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特許7112735進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220728BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220728BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61P25/28
A61P43/00 111
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018554159
(86)(22)【出願日】2017-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2017042629
(87)【国際公開番号】W WO2018101261
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2016231364
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、難治性疾患実用化研究事業「二次進行型多発性硬化症の画期的な新規治療の開発に関する研究」及び「多発性硬化症における革新的な医薬品の開発を促進させる研究」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】510147776
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】大木 伸司
(72)【発明者】
【氏名】山村 隆
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】PNAS,2014年,Vol.111, No.14,p.5409-5414
【文献】中辻裕司,多発性硬化症および類似疾患の治療の実際 二次進行型多発性硬化症(SPMS)に対する治療,MS Frontier,2013年,Vol.2, No.1,p.30-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CX3CR1受容体の活性化を抑制又は阻害する物質を有効成分として含有し、
前記物質が、抗CX3CR1抗体又はその抗原結合断片である、進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤。
【請求項2】
前記進行型免疫性脱髄疾患は、Eomes発現細胞の増加がみられる進行型免疫性脱髄疾患である、請求項1に記載の進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤。
【請求項3】
抗CX3CR1抗体又はその抗原結合断片を含むEomes陽性CD4陽性T細胞減少剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(Multiple Sclerosis:MS)とは、自己免疫疾患のひとつで、髄鞘及び神経軸索を標的とする多発性炎症が惹起され、広汎な脱髄に起因する神経伝導障害を引き起こす疾患である。多発性硬化症の病態が進行すると、運動障害や視覚障害などの重篤な神経症状が現れる。
【0003】
多発性硬化症は、急性増悪と寛解を繰り返す再発寛解型MS(RR-MS)と、進行型MSがある。進行型MSには、一次進行型MS(PP-MS)と、RR-MS病態が一定期間続いた後に進行性の病態へと移行する二次進行型MS(SP-MS)、及び再発を繰り返しながら進行する進行再発型MS(PR-MS)が知られている(非特許文献1~3)。
【0004】
RR-MSの疾患修飾性治療薬(disease-modifying drugs:DMD)として、1型インターフェロン、抗炎症剤、免疫抑制剤等が知られている。一方、進行型MSに対してRR-MSのDMDを適用しても効果がなく、現在のところ進行型MSに対する有効なDMDは知られていない。進行型MSの治療方針としては、バクロフェンの髄注、持続性4-アミノピリジン製剤の投与等の対症療法が重要な位置を占めている。
【0005】
これまでのところ、進行型MS病態の形成機序は、RR-MS病態の形成機序との異同を含めて明らかではない。一方、非特許文献4には、SP-MS患者の中枢神経系(CNS)では、複数の細胞又は組織において障害が生じており、またその障害が白質だけでなく灰白質にもおよんでいることが報告されている。また非特許文献4は、多発性硬化症患者の脳内において、PAR(Protease-activated receptors)受容体ファミリーに属するPAR2受容体の発現量が変化しており、PAR2受容体が神経の炎症症状に関与していることを報告している。
【0006】
本発明者らは、単相型の実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導したNR4A2欠損マウスでは、誘導初期に通常の四肢麻痺を伴うEAE病態が観察されない一方で、誘導後期(誘導後約28日以降)にEAE病態(以下、「後期EAE病態」ともいう。)が観察されること、及び後期EAE病態が進行型MS病態のモデルになることを見出した(特許文献1)。また、本発明者らは、神経変性を含む後期EAE病態が、刺激に伴うグランザイムBの放出による持続的な神経細胞障害に起因するものと考え、PAR1受容体アンタゴニスト等を用いてPAR1受容体を阻害することにより、後期EAE病態が改善することを見出した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/002827号
【文献】国際公開第2016/114386号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Nature Reviews Neurology 2012,8,647-656.
【文献】Nature Reviews Neurology 2013,9,496-503.
【文献】Multiple Sclerosis Journal 2013,19: 1428-1436.
【文献】Biochimica et Biophysica Acta 1802(2010),66-79.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、これらの事情に鑑みてなされたものであり、進行型免疫性脱髄疾患治療の予防、発症抑制又は治療剤の提供を主な目的とする。本発明はまた、進行型免疫性脱髄疾患への進行を予防又は抑制する方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、NR4A2欠損マウスの後期EAE病態において、CNS由来の抗原提示細胞による刺激により、Th細胞のEomes分子の発現が誘導されること、抗原提示細胞が産生するプロラクチンがEomes分子の発現誘導を促進することを新たに見出した。本発明は、これらの新規知見に基づくものである。なお、プロラクチンは、脳下垂体だけではなく、脳下垂体以外の脳組織、乳腺、乳頭組織、胎盤、子宮、免疫組織(例えば、リンパ球、胸腺、脾臓)等からも産生されることが知られている。これらのプロラクチンは、脳下垂体由来のプロラクチンと区別して、異所性プロラクチンとも呼ばれる。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(15)を提供する。
(1)プロラクチンの産生を抑制又は阻害する物質を有効成分として含有する、進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤。
(2)上記物質が、Zbtb20生成を抑制又は阻害する物質を含む、(1)に記載の進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤。
(3)上記物質が、ドパミン受容体アゴニスト又はドパミン受容体部分アゴニストを含む、(1)に記載の進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤。
(4)上記進行型免疫性脱髄疾患が二次進行型多発性硬化症である、(1)~(3)のいずれかに記載の進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤。
(5)プロラクチンの産生を抑制又は阻害する物質を対象に投与することを含む、進行型免疫性脱髄疾患への進行を予防又は抑制する方法。
(6)上記物質が、Zbtb20生成を抑制又は阻害する物質を含む、(5)に記載の方法。
(7)上記物質が、ドパミン受容体アゴニスト又はドパミン受容体部分アゴニストを含む、(5)に記載の方法。
(8)上記進行型免疫性脱髄疾患が二次進行型多発性硬化症である、(5)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤を製造するための、プロラクチンの産生を抑制又は阻害する物質の使用。
(10)上記物質が、Zbtb20生成を抑制又は阻害する物質を含む、(9)に記載の使用。
(11)上記物質が、ドパミン受容体アゴニスト又はドパミン受容体部分アゴニストを含む、(9)に記載の使用。
(12)上記進行型免疫性脱髄疾患が二次進行型多発性硬化症である、(9)~(11)のいずれかに記載の使用。
(13)CX3CR1受容体の活性化を抑制又は阻害する物質を有効成分として含有する、進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤。
(14)上記物質が、抗CX3CR1抗体又はその抗原結合断片である、(13)に記載の進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤。
(15)ヒト対象からミクログリアを採取し、IL-9、IFN-α及びIFN-β1の少なくとも1種の発現量を測定することを含む、進行型免疫性脱髄疾患への進行を診断するためのデータを収集する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤の提供、および進行型免疫性脱髄疾患への進行を予防又は抑制する方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスのCNSへ浸潤した抗原提示細胞(CD19B細胞及びnon-B/classII細胞)と共培養したTh細胞におけるCD107a及びEomes発現を示すサイトグラムである。
図2】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスのCNSへ浸潤した抗原提示細胞(CD19B細胞及びnon-B/classII細胞)と共培養したTh細胞のEomes発現量を示すグラフである(図1のサマリーデータ)。
図3図3(a)は、各進行度のEAE病態における脳及び脊髄を採取した時期を示すグラフであり、3つの点線は、それぞれ初期EAE病態、中期EAE病態、後期EAE病態に相当する採取時期を示す。図3(b)は、各進行度のEAE病態におけるT細胞のサイトグラム及びEomesCD4T細胞の割合を示すグラフである。
図4】各進行度のEAE病態におけるCD19B細胞及びCD19classII細胞のサイトグラム及び各細胞の割合を示すグラフである。
図5】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスのCNSへ浸潤した抗原提示細胞(CD19B細胞及びnon-B/classII細胞)におけるプロラクチン及び成長ホルモンの発現量を示すグラフである。
図6】各進行度のEAE病態におけるCSF中のプロラクチン及び成長ホルモンの発現量を示すグラフである。
図7】プロラクチン共存下培養によるEomes発現への影響を示すグラフである。
図8】プロラクチン共存下培養によるEomes発現への影響を示すグラフである。
図9】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスのCNSへ浸潤した抗原提示細胞におけるプロラクチン及びZbtb20の遺伝子発現量を示すグラフである。
図10】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスのCNSへ浸潤した抗原提示細胞におけるZbtb20のタンパク質発現を示すサイトグラムである。
図11】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスのCNSへ浸潤した抗原提示細胞におけるZbtb20およびプロラクチンのタンパク質発現を示すグラフである。
図12】後期EAE病態のマウスのCNSから採取したB細胞におけるIL-10及びZbtb20の遺伝子発現レベルを示すサイトグラム及びグラフである。
図13】後期EAE病態のマウスのCNSから採取したnon-B抗原提示細胞におけるZbtb20の遺伝子発現レベルを示すサイトグラム及びグラフである。
図14】脳下垂体におけるプロラクチン及び成長ホルモンの発現量を示すグラフである。
図15】プロラクチン存在下又は非存在下で培養した脾臓由来Th細胞におけるEomes発現量を示すグラフである。
図16】プロラクチン存在下又は非存在下で培養した脾臓由来CD226Th細胞でのEomes発現を示すサイトグラムである。
図17】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスに、ブロモクリプチンを投与したときのEAEスコアを示すグラフである。
図18】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスに、ブロモクリプチンを投与したあとでCNSへ浸潤したTh細胞のEomes発現を示すグラフである。
図19】ブロモクリプチン投与後のEomesCD4T細胞の割合を示すグラフである。
図20】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスにブロモクリプチンを投与したときの、CNSへ浸潤したTh細胞におけるCD107a及びEomes発現を示すサイトグラムである。
図21】ブロモクリプチン投与後のEomesCD4T細胞の割合及びCD107aCD4T細胞の割合を示すグラフである。
図22】ドパミン投与後のEomes遺伝子の発現を示すグラフである。
図23】L-ドパ投与後のEAE病態マウスの臨床スコアを示すグラフである。
図24】L-ドパ投与後のEomesタンパク質及びZbtb20タンパク質の発現を示すグラフである。
図25】L-ドパ投与後のプロラクチン遺伝子の発現レベルを示すグラフである。
図26】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスに、抗CX3CR1抗体を投与したときのEAEスコアを示すグラフである。
図27】単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスに、抗CX3CR1抗体を投与したときのCD4Th細胞に対するEomesCD4Th細胞の割合を示すグラフである。
図28】Zbtb20特異的siRNA投与後のEAE病態マウスの臨床スコアを示すグラフである。
図29】Zbtb20特異的siRNA投与後のEomesタンパク質及びZbtb20タンパク質の発現を示すグラフである。
図30】Zbtb20特異的siRNA投与後のプロラクチン遺伝子及びZbtb20遺伝子の発現を示すグラフである。
図31図31(a)及び(b)は、抗CD20抗体投与後のEAE病態マウスの臨床スコアを示すグラフである。図31(c)は、抗CD20抗体投与後のZbtb20タンパク質の発現を示すグラフである。
図32】抗CD20抗体投与後のEomesタンパク質及びZbtb20タンパク質の発現を示すグラフである。
図33】各種サイトカイン存在下での培養におけるZbtb20タンパク質の発現を示すグラフである。
図34】各種サイトカイン存在下での培養におけるZbtb20遺伝子及びプロラクチン遺伝子の発現を示すグラフである。
図35】EAE病態の進行に伴う各種サイトカイン発現の変化を示すグラフである。
図36】EAE病態の進行に伴う各種サイトカイン発現の変化を示すグラフである。
図37】後期EAE病態マウスから採取したミクログリア存在下での培養におけるプロラクチン遺伝子及びZbtb20遺伝子の発現を示すサイトグラム及びグラフである。
図38】EAE病態の進行に伴う各種サイトカイン発現の変化を示すグラフである。
図39】EAE病態の進行に伴う各種サイトカイン発現の変化を示すグラフである。
図40】EAE病態の進行に伴う各種ケモカイン発現の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔定義〕
本明細書において、「進行型免疫性脱髄疾患」とは、免疫反応に起因する髄鞘の障害により生じる疾患であって、寛解することなく持続的に進行する疾患を意味する。進行型免疫性脱髄疾患は、好ましくは中枢神経系の進行型免疫性脱髄疾患である。進行型免疫性脱髄疾患としては、例えば、PP-MS、SP-MS及びPR-MS等の進行型多発性硬化症が挙げられる。
【0015】
NR4A2遺伝子は、Nurr1遺伝子、NOT遺伝子、又はRNR1遺伝子とも呼ばれ、オーファン核内受容体の1種である。NR4A2遺伝子の主な発現部位は、中枢神経系であり、特に中脳腹側、脳幹、脊髄に強く発現している。また、NR4A2は,プロスタグランジン、増殖因子、炎症性サイトカイン、T細胞受容体架橋に応答して発現が誘導され、リガンド依存性又はリガンド非依存性にDNAと直接結合して転写を制御する。ヒトNR4A2遺伝子の転写産物のNCBI Reference Sequenceのアクセッション番号は、NM_006186.3である。
【0016】
Eomes遺伝子は、Eomesodermin又はTbr2とも呼ばれ、T-box転写因子族の一種であり、脊椎動物の発生や分化に係るタンパク質である。Eomes遺伝子は、CD8T細胞(細胞障害性T細胞,CTL)及びNK細胞で発現していることが知られている。また、パーフォリン及びグランザイムBの発現を直接誘導することが知られている。ヒトEomes遺伝子の転写産物のNCBI Reference Sequenceのアクセッション番号は、NM_001278182.1(バリアント1)、NM_005442.3(バリアント2)、及びNM_001278183.1(バリアント3)である。
【0017】
Zbtb20は、C2H2 Kruppel系ジンクフィンガータンパク及びBTB/POZドメインを含むジンクフィンガータンパクのサブファミリの1つに属するタンパクである。また、Zbtb20は、プロラクチン遺伝子のプロモーターに結合しており、プロラクチンの転写活性を促進させる。Zbtb20は、下垂体前葉の全ての成熟内分泌細胞系に高発現している。Zbtb20の欠損は、プロラクチンの発現及び分泌を顕著に減少させる。
【0018】
〔進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤〕
本発明の第一の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤は、プロラクチンの産生を抑制又は阻害する物質を有効成分として含有する。
【0019】
進行型免疫性脱髄疾患は、好ましくは中枢神経系の進行型免疫性脱髄疾患であり、より好ましくは二次進行型多発性硬化症(SP-MS)である。
【0020】
プロラクチンの産生を抑制又は阻害する物質としては、例えば、プロラクチン遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質、ドパミン受容体アゴニスト、ドパミン受容体部分アゴニスト、ドパミン再吸収阻害薬(Dopamine reuptake inhibitor)、ドパミン分解酵素阻害薬、ドパミン類似化合物、又は、Zbtb20生成を抑制又は阻害する物質が挙げられる。ドパミン受容体アゴニスト又は部分アゴニストは、ドパミンD2受容体アゴニスト又は部分アゴニストであることが好ましい。
【0021】
プロラクチン遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質は、プロラクチンがタンパク質として機能することを抑制できる物質であればよい。当該発現抑制物質としては、例えば、プロラクチン遺伝子を転写レベル又は翻訳レベルで発現抑制することができる物質、プロラクチンの機能性部位に結合して機能発現を抑制することができる物質が挙げられる。
【0022】
プロラクチン遺伝子を転写レベル又は翻訳レベルで発現抑制することができる物質としては、例えば、プロラクチンの遺伝子発現を抑制する核酸、ペプチド、糖又は糖タンパク質、分子量1000以下の低分子化合物等であってもよい。プロラクチンの遺伝子発現を抑制する核酸としては、例えば、プロラクチン遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA及びリボザイムからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0023】
プロラクチンの機能性部位に結合して機能発現を抑制することができる物質としては、例えば、抗プロラクチン抗体又はその抗原結合性断片(例えば、中和抗体)等が挙げられる。
【0024】
プロラクチンの発現を抑制する発現抑制物質は、プロラクチン遺伝子のゲノム配列、mRNA配列、タンパク質配列、タンパク質の立体構造等の情報に基づいて、本技術分野で公知の方法により設計及び製造することができる。
【0025】
ドパミン受容体アゴニストとしては、例えば、ドパミン、アポモルヒネ、ブロモクリプチン、カベルゴリン、キラドパ(Ciladopa)、ジヒドレキシジン(Dihydrexidine)、ジナプソリン(Dinapsoline)、ドキサントリン(Doxanthrine)、エピクリプチン、リスリド(Lisuride)、ペルゴリド、ピリベジル(Piribedil)、プラミペキソール、プロピルアポモルヒネ、キナゴリド(Quinagolide)、タリペキソール、ロピニロール、ロチゴチン、ロキシンドール(Roxindole)、スマニロール(Sumanirole)が挙げられる。
【0026】
ドパミン受容体部分アゴニストとしては、例えば、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、フェンシクリジン、サルビノリンA、クインピロールが挙げられる。
【0027】
ドパミン再吸収阻害薬としては、例えば、アルトロパン、アンフォネリック酸、アミネプチン、BTCP、DBL-583、ジフルオロピン(Difluoropin)、GBR-12783、GBR-12935、GBR-13069、GBR-13098、GYKI-52895、ロメトパン(lometopane)、メチルフェニデート、RTI-229、ヴァノキセリンが挙げられる。
【0028】
ドパミン分解酵素阻害薬としては、例えば、セレギリン、ゾニサミド等のモノアミノキシダーゼB阻害薬、エンタカポン等のカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬が挙げられる。
【0029】
ドパミン類似化合物としては、例えば、L-ドパ(レボドパ、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)、ドロキシドパ(L-トレオ-ジヒドロキシフェニルセリン)が挙げられる。
【0030】
Zbtb20遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質は、Zbtb20がタンパク質として機能することを抑制できる物質であればよい。当該発現抑制物質としては、例えば、Zbtb20遺伝子を転写レベル又は翻訳レベルで発現抑制することができる物質、Zbtb20の機能性部位に結合して機能発現を抑制することができる物質が挙げられる。Zbtb20遺伝子を転写レベル又は翻訳レベルで発現抑制することができる物質としては、例えば、Zbtb20の遺伝子発現を抑制する核酸、ペプチド、糖又は糖タンパク質、分子量1000以下の低分子化合物等であってもよい。Zbtb20の遺伝子発現を抑制する核酸としては、例えば、Zbtb20遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA及びリボザイムからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。Zbtb20の機能性部位に結合して機能発現を抑制することができる物質としては、例えば、Zbtb20の機能性部位に結合して機能発現を抑制する核酸、ペプチド、糖又は糖タンパク質、分子量1000以下の低分子化合物、抗Zbtb20抗体(例えば、中和抗体)又はその抗原結合性断片等が挙げられる。
【0031】
Zbtb20の発現を抑制する発現抑制物質は、Zbtb20遺伝子のゲノム配列、mRNA配列、タンパク質配列、タンパク質の立体構造等の情報に基づいて、本技術分野で公知の方法により設計及び製造することができる。Zbtb20の発現を抑制する発現抑制物質としては、例えば、microRNA122/CUX1/microRNA214/ZBTB20経路を阻害又は抑制する物質であってもよい。microRNA214又はmicroRNA214を強制発現させると、Zbtb20遺伝子の発現が抑制されることが知られている(Kojima et al.Nature communications 2011, 2:338,1-10)。また、Zbtb20の発現を抑制する発現抑制物質としては、例えば、LMP2A(Latent membrane protein 2A)及び/又はIRF4(Interferon regulatory factor 4)の発現を抑制する物質であってもよい。LMP2A発現B細胞では、Irf4及びZbtb20遺伝子の発現が亢進されており、Irf4によってコードされるタンパクIRF4はZbtb20プロモーターに結合し、Zbtb20遺伝子の発現を亢進させることが知られている(Minamitani et al.Proc.Natl.Acad.Sci.2015,112,37,11612-11617)。
【0032】
本実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤における上記有効成分(プロラクチンの産生を抑制又は阻害する物質)の含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤全量を基準として、0.001~100質量%であってよい。
【0033】
進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤は、上記有効成分のみで構成されていてもよく、また上記有効成分以外に、多発性硬化症の予防、発症抑制又は治療において使用されうる他の薬剤、製剤技術分野において常用される賦形剤、緩衝剤、安定化剤、抗酸化剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤及び流動添加調節剤等の添加剤を含有していてもよい。また、上記他の薬剤は、プロラクチン受容体から始まるシグナル伝達の抑制又は阻害とは、異なるメカニズムで治療効果を発揮するものであることが好ましい。
【0034】
他の薬剤としては、電位依存性ナトリウムチャネル阻害剤(例えば、ラモトリジン(Lamotrigine))、カリウムチャネルブロッカー(例えば、ファムプリジン(Fampridine))、電位依存性カルシウムチャネル抑制剤(例えば、ガバペンチン(Gabapentin))、シポニモド(BAF312、Siponimod)、HMG-CoA阻害剤(例えば、シンバスタチン(Simbastatin)等のスタチン)、S1P受容体アンタゴニスト(例えば、フィンゴリモド(Fingolimod、FTY720)、c-kit受容体阻害剤(例えば、マシチニブ(Masitinib))、MIS416、トエルナ(Toeluna)、カリウム保持性利尿薬(例えば、アミロリド(Amiloride))、リルゾール(Riluzole)、ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、イブジラスト(Ibudilast、MN-166))、シクロフォスフォアミド、ステロイド(例えば、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン)、トポイソメラーゼII阻害剤(例えば、ミトキサントロン(Mitoxantrone))、ELND002、MD1003、リタリン(Ritalin)、フマル酸クエチアピン(Quetiapine fumarate)、NMDA受容体阻害剤(例えば、メマンチン(Memantine))、タクロリムス(Tacrolimus)、テリフルノミド(Teriflunomide、HMR1726)、BHT-3009-01、サンフェノンEGCG(サンフェノンエピガロカテキンガレート)、CS-0777、グラチラマー酢酸塩(Copoxone(登録商標))、ONO-4641、プリン代謝拮抗剤(例えば、クラドリビン(Cladribine))、リポ酸、イノシン、カンナビス、ナビキシモルス(Nabiximols、Sativex(登録商標))、エリスロポイエチン、インターフェロンβ-1b、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、エストリオール、合成ミエリン塩基性タンパク部分ペプチド(例えば、ジルコチド(Dirucotide、MBP8298))、モノクローナル抗ヒトCD20抗体(例えば、リツキシマブ(Rituximab))、ヒト化モノクローナル抗α4インテグリン抗体(例えば、ナタリツマブ(Natalizumab、BG00002))、モノクロ-ナル抗CD25抗体(例えば、ダクリツマブ(Daclizumab))、ヒト化モノクローナル抗IL-12抗体、モノクローナル抗IL-12/23抗体(例えば、ABT-874(Briakinumab))、ヒト化モノクローナルNogo-A抗体(例えば、Ozanezumab、GSK1223249)等が挙げられる。
【0035】
第一の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤の剤形は、例えば、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤、注射剤等のいずれの剤形であってもよい。
【0036】
第一の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤は、経口投与されてもよく、非経口投与されてもよい。具体的な投与量の一例として、例えば、ヒト成人男子(体重60kg)に投与する場合、一日当たりの進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤の投与量は、通常、有効成分量換算で、0.0001μg~10000mg/日/人である。
【0037】
上記第一の実施形態は、それを必要とするヒト対象にプロラクチンの産生を抑制又は阻害する物質を投与するステップを含む、進行型免疫性脱髄疾患への進行を予防又は抑制する方法ということもできる。例えば、上記第一の実施形態に係る方法は、再発寛解型免疫性脱髄疾患から進行型免疫性脱髄疾患への進行を予防又は抑制する。
【0038】
本発明の第二の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤は、抗CX3CR1抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含有する。
【0039】
進行型免疫性脱髄疾患は、好ましくは中枢神経系の進行型免疫性脱髄疾患であり、より好ましくは二次進行型多発性硬化症(SP-MS)である。
【0040】
抗CX3CR1抗体又はその抗原結合断片としては、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。抗CX3CR1抗体は、マウス抗体、ラット抗体、モルモット抗体、ハムスター抗体、ウサギ抗体、サル抗体、イヌ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体のいずれであってもよい。抗CX3CR1抗体は、血中滞留性等の物性を改善するために化学修飾を施したものであってもよい。また、抗CX3CR1抗体は、治療効果を高めるために、放射性核種、毒素等が結合したものであってもよい。
【0041】
抗CX3CR1抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。また、抗CX3CR1抗体は、マウス抗体、ラット抗体、モルモット抗体、ハムスター抗体、ウサギ抗体、サル抗体、イヌ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体のいずれであってもよい。抗CX3CR1抗体は、血中滞留性等の物性を改善するために化学修飾を施したものであってもよい。また、抗CX3CR1抗体は、治療効果を高めるために、放射性核種、毒素等が結合したものであってもよい。
【0042】
抗原結合性断片としては、抗体の抗原結合部位を含む抗体断片であればよく、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、ダイアボディ等が挙げられる。
【0043】
本実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤における上記有効成分(抗CX3CR1抗体又はその抗原結合断片)の含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤全量を基準として、0.001~100質量%であってよい。
【0044】
進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤は、上記有効成分のみで構成されていてもよく、また上記有効成分以外に、多発性硬化症の予防、発症抑制又は治療において使用されうる他の薬剤、製剤技術分野において常用される賦形剤、緩衝剤、安定化剤、抗酸化剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤及び流動添加調節剤等の添加剤を含有していてもよい。また、上記他の薬剤は、CX3CR1受容体から始まるシグナル伝達の抑制又は阻害とは、異なるメカニズムで治療効果を発揮するものであることが好ましい。他の薬剤は、第一実施形態で示した薬剤と同一である。
【0045】
第二の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤の剤形は、例えば、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤、注射剤等のいずれの剤形であってもよい。
【0046】
第二の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤は、経口投与されてもよく、非経口投与されてもよい。具体的な投与量の一例として、例えば、ヒト成人男子(体重60kg)に投与する場合、一日当たりの進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制又は治療剤の投与量は、通常、有効成分量換算で、0.0001μg~10000mg/日/人である。
【0047】
上記第二の実施形態は、それを必要とするヒト対象に抗CX3CR1抗体又はその抗原結合断片を投与するステップを含む、進行型免疫性脱髄疾患の治療方法、又は病態の進行抑制方法ということもできる。
【0048】
上記第一又は第二の実施形態において、進行型免疫性脱髄疾患の予防、発症抑制、病態の進行抑制効果は、Th細胞表面のEomes発現量が増加量を解析することにより、判断することができる。Th細胞表面のEomes発現量が増加量の解析方法としては、例えば、ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液中のEomesCD4T細胞を検出する方法が挙げられる。ヒト対象から採取された体液は、リンパ球を含む体液であればよい。ヒト対象から採取された体液としては、例えば、血液、脳脊髄液が挙げられる。血液は、末梢血であってよい。EomesCD4T細胞の検出は、本技術分野における常法に従って行うことができる。
【0049】
EomesCD4T細胞の検出は、これに限定されるものではないが、例えば、ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液サンプルから常法に従いPBMCを分離するステップ、標識抗CD3抗体又はその抗原結合性断片、標識抗CD4抗体又はその抗原結合性断片、及び標識抗Eomes抗体又はその抗原結合性断片をPBMCと反応させ、フローサイトメーターでEomesCD4T細胞を検出するステップを含む方法により実施することができる。
【0050】
本発明はまた、ヒト対象からミクログリアを採取し、IL-9、IFN-α及びIFN-β1の少なくとも1種の発現量を測定することを含む、進行型免疫性脱髄疾患への進行を診断するためのデータを収集する方法も提供する。
【0051】
図36に示すように、EAE病態の進行過程において、中期EAE病態になるとミクログリア内のIFN-α、IFN-β1、IL-9の発現量が顕著に増加する。すなわち、ヒト対象のミクログリアにおいて、これらのサイトカインの発現量が顕著に増加することは、進行型免疫性脱髄疾患への進行を判断するためのデータを収集することができる。
【0052】
サイトカインの増加は、進行型免疫性脱髄疾患への進行が疑われていないヒト対象又は健康成人のミクログリア内のサイトカインの発現量に基づいて定められた閾値よりも多いことを意味する。
【実施例
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
1.NR4A2cKOマウスのEAE解析
(1)動物
使用したマウスはすべて6~8週齢で、特定病原体不在条件下で飼育した。loxp配列でNR4A2遺伝子を挟んだターゲッティングベクターを用いて、NR4A2fl/flマウスを樹立した。すなわち、loxp配列に挟まれたNR4A2導入遺伝子をC57BL/6胚性幹細胞にマイクロインジェクションにより導入した。樹立系統をC57BL/6 FLPeマウス(理研バイオリソースセンター)と交雑させてネオマイシンカセットを除去した系統同士を交配して、ホモ接合NR4A2fl/fl C57BL/6マウスを作製した。得られたマウスをC57BL/6 CD4-Creマウス(タコニック社)と交配させることにより、CD4特異的NR4A2cKO C57BL/6マウス(C57BL/6 Cre-CD4/NR4A2fl\flマウス)を樹立した。
【0055】
(2)EAE誘導(単相型EAE)
100μgのMOG35-55残基に相当するペプチド(東レリサーチセンター,日本,東京にて合成、以下、「MOGペプチド」ともいう。)と1mgの結核菌H37Ra死菌(Difco,米国,カンザス州)を完全フロイントアジュバント(CFA)で乳化したものを等量混和し、ホモジナイザーを用いて乳化させ、MOGエマルジョンを調製した。得られたMOGエマルジョンを、CD4特異的NR4A2cKO C57BL/6マウス(Cre-CD4/NR4A2fl/fl C57BL/6マウス、NR4A2cKO)及び対照としてNR4A2fl/fl C57BL/6マウス(Control)の背部皮下に1~2か所注射し、免疫を付与した。さらに、免疫付与後0日目と2日目に、1匹あたり、200ngの百日咳毒素(List Biological Laboratories,米国)のPBS溶液200μLを、マウスの腹腔内に注射した。
【0056】
(3)中枢神経系へのT細胞の浸潤
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)及びC57BL/6マウス(Control)から、誘導10日後(初期EAE病態に相当)、誘導14日後(中期EAE病態に相当)及び誘導18日後(後期EAE病態に相当)に脳及び脊髄を採取し、フローサイトメーターを用いて、CNSへ浸潤したCD19B細胞及びnon-B/classII細胞を分離した。具体的には、組織を小さい破片に切断した後、37℃で40分間、1.4mg/mLのコラゲナーゼH及び100μg/mLのDNaseI(Roche社製)を含有したRPMI 1640培地(Invitrogen社製)において更に分解した。得られた組織のホモジネートを70μm細胞濾過器(GEヘルスケアサイエンス社製)に通し、不連続パーコール密度勾配遠心分離法(37%/80%)を用いて、白血球細胞を濃縮した。次いで、CNSへ浸潤したCD19B細胞及びnon-B/classII細胞をFACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートで分離した。分離したCD19B細胞及びnon-B/classII細胞を、それぞれ脾臓由来のCD226Th細胞と8時間、共培養した。培養後、回収したTh細胞のEomes及びCD107aの発現量の変化をフローサイトメーターで解析した。分離の際に使用した抗体は、抗CD3抗体(Biolegend社製)、抗Eomes抗体(eBioscience社製)、抗CD107a抗体(Biolegend社製)を用いた。
【0057】
結果を図1及び図2に示す。図1によれば、誘導18日後のEAE発症マウス(後期EAE病態に相当)では、CNS由来の抗原提示細胞が、Th細胞に対する顕著なEomes発現誘導能を有することが認められた。
【0058】
(4)EAE病態の各進行度におけるEomes発現
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導した野生型C57BL/6マウスから、誘導10日後(初期EAE病態)、14日後(中期EAE病態)、18日後(後期EAE病態)に脳及び脊髄を採取し、フローサイトメーターを用いて、CNSへ浸潤したCD4T細胞を分離した。なお、採取時期は、図3(a)のグラフにおける初期、中期、後期に相当する。具体的には、組織を小さい破片に切断した後、37℃で40分間、1.4mg/mLのコラゲナーゼH及び100μg/mLのDNaseI(Roche社製)を含有したRPMI 1640培地(Invitrogen社製)において更に分解した。得られた組織のホモジネートを70μm細胞濾過器(GEヘルスケアサイエンス社製)に通し、不連続パーコール密度勾配遠心分離法(37%/80%)を用いて、白血球細胞を濃縮した。次いで、CNSへ浸潤したCD4T細胞をFACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートで分離した。
分離したCD4T細胞のEomes発現量の変化をフローサイトメーターで解析した。検出の際に使用した抗体は、抗CD4抗体(Biolegend社製)、抗Eomes抗体(eBioscience社製)を用いた。
【0059】
次に、各CD4T細胞に対して、細胞内染色を行い、Eomes発現量を測定した。結果を図3(b)に示す。図3(b)のグラフは、病態の各進行度における、CD4T細胞に対するEomesT細胞の割合(%)を示したものである。後期EAE病態において、EomesCD4T細胞の割合が、顕著に増加していることが観測された。
【0060】
また、採取した脳及び脊髄から、フローサイトメーターを用いて、CNSへ浸潤したCD45hi細胞、CD19B細胞、CD19B細胞を分離した。分離したCD45hi細胞、CD19B細胞、CD19B細胞をそれぞれFACSソートで分離した。検出の際に使用した抗体は、抗CD45抗体(Biolegend社製)、抗CD19抗体(Biolegend社製)、抗TCRβ抗体(Biolegend社製)、抗MHCclassII抗体(Biolegend社製)を用いた。
【0061】
結果を図4に示す。中期EAE病態において、CD19B細胞、CD19non-B/classII抗原提示細胞のCNSへの浸潤が顕著に増加し、後期EAE病態では、これらの細胞が中期EAE病態と比較して減少することが観測された。
【0062】
(5)EAE病態におけるプロラクチン及び成長ホルモンの遺伝子発現量
上記1.(3)と同様に、EAE発症マウスのCNSから経時的にCD19B細胞及びnon-B/classII細胞を抽出し、プロラクチン(Prl)及び成長ホルモン(Gh)の遺伝子発現量を定量PCR法にて解析した。プロラクチン及び成長ホルモンのプライマーとして、それぞれMm_Prl_1_SG QuantiTect Primer Assay及びMm_Gh_1_SG QuantiTect Primer Assay(いずれもQIAGEN社)を用いた。
【0063】
結果を図5に示す。図5中、「EB」は前期EAE状態で抽出されたCD19B細胞を意味し、「ED」は前期EAE状態で抽出されたnon-B/classII細胞を意味し、「MB」は中期EAE状態で抽出されたCD19B細胞を意味し、「MD」は中期EAE状態で抽出されたnon-B/classII細胞を意味し、「LB」は後期EAE状態で抽出されたCD19B細胞を意味し、「LD」は後期EAE状態で抽出されたnon-B/classII細胞を意味する。図5によれば、後期EAE状態のCNS由来の抗原提示細胞において、プロラクチン及び成長ホルモンの発現量が顕著に増加していることが観測された。
【0064】
(6)EAE病態の各進行度におけるCSF中のプロラクチン及び成長ホルモンの発現
三種混合麻酔薬(メデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノール)を腹腔内投与(ip)することにより、マウスを麻酔した。マウスは、無処置マウス、早期EAE病態のマウス、中期EAE病態のマウス、後期EAE病態のマウスを用いた。各マウスの後頭部の皮膚を矢尻状に切開し、皮下組織と筋肉を注意深く分離し、大槽を覆う硬膜の表面を露出させた。露出した硬膜にガラスキャピラリーを穿刺し、毛管現象を利用してCSFを収集した。得られたCSFを-80℃の冷凍庫で保管した。
採取したCSF中のプロラクチン(PRL)及び成長ホルモン(GH)のタンパク発現量を、Luminex system(Luminex Corporation製)を用いて測定した。
【0065】
結果を図6に示す。中期EAE病態では、成長ホルモンのタンパク発現量が増加し、後期EAE病態では、プロラクチン及び成長ホルモンのタンパク発現量が増加していることが観測された。
【0066】
(7)プロラクチン共存下培養によるEomes発現への影響
未処置の野生型B6マウスから採取した脾臓由来CD226CD4T細胞を、プロラクチンの非存在下又は特定量のプロラクチンの存在下において、4時間又は8時間培養した。培養後の各細胞のEomes発現量を、フローサイトメーター又は定量的リアルタイムPCRを用いて測定した。検出の際に使用した抗体は、抗CD4抗体(Biolegend社製)、抗Eomes抗体(eBioscience社製)を用いた。
【0067】
結果を図7に示す。培養時間にかかわらず、30、100ng/mLのプロラクチン存在下で培養すると、CD4EomesT細胞の割合が顕著に増加していることが観測された。図8(a)は、図7に示す各フローサイトグラムに基づき、Eomes細胞の割合をグラフにまとめたものである。図8(b)は、各細胞のプロラクチンタンパクの相対発現量をグラフ化したものである。図8においても、30ng/mLのプロラクチン存在下で培養すると、プロラクチンタンパクの発現量が増加していることが観測された。
【0068】
(8)EAE病態の進行に伴うプロラクチン及びZbtb20の遺伝子発現量の変化
上記1.(3)と同様に、EAE発症マウスのCNSから経時的にCD19B細胞及びnon-B/classII細胞を抽出し、プロラクチン及びZbtb20の遺伝子発現量を定量PCR法にて解析した。プロラクチン及びZbtb20のプライマーとして、それぞれMm_Prl_1_SG QuantiTect Primer Assay及びMm_Zbtb20_1_SG QuantiTect Primer Assay(いずれもQIAGEN社)を用いた。
【0069】
結果を図9に示す。図9中の「EB」、「MB」、「LB」、「ED」、「MD」及び「LD」はそれぞれ、図5における定義と同じである。図9によれば、後期EAE状態のCNS由来の抗原提示細胞において、プロラクチン及びZbtb20の遺伝子発現量が増加していることが観測された。
【0070】
(9)EAE病態の進行に伴うプロラクチン及びZbtb20のタンパク質発現量の変化
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)及びC57BL/6マウス(Control)から、誘導9日後(初期EAE病態に相当)及び誘導19日後(後期EAE病態に相当)に脳及び脊髄を採取し、フローサイトメーターを用いて、CNSへ浸潤したCD19B細胞及びnon-B/classII細胞を分離した。具体的には、組織を小さい破片に切断した後、37℃で40分間、1.4mg/mLのコラゲナーゼH及び100μg/mLのDNaseI(Roche社製)を含有したRPMI 1640培地(Invitrogen社製)において更に分解した。得られた組織のホモジネートを70μm細胞濾過器(GEヘルスケアサイエンス社製)に通し、不連続パーコール密度勾配遠心分離法(37%/80%)を用いて、白血球細胞を濃縮した。次いで、CNSへ浸潤したCD19B細胞及びnon-B/classII細胞をFACS CANTO II(BD Cytometry Systems社製)を用いて解析した。分離したCD19B細胞及びnon-B/classII細胞のZbtb20の発現量の変化をフローサイトメーターで解析した。検出の際に使用した抗体は、抗Zbtb20抗体(BD Bioscience社製)を用いた。
【0071】
結果を図10及び図11に示す。図10によれば、後期EAE病態では、Zbtb20の発現量が有意に増加していることが観測された。また、図11(a)は、Zbtb20細胞の割合をグラフ化したものであり、後期EAE病態では、Zbtb20発現が顕著に増加していることが観測された。また、図11(b)に示すように、B細胞及びnon-B抗原提示細胞におけるプロラクチン遺伝子(Prl)の発現量を測定したところ、後期EAE病態では、プロラクチン遺伝子(Prl)の相対発現量が顕著に増加していることが観測された。
【0072】
また、後期EAE病態のマウスのCNSから採取したB細胞を、10ng/mLのリポポリサッカライド(LPS)とBD GolgiPlugの存在下、6時間培養した。培養したB細胞を、CD1d及びCD5遺伝子の染色状態に基づき、図12(a)に示すように4種の分画(Fr1、Fr2、Fr3、Fr4)に分離した。各分画からのIL-10及びZbtb20の遺伝子発現レベルを、FACSプロットを用いて測定した。その結果を図12(b)に示す。
【0073】
さらに、後期EAE病態のマウスのCNSから採取したnon-B抗原提示細胞を染色し、FACS解析した。non-B抗原提示細胞を、CD11c及びPDCA-1遺伝子の染色状態に基づき、図13(a)に示すように3種の分画(Fr1、Fr2、Fr3)に分離した。各分画からのZbtb20の遺伝子発現レベルを、FACSプロットを用いて測定した。検出の際に使用した抗体は、抗CD11c抗体(Biolegend社製)、抗PDCA-1抗体(eBioscience社製)、抗zbtb20抗体(Becton Dickinson社製)を用いた。
【0074】
その結果を図13(a)に示す。また、各分画におけるZbtb20細胞の割合を図13(b)に示した。
【0075】
(10)脳下垂体におけるプロラクチン及び成長ホルモンの発現
無処置又は早期、中期もしくは後期EAE病態のマウスから、脳下垂体を切り出し、総RNAを単離した後、プロラクチン遺伝子(Prl)の発現レベルを、定量的リアルタイムPCRを用いて測定した。その結果を図14(a)に示す。
【0076】
また、マウスの血清を採取し、血清中のプロラクチン(PRL)及び成長ホルモン(GH)のタンパクレベルを、Luminex systemを用いて測定した。その結果を図14(b)に示す。いずれの進行度のEAE病態においても、血清中のプロラクチン(PRL)レベルは、無処置マウスのものよりも顕著に低いことが観測された。
【0077】
さらに、無処置又は早期、中期もしくは後期EAE病態のマウスのCNSから、FACS ARIAを用いて、CD19B細胞、PDCA-1CD11c形質細胞様樹状細胞(pDC)、CD45intCD11bミクログリア細胞を精製し、これらのプロラクチン遺伝子(Prl)及びzbtb20遺伝子の発現レベルを、定量的リアルタイムPCRを用いて測定した。検出の際に使用した抗体は、抗CD19抗体(Biolegend社製)、抗PDCA-1抗体(eBioscience社製)、抗CD45抗体(Biolegend社製)、抗CD11c抗体(Biolegend社製)、抗zbtb20抗体(Becton Dickinson社製)を用いた。PrlおよびGHの定量には、Mouse pituitary magnetic bead panel(Millipore社製)を用いた。
【0078】
結果を図14(c)に示す。後期EAE病態では、CD19B細胞及びPDCA-1B220pDCにおいて、プロラクチン遺伝子の発現レベルが顕著に増加していたことが観測された。また、CD19B細胞及びCD45intCD11bミクログリア細胞において、zbtb20遺伝子の発現レベルがEAE病態の進行に伴い、増加していたことが観測された。
【0079】
2.プロラクチンによる後期EAE病態の変化
(1)プロラクチン添加とEomes遺伝子の発現増強1
未処理マウスの脾臓由来のTh細胞を、リコンビナントプロラクチン非存在下又は存在下にて8時間培養した。培養後、Th細胞から総RNAを抽出した。得られた総RNAから、ファーストストランドcDNA合成キット(タカラ社製)を用いて、cDNAを合成した。LightCycler装置で、Light Cycler-FastStart DNAマスターSYBRグリーンIキット(Roche Diagnostics社製)を用いた条件で、又はABI 7300リアルタイムPCR装置で、Power SYBRグリーンマスターミックス(Applied Biosystems社製)を用いた条件で、市販のプライマー(QuantiTect Primer Assay,QT01074332,Qiagen社製)を使用して定量リアルタイムPCRを行った。Eomes遺伝子発現量は、GAPDHハウスキーピング遺伝子の発現量に基づいて補正した。
【0080】
結果を図15に示す。図15中、1はプロラクチンを添加せずに培養したもの、2は低濃度のプロラクチン存在下で培養したもの、3は、高濃度のプロラクチン存在下で培養したものを意味する。図15の縦軸は、ハウスキーピング遺伝子(β2ミクログロブリン)に対するEomesの相対発現量を表したものであり、プロラクチンの濃度依存的にEomes発現量が増加した。
【0081】
(2)プロラクチン添加とEomesタンパク質の発現増強2
脾臓由来のCD226Th細胞を、プロラクチン非存在下又は存在下にて8時間または48時間培養した。培養後、CD226Th細胞を抗CD226抗体、抗Eomes抗体で染色し、CD226EomesT細胞、CD226EomesT細胞とCD226T細胞をFACS CANTO II(BD Cytometry Systems社製)を用いて解析した。解析の際に使用した抗体は、抗CD226抗体(Biolegend社製)、および抗Eomes抗体(Biolegend社製)である。
【0082】
結果を図16に示す。プロラクチン非存在下で培養した細胞に比べて、プロラクチン存在下で培養した細胞では、48時間後のEomes発現量が顕著に増加した。
【0083】
(3)D2受容体アゴニストによる後期EAE病態の抑制
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導したCD4-Cre/NR4A2fl/flマウス及び対照マウス(Control)に、誘導4日後からブロモクリプチンを隔日で腹腔内注射した。注射した後、以下に示すEAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。
<EAE評価基準>
0:臨床徴候なし
1:尾の部分的麻痺
2:弛緩した尾
3:後肢の部分的麻痺
4:全後肢の麻痺
5:後肢及び前肢の麻痺
【0084】
結果を図17に示す。図17中の矢印は、ブロモクリプチンを投与した日を示す。ブロモクリプチンを投与することにより、後期EAE病態は有意に抑制された。
【0085】
(4)D2受容体アゴニスト(ブロモクリプチン)投与によるEomesタンパク質の発現抑制1
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導したCD4-Cre/NR4A2fl/flマウスにおいて、誘導4日後からブロモクリプチンを隔日で静脈内注射したマウス及び注射しなかったマウスから脳及び脊髄を採取し、フローサイトメーターを用いて、CNSへ浸潤したTh細胞を分離した。具体的には、組織を小さい破片に切断した後、37℃で40分間、1.4mg/mLのコラゲナーゼH及び100μg/mLのDNaseI(Roche社製)を含有したRPMI 1640培地(Invitrogen社製)において更に分解した。得られた組織のホモジネートを70μm細胞濾過器(GEヘルスケアサイエンス社製)に通し、不連続パーコール密度勾配遠心分離法(37%/80%)を用いて、白血球細胞を濃縮した。次いで、CNSへ浸潤したTh細胞をFACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートで分離した。回収したTh細胞のEomes及びCD4の発現量の変化をフローサイトメーターで解析した。分離の際に使用した抗体は、抗CD4抗体(Biolegend社製)、抗Eomes抗体(eBioscience社製)を用いた。
【0086】
結果を図18及び図19に示す。図18に示すように、ブロモクリプチンを投与することにより、CNS浸潤Th細胞におけるEomesタンパク質の発現量は有意に抑制された。図19は、EomesCD4T細胞の割合と実際の細胞数の変化を示すグラフである。
【0087】
(5)D2受容体アゴニスト(ブロモクリプチン)投与によるEomes遺伝子の発現抑制2
上記1.(3)と同様に単相型EAEを誘導したCD4-Cre/NR4A2fl/flマウスにおいて、誘導4日後からブロモクリプチンを隔日で静脈内注射したマウス及び注射しなかったマウスから、誘導27日後に脳及び脊髄を採取し、CNSへ浸潤したCD19B細胞及びnon-B/classII細胞をFACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートで分離した。分離したCD19B細胞及びnon-B/classII細胞を、それぞれ脾臓由来のCD4Th細胞と8時間、共培養した。培養後、回収したTh細胞のEomes及びCD107aの発現量の変化をフローサイトメーターで解析した。検出の際に使用した抗体は、抗Eomes抗体(eBioscience社製)、抗CD107a抗体(Biolegend社製)を用いた。
【0088】
結果を図20に示す。図20によれば、ブロモクリプチンを投与することにより、CNS由来の抗原提示細胞のTh細胞に対するEomesタンパク質発現およびCD107a発現誘導能は有意に抑制された。
【0089】
(6)D2受容体アゴニスト(ブロモクリプチン)投与によるEomes遺伝子及びCD107a遺伝子の発現
上記1.(3)と同様に単相型EAEを誘導したCD4-Cre/NR4A2fl/flマウスに、誘導4日後からブロモクリプチン又はプラセボ(DMSO及びPBS)を隔日で腹腔内注射した。誘導32日後に脳及び脊髄を採取し、CNSへ浸潤したCD19B細胞及びCD19CD45hinon-B/classII抗原提示細胞をFACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートで分離した。分離した細胞を、FITC結合抗CD107a抗体の存在下、類遺伝子系統の未処置マウス由来の脾臓からFACSソートで分離したCD4T細胞と共培養した。8時間共培養した後、各細胞を染色して、Eomes発現を解析した。検出の際に使用した抗体は、抗CD4抗体(Biolegend社製)、抗Eomes抗体(eBioscience社製)、抗CD45抗体(Biolegend社製)、FITC結合抗CD107a抗体(Biolegend社製)を用いた。
【0090】
結果を図21に示す。共培養したCD4T細胞の細胞表面のEomes遺伝子とCD107a遺伝子の発現量は、CD19B細胞及びCD19CD45hinon-B/classII抗原提示細胞のいずれと共培養した場合であっても、ブロモクリプチンの投与によって、減少していることが観測された。
【0091】
(7)D2受容体アゴニスト(ドパミン)投与によるEomes遺伝子の発現抑制
後期EAE病態マウスから、FACSソートにより、CD19B細胞及びCD19CD45hinon-B/classII抗原提示細胞を精製した。精製された各細胞を、ドパミンの非存在下又は特定量のドパミンの存在下、24、48、96時間培養した。培養後の細胞を回収し、定量的リアルタイムPCRを用いて、プロラクチン遺伝子(Prl)及びZbtb20遺伝子の発現量を解析した。
【0092】
結果を図22に示す。図22(a)は、CD19B細胞における遺伝子発現量を示し、図22(b)は、CD19CD45hinon-B/classII抗原提示細胞における遺伝子発現量を示す。いずれの場合にもドパミン共存かで培養することにより、プロラクチン及びZbtb20遺伝子の発現量は顕著に低下していることが観測された。
【0093】
(8)ドパミン前駆物質(L-ドパ)投与によるEomes遺伝子の発現抑制
上記1.(3)と同様に単相型EAEを誘導したCD4-Cre/NR4A2fl/flマウスに、誘導4日後からL-ドパ又はプラセボ(DMSO及びPBS)を隔日で腹腔内注射した。
【0094】
各マウスのEAEスコアを図23に示す。L-ドパを反復投与することにより、EAEスコアが顕著に改善していることが観測された。図23の右グラフにおいて、点線は95%信頼区間を示す。累積EAEスコアの比較においても、L-ドパの反復投与によるEAEスコアの改善が確認された。
【0095】
次に、誘導32日後に各マウスから脳及び脊髄を採取し、CNSへ浸潤したCD4T細胞、CD19B細胞及びCD19CD45hinon-B/classII抗原提示細胞をFACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートで分離した。分離した各細胞を染色して、Eomes及びZbtb20遺伝子の発現を解析した。検出の際に使用した抗体は、抗CD4抗体(Biolegend社製)、抗Eomes抗体(eBioscience社製)、抗CD19抗体(Biolegend社製)、抗Zbtb20抗体(Becton Dickinson社製)を用いた。
【0096】
結果を図24に示す。図24(a)に示すように、CD4T細胞において、L-ドパの反復投与により、CD4EomesT細胞の割合が顕著に減少していることが観測された。また、図24(b)及び(c)に示すように、CD19B細胞及びCD19CD45hinon-B/classII抗原提示細胞において、L-ドパの反復投与により、Zbtb20細胞の割合も減少していることが観測された。
【0097】
次に、L-ドパ投与マウス及び非投与マウスのCNS及び脾臓からそれぞれ分離したCD19B細胞及びCD19CD45hinon-B/classII抗原提示細胞におけるプロラクチン遺伝子(Prl)の発現レベルを、定量的リアルタイムPCRを用いて解析した。検出の際に使用した抗体は、抗CD19抗体(Biolegend社製)、抗CD45抗体(Biolegend社製)を用いた。
【0098】
結果を図25に示す。CNS由来のB細胞及びnon-B/classII抗原提示細胞において、プロラクチン遺伝子の発現レベルが顕著に高く、L-ドパの反復投与によって、その発現レベルが低下していることが観測された。
【0099】
3.抗CX3CR1抗体投与によるEomes遺伝子の発現抑制
上記1.(3)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスに誘導10日後(後期EAE病態に相当)に、抗CX3CR1抗体(Biolegend社製)又はそのアイソタイプ(Biolegend社製)を投与し、上述のEAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。
【0100】
結果を図26に示す。図26に示すように、抗CX3CR1抗体を投与することで(CX3CR1)、アイソタイプを投与した場合と比べて(Isotype)、後期EAE病態が有意に改善された。
【0101】
また、誘導22日後及び誘導28日後に、抗CX3CR1抗体又はそのアイソタイプを投与されたマウスのCNSを採取し、CD4細胞を分離した。得られたCD4細胞における、EomesCD4細胞及びEomes++CD4細胞(Eomes強陽性CD4陽性Th細胞)のCD4細胞に対する割合及び絶対量を測定した。
【0102】
結果を図27に示す。図27に示すように、EomesCD4細胞及びEomes++CD4細胞のいずれにおいても、抗CX3CR1抗体投与により、後期EAE病態におけるEomes陽性Th細胞のCD4細胞に対する割合及び絶対量は有意に減少した。
【0103】
4.Zbtb20特異的siRNA投与によるEomes遺伝子の発現抑制
(1)EAE病態の臨床スコアの変化
上記1.(3)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスに誘導7日後(初期EAE病態に相当)に、アテロコラーゲン基質で安定化されたZbtb20特異的siRNA((株)高研製)又は対照スクランブルsiRNA((株)高研製)を静脈内注射により投与し、上述のEAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。
【0104】
その結果を図28に示す。図28の右グラフの縦軸は、累積臨床スコアを示す。対照スクランブルsiRNA投与マウスでは、未処置マウスと同等の臨床スコアであったのに対し、Zbtb20特異的siRNA投与マウスでは、顕著に臨床スコアの低下が観測された。図28の右グラフの右グラフは累積臨床スコアをグラフ化したものであり、点線は95%信頼区間を示す。
【0105】
(2)Zbtb20特異的siRNA投与によるEomes及びZbtb20遺伝子の発現抑制
上記4.(1)と同様に処置した未処置マウス、Zbtb20特異的siRNA投与マウス及び対照スクランブルsiRNA投与マウスの脳及び脊髄を採取し、CD4T細胞及びB細胞を分離した。得られた各マウス群のCD4T細胞及びB細胞におけるEomes又はZbtb20遺伝子の発現を、フローサイトメーターを用いて解析した。検出の際に使用した抗体は、抗CD4抗体(Biolegend社製)、抗Eomes抗体(eBioscience社製)、抗CD19抗体(Biolegend社製)、抗Zbtb20抗体(Becton Dickinson社製)を用いた。
【0106】
結果を図29に示す。図29(a)に示すように、Zbtb20特異的siRNA投与マウスでは、CD4T細胞におけるEomes遺伝子の発現、B細胞におけるZbtb20遺伝子の発現がともに顕著に抑制されていたことが観測された。図29(b)は、各マウス群のEomes及びZbtb20の発現細胞の割合を比較するためにグラフ化したものである。
【0107】
(3)Zbtb20特異的siRNA投与によるプロラクチン遺伝子の発現抑制
上記4.(1)と同様に処置した未処置マウス、Zbtb20特異的siRNA投与マウス及び対照スクランブルsiRNA投与マウスを用いて、後期EAE病態マウスのCNSから抗原提示細胞を分離した。得られた抗原提示細胞から、FACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートでCD19CD45hinon-B/classII抗原提示細胞を精製した。精製した細胞にZbtb20特異的siRNA又は対照スクランブルsiRNAを形質導入し、LPSの存在下24時間培養した後、定量的リアルタイムPCRを用いて、Zbtb20及びプロラクチン(Prl)の発現レベルを測定した。検出の際に使用した抗体は、抗CD4抗体(Biolegend社製)、抗Eomes抗体(eBioscience社製)、抗CD19抗体(Biolegend社製)、抗CD45抗体(Biolegend社製)を用いた。
【0108】
結果を図30に示す。Zbtb20特異的siRNAの投与により、Zbtb20遺伝子及びPrl遺伝子の発現レベルは顕著に低下していることが観測された。
【0109】
5.抗CD20抗体投与によるEomes遺伝子の発現抑制
(1)EAE病態の臨床スコアの変化
上記1.(3)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスにおいて、誘導7日前又は誘導13日後(後期EAE病態に相当)に、それぞれ抗CD20抗体又は対照IgGを静脈内注射により投与し、上述のEAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。
【0110】
結果を図31(a)及び(b)に示す。図31(a)及び(b)中の矢印は、抗体を投与した日を示す。図31(a)は、誘導7日前に抗体を投与した結果を示し、図31(b)は誘導13日後に抗体を投与した結果を示す。図31(b)に示すように、誘導13日後に抗CD20抗体を投与することにより、顕著に臨床スコアが改善した。図31(b)の右グラフは累積臨床スコアをグラフ化したものであり、点線は95%信頼区間を示す。
【0111】
(2)抗CD20抗体によるEomes及びZbtb20遺伝子の発現抑制
上記5.(1)と同様に処置した未処置マウス、抗CD20抗体及び対照IgG投与マウスの脳及び脊髄を採取し、CD4T細胞及びB細胞を分離した。得られた各マウス群のCD4T細胞及びB細胞におけるEomes又はZbtb20遺伝子の発現をフローサイトメーターを用いて解析した。検出の際に使用した抗体は、抗CD4抗体(Biolegend社製)、抗Eomes抗体(eBioscience社製)、抗CD20抗体(Biolegend社製)、抗CD45抗体(Biolegend社製)、抗Zbtb20抗体(Becton Dickinson社製)を用いた。
【0112】
結果を図31(c)及び32に示す。図31(c)に示すように、抗CD20抗体投与マウスでは、CD4T細胞におけるEomes遺伝子の発現、B細胞におけるZbtb20遺伝子の発現がともに顕著に抑制されていたことが観測された。図32は、各マウス群のEomes及びZbtb20の発現細胞の割合を比較するためにグラフ化したものである。
【0113】
6.各種サイトカインによるZbtb20遺伝子発現の変化
(1)各種サイトカインによるZbtb20遺伝子発現の変化
脾臓由来CD19B細胞を単離し、FACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートで精製した。精製したB細胞は、LPSの存在下、図33(a)に示すサイトカインの共存下又は非共存下で24時間培養した。培養後、各細胞におけるZbtb20遺伝子の発現レベルを測定した。検出の際に使用した抗体は、抗CD19抗体(Biolegend社製)、抗Zbtb20抗体(Becton Dickinson社製)を用いた。
【0114】
結果を図33及び34に示す。図33(a)では、サイトカイン非共存下で培養した細胞のZbtb20遺伝子の発現レベルをグレーのグラフで示し、各種サイトカイン共存下で培養した場合の発現レベルを黒線グラフで示した。表示したサイトカイン共存下で培養すると、Zbtb20遺伝子の発現が増加していること、IFNα又はIFNβ1の共存下で培養するとZbtb20遺伝子の発現増加が最も顕著であることが観測された。図33(b)は、各条件におけるZbtb20細胞の割合をグラフ化したものである。図34は、FACSプロットにより、各種サイトカイン共存下で培養した場合にサイトカイン非共存下で培養した場合に対して、Zbtb20細胞又はPrl細胞の割合が何倍に増加したかを示す。
【0115】
(2)EAE病態の進行に伴う各種サイトカイン発現の変化1
各進行度(初期EAE病態、中期EAE病態、後期EAE病態)におけるマウスのCSF及び血漿を採取し、各種サイトカインの発現レベルをLuminex systemを用いて測定した。また、同様にして、CNS由来のB細胞、pDC、ミクログリアにおける1型インターフェロン(IFNα2、IFNβ1)、IL-6、IL-9、Cxcl13の発現レベルを、定量的リアルタイムPCRを用いて測定した。IFNαおよびIFNβの検出には、ProcartaPlex Mouse IFNa/b(ThermoFisher社製)を用い、他のサイトカインの検出には、BioPlex Pro Cytokine GI 23-plex panelおよびBioPlex Pr Cytokine GIII TH17 8-plex B panel(BioRad社製)を用いた。
【0116】
結果を図35、36に示す。図35は、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-9、IL-12(p40)、IL-12(p70)、IFN-γの発現レベルを示す。図35(a)は、IFN-α、IFN-βの発現レベルを示す。図35(b)は、CNS由来のB細胞、pDC、ミクログリアにおけるIFNα2又はIFNβ1の発現量を示し、図35(c)は、CNS由来のB細胞、pDC、ミクログリアにおけるIL-6、IL-9、Cxcl13の発現量を示す。図35(b)及び(c)に示すように、中期EAE病態になると、ミクログリア内においてIFN-α2、IFN-β1、IL-9の発現量が顕著に増加していたことが観測された。
【0117】
(3)後期EAE病態マウス由来のミクログリアによるZbtb20発現への影響
類遺伝子系統の未処置マウスの脾臓からFACSソートにより、CD19+B細胞を分離し、未処置マウス又は後期EAE病態マウス由来のミクログリア細胞とともに24時間共培養した。培養後のB細胞におけるZbtb20遺伝子の発現量を、フローサイトメーターを用いて測定した。また、B細胞をFACSソートで精製し、リアルタイムPCRを用いてZbtb20及びPrlのRNAレベルを検出した。検出の際に使用した抗体は、抗CD19抗体(Biolegend社製)、抗Zbtb20抗体(eBioscience社製)を用いた。
【0118】
結果を図37に示す。図37(a)に示すように、CD19B細胞を後期EAE病態マウスのミクログリアと共培養すると、Zbtb20遺伝子の発現が顕著に増強されていることが観測された。また、図37(b)に示すように、Zbtb20及びPrlのRNAレベルも相対的に増加していたことが観測された。
【0119】
(4)EAE病態の進行に伴う各種サイトカイン発現の変化
未処置又は各進行度のEAE病態マウスからCSF及び血漿を採取し、各種サイトカイン(IL-2、IL-4、IL-3、IL-5、IL-10、IL-13、IL-17、G-CSF、GM-CSF、TNF-α、Eotaxin、KC、MCP-1、MIP-1b、RANTES、MIP-1a)のタンパクレベルをLuminex systemを用いて測定した。検出には、BioPlex Pro Cytokine GI 23-plex panelおよびBioPlex Pr Cytokine GIII TH17 8-plex B panel(BioRad社製)を用いた。
【0120】
結果を図38~40に示す。
図1
図2
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