(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】コンタクトレンズを洗浄する器具
(51)【国際特許分類】
G02C 13/00 20060101AFI20220728BHJP
A61C 17/16 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
G02C13/00
A61C17/16
(21)【出願番号】P 2019174856
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】719006308
【氏名又は名称】関根 堅太郎
(72)【発明者】
【氏名】関根 堅太郎
【審査官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-010793(JP,A)
【文献】特表2008-542020(JP,A)
【文献】特開2004-126042(JP,A)
【文献】特開2002-148570(JP,A)
【文献】特開2001-091910(JP,A)
【文献】特開平03-160412(JP,A)
【文献】実開平05-036420(JP,U)
【文献】米国特許第05347674(US,A)
【文献】中国実用新案第208288629(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 13/00
A61C 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトレンズを洗浄液中で洗浄する器具であって、
電動歯ブラシの動力
部により軸部を駆動する把持部に取り付けられ、
前記軸部に基端が着脱自在に取り付けられる柄と、
前記柄の先端側に設けられたポリウレタン系熱可塑性エラストマーを素材とする洗浄部で構成され、
前記洗浄部の先端をコンタクトレンズに接触させた状態で、
前記軸部の駆動により
前記洗浄部を運動させることでコンタクトレンズを洗浄する器具
【請求項2】
前記の洗浄部がブラシ形状であることを特徴とする請求項1に記載のコンタクトレンズを洗浄する器具
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンタクトレンズの洗浄方法と電動歯ブラシに関する
【背景技術】
【0002】
従来のソフトコンタクトレンズを清潔に保つための手段のひとつとして、「マルチ・パーパス・ソリューション(MPS)」と呼ばれる、塩酸ポリヘキサニドまたは塩化ポリドロニウムを消毒成分とする洗浄液を用いた洗浄・消毒方法があり、洗浄・消毒・すすぎ・保存がこれ一つでまかなえるという利点を備えている。このMPSを用いた方法は、まず手のひらに使用済みのコンタクトレンズを載せ、MPSを注ぐ。そしてもう片方の手の指でコンタクトレンズを軽く擦ってから、MPSでコンタクトレンズをすすぐ。同じ作業を裏面にも行い、そして保存用器にコンタクトレンズとMPSを入れて4時間以上放置して消毒するという手順で行われる。
【0003】
電動のコンタクトレンズの洗浄装置として、実開平5-36420のようにモーターによって回転するブラシによってコンタクトレンズの洗浄を行う装置が出願されている。
【0004】
電動歯ブラシは、歯ブラシの清潔さを保つために、モーターとバッテリーを内蔵した把持部から歯ブラシが取り外せるように作られており、新品の歯ブラシと交換できる。
【0005】
電動歯ブラシの運動には大きく分けて「回転式」と「振動式」分けられる。それぞれの運動の仕組みについては、「回転式」は特表平7-505814に、「振動式」は特開2003-164473と特開平9-252843に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平7-505814号公報
【文献】実開平5-36420号公報
【文献】特開2003-164473号公報
【文献】特開平9-252843号公報
【発明の概要】
【0007】
ここでコンタクトレンズは医薬品に分類され、眼球の角膜に直接触れるものであるから常に清潔な状態を保っていなければならない。現在コンタクトレンズの主流となっているシリコンハイドロゲルでつくられたコンタクトレンズ、通称「ソフトコンタクトレンズ」は清潔に保つための方法が三通りあるが、それぞれ問題点を有する。
【0008】
(1)「マルチ・パーパス・ソリューション(MPS)」を用いた洗浄・消毒方法では、手と指を使ってコンタクトレンズを擦る作業があるため事前に手と指を入念に洗って清潔な状態にしなければならない。さらに傷があったり荒れていたりすると、コンタクトレンズに傷や汚れがつく原因となる。また手や指に膏薬・ハンドクリーム・化粧品など薬品類を塗った直後も、それらの成分がコンタクトレンズに付着する恐れがあるのでこの方法ではコンタクトレンズを洗えないといった問題点を有する。だがMPSを用いたコンタクトレンズの擦り洗いの目的は、汚れを剥離するだけでなく、殺菌力が弱いMPSだけでは不十分なレンズに付着した微生物・細菌の除去作業を補うためでもあるので、この作業をもし怠るとアカントアメーバーなどの微生物の繁殖を許し、細菌性角膜炎を起こすおそれがある。
【0009】
(2)過酸化水素水と中和剤で洗浄・消毒を行う方法は、MPSを用いた洗浄・消毒に比べて手間はかからないが、時間と費用がかかる上に、中和剤を投入せずに消毒したり、中和作業が不十分なままコンタクトレンズを装着したりすると角膜炎などを引き起こすという問題点があり、さらにカラーコンタクトレンズはこの方法で洗浄・消毒ができないという問題点も有する。また、この方式の洗浄液は「擦り洗い不要」と謳っているが、日本コンタクトレンズ協会のウェブサイトでは、この方式の洗浄液を用いても定期的に擦り洗いをすることが推奨されている。
【0010】
(3)「1日使い捨てレンズ」と呼ばれる、一度使ったら廃棄してしまうコンタクトレンズを使用する方法は、毎日コンタクトレンズを使用する人にとってはコストが最も高く、さらに使用済みのレンズと空き容器を毎日捨てることでゴミが増えるといった社会的な問題も無視できないという問題点を有する。
【0011】
これらの課題を克服するために実開平5-36420のようにコンタクトレンズを器具に固定して、モーターの力で高速回転したブラシで洗浄する器具が出願されているが、装置が大掛かりであるという問題点を有する。
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、コンタクトレンズを洗浄する作業を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
コンタクトレンズを洗浄する器具であって、動力により軸部を駆動する把持部に取り付けられ、軸部に基端が着脱自在に取り付けられる柄と、柄の先端側に設けられた洗浄部で構成され、洗浄部の先端をコンタクトレンズに接触させた状態で、軸部の駆動により洗浄部を運動させることでコンタクトレンズの洗浄が可能な器具。これにより手に汚れや傷があったり、薬品類が手に付着したりしている状態でも、MPSを用いたコンタクトレンズの洗浄作業における「擦り洗い」を実行できる上に、事前の入念な手洗いが不要になるため時間を短縮できる。
【0014】
把持部として、歯ブラシが取り外された状態の電動歯ブラシを用いるコンタクトレンズ洗浄のための器具とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば手に汚れや傷があったり、薬品類が手に付着したりしている状態でも、MPSを用いたコンタクトレンズの洗浄作業における「擦り洗い」を実行できる上に、事前の入念な手洗いが不要になるため時間を短縮できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図5】洗浄器具「A-1」と、その他の本発明の実施に必要なもの
【
図6】洗浄器具「A-1」によるコンタクトレンズ洗浄中の図
【
図7】
図1と
図3の洗浄器具でコンタクトレンズ洗浄中の断面図
【
図8】
図2と
図4の洗浄器具でコンタクトレンズ洗浄中の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
コンタクトレンズを洗浄する器具であって、動力により軸部130を駆動する把持部110に取り付けられ、軸部130に基端20が着脱自在に取り付けられる柄10と、柄10の先端側に設けられた洗浄部30で構成され、洗浄部30の先端をコンタクトレンズ200に接触させた状態で、軸部130の駆動により洗浄部30を運動させることでコンタクトレンズ200の洗浄が可能な器具。
【0018】
把持部110として、歯ブラシが取り外された状態の電動歯ブラシ100を用いるコンタクトレンズ洗浄のための器具。
【0019】
電動歯ブラシは、歯と歯、または歯と歯茎の狭い隙間の汚れを落とすためにブラシの毛はナイロンなど細く硬い合成繊維で作られているため、電動歯ブラシをそのままコンタクトレンズの洗浄に利用するとコンタクトレンズに傷がつく恐れがある。したがって電動歯ブラシの運動を利用してコンタクトレンズを洗浄するには専用の器具が必要であるが、多くの電動歯ブラシはモーターとバッテリーを内蔵する把持部から、ブラシを備える柄を取り外して交換できるように作られているので、歯磨き以外の用途の器具を装着するのは容易である。
【0020】
そして動力源である電動歯ブラシの運動の仕組みは大きく分けて「回転式」と「振動式」に分類される。
【0021】
まず「回転式」とは 特表平7-505814に記されているように、回転するモーターによる軸部の運動をブラシに伝える方式で、回転運動をするブラシが歯の汚れを落とす方式である。
【0022】
次に「振動式」とは、ブラシが軸部の振動にともない上下左右に振動することで汚れを落とす方式の電動歯ブラシである。「振動式」の代表は、特開2003-164473に記されている偏心重錘モーターが起こす振動によってブラシの柄が軸方向に対して垂直に振動し、そしてその垂直振動する柄の先端に取り付けられたブラシが歯の汚れを落とす方式である。
【0023】
その他に「振動式」の電動歯ブラシには、特開平9-252843に記されているリニアオシレーターを利用した水平に振動する電動歯ブラシがあり、これはブラシの柄が軸方向に対して水平に振動し、歯磨きにおける「横磨き」を実現できる電動歯ブラシである。
【0024】
以上の3種の電動歯ブラシの動作に合わせて、電動歯ブラシ100に装着できるコンタクトレンズ洗浄器具1が、「擦り洗い」の動作を実行するための形状を二種類提案する。
【0025】
〈1〉回転式および、軸方向に対して垂直に振動する電動歯ブラシ100の軸部130に装着する洗浄器具1で、
図1と
図2のように把持部110の軸部130に取り付けられている柄10aが直線型で、その先端に洗浄部30が取り付けられている形状である。これを「ブラシA」とする。
【0026】
〈2〉軸方向に対して水平に振動する電動歯ブラシ100に装着する洗浄器具1で、
図3と
図4のように把持部110の軸部130に取り付けられている柄10bの先端が軸方向に対して直角に曲がり、その先端に洗浄部30が取り付けられている形状である。これを「ブラシB」とする。
【0027】
続いて洗浄部30に求められる条件は二つある。
(α)コンタクトレンズ200に傷がつかない形状と素材であること。
(β)いかなる曲面を描くコンタクトレンズ200でも十分な接触面積が得られる形状を有していること。なぜならコンタクトレンズ200は個人個人の「度」の強さと眼球の曲面に合わせるために、わずかではあるが曲面の形状に差がある。さらにメーカー毎に使われている素材の違いによっても曲面の形状に差異があるからである。
【0028】
まず(α)の解決案は、
(α―1)洗浄器具1の洗浄部30の表面が平滑で、かつ鋭利な箇所が無いこと。
(α―2)コンタクトレンズ200に付着した硬質な微粒子との摩擦によって洗浄部30に傷が入り、その傷によって鋭利な箇所が発生しても、その箇所がコンタクトレンズ200に傷をつける要因とならない素材を用いること。
【0029】
続いて(β)の解決案は、
(β―1)洗浄部30の形状を
図1と
図3のようなブラシ型30cとし、ブラシの毛一本一本の先端をできる限り細く本数を多くする。そして毛の素材はヤング率が低く弾性限界の高い素材にすることで、
図6のようにいかなる曲面を描くコンタクトレンズ200であってもブラシを軽くコンタクトレンズ200に押し付けるだけでブラシ型30cの毛が屈曲して、先端がコンタクトレンズ200の表面に接触できるようにする。
(β―2)洗浄部30の形状を
図2と
図4のような傘型30dとし、
図7のように洗浄器具1の柄10の先端側に取り付けられた傘型30dの先端にある笠の凸面をコンタクトレンズ200の凹面に接触させる。この際、笠とコンタクトレンズ200の接触面積を広くするために、笠は軽い力で変形し、笠の凸面がコンタクトレンズ200の凹面に追従できる素材と形状が望ましい。したがって笠が変形しやすいようにヤング率が低く弾性限界の高い素材を用い、そして笠の厚さを薄くする。
【0030】
以上(α‐1)から(β―2)より、コンタクトレンズ200に接する洗浄部30の素材はエラストマーが最も適している。ではエラストマーの中で何が適しているか検討するために、さらに洗浄部30の素材に必要な条件を5点挙げる。
(a)耐加水分解性に優れていること。
(b)耐薬品性に優れていること。
(c)MPSによる擦り洗いの目的はコンタクトレンズ200の細菌・微生物を減らすことでもあるから、耐微生物性に優れていること。
(d) リサイクルが可能など、環境への負荷が少ないこと。
(e) 材料コストまたは製造コストが低いこと。
【0031】
以上(a)から(e)より、エラストマーの中では、ポリエーテル系のポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)が最も適している。ポリエーテル系TPUは(a)から(d)までの条件を満たし、さらに射出成型による大量生産が可能だから(e)の条件も満たしている。なお連続耐熱使用温度は80℃と熱に弱い素材であるが、MPS 300は常温で使用する洗浄液なので問題はない。
【0032】
また洗浄器具1の柄10の素材は、従来の歯ブラシの柄に使われているポリプロピレンなど周知の汎用プラスチック、またはポリアセタールなどエンジニアリングプラスチックを使用する。
【0033】
以上を踏まえて、電動歯ブラシ100の把持部110に装着でき、コンタクトレンズ200の擦り洗いが実現できる洗浄器具1を四種類提案する。
図1から
図4は、電動歯ブラシ100の把持部110の軸部130に取り付けられた四種類の洗浄器具1を示した図である。
【0034】
まず
図1と
図2のように直線型の柄10aで、その先端部に洗浄部30が取り付けられている「洗浄器具A」のうち、
図1のように洗浄部がブラシ型30cの洗浄器具1を「A-1」、
図2のように「洗浄器具A」の形状で、洗浄部30が傘型30dの洗浄器具1を「A-2」とする。
【0035】
つづいて
図3と
図4のように、先端側が軸方向に対して垂直に曲がっている柄10bに洗浄部30が取り付けられている「洗浄器具B」のうち、洗浄部がブラシ型30cの洗浄器具1を「B-1」、洗浄部30が傘型30dの洗浄器具1を「B-2」とする。
【実施例】
【0036】
[1]歯ブラシを外した状態の電動歯ブラシ100の把持部110の軸部130に、洗浄器具1を取り付ける。
図1は洗浄器具1「A-1」の基端20を、電動歯ブラシ100の把持部110の軸部130に取り付けた状態を示している。同様に
図2から
図4は洗浄器具1の「A-2」、「B-1」、「B-2」を軸部130に取り付けた状態を示している。
【0037】
[2]
図5は
図1の洗浄器具1の「A-1」を用いて本発明を実施するのに必要な物を示している。
図5の200はこれから洗うコンタクトレンズ、300は洗浄液MPS(マルチ・パーパス・ソリューション)、400は容器である。洗浄器具1の「A-2」、「B-1」、「B-2」においても本発明に必要な物は同じである。
図5の容器400は、右側の蓋410が開けられ、MPS300が満たされている状態を示している。その中に片方の眼球から外したコンタクトレンズ200を浸す。
【0038】
[3]つづいて洗浄部30の先端を、容器400内のコンタクトレンズ200に接触させて、電源120を入れる。そして10秒以上、軽くおしあてる。その際、全体を傾けて、軽く円を描くように動かす。
図6はその実施中の図である。そして
図7と
図8は、その断面図である。
図7はブラシ型の洗浄部30cの、
図8は傘型洗浄部30dの実施中の断面図である。軸部130の駆動によって、洗浄部30がコンタクトレンズ200を擦り、MPS300に浸されたコンタクトレンズ200の汚れを落とす。
【0039】
[4]電動歯ブラシ100の電源120 を切り、洗浄部30を一旦コンタクトレンズ200から離し、容器400内のMPS300のみを捨てる。つづいて容器内に残ったコンタクトレンズ200を取り出して裏返し、再び容器400に入れ、MPS300を注ぐ。そして[3]の作業を再び行い、コンタクトレンズ200の反対側も洗浄を行う。
【0040】
[5]再び容器400内のMPS300のみを捨て、新たにMPSを注ぎ、蓋410を閉める。そして4時間以上コンタクトレンズ200をMPS300に浸して消毒を行う。
【0041】
[6]容器400のもう一方の蓋410開けMPS300を注ぎ、もう片方の眼球から外したコンタクトレンズ200を浸し[3]から[5]までの作業を行う。なお片方のコンタクトレンズ200のみ洗浄したい場合には、この工程は不要である。
【0042】
[7]最後に歯ブラシ同様に清潔さを維持するために洗浄部30の水洗いをおこない、そして3か月に一回程度の割合で新品の洗浄器具1と交換する。
【符号の説明】
【0043】
1 洗浄器具
10 洗浄器具1の柄
10a 「洗浄器具A」の柄
10b 「洗浄器具B」の柄
20 柄10の基端
30 洗浄器具1の洗浄部
30c ブラシ型洗浄部
30d 傘型洗浄部
100 電動歯ブラシ
110 把持部
120 電源スイッチ
130 軸部
200 コンタクトレンズ
300 MPS(マルチ・パーパス・ソリューション)
400 容器
410 容器の蓋
500 実施者の手