(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】有機EL素子
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20220728BHJP
C08G 73/04 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
H05B33/22 B
H05B33/14 A
C08G73/04
(21)【出願番号】P 2018024376
(22)【出願日】2018-02-14
【審査請求日】2021-02-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度よりの、国立研究法人科学技術振興機構、産学イノベーション加速事業「戦略イノベーション創出推進」、「印刷で製造するフレキシブル有機EL照明の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】大久 哲
(72)【発明者】
【氏名】夫 勇進
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 大
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-525613(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166562(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107546328(CN,A)
【文献】特開2017-145198(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0035979(US,A1)
【文献】国際公開第2013/094456(WO,A1)
【文献】特開2013-026483(JP,A)
【文献】国際公開第2012/005116(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H01L 51/50 - 51/56
C08G 73/04
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、一層または複数層からなる有機薄膜層が挟持された有機EL素子であって、前記有機薄膜層の少なくとも一層が
、ポリエチレンイミン誘導体と架橋剤との架橋物からなる不溶化膜であ
り、
前記ポリエチレンイミン誘導体が下記構造式を有するPEIEであり、
前記架橋剤がシランカップリング剤であることを特徴とする有機EL素子。
【化1】
【請求項2】
前記シランカップリング剤が、ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド(DMOAP)、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン(AAPTS)、
(3-ブロモプロピル)トリメトキシシラン(BPTMS)、トリメトキシフェニルシラン(TMPS)、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン(TPAPS
)、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン(BTMSE)、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン(AEAPTMS)またはトリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン(PAPMS)である請求項
1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、分子内にアンモニウムイオンを持つシランカップリング剤であることを特徴とする請求項
1に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記不溶化膜中、架橋剤の含有量が4~10wt%である請求項1~
3のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記有機薄膜層が電子注入層である請求項1~
4のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布型有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELは、電流注入により自発光する現象であり、この現象を利用した有機ELデバイス(OLED)は、高視野角、高コントラスト、極薄構造、低電圧駆動、及び高い応答速度などの特長を有することから、次世代型面発光デバイスとして照明やディスプレイへの応用が期待されている。
【0003】
このようなOLEDの生産プロセスには蒸着型と塗布型が知られている。このうち、塗布型OLEDは、大面積化や低コストの点で有利であるが、一般に塗布型OLEDは蒸着型OLEDより性能に劣る傾向にあり、発光効率の向上に課題を有している。発光効率の向上には、発光層内で電子と正孔とを効率良く再結合させるべく、異なる有機材料を積層して、電荷輸送及び発光の機能を分離することが有効だが、塗布溶媒による下層の再溶解を防ぐ必要がある。これまで下層に使用できる材料は、耐溶媒性に優れた一部の高分子に限られ、高純度化や分子構造の制御の容易の観点から、低分子材料でも積層構造を形成する技術が要望されている。
【0004】
また50インチ以上の大型の有機ELディスプレイでは、中小型のものと比べてより高輝度が必要とされ、すでに蒸着型で用いられている長寿命化技術であるタンデム型(マルチフォトン型)が不可欠とされている。高輝度・長寿命の両立が期待されるタンデム型有機EL素子の高性能化には、電子注入層(EIL)及び隣接する上層の電荷発生層(CGL)の高性能化が必要である。特にEILは、優れた電子注入性と上層塗布溶媒の下層への浸透を防止する溶媒浸透防止機能、及び高い駆動安定性を同時に実現する必要がある。これまでに本発明者らは、EILに酸化亜鉛ナノ粒子(ZnONPs)とエトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)を、CGLにリンモリブデン酸(PMA)を用いることで(非特許文献1)、還元したPMAが成膜後の後処理なしに低電圧駆動することを見出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Pu et al., Adv. Mater. 2015, 27, 1327-1332.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、還元PMAは主にアルコール溶媒に溶解するため、アルコール溶媒に可溶な下層のPEIE上に塗布積層ができない。このような問題を解決する方法としては、PEIEを架橋して不溶化する方法があるが、架橋してしまうと、電子注入性を発揮するNHやOHがなくなり、電子注入能力が低下するという問題があった。そのため、ポリエチレンイミン誘導体の架橋によるアルコール溶媒への不溶化を検討する必要があった。よって、本発明では、塗布型の有機EL素子の電子注入層に好適なポリエチレンイミン誘導体材料及びこれを用いた有機EL素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機EL素子は、一対の電極間に、一層または複数層からなる有機薄膜層が挟持され、前記有機薄膜層の少なくとも一層が、下記構造式で表されるポリエチレンイミン誘導体と架橋剤との架橋物からなる不溶化膜であることを特徴とする。
【化1】
【0008】
前記ポリエチレンイミン誘導体はPEIであり、前記イオン性官能基を持つ架橋剤はジハロゲン化アルカンであることが好ましい。前記架橋剤はイオン性部位を持つ化合物であることが好ましい。
【化2】
【0009】
前記ジハロゲン化アルカンは、1,4-ジヨードブタン(DIB)、1,6-ジヨードヘキサン(DIH)、1,8-ジヨードオクタン(DIO)、1,10-ジヨードデカン(DID)、1,6-ジブロモヘキサン(DBH)、1,8-ジブロモオクタン(DBO)または1,10-ジブロモデカン(DBD)であることが好ましい。
前記ポリエチレンイミン誘導体はPEIEであり、前記架橋剤はシランカップリング剤であることが好ましい。
【化3】
【0010】
前記シランカップリング剤は、ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド(DMOAP)、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン(AAPTS)、(3-ブロモプロピル)トリメトキシシラン(BPTMS)、トリメトキシフェニルシラン(TMPS)、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン(TPAPS)、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン(BTMSE)、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン(AEAPTMS)またはトリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン(PAPMS)であることが好ましい。
前記シランカップリング剤は、分子内にアンモニウムイオンを持つシランカップリング剤であることが好ましい。
前記不溶化膜中、イオン性官能基を持つ架橋剤の含有量は4~10wt%であることが好ましい。
前記有機薄膜層が電子注入層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエチレンイミン誘導体は、特定の架橋剤とともに架橋することで、有機EL素子において、溶媒に不溶な有機薄膜層を形成することができる。つまり、前記有機薄膜層の上にさらに上の層を塗布法で形成しても層が再溶解することない。
上記ポリエチレンイミン誘導体からなる有機薄膜層を備えた本発明の有機EL素子は、従来の有機EL素子と同等以上の電子注入性、駆動電圧及び駆動安定性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る素子構成を表す。
【
図2】
図2は、石英基板上に形成された、ポリエチレンイミン(PEI)単体、並びにPEI及び1,8-ジヨードオクタン(DIO)の混合物(10wt%DIO)の塗膜を加熱処理後、それぞれ、1-ブタノール(BuOH)でリンス処理した後のUV-vis吸収スペクトルを表す。
【
図3】
図3は、石英基板上に形成された、エトキシ
ル化ポリエチレンイミン(PEIE)単体、並びにPEIE及びジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド(DMOAP)の混合物(10wt%DMOAP及び20wt% DMOAP)の塗膜を加熱処理後、それぞれ、1-ブタノール(BuOH)でリンス処理した後のUV-vis吸収スペクトルを表す。
【0013】
【
図4】
図4は、架橋PEI及び架橋PEI:4wt% DIOをそれぞれ電子注入層に用いた場合の電流密度-電圧特性(a)、輝度-電圧特性(b)、寿命特性(相対輝度の経時変化)(c)を表す。
【
図5】
図5は、架橋PEIE、架橋PEIE:10wt% DMOAP、及び架橋PEIE:20wt% DMOAPをそれぞれ電子注入層に用いた場合の電流密度-電圧特性(a)、輝度-電圧特性(b)、寿命特性(相対輝度の経時変化)(c)を表す。
【
図6】
図6は、実施例3の素子において、架橋PEIE、架橋PEIE:10wt% TMPS、架橋PEIE:10wt% TPAPS、及び架橋PEIE:20wt%BTMSEをそれぞれ電子注入層に用いた場合の電流密度-電圧特性(a)、電流密度-電圧特性(b)、輝度-電圧特性(c)、量子効率-電流密度特性(d)、電流効率-電流密度特性(e)、電力効率-電流密度(f)、ELスペクトル(g)、寿命特性(相対輝度の経時変化)(h)、電圧・寿命(電圧の経時変化)(i)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有機EL素子は、一対の電極間に、一層または複数層からなる有機薄膜層が挟持され、該有機薄膜層の少なくとも一層が、下記構造式で表されるポリエチレンイミン誘導体とイオン性官能基を持つ架橋剤との架橋物からなる不溶化膜である。以下、本発明の構成要素について詳細に説明する。
【0015】
上記有機EL素子は、支持基板上に、少なくとも陽極、発光層及び陰極を備えた構造(単層型)からなる。前記有機EL素子の層構造を具体的に示すと、陽極/ホール輸送層/発光層+電子輸送層/陰極(二層型)、陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極(三層型)、陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子注入層/陰極(四層型)、陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極(五層型)などが挙げられる。
上記した有機薄膜層に加えて、ホールブロック層または電子ブロック層などの層を必要に応じて設けてもよい。
【0016】
陰極と発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。陰極と発光層との間に電子注入層と電子輸送層との両方を設ける場合、陰極に近い層が電子注入層であり、発光層に近い層が電子輸送層である。陽極と発光層との間に設けられる層としては、ホール注入層、ホール輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。陽極と発光層との間にホール注入層とホール輸送層との両方を設ける場合、陽極に近い層がホール注入層であり、発光層に近い層がホール輸送層である。
本発明における有機薄膜層は、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、及び電子注入層などをいう。
図1は実施例の五層型のデバイス構造を示している。
【0017】
本発明の有機ELにおいて、上記有機薄膜層の少なくとも一層は、下記構造式で表されるポリエチレンイミン誘導体とイオン性官能基を持つ架橋剤との架橋物からなる不溶化膜である。
【化4】
【0018】
前記ポリエチレンイミン誘導体は、ポリエチレンイミン(PEI)またはエトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)であり、アミノ基や水酸基が大きな双極子を形成することから、電子注入材料として有効である。これらの化合物は水やアルコールに溶解するため、塗布により層形成をすることができる。しかしながら、すでに上記のとおり、水・アルコール溶解性材料を、上層を形成するために塗布しようとすると、これらの化合物は再び溶解してしまい、塗布できないという問題がある。また、不溶化のため、PEI層やPEIE層を形成後、架橋すると、電子注入性を発揮するNHやOHが失われるという問題もある。
【0019】
本発明では、ポリエチレンイミン(PEI)またはエトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)を、特定の架橋剤とともに架橋することで、電子注入性を低下させることなく、有機薄膜層を不溶化できることを見出している。
【0020】
前記ポリエチレンイミン誘導体がポリエチレンイミン(PEI)である場合、イオン性官能基を持つ架橋剤には、ジハロゲン化アルカンが好ましい。
【0021】
前記ジハロゲン化アルカンとしては、室温で固体または液体であり、沸点が120~200℃であるものが好ましく、具体的には、1,4-ジヨードブタン(DIB)、1,6-ジヨードヘキサン(DIH)、1,8-ジヨードオクタン(DIO)、1,10-ジヨードデカン(DID)、1,6-ジブロモヘキサン(DBH)、1,8-ジブロモオクタン(DBO)または1,10-ジブロモデカン(DBD)がより好ましい。
【0022】
PEIと前記ジハロゲン化アルカンとを混合した混合溶液を基板上にスピンコートし、概ね120~200℃、好ましくは120~140℃で加熱することで基板上に架橋膜が形成される。
前記ジハロゲン化アルカンの添加量は混合溶液中、概ね1~75wt%、好ましくは1~20wt%、より好ましくは4~10wt%である。
【0023】
前記ジハロゲン化アルカンの添加量で加熱した架橋膜は1-ブタノールに対する耐溶剤性に優れ、例えば、電子注入層として好適に用いることができる。
【化5】
【0024】
一方、前記ポリエチレンイミン誘導体がエトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)である場合、架橋剤には、下記構造式で表されるシランカップリング剤が好ましい。前記シランカップリング剤は、具体的には、ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド(DMOAP)、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン(AAPTS)、(3-ブロモプロピル)トリメトキシシラン(BPTMS)、トリメトキシフェニルシラン(TMPS)、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン(TPAPS)、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン(BTMSE)、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン(AEAPTMS)またはトリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン(PAPMS)が好ましい。
【0025】
【0026】
PEIEと前記シランカップリング剤とを混合した混合溶液を基板上にスピンコートし、概ね60~120℃、好ましくは60~80℃で加熱することで基板上に架橋膜が形成される。
前記シランカップリング剤の添加量は混合溶液中、概ね1~20wt%、好ましくは4~10wt%である。
【0027】
前記ジハロゲン化アルカンの添加量で加熱した架橋膜は1-ブタノールに対する耐溶剤性に優れ、例えば、電子注入層として好適に用いることができる。
前記シランカップリング剤は、分子内にアンモニウムイオンを持つシランカップリング剤がイオン性を有する点でより好ましく、DMOAPが特に好ましい。DMOAPを用いて架橋すると、1-ブタノールなどの耐溶剤性に優れるとともに、架橋後にもイオン性部位が残存するために、良好な電荷移送の効果を発揮する。
【0028】
上記不溶化膜中、架橋剤の含有量は4~10wt%であることが好ましい。
上記有機薄膜層は、双極子形成が大きい点で、電子注入層に用いることが特に好ましい。
【0029】
次に上記有機EL素子を構成する各層の構成材料について説明する。
<支持基板>
支持基板には、ボトムエミッション型の有機EL素子の場合、光透過性を示すものが用いられ、トップエミッション型の有機EL素子の場合、光透過性又は不透光性のものが用いられる。
支持基板には、具体的には、ガラス板、金属板、プラスチック、高分子フィルム、及びシリコン板、並びにこれらを積層したものなどが用いられる。
【0030】
<陽極>
ボトムエミッション型の有機EL素子の場合、陽極には光透過性を示す電極が用いられ、例えば、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物及び金属等の薄膜が挙げられ、具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、金、白金、銀、及び銅等からなる薄膜が用いられる。また、ポリアニリン若しくはその誘導体、又はポリチオフェン若しくはその誘導体等の有機の透明導電膜を陽極として用いてもよい。
トップエミッション型の有機EL素子の場合、陽極には、光を反射する材料を用いてもよく、このような材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
陽極の膜厚は、通常20nm~1μmであり、好ましくは50nm~500nmである。
【0031】
<ホール注入層>
ホール注入材料としては、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム及び酸化アルミニウム等の酸化物、並びにフェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、アモルファスカーボン、ポリアニリン、及びポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT:PSS)等のポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
ホール注入層は、例えば、ホール注入材料を含む溶液からの成膜が挙げられる。このときの溶媒には、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート、及び水等が挙げられる。
ホール注入層の膜厚は、通常1nm~1μmであり、好ましくは5nm~200nmである。
【0032】
塗布型の有機EL素子の場合、寿命の向上の観点から、ホール注入層と発光層との間に、インターレイヤー(IL)材料として、電子供与性を有する有機化合物、例えば、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-N-(4-ブチルフェニル)ジフェニルアミン)(TFB)等を用いてもよい。
【0033】
<発光層>
発光層は、通常、主成分であるホスト材料と、少量成分であるゲスト材料(ドーパント)とを含む。赤・緑・青の三原色のうち、特に赤色や緑色の発光は、ゲスト材料の性質に起因する。
ホスト材料には、電子輸送性またはホール輸送性の材料が用いられる。具体例には、4,4’-ビスカルバゾリルビフェニル(CBP)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-9,10-フェナントロリン(BCP)などがある。
ゲスト材料は、所望の発光色に応じて選択される。なお、緑色に発光する材料には、例えば、イリジウム錯体(トリス(2-フェニルピリジナト)イリジウム(III) (Ir(ppy)3))、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが挙げられる。赤色に発光する材料には、例えば、トリス[1-フェニルイソキノリン-C2,N]イリジウム(III)(Ir(piq)3)、トリス[2-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)ピリジナト-C3,N]イリジウム(III)(Ir(btpy)3)、ビス(2-ベンゾ[b]チオフェン-2-イル-ピリジン)(アセチルアセトン)イリジウム(III)(Ir(btp)2acac)、ビス(2-フェニルキノリン)(アセチルアセトナト)イリジウム(III)(Ir(2-phq)2acac)などが挙げられる。
【0034】
<電子注入層>
電子注入層は、少なくとも、本発明のポリエチレンイミン誘導体を架橋してなる層を含む。
電子注入層は、上記の架橋ポリエチレンイミン誘導体層以外に、さらに、炭酸セシウム(Cs2CO3);8-キノリノラトナトリウム(Naq)、8-ヒドロキシキノリノラートリチウム(Liq)、リチウム2-(2-ピリジル)フェノラート(Lipp)、及びリチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノラート(Libpp)等のリチウムフェノラート塩等のアルカリ金属塩;並びに酸化亜鉛(ZnO)からなる層を有してもよい。これらの材料は、通常、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール(TFPO)等の有機溶媒や、有機ポリマーバインダーに添加して用いられる。
上記ポリエチレンイミン誘導体の架橋体からなる層は、大気中で安定に存在し、かつ、電荷の注入性や輸送性に優れるため、高輝度で発光する素子が得られる。
架橋ポリエチレンイミン誘導体層は、該ポリエチレンイミン誘導体を塗布した後、60~140℃で加熱して架橋させることにより形成する。
電子注入層の膜厚は、駆動電圧と発光効率とが適度な値となり、かつ、ピンホールが発生しない厚さとすればよく、通常1nm~1μm、好ましくは2nm~200nmであり、発光層を保護する観点から、5nm~1μmがより好ましい。
【0035】
<陰極>
陰極には、一般的にAlの金属電極が用いられる。その他、例えば、PEDOT:PSS等の導電性樹脂からなる薄膜、並びに樹脂及び導電性フィラーからなる薄膜等が用いられる。
樹脂及び導電性フィラーからなる薄膜の場合、樹脂には導電性樹脂が使用でき、導電性フィラーには、金属微粒子や導電性ワイヤー等を使用できる。導電性フィラーには、Au、Ag、Al、Cu、及びC等が使用できる。
【0036】
本発明の有機EL素子は、上記した各層を塗布法により、順次積層することによって形成される。ただし、陽極は、溶液塗布法の他に、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、及びメッキ法等によって形成してもよい。また、陰極は、塗布成膜法に代えて、いわゆるラミネート法によって形成してもよい。
【0037】
一例として、五層型のデバイスの形成方法を説明する。まず表面にあらかじめITO電極が形成された支持基板を用意し、該支持基板上にホール注入材料としてPEDOT:PSSを含むインクを塗布成膜し、ホール注入層を形成する。インターレイヤー材料としてTFBを含むインクをホール注入層上に塗布成膜してインターレイヤー層を形成し、次いで、ホスト材料と発光材料であるIr(ppy)3とを含むインクをホール輸送層上に塗布成膜して発光層を形成した後、電子輸送材料として上ZnOナノ粒子を含むインクを発光層上に塗布成膜し、電子注入材料として上記ポリエチレンイミン誘導体を含むインクを電子輸送層上に塗布成膜し、電子注入層を形成する。Al陰極を塗布により形成して有機EL素子を作製する。
【0038】
上記のようにして得られる本発明の有機EL素子は、従来の有機EL素子と同等以上の電子注入性、駆動電圧及び駆動安定性を備えた塗布型の有機EL素子として、中型~大型の有機ELパネル用途への適用が期待できる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0040】
[試験例]ポリエチレンイミン誘導体の架橋と耐溶媒性試験
ポリエチレンイミン(PEI)及びエトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)を架橋し、上層塗布溶媒である1-ブタノール(BuOH)に対する耐溶媒性試験を行った。
石英基板上に、ポリエチレンイミン誘導体(PEI及びPEIE)単体、または、ポリエチレンイミン誘導体と架橋剤との混合溶液をスピンコートし、加熱処理後にBuOHでリンス処理した。リンス前後でのUV-vis吸収スペクトルの吸光度の差から、耐溶媒性を評価した。
【0041】
PEIの架橋では、架橋剤に1,8-ジヨードオクタン(DIO)を用いた(Stolz et al., J. Mater. Chem. C, 2016, 4, 11150-11156.)。PEI及びDIOの混合溶液(10wt%DIO)を石英基板上に塗布成膜した後、140℃で加熱処理して架橋した。PEI単体は、BuOHのリンス処理後に吸光度が減少しており、再溶解を確認した(
図2(a))。一方、架橋PEI:DIOはリンス前後で吸光度が減少しておらず、PEIがDIOとの反応により不溶化したことを確認した(
図2(b))。
【0042】
【0043】
PEIEの架橋では、架橋剤に加水分解性基を有するシラン系材料ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド(DMOAP)を用いた。PEIE及びDMOAPの混合溶液(10wt%DMOAPまたは20wt% DMOAP)を基板に塗布成膜した後、65℃で加熱処理して架橋した。PEIE単体は、BuOHのリンス処理後に吸光度が減少しており、BuOHへの再溶解が確認された(
図3(a))。一方、10wt%のDMOAPを添加したものは若干の耐溶媒性を示した。DMOAPを20wt%添加したものはリンス前後の吸光度に変化がなく、PEIEの完全な不溶化が確認された(
図3(b))。
【0044】
PEIE及びDMOAPを以下に示す。
【化8】
PEI及びPEIEはいずれも架橋することができ、特にPEIEは65℃という低温処理で架橋することができた。
【0045】
[実施例1]架橋PEIの塗布型有機EL素子への応用
架橋PEIの電子注入性を検証するために、スピンコートにより、下記の素子構造を有する塗布型有機EL素子を作製した。
[ITO / PEDOT:PSS(30nm) / IL(20nm) / 低分子系ホスト:10wt% Ir(ppy)
3 (70nm) / ZnONPs (10nm) / EIL(20nm) / Al(100nm)]
低分子系ホストには以下の化合物を使用した。
【化9】
【0046】
EIL(電子注入層)には、PEI単体、及び架橋PEI:4wt% DIOを用い、IL(インターレイヤー)にはTFBを用いた。
PEDOT:PSS及びTFBを以下に示す。
【化10】
デバイス特性と寿命特性を
図4に示す。架橋PEI:4wt% DIOは、PEI単体の有機EL素子と同等の電子注入性(
図4(a))、駆動電圧(
図4(b))、及び駆動安定性(
図4(c))を示した。
【0047】
[実施例2]架橋PEIEの塗布型有機EL素子への応用
架橋PEIEの電子注入性を検証するために、スピンコートにより、下記の素子構造を有する塗布型有機EL素子を作製した。
[ITO / PEDOT:PSS(30nm) / IL(20nm) / 低分子系ホスト:10wt% Ir(ppy)3 (70nm) / ZnO NPs(10nm) / EIL(20nm) / Al(100nm)]
【0048】
EILには、PEIE単膜、架橋PEIE:10wt% DMOAP、及び架橋PEIE:20wt% DMOAPを用い、ILには(TFB)を用いた。
デバイス特性及び寿命特性を
図5に示す。PEIE:10wt%DMOAPは、PEIE単体をEILに用いた有機EL素子と同等の電子注入性、駆動電圧、駆動安定性を示した。架橋PEIE:20wt%DMOAPは、PEIE単体と同等の駆動電圧を示したが(
図5(b))、電子注入性において高電圧化し(
図5(a))、駆動安定性では短寿命な結果となった(
図5(c))。高電圧化した原因として、DMOAPの添加量による絶縁性の増大と架橋によってPEIEが剛直となり、電子注入に寄与する双極子が形成しにくくなったためではないかと考察される。
【0049】
架橋ポリエチレンイミン誘導体は、PEI単膜やPEIE単膜とほぼ同等の電子注入性・駆動電圧・駆動安定性を示した。加熱条件の最適化や新規架橋剤を探索することで、塗布型有機EL素子の性能向上が見込めると考えられる。
【0050】
[実施例3]架橋PEIの塗布型有機EL素子への応用
架橋剤にTMPS、TPAPS、及びBTMSEを用いた場合の架橋PEIの電子注入性を検証するために、スピンコートにより、下記の素子構造〔1〕~〔4〕を有する塗布型有機EL素子を作製した。
〔1〕ITO / PEDOT:PSS/ TFB / BCTIC:10wt% Ir(ppy)3 / ZnO / PEIE(20nm) / Al
〔2〕ITO / PEDOT:PSS/ TFB / BCTIC:10wt% Ir(ppy)3 / ZnO / PEIE:10wt%TMPS(20nm) / Al
〔3〕ITO / PEDOT:PSS/ TFB / BCTIC:10wt% Ir(ppy)3 / ZnO / PEIE:10wt%TPAPS(20nm) / Al
〔4〕ITO / PEDOT:PSS/ TFB / BCTIC:10wt% Ir(ppy)3 / ZnO / PEIE:20wt%BTMSE(20nm)/ Al
【0051】
TMPS、TPAPS、及びBTMSEを以下に示す。
【0052】
【化11】
デバイス特性を
図6に示す。
PEIE単膜よりも、PEIEと架橋剤(TMPS、TPAPS、BTMSE)との架橋PEIEを用いた場合のほうがデバイスが長寿命化することを確認した。