(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】回転電機、およびそのステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/18 20060101AFI20220727BHJP
【FI】
H02K3/18 J
(21)【出願番号】P 2021508883
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2020008699
(87)【国際公開番号】W WO2020195580
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019057168
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599161580
【氏名又は名称】株式会社デンソートリム
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(74)【代理人】
【識別番号】100170689
【氏名又は名称】金 順姫
(72)【発明者】
【氏名】小寺 優太
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-009994(JP,A)
【文献】特開2008-187877(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221565(WO,A1)
【文献】特開2016-127699(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129287(WO,A1)
【文献】特開2012-034500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/18
H02K 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁極(35)を提供するステータコア(32)と、
前記ステータコアに装着されたステータコイル(33)と、
前記ステータコアと前記ステータコイルとの間に配置された電気絶縁部材としてのインシュレータ(36)とを備え、
前記ステータコイルは、
前記磁極に装着された複数の単コイル(41)と、
複数の前記単コイルを接続する複数の渡り線(42)と、
前記ステータコイルの両端を提供する引出線であって、複数の前記単コイルの最も径方向内側部分より、径方向外側を経由して配置されている複数の引出線(43、44)とを備
え、
複数の前記引出線は、
経路において堅く巻き付けられている部分(44a、44b)と、
複数の前記単コイルの間における、たるむように緩く巻かれている部分(44c)とを有する回転電機のステータ。
【請求項2】
複数の前記引出線(43、44)は、複数の前記単コイルの間における、長さ方向の少なくとも一部分において空中配線として配置されている請求項1に記載の回転電機のステータ。
【請求項3】
複数の前記引出線は、巻き始めの前記単コイル(41s)の最も径方向内側から引き出される巻き始めの第1の引出線(43)を含み、
前記第1の引出線(43)は、巻き始めの前記単コイル(41s)の最も径方向内側より外側を経由して配置されている請求項1または請求項2に記載の回転電機のステータ。
【請求項4】
複数の前記引出線は、巻き終わりの前記単コイル(41e)の中間部位から引き出される巻き終わりの第2の引出線(44)を含み、
前記第2の引出線(44)は、巻き終わりの前記単コイル(41e)の最も径方向内側より外側を経由して配置されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の回転電機のステータ。
【請求項5】
前記第2の引出線(44)は、前記ステータコアの厚さ方向における任意の断面において、前記ステータコアにおいて前記引出線を配置可能な前記ステータコアの最小半径(R31)に配置されることなく、前記最小半径より径方向外側の中間半径(R44)を経由して配置されている請求項4に記載の回転電機のステータ。
【請求項6】
前記インシュレータは、取付対象であるボディ(13)との取付面(32a)に向けて、前記ステータコアの端面に沿って板状に広がる板状部分を有する請求項1から請求項5のいずれかに記載の回転電機のステータ。
【請求項7】
前記インシュレータは、径方向に広がる板状の部材であって、前記渡り線を案内するための径方向案内板(67、68、69)を有し、
前記渡り線と前記径方向案内板とが接触している請求項1から請求項6のいずれかに記載の回転電機のステータ。
【請求項8】
さらに、前記渡り線を前記インシュレータに接着する接着樹脂(71)を備え、
前記接着樹脂は、前記渡り線を前記径方向案内板に接着している請求項7に記載の回転電機のステータ。
【請求項9】
さらに、可撓性のケーブルによって提供される電力線(16)と、
前記電力線を保持する金属製のホルダ(61)と備え、
前記インシュレータは前記ホルダの圧入部(63)を受け入れるため
に前記インシュレータから軸方向に沿って延びだす筒状カバー(64)を有する請求項1から請求項8のいずれかに記載の回転電機のステータ。
【請求項10】
前記ホルダは、前記ステータコイルに沿って延びだしている腕部(62)を備え、
前記インシュレータは、前記ステータコイルと前記腕部との間に延びだしている庇部(65)を有する請求項9に記載の回転電機のステータ。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載のステータと、
前記ステータに回転磁界を提供するロータ(26)とを備える回転電機。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2019年3月25日に日本に出願された特許出願第2019-57168号を基礎としており、基礎の出願の内容を、全体的に、参照により援用している。
【技術分野】
【0002】
この明細書における開示は、回転電機、およびそのステータに関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1は、回転電機および回転電機の製造方法を開示する。従来技術として列挙された先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/221565号パンフレット
【発明の概要】
【0005】
回転電機に異物が付着する場合がある。異物は、固形物、または、液体の場合がある。異物は、電気的な導体片、または電解液を含む。異物は、予期しない電気的な導通、または部材の腐蝕を生じることがある。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、回転電機、およびそのステータにはさらなる改良が求められている。
【0006】
開示されるひとつの目的は、異物が溜まりにくい回転電機、およびそのステータを提供することである。
【0007】
ここに開示された回転電機のステータは、複数の磁極を提供するステータコアと、ステータコアに装着されたステータコイルと、ステータコアとステータコイルとの間に配置された電気絶縁部材としてのインシュレータとを備え、ステータコイルは、磁極に装着された複数の単コイルと、複数の単コイルを接続する複数の渡り線と、ステータコイルの両端を提供する引出線であって、複数の単コイルの最も径方向内側部分より、径方向外側を経由して配置されている複数の引出線とを備え、複数の引出線は、経路において堅く巻き付けられている部分(44a、44b)と、複数の単コイルの間における、たるむように緩く巻かれている部分(44c)とを有する。
【0008】
開示される回転電機のステータによると、複数の引出線は、最小半径を経由することなく、敢えて最小半径より径方向外側を経由して配置される。このため、複数の引出線に液体が付着しても、複数の引出線と、他の部材との間に液膜が形成される事態が抑制される。これにより、異物が溜まりにくい回転電機のステータが提供される。
【0009】
ここに開示された回転電機は、上記ステータと、ステータに回転磁界を提供するロータとを備える。開示される回転電機のステータによると、異物が溜まりにくい回転電機が提供される。
【0010】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る回転電機の断面図である。
【
図10】コイルを除くステータの第1側面を示す斜視図である。
【
図11】コイルを除くステータを示す側面図である。
【
図12】コイルを除くステータを示す断面図である。
【
図16】回転電機の製造方法を示すフローチャートである。
【
図17】第2実施形態に係るステータを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
複数の実施形態が、図面を参照しながら説明される。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0013】
第1実施形態
図1において、内燃機関用回転電機(以下、単に回転電機という)10は、発電電動機、または交流発電機スタータ(AC Generator Starter)とも呼ばれる。回転電機10は、インバータ回路(INV)と制御装置(ECU)とを含む電気回路11と電気的に接続されている。電気回路11は、三相の電力変換回路を提供する。回転電機10の用途の一例は、乗り物用の内燃機関12の発電電動機である。乗り物は、車両、船舶、航空機、アミューズメント機器、または、シミュレーション機器である。乗り物の典型的な一例は、鞍乗り型車両である。
【0014】
電気回路11は、回転電機10が発電機として機能するとき、出力される交流電力を整流し、バッテリを含む電気負荷に電力を供給する整流回路を提供する。電気回路11は、回転電機10から供給される点火制御用の基準位置信号を受信する信号処理回路を提供する。電気回路11は、点火制御を実行する点火制御器を提供してもよい。
【0015】
電気回路11は、回転電機10を電動機として機能させる駆動回路を提供する。電気回路11は、回転電機10を電動機として機能させるための回転位置信号を回転電機10から受信する。電気回路11は、検出された回転位置に応じて回転電機10への通電を制御することにより回転電機10を電動機として機能させる。
【0016】
回転電機10は、内燃機関12に組み付けられている。内燃機関12は、ボディ13と、ボディ13に回転可能に支持され、内燃機関12と連動して回転する回転軸14とを有する。回転電機10は、取付対象であるボディ13と回転軸14とに組み付けられている。ボディ13は、内燃機関12のクランクケース、ミッションケースなどの構造体である。回転軸14は、内燃機関12のクランク軸、またはクランク軸と連動する回転軸である。回転軸14は、内燃機関12が運転されることによって回転する。
【0017】
回転軸14は、回転電機10を発電機として機能させるように回転電機10を回転させる。回転軸14は、回転電機10が電動機として機能するとき、回転電機10の回転によって内燃機関12を始動可能な回転軸である。また、回転軸14は、回転電機10が電動機として機能するとき、回転電機10の回転によって内燃機関12の回転を支援(アシスト)することができる回転軸である。
【0018】
回転電機10は、ロータ21と、ステータ31と、センサユニット37とを有する。以下の説明において、軸方向ADの語は、ステータ31を円筒体とみなした場合の中心軸の方向を意味する。径方向RDの語は、ステータ31を円筒体とみなした場合の直径方向を意味する。周方向CDの語は、ステータ31を円筒体とみなした場合の円周方向を意味する。
【0019】
ロータ21は、界磁子である。ステータ31は、電機子である。ロータ21は、全体がカップ状である。ロータ21は、その開口端をボディ13に向けて位置付けられる。ロータ21は、回転軸14の端部に固定される。ロータ21と回転軸14とは、キー嵌合などの回転方向の位置決め機構を介して連結されている。ロータ21は、固定ボルト25によって回転軸14に締め付けられることによって固定されている。ロータ21は、回転軸14とともに回転する。ロータ21は、永久磁石によって界磁、すなわち回転界磁を提供する。
【0020】
ロータ21は、カップ状のロータコア22を有する。ロータコア22は、内燃機関12の回転軸14に連結される。ロータコア22は、回転軸14に固定される内筒と、内筒の径方向外側に位置する外筒と、内筒と外筒との間に拡がる環状の底板とを有する。ロータコア22は、後述する永久磁石のためのヨークを提供する。ロータコア22は、磁性金属製である。
【0021】
ロータ21は、ロータコア22の内面に配置された永久磁石23を有する。永久磁石23は、外筒の内側に固定されている。永久磁石23は、径方向内側に配置された保持カップ24によって軸方向ADおよび径方向RDに関して固定されている。保持カップ24は、薄い非磁性金属製である。保持カップ24は、ロータコア22に固定されている。
【0022】
永久磁石23は、複数のセグメントを有する。それぞれのセグメントは、部分円筒状である。永久磁石23は、その内側に、複数のN極と複数のS極とを提供する。永久磁石23は、少なくとも界磁を提供する。永久磁石23は、12個のセグメントによって、6対のN極とS極、すなわち12極の界磁を提供する。磁極の数は、他の数でもよい。永久磁石23は、点火制御のための基準位置信号を提供するための部分的な特殊磁極を提供する。特殊磁極は、界磁のための磁極配列とは異なる部分的な磁極によって提供される。この結果、ロータ21は、ステータ31に回転磁界を提供する。
【0023】
ステータ31とボディ13とは、固定ボルト34を介して連結されている。ステータ31は、複数の固定ボルト34によってボディ13に締め付けられることによって固定されている。ステータ31は、ロータ21とボディ13との間に配置されている。ステータ31は、ロータ21の内面とギャップを介して対向する仮想の外周面を有する。仮想の外周面は、複数の磁極35によって提供されている。ステータ31は、ボディ13に固定されている。
【0024】
ステータ31は、ステータコア32を有する。ステータコア32は、第1端面SD1と、第1端面SD1の反対側である第2端面SD2と、外周面とを有する。ステータコア32は、内燃機関12のボディ13に固定されることによってロータ21の内側に配置される。ステータコア32は、複数のティース部分を有する。ひとつのティース部分は、ひとつの磁極35を提供する。ステータコア32は、複数の磁極35を提供する。ステータコア32は、外突極型の鉄心を提供する。
【0025】
ステータ31は、ステータコア32に装着されたステータコイル33を有する。ステータコイル33は、電機子巻線を提供する。ステータコア32とステータコイル33との間にはインシュレータ36が配置されている。インシュレータ36は、電気絶縁部材である。インシュレータ36は、電気絶縁性の樹脂製である。ステータコイル33は、三相巻線である。ステータコイル33は、ロータ21およびステータ31を発電機または電動機として選択的に機能させることができる。
【0026】
センサユニット37は、内燃機関用回転位置検出装置を提供する。センサユニット37は、内燃機関12に連動する回転電機10に設けられている。センサユニット37は、ステータ31に設けられている。センサユニット37は、回転電機10のステータコア32に設けられている。センサユニット37は、固定ボルト39によってステータコア32の第1端面SD1に固定されている。固定ボルト39は、第2端面SD2から第1端面SD1に向けて貫通している。センサユニット37は、複数のセンサ38を備える。ひとつのセンサ38が点火制御用のセンサを提供する。複数のセンサ38の少なくともひとつは、回転電機10を少なくとも電動機として機能させるためのロータ21の回転位置を検出する。センサユニット37は、センサ38を2つの磁極35の間に位置づけている。
【0027】
センサユニット37は、ひとつまたは複数のセンサ38から出力される信号を外部に取り出すための外部接続用の配線15を有する。配線15は、基準位置を示す点火信号および/または回転角度を示す回転位置信号を伝達することができる。回転電機10は、ステータコイル33と電気回路11とを接続する複数の電力線16を有する。電力線16は、可撓性のケーブルによって提供されている。電力線16は、回転電機10が発電機として機能するとき、ステータコイル33に誘導される電力を電気回路11に供給する。電力線16は、回転電機10が電動機として機能するとき、ステータコイル33を励磁するための電力を電気回路11からステータコイル33へ供給する。
【0028】
図2において、ステータコイル33は、多相結線されている。ステータコイル33は、三相巻線を提供する。ステータコイル33は、5相巻線、7相巻線、二組の三相巻線でもよい。ステータコイル33は、スター結線されている。ステータコイル33は、リング結線されていてもよい。ステータコイル33は、複数の相巻線33u、33v、33wを有する。複数の相巻線33u、33v、33wは相似である。
【0029】
相巻線33uが、代表例として説明される。相巻線33uは、複数の単コイル41を有する。単コイル41は、ひとつの磁極35に装着されている。相巻線33uは、単コイル41と単コイル41との間にわたって延びる渡り線42を有する。相巻線33uは、複数の渡り線42を有する。複数の渡り線42は、複数の単コイル41を接続している。渡り線42は、単コイル41と単コイル41との間において、ステータコア32の周方向CDに沿って敷設されている。渡り線42は、単コイル41を形成する素線と同じ素線によって提供されている。
【0030】
相巻線33uは、引出線43と引出線44とを有している。引出線43、44は、相巻線33uの両端にそれぞれ配置されている。よって、引出線43、44は、ステータコイル33の両端を提供している。引出線43は、中性点接続のための引出線43を提供する。引出線44は、電力端のための引出線44を提供する。引出線43、44は、単コイル41を形成する素線と同じ素線によって提供されている。単コイル41、渡り線42、および引出線43、44は、連続する素線によって提供されている。
【0031】
ステータコイル33は、電気的な接続を提供するための複数の電極51、52を備える。ひとつの電極51は、中性点接続のための電極51を提供する。電極51は、ステータ31に固定されている。電極51は、複数の引出線43と接合されている。電極51は、それぞれに引出線43が接続された複数の端子を有している。ひとつの電極52は、電力端のための複数の電極52を提供する。電極52は、引出線44と電力線16との間の接続を提供する。電極52は、ステータ31に固定されている。電極52は、ステータ31を貫通している。電極52は、第2端面SD2において引出線44と接続されている。電極52は、第1端面SD1において電力線16と接続されている。
【0032】
ステータコイル33は、導体金属製である。単コイル41の素線は、丸断面をもつ導体線である。素線は、四辺形断面、または平角断面をもつ導体線でもよい。素線は、樹脂製の被覆膜によって被覆されている。素線は、アルミニウム製、またはアルミニウム合金製である。素線は、銅製でもよい。複数の電極51、52は、鉄合金製である。複数の電極51、52は、真鍮製、銅製など多様な導体金属によって提供することができる。
【0033】
素線導体金属は、被覆膜の傷、または被覆膜のピンホールに起因して、露出する場合がある。素線は、巻線工程において繰り返して曲げられる。巻線工程において、渡り線42、および引出線43、44は、単コイル41とは異なる曲げ形状を与えられる。このため、渡り線42、および引出線43、44は、被覆膜に傷を受けやすい。また、渡り線42、および引出線43、44は、ピンホールが拡大しやすい。
【0034】
回転電機10に付着する異物は、電解液の場合がある。海水、または融雪剤に含まれる塩は、塩化ナトリウム溶液など電解液を形成する。電解液は、アルミニウムを含む金属材料の電蝕を促進する場合がある。電解液の存在する環境において回転電機が使用される場合、電蝕を抑制することが望ましい。
【0035】
さらに、素線の露出部分に電解液が付着すると、素線の金属は電蝕を生じる場合がある。素線がアルミニウム製、またはアルミニウム合金製である場合、電蝕が顕著となる。この実施形態は、電解液が溜まりにくい回転電機、回転電機の固定子、およびその製造方法を提供する。この実施形態では、渡り線42、および/または、引出線43、44において、電解液が溜まりにくい回転電機、回転電機の固定子、およびその製造方法が提供されている。電解液が溜まりにくい形状は、電解液が流れ去りやすい形状、または電解液が液膜を形成しにくい形状でもある。
【0036】
図3において、ステータ31の第2端面SD2が図示されている。第2端面SD2は、ロータ21に対向する端面である。ステータコイル33は、第2端面SD2において三相結線されている。ステータコイル33は、複数の引出線43と、複数の引出線44とを有する。この実施形態は、3つの引出線43と、3つの引出線44とを備える。3つの引出線43は、接合容器56の中において電極51と接続されている。接合容器56は、電極51を囲む周壁部材と、電極51を覆う封止樹脂とを含む。3つの引出線44のそれぞれは、接合容器57の中において、3つの電極52のそれぞれと接続されている。接合容器57は、複数の電極52を囲む周壁部材と、複数の電極52を覆う封止樹脂とを含む。以下、3つの相巻線のうちのひとつの相巻線を中心に詳細な説明が提供されている。3つの相巻線のそれぞれは、説明された形状を備えている。
【0037】
単コイル41sは、巻き始めの単コイル41sを示す。単コイル41sから引き出される巻き始めの素線は、引出線43を提供する。引出線43は、第1の引出線43とも呼ばれる。単コイル41sの最も径方向内側部分に、巻き始めが位置している。引出線43は、巻き始めの単コイル41sの最も径方向内側より外側を経由して配置されている。引出線43は、複数の単コイル41の最も径方向内側部分より、径方向外側を経由して、第2端面SD2に引き出されている。引出線43は、第2端面SD2において、接合容器56の中に引き込まれている。言い換えると、引出線43は、単コイル41sと接合容器56との間において、最短経路よりも長い経路を経由するように、他の構成部品に対して緩く巻きつけられている。これにより、引出線43と、他の部材との接触面が抑制される。他の部材は、単コイル41、渡り線42、およびインシュレータ36を含む。この結果、電解液が付着しても、電解液が液膜となって長期間にわたって溜まることが抑制される。言い換えると、引出線43は、複数の単コイル41の間における、長さ方向の少なくとも一部分において空中配線として配置されている。これにより、引出線43における電蝕が抑制される。引出線43は、長さ方向の一部分において、単コイル41と接触していてもよい。
【0038】
単コイル41eは、巻き終わりの単コイル41eを示す。単コイル41eから引き出される巻き終わりの素線は、引出線44を提供する。引出線44は、第2の引出線44とも呼ばれる。単コイル41eの径方向中間部分に、巻き終わりが位置している。引出線44は、巻き終わりから、第1端面SD1に配置されたあとに、再び第2端面SD2に引き出されている。第1端面SD1において、引出線44は、ステータ31の周方向CDに沿ってほぼ1ピッチ分(3つの磁極の距離)戻るように、敷設されている。引出線44は、巻き終わりの単コイル41eの最も径方向内側より外側を経由して配置されている。引出線44は、複数の単コイル41の最も径方向内側部分より、径方向外側を経由して、第2端面SD2に引き出されている。引出線44は、第2端面SD2において、接合容器57の中に引き込まれている。言い換えると、引出線44は、単コイル41eと接合容器56との間において、最短経路よりも長い経路を経由するように、他の構成部品に対して緩く巻きつけられている。これにより、引出線44と、他の部材との接触面が抑制される。この結果、電解液が付着しても、電解液が液膜となって長期間にわたって溜まることが抑制される。言い換えると、引出線44は、複数の単コイル41の間における、長さ方向の少なくとも一部分において空中配線として配置されている。これにより、引出線44における電蝕が抑制される。引出線44は、長さ方向の一部分において、単コイル41と接触していてもよい。
【0039】
この実施形態では、第1の引出線43から第2の引出線44まで、一連の1本の素線が巻かれている。これに代えて、第1の引出線43から第2の引出線44まで、並列的に配置された複数の素線が巻かれてもよい。また、第1の引出線43と第2の引出線44との間に接合部があってもよい。
【0040】
この実施形態では、第2の引出線44は、第1の引出線43よりも長い。第2の引出線44は、第1の引出線43よりも径方向外側を経由している。これに代えて、第1の引出線43を、第2の引出線44よりも長くしてもよい。これに代えて、第1の引出線43は、第2の引出線44よりも径方向外側を経由してもよい。すなわち、第1の引出線43と、第2の引出線44とは、異なる長さをもつことができる。また、第1の引出線43と、第2の引出線44とは、異なる径方向位置を経由することができる。これに代えて、第1の引出線43と、第2の引出線44とは、同じ長さを有していてもよい。これに代えて、第1の引出線43と、第2の引出線44とは、径方向に関して同じ位置を経由してもよい。
【0041】
引出線44は、ひとつ以上の単コイル41に絡みつくように配置されている。引出線44は、3つの単コイル41にわたって絡みつくように配置されている。言い換えると、引出線44は、第1端面SD1において周方向CDの一方へ向けて延在し、第2端面SD2において周方向CDの他方へ向けて延在する。引出線44は、第1部分44a、第2部分44b、第3部分44c、および第4部分44dを有する。
【0042】
第1部分44aは、第2端面SD2における単コイル41eの巻き終わりから、複数の磁極35の間のスロット内を軸方向ADに貫通するように配置されている。第1部分44aは、単コイル41eの巻き終わりから、やや径方向内側を経由するように配置されている。第1部分44aは、単コイル41eと隣接する単コイル41との間の隙間を経由して、第2端面SD2と第1端面SD1との間にわたって配置されている。第1部分44aは、軸方向貫通部分とも呼ばれる。
【0043】
第2部分44bは、第1端面SD1において、周方向CDに沿って配置されている。第2部分44bは、1ピッチ分、すなわち3つの単コイル41の距離にわたって配置されている。第2部分44bは、第1部分44aと第3部分44cとの間において、周方向CDに延びている。第2部分44bは、第1部分44aと第3部分44cとの間において、径方向RDにも推移している。第2部分44bは、周方向延在部分とも呼ばれる。
【0044】
第3部分44cは、隣接する2つの単コイル41の間の隙間を経由して、第1端面SD1と第2端面SD2との間にわたって配置されている。第3部分44cは、複数の単コイル41の最も径方向内側部分より、径方向外側に配置されている。第3部分44cは、複数の単コイル41の間に位置している。第3部分44cは、単コイル41eの巻き終わりに相当する単コイル41の径方向中間部分に位置している。第3部分44cは、軸方向貫通部分とも呼ばれる。
【0045】
第4部分44dは、単コイル41の径方向中間部分と接合容器57との間にわたって延びている。第4部分44dは、実質的に真っ直ぐに延びている。第4部分44dは、第2端面SD2において、周方向CDに沿って配置されている。第4部分44dは、第2部分44bに対して反対方向に延びている。第4部分44dは、接合容器57に導入される導入部分とも呼ばれる。
【0046】
引出線44は、第1部分44a、第2部分44bにおいて、単コイル41、渡り線42、他の引出線44と接触している。引出線44は、第1部分44a、第2部分44bにおいて、その経路に配置された単コイル41および渡り線42に堅く巻き付けられている。引出線44は、第3部分44cおよび第4部分44dにおいて、他の部材から離れて配置されている。引出線44は、第3部分44cおよび第4部分44dにおいて、敢えて意図的にたるむように緩く巻かれている。第3部分44cおよび第4部分44dは、空中配線のように配置されている。第3部分44cおよび第4部分44dは、他の部材から離れることにより、電解液による液膜の形成を抑制する。この結果、電解液は、流れ去りやすい。また、第3部分44cおよび第4部分44dは、接合容器57の中における引出線44の微調節を許容する。第3部分44cがたわむことにより、第4部分44dは、第4部分44dの軸方向へ前後に移動可能である。第4部分44dの移動可能距離は、第4部分44dの軸方向に沿って数ミリの範囲(0.1mm以上、5mm以下)に及ぶ。第4部分44dの移動可能距離は、最大で十数ミリの範囲(0.1mm以上、20mm以下)に及ぶように調節可能である。
【0047】
引出線44は、第3部分44cにおいて接触部分44eを備える場合がある。接触部分44eは、不可避に生じる部分でもある。接触部分44eは、第3部分44cと単コイル41との接触部分である。
【0048】
図4において、3つの引出線44が図示されている。中央のひとつの引出線44は、部分的に破線によって図示されている。第1部分44aは、多くの部分が破線によって図示されている。
【0049】
図5において、ステータ31の第1端面SD1が図示されている。第1端面SD1は、ボディ13に対向する端面である。ステータ31は、第1端面SD1にすべての渡り線42を有する。第1端面SD1における渡り線42の集中的な配置は、ロータ21とステータ31との間の隙間を抑制するために貢献する。
【0050】
インシュレータ36は、少なくともひとつの径方向案内板67、68、69を有する。径方向案内板67、68、69は、径方向に広がる板状の部材である。径方向案内板67、68、69は、複数の渡り線42を案内するために利用される。この実施形態は、3つの径方向案内板67、68、69を有する。径方向案内板67、68、69は、連続する樹脂材料によって、インシュレータ36に一体的に成形されている。径方向案内板67、68、69は、渡り線42を周方向CDに沿って敷設するための基準面を提供する。渡り線42は、径方向案内板67、68、69よりも径方向外側に配置されている。径方向案内板67、68、69は、径方向RDに沿って広がる板状の突起である。径方向案内板67、68、69は、位置決め部材とも呼ばれる。径方向案内板68、69は、センサユニット37の周方向両側に位置づけられている。これにより、径方向案内板68、69は、センサユニット37と複数の単コイル41との間に複数の渡り線42を位置づけている。径方向案内板67、68、69は、径方向内側へ渡り線42の侵入を阻止している。
【0051】
径方向案内板67、68、69は、周方向CDに沿って薄い厚さをもつ板状である。しかも、径方向案内板67、68、69は、径方向RDに長い長さをもって広がっている。径方向案内板67、68、69の周方向厚さは、径方向長さより小さい。よって、径方向案内板67、68、69は、異物を排出しやすい。例えば、液体の異物が径方向案内板67、68、69に付着しても、液体は径方向RDに流れ去りやすい。渡り線42と径方向案内板67、68、69が接触している場合、渡り線42に付着した液体の異物が径方向案内板67、68、69を伝い、流れ去りやすい。特に、径方向案内板67、68、69が重力方向に広がるように配置された場合には、重力によって液体の排出が促進される。
【0052】
ステータコイル33は、第1端面SD1において電力線16に接続されている。図中には、ひとつの電力線16が破線によって図示されている。電力線16は、ステータ31に沿って湾曲するように配置されている。電力線16は、一端において電極52と接続されている。電力線16と電極52との間の接続は、ハンダ付けによって提供されている。電力線16と電極52との間の接続は、機械的かしめ付け、溶接など多様な手法によって提供することができる。
【0053】
ステータ31は、電力線16を保持するためのホルダ61を有する。ホルダ61は、金属製である。ホルダ61は、ステータ31に固定されている。ホルダ61は、第1端面SD1に固定されている。ホルダ61は、ステータコア32に圧入されることによって固定されている。ホルダ61は、電力線16を規定の位置に保持している。ホルダ61は、ステータコイル33に沿って径方向RDに延びだしている腕部62を有する。ホルダ61は、ステータコア32、またはインシュレータ36に対して圧入される圧入部63を有する。
【0054】
インシュレータ36は、径方向外側では、ステータコイル33を巻くためのボビンを提供している。さらに、インシュレータ36は、径方向内側では、ボディ13との取付面32aに向けて、ステータコア32の端面に沿って板状に広がる板状部分を有する。板状部分は、複数の磁極35を包むボビン部分から、ステータコア32の取付面32aの境界線までの範囲を覆っている。取付面32aは、3つのボルト用貫通穴を含む花びら状の面である。インシュレータ36の径方向内側縁は、取付面32aの近傍にまで延びだしている。インシュレータ36の板状部分は、ステータコア32とステータコイル33との間における電気的絶縁部材の沿面距離を提供する。インシュレータ36は、沿面距離を長くするために貢献する。
【0055】
図6において、ホルダ61は、圧入部63においてステータコア32に圧入されている。インシュレータ36は、圧入部63を受け入れるために、軸方向に沿って延びだす筒状カバー64を有する。筒状カバー64は、ステータコア32の端面において、圧入部63の表面を覆っている。インシュレータ36は、筒状カバー64より径方向内側において板状に広がっている。
【0056】
接着樹脂71は、渡り線42をインシュレータ36に接着している。接着樹脂71は、径方向案内板67の径方向外側を経由する複数の渡り線42を径方向案内板67に接着している。接着樹脂71は、複数の渡り線42と径方向案内板67との間をブリッジするように存在している。接着樹脂71は、複数の渡り線42を固定するための部材として機能する。これにより、径方向案内板67の近傍における複数の渡り線42の損傷が抑制される。さらに、接着樹脂71は、複数の渡り線42を覆うカバー部材として機能する。これにより、複数の渡り線42が保護される。複数の渡り線42が被覆膜の傷、または被覆膜のピンホールを有していても、接着樹脂71が傷、またはピンホールを覆う。この結果、径方向案内板67の近傍に付着する異物から複数の渡り線42が保護される。接着樹脂71は、例えば、径方向案内板67、68、69の近傍に付着した電解液から複数の渡り線42を保護する。
【0057】
図7において、接着樹脂71が図示されている。接着樹脂71から、覆われた渡り線42の一部が突出している。複数の渡り線42は、センサユニット37と複数の単コイル41との間の隙間を経由している。それらの複数の渡り線42は、径方向案内板69の径方向外側に位置づけられている。
【0058】
筒状カバー64は、インシュレータ36から、圧入部63に沿ってステータ31の軸方向ADに延びだしている。筒状カバー64は、インシュレータ36の一部である。筒状カバー64は、複数の渡り線42とホルダ61との間における電気的絶縁部材の沿面距離を提供する。筒状カバー64は、沿面距離を長くするために貢献する。さらに、インシュレータ36は、筒状カバー64の頂部から径方向外側に延びだす庇部65を備える。庇部65は、腕部62に沿って広がっている。庇部65は、ステータコイル33と腕部62との間に延びだしている。庇部65は、複数の単コイル41および複数の渡り線42と、腕部62との直接的な接触を抑制する。腕部62が変形する場合、庇部65と、複数の単コイル41および複数の渡り線42とが接触する場合がある。この場合も、庇部65は、複数の単コイル41および複数の渡り線42と、腕部62との間における電気的な絶縁性を提供する。また、庇部65は、複数の渡り線42とホルダ61との間における電気的絶縁部材の沿面距離を提供する。インシュレータ36は、筒状カバー64および径方向案内板67より径方向内側において板状に広がっている。
【0059】
図8は、
図5のVIII-VIII線における断面を示している。
図9は、
図5のIX-IX線における断面を示している。接着樹脂71は、複数の渡り線42と径方向案内板67との間において樹脂塊を形成している。接着樹脂71は、径方向案内板67に複数の渡り線42を固定している。径方向案内板67は、接着樹脂71を付与するための目標物としても機能している。インシュレータ36は、径方向案内板67より径方向内側において板状に広がっている。
【0060】
図10は、ステータコイル33を除いたステータ31の斜視図を示している。
図11は、ステータコイル33を除いたステータ31の側面図を示している。接着樹脂71は、複数の単コイル41の痕跡、および複数の渡り線42の痕跡を有している。庇部65は、腕部62と接している。庇部65は、腕部62に沿って広がっている。
【0061】
図10および
図11において、ステータコア32は、磁極35の径方向外端部に、周方向に拡大された拡大部分35aを有する。インシュレータ36は、多くの磁極35において、拡大部分35aの周方向端面を覆っている。なお、一部の磁極35では、周方向端面は露出している。インシュレータ36は、拡大部分35aの周方向端面を覆うことによって、多くの磁極35の露出面積を抑制する。これにより、ステータコア32とインシュレータ36との間への液体を含む異物の浸入が抑制される。また、素線とステータコア32との両方にわたって電解液が付着する確率が抑制される。
【0062】
図12は、
図10および
図11における接着樹脂71を通る断面を示している。接着樹脂71は、複数の渡り線42の痕跡としての空洞を有している。インシュレータ36は、軸方向半部36aと、軸方向半部36bとを有している。インシュレータ36は、軸方向半部36aと、軸方向半部36bとによってステータコア32を磁極35において包んでいる。軸方向半部36aと、軸方向半部36bとは、隙間なく合わせ面36cにおいて突き合わせられている。インシュレータ36は、ステータコア32とステータコイル33との間における電気的な絶縁を提供している。隙間のない合わせ面36cは、電解液が溜まることを抑制する。
【0063】
電極51は、接合容器56の中に配置されている。電極51は、インシュレータ36によってステータコア32から電気的に絶縁されている。電極52は、接合容器57の中に配置されている。電極52は、ステータコア32を貫通している。電極52は、インシュレータ36によってステータコア32から電気的に絶縁されている。
【0064】
図13は、ステータ31の軸方向ADに対して垂直な断面を示している。
図13は、
図12におけるステータコア32の厚さTHの1/2における断面を示している。インシュレータ36および単コイル41は、ステータ31の径方向RDにおいて、ステータコイル33の素線を配置可能な最も径方向内側の最小半径R31を規定している。ステータコア32は、ステータ31の外周面を規定する最大半径R32を規定している。
【0065】
すべての引出線44は、最小半径R31より径方向外側を経由するように配置されている。引出線44の第3部分44cは、引出線44が最も堅く巻き付けられた場合、最小半径R31に接して、または最小半径R31の極めて近くに配置される。
【0066】
しかし、この実施形態では、すべての第3部分44cは、中間半径R44を経由するように配置されている。中間半径R44は、最小半径R31より遥かに大きい。中間半径R44は、最大半径R32より小さい。すべての第3部分44cは、ステータコア32の厚さTHの1/2における断面において、最小半径R31より径方向外側であって、最大半径R32より径方向内側に配置されている(R31<R44<R32)。言い換えると、すべての引出線44は、中間半径R44を経由している。引出線44は、ステータコア32の厚さ(TH)の1/2における断面において、ステータコア32において引出線44を配置可能なステータコア32の最小半径R31に配置されることなく、最小半径R31より径方向外側の中間半径R44を経由して配置されている。なお、ここでは代表として厚さTHの1/2における断面について述べたが、これに限らず、厚さTHのいずれかの断面で、以上に述べた構成となっていてもよい。よって、第2の引出線44は、ステータコア32の厚さ方向における任意の断面において、ステータコア32において引出線を配置可能なステータコア32の最小半径R31に配置されることなく、最小半径R31より径方向外側の中間半径R44を経由して配置されている。
【0067】
図14と
図15とは、接合容器56の近傍における引出線43を示している。引出線43は、ひとつ以上の単コイル41に絡みつくように配置されている。引出線43は、単一の単コイル41に絡みつくように配置されている。引出線43は、第1部分34a、および第2部分43bを有する。
【0068】
第1部分43aは、第1端面SD1における単コイル41sの巻きはじめから、複数の磁極35の間のスロット内を軸方向ADに貫通するように配置されている。第1部分43aは、単コイル41sの巻きはじめから、巻き始めよりも径方向外側を経由するように配置されている。第1部分43aは、複数の単コイル41の最も径方向内側部分より、径方向外側に配置されている。第1部分43aは、単コイル41sと隣接する単コイル41との間の隙間を経由して、第2端面SD2と第1端面SD1との間にわたって配置されている。第1部分43aは、軸方向貫通部分とも呼ばれる。
【0069】
第2部分43bは、第1部分43aと接合容器56との間にわたって延びている。第2部分43bは、実質的に真っ直ぐに延びている。第2部分43bは、第2端面SD2において、周方向CDに沿って配置されている。第2部分43bは、接合容器57に導入される導入部分とも呼ばれる。
【0070】
引出線43は、第1部分43aおよび第2部分43bにおいて、他の部材から離れて配置されている。引出線43は、第1部分43aおよび第2部分43bにおいて、敢えて意図的にたるむように緩く巻かれている。第1部分43aおよび第2部分43bは、空中配線のように配置されている。第1部分43aおよび第2部分43bは、他の部材から離れることにより、電解液による液膜の形成を抑制する。この結果、電解液は、流れ去りやすい。また、第1部分43aおよび第2部分43bは、接合容器56の中における引出線43の微調節を許容する。第1部分43aがたわむことにより、第2部分43bは、第2部分43bの軸方向へ前後に移動可能である。第2部分43bの移動可能距離は、第2部分43bの軸方向に沿って数ミリの範囲(0.1mm以上、5mm以下)に及ぶ。第2部分43bの移動可能距離は、最大で十数ミリの範囲(0.1mm以上、20mm以下)に及ぶように調節可能である。
【0071】
引出線43は、第1部分43aおよび第2部分43bにおいて、単コイル41sから離れている非接触部分43fを備える。非接触部分43fは、意図的に形成されている。
【0072】
図16は、回転電機10の製造方法、およびステータ31の製造方法を示す。製造方法180は、以下に述べる複数のステップを備える。ステップは、工程とも呼ばれる。ステップ181では、ステータ31が製造される。ステップ181は、ステップ181-188を含む。ステップ182では、ステータコア32が製造される。ステータコア32は、複数の鋼板を積層することにより製造される。ステップ183では、ステータコア32にインシュレータ36が装着される。ステップ184では、インシュレータ36に、ステータコイル33が巻かれる。素線は、自動巻線機によって、インシュレータ36に巻きつけられる。素線は、単コイル41と、渡り線42とを、交互に形成するように巻かれる。複数の電極51、52は、ステップ184までに装着されている。
【0073】
ステップ185では、複数の引出線43、44が、大回りに配置される。ここでは、複数の引出線43、44は、単コイル41およびインシュレータ36に対して緩く巻きつけられる。複数の引出線43、44は、対応する接合容器56、57に導入される。ステップ185は、複数の引出線43、44を、最小半径R31より外側に位置するように曲げ加工する工程でもある。複数の引出線43、44は、単コイル41に対して堅く巻きつけられることなく、多くの隙間を形成するように、単コイル41に対して緩く巻きつけられる。これにより、接合容器56、57において引出線43、44の微調整が許容される。さらに、異物としての流体が付着した場合に、流体が液膜を形成して長期間にわたって溜まる事態が回避される。
【0074】
ステップ186では、複数の引出線43、44の端部が、接合容器56、57に位置づけられる。ステップ187では、接合容器56、57の中において、複数の引出線43、44が、対応する電極51、52に接合される。ステップ188では、接合容器56、57が樹脂封止される。樹脂封止は、接合容器56、57の中に接合部分を埋設するように封止用樹脂を付与することによって実行される。こうして、回転電機10のステータが製造される。ステップ189では、ロータ21とステータ31とを組み合わせることによって、回転電機10が製造される。
【0075】
以上に述べた実施形態によると、異物が溜まりにくい回転電機、ステータ、およびその製造方法が提供される。異物の典型例は、電解液である。この実施形態によると、電解液が溜まりにくい。この結果、ステータ31の構成部品の電蝕が抑制される。
【0076】
引出線43、44は、複数の単コイル41など構成部品の形状に起因して許容される最小経路よりも長く配置されている。このため、引出線43、44と構成部品との間に隙間が生成される。この結果、液体の異物が引出線43、44に付着しても、液膜となって長期間にわたって溜まる事態が抑制される。
【0077】
渡り線42は、径方向案内板67、68、69に接着樹脂71によって接着されている。渡り線42に付着した液体の異物は、径方向案内板67、68、69と接着樹脂71とを伝い、流れ去りやすい。異物が溜まりにくい径方向案内板67、68、69の形状と、接着樹脂71による保護とに起因して、渡り線42の腐蝕が抑制される。
【0078】
インシュレータ36は、第1端面SD1において径方向内側においてステータコア32の端面を板状に覆っている。このため、ステータコア32と、他の構成部品、例えば渡り線42、との間における電気絶縁部材の沿面距離を長くすることができる。また、構成部品とボディ13との間における電気絶縁部材の沿面距離を長くすることができる。この結果、ステータ31の構成部品の電蝕が抑制される。
【0079】
インシュレータ36は、ホルダ61の圧入部63に沿って軸方向に延びだす筒状カバー64を有している。筒状カバー64は、ホルダ61と、他の構成部品、例えば渡り線42、との間における電気絶縁部材の沿面距離を長くする。この結果、ステータ31の構成部品の電蝕が抑制される。
【0080】
インシュレータ36は、ホルダ61の腕部62に沿って延びる庇部65を有している。庇部65は、ホルダ61と、他の構成部品、例えば渡り線42、との直接的な接触を抑制する。また、庇部65は、ホルダ61と、他の構成部品との間における電気絶縁部材の沿面距離を長くする。この結果、ステータ31の構成部品の電蝕が抑制される。
【0081】
第2実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。上記実施形態では、引出線43、44は、部分的に第3部分44cにおいて隣接する単コイル41に接触する場合がある。これに代えて、第3部分44cと第4部分44dとは、単コイル41に全く接触しないように管理されてもよい。
【0082】
図17および
図18において、この実施形態による引出線44が図示されている。なお、
図17および
図18では、接合容器57において封止樹脂を充填する前の状態が図示されている。
【0083】
すべての引出線44は、第1部分44aおよび第2部分44bにおいて、単コイル41に部分的に接触している。しかし、すべての引出線44は、第3部分44cおよび第4部分44dにおいて、単コイル41に全く接触することなく、配置されている。第3部分44cは、単コイル41に最も接近する部分においても、非接触部としての最小隙間244gを規定している。最小隙間244gは、第3部分44cと、第3部分44cにおける曲がりの外側に位置する単コイル41との間に区画されている。このような第3部分44cおよび第4部分44dは、接合容器57における接続作業において、第3部分44cおよび第4部分44dの比較的自由な移動を許容する。また、第3部分44cおよび第4部分44dは、液膜の形成を抑制する。
【0084】
他の実施形態
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0085】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【0086】
上記実施形態では、ステータコイル33は、多相巻線を提供している。これに代えて、ステータコイル33は、単相巻線を提供してもよい。この場合も、ステータコイル33は、その両端に引出線を備える。
【0087】
上記実施形態では、ステータコイル33は、ひとつの相巻線において、直列接続された複数の単コイル41を備える。これに代えて、ステータコイル33は、ひとつの相巻線において、並列接続された複数の単コイル41を備えていてもよい。また、ステータコイル33は、ひとつの相巻線において、直列接続または並列接続された複数の単コイル41を含む複数の群を備えていてもよい。それら複数の群は、互いに並列接続または直列接続されてもよい。上記実施形態では、ひとつの磁極35に巻かれた一連の素線によってひとつの単コイル41が形成されている。これに代えて、ひとつの磁極35に巻かれた複数の素線によってひとつの単コイル41が形成されてもよい。