IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京計器株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社プラズマアプリケーションズの特許一覧

<>
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図1
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図2
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図3
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図4
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図5
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図6
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図7
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図8
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図9
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図10
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図11
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図12
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図13
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図14
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図15
  • 特許-定在波励起型電磁波放電灯 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】定在波励起型電磁波放電灯
(51)【国際特許分類】
   H01J 65/00 20060101AFI20220727BHJP
   H01J 61/56 20060101ALI20220727BHJP
   H01J 65/04 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
H01J65/00 B
H01J61/56 N
H01J61/56 L
H01J65/04 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021071279
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509204127
【氏名又は名称】株式会社プラズマアプリケーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】神藤 正士
(72)【発明者】
【氏名】クラル マーティン
(72)【発明者】
【氏名】フサリク ヤン
(72)【発明者】
【氏名】マリウス ガブエル ブラジャン
(72)【発明者】
【氏名】岡嶋 洋
(72)【発明者】
【氏名】肥後 辰二
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-269993(JP,A)
【文献】特開平11-3686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/00-65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波発振器により供給される電磁波電力により放電発光する放電灯であって、
基端部が開口されるとともに先端部が閉塞される筒状に形成された誘電体である内管と、該内管に挿入されるとともに該内管の管軸方向に延在する導体である内部導体と、前記内管の径外側に放電ガスが封入される密閉空間を画成するように形成された誘電体である外管と、該外管の外周を覆うように形成された導体である外部導体とを有する二重放電管と、
前記二重放電管において定在波が優位となるように前記電磁波発振器側のインピーダンスと前記二重放電管のインピーダンスとを整合するインピーダンス整合部と
を備える放電灯。
【請求項2】
前記内部導体の先端部には前記内管の内壁と前記内部導体とに接触する誘電体であって、前記内管に対して前記内部導体を固定する固定子が設けられることを特徴とする請求項1に記載の放電灯。
【請求項3】
前記インピーダンス整合部は、前記二重放電管からの反射電力が残留するように前記電磁波発振器側のインピーダンスと前記二重放電管のインピーダンスとを整合することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放電灯。
【請求項4】
前記放電ガスはエキシマガスであることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の放電灯。
【請求項5】
前記外部導体には径方向に開口する複数の開口が形成されることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の放電灯。
【請求項6】
前記放電灯は、UV-C低圧水銀灯であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の放電灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放電灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長寿命な放電灯として、共振器を用いたマイクロ波による無電極放電によって点灯する放電灯が知られている。この種の放電灯として、電磁波の電界が局所的に集中する位置に設けられた放電ガスが封入された石英放電灯を点灯させる方式(例えば、特許文献3,4参照)や、放電ガスが封入された共振器においてマイクロ波電界が最も強い箇所を点灯させる方式(例えば、特許文献1,2参照)が研究開発の対象となっている。また、この種の放電灯の一部は、マイクロ波放電メタルハライドランプやサルファーランプとして実用化されている(例えば、特許文献3,4及び5)。このような共振器を用いた放電灯においては、放電灯が共振器よりも小さく構成される必要があるため、放電灯の設計の自由度が著しく制限される。
【0003】
なお、関連する技術として、バッファガスと微量の水銀が封入される空間を有して同軸状に配置された石英管からなる外管及び内管と、一端が前記内管の開口端に配設された同軸コネクタ等に支持されて内管内部に挿入されると共にマイクロ波発振源に接続された棒状もしくはパイプ状のアンテナと、前記外管の外周側を覆うように配設された所定の放射光透過率を有する金属メッシュ体とを備えることを特徴とする二重管式マイクロ波放電ランプ、が知られている(例えば、特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4757654号公報
【文献】特開2007-234433号公報
【文献】特表2004-505429号公報
【文献】特表2009-521071号公報
【文献】特許第4294998号公報
【文献】特開2019-53897号公報
【文献】特開2020-140919号公報
【文献】特開2016-225037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、共振器を用いずに無電極放電を行うことができる放電灯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本実施形態に係る放電灯は、電磁波発振器により供給される電磁波電力により放電発光する放電灯であって、基端部が開口されるとともに先端部が閉塞される筒状に形成された誘電体である内管と、該内管に挿入されるとともに該内管の管軸方向に延在する導体である内部導体と、前記内管の径外側に放電ガスが封入される密閉空間を画成するように形成された誘電体である外管と、該外管の外周を覆うように形成された導体である外部導体とを有する二重放電管と、前記二重放電管において定在波が優位となるように前記電磁波発振器側のインピーダンスと前記二重放電管のインピーダンスとを整合するインピーダンス整合部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、共振器を用いずに無電極放電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る放電灯の構成を示す概略図である。
図2】実施形態に係る放電灯の構成を示す正面図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4】放電灯の構成を示す要部拡大断面図である。
図5】放電灯における発光部を示す概略図である。
図6】定在波が安定して生成されるようにインピーダンス整合した場合の放電で、定在波による連続的な放電状態を示す図である。
図7】反射電力が最小となるようにインピーダンス整合した場合は定在波発光ではなく放電が局所的な放電状態を示す図である。
図8】内管を有する放電灯における放電明部を示す図である。
図9】内管を有さない放電灯における放電明部を示す図である。
図10】石英により形成された外管及び内管のパラメータを示す表である。
図11】石英により形成された外管及び内管を有する第1の放電灯における電界強度分布を示すシミュレーション結果を示す図である。
図12】石英により形成された外管及び内管を有する第2の放電灯における電界強度分布を示すシミュレーション結果を示す図である。
図13】アルミナにより形成された外管及び内管のパラメータを示す表である。
図14】アルミナにより形成された外管及び内管を有する第1の放電灯における電界強度分布を示すシミュレーション結果を示す図である。
図15】アルミナにより形成された外管及び内管を有する第2の放電灯における電界強度分布を示すシミュレーション結果を示す図である。
図16】放電灯の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(放電灯の構成)
本実施形態に係る放電灯の構成について説明する。図1図2は、それぞれ、本実施形態に係る放電灯の構成を示す概略図、正面図である。図3は、図2のA-A線断面図である。図4は、放電灯の構成を示す要部拡大断面図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る放電灯1は、同軸ケーブル3を介して、電磁波電力を出力する電磁波発振器2と接続される二重管式の放電灯である。放電灯1は、図1図4に示すように、二重放電管10と、インピーダンス整合部16と、同軸ケーブル3と接続される同軸コネクタ17とを備える。二重放電管10は、外管11と、内管12と、内部導体13と、固定導体14と、外部導体15とを有する。なお、放電灯1は、同軸ケーブル3に代えて、同軸管により電磁波発振器2と接続されても良い。
【0012】
外管11及び内管12は、いずれも、石英やアルミナなどの誘電体損失の小さい誘電体が略管状に形成された部材であり、外管11は、所定以上の光透過性を有する部材であり、内管12は、光透過性を有する部材、光透過性を有さない部材のいずれであっても良い。外管11及び内管12は、本実施形態においては、いずれも全体として略円筒状に形成される。外管11は、内管12よりも大きな径を有し、外管11と内管12とが同軸上に位置付けられるように、即ち外管11の管軸と内管12の管軸とが略一致するように外管11の内部空間に内管12を収容する。外管11は、上面及び底面が閉塞されように形成され、これによって、外管11と内管12との間に径方向に一定幅を有する密閉空間が画成される。この密閉空間には、プラズマを発生させるための放電ガスが封入される。本実施形態においては、後に詳述するように密閉空間にエキシマガスが封入されるものとする。内管12は、図3及び図4に示すように上面が開放され底面が閉塞された略筒箱状に形成されており、上面開口が後述する内部導体13及び固定導体14により閉塞される。なお、外管11及び内管12の軸方向において、内管12が閉塞される底面側を先端側、その逆の上面側を基端側として以後説明する。
【0013】
内部導体13は、外管11及び内管12の管軸方向に延在するように略棒状または略パイプ状に形成された導体であり、先端部が内管12の底面近傍に位置するように内管12に挿入されるとともに、外管11及び内管12と同軸上に位置付けられるように基端部がインピーダンス整合部16に支持される。また、内部導体13の先端部には、図3図4に示すように、内管12に対して内部導体13を固定する固定子131が設けられる。本実施形態において、固定子131は、内部導体13を挿通可能な内径、内管12内に挿入可能に内管12の内径に対応した外径を有する環状に形成されるものとするが、内管12の内壁と内部導体13とに接触するように形成されたものであれば良い。また、固定子131は、例えば、アルミナ、石英、またはテフロン(登録商標)などの低誘電体損失を有する誘電体により形成される。なお、固定子131は、内部導体13に対して複数個設けられていても良い。
【0014】
固定導体14は、全体として、外管11と略一致した直径を有する略円筒状または略円盤状に形成されるとともに、インピーダンス整合部16を取付可能に形成された導体である。また、固定導体14は、径内側に位置してテフロンからなる径内部と、径外側に位置し、径内部を囲繞する略環状に形成され、アルミからなる径外部とを有する。図4に示すように、径内部141には、内部導体13が管軸方向に挿通可能な孔が形成され、径外部142は外部導体15を取付可能に形成される。外部導体15は、径外部142に取り付けられた状態において、外管11の管軸方向全域に亘って外周全域を覆うように形成されるとともに、径方向に開口する複数の開口を有する所謂メッシュ状に形成される略筒状の導体である。また、外部導体15は、外管11、内管12、内部導体13に対して同軸上に位置付けられた状態で固定されるように径外部142に取り付けられる。また、外部導体15は、電磁波発振器2により出力される波長の1/10以上だけ外管11に対して先端側に突出して先端部が開口するように形成されるものとするが、先端部を閉塞するように形成されても良い。なお、外部導体15における複数の開口は、光透過率が90%以上であり、且つ電磁波の漏洩が防止される開口率となるように形成されることが望ましい。
【0015】
インピーダンス整合部16は、図3,4に示すように、非接地側導体161と接地側導体162と整合素子163とを有し、後に詳述するように、電磁波発振器2側のインピーダンスに対する二重放電管10のインピーダンスを二重放電管10において定在波が優位となるように整合する。非接地側導体161及び接地側導体162は、同軸コネクタ17を介して同軸ケーブル3と電気的に接続される同軸伝送路を構成するものである。非接地側導体161には内部導体13の基端部が嵌合され、これによって非接地側導体161は内部導体13と電気的に接続される。また、接地側導体162は、固定導体14を介して、外部導体15と電気的に接続される。整合素子163は、非接地側導体161と接地側導体162とを電気的に接続する少なくとも1個以上のリアクタンス素子である。本実施形態において、インピーダンス整合部16における同軸伝送路はマイクロストリップ線路として構成されるものとするが、同軸管またはストリップラインとして構成されても良い。また、同軸伝送路が同軸管として構成された場合、整合素子163は、環状に形成された誘電体として構成される。また、インピーダンス整合部16は、放電灯点火装置を更に有しても良い。
【0016】
このように構成された放電灯1は、後述するように、共振器を必要とせず、定在波により放電点灯を行うことができるため、共振器を利用するマイクロ波放電灯と比較して、共振器の形状や共振モードによる制約を受けず、設計の自由度が高い。
【0017】
(放電灯の動作)
放電灯の動作について説明する。図5は、放電灯における発光部を示す概略図である。
【0018】
内部導体13と外部導体15とが同軸線路を構成することによって、電磁波発振器2から放電灯1に入力された電磁波電力がTEMモードで伝搬される。これによって、放電灯1は、RF(Radio Frequency)波からマイクロ波までの広帯域の電磁波を利用することができる。放電灯1の基端側から入射した電磁波電力は、進行波として放電灯1の先端部に到達して全反射され、全反射による反射波と進行波によって定在波が発生する。
【0019】
図5に示すように、二重放電管10において理想的に定在波が発生すると、定在波の腹に対応した発光部LMが二重放電管10の管軸方向に複数並ぶことなる。この腹の付近において、電磁波電界は二重放電管10の径方向を向き、電気力線は外管11、内管12を通過した後に内部導体13、外部導体15それぞれの表面で終端する。このような電極構造、電界方向は誘電体バリア放電と同様であるため、放電灯1においても定在波の腹の周辺部で電子温度は高いがイオン温度の低い低温プラズマPを発生させることができる。誘電体バリア放電は、HF(High Frequency)電力により点灯するエキシマランプに実用化されているが、マイクロ波領域では未だ実現されていない。
【0020】
誘電体バリア放電の条件は、電磁波電界で加速される放電空間の電子の移動距離Lが放電空間のギャップGよりも長いことが必要である。Lは次式で示されるように、電磁波電界Eに比例し電磁波の周波数fと封入ガス圧pに逆比例する。
【0021】
【数1】
ここで、eは電子の素電荷、mは電子の質量、ωは電磁波角周波数、νeは電子の衝突周波数である。
【0022】
二重放電管10における密閉空間内のエキシマガスの圧力を50kPa~100kPa程度の大気圧付近として低温プラズマを発生させることによって、実用性のあるエキシマ放射光パワーを得ることができる。この際、密閉空間に封入されるエキシマガス種としては、KrBr(207nm),KrCl(222nm),XeI(253nm),XeBr(283nm),XeCl(308nm),Xe(172nm),Kr(146nm)などが挙げられる。放電ガスとしてエキシマガスを用いた放電灯1によれば、エキシマ放電時に紫外線殺菌、紫外線硬化、紫外線放射洗浄などに利用可能なVUV(Vacuum Ultra Violet)~UV波長域の放射光を発光することができる。
【0023】
また、放電灯1を強い殺菌効果のあるUV-C光を放射する低圧水銀放電灯として利用することも可能である。この場合、放電灯1は既存のAC/DC放電低圧水銀放電灯に比して、コンパクト、長寿命、高効率であり、空気殺菌や水の殺菌装置等の広い分野に応用することができる。なお、放電灯1を上述の低圧水銀放電灯として利用する場合、放電灯1におけるバッファバス圧を1.0~10.0Torr(7.5~75mPa)とし、ランプ壁の最低温度を40~50℃に維持して水銀蒸気圧を2~10mTorr(15×10-6~150×10-6Pa)とすることがUV-C変換効率を高く維持するのに望ましい。
【0024】
(インピーダンス整合部の動作)
インピーダンス整合部の動作について説明する。図6図7は、それぞれ、腹が連続して並ぶ定在波が発生するようにインピーダンス整合をした場合、反射電力の最小化だけを狙ってインピーダンス整合をした場合における放電灯の放電状態を示す図である。
【0025】
放電灯1においては、二重放電管10の長さと直径に大きな制約はないものの、放電点灯されない状態における二重放電管10のインピーダンスが、同軸ケーブル3の特性インピーダンス(例えば50Ω)に近似するように、外管11、内管12、内部導体13のそれぞれの直径、密閉空間の径方向距離が定められることが望ましい。
【0026】
インピーダンス整合部16は、定在波が優位となるように、電磁波発振器2側のインピーダンスと二重放電管10のインピーダンスとを整合する。ここで、インピーダンス整合部16は、放電状態を確認しながら少なくとも1個以上のリアクタンス素子を用いて、安定した定在波放電が得られるようにインピーダンス整合を行う事が望ましい。これによって、定在波が二重放電管10の先端部から基端部まで維持され、図6に示すように、二重放電管10の管軸方向に放電明部が連続して形成され、放電の一様性と発光効率(電磁波入力当たりのランプ放射光パワー)が向上する。なお、定在波が優位となるようなインピーダンス整合を取った場合には、若干の反射電力が観測される。つまり反射電力の残留が観測される。この反射電力は反射電力最小を狙ったインピーダンス整合の時よりも大きく観測される。
【0027】
一方、インピーダンス整合部16が、放電灯1からの反射電力を最小にするようにインピーダンス整合を行う場合、定在波が二重放電管10の管軸方向に同じ振幅で励起することができず、管軸方向における一部分のみに強い放電が形成される確率が高くなり、図7に示すように、放電明部の一様性と発光効率は著しく劣化する。
【0028】
(内管による効果)
内管による効果について説明する。図8図9は、それぞれ、内管を有する放電灯における放電明部、内管を有さない放電灯における放電明部を示す図である。
【0029】
内管12の有無による放電モードの相違を実験により確認した。本実験において、放電灯1の外部導体15は先端部において開放されるように形成される。また、本実験において、内管12は石英により形成され、電磁波発振器2は2.45GHzのマイクロ波電力を出力する。なお、内管12が無い放電管は、内部導体13がプラズマにさらされて、不純物を放出するようになるため無電極放電管ではなくなり、ランプ寿命を短くする恐れがある。
【0030】
図8に示すように、放電灯1に内管12が設けられる場合には、定在波は二重放電管10の先端部に腹が位置するように生じ、これによって放電明部が形成される。二重放電管10の管軸方向長さ150mmに亘って放電明部が発生しており、定在波波長は36.7mmであることが図8から分かる。自由空間波長120mmの2.45GHzマイクロ波の定在波波長は60mmである。この相違は、内管12が比誘電率3.8の石英により形成されるためにマイクロ波伝搬波長が比誘電率の平方根で除した値である61mmに短縮されることに起因する。また、放電形成前における定在波波長に比較しても定在波波長が短く、放電プラズマの誘電率が定在波波長を短縮していることが分かる。
【0031】
一方、放電灯1に内管12が設けられない場合には、図9に示すように、マイクロ波入射端近傍で強い放電が形成されてマイクロ波電力が消費されるために、定在波励起が無くなり、放電は放電灯の一部のみに制限される。
【0032】
(シミュレーション)
外管及び内管による定在波波長への影響をシミュレーションした結果について、図10図15を用いて説明する。
【0033】
定在波の波長は、外管11、内管12それぞれの厚さ、誘電率に依存する。また、定在波の波長を短くすることによって、二重放電管10における放電明部の数が増加し、放電灯1の発光効率や放電の一様性を向上させることができる。
【0034】
図10は、石英により形成された外管及び内管のパラメータを示す表である。表に示されるQ1、Q2は、誘電率が3.8である石英により外管11、内管12を形成した放電灯であって、外管11、内管12の厚さを互いに異ならせた第1の放電灯、第2の放電灯をそれぞれ示す。表に示される定在波の波長は、放電形成前のものであり、第1の放電灯Q1及び第2の放電灯Q2について、それぞれシミュレーションにより算出したものである。また、図11図12は、それぞれ、第1の放電灯Q1、第2の放電灯Q2における電界強度分布を示すシミュレーション結果を示す図である。
【0035】
図13は、アルミナにより形成された外管及び内管のパラメータを示す表である。表に示されるA1、A2は、誘電率が10.0であるアルミナにより外管11、内管12を形成した放電灯であって、外管11、内管12の厚さを互いに異ならせた第1の放電灯、第2の放電灯をそれぞれ示す。表に示される定在波の波長は、放電形成前のものであり、第1の放電灯A1、第2の放電灯A2について、それぞれシミュレーションにより算出したものである。また、図14図15は、それぞれ、第1の放電灯A1、第2の放電灯A2における電界強度分布を示すシミュレーション結果を示す図である。
【0036】
図10図15から、外管11及び内管12の材料の誘電率が高いほど、また、内管12の厚みが大きいほど定在波波長が短くなることがわかる。また、上述したように、放電が発生するとプラズマの誘電率により、定在波波長を短縮する効果がある。なお、図8図15で使用した二重放電管は全て長さ150mm、直径10mmであるが、他のサイズの二重放電管でも同じ効果が得られている。
【0037】
(放電灯の変形例)
放電灯の変形例について説明する。図16は、放電灯の変形例を示す概略図である。
【0038】
上述の実施形態においては、直線状の管軸に対して二重放電管10における各要素が同軸上に位置付けられるように構成された直管型の放電灯1について説明したが、二重放電管10の形状は直管型に限らず、円環型、螺旋型であっても良い。例えば、図16に示すように、二重放電管10における各要素が平面視で略円状の管軸に対して同軸上に位置付けられた円環型の放電灯1Aが構成されても良い。
【0039】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1 放電灯
10 二重放電管
11 外管
12 内管
13 内部導体
15 外部導体
16 インピーダンス整合部
【要約】
【課題】共振器を用いずに無電極放電を行うことができる放電灯を提供する。
【解決手段】電磁波発振器により供給される電磁波電力により放電発光する放電灯1であって、基端部が開口されるとともに先端部が閉塞される筒状に形成された透明性を有する絶縁体である内管12と、内管12に挿入されるとともに内管12の管軸方向に延在する導体である内部導体13と、内管12の径外側に放電ガスが封入される密閉空間を画成するように形成された透明性を有する絶縁体である外管11と、外管11の外周を覆うように形成された導体である外部導体15とを有する二重放電管10と、二重放電管10において定在波が優位となるように電磁波発振器側のインピーダンスと二重放電管10のインピーダンスとを整合するインピーダンス整合部16とを備えた。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16