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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】吸収性物品用シート及び吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/511 20060101AFI20220728BHJP
   A61F 13/512 20060101ALI20220728BHJP
   A61F 13/514 20060101ALI20220728BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20220728BHJP
   D04H 1/495 20120101ALI20220728BHJP
【FI】
A61F13/511 300
A61F13/512 300
A61F13/514 200
D04H1/425
D04H1/495
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019527027
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2018024642
(87)【国際公開番号】W WO2019004369
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017129525
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】牧原 弘子
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-137279(JP,A)
【文献】特開2017-113040(JP,A)
【文献】特開2015-180789(JP,A)
【文献】特開平10-280260(JP,A)
【文献】特開平11-93055(JP,A)
【文献】特開2010-106430(JP,A)
【文献】特開平3-137258(JP,A)
【文献】国際公開第2016/108285(WO,A1)
【文献】特開2004-100085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/511
A61F 13/512
A61F 13/514
D04H 1/425
D04H 1/495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維を90質量%よりも多い量で含み、繊維同士が交絡してなる不織布を含む吸収性物品用シートであって、
前記不織布が、複数の互いに離間した第1交絡部と、複数の互いに離間した第2交絡部とを有し、
前記第1交絡部はそれぞれ、複数の繊維密度の高い領域(以下、「高密度領域」)と複数の繊維密度の低い領域(以下、「低密度領域」)とで形成された規則的な模様を有し、前記規則的な模様は、千鳥状または格子状に配置された略同一の低密度領域を有し、
前記第1交絡部はそれぞれ、不織布の縦方向または横方向に沿って延び、
前記第2交絡部はそれぞれ、不織布の縦方向または横方向に沿って延び、
前記第1交絡部と前記第2交絡部は交互に配置されており、
前記第1交絡部を合わせた面積が不織布全体の20%以上を占めており、
前記不織布の目付が30g/m2よりも大きく、
以下の試験による毛羽抜け量が1.0mg以下である、
吸収性物品用シート。
(毛羽抜け量測定試験)
a)ウレタンフォーム(ブリヂストン(株)製、商品名モルトプレンMF30、厚さ5mm)で表面を覆った円盤(直径70mm、350g)を、回転軸が円盤中心から20mmずれた位置となるように回転軸に取り付ける。
b)不織布の下面に、上記と同じウレタンフォームを敷き、不織布の上面が露出面となるように、不織布を台上に固定する。
c)不織布の上に前記円盤を載せる。このとき、不織布に加わる荷重は円盤の自重のみとする。
d)回転軸を回転させて、円盤を不織布上で周動させる。周動は時計周りに2回転、反時計周りに2回転を1セットとして、4セット行う。このときの周動速度は1周動あたり約3秒である。
e)4セットの周動後、不織布から抜け落ちて、円盤を覆っているウレタンフォームの表面に付着した繊維を集める。
f)前記a)~e)の操作をn=30枚の不織布について行う。30枚の不織布それぞれについて、抜け落ちた繊維の質量を測定し、その平均値を毛羽抜け量とする。
【請求項2】
繊維同士が接着されていない、請求項1に記載の吸収性物品用シート。
【請求項3】
前記セルロース系繊維がコットンである、請求項1または2に記載の吸収性物品用シート。
【請求項4】
前記セルロース系繊維が、撥水性を有するコットンである、請求項1または2に記載の吸収性物品用シート。
【請求項5】
前記セルロース系繊維のみからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の吸収性物品用シート。
【請求項6】
前記略同一の低密度領域が開孔部である、請求項1~5のいずれか1項に記載の吸収性物品用シート。
【請求項7】
前記低密度領域は一つあたり、0.1mm~10mmの面積を有している、請求項1~6のいずれか1項に記載の吸収性物品用シート。
【請求項8】
前記第1交絡部の幅が、5mm~50mmであり、前記第2交絡部の幅が、5mm~50mmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の吸収性物品用シート。
【請求項9】
前記吸収性物品用シートは表面シートまたはバックシートである、請求項1~8のいずれか1項に記載の吸収性物品用シート。
【請求項10】
表面シートと、液不透過性シートと、前記表面シートと前記液不透過性シートとの間に配置される吸収体とを有する吸収性物品であって、前記表面シートが請求項1~8のいずれか1項に記載の吸収性物品用シートである、吸収性物品。
【請求項11】
表面シートと、液不透過性シートと、前記表面シートと前記液不透過性シートとの間に配置される吸収体と、前記液不透過性シートの前記吸収体側の表面とは反対側の表面と対向して配置されるバックシートとを有する吸収性物品であって、前記表面シートまたは前記バックシートが、請求項1~8のいずれか1項に記載の吸収性物品用シートである、吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸収性物品用シートおよび吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキン、使い捨ておむつ、および失禁パッド等の吸収性物品を構成するシート、すなわち吸収性物品用シートとして、種々の構成の不織布が提案されている。例えば、特許文献1には、吸収性物品の表面シートを、非熱融着性の親水繊維を50質量%以上含む不織布であって、縦方向に延びる筋状の凸条部及び凹条部が幅方向に交互に配された凹凸構造に形成され、凸条部の頂部域と凹条部の底部域との間の中間部域は、その密度が、頂部域の密度及び底部域の密度よりも低くなっている不織布で形成することが記載されている。同文献には、表面シートとして、非熱融着性の親水繊維であるコットン繊維100%の不織布を使用した実施例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-112155号公報(請求項1、段落0070)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸収性物品の表面シート等、使用者の皮膚と接触するシート、または吸収性物品のバックシート等、使用者の衣類と接触するシートについては、毛羽立ちが問題とされることがある。毛羽立ちは、製品が不衛生であるという感覚を使用者に与えやすい。また、毛羽が絡まって毛玉状になる、あるいは毛羽が抜け落ちると、肌触りが低下することがあり、または衣類への繊維の付着が目立つことがある。毛羽立ちは、繊維同士の交絡または接着が不十分な場合に生じやすい。
【0005】
本開示は、毛羽立ちおよび毛羽抜けが生じにくく、かつ意匠性に優れた吸収性物品用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
セルロース系繊維を90質量%よりも多い量で含み、繊維同士が交絡してなる不織布を含む吸収性物品用シートであって、
前記不織布が、複数の互いに離間した第1交絡部と、複数の互いに離間した第2交絡部とを有し、
前記第1交絡部はそれぞれ、複数の繊維密度の高い領域(以下、「高密度領域」)と複数の繊維密度の低い領域(以下、「低密度領域」)とで形成された規則的な模様を有し、前記規則的な模様は、千鳥状または格子状に配置された略同一の低密度領域を有し、
前記第1交絡部はそれぞれ、不織布の縦方向または横方向に沿って延び、
前記第2交絡部はそれぞれ、不織布の縦方向または横方向に沿って延び、
前記第1交絡部と前記第2交絡部は交互に配置されており、
前記第1交絡部を合わせた面積が不織布全体の20%以上を占めており、
前記不織布の目付が30g/m2よりも大きく、
以下の試験による毛羽抜け量が1.0mg以下である、
吸収性物品用シートを提供する。
(毛羽抜け量測定試験)
a)ウレタンフォーム(ブリヂストン(株)製、商品名モルトプレンMF30、厚さ5mm)で表面を覆った円盤(直径70mm、350g)を、回転軸が円盤中心から20mmずれた位置となるように回転軸に取り付ける。
b)不織布の下面に、上記と同じウレタンフォームを敷き、不織布の上面が露出面となるように、不織布を台上に固定する。
c)不織布の上に前記円盤を載せる。このとき、不織布に加わる荷重は円盤の自重のみとする。
d)回転軸を回転させて、円盤を不織布上で周動させる。周動は時計周りに2回転、反時計周りに2回転を1セットとして、4セット行う。このときの周動速度は1周動あたり約3秒である。
e)4セットの周動後、不織布から抜け落ちて、円盤を覆っているウレタンフォームの表面に付着した繊維を集める。
f)前記a)~e)の操作をn=30枚の不織布について行う。30枚の不織布それぞれについて、抜け落ちた繊維の質量を測定し、その平均値を毛羽抜け量とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、毛羽立ちが少なく、かつ意匠性に優れた吸収性物品用シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(A)~(B)はそれぞれ、略同一の低密度領域が千鳥状または格子状に配置された、本実施形態の一例の不織布を模式的に示す平面図であり、(C)は二種類の略同一の低密度領域がそれぞれ千鳥状に配置された、本実施形態の一例の不織布を模式的に示す平面図である。
図2】千鳥状に配置された略同一の低密度領域のピッチおよび間隔を説明する平面図である。
図3】本実施形態の不織布の一例における、蛇行している第1交絡部を示す平面図である。
図4】本実施形態の不織布の一例における、蛇行し、かつその幅が一定でない第1交絡部を示す平面図である。
図5】比較例3で得た不織布の表面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本実施形態に至った経緯)
生理用ナプキンや紙おむつの表面シートのように、吸収性物品用シート(以下、単に「シート」とも呼ぶ)が皮膚等と直接接触する部材として用いられる場合、セルロース系繊維を多く含む不織布によりシートを構成することがある。セルロース系繊維は、例えば、コットンのような天然セルロース系繊維、およびビスコースレーヨンのような再生繊維である。これらの繊維は、皮膚およびデリケートゾーンに優しく、刺激を与えにくいとされている。また、セルロース系繊維は、特に天然繊維である場合には、独特の触感および風合いをシートに与える。よって、セルロース系繊維を使用したシートが組み込まれた吸収性物品は、セルロース系繊維が用いられていることを、製品の有利な特徴として積極的に表示して販売することができる。
【0010】
また、表面シートのように皮膚等と直接接触するシートは、高圧流体流で繊維同士を交絡させる方法(「スパンレース法」ともいう)で作製した不織布を用いてしばしば構成される。スパンレース法によれば、比較的柔軟な不織布を得ることができる。一方、スパンレース法で作製した不織布は、繊維のフィブリル化および/または繊維端部の突出により、毛羽立ちが生じたり、毛羽抜け(毛羽が不織布から脱落すること)が生じやすいという問題を有する。特に、コットンのような天然繊維はその繊維長が一定でなく、繊維長の短い繊維の端部が突出して毛羽立ちおよび毛羽抜けが生じやすい。スパンレース法で作製した不織布の毛羽立ちおよび毛羽抜けを抑制する手法としては、繊維同士を接着させる方法、または繊維同士の交絡を強固にする方法が挙げられる。
【0011】
セルロース系繊維は、一般に接着性を有しない。そこで、セルロース系繊維を用いた不織布の毛羽立ちおよび毛羽抜けを接着により抑制するには、熱接着性繊維を混合して、熱処理により熱接着性繊維を溶融または軟化させて接着点を形成するか、あるいはバインダーで接着点を形成することが必要となる。しかし、熱接着性繊維やバインダーで形成した接着点は不織布の触感を硬くし、セルロース系繊維の独特な触感を損なう。また、セルロース系繊維が天然繊維である場合、その訴求ポイントは「天然」ということにあり、毛羽立ちおよび毛羽抜けの抑制のために、熱接着性繊維またはバインダーの使用量が多くなると、この訴求ポイントが弱められてしまう。
【0012】
繊維同士の交絡の度合いを高めることによって毛羽立ちおよび毛羽抜けを抑制する場合には、接着の必要がないので、接着に起因する上記の不都合は生じない。しかし、高圧流体流のエネルギーを大きくすると、繊維密度の差に起因するムラが生じて、不織布の地合が悪くなる。表面シートのように使用者の目に見えるシートを構成する不織布の地合が悪いと、吸収性物品の品質が低い印象を与えてしまう。高圧流体流のエネルギーを高めることによる地合の低下は、不織布の目付が小さいほど顕著となる。
【0013】
本発明者らは、好ましくはセルロース系繊維のみから成る不織布を含むシートであって、目付をある程度小さくしても良好な地合を有し、かつ毛羽立ちおよび毛羽抜けが生じにくいシートの構成を検討した。その結果、本発明者らは、不織布において、繊維密度の高い部分と繊維密度の低い部分とで形成された規則的な模様を有する交絡部と、繊維密度が比較的均一である交絡部とを、ストライプ模様が形成されるように配置した構成によれば、毛羽立ちおよび毛羽抜けが抑制されることを見出した。そのような構成により毛羽立ちおよび毛羽抜けが抑制されるのは、規則的な模様を形成する際に当該交絡部において繊維同士がしっかりと交絡したことによると考えられる。
【0014】
本発明者らは、規則的な模様を有する交絡部が不織布に占める割合を所定の範囲とするとともに、目付を所定の値よりも大きくすることによって、毛羽立ちおよび毛羽抜けがより抑制されることも見出した。また、本発明者らは、特定の規則的な模様を有する不織布が、向上した吸水性を有することを見出した。さらにまた、本発明者らは、そのような構成の不織布が、優れた意匠効果を発揮することも見出した。
以下、本実施形態の吸収性物品用シートおよびこれを用いた吸収性物品を説明する。
【0015】
本実施形態の吸収性物品用シートは、
セルロース系繊維を90質量%よりも多い量で含み、繊維同士が交絡してなる不織布を含む吸収性物品用シートであって、
前記不織布が、複数の互いに離間した第1交絡部と、複数の互いに離間した第2交絡部とを有し、
前記第1交絡部はそれぞれ、複数の繊維密度の高い領域(以下、「高密度領域」)と複数の繊維密度の低い領域(以下、「低密度領域」)とで形成された規則的な模様を有し、前記規則的な模様は、千鳥状または格子状に配置された略同一の低密度領域を有し、
前記第1交絡部はそれぞれ、不織布の縦方向または横方向に沿って延び、
前記第2交絡部はそれぞれ、不織布の縦方向または横方向に沿って延び、
前記第1交絡部と前記第2交絡部は交互に配置されており、
前記第1交絡部を合わせた面積が不織布全体の20%以上を占めており、
前記不織布の目付が30g/m2よりも大きく、
以下の試験による毛羽量が1.0mg以下である、
吸収性物品用シートである。
(毛羽抜け量測定試験)
a)ウレタンフォーム(ブリヂストン(株)製、商品名モルトプレンMF30、厚さ5mm)で表面を覆った円盤(直径70mm、350g)を、回転軸が円盤中心から20mmずれた位置となるように回転軸に取り付ける。
b)不織布の下面に、上記と同じウレタンフォームを敷き、不織布の上面が露出面となるように、不織布を台上に固定する。
c)不織布の上に前記円盤を載せる。このとき、不織布に加わる荷重は円盤の自重のみとする。
d)回転軸を回転させて、円盤を不織布上で周動させる。周動は時計周りに2回転、反時計周りに2回転を1セットとして、4セット行う。このときの周動速度は1周動あたり約3秒である。
e)4セットの周動後、不織布から抜け落ちて、円盤を覆っているウレタンフォームの表面に付着した繊維を集める。
f)前記a)~e)の操作をn=30枚の不織布について行う。30枚の不織布それぞれについて、抜け落ちた繊維の質量を測定し、その平均値を毛羽抜け量とする。
【0016】
(セルロース系繊維)
本実施形態の吸収性物品用シートに含まれる不織布(以下、単に「不織布」とも呼ぶ)に含まれるセルロース系繊維を説明する。
本実施形態で用いられるセルロース系繊維としては、
-綿(コットン)、リネン、ラミー、ジュート、およびヘンプ等の植物に由来する天然繊維
-ビスコース法で得られる、レーヨンおよびポリノジック;銅アンモニア法で得られる、キュプラ;ならびに溶剤紡糸法で得られるセルロース繊維(レンツィング社のリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標)等)等の再生繊維
-溶融紡糸法で得られるセルロース繊維
-アセテート繊維等の半合成繊維
が挙げられる。本実施形態では、セルロース系繊維は特に限定されず、これらの繊維から1または複数のものを任意に選択してよい。
【0017】
本実施形態では、特に、コットンが用いられる。コットンは天然繊維であって、皮膚への刺激が少ないことから、皮膚と接触するシートを構成するのに適している。コットンは撥水性を有するものであってよい。撥水性を有するコットンは、例えば、綿蝋が付着したものであってよく、あるいは精練漂白によって綿蝋を除去したコットンに撥水剤を付着させたものであってよい。
【0018】
綿蝋はコットンに付着している天然の蝋である。精練漂白処理の条件を適宜選択することにより、所望の量の綿蝋をコットンに残すことができ、所望の撥水性を得ることができる。綿蝋を除去したコットンに撥水剤を付着させる方法としては、例えば、スパンレース法で作製した不織布の一方の表面に、市販の撥水剤を塗布し、その後、乾燥させる方法がある。塗布は任意の方法で実施してよく、例えば、グラビアコーター、リバースロールコーター、キスコーター等を用いて実施してよい。
【0019】
撥水性を有するコットンは、水を吸収しにくいため、水に投入したときに、比較的長い時間にわたって水の表面に浮く性質を有する。本実施形態では、撥水性を有するコットンとして、水中に投入したときに30秒以上沈まないような撥水性を有するものが好ましく用いられる。
【0020】
撥水性を有するコットンを使用すると、得られる不織布の液戻り量をより小さくすることができる。また、一般に、撥水性の繊維を使用すると、不織布の吸液速度が低下する傾向にあるが、撥水性の繊維を使用した本実施形態の不織布の吸液速度は、撥水性でない繊維を使用した本実施形態の不織布のそれと同程度またはそれよりも高くすることができる。これは、本実施形態の不織布が、繊維密度の低い領域を有していることによると考えられる。さらに、撥水性を有するコットンが、綿蝋の付着したコットンである場合は、綿蝋によって良好な触感が不織布に付与される。
【0021】
セルロース系繊維の繊度は特に限定されず、例えば、0.6dtex~5.6dtex、特に1.4dtex~4.4dtex、より特には1.7dtex~3.3dtexであってよい。繊度が小さすぎると、不織布が柔らかくなりすぎて取扱い性が低下することがあり、大きすぎると、不織布の触感が低下することがある。なお、天然繊維の繊度は、JIS L 1019 7.4.1 マイクロネヤによる方法に準じ、算出できる(以下においても同じ)。
【0022】
セルロース系繊維の繊維長は特に限定されず、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。カードウェブを作製して不織布を製造する場合、セルロース系繊維の繊維長は例えば25mm~100mmとしてよく、特に30mm~70mmとしてよい。繊維長はすべて同じである必要はない。例えば、コットンのような植物由来の天然繊維は、一般には、繊維長が一定でない形態で供給されるが、そのような形態のものを本実施形態で使用してよい。
【0023】
(他の繊維)
不織布には、セルロース系繊維以外の他の繊維が含まれていてよい。他の繊維は、例えば、セルロース系繊維でない天然繊維(例えば羊毛、シルク等)、および熱可塑性合成樹脂からなる合成繊維から選ばれる一または複数の繊維であってよい。他の繊維が合成繊維である場合、熱可塑性樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体を含む)、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66のようなポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、ならびにそれらのエラストマーから任意に選択される。
【0024】
合成繊維は、上記から選択される一または複数の熱可塑性樹脂から成る単一繊維であってよく、あるいは二以上の成分(「セクション」ともいえる)からなる複合繊維であってよい。複合繊維において、各成分は、一つの熱可塑性樹脂からなっていてよく、あるいは二以上の熱可塑性樹脂が混合されたものであってよい。複合繊維は、例えば、芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、分割型複合繊維、またはサイドバイサイド型複合繊維であってよい。芯鞘型複合繊維は、繊維断面において芯成分の中心と鞘成分の中心が一致しない偏心芯鞘型複合繊維であってよく、繊維断面において芯成分の中心と鞘成分の中心が一致する同心芯鞘型複合繊維であってよい。
【0025】
他の繊維の繊度は特に限定されず、例えば、1.4dtex~7.8dtex、特に2.2dtex~6.7dtex、より特には3.3dtex~5.6dtexであってよい。繊度が小さすぎると、不織布が柔らかくなりすぎて取扱い性が低下することがあり、大きすぎると、不織布の触感が低下することがある。
【0026】
他の繊維の繊維長は特に限定されず、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。カードウェブを作製して不織布を製造する場合、他の繊維の繊維長は例えば25mm~100mmとしてよく、特に30mm~70mmとしてよい。繊維長はすべて同じである必要はない。
【0027】
(不織布の構成)
続いて、本実施形態の吸収性物品用シートに含まれる不織布の構成を説明する。
[繊維の割合等]
不織布は、セルロース系繊維を90質量%よりも多い量で含む。セルロース系繊維は、不織布に独特の触感および風合いを与え、また、不織布を低刺激性のものとするために用いられる。セルロース系繊維の割合が90質量%以下であると、不織布においてセルロース系繊維の触感および風合いが十分に得られないことがあり、また、他の繊維の割合が大きくなって皮膚に対する刺激が大きくなることがある。セルロース系繊維は、特に95質量%以上、より特には100質量%含まれてよい。不織布がセルロース系繊維のみからなる場合には、セルロース系繊維を使用することによる効果を最大限に得ることができる。
【0028】
不織布がセルロース系繊維以外の他の繊維を含む場合、他の繊維は10質量%以下の割合で含まれる。他の繊維の割合が10質量%を超えると、セルロース系繊維を含むことによる効果が十分に得られないことがある。他の繊維は、特に5質量%以下の割合で含まれてよい。
【0029】
不織布が他の繊維として合成繊維を含む場合、不織布において繊維同士は当該他の繊維によって接着されていてもよい。繊維同士が接着されると不織布の毛羽立ちを抑制することができる。但し、接着により不織布の触感が硬くなることがあり、また、接着部が皮膚に刺激を与えることがあるので、不織布を表面シートのように触感が重視される部材として用いる場合には、繊維同士を接着させないことが好ましい。
【0030】
綿蝋が付着したコットンを使用する場合には、後述する高圧流体(特に、高圧水)を用いた方法製造方法で不織布を製造する場合に、繊維が十分に交絡しないことがある。その場合、繊維の交絡性を向上させるため、綿蝋を除去したコットンを混合してよい。綿蝋を除去したコットンは、これと綿蝋が付着したコットンとを合わせた質量を100%としたときに、70%以下の割合で不織布に含まれてよい。
【0031】
[第1交絡部および第2交絡部]
不織布は、複数の互いに離間した第1交絡部と、複数の互いに離間した第2交絡部とを有する。
第1交絡部は繊維同士が交絡してなる部分であり、不織布の縦方向または横方向に沿って延びている。ここで、不織布の縦方向または横方向に沿って延びるとは、第1交絡部の長さ方向が、不織布の縦方向(「MD方向」ともいう)または横方向(「CD方向」ともいう)と平行であることをいう。したがって、複数の第1交絡部が、例えば縦方向に沿って延びる場合、それらは横方向に沿って並ぶこととなり、例えば横方向に沿って延びる場合、それらは縦方向に沿って並ぶこととなる。
【0032】
後述するように、第1交絡部は蛇行していてよい。その場合、第1交絡部が、不織布の縦方向と平行な二つの直線の間で蛇行している場合、第1交絡部は不織布の縦方向に沿って延びているものとする。この場合、第1交絡部の長さ方向は便宜的に縦方向とする。同様に、第1交絡部が、不織布の横方向と平行な二つ直線の間で蛇行している場合、第1交絡部は不織布の横方向に沿って延びているものとする。この場合、第1交絡部の長さ方向は便宜的に横方向とする。
【0033】
第1交絡部は、低密度領域と高密度領域とを有する。第1交絡部において、低密度領域は規則的な模様を形成している。ここで、規則的な模様とは、高密度領域または低密度領域がある一定の規則に従って配置されることにより形成される模様をいう。規則的な模様は、不織布の意匠性を向上させることができる。規則的な模様は、後述するとおり、凸部、凹部および開口部から選択される少なくとも一つが規則的に配置された支持体上にウェブを配置し、高圧流体を当てることによって形成できる。
【0034】
低密度領域は、高密度領域と厚さが変わらない部分であってもよく(すなわち、低密度領域と高密度領域は凹凸を形成していなくてもよく)、あるいは凹部であってもよく、あるいはまた開孔部であってもよい。低密度領域は、後述するとおり、例えば、高圧流体(圧縮空気等の高圧気体、高圧水等の高圧液体)による交絡処理を比較的太いモノフィラメントからなる織物上にウェブを配置して実施し、織物の交点上に位置する繊維ウェブを高圧流体の作用によって周囲に繊維を移動させて再配列させる(以下、単に「移動」ともいう)ことにより形成される。そのような方法で低密度領域を形成する場合、低密度領域の一つあたりの面積は、織物を構成する糸の太さにより主に決定される。あるいは、低密度領域は、凸部、凹部および開口部から選択される少なくとも一つを有する成形体またはスパイラルネットにより形成されたものであってよい。
【0035】
低密度領域は一つあたり、例えば、0.03mm~20mmの面積を有してよく、特に、0.1mm~10mmの面積を有してよく、より特には、0.7mm~5.0mmの面積を有してよい。低密度領域が小さすぎると、低密度領域が十分に認識されず、意匠効果が十分に発揮されないことがある。低密度領域が大きすぎると、不織布において伸び、ヨレ、破れ等の変形または破損が生じやすくなって、取扱い性が低下する。また、低密度領域が大きすぎると、かえって低密度領域として認識されにくくなることがあり、やはり意匠効果が十分に発揮されないことがある。
【0036】
低密度領域は、少なくとも高密度領域よりも繊維密度の小さい領域であり、例えば、0g/cm~0.080g/cmの繊維密度を有してよく、特に、0g/cm~0.070g/cmの繊維密度を有してよく、より特には、0g/cm~0.05g/cmの繊維密度を有してよい。繊維密度がゼロであるということは、当該低密度領域は開孔部であることを意味する。低密度領域の繊維密度が大きく、高密度領域のそれとの差が小さい場合には、模様が認識されにくくなり、十分な意匠効果が発揮されないことがある。
【0037】
一つの第1交絡部内において、あるいは一つの不織布内において、各低密度領域の繊維密度、形状および面積は必ずしも同じである必要はない。例えば、一つの第1交絡部内において、ある低密度領域が開孔部であり、別の低密度領域が開孔部ではない領域であってもよい。
【0038】
本実施形態おいて、規則的な模様は、千鳥状または格子状に配置された略同一の低密度領域(以下、「低密度領域A」とも呼ぶ)を有する。ここで、「略同一の低密度領域」とは、形状および面積が略同じであるものをいう。あるいは、「略同一の低密度領域」は、高圧流体で模様を形成する際に用いる支持体に規則的に形成された同じ形状および面積の凸部、凹部または開口部に由来するものを意味する。本実施形態において、面積が例えば30%程度、特に20%程度、互いに異なっている低密度領域は、低密度領域Aであるとみなす。また、低密度領域Aは形状および面積が略同じである場合に、一つの低密度領域Aが開孔部であり、別の低密度領域Aが凹部であってもよい。
【0039】
低密度領域Aが千鳥状および格子状に配置された例を模式的に示す平面図をそれぞれ、図1(A)および図1(B)に示す。図1(A)および図1(B)において、低密度領域Aは符号10で示され、楕円形状を有する。低密度領域Aの形状はこれに限定されず、円形、多角形(例えば、三角形、長方形、正方形、菱形)、または星形等であってよい。本実施形態において、低密度領域Aは、二以上形成されていてよい。例えば、図1(C)に示すように、規則的な模様は、千鳥状に配置された楕円形の低密度領域A10と、千鳥状に配置された円形の低密度領域A20とを有していてよい。
【0040】
本実施形態において、ある形状および寸法の低密度領域と、それと略同一であり、かつそれに隣り合うすべての低密度領域とは、千鳥状配列または格子状配列のいずれか一方の関係を有する。したがって、ある低密度領域aに隣り合う一つの低密度領域b(低密度領域aと略同一である)が低密度領域aに対して格子状配列の関係にあり、別の隣り合う低密度領域c(低密度領域aと略同一である)が低密度領域aと千鳥状配列の関係にあるものは、本実施形態において、千鳥状または格子状に配置された略同一の低密度領域が形成されているとはみなさない。
【0041】
千鳥状または格子状に配置された低密度領域Aが形成されている限りにおいて、規則的な模様は他の低密度領域を有してよい。例えば、隣り合う低密度領域Aと低密度領域Aとの間に、異なる寸法および/または形状の低密度領域が形成されていてもよい。
【0042】
低密度領域A間のピッチは特に限定されず、例えば、少なくとも一つの方向において、0.1mm~50mmであってよく、特に、0.5mm~30mmであってよく、より特には1mm~10mmであってよい。ここで、ピッチとは、一つの第1交絡部内において、隣り合う低密度領域Aの重心間の距離に相当する。また、低密度領域A間の間隔は、例えば、少なくとも一つの方向において、0.1mm~50mmであってよく、特に、0.5mm~30mmであってよく、より特には1.0mm~10mmであってよい。ここで、間隔とは、一つの第1交絡部内において、一つの低密度領域Aの外周(輪郭)上の任意の一点と、当該低密度領域Aに隣り合う別の低密度領域Aの外周(輪郭)上の任意の一点とを結ぶ線分のうち、最も短い線分を指す。
【0043】
一つの第1交絡部または一つの不織布の中で、低密度領域A間のピッチ及び間隔は一定でなくてもよい。例えば、図2に示すように、低密度領域A10が千鳥状に配置されている場合には、そのピッチ(図中、a1、a2)および間隔(図中、b1、b2)は、方向によって異なる値となるが、本実施形態においては、少なくとも最も短いピッチおよび最も短い間隔がそれぞれ上記範囲内にあることが好ましく、すべての方向のピッチおよび間隔が、上記範囲内にあることがより好ましい。
【0044】
本実施形態において、低密度領域Aは、その面積の合計(すなわち、不織布内の低密度領域Aをすべて合わせた面積)が不織布全体の面積の例えば7.0%~25%、特に7.5%~20%、より特には8.0%~15%を占めるように形成してよい。低密度領域Aの占める割合(面積率)がこの範囲内にあると、低密度領域が千鳥状または格子状に配置されることと相俟って、不織布の吸液速度を高くすることができる。
【0045】
高密度領域は、低密度領域間または低密度領域の周囲に形成される。高密度領域は、上記のとおり、繊維を高圧流体の作用により移動させて低密度領域を形成するときに、移動した繊維が密に集合している領域である。
【0046】
高密度領域は、低密度領域よりも高い繊維密度を有し、例えば、0.01g/cm~0.30g/cmの繊維密度を有してよく、特に、0.03g/cm~0.20g/cmの繊維密度を有してよく、より特には、0.05g/cm~0.15g/cmの繊維密度を有してよい。また、高密度領域は、例えば、0.05mm~5.0mm、特に、0.10mm~3.0mm、より特には0.2mm~2.0mmの厚さを有してよい。ここで、繊維密度は、不織布の荷重を加えない状態で測定される厚さと、不織布の目付とから求められるものである。不織布に荷重を加えない状態の厚さは、例えば、電子顕微鏡写真を観察して求めることができる。
【0047】
各々の第1交絡部の幅は、例えば、3mm~200mmであってよく、特に3mm~50mmであってよく、より特には5mm~50mmであってよく、さらにより特には5~30mmであってよく、あるいは5mm~15mmであってよい。第1交絡部の幅は、第1交絡部が延びる方向と直交する方向の寸法をいう。一つの第1交絡部において、その幅は一定であってよく、あるいは一定でなくてもよい。
【0048】
不織布においては、異なる幅の第1交絡部が存在していてよい。例えば、細幅(例えば2mm~5mm)の第1交絡部と、太幅(例えば、6mm~15mm)の第1交絡部が、交互に並んでいてよい。あるいは、細幅(例えば2mm~3mm)の第1交絡部と、中幅(例えば4~5mm)の第1交絡部と、太幅(例えば6~15mm)の第1交絡部とが、細/中/太または細/太/中の順に並んでいてよい。
【0049】
不織布において、第1交絡部を合わせた面積は不織布全体の20%以上を占め、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、最も好ましくは40%以上を占める。第1交絡部においては繊維同士が比較的しっかりと交絡しているので、第1交絡部は不織布の毛羽立ち抑制および毛羽抜け抑制を担う部分となる。したがって、第1交絡部が不織布に占める割合が小さいと、毛羽立ちおよび毛羽抜けが生じやすくなる。第1交絡部を合わせた面積の上限は、例えば、65%であり、特に60%であり、より特に55%であり、さらにより特には53%である。第1交絡部を合わせた面積の割合が大きすぎると、不織布を吸収性物品の表面シートとして用いた場合に液戻り量が多くなることがあり、あるいは不織布の強度が低下することがある。
【0050】
不織布において、第1交絡部は直線状であってよく、または蛇行していてよい。
第1交絡部が蛇行している場合、1周期当たりの蛇行の長さ(すなわち波長)は5mm以上であってよい。1周期当たりの蛇行の長さは、次のようにして求める。
i)図3に示すように、第1交絡部42の長さ方向31と直交する直線と平行な方向を直交方向とし、「+」の側に延びる方向を正の直交方向32aとし、「-」の側に延びる方向を負の直交方向32bとする。
ii)負の直交方向32bに向かって進んでいた第1交絡部42の蛇行の進行(第1交絡部42は幅を有するので、幅方向の一方の端部(図では左側端部)の進行に着目する)が、正の直交方向32aに変わる箇所eで、長さ方向31と直交する直線33を引く。
iii)前記eの箇所から、正の直交方向32aに向かって進んでいた第1交絡部42の蛇行が、負の直交方向32bに進行した後、さらに正の直交方向32aに変わる箇所fで、長さ方向31と直交する直線34を引く。
iv)直線33と直線34の距離lを、1周期あたりの蛇行の長さとする。
第1交絡部42の蛇行の進行が負の直交方向32bから正の直交方向32aに変わる箇所において、第1交絡部42が長さ方向31で直進する場合(例えば矩形波のような蛇行である場合)は、その直進部分の中点で長さ方向31と直交する直線33、34を引く。なお、図3において、符号41は、第1交絡部42間に形成された第2交絡部を示す。
【0051】
本実施形態において、波長の上限値は200mmであってよい。波長は、特に10mm~150mmであり、より特には30mm~100mmである。これにより、不織布を吸収性物品の表面シートとして用いた場合には、蛇行模様が明確に視認できる共に、第1交絡部の面積割合を最適なものとすることができる。
【0052】
第1交絡部の蛇行は、1mm以上の振幅を有することが好ましい。振幅は、次のようにして求める。
i)図3に示すように、上述した直線33上にあり、第1交絡部42の幅を等分する点をgとする。
ii)正の直交方向32aに向かって進んでいた第1交絡部42の蛇行の進行が、負の直交方向32bに変わる箇所iで、長さ方向31と直交する直線35を引き、当該直線35上にあり、第1交絡部42の幅を等分する点をhとする。
iii)点gを含み、長さ方向31と平行である直線36と、点iを含み、長さ方向と平行である直線37との間の距離jを、振幅とする。
振幅の上限値は200mmであってよい。振幅は、特に2mm~150mmであり、より特には5mm~100mmであり、さらにより特には10mm~50mmである。
【0053】
第1交絡部の蛇行は、1周期当たりの長さが周期ごとに各々異なっていてもよく、減衰波のように各々の振幅が異なっていてもよく、これらの蛇行が規則的に繰り返されていてもよい。好ましい蛇行の構成は、1周期当たりの蛇行の長さが同じであり、振幅が各々同じである構成、すなわち同一パターンの繰り返しである。
【0054】
蛇行の1周期当たりの長さ(波長)と振幅との比の値(波長/振幅)は、例えば1~15であってよく、特に1.5~12であってよく、より特には2~8であってよい。波長と振幅との比の値が、1未満である場合、または15を超える場合は、第1交絡部が蛇行していることが認識されにくくなることがある。図3においては、隣り合う第1交絡部の蛇行の位相が同じ例を示している。隣り合う第1交絡部の蛇行の位相は、ずれていてもよい。
【0055】
第1交絡部が蛇行し、かつ一つの第1交絡部において幅が一定でない場合、図4に示すように、蛇行の折り返し地点における幅X(以下において単に「幅X」ともいう)が、それ以外の部分の幅Y(以下において単に「幅Y」ともいう)とは異なっていてよい。例えば、幅Xは、幅Yより小さくてよい。
【0056】
第2交絡部は、第1交絡部とは独立した交絡部であり、第2交絡部における繊維の交絡の状態は、第1交絡部における繊維の交絡の状態とは異なる。また、本実施形態において、第1交絡部と第2交絡部は交互に配置されている。したがって、第2交絡部は、第1交絡部とともにストライプ状の模様(第1交絡部が蛇行している場合には、蛇行したストライプ状の模様)を形成する。
【0057】
第2交絡部は模様を有していない、すなわち、無地である。第2交絡部が高圧流体流を用いた交絡処理により形成される場合、高圧流体流の当たった箇所に細い筋が形成されることがある。このような筋が形成されている第2交絡部は、無地とみなす。
【0058】
第2交絡部が模様を有しておらず、比較的均一な繊維密度を有していると、不織布を吸収性物品の表面シートとして用いたときに、液戻りがより抑制される。「液戻り」とは、一旦表面シートを通過した液体が再び表面シートの表面に滲出することをいう。第2交絡部も模様を有していると、不織布全体にわたって高密度領域が存在することとなる。高密度領域は液体を保持しやすい部分となり、保持された液体は加圧により押し戻されやすいため、高密度領域が不織布全体にわたって存在すると、不織布の液戻り量が大きくなることがある。
【0059】
第2交絡部は、第1交絡部における低密度領域よりも高い繊維密度を有してよく、かつ第1交絡部における高密度領域よりも低い繊維密度を有してよい。第2交絡部は、例えば、0.01g/cm~0.20g/cmの繊維密度を有してよく、特に、0.03g/cm~0.15g/cmの繊維密度を有してよく、より特には、0.05g/cm~0.13g/cmの繊維密度を有してよい。
【0060】
第2交絡部は、例えば、0.05mm~3.0mm、特に、0.1mm~2.5mm、より特には0.2mm~1.8mmの厚さを有してよい。
【0061】
第1交絡部における低密度領域が開孔部である場合、第2交絡部の繊維密度および第1交絡部の高密度領域の繊維密度は、1/1.03以上(第2交絡部/第1交絡部の高密度領域)の比を有していてよく、1/1.05以上の比を有していてよい。第1交絡部の低密度領域が開孔部でない場合、低密度領域の繊維密度および第2交絡部の繊維密度の比は、例えば、1/1.03以上(第1交絡部の低密度領域/第2交絡部)としてよく、特に、1/1.05以上としてよい。第1交絡部の低密度領域と第2交絡部の密度差、および/または第2交絡部と第1交絡部の高密度領域の密度差が小さい場合には、第1交絡部と第2交絡部とを明確に区別できなくなることがあり、意匠効果が十分に発揮されないことがある。
【0062】
各々の第2交絡部の幅は、例えば、3mm~200mmであってよく、特に3mm~50mmであってよく、より特には5mm~50mmであってよく、さらにより特には5mm~30mmであってよく、あるいは5mm~15mmであってよい。第2交絡部の幅は、第2交絡部の長さ方向と直交する方向の寸法をいう。不織布においては、異なる幅の第2交絡部が存在していてよい。例えば、細幅(例えば2mm~5mm)の第2交絡部と、太幅(例えば、6mm~15mm)の第2交絡部が、交互に並んでいてよい。あるいは、細幅(例えば2mm~3mm)の第2交絡部と、中幅(例えば4~5mm)の第2交絡部と、太幅(例えば6~15mm)の第2交絡部とが、細/中/太または細/太/中の順に並んでいてよい。
【0063】
不織布において、第1交絡部がすべて同じ幅を有し、かつ第2交絡部がすべて同じ幅を有する場合、第1交絡部の幅と第2交絡部の幅は同じであってよく、異なっていてよい。第1交絡部が第2交絡部が同じ幅を有する場合、第1交絡部を合わせた面積が不織布に占める割合は50%となる。第1交絡部と第2交絡部が異なる幅を有する場合、第2交絡部に対する第1交絡部の幅は、例えば、0.25以上であってよく、特に0.5以上、より特には0.9以上であってよい。
【0064】
幅の異なる第2交絡部は、幅の異なる第1交絡部と組み合わされてよい。例えば、太(第1)/太(第2)/細(第1)/細(第2)のように、第1交絡部と第2交絡部が並んでいてよい。あるいは、太(第1)/太(第2)/中(第1)/中(第2)/細(第1)/細(第2)のように、第1交絡部と第2交絡部が並んでいてよい。あるいはまた、細(第1)/細(第2)/細(第1)/太(第2)のように、第1交絡部と第2交絡部が並んでいてよい。ここで、「太」、「中」、「細」は、同じ交絡部について幅の大小関係を示すために用いられている。したがって、第1交絡部の「太」と、第2交絡部の「太」とは同じ幅でなくてもよい。例えば、太(第1)/太(第2)/細(第1)/細(第2)の組合せには、7mm(第1)/5mm(第2)/5mm(第1)/3mm(第2)のような組合せが含まれる。
【0065】
不織布が第1交絡部および第2交絡部のみを有しており、第1交絡部が蛇行している場合、第1交絡部間に隣接する第2交絡部もまた、蛇行する。その場合、第2交絡部の1周期当たりの蛇行の長さおよび振幅は、第1交絡部のそれらによって決定される。したがって、ここでは第2交絡部の1周期当たりの蛇行の長さおよび振幅についての説明は省略する。
【0066】
[目付等]
本実施形態の吸収性物品用シートを構成する不織布は、30g/m2よりも大きい目付を有する。目付が30g/m2以下であると、毛羽立ちおよび毛羽抜けが生じやすく、また、不織布の地合が悪くなる傾向にある。不織布の目付は、例えば、32g/m2以上60g/m2以下であってよく、特に33g/m2以上50g/m2以下であってよく、より特には34g/m2以上45g/m2以下であってよい。不織布の目付が大きすぎると、不織布内に液体が溜まりやすく、不織布を表面シートとして用いる場合には液戻り量が大きくなることがある。また、不織布の目付が大きすぎると、通気性が低下することがある。
【0067】
不織布の比容積は特に限定されず、その用途等に応じて適宜選択される。不織布の比容積は、例えば、0.5cm3/g以上2.0cm3/g以下であってよく、特に0.7cm3/g以上1.6cm3/g以下であってよく、より特には0.8cm3/g以上1.5cm3/g以下であってよい。比容積は、不織布の目付と厚さから求めることができ、ここで、不織布の厚さは試料1cm2あたり2.94cNの荷重を加えた状態で測定されるものとする。不織布の比容積が大きいほど、不織布の通気性およびクッション性が向上する傾向にあるが、大きすぎると、不織布内に液体が溜まりやすく、不織布を表面シートとして用いる場合には液戻り量が大きくなることがある。
【0068】
[毛羽抜け量]
本実施形態の吸収性物品用シートを構成する不織布は、規則的な模様を有する複数の第1交絡部を有することによって、毛羽立ちが生じにくい。具体的には、不織布は、以下の方法で測定される毛羽抜け量が1.0mg以下であるものとして提供される。
(毛羽抜け量測定試験)
a)ウレタンフォーム(ブリヂストン(株)製、商品名モルトプレンMF30、厚さ5mm)で表面を覆った円盤(直径70mm、350g)を、回転軸が円盤中心から20mmずれた位置となるように回転軸に取り付ける。
b)不織布の下面に、上記と同じウレタンフォームを敷き、不織布の上面が露出面となるように、不織布を台上に固定する。
c)不織布の上に前記円盤を載せる。このとき、不織布に加わる荷重は円盤の自重のみとする。
d)回転軸を回転させて、円盤を不織布上で周動させる。周動は時計周りに2回転、反時計周りに2回転を1セットとして、4セット行う。このときの周動速度は1周動あたり約3秒である。
e)4セットの周動後、不織布から抜け落ちて、円盤を覆っているウレタンフォームの表面に付着した繊維を集める。
f)前記a)~e)の操作をn=30枚の不織布について行う。30枚の不織布それぞれについて、抜け落ちた繊維の質量を測定し、その平均値を毛羽抜け量とする。
【0069】
毛羽量は、特に1.0mg以下であってよく、より特には0.8mg以下であってよく、さらにより特には0.5mg以下であってよい。毛羽抜け量が小さい不織布は、毛羽立ちおよび毛羽抜けが生じにくい不織布であり、使用者に清潔な印象を与える。また、不織布において毛羽が生じにくいと、毛羽の絡まりによる毛玉の発生も抑制されるので、なめらかな触感が使用者に与えられる。さらに、毛羽抜け量が小さい不織布は、使用者の衣類と接したときに、衣類に付着する繊維の量を少なくすることができる。
【0070】
[吸液性]
本実施形態の吸収性物品用シートを構成する不織布は、第1交絡部および第2交絡部が延びる方向と直交する方向のランオフ値によって吸液速度を評価すると、第1交絡部のない不織布、および第2交絡部のない不織布と比較して、より高い吸液速度を示す。また、本実施形態の吸収性物品用シートを構成する不織布は、規則的な模様が千鳥状または格子状に配置された低密度領域Aを有しない不織布と比較して、より高い吸液速度を示す。
【0071】
ランオフ値は具体的には以下の手順で測定される。
(i)試料を用意する。
(ii)水平面と30度の角度を有する斜面を準備し、その斜面上に、ろ紙(Lister Paper(Grade989、10cm×10cm)を2枚重ねたものを吸収体として準備する。吸収体を、試料の寸法と同じか、それよりも広い面積にわたって、重ならないように敷きつめる。その上に試料を載せて固定する。試料は、第1交絡部および第2交絡部の延びる方向が斜面の傾斜方向と直交するように配置する。
(iii)試料の上端から1cm下方の位置に、37℃の0.90%生理食塩水(青色染料で着色)を、マイクロチューブポンプまたはビュレットから、1.0g/30secの速度で、1.0gまたは3.0g滴下する。全ての生理食塩水が不織布サンプルに吸収され、生理食塩水の水滴が不織布サンプル表面から消えたときの生理食塩水の先端の位置を測定する。当該位置と生理食塩水を不織布サンプル表面に滴下した位置との間の距離、即ち生理食塩水の水滴が不織布サンプル表面を流れた最長の距離を求めて、ランオフの値を得る。
一つの不織布について、3つの試料を用意して、前記(i)~(iii)を3回繰り返して得られた値を平均し、平均値を当該不織布のランオフ値として評価に利用する。
【0072】
ランオフ値が短いほど、吸液速度が高いといえる。本実施形態において、不織布は第1交絡部と第2交絡部とが交互に配置された構成を有する。そのため、第1交絡部および第2交絡部が延びる方向と直交する方向に沿って液体が流れたときに、二つの交絡部の境界によって液体の進行が阻止されて、液体が不織布の厚さ方向に沿って進行しやすくなるものと考えられる。また、低密度領域と、それと隣り合う同一のすべての低密度領域とが、千鳥状配列または格子状配列のいずれか一方の関係を有すると、第1交絡部を液が通過する際に、液が第1交絡部中の低密度領域と高密度領域を規則的に交互に通過する。その結果、液の流れる速度が規則的に変化することで吸液速度がより低下し得ると推測される。
【0073】
(不織布の製造方法)
不織布は、例えば、
セルロース系繊維を90質量%以上含む繊維ウェブを作製すること、
繊維ウェブの全体にわたって高圧流体流による交絡処理を施すこと、
部分的に高圧流体による交絡処理を施して、規則的な模様を有する第1交絡部を形成すること
を含む製造方法により製造される。
【0074】
この製造方法により得られる不織布においては、第1交絡部が形成されなかった部分が第2交絡部となる。第1交絡部を形成するための高圧流体流による交絡処理は、繊維ウェブを、低密度領域を形成するための凸部、凹部および開口部から選択される少なくとも一つを有する支持体(以下、「パターン形成支持体」とも呼ぶ)の上に配置し、第1交絡部を形成すべきウェブの部分だけに、高圧流体を作用させることによって実施する。第1交絡部においては、パターン形成支持体の形状に応じた低密度領域が形成され、低密度領域間では、低密度領域の形成にあたり、周囲に移動した繊維によって高密度領域が形成される。
【0075】
高圧流体として、圧縮空気等の高圧気体、および高圧水等の高圧液体が挙げられる。高圧液体は、触感の優れた不織布を得ることができるという点、および繊維に付着した余分な油剤を落とすことができるという点で好ましく用いられる。不織布の製造においては、高圧流体として高圧水を用いた水流交絡処理を用いることが多い。本実施形態においても、実施の容易性等の点から、水流交絡処理が好ましく用いられる。以下においては、高圧流体として高圧水(以下においては、単に「水流」とも呼ぶ)を用いた場合の製造方法を説明する。
【0076】
まず、繊維ウェブの全体にわたって繊維同士を交絡させるための水流交絡処理(以下、第1水流交絡処理)を実施する。第1水流交絡処理は、支持体にウェブを載せて、水流を噴射することにより実施する。水流は、柱状水流であってよい。前述したように、第2交絡部は第1交絡部が形成されなかった部分であるから、第1水流交絡処理は第2交絡部を形成するためのものである。第2交絡部は、粗密の少ない、均一な地合いを有することが好ましい。したがって、第1水流交絡処理においては、比較的目の細かな支持体、例えば、80メッシュ~100メッシュの平織の支持体を用いることが好ましい。
【0077】
第1水流交絡処理は、孔径0.05mm~0.5mmのオリフィスが、0.3mm~1.5mmの間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa~15MPaの水流を、ウェブの表裏面にそれぞれ1~5回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧は、好ましくは1MPa~10MPaであり、より好ましくは1MPa~7MPaである。ノズルとウェブとの間の距離は、例えば5mm~100mmとしてよく、特に10mm~50mmとしてよい。
【0078】
あるいは、第1水流交絡処理は、高圧水によりウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が25Wh/kg/m~100Wh/kg/mとなるように、水圧、噴射回数および搬送速度等を選択して実施してよい。Eは、下記の式によって求められる。
E=W×N×T/(M×U×60)
E:1kg当たりの不織布に対し、1m幅当たりに1時間で印加するエネルギー(Wh/kg/m)
W:ノズル1孔当たりの流体の仕事率(W)
N:ノズルに1m幅当たりに開いているオリフィス数
T:噴射回数
M:高速水流処理対象の目付(g/m
U:搬送速度(m/分)
上記式におけるW(ノズルの1オリフィス当たりの流体の仕事率)は、下記の式によって求められる。
W=P1×(F/100)×0.163)
W:ノズルの1オリフィス当たりの流体の仕事率(W)
P1:水圧(kgf/cm
F:ノズルの一つのオリフィスから吐出される水の流量(cm/分)
EおよびWの決定方法についての詳細は、特許第4893256号公報に記載されている。
【0079】
次に、第1交絡部を形成するための水流交絡処理(以下、「第2水流交絡処理」)を実施する。第1交絡部の形成に際しては、上記のとおり、第1水流交絡処理後のウェブ(以下、「一次加工ウェブ」とも呼ぶ)を、パターン形成支持体の上に配置し、かつ、水流がウェブにおいて第1交絡部を形成すべき部分にのみ当たるように実施する。水流を部分的にウェブに当てる方法としては、例えば、一つ以上のオリフィスからなるオリフィス群が所定間隔に設けられているノズルを用いる方法、および穴を有し、穴以外では高圧流体を透過させない部材(以下、単に「穴あき部材」と呼ぶ)をノズルとウェブとの間に配置する方法がある。
【0080】
パターン形成支持体は、凸部を有するものであってよい。その場合、凸部上に位置する繊維に水流が当たると繊維が周囲に移動して、繊維が再配列されて、当該凸部に対応する位置に低密度領域が形成される。
【0081】
あるいは、パターン形成支持体は、凹部を有するものであってよい。その場合、凹部の周辺部の繊維が移動して、凹部に移動するとともに凹部にて再配列されて、凹部に対応する位置に高密度領域が形成され、凹部周辺に低密度領域が形成される。凹部の形状によっては、高密度領域は立体的なものとなり得る。
【0082】
あるいはまた、パターン形成支持体は、開口部を有するものであってよく、その場合、開口部周辺の繊維が移動して、開口部に移動するとともに開口部にて再配列されて、開口部に対応する位置に高密度領域が形成され、開口部周辺に低密度領域が形成される。開口部の形状等によっては、高密度領域は立体的なものとなり得る。パターン形成支持体は、凸部、凹部および開口部から選択される二以上を有していてよい。
【0083】
パターン形成支持体は、天然樹脂、合成樹脂、または金属からなる、織物、パンチング加工が施された板状部材、またはスパイラルネットであってよい。また、パターン形成支持体は、凸部、凹部および開口部から選択される一つまたは複数が規則的に配置されて、規則的な模様を有するものであってよい。そのようなパターン形成支持体を用いると、低密度領域が複数集合して規則的な模様を形成することができる。千鳥状または格子状に配置された低密度領域Aを形成するために、形状および面積が略同一である凸部が、規則的に設けられ、特に、千鳥状または格子状に配置されたパターン形成支持体が好ましく用いられる。
【0084】
具体的には、パターン形成支持体は、例えば、繊維径が0.1mm~1.2mm程度のモノフィラメントを、経糸密度10本/インチ~30本/インチ、緯糸密度10本/インチ~30本/インチで織成した平織物、杉綾織物、綾織物、および朱子織物であってよい。比較的太いフィラメントの織物から成る支持体は、緯糸と経糸との交点が凸部となって、低密度領域の形成を可能にする。このような織物を用いる場合には、織物を構成する糸の太さよって、低密度領域の一つあたりの面積が決定され、織物の経/緯糸密度によって、低密度領域の間隔およびピッチが決定される。
【0085】
経糸および緯糸をそれぞれ一本のモノフィラメントとして織成された平織物が特に好ましく用いられる。そのような平織物においては、経糸と緯糸の交差点のうち、最も高い部分が凸部となって、千鳥状に配置されているため、そのような平織物を用いれば、当該部分に対応して千鳥状に配置された低密度領域Aを形成することができる。
【0086】
あるいは、パターン形成支持体は、凸部および/または凹部、例えば、円錐台形、円錐形、角錐台形、または角錐形の突起、あるいは金属板の表面を切削加工等に付して形成された凹部を有し、凸部および/または凹部以外の部分は、例えば寸法の小さな開口部が形成されていて透水性が確保された板状部材(例えば、金属板)であってよい。
あるいはまた、パターン形成支持体は、スパイラルネットであってよい。
【0087】
オリフィス群が所定間隔で設けられたノズルを使用して第1交絡部を形成する方法においては、オリフィス群から噴射した水流だけがウェブに作用する。そのため、オリフィス群に対応するウェブの部分だけに、規則的な模様を形成するのに必要なエネルギーの高圧水流が作用する。このノズルにおいて、オリフィス群は、第1交絡部の幅に相当する区間にわたって設けられる。オリフィス群の間隔が第2交絡部の幅に相当する。そのようなノズルは、全面にわたって水流を当てるように設計されたノズルにおいて、第2交絡部に相当する区間でオリフィスに栓をしたものであってよい。一つのオリフィス群は、好ましくは2つ以上のオリフィスからなる。オリフィスの数が2以上であると、第1交絡部において規則的な模様をより鮮明に形成することができる。オリフィス群の中で隣り合うオリフィスの間隔は、例えば、0.2mm~1.5mmとしてよい。
【0088】
穴あき部材を使用して第1交絡部を形成する方法においては、穴を通過した水流だけがウェブに作用する。そのため、穴に対応するウェブの部分だけに、規則的な模様を形成するのに必要なエネルギーを有する高圧水流が作用する。穴あき部材は複数の穴を有する部材であれば、特に限定されない。例えば、素材は合成樹脂製や金属製等でもよい。また、形状は、板状やロール状等、水流交絡処理の装置にあわせて適宜選択すればよい。
【0089】
穴あき部材に含まれる複数の穴は、第1交絡部が延びる方向とは直交する方向に沿って形成される。一つの穴は、第1交絡部が延びる方向と直交する方向において、例えば2mm以上の寸法を有し、特に3mm~50mmの寸法、より特には5mm~30mmの寸法を有してよい。異なる幅を有する第1交絡部を形成する場合には、得ようとする第1交絡部の幅に応じて、一つの穴あき部材において異なる寸法の穴が形成される。また、穴あき部材に含まれる隣り合う穴の間隔は、例えば、2mm以上であってよく、特に3mm~50mmであってよく、より特には5mm~30mmであってよい。隣り合う穴の間隔は、第2交絡部の幅を決定するので、得ようとする第2交絡部の幅に応じて適宜選択される。穴の形状は特に限定されず、例えば、円形、半円形、楕円形、三角形または四角形等の多角形、星形多角形、十字形、直線状や曲線状等のスリット形等であってよい。
【0090】
穴あき部材を使用する場合、ノズルは特に限定されず、第1水流交絡処理に関連して説明したものと同じものを用いてよい。穴あき部材とノズルとの距離は、例えば1mm以上であってよい。穴あき部材とノズルとの距離が1mm未満であると、穴あき部材とノズルが接触し、一方又は両方が損傷する場合がある。一方、穴あき部材とノズルとの距離は、例えば30mm以下としてよい。穴あき部材とオリフィスとの距離が30mmを超えると、水流のエネルギーが減少して、規則的な模様が良好に形成されないことがある。穴あき部材と一次加工ウェブとの距離は、例えば、5mm~50mmであってよい。穴あき部材と一次加工ウェブとの距離が50mmを超えると、水流のエネルギーが減少して、規則的な模様が良好に形成されないことがある。
【0091】
第2水流交絡処理の際に用いてよい水圧範囲は、第1水流交絡処理に関連して説明したとおりである。第1交絡部は、通常、一次加工ウェブの一方の面に1回だけ水流を噴射して形成される。第2水流交絡処理の際の圧力は、特に1MPa~15MPaとしてよく、より特には2MPa~10MPaとしてよい。
【0092】
あるいは、第2水流交絡処理は、高圧水により一次加工ウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が20Wh/kg/m~200Wh/kg/mとなるように、水圧、噴射回数および搬送速度(パターン形成支持体の速度)等を選択して実施してよい。Eの求め方は、第1水流交絡処理に関連して説明したとおりである。
【0093】
第2水流交絡処理において、ノズルまたは穴あき部材の位置を固定し、パターン形成支持体を一次加工ウェブの縦方向または横方向(通常は縦方向)沿って進行させると、複数の第1交絡部と複数の第2交絡部とが不織布の縦方向または横方向に直線状に延びる構成の不織布が得られる。
【0094】
第2水流交絡処理において、ノズルまたは穴あき部材を振動させ、パターン形成支持体を繊維ウェブの縦方向または横方向(通常は縦方向)沿って進行させると、第1交絡部および第2交絡部とが蛇行した構成の不織布が得られる。ここで、「振動」とは、ノズルまたは穴あき部材を一定の方向に沿って往復させることを意味する。「振動」には、直線上で往復させる場合のほか、一定の方向を長軸とする楕円軌道に沿って往復させる場合等が含まれる。
【0095】
ノズルまたは穴あき部材の振動方向は、ウェブの縦方向(MD方向)、横方向(CD方向)および斜め方向等から、適宜選択してよい。ここで「斜め方向」とは、ウェブの面方向に沿って、縦方向または横方向と、0度を超え90度未満の範囲にある角度をなす方向を意味する。製造上の簡便性を考慮すると、振動方向は、横方向、または横方向と0度を超え45度以下の範囲にある角度をなす方向が好ましい。
【0096】
ノズルまたは穴あき部材の振動の振幅は、得られる不織布において、第1交絡部の振幅とほぼ同じとなる。したがって、ノズルまたは穴あき部材の振動の振幅は、得ようとする第1交絡部の振幅に応じて決定される。ノズルまたは穴あき部材の振動速度とパターン形成支持体の進行速度によって、第1交絡部の1周期あたりの蛇行の長さが決定される。したがって、ノズルまたは穴あき部材の振動速度は、パターン形成支持体の進行速度も考慮して、得ようとする第1交絡部の1周期あたりの蛇行の長さに応じて決定される。
【0097】
穴あき部材の振動速度は、100m/min程度まで上げることができる。そして、穴あき部材の振動速度を上げることで、第1交絡部や第2交絡部などの交絡部の折り返し地点での幅Xと、それ以外での幅Yとの差を大きくすることができる。
【0098】
第2水流交絡処理終了後のウェブは、水分を除去する乾燥処理に付して、そのまま不織布として用いてよい。乾燥したウェブ(不織布)は、必要に応じて巻き取ってよい。不織布は吸収性物品用シートとして用いられるにあたっては、所定の寸法に裁断される。
【0099】
ウェブが合成繊維を含み、当該合成繊維の繊維表面の一部または全部が、例えばポリエチレンのような比較的融点の低い樹脂で形成されている場合、乾燥処理は、低融点樹脂によって繊維同士を熱接着させる熱接着処理を兼ねてよい。熱接着処理は、合成繊維の表面を構成する熱可塑性樹脂のうち、最も融点の低いものが溶融または軟化する温度で実施することが好ましい。
【0100】
第2水流交絡処理終了後、乾燥したウェブ(不織布)は、さらに撥水加工に付して、繊維に撥水剤を付着させてよい。撥水加工は、例えば、精練漂白処理によって綿蝋の多くが除去されたコットンをセルロース系繊維として用いる場合に実施してよい。撥水加工は、市販の撥水剤(例えば、繊維に撥水性を付与する繊維処理剤)が、不織布の質量100質量部に対して、例えば0.5~5質量部付着するように実施してよい。
【0101】
(吸収性物品用シート)
前記において説明した不織布は、吸収性物品用シートを構成する。不織布は単独で吸収性物品用シートを構成してよく、あるいは他の不織布またはフィルム等と組み合わされて吸収性物品用シートを構成してよい。吸収性物品用シートが表面シートである場合には、不織布をそのまま吸収性物品用シートとして用いてよい。吸収性物品用シートは、不織布と液不透過性のフィルムとを一体化した形態で提供されてよい。
【0102】
(吸収性物品用シートの用途)
本実施形態の吸収性物品用シートは、吸収性物品を構成する部材として使用することができる。例えば、本実施形態の吸収性物品用シートは、吸収性物品の表面シート(トップシートとも称される)、中間シート、吸収コアを被覆するシート(SAPシート、コアラップシートとも称される)、バックシート等を構成する部材として用いることができる。ここで、バックシートとは、吸収体を介して表面シートとは反対側に設けられる液不透過性シートと対向して設けられ、吸収性物品の表面シートとは反対側の露出面を構成するシートを指す。したがって、バックシートは、使用者の衣服に触れる部分となる。吸収性物品用シートがバックシートとして用いられる場合には、不織布と液不透過性シートとが一体化されていてよい。
【0103】
本実施形態の吸収性物品用シートは、セルロース系繊維を90質量%よりも多く含む不織布を用いているので、セルロース系繊維の独特な触感を活かすために、表面シートに用いることが好ましい。吸収性物品には、例えば、使い捨ておむつ(乳幼児用、介護用を含む)、生理用ナプキン、および失禁パッド等が包含される。吸収性物品はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の吸収性物品用シートは、人体から排泄される体液の吸収に用いられる任意の物品に使用できる。
【0104】
(吸収性物品)
本開示の別の実施形態として、吸収性物品を説明する。本実施形態の吸収性物品の一例は、表面シートと、液不透過性シートと、表面シートと液不透過性シートとの間に配置される吸収体とを有する吸収性物品であって、表面シートが先に説明した実施形態の吸収性物品用シートである、吸収性物品である。本実施形態の別の例は、表面シートと、液不透過性シートと、表面シートと液不透過性シートとの間に配置される吸収体と、液不透過性シートの吸収体側の表面とは反対側の表面と対向して配置されるバックシートとを有する吸収性物品であって、表面シートまたはバックシートが、先に説明した実施形態の吸収性物品用シートである、吸収性物品である。
【0105】
表面シートは、排泄体液を捕捉して、捕捉した排泄体液を速やかに吸収体側へ移動させる役割を有する。本実施形態において、表面シートが、先に説明した実施形態の吸収性物品用シートである場合には、良好な触感を使用者に与えることができ、また、着用時に使用者の目に触れることによって、良好な意匠効果が発揮される。
【0106】
液不透過性シートは、例えば、樹脂フィルムである。液不透過性シートは通気性を有していてよく、あるいは通気性を有していなくてよい。
【0107】
吸収体は、例えば、高分子吸収体(SAPとも称される。一般に粉状物である)、粉砕パルプ、繊維集合物、およびフィルムから選択される1または複数の部材で構成される吸収コアが、不織布およびフィルムから選択されるコアラップシートにより被覆されたものであってよい。あるいは、吸収体は、コアラップシートにより被覆されず、吸収コアのみから成るものであってよい。
【0108】
バックシートが設けられている場合、当該バックシートは、先に説明した実施形態の吸収性物品用シートであってよい。バックシートは、液不透過性シートと接着剤等により一体化されていてよい。バックシートは吸収性物品を手に取る人が触れやすい部分であるため、これが先に説明した実施形態の吸収性物品用シートである場合には、手に取る人に良好な触感をもたらし、また、意匠性を感じさせる。また、バックシートが先に説明した実施形態の吸収性物品用シートである場合には、衣服に付着する毛羽の量を少なくできる。
【0109】
本実施形態の吸収性物品は、表面シートと吸収体との間に中間シートを有してよい。中間シートは、表面シートから吸収された排泄体液を、拡散させながら、速やかに吸収体に移行させて、吸収体のより広い面積で排泄体液が吸収されるようにするために、表面シートと吸収体との間に設けられる。中間シートは、例えば、親水性繊維と疎水性繊維とを含む不織布であってよい。
【0110】
前記のとおり、吸収性物品には、例えば使い捨ておむつ、生理用ナプキン、および失禁パッド等が包含されるが、本実施形態の吸収性物品はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0111】
以下、本実施形態を実施例により説明する。
【0112】
パターン形成支持体として以下の支持体を用意した。
・平織支持体A(平織A):経糸(モノフィラメント)の線径0.7mm、緯糸(モノフィラメント)の線径0.7mm、織り密度25/25(本/inch)の平織りネット
・平織支持体D(平織D):経糸(モノフィラメント)の線径0.9mm、緯糸(モノフィラメント)の線径1.0mm、織り密度9/10(本/inch)の平織りネットであって、経糸を2本ずつ同じ状態に並べて緯糸を1本ずつ打ち込んだもの
【0113】
(実施例1)
繊度1.0dtex~5.0dtex、繊維長10mm~60mmのコットン(商品名MSD、丸三産業(株)製)のみを用いて、狙い目付け35g/mのパラレルウェブを作製した。このウェブの全体にわたって、水流交絡処理(第1水流交絡処理)を実施した。第1水流交絡処理は、ウェブを、線径0.132mmのモノフィラメントからなる90メッシュ平織りの支持体に載せて、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、ウェブの一方の面に2MPaの柱状水流を1回噴射し、他方の面に4MPaの柱状水流を1回噴射し、さらに前記一方の面に2MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。このときの支持体の速度は、4m/分であり、ノズルとウェブとの間の距離は10mmであった。
【0114】
次に、第1交絡部を形成するための水流交絡処理(第2水流交絡処理)を実施した。第2水流交絡処理は、第1水流交絡処理後のウェブを、平織支持体Aに載せて実施した。第2水流交絡処理においては、第1水流交絡処理で用いたものと同じノズルを使用した。ノズルと不織布の間に、厚さ5mmのアクリル樹脂製の穴あき部材を配置し、穴あき部材の穴に水流を通過させて第2交絡部を形成した。具体的には、幅6mmの第1交絡部が12mmおきに形成されるように(すなわち、12mm幅の第2交絡部と6mm幅の第1交絡部が縞状に形成されるように)、幅6mm×長さ6mmの穴を開けたアクリル樹脂製の穴あき部材を用いた。
【0115】
柱状水流の圧力は2MPaとし、柱状水流はウェブの一方の面に1回噴射した。水流交絡処理の間、ノズルは振動させず、支持体を4m/分の速度で走行させた。ノズルとウェブとの間の距離は30mmであり、穴あき部材とウェブとの距離は5mmであった。柱状水流は、穴あき部材の穴のみを通過して、支持体上のウェブに当たるため、水流交絡は部分的に実施された。平織支持体Aにおいては、織交点の最も高い部分が略同一の凸部を形成し、この凸部が千鳥状に配置されていた。そのため、凸部上の繊維が水流により周囲に移動して、千鳥状に配置された低密度領域Aが形成され、同時に、移動した繊維が交絡して高密度領域が形成され、規則的な模様が形成された。
【0116】
得られた不織布は、規則的な模様を有する幅6mmの第1交絡部と、無地の幅12mmの第2交絡部とを有するものであった。第1交絡部の規則的な模様は、千鳥状に配置された長径1.2mm、短径0.7mmの楕円形の低密度領域Aを有するものであった。また、低密度領域Aはその殆どが開孔部であった。低密度領域Aは、縦方向のピッチ3mmおよび横方向のピッチ2mm、縦方向の間隔2mmおよび横方向の間隔1mm、対角線方向のピッチ2mm、対角線方向の間隔1mmで、千鳥状に配置されていた。不織布全体の開孔率は9.20%であった。
【0117】
(実施例2)
第2交絡処理において、幅6mmの第1交絡部が6mmおきに形成されるように、幅6mm×長さ6mmの穴を設けたアクリル樹脂製の穴あき部材(厚さ5mm)を使用したこと以外は、実施例1と同様の手順で不織布を得た。得られた不織布は、規則的な模様を有する幅6mmの第1交絡部と、無地の幅6mmの第2交絡部とを有するものであった。得られた不織布の規則的な模様は実施例1のそれと同じであり、不織布全体の開孔率は13.90%であった。
【0118】
(実施例3)
狙い目付けを40g/mとしたこと、第1水流交絡処理の際に、一方の面に水圧2MPaの水流を噴射し、他方の面に水圧4MPaの水流を噴射し、さらに一方の面に水圧2MPaの水流を噴射したことを除いては、実施例1と同様の手順で不織布を得た。得られた不織布の規則的な模様および開孔率は、実施例1のそれらと同じであった。
【0119】
(実施例4)
狙い目付けを40g/mとしたこと、第1水流交絡処理の際に、一方の面に水圧2MPaの水流を噴射し、他方の面に水圧4MPaの水流を噴射し、さらに一方の面に水圧2MPaの水流を噴射したこと、および第2交絡処理において、幅6mmの第1交絡部が6mmおきに形成されるように、幅6mm×長さ6mmの穴を設けたアクリル樹脂製の穴あき部材(厚さ5mm)を使用したこと以外は実施例1と同様の手順で不織布を得た。得られた不織布の規則的な模様は実施例1のそれと同じであり、不織布全体の開孔率は13.90%であった。
【0120】
(実施例5)
狙い目付けを45g/mとしたこと、第1水流交絡処理の際に、一方の面に水圧2MPaの水流を噴射し、他方の面に水圧4MPaの水流を噴射し、さらに一方の面に水圧2MPaの水流を噴射したことを除いては、実施例1と同様の手順で不織布を得た。得られた不織布の規則的な模様および開孔率は、実施例1のそれらと同じであった。
【0121】
(実施例6)
狙い目付けを45g/mとしたこと、第1水流交絡処理の際に、一方の面に水圧2MPaの水流を噴射し、他方の面に水圧4MPaの水流を噴射し、さらに一方の面に水圧2MPaの水流を噴射したこと、および第2交絡処理において、幅6mmの第1交絡部が6mmおきに形成されるように、幅6mm×長さ6mmの穴を設けたアクリル樹脂製の穴あき部材(厚さ5mm)を使用したこと以外は実施例1と同様の手順で不織布を得た。得られた不織布の規則的な模様は実施例1のそれと同じであり、不織布全体の開孔率は13.90%であった。
【0122】
(比較例1)
第2水流交絡処理を実施しなかったことを除いては、実施例4と同様の手順で不織布を得た。この不織布は全面にわたって無地であり、第1交絡部を有していなかった。
【0123】
(比較例2)
第2水流交絡処理において、穴あき部材を使用せずに、全面にわたって水流を噴射したことを除いては、実施例4と同様の手順で不織布を得た。この不織布は全面にわたって、千鳥状に配置された低密度領域Aと高密度領域とを有する規則的な模様を有しており、第2交絡部を有していなかった。千鳥状に配置された低密度領域Aの形状および寸法、ならびに低密度領域A間の間隔およびピッチは、実施例1の第1交絡部に形成された低密度領域Aのそれらと同じである。不織布全体の開孔率は28.00%であった。
【0124】
(比較例3)
狙い目付けを40g/mとしたこと、第1水流交絡処理の際に、一方の面に水圧2MPaの水流を噴射し、他方の面に水圧2MPaの水流を噴射し、さらに一方の面に水圧2MPaの水流を噴射したこと、および第2水流交絡処理の際に、平織支持体Dを用いたことを除いては、実施例1と同様の手順で不織布を得た。不織布全体の開孔率は5.97%であった。
【0125】
比較例3で得た不織布は、第1交絡部において、図5に示すような規則的な模様が形成されていた。図5に示すとおり、略同一の低密度領域10は不織布の横方向に3つ並べられて、一つの群を構成し、当該群100が千鳥状に配置されていた。したがって、比較例3においては、ある低密度領域と、それと隣り合う同一のすべての低密度領域とは、千鳥状配列または格子状配列のいずれか一方の関係を有していなかった。
【0126】
実施例1~6および比較例1~3の不織布について、以下の物性を以下に説明する方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0127】
(厚さ、比容積)
厚さは、厚み測定機(商品名 THICKNESS GAUGE モデル CR-60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、試料1cm2あたり2.94cNの荷重を加えた状態で測定した。比容積は、目付と厚さから計算して求めた。
【0128】
(ランオフ値)
以下の手順に従って測定した。
(i)試料を用意する。
(ii)水平面と30度の角度を有する斜面を準備し、その斜面上に、ろ紙(Lister Paper(Grade989、10cm×10cm)を2枚重ねたものを吸収体として準備する。吸収体を、試料の寸法と同じか、それよりも広い面積にわたって、重ならないように敷きつめる。その上に試料を載せて固定する。試料は、第1交絡部および第2交絡部の延びる方向が斜面の傾斜方向と直交するように配置する。
(iii)試料の上端から1cm下方の位置に、37℃の0.90%生理食塩水(青色染料で着色)を、マイクロチューブポンプまたはビュレットから、1.0g/30secの速度で、1.0gまたは3.0g滴下する。全ての生理食塩水が不織布サンプルに吸収され、生理食塩水の水滴が不織布サンプル表面から消えたときの生理食塩水の先端の位置を測定する。当該位置と生理食塩水を不織布サンプル表面に滴下した位置との間の距離、即ち生理食塩水の水滴が不織布サンプル表面を流れた最長の距離を求めて、ランオフの値を得る。
一つの不織布について、3つの試料を用意して、前記(i)~(iii)を3回繰り返して得られた値を平均し、平均値を当該不織布のランオフ値として評価に利用する。
【0129】
【表1】
【0130】
実施例1、3および5の比較、ならびに実施例2、4および6の比較によれば、第1交絡部の幅が同じである場合、目付のより大きいものは、より小さいランオフ値を示し、目付が大きいほど、吸液速度が向上する傾向にあった。また、滴下量を3gとしたランオフ値について、第1交絡部および第2交絡部を有する実施例3および4はいずれも、全面にわたって無地である比較例1および全面にわたって規則的な模様を有する比較例2よりも小さいランオフ値を示した。実施例3および4はまた、比較例3よりも、小さいランオフ値を示し、低密度領域Aの配置形態により吸水性が影響を受けることがわかった。
【0131】
(実施例7)
繊度1.0dtex~5.0dtex、繊維長10mm~60mmのコットン(商品名MSD、丸三産業(株)製)のみを用いて、狙い目付け35g/mのパラレルウェブを作製した。このウェブの全体にわたって、水流交絡処理(第1水流交絡処理)を実施した。第1水流交絡処理は、ウェブを、線径0.132mmのモノフィラメントからなる90メッシュ平織りの支持体に載せて、高圧水によりウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が74.7Wh/kg/mとなるように実施した。ノズルとウェブとの間の距離は30mmであった。
【0132】
次に、第1交絡部を形成するための水流交絡処理(第2水流交絡処理)を実施した。第2水流交絡処理は、第1水流交絡処理後のウェブを、平織支持体Aに載せて実施した。第2水流交絡処理においては、第1水流交絡処理で用いたものと同じノズルを使用した。ノズルと不織布の間に、厚さ5mmのアクリル樹脂製の穴あき部材を配置し、穴あき部材の穴に水流を通過させて第2交絡部を形成した。具体的には、幅6mmの第1交絡部が12mmおきに形成されるように(すなわち、12mm幅の第2交絡部と6mm幅の第1交絡部が縞状に形成されるように)、幅6mm×長さ6mmの穴を開けたアクリル樹脂製の穴あき部材を用いた。
【0133】
第2水流交絡処理は、高圧水によりウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が32.8Wh/kg/mとなるように実施した。水流交絡処理の間、穴あき部材を、ウェブの横方向に沿って、振幅30mm、振動速度10.5m/minで振動させた。ウェブと穴あき部材との距離は、5mmであった。この実施例においても、実施例1と同様に、水流交絡は部分的に実施された。また、実施例1と同様に、第1交絡部においては、千鳥状に配置された低密度領域Aが形成され、同時に、移動した繊維が交絡して高密度領域が形成され、規則的な模様が形成された。さらに、ノズルの振動によって、第1交絡部および第2交絡部が蛇行していた。
【0134】
得られた不織布は、規則的な模様を有する幅6mmの第1交絡部と、無地の幅12mmの第2交絡部とを有するものであった。第1交絡部の規則的な模様は、千鳥状に配置された長径1.2mm、短径0.7mmの楕円形の低密度領域Aを有するものであった。また、低密度領域Aはその殆どが開孔部であった。低密度領域Aは、縦方向のピッチ3mmおよび横方向のピッチ2mm、縦方向の間隔2mmおよび横方向の間隔1mm、対角線方向のピッチ2mm、対角線方向の間隔1mmで、千鳥状に配置されていた。また、第1交絡部の1周期あたりの蛇行の長さは105mm、振幅は15mmであった。不織布全体の開孔率は9.20%であった。
【0135】
(実施例8)
狙い目付けを40g/mとし、第1水流交絡処理を、高圧水によりウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が39.6Wh/kg/mとなるように実施したことを除いては、実施例7と同様の手順で不織布を得た。
【0136】
(実施例9)
第1水流交絡処理を、高圧水によりウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が52.8Wh/kg/mとなるように実施したことを除いては、実施例7と同様の手順で不織布を得た。
【0137】
(比較例4)
狙い目付を30g/mとしたこと、第1水流交絡処理を、高圧水によりウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が21.9Wh/kg/mとなるように実施したことを除いては、実施例1と同様の手順で不織布を得た。なお、狙い目付けを30g/mとした場合には、第1水流交絡処理の条件を実施例7で用いた条件と同じにすると、高圧水の大きなエネルギーのために地合が乱れ、不織布の外観が著しく悪くなった。
【0138】
(比較例5)
狙い目付を30g/mとしたこと、第1水流交絡処理を、高圧水によりウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が18.8Wh/kg/mとなるように実施したことを除いては、実施例1と同様の手順で不織布を得た。
【0139】
実施例7~9および比較例4~5の不織布について、厚さ、比容積、毛羽抜け量、および破断強度を評価した。評価結果を表2に示す。厚さの評価方法は先に説明したとおりである。毛羽量および破断強度は以下に説明する方法で評価した。評価結果を表2に示す。なお、表2においては、比較例2および3の評価結果も合わせて示している。
【0140】
(毛羽抜け量測定試験)
a)ウレタンフォーム(ブリヂストン(株)製、商品名モルトプレンMF30、厚さ5mm)で表面を覆った円盤(直径70mm、350g)を、回転軸が円盤中心から20mmずれた位置となるように回転軸に取り付ける。
b)不織布の下面に、上記と同じウレタンフォームを敷き、不織布の上面が露出面となるように、不織布を台上に固定する。
c)不織布の上に前記円盤を載せる。このとき、不織布に加わる荷重は円盤の自重のみとする。
d)回転軸を回転させて、円盤を不織布上で周動させる。周動は時計周りに2回転、反時計周りに2回転を1セットとして、4セット行う。このときの周動速度は1周動あたり約3秒である。
e)4セットの周動後、不織布から抜け落ちて、円盤を覆っているウレタンフォームの表面に付着した繊維を集める。
f)前記a)~e)の操作をn=30枚の不織布について行う。30枚の不織布それぞれについて、抜け落ちた繊維の質量を測定し、その平均値を毛羽抜け量とする。
【0141】
(破断強度)
JIS L 1096 6.12.1 A法(ストリップ法)に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、切断時の荷重値(破断強度)を測定した。引張試験は、不織布の縦方向(MD方向)および横方向(CD方向)を引張方向として実施した。評価結果はいずれも3点の試料について測定した値の平均で示している。
【0142】
【表2】
【0143】
目付が30g/mより大きい実施例7~9の不織布はいずれも、毛羽抜け量の少ないものであった。また、実施例7~9は、その第2交絡部の地合が良好であった。目付が30g/m以下である、比較例4および5の不織布は、第1水流交絡処理において、高圧水によりウェブに印加されるエネルギーの総和(E)を低くして、良好な地合を確保したため、繊維同士の交絡が弱いものであった。そのため、これらの不織布においては、規則的な模様を有する第1交絡部が形成されているにもかかわらず、毛羽抜け量が多くなった。また、実施例7~9の不織布と、比較例4および5の不織布とを比較すると、比較例4および5の不織布においては、毛羽立ちがより多く見られた。
【0144】
比較例2の不織布は、第1交絡部を有していなかったために、最も大きい毛羽抜け量を示した。比較例3の不織布は、全面に規則的な模様が形成されていたため、小さな毛羽抜け量を示したが、全体にわたって高密度領域が形成されたために、実施例の不織布と比較して大きな液戻り量を示した。また、比較例3の毛羽抜け量は、実施例7~9のそれと同じであるか、または僅かに小さいだけであり、第2交絡部の存在によって毛羽抜けが著しく低下しないことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本実施形態の吸収性物品用シートは、セルロース系繊維を90質量%よりも多い量で含むにもかかわらず、毛羽立ちおよび毛羽抜けが抑制された、意匠効果の高いものである。したがって、本実施形態の吸収性物品用シートは、例えば、表面シートと、バックシートと、表面シートとバックシートとの間に配置される吸収体を有する吸収性物品において、表面シートまたはバックシートとして好適に使用される。
【0146】
本開示には以下の態様の吸収性物品用シートおよび吸収性物品が含まれる。
(態様1)
セルロース系繊維を90質量%よりも多い量で含み、繊維同士が交絡してなる不織布を含む吸収性物品用シートであって、
前記不織布が、複数の互いに離間した第1交絡部と、複数の互いに離間した第2交絡部とを有し、
前記第1交絡部はそれぞれ、複数の繊維密度の高い領域(以下、「高密度領域」)と複数の繊維密度の低い領域(以下、「低密度領域」)とで形成された規則的な模様を有し、前記規則的な模様は、千鳥状または格子状に配置された略同一の低密度領域を有し、
前記第1交絡部はそれぞれ、不織布の縦方向または横方向に沿って延び、
前記第2交絡部はそれぞれ、不織布の縦方向または横方向に沿って延び、
前記第1交絡部と前記第2交絡部は交互に配置されており、
前記第1交絡部を合わせた面積が不織布全体の20%以上を占めており、
前記不織布の目付が30g/m2よりも大きく、
以下の試験による毛羽抜け量が1.0mg以下である、
吸収性物品用シート。
(毛羽抜け量測定試験)
a)ウレタンフォーム(ブリヂストン(株)製、商品名モルトプレンMF30、厚さ5mm)で表面を覆った円盤(直径70mm、350g)を、回転軸が円盤中心から20mmずれた位置となるように回転軸に取り付ける。
b)不織布の下面に、上記と同じウレタンフォームを敷き、不織布の上面が露出面となるように、不織布を台上に固定する。
c)不織布の上に前記円盤を載せる。このとき、不織布に加わる荷重は円盤の自重のみとする。
d)回転軸を回転させて、円盤を不織布上で周動させる。周動は時計周りに2回転、反時計周りに2回転を1セットとして、4セット行う。このときの周動速度は1周動あたり約3秒である。
e)4セットの周動後、不織布から抜け落ちて、円盤を覆っているウレタンフォームの表面に付着した繊維を集める。
f)前記a)~e)の操作をn=30枚の不織布について行う。30枚の不織布それぞれについて、抜け落ちた繊維の質量を測定し、その平均値を毛羽抜け量とする。
(態様2)
繊維同士が接着されていない、態様1の吸収性物品用シート。
(態様3)
前記セルロース系繊維がコットンである、態様1または2の吸収性物品用シート。
(態様4)
前記セルロース系繊維が、撥水性を有するコットンである、態様1または2の吸収性物品用シート。
(態様5)
前記セルロース系繊維のみからなる、態様1~4のいずれかの吸収性物品用シート。
(態様6)
前記略同一の低密度領域が開孔部である、態様1~5のいずれかの吸収性物品用シート。
(態様7)
前記低密度領域は一つあたり、0.1mm~10mmの面積を有している、態様1~6のいずれかの吸収性物品用シート。
(態様8)
前記第1交絡部の幅が、5mm~50mmであり、前記第2交絡部の幅が、5mm~50mmである、態様1~7のいずれかの吸収性物品用シート。
(態様9)
前記吸収性物品用シートは表面シートまたはバックシートである、態様1~8いずれかの吸収性物品用シート。
(態様10)
表面シートと、液不透過性シートと、前記表面シートと前記液不透過性シートとの間に配置される吸収体とを有する吸収性物品であって、前記表面シートが態様1~8のいずれかの吸収性物品用シートである、吸収性物品。
(態様11)
表面シートと、液不透過性シートと、前記表面シートと前記液不透過性シートとの間に配置される吸収体と、前記液不透過性シートの前記吸収体側の表面とは反対側の表面と対向して配置されるバックシートとを有する吸収性物品であって、前記表面シートまたは前記バックシートが、態様1~8のいずれかの吸収性物品用シートである、吸収性物品。
【符号の説明】
【0147】
10 低密度領域A
20 低密度領域A
31 第1交絡部が蛇行している方向
32 第1交絡部が蛇行している方向と直交する方向
41 第1交絡部
42 第2交絡部
図1
図2
図3
図4
図5