け止めリング28の突条部48との係合状態は変化しない。この結果、
図5に示すように、バルブ本体22は受け口部材24に対して傾くことになる。
【0051】
バルブ本体22に過大な曲げ力F3が作用して挿し口27が傾く際には、
図6に示すように、過大な抜け出し力が作用した側のスペーサ29の大径部60が、抜け止めリング28の突条部48により縮径されながらこの突条部48の内周側を通過することになるが、この突条部48の先端は円弧部49が形成されているので、縮径されたスペーサ29の表面と接触する際の抵抗が小さく、挿し口27は滑らかに傾くことができる。
【0052】
このようにバルブ本体22が傾いても、押輪23の上面側の挿通孔70の周囲に形成した大径段部71が可撓スペースとしての効果を発揮するのでバルブ本体22の下部と押輪23が干渉することがない。また、バルブ本体22が受け口部材24に対して傾いた結果、ゴム輪31装着部位の隙間が増加しても、ゴムのつぶし量を十分に確保可能な形状に成形されたゴム輪31を使用しているので、挿し口27の外周面43と受け口部材24の内周面68との間のシール性が損なわれることはなく、水密は確実に維持される。これに加え、
図5に示すように、バルブのボデー26と押輪23との間に取付けられたゴムカバー32は、バルブ本体22の動きに追随して変形し、バルブのボデー26と押輪23との間に土砂等が浸入することを防止する。
【0053】
以上説明したように、本発明における伸縮可撓継手構造と耐震補修弁では、抜け止めリング28の係止とゴム輪31の押圧とを一つの押輪23で行えるシンプルな伸縮可撓継手構造にするとともに、この伸縮可撓継手構造を押輪23と短尺な扁平形状の受け口部材24(短管)に内蔵して構成しているので、従来の伸縮可撓機構に比べて管軸方向の長さを著しく短縮することができた。この伸縮可撓継手構造を用いた耐震補修弁では、面間寸法を従来の補修弁の面間寸法と同一にすることができたので、この耐震補修弁を用いると、浅層埋設(土被り600mm)の場合でも、耐震性を持たせながらキャップ深さ150mm以上を確保することができる。
【0054】
組立手順の一例として
図8を示し、以下に、耐震補修弁21の伸縮可撓部の組立手順を説明する。
バルブのボデー26にゴムカバー32を取付け、挿し口27の外周面43に押輪23を嵌め、挿し口27の外周溝44内にスペーサ29、抜け止めリング28の順に挿入し、その下方の挿し口27の外周面43にバックアップリング30、ゴム輪31の順に嵌めて取付ける。
【0055】
以上の取付けが終了した後、挿し口27の先端側から受け口部材24の受け口76に挿入し、ボデー26の上部からプレス等の大きな力Fpで押し込む。このとき、プレス等の大きな力Fpによる押し込みが必要な理由は、バルブ本体22に曲げ力が作用して挿し口27が傾倒した状態でも、挿し口27の外周面43と受け口部材24の内周面68との間のシール性が損なわれないように、十分なゴムのつぶし量を確保できるようにゴム輪31を形成しているため、ゴム輪31を受け口部材24の小径部78に挿入するためには非常に大きな力を必要とするためである。
【0056】
抜け止めリング28等の部品を取付けたボデー26を受け口部材24に挿入する際の押圧力は、プレス等がボデー26を押すと、ボデー26の挿し口27に設けた外周溝44が抜け止めリング28を押し、抜け止めリング28がバックアップリング30とゴム輪31を押すように伝達される。このとき、ゴム輪31が圧縮されて変形するが、バックアップリング30によりゴム輪31の上部を押え、圧縮されたゴム輪31の変形部分が上方に向かうことを阻止しているため、ゴム輪31の変形部分が抜け止めリング28の分割部や挿し口27に設けた外周溝44に浸入することがない。
【0057】
所定の位置まで部品を取付けたボデー26を受け口部材24に押し込んだ後、押し込み力を付加した状態で、所定のトルクを掛けてボルト79で押輪23と受け口部材24を固定すると伸縮可撓部の組立が完了する。この後、プレス等の押し込みを取り除いても、ボルト79の緊締力により押輪23が抜け止めリング28を介してゴム輪31を押圧し続けるので、挿し口27の外周面43と受け口部材24の内周面68との間のシール性が損なわれることはない。
【0058】
本発明における耐震補修弁の他の実施例を
図9に示す。
図9の耐震補修弁81と
図1の耐震補修弁21と共通する部分については、同一の符号を使用して説明を省略する。本図の耐震補修弁81では、受け口76を短管82(受け口部材)に設け、押輪23と短管82をボルト79で固定している。
【0059】
次に、本発明における伸縮可撓継継手構造を用いた伸縮可撓継手の実施例について説明する。前述した耐震補修弁との違いは、耐震補修弁が挿し口をバルブのボデーの一次側に形成していたのに対し、伸縮可撓継手では、挿し口を受け口部材に挿入する配管機材の先端に構成する点である。この他の構造、作用は前述の耐震補修弁と同様であるので説明は省略する。
【0060】
図10は、この伸縮可撓継手85を補修弁7付き消火栓8とT字管4の間に設置した一例である。この場合、前述の耐震補修弁を使用する場合よりも消火栓8の位置が高くなるが、水道管の埋設深度が深い場合には、この伸縮可撓継手を消火栓に適用し、キャップ深さ150mm以上確保した上で耐震化することが可能となる。
【0061】
以上説明したように、本発明の伸縮可撓継手構造と耐震補修弁は、従来の伸縮可撓継手に比べ、管軸方向の長さを極めて短くコンパクトにするとともに、かつ簡単な構造で伸縮可撓構造を実現することができる。特に、本発明の耐震補修弁では、耐震補修弁の面間寸法を従来の補修弁の面間寸法(150mm)に合わせることができるので、浅層埋設(土被り600mm)の場合でも、耐震性を持たせながらキャップ深さ150mm以上を確保することができる。さらに、既設の消火栓及び空気弁の補修弁を本発明の耐震補修弁に交換することにより、T字管を交換することなく消火栓及び空気弁に耐震性を持たせることができる。また、耐震補修弁の伸縮可撓継手構造部分は工場内で組み立てるので、現地での消火栓又は空気弁、T字管との接続は従来通りにボルト、ナットを締め付けてフランジ接続するだけで良く、特殊な工具を必要としない。
この様に、水道インフラの強化を図る上で、本発明の伸縮可撓継手構造と耐震補修弁の有用性、経済性には非常に大きなものがある。
【0062】
図12~22は、本発明の耐震補修弁における回り止め構造の各例であり、ボデー26が回り止め係止された状態がそれぞれ示されている。本発明の回り止め構造は、配管機材又は補修弁用ボデーに設けた突設部と、ボルト自体、ボルトに付設した係止部、又は押輪に形成した係合部、とを係止させて配管機材又は補修弁用ボデーが回転防止された伸縮可撓継手構造と耐震補修弁である。また、係止部は、着脱可能又は外力による伸縮可撓に伴って離脱可能に設けられている伸縮可撓継手構造と耐震補修弁である。
【0063】
上記のように、本発明では、ボデー26の一次側を伸縮可撓構造を介して受け口部材24(短管)に接続しているため、この接続状態で、ボデー26の上部に消火栓や空気弁等を接続する際、スパナ等の工具を使用して配管ボルトを締め付ける等によりボデー26に水平方向の強い回動力が作用すると、その回動力如何によって、ボデー26までもが受け口部材24に対して回動するおそれがあり、また、このボデー26の回動により、フランジの締結力が不十分となり漏れ等を生じたりするおそれがある。消火栓や空気弁の取付けの際にボデー26が回動すると、ハンドル38の位置が所定位置からズレてしまい、不測の使用不良などの事態を招きかねない。或は、緊急時にボデー26の上部に接続された消火栓を使用する際においても、消火栓のキャップの固着状態によってはキャップがボデー26と供回りして弁の開閉ができなくなるといったおそれもある。
【0064】
そこで、本発明では回り止め構造を備え、ボデー26を受け口部材24(短管)に対して確実に回動不能に固定するようにして、上記欠点を補っている。この回り止め構造は、
図12~22に示すように、ボデー26に設けた突設部をボルト79や係止部に係止させる構造であるから、極めて簡易な構成により確実に回動が防止され、よって、ボデー26上部に接続された消火栓を確実に開閉することができる。
【0065】
図12は、本発明の回り止め構造の一実施例(本例)の断面図であり、
図13は、
図12におけるA-A線断面による説明図である。なお、以下の
図12~22の説明においても、同一部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0066】
図12において、本例では、ボデー26の回動を係止する部位として、ボデー26におけるハンドル38の反対側となる部位である底部26aに、ボデー26から一体に舌片状に突設部86を延設している。一方で、押輪23と受け口部材24とを結合固着するボルトとして、六角穴88a付きのボルト88を用いており、この六角穴88aに、係止部としての樹脂製又は金属製からなるピン87を着脱自在に嵌合させて取り付けている。このため、
図13に示すように、突設部86には凹円弧部86aが形成されており、この凹円弧部86aの形状と、筒状のピン87の外周面の形状とが適合して互いに係合し、この係合により、ボデー26の水平方向回動が係止されている。
【0067】
図14は、ボデー26が受け口部材24に接続されている状態において、本例の回り止め構造において補修弁を係止する手順を説明した説明図である。回り止め係止する際、ピン87をボルト88に取り付ける場合は、上記のようにボデー26は伸縮可撓構造を介して回転可能な構造であるから、ボデー26を強制的に回転させることにより、突設部86の凹円弧部86aの位置を、六角穴88aの位置に一致させ、
図14(a)、(b)に示すように、ピン87が両者に係合可能となるように調整した後、円柱状のピン87を六角穴88aに嵌合させる。この状態では、ピン87に設けた係止片87aは、突設部86の反対側となる。次いで、
図14(c)、(d)に示すように、ピン87を180度回転させて、係止片87aを突設部86の下面側とボルト88のヘッドの上端面側との間に噛み合わせて係合させる。ピン87は、六角穴88aに嵌合しているが、この係合により、ピン87の抜け止めが補強されるから、運搬時や設置時においてもピン87が不意に外れることが無い。また、この係止を解除する場合は、上記手順の逆を行うことで容易に解除できる。
【0068】
続いて、
図15は、本発明の回り止め構造の別の一実施例(別例)の断面図であり、
図16は、
図15におけるB-B線断面による説明図である。
【0069】
図15において、この別例では、ボデー26の回動を係止する部位として、ボデー26のステム39の軸封部位であるボンネット26bから、突設部89を、同図において下方に伸びるように一体延設している。一方で、この別例の押輪23は、受け口部材24に対してボルト91を締結する部位四隅を突設しつつ、これら四隅の間の部位23aは、流路40に対して必要最小限に薄肉形成して軽量化を図っており、このため、
図16に示すように、断面が略四つ葉形状を呈している。また、受け口部材24も同様に形成されており、さらに、
図12~22に示す例における押輪23、受け口部材24は、すべて同様に形成されている。
【0070】
図16において、この別例では、押輪23の部位23aに、係
止部として、突部90a、90bから成る係合溝90を設けている。この係合溝90は、ボデー26をボルト91で押輪23に締結した際、突設部89の位置と一致して、2つの突部90a、90bの間に突設部89が嵌合できる位置に形成されている。このため、ボデー26は、突設部89の両側が突部90a、90bに挟持されることで係合溝90に係合し、水平方向への回動が係止される。なお、同図に示すように、この別例では1箇所のみ設けているが、このような突設部89と係合溝90による係止機構は、複数箇所に設けるようにしてもよい。
【0071】
また、
図15に示すように
、突設部89と係合溝90との掛かり代Tは、同図において押輪23の上面23bと突設部89の先端部(下端部)との高低差に略等しく、一方、ボデー26に抜け出し力が作用した際の移動可能距離tは、
図2と図11における外周溝44の幅W1から突条部48の幅W2を引いた距離に略等しいが、これらがT>tとなるように設定すれば、抜け出し力の作用でボデー26が最大距離移動しても、突設部89と係合溝90との係合が外れることが無いので、ボデー26が回動することはない。また、この別例の構造は、突設部89はボンネット26bから一体延設されると共に係合溝90も押輪23から一体形成されているから、回り止め構造を構成する部材としては別部材が全く不要なので、部品点数が増加することもない。
【0072】
次いで、
図17は、本発明の回り止め構造のその他の実施例(他例)を示している。この他例においても、ボデー26の回動を係止する部位として、ボデー26におけるハンドル38の反対側となる部位である底部26aに、ボデー26から一体に舌片状に突設部92を延設しており、一方、押輪23と受け口部材24とを結合固着するボルトとして、六角穴付きのボルト93を用いている。
図18は
図17におけるC-C線断面による説明図であり、同図に示すように、突設部92には凹円弧部92aが形成されており、この凹円弧部92aの形状と、ボルト93のヘッド93aの筒状外周面の形状とが適合して互いに係合し、この係合により、ボデー26の水平方向回動が係止されている。また、同図に示す回り止め係止状態では、ヘッド93aの首下には押輪23の上面23bとの間に筒状の保持部材94を介在させ、凹円弧部92aとヘッド93aとが係合するように、位置を調整している。
【0073】
次いで、
図19も、本発明の回り止め構造のその他の実施例(他例)を示している。この他例においても、ボデー26の回動を係止する部位として、ボデー26におけるハンドル38の反対側となる部位である底部26aに、ボデー26から一体に舌片状に突設部95を延設している一方、押輪23と受け口部材24とを結合固着するボルトとして六角穴付きのボルト97を用い、このボルト97の締結状態において、ヘッド97aの外周に係止部としてのパイプ96を着脱自在に嵌合させて取り付けている。
図20は
図19におけるD-D線断面による説明図であり、同図に示すように、突設部95には凹円弧部95aが形成されており、この凹円弧部95aの形状と、パイプ96の外周面の形状とが適合して互いに係合し、この係合により、ボデー26の水平方向回動が係止されている。
【0074】
最後に、
図21も、本発明の回り止め構造のその他の実施例(他例)を示している。この他例においても、ボデー26の回動を係止する部位として、ボデー26におけるハンドル38の反対側となる部位である底部26aに、ボデー26から一体に舌片状に突設部98を延設している。一方、押輪23と受け口部材24とを結合固着するボルトとして、六角穴99a付きのボルト99を用いており、この六角穴99aに、係止部としての六角穴付きボルト99bを着脱自在に捻じ込んで取り付けている。
図22は
図21におけるE-E線断面による説明図であり、同図に示すように、突設部98には穴部98aが形成されており、この穴部98aの形状と、ボルト99bのオネジの外周面の形状とが適合して互いに嵌合し、この嵌合により、ボデー26の水平方向回動が係止されている。
【0075】
また、本発明の係止部は、外力による伸縮可撓に伴って離脱可能である。具体的には、前述のように、地震時等において、消火栓等を2次側に接続した状態のボデー26に対し、曲げ力(ボデー26が受け口部材24に対して傾斜するような作用)などの外力が作用してボデー26と受け口部材24との接続構造が伸縮可撓する際、これに伴い、
図12~14に示した本例の構造の場合、ピン87の固定状態(
図12、13、14(c)(d))において、突設部86がピン87に対して相対変位し、この変位により、ピン87を六角穴88aから押し外してボルト88から離脱させることができる。このような離脱作用は、
図19~22に示した各例においても同様であり、パイプ96は突設部95に、ボルト99bは突設部98に、それぞれ押し外されてボルト97、99から離脱可能となっている。よって、地震等の大きな外力が作用した際は、直ちに係止部が外れてボデー26の固定が開放されるから、本発明の伸縮可撓構造の効果が損なわれることはない。
【0076】
さらに、
図15、16に示した別例においては、上記のような外力が作用する場合、掛かり代Tを、移動可能距離tより小さく設定しておくことにより、ボデー26が受け口部材24に対して異常な伸縮可撓した際に容易に回り止めの係止(突設部89と係合溝90との係合)が外れることとなり、補修弁を回動させて消火栓口金の位置又は補修弁のキャップやハンドルの位置を室壁から離して使用し易い位置に調整することもできる。また、このような場合に応じて、突設部89には、ノッチを形成して過大な外力の作用により容易に折れて係合溝90から離脱可能となるように構成してもよい。
【0077】
なお、本発明の上記回り止め構造は、補修弁の接続方向の変更も容易に可能である。例えば大地震の発生後において、地盤と水道管に大きな相対変位が生じて室壁が補修弁に接続された消火栓に当たった干渉状態となり、
図23(b)に示したように、消火栓が傾倒してしまうことがあるが、このような干渉状態においては、特に消火栓の口金が室壁と干渉し、消防ホースを適切かつ迅速に取り付けることができなくなるおそれがある。或は、室壁が補修弁のキャップやハンドルと干渉して補修弁が開閉できなくなるおそれもある。しかしながら、このような干渉状態は、
図24に示すように、消火栓等が取り付けられた補修弁ごと、短管(水道管のT字管)に対する接続方向を回転させて干渉しない位置に変更することで、解消できる場合が有る。そこで、上述した本発明の耐震補修弁の回転構造(伸縮可撓構造)を逆に利用し、ボデー26を受け口部材24に対して強制的に回動させることで、迅速容易に上記のような干渉状態を解消することもできる。そして、このような場合には、
図14を参照して前述した回り止め構造の係止手順及び係止の解除手順により、ピン87は極めて簡易にボルト88に抜け止め固定及び取り外しが可能であると共に、ピン87の着脱と強制的な回動力を加えるだけで、容易にボデー26の接続方向の変更(本例では四隅のボルトの位置となる任意の四方向への変更)が可能である。
【実施例】
【0078】
以下、
図11に示した他例のスペーサ83に関し、実験結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
先ず、抜け出し力の大きさ7.8kNは、耐震補修弁21の通常使用時における最大水圧1.75MPa(弁箱耐圧試験圧力)に相当する。この場合のスペーサ83の状態が
図11(a)であり、この場合にスペーサ83に要求される性能は変形しないことであるが、同図に示す通り変形しなかったため、要求水準を満たしていることが確認できた。
【0081】
一方、抜け出し力の大きさが23.2kN(水圧5.25MPaに相当し、これは、通常使用時における最大水圧に対して安全率3である)より大きく、225(3D)kN以下の範囲においては、スペーサ83に要求される性能は、変形することであり、また、この変形に伴いボデー26の位置が抜け出し方向へ移動することである。なお、225(3D)kNは、JWWA B120で規定されている抜け出し力であり、3Dは、3×D(呼び径)の値であり、3D=3×75=225を意味する。
【0082】
これに対し、変形することが要求される範囲内である抜け出し力42kN(通常使用時における最大水圧に対して安全率5.3である)におけるスペーサ83の状態の実験例が
図11(b)であり、同図のように断面矩形状凸部84の形状は維持されたまま、下部側の筒状面部85bが折れ曲がって一部が壁66に押し潰された状態となり、また、このスペーサ83の変形に伴って、ボデー26(挿し口27)の位置も僅かに抜け出し方向へ移動しているので、要求水準を満たしていることが確認された。
【0083】
同様に、変形することが要求される最大範囲である抜け出し力225kNにおけるスペーサ83の状態の実験例が
図11(c)であり、ボデー26(挿し口27)は抜け出し方向へ移動すると共に、この移動に伴い、突条部48の先端部が段部84aと係合したまま壁66側に向かって限界まで断面矩形状凸部84を押圧することにより、最終的には、断面矩形状凸部84の形状は突条部48にすり潰されるようにして完全に消滅し、突条部48と壁66とは変形したスペーサ83の残骸を介して密着するように係合した。よって、この場合においても要求水準を満たしていることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
21 81 耐震補修弁
22 バルブ本体
23 押輪
24 受け口部材
27 挿し口
28 抜け止めリング
29 83 スペーサ
30 バックアップリング
31 ゴム輪
32 ゴムカバー
44 幅広溝
48 突条部
56 伸縮可撓スペース
71 大径段部
72 可撓スペース
79 88 91 93 97 99 ボルト
86 89 92 95 98 突設部
87 96 99b 係止部
90 係合溝