(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】心拍計測処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/02 20060101AFI20220728BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
A61B8/02
A61B5/0245 Q
(21)【出願番号】P 2018033482
(22)【出願日】2018-02-27
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003203
【氏名又は名称】弁理士法人大手門国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100111855
【氏名又は名称】川崎 好昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 好雄
(72)【発明者】
【氏名】西島 浩二
(72)【発明者】
【氏名】玉村 千代
(72)【発明者】
【氏名】浅井 竜哉
(72)【発明者】
【氏名】森 幹男
(72)【発明者】
【氏名】荒木 睦大
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/194392(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0073094(US,A1)
【文献】特表2010-534091(JP,A)
【文献】特開2009-039240(JP,A)
【文献】特開平10-085194(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00835633(EP,A2)
【文献】特開2011-136164(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0160591(US,A1)
【文献】実開昭56-053404(JP,U)
【文献】国際公開第2009/012564(WO,A1)
【文献】特開平11-104135(JP,A)
【文献】工藤美樹,15.胎児臍帯の血流計測,日本産科婦人科学会雑誌,第59巻第6号,日本,社団法人日本産科婦人科学会,2007年06月01日,N-174 - 178
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
A61B 5/02 - 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を照射して検知信号を出力する探触子を備えた胎内検知部と、前記胎内検知部を駆動して検知対象領域である胎盤に向かって超音波を照射して検知信号を取得する送受信部と、前記検知信号に基づいて前記検知対象領域の画像を生成するとともに前記検知対象領域の位置情報を取得する画像処理部と、前記位置情報に基づいて
前記胎盤に付着する臍帯動脈の根元部分に対応して配置された前記胎内検知部の前記探触子の前記検知信号に基づいて
前記胎盤に付着する臍帯動脈
の根元部分の脈拍信号を取得する信号処理部と、前記脈拍信号に基づいて胎児の心拍データを算出する心拍処理部とを備えている心拍計測処理装置。
【請求項2】
前記検知信号を脈拍信号処理又は画像処理で処理するように切り換える切換処理部を備えている請求項1に記載の心拍計測処理装置。
【請求項3】
前記胎内検知部は、複数の前記探触子を備えており、前記信号処理部は、前記検知信号に基づいて前記脈拍信号を出力する前記探触子を選択する請求項1又は2に記載の心拍計測処理装置。
【請求項4】
前記胎内検知部は、複数の前記探触子を中央の前記探触子の周囲に残りの前記探触子を照射範囲が一部重なるか接するように配置している請求項3に記載の心拍計測処理装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記脈拍信号の脈拍数が所定範囲内の前記探触子を選択する請求項3又は4に記載の心拍計測処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎児等の生体の心拍を計測処理する心拍計測処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、産科の医療現場で胎児の健康状態を診断するために、NST(Non Stress Test)で分娩監視装置が広く用いられている。分娩監視装置では、超音波ドプラ効果に基づいて、超音波を送受信する探触子を用い、胎児の心臓の収縮期及び拡張期の振動に伴う胎児の心臓と探触子との距離が変化することで、探触子からの送信超音波が心臓で反射した際に超音波周波数がわずかだけ変化する性質(ドプラ効果と呼ばれる)を検査に利用している。送信超音波とその反射波を掛け合わせることにより、通信分野で用いられる振幅変調された波のエンベロープ部に相当する周波数成分の振動(可聴域の周波数成分で、いわゆる「うなり音(ビート)」とも称されている)が表れる。この周波数成分を音としてスピーカ等で出力することができる。また、心拍数については、自己相関関数を用いた処理により求められることが知られている。
【0003】
通常、分娩監視装置によるNSTの診断では、20分~40分程度の診断時間で、妊婦がリラックス状態で連続的に胎児心拍数の計測を行っている。例えば、特許文献1では、人体に取り付けられた接触検知センサにおいて体内に向かって送信された超音波信号を反射させて検知された心拍状態に関する検知信号を取得する検知処理部と、取得された検知信号の振幅データに基づいて処理して検知信号の周期をリアルタイムで求める心音処理部と、求められた検知信号の周期を高速フーリエ変換により処理してリアルタイムで周波数解析する心音解析部とを備えた心拍状態解析装置が記載されている。
【0004】
従来の分娩監視装置では、反射された超音波の音的情報を基に心拍数を計測しているため、探触子から送信される超音波が正確に胎児の心臓に当たって反射していることが必要となるが、超音波が胎児の心臓に当たって反射されているかを確認する手段が備わっていない。そのため、計測中に子宮内で胎児が動いて胎児の心臓が探触子から送信された超音波信号の照射範囲から外れてしまう場合や、計測中に母親が動くことで計測前に設定された位置から探触子がずれてしまう場合に対して、臨機応変に探触子を調整することにより対応している。計測対象である胎児の心臓の位置が超音波の照射範囲から外れた状態では、連続して胎児心拍数を正確に計測できなくなる。また、例えば、双子以上の多胎児の心拍数計測の場合には、複数の胎児の動きに対して計測対象の胎児が入れ替わってしまうおそれがあり、胎児の個別の心拍数を連続して計測することで対応している。
【0005】
一方、医療現場では、従来より超音波画像診断装置を用いた検査技術が広く普及しており、脳、心臓、血管、内臓等の形状、位置、動作の診断をリアルタイムで行うことができるようになっている。超音波画像診断装置は、胎児の診断にも用いられており、カラードプラ法やパルスドプラ法、Mモード法といった画像診断方法が提案されている(特許文献2~4参照)。こうした超音波画像診断方法では、血管内を流れる血流中の赤血球に超音波を当てることで、ドプラ効果により血流の速さを(最高速度、平均速度等)求めて、その画像をリアルタイムで表示することが可能となっている。
【0006】
そして、胎児を超音波画像診断することで、子宮内での胎児の様子や血流(胎児の臍帯)の方向などを画像としてリアルタイムで表示することができる。また、胎児の血管内の血流の速さに基づいて心拍数を求める機能も提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-229030号公報
【文献】特開2005-087634号公報
【文献】特開2009-119250号公報
【文献】特開2011-098191号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】村下 賢 他3名、「児童胎児心拍数計測機能の開発」、2015年9月、株式会社日立製作所、MEDIX、vol.63、p.35-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の分娩監視装置では、子宮内での胎児の動きに応じて変動する胎児の心臓位置を追跡して心臓位置を絶えず正確に捉える機能がないために、探触子から送信される超音波の照射範囲から胎児の心臓位置が外れることで、安定した心拍解析が難しくなる。
【0010】
超音波画像診断装置を用いて胎児の心拍数を自動的に計測する方法が提案されているが、こうした画像診断技術は短時間で循環器・血流系統の異常を診断するもので、NSTの診断のように長時間にわたって連続して正確に計測することは想定されておらず、胎児の瞬時心拍数を連続して計測するには、安定性や精度面で課題がある。
【0011】
そこで、こうしたNSTの解析を正確に行う上での課題を解決するためには、子宮内での胎児の動きに対して動かないか又は可動範囲が小さい部分に着目して計測対象とすることが考えられる。例えば、ほとんど動かない胎盤に付着している臍帯動脈(臍の緒)に着目して、胎児の心拍数と等価な脈拍数を計測方法が考えられる。臍帯動脈は胎盤に付着して可動範囲はその近傍領域に限定されるため、連続して正確に脈拍数を計測することが期待できる。
【0012】
胎盤に付着している臍帯動脈を計測対象とする場合、臍帯は胎児の心臓に比べて小さく細いために、子宮内で胎児の動きに伴って羊水が揺れることにより、常に、超音波をその細い臍帯動脈に正確に照射させ続けることは難しいという問題がある。また、胎盤に付着している臍帯動脈に超音波を照射する場合、胎盤の外側(胎盤の表側)から当てると、胎盤を通して照射することになり、反射波の強度が弱くなる。また、胎盤の内側(胎盤の裏側)から当てると、胎児の動きにより臍帯動脈が覆われてしまい、安定して計測できない、といった問題がある。また、胎盤位置は母体によって個人差があり、そうした個人差に柔軟に対応して母体にストレスのかからないリラックスした状態で計測ができるようにすることが求められる。
【0013】
そこで、本発明は、胎児等の生体の心拍数を連続して正確に計測処理することができる心拍計測処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る心拍計測処理装置は、超音波を照射して検知信号を出力する探触子を備えた胎内検知部と、前記胎内検知部を駆動して検知対象領域である胎盤に向かって超音波を照射して検知信号を取得する送受信部と、前記検知信号に基づいて前記検知対象領域の画像を生成するとともに前記検知対象領域の位置情報を取得する画像処理部と、前記位置情報に基づいて前記胎盤に付着する臍帯動脈の根元部分に対応して配置された前記胎内検知部の前記探触子の前記検知信号に基づいて前記胎盤に付着する臍帯動脈の根元部分の脈拍信号を取得する信号処理部と、前記脈拍信号に基づいて胎児の心拍データを算出する心拍処理部とを備えている。さらに、前記検知信号を脈拍信号処理又は画像処理で処理するように切り換える切換処理部を備えている。さらに、前記胎内検知部は、複数の前記探触子を備えており、前記信号処理部は、前記検知信号に基づいて前記脈拍信号を出力する前記探触子を選択する。さらに、前記胎内検知部は、複数の前記探触子を中央の前記探触子の周囲に残りの前記探触子を照射範囲が一部重なるか接するように配置している。さらに、前記信号処理部は、前記脈拍信号の脈拍数が所定範囲内の前記探触子を選択する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体の心拍を計測する検知対象領域を画像生成して位置情報を取得し、位置情報に基づいて検知部を配置するようにしているので、正確に計測処理を行うことができる。また、複数の探触子を用いて脈拍信号を出力する探触子を選択することで、検知対象領域が移動した場合でも生体の心拍数を連続して安定した計測処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る心拍計測処理装置の実施形態に関する概略ブロック構成図である。
【
図2】検知部における探触子の配置例に関する説明図である。
【
図4】胎盤及び臍帯動脈に関する超音波画像の一例を示している。
【
図5】脈拍信号の波形及び心拍信号の波形を示すグラフである。
【
図6】脈拍信号から得られた脈拍数及び心拍信号から得られた心拍数の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。
図1は、本発明に係る心拍計測処理装置の実施形態に関する概略ブロック構成図である。心拍計測処理装置は、処理部10、記憶部11、表示部12及び操作部13を備えており、処理部10には、妊婦である母体の心臓の外側近傍に取り付けられた母体検知部14及び胎盤の外側近傍に取り付けられた胎内検知部15が接続されている。
【0018】
処理部10は、母体検知部14及び胎内検知部15において体内に向かって送信された超音波信号を反射させて検知信号を受信する送受信部100、検知信号を脈拍信号処理又は画像処理で処理するように切り換える切換処理部101と、受信された検知信号を処理して検知対象領域である臍帯動脈の脈拍信号を得る信号処理部102、信号処理部102において得られた脈拍信号を処理して心拍信号を抽出する心拍処理部103、心拍処理部103において抽出された心拍信号を解析する心拍解析部104、受信された検知信号をカラードプラモード又はBモードにモード処理するモード処理部105、モード処理部105で処理されたモード信号に基づいてモード画像を生成するとともに検知対象領域の位置情報を取得する画像処理部106、心拍処理部103の処理結果及び心拍解析部104の解析結果を表示部12に表示処理するとともに画像処理部106で生成されたモード画像を表示処理する表示処理部107を備えている。
【0019】
記憶部11は、得られた検知信号を記憶する信号処理DB110、モード信号及びモード画像に関する処理データを記憶する画像処理DB111、並びに、脈拍信号及び心拍信号に関する処理データを記憶する心拍処理DB112を備えている。
【0020】
なお、処理部10、記憶部11、表示部12及び操作部13については、コンピュータ、ハードディスク、ディスプレイ、キーボード等を一体化した装置構成で各処理部の機能を実現するために必要なプログラム及びデータを構築することで、上述した心拍計測処理装置を実現させることができる。また、信号処理部102、心拍処理部103及び心拍解析部104の機能を実現する装置部分とモード処理部105及び画像処理部106の機能を実現する装置部分を別体にした装置構成とすることもでき、必要に応じて様々な装置構成で実現することができる。
【0021】
母体検知部14は、公知の分娩監視装置に使用されている探触子を用いることができ、送受信部100からの駆動信号により超音波を母体内に照射して検知対象領域である心臓で反射された超音波をエコー信号に変換して送受信部100に出力する。
【0022】
胎内検知部15は、複数の探触子を備えており、送受信部100からの駆動信号により各探触子を駆動して超音波を検知対象領域である胎盤に向かって照射し、脈拍信号処理及び画像処理に必要なエコー信号を送受信部100に出力する。胎内検知部15は、胎盤の外側(表側)から照射するように取り付けることが好ましい。臍帯動脈は、胎盤の内側(裏側)に付着しており、外側から超音波を照射した場合胎盤を通して臍帯動脈を検知することになるが、常時安定した検知信号を得られることから、胎内検知部15を胎盤の外側に配置することが好ましい。
【0023】
脈拍信号処理では、複数の探触子を照射範囲が一部重なるか接するように配置する。例えば、
図2は、5個の探触子の配置例を示している。中央に配置した探触子P0の周囲に4個の探触子P1~P4を等間隔で配置して中央の探触子P0の照射範囲R0を探触子P1~P4の照射範囲R1~R4で囲むように設定する。そして、胎盤に付着する臍帯動脈の根元部分が中央の探触子P0の照射範囲R0内となるように胎内検知部15を取り付ける。このように胎内検知部15を取り付けることで、可動範囲が小さい臍帯動脈の根元部分の脈拍信号を安定して得ることができる。また、臍帯動脈は、胎児の動きにより胎盤の付け根を中心に移動するため、根元部分が中央の探触子P0の照射範囲R0から外れた場合でも周囲に配置された探触子P1~P4のいずれかの照射範囲内に臍帯動脈の根元部分が入るようになり、継続して脈拍信号を得ることが可能となる。この場合、探触子の数は、5個以外の個数を配置してもよく、例えば9個の探触子を用いることで、中央の探触子の周囲に8個の探触子を等間隔で配置すればよい。
【0024】
画像処理では、送受信部100からの駆動信号により1つの探触子から超音波を胎盤に向かって照射しながら走査制御することで、胎盤全体を走査して胎盤の2次元画像を生成するためのエコー信号を得ることができる。胎内検知部15では、脈拍信号処理用の探触子を画像処理用に兼用してもよく、画像処理用の探触子を別に取り付けて脈拍信号処理用の探触子と適宜切り換えて使用するように構成することもできる。
【0025】
送受信部100は、母体検知部14及び胎内検知部15に駆動信号を送信して超音波を体内に照射させ、照射された超音波が体内組織で反射されて母体検知部14及び胎内検知部15から得られたエコー信号を受信する。胎内検知部15に対しては、超音波の照射範囲を所定の検知ラインに沿って走査するように走査制御を行う。
【0026】
切換処理部101は、送受信部100から送信された検知信号を脈拍信号処理又は画像処理で処理するように切り換える処理を行う。具体的には、画像処理を行って臍帯動脈の位置情報を取得する画像処理フェーズ又は探触子からの検知信号に基づいて脈拍信号を得る脈拍信号処理フェーズに切り換える処理を行う。そして、画像処理フェーズから脈拍信号処理フェーズへ切り換える処理とともに、脈拍信号処理フェーズで脈拍信号を得る探触子が選択できなかった場合には画像処理フェーズに切り換える処理を行う。
【0027】
こうした切換処理を行うことで、臍帯動脈が移動して複数の探触子から脈拍信号が得られなくなった場合でも自動的に画像処理フェーズに切り換えて探触子の位置調整を行った後、脈拍信号処理フェーズに戻るように処理することが可能となり、脈拍信号が継続して得られるように処理することができる。そのため、得られた脈拍信号に基づいて心拍解析を連続して行うことが可能となり、胎児の健康状態を常時的確に把握して将来起こりうる異常状態を予想して予防措置を取るための支援情報を提供することができる。
【0028】
また、切換処理部101は、上述した計測処理を行う通常モードの他に、緊急事態に対処するための特別モードを実行する機能を備え、必要に応じて通常モードと特別モードとの間のモードを切り換える処理を行う。特別モードで行う処理としては、例えば、ハードウエアやソフトウエアの各部からの割り込み信号を受け付ける処理、要求された割り込みレベルに応じて現在の割り込みを許可/禁止するかを決定する処理、再割り込みを禁止する処理、割り込み処理の内容に応じて用意された特別なルーチンを実行する処理、所定の割り込み処理が終了したことを発信元に通知する処理、割り込み禁止処理を解除する処理、といった処理が挙げられる。
【0029】
信号処理部102は、送受信部100から得られた母体検知部14及び胎内検知部15の出力信号を処理して母体の心拍信号及び臍帯動脈の脈拍信号を出力する。得られた心拍信号及び脈拍信号は、記憶部11の信号処理DB110に記憶される。
【0030】
胎内検知部15から出力された複数の探触子の出力信号については、各探触子の出力信号を順次自己相関関数を用いて脈拍解析を行い、得られた脈拍数が胎児の心拍数の標準値(120~160rpm)の範囲内にあるか否かで脈拍信号の有無を判定する。判定の基準となる心拍数の範囲は、個体差があるため個別に設定可能としておくことが好ましい。出力信号が脈拍信号を含む場合には、ドプラ音(うなり音)が聞こえるようになることから、検知信号にドプラ音に対応する信号が含まれているか否か判定して脈拍信号を出力する探触子を選択することもできる。胎内検知部15のいずれの探触子からも脈拍信号が得られない場合には、切換処理部101に画像処理を行うよう指令するとともに探触子の位置調整を行うよう警告処理を行う。
【0031】
心拍処理部103は、信号処理部102において得られた脈拍信号について所定の時間毎にサンプリングし、サンプリングして得られた脈拍信号の振幅データに基づいて平均振幅差関数(AMDF)法を用いて信号相関により脈拍信号の周期を求め、RR時間等の心拍データを算出する。また、母体検知部14から得られた心拍信号についても、同様の処理を行って心拍データを得る。算出された心拍データは、記憶部11の心拍処理DB112に記憶される。
【0032】
心拍解析部104は、心拍処理部103で求められた心拍データに基づいて所定区間毎に高速フーリエ変換(FFT)により周波数解析処理を行うことで、心拍状態の変動の様子を周波数特性の観点からリアルタイムで解析する。例えば、特許文献4に記載されているように、低周波成分(LF)にピークがある場合にはストレス状態であり、高周波成分(HF)にピークがある場合には安らぎ状態であることが知られており、解析結果に基づいて胎児の健康状態をリアルタイムで診断する支援情報として活用することが期待できる。得られた解析結果は、記憶部11の心拍処理DB112に記憶される。
【0033】
心拍データに基づいて胎児の瞬時心拍数(RR時間間隔RIに対応)の細変動解析を行って、胎児の健康状態を診断するためには、長時間にわたって安定した正確な心拍データが必要となるが、本装置では、上述したように、連続した心拍データを安定して得ることができる。
【0034】
モード処理部105は、送受信部100から得られた検知信号に基づいてBモード走査に対応するBモード処理及びカラードプラモード走査に対応するカラードプラモード処理を行う。モードの選択は、操作部13での選択操作により適宜行う。こうしたモード処理は、公知の処理方法で行うことができる。Bモード処理では、検知信号を包絡線検波し、対数圧縮により検知信号の強度を輝度で表示するBモード信号を得る。カラードプラモード処理では、検知信号を直交検波し、周波数解析により走査領域内の血液等の平均流速等の流速情報を算出し、流速情報に対応するカラードプラモード信号を得る。得られたモード信号は、記憶部11の画像処理DB111に記憶される。
【0035】
画像処理部106は、モード処理部105で処理されたモード信号に基づいてモード画像を生成する。モード信号に基づいて走査領域に対応する2次元画像を生成し、生成された2次元画像を組み合せることで3次元画像を生成する。こうした画像処理は、公知の処理方法で行うことができる。生成された画像では、胎盤に付着する臍帯動脈をリアルタイムで表示することが可能となる。
【0036】
画像処理部106は、リアルタイムで表示された胎盤の画像に基づいて検知対象領域である臍帯動脈の位置を特定する処理を行う。検知対象領域である臍帯動脈の根元部分に対応する画像領域を操作部13で指定することで、画像空間の原点位置を基準としてその位置情報(座標位置、角度位置)を取得する。画像処理部106では、人工知能を用いて胎盤の画像に基づいて自動的に臍帯動脈を特定して位置情報を取得するように処理することもできる。
【0037】
表示処理部107は、画像処理部106で生成されたモード画像を表示処理し、検知対象領域を特定することができるようにする。また、心拍処理部103の処理結果及び心拍解析部104の解析結果を表示部12に表示処理し、胎児の心拍状態をリアルタイムで確認して、胎児の健康状態を診断することが可能となる。
【0038】
図3は、心拍計測処理に関するフローである。まず、母体検知部14及び胎内検知部15をセットする(S100)。母体検知部14は、妊婦の心臓に対向する位置に取り付け、胎内検知部15は、胎盤の外側(表側)に対向する位置に取り付ける。次に、画像処理フェーズに切り換えて(S101)、胎内検知部15を駆動して超音波を胎盤に向かって照射しながら走査し、得られた検知信号に基づいてモード信号を生成する(S102)。生成されたモード信により胎盤に関する超音波画像を生成する(S103)。
図4は、胎盤及び臍帯動脈に関する超音波画像の一例を示している。画面中央には、右側に向かって細く延びる臍帯動脈が鮮明に表示されている。
【0039】
生成された画像中の臍帯動脈の根元部分に関する位置情報を取得して(S104)記憶部11に保存する。画面表示された画像の該当箇所をタッチして位置情報を選択するようにしてもよく、操作部から入力して保存するようにしてもよい。また、人工知能を用いて胎盤画像を学習させて自動的に臍帯動脈に該当する画像領域を特定することで位置情報を取得することもできる。
【0040】
次に、脈拍信号処理フェーズに切り換えて(S105)、取得した位置情報を用いて胎内検知部15を臍帯動脈に対向する位置にセットする(S106)。
図2に示す探触子の配置例では、中央の探触子P0の照射範囲の中心に臍帯動脈の根元部分が一致するようにセットすればよい。
【0041】
胎内検知部15は、腰ベルト等の装着具に取り付けておき、装着具を妊婦の腹部の周囲に装着することで、胎内検知部15を安定して取り付けることができ、また、取付位置を調整することが可能となる。取付位置を調整する場合には、マーキング道具等で位置情報に基づき腹部にマーク表示しておき、表示されたマークに合わせて調整することができる。また、胎内検知部15に移動手段を設けて自動的に位置調整することもできる。例えば、腹部の周囲をリング状に取り巻く装着台に移動可能なキャリッジを取り付けて、胎内検知部15をキャリッジに載置して位置情報に合わせて移動させるようにすればよい。
【0042】
次に、胎内検知部15の複数の探触子を順次駆動して検知信号を取得し、脈拍信号を取得する処理を行い、取得した脈拍信号の脈拍数が所定の範囲内(例えば、120~160rpm)の探触子を選択する処理を行う(S107)。
図2に示す探触子の配置例では、探触子P0から順次P1→P2→P3→P4と選択して脈拍数を算出すればよい。
【0043】
選択された探触子があるか否かチェックし(S108)、選択された探触子がない場合(S108:NO)には、割り込み処理を行って(S113)ステップS101に戻り、画像処理フェースに切り換える。そして、再度画像処理を行って臍帯動脈の位置情報を取得する処理を行う。選択された探触子がある場合(S108:YES)には、取得した脈拍信号に心拍処理を行って、心拍周期、RR時間等の心拍データを算出する(S109)。得られた心拍データに基づいて解析処理を行って(S110)胎児の心拍状態を解析し、解析結果を画面表示する(S111)。
【0044】
次に、選択された探触子の検知信号に基づいて得られた脈拍数が所定範囲内であるか否か判定し(S112)、脈拍数が所定範囲内である場合(S112:YES)には、ステップS109に戻り、脈拍信号を取得して心拍処理及び解析処理を行う。脈拍数が所定範囲内でない場合(S112:NO)には、ステップS107に戻り、探触子の選択処理を行い、脈拍数が所定範囲内の探触子を再選択する。
【0045】
以上説明した処理により得られた脈拍信号に関する処理結果と同時に取得した心拍信号に関する処理結果を比較する実験を行った。
図5は、脈拍信号の波形(
図5(a))及び心拍信号の波形(
図5(b))を示しており、横軸に時間軸をとり、縦軸に振幅をとっている。心拍信号のピークに対応して脈拍信号でもピークが表れていることがわかる。
【0046】
図6は、脈拍信号から得られた脈拍数及び心拍信号から得られた心拍数の推移を示すグラフであり、横軸に時間をとり、縦軸に平均拍数をとっている。濃い色のグラフが脈拍数の時間推移を示しており、薄い色のグラフが心拍数の時間推移を示している。両者の拍数及びその推移はほぼ一致しており、脈拍信号が心拍信号を正確に反映していることがわかる。
【0047】
以上説明したように、超音波画像に基づいて検知対象領域である臍帯動脈の根元部分の位置を特定して計測を行うので、脈拍信号を確実に取得することができる。また、脈拍信号の計測は、画像処理の信号処理後に行うので、画像処理の際の超音波照射と混信することなく正確に行うことができる。そして、複数の探触子を用いて計測を行うので、臍帯動脈が移動した場合でも、脈拍信号を検知している探触子を選択して連続して安定した信号処理を行うことが可能となる。特に、胎児の健康状態を診断する場合には、長時間にわたって妊婦がリラックスした状態で心拍状態を連続して計測することが必要となるが、本発明では連続して心拍状態を計測することができる。
【0048】
上述した例では、胎盤に付着した臍帯動脈の根元部分を検知対象領域として脈拍信号を取得するようにしているが、母体の状態に応じて臍帯動脈以外の血管部分を検知対象領域とすることもでき、様々な生体に対応することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1・・・心拍計測処理装置、10・・・処理部、11・・・記憶部、12・・・表示部、13・・・操作部、14・・・母体検知部、15・・・胎内検知部、100・・・送受信部、101・・・切換処理部、102・・・信号処理部、103・・・心拍処理部、104・・・心拍解析部、105・・・モード処理部、106・・・画像処理部、107・・・表示処理部