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特許7112791金属イオンに結合されたイオン化合物を含む癌治療用薬学組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】金属イオンに結合されたイオン化合物を含む癌治療用薬学組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/375 20060101AFI20220728BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20220728BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220728BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220728BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20220728BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20220728BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20220728BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20220728BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20220728BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20220728BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220728BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220728BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220728BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220728BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20220728BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20220728BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220728BHJP
【FI】
A61K31/375
A61K31/19
A61K45/00 101
A61K39/395 T
A61K31/513
A61K31/4745
A61K31/282
A61K31/337
A61K31/519
A61K31/436
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61P43/00 121
A23L33/16
A23L33/15
A23L33/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021534100
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 KR2019010485
(87)【国際公開番号】W WO2020040502
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】10-2018-0098145
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521075295
【氏名又は名称】メタファインズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペ、チョル ミン
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502913(JP,A)
【文献】特表2004-508335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0118370(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸(Ascorbic acid)、ジクロロ酢酸(Dichloroacetic acid)及びラクテート(Lactate)の中から選択された異なる2種の化合物が、Ca 2+ の両側に結合されたイオン化合物を有効成分として含む癌治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記薬学組成物は、放射線照射又は抗癌剤との併用治療に使用されるものである、請求項1に記載の癌治療用薬学組成物。
【請求項3】
前記放射線は、1日2~10Gyの照射量で癌患者に照射しながら、前記薬学組成物と併用処理されるものである、請求項に記載の癌治療用薬学組成物。
【請求項4】
前記抗癌剤は、イマチニブ(Imatinib)、5-FU(5-Fluorouracil)、イリノテカン(Irinotecan)、スニチニブ(Sunitinib)、オキサリプラチン(Oxaliplatin)、パクリタキセル(Paclitaxel)、ラパチニブ(Lapatinib)、トラスツズマブ(Trastuzumab、Herceptin)、ゲフィチニブ(Gefitinib)、エルロチニブ(Erlotinib)、メトトレキサート(Methotrexate)、カルボプラチン(Carboplatin)、ドセタキセル(Docetaxel)、エベロリムス(Everolimus)、ソラフェニブ(Sorafenib)、カルボニックアンヒドラーゼ(carbonic anhydrase)の抑制剤、モノカルボン酸トランスポーター(monocarboxylate transporter)の抑制剤、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、PD-1系抗癌剤、ニボルマブ(Nivolumab)、PARP-1(Poly(ADP-ribose)polymerase1)の抑制剤、PARP-2(Poly(ADP-ribose)polymerase2)の抑制剤、オラパリブ(Olaparib)、ルカパリブ(Rucaparib)、ニラパリブ(Niraparib)、ベバシズマブ(Bevacizumab)及びVEGF抑制剤からなる群から選択される一つ以上の抗癌剤であるものである、請求項に記載の癌治療用薬学組成物。
【請求項5】
前記癌は、肺癌、乳癌、大腸癌、胃癌、脳腫瘍、膵臓癌、甲状腺癌、皮膚癌、多発性骨髄腫、リンパ腫、子宮癌、子宮頸癌、腎臓癌、及び黒色腫からなる群から選択される癌であるものである、請求項1に記載の癌治療用薬学組成物。
【請求項6】
前記薬学組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含むものである、請求項1に記載の癌治療用薬学組成物。
【請求項7】
前記薬学組成物は、液剤、散剤、エアロゾル、注射剤、輸液剤(点滴)、パッチ、カプセル剤、丸剤、錠剤、デポ(depot)、又は坐剤の形で剤形化されるものである、請求項1に記載の癌治療用薬学組成物。
【請求項8】
アスコルビン酸(Ascorbic acid)、ジクロロ酢酸(Dichloroacetic acid)及びラクテート(Lactate)の中から選択された異なる2種の化合物が、Ca 2+ の両側に結合されたイオン化合物を有効成分として含む癌転移抑制用薬学組成物。
【請求項9】
前記癌は、肺癌、乳癌、大腸癌、胃癌、脳腫瘍、膵臓癌、甲状腺癌、皮膚癌、多発性骨髄腫、リンパ腫、子宮癌、子宮頸癌、腎臓癌、及び黒色腫からなる群から選択される癌であるものである、請求項に記載の癌転移抑制用薬学組成物。
【請求項10】
アスコルビン酸(Ascorbic acid)、ジクロロ酢酸(Dichloroacetic acid)及びラクテート(Lactate)の中から選択された異なる2種の化合物が、Ca 2+ の両側に結合されたイオン化合物を有効成分として含む癌関連疲労予防又は改善用薬学組成物。
【請求項11】
アスコルビン酸(Ascorbic acid)、ジクロロ酢酸(Dichloroacetic acid)及びラクテート(Lactate)の中から選択された異なる2種の化合物が、Ca 2+ の両側に結合されたイオン化合物を有効成分として含む癌改善用食品組成物。
【請求項12】
前記食品組成物は、菓子、飲料、酒類、発酵食品、缶詰、牛乳加工食品、食肉加工食品又は麺加工食品の形態である健康機能性食品として製造されるものである、請求項11に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療用薬学組成物に関するものであり、より具体的には、癌治療用薬学組成物は、アスコルビン酸、ジクロロ酢酸及びラクテートの中から選択された2種の化合物が1種の金属イオンと結合されたイオン化合物を含み、それぞれ異なる化合物が癌細胞に同時にuptakeされることにより、それぞれ癌細胞にそれぞれ異なる機作で作用して、癌細胞の代謝過程を重複的、複合的に撹乱して、一つの特定の突然変異や癌細胞の成長シグナルに焦点が当てられた従来の抗癌剤よりも治療効果に優れ、薬物抵抗性が比較的発生しにくくて、癌細胞の増殖、浸潤、転移などの作用をより効果的に抑制することができる癌治療用薬学組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、癌を治療する方法には、外科的手術、放射線治療及び化学療法の三つがある。それぞれの方法は、癌治療のために独自に使用することもでき、複数の方法を複合的に使用することもできる。多くの初期段階の癌は、外科的手術で治療が可能であるが、癌がかなり進行したり、転移が起こった場合には、外科的手術だけでは治療が困難であり、他の方法を共に使用する必要がある。放射線療法は、外科的手術が困難な部位や放射線に特に反応性の良い癌の治療に使用されるが、薬物治療と並行したり、外科的手術の前後に使用することもできる。しかし、放射線療法は、放射線の高エネルギーによる副作用で局所部位の正常な皮膚に損傷を与えたり、転移性癌の場合、癌幹細胞が放射線に耐性を持つことで、結局再発や転移が起こってしまう欠点を持っている。死亡率の高い癌を治療するためには、初期と中期の癌において可能な手術治療、抗癌剤療法、又は放射線療法が最優先される。しかし、現在の癌治療法は、一般に、初期段階の癌の治療だけが可能だったり、再発の可能性が高く、癌細胞の他に正常な細胞まで破壊するなど、様々な副作用がある。特に重度の末期癌患者の場合、積極的な治療法に伴う副作用のほうがより深刻になる可能性があるため、癌細胞の進行を遅らせて、副作用を減らし、生活の質を高める治療法が選択されたりする。
【0003】
一般的に、化学療法は、薬物を経口や注射で投与して、癌細胞の増殖に必要なDNAや関連酵素(Enzyme)を破壊したり抑制したりする方法である。化学療法は、放射線療法や外科的手術に比べて身体のどの部位の癌でも薬物が到達することが可能であり、転移した癌を治療することができるという点で、転移性癌治療に標準療法として使用されている。勿論、化学療法で転移した癌が完治できるわけではないが、症状を緩和することで患者の生活の質(Quality of life)を改善し、寿命を延長する重要な役割を果たす。しかし、ほとんどの化学療法剤の問題点は、癌細胞だけでなく、正常細胞、特に身体で増殖が盛んに行われている骨髄、毛包、胃腸管内皮細胞などにも影響を及ぼすので、薬物治療を受ける癌患者は、骨髄で作られる、免疫に関わる細胞である白血球及び血小板の減少などで細菌感染、自然出血、脱毛、吐き気、嘔吐などの副作用に苦しむようになる。また、薬剤耐性(Drug resistance)の発現により、最初は効果が現れるが、結局治療に失敗してしまう。遺伝子技術を用いて免疫力を高めることで癌を治療する、オーダーメイド治療法である免疫抗癌治療法は、癌が相当進行した段階では、癌細胞の活性度が大きくなるため、免疫機能だけでは、癌細胞を除去することは容易でなく、免疫システムがかなり損傷した患者や、PD-1(活性化されたT細胞の表面に存在するタンパク質)があまり発現されていない患者にはよく効かない欠点があり、大量生産が不可能であることから相当なコストを要することや、臨床試験で患者が死亡することなど、予想外の欠点が発生する可能性がある。
【0004】
近年、従来の抗癌剤の副作用を減らし、正常細胞を守りながら、癌細胞だけを選択的に死滅させる標的抗癌剤の発売が増えているが、癌の生成過程における特定因子だけを攻撃するため、同種の癌であっても、特定の標的因子が現れる患者だけに効果があるという欠点がある。長年癌を治療するために、癌細胞の特徴である持続的な細胞増殖及び転移抑制の調節に基盤を置いた抗癌剤が多く開発されてきたが、複雑なシグナル伝達経路のネットワークによって調節される癌細胞の増殖を効果的に抑制する抗癌剤の開発は、依然としてかなり難しい課題となっている。
【0005】
癌疾患の治療に簡単に適用でき、正常組織への影響が少ない上、効果的に治療することができる新しい治療法の開発が切実に求められている。
【0006】
これらを満足させるために、最近、癌細胞固有の代謝の特徴を利用した新規な代謝抗癌剤が注目されている。1970年代、遺伝子工学と分子生物学技術の発達に伴い、癌を引き起こす突然変異と染色体異常が発見されたことを受け、癌研究の焦点は癌の遺伝的原因にフォーカスされ、癌の独特な代謝経路は、癌の原因ではなく、癌の発達過程において生じる付随効果として認識されたため、長い間研究が進んでいなかった。しかし、癌の代謝シグナルに関連する遺伝子変異と様々な代謝物が直接癌を引き起こす可能性があるということが明らかになり、バイオテクノロジーの発展に伴い、代謝物の分析が可能になることにより、癌細胞の代謝経路が癌を治療できる強力な抗癌ターゲットとして再浮上した。癌細胞が正常細胞とは異なる代謝経路を使用するという事実が初めて解明されたのは、癌細胞が新しい経路即ち解糖作用(Aerobic glycolysis、Warburg effect)を通じた糖代謝経路を使用すると発表してノーベル賞を受賞したドイツの生化学者Otto Warburgによるものだった。
【0007】
正常細胞は、酸素が存在する環境では、酸化的リン酸化によってブドウ糖を水と二酸化炭素に完全に酸化させながらエネルギーを生産するが、一方で、癌細胞は、酸素が欠乏した環境(Hypoxia)では、ブドウ糖をピルビン酸(Pyruvate)に酸化した後、再びラクテート(Lactate、乳酸)に還元する経路を選択する。従って、癌細胞は正常細胞に比べて酸素消費量が少ないという事実と、癌患者の腹水に大量のラクテートが存在するという事実を突き止めることにより、癌細胞が正常細胞よりもブドウ糖を大量に消費してラクテートを過剰に産生する解糖過程を通じてATPを産生するという特異な代謝経路を使用することが明らかになったのだ。
【0008】
多くの場合、癌細胞、特に固形癌細胞は、解糖作用をエネルギー源(ATP)の産生のための代謝経路として利用するが、これらの機転の中には、ミトコンドリアの欠陥と機能異常、腫瘍の低酸素微小環境への適応、癌誘発性シグナル経路及び代謝酵素の異常発現が含まれる。Warburg効果は、低酸素(Hypoxia)微小環境に癌細胞が適応した結果とも言えるが、低酸素環境は、HIF1(細胞内が低酸素状態に陥った際に誘導される転写因子)のユビキチン化タンパク質の分解過程(Proteosomal Degradation)を抑制してHIF1を安定化し、転写因子としての活性化を誘導する。一方、GLUT1(糖を輸送するタンパク質1型)は、HIF1によって発現が誘導されて、ブドウ糖が癌細胞内に流入することを促し、MCT4(モノカルボン酸輸送体)もHIF1の直接的な標的因子として、ピルビン酸をラクテートに変換するラクテート脱水素酵素(Lactate Dehydrogenase A;LDHA)によってラクテートを癌細胞の内部から外部に放出されるようにする。また、HIF1は、ピルビン酸をAcetyl-Coに変換する酵素であるピルビン酸脱水素酵素(Pyruvate Dehydrogenase;PDH)を阻害するピルビン酸脱水素酵素キナーゼ(Pyruvate Dehydrogenase Kinase)の発現を誘導して、酸化的リン酸化過程への経路を遮断する役割を果たす。従って、HIF1は、ブドウ糖の流入及び解糖過程に関連する様々な因子の直接的な発現調節によって、Warburg効果を促進する非常に重要な因子と言える。
【0009】
一方、癌細胞は自ら酸性化されることを防ぐために、解糖作用の最終産物であるラクテートを素早く外へ排出するが、排出されたラクテートは、細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T Cell)と樹状細胞(Dendritic Cell)から産生されて、抗癌効果を示す上で重要な役割を担うサイトカイン(Cytokine)を不活性化し、ナチュラルキラー細胞(Natural Killer Cell)の活性化受容体であるNKp46(ナチュラルキラー細胞であるNK細胞の認知受容体)の発現を抑制し、免疫阻害及び抑制物質の生産を促進することにより、癌細胞の細胞死滅能を抑制する。それに加えて、癌細胞周辺の血管内皮細胞(Endothelial Cell)は、排出されたラクテートを流入させて、IL-8(炎症細胞を活性化し、これらを炎症部位に誘引する化学誘引因子の役割をするタンパク質)とVEGF(血管生成因子)の発現を誘導し、血管内皮細胞の移動を促進して、結果的に新生血管形成(Angiogenesis)を誘導する。このような癌細胞の代謝リプログラミングは、単にATPを産生するというより、急速に成長する癌細胞の細胞構成物質の合成に必要なヌクレオチド、脂質、アミノ酸などといった前駆物質を生産するために進化的に選択された代謝変換戦略であり、急速に成長し続ける癌細胞が、このような代謝経路を戦略的に利用すると理解されている。このように、既存の癌の形成と成長を誘導する様々な発癌因子による癌の発達過程は、癌細胞の代謝と密接な関係があり、細胞代謝のリプログラミングは、癌を効果的に治療できる重要な抗癌ターゲットになり得る。このような癌細胞ならではの特異的な代謝シグナルを理解して、腫瘍を選択的に除去するために、癌細胞の糖代謝を調節するための代謝標的治療剤の開発が現在、集中的に行われているが、特に従来、糖代謝及び感染性疾患に使用されていた様々な薬物を効果的に用いた癌治療剤の開発が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0082918号公報(2016.07.11.)
【文献】米国特許出願公開第2011/0117210号明細書(2011.05.19.)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0058278号公報(2005.06.16.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、癌細胞ならではの特異的な代謝シグナルを理解し、これに基づいて腫瘍を選択的に除去することができる癌標的治療剤及び治療方法を開発するために、多角的に研究した結果、アスコルビン酸、ジクロロ酢酸及びラクテートの中から選択された2種の化合物が、Ca、Zn、Mg、Feから選択される1種の金属イオンと結合されたイオン化合物を用いる場合、癌細胞の増殖、浸潤、転移などを効果的に抑制できることを確認して本発明を完成した。
【0012】
従って、本発明の目的は、アスコルビン酸、ジクロロ酢酸及びラクテートの中から選択された2種の化合物が、Ca、Zn、Mg、Feから選択される1種の金属イオンと結合されたイオン化合物を含む癌治療用薬学組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明者は、癌細胞の増殖及び転移を効果的に抑制する方法を開発しようと、癌細胞特有の主要な代謝経路に注目した。
【0014】
まず注目した癌細胞の代謝経路は、解糖作用(Aerobic glycolysis)であって、癌細胞は酸素を必要とするエネルギー代謝過程である酸化的リン酸化(Oxidative phosphorylation)よりも酸素を必要としない解糖作用を主に利用することにより、正常細胞は生きることができない固形癌のような低酸素(Hypoxia)環境においても生存が可能であり、ミトコンドリアから始まる細胞死滅調節過程が不活性化されるという点である。
【0015】
二番目に注目した癌細胞の代謝経路は、解糖作用を通じて産生された多量のラクテート(Lactate)に関するものであって、癌細胞自体が酸性化されることを防ぐために、ラクテートが癌細胞の外に素早く排出されて、癌細胞周辺の環境を酸性化(Acidosis)にし、酸性化された周辺環境によってNK及びCTL細胞の活性は阻害され、最終的には新生血管形成(Angiogenesis)、癌細胞の転移及び免疫抑制を誘導するようになるという点である。
【0016】
三番目に、カルシウムは、癌細胞の生存及び増殖に不可欠な要素で、細胞質のカルシウム緩衝作用(Cytosolic calcium buffering)に主要な役割を果たし、活性酸素の産生に関連する細胞の自己死滅(Apoptosis)と自食作用(Autophagy)にも大きな影響を及ぼすという点に注目した。特に、カルシウムは、癌細胞において低濃度で維持されるとされているが、癌細胞においてミトコンドリアへのカルシウムの供給量を減らすと、エネルギーの枯渇によって癌細胞の増殖が抑制され、逆に、カルシウムの供給量を増やすと、ミトコンドリアに負荷がかかり過ぎて、癌細胞が死滅するという点である。従って、正常細胞に比べて癌細胞は、カルシウムにより敏感に反応して、癌細胞内のカルシウムの恒常性(Homeostasis)が破壊されると、癌細胞の増殖が抑制されることはもちろんであり、ひいては死滅するという点に注目した。
【0017】
本発明は、このような癌細胞特有の主要な代謝経路に効果的に作用するイオン化合物である、アスコルビン酸、ジクロロ酢酸及びラクテートの中から選択された2種の化合物が、Ca、Zn、Mg、Feから選択される1種の金属イオンと結合されたイオン化合物を含む癌治療用薬学組成物を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る癌治療用薬学組成物は、アスコルビン酸、ジクロロ酢酸及びラクテートの中から選択された2種の化合物が、Ca、Zn、Mg、Feから選択される1種の金属イオンと結合されたイオン化合物を有効成分として含む代謝抗癌剤として用いることができ、癌細胞の増殖を効果的に抑制することができる。
【0019】
また、本発明に係る癌治療用薬学組成物は、癌細胞の成長抑制化合物及び癌細胞転移抑制化合物のように、それぞれ異なる機作を有する化合物を含むことにより、主要な代謝酵素に同時に作用して癌細胞の代謝過程を重複的、複合的に撹乱して、一つの特定の突然変異や代謝過程の遮断に焦点が当てられた従来の抗癌剤とは異なって、細胞レベルで薬効を同時に発揮することができる。
【0020】
また、本発明に係る癌治療用薬学組成物は、イオン化合物であって、体内に投与されると、癌細胞のuptakeを向上させることができる。
【0021】
また、本発明に係る癌治療用薬学組成物は、酸性(acid)化合物を中性の金属塩の形に変換して、癌細胞のuptakeを向上させ、薬物抵抗性が比較的発生しにくく、癌細胞の増殖、浸潤、転移などの作用を効果的に抑制することができる。
【0022】
また、本発明に係る癌治療用薬学組成物を用いた癌の治療方法及び癌転移の抑制方法を提供することができる。
【0023】
また、本発明に係る癌治療用薬学組成物を含む、癌転移抑制用又は癌改善用食品組成物を提供することができる。
【0024】
また、本発明に係る癌治療用薬学組成物は、体内における副作用が少ないことから、食品の添加剤として使用することが可能であり、高容量の投与が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1a】実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内のカルシウム濃度を示したグラフである。
図1b】実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内のカルシウムを示した画像である。
図2】実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内のラクテート濃度を示したグラフである。
図3】実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内から排出されたラクテート濃度を示したグラフである。
図4】実施例1及び2と比較例1及び2のカルシウム塩を処理した癌細胞内のアスコルビン酸濃度を示したグラフである。
図5】実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内のpHを示したグラフである。
図6】実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内のピルビン酸濃度を示したグラフである。
図7】実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内のα-KG濃度を示したグラフである。
図8】実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞から発現されたPARP、β-catenin、VEGF及びβ-actinの発現量を示したグラフである。
図9】実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞から発現された活性酸素の発現量を示したグラフである。
図10】実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞の自己死滅を示したグラフである。
図11】実施例1~3のカルシウム塩を大腸癌細胞株に処理して、細胞群集形成能を確認した画像である。
図12】実施例1~3のカルシウム塩と既存の5-FU抗癌剤を大腸癌細胞株に併用投与して、細胞群集形成能を確認したグラフである。
図13】実施例1のカルシウム塩と5-FU抗癌剤を大腸癌細胞株であるHCT-116に処理して、併用伝達効果を確認したグラフである。
図14】実施例2のカルシウム塩と5-FU抗癌剤を大腸癌細胞株であるHCT-116に処理して、併用伝達効果を確認したグラフである。
図15】実施例1のカルシウム塩とSN-38抗癌剤を大腸癌細胞株であるHCT-116に処理して、併用伝達効果を確認したグラフである。
図16】実施例2のカルシウム塩とSN-38抗癌剤を大腸癌細胞株であるHCT-116に処理して、併用伝達効果を確認したグラフである。
図17】実施例1のカルシウム塩とPaclitaxel抗癌剤を大腸癌細胞株であるHCT-116に処理して、併用伝達効果を確認したグラフである。
図18】実施例2のカルシウム塩とPaclitaxel抗癌剤を大腸癌細胞株であるHCT-116に処理して、併用伝達効果を確認したグラフである。
図19a】実施例1のカルシウム塩をマウスモデル(DLD-1 orthotopic model)に投与し、1週間後に切開した上で観察したイメージング結果の写真である。
図19b】実施例1のカルシウム塩をマウスモデル(DLD-1 orthotopic model)に投与し、1週間後に切開した癌組織の重さを測定したグラフである。
図20】肺にA549/LUC細胞を移植したマウスモデルに、実施例1~3のカルシウム塩を投与した後、ルミネセンス(luminescence)イメージング測定で癌の成長飽和度を日付ごとに撮影した映像の写真である。
図21】前記図20のイメージをIVISスペクトラム(Xenogen)のプログラムであるROI(Region Of Interest)を測定して示したグラフである。
図22】肺にA549/LUC細胞を移植したマウスモデルに、実施例1~3のカルシウム塩を投与した後、生存率を測定して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、アスコルビン酸(Ascorbic acid)、ジクロロ酢酸(Dichloroacetic acid)及びラクテート(Lactate)の中から選択された2種の化合物が、Ca、Zn、Mg、Feから選択される1種の金属イオンと結合されたイオン化合物を有効成分として含む癌治療用薬学組成物を提供する。
【0027】
前記アスコルビン酸(L-ascorbic acid)はビタミンCであって、ノーベル賞受賞者であるライナス・ポーリングの研究によって、毒性のない抗癌剤であることが既に解明されている。また、アスコルビン酸は、人体に過量(50g以上)投与しても特別な毒性はなく、ブドウ糖と類似した構造により、癌細胞のブドウ糖過吸収(glucose addition)を競争的に抑制することができる。一方、高濃度(mega dose)のアスコルビン酸は、癌細胞内のグルタチオンやNADPHなどを下げ、活性酸素(ROS)を発生させることで、癌細胞の壊死を誘導することができる。また、アスコルビン酸は、癌細胞が正常細胞に分化するように誘導し、コラーゲンの合成と癌転移を助ける酵素の遮断を通じて、癌細胞が癌周囲の組織に広がることを抑制することができる。それに加えて、癌細胞内に入って細胞膜を破壊すると同時に、癌性疼痛を軽減し、癌患者の重要な臓器をデトックス(Detox;Detoxification)することで免疫力を高め、癌の新生血管生成を抑制することができる。また、他の抗癌剤治療や放射線治療の効果を高める上、副作用を軽減するので、癌の予防と治療に重要な役割を果たすことができる。
【0028】
一方、前記アスコルビン酸が低濃度である場合には、癌細胞の自己死滅が観察されなかったが、癌細胞のG1期で完全な成長を阻害し、p53レベルが増加した半面、CDK2の活性が阻害され、p38MARKの活性化とCOX-2の発現を減少させることができる。
【0029】
前記アスコルビン酸が高濃度である場合には、ミトコンドリア膜電位の減少とTf輸送受容体の発現が減少し、鉄分吸収の減少及び癌細胞内の活性酸素(ROS)の増加を通じて、癌細胞に対する自己死滅(Apoptosis)を誘導することができる。
【0030】
前記アスコルビン酸が適切な金属イオンと結合すると、体内の安定性が高まり、癌細胞内へのuptakeが増加することで、既存のアスコルビン酸の抗癌効果よりもさらに向上し、相対的に低濃度でも癌細胞の自己死滅を誘導することができる。
【0031】
一般的に、癌細胞は低酸素状態になると、低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor-1、HIF-1)が活性化されて、ピルビン酸キナーゼ(Pyruvate Dehydrogenase Kinase)が発現され、発現されたピルビン酸キナーゼによってピルビン酸脱水素酵素(Pyruvate Dehydrogenase Complex)が抑制される。これにより、ピルビン酸がアセチル-CoAに変換されず、ピルビン酸が蓄積され、ミトコンドリアのエネルギー合成の低下が進む。このように、ピルビン酸が過剰に蓄積される場合、ピルビン酸がラクテート(Lactate)に変換されて、ラクテートが癌細胞の周辺に蓄積されるようになる。これらをまとめて簡単に言えば、癌細胞が低酸素状態になると、ピルビン酸キナーゼが発現し始めて、ラクテートの蓄積が行われる。
【0032】
前記ジクロロ酢酸は毒性がなく、先に説明した解糖作用(Aerobic glycolysis)経路を遮断することができる。また、ピルビン酸キナーゼの発現を阻害して、ラクテートの蓄積を抑制することができる。それに加えて、TCA回路(Tricarboxylic Acid Cycle)を再び回復することで、ミトコンドリアの呼吸亢進によってブドウ糖代謝リプログラミング(即ち、ミトコンドリアの代謝正常化)を誘導することができる。
【0033】
一方、前記ジクロロ酢酸は、適切な金属イオンと結合することにより、既存のジクロロ酢酸の抗癌効果を向上させ、ミトコンドリアの代謝正常化を誘導することで、活性酸素(ROS)を誘導させて癌細胞を死滅させることができる。
【0034】
また、前記ジクロロ酢酸は、適切な金属イオンと結合することにより、ラクテートの蓄積を減らして、癌細胞の酸性化(Tumor acidosis)を抑制することができる。
【0035】
前記ラクテートは、ラクト酸(Latic acid)、D-ラクテート及びL-ラクテートを含み、D-ラクト酸及びL-ラクト酸も含むことを意味する。
【0036】
前記ラクテートを適切な金属イオンと結合することにより、癌細胞内のラクテートを過度に蓄積させて、LDHB(L-lactate dehydrogenase B;ラクテート又は乳酸をピルビン酸に変える酵素であり、それと同時にNAD+をNADHに変える酵素)が活性化されたり、LDHA(L-lactate dehydrogenase A;LDHBの逆反応酵素)が抑制されることで、MCT(Monocarboxylate transporters)の発現を抑制させることができる。
【0037】
ここで、「LDHAの抑制」又は「LDHBの活性化」とは、ラクテートをピルビン酸に変換させることを意味する。また、「MCTの発現抑制」とは、ラクテートの流入と排出に関与するMCTの発現を抑制することにより、NKp46の発現を活性化させて、癌細胞の細胞死滅能を活性化することを意味する。
【0038】
また、前記ラクテートを適切な金属イオンと結合することにより、癌細胞内に投入されて、内部を酸性化させて細胞死滅を誘導することができる。
【0039】
前記金属イオンは、Ca、Zn、Mg、Feから選択される1種であってもよい。好ましくは、Ca、Mg、Feであり、さらに好ましくは、Ca2+イオンであるが、これに限定されない。
【0040】
このとき、前記Ca2+イオン(カルシウムイオン)は、癌細胞のカルシウム恒常性(Homeostasis)に影響を及ぼすもので、ミトコンドリアのカルシウム蓄積を誘導することで、癌細胞内で活性酸素を大量に発生させることができ、発生した活性酸素によって癌細胞死滅をもたらすことができる。
【0041】
より具体的に説明すると、癌細胞は、エネルギー生産を担当しているミトコンドリアにおいて、カルシウムはalpha-ketoglutarate dehydrogenaseと直接結合をして、TCA回路の正常な作動に重要な要素であり、カルシウムの恒常性の消失が、癌細胞の減少に特に重要であるとされている。癌細胞内のカルシウム濃度が過度に増加すると、endonuclease及び多くのproteaseが活性化され、ミトコンドリアの代謝障害を引き起こすと同時に、cytochrome Cを遊離し、caspase9を活性化させて、連鎖的にカスパーゼ3と7を活性化する。これにより、自己死滅(Apoptosis)に至るようになる。
【0042】
本明細書において、「イオン化合物(Ionic compound)」とは、静電気力によって互いに反対の電荷を持ったイオンが、イオン結合を通じて構成された化合物のことを言い、この化合物は、大体電気的に中性である。
【0043】
本発明に係る薬学組成物に含まれたイオン化合物は、好ましくは、アスコルビン酸及びジクロロ酢酸のカルシウム塩(Calcium salts)、アスコルビン酸及びラクテートのカルシウム塩、ジクロロ酢酸及びラクテートのカルシウム塩、アスコルビン酸及びジクロロ酢酸のマグネシウム塩、アスコルビン酸及びラクテートのマグネシウム塩、ジクロロ酢酸及びラクテートのマグネシウム塩、アスコルビン酸及びジクロロ酢酸のマグネシウム塩、アスコルビン酸及びラクテートのマグネシウム塩、ジクロロ酢酸及びラクテートのマグネシウム塩、アスコルビン酸及びジクロロ酢酸の鉄塩(iron salts)、アスコルビン酸及びラクテートの鉄塩、ジクロロ酢酸及びラクテートの鉄塩のいずれか一つであってもよく、より好ましくは、アスコルビン酸及びジクロロ酢酸のカルシウム塩、アスコルビン酸及びラクテートのカルシウム塩、ジクロロ酢酸及びラクテートのカルシウム塩のいずれか一つであってもよいが、これらに限定されない。
【0044】
ここで、前記「カルシウム塩」とは、化合物がカルシウムイオンと結合された形で生成又は合成されたイオン化合物を意味し、前記「マグネシウム塩」とは、化合物がマグネシウムイオンと結合された形で生成又は合成されたイオン化合物を意味し、前記「鉄塩」とは、化合物が鉄イオンと結合された形で生成又は合成されたイオン化合物を意味する。
【0045】
本発明に係る薬学組成物は、放射線照射又は抗癌剤との併用治療に使用することができる。一般的に、放射線照射時に、癌細胞に放射線に対する耐性を付与するPARP、HIF-1α及びVEGFの発現を減少させるため、放射線照射と併用投与する場合には、放射線の抗癌活性を促進させて、従来よりも放射線の照射量を減少させながらも、同等の水準の抗癌活性を示すようにすることができる。このとき、使用できる放射線の照射量は、特にこれに限定されないが、1日2~10Gyとなり得るが、前記放射線は、1日1回照射されてもよいが、前記線量を分けて数日にわたって照射されてもよい。
【0046】
本発明に係る薬学組成物は、アスコルビン酸、ジクロロ酢酸及びラクテートの中から選択された2種の化合物が、Ca、Zn、Mg、Feから選択される1種の金属イオンと結合されたイオン化合物を含むことにより、2種の化合物が本来有していたそれぞれの抗癌効果が相殺されることなく、癌細胞内に同時にuptakeされて、効能を同時に発揮することができる。こうした効果は、既存の抗癌剤の複合投与(Combi-therapy)よりもさらに優れた効果を示すことができる。
【0047】
一方、本発明に係る薬学組成物と抗癌剤を併用投与する場合、単独の抗癌剤投与による抗癌効果に比べて、さらに優れた抗癌効果を示すことができる。
【0048】
このとき、本発明に係る薬学組成物と併用投与することができる抗癌剤は、癌細胞の全般的な代謝過程に直接的に作用しない限り、特にこれに限定されず、一例として公知の抗癌剤であるイマチニブ(Imatinib)、5-FU(5-Fluorouracil)、イリノテカン(Irinotecan)、スニチニブ(Sunitinib)、オキサリプラチン(Oxaliplatin)、パクリタキセル(Paclitaxel)、ラパチニブ(Lapatinib)、トラスツズマブ(Trastuzumab、Herceptin)、ゲフィチニブ(Gefitinib)、エルロチニブ(Erlotinib)、メトトレキサート(Methotrexate)、カルボプラチン(Carboplatin)、ドセタキセル(Docetaxel)、エベロリムス(Everolimus)、ソラフェニブ(Sorafenib)、カルボニックアンヒドラーゼ(carbonic anhydrase)の抑制剤、モノカルボン酸トランスポーター(monocarboxylate transporter)の抑制剤、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、PD-1系抗癌剤、ニボルマブ(Nivolumab)、PARP-1(Poly(ADP-ribose)polymerase1)の抑制剤、PARP-2(Poly(ADP-ribose)polymerase2)の抑制剤、オラパリブ(Olaparib)、ルカパリブ(Rucaparib)、ニラパリブ(Niraparib)、ベバシズマブ(Bevacizumab)及びVEGF抑制剤だけでなく、抗癌活性を示すものとして知られる他の抗癌剤であってもよい。
【0049】
本発明において、前記癌は、代謝過程の撹乱によって増殖、浸潤、転移などが抑制することができる癌であって、一例として肺癌、乳癌、大腸癌、胃癌、脳腫瘍、膵臓癌、甲状腺癌、皮膚癌、多発性骨髄腫、リンパ腫、子宮癌、子宮頸癌、腎臓癌、及び黒色腫からなる群から選択される癌であってもよい。
【0050】
本発明の薬学組成物は、薬学組成物の製造に通常使用する適切な担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含む癌治療用薬学組成物の形態で製造することができる。具体的には、前記薬学組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾル、経口パッチなどの経口型剤形、外用剤、外用パッチ剤、坐剤、及び滅菌注射溶液の形で剤形化して使用することができる。
【0051】
本発明において、前記薬学組成物に含まれ得る担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、でん粉、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェイト、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート、鉱物油などを挙げることができる。製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を使用して調製することができる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、デポ(depot)、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、経口パッチ剤などが含まれ、これらの固形製剤は、前記抽出物とその分画物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、でん粉、カルシウムカーボネート(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)又はラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調製することができる。また、単なる賦形剤以外に、マグネシウムステアレート、タルクといった潤滑剤も使用することができる。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが挙げられるが、よく使用される単純な希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に、様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、外用パッチ剤、坐剤などが含まれてもよい。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルといった植物油、エチルオレートといった注射可能なエステルなどを使用することができる。坐剤の基剤としては、ウイテプソル(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを使用することができる。
【0052】
本発明の薬学組成物に含まれた前記イオン化合物の含有量は、特にこれに限定されないが、最終的な組成物の総重量を基準として0.0001~50重量%、より好ましくは、0.01~20重量%の含有量で含まれてもよいが、前記薬学組成物の1回投与量に含まれた金属イオンの濃度は、0.1~300mMになってもよい。
【0053】
前記本発明の薬学組成物は、薬剤学的に有効な量で投与され得るが、本発明の用語「薬剤学的に有効な量」とは、医学的治療又は予防に適用可能な合理的な受益/危険の比率で疾患を治療又は予防するのに十分な量を意味し、有効容量水準は、疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康、性別、患者の薬物に対する敏感度、使用された本発明組成物の投与時間、投与経路、及び排出比率、治療期間、使用された本発明の組成物と配合又は同時使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野でよく知られた要素によって決定され得る。本発明の薬学組成物は、単独で投与したり、公知の抗癌剤又は抗癌活性を示すものとして知られている成分と併用して投与することができる。前記要素を全て考慮し、副作用を引き起こすことなく、最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要である。
【0054】
本発明の薬学組成物の投与量は、使用目的、疾患の中毒度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、又は有効成分として使用される物質の種類などを考慮して、当業者が決めることができる。例えば、本発明の薬学組成物は、成人1人当たり約1ng~約2,000mg/kg、好ましくは、1mg~約400mg/kgで投与することができ、本発明の組成物の投与頻度は、特にこれに限定されないが、1日1回投与するか、又は容量を分割して数回投与することができる。前記投与量又は投与回数は、いかなる面においても、本発明の範囲を限定するものではない。
【0055】
本発明は、もう一つの様態として、前記薬学組成物を薬剤学的に有効な量で、癌を発症した個体に投与するステップを含む癌の治療方法を提供する。
【0056】
本発明の用語「個体」とは、癌を発症したマウス、家畜、人間などを含む哺乳動物、養殖魚類などを制限することなく含むことができる。
【0057】
本発明の用語「治療」とは、本発明のイオン化合物を有効成分として含む薬学組成物を、癌を発症した個体に投与して、癌の症状が好転するようにしたり、利するようにする全ての行為を意味する。
【0058】
本発明の癌を治療する方法において、治療対象となる癌の種類は、上述した通りである。
【0059】
前記組成物は、薬学的に有効な量で、単一又は多重で投与することができる。このとき、組成物は、液剤、散剤、エアロゾル、注射剤、輸液剤(点滴)、カプセル剤、丸剤、錠剤、坐剤又はパッチの形で剤形化されて投与することができる。
【0060】
本発明の癌治療用薬学組成物の投与経路は、目的組織に到達することができる限り、いかなる一般的な経路を介しても投与することができる。
【0061】
本発明の薬学組成物は、特にこれに限定されないが、目的に応じて腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経皮パッチ投与、経口投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などの経路を介して投与することができる。ただし、経口投与の時には、剤形化されていない形態でも投与することができ、胃酸によって前記ラクテート金属塩が変性又は分解されることもあるため、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングしたり、胃での分解から守られるように剤形化された形態又は経口用パッチの形態で口腔内に投与することもできる。また、注射投与の際は、効能の最大化のための徐放性注射剤(Long acting injection)で投与することができる。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動することができる任意の装置によって投与することができる。
【0062】
また、本発明の薬学組成物は、徐放性製剤に剤形化して、体内の薬物、即ち、イオン化合物の濃度を効果的に持続させることができる。例えば、1日に1回又は1週間に1回の投与で薬効を維持しながら、体内の薬物が放出される速度を調節することができる。このとき、徐放性製剤は、上述したように、担体、賦形剤及び希釈剤を含むことができる。
【0063】
本発明は、別の一実施例で、アスコルビン酸、ジクロロ酢酸及びラクテートの中から選択された2種の化合物が、Ca、Zn、Mg、Feから選択される1種の金属イオンと結合されたイオン化合物を含む癌転移抑制用薬学組成物を提供する。
【0064】
本発明で提供するイオン化合物は、癌細胞の転移、浸潤、新生血管形成、群集形成能などの癌細胞の転移を誘導することができる様々な特性を抑制することができるため、癌転移抑制用薬学組成物の有効成分として使用することができる。
【0065】
また、前記イオン化合物及び金属イオンは、上述した通りである。
【0066】
このとき、転移抑制の対象となる癌は、上記で定義した通りだが、一例として、前記癌転移抑制用薬学組成物は、転移性肺癌、乳癌、大腸癌、胃癌、脳腫瘍、膵臓癌、甲状腺癌、皮膚癌、多発性骨髄腫、リンパ腫、及び黒色腫からなる群から選択される一つ以上の転移癌の発症を抑制するために使用することができる。
【0067】
本発明は、また別の一実施例で、前記薬学組成物を薬剤学的に有効な量で、癌の転移が予想される個体に投与するステップを含む癌の転移を抑制する方法を提供する。
【0068】
本発明の用語「転移(metastasis)」とは、癌又は悪性腫瘍が発症した臓器から離れた他の組織に伝播した状態を意味する。
【0069】
本発明で提供するイオン化合物を投与する場合、前記転移を抑制することができる。
【0070】
本発明の癌の転移を抑制する方法において、転移抑制の対象となる癌の種類、投与される薬物の形態、薬物の投与経路などは、上述した通りである。
【0071】
本発明は、また別の一実施例で、前記イオン化合物を有効成分として含む癌関連疲労の予防又は改善用薬学組成物を提供する。
【0072】
ここで、癌関連疲労とは、癌治療中や治療終了後、最も頻繁に起こる副作用の一つであり、一例として、癌疲労症候群(Cancer-related fatigue;CRF)を挙げることができる。ここで、癌疲労症候群とは、癌とその治療に伴う疲れや気力の低下に対する主観的な感覚であり、つらくて持続的でありながら、最近の活動とは関係なく、日常的な機能を妨害する症状のことを指す。
【0073】
一般的に、癌患者が、アスコルビン酸が不足すると、脳-血液障壁の透過力が増加して、神経毒性物質やウイルスが簡単に脳に侵入することにより、様々な疲労症候群を引き起こすとされており、また、アスコルビン酸が不足すると、アドレノクロムやノルアドレノクロムなどの神経毒性物質が増加して臓器損傷を招く。
【0074】
そこで、本発明に係るイオン化合物が、アスコルビン酸が含まれた2種以上の化合物と金属イオンを結合させて製造されたもので、これを癌患者に適用した時、免疫機能を回復させる働きをし、筋肉痛を軽減し、ストレスによる疲労感を減少させる効果があるので、癌疲労症候群を予防又は改善することができる。また、これらの効果は、癌患者の生存率を高めることができる。
【0075】
本発明は、また別の一実施例で、前記イオン化合物を有効成分として含む癌改善用食品組成物を提供する。
【0076】
このとき、前記イオン化合物は上述した通りである。
【0077】
前記イオン化合物を常食できながらも、癌の改善を図ることができる食品の形態で製造されて摂取することができる。このとき、前記食品に含まれる前記カルシウム塩の含有量は、特にこれに限定されないが、一例として、食品組成物の総重量に対して0.001~10重量%、他の例として、0.1~1重量%で含まれてもよい。食品が飲料である場合には、一例として、100mlを基準に、1~10g、他の例として、2~20gの比率で含まれてもよい。
【0078】
また、前記組成物は、食品組成物に通常使用されて、匂い、味、視覚などを向上させることができる追加成分を含むことができる。例えば、ビタミンA、D、E、B1、B2、B6、B12、ナイアシン(niacin)、ビオチン(biotin)、フォレート(folate)、パントテン酸(panthotenic acid)などを含むことができる。また、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、銅(Cu)などのミネラルを含むことができる。また、リシン、トリプトファン、システイン、バリンなどのアミノ酸を含むことができる。また、防腐剤(ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、デヒドロ酢酸ナトリウムなど)、殺菌剤(さらし粉と高度さらし粉、次亜塩素酸ナトリウムなど)、酸化防止剤(ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)など)、着色剤(タール色素など)、発色剤(亜窒酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウムなど)、漂白剤(亜硫酸ナトリウム)、調味料(MSG グルタミン酸ナトリウムなど)、甘味料(ズルチン、シクラメート、サッカリン、ナトリウムなど)、香料(バニリン、ラクトン類など)、膨張剤(ミョウバン、D-酒石酸水素カリウムなど)、強化剤、乳化剤、増粘剤(糊料)、被膜剤、ガム基礎剤、泡抑制剤、溶剤、改良剤などの食品添加物(food additives)を添加することができる。前記添加物は、食品の種類に応じて選別され、適切な量で使用される。
【0079】
一方、前記イオン化合物を癌改善用食品組成物を用いて、癌改善用機能性食品を製造することができる。
【0080】
具体的な例として、前記食品組成物を用いて、癌を改善できる加工食品を製造することができるが、例えば、菓子、飲料、酒類、発酵食品、缶詰、牛乳加工食品、食肉加工食品又は麺加工食品の形態である健康機能性食品として製造することができる。このとき、菓子は、ビスケット、パイ、ケーキ、パン、キャンディー、ゼリー、ガム、シリアル(穀物フレークなどの食事代用品類を含む)などを含む。飲料は、飲用水、炭酸飲料、機能性イオン飲料、ジュース(例えば、リンゴ、ナシ、ブドウ、アロエ、ミカン、桃、ニンジン、トマトのジュースなど)、シッケ(訳注:韓国伝統の発酵飲料で、日本の甘酒に似る)などを含む。酒類は清酒、ウイスキー、焼酎、ビール、洋酒、果実酒などを含む。発酵食品は、醤油、味噌、コチュジャン(訳注:唐辛子味噌)などを含む。缶詰は、水産物の缶詰(例えば、マグロ、サバ、サンマ、サザエの缶詰など)、畜産物の缶詰(牛肉、豚肉、鶏肉、七面鳥の缶詰など)、農産物の缶詰(トウモロコシ、桃、パイナップルの缶詰など)を含む。牛乳加工食品は、チーズ、バター、ヨーグルトなどを含む。食肉加工食品は、トンカツ、ビーフカツ、チキンカツ、ソーセージ、酢豚、ナゲット類、ノビアニ(訳注:韓国の宮廷風焼肉)などを含む。麺加工食品は、乾麺、そうめん、ラーメン、うどん麺、冷麺、密封包装の生麺などを含む。この他にも、前記組成物は、レトルト食品、スープ類などに使用することができる。
【0081】
本発明の用語「健康機能性食品(functional food)」とは、特定保健用食品(food for special health use、FOSHU)と同一用語で、栄養補給の他にも、生体調節機能が効率的に表れるように加工された医学、医療効果が高い食品のことを指すが、前記食品は、癌の改善に有用な効果を得るために、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、丸剤などの多様な形態で製造することができる。
【実施例
【0082】
以下で、本発明を実施するための実施例について詳細に説明し、下記の実施例は、本発明を実施するための好ましい例示に過ぎず、本発明が実施例によって限定されるものではない。
【0083】
[製造例1-1:ジクロロ酢酸(Dichloroacetic acid)とアスコルビン酸(Ascorbic acid)のカルシウム塩(Calcium salt)の製造]
【0084】
129mgのジクロロ酢酸を125mlの蒸留水に溶解してジクロロ酢酸溶液を製造し、176mgのアスコルビン酸を125mlの蒸留水に溶解してアスコルビン酸溶液を用意した。ジクロロ酢酸溶液にアスコルビン酸溶液を徐々に撹拌しながら添加した。その次に、105mgの炭酸カルシウム(CaCO3)をゆっくり添加し、常温で30分間撹拌した後、徐々に反応温度を60℃まで上げながら、CO2がもうこれ以上発生しなくなるまで反応させた。回転蒸発濃縮器(Rotary evaporator)と真空オーブンで乾燥、及びジエチルエーテル(Diethyl ether)で未反応物質を除去した後、ろ過、乾燥、及び粉砕して、粉末状のジクロロ酢酸とアスコルビン酸カルシウム塩を収得した。全ての反応は、窒素の存在下で実行した。
【0085】
[製造例1-2:アスコルビン酸(Ascorbic acid)とラクテート(Lactate)のカルシウム塩(Calcium salt)の製造]
【0086】
90mgのラクト酸(L-lactic acid)を125mlの蒸留水に溶解してラクト酸溶液を製造し、176mgのアスコルビン酸を125mlの蒸留水に溶解してアスコルビン酸溶液を用意した。ラクト酸溶液にアスコルビン酸溶液を徐々に撹拌しながら添加した。その次に、105mgの炭酸カルシウム(CaCO3)をゆっくり添加し、常温で30分間撹拌した後、徐々に反応温度を60℃まで上げながら、CO2がもうこれ以上発生しなくなるまで反応させた。回転蒸発濃縮器(Rotary evaporator)と真空オーブンで乾燥、及びジエチルエーテル(Diethyl ether)で未反応物質を除去した後、ろ過、乾燥、及び粉砕して、粉末状のアスコルビン酸とラクテートのカルシウム塩を収得した。全ての反応は、窒素の存在下で実行した。
【0087】
[製造例1-3:ジクロロ酢酸(Dichloroacetic acid)とラクテート(Lactate)のカルシウム塩(Calcium salt)の製造]
【0088】
640mgのジクロロ酢酸と450mgのラクト酸(L-lactic acid)を10mlの蒸留水に撹拌しながら溶解した後、500mgの炭酸カルシウム(CaCO3)をゆっくり添加し、常温で30分間撹拌した。回転蒸発濃縮器(Rotary evaporator)と真空オーブンで乾燥、及びジエチルエーテル(Diethyl ether)で未反応物質を除去した後、ろ過、乾燥、及び粉砕して、粉末状のジクロロ酢酸とラクテートのカルシウム塩を収得した。
【0089】
[実施例1]
前記製造例1-1によって製造されたジクロロ酢酸とアスコルビン酸がカルシウムイオンと結合されたカルシウム塩。
【0090】
[実施例2]
前記製造例1-2によって製造されたアスコルビン酸とラクテートがカルシウムイオンと結合されたカルシウム塩。
【0091】
[実施例3]
前記製造例1-3によって製造されたジクロロ酢酸とラクテートがカルシウムイオンと結合されたカルシウム塩。
【0092】
[実験例1:カルシウム塩の癌細胞吸収(uptake)効果及び癌細胞のpH変化]
実施例1~3のカルシウム塩をそれぞれ癌細胞に処理した後、細胞内におけるカルシウムの濃度変化、ラクテートの濃度変化、アスコルビン酸の濃度変化及びpH変化を分析して、それぞれのカルシウム塩の流入レベルを予測した。
【0093】
[実験例1-1:カルシウムレベルの変化]
癌細胞培養培地(10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)で37℃及び5%CO2の条件で培養された5×106細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116)に、実施例1~3のカルシウム塩をそれぞれ1mM処理し、24時間培養した。前記培養された癌細胞を均質機(homogenizer)で粉砕し、遠心分離し、前記破砕物に含まれているカルシウムの濃度をカルシウム分析キット(Biovision、SanFrancisco、CA)を用いて測定して、図1aに示した。このとき、対照群としては、カルシウム塩を処理していない癌細胞を使用した。
【0094】
また、カルシウムレベルの変化を蛍光でイメージングして観察するために、3×104細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116)を6ウェルプレートに敷いて24時間培養した後、実施例1~3のカルシウム塩をそれぞれ1mM処理し、4時間培養した後、DPBSで二回洗浄し、Fluo4-AMを40分間培養した。細胞内のカルシウム濃度を評価するために、FACSCantoTMIIflow cytometer(Becton-Dickinson、Franklin Lakes、Nj、USA)、primary argon laserを用いて、細胞内のカルシウム濃度の蛍光を測定して、図1bに示した。このとき、対照群としては、カルシウム塩を処理していない癌細胞を使用した。
【0095】
前記図1aと図1bに示したように、実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内でカルシウムの濃度が増加した。これにより、本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物が含まれた癌治療用組成物は、癌細胞内に浸透することができることを確認した。
【0096】
[実験例1-2:ラクテートレベルの変化]
癌細胞培養培地(10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)で37℃及び5%CO2の条件で培養された5×106細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116及びHT-29)に、実施例1~3のカルシウム塩をそれぞれ1mM処理し、24時間培養した。培養された細胞を均質機(homogenizer)で粉砕し、遠心分離し、前記破砕物に含まれているラクテートの濃度をラクテート分析キット(Biovision、SanFrancisco、CA)を用いて測定して、図2に示した。このとき、対照群としては、何も処理していない癌細胞を使用した。
【0097】
前記図2に示したように、実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内でラクテートの濃度が増加した。これにより、本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物が含まれた癌治療用組成物は、癌細胞内に浸透してラクテートの濃度を増加させることができることを確認した。
【0098】
[実験例1-3:癌細胞放出の外部のラクテートレベルの変化]
癌細胞培養培地(10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)で37℃及び5%CO2の条件で培養された5×105細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116及びHT-29)を6ウェルプレートに敷いて24時間培養した後、実施例1~3のカルシウム塩をそれぞれ0.05mM、0.1mM及び0.3mMの濃度で処理した上で、20時間培養した。培養後、Phenol Red-free culture mediumに交替して4時間追加培養した後、culture mediumに存在する、4時間細胞外に排出されたラクテートを分析キット(Biovision、SanFrancisco、CA)を用いて評価し、その結果を図3に示した。このとき、対照群としては、何も処理していない癌細胞を使用した。
【0099】
前記図3に示したように、実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内から排出されたラクテートの濃度が大体減少することを確認することができる。これにより、本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物が含まれた癌治療用組成物は、癌細胞から外部に排出されるラクテートの濃度を減少させることができることを確認した。
【0100】
[実験例1-4:アスコルビン酸レベルの変化]
癌細胞培養培地(10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)で37℃及び5%CO2の条件で培養された5×106細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116及びHT-29)に、実施例1及び2のカルシウム塩をそれぞれ1mM処理し、24時間培養した。培養が終了した癌細胞を均質機(homogenizer)で粉砕し、遠心分離し、前記破砕物に含まれているアスコルビン酸の濃度をアスコルビン酸分析キット(Biovision、SanFrancisco、CA)を用いて測定して、図4に示した。このとき、対照群としては、何も処理していない癌細胞を使用し、比較例1ではアスコルビン酸(1mM)を処理した癌細胞を使用し、比較例2ではカルシウムアスコルベート(1mM)を処理した癌細胞を使用した。
【0101】
前記図4に示したように、実施例1及び2を処理した癌細胞内でアスコルビン酸の濃度が増加し、一方で、比較例1及び2を処理した癌細胞は、実施例1及び2を処理した癌細胞に比べて、増加したアスコルビン酸の濃度が低かった。これにより、本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物が含まれた癌治療用組成物は、癌細胞内に浸透しやすいことを確認した。
【0102】
[実験例1-5:癌細胞内のpHの変化]
癌細胞培養培地(10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)で37℃及び5%CO2の条件で培養された5×106細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116及びHT-29)に、実施例1~3のカルシウム塩(1mM)をそれぞれ処理し、24時間培養した。培養された細胞の培地を対象に、pH探知キット(life technologies、CA)を用いてpHを測定して、図5に示した。このとき、対照群としては、何も処理していない癌細胞を使用した。
【0103】
前記図5に示したように、実施例1~3のカルシウム塩を処理した場合、細胞内のpHは低下して酸性を示すことを確認した。即ち、カルシウム塩の流入により、癌細胞内の環境が酸性に変化したことがわかった。これは、カルシウム塩が自己死滅(Apoptosis)に脆弱になったことを意味する。
【0104】
[実験例2:癌細胞内の代謝過程に及ぼすカルシウム塩の効果]
実施例1~3のカルシウム塩をそれぞれ癌細胞に処理して、これによる癌細胞内の代謝に及ぼす効果を確認しようとした。
【0105】
[実験例2-1:ピルビン酸のレベルに及ぼすカルシウム塩の効果]
癌細胞培養培地(10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)で37℃及び5%CO2の条件で培養された5×106細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116及びHT-29)に、実施例1(1mM)、実施例2(1mM)及び実施例3(1mM)のカルシウム塩をそれぞれ処理し、24時間培養した。培養された細胞を均質機(homogenizer)で粉砕し、遠心分離し、前記破砕物に含まれているピルビン酸の濃度をピルビン酸分析キット(Biovision、SanFrancisco、CA)を用いて測定して、図6に示した。このとき、対照群としては、何も処理していない癌細胞を使用した。
【0106】
前記図6に示したように、実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内でピルビン酸の濃度が増加した。これにより、本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物が含まれた癌治療用組成物は、癌細胞内に浸透してピルビン酸の濃度を増加させることができることを確認した。
【0107】
[実験例2-2:アルファケトグルタル酸(α-ketoglutarate;α-KG)のレベルに及ぼすカルシウム塩の効果]
癌細胞培養培地(10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)で37℃及び5%CO2の条件で培養された5×106細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116及びHT-29)に、実施例1(1mM)、実施例2(1mM)及び実施例3(1mM)のカルシウム塩をそれぞれ処理し、24時間培養した。培養された細胞を均質機(homogenizer)で粉砕し、遠心分離し、前記破砕物に含まれているアルファケトグルタル酸の濃度をアルファケトグルタル酸分析キット(Biovision、SanFrancisco、CA)を用いて測定して、図7に示した。このとき、対照群としては、何も処理していない癌細胞を使用した。
【0108】
前記図7に示したように、実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞内でアルファケトグルタル酸の濃度が増加した。これにより、本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物が含まれた癌治療用組成物は、癌細胞内に浸透してミトコンドリアの酸化的リン酸化過程を誘導することにより、アルファケトグルタル酸の濃度を増加させることができることを確認した。
【0109】
[実験例2-3:PARP-1、β-catenin、VEGF(Vascular endothelial growth factor)及びβ-actinタンパク質の発現レベルの変化]
癌細胞培養培地(10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)で37℃及び5%CO2の条件で培養された5×106細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116)に、様々な濃度の実施例1、実施例2及び実施例3のカルシウム塩をそれぞれ処理し、24時間培養した。培養された細胞を均質機(homogenizer)で粉砕し、遠心分離し、前記破砕物に含まれているpoly(ADP-ribose)polymerase1(PARP-1)、β-catenin、VEGF及びβ-actinタンパク質の発現レベルをウエスタンブロットを用いて測定して、図8に示した。
【0110】
前記図8に示したように、実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞は、PARP-1の発現レベルが低下した。一般的に、PARP-1は、細胞がprogramed cell deathである細胞死(apoptosis)が行われる際に活性化されるcaspase-3によってcleavageが起こるため、細胞死マーカーとして使用される。実施例1は、0.18mg/mlで、実施例2は、0.34mg/mlで、実施例3は、0.3mg/mlで、full length PAPR-1が最も大きく減少したため、濃度依存的に癌細胞の死滅を誘導することを確認した。これにより、本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物が含まれた癌治療用組成物は、full length PAPR-1の発現を減少させることができるため、癌細胞の死滅を誘導することができることを確認した。
【0111】
また、前記実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞は、β-cateninのタンパク質レベルを濃度依存的に減少させることを確認した。β-cateninは、大腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌といった様々な癌腫で、mutation又は過剰発現されているtranscription factorであり、c-myc、cyclin D1、MMP7、survivinといった、細胞成長、癌転移、生存(survival)に重要な役割を果たすタンパク質の発現を調節するものとして知られている。これにより、本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物が含まれた癌治療用組成物は、β-cateninのタンパク質を減少させて、癌細胞の成長を抑制することができることを確認した。
【0112】
また、前記実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞は、VEGFの発現を濃度依存的に減少させることを確認した。一方、VEGFシグナル伝達系は、下位のMAPKシグナル伝達系とPI3K/Aktシグナル伝達系を調節して、細胞の成長、侵入(invasion)、転移(metastasis)に重要な役割を果たす。特に、癌細胞転移に不可欠なmatrix metalloproteinases(MMPs)のgene expressionを増加させて、癌細胞転移を促進させる。従って、本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物が含まれた癌治療用組成物は、血管新生を誘導する因子の作用を抑制して、癌細胞の転移を抑制する効果を示すことを確認した。
【0113】
[実験例2-4:活性酸素発現レベルの変化]
本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物を投与した癌細胞内における活性酸素の濃度変化を測定するために、蛍光プローブ(probe)は、Dichlorofluorescin diacetate(DCF-DA;Sigma,USA)を用いた。DCF-DAは、細胞内のhydrogen peroxideに関連するperoxidesの存在時に、ROSによって酸化されて、蛍光のDCFに変換されることで、緑色の蛍光を帯びるようになる。従って、ROSの測定をDCF-DAを通じて確認した。まず、癌細胞培養培地(10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)で37℃及び5%CO2の条件で、5×106細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116)を24時間培養した。培養後、DPBSで一回洗浄し、DCF-DA 10μMを37℃で30分間培養した。DPBSで再び洗浄し、様々な濃度の実施例1、実施例2及び実施例3のカルシウム塩をそれぞれ6時間処理して、細胞内のROS蛍光を測定して分析して、図9に示した。
【0114】
前記図9に示したように、何も処理していない対照群よりも、実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞は、細胞死を誘導する可能性を示唆する活性酸素が増加した。
【0115】
[実験例2-5:細胞死レベルの変化]
本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物を投与した癌細胞内における活性酸素の濃度変化を測定するために、3×104細胞数のヒト大腸癌細胞株(HCT-116)を6ウェルプレートに敷いて24時間培養した後、様々な濃度の実施例1(1mM)、実施例2(1mM)及び実施例3(1mM)のカルシウム塩を24時間処理し、DPBSで二回洗浄し、トリプシン-EDTA(trypsin-EDTA)で分離し、Annexin-V/PIプロトコルで染色して、FACSCantoTMII flow cytometer(Becton-Dickinson、Franklin Lakes、Nj、USA)、primary argon laserを用いて、細胞死を測定して分析して、図10に示した。
【0116】
正常に生きている細胞では、phosphatidyl serine(PS)が細胞膜の内側に位置している。しかし、apoptosisの時期に入ると、PSは細胞膜の外側に露出し、annexinVはPSと高い親和性を持って結合して蛍光を出す。propidium iodide(PI)は、細胞内に入って核を染色するが、初期段階のapoptosisが進行中の細胞は、annexinVのみで染色され、PIでは染色されないのに対し、後期段階のapoptosisが進行中の細胞又はnecrosisが進行中の細胞は、細胞膜のintegrityが損傷して、annexinVとPIが同時に染色され、生きている細胞は、どれにも染色されないという様相を呈する。前記図10に示したように、何も処理していない対照群よりも、実施例1~3のカルシウム塩を処理した癌細胞は、細胞死を誘導する可能性を示唆した。
【0117】
[実験例3:癌細胞株の増殖能力に及ぼす効果の評価]
実施例1~3のカルシウム塩を処理するかどうかによる大腸癌、乳癌、脳腫瘍の細胞株の生存能力に対する抑制効果を確認しようとした。
【0118】
[実験例3-1:癌細胞株の増殖能力(MTT assay)に及ぼす効果の評価]
96ウェルプレートの各ウェルに、大腸癌細胞株(DLD-1)、乳癌細胞株(MDA-MB-231)、脳腫瘍細胞株(U87MG)を、それぞれ5×106細胞数に分注し、実施例1~3のカルシウム塩を濃度別(20mg/ml、4mg/ml、0.8mg/ml、0.16mg/ml、0.032mg/ml、0.0064mg/ml、0.00128mg/ml、0.000256mg/ml)で、各ウェルに添加し、相対比較のために、アスコルビン酸、ジクロロ酢酸も同一の方法で希釈してウェルに添加した。37℃、5%CO2の培養器(incubator)で72時間培養し、2mg/mlのMTT試薬を50μl加えた後、37℃の培養器で4時間放置した。遠心分離器を用いて上澄み液を除去し、DMSOを200μlずつ各ウェルに加えて、MTT染色沈殿物を溶かした後、ELISAリーダーで540nm波長でOD540値を測定した。50%抑制濃度(IC50)は、生存率が50%になるようにする薬物の濃度と定義し、IC50値を抗癌効果の指標として使用して、下記表1に示した。
【0119】
【表1】
【0120】
前記表1に示したように、実施例1及び2のカルシウム塩は全て、大腸癌、乳癌、脳腫瘍の細胞株に対するIC50値がアスコルビン酸、ジクロロ酢酸に比べて低い値を示すので、アスコルビン酸、ジクロロ酢酸に比べて優れた癌細胞死滅効果を有することを確認した。
【0121】
実施例3のカルシウム塩は、大腸癌、乳癌、脳腫瘍の細胞株に対するIC50値がジクロロ酢酸に比べて低い値を示すので、ジクロロ酢酸に比べて優れた癌細胞死滅効果を有することを確認した。
【0122】
一方、実施例3のカルシウム塩は、大腸癌細胞株に対するIC50値がアスコルビン酸に比べて高い値を示すものの、乳癌及び脳腫瘍の細胞株に対するIC50値がアスコルビン酸に比べて低い値を示すので、アスコルビン酸に比べて優れた乳癌及び脳腫瘍細胞の死滅効果を有することを確認した。
【0123】
[実験例3-2:癌細胞株の増殖能力(MTT assay)に及ぼす効果の評価]
大腸癌細胞株2種を含む7種の癌細胞株(大腸癌細胞株(HCT-116、)HT-29)、肺癌細胞株(A-549)、肝臓癌細胞株(HepG2)、膵臓癌細胞株(PANC-1)、胃癌細胞株(SNU-638)及び卵巣癌細胞株(A2780)に対して、実施例1と実施例2の癌細胞増殖抑制能を評価した。
【0124】
7種の細胞株を96ウェルプレートに、各ウェル当たり5×103ずつ分注し、24時間培養した後、実施例1及び実施例2に対して、濃度別(5、2.5、1.25、0.625、0.313、0.156、0.078mM)で処理した。相対比較のために、アスコルビン酸とジクロロ酢酸に対しても同一の方法で処理した。薬物を処理した状態の細胞株を、37℃、5%CO2の培養器(incubator)で48時間培養し、5mg/ml濃度のMTT試薬を各ウェルに10μlずつ添加した。4時間追加培養した後、培養液を除去し、各ウェル当たり100μlずつDMSOを処理して、MTT染色沈殿物を溶かした後、マイクロプレートリーダー(microplate reader)を用いて540nm波長で吸光度を測定した。50%抑制濃度(IC50)は、生存率が50%になるようにする薬物の濃度と定義し、IC50値を抗癌効果の指標として使用して、下記表2に示した。
【0125】
【表2】
【0126】
前記表2に示したように、実施例1及び2のカルシウム塩は、大腸癌の他にも、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、胃癌及び卵巣癌においても抗癌効能を示した。そして、ジクロロ酢酸に比べて低いIC50値を示すことから、ジクロロ酢酸に比べて優れた癌細胞死滅効果を有することを確認した。
【0127】
実施例1のカルシウム塩は、大腸癌(HCT-116)、膵臓癌、卵巣癌の細胞株に対するIC50値がアスコルビン酸に比べて高い値を示すものの、大腸癌(HT-29)、肺癌、肝臓癌、胃癌の細胞株に対するIC50値がアスコルビン酸に比べて低い値を示すので、アスコルビン酸に比べて優れた大腸癌(HT-29)、肺癌、肝臓癌、胃癌細胞の死滅効果を有することを確認した。
【0128】
実施例2のカルシウム塩は、大腸癌(HCT-116)、膵臓癌の細胞株に対するIC50値がアスコルビン酸に比べて高い値を示すものの、大腸癌(HT-29)、肺癌、肝臓癌、胃癌、卵巣癌の細胞株に対するIC50値がアスコルビン酸に比べて低い値を示すので、アスコルビン酸に比べて優れた大腸癌(HT-29)、肺癌、肝臓癌、胃癌、卵巣癌細胞の死滅効果を有することを確認した。
【0129】
[実験例3-3:癌細胞株の群集形成能に及ぼす効果の評価]
ヒト大腸癌細胞株(HCT-116)及び各アスコルビン酸(0mM、0.2mM、0.5mM)、実施例1及び2のカルシウム塩(0mM、0.2mM、0.5mM)、ジクロロ酢酸(0mM、2mM、5mM)、実施例3のカルシウム塩(0mM、2mM、5mM)を含む固体培地に接種して、72時間培養し、培養が終了した後、細胞を固定した上で、ヘマトキシリンで染色して、群集が形成された癌細胞を観察して、図11に示した。
【0130】
前記図11に示したように、実施例1~3のカルシウム塩を処理していない全ての大腸癌細胞株は、数百個の群集を形成したが、それぞれ実施例1~3のカルシウム塩の処理濃度が増加するにつれて群集の数が減少し、また、アスコルビン酸、ジクロロ酢酸を処理したものよりも、実施例1~3のカルシウム塩が大腸癌の群集形成能を抑制する効果にさらに優れていることを観察した。前記の結果をまとめると、実施例1~3のカルシウム塩は、大腸癌の群集形成能を抑制する効果を示すことがわかった。
【0131】
従って、前記実験例3の結果をまとめると、本発明に係る金属イオンが結合されたイオン化合物が含まれた癌治療用組成物は、大腸癌、乳癌、脳腫瘍などの癌細胞の生存率を減少させることができることがわかった。
【0132】
[実験例4:公知の抗癌剤と実施例1~3のカルシウム塩の併用処理]
公知の抗癌剤と実施例1~3のカルシウム塩を併用処理して、様々な癌細胞株に及ぼす治療効果を検証した。
【0133】
[実験例4-1:5-FU(5-Fluorouracil)と実施例の併用処理の効果]
大腸癌細胞株(HCT-116)をRPMI1640培地が入った6ウェルプレートそれぞれに、1×103個の細胞を分注し、一日が経過した後、培地を新しく交換した後、実施例1のカルシウム塩(0.2mM)、実施例2のカルシウム塩(0.2mM)、実施例3のカルシウム塩(2mM)及び5μMの5-FUを単独で各ウェルに処理し、5μM濃度の5-FU及び実施例1のカルシウム塩(0.2mM)、5μM濃度の5-FU及び実施例2のカルシウム塩(0.2mM)、5μM濃度の5-FU及び実施例3のカルシウム塩(2mM)のように併用処理した後、細胞の群集形成能力を比較して、図12に示した。対照群としては、何の薬物も処理していないヒト大腸癌細胞株(HCT-116)を活用した。
【0134】
前記図12に示したように、何も処理していない大腸癌細胞株は、百数個の群集を形成したが、5-FUと実施例1~3のカルシウム塩を併用処理したものが、5-FUを単独で処理したものよりも、大腸癌の群集形成能を抑制する効果にさらに優れたことを観察した。
【0135】
[実験例4-2:大腸癌細胞に対する既存の抗癌剤と実施例の併用処理の効果]
96ウェルプレートそれぞれに2×103個のHCT-116細胞を分注し、24時間培養した後、様々な濃度の実施例又は化学抗癌剤(Fluorouracil(5-FU)、SN-38、Paclitaxel(PTX))を単独で処理した。各抗癌剤の48時間単独処理後、IC50値を表3に示した。
【0136】
【表3】
【0137】
96ウェルプレートそれぞれに2×103個のHCT-116細胞を分注し、24時間培養した後、様々な濃度の実施例1又は実施例2と化学抗癌剤であるFluorouracil(5-FU)、SN-38、Paclitaxel(PTX)を併用処理する。48時間暴露後、併用処理された抗癌剤の組み合わせの細胞成長阻害率(%)と併用伝達効果をcombinational index(CI)を用いて効果を評価した。シナジー(synergistic)効果は、CI≦0.85、付加(additive)効果は、0.85<CI≦1.15、拮抗(対抗、antagonistic)効果は、CI>1.15と、併用伝達効果を示した。ほとんどの濃度で、実施例1又は実施例2と化学抗癌剤であるFluorouracil(5-FU)、SN-38、Paclitaxel(PTX)を併用処理した場合、シナジー(synergistic)効果を示したことを確認した。
【0138】
[実験例4-2-1:実施例1又は実施例2とFluorouracil(5-FU)の併用処理の効果
実施例1と5-FU、又は実施例2と5-FUをHCT-116細胞に48時間併用処理した後、細胞成長阻害率(%)及びCI値をそれぞれ表4と表5に示し、CI値を細分してシナジー、付加又は拮抗効果をそれぞれ図13図14に示した。
【0139】
実施例1又は実施例2と5-FUが、実施例1又は実施例2のIC50値よりも同じか低い濃度で併用処理された場合には、一部で拮抗効果を示したが、実施例1又は2のIC50よりも高い1,000μM以上の濃度で併用処理された場合には、様々な濃度条件で、ほとんどシナジー効果が現れた。
【0140】
【表4】
【0141】
【表5】
【0142】
[実験例4-2-2:実施例1又は実施例2とSN-38の併用処理の効果]
実施例1とSN-38又は実施例2とSN-38をHCT-116細胞に48時間併用処理した後、細胞成長阻害率(%)及びCI値をそれぞれ表6と表7に示し、CI値を細分してシナジー、付加又は拮抗効果をそれぞれ図15図16に示した。実施例1のIC50値(311μM)よりも高い濃度を、様々な濃度のSN-38と併用処理した場合、拮抗効果を示したが、実施例1のIC50値付近又は低い濃度を、様々な濃度のSN-38と併用処理すると、シナジー効果を示した。実施例2の場合、ほとんどの濃度組み合わせにおいて、SN-38とのシナジー効果が観察され、特に実施例2のIC50値(430μM)よりも低い濃度と、SN-38のIC50値(0.25μM)よりも低い濃度の組み合わせにおいても、シナジー効果が観察された。
【0143】
【表6】
【0144】
【表7】
【0145】
[実験例4-2-3:実施例1又は実施例2とPaclitaxelの併用処理の効果]
実施例1とPaclitaxel又は実施例2とPaclitaxelをHCT-116細胞に48時間併用処理した後、細胞成長阻害率(%)及びCI値をそれぞれ表8と表9に示し、CI値を細分してシナジー、付加又は拮抗効果をそれぞれ図17図18に示した。実施例1のIC50値(311μM)よりも低い濃度、又は実施例2のIC50値(430μM)よりも低い濃度と、0.1μM(100nM)以下のPaclitaxelを併用処理すると、ほとんどの濃度組み合わせにおいて、シナジー効果を示した。実施例1、実施例2のIC50値よりも低い濃度と、PaclitaxelのIC50値(7.8nM)よりも低い濃度を併用処理した場合、ほとんどの濃度組み合わせにおいて、シナジー効果が観察された。
【0146】
【表8】


【0147】
【表9】

【0148】
[実験例5:動物モデルを通じて実施例のカルシウム塩に対する抗癌効果の検証]
【0149】
[実験例5-1:動物モデル(orthotropic model)を用いた癌腫形成動物モデルの構築]
異種同所性移植動物モデル(orthotopic xenograft)及び一般動物モデル(orthotopic xenograft)を構築するために、A549/LUC細胞とDLD-1細胞を継代培養した後、マウスの肺と大腸に前記の癌細胞をそれぞれ注入した。
【0150】
前記モデルは、マウスの臓器に直接癌細胞を注入したため、マウスの外形観察で癌の成長が確認されないので、A549/LUC細胞を注入した動物モデルの場合、7日おきにD-Luciferinを腹腔に注射して、発光程度をIVISスペクトラムイメージングシステム(Xenogen)装備を用いたルミネセンス(luminescence)イメージング測定で、癌の成長飽和度を確認し、一方、DLD-1細胞を注入した動物モデルの場合、7日後、実験個体をsacrificeして、癌の成長飽和度を確認した。A549/LUC細胞を注入した動物モデルの場合、約4週間後、発光の強度が107photons/s/cm2/sr程度となったとき、実施例1~3のカルシウム塩を投与した後、in vivoイメージングに使用し、DLD-1細胞を注入した動物モデルの場合、約7週間後、大腸癌の発現が末期に当たる時期に、実施例1のカルシウム塩を投与した後、抗癌効果を観察した。
【0151】
即ち、大腸に一般のDLD-1細胞を移植して、大腸癌マウスモデル(DLD-1 orthotopic model)を構築し、肺に異種同所性を移植して、肺癌マウスモデル(A549/LUC orthotopic model)を構築した。その次に、各マウスモデルに下記表10のように薬物を投与した。
【0152】
【表10】
【0153】
[実験例5-2:カルシウム塩を注射した動物モデルにおける抗癌効果及び癌転移の変化(1)]
前記実施例1のカルシウム塩を前記実験例5-1で構築した同一のマウスモデル(DLD-1 orthotopic model)に投与し、1週間後に切開して癌細胞の成長状態を観察して、図19aに示し、また、癌組織の重さを測定して、生体内における発明物質の抗癌効果を確認して、図19bに示した。
【0154】
前記図19a及び19bに示したように、実施例1のカルシウム塩を処理していない全てのマウスモデル(DLD-1 orthotopic model)では、急激な癌細胞の成長を示したが、実施例1のカルシウム塩を処理した全てのマウスモデル(DLD-1 orthotopic model)では、癌細胞の成長が有意に抑制された。
【0155】
[実験例5-3:カルシウム塩を注射した動物モデルにおける抗癌効果及び癌転移の変化(2)]
前記実施例1~3のカルシウム塩を前記実験例5-1で構築した同一のマウスモデル(A549/LUC orthotopic model)にそれぞれ投与した後、生体内における発明物質の組織分布、転移度及び抗癌効能を確認した映像写真を図20に示した。また、それぞれのイメージング結果をより正確に数値化するために、in vivoイメージをIVISスペクトラム(Xenogen)のプログラムであるROI(Region Of Interest)を測定して確認した結果を図21に示し、図22にはマウスモデル(A549/LUC orthotopic model)の生存率を測定して示した。
【0156】
前記図20、21及び22を見ると、実施例1~3のカルシウム塩は、対照群と比較して、優れた抗癌効能、転移抑制能力及び優れた生存率を有することを確認することができた。特に、実施例1では、薬物投与期間は勿論、薬物投与を中断した後にも、全く癌組織の成長及び転移を示さなかったが、これは癌細胞内のミトコンドリアが正常化(reforming)されたことを推測させる。
【0157】
従って、上述した実験結果から、本発明に係る金属イオンに結合されたイオン化合物は、癌細胞に対するuptakeを増加させることができることを確認し、癌細胞内のpHを下げて酸性化させることができることを確認し、1種それぞれの化合物(アスコルビン酸又はジクロロ酢酸)よりも2種の化合物を金属イオンと結合したイオン化合物のほうが、さらに癌細胞の死滅効果に優れたことを確認した。
【0158】
また、前記イオン化合物は、ピルビン酸及びアルファケトグルタル酸を増加させることによって、癌細胞の解糖作用を抑制することができることを確認し、β-catenin、PARP、及びVEGFの発現量に対する変化を通じて、癌細胞の増殖及び転移を減少させることができることを確認した。それに加えて、癌細胞株の増殖能力の実験を通じて、従来の抗癌剤と併用投与した時、より優れた抗癌効果を示すことができることを確認した。
図1a
図1b
図2
図3
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図19a
図19b
図20
図21
図22